「このリボンをお持ちのお客様から優先してご案内します。こちらにもう一列作りますので、お並びください」
『第3 ニュー昭和劇場』へ続く階段には、昨日も案内役を務めていた、囚人服にスキンヘッド、顔を白塗りにした男が、今日は新しい入場の方式を説明する。相変わらず、見た目とギャップのある、普通の接客をしていた。
(黒のリボン………。そういえば、昨日買ってポケットの中に入れっぱなしだ………。ラッキー………かな。………まぁ、8千円もしたんだから、これくらいのサービスは当然………かな?)
佐々村優は、キャメル色のレザージャケット(合皮だ)のポケットに、入れっぱなしにしていたリボンのことを思い出して、手で探り当てて引っ張り出す。新しく作られた3列目の列には、チラホラと、昨日見た顔がいる。女子高生風の子、ОLさん、モデルのようにお洒落な美女………。女性の顔に見覚えがあるのは、彼女たちの多くが、劇のエンディングで舞台に招き上げられていた人たちだったからだと思う。
優が列の後方をキョロキョロと振り返っていると、水色の薄手のセーターを着た、本倉楓さんの姿を見つけた。
「………おーい、楓さーん。…………こっちです」
優が手を振って声をかけると、8人ほど間に挟んで、楓さんは伏し目がちに顔を逸らしたように見えたが、迷った挙句、優のそばまで歩いてきた。
「…………あの…………佐々村さん、…………私、昨日の夜、ちょっと飲み過ぎたみたいで、あんまり覚えていなくて………。失礼があったら、ゴメンなさい。…………その、………横入りになっちゃうと、悪いから、私、後ろから並びなおします」
目が左右に泳ぐ。彼女自身、何かの思いと戦っているのだ。
「でも………、それだと、一緒に劇、観られないですよね………。あ、僕が先に、2人分の席を買っておけば、2人、並んで観られるか………。でも、それなら、今、ここで2人、一緒に劇場に入るのも、一緒ですよ。ここにいてください。…………僕らが、一緒に観るのって、……………大事なことでしょ?」
「……………はい…………。そうです…………ね。…………やっぱり、甘えさせていただきます」
迷った末、楓さんは優や後ろの行列客たちにペコペコしながら優のすぐ後に入らせてもらうことになる。その様子を見ると、昨晩、優が彼女に刷り込んだ「後催眠暗示」は、きちんと効果を発揮しているようだった。優としては、初めてこのタイプの暗示に挑戦して、成功した、ということになる。
開場時間となる。優たちの列から先に、劇場入口のチケット売り場へ誘導される。昨日と同じく、「カリガリ博士風」の老人が値踏みするようにこちらを見る。昨日同様に書生の席を求めようとしたのだが、リボンを持っている客は書生の席と同じ値段で騎士の席のチケットを渡された。
(お得だ…………。このジイサンの尊大な雰囲気と、妙に良心的な価格設定とか常連客への手厚いサービスとのギャップが、ちょっとミスマッチな感じもするけど、………それもこの劇団の妙な味なのかな………。)
2枚のチケットの裏表を確認しながら、そんなことを考えつつ、中扉を通って劇場の中へ入る。気圧が少し変わるような感覚、通路階段を昨日よりも多く降りて、舞台にだいぶ近いあたりまで進んで、席に着く。昨日とのギャップのせいで、舞台が目と鼻の先のように感じた。
「ずいぶん、良い席に案内されちゃいましたね………」
「………ええ。私、後ろの方の席も劇場全体が見渡せるから好きなんですが、こういう席はこういう席で、きっと迫力が凄いんでしょうね」
楓さんと話していて、目が合うと、優は反射的に顔を赤らめてしまう。この美しい顔立ちのお姉さんは、一体、昨日のどこまで、何をしたことまで覚えているんだろう…………。今、どんな思いで優の隣にいてくれているんだろう。そんなことを考えると、知らず知らう、心臓の鼓動が早くなる。そんな自分を落ち着かせるようにして、椅子に出来るだけ深く座るようにした。
ガランゴロン、ガランゴロン
錆びついたような鐘の音が鳴らされ、キーキー、カラカラと音を立てながら、重そうなワインレッドの幕が上へあがっていく。昨日と同じく、黒い中幕がそこには立ちはだかっていた。
ロイド眼鏡をかけ、目の周りを黒く塗っている他は皴の多い太った肌を白塗りにしている例の老人が、ステッキと外套に身を包んでまた舞台の上へ現れる。
「諸君は、これから目にするものを、外部の者に語ることは出来ない。いや、語ったところで、何一つ、理解も共感も得られないであろう。ここで行われていることは、諸君の世界の規則や規範の外にある。それを垣間見られる幸運に感謝してもらいたい」
気がつくと優は、老人の言葉に頷いていた。昨日観た演劇のことはまだ頭の中で整理しきれていない。果たして、2回観たからといって、理解出来るものなのかは、よくわからない。けれど、この劇を観た後、昨日、「幸運に感謝したい」と思うような出来事は、確かに起こった。劇中にもあったが、優にとっては観劇後の楓さんとのやり取りのことを、夕べのことと思えないくらい鮮烈な記憶として持っている。この老人の大仰な物言いは、今日聞いてみると、昨日感じたほどには荒唐無稽なものとは感じられなくなっていた。
「吾輩がこの金時計の鎖を持ち、ゆっくりと左右に揺らす。…………するとどうだ? 諸君はこれを見ているだけで、たちまちのうちに私の言うがままの、操り人形になる! ………凝視せよ。目を逸らすな!」
この、老人の拙く高圧的な催眠導入の演技だけは、やはりいただけない………。優は頭を抱えるように額に手をやって、小さく顔を左右に振った。チラッと隣の、楓さんの様子を確認すると、驚いたような顔をしながら、ところどころ、老人の言葉に頷いてみたりする。素直なお客さん然とした反応だが、催眠状態に入っていたりはしない。優はなぜかホッとする。やはり、催眠術師のフリさえすれば、楓さんを思い通りに操れる、なんてことはない。昨日の佐々村優が楓さんに催眠術を掛けることが出来たのは、それなりの、本物の知識が彼にあったからなのだ………。
「………オジイサン、私はどうなってしまったのでしょう?」
ツインテールの少女役の女優が、昨日と同じく、飼い猫を探しながら現れて、老人に問いかける。
「吾輩が3つ数えると、貴方は、諸君らは、異世界への扉が開くのを見るのです。良いですね? 3、2、1」
黒い中幕のカーテンが左右に分かれていくと、昨日と同じく、極彩色の導入部の始まりだ。回転木馬が回り、上に空中ブランコ。舞台前面に様々な癖のあるビジュアルの役者たちが並ぶ。このシーンには、わかっていても圧倒されてしまう。実際に測定すれば数メートルしかないはずの舞台の奥行きの中に、回転するメリーゴーランド(カルーセルと呼ぶべきか?)が収まって実際に回転していることも凄い。そして小劇場の中空で繰り広げられるアクロバティックな空中ブランコ。本物のサーカスでは下にネットを張って万が一の事態に備えているはずだが、そんなものも無い。そして舞台の全面で我が物顔でそれぞれの個性をアピールする演者たち。数で言えば観客の方が圧倒的な大多数のはずなのに、舞台にいる演者たちが観客を圧倒してくる。そこでテーマ曲が合唱される。昨日の舞台と寸分違わない、圧巻のシーンだ。舞台により近い席で観ているので、よけいに迫力を堪能することが出来る。優が隣の楓さんを見ると、背中を背もたれに押しつけながら、両目を丸くして、まるで呼吸も忘れてしまったかのように見入っている。トランス状態というならば、さっきの偽催眠術師の拙い口上のシーンなんかよりも、よっぽどこのご挨拶のシーンの方が、彼女を変性意識に誘導することに成功しているように思えてしまった。
大掛かりなご挨拶の導入シーンが終わると、中幕が閉まり、昨日の演目通りに、舞台の前面、中幕の前には、先ほどのカリガリ博士風の老人が、レトロな機械を押す筋肉質なスキンヘッド男を伴って現れる。
「………これこそ、かの高名なフランツ・アントン・メスメル博士の実験の再現。それも、吾輩が彼の機械に大幅に手をかけて作り出した、この動物磁気発生機を使った、磁気催眠の体験会だ」
この偽カリガリ博士の老人が大仰な芝居を打つほど、鼻白んでいく優ではあるが、この動物磁気発生機が起動された時の感覚は、昨日の演劇を思い出させるものだった。そこかしこで聞こえる、電磁波の高音と機械の稼働する重低音。この、いつの間にか自分の両手もあがっていく感覚。隣を見ると、楓さんは大真面目な顔で両腕を上にあげて、驚きの表情をしながら、舞台から一切目を逸らさずにいた。さっきは老人の拙くも大げさな偽物の催眠導入の台詞に対して、まるで同情しながら共感しようとしているように頷いていた楓さんが、今は両腕を棒のように真っ直ぐ、上に挙げながら、驚嘆している。
「これは心地良き快感を生む痺れだ…………」
老人が言った瞬間に、楓さんは「んっ………」とくぐもった息を漏らして、腰をヒクつかせた。その声で昨日の晩のことを思い出して、優の股間も熱くなる。やはり、最初の明確な導入ツールはこの、『動物磁気催眠』の装置なんだろう。…………もちろん、その前の勢揃いでのご挨拶も、観客の心を奪い、非日常的な空間に持っていくことには役立っているはずだ。初回はあの合唱に、全員で絶叫しているような印象を持ったが、2回目に聞いてみると、それぞれの声のハーモニーやタイミングのズレ、反響とループする詠唱が、聞いているこちらをトランス状態に導いていくように精緻な設計がされていることに気づいた。そこから一転してこの、機械の重低音と電気の存在を想像させる音だけで、観客の身体に暗示を掛ける。暗闇の中で密集した観客に集団催眠をかけて、集団ヒステリー的な反応を引き出す。この仕掛けが、被暗示性の高い観客から順に、火が燃え広がるように暗示への反応を拡大させていくのだ。磁気催眠なんて、驚くほど古ぼけたシンプルな仕掛け。けれど暗闇で視覚を制限した場所で堂々と使われると、このシンプルさが逆に有効なのかもしれない。
(仰々しい演出がランダムにぶちこまれているのかと思いきや、意外と理詰めで設計されてるのかも…………。でも、やっぱり最初のカリガリ博士は無駄だし、「催眠」って言っておいて、掛からなかった経験を観客に与えちゃうのって、逆効果だよな………。うーん、一体、どれだけ考えて仕掛けられてるのか、わからん…………。)
優は自分自身、両手を挙げて、「お手上げ」のようなポーズを取る。劇団側の演出の意図と背景をまだ、測りかねていた。そうしているうちに、幕間の磁気催眠の演出は終わり、中幕が開いて次の演目が始まる。ここでのセットの様変わりした様子は、2回目の鑑賞でも驚いてしまった。
美人女優の歌が始まる。優が隣を確認すると、楓さんはすでに心を吸い取られたかのように舞台上の女優さんを見つめて、曲に合わせて肩を揺らしていた。上体もゆっくり左右させている。客席の周囲を見回すと、楓さんと同じような状態で鑑賞している観客が何人もいる。そしてその人たちはみんな、曲が転調した後、舞台上の美人女優に促されると、席から立ちあがって踊りだすのだった。
こうして見ていると、彼女たちは確実に、着実に、催眠状態に導かれて、暗示を重ねて刷り込まれて、客席でのダンスに導かれている。動から静、静から動、と無意識のうちに暗示を受け入れて、反応していくうちに、催眠状態は深まっていく。ここで激しく体を動かすことも、「自分はこの劇中の暗示にここまで操られる」と、観客それぞれの深層意識が認識することで、さらに催眠状態が強固に安定する、ステップなのだろう。
香水がテーマの演目の途中で、またいつの間にか、甘い香りが客席の中に立ちこめてくる。演出の意図を冷静に測ろうとしている優までも、気がつくと舞台の上で起こっていることと、自分のいる客席との境界線がわからなくなるような感覚。こうして劇団は、客席の観客たちの心を手のひらに乗せて掴み取っていくのだろう。
動物使いの女王様が舞台に出てくると、動物に成りきる暗示が掛けられる。客席のあちこちで、鳴き声と、それに反応する笑い声が巻き起こる。すでに劇場内は、舞台の上はもちろん、客席のあらゆる場所が、混沌とした雰囲気になっている。非日常、と劇団は謳っている。確かにそれは、この場所に作り出されていた。
催眠術のトランス深化で言うと、運動を制御する暗示が掛けられて、五感や感情を制御、そして今、動物に成りきるという、人格変化まで暗示が進められている。(理論や流派によって、感覚制御と運動制御の順番が入れ替わったりもするが)実は極めてオーソドックスなステップを踏んで、観客の催眠状態は一歩ずつ深められている、ということだろう。優は、やはり実感した。これは誰かが明確な意図を持って、催眠術を掛けるべくして創作、編集された演劇だ。目の前で、人が変わったかのように四つん這いになって吠えたてている本倉楓さんを見ながら、優は確信していた。
続く演目で、女王様と魔女のような衣装の女性が入れ替わる。
(魔女? …………昨日と違う?)
優はこれまで、2回目の観賞で、劇中に仕込まれた、観客に催眠術を掛けるための仕掛けを再確認、そして発見する、というつもりで観てきた。しかし、純粋に劇を観てみると、昨日の舞台と微妙に演目や内容、演じ方なども変化しているということに、ここで初めて気がついた。
魔女の衣装を着て現れた女性は、世界の魔術に通じている、と自分で誇った。まず彼女は、南海の島に伝来するブードゥー教の秘術を披露する、と宣言して、呪術的な詠唱を始める、これから彼女の命じるままに人間はゾンビに変貌し、周囲の人間に襲い掛かり羽交い絞めにする、と彼女が言うと、優の隣からは早くも、「う゛ぅぅぅぅぅぅ」と楓さんが低く唸り始める声が聞こえた。
客席で催眠に掛かっている人たちは、魔女の命じるままにゾンビのように緩慢で生気の無い動きでヨタヨタしながら、周囲に襲い掛かる。悲鳴というよりも笑い声のような反応が各所で巻き起こる。次に魔女が「ジプシーの魔法で恋に落とす」と宣言すると、さっきまでゾンビに成りきっていた観客たちは、急にロマンチックな恋の虜になって、自分が触れている人に熱烈なキスを始めるのだった。優も、さっきまで彼に? みつこうと唸り声をあげて覆いかぶさってきていた楓さんに、抱き締められて顔中にキスをされ、嬉しいような困ったような、居心地の悪い状況に追い込まれた。
熱狂と興奮の中、いくつか演目が進み、やがて「眠り男風」の痩せぎすの男が幕間の舞台に立つ。後をついてきた女王様役の女優が、渦巻き状の円盤の取り付けられている機械を起動させて、円盤が回り始めると、客席は少しずつ静まっていく。皆の目が、円盤の渦巻き、グルグルと中心へ向かって客席全体を引っ張りこんでいくような動きを見せる渦巻きに惹きつけられていく。その間、痩せぎすの男はじっくりと、客席を観察していた。佐々村優は気がついた。この男だ。
この男こそが、この演劇を取り仕切っている、黒幕のような存在なのだ。彼が設計して、この劇は催眠術の道具そのものとして構築されている。この男は、何か目的があって、この舞台を作り上げ、この街で上演しているのだ。
客席の観客を一人ずつ吟味するように観察している痩せぎすの男。彼が楓さんを見つけ、そして優と目が合った時、その男は引きつった笑みのようなものを顔に浮かべたように思えた。
(舞台にスポットライトが当たっていて、こっちは暗がりだから、向こうからこっちは、ほとんど見えていないはずだよな? …………いや、案外、向こうからも見えてる? ………この距離だと、ちゃんと顔も判別出来るのかもしれない…………。どっちなんだろう………。)
ステージに立つような経験をしたことのない優には、解決できない疑問だった。けれど、直感的には、優はその「眠り男」と目が合って、彼に笑いかけられたと、確かに感じたのだった。
(アイツと話せば………、この劇団のこと、演劇に仕組まれた催眠術の原理、彼らが何をしようとしているのかも、きっとわかるんだろうな………。もしアイツに、本当のことを話す気があるなら………。)
「カリガリ博士」という、ドイツ表現主義の代表作のように言われる古典的映画に出てくる、「眠り男」というキャラクターに自分を模している、背が高く痩せた男。彼が一体どんな男なのか、優にはほとんどヒントがない。けれど彼の、どことなく冷笑的に見える引きつった笑いは、人に興味を持っているようで、どことなく人を受け入れていないようにも見える、不思議な笑みに見えた。
「…………そんなことより今、このパーティーを楽しみましょうよ」
女優の台詞で、優の意識は舞台に引き戻される。気がつくと、幕間の渦巻き回転盤の演出も終わっており、舞台は終幕に近づいていた。つまり、楓さんたちが舞台に呼び込まれる、フィナーレが来る、ということだ。
「貴方たちも、ただ見ているだけでは、つまらないでしょう? ほら、服なんて脱いで、こっちにきて、一緒に踊りましょうっ」
例の、美人女優の一言を契機に、本倉楓さんが立ち上がる。客席のあちこちで、立ち上がった人が服を脱ぎ始めるので、客席は賑やかなことになる。昨日と同じだ。
「楓さん。自分でやってること、わかってる?」
昨日とは違い、すでに知らない仲ではない優は、ウットリとした表情で、体でリズムを取りながら服を脱いでいく楓さんの肘に触れて、彼女に問いかけてみた。
「………うふふっ…………。…………楽しいの………」
楓さんの目は、優を見ているようで全く見ていないようでもあった。陶酔しきっているような笑顔。この状態で何を呼びかけても、彼女とまともな会話にならないことは優にも理解出来た。相当深い催眠状態にあって、彼女がその状態を受け入れ、楽しんでいる。舞台の上にいる役者の誰かに命じられれば、ほとんど何でもしてしまいそうな雰囲気だった。
「みんな、舞台の上までいらっしゃい。一緒に踊るのよ」
女優に言われると、楓さんは真っ直ぐ舞台を見据えて、小さく一言。
「………行かないと………」
そう呟いたあとは、優の方を振り返ることもなく、淡いピンク色の下着上下だけを身に着けた姿で、舞台へ向けて通路を進んでいく。スタイルの良い美人の楓さんが通り過ぎるのを、見上げて何かを言い合っている男性客たち。昨日よりも舞台に近い席にいた楓さんは、あっという間に舞台に上がってしまう。そこで「眠り男」が近づいて何かを囁きかけたような様子だ。楓さんは嬉しそうに頷くと、背中に両腕を回して、舞台の上でブラジャーまで外そうとする。
(………あ………、このままだと………。)
優の腰が浮いて、立ち上がりそうになる。しかし、今から舞台に駆け寄ったとしても、間に合わない。彼がそう思った通り、次の瞬間には楓さんの着けていたブラジャーはカップがめくれ、下にズレていく。彼女の、丸くて形の良いバストと、慎ましい桃色の乳首が、客席を埋める観客たちの目に晒されてしまう。楓さんはウットリと微笑みながら、そのまま手をショーツに伸ばして、スルスルと脱いでいく。優の体の中を、熱い興奮と、身を焦がすようなジェラシーが同時に駆け巡る。彼女の全裸を見たことのある男性は、出来ればこの劇場の中で、佐々村優、ただ一人であって欲しかった。そんな感情に苛まれて、複雑な表情になっているであろう自分に、視線を投げかけている者がいる。生まれたままの姿になって全身でリズムを取っている楓さんの背後になっている、長身で痩せぎすの男だった。
「眠り男」はあくまでも無表情でこちらを一瞥しただけだ。けれど、優はその視線になぜか、挑発的な、あるいは思わせぶりなニュアンスを受け取っていた。観客席の中で、そんなメッセージのようなものを受け取っていたのは、優だけだったようで、他の人たちは男も女も、皆、熱狂的に声を出し、手を叩いて、美女たちのストリップショーを堪能していた。そう、楓さんだけではない。さっき、入場前に「常連客」の列に並んでいた美人、美女、美少女たちはほとんどが、舞台の上に立っていて、「眠り男」が耳元で何か囁くと、従順に、あるいは嬉しそうに頷いて、身につけていていた下着を全て取り去って踊り続ける。美人ОLのゴージャスなバスト、モデル風の女性の見事なクビレとスレンダーな体。若い人妻らしき女性の、見るからに柔らかそうなヒップ。凛とした女子高、どことなく中性的で華奢な体。さらに幼く見える美少女の、膨らみかけの胸。やっと生え揃ったといった様子の淡いアンダーヘア。全てが、舞台の上で、観客に対して晒されている。それを、さっきまで同じ立場で観劇していたはずの女性客までもが、大喜びで囃し立てる。壇上の即席パフォーマーたちに感化されたかのように、客席で脱ぎ始める女性客たちも、あちらこちらに出現していた。劇場の中は興奮と熱狂、そして陶酔が渦を巻いているようだった。その空気は、冷静に分析しようとしていたはずの優までも、矛盾した感情の混濁に酔わしてしまうほど、独特な力強さに満ちたものだった。
赤い光、紫の光、ピンクの光、青白い光。様々なライトに照らされて、踊る彼女たちの裸は様々な顔を見せる。汗に濡れていく肌はスポットライトを浴びるとさらに細かい粒子で光り輝いた。同じ舞台を2度目に観ているはずなのに、優の驚きと困惑は、初めての観劇を超えていた。
。。。
「…………楓さん…………、何してきたか、覚えていますか?」
優は、劇がフィナーレを迎えた後、舞台のすぐ下でスタッフに手渡された黒一色の網かけシースルータイプのランジェリーを身に着け、その上から自分の衣服を拾っては。着込んで、自分の席まで戻ってきた楓さんに、そう問いかけた。
「…………ん…………。あんまり…………わか……らないけど…………。…………うふふ…………。すっごく、楽しくて………、気持ち良くて…………、夢みたいだったことだけ………覚えてる………かな…………。ふふふっ」
楓さんは両目を三日月の形にして、幸せそうな表情をこぼす。その口調と、イってしまったままの目線を見て、優は今の彼女がまだ、冷静な会話には相応しくない、トランス状態にあることを理解する。
(楓さん、劇団にとってはお客様なのに………、好き勝手、操られて、見世物の1つにされちゃってる………。)
そう思うと、腹立たしく思う。けれど同時に、優は自分の股間が硬く起立したままの状態でいることも、認めなければならない。
(………今も、これだけ余韻に浸ってて、ほとんどまだトランス状態、っていうことは、………この後のことを僕に主導権持たせてもらうには、正直、好都合でも、あるんだよな………。悔しいことに………。)
優は彼女を気遣って席へとエスコートする紳士的な男友達を装いながら、他の観客には聞こえないように彼女の耳元で、あえて低めの声で囁きかける。
「楓さん。今、とーっても気持ち良いですね。…………僕と一緒にいると、僕の声を聞いていると、その最高にリラックスした気持ちは持続します。僕が言葉で誘導すれば、いつでも深―い催眠状態に落ちて、最高の気持ち良さ、今以上の気分を味わえる。だから、貴方は今夜も、劇を観た後は僕と一緒の時間を過ごします。僕が案内する場所へ、何の疑問も持たずに素直についていきますよ。………良いですね」
抱きかかえるように彼女を座らせながら呼びかけると、彼女のアゴが優の肩に当たったことで、彼女が無言で頷いた、ということがわかる。優は、客席の観客たちが半分くらい退場するまで、楓さんを席に座らせてしばらく楽にさせ、ゆっくりと意識を取り戻す時間を与えるのと同時に、優が今、入れた暗示が、彼女の深層意識にジックリと染みこませるための時間として活用させてもらうことにした。
ユ~ラ、ユ~ラと状態を小さく左右に揺らす彼女の動きを時々手伝うように、その華奢な肩を押したり引いたりしつつ、ところどころで耳元に囁きかけて、暗示を着実に浸透させていく。10分も経ったところ、劇場全体の客席を見渡すと、3割程度の観客しか、残っていなかった。
楓さんを連れ立って、真っ直ぐ劇場を出て、彼女と2人きりになれる場所へと駆け込もうとしていた優だったが、劇場の中扉の向こう側、ロビーから出口を見渡して、溜息をつく。また物販コーナーでは各種ノベルティの前に列が出来ている。優も楓さんも、「黒いリボン」にスペシャルバージョンが出ていることを知ると、買うしかない、と確信を抱いてしまった。なんと今回は、黒いリボンに2筋の赤いラインが刺繍されている。これは2度目以降の観劇客しか購入出来ない、限定品だそうだ。「2万円」という値段を聞いた時には、驚きで声を上げそうになった優だったが、楓さんはどうしても買うと言ってきかない。優の分も合わせて2人分、楓さんがお金を出す、と言い出すので、そこは男の面子として、せめて自分の分は自分で払う、と言わざるを得なかった。
「チケットのお金も払ったので、…………もうお小遣いがないです………。でも、どうしても、このリボンが欲しいんです………。どうしたら、良いでしょうか?」
凛とした佇まいが印象的だったはずの美少女が、途方に暮れた様子で、物販のスタッフに泣きついている。スキンヘッドの男は、芝居がかった口調で彼女にこう言う。それも、わざと、列に並ぶ他の客たちに聞こえるような声の大きさで、だ。
「…………うーん。学生さんなら、2万円っていう値段は、ちょっと厳しいわな…………それでも、どうしてもその、手の届かない高級リボンが欲しい、っていうなら、オジサンの、こっちのホッペにキスしてくれたら、特別に1万5千円まけておいてやるよ。お嬢ちゃんだけの特別学割サービスだ」
「……………キス………………。…………………ほ、………本当ですか?」
彼女がゴクリと生唾を飲み込んで後ろずさった様子は、列の後方からも、ありありと見て取れた。それでも、その美少女は、しばらく迷ったあとで、意を決して長テーブルに手をついて、背伸びするように体を寄せて、スキンヘッドの筋肉質な男の頬に、そっとキスをしたのだった。
「お姉さんは、社会人なのにお金が足りないっていうんなら…………、へへっ………。じゃぁ、今、お姉さんが穿いてるパンティーと交換だな。
スキンヘッドの男が下卑た笑いを見せる。両肩をすくめてたじろいでいたОLらしい女性も、目の前でお目当てのリボンをブラブラされると、思わずスカートの中に手を入れる。モゾモゾとお尻を左右に振りながら、まずはパンティストッキングを、そして皆の見守っている前で、次は紺色のショーツを下ろして左右の足を抜き取る。恥ずかしそうに、男に、まだ体温が残っているだろうショーツを手渡したОLさんは、かわりに単純な刺繍が入っただけのリボンを受け取ると、それを握りしめて劇場を出て行った。
「アンタも金が足りない? ………じゃぁ、ニワトリの真似でもやってもらおう、上手に出来たら、リボンはサービスだ」
「アンタは、そこの壁に足をかけていいから、30秒、逆立ちな。…………スカートめくれたって、やめちゃ駄目だぜ」
「兄ちゃんは、大道具片づけるのを手伝っていきな」
「アンタらカップルは、客席側と楽屋裏の便所掃除していくなら、金の足りない分は、許してやる」
列に並んでいるけれど、お金は足りない、という客の中で、男性客には何等かの労務を、そして女性客の多くには、何らかのセクハラチックな命令か、特に意味のなさそうな、罰ゲームのような指示を与えていく。列を作っている男女は、驚くほど従順に、失礼な指示に従ってでも、リボンを受け取って帰っていく。そこまでしても、この限定品のリボンが欲しい。絶対に手にして帰らなければならない………。そんな焦燥感を伴うような義務感は、優にもなぜか、手に取るように理解できるものだった。
「さぁ、アンタらはどうするんだ? …………リボンの料金をきっちり持ち合わせてないなら、俺の言うことを聞いてもらわないと、これは渡せないんだが………」
スキンヘッドの男が、優と楓さんに聞く。彼らの番が来たのだ。楓さんは、自分の財布の中を何度も確認して、すがるような目で男を見た。
「クレジットカードとか電子決済は、使えないんでしょうか? 現金はそこまで持ち歩いていなくて…………」
「駄目。現金か、俺の言うことを聞いてもらう」
スキンヘッドの男は本倉楓さんの体を頭から足先まで舐めるように見ながら、ニヤッと好色そうな笑みを浮かべた。
「リピーター用のリボンを2本、現金で買います」
優は胸を張って答えた。思うところがあって、今日の優は、ありったけの現金を財布に入れて持ってきていたのだった。学生の彼にとって、4万円の出費は非常に痛いが、本倉楓さんという美女の前で、良い恰好を見せられるなら、覚悟を決めるべきだと感じていた。
「………へい。毎度あり」
一万円札を4枚、少し残念そうに受け取ったスキンヘッドの男がリボンを優に無造作に投げてくる。それを受け取った後で、優は楓さんを男の名残惜しそうな視線から遮るようにして、彼女の肩に手をかけて物販ブースを後にする。そのまま、彼女の肩をギュッと抱いて劇場を出る。声を1オクターブほど低くして、彼女の頭の周りからサラウンドで響くようなイメージで語り掛ける。
「楓さんは僕の案内に全部委ねる。僕に任せておけば、劇を観た時の興奮と夢見心地の気分がずっと続きます。…………さぁ、行きましょう」
「………あ………………あの……………、………………はい…………。お願い……………します」
彼女の口調から、また楓さんが催眠状態に入っていることがわかる。彼の調子が良い時、そして楓さんの受け入れ態勢が出来上がっている時、優は声の高低と口調をスイッチさせるだけで、楓さんを催眠状態に引き戻すことが出来るようになっていることを確信した。
「楓さん、3つ数えると貴方の体は磁石のように、僕の体に引き寄せられていく。抵抗する気持ちも無くなる。僕の体とくっつくと、貴方はとても安心します。ほら、3、2、1」
優が彼女の耳元で囁くと、ほとんど何の抵抗も見せずに、楓さんは自分の体を優に寄せてきて、ギューッと密着させる。彼女の体温が服を通して伝わってくる。劇場を出て歩く2人は、またもとても深い仲のカップルのように見えているだろう。彼女の体の柔らかさ、特にバストの膨らみの横側を押しつけられている部分に神経を集中させながら、ふと彼女の綺麗な横顔を覗き込んでみると、本倉楓さんは、満ち足りたような穏やかな笑顔になっている。そのリラックスしきった表情は、優の自信を深めてくれる。
本当だったら、今夜、彼女を連れて、高級で豪華なホテルに行きたいと思い、大金を財布に仕込んできた優だったが、残金が寂しくなってきたこともあり、安めのラブホテルを探すことにした。劇場からそれほど離れていない歓楽街の裏通りに、ピンクのネオンがなければ、簡素なビジネスホテルかと思うような、シンプルで小さなラブホテルを見つけて、そこに入ることにする。受付で料金体系について簡単な説明を受けて、渡された鍵の番号を確かめながら部屋に入った。思った以上にシンプルで、ビジネスホテルというか、洋式の商人宿のような内装の部屋を確認して、優は、拍子抜けしたような、あるいはホッとしたような気持になる。ラブホテルというと、漫画や成人向動画に出てくるような、回転ベッドや天井鏡がある、けばけばしく、仰々しい部屋に案内されたら、使いこなせないだろうと、密かに緊張していたのだ。
「楓さん、ここで貴方は、シャワーを浴びるために、来ているものを全部脱ぎます。さっきは劇を観ることに熱中して、汗もかいていますよね? スッキリするためにシャワーを浴びるのは、当たり前です。貴方の思うこと、覚えていることは、全て僕の言葉の通りになります」
そう伝えたところで、楓さんはもう、自分の服に手をかけている。優の言葉に耳をすましながらも、スルスルと服を脱いでいくのだった。
「ここでシャワーを浴びる時も、少し、いつもとは違った形になります。どこが違うかと言うと、ここでは楓さんは、僕と一緒にシャワーを浴びるんです。自分の体を洗うんではありません。お互いの体を洗い合う。それは、貴方が僕、佐々村優に、自分からお願いしたことですから、きちんと実行しなければならないんです。僕が3つ数えると、貴方は普段の意識を一旦は取り戻しますが、僕が指示するといつでもまた、深い催眠状態に戻ります。そして、一見、普段の意識に戻っていると思っていても、僕が伝える言葉は、貴方にとって、真実の言葉になります。貴方の考えや気持ち、記憶は、僕の言葉の通りに変化するんです。僕の暗示を入れる声は、貴方の普段の意識では聞き取ることは出来ないけれど、もっと深い、貴方の本質を形作る深層意識ではしっかりと受け止めて、その暗示を本当と信じるんです。わかりましたね…………。じゃ、いったん、目を覚ましましょう。3、………2………、1………」
モヤのかかっているようだった楓さんの目が、しだいにハッキリとした目つきに変わる。そして彼女は下着姿になっている自分の体を見て、ハッと両肩をすくめた。左右の腕で、自分の胸元を隠そうとするような動きを見せる。
「あの………、楓さん、恥ずかしがっていたら、貴方が言っていた、一緒にお風呂に入るって、いつまでたっても、出来ませんよね………。僕は別に、無理に、とは言わないんですが……」
優が彼女の意識の状態を確かめるように言うと、楓さんは、困ったように両目をしばたかせる。
「いえ………あの………、お願いします。…………ごめんなさい………。私、自分から言っておいて、こんな………、モタモタして………」
顔をまだ赤くさせたまま、楓さんが両腕を下ろし、背中に回すと、ブラのホックを外す。ブラジャーを外したあとは、ショーツにも手を掛ける。優の視線を感じながら、白い肌をポッと紅潮させて、楓さんは完全に無防備な、裸になる。彼女の全裸を見るのは、すでに3度目だろうか? しかし、夜の公園の暗がりや、客席から他人の目を気にしつつ見るのとは違う。明るい室内で、彼女の美しいプロポーションを独り占め出来るのは、これまでとは別格の贅沢だった。
そして今回、楓さんは優の暗示に縛られつつも、自分の意識で自分のしていることをきちんと認識している。その恥ずかしそうな困惑は、優の悪戯心、というよりもサディスティックな欲望を掻き立てるのだった。
「楓さん、確か貴方は僕とお互いの体を洗いあっこしたい、って言ってましたよね? ………じゃ、僕が服を脱ぐのも、手伝ってもらえますか? ………自分から言い出したんだから、それが普通のマナーですよね?」
「は…………はい。ごめんなさい。あの……私ったら………、当たり前のことが、ちゃんと出来ていなくって、…………シャツ、脱がさせてもらいますね」
楓さんが優の厚手のシャツの裾をもち、丁寧にもちあげていく。優は両腕を挙げておくだけで、シャツを脱ぐことが出来た。
「ベルト………。外します」
全裸の彼女が膝を床につけて、甲斐甲斐しくベルトを外そうとする。前から向かい合っての作業に多少手こずりながら、バックルを外し、ベルトをズボンから抜き取っていく。
「パンツを………降ろしますね」
一手間ごとに、彼女の手によって、優の下半身が脱がされていく。優はわざと楓さんに、意地悪な質問を投げかけてみる。
「楓さんって、よくこうやって、男の人に、一緒にお風呂に入ろう、って誘ったりするんですか?」
「全然そんなことっ………。これが、本当に初めてなんです。私が自分からこういうこと………。今でも、自分のお願いじゃないみたい………。本当に、私、どうかしてたんです………」
楓さんが懸命に言い訳をする。優の前に跪いて、全裸で彼を見上げながら、必死で釈明しようとしながらも、その手は優のズボンを下ろしていく。その姿を見ていると、優は征服欲のようなものが大いに充足されていくのを感じることが出来る。声色と音程を変えて、彼は暗示を入れてみる。
『楓さん、貴方は僕のトランクスを下ろした瞬間、さっき道を歩いている時みたいに、強力な磁力で引き寄せられる。貴方の顔は僕の股間から密着して離れない。自分でもどうしてそうなるのか、説明は出来ない。けれどそのことを、佐々村優に怪しまれてはいけませんよ。』
一瞬だけ、彼女の視線が遠くなって、表情がボーっと夢見心地になったような気がするけれど、優が喋り終えて2秒もすると、また彼女は優の服を脱がせる作業に戻る。そしてトランクスに手をかけて引き下ろした瞬間に、その表情に困惑の色が広がった。
「……え? ………やだ…………。キャッ…………ごめんなさいっ」
抵抗しようとした彼女だったけれど、上体をどんどん優の下半身に近づけてきた。そのまま密着する瞬間、顔をそむけようとしたせいで、顔の横側、頬っぺたからこめかみまでを、優の股間にピッタリとくっつけた。。
「どうしたんですか?」
「あの、大丈夫。………何でもないの………。その、磁力が…………いえ………、ちょっと疲れたのかしら………。でも、大丈夫です。気にしないで」
楓さんが今、どんな表情で言い訳しているのか、優から見下ろすことは出来ないが、彼女の恥ずかしそうな困り顔を想像するだけで、モノが大きく固くなっていく。
『楓さんの横顔よりも、唇が、そして舌先が、佐々村優のおチンチンに、特に強い磁力で引っ張られている。その磁力はどんどん強くなっていく。とても抵抗なんて出来ない。』
「んんっ……………。ムーーゥウッ………。ほへんははいっ」
多分、「ごめんなさい」と言いたいのだろう楓さんはすでにそのプルプルとした唇とその間から伸ばされた舌先を優のペニスの裏筋あたりに密着させてしまっていて、ほとんど話をすることが出来なくなっていた。
「あのぉ、楓さん、そういうことも、お風呂入ってからの方が、良いんじゃないですか?」
優が上から声をかけると、楓さんは舌先と上下の唇を優のモノの裏筋にくっつけたまま、困り果てた視線で、助けを求めるように優を見上げる。
『磁力が無くなって、楓さんの体は自由になる。けれど佐々村優に対して引け目は感じる。今日は彼の体を自分の力で綺麗にしてあげなければ、気が済まない。そして、自分の体は彼の自由にさせてあげないと、これまでの失礼を挽回出来ない。貴方は強くそう思う。』
優が楓さんの頭を撫でながら、そう囁きかけると、楓さんはおずおずと自分の口を、優のおチンチンから離していく。そしておずおずと立ち上がって、裸のまま、気をつけの姿勢をとった。
「佐々村さん………。今日は、本当に私、どうかしていました。急に失礼なことばかり、なんとお詫びしていいのか、わかりません………。あの、せめて、約束通り一緒にお風呂に入る時、貴方の体を、お風呂で精一杯、綺麗にしてあげたいと思うんです………。お付き合い頂けますか?」
楓さんは俯き加減の顔を時々上げて、優の目を見ながら、真剣にお詫びとお願いをしてくる。その、彼女の言う「失礼な行為」も、「約束」も、彼女の考えている「お詫びのしるし」も、全て優が、思いつくままに彼女に押しつけたものだ。それを彼女は自分の中から出てきているものだと信じ切って、深刻に受け止めてくれている。その様子が、優の万能感を高めてくれる。優は表面上は楓さんの話を真面目に聞いているように見せているが、内心では笑いを? み殺すのに精一杯だった。そして彼女の前で裸になった今、股間のいきり立っている様子は、隠しようもなくなっていた。
生真面目な楓さんに引率されて、優は彼女と一緒に、バスルームに入る。若い男女が裸で、ラブホテルの浴室に入るにしては、ずいぶんと厳粛な雰囲気になっているが、これも楓さんが発している、反省の気持ちや義務感、そしてこれから自分がしなければならないことを思っての緊張感から来るものだろう。優も、表向きは彼女の態度に合わせるようにして、浴槽の前に立つ。彼女は最初にバスタブの蛇口を捻ってお湯を入れ始め、次にシャワーのお湯の温度を調整し始める。片膝をついて作業している彼女の裸を、直接に、そして鏡に映った部分を間接的に、両面から楽しむことが出来る角度だった。
「確か、楓さんの、異性とお風呂に入る時のマイルールをさっき教えてくれましたよね。お互い、自分の体は洗っては駄目で、相手に洗ってもらう。相手の体の部分ごとに、綺麗に洗えたと思ったら、その場所にキスをして証明してみせる。恋人にしたい人しか、お風呂には誘わない。そして誘った以上は、どこをどう触られても、拒んだりしない。このあたりが、楓さんにとって絶対のルールなんでしたっけ?」
ハッと息を飲んだあと、モジモジしながら、迷うようにチラチラと優の方を見る楓さんの顔はさらに赤くなっていく。そして、ゆっくりと、まるで自分に言い聞かせるように、頷いた。
「………はい。…………変な…………こだわりですよね…………。私も、…………どうしてかわからないけれど、急に思いついちゃったんです。だから、こうするのも、佐々村さんが初めてなんですよ………。でも…………、はい。自分としては………、これは、絶対なんです……。どうしても」
彼女は何度も頷きながら答えているうちに、目力が増してくる。心底、それが自分で自分に定めた絶対のルールなんだと、信じ切っている様子だ。
「今のルールの通りだと、楓さんにお風呂に誘ってもらった僕は、正式に恋人にしたいと、アプローチされている、っていうことですよね?」
「………え? …………あの…………それは…………、実は、それについては………まだ……」
「ここ、洗ってもらっても良いですか?」
躊躇いを見せ始めた彼女の言葉を遮るように、右手を伸ばしてみる優。
「あっ………はいっ」
慌てて体を寄せてきた楓さんが、優の肘から指先までを、両手で丹念に洗い始める。ボディソープを泡立てて、指の又や手首の内側外側を満遍なく洗った後で、シャワーのお湯をかける。そして、全ての泡が洗い流されたのを、顔を近づけて真剣に確認した楓さんは、両目を閉じながらさらに顔を寄せると、「チュッ」と音を立てて、優の手の甲にキスをした。優が満足そうに胸を張って見せると、楓さんは両手で彼の胸を洗い始める。泡立った手のひらで優しく胸を擦ってもらう感触はゾクゾクする。やがて温かいシャワーのお湯が泡を流し、そのあとで、楓さんのキスが来る。
(色々、思いつきで暗示を擦りこんじゃってるから、よく考えると、この方法は体を洗うには効率悪いな。さっき洗った部分にも、泡が飛び散っちゃうから、何回もやり直しが出てくる………。でも、エッチの前の前戯としては、このもどかしいところも良いかも………。)
背中を流してもらうのは、特別に良い気分だった。そして、そのあと、お尻を洗ってもらった時には、優は最後に、あえてお尻を突き出して、鏡の前で自分たちの格好を見る。少し困った顔をしながらも、四つん這いになって、優のお尻の膨らみの頂点あたりにキスをする楓さん。清楚な社会人女性のそんな姿に、優の興奮は最高潮に近づく。
「じゃ、次は前をお願いね」
優が言いながら振り返ると、完全に勃起している彼のモノを見て、膝立ちで後ずさりした楓さんだったけれど、数秒の戸惑いのあと、唾を飲み込むようにして頷く。そしてゆっくりと両手を添えると、彼のペニスを擦って洗い始める。はじめは濡れた手で数回擦りあげ、次に手のひらに泡の山を作って、泡で洗うように優しく彼のモノを両手で包み込む。何往復か、棒状の部分を擦ったあと、その複雑な形状を指先で確かめるようにして、汚れを残さないように、懸命に洗う。その真剣な表情を見ていると、いきり立っている優の気持ちが、温かくほぐれていくような気分にもなる。弱めの水流のシャワーで優しく泡を流した後、確認を終えた楓さんは、亀頭にすぼめた唇を寄せると、「チュッ」とキス。彼女の唇が優のおチンチンに触れるのは、これで2回目だった。
「今度は僕が洗ってあげるよ」
「………え? ………あの、………それはやっぱり……」
『楓さん、きをつけ。』
「………あれ? ………」
優が声色を変えて呼びかけると、楓さんはピシッと直立する。そして自分がどうしてその体勢になっているのか、不思議そうにキョロキョロしている。そんな全裸の美女の、形の良い見事なバストに手を伸ばして、無遠慮にムギュッと揉む。
「……んっ……」
「きをつけ」の姿勢のまま、楓さんが両肩をすくめた。
『佐々村優に触られると、楓さんの体は気持ち良くなる。肌が敏感になって性感帯がもっと研ぎ澄まされて、心の中は興奮してエッチな気持ちがあふれ出す。』
暗示を注ぎ込みながら、優は両手で楓さんの両方のオッパイを円を描くように揉む。楓さんが仰け反るように体をくねらせて反応した。
「んんんっ……………」
『楓さんは自分の反応を抑えることが出来なくなる。いやらしい自分の、発情した姿を、隠せずに、全部出してしまう。』
「ふぁあっ…………。あああんっ…………私………、………………変っ………」
乳首を摘ままれると、まるで感電したかのようにビクンと体を波うたせる。下半身は内腿を擦り合わせるような仕草をしながら、上半身をユラユラとくねらせて、優に体を弄られるままに悶え、喘ぐ。目は泣いたあとのように赤く潤んで、鼻からすすり泣くような声を出す。呼吸は荒くなって、息を吸ったり吐いたりするたびに、美乳がプルプルと揺れる。桜色に染まる白い肌を、優がボディソープの泡とシャワーのお湯とで洗い流しながら、勝手気ままに弄り、撫でまわし、舐め回す。それを全て受け入れながら、楓さんは、はしたない喘ぎ声をバスルームに響かせる。
「ふぁあああんっ………。気持ち良い………。私、こんなに………、こんなに感じたこと、ないっ………。変になっちゃうっ…………ぁあああんっ………」
半分くらいお湯のたまったバスタブに2人で入って、優はヘビーなペッティングを続ける。お湯の中で彼女の体を回転させて、お尻を握ったり、背中を舐めたり、また仰向けにさせて執拗にオッパイを揉み続けたりと、彼女の体を自由にする。楓さんはそれがどんなに気持ちいいか、自分が今、どれくらい興奮しているかを、躊躇うことなく口にしてしまう。
「乳首が…………固くなりすぎて、イタ気持ち良い………。アンッ………アンンッ………。普通だったら、私、乱暴なの、痛いのとか………嫌なのに………。今は、もっとイジメて欲しいの…………。こんなことも…………言いたくない………恥ずかしいのに…………、口を、止められないの…………。んんん…………気持ち良すぎて………溶けちゃいそうっ」
彼女がのたうち回って悶えるたびに、体の一部が水面から浮き上がる。その女性らしい曲線と白い肌を強調するように、お湯が一瞬、膜を作っては滑り落ちていく。その様子はとても艶めかしいものだった。
「力抜いて………。脚を上げるよ。……頭が沈まないように、背中は突っ張る感じで……」
楓さんの両足をバスタブの縁に載せて、腰を突き上げるような体勢をとらせる。向かい合って浴槽に座っている優の顔のすぐ前で、股間を全開に広げるようなポーズだ。
「………こんな…………駄目…………。どうして? ……………見られてるのも…………、恥ずかしいけど、ドキドキする………。私、どんどん、ヤラシくなっちゃう………」
優の暗示に従順に反応して、楓さんはどんなポーズをとらせても、されるがままになっている。それどころか、興奮している自分の内面を、赤裸々に教えてくれる。清純で真面目な美人の大胆で過激な大開脚。目の前で曝け出されているピンク色の粘膜と性器を、優は気が済むまで観察して、弄り回すことが出来る。その、非現実的なほどプレミアムな身分を、この際だから、とことん満喫してやることにした。
「楓さんのアソコ、もうクパって、開いてるよ。周りのビラビラも赤く火照ってて、凄くエッチな感じ………。いつも、こうなの?」
「違っ………、今は、…………今だけ………、特別なの………」
楓さんは視線を逸らしながら、恥ずかしそうに答える。
「僕に体を見られて、触られると、凄く興奮するみたいだね………。そんなに僕のこと、好きになってくれたの?」
膣の入り口を指でこねくりながら、質問する。楓さんはビビッドに反応してくれる。
「ああんっ…………。そこ…………気持ち……………イイッ………。………す……好きですっ……」
聞きたかった言葉が聞けた優は、笑みを噛み殺しきれなくなる。膣口を弄る手を右手から左手に換えた優は、右手の指先で楓さんのクリトリスを突き始める。ポテッと赤く腫れながら固く起立しているクリトリスを優が弄り始めると、彼女の声はさらに甲高くなり、楓さんはほとんどブリッジのようなポーズになっていた。
「イクッ……………もう…………イッちゃうぅうううっ」
クリトリスとヴァギナの両方を左右の手でクチュクチュと弄ると、すぐに楓さんがよがり泣く。濡れた髪を振り乱して顔を左右にブンブン振り回しながら、エクスタシーに達しそうなことを、必死で優に伝えてくる。優は慌てて手を止めた。お風呂で果てさせてしまっては、楓さんとの夜を十二分に楽しむには、もったいないと思えたのだ。
「そろそろ、お風呂でイチャつくのは、充分かな? …………楓さん、ベッドに行って、もっと気持ち良く、爆発するみたいにイってみたい?」
手を止めた優は、経験豊富な年上男性のように余裕綽々の質問をする。実際には女性との経験は数えるほどしかないが、彼には今、催眠術という強力無比な武器があった。彼女を不自然な体勢から、解放してあげつつ、反応を伺う。
「…………私……………はぁ………………ん…………、自分が…………、こんなに…………エッチなこと……………んんっ、……………欲しがってるなんて…………、知らなかった……」
楓さんは、オルガスム寸前まで導かれた余韻で、まだ時々、体を小刻みに震わせながら、不思議そうに優の顔を見据えていた。
<第4話につづく>

読ませていただきましたでよ~。
あー、楓さんが素晴らしい。
エロエロで被暗示性が高くて従順で思うがままに操られるさまが最高でぅ。
しかし、劇団ヒュプノの実態が見えないことがかなり気になりますでよ。
眠り男風の人が全部設計してるとしてどんな目的でやってるのか、優君が相乗りして催眠かけてるのに気づいているのか、物販で下っ端がやんちゃしてるのを気づいているのか、どこまで把握してるのか把握してて放置してるのか、思惑が見えないのは怖いところでぅ。
なんか他の人よりかは浅いものの優君もヒュプノの催眠にある程度かかってるのを優君自身は気づいてなさそうなのも、最終的にNTRになりそうな雰囲気を感じてしまうのでぅ。
どうでもいいことなのでぅが、最近ちょっと思い浮かんだ設定に磁石の力がありまして。
磁石で引き寄せられたり、磁気でメスメリズムとか・・・被ったw
まあ、すぐに書き上げるわけでもないのでぅけど、「あ゛ー!?」ってなってしまったのでぅw
なんてアホなことは置いといて、次回も楽しみにしていますでよ~。
であ