第3話
――その日の夜。
「さ~え~こっ!ちょっとこっち来てみ」
「なんですか、旦那様?」
俺は、部屋に呼んだ冴子に向かって、昼間手に入れたディー・フォンを構える。
すでに、使用者は、俺に変更済みだ。
やっぱり、こういうのは、手に入れたら使いたくなるというのが人情だろう。
――パシャ!
これでよし、……ん?なんだ、冴子の情報が入ってこないぞ。
――パシャ!パシャ!
「あ、あれ?」
「どうしたんですか、旦那様?」
――パシャ!パシャ!パシャ!
「もう……旦那様ったら…」
――パシャ!
「あれ?なんでだ?……て、おい!?なにしてんだ!冴子!?」
「私…旦那様のためなら…脱ぎます」
なに言ってんだよ?つうか、おまえ、いっつも俺のために脱いでるだろうが!
「どうですか、旦那様」
メイド服を脱いで裸になった冴子が色っぽいポーズをとる。
「お、おお~!」
――パシャ!
感動して、俺は思わずシャッターを切る。
「こういうのはいかがでしょうか?」
「お、いいよいいよ!」
――パシャ!
「こんな感じは?」
「もうちょっと顔を下げて、上目遣いでこっちを見る感じで……そーうそう!」
――パシャ!
……て、なにやってんだ、俺。
「ああ……旦那様……私…もう…」
冴子は、頬を染め、潤んだ目で俺の方を見つめてくる。
……こりゃ、ディー・フォンのアプリも必要ないな。
うーん、恐るべし、エロ冴子の実力……。
「お願いします…旦那様…」
破壊力満点の上目遣いで俺の方を見上げてくる冴子。
「しかたがないな、いいだろう」
「ありがとうございます」
俺が許すと、冴子は嬉しそうに俺のベルトを外し、ズボンをずらす。
「あふ…ん……ちゅる……」
「くっ!んく!」
俺のモノに冴子の舌が絡みついてきたとたん、猛烈な快感が走り、俺の口から思わず声が漏れる。
「ふ…んふ…ん…ん…んちゅ…」
もともと、とんでもないレベルの舌使いが、ここ数年でさらにレベルアップしている。
「ん…ふ…ふ…ふ…じゅる……」
頭を前後に動かして、俺のモノをしごきながらも、舌先で、ペロ、と先走りをすくい取る。
「くっ!さ、冴子!」
「ん!んんん!…こく…じゅるる!…んん…ちゅる…はあぁ…」
射精と同時に、俺のモノを奥深く咥え込み、こぼすことなく精液を飲み干していく。
……ここまで来ると、もはや名人芸だ。
「旦那様……私、もう……」
もじもじと、ももをすり合わせるように動かす冴子。
「ああ、こっちに来るんだ、冴子」
「はい、旦那様……」
俺は、冴子の手を取り、ベッドに上がる。
「んむ…んん……」
口づけを交わすと、冴子は、積極的に舌を絡めてくる。
「ん…あふう……」
唇を離すと、ふたりの間を、糸が引いていく。
俺は冴子をだき抱えると、冴子は、軽く腰を浮かせる。
「冴子……」
「はい…旦那様……あ!……んふう!」
冴子は、そのまま腰を沈め、俺のモノを飲み込んでいく。
「んっ!…はうん!……ああ…旦那様…」
ゆっくりと、冴子は腰を捻るように動かす。
「ん…あふ!…んん!…あん…」
腰の動きに合わせて、冴子のアソコ全体が俺のモノをねっとりと包み込むように蠢く。
「んふ……あっ!あふうんっ!」
たまらず俺が腰を突き上げると、冴子がしがみついてきて甘い声をあげる。
「あ!あんっ!ん!うんっ!ああん!」
俺が腰を突き上げる度に、短い嬌声をあげる冴子。
冴子は、髪を振り乱して頭を振り、辺りに大人の女の香りが漂う。
「んんん!はあんっ!ん!はあっ!あん!」
俺に抱きついていた手を離し、後ろ手に体を支えて、冴子は腰を押しつけるように動かす。
「ああん!はあんっ!ああ!だ!旦那様!」
「くっ!冴子!」
俺は、冴子の腰に手を伸ばして抱き寄せ、深く突き上げる。
「ん!んん!んむう!んんんんん!」
抱きついた勢いで俺の口を吸に吸い付き、体をビクビクと震わせる。
「んむむむ!んん!んはああああああっ!」
しかし、すぐにまた体を反らし、大きく喘いで絶頂に達する。
「はああぁ……ああ、旦那様ぁ…」
余韻を味わうように大きく息をする冴子。
「……旦那様、薫ちゃんのこと、よかったですね」
コトの済んだ後、俺に体を寄り添わせながら冴子が言う。
「冴子…おまえ、知ってるのか!?」
「いえ、何があったかは知りませんが、今朝はあんなに沈んでいた薫ちゃんが、さっきは見違えるほど晴れ晴れとしてましたもの」
「そうか、おまえも気づいてたのか」
「だって、私はこの家のメイド長ですもの。家族のみんなに気を配るのも仕事のうちです」
「すまないな、冴子、そんなことにまで気を使わせて」
「そんな…私、とっても幸せなんですよ、旦那様。みんなと楽しく暮らせて、そして、こうして旦那様に愛してもらって……」
そう言うと、冴子は俺の方を見て微笑む。
……操ってそうさせておいて、こんなことを言うのは欺瞞かもしれないが……心が救われた気がした。
それが気恥ずかしくもあり、心地よくもある。
俺は、悪魔のはずなのに……。
「ありがとうな、冴子」
「旦那様、感謝は、言葉ではなくて、態度でお願いしますね」
「というと?」
「もう一度…よろしいですか?」
冴子が幸に負けず劣らずの妖艶な笑みを浮かべる。
とりあえず、うちの連中は、揃いも揃ってエロ過ぎるのが難点だな。
8割がた俺のせいではあるんだが……。
もし俺が悪魔じゃなかったら、とうの昔に体が保たなくなってるぞ。
翌朝、目が覚めたときには、すでにベッドの中に冴子の姿はなかった。
夜の間、どれだけ乱れていても、うちのメイド長としての仕事はおろそかにしない。
……本当に感心な奴だ。
2階の寝室から下に降りると、もう朝食の準備はできていた。
「あ、おはようございます!」
「おう、おはよう」
幸、薫、冴子、梨央……うちのファミリーの面々……そして、
「おはようございます、大門さん」
「ああ、おはよう、綾さん」
相変わらず、眼鏡に何の反応はない。
しかし、辺りに漂う雰囲気がだいぶ柔らかくなったような気がする。
「昨日…生まれ育った街に行って来ました…知ってる人もいないし、住んでいた家すらなくなってましたけど……」
「そうか…」
「でも、なにか心の区切りがついたような気がします。これからどうするかは、まだ決めていませんが」
「まあ、ゆっくり考えたらいいさ。やることが決まるまで、ここにいても別に構わないし」
「ありがとうございます、これも大門さんたちのおかげです」
「別に、そんなたいしたことはしてないさ。たまたま助けて、寝泊まりするところを提供しただけだから」
たまたま…か、なにかスッキリしないが、こいつからは嫌な感じや気配はしないし……。
それよりも、俺の身の回りで、2日続けてディー・フォンがらみの事件があったことの方が気になる。
あの会社、どんだけ売りさばいてるんだか……。
その日、出社すると、俺は仕事の合間に、ディー・フォンを取り出す。
冴子にディー・フォンが効かなかったのは、おそらく、俺の操作を受けている冴子にプロテクトがかかっていたからだ。
いちおう、開発に直接関わった者として、それくらいのことはわかる。
問題は、薫に起こったことの方だ。
これは、あいつが使っていたディー・フォンだから、薫に変なメールを送ったアプリかなんかが入っているはずだ。
……これは?<マインドハッカー>だって?
※植春愛那の解説コーナー
<マインドハッカー>は、倭文さまが作ったディー・フォンアプリで、これを使うと、他人の洗脳下にある相手をディー・フォンに取り込むことができます!
詳しい理屈と使い方は、『黒い虚塔』第2話を見てね!
ん?今なんか聞こえなかったか?……まあいいか。
お、操作マニュアルもあるぞ。
……ふんふん。
………なるほど。
…………おいおい!?
……………なんだって!?
…………………………ブチッ!
なんちゅうアプリ作りやがるんだよっ!
おかげで俺が迷惑するじゃないかっ!
しかも、何だよ!ディー・フォン購入1周年記念の特典って!?
こんなもんタダで配ってんじゃねぇっ!!
「局長、どうかなさいましたか?」
すっかり立ち直って、いつものクールな秘書モードに戻った薫が、俺の顔をのぞき込む。
「いや、なんでもない。ちょっとむかつくことがあってな。うん、大したことじゃないんだ。あ、薫、コーヒー淹れてくれないか?」
「……?かしこまりました」
返事をして、部屋付きの給湯室の方に行く薫。
あいつ、今、一瞬首傾げてたよな……俺がこれ持っていること気づかれたか?
いや、薫はディー・フォンそのものは見てないはずだから大丈夫のはずだ……。
しかし……あいつがこれを使ったってことは、少なくとも、一度は写真を撮って薫を取り込もうとしてたってわけだな。
くそ、考えただけでも腹が立つ。
つうか、メールで送ってきたってことは、薫のメールアドレスしか知らなかった……ていうことか?
薫の携帯の番号を知られていたらやばかったじゃないか。
なんてこった、こんなの持った奴らが、あと何人いるんだよ……。
「局長、コーヒーを……局長?」
コーヒーを運んできた薫が、頭を抱えている俺を心配げに見ている。
「あ、ああ、ありがとう、薫」
俺は、笑顔を作って、薫が机の上に置いたカップを持ち上げる。
薫に気づかれるのはまずい……こいつに余計な不安を抱かせたらダメだ。
昨日みたいなことが、またあるかもしれないなんて……。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい、大門様」
帰宅すると、いつも通り出迎えが……ん?大門様?そんな風に俺を呼ぶやつって……?
俺が顔を上げると、そこには、白銀の髪をしたメイドが立っていた。
「あ!綾さん!?」
「はい、幸さん…いや、奥様と冴子さんに相談して、ここでお世話になることになりました」
いやいやいや!ちょっと考えたら、この家普通じゃないってわかるでしょ!?
それを、操作されてもいないのに、好きこのんで自分から飛び込んできます?
うーむ、幸のやつ、前々から素質があるとは思っていたが、ついに洗脳の能力が開化したか?……て、そんなわけないか。
だいいち、やっぱり眼鏡に何の反応もない。
眼鏡が壊れてんのか?……うん、他の連中には反応しているな。
「大門様?」
「あの…いいんですか、綾さん?」
「はい!とは言っても、私、家事は全然できないので、まだまだ見習いですが。それと、大門様」
「は、はい?」
「今日から私もここの使用人ですので、私のことは、綾さん、ではなくて、綾、って呼んで下さい!」
「はい……」
なんか、わけのわからん事になりつつあるな……。
「あ!ご主人様!今、ニュースでやってたんですけど、怪物が出たらしいですよ!」
居間に入ると、梨央が興奮して飛びついてくる。
「はあ!?どこに?」
「東京ですって」
と、これは幸。
「冗談か?」
「いえ、本当らしいですよ。ただ、夜中にちらっと見かけたっていう話だけなんですけど。なんでも、コウモリの翼に、蛇の尻尾を持った大男がいたらしいです」
横から冴子も口を挟む。
「は、ははは、きっと見た奴が酔っぱらってたかなんかじゃないか?だいたい、そんなのがいるわけないだろう」
と、言い切れないところがつらい。
つうか、そんなの、魔界に行けばいくらでもいる。
どっかのバカが地上に出てきたのか?
最近の魔界の事情は、俺にはわからないし……。
そういえば、魔界には銀髪の女悪魔もいくらでもいる……まさか?
……いや、綾からは悪魔の気配は感じられない。
それに、よく考えたら、人間界でむやみと本性現す悪魔がそうそういるとも思えない。
きっとガセだよな……というか、これ以上面倒そうなことは起きて欲しくないんだが……。
脳裏にかすめた嫌な予感が、杞憂であることを俺は切に願った。
< 続く >