<オカルト? > 東屋蓮 高校1年生
東屋蓮が国枝清香と付き合い始めた日。2人は下校の途中で電信柱の陰に隠れて、初めてキスをした。すでに2人で初体験を済ませてしまったあとだったので、少しだけ儀礼的なプロセスになってしまった感もあるが、他の誰にも見られていないというのは、嬉しいことだった。蓮はまだ、清香とエッチがしたかった。たぶん清香の様子を見ても、そんな感じがした。けれど、女の子が初めてを済ませたばかりで、その日のうちに何度も大切なところを酷使しては良くないと思って、我慢して別れることにした。2人の家への帰り道の分岐点。そこで明日の朝、待ち合わせて一緒に登校することにした。最後に清香が気がついて、慌てて2人は電話番号とLineを交換した。
『蓮君、もう寝ちゃった?』
清香からLineが送られてきたのは、夜の11時を過ぎた頃だった。蓮は「しまった」と思った。本当は1時間も前に風呂を上がってから、何か清香ちゃんに送ろうと思って悩んでいたのだが、初めて出来た彼女とどんなやり取りをすれば良いのか、よくわからなくて、時間ばかりたってしまっていたのだ。
『まだだよ。メールありがとう。清香ちゃんも起きてるんだね。』
送ったあと、自分の返信のあまりのつまらなさに、ベッドに転がって身悶えしてしまった。
『うん。…………今、蓮君、何考えてた?』
きっとこの時間までメールが無かったのは、清香ちゃんも何を送ろうか、迷っていたのだろう。いや、もしかしたら男の蓮からメールが届くのを待っていたのかもしれない。そう考えると、ここらで少しは気の利いた返信を送りたかった。
『清香ちゃんのことだよ。………今日、色々あったけど、僕は嬉しかった。』
『わたしも』
わたしも、という字の後に、笑顔のコメカミに汗がたれている、絵文字が付いてきた。この汗の意味はなんだろう、微妙な感想なのだろうか? それに私も、というのは、清香ちゃんが蓮のことを考えていたということだろうか、それとも今日のことが嬉しかったというのが、私もなのか。女子とのメールのやり取りは、なかなか難しい。そして蓮は、男子同士のぞんざいなやりとり以外、メールの会話そのものに、自分が慣れてこなかったということに気がついた。
『↑これ、清香ちゃんも僕のこと、考えてくれてたってことかな? 今日のこと、清香ちゃんも嬉しかったってことかな?』
しつこいと嫌われるという心配があったが、蓮は確認の質問を送ってしまった。向こうはウザがっているだろうか? 送った後、返事が返ってくるまで、ベッドの上で何度も寝返りをうつ。
『うーんと、どっちも。』
頬を赤らめながら、微笑む絵文字。顔の色が黄色い、シンプルな顔の画なのだが、そこに清香ちゃんの可愛らしい笑顔が重なって見えた気がした。
『でも、今日の先輩たち、ちょっと怖かったね。僕、オマジナイってあんなにはっきり効果あるって、今日まで知らなかったよ。』
『うん………。わたしも。蓮君、巻きこんじゃって、ゴメンね。…………蓮君の様子が気になってたら、オマジナイ倶楽部の人たちに調べてもらいなって、友だちに薦められたんだけど、…………あんなことになるって、思わなかった。ちょっと怖かったし、………恥かしかった………。』
『そうだよね。僕たちがお付き合いすることになったってことには感謝だけど。………あんまりあの部室、近寄らない方が良いかもね。』
『わたしも、そう思う。』
ひとしきり、夜、暇な時にすることとか、好きなテレビやマンガ、音楽の話などをメールで送りあったあとで、清香ちゃんは、しばらく相手のことを考えてみようという提案をした。5分くらい、蓮は携帯をベッド脇に置いて、天井を見つめながら清香ちゃんのことを考えてみる。着信音が鳴った。
『どうせなら、今の蓮君の、顔を写して、送って欲しいな。』
あまり特徴のない顔だと自分で思うが、可愛い彼女からのお願いなので、自撮りして送信する。清香ちゃんも自分の顔写真を送ってきてくれた。お風呂上りらしくて、髪の毛がまだ少し湿っている感じ。モジモジしながら微笑んでいる清香ちゃん。チェック柄のパジャマの襟が映っている。目の周りや鎖骨のあたり。白い肌が赤くなっていた。
『清香ちゃんって、今、何してる?』
蓮が、無邪気に質問する。
『絶対秘密っ!!』
と返信が届いた。
。。。
こうして『オマジナイ倶楽部』からは距離を置こうとLineで約束し合った蓮と清香だったけれど、次の日の放課後には仲良く2人、手を繋いで、例の怪しげな部室に駆け込んでしまっていた。一緒に下校しようと待ち合わせして、下駄箱へ歩いていたその時に、また例の『呼び出されている』感覚に襲われてしまったからだ。
(オマジナイ倶楽部の部室に行かなきゃ!)
2人ほぼ同時、雷に打たれたように背筋をビンっと伸ばして『啓示』を受け取ると、お互いの顔を見合わせて、頷き合う。蓮にはこれが、昨日と同じ、『召喚の魔法』だという自覚もあったのだけれど、絶対に逆らえないという実感に、最初から負けてしまった。手を取り合って、校内西北のはずれにある、旧サークル棟の一番端。蓮の走るスピードにあわせてきたためか、2人で駆けこんだ時には、清香ちゃんは息も絶え絶えの、苦しそうな状態だった。
「遅いじゃん2人とも。アタシが召喚かけるまで来ないとは、新入部員としてはちょっと、意識低いなぁ」
ふーっと溜息をつきながら、面倒くさそうに髪を弄りつつ賢木先輩がボヤく。蓮は部室の中に、昨日と同じ4人の先輩と、そしてもう一人。大人の女性がいることに気がついた。高等部の数学を担当している、君原先生。学校でも指折りの美人教師と評判の人だった。
「えっと………君原先生…………ですよね?」
「あの………、『新入部員』って………」
肩で呼吸しながら、蓮の隣にいる清香ちゃんも質問する。彼女は蓮とは違うポイントが気になったようだ。………確かに、言われてみれば、清香ちゃんの質問ポイントの方が重要な気もする。
「えっと、順番に答えるね。こっちはご存知、君原先生。美人だけどスパルタで評判だから、1年の君たちも知ってるよね?」
ヒョロッとした蓬田先輩が、愛想良く答える。けど、この人の愛想良さには、実は要注意が必要ということが、昨日の経験から、蓮にもわかり始めていた。
「スパルタは余分でしょ。私はちゃんと、生徒の特性と伸びしろを見て、指導してますっ」
お腹の前あたりで腕を組んでいる君原先生が、ツンケンと蓬田先輩に答える。そのトーンはけれど、先生と生徒という感じよりも、もっとフラットな感じに聞こえた。まるで腐れ縁の男友達に茶々を入れられて、ムッとしているような返しだ。噂に聞いていた君原先生は、もっとパーフェクトなオーラをまとって上から話してくるという話だったので、ほんの少し、イメージと違っていた。それでも、この部室にいる自分に納得がいっていないのか、苛立っているのか、指でトントンと自分の腕を叩きながら、蓬田先輩を見返す視線の鋭さはやはり、厳しいエリート先生の目つきだ。
「君原先生には、僕ら特殊民俗学勉強会の顧問をしてもらってるんだ。だから、新入部員を迎えるにあたって、きちんと紹介しておこうと思って………。そうそう。蓮と清香ちゃんは、これから僕ら『オマジナイ倶楽部』の新入部員として迎えます。カントリーマァムとカルピスしかないけど、一応、歓迎会やっとこうと思って………」
「ポテチもあるよ~。うすしお味で良かったら」
机の上の、分厚い本と水晶玉を交互に見つめている、松風先輩が、こちらには目を向けずに、ポテチの袋を摘まみ上げて、ユラユラさせた。
「あの、私たち………、この部に入るつもりは、無いんです。…………ゴメンなさい」
「でも、私たちが『つよーくお薦め』したら?」
賢木先輩が手を腰に当てて聞く。清香ちゃんがハッと息を飲む音が横で聞こえた。
「入りますっ。………………えっ?」
清香ちゃんが両手で自分の口を覆って、自分の言葉に驚いている。そんな彼女を宥めるかのように、蓬田先輩が紙を引っ張り出して来た。紫色の光がチラチラと放たれている紙キレ………。
「昨日の契約の付帯事項に書かれてるんだ。蓮と清香ちゃんは、オマジナイ倶楽部の先輩の強い薦めには、素直に従うってね。………他にも色々、付帯事項は細々ある。日本語で書いてないから、読めなかったと思うけどね。………ゴメン、これ、書く方も結構手間なんで、説明は省かせてもらいました」
何でもなさそうな口調で、蓬田先輩はサラッと言ってのけた。蓮も聞いていて目を丸くする。公民の授業でチラッと習った、悪徳商法の手口がこれか? そして、よくわからないままに印鑑を押してしまう可哀想な被害者というのが、蓮と清香ちゃんか?
「あの、日本語で書かれてない契約書に、説明以外の契約が色々書かれているっていうのは、………ズルいと思いますっ」
「それにっ。法律に違反するような契約や、人権を無視した契約は、それ自体が無効だって習いました」
蓮のボヤっとした抗議を、清香ちゃんが応援してくれる。彼女の方が勉強が出来るタイプだということは、部室にいる皆に、割とハッキリと伝わったようだ。
「うん。言いたいことはわかるよ。でも、これ別に日本の商法とかに担保してもらうような契約じゃないから。学校で教える社会のルールとは微妙にズレた法則に基づいてると思って、我慢してね。僕も『契約者』として、それなりのリスクや投資は求められてるんだ。契約に関して締結前に質問を受けたら、正直に説明しなければならないっていうルールもあるしね」
蓬田先輩は、サラッと、あまりにも当たり前のように言うので、何となく清香ちゃんも黙らされてしまう。社会のルールとは違う法則が働く契約っていう説明からは、言い訳のようでいて、なんだか妙に怖い響きがした。
「ま、そんな訳で、アタシら先輩の言葉には、四の五の言わずに素直に従うことを強―くお薦めします。あと、アタシらの質問にも何でも正直に答えてね」
「はいっ。四の五の言わずに素直に従いますっ。何でも正直に答えますっ」
清香ちゃんと蓮の声が、ピッタシ揃う。蓮は自分が喋っていたことに、後から気がついた。よく見ると、いつの間にか気をつけの姿勢になっている。
「………っていっても、別にうちの部、体育会系でも無いし、もともと上下の関係とかも緩いんで、あんまり心配しないで良いからね」
蓬田先輩のフォロー。優しそうに話すけれど、鼻歌まじりにさっきの契約書をファイルしているその姿を見ると、安心していい相手とも思えなかった、
「じゃ、さっそく訊くけど、アンタらって、昨日学校から帰ったあとで、またエッチしたの?」
「………いえ………。帰り道で別れて、2人とも家に帰りました」
「キスはしました」
蓮が答えた後、清香ちゃんが追加情報を共有するので、驚いて彼女を見る。清香ちゃんは申し訳なさそうに、蓮を見て、赤くなっていた。
「そっか………。エッチはしてないんだ。…………一人でしたりは?」
「しました。………清香ちゃんの顔写真を見て………」
「しました。………蓮君の顔写真を見て…………」
ハッとして、清香ちゃんの顔をまた見る。今度は彼女は、真っ赤になったまま俯いていた。
「一応、訊くね。何回?」
「5回です」
「2回です」
ほとんど同時に答えたあと、今度は蓮が清香ちゃんのギョッとした視線を感じて、顔を反対側に反らす。5回抜いた自分を、さすがにヤバいと昨夜思ったのだが、なぜか昨日は無限に性欲が湧いてくる気がして、眠れなかったのだ。
「これ、性欲増進させといた方が、2人が長続きするって言ってたのは、葵だったよね? アンタの占い外れたのって、ひっさしぶりじゃない?」
賢木先輩が、ちょっとだけ嬉しそうに呼びかける。松風先輩は顔を上げもしなかった。
「言っとくけど、私の占いが外れた訳じゃないからね。素質持った奴が入ってくると、色々と見通しにくくなるの。久しぶりのタマだったんだから、こういうこともあるの」
両肩をすくめた蓬田先輩が、蓮と清香ちゃんとに説明する。
「えっと………。これも一応、契約の一部なんで、僕から説明するね。清香ちゃんが気になってた蓮君。先にこっちの葵が相性を占ったところ、2人とも奥手で異性経験ほぼゼロ。お互いが遠慮し合うせいで、早めに別れそうっていう結果が出たんだ。そこでせっかく清香ちゃんが蓮君好きだって言うなら、ちゃんとお付き合いが長続きするように、2人の性欲を4倍にするように、契約文に織り込んでおいたんだ。でも、蓮君にオマジナイの素質有りとは知らなかったから、ちょっと倍率とか、間違えちゃった感じかもしれないなって………」
「清香は初エッチのあとで、一人エッチ2回は、まあ性欲4倍で普通かなって思うんだけど、蓮はちょっと、ヤバいかもね………。このまま、清香だけ当てがっておくと、かえって清香の体が壊れちゃうかもって、昨日話し合ったの。で、まぁ色々検討して、結果、こっちです。君原先生」
賢木先輩に乱暴に振られて、むくれるようにして君原先生が顔を反らした。普段だったら、もっと威厳がある態度を見せそうな、美人教師が、今は少しだけ、賢木先輩のぞんざいな扱いを受け入れてしまっているようにも見える。蓮はそこにまで、妙なドキドキを覚えてしまっていた。
「契約上。蓮君は今、清香ちゃんしか恋人に出来ないことになってるから。………そうだな、君原先生は………蓮君の性教育の担任になってもらおう。だから、普段は蓮君は清香ちゃんとヤッていて、性欲が溢れ出る分は、君原先生に面倒見てもらうっていうことで、みんな、上手いことやっていこうっていう話ね」
溜息をついて髪をかき上げて、抗議というよりも駄目出しを始めようとする君原先生。その先生の機先を制するように、蓮と清香ちゃんが立っている円の前に、もう1つ、小さめの円を賢木先輩が描き始める。
「蓮、何か見えたら言ってね」
「…………ちょっと貴方たち、さっきから何を勝手に決めつけてるのっ? 私は一言ともこの子の性教育とか認めてないし、大体、この部の顧問になることだって、私は1回も自分からは………」
雰囲気からすると、溜まり溜まったものを一気にぶちまけようとしていた君原先生だったけれど、賢木先輩が床に円と模様が描き終えると、そのマークと君原先生の体とが紫に光る。
「今………、丸と君原先生が、紫色に光りました」
蓮が答えると、隣の清香ちゃんが、「えっ」という反応をする。さっきまで先輩たちが素質どうのこうのと言っているのを聞いて、よくわからないでいたが、清香ちゃんの反応を見る限り、彼女にはこの紫の光も見えていないようだった。
ビンっと背筋を伸ばして気をつけの姿勢になった君原先生が、慌ててスーツを脱ぎ始める。ジャケットから腕を抜いて、カッターシャツのボタンを急いでプチプチと外していって、タイトスカートのホックも外す。白地に藤色の刺繍がされた、大人っぽい下着を晒して、さらに脱いでいく。パンストを下ろして、ブラのホックも外すと、ボロンと大きなバストが零れ出る。そのダイナミックな丸みと重量感。ショーツも下ろしていくと、黒々としたアンダーヘアーが顔を出す。大慌てで服を脱ぎ捨てて、全裸になった君原先生は、賢木先輩が描き終えたばかりの、模様で縁取られた丸い円の真ん中に移動して、気をつけの姿勢になった。
「学園でトップ5って呼ばれてるんだっけ? 君原直美ちゃん。彼女に、性欲が溢れた分だけ。処理してもらうっていうことで、どう? ………清香ちゃんは、将来、こういう体型になるとこまで、面倒見てあげる。………悪いオファーじゃ、無いと思うんだけど」
賢木先輩がその場を取り仕切る。蓬田先輩は笑顔でウンウンと頷いている。そのいかがわしさ………。完全に怪しい雰囲気に飲まれそうになりつつも、蓮は懸命に考えた。
「ちょっとっ! さっきから黙って聞いてたら、人のことをモノみたいに扱うのも、いい加減にしなさいっ。私は教師なのよ? そんなこと出来るわけ…………」
君原先生が怒りだすことを想像していたかのように、賢木先輩は模様の描かれた円の中に、さらに小さな円を描く。すると、それを見た君原先生が、悔しそうに黙る。何かを我慢するように、裸のままで足踏みしていたかと思うと、新しく描かれた小さな円の中に、そっと右足を入れた。新しい円は、両足を入れられるようなスペースがない。仕方がなく、君原先生は片足立ちになる。バランスが崩れそうになると、両手を広げて、飛行機の真似をするようなポーズになって、片足立ちの姿勢をなんとか保つようになる。
「悪いけど、先生はモノ扱いっていうか、実験台、道具扱いっていうのも、今に始まったことじゃないでしょ? うちの部の顧問って、ちょっと特殊なポジションなの。ね? ナ・オ…ミ・セ…ン・セッ」
賢木先輩が、裸の君原先生の肩をツンっと横から、突くように押す。押されて倒れそうになる体を、なんとか片足立ちの姿勢を保とうと、グラグラ揺れながらも君原先生が必死にバランスを保つ。交互に空を切っている両手は、自分の体を隠すどころではなさそうだ。プライドの高そうな君原先生は、本当に悔しそうな表情をしている。きっとそれでも、『床に描かれた円の中から出てはいけない』という、強迫観念のような思いが突き上げて来て、それに従わないわけにはいかない状態なのだ。蓮は昨日の自分のことを思い出すと、簡単に想像出来た。
「ナオミ先生って、性格はキッツイけど、スタイルは抜群だよね。清香もそう思うでしょ?」
「は………、はい。胸もオッキイし、クビレもキュッとしてて、………お尻もダイナミックで………。私も、こんな体になれたら、蓮君にも、もっともっと愛してもらえるのかなって、思います。……………やっ、ヤダッ」
清香ちゃんは、賢木先輩に聞かれて、即答してしまう。正直に答えるという、『強いお薦め』が彼女の心を縛っているようだ。きっと『指定された条件で呼びかけに応じて、許されるまでそこに留まる』というオマジナイが、君原先生の体を縛っているように。。。
「じゃ、蓮はオマジナイの素質あり部員として、私たちの指導の下で修業に励むこと。ナオミ先生は蓮の、ブーストかかりすぎた性欲を程よく処理してあげて、清香に負担が行き過ぎないように、優しく性の手ほどきをしてあげること。清香は蓮のオマジナイ修行と、ナオミ先生との関係を、彼女として大きな心で応援してあげること。以上が私、賢木先輩からの『強―いお薦め』。みんなわかりましたか?」
「はいっ。わかりましたっ」
「はいっ。………わかったわ」
「はいっ。清香は、大きな心で応援します」
3人の返事が、ほぼ揃った。先輩たちにその言葉を出されると、逆らいきれないことは何となく実感していたが、自分でも予想以上に素直な返事が大きな音量で出たことに、蓮は少し驚いていた。
昨日は学年で屈指と噂される美少女の裸を見させられて、エッチをさせてもらって、お付き合いすることになった。今日は怖がられながらも憧れられている美人教師の、日本人離れしたプロポーションを真正面から堪能させられて、性教育の指導を受ける約束をさせられる。その展開の速さと激しさも、蓮にとっては、竜巻のような振り回されっぷりだが、男としては考えられないようなラッキーな展開続きとも考えられる。それがまた、逆に不穏に感じられて仕方がないのだった。
。。
「そんなわけで、これが対照表をまとめた、私の変換ノートのコピー。まぁ、和英・英和辞典みたいなもんだと思いなさい。オマジナイの言葉と現代日本語とは、言語体系が違うから、類義語とかも一杯出て来るし、注意が必要なの」
部員初日の東屋蓮が、賢木先輩に渡されたのは、大学ノートのコピーをまとめた、紙の束だった。「君原先生のお仕事をお手伝いしています」と言って、清香が職員室でコピー機を使って作ってくれたノートの複写だ。
清香のそんな作業の間、蓮は当の君原先生から、性教育の初級レッスンを受けていた。『Eカップのオッパイでおチンチンを挟まれ、優しくシゴかれると、気持ち良い』という授業。蓮はこの街に住むどんな男よりも、この定説を心から支持する男子になった。「パイ擦りは想像するほど気持ち良くはない」という噂を聞いたことがあった。けれどそんな噂をしたり顔で語っている男たちは、聖アデリン学園高等学校の君原直美先生にパイ擦りされたことが無いというだけなのだ。4分ほどで2回も射精して、先生の綺麗な顔に粘度の高い精液を叩きつけてしまった蓮は、今もまだ、意識が半分天国にいるような、夢見心地でいた。
「聞いてる? アンタ、まだ顔が蕩けてるよ………。さっき誠吾は、召喚魔法がシンプルだから、まずは私に習うとこから始めてとか、軽い言い方してたから、舐めてるかもしれないけど、召喚魔法って、すっごい強力だからね。あと、頭さえ使えば、意外と使い道は多くなんの」
「はぁ………すいません」
蓮は、なんで叱られているのかよくわからなかったが、とりあえず謝っておいた。
「でも、確かに、昨日、僕らに服を脱がせたり、さっき君原先生を裸で片足立ちにさせたり、色々とバリエーションは付けられそうっすね」
蓮が思ったことを素直に言ってみると、不愛想に見えた賢木先輩の顔が、急にちょっと柔らかくなった。
「そうっ! そうなの。実はこのオマ・ケンの中にも、召喚魔法は単純だの、召喚一本でやってるアタシは不便じゃないかとか、思ってるヤツがいたりするけど、頭の使いようだから。それをこれから、アンタにも味わわせてあげる」
賢木先輩がチョークを手に取って、床に円を描き始める。模様や文字を描いている時の先輩は、ちょっと楽しそうだ。
「円の中に最初に書くのは、『来い』っていう命令。この文字は大体どんな召喚魔法でも一緒。その下に、呼ぶ相手。これは名前を書き込んでも良いし、『こんな奴』っていう、カテゴリーでもオッケー。円になっている線の外側は模様みたいだけど、『どんな状態で』っていう修飾語。線の外側は完全な模様で、相手の近くの空間ごと召喚する時。………この、最後のやつの説明はちょっと、口では難しいから、後回し。実際にやってみて、説明するんで、ま、そういうことでヨロシク」
賢木先輩はブツブツ言いながら、4つの円を描いた。確かに、円の中に最初に書かれている文字は、同じ形に見える。コピーの束から「来い」という動詞を引いてみると、床の円の上部にあるのと、同じ文字が横に書かれていた。
部室のドアが勢いよく、ガチャっと開けられる。
「ま…………また賢木さんっ………。やめてよっ。私で遊ぶの………」
長いストレートの黒髪が印象的な、綺麗なお姉さんが部屋に入って来て、不服そうな顔で一番左の円の中に「気をつけ」の姿勢で立つ。その口ぶりからすると、これまでも何回か、賢木先輩に『召喚』されたことがあるという雰囲気だった。
「ミヨ、最近、彼氏と別れたんだって? ………もったいない。葵が相性バッチリって占ってたのに………」
しれっと黒髪美人の先輩の抗議を受け流しながら、賢木先輩が平然と言ってのける。
「蓮、ここに書いてあること、対照表を使って解読してみて。ちなみにここに書いてあるのは、固有名詞だから、あいうえお順に音の対照表で解読必要だよ」
「…………えっと………。ふ………じ………か………わ………み…………………よ…………。来い?」
賢木先輩が両手を腰に当てて、頷いた。
「そ。…………じゃ、こっちも、読めんじゃない?」
「…………………このへんまで、…………こっちと同じ字が書いてあります?」
「んふふ。…………そう」
蓮がコピーの束を不器用にめくりながら読み込もうとしている途中で、左から2番目の円が紫に光る。すると部室のドアがまた開いて、こんどは男の先輩が入ってきた。
「すみません…………。なんか、急にここに、来なきゃいけない気がして…………。あれ、…………美代?」
「なっ……………。なんで、克樹が?」
蓮もこの、部室に入ってきた男の先輩のことは知っている。サッカー部で有名なミッドフィルダー、駒野克樹先輩だ。………ということは、ここにいる黒髪美人はきっと、駒野先輩とお付き合いしているという、美人で有名な藤川美代先輩ということだろう。
「蓮、ここに注目。途中までは同じ召喚呪文だよね。『来い、藤川美代………』このあと、ここに書いてあるのは、『の、想い人』っていう単語。つまり、私はこっちの魔法陣には、固有名詞で指定するんじゃなくて、こっちにいるミヨが好きな人を呼び出したっていうこと。そのへんの融通は効かせられるの。このオマジナイ」
「………え? ………美代が好きって…………。僕たち、終わったんじゃなかった?」
初めてこの部室に呼び出されたのか、まだ事態をよく飲み込めていない様子の駒野先輩。「美代が好きな人」という言葉に引っかかったようで、なぜ自分がここに来てしまったのかもわからないまま、すぐ隣に気をつけの姿勢でいる、赤面して口をパクパクさせている藤川先輩の顔を真っすぐ見つめている。体は蓮と賢木先輩に向けて気をつけの姿勢でいるので、首だけ90度、右に曲げているような、苦しそうな体勢だ。
「えっ…………ちがっ…………。まだ好きとか、私、言ってな…………。………もうヤダ………」
賢木先輩は、モゴモゴと喋っている美男美女の2人をほぼ無視して、鼻歌まじりに新しい円を描いていく。2つの円と角にして3角形を描くように、新しく描いた円は少し大きめ。藤川先輩と駒野先輩の立っている円から矢印を引っ張った。
「………ほれ。最近別れたけれど、まだお互いのことを好きなカップルは、制服を脱いじゃって、抱き合わせでこっちに集合。………蓮、ちゃんと単語ごとに意味確かめてね」
新しい単語がどんどん出て来るので、慌ててページをめくって、日本語と、よくわからない『オマジナイ語』の対照を確認する。アルファベットとも違う、ウネウネした装飾文字なので、形で覚えるしかなさそうだった。蓮が字引に苦闘しているうちに、歯を食いしばって我慢したり、迷うような表情を見せていた2人の先輩たちが、ソロソロと制服を脱いでいってしまう。トランクス一枚になった逞しい駒野先輩が、矢印の指し示す方向にある新しい円に足を踏み入れると、小さなリボンのついたショーツとブラジャーという、下着姿になってしまった藤川先輩が、体まで赤くさせながら、駒野先輩の立っている新しい円に、右足、左足の順番で入る。2人は躊躇いながらも、ゆっくりと腕をお互いの肩に回して、素肌をくっつけあってしまった。
「ほら、見とれてないで、ちゃんと解読っ」
チョークの粉を手から払いながら、賢木先輩の指導の声が飛ぶ。蓮は慌ててページをめくって、『制服』、『無しで』、『抱き合う』、『状態で』という単語を、対照表と床に書かれた文字から確かめることが出来た。
「………もうそろそろかな? …………お、………この騒々しい足音は………」
賢木先輩が少し、ニヤッと笑う。確かに部室の外から、駆け足の足音が近づいてきた。
ガチャッと開かれるドア。
「またアンタでしょっ! もう、いい加減にしなさいよっ。バカ繭菜!」
大きな声で怒鳴っているのは、白を基調にしたデザインの、テニスウェアに身を包んだ、美人アスリート。確かこの人は3年の谷川千絵先輩だった。
「あれっ。部長が練習抜け出しちゃっていいの? ………うちの部に何か御用かしら?」
「アンタが呼んだんでしょっ。毎回毎回、私で遊ぶなっ」
息を切らしながら、谷川先輩が激しい口調で賢木先輩に怒鳴りつける。叩きつけるように、先輩が入った左から3つ目の円の、真横に描かれた衛星のような小さな円に、白っぽい布を2枚置いた。よく見ると、それはショーツと、アンダースコートのようだった。
「蓮、この魔法陣はどういう呪文が書かれているか、当ててみ?」
「…………えっと………………。『来い』、………『テニス』………『部』………。『リーダー』。…………『脱いで』…………『下着』、………『下の』…………。ですか?」
時間はかかったが、蓮はそれぞれの言葉を辞書から引っ張り出すことが出来た。
「おぉー。合ってる! …………ま、見れば、ヒントがここに全部あるから、想像出来たと思うけどね」
「パンツ脱いでここまで全力ダッシュで来たんだぞっ。途中、何人に見られたかわかんない………。ホント最悪っ。女子テニス部のイメージを壊さないでよっ。もう、ゼッタイ繭菜のこと、許さないっ」
谷川先輩が凄い剣幕で怒り続ける。話からすると、この先輩は部活の練習途中で『召喚』を受けて、後輩たちの前でアンダースコートもショーツも降ろして、ダッシュでこの旧サークル棟までやってきた、ということらしい。テニスコートは運動場の南側にあるから、ほぼ高等部の敷地を横切って、プリーツの入った白いテニススカートをヒラヒラさせながら、駆けてきたということなんだろう。きっと部活男子たちに衝撃的なチラリズムを沢山サービスしてきてしまったことを、怒っているのだ。
「あらー……、すっかり千絵に嫌われちゃったなぁ~。………じゃ、もういっそのこと、こんなことしようかどうか、迷ってても、意味ないかな?」
賢木先輩が、両手の拳を振って怒っている谷川先輩の真横まで近づけた机の上に、小さな円を描いて、呪文を書き加える。
「うわっ…………ちょっ…………やめなさいよ」
ドンッと音を立てて、すかさずその円の上に、谷川先輩が左足を乗せる。白いプリーツスカートの裾はめくれ上がって、おヘソの下あたりまで、素肌が見えてしまった。下着を穿いていない、無防備な股間は当然、丸出しになる。慌てて彼女の両手がスカートの裾を精一杯、伸ばして、まだチラチラ黒いものが見えている、両足の間を守ろうとする。明らかに蓮の視線を気にしていた。
「フンフンフン、どうせ嫌われちゃったんだから、ここまでやっちゃってもいっか?」
床に描かれた魔法陣の少し後ろに、また2つ、小さな円を描いていく。谷川先輩は難易度最強のツイスターゲームに参加しているように、両手と右足を床について、大きく仰向けに仰け反りながら、左足だけは机の上に残そうとする。そのブリッジのようなアクロバティックな体勢では、全開になった脚の間の、恥かしい部分を隠すことは到底不可能になってしまっていた。
「わっ、わっ………ウソッ。ゴメンゴメン、繭菜、これやめてっ。お願い~」
美貌のテニス部キャプテンと、賢木先輩は、明らかに過去から色んな経緯があったことが想像出来る。そんなやりとりをしている。蓮は黒いアンダーヘアーから覗くピンク色の粘膜をチラッと見て、また激しく勃起してしまいつつ、そんな観察をしていた。
「ウーゥゥゥッ………。ウォンッ」
最後に部室に入ってきたのは、さっき蓮がお世話になったばかりの、君原先生。こちらは全裸で四つん這いになって、限界までベロを突き出しながら、部室の扉のところで、荒い息を口から吐いていた。恨めしそうな表情で賢木先輩を見上げているのは、同じだ。
「おっ。ナオミ先生も来たねっ。これで全部か。一通りのバリエーションが揃ったでしょ?」
谷川キャプテンを『可愛がって』いた賢木先輩が、嬉しそうな声を上げる。その間に、君原先生は最後に残った一番右側の円の中に立つと、両手(前足?)を胸の前に出して、躾けられた犬がする、『チンチン』のポーズで立ち尽くした。
「召喚する相手の『周囲の空間ごと引っ張って』呼び出すっていうと、素人にはわかりづらいかな? ナオミ先生は職員室に戻った直後にアタシに呼び戻されて、職員室で服も下着も全部脱いで、そこから四つん這いでここまで駆けてきたの。でも全然、外が騒ぎになってる様子ないでしょ? つまり、周りの一般人にとっては、呼び出されたナオミ先生の周囲10センチ分くらいの空間ごと引っ張られて歪んでるせいで、先生の呼び出され方については違和感を感じないっていうこと」
わかりやすく説明しようと、努力はしてくれているらしいが、それでもやはり、賢木繭菜先輩は、面倒くさがりだ。多分、論理のステップを2つか3つ端折って教えてくれているようで、蓮にはまだ、納得のいく説明にはなっていなかった。けれど、想像するに、この模様がついた魔法陣を描くと、どんな呼び出し方をしても、呼び出された人以外、周囲にいる一般人には違和感が感じられないということのようだ。
「………ん。ま、だいたいそんなとこ。多分ね」
賢木先輩が、考え込む蓮の表情を見ながら、適当に相槌を打つ。この人は本当に………。面倒な説明が嫌いなようだった。
「要は、習うより慣れよ、っていうことよ。このくらいが基本の4パターン。これだけでも、色々遊べそうでしょ? アタシも召喚士になって2年くらいたつけど、まだ全然飽きないよ」
言われて蓮は部室の中をもう一度見まわす。さっきまで居心地悪そうに、抱き合いながらブツブツと言い訳していた先輩カップルは、今はもうイチャイチャと下着姿で抱き合いながら、キスの応酬になっている。谷川キャプテンは過激でアクロバティックなポーズを維持しながら、体をプルプル震わせて、まだこちらに向けて恥ずかしい割れ目を全開にさせている。その光景を見ているだけで、蓮は前かがみになってしまった。
「どうだ。召喚魔法。覚える気になったんじゃない? ………エロ坊主」
脇腹を、賢木先輩に小突かれた。
。。
「普通だと、召喚魔法の基本から、床に一番シンプルな魔法陣描いて、少ない指示語や修飾語に限定して、書きやすい文字を選んで書き写すっていう覚え方をするんだけど。アンタの場合はモチベーション続くように、いきなり蓮の欲望に直結するオマジナイの使い方で教えとくわ」
賢木先輩はそう言いながら、練習帳に一度試し書きした魔法陣の半分を、蓮の右の手のひらに、書き込む。その楽しそうな口調からすると、どうせ何か、悪だくみを考えているようだった。
「よし………、と。残りの半分。蓮が左手のひらに書きなさいよ。右手でだったら書けるでしょ? ………うまくいくまで、何回でも書き直して良いから」
水性ペンとウェットティッシュ、そして練習帳を渡された蓮は、自分で苦心しながら、魔法陣の残り半分を自分の手のひらに書き込む。緊張で何度か間違えて、書き直す必要があった。練習帳に描かれた魔法陣の、オマジナイ語には解読文が下に書かれている。
『この魔法陣を正面に向けられた女の胸、来い、邪魔な布を取って』
と書いてある。魔法陣が完成すると起きることは、だいたい想像出来てしまった。
「出来たら見せて」
飽きっぽい賢木先輩が、蓮を急かすように言う。焦った蓮は、何とか書き終えた左手の魔法陣と、右手のひらを、先輩に見せた。
「あの………、こんな感じで、良いですか?」
蓮が両手を先輩に見せる。きちんと魔法陣が繋がって見えるように、右手と左手の親指同士もくっつけた。その瞬間、手のひらが少し、温かくなる。真正面にいる賢木繭菜先輩の体がうっすらと紫色に光った。
「ちょっ…………馬鹿っ」
両目を丸くした先輩が、蓮を叱りつける。………と思ったら、そのまま彼女は制服のシャツの裾をたくし上げて、藤色のブラジャーが見えるまで捲り上げた。
「蓮っ。手を離せっ」
言われたことをやっと蓮が理解して、右手と左手を離した瞬間には、賢木先輩が蓮と15センチの距離のところまで駆け寄っていた。左手でシャツを鎖骨あたりまでたくしあげ、右手でブラをずらして、清香よりも少しだけ小ぶりなオッパイを、曝け出してしまっていた。背筋を反らして、胸から引っ張られるような姿勢で近づいてきたせいで、その可愛らしいオッパイが、蓮の手のひらの前、5センチのところで突き出されているような体勢になっていた。
「あっち向け!」
「は………はいっ。ゴメンなさい」
蓮が慌てて回れ右をして、先輩に背を向ける。ギンギンに硬くなった蓮の股間も、先輩に見られずに済んだだろうか? わざわざ両目を閉じていても、蓮の瞼の裏には、大人っぽい下着をずらして零れ出てきた、可愛らしい、淡い肌色の乳首と、プルルッと揺れていたオッパイとが、なんどもループ再生されていた。
「………ったく………。試しに見せてって言われたら、両手を離したまま、こっちに向けてよ。両手をくっつけたら、魔法陣完成しちゃうでしょ………。…………素人……」
先輩がブツクサと文句を言いながら、服装を整えてる、布の擦れる音がする。賢木先輩の口調も、怒っているというより、少し困ったような、力の入り切っていない声の出し方になっていた。
「すいません………」
「はい、もういいよ。こっち向いて。……………この調子だと、アンタ、騒動ばっかり起こして、後始末が大変になりそうだから、もうちょっと書き足しておくよ。相手の周りの空間ごと、引っ張ってくるように………と」
先輩がサラサラと手のひらに、追加のオマジナイ語を書き込んでくれる。心なしか、さっきよりも、くすぐったく感じた。たった今、先輩のオッパイを見てしまったせいだろうか?
「これで、召喚された子の周りのギャラリーは何にも感じなくなるよ。引っ張られた空間の外にいるから………」
さっき先輩がデモンストレーションしてみせた、異常な状態で先生を召喚しても、騒ぎにならなかったという、追加の模様だ。
「ほい、完成。………さっさと色んな子で試して来なさいよ。エロガキッ。アタシの胸の記憶が無くなるくらい、色んなオッパイ見て、触ってきたら良いでしょっ!」
お手製の辞書と練習帳、ペンを蓮に持たせた後で、馬にムチを打つように、バシッと背中を叩く賢木先輩。今度の口調には、はっきりと怒気がこもっていた。やっぱり、後輩の男子にオッパイを見られてしまったことは、恥かしかったらしい。
「はっ………はいっ!」
逃げるように、蓮は部室を駆けだした。
人気の少ない旧サークル棟から体育館に近づく。体育館前では、女子バレー部の先輩たちが、1年に指導をしていた。バレー部本体は館内で練習しているようで、ここには5人くらいの体操服姿の女子たちが、レシーブの仕方を先輩から教わっている。皆、ポニーテールに髪をまとめて練習しているので、見た目が似通っている。
蓮は一生懸命練習している女子たちを一人ずつ、見定めていたけれど、一番ルックスが良くて、胸も大きそうだったのは、指導している3年の先輩だと思った。その先輩がボールを1年に投げようと構えた瞬間に、後ろから両手をかざして、右手と左手の親指同士をくっつける。魔法陣が完成すると、また手のひらが少し暖かくなった。
「はい、次、ミチルいくよーっ。…………ん? ……………え?」
体の周りが一瞬、淡く紫色に光った、その3年生の先輩は、背筋をビクッとさせた後で、ボールを右手から落とす。怪訝そうに眉をひそめながら、クルリと体を蓮の方に向ける。迷いながら、両手を体操服の白シャツの下の方に伸ばしていくと、裾を掴んだ。
「うう…………やだ………。……け………ど………」
片足を前に出したり、戻そうとしたり、最初の3秒くらいは足踏みをしながら、シャツを捲り上げていく、スポーツ少女の先輩。水着のような素材の、サポートのしっかりしたブラジャーにも指をかけて、シャツと一緒に捲り上げると、想像通り、ダイナミックなオッパイがボロンと零れ出た。そこで引力がさらに増したように感じたのだろうか? 先輩はオッパイを丸出しにして、蓮に向かって突進してきた。ぶつかるような勢いで、蓮の両手にムギュっとした感触が押しつけられる。
「やだっ………。離れないっ」
先輩が必死に、蓮の手に形が変形するくらい押しつけられ、押しつぶされているオッパイを、引き離そうと背筋に力を入れる。さすがのアスリートの背筋力で、少し先輩の上体が蓮の手から離れそうになる。けれど魔法陣の召喚する力には勝てないのか、またオッパイが押しつけられる。蓮からすると、余計に勢いをつけてオッパイをムニュムニュと何度も押しつけてもらっているような感触。それはまるで、冬の寒い日に家に帰って来てストーブに手をかざした直後のような、手のひらから天国がやってきたような感覚だった。
蓮がバレー部先輩の肩越しに見てみると、1年の女子たちはまだレシーブの体勢を崩さずに、先輩の行動が終わるのを健気に待っている。やはり彼女たちは異常を感じていないようだった。これが、先輩付近の空間ごと引っ張って召喚した時の効果のようだ。
「み………みんな………。むこう向いて、レシーブの動きの練習続けててくれる?」
顔を真っ赤にして、オッパイをギュウギュウ蓮に押しつけながら、先輩は威厳を壊さないように1年女子たちに指示をする。後輩たちが従順に左方向に体を向けてエア・レシーブをしている間、彼女は、どうしても蓮の手のひらに呼び寄せられてしまう自分のオッパイを引きはがそうと、悪戦苦闘していた。
(オッケー。どんな感じに作用するのかは、わかりました。)
蓮が満足して、両手の親指同士を離す。その瞬間、オマジナイの効果は切れて、バレー部の先輩は「キャッ」と叫ぶと、勢い余って後ろにでんぐり返しになって転がってしまった。色んな方向に揺れるオッパイを、様々な角度から見ることが出来た蓮は、ぐっと自信が増した。
運動場を横切る。ラクロス部の女の子たちは襟付きのシャツとスコッチ柄のスカートを履いている。可愛い子を見つけた蓮が、両手をかざして親指同士をくっつけると、その両手の正面に位置するところで練習に熱中していた、お嬢様風の女の子が、長いラケットを落とす。ベソをかくような、眉を「ハの字」にさせた顔で、シャツを捲り上げると、フリフリのフェミニンなブラジャーが顔を出す。駆け寄ってきた女の子が蓮の両手に胸を押しつける頃には、そのフリルのブラジャーは擦り上げられて、柔らかい(少しだけ左右に開いた)オッパイが顔を出してしまっていた。
「……やっ…………ごっ………ゴメンなさいっ………。その、………違うんですっ」
オッパイをじかに押しつけてきながら、お嬢様風のラクロス女子が、自分の行動を蓮に謝る。何とか、言い訳を考えようとしているのだが、自分でも納得のいく理由が思いつかないようで、まごまごしている。そのうろたえっぷりも可愛らしい。
「大丈夫ですか?」
蓮がわざとらしく質問しながら、右手と左手の親指を離してみる。するとお嬢様の押しつけるオッパイの圧力がフッと弱まり、彼女は3歩、後ずさった。慌ててオッパイをブラの中に押し込んで、シャツの中にしまおうとする。
「あの………はいっ。大丈夫です。………ちょっと貧血気味で、倒れそうになって………」
居心地悪そうに、蓮にペコリとお辞儀すると、急いで元の練習に戻ろうと背を向ける。そこにもう一度、蓮が親指同士をくっつけて、魔法陣を完成させると、さっきの動きの巻き戻しのように、ガバッと大胆にユニフォームを捲った彼女が、また蓮の手にオッパイを押しつけるために、飛び込んでくる。
「キャァ…………。もうやだっ…………。なんで? …………ゴメンなさいっ!」
蓮が親指をくっつけたり離したりするたびに、目の前のお嬢様はオッパイを露出させて飛びついてきたり、急に体の自由を取り戻して離れたりと、忙しく服の脱ぎ着を繰り返す。その恥ずかしそうな慌てっぷりから、彼女の育ちの良さや、恥かしがり屋な性格が良く伝わってきた。
体育館の脇には、フェンスで囲われた弓道場がある。この学園は『聖アデリン』という名前の通りのミッション系だが、精神修養に役立つという理由で、弓道部がある。弓道着を着て、的を狙っている女子生徒たちを横から見ると、ついつい見とれてしまいそうだ。白い道着に長い紺の袴。片側に黒い胸当てをつけている。立射の姿勢で真横を見据える弓道少女たちの横顔は、凛としていて綺麗だ。思わず蓮はフェンスの扉を開けて、中に入ってしまう。
矢をつがえようとする綺麗なお姉さんを両手でとらえるように、両手の親指をくっつけて、手のひらをかざす。キビキビとした動きのお姉さんが、ピクッと肩を動かした。しばらく、姿勢を崩さないように、じっと固まっていたお姉さんが、弓の弦を戻して、足元に置くと、両手を背中に回す。困ったような顔のオデコには、一筋の汗が垂れていた。シュッと音を立てて、胸当てが外れる。白い道着の重なった裾を両手で掴むと、ガバッと開く。蓮はその瞬間に彼女のブラジャーが見えることを想像していた。しかし、弓道のお姉さんはしっかり道着の下に薄手のTシャツを着ていた。少しだけガッカリした蓮だったが、すぐ後に生唾を飲み込む。道着から両肩を抜いて、Tシャツも捲り上げて首を抜き取ると、完全に脱ぎ捨てて、さっきの弓の下に敷くと、グレーのブラジャーも外して、やっと蓮の元までやって来てくれる。白い道着を腰から下に垂らして、袴の裾を地面に擦らせないように少し持ち上げて、腰を低めに重心を低く保ちながら、摺り足で駆け寄って来るそのお姉さんの仕草は綺麗だった。
ムニュッ………。
白いオッパイが蓮の両手に押しつけられる。綺麗なお姉さんの顔が間近まで寄っていて、蓮は思わず息を飲んだ。
「落ち着いて」
囁くように、弓道部のお姉さんは蓮に話しかける。
「………この学校。たまに変なことが起こるっていう噂を聞いたことがあるけど、今の私に起きてることが、そうかもしれない。…………変な気にならないでね。私はただ、どうしても自分の胸を、君の手に押しつけないといけないの。………それだけのことだから…………。誤解をしないようにして欲しいの。………こういう時こそ、………冷静にしていなきゃ、駄目なの」
お姉さんは、まるで自分に言い聞かせるように、蓮に話しかける。至近距離にいるせいで、お姉さんが囁くたびに、彼女の息が蓮の顔にかかって、それもまた興奮させられた。
一生懸命、蓮に対して冷静な行動を呼びかけてくる、綺麗なお姉さん。人差し指と中指の間で乳首を挟ませてもらうと、「んんっ」と顔を仰け反らせた。肩を震わせて恥ずかしそうにしているので、親指同士をそっと離してあげる。魔法陣が崩れると、不意に自由になったお姉さんが、両手を交差させて体を隠しながら逃げていく。まだ練習中の仲間たちの後ろを通り抜ける時は、小さく会釈しながら、まだ摺り足で逃げていく。どこまでも行儀の良いお姉さんだった。
彼女が立射していた場所が空くと、その奥に立っていた別の子が蓮の真正面に立っているという位置関係になる。なので蓮がまた両手をくっつけてかざすと、今度は次の女の子が、オッパイを出して駆け寄ってきてくれる。ひとしきり感触を楽しませてもらうと、親指を離して魔法陣を解く。恥ずかしそうに女の子が逃げていくと、次の女の子が見える。順番に、弓道部の女子たちのオッパイを揉ませてもらうことが出来た。5人目の女の子は、それまでの子よりも、ぐっと背が低い。確か、弓道部は安全面の考慮から、中等部は3年からしか入部出来ない。中等部だけでは人数が揃わないので、高等部と合同練習をしているのだ。きっとこの子は、中等部3年生ということだろう。髪の毛を後ろでお団子にして、まだ少女のようにあどけない、可愛らしい子だった。蓮が親指をくっつけてかざすと、まるで先輩から呼び出されたかのように、一度飛び上がって、慌ててこちらに駆けてくる。急いで胸当てや道着を脱いだら、ブラのカップと一体になったような、スリップが見えた。スリップから頭を抜こうと苦闘しながら駆けてくる間に、一度、二度とつまづいて、転びそうになりながらも必死でこっちに駆けてくる。その仕草が微笑ましかった。
蓮はこれまでに何人ものオッパイを触らせてもらった余裕からか、あるいはこの子の見た目や仕草が可愛すぎて、悪戯心を刺激されたからか。小柄な彼女が、ギリギリ胸を付けられないくらいの高さに両手を掲げてみせる。すると、背伸びをして、精一杯胸を突き出した弓道少女が、あるかないかわからないくらいの胸を、やっとのこと、蓮の手にくっつける。限界まで背伸びした足が、プルプルと震えているのがわかった。もうちょっと手を上に上げる。すると可哀想な弓道少女は、ピョンピョンと両足を揃えて跳ねて、なんとかオッパイを蓮の手に当ててくる。
「わたし…………呼ばれてるのに~。…………届かないですっ。イジワル~ッ」
中等部の美少女は両手でオッパイをすくいあげるような姿勢で、何度もジャンプして、頑張ってオッパイを蓮の手のひらに当ててくる。もう少しだけ手の位置を上げると、もう乳首がかろうじてチョコンと当たる程度。でもその感触も可愛らしくて、面白かった。
「………はっ…………。私、なんで、こんな…………。イヤーァァァッ」
美少女のジャンピング・オッパイプレスを楽しんだ蓮が魔法陣を解くと、我に返った弓道少女は体を隠しながら逃げていく。いつの間にか、弓道場からは人がいなくなってしまっていた。
「他に、今、オッパイを出してもらって、面白い部活とか、無いかなぁ~」
弓道場を後にした蓮が、キョロキョロと辺りを見回していると、別のフェンスが目についた。屋外プールだ。中から水音と、女子たちの嬌声が聞こえてくる。プールの周りの音というのは、いつもどこか特徴的だ。蓮たち男子の気を引かずにはいられないとばかりに、魅力的な弾む音だった。
「プール! ………水着女子っ。決まりっしょ」
気づかないうちに、蓮は独り言が増えている。こんなに上手く、手っ取り早く、『オマジナイ』でイイ目が見られるとは思わなくて、調子に乗っているのだった。
水泳部の活気ある練習風景。その活気に紛れて、プールの中に入りこんだ蓮が女子部員を探して目を凝らす。みんな恰好が恰好なので、スタイルの良いお姉さんを見つけることは簡単だった。先輩の忘れ物を届けに来た、水泳部ではないけど知り合いの後輩です………。委員会活動で一緒なんです………。そんな設定を自分の中で思い浮かべながら、極力、怪しまれないように気をつけて、プールサイドへ足を進めた。
背泳ぎをしている先輩がいる。水面から2つのブイが浮き出て水を掻き分けているようだ。隠しようのない巨乳。きっと鍛えられた筋肉にも支えられた、抜群の張りと触り心地で楽しませてくれるはずだ。彼女が蓮の横を泳いで通り過ぎようとしたその時、蓮は彼女を正面に捉える角度で両手をかざした。
水中でも、僅かに体の周りが紫色に光る。美人スイマーはコースを外れて、姿勢も変えて、蓮の方へ胸を突き出しながら、下半身をバタフライのような動きで近づいてくる。プールサイドに上がった時には、スクール水着は肩から外され、紺の素材は腰まで下ろされてしまっていた。体をプールサイドに上げて、そのままの勢いでムギューっと大きなオッパイを押しつけてくる。美人スイマーのお姉さん。きつい水着から解放されたばかりの巨乳は、ブルンとつかの間の自由に喜ぶように踊った後で、変形するくらい蓮の手に濡れた肌を押しつけた。プールで泳いでいる途中の。水着から零れ出たオッパイ。ヒンヤリした触り心地もまた、最高だった。
その感触をいつまでも味わうかのように、両手の指で揉みしだく蓮。ウットリと堪能していた彼の頬が、バチーンと大きく張られた。衝撃を感じた後で、ジンジンと、痺れるような痛みが、左の頬から伝わってくる。
「貴方、何なの! ………私も、こんな格好…………。イヤーァァッ」
我に返ったような女子水泳部員の声。彼女は腕で胸を隠すようにして、慌ててプールの中へ飛び込んだ。
(………なんで? …………まだ親指離してなかったはずなんだけど………。)
痛む左の頬っぺたを撫でた蓮の手。その手のひらをマジマジと見つめてみると、描かれていたはずの魔法陣が、にじんでよく読み取れなくなっていた。右手も開いて、両手のひらを見る。魔法陣もオマジナイ語も、ほとんど、消えている。蓮はそれを見てようやく、さっき賢木先輩が使っていたのが、水性ペンだったことを思い出した。
「おいっ。なんだアイツ。牧原を脱がせて触ってなかったか?」
「変態っ! ………誰か、捕まえて―っ」
プールのあちこちから、声が上がる。蓮が気がついた時には、危機を察した自分の体が、独りでにプールの柵をよじ登って、飛び越えようとしていた。
(うわわわわっ…………。ヤバいよ~っ。)
柵を飛び越えた蓮は、全速力で逃げる。水着の水泳部員たちは、プールから遠く離れてまで、追いかけてこようとはしなかったけれど、心配だった蓮は、後ろを振り返ることもなく、数百メートルは走り続けた。
。。
水泳部の人たちがもう追いかけてこないとわかってから、ようやく蓮は安心することが出来た。全速力で逃げてきたせいで、太腿やふくらはぎがジンジンする。今日の『オマジナイの勉強』はここまでにしようかと思って、部室に足を向ける。鞄を置いてきたままだし、清香ちゃんと一緒に帰ろうと話していたのだ。
けれど、これで今日の勉強は終わりだと思って、両手のひらを見ると、さっきまでの天国のような感触が蘇ってくる。一部だけまだ薄っすら残っている呪文と魔法陣を見る。このまま、今日を終わらせてしまうのは、少しもったいないようにも感じられた。
「………最後にちょっとだけ、自分のオリジナルのオマジナイも、試してみよっかな? ………自分なりに工夫してみた方が………その、覚えも早いかもしれないし………」
蓮は自分に言い聞かせるように、都合の良い独り言を呟く。お尻のポケットにネジこんであった魔法語の対照表を引っ張り出して、考える。外の窓から見て、誰もいない教室。先生の机にペンが置いてある教室を見つけ出して、そっと忍び込んだ。ペン立てに入っているのが、油性ペンであることを確認して、キャップを空ける。
『来い、走って、学校で一番、清楚なお姉さまのオッパイ。直に。』
書きながら、蓮の頬がポッと赤くなる。お姉さまと書いたので、彼女の清香ちゃんは対象から外れるのかもしれない。いや、日本語でも同年代の女の子をお姉ちゃん、ネーチャンと呼ぶ人はいる。清香ちゃんが来てくれたら、それはそれで嬉しい。いや、お嬢様校として定評がある聖アデリン学園だ、蓮がまだ見たこともない超絶美少女が、この両手に、清らかで柔らかいオッパイを押しつけに来てくれるかもしれない。相手の周囲の空間ごと召喚するという模様は、上手く真似することが出来なくて、諦めた。スーパー清楚な女子高生に人前でオッパイを押しつけられて、学校中の噂になる。それも別に悪いことではないかもしれない。期待に自分の胸を膨らませながら、蓮は運動場の真ん中近くへと足を進めた。
生唾を飲み込んで、蓮が両手の親指をくっつける。自分の手の周りがうっすらと紫に光った。手が温かくなる感覚。その感覚も、今は楽しんでいる蓮の元に、旧サークル棟の方角から、清香ちゃんが駆けてくる。
「蓮くーん」
一緒に帰ろうと言おうとしたのか、ふいに人目を気にして顔を赤くしながら、駆け寄ってきてくれる清香ちゃん。蓮の鞄も持ってくれている。本当に、名前の通りに清らかな、蓮の彼女。学年でも指折りの美少女。やっぱり彼女が、この学校一番の清楚なお姉様のようだ。
手を振ろうと思ったけれど、魔法陣を壊せない蓮は、笑顔を清香ちゃんに向ける。その彼女の小柄なシルエットから、横に飛び出してきた、もう一つの黒い影があった。国枝清香ちゃんを追い越して、猛スピードで蓮の元へ駆けてくる。学園長先生だった。黒いのは修道服。ミッション系の聖アデリン学園はカトリック系のシスターが学園長を務めている。確か今年で70歳になるはずの、お婆ちゃん先生。もしかしたら彼女は、信仰に人生を捧げた純真なヴァージンなのかもしれない…………。
嫌な予感が高まりすぎて、蓮の思考が停止する。ブラックアウトしそうになる。両手の親指を離して、魔法陣を解こうと思った時にはもう、目の前には還暦を過ぎたお姉様が修道服を鎖骨まで捲り上げて、蓮の体に飛びつき、タックルをかけるような体勢で押し倒していた。受け身を取る間もないほどの、凄まじい勢いだった。
「園長――っ、どこに行かれるんですかー? …………おっ、おいっ。お前、学園長に何をしてるんだっ」
ジャージ姿の体育教師の声が聞こえる。背中と後頭部がジンジンと痛む。やっと体を起こした蓮は、自分の手がまだ、老学園長の垂れしぼんだ胸を直に触っていることに気がつく。
「蓮君っ…………。どうして?」
蓮の傍には、清香ちゃんが真っ青な顔をして、両手で口元をおさえ、立ち尽くしている。肝心の学園長先生はというと、蓮が両手を離したあとでやっと正気を取り戻したような、柔和な顔になり、自分の上半身を見下ろして、捲り上げられた修道服、破られた肌着と下着を見て、最後に曝け出されたオッパイの歴史遺産を見る。そして何かを呟くように唇を動かした後、手で十字を切って、そのまま失神した。
まだ肌を出したままのお婆ちゃん先生が倒れるのを、蓮は慌てて受け止める。気がつくと蓮の周りは生徒たちで人だかりになっていた。
「いや…………ちが…………。誤解です。……………これは…………あの……………。オマジナイのせいなんです」
蓮が一生懸命、事態を説明しようとしているのだが、張り詰めたような空気はどんどん険悪になっていく。時を止められるオマジナイ、あるいは瞬間移動出来るオマジナイがもしあるなら、先に教えておいてもらいたかったと、心の中で非現実的な恨みを先輩たちに投げつけていた。
<第3話に続く>
今回は4時くらいに更新だったみたいですね。
覚えたての魔法で調子に乗ってやらかすのは催眠の華!
来週は今回のオチの尻ぬぐいスタートになりそうですね。
やってることは結構酷いのに、女の子キャラに悲壮感が余りないお陰で素直に楽しめます。
果たしてこのオカルト集団がカルト集団と如何にして交わるのか・・・あるいは交わらないのかw引き続き続きが気になるところ。
『リアルっぽい』催眠術小説原理主義を離れ別のアプローチと言いつつも、
なんだかんだそれっぽい理論を毎回良く考えられてて凄いな、と。「鋼の錬金術師」の手を合わせることで、腕で錬成陣を描くってイメージでいいのかな?
なるほど、「オカルト編」と「カルト編」を合わせて「オカルトオアカルト」。
……「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」?(古い)
この体系立てたMC理論の構築、まさに永慶ワールド全開ですね。
教えられたルールを紐解いて自ら発展させていく様は「魔法使いの小冒険」等を彷彿とさせます。
今回のMCシチュの、与えられた命令やルールに『逆らえない』っていうのはとてもそそります。
頭の中で詐欺じみた契約だと理解しているのに従わざるを得ないとか、最高でした。
そして『召喚魔法』。こっちもかなりチート染みてます。しかも一度魔法陣を展開すれば使い手の賢木先輩ですら逆らえないとか、たまりません。
男子が見ている前であろうと下着を脱ぎ捨てて全力ダッシュしないといけなかったりノーパンで強制ツイスターさせられる谷川先輩のシーンとかとても興奮しました。
まだまだ他にもあるオマジナイがこれからどのように登場するのか、今からとても楽しみにしています。
読ませていただきましたでよ~
タイトルはオカルトなのかオカルトオアカルトなのかw
どっちにしても今回はオカルトだけみたいでぅけど
そしてあると思った小悪戯のプチパニック。永慶さんの大好きな分野でぅものね。
水泳部って時点でオチが見えたし、学園一清楚な人物という時点で蓮君の願ったこととは違う落ちになるんだろうなぁと思ってたのでわかりやすい落ちでぅね(まあ、みゃふは清楚だけど美人ではない人が来ると思ってたのでおばあちゃんが来ることまでは予想できなかったんでぅけれど)
先輩たちはいろんなおまじないをそれぞれ特化してるわけでぅけれど、蓮君は全員から手ほどきを受けて万能型になるんでぅかね。でも、それを描きつつカルト側も書こうとすると短編に収まりきらない気しかしない。
10話くらい行くとかそれならそれで歓迎なのでぅけど毎週1話ずつだと3月までかかっちゃうんでぅよね。
これからどんな感じで展開していくのか楽しみでぅ。
みゃふ的には能力の細かな応用って大好きなので今回の召喚魔法の色んな使い方は面白かったのでぅ。誰かを召喚で呼び出した上で、”意識だけ”を更に召喚すれば目の前で人形化とかなるんでぅかね?
次回はカルト編かな? 楽しみにしていますでよ~
であ
催眠同人界の大ベテランにして生きる伝説─永慶さまの最新作を拝読させて頂き誠に僥倖ですね
20年を超える連載、日々高まり続けていくクオリティー、どれをとっても素晴らしく読む度に嬉しさが増していきます
長期連載された素晴らしいキャラクターの皆さんが今どう生きてるのかも気になりますね
園地澪さんとか今頃アラフォーだったり、ピンプル君とか隠居してカフェでも開いてたりするんでしょうか気になります
長く語りましたが、今後もこれまでの氏の努力に多大な感謝を、そして今後も多いに応援させて頂きたいです
>慶さん
毎度ありがとうございます。ここのところギリギリの投稿になってしまっているために
更新が遅めの時間帯になってしまったのかもしれません。お待たせしてすみませんです。
かなり柔らかい頭でフワフワと思いつくままに書いております。もう時期的にはお正月ボケでは許してもらえないかもしれませんが、
出来る範囲で頑張りますっ。気が向いたらお付き合い願いますです。
>ティーカさん
世界の終わりとハードボイルドワンダーランドっ!言われてみればそうですね。
僕も村上春樹好きですっ。主人公がわりとすぐフェラチオされるあたりも・・・(笑)。
「お前、そういうとこだぞっ」って言ってあげたいです。
魔法は無制限の力よりも、制約のある有限の力を、工夫して好きなことするのが楽しいですよねっ。
召喚魔法ももっと色んなMC使いがあると思いますが、その片鱗を匂わせることが出来ていたら嬉しいですっ。
>みゃふさん
そうなんですよ。6話くらいだと収まらない話なんですよね。そもそもが・・・。
かといって、カルト編はあんまり展開が早すぎると魅力を自分で削いでしまうような気もするし。
サスペンスというかミステリー仕立てというか、こういうのって改めて難しですね(笑)。
たぶん「これからだっ」ってところで、バッサリ途切れます(笑)。すみませんです。
>筆さん
過分なお言葉を頂いて、本当に恐縮ですが、今シリーズではかなり筆さんのこちらのお言葉でエンジンがかかりなおしました。
おかげで、ビハインド気味だったペースを取り戻すことが出来ました。
奮起のきっかけというものです。本当に感謝申し上げます。
これからも出来る範囲で(実力の衰えは見据えつつも)頑張って参りたいと思います。
ありがとうございますっ!