憧れの教師 第三話

第三話

「新海先生、遅くなりました。作成した予稿をメールしたので、チェックをお願いします」
「はい。いま確認します」

 ディスプレイの右下に目をやると、時刻は九時をまわっている。もはや、辰巳と沙織の他に誰も残っている者はいない。
 いわゆる疲れマラというやつか、プリントアウトした資料を取りに行く沙織の後ろ姿を眺めていると、辰巳は自然と股間が膨らんできた。夜分まで仕事をこなしたあとでは、張り詰めた臀部がことさら肉枠的に映る。タイトなパンツは下尻の盛り上がりばかりか、割れ目までいやらしくも浮かび上がらせていた。

(もうすぐ、あの体が俺のものになる)

 席に戻った沙織は予稿に一通り目を通すと、赤ペンを手に取って文字を書き加えていく。
 時間をかけて作った甲斐もあり、チェックが終わった資料はほとんど印刷されたままの状態だった。

「概ねこの通りで大丈夫です。ただ、目的の部分をもう少し整理してわかりやすくして欲しいのと、一部表現の修正だけお願いします」
「ありがとうございます。こんなに遅くまで付き合ってもらって、申し訳ありませんでした」
「やらなきゃいけない仕事を前倒しで進めていたので気にしないでください。でも、いまからきちんと時間配分を考える癖をつけておいた方がいいですよ。担任になるともっと業務が増えますし、生徒たちは想像もしていないトラブルを引き起こしますから。特に、うちのクラスは個性が強い子が多いですからね」

 辰巳が資料を作成している間はひたすら無表情だった沙織だが、最後の一言は冗談めかした調子で言った。
 これまで数えるのも嫌になるくらい叱責されてきたが、厳しい指導のあとは必ず温かい言葉をかけてくれる。お手本のような飴と鞭に調教された辰巳の心は、すっかり沙織に囚われてしまっていた。
 そばにいるだけでも胸の高鳴りを感じるなんて、一体いつ以来だろう。年甲斐もなく本気で恋をしてしまっているらしい。
 早く沙織と愛し合いたい。

「そういえば、来週は飲み会があるんですよね」
「はい。飲み会というか、辰巳先生の歓迎会ですが。なかなかみなさんの予定が合わなくて、遅くなってすみませんでした」
「いえいえ。学年団が違う先生とはほとんどお話したことないんで楽しみです。やっぱり、一発芸か何かやった方がいいんですかね?」

 いかにも大学を出たばかりの学生的な思考に、沙織は苦笑いする。

「そんなことする必要はないと思いますよ。挨拶だけ、ちゃんと考えておいてくれたら。でも、何かネタがあるんですか?」

 期待していた通りの絶好のフリ。
 待ち焦がれた状況に心臓が早鐘を打ちはじめた。喉がからからになり、手のひらには汗が滲む。

「実は。催眠術をやろうと思って」

 言った。言ってしまった。もう後戻りはできない。
 それでも辰巳に後悔はない。これまで味わったこともないような御馳走を前にして、一月も我慢していた欲望は、とっくに限界を迎えている。
 辰巳の意を決した告白にも、沙織は本意を掴みそこねたらしい。笑っているのか困っているのかわからない、中途半端な顔になっている。

「ええっと、催眠術。できるんですか?」
「はい。信じられないのなら、試してみましょうか?」

 ことさら強気な姿勢を見せた新人教師に、沙織は口元を手で覆った。いつも控えめな笑みしか見せないクールビューティが、肩を震わせて笑いをこらえている姿など初めて見る。
 それでも、出来の悪い後輩を無下にするのはかわいそうだと思ったのか、沙織は「わかりました」と頷いた。

「そこまで言われるのなら、お願いします」

 こんなに上手くいくなんて、ひょっとして自分は夢でも見ているのではないか。
 だが、手のひらに食い込む指の痛みが、これは現実だと教えてくれている。まだ笑うわけにはいかない。
 体が震えそうになるほどの興奮を抑えながら、椅子を引いて二人で向かい合う。

「じゃあ、まずは楽な姿勢で座ってください。ただ、背中だけは背もたれから離して。そう、それでいいです。あとは、足をしっかり着けて」

 先ほどの態度からして、催眠術なんてこれっぽっちも信じていないだろうに、沙織は真剣な面持ちで辰巳の言葉に耳を傾けている。誰を相手にしても真摯に向き合う、教師の鏡。

「それじゃあ、目を閉じて。まずは深呼吸をしてリラックスをしましょう。お腹に空気が溜まっていくよう深く息を吸って、空になるまで吐く。ふかーく呼吸をして、体の中の空気を入れ替えてください」

 目を閉じた沙織から、かすかに規則正しい呼吸の音が聞こえる。必要ならここで補助をするのだが、学生時代は吹奏楽に打ち込んだという沙織は問題なく腹式呼吸ができている。
 集中状態に入るまでじっくりと深い呼吸を繰り返させるうち、まぶたがぴくぴくと動きはじめた。パトカーのサイレンが響いてきても、まったく反応しない。素晴らしい集中力。

「はい、楽にしてください」
「ん……」

 目を開けた沙織は何度かまばたきしたあと、首を振った。
 まぶたを開いてもまだ集中を維持しているようで、心持ち表情が引き締まっている。

「それじゃあ、手を前に伸ばして指をしっかり組んでください。……もっと腕を前に伸ばして。そう、指も根本まで絡めてください」

 腕をめいっぱいまで突き出して、沙織は両手の指を交差させた。その上から手のひらを被せ、ぎゅっと押しつける。

「あなたの手はもう離れない!」

 辰巳が声をかけると沙織の腕はびくびくと動いたが、それでも組んだ指が解かれることはない。
 ニュートラルな女教師の表情に、徐々に驚愕の色が差していく。

「えっ……」

 どれだけ力を入れても、沙織の手はびくともしない。ここで簡単に手が離れるようならもっとじっくりと取り組む必要があったが、思いのほか被暗示性が高そうだ。
 再び辰巳が手を重ねて声をかけると、固く結ばれていた指は、魔法のようにあっさりと解かれる。
 沙織は自分の体に起こった異変がまだ信じられないらしい。閉じたり開いたり、あるいは裏返したりと、自分のものであることを確かめるように手を見つめている。

「どうですか、すごいでしょう?」
「ええ、はい。驚きました」

 ついさっきまで半信半疑、いやほぼ疑だった女教師の瞳には畏怖の念が浮かんでいる。
 自分が操られることに恐怖を覚えたのか、あるいは目の前にいる男の欲望を嗅ぎ取ったのか、沙織は肘掛けに手をついて腰を上げようとした。

「もうわかりましたから、これで」
「ここからが本番なんです」

 辰巳はスーツの内ポケットから取り出したライターを沙織のすぐ目の前に突きつけると、反射的に見つめてしまった瞳の前で火をつける。

「あなたはライターの火から目を逸らすことができない!」

 どんと、持ち上がった腰が落ちる鈍い音がした。
 暗示を刷り込まれた沙織は、ガラス玉のような大きな目でライターの青い炎を凝視していてる。なんとか目を逸らそうとする意思の力が額の皺にあらわれているが、視線は炎に吸いつけられたように動かない。

「じーっとライターの火を見て……。あなたは絶対に目を逸らすことができない……。さあ、火を見つめたまま、ゆっくりと深呼吸しよう。ほら、吸って……吐いて……」

 寄り目になったまま、沙織は先ほどのように深い呼吸をはじめる。微かに開いた口から吐き出された息がライターに吹きかかり、ふらりと炎が揺れた。
 艷やかな瞳が炎に照らされて、怪しく光る。

「吸って……吐いて……。深い呼吸を繰り返していると、あなたは催眠状態に入っていく。催眠状態に入っていくと、あなたの体からだんだん力が抜けてくる……。ほら、足が鉛のように重たくなってきた……。つま先から、足首、ふくらはぎと重たーい感触が上がっていく……」

 自分の体の異変を感じ取ったように、口元がかすかに引きつった。黒いオフィスシューズが床をすべり、足がまっすぐに伸びていく。それでも、青白く光るライターの炎を見つめる視線は決して緩むことがない。
 沙織はもう、辰巳の術中に嵌っている。

「すっごく疲れたときのように、足が重い……どんどん足から力が抜けていく……。そして、今度は腕からも力が抜けてきた。ほら、腕が重くなってきた……。もう、腕に力が入らない……」

 膝の上に乗せていた両手が、だらりとずり落ちる。なんとか持ち上げようとしているのか、指先がかすかに震えているが、両脇に垂れ下げられた腕はぴくりともしない。
 辰巳の暗示が脳に刷り込まれていって、沙織を支配していく。

「腕も、足も重い……。首から下に力が入らない……。今度はまぶたから力が抜けていく。まぶたが重ーくなって、開けているのがつらくなる……。ほら、だんだんまぶたが垂れ下がっていく……。どんどん下がっていく……」

 ぴくり、とまぶたが動く。繰り返し言葉をかけるうちに少しずつまぶたが落ちてゆき、二重の溝をなくしてしまう。

「まぶたが重い……。もう、目を開けていることがつらくなってきた……。さあ、目を閉じてしまおう……。目を閉じると、すごく楽な気持ちになれる……」

 垂れ下がった皮膚が眼球のほとんどを覆ってしまっても、沙織はまぶたをひくひくと痙攣させて、なんとか瞳が完全に閉じてしまうのを堪えている。
 それでも、辰巳がライターをわずかに動かして視線を下へ誘導すると、眼球の動きに従い、薄くこじ開けられていたまぶたはあっさりと閉じられた。途端に沙織の顔から力が抜けて、ぽかりと空いた口から白い歯が覗く。
 辰巳は沙織の体をゆっくりと左右に揺さぶりながら語りかける。

「お前はいま、催眠状態に入っている……。頭が重くて何にも考えられない、考えたくない……。でも、いい気持ちだろう? こうやって体を揺らしていると、もっといい気持ちになれる。揺れに身を任せていると、すごくいい気持ちになれる……」

 上体の揺れに合わせて、沙織の首もふらふらと揺れた。体からはすっかり力が抜けきっていて、心地よさそうに頬を緩めたまま、辰巳の手に身を任せている。

「揺れれば揺れるほど、お前はいい気持ちになれる……。ほら、体が自然と動いてきた。揺れる、揺れる……。どんどん揺れてくる……。俺が手を離しても、体の揺れは止まらない……」

 体を揺すりながら、そっと肩に置いていた手を離す。体に加えられる力がなくなっても、辰巳が揺すっていた速さそのままに、沙織の上体は揺れていた。
 垂れかかった髪が半開きの口元に咥えられても、沙織の目は覚めることがない。息を吹きかけられたヤジロベエのように、ぐらぐら、ぐらぐらと不安定に体を傾けている。

「さあ、どんどん揺れてきた……大きく大きく揺れてくる……。左右だけじゃなくて、前にも、後ろにも揺れてきた……。体を動かせば動かすほど、あなたはいい気持ちになれる……」

 辰巳の暗示に従って揺れはますます大きくなっていく。左右の運動に前後の動きも加わり、膝に顔が触れそうなほど体を前に倒したかと思えば、背もたれから上体がこぼれそうなほど大きく後ろに傾いて天を仰ぐ。
 激流に飲み込まれた流木のように、沙織はむちゃくちゃに体を揺さぶっている。こうやって体を動かせば動かすほど、催眠は深化していく。
 まだまだ、深いところへ連れていけるはずだ。

「揺れれば揺れるほど、お前の催眠は深化していく。催眠状態はすごーく気持ちいいだろう? だから、お前はずっと深いところに入っていきたい。さあ、もっともっと体を揺らすんだ!」

 沙織の体はメトロノームのように規則正しい振り子運動をしたかと思えば、ぐるぐると上体を回して円を描く。もはや揺れているどころの話ではない。体を後ろに傾けると豪快に口が開いた。気がつけば胴の動きに合わせて腕まで上がっていて、まるで踊っているかのごとく手を揺さぶっている。上体の揺れは全身に広がって、足までぶらぶらと振り回していた。
 『揺れれば気持ちよくなる』という暗示に従って、沙織は一人で深いところまで入っていく。
 いまやだらしないほど顔を緩ませていて、ついには首まで激しく振りはじめた。ライブ会場にでもいるかのように髪を振り乱し、全身をむちゃくちゃに暴れさせている。
 見ているこちらが心配になるような嵌り方。
 沙織はもう堕ちている。いますぐ玩具にできそうなほどに。

「揺れが次第に小さくなってきた……。揺れが小さくなると、あなたの気持ちはどんどん落ち着いてくる……。ほら、揺れが小さくなっていく。揺れが小さくなると、気持ちも落ち着いていく。落ち着いてきたらあなたは揺れを止めることができる……」

 癇癪を起こした赤ん坊のように体を暴れさせていた沙織の動きが、何度も指示を繰り返す内に少しずつ鎮まっていく。足の震えが収まって、持ち上がっていた腕が脇に垂れる。
 揺れ幅は徐々に小さくなり、やがて完全に静止した。
 がくりと首を前に落とした沙織のあごに手を添えて持ち上げる。辰巳に触れられても、ぐったりと目を閉じたまま何の反応も返さない。
 沙織の心は深いところに入ってしまって、一人では戻ってくることができない。

「お前は深い催眠状態になっている。もう何も考えられない、何も考えたくない……。だから、俺の言葉だけに身を任せていればいいんだ……」

 憧れの美人教師が、目の前で無防備な表情を晒している。ゼリーのようにぷるんとした唇も、豊満な乳房も、引き締まったヒップも、すべて自分のもの。いますぐ体中をまさぐって、精子をぶっかけてやりたい。
 だが、焦ってはいけない。
 何度味わい尽くしても飽きることのない御馳走だとしても、最初の感動を超えることはできない。ゆっくり、噛み締めて食べなければ。

「俺はいま、お前の魂に直接話しかけている。魂に話しかけられたお前は、どんな質問にも正直に答えなければならない……。わかるな?」
「はい……」
「質問に正直に答えると、お前はとってもいい気持ちになれる。そして、もっともっと深い催眠状態に入っていく……。では、まずあなたの名前を教えてください」
「新海沙織です……」

 生年月日、家族構成、好きな食べ物、好きな音楽、身長、体重、男性遍歴。一つ質問に答えるごとに、沙織は気持ちよさそうに頬を緩めていく。

「下着の色はなんですか」
「白です……」
「そうですか。では、ブラジャーのサイズはいくつですか」
「Fカップです……」

 性的な質問にも、躊躇することなくすらすらと答えてくれる。否応なしに扇情的な下着姿が想像され、股間が疼いてきた。
 そして、最後。これまでずっと気にかかっていたことが残っている。

「辰巳先生のことを、どう思っていましたか」
「大っ嫌いです……」

 間髪入れず放たれた言葉に、鋭利な刃物で胸を切りつけられたのかと思った。
 全身の血が冷たくなってしまっても、心臓だけは痛いほど暴れている。
 これ以上深掘りすることは、自分を傷つけるだけだとわかっている。それでも、聞かずにはいられなかった。

「どういうところが嫌いなんでしょうか。具体的に教えてください」
「はい……。自意識過剰なところが嫌です……。ときどき自虐的なことを言うけど、否定して欲しいのが見え見えでうっとうしい……。生徒から舐められるのも、あたりまえ……。学生気分が抜けていないところも嫌です……。機嫌が悪いとすぐ顔にでるし……仕事を教えても全然覚えてくれない……せめてメモをとって……。何度も念押しした期限を忘れるなんてありえない……。煙草臭いのも嫌……。それから……」
「もういい。やめてください」

 まさか、ここまで容赦ない言葉を投げられるなんて。
 情けないことに、本当に涙がこぼれそうになっていた。てっきり、沙織は自分のことを温かく受け入れてくれているとばかり思っていたのだ。

(やっぱり、信用できるのは夏帆だけだ)

 恋人にしてやるつもりだったが、やめだ。
 自分の心を弄んだ先輩教師には、しっかりと反省してもらわなければならない。気が済むまで、徹底的に奉仕させる。

「沙織、お前はエッチなことしか考えられないM奴隷だ。お前は虐められたり、汚い目にあったりするのが大好きな変態になる。さあ、復唱してしっかりと自分の頭に入れるんだ」
「……私は……虐められたり、汚い目にあったりするのが大好きな変態です……」

 清楚な美女の口から品のない言葉が出ると、それだけでむらむらする。教師になってからはすっかり影を潜めていたが、もともとサディスティックな嗜好が強い方だ。操り人形を前にして、埋もれていた嗜虐心が溢れ出すのがわかる。
「お前は家にいるときも、学校で授業を教えているときも、いやらしいことばかり考えている。そして、その欲望を爆発させてくれるご主人様を探しているんだ。この学校で一番うってつけの人物は誰だろう? そう、お前の大嫌いな辰巳先生だ。お前は大嫌いな俺に奉仕すると、たまらなくいい気持ちになれる。目が覚めたら俺にご主人様になってくださいと頼むんだ。いいな?」
「はい……」
「それじゃあ、俺が三つ数えるとお前は目を覚ます。目が覚めたお前は催眠状態のことを何一つ覚えていないけれど、暗示だけはしっかりと残っているぞ。三……二……一……〇」

 カウントが終わり、項垂れていた美女の頭が持ち上がった。
 ぼーっとした眼差しのまま、まばたきを繰り返す。

「ん、う……あっ」

 辰巳の顔に焦点を合わせた瞬間、沙織の瞳がこれでもかというほど見開かれた。わななく唇の震えが広がってゆき、全身が小刻みに揺れはじめる。
 その震えを抑えるように、両腕で体を抱きしめた。

「あっ、あっ、あっ……」
「どうしました、新海先生」

 沙織はお尻を突き出して乱暴に椅子を後ろへやると、その場に跪き、ごんと音が鳴るほど勢いよく床に額を着けた。
 ここまでするかというほどの平身低頭。思わず頭を踏みつけてしまいたくなるような、見事な土下座だ。

「辰巳先生っ! 折り入ってご相談があるんです! どうか、どうか私のご主人様になっていただけませんかっ!」

 顔を伏せているため、その表情を伺い知ることはできない。だが、震える声音から沙織がひどく緊張状態にあることは予想がついた。

「ちょっと、どうされたんですか。ご主人様って一体どういうことですか?」
「はい。実は私、どうしようもないほどの変態なんです! いっつもいっつも、エッチなことばっかり考えていて。その、私を虐めてくれませんか!」

 正気を疑うような、とんでもない告白。
 事実正気を失っているのだが、マゾになった沙織はねじ曲がった性癖を告白する自分の言葉にも興奮しているらしく、顔を伏せたままでも乱れた呼吸の音が届いてくる。

「とりあえず、顔を上げてください」

 辰巳におもねるように頭を上げた沙織の表情は、見れば誰もが常軌を逸していると気づくだろう。目は涙がこぼれそうなほど潤み、頬は肉体の昂ぶりもあらわに赤く上気している。
 堪えきれない欲情で満ちた目で凝視してくる沙織を前に、辰巳は自分が獲物になったような気がした。それほど、女教師の様子は尋常ではない。

「新海先生、とんでもない変態だったんですね」
「は、はい。私は変態です」
「後輩にそんなこと頼んで、恥ずかしくないんですか?」
「はい。とっても恥ずかしいです……」

 羞恥を告白する言葉とは裏腹に、体は快感を隠しきれないように震えている。ふしだらに開かれた口からは、いまにも涎がこぼれそう。

「それじゃあ、ちょっと自己PRをしてもらってもいいですか? 新海先生の魅力が伝わってきたら、ご主人様になってあげます」

 にんまりと、沙織の大きな口がこれでもかと横に広がっていく。歯茎まで剥き出しにする、品のない笑み。
 男の影をまったく感じさせない淑やかな美女が、欲情を爆発させた途端、頭の天辺から足のつま先まで、体の部品一つ一つが艶めかしさを放ちはじめる。
 猫のように優雅な動きで体を起き上がらせた沙織は、ボタンを弾き飛ばさんばかりの勢いでスーツを脱ぎ、躊躇なく下着にも手をかける。男の欲情の唆り方を知らぬような、せわしない指の動き。見る間に白い素肌が晒されてゆき、レースをあしらった純白のショーツを脱ぎ捨てると、一糸まとわぬ姿になる。

「見てください、私の裸」

 剥き出しになった肢体を前に思わず息を飲んだ辰巳を挑発するかのごとく、美女は頭の後ろに手を回して自分のボディラインを見せつける。
 たっぷりとした質量を持ちながら、ほとんど垂れ下がることのない張りのある乳房。ほどよい肉がつき、女性らしい優雅なラインを描く太腿。ウエストは細くくびれ、肉感的なバストとヒップを際立たせている。
 これまで体を交えたどんな風俗嬢よりも扇情的な裸体を前に、全身の血液が猛烈な速度で海綿体に集まりはじめたのがわかった。

「どうですか? 自分で言うのもなんですけど、いい体をしていると思います。おっぱいだって大きいですよ」

 下から持ち上げて、沙織は豊かな双房を強調する。
 こんもりと盛り上がった乳肉に本能ごと目を吸い寄せられた辰巳を見て、艷やかな唇をきゅっと上げた。

「乳首だってきれいな色してるでしょ? 感度もいいんですよ。ご主人様になってくれたら、この体でたっぷりといいことをしてあげます」

 両手でたわわに実った乳房を寄せると、上下に擦り合わせた。必然、その中央に自らの肉棒が挟まれている画が鮮烈に浮かび、股間がぎゅっと締めつけられたように疼く。
 性欲を剥き出しにした辰巳の視線に、沙織はますます気が高揚しているらしい。乾いた唇に舌を這わせて潤すと、床に寝転がる。
 仰向けになった淫乱女は、股間がよく見えるように足を広げた。丸見えになった二枚のびらびらはすでにぷっくりと膨らんでいて、おんなの入口を護る役割を放棄したかのように横開いている。

「見てください、これ。辰巳先生に見られてるから、こんなに盛り上がっちゃって。ひくひくしてるんです」

 沙織が指を押し当てて大きく陰裂を広げると、粘膜に覆われた柔肌が剥き出しになり、その一番奥にあるアソコの穴が男を求めるように蠢いているのが見えた。

「辰巳先生、私を肉便器にしてください。何なら、便器にしてくれたってかまいません……」

 一体どれほど淫らな想像をしたのか、自分の言葉に陶酔した沙織はナマコのように腰をくねらせた。
 理知的な美女は一体どこへいってしまったのだろう。表情はどんどん淫らになってゆき、指一本触れる前から秘所に愛液が滲んでいる。
 女教師の痴態にあてられたせいで、辰巳もすぐに見ているだけでは我慢ができなくなってしまった。

「それじゃあ、おっぱいをしゃぶらせてもらってもいいですか」
「はい、どうぞ」

 満面の笑みを浮かべた沙織は、辰巳の膝にまたがると、両の手で小さなメロンほどもあるバストを持ち上げた。手から溢れ出る柔らかそうな乳肉は、辰巳の獣欲をこれでもかと引っ張り出してくる。さらに、薄桃色の突起物が咥えてくださいと言わんばかりに膨らんでいるのだから、もうたまらない。
 辰巳は夢中になって真白いおっぱいにむしゃぶりついた。

「あっ、あん……」

 二つの膨らみは想像していたよりもさらに柔らかく、瑞々しい肌が吸いついてくるようだった。滑らかな舌触りは甘さを錯覚させるほどで、ソムリエのように敏感になった唇と舌を存分に使い、夢にまでみたおっぱいの味を堪能する。
 一日仕事をしていたはずなのに、密着させた肌からは石鹸の匂いがする。その優しい香りに包まれたまま、隆起した乳首を舌先でもて遊ぶと、淫らな女教師は辰巳の膝の上で艶めかしい裸体をくねらせた。

「ああ、あっ、いいっ。辰巳先生、もっと、もっと責めてください」

 卑猥な突起物を甘噛すると、沙織の体がびくんと波打った。そのまま歯をすりつけてやれば、よほど刺激があったのか、がくがくと身を悶えさせ、金糸雀のような嬌声を響かせる。
 こりこりとした肉粒の食感を楽しみながら、辰巳はもう一方の胸に手を伸ばす。確かな弾力を持つ肉の塊は、揉めば五指を押し返そうと張りついてきた。ゴムまりみたいな感触を味わいつつも、自分の節くれだった指が沈むたびに形を変える肉房を鑑賞する。

「んんっ、せ、せんせい! もっと強く!」

 五感を総動員しておっぱいを堪能していたら、M奴隷はさらなる刺激を求めてくる。希望に答えて肉山に指が食い込むほど力を込めれば、艶めかしい吐息で満足を示した。
 脳がとろける幸せな感触に逸物はテントを作ろうと体を伸ばしはじめ、沙織の下腹部に押し当たった。鋼のように固くなった肉棒は、障害物に当たってもまだまだ成長を続け、もっと刺激をよこせと訴えている。
 相手もそれを感じとったのか、余裕を感じさせる、ため息のような笑い声が耳をついた。
 たまらず乳頭から顔を離した辰巳を見て、女はどうだと言わんばかりの得意げな表情だ。目を半月のように細め、小首をかしげてこれでもかと口角を上げる。
 奴隷になりたいと懇願してきたくせに、なんて生意気なのだろう。こんなに挑発的な沙織を見るのは初めてだ。
 ここまでされて、辰巳も引くわけにはいかない。

「新海先生、パイズリしてください」
「はい、承知しました」

 膝から降りた沙織は辰巳の股を開いて肉感的な体を割り込ませると、スラックスを下ろし、下着から性器を露出させた。
 ぱんぱんに膨らんだ肉棒を見て、美女は舌なめずりをする。

「大きい……」

 意気揚々と怒張に顔を近づけた沙織の眉間に皺が寄り、動きが止まった。しかし、次の瞬間には恍惚としたように目元を緩ませる。
 様々な体液が入り混じった不快な臭いでさえ、いまの沙織には興奮材料にしかならない。
 舌を伸ばし、しゃぶるように舐め上げられた鈴口から、全身へと陶酔が広がっていく。

「ふふ……辰巳先生のおちんちん、びくんってしましたよ……」

 ちょんちょんと指先でつついてから、肉棒を二つの白い球体の間に挟み込むと、ゆっくりと上下にしごきはじめる。
 かすかに汗ばんだ乳房は陰茎の形に合わせてぴったりと張りつくようで、沙織の手の動きを逃すことなく性器へと伝えてきた。手淫では決して味わうことの出来ない、圧倒的な幸福感。

「どうです辰巳先生……気持ちいいですか……?」
「は、はい……いい感じですよ……」

 先端から溢れ出した我慢汁を塗りたくり、沙織は丁寧に胸を揉み上げる。豊かな膨らみは男根を包み込み、隅々まで愛撫してくれる。
 沙織の手で無造作に変形するおっぱいは眺めているだけでも欲情を唆られるようで、体の奥底から絶え間ない快感が湧いてきた。
 このまま出してしまいたい衝動を抑え、辰巳は結合への移行を決断する。

「いいですよ新海先生……。そろそろ入れさせてください」
「うふふ……ありがとうございます……」

 つま先立ちで辰巳の膝に跨った沙織は、男根を持って膣口に押し当てる。
 辰巳も沙織の腰を持ち上げて、二人で慎重に挿し込んでいく。

「ひっ、ああ、んんっ、た、辰巳先生の、ぐいぐい入ってくる、ああっ……!」

 どれだけ心が乱れていても、沙織の膣は簡単に異物の侵入を許そうとしない。生暖かなひだをぴっちりと肉茎にへばりつけ、奥への進行を防ごうとしてくる。
 処女だった夏帆と遜色のない、この抵抗。間違いなく痛いはずなのに、沙織の顔は快感しかないようにとろけていて、何度も背中をのけぞらせていた。

「んっ、つ……ふっ……! はあぁ……。あっ、辰巳先生の、すごい……」

 奥までしっかりと挿入し、座位の姿勢で向かい合う。
 そうして一呼吸ついている間にも、媚肉は意思を持っているかのごとく脈動し、肉棒を締め上げてきている。陰裂から溢れ出した愛液が肉竿を伝い、陰毛に絡みついてきた。

「私、椅子に座ったままするのなんて初めてです……」
「僕もですよ。僕をイかせることができたら奴隷にしてあげるので、がんばってください」

 返事の代わりに辰巳の肩を掴んだ沙織は、一つ溜め息をつき、膝を使って腰を前後に揺すりはじめる。
 絡みついたひだひだは艶めかしい腰の動きに従い、肉茎をこれでもかと摩擦してくる。相手に合わせてそれを突き刺すと、すぐに全身を覆うような快感が湧いてきた。

「ああっ、はっ、んんぅ……!」

 肉棒を突き上げるたびに張りのある乳房が弾み、結合部から溢れ出した愛液がねちゃねちゃと音を立てる。腰をひねり、粘膜に覆われた柔肉を竿で掻き回すと、沙織は奥歯が見えるほどあんぐりと口をあけた。

「はああ、ああん、ああっ、はああ……!」

 椅子がきしむほど激しく腰を動かして、お互いの性器をこすりつける。恥骨を押し当ててクリトリスの刺激をはじめた女は、すぐに馬鹿になったように叫びだした。
 ゆさゆさと揺れるバストの先端では、色鮮やかな紅色の乳首が痛々しいほど尖りきっている。

「ああああ、いいい、あっ、あああ! た、辰巳先生、も、もっと、もっと突いてええぇ!」

 淫らな絶叫に操られるように、辰巳は沙織の腰を抱きしめてさらに抽送を加速させる。
 あまりの快感に正気を失っているのか、沙織は官能的な曲線をリズミカルに前後させながらも、半分白目を向いてがくがくと天を仰いだ。

「あっ、あっ、かっ、あああああ! ああ! わあああああ!」

 いよいよ制御の効かなくなった肉体は暴走をはじめ、びくびくと痙攣する肉筒が竿を締め上げてきた。それによってただでさえ高まっていた性器に更なる刺激が加わり、辰巳の体まで悲鳴を上げる。
 全身から湧いてくる快感は、もう収まってくれない。

「あああっ、も、もうだめ! イ、イッちゃうぅ! 先生、は、早くっ! 早くきてくださいいいいぃ!」

 総身を軟体のようにくねらせて腰をストロークさせる沙織が自らの限界を叫ぶ。
 辰巳もとうに限界を迎えていて、快感で埋め尽くされた脳は抽送を緩めることすらできそうにない。
 求めるのは、いま以上の刺激のみ。

「お、お……出すぞ……出る、んんん……!」

 沙織の体を持ち上げるほどの力を込めて、辰巳は肉壁を突き上げる。
 同時に膣内で強烈な収縮運動が起こり、頭が真っ白になりそうな快感が訪れた。

「あああっ、イクううううううう!」

 耳をつんざくほどの絶叫を上げた沙織の裸体が、辰巳の上で引きつけでもおこしたのかと思うほど、がくがくと震える。
 絶頂に達しても尚、沙織の肉体は膣を痙攣させて男根から子種を搾り取ろうとする。
 自分の肉棒から最後の一滴まで奪おうとするそれを、大量の精液を放出した辰巳は身じろぎもせず受け入れていた。

 性交の余韻にひたるように、二人はしばらく抱き合ったまま微動だにしなかった。
 先に正気を取り戻したのは沙織の方だ。

「どうでしたか、辰巳先生。私のご主人様になってもらえますか?」

 辰巳の顔を挟み、沙織は蠱惑的な瞳でじっと見つめてくる。
 上気した肌。濡れた瞳。絶頂に達しても淫女の性欲はまだまだ収まっていない。
 そして、それは辰巳も同じ。

「よかったですよ。合格です。これから僕のM奴隷にしてあげます」
「ありがとうございます! 精一杯、奉仕しますから」

 念願のご主人様を手に入れた美女は、輝くような笑顔を弾けさせた。
 これまで味わったことのない最高の肉体に、不満などあろうはずもない。
 だけど、恋人にはしてあげない。
 辰巳には心から慕ってくれる夏帆がいるのだから。

「とりあえず、うちに行きますか。新海先生、まだまだ行けますよね?」
「はい、もちろん」

 自分のことを大嫌いだと宣った沙織には、性奴隷こそがふさわしい。
 傷つけられたプライドを取り戻すまで、たっぷりと尽くしてもらう。

< 続く >

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