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「あぁ~あ、遅くなっちゃった」
1人の女性がぼやきながら急ぎ足で歩く。
会社で絞られたのだろうか、表情は冴えない。
「ま、気分転換としますか」
無理やり気分を変えると、お気に入りの店を目指す。
もうすぐ昼時だ。
混雑を避けようと、ショートカットする為に公園を横切る。
「さて、何を食べようかな~」
鼻歌交じりに公園を歩く。
しばらく進んだ時、女性は気付いた。
何か変だ。
いつもならとっくに通り過ぎる筈の公園が、いつまで経っても終わらない。
おかしい。
慌てて周りを見回すと、辺りが一変していた。
色彩が薄れ、まるで古い写真の中にいる様になる。
さらに木やベンチといった物の位置関係が崩れ、トリックアートに迷い込んだ様だった。
女性は怖くなり、助けを求めて走り出した。
どんっ!
何かにぶつかり、尻餅をついた。
壁?
そう思える程、巨大だった。
見上げると、そこには女性の理解を越えるモノがあった。
隆々とした逞しい体。
赤い肌。
頭にある角。
それは昔話に出てくる鬼そのものだった。
女性は唖然とした。
「ゴガァオアィアァガオァァコアウアァイィアキィアゴアジャオジガァアァアアッ!」
鬼が吼えた。
その瞬間、女性は我に返った。
「ひぃぃっ!」
這い蹲る様にして逃げた。
殺される!
必死で逃げようとするが、意識ばかりが空回りして、まるで体が進まない。
それでも必死で逃げた。
逃げ続けた。
どれ位逃げただろうか。
女性は躓き、倒れこんだ。
慌てて後ろを振り向くと、鬼はすぐ近くに居た。
「きゃゃぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁあああぁああああああぁっ!」
女性は絶叫した。
鬼が女性のすぐ傍まで歩み寄る。
女性は恐怖から声も出ない。
ただ、怯えた目で縋る様に鬼を見るだけだ。
その時、鬼の目が怪しく光った。
その光を見た瞬間、女性から恐怖がすぅっと消えた。
そして浮かんでくる、圧倒的な安堵感。
あれ程恐ろしかった鬼が、心安らぐ存在に思えてくる。
「ど……ぅ……して……」
そんな事はありえない。
否定してみても、その気持ちはどんどん膨らんでいった。
鬼が巨大な手で女性を掴み、乱暴に起き上がらせる。
痛みを伴うその行為すら、好ましく思えてしまう。
「そんな訳……ない……」
女性が震える。
「そんな訳……ない……のに……」
それは喜びからの震えだった。
「何でこんなに好きなのぉぉぉっ!」
女性の顔は、恋する乙女の様に赤くなっていた。
それを見て、鬼が二マリと笑う。
鬼が自らの巨大な男根を女性に突きつけた。
女性は恥ずかしそうにしながらも、それに愛しく口付けした。
そして丹念に舐め上げていく。
鬼が歓喜の叫びを上げ、女性にもっと奉仕を促す。
女性もそれに応え、深く咥えては口全体で愛撫する。
その行為は、愛する者にする奉仕そのものだった。
もっと気持ちよく、もっと喜んで欲しかった。
やがて鬼は満足したのか、女性を乱暴に後ろを向かせた。
女性は察した様に下着を脱ぎ、尻を高く持ち上げる。
その膣はすっかり潤っていた。
期待に満ちた目で、鬼を見た。
鬼は乱暴に突き入れた。
「ひぃぁぁいいあっぁいぃあぁいぁいぅああぁぁぁっ!」
ただそれだけで女性はイッた。
鬼は気分をよくしたのか、更に腰を動かし始めた。
巨大な男根が女性の膣内を何度も行き来した。
「あぁぁあっ! いぁいああぁぁひぁああぃあいあぁぁっ!」
いくら充分に潤っていたとはいえ、女性に対してその男根は大き過ぎた。
普通なら苦痛しか生まないはずの乱暴な行為に、女性はただただ嬌声を上げ続ける。
その表情は快感しか感じていなかった。
行為に積極的なのは、寧ろ女性の方だった。
鬼はその様子に満足したのか、一層激しく腰を打ち付ける。
「ひぃっぃぎぃぃぃいっ! あぁひぁあぃぃぁいあいぁぁっぁあああっ!」
女性はそれに反応し、さらに淫らに声を上げ、全身で快楽を感じていた。
それと同時に、体から何かを吸い取られていると感じた。
だが、それも快楽のスパイスにしかならない。
その目はもう何も映してはおらず、締りの無い口からは涎が垂れ流されていた。
行為は何時までも続くかと思われた。
何も無い空間に突如としてヒビが入り、砕けた。
鬼が目を向けると、その空間が砕けた出来た穴の中から人が飛び込んできた。
紫がかった黒のセーラー服。
リボンで纏めたツインテール状の長い黒髪。
どう見ても女子高生だった。
「ごぁあぁあぁぁぁぁぁぁあぁああああぁぁあああぁぁっ!」
侵入者に向かって鬼が吼える。
女性を乱暴に払い除けると、体ごと向き直った。
「ふ~ん、下級の鬼タイプ一匹ね……」
女子高生が悠然と構える。
「これならすぐに終りそうね」
そう言って軽く笑みを浮かべた。
左手を横に伸ばすと、その先の空間が歪んだ。
更にそこに手を突っ込み引き出すと、その手には長大な弓が握られていた。
両端は二股に分かれ、弦がクロスする様に張られている。
女子高生がゆっくりと弓を鬼に向けた。
それが合図だったかの様に、鬼が猛然と突進した。
――速い。
10メートルはあった距離が一瞬で無くなる。
そのままの勢いで鬼は豪腕を振るった。
普通なら回避など不可能なタイミングだ。
が、それは空しく空を切った。
次の瞬間、その背中に矢が突き刺さる。
「……遅い」
女子高生が背後から射ったのだ。
何時の間に背後に動いたのか。
鬼は振り返ると、再度突進し攻撃する。
が、結果は同じだった。
何故鬼の攻撃が当たらないのか。
理由は簡単、女子高生の方が速いのだ。
普通の人間が見れば、瞬間移動に等しいスピードだろう。
鬼は激昂した様に叫び、闇雲に攻撃を繰り返す。
「……バカ?」
その都度女子高生は的確に反撃した。
鬼は何本もの矢を全身に受け、身動きが取れなくなる。
「これでお仕舞いね」
女子高生の持った弓矢に光が宿る。
それが放たれ、鬼の眉間に突き立った。
「ごぃあいぁぁおおあぁいぁうじゃぃあいあぃあいばじゃああっ!」
鬼は叫びながら光と化し、消えていった。
それに合わせる様に周囲も変化し、ただの公園に戻った。
女子高生は、倒れたまま女性に歩み寄る。
女性はまだ物足りないのか、声を上げながら自慰に耽っていた。
その顔はかなり衰弱していた。
女子高生は携帯電話を取り出した。
「被害者の一般女性を確保したわ。ただ、汚染されてるから処置をお願い」
暫くすると車が到着し、数人の男が女性を運び込んだ。
リーダーらしい男が女子高生の一礼すると、車は走り去った。
「さて、私も学校行きますか……」
もう昼だ。
大遅刻だが、そんな事は気にしなかった。
「おはよう、慧!」
女子高生が教室に入ると、それに気付いた友人が声を掛けた。
「もう昼休み中。早くないわ、茜」
呼ばれた女子高生――緋室慧が、お前が言うな的な返事を返す。
「それもそっか」
呼んだ友人――吉沢茜が、てへっと笑いながら駆け寄ってくる。
が、数歩進んだ所でよろめき倒れそうになった。
「危ないっ!」
咄嗟に手を伸ばし助ける。
「ごめんごめん、ありがと、慧」
礼を言う茜。
だが、近くで見ると茜の顔色は悪かった。
「保健室行こう」
有無を言わさず慧が、茜の手を引き歩き出す。
「えっ? 大丈夫だよ」
そう言って抵抗する茜の肩を、慧は軽く押す。
それだけでふらついて倒れそうになる。
再び慧に支えられた茜は、しぶしぶ保健室に連行された。
「……ごめんね」
自分の体調には自覚があったのか、すまなそうに茜が言った。
保健室に着くと、保険医は不在だった。
仕方なくベットに茜を寝かせると、すぐに寝息を立て始めた。
相当衰弱していたのだろう。
暫く寝かしておいた方が良さそうだ。
その原因が一流セイバーである慧には分かっていた。
人には生命力と呼ばれるものがある。
一般には気とかプラーナとかチャクラとかオーラとか言われる物だ。
セイバー達はそれを「マナ」と呼んだ。
それが随分と弱っていた。
これでは体調が良くなる筈は無い。
通常ならこんなにマナが減少する事はありえない。
例えば先程の女性の様に、妖魔に吸い取られたりでもしない限りは……。
慧にとって茜はただの一般人の親友だが、慧の勘が茜には何かあると告げていた。
茜には平和に過ごして欲しかった。
その為には自分が茜を守らなければ。
慧はそんな事を思っていた。
そんな時、ふと昼間の出来事が思い出された。
女性が鬼とSEXしている場面だ。
何故かそこに自分がSEXしているイメージが重なった。
慧は慌てて頭を振り、そんな卑猥なイメージを吹き飛ばそうとした。
しかし、想像は消えなかった。
慧自身も年頃である。
恋や性に興味が無い訳では無い。
が、セイバーとして長く活動してきた為、人外の性行を見過ぎていた。
人は容易に快楽に流される。
その思いが慧を恋愛に対して奥手にさせていた。
しかし、そんな慧にも気になる人物がいた。
嘗て幾つもの戦場で背中を預けた戦友だ。
しかし、その人物は……。
慧は悶々と考え続けた。
「失礼します」
突然扉が開き、男子生徒が入ってきた。
他の事に気を取られていた慧は、その気配に気付かなかった。
そしてその生徒を見て心臓が止まりそうになる。
つい今しがた想像していた人物だったからだ。
「――え、円城寺君」
「緋室が付いててくれたのか、ありがとう」
円城寺武が薄く笑う。
そしてベットまで歩み寄ると、心配そうに茜を気遣った。
「……あれ? 武?」
その気配を感じたのか、茜が目を覚ます。
「あれあれ? 慧も……そっか、あたし、寝ちゃったんだ……」
「そう、昼休みにね。今はもう放課後よ」
「なるほどね……。あはは、心配かけてすまんです。でも、ぐっすり寝たら良くなったよ」
茜は身を起こしながら笑うが、どう見てもやせ我慢だった。
「大丈夫? 無理しない方がいいよ」
「平気平気。武もいるしね」
そう言って武を見ると、任せろとばかりにニヤリと笑う。
「あぁ、今日は送って行くよ」
その手には教室から持参した茜の鞄があった。
「起きられるか?」
武が聞くと、茜は頷いた。
「だいぶ良くなったよ。後は帰ってたくさんご飯食べて寝るっ!」
無理した笑顔でサムズアップ。
残りの2人は笑うしかない。
少しふらふらしながらもベットから降りた。
「ありがとね、慧。ごめんね。結局授業受けられなかったね。何の為に学校来たんだか……」
「授業より親友の方が大事だから」
そう言うと茜は真っ赤になった。
「なにそれ超照れる! もっと言って!」
「……言わない。ほら、行くよ」
そうして3人で保健室を後にした。
校門を出た辺りで帰り道は別れる。
「じゃあね、慧。また明日!」
そう言って茜は手を振って歩き始める。
隣の武も軽く頭を下げ、後に続く。
「あ、自分も……」
送って行こうか。
言いかけるが、武を見て口篭った。
「……うん、そだね、また明日」
慧も手を振った。
慧は暫く見送る様に2人を見ていた。
2人は極普通、いやそれより少し遠い距離で並んで歩いている。
その姿に、慧は少しの寂しさを感じた。
「もっとくっついちゃえばいいのに……」
そうすれば私も……。
続く言葉は、声にはならなかった……。
そうして2人は茜色に染まる街へと消えて行った。
< 続く >