「照明はこの辺でいいんです?」
「あー……もう少し右に……ストップ。いい感じです」
夏真っ盛り。朝霞とミナモは冷房の効いた店内でスタジオの構築をしていた。
冷房は効かせているけれど、備品をあれこれ動かしていると額に汗がにじんでくる。
というのも、今回は普段の撮影より用意するものがだいぶ多いからだ。
「もう少し椅子ありますかね?」
「もうないですよ。裏にもないです」
パイプ椅子を並べ終わって、袖で汗を拭う。
今日のスタジオは、中央のステージを囲うように扇形に椅子を並べてある。
朝霞にとっては懐かしい、ミナモにとっては珍しい、イベントステージ風のセッティング。
今は映像の販売を主に扱ってるが、以前は隣の遊郭で手に入れた『嬢』を使ったアダルト要素のあるな催眠ショーのようなイベントを行っていた。その頃の配置である。
「こういうショーみたいな配置って新鮮ですね。普段はホテルっぽかったり、フツーのAVスタジオみたいな部屋風なのに」
ミナモはそれ以降に雇った相手で、それ以降にこういうスタイルはやっていないのでミナモにとっては新鮮な配置だった。
「ほら、少しずつこういうイベントをやっていい世相になってるじゃないですか。以前にそういうことをしていたと話したことありましたよね」
「聞いたことはあった気がします」
イベントバーではなく映像販売に切り替えた原因である感染症。
事態の完全な収束は未だ見えないものの、変異による弱毒化やワクチンの普及などで脅威度が引き下げられ、大規模なイベントを行ってもいい空気感になってきた。
今日は無人だが、本番に備えた予行兼、通販から入ったユーザーに対する広告である。
それに以前は朝霞ひとりで回していたが、今はミナモという優秀なアシスタントもいる。それとの連携を確認するための、朝霞たちにとっての訓練でもあった。
「じゃぁ撮影始めましょうか。今のうちに確認しておきたいことはありますか?」
「この台本通りにやればいいんですよね?」
「はい。あまり指示は多くないので。リハーサルみたいなものなんで緊張せずにやってもらえれば」
自分のスマホに目を落としながら確認してくる。
今日ミナモにやって欲しいことは台本として送ってある。
「では『お客さん』を連れてきますね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「こんにちはー」
喫茶店とスタジオを隔てる防音の重いドアが、軽い調子の声と一緒に開く。
「ようこそお越しくださいました。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
それを恭しく迎えるミナモ。
「予約してた古河メイと」
「国分エミカです。よろしくお願いします」
入ってきた女性二人の自己紹介。そしてその二人に続いて朝霞がスタジオに戻ってくる。
今回の催眠、もといシチュエーションは『二人で温泉旅館に来た』というもの。彼女らには冷たい金属の扉は温泉旅館の玄関に、ステージは受付に見えるように仕込んである。そしてミナモには女将役になってもらっている。
そしてメイとエミカは朝霞を認識することができなくなっている。シナリオの進行はミナモに任せて、朝霞は暗示の調整を二人には認識できない裏から行う。
メイとエミカは二人とも遊郭の『嬢』。二人とも100越えのバストを武器にして、柔らかそうな身体つきを売りにする嬢。
温泉というシチュエーションで脱がせることもあり、わかりやすくカメラ映えする体形の嬢に来てもらった。
「外は暑かったでしょう。『露天風呂貸し切りコース』ですので、露天風呂はいつでもご利用いただけますよ。まずは汗を流して来てはいかがでしょう?」
朝霞の用意した台本どおり、女将ミナモは二人に入浴を促す。
「んー……でもまずはいったんお部屋に――」
「今日はもう暑くて暑くてたまらない。下着の中まで汗で蒸れてしまって気持ち悪い。一秒でも早くお風呂で汗を流したい」
「――いや、やっぱり先にお風呂にしようかな」
初っ端から提案を断られてしまったので、朝霞が調整を入れる。
朝霞の指示で、『どこかから聞こえてくる男性の声は、自分の心の声。自分の声だから違和感なく受け入れることができるし、本心からそう感じる』ようになる。朝霞が指示しやすくするための暗示だ。
汗によるベタつきの不快感は男女関係なく嫌うもの。催眠関係なくそういうものなら、そこを煽るのはより効果が出やすい。
そしてメイやエミカのように胸が大きい女性だと谷間まで蒸れることになる。そこを刺激してやればより自然に誘導できる。
「かしこまりました。それではこちらにどうぞ」
受付のシチュエーションが終わったところで、朝霞はハンドベルをチリン、と鳴らす。
それを合図にして、二人は顔を前に向けたまま棒立ちになる。いつも通り、ベルの音で催眠状態に堕ちるように、『その場で立ち上がって、催眠状態になる』ように仕込んである。
「次にベルを鳴らしたとき、貴女たちの目の前にはとてもきれいな景色と露天風呂が広がっています。脱衣所はありませんから、その場で服を脱ぎましょう。貴女たちふたり以外に誰もいませんし、誰からも見られませんからなにも気にする必要はありません」
行動の調整は無意識でやって、舞台の切り替えは一度催眠状態に堕としてから仕切り直す。残念ながらここは温泉旅館でも露天風呂でもなく、朝霞のスタジオ。ステージのど真ん中に養生テープで円が作られていて、それを湯船に見立てて進める。
もう一度ベルを鳴らして、状況再開。
「ほーん、結構いい感じじゃん。解放感あるし」
「湯船ちょっと狭いかもだけど……まぁ貸し切りだし欲張っちゃダメか」
「んじゃとっとと入ろ? もー全身べとべとしてサイアク」
喋りながら服を脱ぎ始めるエミカ。それに続いてメイも服を脱いでいく。
女友達同士でも裸を晒すのは恥ずかしがりそうなものだが、二人はその仕事柄か、あるいは二人で旅行や宿泊をした経験があるのか、その場で服をてきぱきと脱いでいく。
ブラを外して出てくる、100cm越えの胸がふたつ。しかも重力に敗けて垂れるということもしない。そんな“雑に強い”カラダはそれだけでも十分に映える。二人ともスレンダーというわけではなく、柔らかそうな身体つき。それだけで十分絵になるもの。
「湯船に入る前に、まずはシャワーを浴びましょう。シャワーは湯船近くの床に置いてありますよ」
ミナモは湯船の横に、スマホを2台用意する。今回はそのスマホがシャワーヘッドになる。
「えっと、シャワーは……これか」
一足先にメイがシャワー、もといスマホを手に取る。シャワーはインカメで撮影モードになっていて、シャワーヘッド目線というちょっと独特な場所から撮影。メイは汗でベタついた全身を軽く流すように、気持ちよさそうな表情で全身をぐるっと撮影してくれる。
続いてエミカがスマホを手に取って、同じようにぐるっと。そして二人一緒に湯船に。
「少し熱いくらいの天然温泉がとても心地よい。思いっきり全身を伸ばしてゆっくりしましょうね」
二人とも三角座りで温泉……を表す円の中に座る。
「あ゛ー……最っ高。少し熱いけど夏の気持ち悪い暑さじゃないから最高だわー」
「語彙力死んでるじゃん。言いたいことはわかるけどさー」
思いっきり伸びをしたり、足を崩したりと思い思いに温泉を満喫する二人。
今はなにも仕掛けず、リラックスしている二人の素を撮っておく。
緩んだ表情でだらけるふたりを5分ちょいくらい撮影して、
「そろそろ身体を洗いましょう。シャワーがある場所が洗い場ですよ」
身体を洗うように促す。
さっきのスマホの横に、ミナモが小さな風呂椅子を置いてくれた。
「そろそろ身体洗おうかな」
「ん、じゃ私もー」
一緒に湯船を出て、小さな椅子に腰かけるふたり。
カメラの方を向いたまま、エアーで身体を洗い始める。
「メイは髪洗うのー?」
「ちゃんと洗うのは夜かなー。乾かすのめんどいし。髪を纏めるクリップくらい置いといてくれればいいのに。濡れちゃうじゃん」
「こんな暑いならすぐ乾くんじゃないの?」
「『乾く』と『乾かす』はまったくの別物なんですー」
腰まで届く長い髪のメイは少し不満気なまま、ボトルからボディソープを出す――動きをエアーでする。
「エミカはさー、短くて楽そうだよねー」
「そりゃメイに比べりゃ楽だけどさー」
二人して手で泡立てて、そのまま全身を手で洗っていく。
「たくさん汗をかいて蒸れてしまった、自分の胸。特に蒸れる谷間をよく洗いましょうね」
後ろから二人の無意識に指示を出す。
自分の足や腕を洗っていた手が、二人とも自分の胸に動く。
大きな胸の谷間に何度も手を突っ込んで、念入りに洗っていく。
「ここのボディーソープは美容効果もあります。揉み込むように塗るともっと効果が出ますよ」
ただ洗うだけではなく動きを付ける。
メイもエミカも素直に指示に従って、その大きな胸を自分で揉みながら洗っていく。大きいだけでなく相当に柔らかくもあるようで、揉むたびに、その手の動きに合わせて自由自在に形を変える。
「うっわすっご……」
出番がなく裏で控えているはずのミナモの声がここまで届いた。
そういったものにあまり興味がない朝霞にとっても、その光景は圧巻と言えるものだった。
男を悦ばせるためではなく、また自分で快楽を求めるわけでもないのに自分の胸を揉み続けるふたり。
心地よさそうな、リラックスした表情のまま、自分の胸を揉みしだき続ける。その表情と行動のミスマッチさがたまらない。
「そろそろ泡を流して、もう一度湯船に戻りましょうね」
温泉シチュエーションで撮りたいものは撮り終えた。メインはここではないので、温泉シチュエーションをいったんおしまいにする。
ミナモに手振りで指示を出して、用意しておいたタオルと着替えを持ってきてもらう。
「のぼせてしまう前に上がりましょう。汗も流して、芯まで温まってとってもいい気持ちです。着替えが用意されているので、そっちに着替えましょうね」
朝霞のその指示で、濡れてもいない身体をタオルで拭いていく。そしてミナモに用意してもらった安い浴衣に着替えようとする。
その時、二人とも自分の下着に手を伸ばしたので『待った』をかける。
「汗を吸った下着なんてつけたくない。浴衣だから下着を着けなくても大きな問題はないから大丈夫」
朝霞の『待った』に反応して、伸ばしていた手をピタリと止める。
「んー……浴衣だし別に着けんでもいっか」
「この後なにか用事があるわけじゃないし」
下着を着けないまま、浴衣に袖を通していく。
「ねぇ、浴衣の帯ってどう結ぶのが正解なの?」
「私もわからん。ほどけなきゃいいっしょ。……でもなにも着けないとちょっと落ち着かないかも」
浴衣を着てくれたところで、チリンとベルを鳴らして二人の動きを止める。
「じゃぁミナモさん、お願いします」
「はーい」
ミナモが裏からパイプ椅子を持ってきて、舞台のセットにかかる。
次が映像のメインになる、そして最後のパート。
ミナモは持ってきたパイプ椅子をステージの上に並べていく。
そのステージの外周に置かれたパイプ椅子に二人を誘導して、座らせる。
「温泉でゆっくりした後、貴女たちはたまたま催眠術ショーの案内を見つけて、ふらりと入ってみました。男性も女性も、いろんな人が入っていますね。温泉旅館の催眠術ショーというちょっとアングラな場所ですから、ちょっとエッチな内容が入っているかも知れません。なのでエッチなことは不自然ではありませんし、どんな内容でも楽しむことができますよ」
復活させようとしているショー形式の予行&デモンストレーションを含めて、それっぽいシチュエーションを用意する。
最初から用意していた、ステージの周りを扇状に囲む椅子。舞台装置としてももちろんだが、「来ればここで見れますよ」というアピール。
朝霞は暗示を刷り込みながら、ふたりを一度観客席側、ステージの外の椅子に座らせる。
ミナモは照明を調整して、最後に温泉の代わりをしてたガムテープを剥いでもらって準備完了。
「終わりましたー。台本はこれで終わりなんですけど……私はどうすればいいですかね?」
「じゃぁ観客として、テキトーな椅子に座っててください。完全な空席よりも、『観客がいる』という事実があった方が二人も他の『お客さん』を想像、幻視しやすいでしょうから」
「わかりました。……ふむ、こんな『嬢』ふたりのショーを独り占めと考えると興奮しますね……自分のスマホで撮影していいですか」
「無断撮影は即出禁です」
「冗談、冗談ですって」
仕事じゃなくて観客に素早くスイッチを切り替えるミナモ。
「ではメイさん、エミカさん、次にベルが鳴ったら目を覚ましますよ。催眠術ショーを楽しみましょうね」
二人の傍を離れてステージに立つ。久々の環境に興奮と少しの緊張を覚える。軽く息を吐いてから、ベルを鳴らす。
だらんと垂れていた頭が上がったことを確認してから、
「ようこそ、朝霞の催眠術ショーにお越しくださいました」
ショーっぽい口上から始めていく。
「皆さんは催眠術にどういったイメージを持っているでしょうか。そもそも催眠術を信じているでしょうか。よくテレビとかで見るような――」
前口上を述べながら、メイとエミカの注目がちゃんとこっちに向いているか、そして変な表情になっていないか――催眠がうまくいっているか――を確認する。それが問題ないと確認できたところで、
「ではせっかくなので、いらしてくれた方に体験したいただこうと思います。そうですね……ではそこの浴衣の女性お二方」
指名すると、二人は周囲をきょろきょろしたり、「私?」と自分を指差して聞いてくる。
「えぇ、ぜひステージへどうぞ」
誘導すると、少し照れ笑いしながら立ち上がってステージに来てくれる。そしてステージに用意してある椅子に座ってもらう。
「ではこちらに腰掛けてください。では、名前を教えていただけますか? 苗字だけでも下の名前だけでも、もちろん偽名でも構いません」
「えっと……メイで」
「私はエミカで」
「わかりました。メイさんとエミカさんですね。では早速やっていきましょう。まずはこちらのペンデュラム――」
既に催眠状態、朝霞の術中にあるわけだから冗長だけど、ショーっぽさ重視で進める。
『握った手が開かなくなる』『椅子から立てなくなる』みたいな簡単な肉体支配系と、『数字を忘れる』みたいな記憶支配とを簡単にやった後、本題に入る。
「さて、もっと面白いことをやっていきましょう。そうですねぇ……メイさんの肩を上からグっと押すと、また椅子から立てなくなりますよ。はい、グっ」
「……なんでぇ。もー」
笑いながら、今の環境を楽しんでくれてるメイ。エミカもそれをニヤニヤしながら見守ってる。
「メイさん、そのままバンザイしてくれますか?」
「えっと、ばんざーい……」
「はい、両腕が完全に固まりますよ。さっきグーをほどけなかったのと同じように、今度は腕全体がガチガチに固まって一切動かせなくなりますよ」
「えっ、ちょっと」
「もう立てないし、手も動かせませんね。ですからこうやって、浴衣の帯を緩めていっても……」
朝霞はリボン結びになっているメイの帯の紐を引いていく。
「ちょっ! 待って! 待ってって!」
『どんな内容でも楽しむことができる』メイはこんな状況でも笑いながら抗議の声をあげる。
「じゃぁ一気に抜き取ってしまいましょう」
抵抗できないメイから、そのまま一気に帯を抜く。これでバンザイしている状態で浴衣に両手を通しているだけ。
下着を着けていない大きな胸から股間まで、ぜんぶ丸見えになってしまう。
「ちょっ、見ないでってー! 汗とか気にせず素直に着るんだった、もー!」
必死で客席から顔を背けるメイ。
「ここまで見えちゃったらもう浴衣は会ってもなくても変わりませんね。バンザイしてて脱がしやすいんで、そのまま脱がせて後ろに置いちゃいましょうね」
そして浴衣も脱がせてしまう。
椅子に座ってバンザイしたまま裸体を晒す、豊満ボディの『嬢』。
それを見てミナモが小さく拍手してくれている。いい観客役だ。
「拍手してくれてるお客さんもいますね。メイさんはいいスタイルしてますから皆さん眼福でしょう」
「嬉しいけど嬉しくなーい!」
「今度は貴女の両ひざ。私が膝を叩くと、膝が磁石のおんなじ極になったように、勝手に開いていきますよ。はい」
「えっ、ちょっと! いやーっ!」
楽しみを忘れない、少し笑いの混ざった悲鳴。
メイの膝が少しずつ開いていって、椅子に座って浴衣も下着も着ないままの大股開き。そして両手もバンザイのまま動かせないから隠せない。
「メイってそういう露出の趣味あったの? そんなに……くくっ……そんなに見せつけちゃって……」
「身体が動かせないんだってぇ! 笑ってないで助けてってば!」
必死で助けを求めるも、エミカは横で楽しそうに笑っている。
「でもちょっとかわいそうなので、両手だけもとに戻しますね。……はい、動かせるようになりますよ」
自由を取り戻した瞬間、身体を丸めながら片手で胸を、片手で大股開きのままの股間を必死に隠す。
「ちょっと失礼しますねー。私が目を覆うと、ふかーい催眠状態に堕ちていきますよ」
メイの目を覆って、丸まっている身体を背もたれにもたれかかるようにして、後ろに脱ぎ捨てた浴衣と別の衣装を入れ替える。そしてメイに暗示を仕込んでいく。
「裸を見られちゃってとっても恥ずかしいですよね。一秒でも早く服を着たい。身体を隠したい。だから椅子から立てるようになったらすぐにさっき椅子の後ろに置かれた服を、着てきた自分の服を着たい。だってお客さんに裸を見られるのはとても恥ずかしいですもんね。私が肩をポン、と叩くと意識が戻ってきますよ、はい」
いったん意識を戻す。
椅子にもたれかかっている、つまり胸も股間も丸出しになっている状態に気付くと、また身体を丸めて観客の視線から身を守ろうとする。
「このままだとメイさんがちょっとかわいそうなので、これくらいにしましょうか。背中をポンと叩くと、立ち上がれるようになりますよ。はい」
「っ……!」
丸まってる背をポン、と叩いてやる。
立てるようになったメイはすぐに椅子の後ろにまわって、そこにある衣服を着始める。浴衣を着た時よりもかなり時間をかけながら。
「服を着直したら、また座ってくださいね」
「はーい……あー、恥ずかしかったぁー……」
「失礼しました。とりあえず服も着てますし、ひとまず大丈夫ですね」
そして改めて椅子に座り直すメイ。隣に座っているエミカは笑いを抑えるのに必死になってる。
今メイが着てるのは、浴衣じゃなくてバニーガールのコスプレ衣装。タイツとハイレグ気味のレオタード、そして大きなウサ耳カチューシャ。『椅子の後ろにある服こそ、自分が着てきた服』になっているので、疑問を持つことなく浴衣よりもはるかに露出の多い衣装を着て、ほっとした表情を浮かべている。
そしてそんなメイを見て、エミカは笑いを必死にこらえている。
「ん? エミカどうしたの?」
「い、いや……なんでも……ねぇメイ、その服どうしたの?」
「どうしたって……さっきムリヤリ脱がされちゃったから急いで着直したの。それとも変なとこある? ズレてたりする?」
「ズレてるというか……そのね……ぷぷっ。な、なんでもないよ。似合ってる似合ってる」
エミカがなにを言っているのか分からない、という風なメイ。
自分の着こなしを身体をひねって確認するメイ。胸がカップからこぼれそうなことと、そもそもバニーガールであることを除けば、おかしなことはなにもない。
さて、メイのターンはこれでおしまい。今度はエミカのターンに移る。
「でも、エミカさんの浴衣もとても可愛くて似合ってますよ? メイさんに負けず劣らず」
「お世辞どーも」
「本心ですって。ねぇ、メイさん」
「うん、似合ってるよ? 似合ってるし、だいぶ色気あって最高」
「ほら、メイさんもそう言ってるじゃないですか。可愛いですって」
「んー……褒められるのは悪い気はしないけどぉ……」
まんざらでもない表情のエミカの目を、背後から不意に覆う。
「そのまんま、とっても心地よくてふかーい催眠に堕ちていきますよー」
メイと同じように、椅子によりかからせながら催眠に堕とす。
「さて、メイさんだけ恥ずかしい思いするのも不公平ですからね。今度はエミカさんにもちょっと恥ずかしいことしてもらいましょう」
「まぁ……そうだよねぇ。私だけってのはアンフェアだよねぇ」
メイがしみじみといった感じで呟く。
さっきのメイは運動支配系からだったので、今度は別の内容を。
「エミカさん、『かわいい』と言われるとつい頬が緩んでしまいますよね。『かわいい』と言われると、嬉しくなって、幸せになって、頭の中がふわふわしていきますね。『かわいい』と言われるといくらでも幸せになれるし、もっと幸せになりたくなる。だから、もっと可愛くなれる、なんて言われたら、言われた通りにしたくなるのはとても自然なことです。だってそうすればもっと『かわいい』と言ってもらえる。もっと幸せになれるんですから。今言われたことはなーんにも覚えていませんが、『かわいい』と言われるとどんどん幸せになっていきます。肩を揺らすと意識が戻ってきますよ」
軽く肩を揺らして、エミカの意識を戻す。
そして改めて、メイに質問する。
「今のエミカさんの浴衣、どう感じます?」
「とっても『かわいい』ですよ!」
暗示内容を全部聞いていたメイは、朝霞の意図を察してエミカを『かわいい』と褒めてくれる。
「えっ……そう? それはまぁ……嬉しいかな」
表情を綻ばせて、満足そうにその賛辞を受け入れる。
「そうですよ、とっても『かわいい』です。観客の皆さんもそう思ってますよ」
ひとり観客席に座ってるミナモに合図を出す。
「『かわいい』ー!」
打ち合わせもなにもない指示だったけど、察しのいいミナモは客席からコールを飛ばしてくれる。
「ほら、みんな『かわいい』って言ってくれてますね」
「まーそうだよねぇ。エミカはホント『かわいい』んだから」
「……ふふっ。ありがとね」
立て続けに流れてくる『かわいい』に、どんどん表情がとろけて恍惚とした表情になっていく。
「でも……そうですねぇ。その大きな胸。そこをもっとはだけてくれたらさらに『かわいい』と思いますよ」
「そうですかねぇ……わかりましたぁ……」
力の抜けた声で、なにも疑わず浴衣の胸元を開いていく。
「もっと開くともっと『かわいい』よ、エミカ! ギリ乳首が見えないくらいまで!」
「ふーん……そうなんだぁ……」
薄暗いステージの上、とろけた優しい声で、少しずつ胸元を開いていく姿は可愛さではなく妖艶さを増していくが、本人は『かわいい』を求めて谷間がすべて見えてしまうくらいにはだけていく。
「エミカさんはどんどん可愛くなっていきますね。じゃぁもっと可愛くなれるように……これを差し上げましょう」
朝霞はエミカに、黒いディルドを手渡す。
それを横で見ていたメイは小さく吹き出しているが、エミカはうっとりした表情で受け取る。
「やっぱりとっても似合いますね。それを顔の近くに持っていくともっと『かわいい』くなれますよ」
「そうなの? ……こういう感じ?」
恍惚とした、幸せそうな表情で、ディルドを可愛い顔の横にもっていく。
「うっわ、エミカ、えっろ……」
「あ、メイさん、違います!」
「え? あ、エミカすっごい『かわいい』よ! 私が男だったら確実にそれをオカズにするもん」
別の褒め言葉を持ち出したメイを注意。その後の誉め言葉も一般的な可愛いとは別だろうが、エミカは変わらず幸せそうにディルドに頬ずりしている。
「さぁ、エミカさん。もっと『かわいい』ことしていきましょう。エミカさんのとっても『かわいい』おっぱいの間にディルドを挟んで、揉んでみましょう。さらに『かわいい』くなりますからね」
「えっと……こう……かしら……?」
愛おしそうに頬ずりしていたディルドを、自分の谷間に挟んで、大きな胸で揉み始める。
のだけど、浴衣が邪魔してやりにくそうだ。
「浴衣が邪魔なら脱いじゃいましょうか。むしろそっちの方が『かわいい』ですよ」
そう教えてあげると、邪魔な浴衣を脱ぎ去るという解放感と、それが可愛いという欲求とで、とっても嬉しそうに浴衣を脱ぎ始める。
「さ、そのままパイズリしてみましょう。絶対にとっても『かわいい』ですから」
「はーい……」
恍惚、幸福、興奮、そして喜びが入り混じったとろけた表情で、夢中でパイズリ。
「観客の、特に男性のみなさんが口々に『かわいい』って呟いてますよ」
そう観客の設定をつくってやると、幸せそうな吐息を漏らして、動きを少しずつ早くしていく。
パイズリ、要は男をイかせる行為が『かわいい』のだから、そういう動きにしているのだろうか。
「ではエミカさん、最高の『かわいい』を見せつけてあげましょう。これから数字を10からゼロまで数えますから、それに合わせてディルドを、男の人をイかせるように責めてください。ゼロになったとき、最っ高
に『かわいい』くなれますよ。ほら、10――」
数字を数え始める。メイと、客席にいるミナモも一緒に。
7、6、5とカウントを進めていくたびに、エミカの手の動き、胸を揉む動きが早くなる。
「ほら、行きますよ。とっても『かわいい』瞬間をみんなに見せてあげましょうね。3、2、1、……ゼロ!」
ゼロのタイミングで、きゅーっと思いっきり自分の胸を押しつぶす。
数秒して、窒息しそうなくらいに柔肌に挟まれていたディルドが解放された。
「エミカさん、最高に『かわいい』かったですよ。とっても『かわいい』くなったところで、みっつ数えて肩を揺らすと、元に戻ってなにをやってたかもハッキリ理解できるようになりますよ。でも『かわいい』と言われるとまた幸せになっちゃいます。ではいったん元に戻りましょうね。ひとつ、ふたつ、みっつ!」
カウントに合わせて大きく肩を揺らす。
エミカは大きく目を開いた後に一瞬の硬直。そして、
「――っ!!」
顔を真っ赤にして、さっき自ら脱いだ浴衣を袖を通すこともせずに羽織る。
「いやー、最高だったよエミカ」
「やってくれたわね! メイ! その格好の仕返しのつもり!?」
「この……ってか、さっきの全裸のね」
今のバニーガール姿を普通の格好だと認識してるメイと会話が少し噛み合ってない。
「でもさぁエミカ、そのディルドをお掃除フェラしてあげたらもっと『かわいい』と思うよ?」
「あ……ぁっ、ダメだってメイ、そんなこと言われたら……」
持っているディルドをまた顔の前まで持ってきて、恍惚と、今度は少し恥ずかしさが入り混じった表情でディルドの先端を舐め始める。素面の状態からのお掃除フェラなので、自分がなにしてるか分かっているのに止められない、といった様子。
その動きで羽織ったばっかりの浴衣がまたはらり、と床に落ちる。
「じゃぁ今度こそ『かわいい』の催眠も解きますよ。ひとつ、ふたつ、みっつ!」
「っ……。――メイ! あんたって人は!」
「あ痛っ!」
持っていたディルドをメイの頭に叩きつける。ゴム製だからケガはしないハズだ。
「なにすんのさぁ!」
「これはメイが悪い! 私は悪くない!」
ズレたウサ耳カチューシャを直しながら抗議するメイ。今度はちゃんと浴衣に袖を通して裸体を隠すエミカ。
「じゃぁメイさんも、今の自分の服装に気付きますよ。はい」
軽く背中を叩く。
直後、さっきまでエミカに軽口叩いてたのに、一気に顔を赤くして、
「どこ! 浴衣どこ!」
必死に周囲を探し始めた。
「はい、こちらです」
「んっ!」
少し離れたところにあった浴衣を渡すと、ひったくるように奪い取ってバニースーツの上から羽織った。
あまりの勢いに朝霞にもクスっと笑いが漏れる。
「エミカ! なんでなにも教えてくれないのさ!」
「だって自分からそれ着てたんじゃん!」
そして二人の応酬が始まる。
「ではこれにて、催眠術ショー、おしまいでございます」
収拾がつかなくなるまえに幕を下ろすことにした。
「協力してくれた美人お二方に、大きな拍手を」
ミナモがパチパチと拍手をしてくれている最中に、チリン、とまたベルを鳴らす。
さっきまで立ちたくても立てなかった椅子からすくっ、と立ち上がって動かなくなる。
「これで今回はおしまいにしましょう。ミナモさん、どうでしたか?」
「いや最高でしたよ。観客として十分楽しめました」
「ならよかった」
興奮した声でステージの方に歩いてくる。
朝霞としては照明が暗すぎたり明るすぎたりしないか、声がちゃんと届いていたかといったところに注目していてほしかったのだが、被験者がこの二人なら仕方ないと思うことにした。
しかし「よかった」と言ったばかりのミナモが小さく唸っている。
「なにか気になることでも?」
「んー……マスターは催眠に拘ってるんでしょうけど……正直フツーのエロとして楽しかったです。エミカさんもメイさんもめっちゃエロい身体してますし、その上であんなもの見せつけられたら」
「つまり、『催眠成分』不足ですかね」
「不足、っていうより……なんというか。二人の身体がエロ過ぎるのが悪いというか」
「なるほど……ふぅむ」
今回はテストというのもあり、催眠成分不足というのは否めないかもしれない。
純粋にエロい身体をしているキャストを選んでしまったせいで、そっちの印象が強くなり過ぎたのもあるだろう。
であれば、すこしオマケを付けよう。催眠成分はあればあるほど良いものだから。
「ミナモさん、ちょっとこっち来てくれます?」
「? はい、わかりました」
一度ミナモを喫茶店の個室に移動させ、なにがなんだかという状態のミナモを残してスタジオに。
そしてメイとエミカにいろいろ仕込んで二人を引き連れてミナモのいる個室に。
「マスター、いったいなにを……」
「じゃぁメイ、エミカ、始めてください」
「はい、メイはこの女性をイかせます」
「はい、エミカはこの女性をイかせます」
「えっと……え?」
状況が飲み込めてないミナモ。
メイはミナモの横に座りながら、逃げられないようにバニースーツのままの身体を押し付けて奥に押し込める。エミカはテーブルの下に潜っていく。
「えっと、メイさん……んんっ!?」
メイはミナモの顔を強引に自分の方を向かせて唇を奪う。
「じゃぁメイ、エミカ、自分の持っているすべての技能と情報を使って、この女性を何度もイかせてください。私が『やめ』と言うまで続けてくださいね」
「はい、メイは自分の持っているすべての技能と情報を使ってこの女性を何度もイかせます。『やめ』と言うまで続けます」
「はい、エミカはすべての技能と情報を使って『やめ』と言われるまでイかせます」
少し長い文だったので復唱はズレたが、理解してもらえたようだ。
催眠の鉄板シチュエーションの機械化、ロボット化。催眠成分が足りないらしいので、少し雑だけど補充するとしよう。
光のない瞳を見開いたまま強引に舌を捻じ込むディープキスをしながら、手でミナモの服を脱がしていくメイ。そしてテーブルの下のエミカからはなにかカチャカチャと音がしている。きっとズボンを脱がしているのだろう。
「じゃぁミナモさん、しっかり催眠成分を補充してくださいね」
「待ってマス――っんっ!」
朝霞を呼ぶ声は、ミナモに口で塞がれる。
意志のない、けど体温も人間の身体も持っている機会に犯され続ける催眠機械姦にミナモを漬けている間、カメラからデータをパソコンに移す。
その辺の作業をひと段落させて個室に戻ると、
「あぁ……もうダメだって……『やめ』、『やめ』ぇ……」
いつものアロマではない、むせ返るような匂いが充満した部屋の中で、必死に中止を懇願したまま放心してるミナモと、それを両側から挟んで責める動きを止めないバニーガールとはだけた浴衣の半裸の女性。
「メイ、エミカ、イかせるのを『やめ』てください」
「はい、メイはイかせるのをやめます」
「はい、エミカはイかせるのを停止します」
朝霞の『やめ』には素直に従って動かなくなる二人。
当然この部屋は撮影されているので、これを今回のおまけ映像にすることにしよう。
「メイ、エミカ。そのソファーに深く腰掛けてください」
「はい、メイは深く座ります」
「はい、エミカは深く座ります」
「では二人の電源を切りますよ――」
二人をソファーに座らせて後処理に入る。
今日の撮影は、データを確認しないと分からないが、おそらくいい感じにステージでのショー形式っぽいものになっているだろう。映像販売じゃなく、もともとのイベントバーに戻っていくための、その客を呼ぶための販促映像になってくれるはずだ。
イベントを復活させた暁には、その立役者となるであろう二人にはその時にまた来てもらおう。そう考えながら、メイとエミカ、そしてミナモの後始末を始める。
<続く>
やったあああああ温泉旅館催眠ショーだああああああ!
なんで私が温泉旅館催眠ショー好きだって知ってるんですか!?!?!?
厳密には温泉旅館じゃないけど!
大勢の人たちの前でショーとして操られるのとかめっっちゃ最高ですよね!!!
それがちょっとえっちな内容だったりするともうたまらないわけですよ!!!
いやー王道の硬直暗示や磁石のイメージを用いた羞恥脱衣。最高。
『かわいい』に操られて簡単に従ってしまう暗示とかもね。とてもリアリティ。素敵。
ちょっと催眠ショー見てきたいので温泉旅館行ってきます。
ショー催眠だ! 捕まえろ!(意味不明)
また最近流行ってきた病気のせいでしばらくショー催眠もできなかったでぅからね。この辺でまたショーを繰り広げていきましょう。
ということで鉄板の脱衣、そして入浴。
鉄板過ぎて最高でぅ。胸が蒸れるから最悪という動機づけもエロエロでいいでぅ。
そして、今回みゃふにきたのはかわいい暗示でぅね。
一回目のかわいいでどんどんエロくさせられてるのもいいし、一度認識させたあとでもう一度かわいいって言ってわかってるのにやっちゃうっていうシチュも素晴らしかったのでぅ。
催眠成分が足りないからミナモさんを快楽づけにします。
ここをもっと詳しく! ミナモさんが抵抗虚しくいかされまくってる描写を!(ありません)
であ、次回も楽しみにしていますでよ~。