【実習11日目 被験者:牧野さん&尾崎さん&文乃ちゃん】
「失礼します」
教育実習、最後の週の最初の放課後。
俺は実習日誌を持って音楽準備室を訪ねる。
「あ、伊藤くん。また来てもらってごめんね」
「牧野さんもそっちに行ってるなら、俺が行くのが一番手っ取り早いからね」
中には尾崎さんと牧野さん。ふたりはそれぞれ実習日誌を記入していた。
今日もお互いに授業を見学して、その感想を聞きに来た。
そろそろ慣れてきたもので、それぞれの授業の反省を伝え合い、メモを取る。
そのメモをもとにして、授業実習の反省を記入する。
実習日誌は大学ごとに違っていて、反省欄の量も違う。
俺の大学の日誌は反省欄がやたら広く、尾崎さんや牧野さんよりもずっと多い。
牧野さんと尾崎さんは先に書き終えて話に花を咲かせている。
遅れること10分ほど。もう少しで書き終えそう、というタイミングで少しスマホを弄ってMineを起動、メッセージを送る。
そして書き終えた最高のタイミングで、
「失礼しまーす」
声と一緒に元気よくドアが開け放たれる。
そのまま準備室に入ってきたのは文乃ちゃん。……のカラダ。
さっきMineで、
『マスターの名に於いて命ずる。出てこい、サキュバス。5分後に音楽準備室へ来い』
と召集をかけておいた。
「えっと……何か用事ですか?」
「ごめんね、いま先生はいないんだ」
どうやら二人とは面識がないみたい。
尾崎さんは申し訳なさそうに先生がいないことを詫びている。
「マスター、今日はここで4Pでもするの?」
「そういうこと。それぞれ牧野先生と尾崎先生。俺と同じ教育実習生ね。文乃ちゃんも自己紹介してあげて」
俺も文乃サキュバスも二人の言葉を無視。彼女が入ってきた音楽準備室入り口のドアに『教師不在、立ち入り禁止』と札をかける。
「2-C組、高瀬文乃。……のカラダに居候してるサキュバスでーす。よろしくね、センセ」
「えっ……サキュ……なに?」
「伊藤くんが高瀬さんを呼んだの?」
状況を飲み込めてない尾崎さんからの質問。
俺はそれも無視して、
「じゃぁ文乃ちゃん、二人を奥の防音室に連れてって」
「はーい。じゃぁ先生方、立ち上がって私についてきてー」
文乃サキュバスがそう指示すると、
「えっ……え? あれ?」
「なんで? 身体が……えっ?」
尾崎さんも牧野さんも実習日誌を開いたまま、その場ですぐ立ち上がって、防音室に入っていく文乃ちゃんの後を付いていく。
俺もその後をついて最後に防音室に入って、ドアを閉める。
「伊藤くん、どういうこと? 何がどうなってるの?」
「……なにこれ、なんで私、勝手に」
視線でずっと助けを求めてくる牧野さんと、勝手に身体が動いてることへの恐怖で縮こまっている尾崎さん。
その二人をまだ無視して、
「文乃ちゃん、ちょっと二人の時間を止めちゃって」
「はーい。じゃぁセンセ、少し静かにしててね。時間よ止まれ!」
パン、と手を叩く。
すぐに説明をと訴えていた牧野さんの視線からは光が消えて、尾崎さんの震えも止まる。
「凄いねマスター! こんな強力な結界が張れるなんて!」
「まぁそれほどでも」
そして文乃サキュバスだけが楽しそうに俺の顔を見上げてくる。
今日は新しいテストをやってみようと思った。
牧野さんと尾崎さんの二人には、
『音楽準備室と防音室には魔法陣が張られている』
『その魔法陣の中では、サキュバスが魔法を使えるようになる』
『サキュバスの魔法には、人間じゃ逆らえない』
という催眠を。
文乃ちゃんには、
『音楽準備室と防音室には魔法陣が張られている』
『その中で、サキュバスは自由に魔法を使えて、人間を操れる』
という催眠を。
だから文乃ちゃんが入ってきた時点で、彼女がサキュバスと認識できるようにしなきゃいけなかったんだけど、文乃ちゃんが自分からサキュバスですと自己紹介してくれたので手間が省けた。
要は、牧野さんも尾崎さんも、文乃サキュバスの思うがままに操られてしまう状態になっている。
これはちゃんと手引きしておけば、施術者の俺ではない、第三者の言うとおりになる、という暗示が上手く行くかどうかの実験。
そしてそれは上手くいったみたいだ。サキュバスの魔法にかかった二人はピクリとも動かない。
「で、4Pってなにするの?」
「えっとね」
何も考えてない。
この実験が目的だったから、それ以上のことを特に考えてなかった。
……少し考えても思いつかないので、
「文乃ちゃんが何かやってみてよ」
「ワタシが?」
サキュバスに頼むのが一番カタいだろう。
『サキュバス』という単語から、男に都合のいい存在というのを選んだ文乃ちゃんだ。何か面白いことをしてくれるに違いない。
文乃サキュバスは少し唸った後、固まったままの二人の間に入って小声で語り掛ける。
催眠は基本的にこちらから何か指示、指定する必要がある。自分の求めることができるけど、代わりにサプライズやドキドキといった要素は少ない。
だけども、昨日の寺島先生の時みたいに、自分の意図を理解してる人にお任せすることで、確実に自分損をせず、何が起こるか何をされるかわからないドキドキ感を味わえる。
まぁ文乃サキュバスが用意した趣向が俺の趣味に合わず、損はせずとも得をしない……なんて可能性もまぁあるっちゃあるが、それも含めてのドキドキ感、サプライズというものだ。
しばらくして仕込みが終わったらしい。文乃サキュバスは牧野さんと尾崎さんに話しかけるのをやめて、背中をポン、とたたく。
それを合図にして二人は意識を取り戻して動き始める。
時間を止められる前は文乃サキュバスを警戒したりこの状況に恐怖してた二人だったけど、さて何が始まるか……
ドキドキしながら待ってる俺の前で、二人は顔を見合わせると、うっとりとした表情になって口づけを始めた。そして両手はお互いの身体をまさぐりだしている。
「これは……いわゆるレズ、ってやつ?」
俺の隣に戻ってきていた文乃サキュバスに確認する。
確かにそういうオカズは存在する。
目の前で、スーツの女子大生二人の生レズプレイ。それはそれで美味しいものだけど、自分が介入するものじゃなかったから少し拍子抜けだった。
「そ。この二人もなかなかの美人だから絵になるでしょ? 美人先生二人の百合は」
「まぁそうなんだけど……」
目の前で繰り広げられる甘い空間。
もうお互いにジャケットを脱がせて、直接ブラの中に手をいれて揉み合っている。
なんだけど、残念ながらスマホは国語科準備室のカバンの中。ここには持ってきていない。動画や写真として残すことができないのだ。
「これをオカズにしてオナニーする、ってこと?」
「ご主人様ってさ、サキュバスを召喚するくらい性欲に溢れてるのに、こういう想像力は貧相だよねぇ」
呆れた、と言わんばかりのジト目を向けられる。
そして「はぁ」とひとつため息を入れてから、何を仕込んだのか説明し始める。
「まず、美人の先生二人を、お互いのことが世界の誰よりも大好きなレズビアンにしちゃいました」
「うん」
「なので今こうやって、目の前で人目も憚らずにイチャイチャしちゃってます」
「うん」
目の前の二人は涎が漏れるくらいのディープキスをしながら、お互いの服を脱がしている。
一度も口を離してないのを見ると本当にお互いが好きで仕方ないらしい。
これをオカズにしろ、ってわけじゃないなら……なんなんだろうか。
「でさぁ、男の人って一度は考えないの? 百合の間に挟まりたい、って」
「……あぁー」
なるほど。
「今の二人はご主人様に触られた時だけとんでもなく感じるようになってるの。だから略奪し放題、堕とし放題。百合百合してる美人を堕として挟まりたいとか思わないの?」
百合の間に挟まるか問題。これは男性にとっては極めて高度な議題であり、下手をすると戦争を招きかねない問題である。
俺は基本的に『百合は百合として楽しむ』派ではある。ではあるが……いざ現実に、目の前に挟まれることができる御膳立てがあると揺らいでしまう。それに据え膳食わぬは恥というもの。
「そういうことなら楽しませてもらおうかな」
状況を理解したならあとは楽しむだけだ。
文乃サキュバスは「後でご褒美の精子ちょうだいね」なんて言ってるけど、残っているかは自信がない。
さて、どう介入してみたものか。
「あの、牧野さん、尾崎さん。さすがに実習中にこういうことするのは……」
まず正論を投げてみる。
「ごめん伊藤くん、実習中とかもうどうでもいいの」
「もう先生に見られても止める気はないから。ごめんね」
こっちに視線を向けることもなく絡み合う。
「じゃぁ……誰にも言わないからさ。俺も混ぜてよ」
間男のお決まりのセリフ。
「は? 馬鹿なこと言わないで」
「邪魔しないで、伊藤くん」
二人の目つきが一瞬で変わって、軽蔑という感情しか込められてない冷え切った目で睨まれる。
一言ずつ吐いたあと、また蕩けた顔になってキスを始めた。
並みの間男なら射殺せそうな鋭い目だったけど、今の俺は止められない。
思い切ってちからづくで二人を引き離し、尾崎さんを押し倒す。
もうブラも外れて露になってる胸を揉みながら、強引に口の中に舌をねじ込む。
「ちょっ……伊藤くん!」
怒気を孕んだ牧野さんの声が背中にかかるけど、彼女も堕ちることが約束されていると思えばもはや愛らしささえ覚える。
押し倒されている尾崎さんは雑な愛撫とキスだけでも身体をビクビクさせちゃっている。
「離れなさい! 伊藤くん!」
さっき俺がやった時と同じように、強引に身体を捻じ込んで俺と尾崎さんを引き離す。
「渚! 大丈夫!?」
軽く突き飛ばされたように尻餅をつく俺の前で、尾崎さんをかばうように覆いかぶさる。
「も、もっとぉ……」
「もっと……なに? キス!? うん、もっとキスしよ!」
牧野さんは顔を近づけるけど、尾崎さんはぷい、とそっぽを向く。
「違うの、伊藤くん、もっと……」
「えっ……!?」
牧野さんはまるで明日世界が終わるかのような表情でショックを受ける。
堕ちた。これが世に言う即堕ちというやつか。
もうちょっと粘ってくれてもよかったけど、これくらいサクッと堕ちてくれるのもそれはそれで満足感がある。
「ほら、尾崎さんがそう言ってるんだから牧野さんこそどいてくれる? 尾崎さんもこんなんだし」
もう完全に蕩けちゃって、床に横になったまま、俺の手を取って指をおいしそうに舐めしゃぶっている。
指を舐められる、というのも初めての体験だけど、これもこれで凄いゾクゾクする。
「嘘……だって私たち……ねぇ渚! 伊藤くんも! 渚になにしたの! ……んぅんっ!?」
鬼気迫る表情で掴みかかってくる。
掴みかかってきた牧野さんの背に手を回し、身体を抱き寄せて一気に唇を奪う。
ちょっと勢いがついてしまって最初にお互いの歯が当たっちゃったけど気にせず口の中を犯す。同時に下半身に手を伸ばす。
伊藤さんとはもう何度も遊ばせてもらってるから弱点はそこそこ知っている。
文乃サキュバスが仕込んだ感度上昇も手伝って、指を這わせるたびにビクンビクンと震えるのが面白い。
「マキばっかりずるいよぉ……」
まだぽーっとした表情の尾崎さんが牧野さんの両胸を後ろから揉み始める。それでさらに身体のビクつきが増していく。
そろそろ牧野さんから感想を聞こうと口を離そうとしたら、牧野さんの方から逃がすまいと唇を押し付けてくる。それが何よりの感想だった。
いったん牧野さんを押しのけて、尾崎さんを交えて初めての3P。
尾崎さんをバックで犯しながら牧野さんとキスしたり、牧野さんを俺と尾崎さんの二人で犯したり。
もう何度もヤっている牧野さんとでも、三人となると全く違う快感と興奮がある。
ひとしきり楽しんだら、二人には意識を消してもらって催眠状態で自分の処理やらもろもろをしてもらっている間に、文乃サキュバスにご褒美のお掃除フェラをさせておく。
光の灯ってない目で下着や服を着ている二人を眺めながら、フェラしてくれている文乃サキュバスの頭を撫でる。
まるでハーレムの王になったような錯覚を覚える、癖になりそうな快感。
牧野さんと尾崎さんの二人は表面上の記憶を消しておくけど、『身体は魔法にかかったまま』『文乃サキュバスには逆らえない』と仕込んでおく。
文乃サキュバスはまぁ……特に何もしないでいいだろう。
自分ひとりでは百合の間に挟まる3Pなんて思いもつかなかっただろう。他の誰かの発想を借りるのも面白いかもしれない。自分だけじゃたどり着けない発見もあるかもしれない。
教育実習の残り日数ももうそんな多くない。
より充実した実習にするために、残りの日をどう過ごすか、もっと考えないとダメそうだ。
<続く>