第1話
俺は東條 雅史(とうじょう まさし)。
ごく平凡に育ち、ごく平凡に会社に勤め、ごく平凡な生活を送っている。
どこにでも居る普通の男だ。
唯一つ、人と違うモノがあるとすれば…、それは「他人の人格(価値観)を変えられる」という能力を持っていること。
自分でもなぜこの能力を使えるのかは解らない。俺にそういう血筋があるなんて聞いたこともない。
もともと俺が持っていた力、それに目覚めたというこということなのか。
結局は、超能力という言葉で片付けるしかないのだろう…。
とても信じられないが、そう信じるしかなかった…。
「お先に失礼します…」
終業のチャイムが鳴ると、俺はすぐに退社した。
電車を降りた後、帰り道のいつものスーパーに寄って夕食を買う。出来合いの弁当に惣菜を何品か…。
それがいつものパターンだった。
今日は何を買おうかと迷っていると、後ろから、
「みっちゃんは何が食べたいの?」
「わたしね、ハンバーグ食べたい!いいでしょ?」
「そうねぇ、今日はみっちゃんのお誕生日だもんね」
「うわぁーい、やったぁー」
そんな微笑ましい、親子の会話が聞こえてくる。
ん?誕生日?
「そうだ、忘れてた…、俺も今日誕生日だな…。二十歳か…」
ふと思い出す。もちろん祝ってくれるヤツなんていないのだが…。
俺は苦笑しながら、そそくさと買い物を済ます。
普段より一品多く買った惣菜が、ささやかに誕生日であることを主張していた。
帰宅した俺は風呂に入り、食事を済ます。
それからテレビを見るが、大して面白い番組があるわけでもない。
誕生日とは言えども、いつもと同じ生活だった。
「そろそろ寝るか…」
テレビに飽きた俺はベッドに入ると、瞬く間に眠りに落ちていった。
「……、起きないか…、雅史君…」
んんっ、ここはどこなんだ…。
俺が目覚めたその眼前には、見たことのない年老いた男が居た。
「アンタは一体…?それにここはどこなんだ?」
「ここは君の夢の中。私は君の本来の力を目覚めさせるため現れたに過ぎない…」
「俺の本来の力?アンタ何を言ってるんだ?」
「ふっ、理解できないのも無理はないだろうが、君には特殊な力が宿っているんだよ」
「特殊な力?それが一体何だって言うんだ?」
「その力とは、他人の人格を変えてしまうことができる能力…、簡単に言えば他人を操る能力だな」
「他人を操るだって…?そんなことができる訳がない。アンタ何馬鹿なこと言ってるんだ…」
「馬鹿かどうかは君自身で試してみるがいい。次に目が覚めた時、君はその能力に目覚めているはずだ。
だが、私が言えるのはここまでだ。後は君の手で確かめてみろ…」
「ちょっと待て、全然意味が解らな…」
俺が最後まで言い切る前に意識が途切れた。
チュチュチュチュン…
鳥の鳴き声とカーテンの隙間から入るわずかな朝日に目が覚めた。
寝起きの気怠さに体を襲われながらも、何とか体を起こす。
いつもと変わらない朝なのに、今日は何かいつもとは違う違和感を感じていた。
「あれは本当に夢だったのか…?」
思わずそういう感情に囚われる。昨日見た不思議な夢が頭から離れない。いや離れないどころか、あの男とのやりとりまではっきりと思い出せる。
「ふん、馬鹿馬鹿しい。人を操るなんてことができる訳がない…」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、ベッドから出た。
「東條!!これぐらいのことがまだできてないのか!?」
「すみません、必ず今日中には仕上げますので…」
そう俺を責めるのは、俺の上司である、桃谷 綾(ももたに あや)。
その完璧なまでのプロポーションと腰まである漆黒の髪は、それだけで見る者を魅了させた。
何事に対しても几帳面で、特に仕事はバリバリこなし、皆からの信頼も厚い。
そのため、若干27歳にしてこの部署の主任を勤めている。
だが…、俺はこの人が苦手だった。
性格がキツく、特に俺に対しての事あるごとに言われるイヤミ。
これさえなければいい人なのかもしれないが…。
「あ、東條、昨日頼んだ書類はもう出来た?」
「え!?あれは今週中なんじゃ…」
「今週中といって今週一杯掛けるバカがどこにいる!一刻も早く仕上げるのが当たり前でしょうが!!」
「す、すみません…」
前言撤回、やっぱりいい人なんかじゃない。
「クソ…、覚えてろよ…」
俺は、やり場の無い怒りを堪えるしかなかった。
カタカタカタ…
誰も居ないオフィス内に、キーボードを叩く音が響く。
「もうこんな時間か…、しかし、ついてねえなぁ…」
あれからも後から後から仕事が回ってくるため、アイツに言われた仕事は勤務時間内に仕上げられる筈もなく、こうして残業をするハメになった。
「何とかアイツに一泡吹かせてやりたいよなぁ…」
もちろんアイツとは主任の桃谷のことだ。
「だけど、何をしても完璧だし、どうしたものか…」
俺には勝てる要素が全く無かった。それは自分が一番よく解っている。
「はぁ~、明日になんなきゃいいのに…」
そんなことを呟きながら、眼前の書類の山から逃げるように俺は目を閉じた。
「ん!?」
俺の前で何か光っている!?
腹の辺りだろうか、青い微かな光だ。
「何の光だ?」
俺は目を開けてみたが、腹の辺りにそのような発光体はない。
しかし、また目を閉じれば確かに光を感じられる。
俺の中で光っている!?
意味が解らない。
一体この光はなんなんだ?
俺は今のこの状態を理解しようと、必死で頭を回転させた。
!!!
まさか!?
これがあの男の言っていた能力ってヤツか!?
でも、言っていたことが本当だとは到底信じられない。
だが、この今の状態は明らかに普通じゃない。
「だけど、どうやって…」
俺はもう一度目を閉じると、その光に意識を集中させた。
すると、さっきまでは気が付かなかったが、青い光が明るくなったり、暗くなったりしている。
そしてしばらくするとその光はもう暗くなることも無く、明るく安定した。
その後、その光は俺という人間を確認し終わったかのように消えてしまった。
それからは目を閉じても光を感じることもない。
「一体なんだったんだろうな…」
夢ではないみたいだが、信じろと言われてもすぐに信じれるものでもなかった。
そして、ボッーとした意識の中、目を開けた俺の前に本当の現実があった…。
「あ、そうだ…、仕事…」
それから一晩掛かって、ようやく全てを終わらせることができたのだった。
「あいててて…」
会社のソファで目が覚めた。
結局俺は家に帰ることができず、会社に泊まるしかなかった。
会社内には仮眠の取れる部屋もあるのだが、仕事を片付けた後あまりに眠く、その移動すらも出来ずにこうしてソファに倒れこんだという訳だ。
「全部、アイツのせいだ…」
日に日に大きくなってくるアイツへの恨み。
「どうにかできないものか…」
その時、
「何やってんだ?お前?」
!!!
急に聞こえてきたアイツの声に驚く。
「え?主任!?どうしたんですか、こんなに早く?」
ふと見た時計は7時を指している。始業時間の1時間半も前だ。
「私はいつもこの時間だ。それより東條、なんて格好だ。まさか…、会社で寝てたのか?」
「え、ええ…、昨日言われてた書類を片付けてたら遅くなってしまって…。それで会社に
泊まったというわけなんです…。でも全部終わりましたよ」
さすがに叱られはしないだろうと思っていた俺に、アイツは信じられないことを口にした。
「お前何考えてんだ!?あの程度の事でそんなに時間掛けないと出来ないのか!もっと考えて仕事をしろ!」
これにはさすがに俺も切れて、思わずアイツを睨んでしまった。
「なん…」
そういうとアイツが急に静かになる。
「?」
恐る恐るアイツの方を見ると、その場に倒れこんでいた。
「主任!?」
俺は慌てて主任に駆け寄り、呼びかける。
一見すると普通に呼吸もしている、特に取り乱してもいない。
ただ、よく見ると目が虚ろで、夢遊病者のような感じだった。
何かの病気なのか…?
俺の中をふとそんな考えがよぎったが、今までそんな話は聞いたことがない。
まして、会社内でコイツがこんな風になったと誰にも聞いたこともない。
「一体どうしたっていうんだ…」
俺は少し混乱していた。
そして落ち着こうと、深く呼吸したときだった。
!!!
まさか、これが操る力!?
そうだ…、間違い無い!!
今、その操ってる状態なんだ!
下手をすればパニックになりそうな自分を落ち着かすため、俺は無理やりそう結論付けた。
それならば、確か…。
俺は前に読んだ催眠術の本を思い出した。
もともと催眠術の類などは全く信じていなかったが、退屈すぎる生活の中、たまたま借りた本の中に催眠術についての本があったのだ。
その時はふ~ん、というぐらいにしか読んでなかったのだが、まさかこうして役に立つときが来るとは…。
「主任、いや、桃谷綾、俺の声が聞こえるか?」
「はい…、聞こえます…」
やはりそうだ。これでコイツを自由に出来る。まさかこういう形で一泡吹かせることができるなんてな…。
俺はほくそえんだ。
まずはこの力について簡単に知っておく必要があるな…。
「綾…、お前は東條…君をどう思っている?」
「東條君…?彼は…、不真面目で自分勝手。迷惑を掛けられてばかりで、本当にどうしようもない男です…」
もっともな意見ではあるのだが、その答えは気に入らない。
できるならここで完全に性格を変えるようにしてみても面白いのだろうが、始業まで時間が無いのと、この力に完全な信頼を置いている訳ではないので、簡単な精神操作を行ってみて、とりあえず少し様子を見てみることにした。
「綾、お前は東條…君を必ず君付けで呼ぶ。そして東條君を決して馬鹿にしたり、蔑むことはできない。
そしてそれらを疑問に思うこともない」
「はい…、私は東條君を君付けで呼びます…。決して東條君を馬鹿にしたり蔑んだりしません…。
そして疑問に思うこともありません…」
綾は俺が何も言わないのに、自分から俺の言ったことを復唱した。
これもこの力の一部なのかは解らない。
だが、俺の言葉がしっかりと綾に刻まれているのは感じられる。
あ、あれも付け加えておかなければ…。
「今日は仕事を片付けるため残業する。そのために他の予定があったとしても全く気にならない」
「はい、今日は仕事を片付けるために残業します、そのために他の予定は気になりません…」
結局…、さっき俺が書き換えた以外の、俺に対する感情は敢えてそのままにしておいた。
好ましく思わない相手に対して、自分が望まない行動をする、そのギャップに苦しむ姿こそ一種の復讐になると思えたからだ。
「とりあえずこれぐらいにしておくか…」
終わったのはいいが、どうすれば意識が元に戻るのかが解らない。
聞いたことのあるような台詞を適当に言ってみることにした。
「では、俺が手を叩くと意識が元に戻る」
こんなので大丈夫か…?
パン、という合図とともに綾は意識を取り戻す。
それを確認した俺は、思わず胸をなでおろした。
「夜が楽しみだ…」
ぐったりとして倒れている綾の様子をよく確認することもなく、俺はそそくさと部屋を後にした。
それからというもの、綾の俺に対する態度は明らかに変わった。
「東條君!この書類は何?」
今まで、君付けで呼ばれたことも思い出せないぐらいなのに、怒られている時に君付けなどということに新鮮味を覚えた。
だが、当の本人にしては至って真面目である。
「はい?昨日やったやつですか?」
「そうよ、この部分をもう少し理解しやすい表現にして…」
直ぐに口から出る、馬鹿だのトロいだのの俺を侮辱するような言葉は一切出てこない。
また、俺を君付けで呼ぶことに一切の戸惑いは無いようだ。つまり、もうそれが普通と綾の中で認識されているんだろう。
しかし、俺を馬鹿にしない、という書き換えが大分効いているみたいで、しかもこの力の影響はかなり大きいらしく、密かに期待していたような葛藤は綾の中であまり無いようで、俺は少し期待外れだったのも事実だった。
だが、本当にこの力には驚かされる…。
それから俺は、この力の事と今夜起こることを考えるのに精一杯で、仕事もろくにできなかった。
「お先に失礼します」
最後まで居た同僚が帰り、ついに俺と綾以外誰も居なくなった。
綾は俺の言った通り、残業して仕事に励んでいる。
俺は朝からこの力について考えてみた。
どうすれば力が発動するのか、つまりその発動条件とはなんなのか…。
どうやら俺と目を合わせた途端にあのような状態になるらしい。朝のことを考えてもそれ以外の原因が考えられない。
さらに他人を催眠状態にするのではないかと、その後誰とも目を合わさないようにしていたが、さすがにそれは無理な話で、やむを得ず他の人とも目を合わせたのだが、不思議なことにあれ以降誰も催眠状態に落ちることはなかった。
その点をずっと考えていたのだが、俺が思うにどうやら他人を操るためには目を合わせるだけではなくて、その時に何かしらの強い感情を持っている、というのも必要ではないかということ。
だから朝は、とにかく綾を強く憎んでいる状態で、「どうにかしてやる」というような強い感情から力が発動したのだろうと思っている。つまり、「お前を書き換えてやる」というような強い感情を持って目を覗き込めば発動するのではないか…。もちろんこれは俺の推論に過ぎないが…。
もしこれが間違ってなければ、この力の解明に一歩近づくはずなんだが…。
「主任?」
俺が呼ぶと仕事をしていた綾の手が止まる。
「何?」
「ええ、ちょっと用がありまして…」
そう言うや否や、俺は強い意識で綾の目を覗き込む。
「あ…」
綾の目から光が消える。
やはり…。
俺の推理は間違っていなかった。
込み上げてくる笑いが止まらない。
「綾、聞こえるか?」
「はい…」
昼間あれだけどうするか考えたはずなのに、いざとなると頭が真っ白になってどうしていいか解らない。
俺はとりあえずいくつかの質問をしてみることにした。
「今からお前にいくつかの質問をする。例えそれがどんな答えにくい質問であっても正直に答えてしまう」
「はい…、私はどんな答えにくい質問でも正直に答えます…」
「そうだな…、まずお前の身長・体重・3サイズはいくつだ?」
「…身長は162センチ、体重は…、50キロ、3サイズは、上から…、94、58、90です…」
俺は驚いた。思っていた以上のプロポーションだったからだ。
もちろんこの力で脱がせてしまえば終わりなのだろうが、それでは面白くない。
本人の口から言わせる、それこそに意味があるのだ。
「今までに付き合った男は?」
「…1人います…」
「今は誰かと付き合っているか?」
「今は誰とも付き合っていません…」
まあ、この歳で誰とも付き合っていないというのもそれはそれで少し考え物だが、一人というのにも驚かされてしまう。
「その男とは長く付き合ったのか…?」
「…いえ、1年ほどです…」
俺はさらに質問を続ける。
「別れたのはいつだ?」
「…5年ほど前です…」
またしても俺は驚いた。
そうすればもう5年ほど誰とも付き合っていないということか…。
「どうして別れたんだ?」
「それは…、あの人が…、他の女に浮気するから…」
「じゃあ、どうしてそれから5年も誰とも付き合わなかったんだ?」
「それは…、あの時のように騙されるのが怖くて…。
誰かを好きになってしまうと、またその人も浮気してしまうんじゃないかって気がして…。
だから…、私はあの時から男の人を好きになれなくて…。
それからは自分の心を偽って、必死で強くならないといけないと思っていました…」
催眠状態なのにもかかわらず、そう言った綾の眼はうっすらと涙に濡れていた。
つまり…、初めて付き合った男の女癖が異常に悪かったってことか…。
純粋に愛してたが故に、ショックも大きかったんだろう。
その反動でああいう性格になってしまったんなら、少し可哀想なところもあるな…。
安心しろ、俺は途中で投げたりしない…。
その瞬間、俺の心底に眠っていた黒い感情が噴き出した。
綾を奴隷として完全に俺のものにする。そして主人に仕える安らぎを与えてやる…。
「綾、お前はもう一人で苦しむことも無い。弱い自分を見せてもいいんだ…。
わかるか、お前の目の前にいる俺こそが、お前の主人だ。お前は俺に心を預けていれば楽に生きていける。それがお前の幸せなんだ…」
砂漠に落とした水のように、俺の一言一言が綾の中に染み込んでいく。
綾の真下には、いつの間にか涙で出来た大きな水溜りあった。
そして何故だかは解らないが、綾はこれ以降俺の言葉を復唱することがなくなった。
最後の仕上げだ…
「綾、お前は主人である俺の奴隷だ。奴隷というのは常に主人のことを考えている。主人が喜ぶことこそがお前の喜びになるんだ。そのためには主人の言葉は絶対で、主人の命令のためにはどういうことをす るのも決して厭わない。それはお前にとって当たり前のことなんだ」
綾の中の常識というものが一切書き換えられていく。
表情が変わることは決して無いのだが、俺はなぜか綾が安心しているように見えた。
「もういいか…。よし、では眼を覚ます」
パン、と手を叩くと綾の目に光が戻った。
俺は綾の身体を揺すって起こす。
「あ…、ご主人様…」
俺を見るその潤んだ瞳には、全ての迷いが消えたように見えた。
ついに綾を手に入れたのだ。
もちろん、これが普通では無いことは解っている。
だからせめてもの償いに、ずっと綾を手放さないつもりだ。
そうすればすることは決まってるよな…。
そう苦笑しながら、俺は場所を変えることにした。
俺の部署のすぐ近くにある、仮眠室。
とは言っても今はほとんど使われていない。たまに俺みたいな奴が勝手に使用するのだが、幸い今日は誰も居ない。まあ、居る方が珍しいのだが…。
俺が部屋に入るとすぐに綾が入ってくる。
「まずは…、基本からだな…。奴隷として主人のために尽くすのは当たり前のことだが、その中には主人の性欲処理も含まれる。そういうことも喜んでするのが良い奴隷だ」
「私は…、私はご主人様に喜んでいただけるためなら、どのようなことも致しますっ。ご主人様の性欲処理も喜んでさせていただきます!ですから、どんなことでもお申し付けくださいっ!」
綾は必死で俺に訴えかけてくる。
もしくは俺の言った「良い奴隷」という言葉に反応しているのかもしれない。
「そうか…。じゃあ奉仕の基本である、フェラチオからだ。ズボンもお前が脱がせ」
俺はそういうとズボンのホックを外す。
すると綾は俺の元に寄り、ズボンのジッパーに手を伸ばしてきた。
「お前、どうして俺がホックを外したのか、解らないのか…」
「えっ!?すみません…。これじゃダメなんですか…?」
普通こんなことはしないだろうから解らないのも無理はないのだが、それでも俺は徹底的に蔑んでやる。
「全く…、そんなもの解らないのか。口でジッパーを咥えて下ろせ」
綾はその言葉通りにしようと、俺の股間に口を寄せてくる。
ぎこちない動きで、必死にジッパーの先を探り当てると、そのまま歯に挟んで下ろしていく。
そしてジッパーを下ろし終わると、そのままブリーフも歯で挟みながら下ろした。
ようやく俺のモノが姿を現す。
それを見た綾はうっとりとしてため息をついた。
「はぁぁぁ、これがご主人様のモノ…」
まさに夢見心地といった顔だが、同時にやや困惑しているようにも見える。
「どうした?早くやれ」
俺がそういうと、綾はゆっくりと俺のモノに舌を這わせ始めた。
だが…、しばらくさせていると妙な感じに気づいたのだ。
俺のモノを舐めるのはいいのだが、動きが単調というか、一向に同じなのだ。
焦らしているのかと思ったが、どうやらそうでもないようだ。
「お前、もしかして初めてか?」
「はい…」
消え去りそうな声で綾は答えた。
「すみませんっ!今までこういうことをしたことがないので、よく解らないんです。でも、もっともっと頑張って喜んでもらえるように努力しますから!お願いします、私を見捨てないで下さいっ!!」
なるほど、そういうことか…。
手間は掛かるがそれはそれで面白い。
「こんなことも出来ない奴隷はいらない、と言うべきところだが、お前のその考えに免じて今回は許してやる。だが、次は無いと思え!」
「はい!ありがとうございます!!!ご主人様の期待に沿える様、一生懸命頑張りますっ!」
それから俺は綾に奉仕の仕方を教えていった。
俺の一言一言を真剣に聞き、一刻も早く理解し、それを出来るようになろうとする姿は、
まさに奴隷と呼ぶにふさわしい感じすらした。
一通り教えた後、俺は何も言わず一人でさせてみた。
初めてとはいえ、俺に対する従属心の塊であるかのような綾の奉仕が、上手くならないはずがなかった。
俺の教えたことは的確に、しかも自分なりに俺がどうすれば気持ち良いかを考えて、俺を追い込んでくる。
「んんっ…!」
俺はもう限界だった。
出そうになった俺は綾の頭を押さえ込む。
苦しそうにしているが、それには構わず綾の口の中に放つ。
「全部飲め…」
俺がそう言うと、やや顔を歪ませながらもそれを喉に流し込んだ。
俺は飲み込んだのを確認すると、綾に言う。
「ほら、残ったのを吸い出して綺麗にしろ」
綾は俺のモノを綺麗にすると、少し名残惜しそうに口から離した。
「私にご主人様の精液を下さいまして、ありがとうございます。とても…、美味しかったです…」
俺が何も言わないでも、綾はそう言って深々と頭を下げる。
「ふっ、解ってきたようだな…」
俺は一人満足げに呟いた。
一度放った俺は少し落ち着き、ふと時計に目をやる。
!!!
もう終電までそんなに時間がなかった。
さすがに会社に連泊というのもキツイが、何より綾をここに泊まらせるわけには行かない。
俺の家に連れて帰ってもよかったが、明日も仕事ということもあり、今から帰っても満足に出来ないだろう。
まあ、時間はこれからもある。焦ることもない…。
そう自分に言い聞かせると、俺は帰り支度を始めた。
てっきりこれからセックスしてもらえると思っていた綾はきょとんとしている。
「ご主人様…。私…、何かいけませんでしたか…?」
「そんな顔をするな、今日はもう時間だ。明日また可愛がってやる」
「はい…、ありがとうございます…!」
綾の頬が赤く染まる。
「あ、言い忘れてたが、この関係が他の奴らにバレると面倒だから、二人のとき以外は今まで通りに振舞えよ」
「はい」
「仕事は今更できないだろう。もう明日にして、お前も早く帰る準備をしろ」
「はい」
そうして何とか二人とも終電に間に合ったのだった。
< つづく >