黄金の日々 第1部 第9話 後編

第1部 第9話 後編

「お初にお目にかかります、女王様。僕の名はシトリー。しがない悪魔です。本日はこの国をいただきに参上しました」

 自らシトリーと名乗り、大仰に頭を下げる黒髪の悪魔。
 しかし、慇懃無礼とでも言うのだろうか。薄笑いを浮かべたその男の表情は、クラウディアのことを敬っているようには見えない。

 それに、その男と、背後に控えるエメラルドグリーンの髪の女から感じる邪悪な気配。
 背筋に寒気が走るほどの禍々しい気配を隠そうとしない。
 その魔力の大きさに、クラウディアの額を冷や汗が流れ落ちる。

 でも、どうして?
 この街は全体が結界に覆われていて、邪なものは入ることすら出来ないはずなのに……。

 しかし、現にこの悪魔は今自分の目の前に立っている。
 その理由を計りかねているクラウディア。 

 その時、フレデガンドが剣の柄に手をかけて大きく踏み出した。

「笑止な。貴様が悪魔だと?」

 そう鼻で笑うと、鞘から剣を抜き放つ。

「……まあいいわ。クラウディア様に害を為そうというのなら、この私が斬り捨てるまで」

 そう言って剣を構えるフレデガンド。

「待ちなさい!フレダ!」

 根っからの戦士である彼女には、相手の恐ろしさがわかっていない。

 そう思ったクラウディアが制止しようとした、その時。

「……!」

 フレデガンドが体を捻るように回転させたかと思うと、剣の柄がクラウディアの鳩尾に強烈な一撃を見舞った。

「な……どうして?」

 愕然として短く呻いたクラウディアの体が、くの字に折れる。
 そのまま、その体がゆっくりと床に崩れ落ちた。

 ……なんだ、あっけないな。
 こんなものなのか?

 意識を失っているクラウディアの姿を眺めながら、シトリーはどこか拍子抜けした思いだった。
 まだ若年ながら、魔法王国ヘルウェティアの歴代の王の中でも最高の使い手のひとりといわれた魔導師が力なく床に横たわっている。

 フレデガンドが腰を屈めると、倒れているクラウディアに手を伸ばす。
 と、その手が届く前に、すうっ、とクラウディアの体が霞んでいき、その姿がかき消えた。

 戸惑った表情でフレデガンドがこちらの様子を窺ってくる。

 ……幻影か。
 
 いや、単なる幻影ではない。
 いまのフレデガンドの対応や、クラウディアが倒れたときの質感からすると、実体に近い質量感を備えた分身と呼んだ方が良いのだろう。
 そのような幻像を作り出すことなど、並の魔導師にはできない芸当だ。
 きっと、このような事態を想定して、本人はどこかで身を隠しているのに違いない。

 なるほど、やってくれるじゃないか。

 シトリーは、注意深く周囲の気配を探る。
 クラウディアが、この広間のどこからかこちらの様子を窺っているのは間違いない。

 でも、まだこっちが見せたカードはフレデガンドだけだ。

 こちらがこの後どう出るか、クラウディアはそれを見極めるつもりなのだろう。
 この王国の、どこまでがシトリーの手に堕ちているのかを。

 しかし、このままじゃ埒があかないな。
 ピュラを使って感知させてもいいけど、下手にこちらの手の内をさらすのもな……。

 分が悪いと見ると、逃げられるおそれもある。
 ピュラやリディアから聞いている彼女の性格から判断するとその可能性は低いが、それでも、他日を期して勇気ある撤退を決断するということがないとは言えない。

 さてと、どうしたもんだか……ん?

 シトリーが方策を考えあぐねていた時、さっきまでその姿があった場所からだいぶ後方に、クラウディアが姿を現した。
 すかさず、フレデガンドがクラウディアに向き直ると剣を構える。

 その時、クラウディアが泣きそうな表情を見せた、と思ったのは気のせいだろうか。

「……ごめんなさい、フレダ」

 クラウディアが、悲しげに一言呟いた。

 だが、次の瞬間、毅然と面を上げると、クラウディアはじりじりと間合いを詰めてくるフレデガンドを見据えた。

「汝の授かった真実の名の下に我は命ず、フラズグズル」

 胸の前で複雑に指を組み、短い呪文の後に、クラウディアが力強く言い放つ。

 すると、フレデガンドの動きがぴたりと止まった。

「後ろを見なさい、フラズグズル。その男は汝と我の敵。よって命ず。その男を倒しなさい!」

 クラウディアの命じるままに、フレデガンドが体を翻してシトリーの方を向く。
 その瞳は、昏く沈み、意志の光がまったく感じられなかった。

 なんとも、名前による支配とは、これまた古い魔法だな。

 クラウディアが何をしたのか直ちに理解して、シトリーは思わず感心してしまう。

 言葉には計り知れない力がある。人はそれを、言霊と呼ぶこともある。
 その最たるものが名前だ。万物の名はその本質を表す。
 術さえ知っていれば、名を知っているだけでそのものを支配することができる。
 その対象は人だけではない、すべてのものには隠された真実の名前がある。
 それを明らかにすることができれば、世界を支配することすら可能だ。
 だから、本当の名前は知られてはならない。そのような風習が残っている地方は今でも残っている。
 そこでは、その者の真実の名は、本人と実の親、そして、名付け親しか知らない。
 そして、当人は真実の名を秘し、通り名で一生生活する。

 今、シトリーと対峙している女剣士。
 彼女の場合、真実の名がフラズグズル。通り名がフレデガンドだったということだ。
 
 ……それにしてもフラズグズルとは皮肉な名前だな。

 それは、古い言葉で”王冠の女戦士”を意味する言葉だ。
 その勇ましい名前の通りに彼女は一流の戦士となった。
 だが、その生まれた国は魔法王国とあだ名される国。戦士が王冠を戴くことは決してあり得ない。
 そして、彼女自身は親衛隊長として、王冠を戴く魔導師の少女を護衛することになるとは。

 だが、当然のことながら名前で相手を支配する術というのは誰にでもできるものではない。
 それは、とうの昔に失われたはずの古い魔法。
 それが、このヘルウェティアの王家には伝わっていたということか。
 もとより、本来であればこの世の全てを支配できる魔法が、ただ、人を支配するだけになっている時点でもとの術からはだいぶ退化していると言っていい。
 それでも、そのような古い魔法を扱えるとは。
 やはり、クラウディアの力は侮れない。

 さて、次はどのカードを切るか……。

 およそ、感情というものの感じられないフレデガンドと対峙しながら、シトリーは思案する。

 一方、こちらはクラウディア。

 ごめんなさい。本当にごめんなさい、フレダ。

 印を結んだまま、クラウディアは心の中でフレデガンドに詫びる。

 彼女が今使っている術は、ヘルウェティアの王家に古くから伝わるもの。
 名前をもとにして対象を支配する魔法。
 王家にその魔法が伝わってきたことと、真実の名前を隠し、通り名で生活する風習がこの国にあることとは、おそらく無関係ではないだろう。
 いや、王家の者が名前をもとにして相手を支配できるということが漏れ伝わり、伝説となってそんな風習を生んだのかもしれない。
 実際に、クラウディアがその術を扱えるのは事実。
 だから、王国の重要人物は、女王である彼女に己の真の名を教えなければならない。
 彼女を守るべき親衛隊長であるフレデガンドとてその例外ではない。

 しかし、クラウディアとしてはそんな術など使いたくはなかった。
 対象の心を縛り、支配するなど、邪道の魔法に他ならない。
 ましてや、女王と親衛隊長ではなく、公の場以外では友でありたいと思っているフレデガンドを支配するという事実が、クラウディアの胸を締めつける。

 だが、彼女が今目の前にいる悪魔の手の内に堕ちているのは疑いようもない事実だ。
 これ以上、彼女に悪魔の手先として罪を重ねて欲しくない。
 そのためには、彼女を縛り、支配するのもやむを得ない。
 それが、クラウディアの出した結論だった。
 それに、あの悪魔を封印してしまえば、その後で彼女を元に戻すこともできる。
 だから、今は胸の痛みを堪えてフレデガンドを操るしか……。

 クラウディアが、哀しみを湛えた瞳でフレデガンドを見つめる。
 そして、いまや彼女の操り人形となったフレデガンドが、その命令に従って無表情のまま剣を構え、悪魔に向かって間合いを詰めていく。

 その時、一陣の旋風が広間に入ってきた。

「ぐっ、はっ!」

 短く呻いて膝をつくフレデガンド。

 その前に立ちはだかっているのは、栗色の髪の女戦士。

 そんな……。
 フレダを一撃で?

 彼女の実力は、クラウディアもよく知っているつもりだった。
 それを、たった一撃で跪かせるとは。

 それに、その女戦士の甲冑に刻まれた紋章。
 それは、王国騎士団の紋だった。
 クラウディアはまだ知らない。
 彼女が、王国騎士団に所属する女騎士、エルフリーデであること。
 そして、王国騎士団がすでにシトリーの手中にあることを。

「ぐ……がっ!」

 立ち上がろうとしたフレデガンドの後頭部を、女騎士が剣の柄で強く叩く。

「フレダっ!」

 床に崩れ落ちるフレデガンドの姿を見て、クラウディアが短く叫ぶ。
 同時に、カツカツと靴の音を響かせて親衛隊の女戦士たちが広間に入ってきた。

 だが、彼女たちは、クラウディアをぐるりと取り囲むと、守るべき主に向かって剣を構える。

 そんな……。

 いや、親衛隊長であるフレデガンドが悪魔の手に堕ちていた以上、これも予想できていた状況であった。
 しかし、それが現実のものになるとやはりショックだった。

 ぎゅっと唇を噛むクラウディア。

「なにをしているのですか、クラウディア様!」

 鋭い叫びとともに、さっきフレデガンドを倒した女騎士が光の綱に縛められる。

「ああっ!」
「くうっ!」

 それを合図にして、クラウディアを取り囲んでいた親衛隊のメンバーが次々と魔法の綱で縛められていく。

 先生!リディア!

 それが、ピュラとリディアの魔法だと気づいて、クラウディアは勇気づけられる。

 そうよ、わたくしには、まだあのふたりがいるわ!
 あのふたりが容易く悪魔の手に堕ちるはずがあるわけないですもの。
 そうだわ、この隙に!

 クラウディアは、腰に下げた袋の中の、封印の宝石を確かめる。

 その時、悪魔の背後に控えていたエメラルドグリーンの髪の女の手から、無数の蔓草がクラウディアに襲いかかってきた。

「危ない!クラウディア様!」

 リディアが叫び、短く呪文を唱えると、クラウディアの前に光る壁が現れて蔓草の攻撃を阻む。

 ありがとう、リディア!

 クラウディアは、心の中で親友に感謝した。

 もう少し。あとちょっとであの悪魔を封印することができる。

 そのことに意識が集中していたクラウディアの心に隙が生じていた。
 親衛隊を魔法で縛め、女悪魔の攻撃を阻止しているのは専らリディアで、ピュラが目を閉じてなにかの術式に集中していることに彼女は気づいていなかった。

 そして、ピュラがかっと目を見開く。

「そこねっ!」

 ピュラが鋭く呪文を唱えると、クラウディアの姿がふっと掻き消え、悪魔まであと十数歩のところに、青い宝石を手にしたクラウディアの姿が露わになった。

 これはっ!?ディスペルの魔法!?
 でもっ、どうして!?

 用心に用心を重ね、二重に幻像を重ねていたはずなのに。
 それを感知し、破ることができる者など、魔導長のピュラ以外にはいない。

「今よっ!リディア!」

 混乱をきたしているクラウディアの耳に、ピュラの声が聞こえた。
 それと同時に、彼女の周囲の光景がゆらゆらと歪んでいく。

 これは、リディアの!?

 それがリディアの精神世界に連れ込まれる時のしるしだと気づく間もあれ、クラウディアの意識は遠のいていった。

* * *

「く……ここは?」

 クラウディアが目を開くと、そこは白い靄がたちこめた茫漠とした空間。
 彼女には、その空間に見覚えがあった。
 かつて、親友のリディアに連れてきてもらったことがある、彼女の精神世界。

 そうよ、わたくしは悪魔に襲われて、そして、この世界に……。

「ようこそ、クラウディア様」

 クラウディアの耳に、聞き慣れた友の声がした。

「歓迎いたしますわ」
「え?ええ?あなた……リディア?」

 声のした方に振り向いたクラウディアは思わず言葉を失ってしまう。

 そこに立っていたのは、紫の髪に金色の瞳の少女。

「いやだ。わたしのことがわからないんですか、クラウディア様?」

 そう言って首を傾げた少女のその声は、紛れもなくリディアの声だった。

 ……だが、その姿。

 たしかに、よく見れば、顔立ちは彼女の面影は残している。

 でも、その髪と瞳の色は?

「あなた……リディア、なの?」
「はい、クラウディア様」
「その姿は、いったい?」
「これがわたしの本当の姿です。シトリーのおじさまの下僕として、そして、悪魔としての」

 そう言って、無邪気な笑みを見せる紫の髪の少女。

 そんな……そんなはずは……。

 たしかにリディアは悪魔の取り替え子として、彼女の生まれた村では忌み嫌われていた。
 だが、そんなことは迷信で、遺伝的に強い魔力と特殊な能力を受け継いではいるが、それとてもただの人間の範囲内のものであったはずなのに。
 でも、今、自分の目の前にあるその姿。そして、彼女から放たれている邪気を孕んだ魔力。
 いずれも、クラウディアの知る彼女のものではない。
 それに、彼女は自らをシトリーの、あの悪魔の下僕だと言った。

「リディア!あなたはあの悪魔に誑かされているのよ!」

 クラウディアは、リディアに向かって踏み出そうとする。

「動かないで!」
「ああっ、くっ!」

 リディアが叫ぶと、クラウディアの足が動かなくなった。

「り、リディア……!」
「わたしはたぶらかされてなんかいません。だって、おじさまはずっと小さいときから、そう、ピュラ様やクラウディア様に出会うずっと前から、わたしのことを見守ってくれていたんですもの」

 そう言ったときの、ほんのりと頬を染め、うっとりとした表情。

 しかし、そんなはずはない。
 クラウディアは、リディアがピュラのところで保護されて間もない頃から彼女のことを知っているのだから。
 仲が良くなってからも多くは話したがらなかったが、それでも彼女はクラウディアに小さいときのことを少しは話してくれていた。
 その時は、そんなことなど聞いたことはなかったというのに。

「だからっ!あなたはそう信じ込まされているだけなのよっ!」
「それは、おじさまは悪魔だから、そのことが知られるとおじさまに迷惑がかかってしまうし、それに、わたし自身が悪魔だということが知られてしまうと、またいじめられるから……」
「違うわっ、リディア!あなたは悪魔なんかではないの!」

 クラウディアの悲痛な叫びが届かないかのように、リディアは言葉を続ける。

「わたしたち悪魔は何も悪いことはしていないのに、ただ悪魔だというだけでいじめられる。本当に悪いのは人間たち。そんな悪い人間は粛清されなければいけないの。でも、人間の中にはピュラ様のように、悪魔の下僕として働く賢い人もいるし、わたしにはおじさまやピュラ様が大切なように、クラウディア様も大切な人だから。だから、クラウディア様にもわたしたちの仲間になってもらおうと決めたんです」

 そう言って、無邪気な笑みを見せるリディア。
 そして、横に一歩体を動かす。

 すると、さっきまでリディアが立っていた場所の先に、あの、シトリーとかいう悪魔の姿があった。

「なっ、おまえはっ!?」
「あら、おじさまだけじゃないんですよ」

 気色ばむクラウディアに向かって、屈託のない笑顔を見せるリディア。
 すると……。

「こ、これは……」

 いつからそこにいたのだろうか。
 気づけば、ピュラ、シンシア、フレデガンドの3人が妖しい笑みを浮かべて立っていた。

「先生……シンシアに、フレダまで……」

 愕然として立ちつくすクラウディア。
 フレデガンドの意識が戻っているのは、リディアの精神世界に連れてこられたせいでクラウディアの術が解けたからだろうか。

「みんな、おじさまの下僕なんですよ」
「そ、そんな……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。クラウディア様ももうすぐわたしたちの仲間に入れてあげますから」
「や、やめて、リディア」

 みんな……みんな悪魔の手に……。
 く、このままでは……。

 クラウディアは、必死で意識を集中する。
 すると、動かなかった手がゆっくりと動き、術式を結ぼうとする。

 く、もう少し、意識を集中するのよ。

 だが、その時、不意に現れた蔓がクラウディアの両手両足を縛めた。

「あっ、あああっ!」
「さすがですわ、クラウディア様。この場所でわたしの命令に反して体を動かすことができるなんて、すごい精神力ですね」
「くっ!離してっ、リディア!」
「もう少しの間、そのままおとなしくしていてくださいね、クラウディア様」

 まるで、子供をあやすかのように、どうにかして蔓を解こうともがいているクラウディアに微笑みかけるリディア。

「では、始めましょうか、おじさま」
「ああ、そうだな。まず、ピュラ、おまえからやるか」
「はい、シトリー様」

 悪魔の言葉に応じてピュラが前に進み出る。
 その表情は、クラウディアが見たことがないほどに艶のある笑みを浮かべて、普段の、魔導長としての威厳のある雰囲気からはとても想像できないほどの色気を振りまいていた。

 ピュラは、そのままクラウディアに背を向けて悪魔の足下に跪くと、そのズボンに手をかけて脱がし、露わになった悪魔の足に軽く接吻をした。
 そして、獣のように四つん這いになって悪魔のつま先に舌を這わせ始める。

「んふ、ぴちゃ、ぺろ、えろろ、ぴちゃ……」

「な……なにをしているんですか、先生……」

 体を蔓で縛められ、クラウディアは己の師の行為を茫然として見ていることしかできない。

 そんな彼女の言葉が聞こえていないのか、ピュラは猫かなにかのようにぴちゃぴちゃと音を立てて悪魔の肌を舐めていく。

 そして、ピュラの舌が臑から膝、ももへと上がっていき、股間へと近づいていく。

 その時、ピュラが伺いをたてるように悪魔を見上げた。

「それでは、よろしいですか、シトリー様?」
「ああ、始めろ」
「かしこまりました」

 すると、ピュラはいかにもそれが大切なものであるかのように恭しく悪魔の股間のものを引っ張り出した。
 そして、おもむろにそれに向かって舌を伸ばす。

「ぴちゃ、ちゅ、れるっ……」

 最初はそれを湿らすように舌を絡みつかせる。

「ん、あむ、ぴちゃ、ちゅぱ、んむ、ちゅ……」

 そして、次にその先っぽを口に含む。

「んふ、ちゅばっ、んむ、ちゅる、じゅむ、あふ……」

 うっとりと目を閉じて、いかにも美味しそうに悪魔のそれをしゃぶっているピュラ。

「……せ、先生」

 茫然としているクラウディアの目の前で、悪魔のそれがむくむくと逞しくなっていく。

 と、その時、クラウディアは異様な感情に襲われた。

 ……ああ、わたくしもペロペロしたい。
 はっ!?わたくしったらな、なにを考えているの!?

 あの、いきり立った悪魔の肉棒を無性にしゃぶりたいという衝動がわき上がっていた。
 まるで、自分の中にもうひとり別な自分がいるような感覚。

「そんな、これはいったい!?」
「ああ。なにも不思議なことはないんですよ、クラウディア様。今、ピュラ様とクラウディア様をリンクさせてピュラ様の考えたこと、感じたことが直接クラウディア様に伝わるようにしましたから」

 傍らでリディアの声が聞こえた。
 気づけば、1本の蔓がピュラの体から伸びて、自分の体と繋がっていた。

 そ、そんな……これが……先生が感じている気持ちだというの?

 その、悪魔の醜悪な肉棒にしゃぶりつきたくてたまらない。
 そして、この、じんじんと体の底から熱くなってくるような感覚。

 なんて、なんて淫らな感情なの……。

 クラウディアには信じられなかった。
 自分の師であり、この国最高の魔導師と言われたピュラが、悪魔の股間のものをしゃぶってそんないやらしい気持ちを抱いているなんて。

 しかし、今、目の前で繰り広げられている光景は間違いようのない事実。

 そして。

 ん……ああ、いや、そんな……。

 まるで、体の芯に火がついたように熱い。
 じっとりと肌が汗ばみ、無意識のうちに体をもぞもぞと動かしていた。

 やめて、もうやめてください、先生……。

 クラウディアは必死で頭を振って、自分の中の淫らな衝動に抗う。

 そんな彼女の思いが届いたのか、ピュラが肉棒をしゃぶるのをやめた。

「んん……ぷふぁ……」
「あ、ああ……なんて……大きい……」

 それを口に含んでいたときにはよくわからなかった肉棒の全貌が明らかになったとき、クラウディアの口から感嘆ともとれる呟きが漏れた。
 たしかに、それははじめの時の倍以上に膨らみ、ピュラの唾液のせいか赤黒くヌラヌラと光っていた。

 だが、ピュラが肉棒をしゃぶるのを止めたのは、クラウディアの思いが届いたからではなかった。

「ふふ、シトリー様、こんなに大きくなりましたよ」
「そうだな。で、どっちでして欲しいんだ?」
「はい。それでは、お尻の方でお願いします」

 そう言うと、彼女はくるりと向きを変えて四つん這いになった。
 クラウディアと向き合う格好になったピュラの顔は、だらけた口許からはだらしなく涎を垂らし、目はとろんといやらしく潤んでいた。
 悪魔は、その尻を指でなぞると、可笑しそうににやつく。

「なんだ、もうこんなに熱くしてるじゃないか。ふん、そっちでやるのが相当気に入ったみたいだな」
「はい。シトリー様の逞しいおちんちんでお尻の穴を突かれるのは本当に気持ちがよくて」

 淫らな言葉をはずかしげもなく口にすると、ピュラはくいと尻を突き上げる。

「お願いします、シトリー様」
「ふ、しようのないやつだな」

 悪魔が薄笑いを浮かべるとピュラの尻を掴む。
 そして、大きく膨らんだ肉棒を尻に押しつけ、腰を打ちつけた。

「はあっ、はああああっ!」
「くううっ!?くあああああっ!」

 同時に、ふたりの悲鳴が上がった。

「んふうううっ!入ってます、シトリー様のおちんちんがお尻の穴にっ!」
「いああああっ!なっ、なんなのっ、これはっ!?」

 尻の穴になにか太いものをねじ込まれる異物感がクラウディアを襲う。
 だが、それ以上に彼女を戸惑わせたのは、本来、不快なはずのその感覚を心地よいとすら思ったことだった。

 いや……何かがわたくしの中に入ってきている……それも、お尻の穴から……。
 でも、どうして、いったいなんなんですの、この感じは……?
 そんな……お尻の中にこんな太いものを入れられて……気持ちいいなんて……そんな、そんな……。

 尻の穴にそんなものを入れられて、気持ちいいと感じるなどいうことがあるはずがない。
 しかし、現に、腸の中にまで太いものが入ってきて擦れているその感触を、気持ちいいと感じている。
 それは、今、自分と繋がっているピュラが感じているものだ。

「はあっ、おほおおおっ!中でっ、中で擦れてますううううっ!」
「いやあああっ!そんなに動かないでええええっ!」

 悪魔が、腰を前後に大きく動かし始めた。
 途端にお腹の中を掻き回される感覚に襲われる。
 それが、気持ち悪いどころか信じがたいほどの快感をもたらしてきた。

 悪魔の肉棒を突き挿されているピュラの快感と悦びが、蔓を伝ってクラウディアの中に流れ込んでくる。
 だが、両手両足を縛られて身動きのとれない彼女には確かめる術はないが、下から伸びた一本の極太の蔓が、クラウディアのアヌスを貫いていた。
 その蔓が、悪魔がピュラを犯す動きに合わせて、クラウディアのアヌスを出入りしている。
 そのことに気づかないほどに、クラウディアは圧倒的な快感に襲われていた。

「ほおっ、うふううううっ!いいっ、いいですうっ、シトリーさまあああああっ!」
「いああああっ!だめっ、せんせいっ、だめえええっ!」

 尻を突かれて派手によがり悶えるピュラ。
 同様に身をよじらせながら、クラウディアは固く目を閉じる。

 くううっ!あの先生が、こんなっ……あうっ!
 く……気を確かに保ちなさい。意識を集中するのよ。
 わたくしまで、快楽に流されては……だめ。
 そうなったら、全てが、全てが終わってしまう……ひああああっ!

 クラウディアは、歯を食いしばり、必死に流れ込んでくる快感に抗っていた。

 ……なるほどな、まだまだこれしきでは屈しないというわけか。

 一方、ピュラのアヌスを犯し続けながら、シトリーはクラウディアの様子を窺っていた。
 ぎゅっと目を瞑って歯を食いしばり、シトリーがピュラの尻を突くたびに短く喘ぎ声をあげるが、必死に快感に耐えているのがありありとわかる。

 その精神力の強さはさすがと言うべきだな。

 彼女は、これまでそういう経験をしたことがないのは間違いない。
 おそらく、自慰すらもしたことがないであろう。
 それは、ピュラやリディア、フレデガンドから聞いていた彼女の性格や私生活から容易に想像できた。
 それだけに、初めての性的な快感に対する免疫はないであろうことも間違いなかった。
 それなのに、今、彼女は圧倒的な快感の奔流に耐えている。それも、体の自由のみならず、感覚まで支配されているリディアの精神世界の中でだ。
 きっと、クラウディアは持って生まれた精神力の強さだけで己を保っているのだろう。
 シトリーはその事実に感嘆せざるを得なかった。

 まあいい、まだ始まったばかりだしな。
 とりあえずは、初めての絶頂というのを味わわせてやるか。

 シトリーは、蔓を操っているリディアに目配せをすると、ピュラを突く腰の動きを一気に早くしていく。
 すると、クラウディアのアヌスを貫いている蔓もそれに合わせて激しく出入りし始めた。

「ふおおおおおっ!激しいっ、おほおおおっ、奥まで響いてますううっ!」
「くううううううっ!ああっ、そっ、それいじょうはああああっ!」

 パンパンパンパンッ、という、ピュラの尻とシトリーの腰がぶつかる音がリズムを速めていき、ピュラが髪を振り乱して喘ぐ。
 歯を食いしばっていたクラウディアも堪らずに大きな声をあげる。

「じゃあ、そろそろ出してやるとするか」
「はいいいいいいっ!どうぞ中にっ、中に出して下さいいいいっ!」
「いやあああっ!だめえっ、だめですっ、せんせいいいいいっ!」

 シトリーは、直腸の奥まで抉らんばかりに深々と腰を打ちつけて、その中に全てをぶちまけた。
 ピュラの体が、弾かれたように反り返って精液を受けとめる。

「ふおおおおおおっ!きてますっ、シトリー様の精液がっ、私のなかにいいいいいっ!」
「いあああああああっ!せんせいっ、だめええええええええっ!」

 ほぼ同時に、ふたつの悲鳴が響く。
 ひとつは悦びの、もうひとつは悲痛な叫びに近い声が。

「ああっ、はうううっ!シトリー様ああぁっ……」
「うっ、ううううぅ……」

 びくびくと体を震わせてピュラの体が崩れ落ちた。
 クラウディアも、蔓に吊り下げられる格好でぐったりとなる。

「ふふふ、陛下。きみの師は完全に僕のものだ。どうかな、きみも僕のものになればいつでもこの悦びを与えてあげるんだけどね」
「……ば、馬鹿なことを言わないで。だ、誰が、貴様などに……悪魔のものになんか……」

 力なく頭をもたげるクラウディア。だが、その目はまだ死んではいなかった。

「ふうん、なかなかに強情だね」
「わ、わたくしがきっとみんなを救ってみせますわ」
「ふっ、今の状況できみに何ができると言うんだい?……まあいい。じゃあ、次はシンシア」
「はい、シトリー様」

 シトリーの呼びかけに、聖職者の衣装を身につけたシンシアが進み出る。

「おまえはこの女王陛下に学問を教えていたことがあるんだろう?」
「はい」
「しかし、まだまだ教えたりないことがあるんじゃないのか?」
「さようでございますね。では、私がお手本をお見せしましょうか」

 クラウディアの方を見て微笑みながら、シンシアが服の胸元をはだけてその豊満な乳房をさらけ出す。
 そして、悪魔の前に跪いて、射精したばかりでまだヌラヌラと光っている肉棒を両の乳房で挟み込んだ。

「うふ、シトリー様、いかがですか?」
「ああ、申し分ない」
「ありがとうございます」
「たしかにおまえの胸は申し分ない。だけど、それじゃ指導にならないんじゃないのか」

 シトリーは薄笑いを浮かべてクラウディアの方を顎で示す。

 その視線の先では、クラウディアが固く目を瞑って小刻みに体を震わせていた。
 本人は、これ以上自分の親しい者の痴態を見たくはないのだろう。
 もちろん、ピュラの時と同じくシンシアとクラウディアの体を1本の蔓が繋いでいた。
 だから、見たくなくてもシンシアの感じている感覚や感情は伝わっているはずだ。

「いっ、いやああっ!」

 新たに数本の蔓がクラウディアの体に襲いかかると、胸をはだけてそのささやかなふくらみを露わにした。

 両手を蔓に絡みとられたクラウディアは、身をよじらせるだけで、胸を隠すことすらできない。

「おまえとあいつとでは胸の大きさが違うだろうが」
「いえ。きっとクラウディア様もいずれ私みたいに胸が大きくなりますわ」
「おまえ、それがしたいだけで口からでまかせ言ってるだろ」
「んふ、そんなこと、ありませんわ。でも、こうしてると、私も気持ちよくて……うふ、ああ……」

 自分の乳房を揉みしだくようにして、シトリーの肉棒を刺激していくシンシア。
 その頬はうっすらと紅潮し、妖しい微笑みを浮かべていた。

 そうやって自分の胸を使い、うっとりした表情でシトリーの肉棒を扱いていたシンシアが体をびくびくっと震わせた。

「あっ、ふあああっ!出るっ、出ますううっ!」

 両手でぎゅっと乳房を押さえて叫んだかと思うと、その乳首から勢いよく母乳が噴き出した。

 乳白色の液体を噴き出している自分の乳房をぎゅっと押しつぶして、嬌声をあげるシンシア。
 彼女が感じている感覚は、蔓を伝って直ちにクラウディアにも送られる。

 なにっ!?いったいなんですのっ!?胸がっ、胸が熱いいいいいいっ!

 クラウディアは、自分の乳首から熱いものが迸る感覚に戸惑っていた。
 だが、目を開いて己の胸を見ても、そこからは何も出ていない。

「あああっ、熱いですうううっ、シトリー様ああああっ!」

 悲鳴に反応して思わずその方向を見ると、乳首から盛大に乳を噴き出しながら、両手を使って乳房を悪魔の肉棒に押しつけているシンシアの姿が目に飛び込んできた。

 そんな……シンシア……。

 クラウディアは小さい頃、彼女のもとで王族に必要な一通りの知識と学問を学んでいた。
 その後も、教会の要人として親しく接する機会も多かった。
 だからこそ、彼女の厳格で、不正を許さない性格をよく知っていたというのに。
 今の彼女には、聖職者としての清潔さも、学者としての知性のかけらも見られない。

 そこにあるのは、ただの淫らな女の姿。

 シンシアは母乳を迸らせながら、潤んだ瞳で悪魔の肉棒に乳房を押しつけている。
 そんな彼女の姿など、クラウディアにはおよそ想像もできないものであった。

「ん、んちゅ……ああ、シトリー様、さっき出されたばかりだというのに、もうこんなに大きくなって。……ぺろ……んふ、先っぽから透明なお汁が……」

 潤んだ瞳で、シンシアはいかにも嬉しそうに舌を伸ばして肉棒の先から出てきた汁をすくい取る。

 ……そんな。
 あのシンシアがそんなことをするなんて。

 愕然としているクラウディアの目の前で、シンシアが愛おしそうに悪魔を見上げた。

「シトリー様……私、もう、アソコが熱くて。お願いします……」

 切なそうに悪魔にねだるシンシアの熱がクラウディアにも伝わってくる。

 あくうううっ!いやっ、どうして!?体が熱い……アソコのあたりがじんじんと……。
 まさか、これが今、シンシアが感じていることだというの!?
 いや……だめ、そんなことしてはだめよ、シンシア。

 だが、彼女の願いも虚しく……。

「ああ、いいだろう」
「ありがとうございます、シトリー様」

 悪魔が、その場にあぐらをかくように座ると、シンシアは聖職者の聖衣を脱ぎ、その肩に手をかけて足を跨いで立つ。

「それでは、いきますね……」

 中腰になって肉棒を握り、位置を調節すると、シンシアはそのまま腰を沈めていく。

「んっ、はああああああっ!」
「またっ!?だめええええええっ!」

 ふたたび、同時にふたつの声が上がった。

「はああっ、ああんっ!シトリー様のおちんちんっ、奥まで入ってますううっ!あうん、はんっ、あっ、ふああっ!」

 すぐに、シンシアの甘い声が響き始める。

「ああっ、いいですっ、シトリー様っ!奥までズンズン突かれてっ、とてもいいですっ!」

 奥まで肉棒が入るように自分でも腰を動かして喘ぐシンシア。

 一方、クラウディアは。

「いやああっ、だめえっ、シンシアっ!やめてっ、やめてええっ!……ひっ!?」

 自分の秘所の奥深くにまで、熱く固いものが入ってくる感覚に身をよじらせるクラウディア。
 だが、それは蔓を伝ってシンシアから流れてくる感覚だけではなかった。

 両足を縛っている蔓が左右に足を引っ張り、その秘部を大きくさらけ出させる。
 そして、1本の太い蔓が、襲いかかってくる蛇のようにその裂け目に向かってきた。

「いやあっ、やめてっ、やめなさいっ!」

 クラウディアは、恐怖に顔をひきつらせて身をよじらせ、なんとか逃れようとする。
 だが、抵抗も虚しく蔓はクラウディアの秘所に潜り込んできた。

「いやっ、入ってこないでっ、いああああああっ!」

 クラウディアが体を弓なりにして叫ぶ。

「いやっ、どうしてっ!?こんなのがっ、気持ちいいのっ!?」

 自分の大切な部分を蔓に犯されているというのに、それがこの上ない快感をもたらしてくる。

 いや、その理由は彼女にもわかっていた。

「ああっ、あんっ、いいですっ、シトリー様っ!はうっ、はああっ!」

 前を見ると、悪魔に抱きつくようにして体を揺らしているシンシアの姿が目に入る。
 その腰が跳ねるたびに痺れるような快感が走り、どんどん体が熱くなっていく。

 ……ああ、シンシア、それ以上はやめて。

 アンバーの長い髪を振り乱して悪魔と交わっているシンシアの姿を見るクラウディアの目から、涙がこぼれ落ちた。

 その時、悪魔がこちらを見てにやりと笑った。

「あっ、ふああっ、シトリーさまああぁ!」

 悪魔がシンシアの胸に吸いつき、もう片方の乳房を鷲掴みにした。
 すると、シンシアが甘く切ない声をあげる。

「いああああっ!そっ、それ以上はああっ!」

 クラウディアも、ふたたび胸に熱いものを感じて叫ぶ。

「はうううっ、もっと、もっと私のおっぱい吸ってくださいねっ、シトリー様」

 指で弄られている乳首からは、ピュッ、と勢いよく母乳が迸り、もう片方の乳首を吸われて、嬉しそうに体を悶えさせるシンシア。

「もうやめてっ、シンシアっ!……ひぃ!?」

 今度は、2本の蔓がクラウディアの両の乳房に巻き付いてきた。

「ひいいいいぃっ!いやっ、あああぁっ!」

 シンシアの豊満な胸とは違って、まだ発達しきっていないふくらみを蔓が締めつけ、乳首を突っつく。
 それが、痛いどころか、とろけそうなほど心地よかった。

「いあああああぁ……もう、これ以上気持ちよくさせないで……」

 体を蔓に弄ばれ、心は流れ込んでくるシンシアの感覚に埋め尽くされていく。
 ともすれば、快感に飲み込まれそうになりそうだった。
 自分の精神が、激流の中に浮かぶ木の葉のように頼りない。

 だが、彼女に襲いかかってくるのはそれだけではない。
 
「いいいいっ!?そ、そんなっ!?」

 快感とともに、悪魔のことを愛おしいと思う感情がわき上がってきた。

「違うっ!これはわたくしの気持ちではっ、あああっ!」

 クラウディアには、それがシンシアの悪魔に対する感情が流れ込んでいるのだということはわかっていた。
 だから、必死にその感情に抗おうとする。

 だが……。

「ああんっ、あうっ、いやああああっ!」

 秘所に太い蔓を突き挿され、乳房も蔓に締めつけられると、嫌でも甘い声が上がる。

 そんな彼女の様子を眺めていた悪魔が、にやりと笑みを浮かべたことにすら気づかない。

 そして、悪魔がシンシアの体をいきなり強く突き上げた。

「ああっ、はあんっ、シトリーさまっ!どうかっ、わたしに子種を注いでくださいいいっ、あっ、はうっ、ふああっ!」

 シンシアも、悪魔にしがみついて体を揺らす動きを激しくした。
 それと同時に、クラウディアの秘所に入っている蔓の動きも激しさを増していく。

「いやあああっ!もうだめっ、それ以上はだめええっ!それ以上されるとっ、わたくしっ、わたくしいいいっ!」

 快楽の奔流の中で、それが蔓から伝わってくるシンシアの快感なのか、自分自身の快感なのかわからなくなっていく。

「シトリーさまっ、どうぞっ、たっぷりと子種をっ、精液を私の中にっ!あっ、あああっ、来てるっ、来てますうううううううっ!」

 シンシアが悪魔に抱きついて体を硬直させる。
 同時に、クラウディアの頭の中でなにか熱いものが弾けた。

「いああああああああああっ!あ、あぁ……」

 蔓に吊された格好で体を反らせ、クラウディアの意識は遠のいていった。

 そして……。

 蔓に縛められたまま、ぐったりとしているクラウディアに近づき、シトリーは様子を窺う。

 さて、今のは相当こたえたみたいだけど……。

 クラウディアの額に指を伸ばすと、火花が散って力が弾かれた。

「ううっ、く……」

 そのショックで、クラウディアがゆっくりと目を開く。

 ……ほう、これはこれは、まだ抵抗するのか。

「お目覚めですか、陛下?」
「くっ、これは……。そうですか、わたくし……」
「そうですよ、あなたは感じすぎて気を失ってしまったんですよ」
「うぅ……わたくし……」
「どうですか、僕に全てを捧げたら、今の快楽をいつでも与えてあげましょう」
「だ……だれが……悪魔になど……」
「おや、そうですか。それは残念ですね」

 おどけるような口調とは裏腹に、内心シトリーは舌を巻いていた。
 言葉は弱々しいが、クラウディアの瞳はまだ意志の光を失っていなかった。

「それでは次の遊びを始めるとしましょうか、陛下。さあ、こっちへおいで、フレデガンド」
「はい、シトリー様」

 シトリーに招かれて、フレデガンドが体をすり寄らせてくる。
 いつの間にか、フレデガンドは鎧をはじめ身につけているものを全て脱ぎ捨てていた。

「フ、フレダ……」

 彼女が悪魔の手先になっていることは、この、リディアの精神世界に連れて来られる前からわかっていた。
 だが、わかっていてもやはりクラウディアにはショックだった。

 そして、やはりフレデガンドの体と自分の体を1本の蔓が結んでいた。

「ほら、こっちに尻を出してみろ」
「はいっ!」

 シトリーの言葉に、フレデガンドは嬉々として尻を突き出す。

「なに嬉しそうにしるんだ」
「あっ、ああんっ!」
「痛いっ!」

 尻をピシリと叩かれて、フレデガンドが体を悶えさせる。
 だが、その表情は痛そうではなくて明らかに嬉しそうだった。

 そしてなにより、クラウディアに伝わってきたこの感覚。
 それはたしかに痛みだった。
 だが、それと同時にその痛みを気持ちよく感じたのだ。

「まったく、気持ちよさそうな声を出しやがって」
「あうんっ!ああんっ!」
「はうっ!ああっ!ど、どうして!?」

 ピシッ、ピシッ、と尻を叩かれるフレデガンド。
 その痛みと快感がクラウディアにも伝わってくる。

「あうっ、ああんっ!いいっ、いいですっ、シトリー様っ!はううっ!」
「まったく、おまえというやつは」
「いああっ、痛いっ!ああっ、でもっ、どうしてなのっ!?いああっ!」

 尻を叩かれて嬉しそうに喘ぐフレデガンドと、痛みを快感に感じる、その異様な感覚に戸惑うクラウディア。

 しかし、クラウディアに与えられる責めはそれだけではなかった。
 またもや数本の蔓が蠢いて、フレデガンドが尻を叩かれるのに合わせてクラウディアの体を鞭打っていた。
 そのたびに鋭い痛みが走り、それが快感へと変換されていく。

「あんっ、はうっ、あああっ!あうっ、シトリーさまぁっ!」
「ひいっ、いいっ、ああっ!なんでっ、ひああっ!」

 ピシリッ、ピシリッと尻を叩く乾いた音とともに、痛みと快感、ふたつの感覚に身を悶えさせるふたりの女の声が響く。

 ああっ、いやあっ!なんでっ!?ま、またっ、体が熱いっ!?

 フレデガンドが叩かれ、自分が鞭打たれるたびにゾクゾクとしたものが体中を駆け巡り、体がまたじんじんと熱くなってきていた。

 と、その時、続いていた痛みと快感の連鎖が止まった。

「ふん、尻を叩かれただけでこんなにぐしょぐしょにしてるのか?本当に変態だな、おまえは」

 蔑むような言葉にフレデガンドの姿を見ると、叩かれ続けて尻を赤く腫らしているのに、その股間からは足を伝ってタラタラと蜜が滴り落ち、足下に水たまりができはじめていた。

「はいぃ。私は、シトリー様の淫乱な変態牝奴隷ですうぅ」

 そう言って振り向いたフレデガンドの瞳はとろんと蕩け、だらしなく舌を出した口許からだらだらと涎をたらしていた。

 そこには、クラウディアがよく知る、普段は凛々しい女戦士で、そして、時に少女のような純粋な表情を見せる親衛隊長の面影はなく、いやらしい牝奴隷としかいいようのない姿しか見いだせなかった。
 
「そんな……フレダ……」

 そんな彼女の姿に絶句したクラウディアを、ちらと悪魔が一瞥する。

「で、その淫乱な牝奴隷としては僕にどうして欲しいんだ?」
「ふあいいぃ、シトリー様のおちんちんを、私のいやらしいおまんこに突き挿してくださいぃ」

 フレデガンドが、悪魔の方に尻を突きあげるような格好で腰をふるふると振る。
 その大事な分からはずっと蜜が流れ落ち続けていた。

「なるほど、おまえは牝奴隷の手本だな」
「はいぃ、ありがとうございます、シトリーさまぁ」

「だ、だめよっ、フレダ!」

 クラウディアの悲痛な叫びも虚しく、悪魔がフレデガンドの腰を掴むと、いきり立った肉棒をぐしょぐしょに濡れた秘裂に突き立てる。

「ふっ、ふわああああああぁっ!」
「いいいいいいいいっ!」

 フレデガンドが歓喜の叫びをあげ、クラウディアはふたたび快感の奔流に飲み込まれていく。

「シトリーさまのおちんちんが中にっ、ああっ、固くてっ、あついいいっ!」
「フッ、フレダッ!それ以上はあああああっ!ああっ、またっ、またあああっ!」

 またもや、蔓が敏感な部分にずぶりと入り込んできて、クラウディアは体をのけ反らせる。

「ああああっ!いいっ、いいですううぅ!」
「いやああああっ!フレダっ!くううううううっ!」

 蔓を伝って、歓喜と快感が一気に流れ込んできて、クラウディアはそれに抗おうと必死で歯を食いしばる。

 自分の中に挿入されている蔓が動き出す感覚。
 いや、それはフレデガンドの中に突き刺さっている肉棒が動き始めたからだろうか。
 きっと、その両方なのだろうが、クラウディアには自分の中に流れ込んでいる感覚と自分の体に直接与えられる感覚との境界が曖昧になり始めていた。

 だが、加えられる快感はそれだけではなかった。

 ――ピシッ!

「いああああっ!いいですっ、シトリーさまぁ!」

 乾いた音とともに鋭い痛みが走り、それがまた快感へと変わっていく。

「ふああっ、ああっ!痛いのっ、気持ちいいですうぅ、シトリーさまぁ!」
「なんだ、もうイキそうになってるのか?」
「はいいいいぃ……。ふわあっ!」
「くっ、くううっ!」

 悪魔が嘲るように尻を叩き、フレデガンドがだらしなく舌を出して叫ぶ。
 クラウディアは、唇を噛んで、流れ込んでくる悦びと悪魔への服従心を遮断するのが精一杯で、送り込まれてくる快感にはなす術もなく弄ばれる。

「本当に変態な牝奴隷だな、おまえは」
「ふわあいいぃ。わたしは変態の牝奴隷ですぅ。ですから、何度でもイカせてくださいいぃ」
「そうか」
「ああっ、ふああっ!あうっ、あひいいっ!」

 悪魔がにやりと笑うと、フレデガンドの尻を何度も叩く。
 そして、今度は腕を伸ばしてその乳房をつねりあげた。

「いぎいいいいいいいいいぃ!」
「いやあっ!だめええええええっ!」

 フレデガンドが体を反らせて絶叫し、そのあまりの快感にクラウディアは目の前が真っ白になった。

「どうした?自分がイクばかりか、おまえは?」
「んふうぅ、ふわあいぃ」

 蕩けた眼差しを悪魔に向けると、フレデガンドは自分から腰を動かし始める。

「んふううぅ。い、いかがれすかぁ、シトリーさまぁ?きもひ、よろひいれすか?」
「ああ、いい感じだよ、フレダ」
「あ、ありがとう、ごらいますうぅ。それひぇは、もっと、きもひよくなっひぇくらひゃいいぃ」

 すっかり呂律が回らなくなった様子で、フレデガンドは腰を揺らし続けている。

「ああ……もうやて、フレダ……う、うう?こ、これは?」

 不意に、目眩を感じてクラウディアは狼狽える。

 これは……フレダの精神とシンクロして意識が混濁しているの?
 だ、だめよ、気をたしかに保たないと。
 ……でも、集中できない。

 一度絶頂して朦朧としたフレデガンドの意識が流れ込んできて、クラウディアの精神を蝕み始めていた。
 そんなことはお構いなしに、フレデガンドはとろんとした表情で腰を動かしている。

「ふ、イったばかりなのになかなか激しく動くじゃないか」
「はいいいぃ。わらしは、シトリーさまの、いんらんな、めすどれいれすから。あううっ、あひいいぃ」
「あああっ、あうっ、ふ、フレダ……だ…め……」

 ともすれば意識が飛びそうになって、クラウディアの声が弱々しくなっていく。

「はううっ!シトリーさまのおひんひん、きもひ、いいれすうぅ!」
「あうんっ、あああっ!」

 ああ……この淫乱な牝奴隷にもっと……。
 な、なにを言っているの!?わたくしは牝奴隷なんかでは……。
 ……でも、おちんちん、気持ちいい……。

 フレデガンドの意識がクラウディアの精神を侵食していく。自分の中を犯している蔓を男の肉棒と錯覚するほどに。
 その瞳に宿る意志の光は頼りないほどに力を失っていた。

 そして……。

 
「ひああっ、あふうっ、ああっ、はげしっ、はげしすぎれすうううっ!」

 悪魔が、腰を打ちつけながら、往復ビンタをするようにパンッ、パンッ、とフレデガンドの尻を何度も叩く。
 フレデガンドも、快感に喘ぎながら負けじと腰を突き上げた。

「いぎいいいいっ、ふああっ、ああっ、しとりーさまっ、いいれすううっ!」
「痛いいっ!痛くてっ、ふああっ、気持ちいいっ!いやあっ、これ以上、気持ちよくしないでええっ!」

 ふたたび絶頂が近づき、フレデガンドの喘ぎが激しくなっていく。
 悲痛なまでのクラウディアの叫びにも、快感に喘ぐ艶が明らかに混じっていた。
 流れ込んでくる歓喜と快感の渦に抗う術は、もう彼女には残されていなかった。

「いいいいっ、いだくてっ、きもひよくてっ、わらしっ、もうらめええええぇっ!」
「いやあああああっ!わたくしもっ、もうだめえええええええっ!」

 同時に絶頂に達した、ふたつの絶叫が響きわたった。

 そして、クラウディアの頭ががくりとなる。

 
 力なく頭を垂れたクラウディアに、シトリーが歩み寄る。
 まるで、意識を失っているかのようにその体はぴくりとも動かない。
 だが、そんなことはお構いなしにシトリーはクラウディアに話しかける。

「いかがですか、陛下?僕に全てを捧げる気になりましたか?」

 クラウディアからの返事はない。
 だが、シトリーは見逃さなかった、微かにだが、彼女が頭を横に振ったのを。

「おやおや、本当に強情な方ですね」

 呆れたように苦笑いを浮かべるシトリー。
 と、その腕を後から、くい、と引っ張られた。

「おじさま、おじさま」
「ん?どうした、リディア?」
「うん。ピュラ様たちが気持ちよさそうにしてるのみてたら、わたしもして欲しくなっちゃったの。だから……」
「いやでも、そうすると誰がこの世界のコントロールをするんだ?」
「それは大丈夫。少しの間、この世界の支配をおじさまに委ねるから」
「そんなこともできるのか?」
「できるよ。この世界でわたしにできないことはないもの。それに、おじさまに支配を委ねても、わたしも少しくらいなら干渉することができるから。だから、一緒にクラウディア様を仲間にしようよ。ね、おじさま」
「まあ、そういうことならいいけどな」
「ありがとう!じゃ、始めるね」

 リディアは、ニコッ、と笑みを浮かべると、すぐに目を閉じて意識を集中させ、低い声で呪文を唱え始めた。

「……ふう。これでしばらくはこの世界はおじさまのものよ。でもね、この状態でもわたしにはこういうことができるの」

 そう言って、リディアはクラウディアに向かって手をかざす。
 すると、そこから1本の蔓が伸びた。
 その蔓はすうっ、とクラウディアの中に潜り込んでいき、その体がピクッ、とわずかに震えた。

「ねえ、起きて、クラウディア様」
「……ん、んん……リ、リディア?」

 リディアの言葉に、ぐったりとしていたクラウディアがゆっくりと頭を上げた。

「クラウディア様の心が強いのはわたしがよく知ってる。それに、女王としての責任感が強いのも。でも、もう苦しまなくていいよ。わたしが楽にしてあげるから」
「な、なにをする気なの?ああっ!?あううう!?」

 突然、全身が痺れるような感覚に襲われてクラウディアが呻く。
 ズキズキと痛みを伴うほどにアソコが熱くなっている。

「こっ、これはっ!?」
「感じるでしょう、クラウディア様。これが、わたしのおじさまへの想い。おじさまのことを考えるだけで、わたしの体はこんなに熱くなってくるの」
「そっ、そんなっ、リディア!?」

 驚愕したようにクラウディアの目が見開かれる。
 いや、それは驚きというよりかはむしろ恐怖に近かった。

 蔓を伝ってリディアから流れ込んでくる感情。
 その量と強さは、それまでのピュラやシンシア、フレデガンドの時の比ではなかった。
 気を抜くと一気に心を塗り替えられそうなほどの圧倒的な感情が流れ込んでくる。

「それでは始めましょう、おじさま」

 シトリーの方に向き直ると、リディアが愛おしそうにその肉棒を手で扱き始めた。

「おじさまのおちんちん、あんなにしたのにまだこんなに大きくて元気だね」
「その理由はおまえが一番よく知ってるだろうが。この世界にいる間は精神体だから、その気になれば何度でもやれるさ。ましてや僕は悪魔なんだから、普通の人間の男よりかはタフにできてる」
「ふふふ、それもそうね。んっ、ああんっ!」

 指先をアソコの中にねじ込まれて、リディアが甘ったるい声をあげた。

「なんだ、もうこんなにぐしょぐしょにしてるじゃないか」
「だって、おじさまがみんなとしてるのを見てたら、わたしも我慢できなくて、早くおちんちん入れて欲しくなっちゃって」
「本当にしようのないやつだな」
「あんっ、んふうっ!ごっ、ごめんなさい!で、でも、本当に早く入れて欲しいのっ、わたしはもうっ、準備万端だから」
「わかったわかった」

 切なげに喘ぎながら、リディアが足を絡めてくる。
 シトリーは、その小さな体を軽々と抱え上げると肉棒の先をひくついている裂け目に宛った。

「んふううううううううううっ!」
「あ゛あ゛っ!いあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 肉棒をそのきつい中に突き入れると、それまでと同じようにふたつの悲鳴が同時に上がる。
 だが、それまでと違ってクラウディアの悶え方が明らかに激しかった。

 なるほど、今までのとはひと味違うってことか。

 必死の形相で歯を食いしばり、髪を振り乱して派手に喘いでいるクラウディアの様子を眺めながらシトリーはリディアの言っていたことの意味を理解する。
 この世界のことを誰よりもよく知っているリディアだからこそ、自分の感情や感覚をより効果的に送り込むとができるんだろう。

 それにしても……。

 シトリーは、試みに蔓を操ってみる。
 
「あ゛っ!う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 1本の蔓が秘裂に潜り込み、クラウディアが体をわななかせる。

 リディアを堕としたとき扱い方は同じか……。

 あの時はピュラの魔法で自分とリディアの立場を置き換えていたのだが、この世界を扱う要領は一緒だ。

 でも、これだけじゃ物足りないな。

「おい、おまえたちもクラウディアをもてなしてやれ」
「かしこまりました」
「はい、シトリー様」
「……んん、ふぁいぃ、シトリー様」

 シトリーが命令すると、あるいは背後に控え、あるいは果てていた下僕たちが立ち上がった。
 そして、クラウディアに歩み寄ると、思い思いの場所に手を伸ばしていく。

「んふ、クラウディア様にはまだまだ教えてあげなくてはいけないことがありましたわ」
「せっ、先生っ!くああああああっ!」

 背後に回ったピュラが、その尻のふくらみを撫で回しながら耳元で囁く。
 時に厳しく、時に優しくクラウディアに魔法を教えてきたヘルウェティアの大魔導長。
 彼女は、紛れもなく当代随一の魔導師であった。
 その彼女が、クラウディアの首筋にふうぅ、と熱い吐息を吹きかけながらその滑らかな肌に指を這わせている。

「私も、もっとクラウディア様に教えて差し上げないといけないことが。でも……ふふふ、透き通るような肌のこの絹みたいな感触。クラウディア様は素材がよろしいから教えがいがありますわ」
「あううっ、シンシアっ!そんなにっ、ああああっ!」

 シンシアが、クラウディアの胸の小さなふくらみをぎゅっと握りしめた。
 敬虔な聖職者であるだけではなく、該博な知識と高い識見を持つ学者として知られていた彼女は、クラウディアに女王として必要な教養と学問を教えてきた。
 その教え方は、暖かな愛情を注ぎ、かつ、正義を愛して不正を憎む、いかにも聖職者らしい方法であった。
 だが、今、笑みを浮かべてクラウディアの乳房を揉み、ちろ、と舌を伸ばしているシンシアには、かつての彼女の姿は微塵も見られない。

「くすっ、ここ、こんなにぐしょぐしょに濡らして。大丈夫、クラウディア様には立派に牝奴隷の資質がありますわ。ん、じゅるる」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!やめてっ、フレダっ!いああああああーっ!」

 フレデガンドが、クラウディアの秘裂の中にめり込んでいる蔓を握って出し入れさせる。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と湿った音を立てて蔓が抽挿されるたびに、そこからとろとろと蜜が溢れてきていた。

 親衛隊長として、女王であるクラウディアの身辺を常に警護してきたフレデガンド。
 優れた戦士であり、戦闘となれば烈火の如く激しい戦い振りを見せるが、本当は女性らしい優しさと繊細さを持ち合わせていることをクラウディアはよく知っていた。
 そんな彼女のことをクラウディアは愛していた。だからこそ、彼女のことを主君と臣下の関係ではなく、友としてありたいと思っていたのに。
 それなのに、今、彼女はクラウディアのそこから溢れてくる蜜を嬉しそうに顔を蕩けさせて舐めとっている。

「んふう……可愛らしいわ、クラウディア様」
「ふああっ、ピュラっ!」
「ああ、クラウディア様も感じてらっしゃるのね」
「はああっ、シンシアっ!」
「ん、ちゅる……もっと気持ちよくなっていいんですよ、クラウディア様」
「うああっ、フっ、フレダっ!」

 この国の要人であり、クラウディア個人にとっても大切な人たち。
 それが、淫乱な牝としての欲望剥き出しでクラウディアの体を弄り回し、舌を這わせてくる。
 この国の女王でありながら、彼女たちを守れなかったその事実が、クラウディアの心を打ちのめしていく。

「うううっ、ごめんなさいっ、先生っ……。ごめんなさい、シンシア……。ごめんなさい、フレダ……」
「なにも謝ることはないんですよ、クラウディア様。私たちは本当の快楽に目覚めたんですから」
「そうですよ。むしろ、私はクラウディア様にもこのすばらしさをわかっていただきたいんですから」
「ええ。クラウディア様にもシトリー様の牝奴隷になる悦びを教えてあげたいんです」
「そんなっ、そんなことっ、悪魔の手に堕ちるわけにはっ……ひっ!ひいいいいいいいいいっ!」

 彼女の体と心を蝕んでいるのは、ピュラたちの愛撫だけではなかった。

「ふああああああっ、おじさまっ、もっと、もっと奥までえええっ!」

 悪魔に体を抱えられて、肉棒を突き入れられて甘い声をあげている親友から流れ込んでくる、快感の激流。
 そればかりか、その悪魔に対する狂おしいほどの愛情と服従心にクラウディアの心は押し流されそうになる。

 ……ああ、もっと、もっと気持ちよくさせて。
 ああっ、だめっ、相手はわたくしの大切な人たちを誑かした卑劣な悪魔なのよっ!
 でも、なんでこんなに気持ちよくてっ、こんなに愛おしいの!?
 ああんっ!だめっ、そんなに奥まで突かないでえええっ!
 だ、だめよ……気持ちいいと思ってはだめ……あんっ!
 で、でも……気持ちいい。

 心の中で、必死に誘惑に抗おうとするクラウディア。
 だが、それまでに何度も絶頂を送り込まれてきた心と体は、快楽に素直に反応してしまう。

 んああああっ!どうしてっ、どうしてこんなに持ちいいのっ!?

 と、その時。

 それは当然のことなのよ、クラウディア様。

 自分の中で、もうひとつ別な声がした。
 その声の主はすぐにわかった。なぜなら、それは彼女にとってなじみの深い声だったからだ。

 ……これはっ、リディアの声!?

 そうですよ、クラウディア様。

 なっ、どうして!?

 今、クラウディア様の心はわたしの心。わたしの心はクラウディア様の心。
 わたしたちの心はひとつ。いや、もとからわたしたちはふたりで一対だったの。

 ……なにを言っているの、リディア?

 ほら、見える、この光景が?

 リディアのその言葉とともに、クラウディアの眼前に鮮やかな映像が浮かび上がった。。

 そこに、3人の人影があった。
 真ん中に立っているのは、黒髪に金色の瞳の悪魔。
 そして、その両脇に寄り添っているのは……。

 ひどく古めかしい衣装に身を包んだふたりの少女。
 ひとりは、紫の髪に金色の瞳。
 今、この世界にいる、クラウディアの見慣れないリディアの姿とよく似ていた。
 そして、もうひとりは長く淡いアクアブルーの髪に濃紺の瞳。
 そう、自分とそっくりの姿だった。
 ただひとつ違う点といえば、その瞳に宿っている光は、禍々しく、淫乱、情欲、傲慢、残忍、冷酷、狂気……あらゆる好ましくない感情を感じさせるものだったということ。 

 こ、これは……幻術?

 何度も絶頂させられて朦朧とした頭でもそれくらいのことはわかった。
 なにより、リディアが幻術を得意としていることを彼女はよく知っていた。

 だが、その光景はあまりに鮮明で、なぜか脳裡に焼きついて離れない。

 これは、わたしたちの遠い祖先の姿よ。
 わたしたちは、魔族の一員としておじさま、いえ、シトリー様にお仕えしていたの。

 淡々と、リディアの言葉が説明する。

 そ、そんなはずはないわっ!
 わたくしの祖先が悪魔に仕えていただなんて。
 だいいち、ヘルウェティアの王家の象徴であるこの青い髪の色……これはあの宝石の影響で長い時間をかけてこうなったもの。
 本来、王家の者の髪は茶色であったはずよ。
 だから、わたくしの祖先がこんな姿であるはずがないわ。
 ……でも、どうして?この光景をなんでこんなに好ましく感じるの?

 それは、これが本当の記憶だからよ、クラウディア様。
 わかっていないのはクラウディア様の方。
 ヘルウェティアの王家は、魔族を祖先に持つことを秘すためにその事実を封印してきた。
 そして、偽りの建国譚を作りあげて伝え、王家の者にもそう信じさせてきたの。

 そっ、そんなことがっ!

 そんなことがあるわけないと反論しようとして、クラウディアは口ごもってしまう。
 目の前に浮かんだ光景がひどく蠱惑的に感じられて、魅入られたように視線を逸らすことができない。
 そして、見つめていると、リディアの言うことを完全に否定するだけの自信がなくなっている自分がいた。

 それほどまでに、それは鮮明で魅力的だった。
 そして、その光景の中で、リディアに似た少女が悪魔に頬を擦り寄せ、自分とよく似た少女が悪魔の唇を吸った。
 その時の、少女の恍惚とした表情……。

 ほら、わたしたちの祖先は、シトリー様に愛され、魔族として愚かな人間どもに制裁を加える使命を負っていたのよ。

 すると、その中に剣をかざしたひとりの男が現れて、3人に向かって突進してきた。
 だが、自分に似た青い髪の少女が残忍な笑みを浮かべて呪文を唱えると、光の槍が男の体を貫き、血飛沫をあげて男が吹き飛ぶ。

 と、その時、クラウディアの中を、ぞくり、と快感が駆け巡った。

 ほら、悪魔に刃向かう馬鹿な人間を血祭りにあげるのって気持ちいいでしょう。

 そ、そんな……。

 でも、今、気持ちよく感じたでしょ、クラウディア様は。

 それはっ。

 それは立派な魔族の証よ。ほら、また。

 今度は、槍や棒を持って集団で襲いかかってくる人間たちを炎熱の呪文で焼き払う。
 炎の中でもがき苦しむ人間たち。
 楽しげに笑みすら浮かべてそれを眺めるクラウディアそっくりの少女。
 いや、それは彼女自身であるかのように感じられた。

 すると。

 ああっ、ふあああっ!

 人間どもが自分の手で焼き払われ、苦しんでいるのかと思うと、それだけでイってしまいそうな快感にアソコがズキズキと熱くなってくる。

 クラウディアにとって、今や目の前の光景の中の少女は紛れもなく自分自身であった。
 その証拠に、焼け焦げた死体を前にした目の前の少女の太股から、とろとろと愛液が流れ落ちていた。

 ほら、気持ちいいでしょ。

 ……うん。

 これが、わたしたち魔族の使命。
 愚かな人間たちに制裁を加えるのはわたしたちの愉しみ。

 ……うん。
 でも……?

 この光景は、こんなに鮮明で、こんなに好ましい。
 でも、これは、わたくしじゃない。それなのに、なんで、なんでこんなにはっきりと?
 これが、わたくしの先祖……なの、本当に?
 まるでわたくし自信の記憶みたい。
 これは、わたくしの先祖の記憶?わたくしの記憶?それとも既視感?それとも未来の姿?

 目の前の光景を受け入れようとすればするほど、クラウディアの思考は混乱してくる。
 だが、そこで浮かんでくる選択肢の中に、その光景を否定するものはひとつも出てこない。

 そんなこと、もうどうでもいいじゃない。
 これが、本来わたしたちのあるべき姿なんだから。

 わたくしたちの、あるべき姿?

 そう、魔族としての本当の姿。

 その言葉が、甘美な響きを伴って心の中に吸い込まれていく。
 それと同時に、クラウディアは自分の中でなにか大切なものが抜け落ちていくような不安を覚える。

 魔族?わたくしは、魔族なの?
 それでは、わたくしが今まで信じてきたものは……?

 今まで歩んできた自分の足下が崩れていくような、言いようのない不安。

 その時、ふたりの少女を侍らせた悪魔が自分の方を見た。

「あああっ、いあああああああっ!」

 その視線に自分の体が貫ぬかれたように感じ、全身を犯す強烈な快感にクラウディアの目が見開かれた。

 もう、なにも考えなくていいの。
 すべてをシトリー様に任せていればいいの。

 頭の中で、リディアの声だけが響く。
 もう、それに抗う力はクラウディアには残されていなかった。

「あっ、あああっ、いいいいいっ!」

 大きく目を見開いて快感に喘ぐその瞳からは光が失われ、すっかり濁っていた。

 クラウディアの強靱な精神を支えていたのは、魔法王国ヘルウェティアの王として、そして魔導師として己の国を守るという責任感と誇り。
 自分の民の、人々の生活を守るという信念だった。
 だが、それは根幹から揺さぶられ、書き換えられてしまった。

 確信を失った精神は脆い。

 ふっと、目の前の光景が掻き消えた。

 クラウディアの濁った瞳に映るのは、仕えるべき悪魔にしがみついて激しく体を揺らすリディアの姿。
 だが、まるで、それが見えていないかのようにクラウディアの目は焦点を結んでいない。

 その体が、びくびくっ、と小刻みに震えている。
 その理由はもちろん……。

「あああっ、奥にっ、奥に当たってますっ、おじさまああああっ!」

 蔓を伝って流れ込んでくる、リディアの感じている快感。
 もはや、クラウディアはそれに抗うことはできない。

「いっ、いああああっ、あふっ、あああっ!」

 だらしなく笑みを浮かべ、快感に身をよじらせるクラウディア。
 生気のない瞳が捉えているのはリディアに肉棒を突き立てている悪魔の姿。

「うふふっ、ようやくわかって下さったのですね、クラウディア様」
「私たちも嬉しく思いますわ」
「ああ、クラウディア様のここからこんなに蜜が溢れて、いやらしいですわ」

 クラウディアには、自分の体を愛撫しているピュラたちすら視界に入っていないかのようだ。
 その視線は、ただ悪魔の金色の瞳だけを見つめている。

 と、悪魔の瞳が強く輝いたように思えた。

「あ……あああ……ああ……」

 クラウディアの瞳孔が開き、ぶるぶると小刻みに震える。
 悪魔の目を見つめたまま短く呻くことしかできない。

 そこに、リディアの声が畳みかけてくる。

 ごめんなさい、クラウディア様。
 わたしの方が先にシトリー様にイカせてもらいます。
 でも、その次はクラウディア様の番。
 たっぷりとシトリー様に愛してもらってくださいね。

 その前に、一緒にイキましょう。
 今、わたしとクラウディア様は一心同体。
 わたしが気持ちいいとクラウディア様も気持ちいい。
 そして、次にイクと、クラウディア様はシトリー様のおちんちんが欲しくてしかたがなくなるから。

 ……うん。

 もう、クラウディアの思考は完全に停止していた。
 心の中に響くリディアの声に頷くことしかできない。

 あんっ、ああっ!ほら、わたし、もうイキそうっ!クラウディア様も気持ちいい?ああんっ!

 うん、気持ちいい。はんっ、んんっ、あそこが熱くてっ、あああっ!

 もはや、クラウディアは流れ込んでくる快感に素直に身を委ね、快楽に流されるばかり。

 そして……。

「うあああああああっ!来てるっおじさまの熱い精液がっ、あっ、イクっ、イっちゃうっ!ふああああああああっ!」
「あふうううううううっ!ああっ、いあああああああああっ!」

 クラウディアの心が真っ白に染め上げられ、その体がびくびくと何度も跳ねた。
 ふたりの少女の絶叫に近いイキ声が響く。

 そして、絶頂の余韻のたなびく中。

「……ん、あん」

 抱え上げられていたリディアの体が下に降ろされ、絶頂した名残の甘い声が漏れた。
 同時に、クラウディアの手足を縛めていた蔓も解け、その細い体が木の葉のように音もなく床に落ちる。

 すると、クラウディアがふらふらと立ち上がった。
 そして、よろめきながらゆっくりと足を踏み出す。

 その瞳はどんよりと濁り、焦点の定まらないまま、前だけを見つめている。
 ふらつきながら歩みを進める彼女の視線の先にあるのはただひとり、彼女のすべてを奪った悪魔の姿。

 その、金色の瞳には、満足げな笑みが浮かんでいた。

 そして、クラウディアはシトリーのもとへ来ると、いきなり跪いてその肉棒に口づけした。

「おやおや、これはこれは。さっきまではあんなに強情だったのに、今はやけに積極的ですね、陛下」

 からかうようなシトリーの言葉を無視して、クラウディアは肉棒の先を口の中に含む。

「んふ、ふん、んむ……」

 ふんふんと鼻を鳴らして肉棒を咥え込んでいるクラウディア。

「そんなにそれが欲しいんですか?」
「ん……ふん」

 クラウディアは、その言葉にはわずかに反応した。

 肉棒を咥えたまま、上目遣いに見上げ、小さく頷く。
 その目は、深く、そして昏く沈んだままだった。

「いいでしょう。お望み通りにしてあげます。その代わり、あなたのすべてを僕がもらい受けますよ。身も心も、そして、あなたの心もね」
「ん……」

 シトリーを見上げるクラウディアの瞳には、哀しみの色も喜びの色も浮かばない。
 驚くほど無感動な表情のままシトリーを見つめている。
 ただ、その肉棒をしっかりと咥え込んで離さないことが、シトリーの言葉を肯定していることを窺わせた。

「では、僕のすべてを受け入れるんだ」

 シトリーがクラウディアの額に指を当てた。

「んっ、んむむっ!」

 今度は、シトリーの力が弾かれることはなかった。
 小さく呻いてクラウディアの瞳孔が開く。

「さあ、身も心もすべて捧げて僕のものになるんだ。僕のことだけ愛し、考え、僕のために生きる。今この時から、おまえは僕の下僕として生まれ変わる」
「んぐっ、ぐぐぐっ、んむーっ!」

 見開かれたままの瞳がわなわなと震え、肉棒を咥えたままの呻き声が響く。

 シトリーが指を離すと、クラウディアは肉棒から口を離してその場にへたり込んだ。
 そのまま、はぁはぁと肩で大きく息をしているクラウディアの前にシトリーも座り込む。

「じゃあ、僕のものになった証を見せてくれ、クラウディア」

 シトリーの言葉に、わずかに首を傾げるクラウディア。
 まだ、その反応はやや鈍い。

「これが欲しいんだろう?だったら、僕のものになった証拠におまえからやってみせるんだ」

 シトリーが目で示した先にあるのはいきり立った肉棒。
 クラウディアの視線が、それに釘付けになる。

 すると、それまでおよそ感情らしいものを示さなかったその顔に表情が甦った。

 それは笑顔。
 それも、彼女本来の、気高く、慈愛に満ちた笑みではない。
 淫靡な欲望に満ちた妖艶な笑顔。
 あたかも、さっき見た光景の中で、クラウディアによく似た少女が浮かべていたような悪魔的な笑み。

 クラウディアはすっと立ち上がると、シトリーの足を跨ぐようにして立つ。
 そして、はずかしげもなく自分の秘部をさらけ出した。
 そこからはどくんどくんと愛液が溢れ出てきて、ふとももを伝って滴り落ちていた。

 笑顔を浮かべたまま、無言でクラウディアは腰を落とす。

「んんっ、んはあああああっ!」

 肉棒を体で受けとめた瞬間、その細い体がきゅっと反り返る。
 だが、すぐにその腰がいやらしくくねり始めた。

「んんっ、むふうっ、んはあっ、ああっ!」

 満ち足りた笑みを浮かべて腰を動かすクラウディア。
 時には上下に揺らし、時にはくねらせ、捻りを加える。
 その動きがあまりに淫らで、とても初めてとは思えないのは、女としての本能が目覚めたからなのか、それとも、先ほどのピュラたちによる”教育”の賜物なのか……。

「はううっ、はんっ、あんっ、ああっ、あぐうっ!」

 その、線の細い体には大きすぎるであろう肉棒をものともせずに、根元までいっぱいに受け入れていくクラウディア。
 まるで、言葉を忘れたかのように喘ぐ声だけが響く。

「あはあっ、いああああああっ!」

 いきなり大きく叫んだかと思うと、シトリーの体にしがみついてひときわ激しく腰をくねらせ始める。

「はあっ、はあっ、あんっ、あっ、むふうっ、はっ、はんっ!」

 その喘ぐ姿は、完全に一匹の牝と化していた。
 早く自分の中に注いでもらいたいとでも言わんばかりに、性急に腰を動かしているクラウディア。

 そして、その願いが満たされるときが来る。

「あっ、はあっ、あんっ、あう゛う゛っ、う゛っ!う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーっ!」

 喉の奥から絞り出すような絶叫とともに、クラウディアがシトリーにしがみついた。

「あ゛っ、あ゛あ゛あ゛っ、あ゛あ゛っ、あ゛っ!」

 そのまま、クラウディアは何度も何度も体を震わせる。
 シトリーの肉棒を深く咥え込んだ接合部から、収まりきらない白濁液が溢れ出てきていた。

「あ゛あ゛あ゛っ!ふああっ、あ……」

 力一杯シトリーに抱きつき、涎を垂らして叫んでいたクラウディアの体が、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
 もうすでに、何度も絶頂に達していた彼女は、完全に気を失ってしまったのか、ぐったりとしたままぴくりとも動かない。
 だが、静かに目を閉じたその顔は、いやらしく満ち足りた笑みを浮かべたままだった。

「終わったの、おじさま」

 クラウディアをそのまま寝かせてシトリーが立ち上がると、リディアが声をかけてきた。

「ああ」
「うまくいったのね」
「たぶんな」

 さっき、クラウディアに力を送り込んだとき、なんの抵抗もなかった。
 シトリーの力を受け入れて、彼のものにならない者はいないはずだった。
 少なくとも、人間レベルでは。

「それにしても、さっきのは本当なの?」
「ん?なにが?」
「クラウディア様も魔族の子孫だっていうの」
「ああ、あれか。そんなのでまかせに決まってるだろうが」
「まあ、おじさまったら!」

 シトリーの言葉に、リディアが目を丸くする。

 さっき、クラウディアが見た、彼女と、そしてリディアそっくりの少女とシトリーの姿。
 あれは、リディアの幻術ではなかった。
 リディアに預けられた、この世界を支配する力を使って、シトリーが見せた幻覚。
 そして、体と心に与える快感と、リディアの声を騙ったコンビネーションでクラウディアの精神を撹乱し、抵抗する力を奪っていった。
 蔓を使って彼女と繋がっていたリディアは、その一部始終を把握していた。

「あいつが魔族の末裔かどうかなんて、そんなことは僕の知ったことじゃないさ」
「でも、うまくクラウディア様の思考と合わせていたみたいだったよ」
「ああ、あれはあいつの思考や記憶が流れ込んできたから、それと上手くつじつまを合わせただけだ」

 そう言ったシトリーの視線の先には、いつの間に繋いだのか、彼とクラウディアを結ぶ1本の蔓があった。

「まあっ!」

 リディアが、今度は手を叩いて笑う。

 だけど、こいつの精神に、魔の気との親和性があったのも事実なんだけどな。
 魔族の因子はないみたいなんだけど……。

 シトリーは、気を失っているクラウディアを見下ろしながら考える。
 彼は、それが、彼女の先祖たちが封印の宝石で強力な魔物を取り込んできた副作用だということは知らない。

 あれは一体なんなんだろうな。
 んー、さっきなんか伝わってきたような気もするが、宝石がどうとか……まあ、いいか。
 こいつももう僕のものだし、その一族のこともおいおい聞けばいいさ。

 そう考えると、シトリーはリディアに声をかける。

「じゃあ、そろそろ戻るとするか」
「うん、そうね、おじさま」

 そして、リディアは目を閉じると、意識を集中して呪文を唱え始めた。

< 続く >

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