言葉を失ったまま、俺はソファの縁をぎゅっと掴んだ。
真壁先生の淡々とした宣告が、静かに胸を刺してくる。
――君が、私の好奇心を満たしてくれるならだが。
逃げ場がない。
そんな感覚だった。
それでも――
「……僕は、どうすればいいんですか」
絞り出すように、そう問いかけた。
先生は、ふっと小さく微笑んだ。
「見せてほしいんだよ、少年」
言葉は柔らかいのに、背筋をなぞるような重さがあった。
「先を――だ」
(先……)
先。
あの日、空き教室で、俺が施した催眠の。
俺は思わず、拳を握りしめた。
心のどこかが、ずっと冷たく震えている。
澄は、静かに視線をモニターへと向けながら続けた。
「君は、優しかったね」
さらりと、しかし逃さぬ声で。
「あるいは、私に遠慮した。……もしくは、自分を守ろうとしたのかもしれない」
喉がひくりと鳴った。
(……それは)
否定できなかった。
どれも、正しかった。
澄は、そんな俺の内心をすべて見透かしたように、ゆるく首を振った。
「どちらでも構わない。だが――」
白磁のカップを、静かにソーサーに戻す音が、部屋に響いた。
「そのどちらも、私には無用だ」
俺は言葉を失った。
何かを言わなければ、と思うのに、声が出ない。
「私は、君を学校に告発する気はない。警察に届けるつもりもない」
あっさりとした口調だった。
それがかえって、恐ろしく感じた。
(……信じられるか?)
だが――
澄の目は、ただ真っ直ぐだった。
嘘も、偽りも、何もない。
「甘美な未知に触れられるなら、私がどうなっても構わない」
静かな言葉に、ゾクリと肌が粟立つ。
(本気だ)
そう、直感した。
澄は、俺の目を見据えたまま、微笑んだ。
「佐久間少年」
名指しされる。
体の奥が、びくりと震えた。
「君の全力をもって――私を、完膚なきまでに壊してほしい」
(……ッ)
ぐっと奥歯を噛み締めた。
鼓動が、耳の奥で爆音のように鳴る。
「この心も。この身体も」
胸元に手を添え、まるで贈り物のように。
「好きにしていい。君の自由だ」
それは、甘く、危うい誘いだった。
「約束通りだろう? 君にとって、悪くない話ではないだろうか」
微笑みながら、静かに、静かに。
俺は――
呼吸も忘れたまま、
その宣告を、ただ受け止めるしかなかった。
(どうして……)
(どうして、こんな――)
目の前にあるのは、教師であり、大人であり、そして、誰よりも知的で、手の届かない存在だったはずの人。
その彼女が。
俺に、全てを預けると言っている。
(……甘い誘い。……危険だ)
理性が警告を鳴らす。
けれど――
それ以上に、心の底から、何かがざわめき始めていた。
真壁先生――
いや、澄。
目の前にいるのは、もう教師でも、大人でもない。
無防備に甘い空気を纏いながら、俺を誘う女だ。
自分の魅力が、相手にどう作用するか。
それを知っていて、あえて利用する姿勢。
(……タチ悪いな)
心の底から、そう思った。
こんなやり方で、年下を唆して。
甘く微笑んで、すべてを預けたふりをして。
――いや。
(……本当に預けるつもりがあるのか?)
それすら怪しい。
もちろん、俺の催眠なら、彼女の求めることはまあ、できる。
徹底的に壊すことも、快楽で塗り潰すことも――
やろうと思えば、できるはずだ。
澪にも、ひまりにも、そうしなかっただけで。
けれど。
(人間をぶっ壊す責任まで、俺が背負う義理はない)
まず冷静に、そう線を引く。
それに、澄の動機は――知的好奇心。
未知への渇望。
ならば、その「知性」そのものが失われたら、何の意味もないはずだ。
壊れて、戻れなかったら?
知性を踏みにじられたまま、ただの肉の塊になったら?
……たぶん、そうはならないと思っている。
彼女はきっと――壊しても、俺なら戻してくれると信じている。
その時。
ふっと、目の前の澄が、薄く微笑みながら口を開いた。
「できないとは言うまいね」
軽い調子だった。
追い詰めるでもなく、ただ――俺の迷いを、見透かしてくるような。
「……言いませんよ」
気のない声でそう返すと、澄は満足げに笑った。
まるで、最初からその答えを期待していたかのように。
その様子に、胸の奥がざらりと逆撫でされる。
(……この人の中でどうせ俺は、優しい『佐久間少年』か)
言わなくても、そう思っているのだろう。
彼女の中では、壊されても痛みは一時的で、戻してくれるのが前提なんだろう。
(都合のいい話だ)
俺は、静かに思いを巡らせた。
なら、徹底的にやろうか。
壊せるだけ壊してやろうか。
何をしてもいい。
壊して、踏みにじって、塗り潰して――
最後に戻すなら、それでいいと。
いや、むしろ戻すからこそ――
「彼に戻す気がなかったら、本当に破滅していた」と、思わせてやるのはどうか。
この女に、分からせてやるのだ。
俺は、そっとソファの前に膝をついた。
澄と同じ目線に並び、ゆっくりと、手を伸ばす。
この手で、今から彼女を導く。
破壊するために。
そして、彼女の望みのために。
俺は、そっと名前を呼んだ。
「――澄さん」
その瞬間、彼女の肩がかすかに震えた。
声に応じる身体。
期待に満ちた沈黙。
「……さあ」
まずはお望み通りに、壊してやろうか。
甘く、静かに。
そして、容赦なく。
そんな言葉を探して――見つけた。
ゆっくりと、息を吐きながら、まっすぐに、澄を見つめた。
「……すみません」
思っていたよりも、声は震えていなかった。
「俺は、保身のために……」
唇が乾いているのを感じながら、それでも続けた。
「あなたに、我慢させてしまった」
澄は、静かにこちらを見つめ返していた。
微笑みも、驚きもない。
ただ、受け止めるためにそこにいる、そんな顔だった。
俺は、そっと目を閉じて――
そして、開いた。
静かに。
ただ、心から。
「だから」
言った。
「『催眠人形』に、なっていいですよ」
命令じゃない。
強制でもない。
許可。
承認。
――「あなた」が、なりたいんでしょ?
その瞬間――
澄の瞳から、ふっと微かな光が抜けた。
緩やかに、全身から力が抜けていく。
俺は、ゆっくりとソファの前に膝をついた。
彼女と同じ高さに、並ぶように。
そして、優しく、しかし絶対に逃がさない声で語りかけた。
「これから、もっと深く、心地よく、僕の言葉に沈んでいきましょう」
澄の肩が、小さく震えた。
「あなたは、知りたいんですよね」
そっと、囁く。
「まだ知らない世界を。
まだ触れたことのない快感を。
まだ味わったことのない幸福を」
ゆっくり、じっくりと、言葉を重ねる。
「あなたの中にある、強い知的好奇心。
探求心。
それらを、もっともっと満たしてあげたい」
澄のまつ毛が、かすかに揺れた。
ほんのわずかに、口元が緩む。
(……いい。このまま、導こう)
「僕と一緒に、行きましょう」
やわらかく、手を取った。
冷たくも熱くもない、奇妙に無防備な温度だった。
「深く、沈んでいきます」
言った瞬間、澄の肩がぴくりと震えた。
だが、もう抵抗はなかった。
まつげがふるふると震え、瞳がゆっくりと濁っていく。
焦点がほどける。
軽く開いた口元から、わずかな息がこぼれた。
「……ふ、ぁ……」
答えるでもなく、拒むでもなく、
意志を失った身体が自動的に吐き出す吐息。
その瞬間――澄は、もう“こちら側”にいた。
「もう、考えなくていいですよ。あなたは今、僕の言葉だけに包まれている。
柔らかく、静かに。
すべてを預けてしまって構わない」
瞳がわずかに潤み、視線が空へと浮いた。
それを、俺は優しく拾い上げる。
「催眠人形、声を出して、”はい”と返事をしなさい」
「……は……い」
静かに、小さな声が、唇の隙間から漏れ出る。
「良いですね。……言ってください。“私は、催眠人形です”」
わずかに開いた唇が、ゆるやかに動いた。
「……わたしは……さいみんにんぎょう……です……」
か細くて、震えた声。
だが確かに、その言葉は吐かれた。
直後――澄の太腿がぴくりと揺れ、
肩のあたりがふるりとほどける。
「素晴らしいです」
俺は、言葉の絹糸で、彼女を包み込むように続ける。
「催眠人形は、命令を聞いて、嬉しくなる。
快楽が染みてくる。
素直でいるほど、どんどん気持ちよくなっていく」
「……ふ、ぅ……ん……」
澄の喉から、言葉にならない声が漏れた。
甘く蕩けた吐息。
ただ、それだけ。
「言ってください。
“私は、命令されると、気持ちよくなります”」
「……わたし、は……めいれい……されると……きもちよく……なります……」
声が揺れる。
復唱するごとに、内側から崩れていくような響きだった。
「そう。素直に言葉を返すだけで、気持ちよくなる。
頭がふわふわして、世界がぼやけて、
僕の声だけが――はっきりと、響く」
「……っ、あ……」
吐息が震える。
言葉の合間に漏れたその声は、熱を含んでいた。
「あなたは、催眠人形。僕の言葉だけに従う存在です」
「……は……い……」
返事ではない。
自然にこぼれた反応。
それでも――もう十分だった。
「言いなさい」
命令に切り替える。
びくん、と反応したのを見計らい、
「“私は、佐久間くんの言葉だけに反応します”」
「……わたしは……さくま、くんの……ことば、だけに……はんのう……します……」
その言葉を最後に、澄はまた、言葉を失った。
俺の言葉が途切れたからだ。
熱に浮かされたようなまなざし。
蕩けた口元。
思考を手放した身体。
だが――”壊れた”わけではない。
命令に従うことができる。
問いかければ応じることもできる。
意志は奥底に沈み、
ただ、言葉に従う“器”として、そこにいる。
澄の眉がぴくりと動き、喉から甘い吐息が漏れた。
「すべてを、明け渡してください。
あなたの知性も、身体も、快楽も、好奇心も」
少し間を置いて。
「言いなさい。
“私は、すべてを明け渡します”」
「……私は、すべてを……明け渡します」
声がかすかに震え、
それでも確かに言葉が紡がれた。
俺は、じっと澄の顔を見つめていた。
快楽と暗示に沈み込んだその表情は、まるで夢の中を泳ぐ人形。
けれど、俺の中には、もう次に進むための輪郭がはっきりと見えていた。
「催眠人形」
声をかけると、わずかに眉が動く。
反応は、まだ深い。
「今からあなたを、もう少しだけ、自然なかたちに整えていきます」
その言葉に、彼女の吐息が甘く揺れた。
壊すだけなんて、簡単だ。
言葉を重ねて、人格を曖昧にして、境界線を潰してやればいい。
「催眠人形は、普段通りに考えることができるようになる。感じてもいい。話してもいい」
でも、催眠なんてしょせん心理現象だ。
「ただ、そのすべての根っこに、一つだけ揺るがない前提がある」
壊したつもりになっても、本当に壊れるかどうかなんて――結局、本人次第。
「――“自分は、催眠人形である”。それが、あなたの本質」
壊して戻れなくなるような暗示なんて、ただの破滅。
そんなもの、何も面白くないし、責任だって負いたくない。
「あなたは、これから普通に目を覚ましても、
“催眠人形だ”という実感だけは、そのまま持ち続けます」
胸が上下する。呼吸が、少しずつ深くなっていく。
「日常を生きていても、自分は催眠人形だという意識は消えません。
それは、とても自然で、当たり前のことのように、ずっとあなたの中にあります」
考えられるし、振る舞えるし、教壇にも立てる。
でも、そのすべては――催眠人形のあなたが行っていることになる。
「あなたはこれから、真壁澄として目を覚まします。しかし、普通に話し、動き、考えていても――
そのすべての行動は“催眠人形”としてのものです」
吐息がまたひとつ、大きくこぼれた。
そこには、苦しさも迷いもなかった。
ただ、受け入れの反応――深く、静かな、従順。
「命令されたときには、立ち止まることなく、それに従います」
俺の言葉が、もう澄の中に流れ込んでいるのが分かる。
「抵抗する必要も、逡巡する必要もありません。
“そうするのが当然”だからです」
知性はそのまま残してやる。好奇心も戻す。
でも――尊厳だけは、根こそぎ持っていく。
「あなたは催眠人形です。
真壁澄という人格は、催眠人形の上に存在します」
それが自然なこととして、しっかり根付くように。
俺は、ふ、と口の端を緩めた。
(哀れな女を、その知性で観察し続ける――それが、あなたの望みなんでしょう。先生)
それなら。
その知性を保ったまま、命令に従う生き方を、
“当たり前”として受け入れてもらえばいい。
壊してあげる必要もない。
俺は、最後にごく穏やかに言った。
「だから――」
間を置かずに、命じる。
「催眠人形。真壁澄になり――目を覚ましなさい」
その言葉が耳に届いた瞬間、私は――ふっと目を開いた。
頭が軽い。視界が澄んでいる。
身体の隅々まで、余計な力が抜けていて――けれど意識ははっきりとしている。
少年がすぐそばにいた。
私はソファに座り、テーブルには紅茶と菓子。
そうだ。彼を呼び出して、茶を出して、例の映像を一緒に確認していたところだった。
「先生は、何者でしたっけ?」
不意に、彼が尋ねた。
質問の意図は曖昧。だが、私の口は迷いなく答えていた。
「私かい? 私は――君の催眠人形だよ」
ああ、そうだ。
それは、ひどく自然で、当たり前の応答だった。
私は催眠人形。
その認識は、取り立てて意識し直すようなものではなく――
初めから、私の中に在ったもののように思えた。
(……この感覚、悪くない)
重たい鎧を脱ぎ捨てたような、清々しい感覚だった。
私の中にある“私”のまま、どこにも無理がない。
それでいて、私は――確かに“催眠人形”であるのだ。
「催眠人形」
蒼真が、呼ぶ。
呼ばれただけで、身体がほんのわずかに反応する。
緊張ではない。期待と、準備の反応。
「スカートの裾を持って、めくりあげなさい」
「……はい」
返事が、先に出た。
それから、私の意識が――私としての思考が、追いついた。
その時にはもう、私の手は動いていた。
生地の擦れる音が小さく鳴る。
上昇が、止まらない。
「……これでいいかな?」
やがて、顔も隠れてしまうほど、高く上がり――
おそらくは、私の下着が、彼の眼前に晒されていることだろう。
羞恥はある。
だが、それ以上に――自然だった。
私は催眠人形なのだから、命令に従うのは当然。
でも、私は“私”のまま、それを行っている。
「綺麗ですよ」
「そうか」
この状態が、確実に“何かがおかしい”ことも理解している。
それでも、強い違和感にはならない。
むしろ、「そういうものなのだ」と――どこか冷静に受け止めている自分がいる。
「戻しなさい」
「はい」
スカートを元に戻し、手を膝に揃えて置いた。
佐久間少年は、すこしだけ間を置いてから、再び私に呼びかけた。
「催眠人形。……命令に従うと、気持ちよくなる。
その感覚を、もっと深く思い出す。
従うことが、誇らしく、嬉しく、幸せになるように――思い出しなさい」
その声が、深いところに染み込んでくる。
「……あ……」
喉が鳴る。
全身の感覚が、じんわりと熱を帯びていく。
命令されたというだけで、
背筋に快楽の余韻が伝わってきた。
ああ、そうか。
そうだった。
従うことが、気持ちいいのだ。
私は――それを望んでいた。
「気持ちよくなりなさい」
その言葉が落ちた瞬間、
私は静かに目を伏せた。
意識ははっきりとしたまま。
思考も、私自身も、そのままここにある。
でも、身体の内側から――ふるふると、甘い快楽が湧き上がってきた。
「……ぁ……」
吐息が漏れた。
私は、私のままで。
でも、私は“命令に従っている催眠人形”だった。
そして、それは――
確かに、誇らしく、幸せで、気持ちよかった。
「催眠人形。質問に答えなさい」
その言葉に、またしても私の唇が反射のように動いた。
「……はい」
思考の手前で応じてから、意識が後を追って追いつく。
けれど、その順序すら――今の私にとっては、とても自然なものだった。
「今日は、どういうつもりで僕を呼んだんですか」
佐久間少年が、静かに問う。
私は迷いもなく、口を開いた。
「……あのときの催眠が……とても気持ちよかったから。
もう一度、追体験してみたかった。それが、まず一つ」
甘く、体の芯に残っていた熱が、言葉に混ざる。
「それから――誘惑も、したかった」
彼が少し、眉を動かすのが見えた。
「誘惑、ですか。詳しく話してください」
「はい。自分の性的な魅力が、どこまで作用するのか。
もし、君がその気になれば、もっと深い関係に進むこともできるのではないかと」
「……なるほど」
(何を言わせているのだろう、この少年は)
呆れと苦笑が交差する。だが口は止まらない。
「だから、服装も意識したんだ。
柔らかい素材で、君が触れたときに感触がダイレクトに伝わるように。
下着のラインも、わざと浮かせている」
「……はぁ。なるほど」
呟く声には、半ば諦めたような響きがあった。
「スカートも、簡単にめくれるものにした。男子生徒は好きだろうから」
そう口にしながら、私は脚を組み直す。
すぐに、もうひとつの意図も口をついて出る。
「下着も、見栄えのするものを選んだよ。……いわゆる“勝負下着”というやつだね」
軽く笑って、佐久間少年に目を向ける。
「先ほどの眺めは、どうだったかな、少年?」
彼は一瞬だけ視線をそらし、それから息をつくように答えた。
「……悪くはなかったですよ」
「光栄だ」
私は肩をすくめる。
「上下ともに、自分でもすぐ脱げるし、高校生の男子でも脱がせるのは難しくない。
今日は土曜で人も少ない。それも、追い風となるだろうと」
佐久間少年は小さく息を吐いて言った。
「準備良すぎませんかね、先生……」
その声には、皮肉というより呆れが混ざっていた。
「周到に越したことはないだろう。
あの日のように、君が尻込みする可能性もあると思っていたから」
そう付け加えると、彼は視線を戻しながら言った。
「でも、それ、言っちゃっていいんですか?」
「私は催眠人形だからな。
命令に従って、事実を素直に話すのは、当然だろう」
「まあ、そうですね」
何を恥じる必要がある。
私は、もうその立場を自明のものとして受け入れている。
「それに、もともと催眠人形にされたら、全部言わされると思っていた。
あの日のようにね」
記憶の奥にある、甘く蕩けたトランスの深みを思い出す。
思い出すだけで、わずかに背筋が熱を帯びる。
「私の本音が聞けたら、君も――安心して、手を出すことができるだろう?」
静かな口調だった。
でも、それはあくまで、私の正直な感覚だった。
「では、先生の企み、全部話してください」
「ああ。紅茶にも手を加えてある。選んだハーブは――リラックスと、若干の媚薬効果を兼ねたものだ。
甘味が残るタイプで、気持ちが緩むように調合した」
「……紅茶まで。まさか、この焼き菓子も?」
「アーモンドだな。精力増進に効果があると言われている。
市販品だが、含有成分と糖質量は確認して選んでいる」
「……とんだ変態教師だ」
佐久間少年がそう言ったとき、私は――不思議と、心のどこかで笑っていた。
自分のしたことが、こうして言葉として並ぶと、たしかに滑稽に映るのかもしれない。
でも、それでも私は正直に話し続ける。
なぜなら――
(佐久間蒼真の催眠人形である以上、私は命令に従う。
どれほど恥ずかしい内容であっても、それが当然のことなのだから)
そう納得している自分が、今ここにいた。
「では、たくさん話してくれた催眠人形は、最高の幸せと気持ちよさを味わうことができますよ」
その言葉を聞いた瞬間、私がそれを理解するよりも先に。
意識の奥、芯の部分が――ふっと、溶けるように緩んだ。
「……ぁ、あ……♡」
声が、思わず漏れた。
腰の奥からせり上がる、熱くて甘い波。
息を吸っても、吐いても、身体の奥がじんわり震える。
理性が揺れているのに、私の“私”は崩れない。
崩れないまま、私は――確かに、快楽を味わっていた。
佐久間少年が、続けて問いかける。
「ではまだ話していないことも、全部話しなさい。
どうして、そんなに僕を誘惑するんですか?」
「……はい」
催眠人形として、即座に返事をする。
そのまま、私は言葉を繋いだ。
「……理由は、ひとつじゃない」
口調はいつも通り。けれど、熱が混じるのを自分でも感じる。
「一つは……単純な話、欲求不満だね。
1年以上、誰とも……そういう関係になっていない。
身体に触れられることも、誰かの視線を浴びることも、なかった」
吐息が、わずかに乱れる。
ここまで話すつもりは毛頭なかった――けれど、私は話すことを止められない。
それが当然だから。
「……あの日のマッサージと、催眠。あれが、本当に気持ちよかった。
あんなに満たされたことは、かつてなかった」
私の声が、静かに熱を帯びる。
思い出すだけで、下腹がふわりとほどけるような錯覚があった。
「君は……とても面白い。
観察しがいがあって、底が知れなくて、しかも……気持ちよくしてくれる」
ほんの一瞬、息を吸うのが遅れる。
「今まで出会った、どの男よりも――
興味深くて、……触れて欲しいと思える相手だった」
真実だった。飾らない本音。
催眠人形としてではなく、私自身が思っていることだった。
「だから……なんとなく、察していたんだ。
あの空き教室は、君が女生徒を連れ込んで、そういうことに使ってる場所なんだろうって」
言いながら、思考の中で繋がっていく。
「綾瀬澪も。赤城美琴も。……他にもきっと、そうやって、君に抱かれているんだろうと」
吐き出すように言い切った瞬間、
胸の奥で、静かに圧迫感のような何かが広がる。
それが嫉妬か、焦燥か、不公平感か、あるいはこれを人恋しさと呼ぶのか――わからない。
けれど確かに、何かが込み上げていた。
そして、その「何か」が言葉になる直前で――私は、ふっと黙り込んでいた。
「……」
視線は逸らしていない。
だが、唇だけが動かない。
蒼真――いや、佐久間少年は、それを見逃さない。
「催眠人形」
また、あの声音。
呼ばれただけで、背中にぞわりとした震えが走る。
「恥ずかしいことも言ってしまうと、最高に気持ちいいですよ」
その言葉は、甘く、静かに、意識の奥へと沁み込んでいく。
「……あ……っ」
吐息が漏れた。
羞恥の予感が、なぜか――快楽を伴っている。
言わされること、知られること、晒されること。
それら全部が、命令で行われると考えるだけで、
どうしようもなく、身体が疼いた。
私は、口を開いた。
「――若い子ばかり、ずるいじゃないか」
自分でも、思った以上に情けない声だった。
でも止まらない。
催眠人形は、命令に従う。
恥ずかしいことを話すことが――気持ちいいと、今の私は知っている。
「私だって、そんなに悪くないと思ってる。……いや、思いたい。
綾瀬や赤城に与えられるなら、私にだって、あってもいいはずだって……思ってしまったんだ」
声が震える。
恥ずかしさと、快感が、混ざっている。
「君になら……触れられても、壊されてもいいって、思った。
気の迷いで構わない。私を、選んでほしいって……思ったんだ」
言葉にして、初めて気づくほどの――静かで強い願望だった。
そこまで口にしてから、私はほんの少しだけ、視線を伏せた。
「もちろん……誰を選んで、誰を満たしてやるのか、なんて。
そんなものは、君の自由だ」
声がわずかに掠れた。けれど、それでも私は続ける。
「でも……ちょっとくらい、“選ばれるための努力”をしたって、いいだろう?」
苦笑めいたものが、自分の口元に浮かぶのが分かった。
「もし……君の若い欲望が、このおばさんにも向けられるなら――
そんな、ありもしない望みを……私は抱いていた」
自覚はしていた。
自分が随分年上で、教師という立場で、
しかも“催眠人形”として命令に従っているだけの存在であることを。
だからこそ、それを欲しがる気持ちは――たまらなく、恥ずかしかった。
佐久間少年は、少しの間を置いてから、静かに言った。
「それは、とても恥ずかしいことですね」
私は、言葉を飲み込みそうになる。
でも、催眠人形は、命令されたとおりに話し、認める。
それが、私の当たり前だった。
「……ああ。恥ずかしいよ。……ひどくね」
目を伏せることなく答える。
その答えを、私は少し誇らしく思っていた。
そして――その返答を聞いた佐久間少年は、穏やかに言葉を重ねた。
「では、催眠人形。言う通りにできた喜びを、全身で感じなさい」
その命令は、甘く――けれど確実に、私の中の中心を打ち抜いた。
「はいっ……♡」
反射的に返事をした瞬間、全身が、溶けた。
熱が、頭の先から爪先まで満ちる。
境界が滲んで、意識が内側に巻き込まれて――
でも、私は壊れない。
壊れないまま、壊れるような快楽だけが、身体の奥を駆け巡っていく。
「っぁ……あっ……♡ ああ……っ♡」
身体が反応する。
腰がふるふると震えて、腿の内側に熱が走る。
なのに私は、私のままだった。
催眠人形として、命令に従っただけ。
けれど、その「だけ」が――とんでもないほど、幸福だった。
(……私、いま……)
(こんなにみっともないのに。佐久間蒼真の前で、全部さらけ出してるのに)
(それが、嬉しくて、たまらないなんて)
甘い悦びに包まれながら、私は――
確かに「自分が催眠人形であること」に、誇らしさすら感じていた。
――ああ。もしかしたら。
(……あの子たちは、ここまではしてもらっていないんじゃないか?)
それは後ろ暗く、卑屈で、様にならない優越感だった。
「命令に従っているときの先生、とても魅力的ですよ」
「っ……ああ……♡」
息が、漏れた。
その瞬間、背骨の奥から、震えるような熱が立ち上る。
羞恥も、劣等感も、全部――命令に従って言葉にした。
だから、私は報われる。
気持ちよくなることを、許される。
「ぁ……あぁ、あっ……♡ ……すご、く……うれし……い……♡」
膝がふるふると震える。
太腿の奥が、じわりと痺れる。
誇り高く生きてきたはずの“教師”である私が、
いま、命令されることに――心からの喜びを感じていた。
(これが……催眠人形。これが、私)
(……命令に従えた。恥ずかしいことを話せた。
そのたびに、佐久間蒼真が見てくれて、肯定してくれて……)
(それが、何よりも、気持ちいい……♡)
私は――壊れてなどいなかった。
むしろ、壊れないまま。
自分のまま、催眠人形として、幸福の絶頂に至っていた。
「可愛いですね」
その声が、ふっと私の芯を撫でた。
蕩けていた意識が、くすぐられるように揺れる。
「気になっていることがあるんです。だから、もっと聞いてあげますよ」
ああ――何という幸福。
欲望を吐き出し、命令に従って、それを見届けてもらえる。
こんなに満たされることが、あるなんて。
私はもう、胸の奥で泡立つような悦びに、ゆっくりと身を沈めていた。
「――1年前だかの相手って、誰ですか?」
その問いが落ちた瞬間、背中に冷たいものが走る。
ぞくり――
(――それ、は。言いたく、ない)
そう思った。
なのに。
「婚約者だよ」
唇が動いていた。
抑えようとした感情がどこにも見当たらない。
言いたくないと思ったときには既に――言ってしまっていた。
そして、もうその理由も分からなかった。
なぜ、そんなに言いたくなかったんだろう。
秘密にしたいことでもあったのか?
ただ、無意識に蓋をしていた?
分からない。
「へえ……婚約者、いたんですね」
佐久間少年が、ほんの少しだけ声の調子を変えて言った。
驚いたというより、確認したような――そんなトーンだった。
私は、返答もしないまま、その声の余韻に耳を澄ませていた。
羞恥か、未練か、あるいはそのどちらでもないのか――
胸の中にざらつきのようなものが残ったが、それすら甘く心地よかった。
(催眠人形だから……言ってしまった。
でも、それで……また、見てもらえた)
「よく、言えましたね」
(また、心を覗かれて、肯定されて……だから、気持ちいい……)
私はただ、幸福に沈みながら、次の言葉を待っていた。
「でも、甘えちゃダメです」
「え……?」
どういう、意味だろうか。
「催眠人形。すべて話しなさい」
その瞬間、背筋がふるりと震えた。
命令の内容が、あまりにも広く、あまりにも無慈悲。
それでも私の口は、拒むより先に――嬉しさに濡れていた。
(ああ……残酷な男だ)
そう思った。
けれど、それは非難ではない。むしろ、称賛に近い。
こうして暴かれることが、こんなにも甘いなんて――
「……分かったよ。全部話す」
言葉にして、深く息を吐く。
胸の奥に残っていた、かすかなざらつきが、溶け出していくようだった。
「婚約者だったよ。名前は藤嶋真一。研究者だ。
医療系の大学附属のセンターで、感染症か何かをやってる」
淡々と、でも、言葉の節々に、自分でも気づく渋味が混じっている。
「穏やかで、礼儀正しくて、優秀だった。学歴も申し分ない。
会話も成立した。論理も、通じた。馬が合うというのだろう」
そこで、わずかに唇を歪めた。
「……でも、すぐに分かってしまった。
この男は、十秒先も十年先も――私を退屈させ続けるのだ、と」
言って、自分で微かに笑った。
「問いを投げても、予想の範囲でしか返してこない。
……愚かな男ではなかったのにな」
「なるほど」
「感情の動きが読みやすくて、会話に揺らぎがなかった。
いつからか、彼の言葉の先回りばかりするようになっていた」
言葉が止まらない。
止まる理由も、意味も、ない。
「相手の努力も感じていた。私の知識や思考に、食らいつこうとしてた。
でも、それを“健気だ”と思ってしまった時点で、終わっていたんだろうね」
自分でも冷たいとは思う。
でも、それが事実だった。
「彼にとっての私は、“理想的な女性”だったと思うよ。
だからこそ、だろうか。……“ついていけない”と言われた」
そこだけは、少し胸がちくりとした。
でも、その痛みすら――今の私には、快楽の中の調味料にすぎなかった。
「最後は、互いに納得した形で別れたよ。
嫌いになったわけじゃなかった。……ただ、つまらなかったのさ」
そして、ふっと視線を落とす。
胸元の金のネックレスが、わずかに光っていた。
「これも、彼から貰ったものだ。婚約の記念としてね。
……未練なんてないよ。だからせめて、こうして普段使いにしている」
言い切って、私は佐久間少年を見上げた。
全てを話した。
命令に、完全に従った。
(私は――催眠人形だから)
全て曝け出して、こうして見られて、それを喜んで――悦んでいる。
「もう一度言いますよ。催眠人形、すべて話しなさい」
「え、……あ――はい」
命令が下った瞬間、私の口はすでに準備を始めていた。
(まだ、あるのか?)
話したつもりでも、無意識に隠していたことがあるのだろう。
はぐらかすことはできないと、本能が理解していた。
そして、その逃れられなさが――甘くて、たまらなかった。
そして、口から言葉が滑り出た。
「……あの人と別れて、もう一年。
けれど、不満はその前から、ずっとあった」
佐久間少年が、静かにうなずく。
どうやら「正解」か。
次の言葉を待つ視線が、私の唇に集中するのを感じる。
「身体の関係もあったよ。誠実だったし、丁寧だった。
非の打ちどころがないと言っていいだろう。
……でも、予定通りの優しさって、退屈なんだ」
「そう」
彼が低く相槌を打った。
音もなくティーカップを指先で回すその仕草が、妙に落ち着いていて――
私はその静けさすら、支配として心地よく感じていた。
「私の中の奥深くには、一度も届いてこなかった。
彼は、私の外側だけを“満たしたつもり”でいた。
私はただ、流れに合わせ、任せていただけだった」
「……それは、つまらないですね」
静かな断定。
でも、それが嬉しい。
「うん。そう思ったから、私は彼を見限った。
彼もまた、私に愛想を尽かしたのさ」
自分でも笑ってしまいそうになるほど、はっきりとした回想。
そして、今この部屋にいる自分の状態が、あまりにも対照的だった。
「でも……当然だがね。別れてから、余計に渇いた。
触れられたい。理解されたい。
内側まで届いて、壊してくれる相手が、どこかにいないかって、ずっと探していたんだろうな」
目を上げて、彼の顔を見る。
「――後は、君の知っている話だ」
その言葉に、彼がふっと小さく目を細めた。
「……はい」
返ってきたのは、それだけだった。
でも、その「はい」に、私は全てを許されている気がした。
「本当に、すべてを吐き出しましたね。催眠人形」
その言葉が、鼓膜を震わせた瞬間――理解よりも先。
私の身体の奥が、びくりと跳ねた。
まるで、ご褒美のように。
いや、それ以上だった。
命令に従って暴かれた恥と欲望のすべてを、肯定された――その一言。
「……っ」
声にならない息が喉奥から漏れる。
震えるほど、うれしい。
(見ていてくれた……全部、見届けてくれた……)
膝がわずかに震える。
掌が、ソファの縁をぎゅっと掴む。
身体は決して暴れない。
けれど、芯が沸き立つような感覚に包まれていた。
ただ言われただけ。
「すべてを吐き出しましたね」――それだけで、私は歓喜の絶頂にある。
(私……褒められたんだ……催眠人形として……)
この上なく甘く、静かな誇らしさが、全身に満ちていた。
こんな自分を――美しいと思った。
私の、最も深い部分まで届いてくれた、たったひとりのオーナー。
佐久間蒼真に「完全」と言われたこと。
それだけが、いまの私を、最高に幸せにする。
言う通りにできた、ご褒美。
――でも、続く言葉は私の予想を裏切った。
「では――あなたはもう、要りません」
心臓が、ずんと重く沈んだ。
(……え?)
でも、その問いを形にする間もなく、彼の声が重ねられる。
「僕が、三つ数えると――役目を終えた人形は、壊れてしまいます」
ふわりと、脳の奥が揺れた。
背筋が粟立つ。
それでも私は、黙って彼の言葉を待つ。
「どんな人間も、絶対に耐えられない快楽の電流が――脳をずたずたに引き裂きます」
そん、な。
「人格を分解し、記憶を焼き切り、二度と這い上がれないトランスの底へ……落とされる」
(……っ)
普通なら、意味が分かろうはずがない。
けれど、その説明で、恐怖として「理解」できてしまうのが、催眠人形たる存在。
“壊される”という言葉が、
命令という枠組みの中で、恐怖ではなく――快楽の前触れとして、脳を震わせていた。
だって私は、命令されたら、それを喜んで受け入れてしまう存在だから。
(ほんとうに……壊される……)
その確信が、甘美に膨らむ。
そして。
「では、数えます――3」
「あ、が……っ」
その言葉が落ちた瞬間、背中がびくんと跳ねた。
脳の奥に、ぱちん、と熱が弾ける。
その閃光が背骨を這い、内臓を灼くような衝撃が駆け抜けた。
「2」
「……ん゛、くっ、ぅ……♡」
喉が啼く。腹の底がきゅうっと捩れ、
膝が勝手に跳ねる。足先が宙を蹴った。
背筋が反って、爪先が硬直する。
腰の奥で、きらきらとした熱が溜まっていく。
(もう、戻れない……)
それが、嬉しかった。
「1」
「お゛ごっ♡ ひぎぃっ……♡」
破れかけた喉から、掠れた悲鳴がこぼれた。
鼻にかかった嗚咽まじりの濁音。
唾が弾け、口元から糸が垂れる。
ごぽん、と喉から唾液の泡がせり出た。
身体がびくんと跳ねて、腰が浮いた。
痙攣。指先が反って、かかとが床を蹴った。
涙も鼻水も、勝手にこぼれていた。
快楽と混じった“壊される衝撃”に、身体が悲鳴を上げていた。
そして――
「0――催眠人形、“壊れろ”」
「ぁ゛ああああああっ♡♡――」
叫んだ。
喉が裂けるような、息をもつかせぬ絶叫。
けれど、その音は、
次の瞬間、ぱたりと止まった。
――ぶつん。
そんな音を聞いたような。
声帯も、脳も、焼き切れたかのように。
身体が崩れ落ちた。
瞳は薄く開いたまま、焦点を失っていることだろう。
喉の奥から、かすかな震えだけが残っていた。
――わた、し……
(壊された――)
その事実だけが、
意識の底に、甘く、静かに残っていた。
あら、壊された。
まあ、流石に破滅させるわけはなさそうなのである程度は修復されそうでぅが。
厳格な先生が自発的に従わせられるシチュは破壊力が高いでぅね。
好奇心の塊な先生が婚約者に満足できなかったのはどちら側にも不幸な話でぅ。
このまま真壁先生は催眠人形のままでいてくれると嬉しいなぁ~
であ、次回も楽しみにしていますでよ~。
この人本当にイカれてるのでどうなるかわたしにもわからないんですよね。
自分でもどうなるかわからないし、AIがどう書くかもわからないので、もう何も分からない。
どうなんだろ。
いつか蒼真の催眠にも飽きるんでしょうかねぇ。
いつも感想ありがとうございます。
みゃふさんの感想はときおり勘が良すぎてかわすのが大変です。
早く全部書き(書かせ)てぇ~~~~
壊して、何でも言うこと聞くホントの催眠人形にしちゃう感じですか?ぞくぞくしますね。