目盛り有るサマー 5

 小学生にとっては夏休み恒例とも言える、早朝のラジオ体操。最近は家族での長期旅行や帰省、そして中学受験夏休み合宿、イングリッシュキャンプやサッカーキャンプなどに参加する子供が増えていることで、地元の子供会主催のラジオ体操には、参加しない子供も増えているらしい。そんななか、ほんの一部の地域で、男の子たちを早起きに駆り立てる噂が広まっている。「ラジオ体操の近くで、エッチな恰好をして変な体操をしてくる、綺麗なお姉さんがいるらしい、という噂だ。

 

 その正体は、倉崎結衣理先生。先生本人からの、たってのお願いで、先生の勤める学校からは離れた学区の公園を選んで出没する。そのせいで、先生はいつもよりも30分以上、早起きしなければならない。

 

「1、2、3、4.…………アン、ドゥ、トロウ、キャトル」

 

 シルバーに輝く、スパンコール地のレオタードを身に着けて、子供たちの輪から5メートルほど離れた場所で、創作バレエのようなダンスをしているのは、結衣理先生。子供会の役員やラジオ体操の持ち回り担当を務めている保護者たちは、不審な眼で、そして子供たちは好奇と、興味の目でチラチラと見てくる。そこで保護者の人から注意やクレームを受けないように距離を保ちながら、恥ずかしそうに、実際に恥ずかしいダンスを見せる先生。本音を出せるなら、こんなこと、自分が一番したくないのだと、叫びだしたい思いだったが、どうしても言葉は口から出てくれない。ツンと澄ました表情で、バレリーナになりきって舞い踊ったかと思うと、途端にふざけているような、ユーモラスなポーズで子供たちの笑いを取る。ラジオ体操も第2になる頃には、トゥワークダンスのようにお尻の肉を揺らして、煽情的に挑発。恥ずかしさに真っ赤になる顔で、懸命に澄ました表情を取り繕って、これが自分なりの体操なのだとばかりに、パフォーマンスをやり切る。

 

 曲が終わったかと思うと、一言、注意をしたそうな保護者が歩み寄るのを、ぶっちぎるスピードで、全力ダッシュで公園を横切って逃げる。停めてあったダイハツ・キャンバスに乗り込むと、アクセルを踏み込んで早朝の道を突っ走って逃げきる。冷房がつけっぱなしだった車内の後部座席では、一部始終を録画していた達都と修介(あるいはそのどちらか)が、先生を労う。さっきの公園にいた誰も、この後、この変なお姉さんが、学校に教諭として出勤するのだとは、思わないだろう。

 

「もう駄目だよ~。私、絶対いつか、捕まるか、学校をクビになっちゃう」

 

「………大丈夫だって………。別に裸で体操してた訳じゃないし、子供たちのラジオ体操に割り込んで邪魔したわけでもないでしょ? 学区も違うし………」

 

 達都が宥めても、先生は信号待ちのたびに顔をハンドルに埋めて、恥ずかしさに呻く。そのたびに肩までピクピクと震える。

 

「あのさ~。俺、思うんだけど。顔バレが心配なら、先生のパンティを顔にかぶって、隠したら、誰かわかんないから、安心できんじゃない?」

 

「ん~。今度は、通報される率が高まるかな………、それやると」

 

 

。。。

 

 

 今の時代はネット社会で、興味を引くもの、アップすればバズりそうと思われるものは、子供でも撮影して、ネットに上げてしまう。保護者の愚痴や噂も掲示板などで共有されてしまうから、達都たちが思っているよりもずっと、「ラジオ体操あらし」を繰り返す、といった悪戯は、危険なのだ。そのように、結衣理先生が何度も懸命に説明するから、達都はちょっと心配になってくる。パンティをかぶって登場すれば無敵なはずだと言い張る修介を無視して、達都は知絵に、子供を巻き込む悪戯や、何日も繰り返し同じようなことをするのは、リスクが高まるらしいから止めようか、と、提案してみた。

 

「………ふーん。…………だったらさ、1日限定で、しかもカメラとか入りにくい場所だったら、外で悪戯しても、リスク少ないんじゃない?」

 

 知絵がニヤリと、怖い笑顔になる。こんな時、達都は背筋が寒くなるような気がする。結衣理先生が直接見たら、もっともっと凍えるような気分になることだろう。

 

 

「キャーッ。楽しーいっ」

 

 ザッブーン。

 

 ウォーターパークは平日でも、夏休み中は若者で賑わっている。浮き輪などを使わず、直接滑るタイプのウォータースライダーの出口には、小さな円形のプールが、滑り降りてきた利用客がドボンと落ちてくるのを受けとめてくれる。

 

「あっ。お姉さん、水着が………」

 

 スライダーの出口にある小さなプールの脇では、監視員のお兄さんが、お客さんたちの安全を確認したり、上階にあるスパイラルスライダーの入口から見下ろしている監視員さんに、次の利用客が滑り始めることが出来るタイミングで合図を送っている。その日焼けした筋肉質のお兄さんが、戸惑いながら、言いにくそうに伝えようとする。両手を挙げ、バンザイの姿勢でハシャギながら降りてきた結衣理先生が、ビキニのトップスを付けていなかったからだ。

 

「キャーッ。ゴメンなさいっ。途中で取れちゃったみたいで…………。あっ、来た………」

 

 少し遅れてスライダーの出口から吐き出されたのは、オレンジ色の花柄のビキニトップス。結衣理先生は申し訳なさそうに、右腕で無防備なバストを隠しながら、左手でトップスをプールの中から掬いあげる。

 

「あの………、ビキニタイプの水着の場合は、外れることがあるので、気をつけてください」

 

 日焼けしたマッチョな体格に似合わず、女性慣れしていないのか、監視員のお兄さんは、はっきりと戸惑いながら、声をかける。結衣理先生と2人してモジモジしている。その様子を近くにあるプールサイドのベンチから、知絵と達都、修介とが見て笑っていた。

 

 

「キャーッ。ヤダッ……………。また………………………。もう~」

 

「………またですか…………。あの………、ビキニのお客様は気をつけるか、心配のあるかたは、スライダーの利用をお控えください…………」

 

「結衣理ちゃん、ポロリ連発しすぎだって。痴女か、アンタは」

 

 ペコペコ謝りながらビキニトップを拾い上げる結衣理と、直視しないように顔を背けがら注意勧告する監視員のお兄さん。知絵の掛け声のせいもあってか、美人のお姉さんが繰り返しスライダーでポロリしていると一部の利用客たちに伝わり始めて、スライダーの出口がある小さなプールを囲むように、ギャラリーが出来始める。しかし、プールの中は撮影禁止というルールがあるため、記録に残すようなことは、誰も出来なかった。

 

「ゴメンなさい。さっきまでは、結び方が間違ってたみたいで………。今度は大丈夫です。私、化繊アレルギーが少しあって、全身を覆うタイプの水着は着られないんですが、どうしてもウォータースライダーを楽しみたくて、治療に耐えてきたんです。気をつけますから、もう1回だけ、滑らせてください」

 

 頭の良い結衣理先生が、必死で理由を捻りだして、理路整然と説明すると、注意に来た係員のオジサンも、ついついスライダーの再利用を許してしまう。オジサンは結衣理先生の胸元をチラチラ見ながら、滑り方のアドバイスなどをする程度に済ましてしまった。

 

 

「キャー、ヒエ~ッ!」

 

「もうっ。ちょっと、それ、わざとじゃないんですかっ! 勘弁してくださいよっ」

 

 日焼けした監視員のお兄さんが、赤黒くなるほど赤面しながら、困惑を怒りに転化させたような声を出す。今回の結衣理先生は、毎回のように両手をバンザイさせてオッパイを剥き出しにして滑り降りてきただけではない。今度はビキニのボトムも失った状態で、両足をVの字に開いて、完全な全裸で滑り降りてきたのだ。

 

「う~ん。また解けてしまったか。次は、どうしたもんか………」

 

 小型の円形プールの前にとどまっていた年配の係員さんは、腕組みしているが、まんざらでもなさそうだ。全裸のまま肩まで水の中にかがみこんで、ビキニの布に手を伸ばす先生。まごついている先生を指さしながら笑っている知絵。修介は今までに何度見たかわからないくらいの結衣理先生の全裸に、それでもベンチから立ち上がってまで直視している。達都は、キョロキョロと周りの様子を伺って、流れるプールの方からやってくる、女性の監視員さんを発見した。

 

「はーい、そちらのお姉さん。スライダーで水着が取れるの、もう7回目ですよね。これ以上のスライダーのご利用をお控えください。今度、滑ったら、ご退場頂きまーす」

 

 男の監視員さんや係員さんが言えなかったことを、女性の監視員さんはハッキリと宣告する。達都も、知絵に、そろそろ潮時だと、無言で頷いて伝えて見せた。

 

「………こっから、全裸で、色んなオモシロポーズで滑り落ちる流れが出来てたのに………」

 

「駄目だよ。…………騒ぎになる前に、退散するって、皆で約束したでしょ」

 

 名残り惜しそうに握る知絵の手から、達都は自分のスマホを受け取って操作を始める。達都が操作を終えると、結衣理先生は両手でビキニのトップとボトムを拾い上げたあと、大急ぎでプールから上がる。男女の監視員さんたちに謝りながら、一目散に更衣室へと駆けていく。白くて丸いお尻をプリプリ振りながら、プールサイドで転ばないように気をつけながらも急いで進む。声をかけようとするチャラい若者たちも無視して、必死に更衣室へと駆けこんでいくのだった。

 

「じゃ、僕らもそろそろ出よう。先生の感情は安定させておいたつもりだけど、更衣室で何かあったら、知絵、よろしくね。知絵への服従心、上げておいたから………」

 

「ん………。もうちょっと遊びたかったけど、まぁ、こんなもんか………」

 

「あれ、今、思ったけど、俺ら、全然泳いでなくね? …………あー、もったいない! せっかくのプールがっ」

 

 達都の言葉に反応する知絵。特にブツクサ言っている修介を宥めながら、達都は男子更衣室に向かって歩く。

 

「………ねぇ、達都。午後まだ時間あるでしょ? せっかくだから、まだ、結衣理ちゃんにやってもらいたいこと、あるんだ。……………悪いけど、着替えは来た時と違う服になるからね」

 

 男子更衣室の出入り口と女子更衣室の出入り口とで道が分かれる分岐点。そこで知絵が達都に、今、思いついたかのように声をかける。達都が知絵を見ると、彼女の顔はニヤーっと笑いを浮かべていた。

 

 

。。。

 

 

「お…………おい………。あの人、見ろよ………」

 

「………うおっ…………。やっぱり………………あのお仕事の人かな?」

 

 電車に乗り込んだ結衣理先生と、少し後から同じ車両に入る、知絵と修介に達都。すでに周囲の男子大学生や若手のサラリーマンの人たちはヒソヒソ話をしていた。そんな反応を無視するように、結衣理先生は開いている座席に座って、両目を閉じる。とても良い姿勢で座っているが、その姿は、良い姿勢とずいぶんとギャップのあるものだった。真っ白のスリップ。体のラインが完全に浮き出てしまう、薄くて伸縮性のある素材のスリップは、縫製や刺しゅうの目の粗さのせいで、真っ赤なブラジャーやショーツが完全に透けてしまっていた。そして何より、先生が脇に抱えて車両に入ってきて、今、膝の上に載せている黄金色の椅子。お風呂で腰掛ける円柱型の椅子のようだが、不自然な窪みがあって、特定の用途のために作られた椅子だと、知っている人にはわかってしまうものを、先生は膝の上に載せ、さらにその座面の上に両手を、行儀よく重ねている。雪のように白い肌と清純そうな深い輝きを持つ黒髪。お嬢様のように清楚な雰囲気の結衣理先生が、風俗嬢を思わせる出で立ちで公共交通機関を利用していると、何とも言えない独特の違和感を周りの乗客に感じさせていた。

 

「…………えっと…………。次のお客様は…………、割と駅の近くにお住まい…………と………。あ、フェラと……………、パイズリもご要望…………か」

 

 メモ帳を読み上げて、電車の走行音にもかき消されず、周りに聞こえるくらいの音量で、たどたどしく独り言を言ったあと、先生はメモ帳をハンドバッグにしまい、両目をまた閉じると、アゴをしっかりあける。口の中に空間を作ったまま、唇をすぼめた結衣理先生は、ゆっくりと、頭を前後に動かし始める。

 

「おい…………あの、デリヘルお姉さん、イメージトレーニングしてる?」

 

「真面目なんだな……………。あんな、ヤバいくらい綺麗な人なのに、めっちゃ真剣にお仕事してんじゃん」

 

 知絵の緻密な設定に加えて、最近、達都が彼女に教えてしまったAIエージェント機能の助けもあって、結衣理先生はこれでもか、というほどの、自分を辱める自分の行動に、気絶しそうなくらいの羞恥を覚えているのに、次から次へと、自分自身の行動がエスカレートしていくのを、全く止められないでいる。周りの若い男性乗客たちが興奮して会話する中、結衣理先生の前に立って吊革につかまっている年配のサラリーマンが、体を「くの字」に折り曲げたまま、固まってしまっていた。

 

「ん……………お客様………。わ………わたしの…………じ、自慢のパイズリです…………。じっくり楽しんでくださいね…………。延長も……………出来ますから………」

 

 フェラの自主練を終えた結衣理先生は、耳まで赤くなりながら、パイズリのイメージトレーニングに移ったようだ。両手で自分の胸を寄せて押し上げ、上半身を前に後ろにと、電車の振動とは違うリズムで揺する。彼女の前に立って「くの字」の体勢になっている銀髪でスーツの年配サラリーマンからは、結衣理先生の寄せ上げられた胸の谷間が完全に露出されているのではないだろうか。いや、それだけではなくて、淡いピンクの乳輪の端くらいまでさらけ出されているかもしれない。年配の乗客は、折り曲げた体を、左右に捩るようにして何かに耐えているのだった。

 

「………知絵………。そろそろ撤収の時間だよ。…………ほら、スマホ、取り出してる人がいる」

 

「また? …………アタシ、エロい恰好と小道具持って電車やバスに乗るくらい、大丈夫でしょ、って、アンタたちに確認したよね?」

 

「うん………。恰好と小道具まではオッケーだったと思うけど、仕草とか再現したら、ヤバいと思う。先生に止めさせるよ」

 

 達都がスマホを操作すると、今まで上目遣いで前に立つ年配の乗客を見上げながら、思わせぶりに自分のオッパイを押し上げて揉みしだきながら上半身を前後させていた結衣理先生が、急に我に返ったかのように、座ったまま「気をつけ」の姿勢になる。その後はキョロキョロと左右を見回して、乗客たちの注目が自分に集まっていることを確認すると、膝の上に置いてある黄金色の椅子の座面に、顔を隠すようにして突っ伏した。そして、次の駅に電車が停まると、ドアが開くのを待ちかねたかのように跳びあがってホームへ駆けていく。

 

「あっ、結衣理ちゃん、行っちゃう………。追いかけないとっ」

 

「大丈夫、ホームのベンチで待機させる」

 

 知絵と達都が、会話ながら自分たちもドアが開いている間に、ホームに出ようと、車両の中を歩く。

 

「なぁ………今のって、本当にヤバかったのか? 別に、裸になったわけでもないし、ただ先生が、自分の体、触ってただけだろ?」

 

 修介はまだ名残惜しそうにボヤく。

 

「しょうがないよ…………。子連れの乗客とかもいるから、子供に悪影響がある行為だ、とかいって、通報されるかもしれない。今、車掌さんの他にも、鉄道警察とか、色々いるらしいし………」

 

「チェッ、また『子供がいるから』………か。………あー、面倒くさい。………子供のいない国になったら良いのにな」

 

 修介が良く考えずにモノを言うのはいつものことだが、今回ばかりは、彼がいったい何をどこまで考えて口を動かしているのか、達都は、わからなさ過ぎて気持ち悪くなる思いだった。

 

 

。。。

 

 

 サッカーの練習も野球の練習も無い日、修介のたっての希望で、海水浴場へ来た。もちろん結衣理先生の運転する車で、だ。先生は、自分がどう弄ばれるのか不安に感じるようで、人の多いところに出るのは嫌がるのだが、地元から遠出することには異論はなかった。先生にとっては、ナノウイルスに操られて披露してしまう自分の醜態、痴態を、知り合いや学校関係者に見られるということが、最大の恐怖のようだった。

 

「プールと違って、写真撮られるリスクが高いから、先生、サングラスかけてて良いよ。そのかわり、水着はこれね」

 

 ビーチに行く、ということで気分が昂揚しているのか、意外に知絵は上機嫌そうに伝える。車が信号待ちをしている間に、助手席に座る知絵は、先生に白いフレームと黒いレンズのサングラスと、紐のように布地の少ないビキニボトム。そしてトップスのかわりに、キラキラ光る星形のステッカーのようなものを渡した。

 

「こ…………これ、水着じゃないわよ…………。先生、絶対にこんな格好で人前に出たりしませんからっ!」

 

 

「キャッホーッ。楽しいーーーっ。みんな、早く来ないと置いてくわよ~っ」

 

 15分後、海水浴場前の有料駐車場に車を停めて脱衣所のボックスで着替える4人。結衣理先生がむずがっていたが、達都がスマホを操作して先生の『楽しい』感情目盛りと『大胆・積極的』の人格目盛りを8まで上げると、先生はもう、いてもたってもいられなくなって、着替えもまだ途中だというのに、脱衣所から飛び出していく。走りながら、剥き出しのお尻にビキニボトムを引っ張り上げる後姿は、水遊びが我慢できない幼児を見るようだった。

 

「キャーッ、砂浜、アツーいっ、お水、つめた~いっ。ヤンッ、今、なんか踏んだかもーっ! ………でも楽し~いっ」

 

 中学生3人が、置いてけぼりにされそうになるほどのテンションの差を見せつけて、先生が波打ち際を走る。脇をしめて肘から先を横に振る、「女の人走り」で、キラキラ光る海を背景に、駆け抜けていく、エロ水着の美女。特に胸につけているのは、ストラップもカップもない、巨大な二プレスのようなステッカーだけなので、その柔らかくて豊満なバストは、先生が駆けるたびに、上下左右にブルンブルンと暴れる。両手で達都たちを手招きして水際まで呼んだかと思うと、今度は両手で海の水をすくって、バチャバチャと生徒たちにかけては、キャッ、キャと屈託なく笑う。

 

「こら、まずは準備体操しないと…………。足のつかないところに行っちゃ駄目だよ~」

 

 達都は声をかけながら、一体どちらが大人でどちらが子供なのか、わからなくなるほど、ハシャいでいる先生を目で追う。楽しそうな先生を見ているのは、心温まる光景だ。キラキラ光る波打ち際で、濡れた髪を肩に垂らしながら、先生がこちらを見て笑っている。夢で見たような景色そのものだ。けれど、先生がハシャギすぎると、余計に周りの海水浴客の目を引くかもしれないので、一度、クールダウンさせることにする。防水カバーの上から、スマホを操作して、先生の『楽しい』感情の目盛りをグルッと下げると、先生の満開の笑顔は、徐々に夢から覚めたような真顔になる。そして自分の姿を思い出すと、泣きそうな声を出して、海中に肩まで潜り込む。

 

「やだーっ。こんな格好。無理っ。………誰か………、着替えを持ってきて…………。お願いっ」

 

 立てば海面がおヘソくらいの高さにくる程度の浅瀬にいながら、体操座りをするように体をかがめて縮こめている先生が、ベソをかくようにして、達都たちに懇願する。防水カバーの上からの目盛り操作はなかなか難しい。カバー自体が濡れているから、指先が滑って、目盛りを動かしすぎるのだ。達都は、回しすぎた目盛りを戻すと、先生はさっきまでの泣きそうな表情を和らげてくれた。

 

「………こうしてれば………いっか…………」

 

 両手を胸の前でクロスさせた先生は、横乳や下乳が見えてしまうのを出来るだけ防ぎながらも、体を起こして、上半身には星形のステッカーだけを付けた状態で、修介との水掛け遊びに復帰する。

 

「結衣理ちゃーん。ハイ、チーズ」

 

「え………撮るの? ……………もうっ」

 

 結衣理先生は、ちょっと困った表情になりながらも、一応笑顔を取り繕って、片手でピースサインを作ってくれた。もう片方の腕は胸を隠そうとしているが、豊かな先生のバストはタユンタユンとその弾力性を見せつけていた。

 

 

 今年の夏はとにかく暑い。最初は結衣理先生のスタートダッシュに引っ張られるかたちで

 、水着になってすぐに、みんなで海に入って、はしゃいでみたが日差しの強さをまざまざと感じた達都たち(まず、白い砂浜が焼けて熱い)は、レンタルパラソルの下にシートを敷いて、その上で日焼け止めクリームを塗ることにした。まず、達都と修介がシートの上にゴロリと横になる。

 

「お客様、リラックスしてくださいねー。ゆっくり塗って、伸ばしていきますから………。乳首とか弱点だったりしたら、教えてくださいね。…………集中的に責めちゃうかも………。ウフフ、冗談ですよ」

 

 AIエージェントの助けも借りて、結衣理先生には、ローションとか塗るのが上手なお仕事のお姉さんたちの知識を取り込んでもらう。一緒に接客スタイルや職業トークまで入り込んできたらしく、先生は、教職にある人とは思えないようなお喋りをしながら、達都の体の上に跨る。達都のお腹や胸元に日焼け止めクリームをタラタラと垂らしてくるのかと思ったら、先生は自分の手のひら一杯にクリームを出すと、先にそれを自分の胸元に塗り込む。そして、上体を屈ませて、ピチャッとオッパイごと達都の胸元にくっつけて、腰から状態を上下、前後、左右にずらしながら、ビターッとクリームを伸ばしていく。先生のオッパイの先端に貼ってあるステッカーの端が達都の肌にひっかかるので、少し達都が顔をしかめると、先生は自分の口の前で、人差し指を立てて、「内緒」を意味するジェスチャーを作った。

 

「やっぱり、これ、邪魔ですね。…………他の人たちには、言っちゃだけですよ。お客様にだけのサービスです。………ウフフ」

 

 先生は眉毛を上げて、スペシャルサービスをしてあげます、といった表情を作りながら、バストトップの星形ステッカーを一旦? がしていく。見えてきた乳輪と乳首は、すでにプクッと盛り上がっている。見慣れてきた乳首ではあったが、こうやって外で見ると、また特別な興奮がある。そのあと、先生の上半身と達都の上半身がベチョッと密着する。先生の肌と達都の肌とが日焼け止めクリームを介して一体化する。ところどころ、空気が入ったところが、先生が体を動かすごとに、プチュッとか、クチュッとか、破裂音のような音を立てる。その音までもが、なんだかイヤラシく聞こえてくるのだった。

 

「お兄さん、緊張してます? …………ちょっと体が固いなぁ~。もっと、力抜いていいんですよ」

 

「………え………、そうかな…………。ちから、抜いてるつもりですよ………」

 

 達都は頑張って脱力してみせるが、先生が何重にも円を描くように上半身を動かすたびに、オッパイが変形しながら達都の素肌を滑りゆき、その真ん中の乳首が固く立ってるために、独特の摩擦感があり、その刺激が、「くすぐったがり」の達都の上体のあちこちに、反応として力が入ってしまう。

 

「このへんも、ちょっと固いかな? …………なんて………」

 

 急に乳首に吸いつかれて、達都が思わず声を上げる。

 

「ウフフッ。お兄さん、やっぱり敏感なタイプだ~」

 

 嬉しそうに、首を少し右に傾けながら、笑いかけてくる結衣理先生は、とっても開放的で積極的で、あけっぴろげの、エッチなお姉さんだ。達都は今、自分の全身にきちんと日焼け止めクリームが塗られているかを気に掛けるよりも、悪戯好きな先生に、体の敏感な部分を刺激されるのに耐えることに集中してしまっていた。

 

「あの~。こっちも、待ってますんで、早めにお願いします………」

 

 キャッ、キャとイチャついている結衣理先生と達都の真横で、達都と同様に、きをつけの姿勢で横になっている修介は、盛り上がってベタベタしている2人に、水を差すことに恐縮しながらも、次の順番を待っている自分の存在をリマインドしなければならないほど、ギンギンに股間を膨らませて、おあずけをくらわされていたのだった。

 

 

。。

 

 

「いえ、これもちゃんとした水着です。これがちゃんとしていないって仰るのは、ちゃんとした水着とそうでない水着の分かれ目はどこかっていう、きちんとした基準とか、こちらの海水浴場にはあるんでしょうか? 私は、肩を出す服とか着る時に、ストラップの跡だけ日焼けしていないのが見えると、かえってヤラシイと思って、ストラップレスのトップスにしてるんです。そういう、何がヤラシイ、何がそうでないって、人によって、色々と感じるところが違うと思うんです。だから、他の海水浴のお客さんから、私の水着が目障りだ、っていう、クレームとか、あったら、それから注意に来て頂いてもよろしいでしょうか? ファクト・ベースでお話した方が、建設的だと思うんです。違いますでしょうか?」

 

 結衣理先生が理路整然とまくしたてると、ライフガードのお兄さんは完全に劣勢になる。彼としては、ちょっと度を超してセクシャルな水着のお姉さんが、中学生男子に体を密着させて、「淫行」ともとれるほどの濃厚なスキンシップをビーチで繰り広げていたので、周囲の目も気遣って注意に来たつもりだった。けれど、相手のお姉さんが、こんな破廉恥な姿で人前をウロウロしている人種とは考えられないほど、インテリジェントに論陣を張ってくるので、思わず狼狽えてしまっている。その気持ちは、達都にも痛いほどわかる。これは達都としても、若干申し訳ない気持ちになる理由がある。もともと倉崎結衣理先生は知性の高い、理知的な女性だ。だから彼女に『ちゃんと反論して、僕たちの行為を正当化して』と指示を送ったら、結衣理先生としては従順に指示を遂行して、ライフガードのお兄さんに反論する。今考えると、それだけで十分だったはずなのだが、公然で風俗サービスのようなクリーム奉仕を受けていた後ろめたさから、スマホ経由で結衣理先生は、人工知能のサポートも加えての反論材料の注入と、「きちんと正当化したい」という欲求目盛りの増量操作までしてしまった。結果、結衣理先生は、注意に来たお兄さんを完膚なきまでに論破して、涙目にさせてしまっているのだった。

 

(お兄さん、ビーチの秩序を守って、皆が楽しめる海水浴場を維持しようとしてるだけなのに、ゴメンなさい………。あとで、結衣理先生に、マッサージの慰労にいかせるから、勘弁してください…………。)

 

 達都は、心の中で、注意に来たライフガードのお兄さんに謝る。そのお兄さんは、タジタジになりながら、結衣理先生の言葉に頷きながら、早くも撤退モードとなって後ずさっている。結衣理先生は、両手で持ったステッカーで自分のバストトップを隠しながらも、まだ自論をまくしたてつつ、同時に腰を前後にグラインドさせて、ヌルヌルの体で跨っている修介に刺激を与えている。修介は、自分の体の上にいる結衣理先生が論じていることの意味をほとんど理解出来ないまま、とりあえず日焼け止めクリームを全身に塗りたくってもらって、気持ち良さに恍惚となっていた。

 

 

。。

 

 

「ねぇ…………。アンタたち2人だけが楽しんでるのって、どうなの? …………いっそ、そのへん歩いてるお兄さんたちも、その遊びに参加させてあげたらどうなの?」

 

 じゃっかん、ビーチでゴロゴロしているのにも飽きた様子の知絵が、達都と修介に提案する。ストライプ柄の水着を着ている知絵は、サングラスをかけてビーチソファに寝そべって、アイスを食べながら、飽きもせず、シンプルな遊びに興じる男子たちに、テンションの低い声をかける。

 

「いや、これ、無限に遊べる…………。他の人たちに開放しちゃうのは、まだ、ちょっと、もったいなくないか?」

 

 修介が聞いてくる。彼に安易に同意していると、知絵から馬鹿だと思われる、というリスクは充分理解していたが、達都は今回、修介に同意せざるを得なかった。馬鹿な遊びと言われればそれまでだが、自分の手が、目が、こんなに喜んでいるのに、お預けをくわされるのは、可哀想に思えた。

 

「あんっ………これ…………、じゃぁ…………、まだ、続くのね…………。もう…………困るな…………、ぁはんっ」

 

 達都たちグループのパラソルとシートの横で、砂浜の砂を人型に掘り下げられた、縦に長めの穴に体を埋めるように寝そべらさせらている倉崎結衣理先生は、自分の体がほとんど埋まって隠れるように、上から砂をかけられている。その、細長い古墳のようになった先生の体の砂の山の表面から、修介と達都が、交互に、両手で砂を掬い取るようにして、1回ずつ、砂をこそげとっていく。ゲームセンターでコインの山を拭い取っていくゲーム機のような遊びだ。徐々に、白い砂が水を含んでグレイになったような砂の山から、修介と達都が砂を掬い落すごとに、人の肌が露出していく。砂浜よりも白くて、スベスベとした女性の肌。その肌が見える面積が拡大するほど、砂や男子生徒たちの手が擦っていくたびに、顔だけ砂から出ているはずの先生が喘ぎ悶える。先生の全身の性感を目盛りで6ほど上げているからだ。全身を覆って、埋めていたはずの砂は、先生が悶えてからだをひくつかせるたびに、サラサラとその肉体の曲線美をなぞるようにして落ちていく。徐々に、女性の、それも相当な美人の裸が、砂の山から現れていくのだ。小さな山の周囲の砂だけ掬い取っていくかのように、男子たちが、先生の胸元の2つの砂山を指で削っていく。そのたびに、男子たちの指先は、砂の奥に柔らかい皮膚に触れる感触を楽しむ。結衣理先生は、快感に喘ぎ、悶えながら、胸の上にできた小高い砂山が、まるでかき氷の山をスプーンで削られていくように、少しずつ崩されていくのをされるがままになっている。砂と指の摩擦の快感に耐えられずに身悶えしながら、快感に咽び泣く。

 

「先生、動いちゃ駄目だよ。………山が崩れちゃう…………。あぁーっ。もう………」

 

「だってぇ……………。ゴメンなさい………」

 

 一応、結衣理先生の胸元あたりにできている2つの小山の頂上にはマッチ棒が1本ずつ、突き立てられていて、達都と修介、それぞれのターンで砂を掬い取っている時に、この頂上の棒が倒れると、そのターンの方のプレイヤーが1ポイント減点になる、という、「棒倒し」のゲームをしていることになっているのだが、とにかく土台になっている結衣理先生が、敏感過ぎて、オッパイを砂混じりの指で擦られるだけで、体が脈動してしまう。本当は2人でじっくりとオッパイ山の攻略と採掘を楽しみたいのだが、割とすぐに、先生が悶える振動で、オッパイ山の頂点に立つマッチ棒は倒れてしまうのだった。

 

 それよりも、2人の男子が途中から夢中になったのは、地盤の緩いオッパイ山ではなくて、先生の下半身。股間のあたりに湧き始めている温泉だ。砂の層を貫くようにして染み出てきた、先生の股間から噴き出る熱い液が、時々、砂を押しのけてオイルラッシュのように噴き出てくる。間欠泉のようだ。この、先生の恥ずかしくも熱い液の噴射が見たくて、修介と達都は、それぞれのターンを使って大切に、執拗に、砂から掘り起こされてきた先生の白い裸体を、砂混じりの指先でさらに掘り起こしていこうとする。交代交代に、性感帯だと気づいた場所を撫で擦って愛撫する。結衣理先生はそんな、熱心な採掘者の交互の愛撫に、身を捩りながら喘ぎ泣く。教え子たち、まだ十代そこそこの子供の指に踊らされて喘がされていることは、成人女性として恥ずかしくも情けないことなのだが、体の敏感さの目盛りを大きく上げられているらしい今、彼らの指と、そこについた砂のザラザラした触感が、体中を這いまわるたび、どうしても身を捩って、喘ぎ泣いて、感じ入ってしまう。自分の股間を覆っているはずの砂を貫通しても噴き上げてしまっている愛液を、恥ずかしいと思っていても、砂から露出する部分がどんどん拡大している自分の裸体が触られるたびに、その感触を貪るようにして、股間が熱い潮を噴くのを、止められなくなっている、自分と自分の体を意識させられるのだった。

 

 

「思い出っていうか、何て言うか、一応、やっときたいんで、頼むわ………」

 

 両手を頭の上で合わせて拝み倒してくる修介の勢いに押されて、達都はしぶしぶ了解する。結衣理先生のお金でレンタルしたポップアップテントにバスタオルで更なる目隠しを作った。夕暮れ時の砂浜で、揺れるポップアップテント。誰か、気になった大人が覗きに来ないか、見張る役を、達都が担わされたのだった。

 

「そんな………、ビーチで人目と体についた砂の粒を全部払うことに気を使いながらエッチしても、気持ちイイこと、ないと思うんだけど…………」

 

 ボヤキながらも達都は仕方なく、テントの横にあるパラソル下のビーチベッドに寝そべりながら、テントを見張っておく。修介が言い出したら何を言っても聞かないことを知っているからだ。知絵は、というと、海の家でかき氷を食べた後、座敷でゴロ寝しながら、自分の携帯を弄っているのが遠目に見える。今日撮った写真のなかで、気に入ったものを友達とシェアしたり、修正したり、デコレーション加工をしているのだろう………。

 

 

「うーん………。ま、やっぱり、純粋にセックスするっていうなら、自宅とか先生の家でするのが、集中も出来て、一番いいな。…………公園でコッソリやるとかもスリルがあっていいけど、海水浴の後、砂浜でやるのは、肌もベタベタで砂もザラザラで、暑苦しくて、人目も気になって、思ったより、良くなかったわ」

 

「さっき、言ったじゃん…………」

 

「いや~、やっぱ、セックス・オンザ・ビーチって、いっぺん、やっときたかったんだよ。経験として………。ねぇ、先生?」

 

「先生に聞かないでよ…………。私は今は、貴方たちに変な設定をされちゃってるせいで、1日に3回までなら、いつ、どこででも、修介君や達都君に提案されると、エッチすることを拒否できないし、貴方たちのモノが入ってきちゃうと、どんな状況ででも、感じまくってイキまくるように、なっちゃってるの…………だから、今のも…………。先生的には、最高のエッチだった…………。…………んっ………。ちょっと、思い出しただけでまた………。んふんっ」

 

 先生は性にまつわる修介たちからの質問には正直に誠実に回答をしてくれながら、自分で喋っていて思い出してしまったのか、またブリ返してくる快感に、身を捩りながら悶えた。このあたり、女性の体の構造はやはり、男とは違う。さっきはノリノリでテントの中に先生を誘い込んで腰を振っていた修介は、ことを終えたあとは、思いのほか、アッサリとした感想を述べているが、さっきは渋々、テントに引っ張られていったはずの先生の方が今、まだ砂浜での野外セックスの余韻に浸って、喘いでいる。

 

「ま、夏の思い出が1個出来たなら、いっか………」

 

 達都はいつも、結衣理先生が気持ち良さそうにしていると、大概のことは受け入れてしまうのだった。

 

 そして今回のレジャーについては、予期せぬ面白いハプニングが、帰宅後に1つ発見された。それは結衣理先生の、あれだけ日焼け止めクリームを塗りたくっていたにも関わらず、白くて敏感な肌質のせいで、わずかに赤っぽく日焼けしてしまった肌だ。上半身裸になってもらうと、日焼けは数日で赤みも引いて収まりそうだったが、オッパイの中心部に、白い、星の形が残っていたのを見つけて、修介と達都とで、爆笑してしまった。ステッカーを貼っていたせいで、乳首とその周辺だけ、星形に日焼けから免れているのだ。清純そうな先生の、バストだけ妙にポップでファンキーな見た目。そのギャップに、2人の男子は、エッチな気持ちも忘れて、笑い転げる。そんな2人の生徒を、結衣理先生は膨れっ面で、恨めしそうに無言の抗議を見せるのだった。

 

 

。。。

 

 

 夏祭りに行くなら、絶対に学校の生徒や保護者、先生たちに会いそうもない、遠目の街のお祭りにさせて欲しい、と、先生が泣きそうな勢いでお願いするので、達都は隣の隣の市のお祭りまで、遠征に行くことを提案した。先生の運転するダイハツ・キャンバスはコンパクトで可愛らしいパッケージングの車なので、中学生とはいえ、3人が同乗すると、結構、窮屈な様子になる。そしてお祭りの周辺になると、道路が渋滞するので、全体通して長時間、車に入っていた知絵は、すでに不機嫌だった。

 

「こんだけ学校から離れたところまで、アタシたちを連れてきたんだから、結衣理ちゃん、お祭りでは、思いっきりハジケちゃっても、大丈夫だよね? ……あ~、楽しみ………」

 

 両手でステアリングを握りながら、ギクッと両肩をすくめる結衣理先生。先生のかいた冷や汗とは無関係に、お祭り囃子と太鼓の音が、少しずつ近づいてきた。

 

 

「わっ…………、色っぽい………」

 

「うおっ、見ろよ。…………セクシーじゃね? ………顔も、超美形だし。…………芸能人かもよ?」

 

 先生が歩いていくと、すれ違う人たちは目が釘付けになってしまうか、二度見、三度見をしてしまう。結衣理先生は黒髪を色っぽく後頭部でまとめているだけではない。白い浴衣が、肌襦袢かと見間違うほど、薄くて目が粗い生地だ。普通だったら浴衣の内側に着る襦袢や下着も、着けていない先生の体のラインが、透けてクッキリと見えている。普段から浴衣や和服の文化に馴染んでいない若者は、色っぽすぎ、艶っぽすぎる先生の着こなしも、「こういうのもあるのか」と、何となく受け入れて目の保養にしてしまう。それくらい、うっすら汗ばむ体に団扇で風を仰ぎながら、シャナリシャナリと歩いていく先生の姿は仇っぽかった。

 

「ど………どこか、お店に並んで、休憩しない? …………歩いてると、皆にジロジロ見られてるみたいで、恥ずかしいよ………」

 

 早くも弱音を吐きそうになる先生の様子を見て、修介がスマホ(達都のものだ)を弄って、彼女の元気を2目盛り分、増やしてあげる。4人で、目についた出店に立ち寄る。金魚すくいの店だ。

 

「オジサン、大人1人、お願いしますっ」

 

 さっきよりも若干元気になった結衣理先生が、麦わら帽子にランニングシャツの、日焼けしたオジサンに声をかける。

 

「お姉さん、凄い美人だし、その浴衣、エロいねぇ~。おまけしてあげたいくらいだけど、まずは、自力で頑張って」

 

 ウエハース製の、金魚をすくうためのポイを受け取った結衣理先生。知絵が後ろから、彼女の耳元で何か囁く。すると、結衣理先生は笑顔でオジサンに会釈をしながら、受け取ったポイのウエハース部分をパクッと口に入れて、ムシャムシャと食べ始める。

 

「お姉ちゃん、ちょっと、それ、食べるものじゃないよっ」

 

 オジサンが困った声を出すと、金魚の泳ぐビニールプールを囲んでいた子供たちも、振り返って結衣理先生の行動を見て、笑いだす。知絵がまた何か、後ろから囁いている。

 

「ごっ、ゴメンなさいっ。私、顔を洗って、出直してきますっ」

 

 そういうと、ビニールプールの前にしゃがみこんだ結衣理先生。浴衣の裾が濡れるのも気にせずに、両腕を、金魚たちが色んな方向へ泳いでいる水の中に肘までつけると、バシャバシャと、自分の顔と上半身にかけていく。あまりの予想外の動きに、店主のオジサンは唖然としている。

 

「ご………ゴメンなさい。金魚さんたち、ビックリさせちゃったでしょうか………。申し訳ございませんっ」

 

 急に正気を取り戻したかのように、ペコペコと謝り始める結衣理先生。怖そうなオジサンだったが、結衣理先生が本当に申し訳なさそうに謝ると、許してくれた。彼女が頭を下げるたびに、濡れて素肌に貼りついた、白くて薄い浴衣の裾から、スベスベしてそうな柔肌、それも豊かな胸の谷間が覗く。それを見て、オジサンは、怒る気をなくしてしまってようだった。

 

 お面屋さんでは「ひょっとこのお面」を買った結衣理先生は、急に嬉しくて楽しくて仕方がなくなって、お面を被って愉快な小踊りを披露する。クスクス笑いながら立ち止まって先生の踊りを見ているギャラリーの前で、今度は先生に、お面を取って、澄ました顔でモデル歩きをしてもらう。見知らぬ通行人たちが溜息をつくような美人の、最高に色っぽい姿。モデル歩きも様になっている。

 

「結衣理ちゃん、調子に乗っちゃ駄目だよ………。フフフ」

 

 達都のスマホに音声入力モードで何か知絵が囁きかけると、結衣理先生はモデル歩きのまま、路上の大きなゴミ箱の前へと歩いて行って、巨大ポリバケツ型のゴミ箱の縁に手をかけると、右足、左足と踏み入れる。まるでスーパー銭湯にある壺風呂に浸かるような仕草で、肩までゴミの中に入ってしまった。

 

「ご…………ごめんなさい。こんなこと、したくないのに…………」

 

 結衣理先生は、奇妙な目を向けてくる通行人に、次から次へと、ペコペコと頭を下げて謝っていた。

 

 

「わぁ、キュウリの一本漬け! 美味しそうっ。皆の分も買ってあげるわね!」

 

 タコ焼き、焼きトウモロコシ、イカ焼き、玉子せんべい、リンゴ飴と、3人の生徒たちに大盤振る舞いしてくれた先生が、飽きずに目を付けたのは、キュウリの一本漬け。チョイスが渋いと思った達都が確認してみると、やっぱり、知絵が今、達都のスマホを操作中だった。何か、先生にさせるつもりなのだろう。

 

「はい、3本目。…………もう、手がふさがっちゃいました。もう1本ありますよね…………。これは持てないから…………。じゃ、ここに挟ませてください」

 

「え? …………そこにですか? ……………冷たいですよ………」

 

 金髪に染めた髪の根元に、染まっていない黒髪の部分が見える、お店のお兄さんは、見た目よりも真面目な人だったようで、結衣理先生の申し出に、戸惑っている。

 

「早く挟んでくださ~い。浴衣がもっとズレると、全部見えちゃう………」

 

 先生にせかされると、天を仰いで頬を膨らませるように、フッと息を吐いたお兄さんが、最後のキュウリを、体をかがめている先生が求めるように、胸元の谷間に押し込むように、入れた。

 

「キャー、冷た~い。…………あはははは、楽し~い」

 

 振り返って、知絵や修介、達都に嬉しそうに手を振る結衣理先生。両手が団扇と3本のキュウリでふさがっていて、4本目のキュウリは、白くて豊満な胸の谷間に半分くらい隠れて、突き立っている。白くて薄い浴衣は着崩されて肩まで出ている状態だった。とんでもなくセクシーな見た目なのは認めるほかないが、さすがの達都も、手を振られて一瞬、他人のふりをしようか、迷うほど、先生は浮かれすぎていて、楽しい祭りの雰囲気からも浮いてしまっていた。

 

 

「変なことさせないでよ、もうっ。…………わたし、この街に、二度と来れないかも………。うえ~ん」

 

 20秒後、笑いながら自分の携帯で写真を撮っていた知絵が、達都のスマホを弄って先生を正気に戻すと、先生は怒るどころか、泣きべそをかくような様子で達都たちに、キュウリの一本漬けを手渡してきた。どうでも良いことだが、修介は先生の胸に挟まれていた方のキュウリを齧りたがったのだった。

 

 

「射的、面白そうじゃないっ。やりましょっ!」

 

 先生のテンションが急上昇する時は、知絵が達都のスマホを弄っている時だ。本当だったら、すでに暴走気味の知絵の手から、達都のスマホを取り返したいところだが、今日は、もう少しだけ、知絵を泳がせておく。近場の夏祭りに行くのではなくて、わざわざ遠出することを渋った彼女に、「学校の人がいなさそうなところに行くんなら、いつもよりもちょっと過激に先生で遊んでも良いと思う」と、譲歩してしまっているからだ。車での移動時間には、気慣れない浴衣が崩れないように、背もたれに完全にもたれかかることも出来ず、不機嫌そうにしていた知絵だったが、屋台を廻ると機嫌も直る。浴衣姿の自分を自撮りしたり結衣理先生の恥ずかしい奇行を撮ったりと、すっかり上機嫌だ。

 

「なるほど………。わかりました。でも、この銃って、どれくらい威力あるんですか?」

 

 鉢巻を巻いたおじいさんから、射的のルール説明を受けていた結衣理先生は、コルクの弾を前から銃口に押し込んだ、ライフルタイプの空気銃を、笑顔で自分のお尻に向ける。

 

「お姉ちゃん、人に向けちゃ駄目だって、言ってるだろう。自分に当たっても、痛いぞ」

 

 パンッ

 

「いっったぁあ~いっ」

 

 お尻の左横。腰骨の下の肉付きがあるあたりに、自分で空気銃を向けて撃ってしまった結衣理先生が、悲鳴をあげる。

 

「いや、だから、言ってるだろうが………」

 

 呆れるオジイサンを横目に、先生は他のお客さんたちに注意を促し始める。他のお客さん、といっても、射的ゲームをやりたがって、銃を受け取っていくのは、ほとんどが子供たちだった。

 

「貴方たち、この銃、人に向けてはいけませんよ。とっても痛~いの。ちゃんと、こっちのオジサンの言うことを聞いて、安全に楽しんでね。ほら、当たると、こんなに、赤くなっちゃう………」

 

 結衣理先生は、浴衣の片側の裾を腰まで捲り上げて、白くて長い脚と、ショーツも穿いていない、剥き出しのお尻の肉、その丸みの上に斑点のように出来た、コルクの当たった跡。すべてを子供たちに見せる。先生の注意の内容が頭に入っている男の子などいないようだった。鉢巻をしたオジイサンから、学生、子供まで、男の人は世代・年齢に関係なく、先生の? きだした白い肌に、釘付けになっているようだった。

 

 

「もうそろそろ、花火が始まるよ。充分、遊んだんじゃない? …………スマホ、返してもらっても良いかな?」

 

 達都が手を差し出すと、知絵は少し名残惜しそうな表情をしながらも、スマホを返してくれた。先生にさんざん奢ってもらって、お腹いっぱいになった達都、修介、知絵。そして、自分のやってきた異常行動の恥ずかしさに、放心状態で遠くを眺めるようにフラフラ歩いている、結衣理先生。4人で、さらに混雑が増す道を歩いていた。達都が受け取ったスマホをポケットに入れた時にちょうど、東の空に打ち上げ花火が5秒間隔で3発、上がって、カラフルな光を放った。

 

「お………花火、始まったな!」

 

 4人とも同じものを見ているから、言わなくてもわかっていることだけど、修介が声を出す。けれど、修介のリアクションは、何も捻りがないけれど、達都の気持ちをさらに少し盛り上げてくれる効果があるような気がしてきた。

 

「あぁ~。なかなか、綺麗に撮れないんだけど………」

 

 知絵は自分の携帯を取り出して、花火を綺麗に撮ろうと必死で、携帯の画面越しにしか、花火を見ていないようだ。せっかく、夜空を昼みたいに照らして、腹に響く重低音を出す、本物の花火が打ちあがっていくのに、知絵はモニター越しにしか見ていない。そうしたところを見ると、やっぱり女子って、なかなか理解出来ない、と達都は思う。けれどその不可解さは、春までに感じていたような、違和感や気味の悪さは伴わないものになっている。なんだかんだ言って、今年の夏は、修介と知絵、そして結衣理先生の3人と、しょっちゅう、一緒に過ごしているのだ。こんなに騒がしい夏は、お祖父ちゃんの家に従弟たちと泊まって過ごしていた、小3までの夏休み以来、久しぶりのような気がしていた。

 

 

 ヒューーーーーーーゥ、ドーーーーーーーーーン、パラパラパラパラ………」

 

「………あんっ……………ぁああ………イクッ………」

 

 さっきまで、放心状態ではありつつも達都たちの後ろを従順におとなしく、歩いてついてきていたはずの、結衣理先生が、久しぶりに声を出す。その声が、セクシーにかすれて、うわずっていたので、気になって振り返ってみる。

 

「うわっ…………。先生………。なんで?」

 

 達都は、思わず、声を上げてしまった。結衣理先生は、浴衣の上半分をはだけて、上半身裸になって、両腕をバンザイのかたちに挙げながら、歩いていた。胸を反らせ、アゴを突き上げて、ビクビクと体を震わせている。

 

 達都は慌てて自分のスマホをポケットから取り出して確認するが、デイジー09のアプリすら開かれていない。行動の条件設定やクリッピングコマンドを誰かが入れたことを疑って、知絵や修介にキツい視線を投げかけたが、2人とも、キョトンとして、先生の突然の変貌に驚いていた。

 

「え………。誰も、今、先生に指示出ししてない?」

 

「いや、達都じゃないの? ………ずいぶん振り切ったな、って思ったんだけど」

 

「アタシじゃないよ………。これ、どうする? …………結衣理ちゃん、壊れちゃった?」

 

 修介も知絵も、焦り始める。ほとんどの観客は夜空に炸裂する光の芸術と激しい爆発音に集中していて、先生の様子に気がついている人はまだ多くないが、見た人は必ず、目が点になって止まっている。達都は結衣理先生の歩いているところへ駆けつけると彼女が後頭部に付けていた「ひょっとこのお面」を前に付けさせ、顔を隠すと、はだけて帯を締めているところから裏返って垂れ下がっていた白い浴衣の上半分を肩に被せた。

 

「先生、何してるの? ………今、誰も、何にも操作していないよ。早く、騒ぎになる前に、車に戻ろう」

 

 声をかける達都を情けなさそうな顔で見た結衣理先生は、泣きべそをかくような表情で、弱々しい声を漏らす。

 

「わかんない………。でも、やめたくても、やめられないの…………また、花火が上がると…………。……ぁあああんっ………イックゥゥうウウウウウウッ………。止まんない、また、イッチャううううううっ」

 

 打ち上げ花火が空で破裂するたびに、先生は両腕を大きく広げて、オッパイを剥き出し、エクスタシーの叫び声を上げる。達都の真剣な表情を見て、これはヤバいと感じたらしい修介も近づいてきて、団扇で先生の胸を隠そうとする。

 

「こっちが、駐車場への近道みたいっ。早くっ」

 

 知絵も真剣な声で、自分の携帯を見ながら先導してくれる。達都は、先生の行き過ぎた狂態が、騒ぎを呼ばないことを祈りながら、先生の背中を押しつつ知絵を追う。幸いなことに、花火を見上げている観客の他には、ある場所に人だかりが出来ていたので、その脇を、野次馬たちの背中側を通り抜けるようにして、逃げることが出来た。

 

「また…………イッチャう…………止まんない……………」

 

 結衣理先生よりももう少し若い声、女子高生くらいの女の人の声で、結衣理先生と同じようなトーンで同じようなことを言っている声が聞こえてきた。人だかりを掻き分けて、その声の元を探りに行くような余裕は今の達都にはない。そのまま、知絵の後を追って、修介と、フラフラ、ヨタヨタと前に進む結衣理先生と一緒に、見通しが悪くて人の少なそうな道を選びながら、駐車場へと急いだ。

 

 

。。

 

 

「おっかをこーえー、ゆっこーおよー。くっちぶえー吹きつーつー」

 

 肩を揺らし、笑顔で頭を左右に振りながら運転する、結衣理先生。彼女の機嫌の目盛りを7つは上げて置かないと、ハンドルに顔を突っ伏して、運転を放棄してしまいそうなくらい、車に乗り込んだ頃の先生は、混乱して、恥ずかしさに苛まれていた。

 

「さっきの、って、何だったんだろうね? …………アタシたちが結衣理を操りすぎて、壊しちゃったのかな?」

 

「だとしたら、7割がた、北岡のせいじゃね? 俺なんかは、エロいことしようとしただけだぜ…………」

 

「いや………、駐車場に近づいてきた時点で、もう、先生はかなり正気に戻ってて、体も普通の感じだった………。あの場所でだけ、変だったんだ………。これ…………、もしかしたら、混線とか、したんじゃないかと思って…………。花火大会って、何万人も人が来るでしょ? …………誰か、僕らの他にも、ナノウイルスを試していた人がいて、スマホからでた制御の指示を、先生の体の中にあるデイジー09が、偶然拾っちゃった………ってことも、あるかも…………」

 

「だったら、これから、どうすればいいんだ?」

 

 無邪気に聞いてくる、修介に、達都も、しばらく考え込んだ後で、自信なさそうに答える。

 

「とりあえず、こういうことがあった、ってことを、アプリのリンク辿って、ヘルプデスクに伝えておこう。…………あとは、僕らの街に戻って、おとなしく、してるか…………。それか、逆にもっと違う場所に行ってみるか………」

 

 

。。。

 

 

 次の金曜日、先生にはお休みを取ってもらって、4人で高原の避暑地に行った。またもや、結衣理先生の運転だ。2時間半も走ると、涼しくて、空気の美味しい、緑の高原に出る。ここまで遠出して自然豊かな場所へ来ると、夏休みとはいえ、人口密度は低かった。ここなら、知り合いに会うリスクも低いだろう、と、結衣理先生は少し安心した表情を見せた。達都も、ここなら混線のリスクもないだろうと考えて、笑顔になる。

 

「うーんっ………。気持ちいい場所…………。ここなら…………、思いっきり、はっちゃけられるよね、結衣理ちゃんも」

 

 伸びをしながら、嬉しそうに呟く知絵。結衣理先生の無言の抗議は、知絵から安定の無視を返される。また例によって、美人教師の奇行が繰り広げられるのだった。

 

 付近にはグランピングや天文台に立ち寄り入浴、ミニ動物園、お洒落なカフェなどが揃う。少しハイソな雰囲気が漂う高原のレジャースポット。そこに隣県からやってきた、美人中学校教師が襲い掛かって暴れだす。手始めはドッグランに乱入。四つん這いでワンちゃんたちと競い合うように走った。ヨークシャーテリアやコリー犬たちに逃げられたり吠えたてられたりしながら、四つ足で駆け回った先生は、正気を取り戻した後で、係員さんに謝り倒す。

 

 お洒落なカフェのテラスに作られた、無料の足湯施設に入り込んだ先生は、体の半分くらいしか浸かれないほどの浅いお湯の中に寝そべって、背泳ぎの真似事をしては、カップルやシニア層の顰蹙を買う。こちらもたんまりと店員さんに叱られた。

 

 眼鏡橋の架かる、素敵な小川を見ると、先生は足湯で濡れてしまった服を脱ぎ捨てて、下着姿で川遊びをする。膝まで冷たい水に入りながら、キャーキャーとはしゃぐ先生を、知絵だけでなく、いつの間にか達都も嬉しそうに携帯のカメラを構えて写真を撮った。涼し気な光景の中で輝く先生の姿。それは、放っておくのが、もったいないほど素敵な光景だったからだ。

 

「おーいっ。こっちの丘、草がフカフカだし、いい木陰もあるぞー。そろそろ、どうよ?」

 

 修介が嬉しそうに、丘の方から呼びかけてくる。達都も、リュックから防虫スプレーを出して、自分に念入りに吹きかけ始めるのだった。

 

 

 

「思ったより、蚊はいないわね…………。かわりに、こんなにトンボが飛んでる…………」

 

 結衣理先生は、木陰で草の上に寝そべっている達都に跨って、腰を卑猥にグラインドさせながらも、周囲を見回して穏やかに言う。以前はAIエージェント経由で動きをナノウイルスに制御させていた、激しくネットリとした腰使いも、今ではほとんど無意識に、他のことに意識をやりながらも、先生が自分からやってくれる。よほど、倉崎結衣理先生の体に染みついてきたのだろう。

 

「8月も、まだ後半に入ったばっかりなのに、…………トンボを見ると、もう夏も終わりなのかな、って、ちょっと寂しくなるね………」

 

 達都はそう呟いて返事する。そういえば、セミの鳴き声も、空にかかる雲の様子も、夏休みが始まったばかりの頃とは、様子が変わってきたような気がする。達都は結衣理先生と下半身で繋がったまま、少しだけ感傷的な気分になる。夏が終わるということは、先生の体内に入っているデイジー09というナノウイルスの、モニタリング期間が終了する、ということ。先生の感情や思考や記憶を勝手に制御する自由研究も、先生とのこうした一方的な肉体関係も、自動終了させられる日が、近づいている、ということだ。

 

 こんなに充実した夏は、町村達都にとっては、人生で初めてのことだった。女の人とキスしたことも、しっかり裸を見せてもらったことも初めてだったし、女性の成熟したオッパイに触れるのも、柔らかいお尻を遠慮なく触らせてもらうのも、そしてセックスをすることも初めてだった。それを全て、憧れの倉崎結衣理先生とすることが出来た。一生忘れないだろう。

 

 そして今思おうと、塚田修介や北岡知絵のようなタイプの男女と、かなり長い時間、一緒に過ごした、というのも特殊な夏だった。多分、この自由研究が終われば、彼らとは、特に知絵とは、疎遠な関係に戻るだろう。そう考えると、不思議な一夏を過ごしたような気がした。そしてこの特別な期間が終わってしまったあとで、達都はきっと、自分が今では当たり前のように過ごさせてもらっている贅沢な時間を、寂しさと特別感の入り混じったような、不思議と熱い、複雑な思いとともに、振り返るんだろう、と思った。あるいはもしかしたら、自分は、一生、この、特別すぎる思い出の檻から、出られなくなってしまうかもしれない。そんなことを考え始めると、今日という一日が過ぎていくことも、ふと、怖くなる。先生のナカで熱くてヌルヌルしたヒダヒダに歓待されながら、達都は頭ではそんな、感傷的な思いに耽っていた。

 

 ピロンッ

 

 手を伸ばすと届く場所に置いていたスマホから着信音が鳴る。セックスの途中だが、手に取って画面を見ると、デイジー09のアプリが立ち上がる。ヘルプデスクからの返信だった。

 

<シンニィ・テック 夏のモニターキャンペーン・ヘルプデスクより、マチムラ・タツト様へ>

 

 達都は思ったより画面に長文が続いているのを見て、先生に、臼を擦るような腰の動きを、一旦止めてもらう。肘で支えるようにして上体を少し起こしながら、スマホに届いた長文を、集中して読み始める。

 

<この度は、ナノウイルス・デイジー09の試験対象者、クラサキ・ユイリ様に出た異常反応と、マチムラ様による「混線の可能性」についてのご指摘、誠にありがとうございました。ヘルプデスクにてログを分析しましたところ、確かに同キャンペーン利用中の、別のモニター者様が、同時間帯に至近距離にいて、クラサキ様が受け取った生理現象と行動の指示を発信しておられました。未成年のモニター者様には、地域で想定活動範囲を分けつつ、(開発中のインターフェイスアプリの効率的な試行の目的もあり)、同じ周波数でのコマンド送信を設定しておりましたが、大規模な夏祭りというイベントで、偶然、安全マージンを超えて2人のモニター者様が接近してしまったことで、今回の混線が発生しました。すでに遠隔操作で、周波数設定を、各モニター者様のスマホごとにカスタマイズさせて頂きましたので、今後の混線についてはご心配不要です。お詫びと、ご連絡への感謝として………。>

 

「先生………。悪いけど、ちょっとどいてくれる?」

 

「………はい? …………もちろんよ。他に、先生に出来ることがあったら、何でも言ってね」

 

 さっきまで、その裸の体を感謝しつつ惜しんで、感傷的になっていたはずの達都が、先生に一度、性器同士の結合を解いて、達都の上からどいてもらう。完全に体を起こした達都は、震える手で、スマホ画面をさらに自分の顔に近づけて読み込んだ。

 

<お詫びと、ご連絡への感謝として、マチムラ様に2つの特典をご提供させて頂きます。1つめは、モニター期間限定のデイジー09の自己破壊プログラムを設定変更し、残り11か月の間、引き続きデイジー09とインターフェイスアプリをご活用頂けるようにいたします。そしてもう1つの特典として、試験開発フェーズでは設定を閉じていた拡張機能を、『優秀モニター者』様への限定設定として、開放させて頂きます。新拡張モードの詳細については、チュートリアルの新着メッセージをご確認願います。以上、今後とも、優秀モニター者様として、デイジー09のモニタリングにご協力お願い申し上げます。>

 

 裸のまま、達都に寄り添うようにして見守っている結衣理先生の横で、達都は、声にならない叫び声を、思いっきり上げた。

 

 

。。

 

 

「お疲れー、結衣理ちゃん。でも、後がつかえてるから、巻き気味にお願いね。達都が終わったら、修介とさっさとエッチ済まして、その後はまた、アタシのオモチャとして、夕方まで馬鹿騒ぎしようよ」

 

 申し訳程度に服を肩にかけて、修介たちの元に戻ってきた結衣理先生に、知絵が声をかける。自分の舎弟に接するかのように、先生の肩をポンと叩いた。先生は、修介の方を向いて、彼の手を引いて、木陰の方へ向かう………と見せかけて、そのまま知絵に近づいて行って、彼女の背中に両腕を回した」

 

「…………? ………。何? ………え、ちょっと、マジで何?」

 

 勢いを加速させながら、知絵の体を抱きしめて、顔を寄せると、強引に知絵と唇を重ねた結衣理先生。今までになかったリアクションを警戒した知絵が、反射的に先生の体を押しのける。そして眉をひそめながら、口元を自分の手の甲で拭った。

 

「…………気持ち悪い…………。体、熱い…………」

 

 めまいがする様子でヨロヨロと体を傾けた知絵が、倒れこまないように両足を踏ん張って、耐えた。修介をほとんど無視するかたちで、知絵は達都をにらんだ。

 

「これって、まさか、結衣理から私にも、…………ナノウイルスが? ……………達都、…………アンタ、くそ…………。アタシを裏切ったの?」

 

 瞼を震えさせながら、達都にすがるように問いかける知絵。達都は自分で思っていたよりも意外と冷静に、答えることが出来た。

 

「…………違うよ………。知絵が、僕らを裏切らないように………。僕ら4人が、これからも楽しく、そこそこ安全に自由研究を続けられるように、新しく解放された拡張モードを、知絵に使わせてもらったんだ。…………絶対に、君に悪いようには、しないつもりだから………」

 

 達都の言葉を、知絵が全部聞いてくれたかどうかは、わからない、彼女は達都が喋っている途中で目を閉じて膝から崩れ落ちてしまったし、達都がスマホの画面を見ると、ピクトグラムのような人体図はすでに半分近く、赤くなっていて、制御率が55%まで進んでいた。

 

 

 。。。

 

 

「それでは、皆さん。一昨日の課題はやってきましたでしょうか? ノートを集めさせてもらいます。もう2学期が始まって、1週間が経ちます。まだ休みボケの人がいたら、駄目ですよ。きちんと切り替えていきましょう。…………今日は、英語の授業を一旦中断します。2学期の始まりという区切りで、皆さんの、特に女子生徒の皆さんの体の発育状況を、確認、そして記録させてもらいます。男子は隣のD組の男子たちと一緒に、自習をしてもらいますよ」

 

 倉崎結衣理先生の言葉に、教室中がザワザワと騒がしくなるが、町村達都が机の上に出したスマホを操作すると、耳が痛いほど響き渡っていた生徒たちの話し声、リアクションは、水を打ったかのように鎮まった。

 

「女子生徒の皆さんは、起立して、制服も、下着も脱ぎ始めましょうか。……………ほら、先生も、脱ぎますよ。………………町村君や、塚田君がそう判断したら、貴方が2学期の自由研究の重点対象に選ばれるかもしれません。きちんと皆で、平等に、公平に精査してもらいましょうね。………………あら、北岡さん、早いですね。…………それでは北岡さんは、皆よりも先に全部脱ぐことが出来たら、D組の女子生徒たちを、こちらに引率してきてもらえますか?」

 

「はいっ………。もちろんです、………先生」

 

 知絵はもう、制服のシャツもスカートも椅子の上に置いていて、水色のブラを外すために両腕を背中に回しながら、結衣理先生に綺麗な返事を返す。彼女の人格目盛りを6つほど弄って固定し、全ての自由研究に対する楽しみな気持ちを4つほど増強してある。他は弄っていない、もともとの知絵の性格でいてもらっているのに、彼女はこれほどまでに、授業や先生の言いつけに対して、素直で従順に変わった。、

 男子生徒たちは先生に言われて、残念そうに、名残惜しそうに、教室の中の夢のような光景を何度も振り返りながら、隣の教室へと移動させられていく。彼らの体内にもデイジー09は息づいているので、問題行動を起こしそうだったら、あらかじめ制御する。そういった管理は、AIエージェントに任せることにした。クラス中の女子たち全員が服を脱いでいくと、教室にはシャンプーや制汗剤、そして若い女の子の匂いが一気に充満していく。

 

 

 窓の外を見ると、雲はすっかり遠くなって、秋模様の、うろこ雲だ。けれど、相変わらず暑い。残暑がきびしい、今日、この頃だ。それでも、達都の特別な夏は終わって、短い秋を経ると、すぐに冬が来るはずだ。

 

 それでも、達都たちの自由研究はまだ終わらない。達都は笑顔で窓の外の風景から、教室の中を振り返る。まだ、終わらないどころではない。特別な1年は、まだ始まったばかりなのだった。

 

 

 

<おわり>

6件のコメント

  1. 永慶先生の作品大好きです
    今回みたいなタイプの作品は自分で小説書く時の参考にとてもなります
    いつも永慶先生の作品が見れるのが日々の生き甲斐です
    永慶先生のアイデアがどういった所で生まれるのか知りたいです教えていただければ嬉しいです

  2. 読ませていただきましたでよ~。

    もう徹頭徹尾結衣理先生を弄んだ話でぅね。前回のAIによる最適解はイコールで最高ではないというのと今回の混線の話は設定からのハプニングとしてはいい目の付け所だと思いましたでよ。
    それにしても自由研究は発表できるような内容にならないと思ってましたが、むしろ全員を操ってしまうとは。どうやって複数人を操るようにしたのかは気になりますが。
    やはり、知絵ちゃんにしたようなことをねずみ算的に増やしていくという形でぅかね。問題はそれをどうやって管理するかになるわけでぅが、アプリの方で一括設定と個別設定ができるようにすればいい形でぅね。

    であ、次回作も楽しみにしていますでよ~。

  3. ふふ、分かりますよ。悠生くんの仕業ですね。(ニヤリ)
    こういうネタを仕込んでくる辺り、ニクいですねぇ。

    くっ……しかし惜しむらくは、知絵ちゃんみたいな自分が操る側だと思って調子に乗った子が操られる側になってしまう逆転シーンがラストの1シーンしかなかったこと……!(個人の趣味です)

  4. 別の方もおっしゃっていますが、知絵ちゃんのシーンは案外あっさりで少し残念でした。
    やはり、自分が優位な側だと思い込んで余裕をかましてた人間が被害者側に堕ちるのは非常に甘美な魅力がありますからね。

    とはいえ、永慶さんのような上質な文章でMC作品を書いてくださることに、感謝の念しか湧きません。次作も楽しみにしています!

  5. 良い作品を読んだなぁ、と思って感想を見ると毎回なんか変な文体で感想が書かれててうわ…ってなる。
    そういう界隈なのかな。
    自分の不理解かもしれないけど、でぅっていうの、ちょっとキツイなぁ。
    良いもの読んだなっていう気持ちに水をさされるようで不快ですね。正直。
    何かの内輪ネタでしたら水を差してしまって、申し訳ございません。
    また、作品の直接の感想ではなくて申し訳ございません。

    1. そういうキャラなのですみません。
      界隈というか私が一人でやってるキャラ付けなので他の方は責めないでください。

      とはいえ、ずっとやってきているので直す気はありません。そこは申し訳ありません。
      できれば、私の存在は見なかったことにして作品単体で見ていただければ幸いです。

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