『豪華絢爛 摩訶不思議 あの 劇団ヒュプノが 貴兄の街へやってくる!』
おどろおどろしい書体で、ポスターにはそう書いてあった。
「………『あの』って言われても………。知らねぇし、なぁ………」
佐々村優は、電信柱に乱暴に貼り付けられたポスターを見て、思わず笑ってしまった。仰々しく、キッチュで怪奇趣味っぽい絵柄で、フクロウや黒い揚羽蝶、それを不安げに見上げる耽美な身なりの少女が描かれている。その少女に手を伸ばしている外套姿のシルクハットの男は痩せぎすで、片眼鏡をかけた目で睨みつけるような形相。なんとなく、江戸川乱歩的な雰囲気を漂わせるそのポスターはしかし、優の興味をわずかに惹いていた。
『刮目せよ 夢かうつつか 彼岸の詩か 貴方の日常を無残に切り裂く 催眠術演劇!』
始めに彼の目に飛び込んできたのは、フォントが大きい『劇団ヒュプノ』という文字だった。そして読み進めると、売り文句の中に、『催眠術』という文字も見つけてしまった。この、大正浪漫とゴシックホラーを混ぜ合わせて乱歩スタイルでフィルターしたかのような美的センスは優の趣味とは合わないと思うのだが、『催眠術』という言葉を目で拾うと、注目せざるを得ないのだ。
佐々村優は大学院の1年目。心理学科で勉強している。彼は学部生時代に臨床催眠療法についても齧ったことがあり、多少なりとも「催眠術」と名の付くものには目を通してきている。けれど、『催眠術演劇』などという言葉は、初めて聞いた。
「これは…………、僕の趣味とは………違いそう…………なんだけどな………」
ボヤキながらも優はスマホを取り出して、ポスターを写す。その催眠術演劇とやらは、彼が住むN市の都心からは僅かに外れたところにある小劇場で、今度の週末から開演するらしかった。
優が偏愛しているジャンルは「МC(マインドコントロール、あるいはシンプルにエムシー)と呼ばれるもので、ポルノが主流だったが、必ずしも成人向のコンテンツではなくても、彼は気にせず摂取する。近年マジョリティになりつつある、「速効堕ち」とか「被害者の目が蛍光色に光るもの」には若干、食傷気味になりつつあるのだが、基本的にはそのジャンルの色んなコンテンツをまんべんなく愛でた。大学の心理学科に入ってからは嗜好と現実の区別はつけられる程度には大人になったと自分では思っている。しかし、いっそこのジャンルを制覇してみようか、というような、願望だか使命感だかよくわからないような情熱も持ち始めている。この『劇団ヒュプノの催眠術演劇』というのも、ネタの1つくらいの気持ちで、ひやかしに行ってみようと思い立ったのだった。
中部地方の中核都市であるN市の、歓楽街から通りを三本ほど隔てたところ、地元の連中ならすぐにピンとくる、ラブホテル街と隣接する路地裏に、その小劇場はあった。途中までスマホのナビを確かめていた優は、路地裏まで来てスマホをズボンのポケットにしまった。うらぶれた路地の壁や電信柱一面に、一昨日、優が見かけたモノクロのポスターが貼りまくられていたからだった。そのポスターを追って歩いていくと、レンガ造りの化粧壁の建物があり、地下へ続く階段の壁面へとポスターが続いていく。『第3 ニュー昭和劇場』の看板がある。ポスターの下部に書かれていた告知の通り、今日が興行初日のようだった。階段を10段ほど降りて踊り場で折り返したあたりで、優は意外にも行列に行き当たった。開場を待つ人たちの列の最後尾で、優は待つことになったのだった。
ポスターの雰囲気と売り文句から、もっとカルト系とかアングラ系の客層なのかと警戒していたが、意外と若い女性も多いように見える。中にはゴシックロリータのような服装を着込んでいる女性や、外套を着込んでいる赤いサングラスの男性など、いかにもこの劇団のファン、といった雰囲気の人もいるにはいたが、もっと普通のOLっぽい人や、制服姿の女子高生までいた。
(小さな劇場の演劇って、女性ファンの方が多いのかな? …………あんまり、こういうところ、来たことないから、全然知らなかった………。)
「あと15分で会場します。2列に並んでお待ちください」
劇場の受付から出てきて階段の行列に声をかけていたのは、案内係のスタッフ。スキンヘッドで白塗りの顔、レトロなボーダー柄の囚人服を着て、雰囲気を出している割には、もの凄く普通のことを言って誘導していた。
佐々村優は、1人で来たために、知らない人と隣り合って2列を作らなければならない、流れで隣になった、OLっぽい服装の女性に無言で軽く会釈をすると、向こうも、小さく頭を下げる。その時に何気なく確認したところ、その女性は、優が滅多に見たこともないような美人だった。美人といっても、特別に、際立って目や口が大きいといった、主張の強いタイプの美人顔ではない、すべてのパーツが適切に整って配置されることで成立しているような、ナチュラルで清楚なタイプの美人だった。優の隣に立って、プログラムのパンフレットのようなものを真剣に読み込んでいるその美人OLを、優は時々、チラチラと覗き込むように見ることで、開場までの待ち時間は退屈せずに過ごすことが出来た。
ガランゴロン、ガランゴロン
錆びついた鐘のようなものが鳴らされると、冗談のように大きなシルクハットを被った長髪で金髪の男と、同じく金髪だがクルクルにカールした髪型に真っ黒なつけまつげをした、コケティッシュな美少女とが扉を開けた。
「劇団ヒュプノがやってきた」
「そうだ!」
「これより劇場を開場する」
「そうだ!」
「受付にて、座席券を選んで購入し、速やかに着席せよ」
「そうだ!」
先ほどの、囚人服を着たスキンヘッドの男よりは、雰囲気作りが仕上がっているように見える2人組の案内を受けて、行列が2人ずつ受付でチケットを購入して劇場ロビーへと入っていく。階段を一段ずつ降りて、受付が見えるところまでやってきたところで優は、ドレープの垂れている受付台の上に掲げられた、価格表の板を見ることが出来た。
『諸侯の席 1万円 売り切れ
騎士の席 8千円
市民の席 6千円
書生の席 4千円
貧民 立ち見 2千円』
と書かれているのを見ているうちに、優の番が来た。
「若造はどの席にするのかな?」
ドレープのカーテンの間から顔を出したのは、ボサボサの白髪をシルクハットからはみ出させた、恰幅の良さそうな老人だった。何かのキャラクターに似ている、と思ったが、思い出せなかった。ロイド眼鏡の奥から落ち窪んだ目で、優を値踏みするかのように見据えている。
「あ………あの、…………書生の席でお願いします」
大学院ではあるが、学生である自分には、これが相応しいのでは…………。そんな言い訳めいたことを自分の胸の内で呟きながら、優は下から2番目に安い席のチケットを買った。
意外とお金のかかっていそうな質感のあるチケットの半券を手にして、優は劇場のロビーを歩いていく。黒いドレープのカーテンが両側の壁にかかっている、時折、壁の上方に鹿の頭部の剥製や山羊の頭部の剥製。そして大きめの置時計や西洋人形、なんだかよく意味の分からない紋章のようなものが間隔を開けて並んでいる。この舞台のための飾りつけだろう。こちらも思ったよりも凝っている、と感じられた。
分厚い内扉を手で押さえながら、前の人に続いて劇場の中に入る。暗がりに目が慣れるのに少し時間がかかった。自分の座席を探す人々のシルエット。劇場の外とは僅かに気圧が変わったような感触を内耳が得る。開場したばかりの客席は、ヒソヒソ話や人の足音、衣擦れの音で充満していた。目が暗さに慣れるまでに時間がかかるのも当然で、劇場内の明かりは燭台に灯された? 燭の火に限られていた。
(この建物、火気厳禁じゃないんだ………。あれはLEDの蝋燭じゃなくて、本物だよな?)
これだけ人が密集する閉ざされた空間のなかで、火が堂々と灯されていることに、優は少し驚いた。………もっとも、音楽や演劇の演出で火薬を使ったり、花火を出したりするものがあることくらいは知っている。この劇場も老朽化は進んでいるけれど、昔ながらの緩めのレギュレーションで運営されているのかもしれない………。
幕が閉じている舞台の前には濃い緋色の掛け物がかけられた席が2列ほど並んでいる。あれがいわゆる、『諸侯の席』というものだろう。有名な劇団でもないはずなのに、1万円も払える人たちは、どんな富裕層なのだろうか。その後ろには濃紺の掛け物がかけられている、『騎士の席』が10列くらいあるだろうか? さらに後ろは『市民の席』、そして階段を登って客席後方に、優の購入した『書生の席』があった。
(最前列近くより、後ろの方から観た方が、舞台全体が良く見渡せる………。きっと、本当の演劇マニアは、後ろの方から観るんだよ。)
優はまた、自分に言い訳を言い聞かせるように、心の中で独り言を呟く。客席が、劇場自体が、すり鉢状の構造になっているせいか、後方からも舞台は思ったよりも近くに見える。優は満足しながら着席した。すると、3分ほど経ってから、そんな優に、嬉しい出来事が起きる。
「………あの、前、失礼します」
「おぁっ………、はい、どうぞ………」
優は思わず、変な声を出してしまった。さっき、開場前に2列の行列を作って待っていた時に、偶然、隣になった美しい女性。その人が、佐々村優の膝の前を若干窮屈そうに通り過ぎて、彼の隣の席に座ったのだ。暗がりの中で深いワインレッド色のカーテンを見ながら、さっきの美人の整った横顔のことを思い出していた優は、突然目の前にその本人が現れたことに、ドギマギしながら腰を浮かして彼女を通したのだった。
(こんな綺麗な人と、2回も隣に並ぶことになるなんて、ラッキーだな…………。でも、よく考えたら、そこまでの偶然でもないか。…………僕の次にチケットを買ったのがこの人だから、おんなじカテゴリーを選んだら、次の座席番号の券を渡されるのは、別に普通か………。)
佐々村優は、冷静さを取り戻そうと、自分を説得する。運命の出会いだの、偶然が引き寄せる恋愛だのといったものとは、縁のない人生を過ごしてきた。そんな自分にとっては、そうしたものに期待をすると、みっともないことになる。そんな、臆病さと入り混じったような分別が、いつも頭にもたげてくるのだった。事務職を思わせる白いブラウスの上に、深緑の品の良いショールを肩から掛けて彼女はまっすぐ、舞台前に設置された燭台を見ている。その横顔は、さっきと変わらず、凛とした美しさをたたえていた。
ガランゴロン、ガランゴロン
また錆びついたような鐘の音が鳴らされると、キーキー、カラカラと音を立てながら、重そうなワインレッドの幕が上へあがっていく。その奥には、真っ黒な幕がまだ閉じられていた。中幕というものだろうか。そして舞台袖から、中幕の前へ、太った男が歩み出てくる。重そうな体をノソノソと動かして、片手でステッキをついた黒のタキシードと黒の外套、そして黒のシルクハットを身に着けた、太っている老人は、さっき受付で優にチケットを手渡した男だった。ロイド眼鏡をかけ、目の周りを黒く塗っている以外は皴のある顔は白塗りになっている。
(そうだ………、あれは、カリガリ博士だ……。)
凄く古いドイツ表現主義のモノクロ映画に出てくる、『カリガリ博士』というキャラクターによく似ている、ということに、このタイミングで気がついた。間違いなく、そのキャラクターをモチーフにしているはずだ。
「…………諸君は、これから目にするものを、外部の者に語ることは出来ない。いや、語ったところで、何一つ、理解も共感も得られないであろう。ここで行われていることは、諸君の世界の規則や規範の外にある。それを垣間見られる幸運に感謝してもらいたい。………例えばこのライト。そして吾輩のこの金時計。この2つがあれば、吾輩は諸君らを深海よりも深い、催眠状態に落とし込むことが出来る。…………疑って居るな? …………それではお見せしよう。吾輩の修めた禁断の学問を。……………皆、このライトを見るのだ。目を逸らさず、凝視するのだ。そしてそのライトの前で、吾輩がこの金時計の鎖を持ち、ゆっくりと左右に揺らす。…………するとどうだ? 諸君はこれを見ているだけで、たちまちのうちに吾輩の言うがままの、操り人形になる! ………凝視せよ。目を逸らすな! …………私の言葉の奴隷になるのだ!」
カリガリ博士風の太った老人が、芝居がかった声で大仰に叫ぶ。金時計が舞台中央に運ばれた赤いスポットライトの前を左右に揺れて光を遮るたびに、赤い光が明滅するように見える。その演出は少しだけ面白く感じられたが、それ以外、佐々村優は座席に座ったまま、失望していた。劇が始まる前の演出や舞台づくりが、なかなか凝っていると思われただけに、心底、ガッカリしてしまっていた。
(このジイサン、…………思いっきり、偽物だ。……………催眠術をモチーフにした、演劇っていうだけなのかもしれないけれど、リアリティが無いにもほどがある…………。)
佐々村優は自分で催眠術を実際に誰かに掛けた、ということはほぼ皆無だが、このジャンルのコンテンツを一通り摂取してきただけに、催眠術というもののリアリティはある程度、理解しているつもりだ。催眠術は非科学的な魔術や呪いのようなではなく、きちんと科学的な根拠や原理、事実の上に成り立っている技法だが、それを成り立たせてのは、催眠術に掛かる側、被術者や被験者側の協力やリラックスした受け入れ態勢だ。スポットライトや振り子のように左右に揺れる懐中時計といった、ギミックだけなぞっても、この老人のように大声で高圧的に威嚇的にがなり立てたら、相手はリラックスどころか緊張してしまう。トランス状態に誘導するどころではなく、警戒されて防衛態勢に入られてしまう。まったく逆効果なのだ。「操り人形」だの「奴隷だの」、導入時においては特に、一番触れてはいけない、NGワードなはずだ。むしろ、人は催眠状態でも本来したくないようなことはしないし、自分の安全を脅かされると思った時点で催眠は解ける、といった事実をきちんと伝えて安心してもらい、じっくりと「ラポール」と呼ばれる信頼関係を構築しながら、相手のペースを尊重して誘導してくことで、やっと相手を催眠状態にいざなうことが出来る。大学の講義で臨床催眠について学んだ時も、まともなテキストにも、大抵はそのように謳われている。この、老人の演じている「催眠術師」のしていることは、完全にそれらと逆行する、仰々しいだけのお粗末なものだった。
「……あぁ…………。オジイサン、貴方のお話を聞いていると、…………体の力が抜けていって、その光から、目が離せなくなってしまいます…………。ピエール…………。私のピエールが………。私の飼っている黒猫が、怖くなったみたいで、逃げて行ってしまいました。なのに、追いかけたくても、足が動きません。オジイサン、私はどうなってしまったのでしょう?」
舞台袖からよろめくようにして歩み出てきたのは、茶色の髪を2つに結んで、白地に金の刺? の入った、シフォンドレスのような古風な寝間着姿の美少女。その声はよく通っていて、お芝居の上手な女優さん、といった様子だった。………そう。お芝居。優はすでに一番最初の掴みのシーンの催眠術描写の拙さ、陳腐さに、老人が意図しているのとは別の種類の眠気すら覚え始めていた。
「お嬢さん、…………猫のことを気にしていないで、私と一緒に、不可思議な世界を旅してみるのは如何でしょうか。おぞましくも美しく、どこまでも蠱惑的な、夢の世界へ………」
「オジイサン、わたし、なんだか、とっても怖いです。でも、目を逸らすことが出来ないんです」
「私が3つ数えると、貴方は、諸君らは、異世界への扉が開くのを見るのです。良いですね? 3、2、1」
偽催眠術師が指を弾いてみせる。それを合図としているかのように、黒い中幕のカーテンが左右に分かれて横へと開かれていく。眠気すら感じながら見守っていた優は、そこで驚いて目を見開く。幕が開いた舞台上には、それなりに大きな回転木馬が中央に設置されていて、そこに何人もの役者が仮面をつけたりゴシック風の衣装を身に着けたりして、木馬に乗っている。舞台の上には空中ブランコが2つ。革のコルセットに身を包んで肌を大胆に露出した美女が乗り、ブランコにつかまって宙を舞っていた。回転木馬の前に舞台袖から次々と、異形のキャラクターがやってきて並ぶ。力強く歌い始めると、その声は何重にも反響して荘厳な合唱のように絡み合い響き渡った。
<劇団ヒュプノがやってくる 劇団ヒュプノがやってくる
お前の街が軋む、たわむ、歪む、変わる
お前の心が軋む、たわむ、歪む、変わる
昨日が今日が軋む、たわむ、歪む、変わる
それは甘美な悪夢 それは背徳の愉悦
劇団ヒュプノがやってくる 劇団ヒュプノがやってくる
お前の存在が軋む、たわむ、歪む、変わる
お前の恋人が軋む、たわむ、歪む、変わる
気持ちが記憶が軋む、たわむ、歪む、変わる
それは耽美な淫夢 それは退廃の祝祭>
十数人の合唱だと思うが、劇場の音響効果が良いのか、あるいはオーディオ機器を駆使しているのか、もっと大人数による詠唱のように聞こえる。天井や壁、客席を縦横無尽に駆け巡るスポットライト数台の光の効果も含めて、優はその音の圧とビジュアルの強烈さに圧倒された。もちろんCGを駆使した大作映画などではもっと奇抜で空想的なビジュアルを作り出すことが出来るのだろうけれど、実際に目の前で繰り広げられる、異世界を模したモノにも、独特の迫力があった。隣の席の綺麗なお姉さんの様子をチラッと伺うと、完全に舞台の上の狂乱に目も心も奪われているかのように、凝視していた。
何度もループする歌。立ち位置を変えて自分を表現する演者たち。異形のキャラクターの中には四つん這いになった2人の女性を首輪と鎖で繋いでいるボンデージ衣装の女性や、スキンヘッドで全身にタトゥーを入れている男性、火を噴く半裸の筋肉質な男や、不気味な笑顔の仮面をつけたピエロなど、サーカスと見世物小屋が合体したような演者たちが、まるでこの劇場の主であるかのように立ちはだかる。そして回転する木馬に乗る美女たちは、露出度の高い服を着て、仰け反ったり足を突き上げたりして、男性客を挑発するようだ。天井近くでは2人の空中ブランコ乗りが、ブランコから手を離して宙返りした相方を空中でキャッチしたりと、アクロバティックな演技を見せつけていた。
そんな狂乱が10分ほども続いたあとだろうか、黒い中幕が左右の舞台袖から閉じていく。舞台は暗転し、木馬の回転がスピードを落としていくのが見えた。演者たちも袖に下がっていく。黒いカーテンが閉じ切ると、今までの大音響の合唱と登場が無かったかのように、劇場が静まり返った。そこに、さっきのカリガリ博士風の偽催眠術師が、ステッキで舞台の床をつきながら歩いてくる。後ろに何やら大掛かりな機械を押す、スキンヘッドで囚人服の男もついてくる。優はひそかに、ため息をついた。
(またさっきの、茶番の続きを見せられるのか………。それなら、今のメリーゴーランドと大合唱をもっと見ていたかったな…………。)
そんな優の思いを察知して打ち消そうとするかのように、老人は杖を舞台床にドンッと打ちつけて、一際大きな音を立てた。
「このたび諸君のお目にかけるのは、かの高名なフランツ・アントン・メスメル博士の実験の再現。それも、吾輩が彼の機械に大幅に手をかけて作り出した、この動物磁気発生機を使った、磁気催眠の体験会だ。この劇場の壁の中に、何重もの鉄線を張り巡らしておる。諸君の座席や立見席の手すりにも、この機械が発生させる磁気が流れるようになっておる。この機械を、今日は特別に起動する。すると、霊験高き動物磁気が、諸君の体を通り抜け、諸君を自動的に、抗えない催眠状態へと導くのだ。しっかり、見ておくことだ」
老人がいくつもの歯車と滑車から成り立ち、そして上部に螺旋状の模様のついた皿を吊るしてある機械の、レバーに手をかける。重々しそうにそのレバーを下すと、ゴウゴウと、金属製の機械の作動音が劇場のあちらこちらから響き始めた。
バチバチッ……………。ヴーーーーゥン………。
優の座席の左後方からも電線に電気が通ったような音と空気感。こんなところにも小型スピーカーが仕込まれているのか、あるいはどこか離れたところに指向性スピーカーが設置されているのか、優は舞台仕掛けの凝っている様には舌を巻く。しかし、21世紀にもなって、動物磁気と言われても、鼻白むしかなかった。
「見よ。…………磁気の力が諸君らの体内を通り、両手を浮き上がらせていく………。刮目せよ。これが吾輩の改造を経た、動物磁気発生機の力であるぞ」
優の思いとは裏腹に、客席はどよめき始める。観客席の後方部であり上段部分にいる佐々村優からは、前方に座っている観客の多くが両手をユラユラと挙げ始めている様が良く見える。
(皆、素直なもんだな………。こんな黴が生えたような理論とシンプルな仕掛けで、簡単に自己暗示に掛かる人たちが、これほど多くいるなんて………。)
自分だけ冷静でいることを誇らしく思うべきか、皆に取り残されて楽しめていない自分を恥じるべきか、優は微妙な半笑いを浮かべながら横を振り返って、さらにギョッとする。隣に座っている綺麗なお姉さんは、他の観客と比べても極端なまでに両手を真っ直ぐ天井へ向けて突き上げて、バンザイの姿勢になっていた。目は真っ直ぐ舞台を見据えて逸らさず、その指先を見てみると、わずかにプルプルと痙攣している。感電している………、という自己暗示にでも、掛かっているのだろうか?
「これは、心地良き快感を生む痺れだ…………。特に、下半身のあたりに妖しき刺激を与えてくる」
「…………んっ…………。やんっ……………」
舞台の縁に立つ老人が、あからさまに怪しげなことを言い始めている。そしてそれに対して、優の隣の美人は驚くほど素直に反応する。両手を真っ直ぐ上にあげつつ、小刻みに痙攣しながら顎を上げ、背筋を反らし、椅子に深く沈めた腰を、ヒクヒクッと震えさせる。2本の棒のように真っ直ぐ突き上げた両腕に反して、柔らかそうな彼女の体はもどかしそうにクネり、背筋を反らした瞬間に胸が突き出され、その丸みが強調される。
「もっと磁力が上がる。甘く激しい刺激が来る!」
「…………んんっ………やっ…………だめっ…………」
内膝が密着しすぎて一体化してしまうのでは、と思われるほど、彼女は太腿をキツくしめ、上体を少し俯け、何かの刺激に耐えようと悶え、身をよじる。暗がりの中でも、色白な彼女の肌に赤みがさしていることが伝わってきた。男女かかわらず、くぐもったような密やかな呻き声は、客席の中の至るところから聞こえてくる。しかし佐々村優は、自分のまとなりに座って両手を上げたまま内腿を擦り合わせ、身悶えしている清楚な美人から、全く目を離せずにいた。
「このまま、磁気の流れと感電は強まっていく! …………と、思いきや、吾輩がこの操作盤を操って制御を変えると、諸君の感じる刺激はぐっと和らいでいく。緊張を解して脱力したまえ。動物磁気の周波数が一気に低下し、諸君を柔らかで癒しに満ち満ちた、恍惚の緩和状態へと導いていく。両腕も下がっていって、アームレストや膝の上に落ち着く」
カリガリ博士風の偽催眠術師がそういうと、客席の7割くらいの人たちの、そして優の隣に座る美女の両腕が、力なく降りてくる。アームレストに肘を置いていた優は、肘と手首の間に温かい感触を得る。隣の彼女が、言われるがままに手を降ろしてきて、優の腕に意図せず触れてしまったようだ。
「………あ………。失礼………」
優の方から触れたわけでもないのに、彼から謝ってしまった。女性経験、特に、こんな美人と体が触れ合う経験に乏しい優の、少し悲しい反応だった。しかし、隣の綺麗なお姉さんは、それに対して返事もせず、そのまま手を自分の膝の上に戻す。彼女の顔を見ると、一秒も優の方を見ず、ただ真っ直ぐ、舞台を見ている。彼のことは無視だ。舞台上の醜く太った老人と、その隣のいかがわしい機械に、まるで心を吸いこまれているかのように集中して見つめ続けているのだった。
(…………劇が始まる前は、僕の前を横切るのにも挨拶してくれるくらい、ちゃんと礼儀正しい人だったのに………、この違いは何だろう…………。よっぽど、はまりこんでいるんだろうか?)
優は怪訝に思いながらも、まだ彼女から目を離せないでいる。まだ、荒げられた呼吸をゆっくりと落ち着かせながら、さっきまでの不可解な刺激の余韻に顔を赤らめている彼女が、今度は全身から力を抜いていき、座席に沈み込んでとろけてしまうかのように弛緩し、脱力していく。真面目で、マナーがきちんと染みついていそうな美女の、そんな無防備な表情を見させてもらううちに、優は自分の嗜癖の特定のツボを強く押されているような感触を覚えていた。
「この動物磁気の周波を下げることで、通電するすべての人体は血の巡りが良くなり、精神は解放される。諸君らの魂は完全にここからの舞台の中の物語と一体化する。我々の言葉は諸君の魂の叫びと全く同じだ。演技はない。全てが諸君の伏してきた願望。昼間は忘れようとしてきた真の夢。我々が見せるもの、伝えることが諸君の全てなのだ。お忘れなきよう…………。……………そろそろ、吾輩の愛してやまない傑作品の、稼働時間が終わるようだ。お嬢さん、次の夢を御覧なさい」
いつの間にか、舞台袖からさっきの、美少女役の女優が出てきていた。飼い猫とはぐれたと言っていた少女だ。
「次の………夢?」
少女の問いに答えないまま、老人とゼンマイ仕掛けの大機械からスポットライトが絞られていき暗闇に溶ける。それと同時に黒いカーテンが左右に開いていく。さっきまで大掛かりな回転木馬や空中ブランコが設置されていたはずの舞台は、大理石の洋館のバルコニー(の書き割り?)に転換されていた。
「月が出ている夜は、不安になる…………。私が、また、変わってしまうのではないかしら、って」
バルコニーに出てきたのは、金髪の、見るからに美しい舞台女優だった。陶磁器のように白い肌と、高い鼻筋は日本人離れして見える。彼女が身に着けているだけで、白いネグリジェはウェデングドレスのようにゴージャスにはためくのだった。彼女が上に立っている、ということで、洋館の本体部分がほぼ書き割りで、バルコニーの部分は実際に建築されている立体物だということがわかった。
「私………、あんなふうに積極的に、………はしたないほど、男の人を求めたことなんて、今までに無かった。…………私を変えたのは、あの人? ……………それとも、あの人がつけていた、あの不思議な香りの、香水かしら?」
<私は、恋に臆病な女 いつも気おくれしてばかり
私を気に入ってくれる方はいるけれど 少なくはないのだけれど
私は誰のものにもならなかった
それが あの人の香水を嗅いだ時に
私の中で、何かが変わった。私の心の奥深くの 何かが焚きつけられたの………>
ミュージカル女優の才能があると、はっきり伝わってくる彼女の歌声はとても伸びやかで、自分に語り掛けるように独白する歌のパートですら、声を張り上げることもなく、綺麗に響いた。顔が美形というだけではない、女性らしい曲線美を持つスタイルの良さだけではない、彼女は女性に生まれた多くの人たちが、羨み、嫉妬すら忘れて見上げてしまうような、強烈なタレントをいくつも初めから持っているタイプの人のようだった。
そしてその女優さんはバルコニーの壁の縁に両肘をついて物憂げに歌っていたかと思うと、急にドラムの音とメロディの転調に合わせて、体をクルリと翻した。
<あの香り あのかぐわしい香気 私の鼻をくすぐった
私の気分はまるでHEAVEN すべてがどうでも良くなった
あの人にすがりついていた 気がついたら抱きついていたの
私の初めての口づけは あの人に捧げられたの
そして私は変わった 一匹のメスに変えられた>
アップテンポでビッグバンド調のジャズへと変わった曲に乗って、彼女は白いネグリジェをまくりあげ、バルコニーから放り投げる。下に来ていたのは、ピンクのスパンコール地
をギラギラと光らせたボディスーツ。脚には目の粗い網タイツを履いていた。
<あの人の顔も体も性格も、好みではないと思っていた
そのはずなのにすっかり私、あの方のトリコ
お尻フリフリ、お胸を突き出し、オンナをアピールするの
あの方に振り向いてもらうためなら 私、なんでもするのよ
私の頭の中はもう、渦巻き模様がグルグルグルグル回っているの>
気がつくと、仮面をつけた男性ダンサーが数名、舞台の上で踊っている。歌う美人女優はバルコニーの柱をつたって降りてくる。
「みんな、踊るわよっ」
舞台上で男たちの間に立った美女が煽り立てると、客席のあちこちで、立ち上がった観客がいる。優の右隣の彼女が立ち上がったことも、気配でわかった。リズムに合わせて、舞台上のダンサーたち3人がステップを揃える。その動きに呼応するかのように、優の隣に座っていた、大人しそうな雰囲気のお姉さんが、たどたどしくも両足を入れ替えるように足踏みを始める。優の頭に浮かんでいた、ボンヤリとした疑念が、少しずつ確信に変わりつつあった。
(これは………アレだよな………。このお姉さんは…………サクラだ。…………劇団員なんだよ、多分。)
そう考えると、一般人離れした彼女の美貌にも納得がいく。いくらなんでも、さっきのカリガリ博士風の偽催眠術に、こんなにアッサリと、ここまで深く、掛かってしまうなんて、偶然が過ぎる。いや、催眠術師がインチキでも、被験者が自己暗示に掛かって、催眠誘導が成立してしまう、っていうことは、絶対に無いとは言えないだろうが、それにしても、ここまでの展開がトントン拍子過ぎるではないか。
客席のアチコチに、この劇団の演者の何人かが、サクラとして仕込まれている。そう考えると、佐々村優の持っている、催眠術という技法の理解とも合致する。さっき、動物磁気催眠という幕間のパフォーマンスには、客席のかなり多くの人数が手を挙げて反応した。あの数の観客が皆、サクラだとは考えにくいが、それにも一応の説明はつく。ライブハウスのような暗がりに、人を大量に詰め込んで大音量の音楽をかけると、観客の熱狂は異常に高まったりする。いわゆる集団ヒステリーのような、共感性が極度に高められる状況というのは、人為的に作り出せるはずなのだ。今、起きている現象もきっと、サクラたちが誘導することによって………。
「あいたっ………」
隣のお姉さんが腰を左右に振り、拳を握りしめてブンブン振ったところで、優の頭にその拳が当たった。それでも、彼女は優の方を見向きもせずに、舞台を見つめながらギコチない踊りを続けている。表情は真剣そのものだ。
いつの間にか、劇場の中に何種類かの花が混じりあったような、甘くて、その奥にかすかにスパイスのようなものを感じさせる香りが立ち込めていることに気がつく。今では客席の中では、優の隣に座っていたお姉さんのように、立って激しく踊っている人の数は少なくはない。その内訳はどちらかというと若い女性が多いのだろうか。客席のそこここで、驚きの声や歓声が上がっている。
(暗がりに大音量、匂いまで演出を入れてきているんだ。その上、この密集した客席の中に、チラホラとサクラを織り交ぜてたら、集団催眠状態は確かに加速するのかもしれない。………あの芝居掛かり過ぎた、偽催眠術師のオジサン以外は、かなり手の込んだ仕掛けだな。)
優は心の中でひそかに感心した。そして、念のために鼻をすすりあげて、この香りが確かに現実のものとして周囲を漂っている、ということを確かめた。そうしなければ、自分が感じていると思っている感覚さえ、現実のものなのかどうか、一瞬、わからなくなる。その程度にはこの演劇は、客席を、優のような観察者、傍観者も含めて、しっかり掴んでいるようだった。
「そして不意に私は正気に戻る。私は恥じらう。
見回すと、乱暴に脱ぎ捨てられた私の衣服。
………あぁ………。私はまた、はしたない真似をして、私の家の名を、一族を辱めてしまったのだと気がつく。
裸で抱き合っている私とあの方。私には、力づくで逃げ出すことも出来ない。
そしてまた…………。あの方が私の唇を奪おうと顔を寄せると、あの、恐ろしくもかぐわしい、不思議な香りが私をくすぐるの………」
激しめなダンスを踊って歌った直後にも、女優は息を切らさずに、独白の台詞を話すと、けばけばしい照明が落とされ、スポットライト1つだけが彼女を照らしていたところから、さらにその光を絞られていき、舞台は暗転する。客席で踊りをとめて、呆然と立ち尽くしていた10名から20名ほどの観客たちは、不思議そうな顔をしながら、席へと戻っていく。
「………あ………ごめんなさい………。私、さっき、貴方にぶつかってしまいましたよね? …………あの、失礼しました。…………急に………なんだかわからなくなって………」
お姉さんはもともととても色白な肌のせいで、その肌が赤くなっていることが、暗い劇場のなかでもわかる。
「え………えぇ、大丈夫です………」
今、謝られてもリアクションに困ってしまい、優は頭を下げる。2人してペコペコと頭を下げあっているうちに、お姉さんは優の隣の席に座ると、まだ居心地悪そうに服装を直ししたり、髪を触ったりしていた。
(サクラだと…………思うのだけど…………。人って演技で赤面とかしたり、しないように踊り続けたり出来るもんなんだろうか? …………演劇は僕の専門分野じゃないから、そのあたりはわからないけれど…………。)
優が1人で考えている間に、暗転していた舞台にまた、スポットライトが当たる。今度はボンデージ風のボディスーツを身に着けた、ベリーショートのヘアスタイルがセクシーな、格好良い系の美女が立っていた。
「アタシは、牧場の管理人。…………牧場って言っても、田舎の自然の中にある、牧歌的でほのぼのとした場所なんかじゃない。…………街中の牧場よ」
それだけ言うと、女優は手にしていた細い鞭で、舞台の床を弾いた。バチンッと大きな音が劇場に響き渡る。
「休んでないで、立ちなさいっ。お前たちはアタシの家畜でしょうっ。アタシの命令には、絶対に服従よっ」
まだ居心地悪そうに身だしなみを整えていたはずの、優の隣のお姉さんが、まるで座席に電撃でも走ったかのように、席から飛び上がって直立不動の姿勢になる。その驚いたような表情の横顔を見て、優はまた新しい演目と演出が始まったのだと、理解した。
<アタシの牧場においでなさい。都会の闇の人間牧場
アタシの鞭の音に服従。今夜も従順に飼いならされる
まずは子羊たち、四つん這いにおなり
牧羊犬に追い立てられて、右へ左へ
悲鳴を上げて逃げ回る。どこまでも可愛い羊>
女王様タイプの女優が鞭を弄びながら歌うと、優の隣の席の前、立ちすくんでいたお姉さんは慌ててかがみこんで、両手を床につく。そのまま四つん這いで、狭い客席の間を右往左往し始める。客席の中、何か所もの場所で同様の騒動が起こっているらしく、暗がりの客席が騒然とし始めた。
<お次は牧羊犬。とっても機敏で利口なの。
アタシが一声かければ、どんな芸もする。
ほら、お手、お代わり、寝転んで。起き上がってチンチン。
3回まわってワンと鳴け。最後に遠吠え>
か弱い子羊になりきって逃げ回っていたはずのお姉さんは、今度は元気な犬の振りを始める。一通り仕込まれたらしい芸を披露すると、最後に四つん這いのまま、仰け反るようにして顔を天井に向ける。
「アオーーーーーーーーーンッ!」
その遠吠えに負けじと、四方八方で、犬の鳴き真似の声が響き渡る。他の観客たちの笑い声も後を追った。
<そして雌牛。ミルクを貯めこんだ乳を振る。
貴方の手で、絞られたがってる。
さらには豚。ただいま、発情期。雄を求めて腰を振る。
雄豚が来たら、ただちに交尾。何の躊躇もいらない
全てを忘れてセックス、セックス、セックス。
まさにケダモノ。>
だんだん、見ていられなくなるほど、佐々村優の隣に座っていた、清楚な雰囲気だった美女は乱れていく。両手を床についたまま、胸を揺すって見せたり、豚の顔真似をしながら腰をグイングインとグラインドさせたりと、見ている方が恥ずかしくなるくらいの醜態を晒していく。舞台俳優とはこんなに瞬時に豹変出来るのだろうか。そして、これほど見事に成り切った演技が出来る俳優が、舞台に立たずに、サクラとして客席に潜り込んでいて満足なのだろうか? 優はだんだん、色んなことがわからなくなってきた。
。。
女王様は拍手喝采で見送られた。彼女が最後に「アタシが鞭を3回叩きつけたら、アンタたちは最高のエクスタシーの中でイク。その瞬間だけもういっぺん、牧羊犬に戻って、ありったけの遠吠えをかますわ。それはもう、野生の幸せ。生きてて良かった、っていう絶頂よ。ほら、1回、2回……………3回だっ」と叫んで鞭で床を叩きつけた時、客席のそこかしこで、激しく腰を振っていた観客のうちの十数人が、荒々しくも甘美で切なそうな遠吠えを聞かせて、仰け反って痙攣した。優が目を離せなくなっている、隣の席の彼女もガクガクと腰を痙攣させて、身をよじりながら、痙攣の中で遠吠えを終えた。
ここに至って、佐々村優は、この美人のお姉さんは、サクラなんかじゃないのではないかと、逆に疑い始めた。これほど成りきって、人格が変わったように次々と痴態をさらせるのは、彼女の意識が本当に操られてしまっているのではないかと思うしかなくなっていた。それほど、曲が終わり、舞台が暗転した時の彼女は、また人が変わったかのように狼狽し、周囲にモゴモゴと詫びながら、恐縮して自分の席に戻ってきては、居心地悪そうに椅子に縮こまる。そのくせ、次の演目が始まる気配がするだけで、彼女は放心したように舞台を真っ直ぐ見据えて、全身全霊で舞台の中の出来事を受け止めようとする。舞台上の役者に言われた通りに信じこみ、行動する。その躊躇の無さは、逆に段取りや下準備など一切ない、意識のぶつかり合いであって、彼女は翻弄されてばかりいつつも、その展開に心の底から魅了されてしまっているように見えた。そして、そんな彼女は、正気の戻った時の狼狽えぶりまで含めて、とても魅惑的で、可愛らしくて、優の心の欲求を激しく? き立てるのだった。
飼い猫とはぐれてしまった少女が舞台の上で黒猫を探す中で、彼女は様々なキャラクターに出会う。時代も国も跨いだその捜索行はまるで、不条理に繋がっていく夢の構造のようだった。
日本の学校で、男子生徒に催眠術に掛けられ、かどわかされる女教師。近所に住むテレパスに街中が支配され、玩具にされるなかで1人、冷静に使役される自分を見つめている若奥様。宇宙人が襲来して拉致されたかと思いきや、「憧れの地球旅行」に訪れた修学旅行中の異星系学生たちと交流し、思い出作りに協力してしまうカップル。次々と目まぐるしく変わる設定は、ついていくだけでも観客たちの頭の中を揺さぶり、途中から優もストーリー展開の現実的な辻褄合わせを諦めて、ただ目と耳で異常世界を追いかけることしか出来ないほどだった。そして優の隣の席の美人なお姉さんは、舞台上の役者に呼びかけられるたびに従順に反応して、時に感情移入しすぎて涙を流し、時には隣の席に座って驚いている佐々村優に真横から抱きついたりするのだった。
幕間の舞台転換を繋ぐ役割は「カリガリ博士風」の太った老人から、背が高くて痩せぎす、色白な「眠り男風」の若い男に引き継がれ、やがてはさっき舞台上で鞭を打っていたボンデージクイーン風の女優へとバトンタッチされていった。幕間の演出も徐々に大掛かりなものなるように感じられた。渦巻き状の大円盤が回転した時には優たちの座る椅子が前進して円盤の渦の中に引き込まれていくように感じたし、女王様が占星術をすると言い出して劇場の方角に文句をつけた後は、ゴゴゴゴゴという重低音とともに、劇場の向きが40度ほど時計回りに動いたように感じた。「眠り男」風の男が無言で奇術を見せ始めた時、舞台に引き上げられた女性は2脚の椅子の上で棒のように硬直して人間橋となった。ここまでは優のショー催眠の理解のうちだったが、痩せた長身色白の男は、その後、椅子を1脚ずつ下げて、彼女を硬直したまま、空中に浮遊させる。そしてあろうことか、両目を閉じて棒のように硬直したままの状態で、彼女はフワフワと宙を浮いて客席へと戻っていったのだった。彼女が客席の前の方の席に戻っていってフワリと座面に着地するまでの間、優は驚愕しながらも必死に両手で自分の席の肘掛けを握っていた。まるでそうしていないと、自分の体まで浮き上がってしまうような、まるで自分の体までもが重量を喪失してしまったかのような、不思議な感覚に襲われていたからだった。
「お嬢さん、いつまで、いなくなった子猫のことを探しているの? 猫のことだもの、気まぐれにまた、おうちに戻ってくるはずよ。そんなことより今、このパーティーを楽しみましょうよ」
いくつか前の演目でメインのキャストとして歌った、美人女優が少女に話しかける。舞台の上にはいつの間にか、これまでに見た全てのキャストたちが再登場し、歌いながら踊っている。一番最初の回転木馬の前で演技した異形のキャストたちもまたやってきて、火を噴いたり、ジャグリングをしたり、四つん這いの女性に馬乗りになって尻を叩いたりしている。舞台の上方では2対の空中ブランコが降りてきて揺れながら美女たちのアクロバットを見せる。優はこの劇の一番最初のパートで見た、あの回転木馬に度肝を抜かれたシーンを思い出しながら、陶然としていた。
楽し気に向き合って手を組み、クルクルとワルツを踊りだす男女。ブリキの人形のような動きでロボットダンスのような動作を見せる男。ステッキを振り回してご機嫌そうな太った老人。そうしたキャストに混じって、それぞれの演目で歌と踊りを見せた美人女優たちが、当たり前のように自分たちの身にまとっていた衣装を脱ぎ始める。ボディースーツの背中になるチャックを下ろし切ると、アッサリと全裸になってしまう金髪の女優。お姫様のような衣装を何枚も脱いで、やっとパニエと下着になる美少女。女王様も、美人教師役も、若奥様役も、みんなそれぞれの衣装を脱ぎ捨てて、全裸になって舞い踊り始める。
「貴方たちも、ただ見ているだけでは、つまらないでしょう? ほら、服なんて脱いで、こっちにきて、一緒に踊りましょうっ」
隣の席の人が立つ気配を感じて、優はギョッとする。陶酔するような目つきで舞台を見つめながら、綺麗なお姉さんは口元を緩めて柔らかい笑みをこぼしつつ、ショールを床に落とし、カッターシャツのボタンに1つ1つ手をかけて、外していく。彼女の服と肌が擦れる音も? き消しながら、大音量の音楽が響き渡る。ジンタやクラリネット、シンバルやドラム、様々な楽器の音。その音に追い立てられるようにして、彼女がシャツかた肩と腕を抜く。白く清潔そうなシャツが滑り落ちると、オフホワイトとライトブルーの刺繍がされた、清純そうで高級そうなブラジャーが優の目に晒される。お姉さんは上半身にブラジャーだけ身に着けた姿で、なおもモカ色のロングスカートのベルトに手をかけていく。手先に十分な力が入らないのか、もどかしそうに、苦戦しながら、スカートを脱いでいく。
「ほら、遠慮は要らないわ。みんな、舞台の上までいらっしゃい。一緒に踊るのよ。全てを忘れて、私たちと1つになるの。夢の一部になるの」
舞台の中央から主役級の1人である女優が声をかけた時、優の隣に立っているお姉さんは、ベージュのパンティストッキングを脱ごうとしているところだった。その作業も忘れてしまったのか、彼女は舞台の上から招かれるままに、手を止めてフラフラと通路を歩いていく。その後ろ姿はブラジャーと対になっているショーツの斜め半分まではまだパンストが引っ掛かったまま、という、おそらく分別ある女性にとっては、とてもみっともない恰好になっていたが、そんなことが全く気にならないといった足取りで、彼女は真っ直ぐ、階段状の通路を降りて行き、他にもいる、舞台へ進もうとする半裸の観客たちの列に加わる。
半裸の観客たちは囚人服を着たスキンヘッドで筋肉質の男に誘導されて、1人ずつ、舞台に上げられ、女優、男優たちの後ろに1列に並ばされると、見様見真似で役者たちと一緒になってラインダンスを踊る。両腕を両隣の人と絡めて隣同士の肩に置き、リズムに合わせて左右へステップを踏んだり、片足ずつ高々と突き上げる。その楽しそうな表情。優はまた、意識しないでいても知らず知らずのうちに、隣の席に座っていたお姉さんを探している。2列目(観客の列)の向かって右側から4番目にいた、その彼女は、心底楽しそうな表情でラインダンスに興じていた。背筋を反らしているから、形の良い豊かなバストの存在が際立っている。ブラジャーに守られながらも、その優しい丸みは揺れている。そして均整の取れたプロポーションのくびれの下に、優美な丸みが彼女のヒップを背景から切り取る。その腰元にはまだパンストが半分脱ぎの状態で残り、彼女の脚線美を輝かせていた。
一列目にはさらに華やかな風貌の美女、美少女たちが、もはや全裸で踊っている。その大胆であけすけで無防備な姿、鍛えられた体つき、優にとっては初めてと言える複数の女性の裸を生で見る機会。そんな贅沢な状況にあって、佐々村優はまだ、彼と一緒に行列に並び、彼の隣で演劇を観ていたはずの、慎み深そうな美人が、陶酔しきった笑顔で下着姿で踊っている様子から、目が離せずにいたのだった。
「さぁ、お嬢さん、君も一緒に、踊ろう。永遠に覚めない夢をことほぐ、闇夜の祝祭だ」
「お嬢さん、こちらへいらっしゃい。その布も髪留めも、邪魔でしょう?」
「お嬢さん、僕の手を取って」
何人もの手が、少女役の女優に伸びたその時、黒いレオタードに身を包んだ、男性バレエダンサーがクルクルとターンしながら舞台上に現れた。
「ニャーッ」
「ギャァーッ、引っ? いたぞ、誰だ、こいつは!」
「あぁっ、ピエール。貴方は、私のピエールね。私を守るために、姿を変えて、やってきてくれたのねっ」
背の高い男のシルエットでわかる。黒いスパンコール地のレオタードというか全身タイツは、頭の部分に猫の耳までついているが、これを着ているのは、先ほどまで「眠り男」役を無言で演じていた痩せぎすの男だ。引っ掻かれたという演技で倒れこむ、太った偽催眠術師の老人。その体を起こすように、裸の女優が2名、彼の左右に駆け寄った。
「おのれ、私を傷つけたこの雄猫と、その飼い主。この両名は、今夜の宴に参加させるわけにはいかん。とっとと、つまらない現実に還るが良い。消え失せろ」
「けれどお嬢ちゃん、いつかまた、猫ちゃんの機嫌が良い時に、またいらっしゃい」
忌々しそうに言い捨てる、カリガリ博士風の老人。フォローするかのように、裸の女優のうちの一人が、優しく語り掛けながら、少女に一本のリボンを見せた。
「この黒いリボンが、再会を約束する目印。これは貴方にとってとても大切なもの。大事に、大事にとっておくのよ。これは貴方のもの。必ず持って帰ってね」
まるで催眠術師がペンデュラムを揺らすかのように、リボンの片方の先端を摘み、もう片方をユラユラと揺らしながら、舞台の縁まで歩み出た彼女が、今度は少女の手を取って、左手の手首にそのリボンを回して結んだ。その一連の動きを、黒猫役の男は邪魔することはしなかった。
「それでは………、さようなら、皆さん。私は、ピエールと一緒に、おうちへ帰ります」
少女は礼儀正しくワンピーススカートの裾をつまんでお辞儀をすると、今も無言でいる黒タイツの男と手を取り合って、舞台袖へと、はけていった。
「見る人がいなくなってしまった夢は、どうなっていくのでしょう?」
「構わん。全てが消え去るまで、あるいは現実との扉が閉じ切るまで、こちらはこちらで、いつまでも宴を続けていよう。なぁ、お前たち!」
太った老人がステッキをつき、自分のマントを大げさに翻すと、演者たち、それにつられた舞台上2列目の観客たちが歓声を上げる。そして再び、大音量のサーカス風音楽と、輪舞の伴奏が流れ始める。1列目の演者たちが横を向き、両手を自分の前に立つ演者の両肩に置いて縦の列を作る。2列目の壇上に上がった観客たちも同じようにするように促されたのか、2列の縦列が出来、やがて2つの列は1つになった。そして舞台から客席に降りる階段を使って客席の通路を、この長い列の演者と観客、全裸、半裸の集団が練り歩く。座っている観客たちは手拍子や立って歓迎することを煽られた。キラキラ光るものを巻く演者や、通路でも火を噴く男がいて、盛り上がっている。笑顔の観客たち、列にいるものにも、客席に座っているものにも、女王様や主演級の女優たちは何かを語りかけているようだった。そのド派手で破廉恥な行列は、優の座る「書生の席」までやってくるのかと思いきや、客席の前半分あたりを行脚したあたりで、再び舞台へと戻っていく。そろそろ、手拍子を打ち過ぎた手のひらが痛くなってきたところだったので、助かった、とも思ったし、裸の美女たちをもっと間近で見たいという思いもあったのだが、とりあえず優は着席して落ち着くことが出来た。
「これで諸兄が訪れた闇夜の夢も、閉ざされる。しかし、お忘れなきよう。さっきのお嬢さんと同じく、諸兄らもまた、望めば吾輩らと、再会することは出来よう。…………この目印があった方が、容易いが…………。それはまた、劇場の外で………。それでは、これにて、お別れである。ご機嫌よう」
ドーーーーーンと大きな銅鑼が鳴らされると、舞台に戻った演者たちは、太った老人の言葉とともに、それぞれ、キャラクターに合わせたかたちでのお辞儀をした。一際大きな拍手が送られる。その拍手の渦の中で、黒いカーテンの中幕が閉まる。そのまま、濃い赤色のどん帳も降りてきたのを見て、優は劇が本当に完全に終幕したことを理解した。
(イメージだと、アングラ演劇とか小劇場ほど、しつこいくらい、ナルシスティックなくらい、終わりの挨拶とか役者の紹介とかが繰り返される、って思ってたんだけど、ここの劇団は意外とあっさり、終わるんだな。)
そんなことを思っているうちに、舞台袖から、さっき舞台に上がっていった、下着姿の男女の観客たちが降りてくる。呆然として周囲を見回している者、恥ずかしそうに居心地悪そうに、自分の席へと急ぐ者、そして一番多かったのが、まだ異常な劇と自分が即興で参加したことへの興奮が冷めないのか、夢見心地でフラフラとした足取りで戻ってくる人たちだった。優の席の隣に戻ってきたお姉さんも、目が飛んでいるような様子で、まだ夢とも現実ともつかないような表情をしながら、自分の席まで戻ってくると、まずはドサッと座席に沈みこみ、しばらくボンヤリと休憩していた後で、やっと床や肘掛け、座面に散らばっていた、自分の服を拾い上げ、着込み始める。すでに劇場の隅にある出入口の扉は開かれ、気の早い客は外へ出る列を作り始めていた。
すでに客席も明かりが点き、半数くらいの観客が席を立ったあとでも、まだ隣の女性はモタモタしながらシャツのボタンを留めていた。隣から熱い視線を送る大学院生にも気づく様子もない。そして、やっと一通りの身繕いを終えると、彼女は立ち上がり、振り返らずにフラフラと通路を進み、出口へ行こうとする。
「あっ…………あの、…………忘れものですよ」
彼女が立った座席の下、奥の方に入り込んでしまっていた、深緑のショールに気がついた優は、それを床から拾い上げ、埃を払ってから、彼女を追いかける、通路を3メートルも進んだところで、彼女に追いつくことが出来た。
「あの………こちら、忘れてますよ」
優が、声をかけながら、彼女の肩を叩く。ゆっくりとこちらを振り返った彼女は、不思議そうな顔でしばらく優を見ていたが、やっと口を開く。
「………すみません…………。なんだか、………ボーっとしてしまって………」
その口調、表情はまだ夢を見ているような様子で、なんだか優は心配になってしまった。
「あの……、急にこんなことを言うのは失礼なんですが、お姉さんは…………ちょっとまだ、足元がおぼつかない感じがするんですが、…………もしご迷惑でなければ、この近くの喫茶店にでも寄って、………少し休憩してから、帰られてはどうですか?」
(この人がもしも、劇団のサクラだったら、こんな誘いは体よく断るだろう………)
最後にカマをかけて確かめるつもりで、優は勇気を出して誘いかけてみた。彼女はまだ、優の言葉の意味をボンヤリと考えるようにして、遠くを見るような視線を泳がせる。
「………うーん………。どうしましょう…………。どうしたら、良いでしょうか………ねぇ………」
その、どちらともとれない彼女の反応に、少し焦れた優が、さらに勇気を振り絞って、強く低い口調で、あえて断定してみせた。
「僕たちはこのあと、一緒に近くのお店へ行きます。そうしましょう」
「……………はい………。わかりました………」
彼女の優を見る視線が少し変化する。はっきりと彼を見て、目を離さないような、彼女の心がこちらに吸いついてくるような視線。それは、演劇の間、彼女が舞台を見つめていた時の視線とよく似ていたことを思い出した。
「僕は、佐々村優と言います」
「………はい………。私は………本倉………楓です」
「僕たちはこれから、近くの喫茶店で休憩しましょう」
「……はい…………。私たちは………。喫茶店に………行きます」
「じゃ、行きましょう」
「……はい、行きます」
優の言葉に、少し普通の会話とは違う雰囲気の反唱を続ける美人のお姉さん、………本倉楓さんは、どこまでも従順に、優についてきてくれた。
このまま、まっすぐ劇場を出て、楓さんの気が変わらないうちに喫茶店に直行したいと、優は思っていたが、劇場の中扉を出て、出口へ向かう途中、グッズ売り場のブースに近づくと、他にもしなければならないことがあることに気がついた。劇中に出てきた、赤いリボンが、公式グッズとして販売されていたのだ。劇場を出ようとする観客の誰もが、8千円もする、そのただのリボンを購入して出口へ向かっていた。優も、このリボンは絶対に買わなければならない、と確信のようなものを持って、財布を取り出す。気がつくと、隣にいる本倉楓さんは、2本も、その、ただの黒いリボンを買っていた。
「またいらっしゃい」
購買ブースを手伝うでもなく、様子を見に来ていたらしい、「眠り男風の無口な男=黒猫男」
が、優に向けて、意味ありげな笑みを送ってくる。初めて聞いたその長身で痩せぎすの男の声は、意外にも深みのある美声だった。そして、優は、この男の、意味ありげで皮肉っぽい笑みを、また見ることになるであろうという、直感のようなものを感じていた。
<第二幕へ続く>

『年末年始 摩訶不思議 あの 催眠小説家永慶が ぼくらのE=MC2へやってくる!』
というわけで早いものでもう年末、待ちに待った永慶さんの更新時期というわけです。
主人公が催眠ショーの観客というのは面白い視点ですね。催眠をかける立場ではないので、やりたい放題にはやれそうにない、『制限』がかかっててそれがいいスパイスになりそうです。
AIでしょうか、曲付きというのはMC小説も進化してますね。因みに無料ボイスロイドのアンジーさんなんかにMC小説の読み上げや台詞を読ませるとこれが結構きますぜ。
AIといえば前の永慶さんの作品を見てGrokに手を出してみました。色々やった結果小説を書かせるよりも、ゲームブック形式のテーブルトークをやらせるのが楽しいですね。投稿作品作成には向きませんが、シュチエーション設定を投げて、展開はGrokに書かせる。文章の最後に主人公の行動選択肢を出して貰い、こちらはその中から選んだり、自分で書いたりして話を作っていく。
催眠能力に目覚めた主人公が街に繰り出すって設定だけで、無限にヒロインが生み出されて、無限の催眠展開を瞬時に書いてくれる。自分の嗜好に合った展開に誘導できるし、逆に自分だけでは思いもよらなかった展開を選択肢に出してくれたりするのがグッドでした。
長文失礼、2話楽しみにしてます。
読ませていただきましたでよ~。
夏と冬。永慶さんの季節でぅ。
それはともかく、今回は劇団でぅか。大掛かりに街でのパニック系ではなく、小規模の閉鎖された空間での乱痴気騒ぎでぅね。集団催眠としてはこっちのほうが説得力を感じますでよ(といっても、永慶さんの大掛かりな街でのやつは催眠というかMCで超常的ななにかでのが多いでぅから比較する意味もないんでぅけどねw)
それにしても途中で歌が入ってることに驚きましたでよ。え、これ作ったの?って感じで。AIに投げればすぐに返ってくるのかな?
今回はヒュプノの公演をみて終わりだったのでぅが、次回からはまだトランスが抜けきってない楓さんを深化させてぐへへるのでぅかね。まあ、優くんは割と倫理観あるみたいなのでそう簡単に落ちていかないかもしれないでぅが、理性が崩壊してエロエロな方向に走っていかないかなーとか期待してますでよ。
それはそうと
>>「速効堕ち」とか「被害者の目が蛍光色に光るもの」には若干、食傷気味になりつつあるのだが、
というのには理解しかないでぅw
最近はアプリとかばっかだし、催眠状態になったという記号何でしょうけれど、目が光ったりして猫かな?とか思ったりしますでよ。
それと最近小説の方でたまに見るのでぅけれど、地の文で「女性の目からハイライトが消えた」みたいな表現があって、お前ハイライト消せるのかよと思ったりもしてますでよ。
比喩表現として意思の光が消えたとかならまだわかるのでぅけれど、本来ハイライトとかは外の光を眼球が反射してるだけだから消せるわけがないんでぅよね。
虚ろ目表現として絵とかでハイライトを消すのは理解できるのでぅが、小説の表現で出すのは違うだろと言いたいのでぅ。
さて、どうでもいいことも書いてしまいましたが、次回も楽しみにしていますでよ~。
であ。
もうこんな時期ですか。一年、あっという間ですね。
昭和の時代を経験してきた人間として、毎度のことながら、永慶さんの作品には舌を巻くばかりです。
ハイカラなモガたちの生きる大正時代を彷彿とさせるレトロなテイストに、令和の技術を組み合わせるスパイス。
引き出しの多さ──というよりも、毎回異なるアプローチからのチャレンジを意識するスピリッツですね。
そして、テーマとなる「催眠ショー」。お約束ですが、もちろん大好きですとも。
今やコンプライアンス上の問題か、フィクションですらとんと見かけなくなってしまった浪漫が、これでもかというほど詰まっていますね。
「動物磁気」など、催眠フェチ的に思わずふふっとなってしまう用語が散りばめられているのも、非常にそそられます。
次回の公演に向けた期待も煽るラストも含め、とても楽しみにしております。