日誌と夕日と催眠術 ~女の子視点~

~女の子視点~

 キーン コーン カーン コーン

 チャイムが鳴ってひとつの授業が終わる。
 普通の学生にとっては開放を意味するこのチャイムも、私にとってはそれほどのものではなかった。

「きりーつ!礼!」

 日直の掛け声で先生に礼をすると、ついさっきまで静かだった教室はあっという間に喧騒に包まれる。
 同年齢の40人近い男女がテレビや芸能人、近日中にあるテストや成績、志望校といったありふれた、それでいて多種多様な話題が飛び交う。

「みゆ~さっきの授業なんだけどさ」

 できれば私もそんな喧騒に飲み込まれてなんでもない会話をしたい。けど……、

「この例題の解き方なんだけど……」
「ここはね、xの代入に問題文の式を使うといいよ」
「小林さん、4限の課題私当たりそうなんだ。答え合わせしてくれない?」

 あっという間に私はクラスの友達に囲まれて質問攻めにされる。
 課題の答え合わせとかならともかく、わからないところがあるのなら先生に訊けばいいと思うけどなぁ。

 小林心結(こばやしみゆう)。
 それが私の名前。
 いまどきな名前に思うかもしれないけど、“みゆ”でパソコンに入力すれば一発変換で漢字が出てくる。
 決してキラキラネームなどではない。
 毎日の努力が実って学年でも上位の成績をキープしていることが唯一の自慢だ。
 悩みと言えば、生来お人好しな性格で困っている人を見捨てることができない性分で、勉強で困っているクラスメイトに頼られると断れない。
 そのせいで休み時間や放課後になると、やれ宿題見せてだのさっきの授業でわからないところがなどクラスメイトに囲まれてしまう
 クラスでハブられるようなことはないけど、できれば芸能人とか昨日見たテレビとか、そういうありふれた話がしたいよ。

「小林さん、ちょっといい?」

 振り向くと、クラスメイトの増島君が立っていた。
 特に仲がいいというわけでもない、と言うかほとんど話したことのない男の子だけど、なんだろう。

「明日の日直だけど、小池がなんか用があるとかで俺と交代したから」

 そういえば、明日日直だっけ。
 日誌書いたりとか授業の準備とかあるし、みんなちょっとは遠慮してくれるかなぁ。

「そっか。じゃあ明日よろしくね」

 誰が相方でも一緒だけどね。

「うん、よろしく」

 増島君はそう言って自分の席に戻っていった。
 そういえば彼は私のところに勉強のことを訊きに来たことってないなぁ。
 そりゃあクラス全員が私を頼りにしてる、ってことはないけどね。
 確かもともとの日直の相方は小池君っていう男子だった。
 彼は何かにつけて私に訊きに来る男子だから、ちょっと気が重かったところだった。
 だからこの交代は、ちょっと嬉しかったかな?
 これで増島君がきっちり仕事してくれる人だったら尚いいんだけど。



 ……期待ハズレだったかなぁ。
 増島君は決して怠け者というかサボってるってほどではないけど、ぼーっとしてることが多くて、一日の予定も私がいちいち確認しないと忘れていることが多かった。

「ちょっと、増島君?聞いてた?」
「んあ?」
「もう……なんか朝からぼーっとしてない?もうすぐお昼だよ」
「ご、ごめん。なんだっけ」
「5限の化学は実験だから日直は準備しとけって、お昼休みにご飯食べたらすぐ行かなくちゃいけないんだよ」
「そ、そうだったね」

 愛想笑いを浮かべながらごめんごめんと謝罪を繰り返す。
 大丈夫かな本当に。

「はぁ……」

 彼に気づかれないように軽くため息をつく。
 こんなふうに投げられることもよくあることではあるけど、正直あまりいい気はしないな。
 そんなこんなで放課後まで私の仕切りで日直の仕事は進んで、日誌を書いて終わりとなった。
 この日誌もほとんど私が書いたものだし、増島君は私が書いてるのをぼんやりと見てるだけ。

「よし、終わりっ」

 でもまぁ、こんなもんだよね。

「ね、小林さんってテレビとか見るの?」

 日誌を書き終えた瞬間に増島君がそんなことを言い出した。

「ん?なに突然」
「いや、特に意味はないんだけど……」

ホントだよ。なんの脈絡もないよ。

「そうだね~昨日やってた『社会に出よう!』とか、毎週見てるよ」
「え!意外だなぁ、俺も毎週見てるよ」

 『社会に出よう!』っていうのは、今毎週やってるバラエティー番組で、社会問題化している引き篭りやニートといった人たちをいろんな方法で働かせようっていう、個人的には好みの番組で、視聴率もそれなりに高いらしい。
 昨日の回は、催眠術を使ってニートの男性を職安に行かせるという内容だった。
 少し前までパソコンにかじりついて『働きたくないでござる』なんて言ってた不健康そうな男の人が、『労働って素晴らしいですね!』なんてキラキラした目で宣ったときは思わず笑っちゃったよ。

「クラスでも結構見てる人多いよね。毎回よくネタが尽きないと思うよ。昨日も催眠術とか、誰があんなの考えてるんだろうね」

 でもなんか、こんな会話久しぶりだな。

「ヤラセ感たっぷりだったけどね。実際催眠術なんてできるのかな」
「どうだろう。できたら面白いかもしれないけど」

 面白そうだけどね。そんなことできたら、私だったら何に使うかな?

「やってみる?」
「え?」
「催眠術」
「増島君、催眠術つかえるの?!」

 思わず立ち上がって椅子を倒してしまう。

「え?いや……ちょっとだけ」

 増島君は自信なさそうに後ずさったけど、もう私の心は面白そうなことに対する期待でいっぱいだった。

「本当に~?スゴーイ!」
「いや、多少の知識があるだけで、別に凄くは……」
「凄いって!へ~意外だな~増島君っていつも退屈そうに休み時間とか寝てばっかりだけど、そんな特技があったんだ」

 昨日までロクに話もしなかった男の子の意外な一言に、私は好奇心が猛烈に刺激されたのを感じた。

「それでさ、かかってみない?」
「うん!かけてかけて~」

 倒れた椅子を直して座ると、私は心がドキドキしていることに気がつく。
 今まではクラスの人と接するときは、話題は勉強のことばかりで作り笑いしながら受け答えしてきたけど、こんなに楽しい体験ができそうだと思うとワクワクしてしまう。

「う、うん。じゃあえっと、準備するから椅子に座ってリラックスしてて」

 そう言って増島君は鞄を出してごそごそと中を探し始めた。

「ところでさ……小林さんって催眠を体験したことはないんだよね」
「うん。だからちょっと楽しみだよ」
「テレビとかじゃなくてさ、実際に催眠を見たこともないよね」
「そうだね~」

 テレビでならマジックショーとかの延長でやってるのを見たことくらいならあるけど、実際に目の前で見たことはないなぁ。

「じゃあ催眠にかかったらどうなるのか全然わからないよね」
「そうだよね」

 まして自分がかかっちゃうとこなんて想像できないなぁ。

「俺の言う通りにすると簡単にかかっちゃうよ」
「へー」

 なんだか凄い自信。
 そんなに上手なのかな?

「ホントだよ。今まで催眠がうまくかかった人は小林さんみたいなタイプだね」
「そうなの?」

 催眠術って、かかりやすい人とかかりにくい人がいるっていうのは昨日テレビで言ってた気がする。
 
 私ってかかりやすいタイプなのかな?
 催眠術って、ぼんやりしたような、半分寝てるような状態になっちゃうんだよね。
 あんなふうにされちゃうのかな。
 でも不安よりも期待の方が大きいよ。ワクワクするよ。

「じゃあはじめようか」

 そう言って増島君が片手にもっていたものは……、

「って、それ」

 手にしたもの、5円玉に30センチほどのタコ糸をつないだ振り子、を見てあまりの陳腐さに思わず吹き出してしまった。

「定番過ぎない?」
「まぁ……わかりやすくていいじゃん」

 言いながら増島君は振り子を私の目の前にかざした。

「それでは、じ~っと5円玉だけ見つめましょう」

 糸の先の5円玉が軽く揺れ始める。

「5円玉が左右に振れてきます。ゆっくりと揺れていきます。じっと見つめて……目を逸らさないで」

 5円玉の揺れるのを追っていく。
 揺れる振り子から目を離さないようにするのって結構大変だね。
 私は無意識のうちに振り子の動きに集中していった。

「ゆれる、ゆれる、左右にゆれる。揺れる、揺れるもっとゆれる。どんどん大きくゆれる」

 5円玉の揺れが少しずつ大きくなっていく。
 右、左、右、左、右、左………。
 う~集中しなくちゃ……。
 もっと、5円玉だけを見て……。

「もっともっと大きく揺れる。小林さんの心も揺れていく。ゆらり……ゆらり……」

 ゆらり……ゆらり……。

「どんどん心が揺れていく……でもそれはとても気持ちいい。もう振り子に夢中になっていく」

 ゆらり……ゆらゆら……あ、これ……なんだか、いいかも……。

「ほら、振り子に夢中でなにも考えられない。ただ振り子を見つめていたい。だんだん身体がリラックスしていく。だんだん力が抜けていく」

 振り子だけ……見つめる……ゆらゆら、ゆらゆら……ぁぅ。

「次に私がハイと言うと5円玉の動きが止まっていきます」

 振り子の動きが少しずつ小さくなっていく。

「ハイ、5円玉が止まる、とまる。動きが小さくなって静かにとまる。小林さんの心も止まっていく。止まる、止まる、だんだん止まる。もっともっと止まっていきます」

 振り子の動きがゆっくりになると目線を動かさなくてもいい……。
 だから何も考えなくていい。
 ただ見つめていればいいから……。

「止まる、止まる……。ほら、止まっちゃった」

 振り子が止まる。
 私の心も止まる。
 まるで朝布団の中で夢現の時のように、頭がぼんやりしてる……。

「……振り子を見つめて。絶対に目を逸らさないで……そのまま見ていると、だんだん瞼が重くなってきます。どんどん重くなってくる」

 自分の瞼にズーンとした重みを感じる。
 私は授業中ほとんど居眠りなんかしないけど、退屈で何言ってるのかわかんないような授業の時は眠気に襲われるときもある。
 そんな時の眠気に似た感覚が私の瞼を襲う。

「瞼がだんだん下がってきます。どんどん下がってくる……」

 ゆっくりと瞼が下がっていく。

「ほら、どんどん下がってくる。下がってくる……瞼が閉じていく。だんだん眠くなってくる」

 眠気に似た感覚ははっきりと眠気になって全身を包み込んだ。

「眠くなる……眠くなる……目を開けているのが辛い……。勝手に勝手に瞼が閉じていく」

 力が抜けていき、瞼が勝手に閉じていく。
 増島君の言葉が優しく心に染み込んでくる。

「瞼が重い……閉じてしまいたい。眠くてたまらない、眠い……眠い……」

 もう目を開けているのか閉じているのか、それさえわからない。
 首に力が入らなくなって頭が重く感じる。

「眠くなる……眠くなる……眠くなる、眠ってしまう……眠ってしまう…………」

 ふっ、と身体から力が抜けて意識が消えてしまう。
 意識が消えたことを自覚できるのがなんだか不思議だけど。

「眠っている……小林さんは眠っている」

 眠っている意識の中に増島君の声が心地よく響き、自分が眠っているんだということを意識させられる。

「心結ちゃん、あなたは催眠術にかかってしまいました。頭がぼんやりしてとっても気持ちいい。そうですね?」

 ああ、私……催眠術にかかっちゃったんだ……。
 うん、ぼんやりして、気持ちいいよ。
 名前で呼んでくれるんだ。
 そのほうが気持ちいいし、嬉しいな。

「私が覚めなさいと言うまでは目が覚めません。これから私が20まで数を数えます。数える度にあなたは自分でだんだん、だんだんと深い快い眠りに落ちてしまいます。それはとても気持ちよくて抵抗することができません。いいですか?よければハイと返事をしてください」
「……はい」

 反射的に返事を返す。
 増島君が言っている言葉の意味は半分も理解できないけど、気持ちいいからいいや。

「ひとーつ……だんだんグッスリと眠り込んでいきます。ふたーつ……どんどん眠りが深くなっていきます。みっつ……よっつ……もっと、もっと深く眠りこんでいきます」

 ゆっくりと深いところに沈んでいくような感覚に襲われる。
 その感覚はとても心地よくて、とても抵抗なんてできない。
 抵抗しようという気すら起きない。

「いつーつ……もう身体に力が入らない……むーっつ……ななーつ、ふか~くふか~く眠っていきます。私の声と私の言うことだけに注意していてくださいね」
「……はぃ」

 今私、ちゃんと返事できてたかな?
 もうよくわからないや。
 増島君の言うことだけ聞けばいいんだよね。
 こんなに気持ちいいんだから、私なんでも言うこときくよ。

「やっつ……ここのーつ……とーお。もう心結ちゃんはふか~い催眠にかかってしまいました。じゅういち……じゅーに……深く、深く……ずうっと深く眠りこんでいきます。じゅうさん……じゅうし……じゅうご……催眠は深くなっても私の声は良く聞こえます。私の声だけは聞こえます。いいですね?」

 どんどん深いところに沈んでいく……。
 ぁぁ……日曜日に二度寝した時のまどろみを何倍にも気持ちよくしたようなこの感覚。

「じゅうろく……じゅうしち……じゅうはち……もう心結ちゃんは深く深く眠り込んでなにも考えられない。自分からどんどん深く催眠にかかっていく」

 ぅん、もう自分から沈んでいっちゃうよ……。
 なんにも考えたくないよ……。

「じゅうく……にじゅう……。……心結ちゃん?聞こえる?」
「…………はぃ」
「心結ちゃんは深い深い催眠状態になった。わかるね?」
「……はい」

 み ゆ は ふ か い ふ か い さ い み ん じ ょ う た い に な り ま し た 。

「心結ちゃん、これから3つ数えると、あなたは目を覚まします。ただし、目を開けても深い催眠状態のままです」
「はい……目を覚まします……でも、催眠状態……」
「そう、頭はぼんやりしたまま。いいですね。ひとつ……ふたつ……みっつ!」

 あんなに重かった瞼は案外あっさり開いた。
 見慣れた教室の景色が目に入ってくる。
 だけどそれを見て、なにも心が働かない。
 なにも感じない。
 ただぼんやりと目を開けた、ただそれだけ。

「……小林、さん?」

 なにか声が聞こえたような気がしたけど、小林さんって、誰だろ?

「心結ちゃん……」

 増島君の声だ。私の名前……だよね?返事しなくちゃ。

「……はい」

 声がしたほうを見ようと振り返る。
 なんだか身体を動かすのがひどく億劫だ。
 見ると増島君は嬉しそうに振り子を握り締めている。
 どうしたんだろ……。

「心結ちゃん、振り子を見て……」

 目の前に再び振り子が現れ、ゆらゆらと揺れていく。
 私の目も振り子を追ってゆらゆらと揺れる。

「この振り子を見ていると、心結ちゃんはだんだん服を脱ぎたくなってきます。だんだん服を脱ぎたくなってくる」

 増島君の言葉が頭のなかで響いてくる。
 同時にセーラー服を脱ぎたいという思いがこみ上げてきた。
 
 私……服を脱ぎたくなる……。
 脱ぎたくなる……。脱ぎたく……。

「ほら、脱ぎたくなる……脱ぎたくなる……制服を脱いで下着姿になりたくなる」

 手がスルスルと上着の左のファスナーに伸びていく。

「そう……脱ぎたくなる、脱ぎたくてたまらなくなる」

 ファスナーを上げてセーラー服の裾を持つと、ゆっくりと持ち上げ、そのまま首から抜き取った。
 脱いだ上着を机に置くと、プリーツスカートのボタンを外し、ファスナーを下ろしてスカートを脱ぎ始めた。

 待って。スカート脱いじゃうと、パンツ……見えちゃう。
 もうブラ見えちゃってるけど……でも……。

「恥ずかしい?」

 恥ずかしいよ。

「どうして?」
「……クラスメイトの、男の子に……下着、見られちゃう……」
「そうだね、見られちゃうね。でも、心結ちゃんは脱ぎたくてしかたがない。ほら、振り子を見て。脱ぎたくなる。脱ぎたくなる」

 揺れる振り子を追っていると、だんだん脱ぎたくてたまらなくなってくる。
 
 スカートを脱ぎたい……脱いでしまいたい……。

 どうしてこんな気持ちになるのかわからないけど、揺れる振り子から「脱いじゃえ脱いじゃえ」って言われてるみたいで……脱いでしまいたくてたまらない。
 
 もういいや、脱いじゃえ。

 スカートを脱いで、先に脱いだ制服と一緒に畳んで机の上に置いておく。

「ぅぅ……」

 クラスメイトの男の子に下着姿を見られてる。
 普段はスカートが風とかで軽く持ち上がるだけでも恥ずかしいのに、私……どうしちゃったんだろ……。

「恥ずかしそうだね」
「は……い」

 恥ずかしいよ……でも、脱ぎたかったんだもん。

「でも、もっと恥ずかしいことをするよ」

 え?と問いかける前にまた目の前に振り子が現れる。

「あなたはだんだんブラを外したくなる」

 かあっと顔が赤くなる。

 そんな……!ブラなんて外したら、胸……見えちゃうっ!
 でも……外したい……っ、だめっ!

「ほぅら、脱ぎたくなる……脱ぎたくてたまらない。ブラを外したくてたまらなくなる」
「ぁ……」

 脱ぎたい……だめ、だよぉ……。でも、脱ぎたいっ。

「みっつ数えると、心結ちゃんはブラを外したくて我慢できなくなってしまう。いくよ……ひとつ、ふたつ、みっつ!」

 増島君が数え終わると同時に、どうしようもなくブラを外したいという思いがこみ上げてくる。

「ぁ……だめ……」

 胸……おっぱいなんて、恥ずかしくて見せられないよ……。
 でも、ブラ、外したい……。
 くぅ~、外したい……でも、でもっ。

「……ぅぅ……ぅ~」

 手が勝手にフロントホックをはずそうと動いてしまう。
 なんとか抑えてるけど、でも……ぁぁ、手がブラに触れてしまうとそこで離すことができなくなってしまう。
 そのままじわじわとホックに近づいていき、とうとう外してしまう。

「ぁ!……ううっ」

 身体を固くしてブラが落ちないようにする。
 もどさなきゃ……もう一度ホックを付け直して……。
 だめ、このまま……脱いじゃいたいっ!

 結局我慢できずに、そのまま肩紐を腕から抜いて、ブラを制服の上に置いておく。

 恥ずかしい……。
 半端なく恥ずかしいよぉ。
 水泳の授業で女子更衣室で着替えるときだってすっごく恥ずかしいのに……。
 ここ女子更衣室じゃないよ?
 でも、増島君に言われると、どうしても脱ぎたくなっちゃって……ぁぅぅ。

「心結ちゃん、あなたはだんだんパンツを脱ぎたくなる」
「やっ!」

 ダメっ!それだけはダメっ!
 パンツなんて脱いじゃったら、女の子の大事なところまで見えちゃう。
 振り子さえ見なければ、脱ぎたくなんてならないから。

「だめだよ。心結ちゃんは振り子から目をそらすことはできない。どうしてもできない。目が勝手に振り子を見つめてしまう」
「やっ……やぁ」

 一度外れた視線がまた振り子へと戻ってしまう。
 視界の中心に戻った振り子はゆらゆらと揺れて、脱ぎたいという思いを高まらせていく。

「そう……ほら、パンツを脱ぎたくなってくる。脱ぎたくなる……脱ぎたくなる……」

 脱ぎたい……パンツ、脱いじゃいたい……増島君の言葉が頭の中で響いてどんどん脱ぎたくなっちゃう。
 ぅぅ~だめ……脱いじゃ、だめぇ……。

「心結ちゃんはだんだんアソコを見られたくなってくる」
「ぇ?」
「だんだんアソコを見て欲しくなってくる。見られたくなる……見られたくなる……」
「ぁ……でも……ぅぅっ」
「ほぅら、我慢できない。アソコを俺に見て欲しくなる。見せたい……見せたい……」

 やだ……アソコ、見て欲しい……増島君に、私のアソコ、見て欲しい、見せたい。
 でも、そんな……男の子にアソコなんて……絶対見せちゃダメなところだよ。恥ずかしいよ。
 でも……見せたい。

「ぅぅっ……だめっ!……だめだよ……でも……っ」
「脱ぎたいでしょ?脱ぎたいよね。ほら、我慢せずに脱いじゃおうよ」

 振り子が目の前でゆらゆらと揺れるたびに脱ぎたいという思いが強くなっていく。
 だめだってば、だめなのに……どんなに自分に言い聞かせても、アソコを見てもらいたくてたまらなくなってしまう。

「ぅ~~……っ!」
「心結ちゃんはパンツを脱ぎたくなる。脱いでアソコを見せたくなる。我慢できない、ほら……ほら……手が勝手に動いちゃう。パンツを下ろしていく」

 手がゆっくりと動いてパンツの端をつまんだ。
 ぅぅ……このまま下ろせば……ぅぅっ、もういいもん。脱いじゃうもん!

「ぅぅっ……ぅ……えいっ!」

 思い切ってパンツを下ろした。

「ふあぁぁぁ」

 急激に羞恥心が高まって泣きたくなってしまう。
 それでも手は止まらなくて、膝まで下ろしたパンツを足から抜き取って畳んだ制服の上に置いた。
 
 アソコ、見せたいっ。
 この、割れ目の奥の、女の子の秘密を……。

「おお……」

 割れ目を人差し指と中指で押し開くと、増島君の好奇心に満ちた声が聞こえた。
 見てるんだ……クラスメイトの男の子が、私の秘密の場所……こんなに近くで……。

「心結ちゃん、コレ……見て」

 ?なんだろ……。
 羞恥心で頭がぼーっとする。
 増島君はベルトを外してズボンを下げた。
 その股間には女の子には決してありえないモノがついていて……、

「きゃ……っ」

 コレ、男の子の……っ!すごく大きくて、ピンって上むいてる。
 子どものころお父さんとお風呂に入ったときに見たことあるけど、あんなじゃなかった。
 もっと小さくて、柔らかくて、下むいてて……。

「見たこと、ある?」
「……ないです、こんな……」

 ない、としか言いようがない。こんなの見たことない。
 でも、男の人のって、エッチなこと考えたりして興奮すると、おっきくなって上むくんだよね。
 増島君、私のはだかみて興奮したのかな。

「コレ、なんていうんだっけ?」
「えっと……おちんちん……です」

 やだぁ……私、すっごく恥ずかしいこと言った。でも、増島君に訊かれたから答えなきゃって、思っちゃって。
 でも、恥ずかしいな……おちんちん。

「そう、おちんちんを見てると、だんだんエッチな気分になってくるよ」
「ぁ……ぁぁ」
「下半身が熱くなってくる。アソコの奥がうずうずしてくる」
「やっ……ぁぁ」

 ドキンとした。
 恥ずかしいと思う気持ちがそのままエッチな気持ちに変わって、お腹の奥がヘンな感じになる。

「ほらほら、オナニーしたくなってきた」
「あっ……ぁ……くぅん」

 自分で開いている割れ目がむずむずしてきて、たまらず私はクリトリスをいじり始める。
 テレビや小説でキスシーンが出てくると、私はいつもドキドキしてココをいじってしまう。
 今はそれよりずっと触りたいって、思ってしまう。

「あっ……ああっ」
「気持ちいい?」
「はいっ……気持ちいいですっ……ぁぁん」
「クラスメイトのおちんちん見ながらするオナニーが気持ちいいんだ」
「やぁっ!言わないで……」

 私も男性とのセックスを想像してオナニーに耽ることはあったけど、今はクラスメイトの男の子のおちんちんを見ながらオナニーしてる。
 すごく恥ずかしいことのはずなのに、すごく気持ちいい。
 このおちんちんがこのナカにはいっちゃったら、どうなるんだろう……。
 そう考えると、ますますドキドキしてしまう。

「ふふ……でも、指だけで足りるのかな」
「え……?」

 そんな私の気持ちを見透かしたように、増島君は優しくささやきかけてくる。

「ほら、おちんちんをじっと見て……心結ちゃんはだんだんおちんちんが欲しくなってくる。アソコの奥が寂しくなってくる。指を入れても満たされない」
「ぁ……やだぁ、ぅぅ……」

 増島君のおちんちんがとっても魅力的に見えてくる。
 おっきぃ……固そう……。
 アレをこのナカに入れたら……そう考えると、もう……。

「は……ぁぁ……ん……ぅぅ~」

 欲しいよぉ……おちんちん、欲しいよぉ……こんな指じゃ全然物足りない……くぅぅ~。

「はぅっ……くぅん……やぁ、もう……増島君、お願い……」
「ん?なに?」
「お願い……欲しいの……増島君の、おちんちん……」
「ふぅん」
「我慢できないの!お願い……」
「お願いって言われても、具体的にどうすればいいの?」

 具体的に……って、そんな……女の子の口からそんなこと。
 でも、言わないと……貰えない。あのおっきいおちんちん、私の中に……っ!

「わ、私のおまんこに……増島君のおちんちんを、挿れてくださいっ!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。

「ふふ、かしこまりました。机の上に乗って、足を広げて」

 やった……もらえる、挿れてもらえるんだ!
 机の上に乗るのももどかしく感じる。
 机に乗ると、私は挿れやすいように膝を立てて足を開く。
 恥ずかしいところが丸見えになってしまうけど、今は早く、早くおまんこにおちんちんが欲しい!

「増島君、はやくぅ」

 彼のおちんちんが私の入口にあてがわれる。

「ああっ」

 そしてかき分けるようにナカへと押し進める。

「はぅっ!あぅ……ああっ」

 寂しかったナカを熱い肉の棒が満たしていく。
 スゴイ……あったかい……。
 やがて肉棒は最深部へと到着し、奥の壁にコツンと当たる。

「ふああああぁぁぁ」

 今までに感じたことのない圧倒的な満足感。
 足りなかったもの全てを満たしていくような快感に、頭がどうにかなってしまいそうだった。

「はぅぅ、いいよぉ……増島君のおちんちん、気持ちいいよぉ」

 無意識のうちに足を腰に絡ませて下半身を固定させるようにしがみついてしまう。

「恵介君って呼べよ、心結ちゃんはこれから俺のものなんだからさ!」

 恵介君の腰が動き始めて、ナカを満たしていた肉棒が出たり入ったりを繰り返す。

「はっ……は……あ……あ!」

 出そうになったおちんちんが再びナカを貫くと、充実感を伴った快感が体中を駆け巡った。

「んあっ!はぁ……はぁ……ああん、いいよぉ」

 結合部からぐちゅぐちゅと水音が響き、なんだかおちんちんの存在感が大きくなっていってる気がする。

「あっ!はぅ……ああん、いい、もっとぉ」
「エロいな~心結ちゃんは」
「そんなぁ~はぁっ!あぅ……んんっ」

 お腹の奥がキュンキュンと痺れ、そのたびにおちんちんの存在感がさらに深い快感を与えてくれる。

「心結ちゃん、ナカに出すからね。俺が出したら、心結ちゃんもイっていいよ」

 出す……?ぁ、恵介君イっちゃうんだ……。私のナカで、イっちゃうんだ。
 そう思うと、ぞくぞくした期待感がこみ上げてくる。

「はぅん!はい……恵介君がイったら、私も……イっちゃいますぅ!」

 お腹の奥のキュンキュンがますます強くなり、頭の中が気持ちいいことしか考えられなくなる。

「ううっ、出るっ!」

 私のナカでおちんちんが一回り膨らんだと思うと、水鉄砲のように熱い液体が先っぽから出されているのがわかった。

「うああぁぁっ!!出てる……出てるよぉ……っ!恵介君の……出てるぅ」

 その熱い感触が疼いていたお腹の奥を満たしていく。
 スゴイ……きもちいい……。

「熱いよぉ……お腹のなか、しゅごい……」

 溺れていく。この感覚に。
 股間を貫く肉棒の感触、男の子の身体の感触、全てがたまらなく気持ちいい。

「はぁ……はぁ…………ふぅ」

 おちんちんが引き抜かれると、お腹の奥から熱いモノが流れてきて、溢れて外に溢れてしまう。

「ぁぅ~」

 身体が気だるくて、そこまで反応できない。
 なんだか視界が赤い……。
 そっか、もう放課後だっけ。
 あれ……私、なにしてたんだっけ?
 …………気持ちいいから、いいや。



 次の日の放課後。

「みゆ~今日の課題なんだけどさぁ~」
「さっきの授業でわかんないとこが……」

 ふぅ……。

 私は気づかれないように軽くため息をつくと、クラスメイトに笑顔で対応する。
 昨日は日誌を書いてる途中で居眠りしちゃって、増島君がその後日誌を届けたりとかしてくれたみたい。
 その間、よくは思い出せないんだけど、すっごく楽しいことをしていたような気がする。
 そのせいか、今もなんだか気分がいい。

~~~♪~♪~~~~~♪♪

「あれ?心結、携帯鳴ってるよ」
「え、私?」

 机の上に置かれた私の携帯は確かに鳴っている。

「こんな着メロいれたっけ?」

 不思議に思って携帯を手に取ろうとすると、
「あ……れ?」

 私、いかなくちゃ……いかなくちゃ……。

 ガタッ

「ん?心結?」

 呼び止めるクラスメイトの声も届かない。
 おぼつかない足取りで体育館倉庫に向かう。
 どうして私、体育館倉庫なんて向かってるの?
 わからない。わからないけど、そこに行けば、なんだか楽しい遊びが待ってる気がする。
 だから行かなくちゃいけない気がする。
 きっとそうだよ。私、結構カンがいいほうなんだよ。
 その証拠に、ほら、さっきから下半身がスッキリして、なんだかとっても気持ちいいんだ。
 だから、急ごう。体育倉庫に、早く、早く。

 コン  コン

 体育館倉庫の厚い扉をノックする。
 なんのために?
 決まってる。
 先に来て待っているはずの人に敬意を表すために。
 先に来ている人?誰が?

「恵介……くん」

 待っている人を認識するより先に、その名前が口から出た。

「今日も、遊ぼ?」

 スカートをたくし上げて中身を見せながらご挨拶する。

「そうだね、遊ぼうか」

 こうしてまた始まる。
 退屈で煩わしい日常を忘れさせる、異常な時間が。
 夕日が私たちを照らすまで。

< おしまい >



 ……期待ハズレだったかなぁ。
 増島君は決して怠け者というかサボってるってほどではないけど、ぼーっとしてることが多くて、一日の予定も私がいちいち確認しないと忘れていることが多かった。

「ちょっと、増島君?聞いてた?」
「んあ?」
「もう……なんか朝からぼーっとしてない?もうすぐお昼だよ」
「ご、ごめん。なんだっけ」
「5限の化学は実験だから日直は準備しとけって、お昼休みにご飯食べたらすぐ行かなくちゃいけないんだよ」
「そ、そうだったね」

 愛想笑いを浮かべながらごめんごめんと謝罪を繰り返す。
 大丈夫かな本当に。

「はぁ……」

 彼に気づかれないように軽くため息をつく。
 こんなふうに投げられることもよくあることではあるけど、正直あまりいい気はしないな。
 そんなこんなで放課後まで私の仕切りで日直の仕事は進んで、日誌を書いて終わりとなった。
 この日誌もほとんど私が書いたものだし、増島君は私が書いてるのをぼんやりと見てるだけ。

「よし、終わりっ」

 でもまぁ、こんなもんだよね。

「ね、小林さんってテレビとか見るの?」

 日誌を書き終えた瞬間に増島君がそんなことを言い出した。

「ん?なに突然」
「いや、特に意味はないんだけど……」

ホントだよ。なんの脈絡もないよ。

「そうだね~昨日やってた『社会に出よう!』とか、毎週見てるよ」
「え!意外だなぁ、俺も毎週見てるよ」

 『社会に出よう!』っていうのは、今毎週やってるバラエティー番組で、社会問題化している引き篭りやニートといった人たちをいろんな方法で働かせようっていう、個人的には好みの番組で、視聴率もそれなりに高いらしい。
 昨日の回は、催眠術を使ってニートの男性を職安に行かせるという内容だった。
 少し前までパソコンにかじりついて『働きたくないでござる』なんて言ってた不健康そうな男の人が、『労働って素晴らしいですね!』なんてキラキラした目で宣ったときは思わず笑っちゃったよ。

「クラスでも結構見てる人多いよね。毎回よくネタが尽きないと思うよ。昨日も催眠術とか、誰があんなの考えてるんだろうね」

 でもなんか、こんな会話久しぶりだな。

「ヤラセ感たっぷりだったけどね。実際催眠術なんてできるのかな」
「どうだろう。できたら面白いかもしれないけど」

 面白そうだけどね。そんなことできたら、私だったら何に使うかな?

「やってみる?」
「え?」
「催眠術」
「増島君、催眠術つかえるの?!」

 思わず立ち上がって椅子を倒してしまう。

「え?いや……ちょっとだけ」

 増島君は自信なさそうに後ずさったけど、もう私の心は面白そうなことに対する期待でいっぱいだった。

「本当に~?スゴーイ!」
「いや、多少の知識があるだけで、別に凄くは……」
「凄いって!へ~意外だな~増島君っていつも退屈そうに休み時間とか寝てばっかりだけど、そんな特技があったんだ」

 昨日までロクに話もしなかった男の子の意外な一言に、私は好奇心が猛烈に刺激されたのを感じた。

「それでさ、かかってみない?」
「うん!かけてかけて~」

 倒れた椅子を直して座ると、私は心がドキドキしていることに気がつく。
 今まではクラスの人と接するときは、話題は勉強のことばかりで作り笑いしながら受け答えしてきたけど、こんなに楽しい体験ができそうだと思うとワクワクしてしまう。

「う、うん。じゃあえっと、準備するから椅子に座ってリラックスしてて」

 そう言って増島君は鞄を出してごそごそと中を探し始めた。

「ところでさ……小林さんって催眠を体験したことはないんだよね」
「うん。だからちょっと楽しみだよ」
「テレビとかじゃなくてさ、実際に催眠を見たこともないよね」
「そうだね~」

 テレビでならマジックショーとかの延長でやってるのを見たことくらいならあるけど、実際に目の前で見たことはないなぁ。

「じゃあ催眠にかかったらどうなるのか全然わからないよね」
「そうだよね」

 まして自分がかかっちゃうとこなんて想像できないなぁ。

「俺の言う通りにすると簡単にかかっちゃうよ」
「へー」

 なんだか凄い自信。
 そんなに上手なのかな?

「ホントだよ。今まで催眠がうまくかかった人は小林さんみたいなタイプだね」
「そうなの?」

 催眠術って、かかりやすい人とかかりにくい人がいるっていうのは昨日テレビで言ってた気がする。
 
 私ってかかりやすいタイプなのかな?
 催眠術って、ぼんやりしたような、半分寝てるような状態になっちゃうんだよね。
 あんなふうにされちゃうのかな。
 でも不安よりも期待の方が大きいよ。ワクワクするよ。

「じゃあはじめようか」

 そう言って増島君が片手にもっていたものは……、

「って、それ」

 手にしたもの、5円玉に30センチほどのタコ糸をつないだ振り子、を見てあまりの陳腐さに思わず吹き出してしまった。

「定番過ぎない?」
「まぁ……わかりやすくていいじゃん」

 言いながら増島君は振り子を私の目の前にかざした。

「それでは、じ~っと5円玉だけ見つめましょう」

 糸の先の5円玉が軽く揺れ始める。

「5円玉が左右に振れてきます。ゆっくりと揺れていきます。じっと見つめて……目を逸らさないで」

 5円玉の揺れるのを追っていく。
 揺れる振り子から目を離さないようにするのって結構大変だね。
 私は無意識のうちに振り子の動きに集中していった。

「ゆれる、ゆれる、左右にゆれる。揺れる、揺れるもっとゆれる。どんどん大きくゆれる」

 5円玉の揺れが少しずつ大きくなっていく。
 右、左、右、左、右、左………。
 う~集中しなくちゃ……。
 もっと、5円玉だけを見て……。

「もっともっと大きく揺れる。小林さんの心も揺れていく。ゆらり……ゆらり……」

 ゆらり……ゆらり……。

「どんどん心が揺れていく……でもそれはとても気持ちいい。もう振り子に夢中になっていく」

 ゆらり……ゆらゆら……あ、これ……なんだか、いいかも……。

「ほら、振り子に夢中でなにも考えられない。ただ振り子を見つめていたい。だんだん身体がリラックスしていく。だんだん力が抜けていく」

 振り子だけ……見つめる……ゆらゆら、ゆらゆら……ぁぅ。

「次に私がハイと言うと5円玉の動きが止まっていきます」

 振り子の動きが少しずつ小さくなっていく。

「ハイ、5円玉が止まる、とまる。動きが小さくなって静かにとまる。小林さんの心も止まっていく。止まる、止まる、だんだん止まる。もっともっと止まっていきます」

 振り子の動きがゆっくりになると目線を動かさなくてもいい……。
 だから何も考えなくていい。
 ただ見つめていればいいから……。

「止まる、止まる……。ほら、止まっちゃった」

 振り子が止まる。
 私の心も止まる。
 まるで朝布団の中で夢現の時のように、頭がぼんやりしてる……。

「……振り子を見つめて。絶対に目を逸らさないで……そのまま見ていると、だんだん瞼が重くなってきます。どんどん重くなってくる」

 自分の瞼にズーンとした重みを感じる。
 私は授業中ほとんど居眠りなんかしないけど、退屈で何言ってるのかわかんないような授業の時は眠気に襲われるときもある。
 そんな時の眠気に似た感覚が私の瞼を襲う。

「瞼がだんだん下がってきます。どんどん下がってくる……」

 ゆっくりと瞼が下がっていく。

「ほら、どんどん下がってくる。下がってくる……瞼が閉じていく。だんだん眠くなってくる」

 眠気に似た感覚ははっきりと眠気になって全身を包み込んだ。

「眠くなる……眠くなる……目を開けているのが辛い……。勝手に勝手に瞼が閉じていく」

 力が抜けていき、瞼が勝手に閉じていく。
 増島君の言葉が優しく心に染み込んでくる。

「瞼が重い……閉じてしまいたい。眠くてたまらない、眠い……眠い……」

 もう目を開けているのか閉じているのか、それさえわからない。
 首に力が入らなくなって頭が重く感じる。

「眠くなる……眠くなる……眠くなる、眠ってしまう……眠ってしまう…………」

 ふっ、と身体から力が抜けて意識が消えてしまう。
 意識が消えたことを自覚できるのがなんだか不思議だけど。

「眠っている……小林さんは眠っている」

 眠っている意識の中に増島君の声が心地よく響き、自分が眠っているんだということを意識させられる。

「心結ちゃん、あなたは催眠術にかかってしまいました。頭がぼんやりしてとっても気持ちいい。そうですね?」

 ああ、私……催眠術にかかっちゃったんだ……。
 うん、ぼんやりして、気持ちいいよ。
 名前で呼んでくれるんだ。
 そのほうが気持ちいいし、嬉しいな。

「私が覚めなさいと言うまでは目が覚めません。これから私が20まで数を数えます。数える度にあなたは自分でだんだん、だんだんと深い快い眠りに落ちてしまいます。それはとても気持ちよくて抵抗することができません。いいですか?よければハイと返事をしてください」
「……はい」

 反射的に返事を返す。
 増島君が言っている言葉の意味は半分も理解できないけど、気持ちいいからいいや。

「ひとーつ……だんだんグッスリと眠り込んでいきます。ふたーつ……どんどん眠りが深くなっていきます。みっつ……よっつ……もっと、もっと深く眠りこんでいきます」

 ゆっくりと深いところに沈んでいくような感覚に襲われる。
 その感覚はとても心地よくて、とても抵抗なんてできない。
 抵抗しようという気すら起きない。

「いつーつ……もう身体に力が入らない……むーっつ……ななーつ、ふか~くふか~く眠っていきます。私の声と私の言うことだけに注意していてくださいね」
「……はぃ」

 今私、ちゃんと返事できてたかな?
 もうよくわからないや。
 増島君の言うことだけ聞けばいいんだよね。
 こんなに気持ちいいんだから、私なんでも言うこときくよ。

「やっつ……ここのーつ……とーお。もう心結ちゃんはふか~い催眠にかかってしまいました。じゅういち……じゅーに……深く、深く……ずうっと深く眠りこんでいきます。じゅうさん……じゅうし……じゅうご……催眠は深くなっても私の声は良く聞こえます。私の声だけは聞こえます。いいですね?」

 どんどん深いところに沈んでいく……。
 ぁぁ……日曜日に二度寝した時のまどろみを何倍にも気持ちよくしたようなこの感覚。

「じゅうろく……じゅうしち……じゅうはち……もう心結ちゃんは深く深く眠り込んでなにも考えられない。自分からどんどん深く催眠にかかっていく」

 ぅん、もう自分から沈んでいっちゃうよ……。
 なんにも考えたくないよ……。

「じゅうく……にじゅう……。……心結ちゃん?聞こえる?」
「…………はぃ」
「心結ちゃんは深い深い催眠状態になった。わかるね?」
「……はい」

 み ゆ は ふ か い ふ か い さ い み ん じ ょ う た い に な り ま し た 。

「心結ちゃん、これから3つ数えると、あなたは目を覚まします。ただし、目を開けても深い催眠状態のままです」
「はい……目を覚まします……でも、催眠状態……」
「そう、頭はぼんやりしたまま。いいですね。ひとつ……ふたつ……みっつ!」

 あんなに重かった瞼は案外あっさり開いた。
 見慣れた教室の景色が目に入ってくる。
 だけどそれを見て、なにも心が働かない。
 なにも感じない。
 ただぼんやりと目を開けた、ただそれだけ。

「……小林、さん?」

 なにか声が聞こえたような気がしたけど、小林さんって、誰だろ?

「心結ちゃん……」

 増島君の声だ。私の名前……だよね?返事しなくちゃ。

「……はい」

 声がしたほうを見ようと振り返る。
 なんだか身体を動かすのがひどく億劫だ。
 見ると増島君は嬉しそうに振り子を握り締めている。
 どうしたんだろ……。

「心結ちゃん、振り子を見て……」

 目の前に再び振り子が現れ、ゆらゆらと揺れていく。
 私の目も振り子を追ってゆらゆらと揺れる。

「この振り子を見ていると、心結ちゃんはだんだん服を脱ぎたくなってきます。だんだん服を脱ぎたくなってくる」

 増島君の言葉が頭のなかで響いてくる。
 同時にセーラー服を脱ぎたいという思いがこみ上げてきた。
 
 私……服を脱ぎたくなる……。
 脱ぎたくなる……。脱ぎたく……。

「ほら、脱ぎたくなる……脱ぎたくなる……制服を脱いで下着姿になりたくなる」

 手がスルスルと上着の左のファスナーに伸びていく。

「そう……脱ぎたくなる、脱ぎたくてたまらなくなる」

 ファスナーを上げてセーラー服の裾を持つと、ゆっくりと持ち上げ、そのまま首から抜き取った。
 脱いだ上着を机に置くと、プリーツスカートのボタンを外し、ファスナーを下ろしてスカートを脱ぎ始めた。

 待って。スカート脱いじゃうと、パンツ……見えちゃう。
 もうブラ見えちゃってるけど……でも……。

「恥ずかしい?」

 恥ずかしいよ。

「どうして?」
「……クラスメイトの、男の子に……下着、見られちゃう……」
「そうだね、見られちゃうね。でも、心結ちゃんは脱ぎたくてしかたがない。ほら、振り子を見て。脱ぎたくなる。脱ぎたくなる」

 揺れる振り子を追っていると、だんだん脱ぎたくてたまらなくなってくる。
 
 スカートを脱ぎたい……脱いでしまいたい……。

 どうしてこんな気持ちになるのかわからないけど、揺れる振り子から「脱いじゃえ脱いじゃえ」って言われてるみたいで……脱いでしまいたくてたまらない。
 
 もういいや、脱いじゃえ。

 スカートを脱いで、先に脱いだ制服と一緒に畳んで机の上に置いておく。

「ぅぅ……」

 クラスメイトの男の子に下着姿を見られてる。
 普段はスカートが風とかで軽く持ち上がるだけでも恥ずかしいのに、私……どうしちゃったんだろ……。

「恥ずかしそうだね」
「は……い」

 恥ずかしいよ……でも、脱ぎたかったんだもん。

「でも、もっと恥ずかしいことをするよ」

 え?と問いかける前にまた目の前に振り子が現れる。

「あなたはだんだんブラを外したくなる」

 かあっと顔が赤くなる。

 そんな……!ブラなんて外したら、胸……見えちゃうっ!
 でも……外したい……っ、だめっ!

「ほぅら、脱ぎたくなる……脱ぎたくてたまらない。ブラを外したくてたまらなくなる」
「ぁ……」

 脱ぎたい……だめ、だよぉ……。でも、脱ぎたいっ。

「みっつ数えると、心結ちゃんはブラを外したくて我慢できなくなってしまう。いくよ……ひとつ、ふたつ、みっつ!」

 増島君が数え終わると同時に、どうしようもなくブラを外したいという思いがこみ上げてくる。

「ぁ……だめ……」

 胸……おっぱいなんて、恥ずかしくて見せられないよ……。
 でも、ブラ、外したい……。
 くぅ~、外したい……でも、でもっ。

「……ぅぅ……ぅ~」

 手が勝手にフロントホックをはずそうと動いてしまう。
 なんとか抑えてるけど、でも……ぁぁ、手がブラに触れてしまうとそこで離すことができなくなってしまう。
 そのままじわじわとホックに近づいていき、とうとう外してしまう。

「ぁ!……ううっ」

 身体を固くしてブラが落ちないようにする。
 もどさなきゃ……もう一度ホックを付け直して……。
 だめ、このまま……脱いじゃいたいっ!

 結局我慢できずに、そのまま肩紐を腕から抜いて、ブラを制服の上に置いておく。

 恥ずかしい……。
 半端なく恥ずかしいよぉ。
 水泳の授業で女子更衣室で着替えるときだってすっごく恥ずかしいのに……。
 ここ女子更衣室じゃないよ?
 でも、増島君に言われると、どうしても脱ぎたくなっちゃって……ぁぅぅ。

「心結ちゃん、あなたはだんだんパンツを脱ぎたくなる」
「やっ!」

 ダメっ!それだけはダメっ!
 パンツなんて脱いじゃったら、女の子の大事なところまで見えちゃう。
 振り子さえ見なければ、脱ぎたくなんてならないから。

「だめだよ。心結ちゃんは振り子から目をそらすことはできない。どうしてもできない。目が勝手に振り子を見つめてしまう」
「やっ……やぁ」

 一度外れた視線がまた振り子へと戻ってしまう。
 視界の中心に戻った振り子はゆらゆらと揺れて、脱ぎたいという思いを高まらせていく。

「そう……ほら、パンツを脱ぎたくなってくる。脱ぎたくなる……脱ぎたくなる……」

 脱ぎたい……パンツ、脱いじゃいたい……増島君の言葉が頭の中で響いてどんどん脱ぎたくなっちゃう。
 ぅぅ~だめ……脱いじゃ、だめぇ……。

「心結ちゃんはだんだんアソコを見られたくなってくる」
「ぇ?」
「だんだんアソコを見て欲しくなってくる。見られたくなる……見られたくなる……」
「ぁ……でも……ぅぅっ」
「ほぅら、我慢できない。アソコを俺に見て欲しくなる。見せたい……見せたい……」

 やだ……アソコ、見て欲しい……増島君に、私のアソコ、見て欲しい、見せたい。
 でも、そんな……男の子にアソコなんて……絶対見せちゃダメなところだよ。恥ずかしいよ。
 でも……見せたい。

「ぅぅっ……だめっ!……だめだよ……でも……っ」
「脱ぎたいでしょ?脱ぎたいよね。ほら、我慢せずに脱いじゃおうよ」

 振り子が目の前でゆらゆらと揺れるたびに脱ぎたいという思いが強くなっていく。
 だめだってば、だめなのに……どんなに自分に言い聞かせても、アソコを見てもらいたくてたまらなくなってしまう。

「ぅ~~……っ!」
「心結ちゃんはパンツを脱ぎたくなる。脱いでアソコを見せたくなる。我慢できない、ほら……ほら……手が勝手に動いちゃう。パンツを下ろしていく」

 手がゆっくりと動いてパンツの端をつまんだ。
 ぅぅ……このまま下ろせば……ぅぅっ、もういいもん。脱いじゃうもん!

「ぅぅっ……ぅ……えいっ!」

 思い切ってパンツを下ろした。

「ふあぁぁぁ」

 急激に羞恥心が高まって泣きたくなってしまう。
 それでも手は止まらなくて、膝まで下ろしたパンツを足から抜き取って畳んだ制服の上に置いた。
 
 アソコ、見せたいっ。
 この、割れ目の奥の、女の子の秘密を……。

「おお……」

 割れ目を人差し指と中指で押し開くと、増島君の好奇心に満ちた声が聞こえた。
 見てるんだ……クラスメイトの男の子が、私の秘密の場所……こんなに近くで……。

「心結ちゃん、コレ……見て」

 ?なんだろ……。
 羞恥心で頭がぼーっとする。
 増島君はベルトを外してズボンを下げた。
 その股間には女の子には決してありえないモノがついていて……、

「きゃ……っ」

 コレ、男の子の……っ!すごく大きくて、ピンって上むいてる。
 子どものころお父さんとお風呂に入ったときに見たことあるけど、あんなじゃなかった。
 もっと小さくて、柔らかくて、下むいてて……。

「見たこと、ある?」
「……ないです、こんな……」

 ない、としか言いようがない。こんなの見たことない。
 でも、男の人のって、エッチなこと考えたりして興奮すると、おっきくなって上むくんだよね。
 増島君、私のはだかみて興奮したのかな。

「コレ、なんていうんだっけ?」
「えっと……おちんちん……です」

 やだぁ……私、すっごく恥ずかしいこと言った。でも、増島君に訊かれたから答えなきゃって、思っちゃって。
 でも、恥ずかしいな……おちんちん。

「そう、おちんちんを見てると、だんだんエッチな気分になってくるよ」
「ぁ……ぁぁ」
「下半身が熱くなってくる。アソコの奥がうずうずしてくる」
「やっ……ぁぁ」

 ドキンとした。
 恥ずかしいと思う気持ちがそのままエッチな気持ちに変わって、お腹の奥がヘンな感じになる。

「ほらほら、オナニーしたくなってきた」
「あっ……ぁ……くぅん」

 自分で開いている割れ目がむずむずしてきて、たまらず私はクリトリスをいじり始める。
 テレビや小説でキスシーンが出てくると、私はいつもドキドキしてココをいじってしまう。
 今はそれよりずっと触りたいって、思ってしまう。

「あっ……ああっ」
「気持ちいい?」
「はいっ……気持ちいいですっ……ぁぁん」
「クラスメイトのおちんちん見ながらするオナニーが気持ちいいんだ」
「やぁっ!言わないで……」

 私も男性とのセックスを想像してオナニーに耽ることはあったけど、今はクラスメイトの男の子のおちんちんを見ながらオナニーしてる。
 すごく恥ずかしいことのはずなのに、すごく気持ちいい。
 このおちんちんがこのナカにはいっちゃったら、どうなるんだろう……。
 そう考えると、ますますドキドキしてしまう。

「ふふ……でも、指だけで足りるのかな」
「え……?」

 そんな私の気持ちを見透かしたように、増島君は優しくささやきかけてくる。

「ほら、おちんちんをじっと見て……心結ちゃんはだんだんおちんちんが欲しくなってくる。アソコの奥が寂しくなってくる。指を入れても満たされない」
「ぁ……やだぁ、ぅぅ……」

 増島君のおちんちんがとっても魅力的に見えてくる。
 おっきぃ……固そう……。
 アレをこのナカに入れたら……そう考えると、もう……。

「は……ぁぁ……ん……ぅぅ~」

 欲しいよぉ……おちんちん、欲しいよぉ……こんな指じゃ全然物足りない……くぅぅ~。

「はぅっ……くぅん……やぁ、もう……増島君、お願い……」
「ん?なに?」
「お願い……欲しいの……増島君の、おちんちん……」
「ふぅん」
「我慢できないの!お願い……」
「お願いって言われても、具体的にどうすればいいの?」

 具体的に……って、そんな……女の子の口からそんなこと。
 でも、言わないと……貰えない。あのおっきいおちんちん、私の中に……っ!

「わ、私のおまんこに……増島君のおちんちんを、挿れてくださいっ!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。

「ふふ、かしこまりました。机の上に乗って、足を広げて」

 やった……もらえる、挿れてもらえるんだ!
 机の上に乗るのももどかしく感じる。
 机に乗ると、私は挿れやすいように膝を立てて足を開く。
 恥ずかしいところが丸見えになってしまうけど、今は早く、早くおまんこにおちんちんが欲しい!

「増島君、はやくぅ」

 彼のおちんちんが私の入口にあてがわれる。

「ああっ」

 そしてかき分けるようにナカへと押し進める。

「はぅっ!あぅ……ああっ」

 寂しかったナカを熱い肉の棒が満たしていく。
 スゴイ……あったかい……。
 やがて肉棒は最深部へと到着し、奥の壁にコツンと当たる。

「ふああああぁぁぁ」

 今までに感じたことのない圧倒的な満足感。
 足りなかったもの全てを満たしていくような快感に、頭がどうにかなってしまいそうだった。

「はぅぅ、いいよぉ……増島君のおちんちん、気持ちいいよぉ」

 無意識のうちに足を腰に絡ませて下半身を固定させるようにしがみついてしまう。

「恵介君って呼べよ、心結ちゃんはこれから俺のものなんだからさ!」

 恵介君の腰が動き始めて、ナカを満たしていた肉棒が出たり入ったりを繰り返す。

「はっ……は……あ……あ!」

 出そうになったおちんちんが再びナカを貫くと、充実感を伴った快感が体中を駆け巡った。

「んあっ!はぁ……はぁ……ああん、いいよぉ」

 結合部からぐちゅぐちゅと水音が響き、なんだかおちんちんの存在感が大きくなっていってる気がする。

「あっ!はぅ……ああん、いい、もっとぉ」
「エロいな~心結ちゃんは」
「そんなぁ~はぁっ!あぅ……んんっ」

 お腹の奥がキュンキュンと痺れ、そのたびにおちんちんの存在感がさらに深い快感を与えてくれる。

「心結ちゃん、ナカに出すからね。俺が出したら、心結ちゃんもイっていいよ」

 出す……?ぁ、恵介君イっちゃうんだ……。私のナカで、イっちゃうんだ。
 そう思うと、ぞくぞくした期待感がこみ上げてくる。

「はぅん!はい……恵介君がイったら、私も……イっちゃいますぅ!」

 お腹の奥のキュンキュンがますます強くなり、頭の中が気持ちいいことしか考えられなくなる。

「ううっ、出るっ!」

 私のナカでおちんちんが一回り膨らんだと思うと、水鉄砲のように熱い液体が先っぽから出されているのがわかった。

「うああぁぁっ!!出てる……出てるよぉ……っ!恵介君の……出てるぅ」

 その熱い感触が疼いていたお腹の奥を満たしていく。
 スゴイ……きもちいい……。

「熱いよぉ……お腹のなか、しゅごい……」

 溺れていく。この感覚に。
 股間を貫く肉棒の感触、男の子の身体の感触、全てがたまらなく気持ちいい。

「はぁ……はぁ…………ふぅ」

 おちんちんが引き抜かれると、お腹の奥から熱いモノが流れてきて、溢れて外に溢れてしまう。

「ぁぅ~」

 身体が気だるくて、そこまで反応できない。
 なんだか視界が赤い……。
 そっか、もう放課後だっけ。
 あれ……私、なにしてたんだっけ?
 …………気持ちいいから、いいや。



 次の日の放課後。

「みゆ~今日の課題なんだけどさぁ~」
「さっきの授業でわかんないとこが……」

 ふぅ……。

 私は気づかれないように軽くため息をつくと、クラスメイトに笑顔で対応する。
 昨日は日誌を書いてる途中で居眠りしちゃって、増島君がその後日誌を届けたりとかしてくれたみたい。
 その間、よくは思い出せないんだけど、すっごく楽しいことをしていたような気がする。
 そのせいか、今もなんだか気分がいい。

~~~♪~♪~~~~~♪♪

「あれ?心結、携帯鳴ってるよ」
「え、私?」

 机の上に置かれた私の携帯は確かに鳴っている。

「こんな着メロいれたっけ?」

 不思議に思って携帯を手に取ろうとすると、
「あ……れ?」

 私、いかなくちゃ……いかなくちゃ……。

 ガタッ

「ん?心結?」

 呼び止めるクラスメイトの声も届かない。
 おぼつかない足取りで体育館倉庫に向かう。
 どうして私、体育館倉庫なんて向かってるの?
 わからない。わからないけど、そこに行けば、なんだか楽しい遊びが待ってる気がする。
 だから行かなくちゃいけない気がする。
 きっとそうだよ。私、結構カンがいいほうなんだよ。
 その証拠に、ほら、さっきから下半身がスッキリして、なんだかとっても気持ちいいんだ。
 だから、急ごう。体育倉庫に、早く、早く。

 コン  コン

 体育館倉庫の厚い扉をノックする。
 なんのために?
 決まってる。
 先に来て待っているはずの人に敬意を表すために。
 先に来ている人?誰が?

「恵介……くん」

 待っている人を認識するより先に、その名前が口から出た。

「今日も、遊ぼ?」

 スカートをたくし上げて中身を見せながらご挨拶する。

「そうだね、遊ぼうか」

 こうしてまた始まる。
 退屈で煩わしい日常を忘れさせる、異常な時間が。
 夕日が私たちを照らすまで。

< おしまい >

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