[エピローグIII]
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ふざけるなああ!!」
「こんな時代なんか望んでないだろう!!」
「出てこい!諸悪の根源!!!」
若者たちが暴動を起こす。
拓也はその光景を黙ってみていた。
「そうだ。若者は望んでいないんだ」
いつだって苦しめられるのは若者の世代。上の世代が受け継ぐのは重荷だけ。美味しい部分だけは全部上司が吸い取って、最近ではお零れすら流れてこない。
いったい何時まで若者は馬鹿にされるのだ?
――あの頃は良かった。
――今の若者は軟弱。
――ゲームが悪い、パソコンが悪い、車に興味ない、お酒を呑めない。
もう、沢山だ……
「怒れ、若者よ。供に解き放たれよう、理想郷へと――」
「それは逃げですよ」
拓也の裏に握出が立っていた。
「世の中は常に理不尽で、不平等だから均衡なんですよ」
現実とは非常で、理想とはいつも夢を叶えてくれるもの。
「でもね、結局人は最後には理想よりも現実を受け入れるんです。辛いことの先に必ずいいことが待っていて、素晴らしい人生だったと言える時期が必ず来る。その時、あなたはきっとこういうでしょう。『昔は良い時代だった』、『今の若者はダメだと』」
「そうか……そうかもしれない……」
誰も正解の道を進んではいない。失敗したからこそ先人は後輩に教える。だけど、その失敗した軌跡が輝いてこそ未来が素晴らしく思える。
今の若者に足りないもの、それは想像力だ。
未来を信じる想像力、絵に描いた餅を食べる感性、二次元のキャラを抱く妄想――
他人に身を任せ、状況に流され、批判を批判できず、自分の考えを殺してしまう。
「考えることを辞めた時に人はその生涯を終える。さあ、千村くん、あなたの理想、私が紡いであげましょう」
「……握出、部長…………」
拓也は泣いた。理想を形作るには膨大すぎた。一人では絶対に形はならない。絵は百パーセント拓也の思い描いた理想郷には完成しない。
一人だったからだ。拓也の逃げた『新世界―トラディスカンティア―』では現実が逃がさなかった。高橋由香がいない、村崎色がいない、握出紋が敵。知った顔はなく、『アンドロイド』だけが拓也を慰めるが、人ではなければ人の気持ちは癒せない。
――それが拓也の現実。だから拓也は戻ってきたのだ。この息苦しくて生き辛い旧世界に。
「よく戻ってきましたね。私の元へ」
「部長!!申し訳ありませんでした!!俺は……馬鹿です!自分のことしか考えず、社会を目の敵にして、一人で社会を恨んでいました!!部長だけは、俺を見捨てなかった。部長こそ、俺を信じてくれる人の一人です!!……ありがとう、ございました」
拓也が握出に頭を下げる。いがみ合っていた上下関係も、これで終焉を迎えた。
「ならば千村くん。あの者たちの暴動を止めましょう。人を恨むのは良くないことを、千村くんは身をもって体験しているはずです」
「……はい」
拓也が目を閉じて世界に願う。
いつの時代も望むのは幸福な世界。
戦争があった時代も、災害があった時代も、人災がもたらした不幸もかき消し、
――たった一つの理想郷を此処に成就する。
「千村くんの『理想郷』と、私の『現在』……二つを合わさればみな幸福です。さあ、行きましょうか、皆さん。――次の新しい世界『エムシースクウェア』へ」
握出が拓也のズボンを脱がし、逸物を掴むと激しくしごき始める。千村もその刺激を敏感に感じ取り、集中力を極限にまで高める。
「んん……良い硬さになってきました。それがあなたの硬い意志、理想郷へと紡ぐ思いの力なのです」
拓也の膨らんだ逸物に握出も自分のズボンを脱ぐ。そして、拓也に対して背を向けてお尻を突き出す。
「さあ、千村くん。あなたの意志を私の中へ繋いでください!世界が現実と繋がり、永遠の幸福へ私が皆さんを連れていきましょう!」
知識と経験。その両方を併せ持ち
人脈と人柄。その両方を持ち合わす握出だからこそ、皆が付いてくる。
――彼こそ、エムシー販売店営業部長握出紋なのだから。
「行きます、部長……く、あああああ―――!!!」
「ぬ、ぬあああああああああああ!!!!!これは……!!きますよ、皆さん!!!新世界の幕開けです、う、うびゃ、ウヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!」
あたりが一面真っ白になる。
旧世界は終わりを告げた。
< 了 >