仮装行列綺談 本祭 弐

本祭 弐

面之四 唯(尾裂の面)

 チン、トン……と鉦と太鼓の音が鳴り始めて、祭りに参加するために集まった人たちが動き始める。
 夜中の10時過ぎに、それぞれにお面を被って時代劇みたいな衣装に身を包んだ大勢の人が蠢いているのは、それだけでも不思議な光景だった。

 そうだ、彩奈ちゃんとはぐれないようにしないと……。

 動き始めた人たちが3本の列になっていくのを見て、私は彩奈ちゃんの赤い振袖の後ろについていこうとする。

 と、その時だった。

「きみはこっちだよ」

 そんな声が聞こえたかと思うと、ぐいっと腕を引っ張られた。

「えっ、えええっ!」

 彩奈ちゃんに声をかける間もなく、私は別の列の中に引き込まれてしまう。

 それに、今の声はどっかで聞いた声だったような気が……。

 さっき私の腕を引いた人の声に、聞き覚えがあるような気がした。
 声の主を探そうと見回したけど、列の中に紛れてしまったのか見つからない。
 いや、そもそも、全員がお面を付けて衣装を着てるから、誰が誰かを判別するのは不可能だった。

「……て、彩奈ちゃん!?」

 彩奈ちゃんのことを思い出して、もといた行列の方を見ると、グラウンドを出てすぐに曲がっていく人並みの中に、彩奈ちゃんの赤い衣装がチラッと見えたような気がした。

「ちょっと!……うわ」

 慌てて彩奈ちゃんの方に行こうとしたけど、周りを他の人たちに囲まれて、そのまま行列に流されていく。

 しまった……彩奈ちゃんと離ればなれになっちゃった……。

 さすがに動揺を隠せずに、彩奈ちゃんのいる行列が曲がった先の方をちらちら見るけど、こっちの方も進み続けてるから、すぐに向こうの列そのものが見えなくなる。

 こうなったら、私だけこっちを取材するしかないかな……。

 聖美さんも、予期してなかったハプニングの時には狼狽えることなく、素早く決断する判断力が記者には必要だって言ってたし。

 ただ、心配なのは彩奈ちゃんがひとりで大丈夫かってことなんだけど……。
 でも、こうなったらしかたがないよね。
 なるようにしかならないし。

 そう気持ちを切り替えて、私はお祭りの取材に集中することにした。

 実際、落ち着いて見てみるとこのお祭りは本当に不思議だった。

 私たちの進んでいく道々に吊された提灯の灯りに照らされた、様々に仮装した人たちの列。
 よく見ると、私のいるこの列には、どこか剽軽な表情のお面を被った人が多いのに気づく。
 さっきグラウンドに集まってた人たちは、もっと普通の雰囲気のお面の人もいたのに。
 それに、彩奈ちゃんやミチルさんはあんな純和風美人みたいな、きれいな人のお面だったのに。
 なんだか、私の周りにはおかしな感じのお面の人が多いみたい。

 おかめのお面を被った人、ひょっとこのお面を被った人、なんか、大笑いしてるみたいに大きな口を開けた男の人のお面や女の人のお面。

 ……そうだ、みんな、どのお面もすごく楽しそうに笑ってるんだ。
 そういえば、私のお面も女の子が笑っているような表情だし。
 だから、わたしは「こっち」に来させられたのかな?

 みんなのお面を眺めながら、そんなことを考える。
 でも、こうやって見てると、なんだか私も楽しくなっちゃう気がする。

 だって、お面の表情もそうなんだけど、みんなの動きもどこかコミカルなんだもの。

 鉦と太鼓の音が聞こえるだけで、誰もなにもしゃべらない。
 それなのに、すごく楽しそうに見える。

 ほら、あっちでひょっとこのお面を被った人が女の人に抱きつこうとしたら、ほっぺたを叩かれる仕草をして大きくたたらを踏んでる。

「ふふふっ!」

 その、大げさな仕草が可笑しくて、思わず声を上げて笑ってしまった。

 だって、パントマイムというにはあまりに出来が悪いのに、大げさで芝居がかった動きがユーモラスなんだもの。
 ああやって、頭を掻いてごまかそうとしてる仕草もすごくおかしいよ。

 なんか楽しいな、このお祭り……。

 いつの間にか私は、まるで自分が子供になったような気分でこのお祭りを楽しんでいた。

 提灯の淡い灯りの下、剽軽な仕草を交えた仮装行列がひょこひょこととした足取りで夜の里を歩いて行く。
 それはまるで、おとぎ話の一幕のような幻想的な光景だった。

 それに、みんな笑っていて、本当に楽しそう。
 て、お面なんだけど。
 だけど、あまりに楽しそうだから、私の胸もワクワクしてくる。
 自然と足取りも軽くなって、小さな子供みたいにぴょんぴょん跳びはねながら行列についていく私。
 本当はちゃんと取材しなくちゃいけないんだけど、この弾んだ気持ちを抑えられない。

 それに、参加してる私がこのお祭りを楽しんだ方がいい記事が書けるかもしれないじゃない。

 と、そんな子供じみた言い訳を胸の内で呟いていた。

 そのうち、私たちの行列は神社の下まで来ると、その長い石段を登り始めた。

 そういえば、昨日亮太さんの話を聞いたときに、このお祭りの行列には3つのルートがあってひとつは神社に行くって言ってたけど、この行列がそうだったんだ。

 他の人たちについて、私も石段を登っていく。

 そして、石段を登り切ると、先に登っていた人たちはお社の前の広場で、鉦や太鼓の音に合わせて楽しげに踊っていた。
 よく見ると、男の人と女の人がペアになっている。

 わぁ、楽しそう……。
 私も踊りたいな……あ、でも、私の相手は?

 楽しそうに踊っている里の人たちを見てると、私も踊り出したくなるけど、私には一緒に踊ってくれる相手がいない。

 と、その時、ぐいっと腕を引かれた。

「きゃっ!?」

 驚いて私の腕を引いている人を見ると、私と同じ真っ白な、でも、ふかふかの毛に覆われた変わった衣装を着た後ろ姿が見えた。

 その人は、ぐんぐん私の腕を引いて、踊っている人たちから離れたところに連れて行こうとする。

 やだよう、私はもっとお祭りを楽しみたいのに。
 あの人たちと一緒に踊りたいのに。

 そんな私の気持ちにかまわず、その人はどんどん私の腕を引いて、お社の裏手まで連れてきた。
 そこには、もうひとつ小さな祠があった。
 辺りは真っ暗だけど、お祭りの晩だからだろうか、祠には灯明が焚いてあって、周囲をぼんやりと照らしている。
 それは本当に小さくて、古びた祠だけど、ちゃんと石造りの鳥居もあって、一対の狛犬もいた。

 ……狛犬?いや、これって狐だよね?
 じゃあ、これってお稲荷さんなんだ。

 狛犬だと思っていたのが、よく見ると狐の石像なのに気づく。
 それではじめて、この祠がお稲荷さんだってわかった。

 そして、私の腕を引いていたその人がこっちに振り向く。

「あっ!」

 その姿を見て、私は思わず大きな声を上げていた。

 その人のお面は、狐のお面だった。
 目を細めて笑っているような、白狐のお面。
 それに、その人の衣装も、ふさふさの毛に覆われた真っ白な衣装。

 まるで、この祠の神様が私の前に現れたみたいだった。

 でも、不思議と怖いとも不気味とも思わなかった。
 それどころか、親しみの持てる感じがする。

「……あなたは?」
「そうだね、お狐様ということにしておいてよ」

 私の質問に答えた、その声には聞き覚えがあった。
 間違いなく、行列が出るときに私の腕を引いたあの声。

 この声は……神社の亮太さんの声だ!

「ねえ、あなた、亮太さんでしょ?」
「ふふっ、今夜はお祭りなんだからそんなことはどうでもいいじゃないか。僕はお狐様だってことにしといてよ」

 バレバレなのに、亮太さんは敢えてごまかそうとする。
 でも、たしかに亮太さんに狐のお面ってよく似合ってる気がする。
 亮太さんの、いつも笑っているような細い目と、この笑っているような狐の表情もどこか似てるし。

 あ……だけど?

「どうして私を?」
「それは、僕の面ときみの面がペアだからね」
「そうなの!?じゃあ、あっちに行って一緒に踊ろうよ!」

 亮太さんの返事に、思わずそう答えていた。
 自分の相手になる人が見つかったのが嬉しかった。
 これで、あっちに戻ってみんなと一緒に楽しくなれるって思った。

「でもね、あの踊りはすぐに終わっちゃうよ」
「だったら!早くあっちに戻ろうよ!私、あっちに行ってみんなと踊りたいよ!」

 気乗りがしないような亮太さんの言葉に、まるで、聞き分けのない子供が駄々をこねるみたいに手足をばたつかせる。
 自分でもそんなの子供っぽいとは思うけど、早くお祭りに戻りたくて、気が急いてしかたなかった。

「そうか、その面はそんな感じなんだね……」
「……え?」

 亮太さんが何か呟いたけど、私にはなんのことかわからなかった。

「そんなことより、はやくあっちに戻って踊ろうよ!」
「ねえ、踊るよりももっと楽しいことをしたいと思わない?」

 子供っぽくせがんでいる私に、亮太さんがそう言った。

 踊るよりももっと楽しいこと?

「えっ?なになに?」
「あのね、たぶん今からあっちに戻ると、もうみんなそれを始めてるはずだから」
「そうなの?じゃあ、早く戻ろうよ!」
「でもね、そのためには約束してもらわなきゃいけないことがあるんだ」
「約束?」

 聞き返すと、亮太さんは私の肩に手を置いて顔を近づけてきた。

「このお祭りの間、僕の言いつけを守ること。いいね?」
「言いつけを?……うん、いいわ」
「言いつけを守るっていうことは、僕の言うことには絶対に従うってことだよ。わかる?」
「……うん」
「僕の言うことに従わないと、きみはお祭りを楽しむことができないからね」
「……うん」

 まるで、小さい子供に言い聞かせるみたいにすぐ目の前に顔を近づけて、ゆっくりと亮太さんが話しかけてくる。

 こうしてると、なんだか不思議な気分になってくる。
 目の前の狐のお面が、どんどん大きくなってくるみたい。
 その細い目に、私が吸い込まれていくような感じ……。
 ううん、私の中に狐のお面が入ってくるような感じかもしれない。
 どっちなんだろう?
 とにかく、私の中で狐のお面が大きくなっていって、私とひとつになるような感じ。
 それに、こうやってじっと見つめてると、頭の中がぼんやりしてくるみたい……。

「じゃあ、指切りしようか?指切りしたら、きみは僕の言いつけを絶対に守るようになる。僕の言う通りにするようになるんだ」

 指切りしたら……私は亮太さんの言う通りにするようになる……。

「……うん」
「じゃあ、指切りしようか。……指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます」

 指切りをすると、ようやく亮太さんは私から顔を離した。
 そこで、私はハッと我に返る。

「あれ?私……」
「じゃあ、祭りに戻るよ」
「え?」
「どうしたの?祭りに戻りたかったんでしょ?」
「あ、そうか」

 そうだよね。
 私、早く戻ってお祭りを楽しまないと……。

 そのことを思い出した私の手を、亮太さんが握ってくる。

「じゃあいい?戻ったときに何を見てもきみは驚かないよ。このお祭りはそういうお祭りなんだって思って、ごく当たり前のことに思えるから」
「うん」

 なんだろう?
 なんでそんなこと言うのかな?
 でも、まあいいか。

「それと、最初は見てるだけだよ。見てるうちに、きみはだんだん僕とこの祭りを楽しみたくなってくる。きみが心の底から祭りを楽しみたくなったら、その時僕と祭りを楽しむんだよ」
「うん」

 なんだかよくわからないけど、私は素直に頷く。
 だって、亮太さんの言いつけは絶対に守らなくちゃいけないんだもの。

「じゃ、行こうか?」
「うん!」

 亮太さんに手を引かれて、私はさっきの場所へと戻っていく。

 そして、お社の前に戻ってくると、そこでは里の人たちがセックスをしていた。
 お面を付けたままで、ほとんど裸になって体を絡め合っている男の人と女の人。

 だけど、そんな光景を見ても不思議と驚かなかった。
 だって、これはお祭りなんだから。
 このお祭りは、そういうお祭りなんだって、そう思った。

 それに、さっきまでの雰囲気とは全然違ってすごくいやらしいんだけど、これはこれでみんな楽しそうだった。

 体を重ね合っている人たちのあっちこちから、いやらしい声が聞こえてくる。
 でも、女の人の声も男の人の声も気持ちよさそう。

 すぐ目の前で、四つん這いになって男の人に後ろからしてもらっている女の人のおっぱいが、ぷるぷると大きく揺れている。
 そんな激しいセックスを見ていると、なんだか私のアソコも熱くなってくるみたい。

 すると、また手をくいっと引かれた。

「……え?」
「じゃあ、次を見に行こうか」
「うん」

 そうだった。
 最初は見るだけだったよね。

 もう少し見ていたかったけど、私は亮太さんに手を引かれて神社の石段を降りていく。

「……聖美さん?」

 石段を降りると、亮太さんはまず私を田圃の方に連れて行った。

 そこでも、お面を被った男の人と女の人がエッチなことをしていた。
 その中でまず目についたのは、裸のままで膝立ちになって、男の人のおちんちんをおっぱいで挟んでいる女の人。

「いかがですか、旦那様?気持ち、よろしいですか?」

 その女の人の声と、被っているあのお面。
 間違いなく、聖美さんだった。

 それが、おちんちんを胸で挟んで、大きく揺すっていた。

「ああ……旦那様のが熱くて……あんっ、私めも、感じてしまいますうぅ……」

 自分の手で揉むようにしながら、おちんちんを扱くようにおっぱいを大きく揺すっている聖美さんが、気持ちよさそうな声を上げる。

 聖美さん……すごくいやらしくて気持ちよさそうだよ……。

 私が、聖美さんの姿に見とれていると、後ろの方から聞き覚えのあるハスキーな声が聞こえてきた。

 ……これは?

「ああっ、いいわっ、突いて!もっと奥まで来てちょうだい!」

 振り向くと、背の高いすらっとした女の人が男の人に抱きついて激しく腰を動かしていた。

 ……ミチルさんだ。

 お面を見なくてもあのハスキーな声はミチルさんだってわかった。

「ああっ、好きよ、あなたっ!だから、もっと、もっとっ!あんっ、ああーっ!」

 しっかりと相手に抱きついて腰をくねらせるながら、喉を震わせて喘ぐミチルさん。
 腰を上下させるたびに、おちんちんがアソコを出たり入ったりしてるのがわかる。

「ああっ、旦那様っ、また、イキそうなんですね!?」

 また、聖美さんの方から切羽詰まったような声が聞こえてきた。

「どうぞっ、存分にお出しください!私めの胸を旦那様の精液でいっぱいに汚してくださいませっ!」

 そう言いながら、聖美さんはいっそう激しくおっぱいでおちんちんを扱いてく。

 ……もう、聖美さんもミチルさんもズルいよ。
 取材とか言いながら、自分たちはしっかりお祭りを楽しんでるんじゃないの。
 聖美さんなんか、旦那様、って役まで作っちゃって。

 ……私も早くお祭りを楽しみたいな。

 思う存分お祭りを楽しんでいるふたりが、純粋に羨ましくてしかたがなかった。
 ううん……ふたりだけじゃなくて、沢山の人がそうやっていやらしいことをしてる。
 10月末の山里の夜は冷え込むはずなのに、里全体に不思議な熱気が立ちこめているような気がする
 聖美さんとミチルさんのいやらしい姿を見ながら、私は体が疼いてくるのを感じていた。

 だけど、私はまた亮太さんに手をぐっと引かれる。

「さあ、次に行くよ」
「……うん」

 亮太さんにそう言われたら、従うしかない。
 でも、歩き始めた私は、自分の股間のあたりに湿った感触があるのを感じていた。

 ……そして。
 里の外れの野原に連れてこられた私の目の前では。

「ああっ、いいわっ、あなたのおチンポもっ、すごくいいのっ!」

 彩奈ちゃんが男の人に馬乗りになって、そのうえ、両手でそれぞれ他の人のおちんちんを握りしめるようにして腰を揺すっていた。

 もう、何人もの男の人とそうしてるのか、彩奈ちゃんの体はドロドロになって、月明かりの下で濡れて光っていた。
 それでも、激しく腰を動かしながら両手でおちんちんを扱くのを止めようとしない。

「んっ、いいわよっ!もっともっとおチンポ、気持ちよくしてあげる!はんっ、んんっ、あんっ……!」

 男の人にまたがって、彩奈ちゃんはまるで、踊るように大きく腰をくねらせていた。
 その周りには、順番待ちをしているようにおちんちんを出して立っている男の人たちがいる。

「ああっ、いいっ、おチンポ気持ちいい!」

 淡い月明かりの下で、彩奈ちゃんの被っているお面が笑っているように見える。

 すごい……。
 とってもいやらしいよ、彩奈ちゃん。

 ……ダメ、私ももう我慢できない。

 彩奈ちゃんの姿を見ていた私は、もう火照った体をどうしようもなく持て余していた。
 さっきから、着物の下で固くなった乳首が布と擦れてピリピリしてたし、風が吹くたびに股間の辺りがスースーする。
 私の着物は裾がふとももくらいまでしかないから、冷たさでアソコが濡れているのがすぐにわかってしまう。

 それになにより、もうこの気持ちをどうにもできない。
 聖美さんもミチルさんも彩奈ちゃんも、あんなにお祭りを楽しんでるのに、私だけ楽しめないのはいやだ。

 私も早くおちんちんが欲しいよう……。

 一度に3人の男の人のおちんちんをもらっている彩奈ちゃんを見ているうちに、私もおちんちんが欲しくなった。
 彩奈ちゃんみたいに沢山じゃなくていいから。

 あっ、そうだった……。
 私にはちゃんと相手がいるじゃない。

「亮太さん……。私、もう我慢できないよう……」

 そう言いながら、亮太さんの腕を引っ張る。

「私も早くお祭りを楽しみたいよう……。亮太さんのおちんちんが欲しいよう……」

 なんの羞じらいもなく、私は亮太さんにおねだりをしていた。
 もう、私もお祭りを楽しみたくて、いてもたってもいられなかった。

「そっか。心の底から祭りを楽しみたくなったんだね?」
「うん」
「わかった。じゃあ、僕たちはあっちの方でやろうか?」
「うん」

 素直に頷いて、亮太さんについていく。
 やっと、亮太さんのおちんちんがもらえる。
 これで私もお祭りを楽しむことができるんだって思うと、嬉しくてしかたがなかった。

 そして、連れてこられたのは神社の近くの、大きな木の木陰だった。

「それじゃ、ここでやろうね」
「うん。いいよ、亮太さん」
「ん?だめじゃないか」
「……えっ?」
「僕はお狐様だって言ったよね。だから、僕のことはお狐様って呼ばないとダメだよ」

 また、私の肩に手を置いて顔を近づけてきて、子供を諭すような口調でそう言われた。

 あ、そうか……。
 言いつけを守らなくちゃいけないんだっけ。

 亮太さんじゃなくて、お狐様って呼ばないと。

「はい、お狐様」

 私が素直に返事をすると、うんうんって感じでお狐様が頷く。

「うん、いい子だね。じゃあ、ちょっとゲームをしようか」
「ゲーム?」

 本当は、早くお狐様とエッチなことしたいけど。
 でも、お狐様がそう言うんだったらしかたないよね。

「きみは僕のパートナーで、僕の言いつけには絶対に従わないといけないんだよね」
「うん」
「でも、きみと僕はペアなんだから、僕の言いつけを守るのはきみの望みでもあるんだよ」
「私の……望み?」
「そう。その証拠に、僕の言ったことを守ってると、きみはすごく楽しくなれるよ」

 そう……なんだ。

 こっちに顔を寄せて、お狐様がかんで含めるようにそう囁く。
 そうしてると、また、私の中がお狐様でいっぱいになっていくような気がして、頭がぼんやりとしてくる。
 そして、お狐様の言うことがすっと私の中に入ってくるような気がする。

 だから、きっとお狐様の言う通りなんだ。

「……うん」

 ぼんやりとした頭のままで、私はコクリと頷いていた。

「よし。じゃあゲームを始めるよ。きみはこの僕の、お狐様の言ったことを守るパートナーで、言ってみれば、お狐様の使いなんだ。だから、これから僕がきみに、”はい”か”いいえ”で答えられる質問をしたときには、”はい”のときには”こん”って、”いいえ”のときには”けーん”って狐の鳴き真似で答えなくちゃいけないよ。いいね?」

 お狐様の質問に答えるときは、”はい”のときは”こん”で、”いいえ”のときは”けーん”……。
 うん、大丈夫。

 あっ、じゃあ、こういうときは……。

「こん!」
「よしよし、いい子だね。じゃあ、きみは僕と祭りを楽しみたい?」

 うん、そんなの決まってるよ。

「こん!」
「でも、さっきみんながお祭りを楽しんでるのをきみも見たよね?」
「こん!」
「きみも、僕とああいうことをしたい?」
「こん!」
「本当に?」
「こん!」

 当たり前じゃない。
 私は、お狐様のおちんちんが欲しいんだもの。
 でないと、この火照って疼いてる体をどうしたらいいのかわからないよ。

 お狐様ったら、なんでそんな意地悪なこと訊くんだろう?

「じゃあ、腰紐を解いて、着物の前をはだけて見せてよ」
「こん!」

 私はそう答えると、赤い腰紐を解いて、お狐様によく見えるように両手で着物の前をはだけさせてみせる。
 すると、私の格好を見て、お狐様が意地の悪い口調で言った。

「あれ?下着つけてるんだ?」
「こっ、こん……」

 あ、当たり前だよう……。
 普通は、下着を着てるに決まってるのに……。
 それに、この着物って裾がすごく短いから、下着つけてないと大事なところが見えちゃいそうなんだもん。

「これから僕と祭りを楽しむのに、そんなもの着てちゃダメじゃないか。ほら、脱いで。でも、着物は脱いだらダメだよ」
「こ、こんっ……」

 お狐様の命令だから、しかたなく私はブラとショーツを脱ぐ。
 あとは、生地のそれほど厚くない、真っ白な着物を前ではだけているだけ。
 その着物だって、肘くらいまでしか袖がないし、裾なんか足がほとんど見えてるし。

 やだ……こんな格好、下手に裸になるよりも恥ずかしいよ……。

「どうしたの?もしかして、恥ずかしいの?」

 私がもじもじしていると、お狐様がそう尋ねてきた。

「こん……」

 実際に恥ずかしいから、小さな声でそう答える。

「そう。そんなに恥ずかしいんだったら、僕と祭りを楽しむのは止めにしようか?」
「けーんっ!」

 お狐様のそう言われて、私はひときわ大きな声で鳴き真似をすると、ぶるんと頭を横に振る。

 なんでそんなこと言うの?
 本当にお狐様ったら意地悪なんだから。

 でも、意地悪されてるのに、そうやってお狐様の質問に狐の鳴き真似で答えてると、なんだか楽しくなってくる。

 やっぱりお狐様の言う通りなんだ。
 私はお狐様の使いなんだから、お狐様の言った通りにしていると、それだけで楽しくなっちゃうんだ。

「ふふっ、ふふふっ!」

 思わず私が笑い出すと、お狐様は、ん?っていう感じで首を傾げた。

「どうしたの?”はい”か”いいえ”で答えられない質問のときは、別に普通にしゃべってもいいんだよ」
「……だって、私はこんなにお狐様のおちんちん欲しいのに、お狐様と一緒にお祭りを楽しみたいのに、お狐様があんまり意地悪言うから……。でも、こうやって狐の鳴き真似で答えてたら、なんだか楽しくなってきちゃって、本当にお狐様の言う通りだって、おかしくなっちゃって……」
「そっか、じゃあ、ゲームは大成功だね」
「こん!……お狐様の言いつけを守るの、すごく楽しいです!」
「そっかそっか、きみはやっぱり僕の使いだね」
「こん!」
「で、きみはそんなに僕のおちんちんが欲しいんだね?」
「こっ……こん……」

 もう、お狐様ってば本当に意地悪!
 そうやってはっきり言われると、余計に恥ずかしいじゃない。

 て、またそうやってもじもじしてると、お狐様が私の股間に手を伸ばしてきた。

「きゃっ!?」
「すごい……。ここ、ヌルヌルしてて、すごく濡れてるよ」
「そ、それはっ……みんながお祭りを楽しんでるのを見たら、そこがじんじんって熱くなってきて……お狐様のおちんちん、欲しくなっちゃって……そうなっちゃったんです……」
「ふふふっ!本当にかわいいね、きみは」
「きゃっ!」

 いきなり、お狐様が私をぎゅって抱きしめてきた。
 ちょっと驚いたけど、すごく嬉しい。

 そして、いったん私を離すと、穿いていた袴みたいな衣装の紐を解き始めた。

「じゃあ、そろそろ始めようか。きみはもう準備がいいみたいだから、まずは、きみの手で僕のを元気にさせてよ」

 そう言って袴を脱ぐと、ぐっと上を向いたお狐様のおちんちんが現れた。

 それを見ただけで、アソコがきゅっとなっちゃった。 

 もうけっこう元気そうに見えるけど、もっと元気にしてあげないといけないよね。
 だから……。

「こん」

 そうひと声返事をすると、私はお狐様の前に膝をついてその手で包み込むようにおちんちんを握る。
 私の手の中のそれは、すごく熱くてドクドクと脈打っていた。
 そして、少し握っただけでビクッて震えて、少し固く、大きくなった。

 私は、そっと扱くようにその竿に沿って手を動かしていく。

 そうやってお狐様のおちんちんを握っているだけで、なんだかうっとりするような、幸せな気持ちになってくる。

 もっともっと大きくなーれ……。
 あっ、またピクッて震えて、ムクムクッて膨らんだ!
 ふふふっ!お狐様、気持ちいいんだ。
 えいっ、もっと!

 手に握った、熱い熱いそれがどんどん固く大きくなっていくのが嬉しくて、夢中になって扱いていく。

「……えっ?お狐様?」

 一生懸命におちんちんを扱いていたら、お狐様がポンポンと私の頭を叩いた。

「も、もうそのくらいでいいよ。……ほら、もうこんなに元気になってるでしょ」

 お狐様にそう言われて手を離すと、おちんちんはすっかり元気になっていて、なんだかヌラヌラと濡れて光っていた。

 ホントだ……すごく大きくなってる。
 これで、気持ちいいこといっぱいできるね!

 大きくそそり立ったおちんちんを見ていると、またアソコがじんっと疼いてくるのを感じる。

 それに、お狐様も私と同じ気持ちだったみたい。

「じゃあ、いっぱい楽しもうか?」
「こんっ!……きゃっ!」

 元気よく返事をした私を、お狐様が仰向けに押し倒した。

「さあ、足を開いて」
「こん」

 そう言われて、私は膝を立てて自分から大きく足を開く。
 その両足を、お狐様が抱え上げたかと思うと、アソコにおちんちんの先っぽが当たる感触がした。

 ずっと体が火照っていたのに今までおあずけされてたから、それだけで全身がぷるるっと震える。
 それが気になったのか、お狐様が訊いてきた。

「ねえ、きみはセックスするのは初めて?」
「けーんっ……」

 お狐様の質問に、そう答える。
 もうとっくに別れてしまったけど、以前つきあってた彼と何度かやったことがあった。
 お狐様には嘘はつけないから正直に答えたけど、他の人とやったことがあったなんて、もしかしてお狐様、気を悪くしちゃったんじゃないかな?

「ご、ごめんなさい、お狐様」
「いや、いいんだよ。ちょっと確認してみただけだから。……じゃあ、僕がきみの体におまじないをかけてあげるよ」

 そう言うと、お狐様はこっちに体を倒して、私に顔を近づけてきた。

「きみは僕の使いだからね。僕とのセックスは、これまでやったどんな経験よりもずっと気持ちいいよ。僕とセックスしてると、ずっと気持ちいいのが続いて、すごく幸せな気持ちになれるんだ」

 そう言ったお狐様の言葉が、すんなりと私の中に染み込んでいく。
 この、心の中がお狐様でいっぱいになるような感覚にもだいぶ慣れたし、こうしてお狐様の言葉を聞いていること自体がすごく心地よく感じられる。

「いいね?じゃあ、いくよ」
「こん!」

 私が元気よく返事をすると、アソコに当たっていたおちんちんが、ぐっと襞々をかき分けて入ってくるのを感じた。
 固くて大きいのが、どんどんどんどん入ってきて、入ってきて、奥まで入ってきて……。
 私の中を押し分けるようにググッて入ってきて、中をいっぱいに擦って、ものすごく熱くて気持ちよくて。

「きゃふぅうううううううううん!」

 背筋に棒を入れられたようにピンってなって、きゅうって両足の指を握ったまま固まってしまった。
 お腹も、手足の先も、突きだした舌も、勝手にピクピクと小さく震えちゃう。

 ものすごく気持ちよくて、入れられただけでイッちゃった……。
 さっき握ったときも思ったけど、やっぱりお狐様のおちんちん、大きいよ。

「大丈夫?」
「こっ、こん……!」

 うん、大丈夫とかそういう問題じゃなくて、気持ちよすぎるだけだから。
 アソコの中にいっぱいに入って、みっちりと隙間なく埋められてるのがわかる。
 でも、すごく気持ちよくて幸せな感じ。
 本当に、お狐様の言った通りだ。

「動いていいかな?」
「こんっ…………あっ、きゃふっ!んぎゅっ、んんっ、やあっ、すごいっ……!」

 やだっ、こんなのっ、すごすぎるよ!

 いっぱいに入ってきたお狐様のおちんちんが、ゆっくりと動き始める。
 私に気を遣ってるみたいなゆっくりした動きなのに、ゴツゴツと固いのが内側を擦って、あまりの気持ちよさにあっという間にわけがわからなくなる。

「あふっ……気持ちいいっ、気持ちいいよっ、お狐様ぁっ!」
「うん、きみの中もすごく気持ちいいよっ。まるで、吸いついてくるみたいだっ」
「だってっ、お狐様のがすごく大きいからっ、それにっ、すごく気持ちいいから、あそこがきゅうってなっちゃうの!」
「もっと激しくするよ。いい?」
「こっ、こんっ!……はきゅっ!きゃうっ、あんっ、んっくっ、はううっ!」

 アソコの中いっぱいに入ってる大きな塊の動きが大きくなって、ビリビリと全身が痺れるくらいに快感が大きくなってくる。

「ふああっ!これっ、すごすぎ!あっ、だめっ、もうイクッ、イッちゃうううううう!」

 気持ちよすぎて、あっという間にアソコの奥から大きなうねりがこみ上げてくる。
 目の前でパチパチッて火花が散って、全身の筋肉が強ばる。

 私、またイッちゃった……。

 2度目の絶頂で、意識がポワンとしてくる。
 ……それなのに。

「ひゃうっ!?きゃうううっ、ああっ、だめっ、まだイッてる、イッてるのにっ!」

 お狐様のおちんちんは、まだ私の中で暴れ回るのを止めてくれない。
 そればかりか、また少し大きくなってる気がするんだけど。

「あふうううっ、おっ、奥に当たってるっ、あうっ、きゃふぅううん!」

 や、やっぱりちょっと大きくなってるよ!
 さっきよりも深いところまで入ってきて、奥をコツコツノックしてる!
 ……やっ、だめっ、こんなの!

「イッちゃうっ!またイッちゃううううううっ!」

 思い切り腕を伸ばしてお狐様にしがみつく。
 そのまま、また全身を震わせて絶頂してしまう。

「……えっ、ふあっ!?あんっ、お狐様ぁあ、やっ、だめっ、もういっぱいイッてるのにぃ!」

 抱きついた私をぎゅっと抱き返してきて、お狐様はまだ私の中をどんどん突いてくる。

「くぅ……きみの中が気持ちいいから、腰が動いてしまうんだ。だから、きみも何度イッてもいいんだよ」
「そっ、そんなぁああ!はうっ、んきゅぅうううう!」

 すごい……こんなことってあるの?
 本当に、今までのどのセックスよりもずっとずっと気持ちいい……。
 さっきから快感に流されっぱなしで、イッてるのから降りてこれない。
 こんなの知っちゃうと、もう戻れなくなっちゃう。
 もう、お狐様とのセックスじゃないと満たされなくなっちゃう。
 頭の中が真っ白になって、この、気持ちいいことしか考えられない。

 あ、だめ……また大きいのが来ちゃう……。

「来るっ、また来ちゃう!」
「く……僕もそろそろっ」
「来てっ!私もお狐様と一緒にイキたい!……んっ、はん、んぎゅっ、あうっ!」

 何度も何度もイッちゃってるから、気持ちよすぎ頭がくらくらする。
 もう、体中がオーバーヒートしたみたいになってて、手足の先なんか痺れて感覚がなくなってきてるけど、必死になってお狐様にしがみつく。

 あっ、今、おちんちんがピクピクッて震えたのがわかった!
 来るんだね、お狐様!

「くっ、ぅうううううううううううう!」
「きゅふぅうううううううううううう!」

 お互いに固く抱きしめ合って叫ぶ。

 ああ……。
 お狐様のおちんちんからドクドクと溢れてくるのを感じる。
 熱いのが私のお腹の中をいっぱいにしていく……。

「んっ、んんんっ……あふぅううう……」

 いっぱいに熱いのを注がれながらまたイッちゃって、体がビクビクと震える。

「んっ……あうっ!」

 お狐様が腰を引いて、おちんちんが抜けるときの感触に、また体がピクッて反応してしまう。
 そんな私の耳許で、お狐様が囁く。

「すごく気持ちよかったよ、きみとのセックス」
「んん……お狐様ぁああ……」

 お狐様にそう言ってもらって、すごく嬉しくなる。
 でも、なんでだろう?なにか物足りないというか……。
 あっ、そうだ!

「唯って……私のこと、名前で呼んでください、お狐様……」

 そうだ、私、お狐様に名前を呼んで欲しかったんだ。
 だって、さっきからお狐様は私のことを、きみ、としか呼んでくれないから。

 私がねだると、お狐様の面の下から、ふっ、と笑い声が洩れたような気がした。

「いいよ。じゃあ、もうひとつおまじないをかけようか。僕が名前で呼ぶと、きみはもっと幸せな気持ちになれるよ、いいね?」

 私の真っ正面に顔を寄せて、お狐様がそう言った。

「……こん」

 なんか、ドキドキしながら返事をすると、お狐様が私の名前を呼んだ。

「じゃあ、唯」
「こっ、こんっ……!」

 やだっ、お狐様に名前を呼ばれて、胸がきゅんってなっちゃった……。
 すごく嬉しくて、幸せで、わけわかんなくなりそうだよ。

「僕は、もっといっぱい唯を感じたい。もっといっぱい唯と気持ちよくなりたいんだ。ほら……」
「……あっ」

 私のアソコに押しつけられたお狐様のおちんちんは、さっきいっぱい出したっていうのに、もう固く大きくなっていた。
 その、熱いのがドクドクと脈打ってる感触に、私もまた昂ぶってきちゃう。
 さっきあんなにいっぱいイッたのに、また体が熱くなって、アソコが疼いてきて、お狐様のが欲しくなっちゃう。

 ……だから。

「私も。私ももっといっぱいお狐様としたい。お狐様といっぱい気持ちよくなりたい……」
「そっか。じゃあ、立って、唯」
「こん」

 お狐様に言われて、私は立ち上がる。
 両足に力が入らなくて、ふらふらするのをお狐様が支えてくれた。

「唯、そこの木に両手をついて、こっちにお尻を突き出すようにして」
「こん」

 言われるままに、木の幹に両手をついてお狐様の方にお尻を突き上げる。
 すると、お狐様が私の腰を掴んで、アソコに固いのが当たる感触がした。

「じゃあ、行くよ、唯」
「こん!来てください、お狐様!……んっ、はきゅぅううううううっ!」

 また、アソコをかき分けるように固くて逞しいのが入ってくる。
 だめ……この、ぐっとアソコの中がいっぱいになって擦れる感触がもう堪らない。
 どうしても、入れられるだけで軽くイッちゃう。

 でも、今度はすぐにお狐様が大きく腰を動かし始めた。

「きゃふっ、あうっ、ああっ、お狐様ぁあああっ!」

 お狐様のおちんちんが、何度も何度も私の中を突く。
 さっきとは擦れる場所も奥に当たる場所も少し違うけど、やっぱりこれもすごく気持ちいい。

「いいっ、気持ちいいですっ、お狐様!……ふえっ!?はうっ、ああっ、おっぱいそんなにっ、んふぅううう!」

 後ろからお狐様の手が伸びてきて、おっぱいを掴む。
 アソコだけでも気持ちよすぎるのに、おっぱいからもゾクゾクと気持ちいいのが流れ込んでくる。
 頭の中が熱くなって、快感の波に押し流されてしまう。

「だめっ、そんなに激しくするとっ、すぐイッちゃうぅううううううう!」
「だから、何度イッてもいいんだよ、唯!」
「ふぁあああああああああっ!ああ、お狐様、お狐様っ、お狐様ぁああああっ!」

 絶頂を繰り返しながら、何度も何度もお狐様を呼ぶ。

「唯っ、唯っ!ああ、すごくいいよ、唯!」
「んっ、お狐様ぁあああああ!」

 ああ……そんなに何度も名前を呼ばれながら突かれると、戻れなくなっちゃう。
 ずっとイキッぱなしで、降りてこれなくなっちゃう……。

 でも、どうして?
 何度も何度もイッてるのに、また欲しくなっちゃう。
 お狐様のおちんちんをもっと感じたくて、腰が動いちゃう。

 いつの間にか、お狐様に合わせて私は自分からも腰を振り始めていた。

 そして、私はそれから何度も何度もお狐様とセックスをした。
 数え切れないほどイッて、いっぱい気持ちよくしてもらって……。
 そして、私の全てが真っ白になったみたいになって、意識を失うまでセックスし続けたのだった。

* * *

「唯……起きるんだ、唯」
「……ふえ?お狐様?」

 名前を呼ばれながら体を揺すられて目を開けると、お狐様がこちらを覗き込んでいた。

 ……そうか、私、寝ちゃってたんだ。
 私ったら、お狐様の使いなのにセックスの途中で寝ちゃうなんて。

「ごめんなさい、お狐様!」
「いや、それはいいから。それよりも、そのお面を取れるかい?」
「お面を?」
「そう、お面だよ」

 私には、お狐様がどうしてそんなことを言うのかわからなかった。

「ほら、もうすぐ夜が明けるから、早くそのお面を取るんだ!」
「……?……こん」

 理由はわからないけど、お狐様の言いつけは絶対だから。
 私は言われるままに被っているお面を取った。

 これでいいのかな?
 でも、お狐様はどうして?

 ……て、お狐様?

「えっと……私……?」
「よし、どうやら戻ったみたいだね、更衣さん」

 なんか、頭に靄がかかったみたいにぼんやりして、全身がすごくだるいけど、でも、覚えてる。
 私、お狐様といっぱい……せ、セックスして……。

「ええええええーっ!?」

 少し頭がはっきりしてさっきまでのことを思い出して、私は大声を上げた。

 私、なんであんなことしたんだろう!?
 いや、覚えてるからわかるけど、私、お狐様といっぱいセックスしてた。
 それも、私の方から求めて。
 いや、お狐様って……この狐のお面を被ってる人って亮太さんだよね!?
 て、そういう問題じゃなくて……私、あんなに気持ちよくて、あんなに何度もイッて……。
 いやいやいや!そういう問題でもなくて!

「そんな格好じゃ風邪を引くよ、更衣さん」
「ええ……?ひええええええっ!?」

 亮太さんに指摘されてはじめて、自分が裸なのに気づいて慌てふためく私。

「ほら、これを着て。きみの服だろ?」

 そう言って亮太さんが差し出したのは、帯刀さんの家にあるはずの私の服だった。

「……え?どうしてこれを?」
「きみが寝てる間に帯刀さんの家に行って取ってきたんだ。ほら、早くこれを着て」
「は、はい……?」

 とりあえず裸のままではいられないので、差し出された服を着る。

「これもきみのだよね?」
「……そうですけど?」

 服を着ると、亮太さんに手渡されたのは私の鞄だった。

「じゃあ、行くよ」

 そう言うと、亮太さんは私の手を取って走り始めた。

「えっ?ええっ!?行くって、どこに!?」
「裏道伝いに里を出るのさ」
「里を出るって!?」
「ああ。きみたちが車でこの里に来るとき、手前で分かれ道があっただろ?」
「は、はい……?」
「あの分かれ道で里の方に入らずに、右側に少し行ったところにバス停があるんだ。本当はその先にある温泉地に行くためのバスなんだけど、この里に一番近い公共交通機関がそれしかないからそこにこの里の入り口のバス停があるんだよ」

 私の手を引いて走りながら、亮太さんがそう説明する。
 だけど、それで私は大切なことを思い出した。

「ちょっと待ってください!里には聖美さんたちが!」
「ダメだ!彼女たちは、あの人たちのものだから僕にはどうにもできない。僕が自由にできるのはきみだけなんだよ」
「でも!」
「それに、もう時間もない。もうすぐ夜が明ける。もう彼女たちは戻れないんだ」
「ど、どういうことですか!?」
「説明してる時間はないんだよ。急がないと朝一番に通るバスに乗り遅れる。何しろ山奥だから一日に6本しか通らないんだ。あれを逃すとしばらくバスは来ない。だから急いで!」
「きゃっ!」

 説明するのももどかしそうに、亮太さんが私の手を引く。
 聖美さんたちのことは気になるけど、疑問を差し挟むことも許さないような亮太さんの口調が、従うしかないということを感じさせた。
 それに、私の中にも、もうどうにもならないんじゃないかという思いがあった。

 だって夜中に見たみんなの姿を覚えてるから。
 なにか、普通じゃないものの力を感じるような光景だった。
 いや、聖美さんたちだけじゃなくて、私もついさっきまで……。

 結局、私には亮太さんについていくことしかできなかった。

 亮太さんの言う裏道は、裏道というよりも獣道と言った方がいい感じだったけど、そこを抜けると、里へと続く見覚えのある道路に出た。
 その道を、里とは反対方向に向かう。

 歩くとけっこう距離があるので、亮太さんの言うバス停に着く頃にはすっかり夜が明けていた。

「あのバス停で、温泉行きじゃなくて、駅行きのバスに乗れば町の方に出る。そこから電車に乗れば東京まで戻れるはずだから。……お金は大丈夫?」
「あ、はい。鞄の中に財布が入ってますから」
「そっか。じゃあ、ここでお別れだね」

 そう言って、亮太さんは里の方に戻ろうとする。

「……あの、本当に亮太さんですよね?」
「どうかな?そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないよ」

 と、狐の面を被った人は言ったけど、その声は聞き間違いようがない。

「亮太さん、私を助けてくれたんですよね。……ありがとうございます」

 そう言って、私は亮太さんに頭を下げる。

 だけど、亮太さんはそれには答えることなく、「元気でね」とだけ言って、そのまま里の方へ小走りに去って行った。
 その後ろ姿を、私は複雑な思いで見送ることしかできなかった。

< 続く >

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