お洗濯しましょ! 柔軟剤 後編

柔軟剤 後編

「ええっと、お茶お茶っと。それと、あ、これだ!」
 沙紀とお姉さんを座らせると、俺は逃げるようにキッチンに向かう。もちろん用意するのは、お茶と分離剤だ。
「そうだな、沙紀のにも入れておくか」
 俺は、沙紀のお茶にも分離剤を入れる。
 あの洗濯機を使うのはお姉さんの方だが、あれを使うところを沙紀に見られたくもない。とりあえずは、沙紀も心を分離させて意識を無くさせておくか。

「あの、お茶をどうぞ、お姉さん」
「あんたにお姉さんって呼ばれる筋合いはないって言ったでしょ!」
 ギロッと俺の方を睨むお姉さん。ううう、怖えよう。
「ええと、自己紹介がまだでしたね。俺、中本兼一っていいます」
「別に。あんたの名前には興味はないわよ」
 そう、吐き捨てるように言うお姉さん。とりつくシマもないってのはこういうのを言うんだな。
「優紀ねぇったら、ケンちゃんになんて事言うのよ!」
「沙紀、あなたこそどうしたっていうのよ?こんな、うだつの上がらないダメそうな男なんかとっ」
「何言ってるの?ケンちゃんはダメそうな男じゃなくて、ダメな男なのよ!」
 あのー、沙紀、それってフォローしてるつもりなの?
「はい?沙紀の方こそ何言ってるのよ?」
「だから、ケンちゃんは、バカでスケベでサイテーで、ダメダメな人間なのよ、見てわからないの?」
 いや、まあ、いつも聞いてるからもういいけどよ。
「な、なによ、そんなの私だって一目見たらわかるわよ」
 あの、お姉さん?
「本当にわかってるの?ケンちゃんはねっ、勉強はできないし、単位は落としまくってるし、下品でゼミ中のほとんどの女子からは嫌われてるのよっ」
「なによそれ、本当にダメでサイテーな奴じゃないっ!」
「だからっ、さっきからそう言ってるでしょ!」
「じゃあ、沙紀はなんでそんな奴とつき合って同棲までしてるのよっ!?」
「なんで優紀ねぇはケンちゃんのダメダメでサイテーな魅力がわからないのよっ!」

 すげえ。意見は一致してるのに、議論が全く噛み合ってない。つうか、なんか俺哀しくなって来るんですけど。

「それにねっ、ケンちゃんのチンポはすっごく大きくて、毎晩本当に凄いんだからねっ」
 おっとぉっ!いきなりなんて過激な発言してやがるんですかっ?
「なっ、何言ってるの、沙紀!?ちょっとあんた!あんた沙紀に何かおかしな事したわねっ!」
 ひいいいぃっ!矛先をこっちに向けないで下さいいいいいっ!
「ケンちゃんは何もおかしな事はしてないわよっ!ケンちゃんを好きになったのは私の勝手なんだから!」
 そうですそうですっ!おかしな事をしたのはあのジジィですっ!俺は何もしてませんっ!
「そもそもこんな奴好きになるのがおかしいって私は言ってるのよっ」
「好きになったのはしょうがないじゃない!ケンちゃんを好きになったのも、この部屋に押し掛けたのも、ケンちゃんの童貞を奪ったのも、全部私の方なんだからねっ!」

 それは全部その通りですっ。つうか、そんなこと言ってないで早くお茶飲んでくれようっ!

「いい、沙紀。あなたはこいつに騙されてたぶらかされてるのよっ。わかってるの?」
「いーや、私は騙されてないもんっ。それに、ケンちゃんをたぶらかしたのは私なんだしっ」
 え、そうなの?
「騙されてないなら、なんで、こんなダメな奴を素敵だと思うのよ?」
「誰もケンちゃんのことを素敵だなんて言ってないじゃないっ」
「だって、あなたこいつのことをカレシだって」
「そうよっ」
「じゃあ、なんでっ?」
「だから、ケンちゃんが素敵な男だから好きになったんじゃなくて、ダメでサイテーな男だから好きになったんだって、何度言ったらわかるのよっ」
 それは普通わからないよなぁ。
「沙紀っ、バカなこと言ってるんじゃないのっ!とにかくっ、今の沙紀の状態は普通じゃないんだからっ。いいっ?こんな男の所にいてはダメよ。私と一緒に家に帰りなさいっ!」
 と、もの凄い剣幕のお姉さん。
「優紀ねぇに私とケンちゃんの事でとやかく言って欲しくないわっ!私は絶対にケンちゃんの側を離れないんだからっ」
 沙紀の方も負けずに言い返す。
「ダメよっ、帰るのよっ!」
「嫌よっ、帰らないったら帰らないっ!」
「帰りなさいっ!」
「嫌ったら嫌っ!」

 そのまま、お互いに黙って睨み合うふたり。
 見える。俺には見えるっ。沙紀とお姉さんから、まるで世紀末救世主伝説のように闘気が立ち上ってくるのが。
 修羅だっ。このままではここが修羅の国になって、辺りは阿鼻叫喚の巷と化してしまうぞっ!
 
 俺が息を呑んで見守る中、かなりの緊迫感を伴った沈黙の時間がしばし流れ。

 ふたりの手が、ほぼ同時にテーブルの上のカップに伸びる。
 まさかとは思うけど、互いにお茶をぶっかけるなんて展開は無しにしてくれよな。お姉さんの場合、俺にぶっかける方があり得るが。

 そんな俺の心配をよそに、分離剤入りのお茶の入ったカップをふたりは口に近づけていった。

「ふう~。一時はどうなることかと思った」
 お茶を飲んで、床に倒れ込んだふたりを見下ろしながら、俺はようやく胸をなで下ろす。
 見る見るうちに、ふたりの体から風船のように、もう一体の体が浮かんできたかと思うと、たちまちしぼんで布状になる。ジジィがやったときと全く同じだ。
「まあ、沙紀の方は何もしなくていいか」
 とりあえず、洗濯が必要なのはお姉さんの方だ。まあ、そのまま何もしなくても布状の心は体に戻るってあのジジィは言ってたし。あ、そういや干した方がいいって言ってたよな。
 俺は、布状沙紀をハンガーに掛けておく。

 さて、次は肝心のお姉さんの方だ。
 俺は、布状になったお姉さんの胸の所を見る。
 あるある。赤い字で書かれた沙紀の名前の下に、いかにも書き立てという感じの、鮮烈な青い字の俺の名前が。
 
 まったく、俺の名前に興味はないって言ってたのに。俺は、スティック洗剤を取りだして、青字で書いてある自分の名前を擦る。
 後は、洗濯機にかけるだけ…ん?そうだ!今日貰ったあれ!あの柔軟剤とかいうの?あれ使うチャンスでないか、これは。
 まあ、俺のことを好きにさせるのは当然にしても、このきつい性格のままだとしんどいな。まあ、どうなるかはわからんが、柔らかくなるにこしたことはないだろう。

 さて、分量はどうするかな?
 俺は、布状のお姉さんを洗濯機にぶち込んだ後、柔軟剤の容器を手に考え込む。
 とりあえず、キャップに1杯くらい入れてみるか。

 洗濯機のスイッチを入れた後、俺は床に倒れたままの沙紀とお姉さんの体を並べて寝かせる。
 目を閉じた状態だと、やっぱり姉妹だ。よく似てるな。身長も同じくらいだし、見てすぐわかる違いといえば、沙紀の髪が肩の下まである明るい栗色なのに対して、お姉さんの方は肩くらいまでの黒髪だって事か。

 俺が、そうやって眠れる美人姉妹を鑑賞しているうちに洗濯機のブザーが鳴った。

 洗濯機から、脱水の済んだ布状お姉さんを取り出すと、俺は青字で書かれた俺の名前が消えているのを確認する。
 次に、赤ペンを手に取り、俺の名前を布状お姉さんに書き込む。
 これでよしと。後は乾燥させるだけだ。

 これでお姉さんは俺のことを好きになるはずなんだが、やっぱりちょっと不安だ。なんせ、沙紀の時があれだしな。
 どうもあの店の道具は一筋縄じゃいかないような気がする。だいたい、この柔軟剤ってのも、効果があるかどうかも、使ったらどうなるのかも全然わからん。
 ん?乾燥が終わったみたいだな。

 期待と不安混じりに、俺は乾燥が終わった布状お姉さんと、洗濯せずに干しておいた布状沙紀を、寝かせておいた体の上に掛ける。

「ん…。あれ、私何で寝てるの?」
 先に目を開けたのは沙紀の方だ。
「あ、ああ。ふたりとも急に机に突っ伏してな。俺もビックリしたんだから。興奮しすぎて頭に血が上っちゃったんじゃないか?」
 なんとも苦しい説明だが仕方がない。
「それは、お姉ちゃんが悪いんだからっ」
 口を尖らせる沙紀の横で、寝ていたお姉さんがようやく目を覚ます。
「ん、んん。あ、沙紀ちゃん?どうして、私?」
 少し寝ぼけたように部屋を見回していたお姉さんの視線が俺を捉える。
「あっ、中本さんっ」
 顔を赤くして叫ぶお姉さん。って、中本さん?
「いやだっ、私ったら、なんて事したのかしらっ。こんな迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさいね中本さん」
 そう言って、何度も俺に向かって頭を下げるお姉さん。そうか、今日やった事の記憶はあるのか。それにしても、たしかにさっきと全然雰囲気が違う。なるほど、柔らかくなるってこういうことなんだな。
「いや、いいんですよ。気にしてませんから」
「まあ、中本さんってなんて優しい人なのかしら。沙紀ちゃんも、今日は本当にごめんね」
「ねぇ、ケンちゃん、優紀ねぇどうしたの?」
「さぁ」
 不審げな表情の沙紀。俺も、調子を合わせて首を傾げるふりをする。
「すみません中本さん、今日は本当に失礼なこと言ってしまって。またお詫びに伺いますので、沙紀ちゃんをどうかよろしくお願いしますね、中本さん」
 あ、なんだ、帰っちゃうの?
「じゃあね、沙紀ちゃん。あまり中本さんを困らせたらダメよ」
「ちょっと、優紀ねぇ?」
「それでは失礼します」
 困惑する沙紀を残し、俺に一礼するとお姉さんは部屋を出ていった。

* * *

 その晩、沙紀が作った遅めの晩飯を、いつものように差し向かいで食べる俺と沙紀。まあ、今日はゴタゴタしてたからな。
「結局、優紀ねぇは何しに来たんだろうね」
「さぁ、なんだったんだろうな」
「ごめんね、ケンちゃん、変なお姉ちゃんで」
「いや、そんなことはないって。それに綺麗なお姉さんじゃんか」
 うん、別に変とは思ってない。正直、怒ってるときは怖かったけど。
「そうでしょ、優紀ねぇって、ちっちゃい時から自慢のお姉ちゃんなんだから。って、ダメだよケンちゃん、目移りしちゃ」
「でも、沙紀の方が綺麗かな。可愛らしいし」
「もうっ、ケンちゃんのバカっ、なに恥ずかしいこと言ってんのよっ」
 夕方の修羅場が嘘のように、いつものペースを取り戻した俺と沙紀の会話。

「あれ、ベルが鳴ってるよ、ケンちゃん」
「ん?こんな時間に誰なんだろうな?」
 俺が、ドアを開けると、そこには荷物を抱えたお姉さんが立っていた。
「あ、お姉さん?」
「え?優紀ねぇ?」
「あ、あのっ、中本さんっ、私、あれから考えたんですけど、沙紀ちゃんが中本さんの所でお世話になるのなら、やっぱり私もここに住んだ方がいいと思って」
 それ、どういう理屈ですか、お姉さん?
「いちおう、こっちでは私が沙紀ちゃんの保護者代わりですし、私も沙紀ちゃんと一緒にいた方が良いと思うんですっ」
 それで押し掛けてきたと?やっぱり姉妹だ、行動パターンが一緒じゃんか。つうか、なぜにそんなに赤い顔して俺のこと見つめてるんですか?
「もちろんっ、中本さんがダメと言うのなら帰りますけど!どうか、一緒に住まわせて下さい!」
「は、はい。いいですよ」
 深々と頭を下げるお姉さんの勢いに押されて、俺は思わず首を縦に振ってしまう。
「ありがとうございますっ」
「ちょ、ちょっと、ケンちゃん?」
「ま、まあ、お姉さんもああ言ってることだし」
 わけがわからないといった風に首を横に振る沙紀。つうか、おまえがここに来たときもかなりわけがわからん状況だったぞ。なんなんだ、この押し掛け姉妹は。

「だから、どうして優紀ねぇも一緒に寝るのよ!」
 夜遅いんだから、大きな声出すのはやめてくれ、沙紀。
「仕方ないだろ、他に布団無いんだし」
 それ以前に、3人乗ってこの安ベッド保つんだろうか。
「ごめんね、沙紀ちゃん」
「だからっ、ここはケンちゃんと私に家なのに、何で優紀ねぇもここで暮らすのよっ」
 ここは俺の部屋で、決して俺とおまえの家じゃないんだが、沙紀。それにしても沙紀の奴、やたらカリカリしてんな。
「まあ、そう言うなって」
「すみませんね、中本さん」
「いやいや、いいんですよお姉さん」
「何デレデレしてるのっ。もうっ、ケンちゃんはホントに甘いんだからっ」
 ふてくされて、俺と反対方向を向く沙紀。この後しばらく大変そうだな。

「狭くないですか、お姉さん?」
「私なら大丈夫です。あの、中本さん?」
「なんですか?」
「私のことは、優紀って呼んで下さい」
「はあ」
「その代わり、兼一さんって呼んでもいいですか」
 そう言って、慎ましやかに体を俺の方にすり寄せてくるお姉さん。
「いいですよ、優紀」
「ありがとうございますっ、兼一さんっ」
 お姉さんが俺の腕にギュッと抱きついてくる。あ、なんかいいなぁ、この感じ。でも、俺の背後の方から、ドロドロした暗いオーラが漂ってくるのはなぜだろう?

 結局、沙紀が恐ろしくて、その夜はそれ以上のことは何もできなかったのだった。

* * *

「もうっ、優紀ねぇは早く仕事行きなさいよっ」
「なに怒ってるの、沙紀ちゃん?」
 翌朝早く、俺は沙紀の大声で目が覚めた。
「だいたい、なんで優紀ねぇがここに押し掛けてくるのよっ」
「それは、沙紀ちゃんの事が気になって」
「じゃあ、昨日のあれは何なのよっ、『兼一さんて呼んでいいですか』なんてっ」
 やっぱり、昨日の晩から沙紀の様子がおかしいような。
「いや、あれはねっ」
「ケンちゃんは私のカレシなんっだからねっ、わかったら早く仕事行ってっ」
「う、うん。それじゃ、行ってくるから」

 沙紀が、追い出すようにして優紀を仕事に行かせた後、俺は起き出して沙紀に声をかける。
「朝から何怒ってるんだ、沙紀?」
「ケンちゃんも悪いんだからねっ、なんで優紀ねぇを家に入れたのよっ」
「まあ、あれは成り行きというかなんというか」
「ああもうっ、信じらんないっ。ここは私とケンちゃんの家なんだからねっ」
 だから、ここは俺の部屋だって。
「まあ、あんな綺麗なお姉さんに頼まれると」
「もう、ケンちゃんサイテー!」
 わめき散らす沙紀を横目に、俺はキッチンの方に行って水を1杯飲むと、お茶を注いだコップを持って沙紀の所に戻る。
「でも、そんなサイテーのところがいいっていつも言ってるじゃないか?」
「そっ、それはそうなんだけどっ」
「だって、沙紀は、俺のスケベでサイテーなところが好きなんだろ?だったらこのくらい何ともないんじゃないのか?」
「だけどっ、ケンちゃんは私のカレシなんだから、その自覚は持ってよねっ」
「まあまあ、そんなに興奮するとまた倒れるぞ、ほら、まあ、お茶でも飲んで」
 沙紀は、俺が差し出した分離剤入りのお茶を一気に飲み干す。

「あ~あ、こんなになっちゃって」
 分離剤を飲んで、布状になった沙紀の心をチェックしていた俺は思わず嘆息する。
 ついこの間まではたしかに赤い字で書いてあったのに、そこには、ビックリするくらい濃い青字で「優紀ねぇ」と書いてあった。
 昨日、怒鳴り込んできた優紀相手に険悪なやり取りがあって、夜は夜であんな事になって、気持ちの整理ができなくなっちゃんだな。それにしても、こんなに嫌いになるなんて。

 女の嫉妬って、恐いもんだな。でも、やっぱり姉妹仲良くしてもらわないと。

 そんなことを考えつつ、俺は、青字の優紀の名前をスティック洗剤で擦る。
 そうだ、沙紀にも柔軟剤使ってみるか?もうちょっとおとなしくなってくれると俺も楽だし。
 俺は、キャップに5分の1ほど柔軟剤を入れる。キャップ1杯で優紀がああなったってことは、このくらいでも効果があるはずだよな。
 
 布状沙紀を洗濯機にかけると、俺は赤ペンで優紀の名前を書きこんで乾燥させる。

「あ、あれ、ケンちゃん?」
 布状の心を体に戻すと、沙紀が目を開く。
「やだ、また寝てたの、私?」
「ん、ああ」
「変なの。別に体も元気なのに、どうしてなんだろう?」
 首を傾げている沙紀の様子を窺うが、見た感じ、あまり変わりはなさそうだ。ちょっと量が少なかったのかな?
「それに、ケンちゃんが凄く魅力的に見えるの。なんか、今日のケンちゃん、カッコ良くて素敵」
 な、何ですと?
「カッコいいって、沙紀、おまえ俺のダメでサイテーなところが良かったんじゃないのか?」
「うん、もちろんそうよ。でも、なんか今は、ケンちゃんがダメダメでサイテーで、そんでもって、カッコ良くてちょっと素敵」
 いや、それって矛盾してません、沙紀さん?
 俺の方を見て、横座りしたまま、もじもじしている沙紀。うん、やっぱりいつもと少し違う。じゃあ、柔軟剤が効いてるのかな。

「なあ、沙紀」
「なあに、ケンちゃん」
「優紀の事、ゆるしてやれよ」
「ゆるすも何も、私、お姉ちゃんのこと大好きだよ」
 うん、こっちの方の効果はばっちりだ。
「良かった」
「ん、何か言った?」
「いやいや、なんでもない」
「ケンちゃん変なの。ああ、それしても早くお姉ちゃん帰ってこないかな」
「どうして?」
「もちろん、お姉ちゃんが帰ってきたら、ケンちゃんと私と3人で、いいこといっぱいしたいからだよ」
 そう言った沙紀の表情に俺は思わずドキッとする。違う、何がどう変わったかはうまく言えないが、たしかに今までの沙紀とは違う、妖しい雰囲気が漂ってるぞ。

* * *

「兼一さん、沙紀ちゃんただいま戻りました」
「あ、お帰りなさい、お姉ちゃん!」
「ん、なんか、えらい早くないですか?」
「それがね、職場のみんなが、なんか今日の私は様子がおかしいって言って、体調悪いんじゃないかって早く帰らされたの。今日は金曜日だし、週末の間にしっかり体を治しておけって。変ね、私別に体調悪くないのに」
 うん、体調の問題じゃなくて、様子がおかしかったのは確かだろうな。急に人格が変わったら、そりゃおかしいと思うわな。そうか、社会人って、そういうとこまで気をつけなきゃいけないのか。
 じゃあ、優紀を元に戻した方が良さそうだけど。まあ、月曜までに戻せばいいか。
「ほらほら。お姉ちゃんもケンちゃんも、こっちこっち!」
 さっきからもどかしそうに俺と優紀の会話を聞いていた沙紀が、待ちかねたように俺たちの手を引っ張る。
「な、なんだよ、沙紀?」
「ちょっと、沙紀ちゃん?」
「私ずっとお姉ちゃんが帰ってくるの待ってたんだからねっ、もう我慢できないよっ」
 沙紀は、そのまま、俺たちをベッドの方まで引っ張っていく。

「あっ、んんっ、けっ、兼一さんっ」
 俺に抱きつき、アソコで俺の相棒を飲み込む優紀。
 エッチするのを待ちきれないといった様子の沙紀にせがまれ、俺は今、晩飯も食べないで沙紀と優紀との3Pの真っ最中だ。
「大きいっ。兼一さんのが大きくてっ、私の中がいっぱいになってるのっ」
「んふ、ね、私が言ったとおりでしょ、お姉ちゃん」
 俺と抱き合う優紀の背後から体を密着させる体勢で沙紀が囁く。
「ふあっ、ああっ、すごいっ、すごく気持ちイイわっ」
「ん、良かったね、お姉ちゃん。どう、ケンちゃんも気持ちいい?」
「うん、すごく気持ちいいよ」
 ホントに、優紀のアソコは、俺のチンポをトロトロに包み込んで、沙紀に負けず劣らず気持ちいい。うーん、さすが姉妹。
「良かった。じゃ、もっともっと気持ちよくなろうね。ん、あむ、ちゅ」
 沙紀は、後ろから優紀の耳たぶを吸い、胸に手を回していく。
「ああっ、沙紀ちゃんっ、今そんな事されたらっ、んくっ、あっあああああっ」
「ちゅ、ん、イっちゃったの、お姉ちゃん?」
「んんっ、はあっ、うん、あああっ」
「でもね、お姉ちゃん、ケンちゃんはまだイってないんだから。ね、ケンちゃん?」
「んっ、さっ、沙紀ちゃんっ?はあっ、んくうううううっ」
「お姉ちゃん、またイっちゃったんだ。くす、何度イってもいいんだよ。そして、ケンちゃんにたっぷり出してもらおうね」
 優紀の乳首を弄りながら、その耳元で背徳の言葉を囁く沙紀。なんか、沙紀の奴、柔らかくなったっていうか、妖しいくらいにエロくなってないか?
「あんっ、沙紀ちゃんっ、ひゃあああっ。あっ、兼一さんのがっ、また大きくなってるのっ。くふううんっ」
 優紀のアソコがヒクヒクと震えて俺のチンポを締め付けてくる。それに、目の前で展開されている美人姉妹の乱れっぷりを見ているだけで、俺のチンポはもう限界だ。
「んっ、優紀!」
「あああっ、いっ、いっぱい出てるっ!ああっ、兼一さああああんっ、んんんんんっ!」
 射精すると、優紀が力いっぱい俺にしがみついてくる。

「あああっ、んん、ふううう、はぁ」
「どう、ケンちゃんにいっぱい出してもらった?」
「んん、んはあ、はぁはぁ」
「ふふ、お姉ちゃんったら、可愛い」
 力が抜けて、ぐったりと沙紀に寄りかかる優紀に、チュ、と軽くキスをすると、沙紀は優紀の体を寝かせる。

「ねぇ、ケンちゃん。次は私の番だね」
 そう言うと、沙紀は俺の前に立つ。
「ん、沙紀?」
「ほら、わかる、ケンちゃん。ケンちゃんとお姉ちゃんがしてるだけで、私のここ、こんなになっちゃってるんだよ」
 そう言って、立ったまま指で自分のアソコを広げてみせる沙紀。そこからは、ももに垂れるくらいどろっとした汁が溢れている。沙紀の口からは、ハァハァと息をする音が漏れ、形の整った胸が大きく上下に揺れている。
 ていうか、ヤバイ、これはヤバイっすよ、沙紀さん。上気して火照った顔で、アソコをさらけ出している沙紀を見ているだけで、さっき出したばかりの相棒がどんどん元気になっていく。
「あ、もう大きくなってる。ケンちゃんのスケベ」
「何言ってるんだよ、スケベなのは沙紀の方だろ」
「うふ、そうかもね。ね、ケンちゃん、いいでしょ?」
 俺の体を足で挟むようにして腰を下ろし、腕を絡めて悩ましげに俺の方を見つめる沙紀。
 悩殺って、こういうのを言うんだろうか。目眩がするほどいやらしい表情だ。

「じゃあ、いくよ、ケンちゃん」
 沙紀が少し腰を浮かせて、俺の相棒を握り、ドロドロのアソコへと導いていく。
「あっ、ふあああっ」
「ううっ」
 沙紀が腰を沈めると、俺のチンポにウネウネとした物に包まれて、いきなりもの凄い快感の波に飲まれる。この感触、今までの沙紀の比じゃないぞっ!
「ああっ、喜んでるっ。ワタシのアソコっ、ケンちゃんのチンポを飲み込んで喜んでるのっ。ねっ、わかるでしょ、ケンちゃんっ」
 凶器だっ、その体はもちろん、声も、言葉も、全てが凶悪なまでにやらしいじゃないかっ。
 たしかに、もともと美人だし、いい体してるし、アソコの中も気持ちよかったし、経験豊富でテクもあったけど。今、目の前で俺の相棒を飲み込んでいるのはまるでモンスターだっ。
「あんっ、あんっ、あっ、はぁ、やっぱりっ、ケンちゃんのっ、大きくて気持ちイイよっ」
 俺にしがみついて、腰を揺すっているモンスター。
 な、何か凄くないか?ひょっとして、これがジジィの言っていたエロエロパラダイスなのか?
「んんっ、ね、ケンちゃんももっと動いてっ、それでっ、もっともっと気持ちよくなろうよっ」
 俺を天国に誘うような声で囁きながら、淫らに腰をうごかしていく沙紀。

 そうか……。
 わかったぜ、これがエロの道を究めるということなんだな、ジジィ?それなら、俺はこの道の先にあるものを見極めてやるさ。
 その第一歩に、今、俺の目の前にいるこのエロエロモンスターをイカせてやるっ。
 沙紀の痴態にあてられて、俺にも変なスイッチが入る。
 
 俺は、腰を大きく突き上げると、目の前の沙紀の胸に吸いつき、もう片方の乳首を指先で弄りたおす。
「きゃあああっ!いっ、いつの間にっ、そんなこと覚えたのっ、ケンちゃん!?」
 沙紀が大きく顔を仰け反らせる。

 よしっ、効いてるっ!俺の攻撃が効いてるぞ!
 俺は、腰を突き上げるストロークをもっと大きくしていく。

「やっ、ああああっ、なんかっ、今日のケンちゃんっ、いつもより激しいっ、あああんっ」
 俺の動きに合わせて沙紀の体がガクガクと震え、その度に俺のチンポが締め付けられる。俺は、確かな手応えを感じつつ腰を動かしていく。でも、俺も結構きついぞ、これ。
 こうなったら、もうやけくそだ。俺は、無我夢中で沙紀の体を突き上げる。
「はぁっ!やっ、そんなに大きいのでっ、奥の方までゴンゴン突かれたらっ、私っ、わたしいいぃっ」
 沙紀がギュッとしがみついてきて、体を大きく震わせる。よしっ、今だっ。

 俺は、相棒のリミッターを解除する。

「ああっ、そんなっ、今来られたらわたしっ、いやああああああっ」
 沙紀が体を大きく反らせて絶叫する。
 その、今まで見たことがないほどのイキっぷりに、俺は、自分がこのエロエロモンスターを屈服させたことを知る。
「ん、んん、はぁ、ああ、今までで一番良かったよ、ケンちゃん」
 俺の耳元で甘く囁く沙紀。このモンスターを屈服させた充足感に満たされた今の俺には、沙紀の囁きが心地よい音楽のように響く。
 などと、クールに決めていた俺の高揚した気分は、次の瞬間にあえなく打ち砕かれたのだった。

「この分だと、あと10回くらいはできそうだね。うふ、今夜は眠らせないよ、ケンちゃん」

 ……すみません、せめてあと3回くらいで勘弁して下さい。

< 続く >

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