探偵を探偵 浮気調査(上)

浮気調査(上)

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「だ……だから……私とお付き合いして下さい」

 ペコリ、という音が聞こえてきそうな綺麗なお辞儀。
 琴音でもう何人目なんだろうな、と思いつつ私は彼女の告白を断る。

「あなたの気持ちは嬉しいんだけどね。私、男の人が好きなの。ごめんなさい」

 あからさまに落ち込んでいる彼女を尻目に、私はそそくさとその場を立ち去った。
 20分かけて重い想いを語った彼女はその後女子高を卒業するまで、以降も私を避け続けた。

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 さて、女性が煙草を燻らすのを非難する男性がいる。
 しかし私は異を唱えたい。マルボロの一つも嗜めない女性が男を理解するなぞ、とんと不可能であると。その点私は男性に寄り添う優れた女であると。

「あの……先輩? 聞いていますか?」

 そんなことを声高に主張しているから男が寄り付かないのだろうか。
 否、下手に弁護士資格なぞ持っているから世の男性は私に振り向かないのか。
 ここは愚かな女を装い背後から金的を蹴り上げるように近づくべきか。

 ……男相手だと上がる癖なんとかしないとなぁ……。

「みながわれいなせんぱーい」

 ため息を一つ。なぜこの道を選んでしまったのか。いや、この道を選んでいても、もっといいやり方があったはず。

「私、れいな先輩のこと……いまだにお慕い申しあ」
「私女性は無理なの。ごめんなさい」
「聞いてるじゃないですか!」

 私たちは低い机を挟んでソファに座っている。向かいで突っ込みを入れる本日の依頼人は、峰林 琴音 (みねばやし ことね)。
 年齢27歳。高校の一つ後輩にあたる女性だ。
 ……やっぱ、彼女が5つ年上ということにしておこう。わたしぃ、大卒1年目のぉ、きゃぴきゃぴがーるでぇーす♪
 ……無理か。吐き気がした。

「でも今でも素敵だと思ってます、本当に。先輩はカッコいいんですよ。でもそのマイペースなところは直した方がいいと思います。折角のそっくりさんなのに。北が」
「やめなさい。他人に例えるのは」

 私は、こほん、と咳払いをして雑談を始める。

「……で、琴音が久しぶりにコンタクト取ってきたかと思えば、彼女の浮気調査依頼だと。ほんと高校以来ね。以来だけに」
「……それも直した方がいいと思いました」

 失敬な。苛々するわ。以来だけに。私はお返しとばかりに彼女をほめてあげる。

「琴音は川ぐ」
「やめてください。他人に例えるのは」

 ……むぅ。

 ここは女性客専門探偵事務所。川怜探偵事務所、兼自宅だ。名前から分かる通り、私が個人で立ち上げ、運営している。一人で何でもやるのは気楽でいい。その分色々大変だけど。

 あーそろそろ税金、税務署に申告しなきゃなぁ。
 あそこの窓口のおじさま、色々くたびれてる様子だけどもうこの際あの人でもいいかなぁ。こうも出会いがないと、少しの接点しかない男性でもそういう相手として見てしまう。

「……」

 琴音が睨んできている。殺気を感じた私は気を取り直して、さっき彼女が持ってきた資料に目を落とす。
 優しく微笑む写真の中の美少女が今回疑惑を掛けられている女の子だ。
 ぱっちりとした二重瞼に特徴的な大きな瞳、肩下までの黒のセミロングは綺麗にそろえられている。
 身長は160センチあるかないかぐらいだろう。私たちと6、7センチ差ぐらいかな?

「彼女さんの名前は紗崎 京子(ささき きょうこ)ちゃん、ね……ふむ」

 殺気……さっき……ささき……。なるほど。
 そこで私は顔をあげ、琴音に詳しい話を聞く。

「ダジャレね。このロリコンレズ」
「何の話ですか!? い、いや、私はロリコンではないです。確かに彼女はうちの学園の生徒ですが、私と真剣に交際を続けてくれてます。真剣です」
「ロリコンレズ教師」
「ち……ちがっ……。た、確かに私は月毎にお小遣いをあげてますし、私の生徒なので甘めに内申付けちゃうこともありますけどロリではないです!」
「ロリコンレズ汚職教師」

 流石に言い過ぎたのか、琴音は五月雨ばりの涙を流す。そして私は悲しい現実を体感することになる。

「ぅ……だって……だって……。この機会逃したら私もう一人ぼっちになっちゃうかもしれないんです……先輩は良いですよね。もてもてでしょうし、私みたいなレズの気持ち分からないんですよ。いいです。帰ります」
「まぁ待ちなさい。気持ちなら痛いほど分かるから」

 彼女が犯罪を犯したら私が弁護してあげよう。
 私も内心、涙を流しつつ、彼女を引き留めた。ついでに私の中で琴音への成績を見直した。独身点17点だったけど、73点に上方修正しよう。

「えーと、京子ちゃんの相手は男の可能性が高いのね?」
「はい、あの匂いは多分、男の人独特のものです。それに、普段私と京子は一緒に寝てるのですが、私のベットに男の毛と思われる醜い物が付着しております。それが6枚目の写真になります。そしてこの23枚目の写真が、白濁液です。お風呂場にて発見しました。更に……」

 一つ一つ写真を解説してくれる琴音。
 ところで探偵は二人一組が普通である。
 彼女を相棒に雇おうかしら。あ、独身点は87点ね。私が91点だから後もうちょっとよ。

「あー」
「私は、元気です。まだそうと決まった訳ではありませんから。彼女、最近冷たいんです。一昨日まで、あんなに私を愛してくれたのに、昨日から突然私以外の人を考えている素振りをしてるんです。あはは」

 最近って昨日からかよ。最後の笑いは見ているこちらが辛い。昼に突然電話来て、すぐアポ取れちゃう私の事務所も暇なんだけどさ。

「あの、依頼、受けてくれますよね?」

 もう受ける意味ない、と言いたいところだけど、これも彼女なりの区切りの付け方、整理の仕方ということなのだろう。

「……わかったわ。でも前払い分含めきっちり頂きますからね。『依頼料』は」

 私も生活がかかってるのだ。これで来月も、おかゆで過ごす程度の節約で何とかなりそう。
 琴音はしっかりと頷くと、にこりと笑った。

 そして私は、本能的に警戒した。

 なぜなら『依頼料』、という単語を発した途端、彼女の瞳が暗くなったように見えたからだ。

 私は職業柄、人を観察するのが癖になっている。探偵も楽ではなく、何度も修羅場を経験しているし、それなりに危機察知能力もあると自負している。

 琴音の頬に赤みがさす。恍惚とした表情から、一言。

「『依頼料』、お支払いしますね。」

 私は狭いオフィスの出入り口、ドアノブが回る音を聴いた。

 私は反射的に立ち上がると、低い机に乗り、勢いをつけて跳躍する。
 1、2とドアに向かって、歩幅とタイミングを合わせる。
 そして、侵入者が完全にドアを開けるのと同時に、私は渾身の飛び回し蹴りを見舞う。

 ……つもりだった。

「危ない人だ」

 男独特の低い声がする。……背後から。

「素晴らしい。第六感に優れている」

 私の体は蹴り後の着地と同時に、まるで鉛が入ったかのように、そのまま重力に沈んだ。体が全く動かない。
 私は左膝をつき、俯いたまま彼の声を聞くしかなかった。
 当然背後の男の顔も体格も鮮明には分からない。
 ただ、男を蹴る際、一瞬、背後の男を見た。私は素早く思い出し人相、雰囲気から、男の行動を推察する。

 年はおよそ30歳。私と同じか、僅かに年上。身長は172、3といったところ。私よりも5センチは高そうだ。
 
 琴音を使って私を探ろうとした? いや違和感がある。わざわざ姿を現す意味が分からない。男はお遊び、若しくは実験をしているかのように私の目の前に現れた。

 男の声色から余裕がある。性犯罪者のように色めきだっている訳ではない。今すぐ私をどうこうする気もなさそうだ。
 つまり、私は舐められている、という事でもあるが。

 さてどうやって私から後ろを取ったのか。

 私は小さな頃から格闘の才能を見出されている上に、その才能を磨き続けている。
 今でも安物のサンドバッグなら蹴り一つで破壊できる。破壊してしまった時の為、事務所にはいくつかストック常備している。
 そんな人間の蹴りをいとも容易く避け、私の目にもとまらぬ速さで後ろを取る?

 この男は、明らかに異常だ。

 そもそも琴音が私に会いに来る時点でおかしいと気付くべきだった。あの子とはもう10年以上も会っていなかったのだから。

「冷静。分析力もいい。プライベートと仕事で人が変わるタイプか」

 私の思考が読まれている? 幸いにして、口と舌は動く。

「誰だ?」
「N・戦争勲、とでも呼んでくれ」 

 意味が分からない。

「……?」
「分からないかね」

 私が意図を掴みかねているのを理解したのか、男は少し落胆した様子だ。男はしばし沈黙し、改めて名を名乗った。

「では……戦……ふむ。ゼロ戦三郎。そうしよう。……私の名は、阪井だ」
「阪井、目的は?」

 何か愉快なことでもあったのだろうか。笑いを抑えるように男が返す。

「もちろん君だ」
「私の体は美味くない。なにせ誰も食わないからな」
「つまり、極上ということだ」

 私が自嘲気味に返すと、男はそれに乗る。手強いな。
 この状況をいかに突破するか。正直最初の一撃が簡単に外された時点で、絶望である。

 この場はなんとか会話でごまかし、突破口を模索するしかない……。

 そう考えていたところで、逃げ道を塞ぐように、男、阪井と名乗る人間が語りかける。

「君には浮気調査をしてもらう」
「依頼料は? 自慢じゃないけどウチの事務所お金ないわよ」
「君は自分を卑下するのが好きだな。男と喋る時だけか?」

 阪井は少し、私の神経を逆なでする発言をした。

「私は、お前のような男を男とは認めない」
「理想の高い御嬢さんだ。観念性に過ぎる」

 事も無げにそう言い放つと、阪井が私に近づく。嫌な吐息が耳にかかる程、阪井は私に接近した。

「ここは愚かな男を装い背後から乳房を撫で上げるように近づくべきか」

 こいつどういうトリックを使ってるのか分からないけど、やっぱり私の心の中を読んでいる。
 だから初撃を避けられたのか。

「それだけではない。……別に手を乗せる必要はないのだがな」

 恐らく阪井の手が、私の頭に乗せられた。
 頭が、意識が遠のきかける。何の変哲もない、頭に手を乗せられただけなのに。
 しかも阪井に触れられた部分から、快楽と多幸感が伝わってくる。
 過去にドラッグを使う羽目になった時よりも、更に強力だ。一瞬で意識を持って行かれそうになる。

 自然と息が上がり、瞳が潤う。

「……ふっ……ふぅっ……」
「気持ちいいかね?」
「べ……つに……ふぁぁ!?」

 頭だけだった快感が、降りてきた。
顔に、首に、肩、胸……とうとう足の先まで。全身を幸せが包んでいる。
 今まで経験したことのない感情、感覚に乳首が擦れ、それで更に良くなる。
 私は性欲が薄いはずだったのに、脳が、股間が、男を求める。男の香りを間近で感じる。欲しい。

「男も女も同じだ。よがり狂い、求める。君を新しくしてあげよう」

 男のその言葉を最後に私は快楽の渦に取り込まれ、意識をそこに放り込まれてしまった。

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 ぼんやりとする。私は、何か警戒していたような。何か忘れているような。

「……い……んぱい!」
「!」

 意識がはっきりする。気が付くと私は安物ソファに座っていた。対面には依頼人の峰林 琴音が座っている。

 いけない、いけない。人生で一番と言っていいほど気を引き締める。仕事モード仕事モード。
 今日の依頼人の恋人の浮気相手は、大切な顧客なのだから。

 琴音は舞専学園の教師だ。今日はいつものスーツ服ではない。
 7月下旬らしく、でも教師にしては少々肌を露出し過ぎの、薄ピンク色ノースリーブ。
 すっかり鎖骨が見えてしまっている。そして馴染みのあるジーンズを履いていた。サンダルはヒールが付いていて、綺麗な肌色の足が良く見える。

 彼女は、紗崎京子の恋人だ。

 そして琴音は、京子の浮気相手である阪井様に胸をもまれていた。

「もぅ……依頼の途中で……くふぅ……寝ないでくださいよぉ……」
「ああ、ごめんなさい。それで依頼料の話だったわよね」
「はい。……んっ……。阪井さん、とのキスです、ね」

 琴音が言葉を切らしながら答えたように、今回の依頼料の前払い分は阪井様とのキスだ。

 私たち低俗な女は、普段から殿方に媚を売って生活している。
 殿方との接吻は我々女性にとってこれ以上ない褒美となるのだ。
 ただ、私は女性専用探偵事務所を開いているから、殿方とそういうことをした記憶はない。なぜなら依頼人はいつも女性で、依頼料は金だったから。

 だからこそ、私は今回の浮気調査に期待をしている。なにせ今回は阪井様が浮気調査に協力して下さるのだ。
 京子の浮気相手である阪井様に、浮気調査を協力してくれる、ということであれば、調査は格段にしやすくなる。

 私は調子に乗って、協力をしてくださる度に、依頼料を追加でいただきたい、とのたまってしまった。しかし、阪井様はこれを快諾して下さった。
 なんと心の広い御方だろう。普通、こんな事を言うようなものならば、欠陥品の女としてその殿方様の所有物にならなければいけないのに。

 ……それもいいな、と思ってしまう。事実、殿方様に対して、わざと上から目線の態度を取り、自分から性奴隷になる女もいるはずだ。

「価値観が変わっても、そのマイペースは変わらないのだな」

 阪井様に声を掛けられ、はっ、とした。ついいつもの癖で考え込んでしまった。

「申し訳ございません。阪井様、こんな失礼な態度をとる雌に仕置きを。あなた様のしもべに」

 すぐにソファから降りる。深々と土下座した。
 阪井様は琴音を自身の膝の上に乗せて抱き着いている。そしてノースリーブの脇から手を侵入させ、琴音の胸を直接揉んでいた。

 部屋に琴音の喘ぎ声だけが響く。阪井様は少し沈黙すると、こう言った。

「いや、いい」

 さらりと、断られてしまった。阪井様がそれよりも、と話を続ける。

「依頼料の受け取りはまだかね? こちらとしては早く仕事に取り掛かってほしいのだが」

 催促するように言った。私が顔をあげると、心底使えない女だ、と蔑んだ目で見られ、私は頭が真っ白になる。

 心臓から、脳から、全身が雌の悦びに打ち震える。仕事の出来ないメスは発情するしか能がないのだ。

「も、申し訳ございません」

 すぐ阪井様の下に駆け寄った。私は、琴音を太ももに乗せている彼の真横に座る。そして目を瞑り、受け取り準備ができた旨の合図をした。

「どうぞ。お願いいたします」
「なんだ、客から支払わせるのか。使えない事務所だ」

 私はまたしても失礼をしてしまった。なぜ殿方に労力を求めるのか、私自身意味が分からない。

「阪井さん……くぅ……せ、先輩は慣れてないんです……。ふぁぁ! ……あ……許してあげて、ください……」

 琴音は既に阪井様の所有物なのだろう。
 琴音は彼の右足に両足を挟み、股間を彼の太ももに擦り付けている。

 彼は不意に、私の後頭部を掴み、引き寄せた。

「まぁ、いい」
「阪井様、あ、まって……んんぅ!?」

 ニコチンの味、タールの味。マイセンだろうか。
 なんて甘いのだろう。

 私は以前から癖がなく軽いマイセンが苦手だった。これを機に、彼に合わせて銘柄を変えてみよう。

 10秒ほど。私にとっては、価値観が変わった10秒だった。

「どうかね?」

 静かに顔を離し、したり顔で尋ねてくる殿方。
 私も静かにソファから降りると、先ほどと同じように身を丸める。彼の革靴に唇を、そして舌を這わせた。

「ちゅ……。極上の接吻でした。はぁぁぁ……。れろ、ん……。私を雌にしていただき、ありがとうございました」
「では交渉は成立だな。仕事は明日から。8時に琴音の家に来い」

 阪井様はそれだけ言うと、物足りない様子の琴音を立たせ、席を立った。

「あっ、お、お待ちください! まだ」

 まだ私は、処女を破瓜していただいていないし、隷奴の証たる首輪もかけていただいていない。
 私は必死に、帰ろうとする阪井様の足に縋り付き抱きしめる。

「成果次第だ。君には期待している」
「あ……」

 私の目が虚ろになったのが、自分でも分かった。
 肉体ではなく、精神が逝く。

 ぽーっとする頭に腕の力が緩んだ。

「阪井さん、あの……あ、あそこが……」
「ジーンズにシミができているな。どうした?」

 彼にしなだれかかるように、腕を取る彼女。
 羨ましいと思った。

 私と同じように緩んだ目をしている琴音は恥ずかしげに、彼の肩に顔を埋めた。

「さて、戻るか」
「うぅ……。……はい」

 彼らはあっさりと事務所を後にした。その後私は一人で、一人で、一人ぼっちで明日の為の資料を探したり、時間を確認したり、持ち物を確認したり、煙草買ったり……。

「今ごろ、琴音と京子ちゃんは阪井様と浮気セックスしてるんだろうなぁ」

 仕事は明日から始まるので、今日、いくら浮気をしようが浮気にはならない。
 浮気調査には全く関係のないことだ。

 一通り準備が終わった。パジャマに着替えて寝る準備をする。

 ベットに寝そべり、死んだ目でネットサーフィンしつつマイセンをふかしていると、SKYPOから連絡が来た。

「誰かしら……。って琴音!?」
「はーい先輩見えますか? 琴音です。今、阪井さんに代わりますね」

 パソコンの画面の先には全裸の琴音が手を振っていた。
 京子は私と同じく、ベットの上で正常位になっていた。阪井様は京子の上に乗り、絡みついていた。
 京子は既に息絶え絶えといった様子。もう既に中へ出されていて、彼の物が膣から出されようとしていた。

 私は急いでパジャマを脱いで、総レースのピンク色のパンティを履いただけの姿になる。阪井様がこちらに来た。
 琴音と軽く接吻を交わした後、私に話しかける。

「ちゃんと効いているようだな」
「あぁ……阪井様。どうなされたのですか?」

 愉快そうに笑った後、阪井様は不思議な事を聞いてきた。

「今のお前はどういう状態だ?」

 どういう状態もなにも、ネットサーフィンをしながらマイセン吸っていたら、阪井様から連絡が来た。なので、パジャマを脱ぎ、下着をアップで映しているだけだ。

 その通りの事を申し上げたら、そうか、とだけ言って会話を切られてしまった。
 後に残るのはPCから伝わる時報だけである。

「……なんだったのかしら?」

 事務所の固定電話が鳴る。次鋒は電話か。

 私はパジャマを着なおして、電話の子機を取る。これならベットで寝ながら用件を聞けて楽でいい。

「はい、こちらは女性客専門探偵事務所。川怜探偵事務所でございます」

 私の言葉を遮るように女性の声が聞こえる。

「はーい琴音でーす」
「……冷やかしなら電話切るけど?」

 私は右手に持っていた受話器を左手に持ち替えて、右手で胸を揉む。ブラがないので揉みやすい。
 琴音がてっきり冷やかしで掛けたのだと思い、私は電話を切ろうとする。

「そんな事言って良いんですか~? 阪井さんに代わりますよ?」

 下腹部が一気に熱を持った。切りかけた電話を慌てて耳元に戻す。

「んふっ……わかったわ。阪井様とお話しさせて」

 すぐに阪井様が出る。その声を聞いた瞬間に右手を秘所に移動させ、まさぐった。

「私だ。先ほどはすまなかったね」
「い……いえ。 とんでもござい……っあ! ……しつれいしました……」

 固いクリトリスをやさしく解すように、人差し指で転がす。
 甘美な刺激に思わず声が出てしまった。

「今のお前はどういう状態だ?」

 先ほどと同じ質問だからか、私はスムーズに返答することができた。
 少し、というか、かなり機械的な答え方をしてしまったが大丈夫だろうか。

「はい。私は電話を、ベットの上で仰向けに寝ながら子機で受けました。それが琴音からだと分かったので、おっぱいを揉みました。私は自慰の経験があまりなく、年に一回あるかないかなので、胸への刺激は控え目です。その後阪井様に代わっていただいた際、右手をおまんこに移動しました。阪井様の凛々しい御姿を想像し、また、阪井様の優しいお声をネタにしてクリトリスをいじっています。膣の中にも指を入れ、なるべく優しくタッチしています。この返答の最中に既に2度達しておりますが、阪井様への返答が最優先なので、私の声が中断したり、震えるという事はあり得ません。頭の中は阪井様で埋め尽くされ、子宮がさみしくてきゅんきゅんしております」

 そこまで言い切った後、私は足の先をピンと伸ばし、再度絶頂した。

「よし。私の事を考えながら自慰をしていい。寝れたら寝てもいい。寝れるのならな」

 そう言い残して。後は無機質な機械音だけが受話器の先から響いていた。

「あっ、阪井様……」

 私は今まで、自慰の経験があまりない。知識はあるし、たまにやってみるけど、気持ちよくなかった。

「……あの人の事を考えながら……」

 でも、今までのソレとは明らかに違った。
 体の内側が、燃え上がって。
 全部、どうでもよくなって。
 ただ、あの人の事だけを考える。

 自然と、手が動く。これは彼の手、彼の指。
 何回も果てた。

 阪井様が陰茎を見せつけ、あてがう。貫く。

 ……人生で一番狂った夜だった。

 朝。結局昨日は一晩中阪井様に犯していただく妄想をしてしまい、寝れなかった。

 私は素早くシャワーを浴び、着替えた。その後、浮気調査のための準備をして時間を確認する。

「や、やばい。ギリギリだ」

 私は自宅兼事務所を飛び出し、琴音の家に駆けていくのだった。

< 続く >

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