神様のアドレス帳 後編

後編

(思った以上の効果だ。これは・・・、いよいよ本当に、神様のアドレス帳なんじゃないか?)

 今朝から徐々にメールの効果を確かめてはいるつもりでも、生駒さんは中條課長の変貌振りにはひっくり返ってしまった。
 今、生駒さんは人目を避けて、さっきの405会議室に引きこもっている。
 実は他にも試してみたいことがあるのだ。

 昼休み明けに突然総務部に現れたのは、なぜかメイド服に身を包んで、嬉しそうにコーヒーを載せたお盆を片手に生駒課長補佐を訪ねてきた、営業2部の中條課長。
 つい先日、新設備導入の件で怒鳴り込んできた剣幕とは打って変わっての
 媚の売りっぷりには、総務部も騒然となってしまった。
 ひそかに中條課長のファンだった市橋さんなどは、大きなショックを受けていたみたいだ。
(もっとも、その時の市橋さんの肌の露出っぷりもなかなかショッキングではあったが・・・)

 社内展開用のメールを打てば、騒ぎの沈静化も簡単に行えることを発見していた生駒課長補佐。
 慌てずみんなを落ち着かせて、この会議室に移動してきた。
 今、生駒さんは会議室の椅子に座って、総務部管理の小型PC(正式名は覚えられなかった)を試している。

 その生駒さんの足元には、嬉々として生駒さんの靴磨きをしている、中條課長。
 コーヒーはおいしく頂いたので、もう結構ですと言っているのに、他にも何か生駒さんのためになることがしたいと言って聞かない様子。
 ほとんど四つん這いになって靴磨きに熱中する課長の、突き出したお尻は短いワンピースからすっかりはみ出して、下着を丸見えにしてしまっている。
 かがんだ姿勢のために、スクエアネックの胸元からは、豊かなバストの谷間が覗いている。

 ピッ

 生駒さんが小型PCのリターンキーを、ペン型の操作棒で押すと、中條さんが突然、立ち上がって「気をつけ」の姿勢になる。

「あれ? 中條課長、どうされたんですか?」

「は・・・、はい。なんでしょう?旦那様のお靴を磨いていた途中だったのに、体が急に、立ち上がってしまいました。」

 携帯電話をつないだ小型PC。
 なんとか説明書通りに、ここからもメールを打つことが出来るようだ。

(よかった。どうも席のパソコンと比べると少しメールが届くまでに時間がかかるような気がするが、それでもなんとか、こうやって席を離れたところからも、会社の皆さんにメールを打てるようになった。)

 市橋さんによれば、どうも小型PCなんて使わなくても、携帯だけでメールは打てるらしいが、生駒さんには、保存した神様のアドレス帳を一度に携帯に記憶させる方法もわからなければ、キーボードも使わずにメールの文面をスムーズに打ち込む自信もない。
 自分の席にいる時以外は、この小型PCを使って会社の皆さんにメールを打たせてもらうことにした。

 ピッ

「あ・・・、あれ? わたくし・・・、やだっ、なんで?」

 急にバンザイをした中條さんが、その場でゆっくり回転した。
 本当は中條さんはこんなことはしたくないのに、体が勝手に動いてしまう。

(今朝から色々と試してきたおかげで、色々とわかってきたぞ。お願いや指示をする文面以外にも、タイトルに「極秘」、「緊急案件」、「依頼事項」、「ご確認メール」などと入れるだけで、相手の反応にも違いが出てくるようだ。相手の考えを変えたり、気持ちを動かすだけじゃなくて、あることが当たり前のように感じさせたり、気づかないうちに行動をさせたり、こうやって体だけを操ることだって出来る。メールって色々なことが出来るもんだな。)

 ピッ

 小型PCが音を立てると、中條さんはやっと回転を止めて、手を下ろすことが出来た。
 それでも中條さんはなにか、落ち着かない様子だ。
 潤んだ目で、生駒さんをチラチラと見ながら、はにかみ始める。

「おや? 中條課長、どうかされました?」

「わたくし・・・、旦那様と、セッ・・。いえ、なんでもございません。」

 中條課長は俯いて、唇を噛む。両手で顔を隠して、だだをこねるように首を左右に振る姿は乙女のようだ。

(いつもと正反対の性格に変わってもらったつもりだったんだが、案外、こちらのキャラクターも板についてきているな・・・。この人の本質は意外とこんなところなのかも知れない、なんてな。)

「課長。メイドさんになりきっているからって、遠慮する必要はないんですよ。今日は私の言うことをなんでも聞きたいって仰ってましたよね? お願いです。今のご自分の気持ちを正直に教えて下さい。」

「はいっ・・。あの・・、わたくし、あの、・・旦那様と、出来れば今ここで、結ばれたいんです。勤務時間内に、神聖な職場で、激しいセックスがしたいんです。あぁっ、もうっ! なんでこんなこと・・・。」

「そう言えば、仕事中の雇用主を、体を張って慰めるのが、優秀なメイドの務めと聞いたこともあったような気がしますね。」

 急に中條さんの表情が明るくなる。身を乗り出して、生駒さんに申し出る。

「そ、そうです! わたくしは、駄目な子ですが、旦那様のために優秀なメイドになりたいんですっ。魅力が少ない体ですが、どうかお仕事でお疲れの旦那様のために、お役立て下さいっ!」

 小型PCからのメール送信に続けて、もう一つ確認しておきたかった実験が、よい結果を出せた。
 いちいちメールを送信することが大変な場合は、「貴方の前にいる、生駒洋介の口から出た言葉は、このメールと同様に全て信用して下さい。彼の言葉と対立するような常識や感情は、一時的に忘れて、彼の言葉を受け入れてください。」と書いて一旦送信すれば、当面はメール作成の手間を省くことが出来るようだ。

 期待通りの結果を得て、嬉しそうに一旦小型PCを閉じていると、その間に中條課長は、なんの疑問も持たずにメイド服を脱ぎ捨てていき、ほとんど裸になってしまった。

「旦那様、りょ・・・、諒子の裸をご覧下さい。」

 紅潮した顔で社内トップの美人キャリアウーマンが、自信なさそうに生駒さんに微笑みかける。
 体にはカチューシャと、膝まである靴下しか身に着けていない、中條課長の裸だ。
 32歳のはずの中條さんの体は、20代前半と言っても通用するようなハリがある。
 ストイックな生活習慣からか、無駄な贅肉が少なくて、モデルのような体型。
 胸はふくよかで、薄い肌色の乳輪がぷっくりと浮き上がっている。
 下の毛は量は少ないが、健康的な黒々とした茂みになっている。
 下の方に生駒さんが目をやると、中條さんはとうとう耐え切れなくなって、両手で股間を隠してしまう。

「ぁあっ、ごめんなさい。恥かしいですっ!」

 まるで、初めて男性に抱かれる処女のようにウブな反応を見せる中條さん。
 いつもの、男たちを顎で使う鬼課長のイメージとのギャップに、生駒さんはいっそう自分の股間が熱くなるのを感じていた。

「課長。ご主人様に抱いてもらおうというのに、ちゃんとその前にどんな裸か調べてもらおうとしないようなメイドさんは、とても悪いメイドさんですよ。捨てられてしまったらどうしましょうかね?」

「ひっ・・・お許しくださいっ!諒子を捨てないで下さい、旦那様。こちらが、諒子のアソコですっ、どうぞご確認願いますっ!」

 必死になって、生駒さんの許しを乞う中條さん。
 今まで両手で覆っていた大事なところを、急に大股開いて、両手で左右に引っ張ると、生駒さんの目の前で剥き出しにしてしまった。

 薄い小豆色になっている生駒さんのアソコ。
 ビラビラが少し厚めで、生駒さんが顔を近づけると、ムッと女性の匂いが立ち込めた。
 すっかり興奮してしまった生駒さんは、中條さんを会議室のテーブルの上に寝かせると、ベルトを外しながら、思いきり中條さんの上にのしかかった。

 これまで溜まっていたものをぶちまけるかのように、強引にせめていく生駒さん。中條さんは苦しみながらも、全部受け入れようと必死でついてくる。
 テクニックはないが思い入れたっぷりのキスを生駒さんが始めると、中條さんも舌を絡めて受け止める。唇と唇の間に一瞬出来た隙間から、二人の唾液の混ざり合ったものが流れ出て、中條さんの頬を伝っていく。
 生駒さんがおぼつかない手つきで胸を揉んでいくと、指が乳首に触れるたびに、中條さんはくぐもった喘ぎ声を小さく上げて感じいる。

 扉の向こう側では、総務部の同僚たちが、いつも通りに仕事をしている。
 隣の部屋では、別の打ち合わせをしているかもしれない。
 本当は今、小型PCからみんながこの部屋の物音を気にしないようにメールを打つべきだとわかっている。
 それなのに生駒さんは、悶える中條さんの乱れた姿から一時も意識を離すことが出来ないでいた。

(ついこの間、私を無能だ、お荷物だとののしった、この切れ者の課長さんが、神聖な職場で裸になって、よがり狂っている。信じられない。)

 生駒さんが焦る気を抑えつつ、いきり立ったモノを中條さんの割れ目に入れていくと、熱と湿度を持った中條さんの内部が、少しずつ生駒さんを迎え入れた。
 中條さんは恥も外聞も捨てきったように、両足で生駒さんの腰を抱え込む。

(これが美形で仕事が出来て高慢な、中條諒子の中だ。打ち合わせテーブルの上で、乳を揉まれたら涎垂らして喜んで、私のモノを入れられたら、両足で絡みついてきて離さない。私を見下していた年下の課長の、本性はこれなんだ!)

 打ち合わせテーブルの足がキィキィと悲鳴を上げる。
 さっきまで外へ漏れる音を気にしていたはずの中條さんは、今はもう、まるで全てどうでもよくなってしまったかのように、生駒さんが腰を突きたてるたびに、あられもないよがり声を立てていた。
 体が汗で滑って、ピストンのたびにブブブッと音をたてながら、打ち合わせテーブルの上を移動する。
 こんなハードな絡みは、生駒さんにとっても中條さんにとっても初めてのものだ。

「い、イきますよ。課長。46歳、課長補差の私が、エリート社員の貴方に、中で出してしまって、いいんですね。」

「旦那様の・・・、旦那様のエキスが欲しいです。全部、諒子の中に出しちゃって下さいーぃぃっ!」

「む・・、むむっ・・。ふぅー。」

「あ・・、ウンッ、あんっ。」

 生駒さんが達したのと同時に、中條さんもイってしまったらしい。
 生駒さんがゆっくり机から降りると、会議室の中には、汗の匂いと、それ以外のネットリした匂いが充満していた。

「中條課長。お疲れ様です。とっても素晴らしいメイドさんのお仕事ぶりでしたよ。」

「はぁぁ、嬉しいですぅぅ。これからも頑張りますー。」

 打ち合わせテーブルの上に大の字に寝転がったまま、体を起こすことも出来ずに、ボンヤリと天井を見ている中條さん。
 外れてしまったカチューシャを思い出したように頭につけなおす以外は、身だしなみを直すことにはまだ気が全くまわっていないようだ。
 無造作に左右に投げ出された両足の間から、生駒さんの白い液体がトロトロと流れ出している。
 そんな格好もまったく気にならないように、上を見ながら幸せそうに微笑んでいる中條さんの姿は、まさに昇天という言葉がよく当てはまっていた。

 。。。

「本当に今日の中條課長には、びっくりしましたね。急にあんな格好で、コーヒー持ってくるんですもん。なんだったんでしょうね。」

 市橋さんがため息をつく。他の人には、あのことは忘れてもらったのだが、今、市橋さんと話す話題が無くなってしまうとマズいので、彼女にだけは、今日の昼の出来事を覚えておいてもらっている。

「さー。営業の人たちの、罰ゲームとか、ドッキリとか、何かの趣向だったんじゃないですか?」

 生駒さんは、隣に寝そべる市橋さんの髪を、そっと撫でた。

「そっか、そうですよね。あの中條課長が、よりによって、生駒課長補に本気でお詫びになんて、変ですよね・・・。課長補、どうします?もう一回、大丈夫です?」

 シーツの中で寝返りをうった市橋さんが、生駒さんの胸元に、優しく口づけをする。

「もう一回・・、多分大丈夫ですよ。ただ市橋さん、お腹減ってませんか? 遅ればせながら、もしお腹が空いていましたらお食事でもおごりますが。」

 ギューッ
 市橋さんが突然、生駒さんの一物をキツく握る。

「ちょっと、課長補。冗談はやめてもらえます? ラブホテルぐらいは、仕事の延長だと思ってお付き合いしますけど、調子にのって、このまま食事だなんて・・、それって完全セクハラですよっ!」

「アータタッ。わかりました。そうでした。ラブホテルは、仕事の延長なんでしたよね。」

 反省している様子の課長補佐を見て、市橋さんはまた、生駒さんの体を
 愛撫し始める。一見堅物に見える市橋さんも、社会人としてのキャリアは長い。
 特に他に予定でもない限り、上司にラブホテルに誘われたら、素直にお付き合いをするぐらいの社交性はあるのだ。

(仕事終わりのセックスぐらいは、職場の人間関係をスムーズにするのにも大切なこと。でも、そこで勘違いしちゃったりして、レストランとか誘おうとするなんて、冗談にしても不愉快だわ。課長補はあくまで、セックスまでの人だって、はっきりわかっておいてもらわないと・・・。もー、オジサンたちは世話が焼けるなぁ。)

 市橋さんは小さくため息をつきながら、生駒さんの上に乗っかる。
 シーツの中から裸の体を出して、生駒さんのモノの上に、ゆっくりと跨ると、腰を緩やかに上下し始めた。
 仰向けになっている生駒さんからは、天井の鏡に映った、二人の姿が見える。
 大きくて丸いベッドの中で、騎乗位でお互いの性器を擦り合わせている、上司と部下。
 昨日までは全く想像も出来なかった、仕事終わりの息抜きだ。

(これまで、一緒に食事をしたこともないのに。会社から、ラブホテルに直行とは・・・。いや、これ以上、食事のことを言うと、市橋さんは本気で怒りそうだから、やめておこう。市橋さん、中條課長ほど情熱的なセックスじゃないけど、なかなかキメの細かいサービスをしてくれるな・・・。今後とも時々、よろしくお願いします。)

 。。。

 コンコン。

「どうぞ。」

 工藤さんが405会議室の扉を開けると、中には生駒課長補佐が総務部管理のデジタルカメラを準備して待っていた。

「あの、課長補、社員証と名簿用の写真撮るのって、この部屋ですか?」

「そうですよ、まずは総務部から撮り始めるのですが、全女性社員の分を撮ろうと思うと、なかなかタイトなスケジュールですので、急いでくださいね。さて、工藤さんは、そのままの格好で撮るのでいいですか?」

 生駒課長補佐がカメラを構える。
 相変わらずこの人、雑用やらされてるんだな、と思った工藤さんだったが、自分の写真映りは大いに気になる、若い女の子だから、慌てて準備を始める。

「まっ、まだですよ。まだ服、全部着ちゃってるじゃないですか~。ちょっと待ってくださいね。最初は下着姿から撮るんでしたっけ?」

 何のためらいもなく、工藤さんが派手目の服を脱いでいく。
 シワのつかないように気をつけながら、会議室の椅子の背にかける。
 揃いの赤いブラジャーとショーツが日焼けした肌を包んでいる。
 生駒さんがフラッシュを光らせ始めると、工藤さんはカメラ目線でニッコリ微笑んだ。

(社員証の写真は肩から上だけだけど、従業員名簿にも写真が残るんだから、一番セクシーな写真を残してもらわなきゃ! 確か、すっごくエッチな写真が撮れたら、ボーナスが増えるっている噂もあるし。)

 フラッシュを体に浴びながら、工藤さんは精一杯の色っぽい表情とポーズをとっていく。
 ブラジャーとショーツを床に落とすと、机に座り込んで足を大げさに組み替える。
 チラチラと見えるピンクの秘部に、生駒がピントを合わせてシャッターを切る。

(ここ数日で、ずいぶんとハイテク商品の使い方を覚えているような気がするな。)

 生駒さんは今、会社の女性社員の名簿を、体の写真と共に更新しようとしている。
 それにはちゃんと理由があるのだ。

 食堂や廊下で綺麗な人とすれ違っても、瞬時に社員証の名前を読み取って、小型PCからアドレスを検索するような敏捷さは、残念ながら生駒さんにはない。
 それどころか、普段は社員証をポケットや財布にしまっているような人も少なくない。
 既に知っている人でもない限り、神様のアドレス帳があっても、簡単に色んな人と楽しい思いが出来るわけではないのだ。
 そのことに気がついた生駒さんの次の活動は、好みの人、人気の高い美人社員を予め調査して、記録に収めていくということに決まった。
 几帳面な生駒さんらしく、体の隅々まで記録に収めさせてもらうことにしたのだ。

(名前と所属、顔写真の他には、下着姿と全裸の全身写真。あとはオッパイやお尻、アソコといった、部分アップの写真を整理しておけば、その日の気分に合わせたパートナーを、データベースから選んでいくことが出来るんではないだろうか・・・。)

 色々な妄想に思いをはせながら、生駒さんは時々ふと、自分自身が怖くなる。
 正直、自分にこんな変態的な趣味があるとは思わなかったのだ。
 ここ数ヶ月、女性が多数を占める職場でストレスを溜めてきたために、自分はすっかりおかしくなってしまったのではないだろうか。
 か弱い娘さんたちを、こんな風に、こんな自分の玩具にしてしまってよい訳が無い。
 これっきりにしよう。そう思ったりする。

 それでも・・・、いざ、仕事に集中しようとパソコンの前に座ると、目の前にはいつでも気軽にメールを打てる設備が整っている。
 一つメールを打つだけで、社内の誰もが、何の疑問も持たずに、生駒さんの希望を何でも実現してくれる。
 悩みの多かったこれまでのこの職場での日々を思うと、今の、余りにも容易く、余りにも快感に満ちた様々な行為の誘惑に、生駒さんの自制心はどうにも持ちこたえられないのだ。

 生駒さんは最近思う。このアドレス帳を整理した神様は、あまり機械のことには詳しくなさそうだ。
 何度生駒さんがこれらのアドレスにメールを送っても、それを探知して生駒さんを捕まえようとしたり、アドレス自体を変更しようとするような素振りすら見せない。
 ただ無愛想に、アドレス帳へのアクセスを制限しただけだ。
 きっとアドレス帳を編集した方は、以前の生駒さんと同じように、ある組織の中で厄介者のように雑用を任され、嫌々この仕事をしていたのではないだろうか。
 同じような立場にいたからこそ、生駒さんにはそのことが直感的に理解出来るのだった。

 。。。

「それでは、今週も試飲会を始めたいと思います。先回のチリワインも、大変個性的で強い魅力があったと思います。今回は、スペインの赤を試す予定でしたが、予定を変更いたしまして、精液にチャレンジしたいと思います。イコマの46年物です。」

 わぁーっと、上品な歓声が上がって、役員会議室には、選び抜かれた美貌の女性たちの、華やかな笑顔が並ぶ。
 秘書課の女性社員たちが週に1回開いている、仕事の後の、ワイン勉強会だ。

 海外の取引先との関係柄、「KTA」の役員はワインの贈り物を受け取ることが多い。
 ワイン通の役員もいるが、全く飲まない人もいて、秘書課には「お下がり」がたまっていく。
 副社長秘書の倉科さんがソムリエの資格を持っているということで、最近秘書課の女性たちの間で今盛り上がっているのが、この在庫ワインの試飲会なのである。
 生駒さんからすると、いかにも役員秘書たちの特権意識をあらわしたような、ハイソサエティぶった催しに思えるのだが、噂を聞いた以上、メールを流して、一度は参加させてもらうことにしたのだ。

「皆さんご存知の通り、熟成された男性のザーメンは、独特の風味とコクを持っています。今回は生駒課長補佐のご協力を得まして、貴重な精液を、少しずつですが味見させて頂きましょう。」

 両手を前で重ね、姿勢よく直立して見学する美人秘書たち。
 その目の前で、倉科さんにチャックを下ろされるのは、生駒さんとしてもとても緊張する瞬間だった。

 綺麗に髪を束ねた倉科さんのたたずまいは、スチュワーデスか、高級ホテルの係員のよう。一本の糸くずも身に着けないようなピシッと清潔感あふれる服装。ノーブルな顔立ち。
 その倉科さんの細くて長い指が、生駒さんの一物をズボンから取り出していく。
 少し触れられただけでもう果ててしまいそうなぐらい、すでに生駒さんは昂ぶっていた。

「うーん。おチン○ンに顔を近づけただけで、もう芳しい精液の香りが漂ってくるようです。皆さん。よろしいですか? 精液は、お口に出してもらう前から、十分に味わうことが出来ます。精子を作り出しているタマに触れ、おチン○ンの逞しい筋に触れ、手で味わい、香りを味わい、目で味わうんです。貴重なイコマ、46年物の白がここから出てくると思うと、とても、いとおしい思いがしますね。優しく扱って、精液を導き出してあげてください。見本をお見せしますよ。」

 さきほど随分と長文のメールを、生駒さんに送られたばかりの倉科さんは、よどみなく、スラスラと後輩たちに説明をする。
 後輩たちはみんな、憧れの先輩が嬉しそうに生駒さんのモノを愛撫する様を、憧れと羨望の思いで見つめいている。

 みんなの注目の中、倉科さんが音を立てて生駒さんのモノにキスをし、高級そうなルージュの塗られた口で先端から咥えていく。
 焦らすように先端に舌を触れさせたり、急に裏筋をダイナミックに舐め上げたり、実はこの倉科さん、なかなかの尺八上手のようだ。
 不倫の経験でもあって、誰か悪いオジサンに仕込まれてきたのではないだろうか。
 見る間に生駒さんが我慢できなくなってしまった。

「あ・・・、出ます!今、出ますよっ。」

 生駒さんが思わず倉科さんの口の中に、何回かに分けて精液を放出する。
 倉科さんは大事そうにそれを受け止め、口の中に溜めると、一瞬口を開け、生駒さんのモノを解放した。
 空気と一緒に精液を口に含み、しばらく舌の上で転がして楽しんでいるようだ。
 ゴクンと音を立てて呑み込むと、熱っぽく語り始めた。

「うん。とても素晴らしいです。口の中で何千、何万という精子たちが、歓喜の踊りを踊っているようね。濃厚な中にも芯があって、若さと落ち着きを併せ持ったような風味の中に、自然界の毅然としたエグみを感じることが出来るわ。そして喉にベットリと張りついてくるような喉越し。最後は大人の味わいという感じ。正真正銘の、イコマ46年物、白です。」

 自分の精液の味などを、誇らしげに大仰に語られて、生駒さんは恥かしくてこめかみを掻いた。
 しかしそれにウットリとした表情で聞き入っていた秘書さんたちは、誰からとも無く、拍手を始める。生駒さんには少し馴染みにくい世界のようだ。

「では皆さん、順番に試飲をしてみて下さい。量に限りがありますから、大切にしなければ駄目よ。」

 倉科さんがゴーサインを出すと、美女たちが我先にと生駒さんの股間にシャブりつこうとする。
 5人もの秘書たちに充分な量を出す自信がない生駒さんは、一回分の射精を何人かで分けてもらうように倉科さんにお願いした。

 経理役員秘書の白木さんが、嬉しそうに気持ちを込めて生駒さんのモノを舐めまわす。
 長い睫毛とキラキラする茶色がかった髪。それにハーフのような顔のつくりをしている、社内でトップクラスの人気を誇る美女だ。
 口一杯に一物を咥えこんで、目を閉じながら頭を前後に振る。
 遠慮がちながらも、少しずつ吸引力が強まってきて、生駒さんの快感がまた高まっていく。
 若干さきほどよりも少ない量だが、驚くほどの短いインターバルで、白木さんの温かい口内に出し切った。
 目を閉じて陶然と精液の味に浸る白木さん。

「ンーッ、オイヒイッ!」

 泣きそうな顔を作って、感動を表現する。
 お友達にせかされて、口移しで少しずつ、生駒さんの精液を分け与えた。

 異常な光景に、生駒さんは何とも言えない背徳的な空気と、自分の征服欲が満たされていくのを感じて、酔ったようなボンヤリとした気分になる。
 ほとんど口をきく機会もなかった、社内でも選りすぐりの美女たちが、目の前で情熱的な口づけを交わしていく。
 それだけではない、彼女たちはその口づけの中で、宝物を扱うように生駒さんの精液を交換しているのだ。
 この役員会議室の中にいる誰もが、男性社員の妄想の的になっているその可愛らしい口で、生駒さんの精液を吸い上げ、舌の上で転がし、味に浸りきっている。
 その光景にあてられたのか、生駒さんは年甲斐もなく、また股間を固くしてしまう。
 目ざとくそれを見つけた秘書の一人が、喜び勇んで跪くと、生駒さんのモノにシャブりつく。
 少し出遅れた別の秘書は、せめて残り香なり余韻を求めているのか、タマに舌を伸ばしてきた。
 つい先ほどまでは綺麗な姿勢で上品そうに倉科さんの講義に聞き入っていた秘書さんたち。
 今はもう、タガが外れたように生駒さんの下半身に群がって、少しでも空いている隙間を舌先で愛撫してくる。
 生駒さんは早くも、3度目の精液提供を間もなく出来そうな予感を感じていた。

 。。。

「ミチルちゃん、今日も可愛かったな。」

「おー、でも俺はやっぱり、令奈さんの大人っぽいスマイルかな。」

「あと、今はいなかったけど、新人の青木さんも、笑顔はとびっきり可愛いよな。」

「あー、そうそう!研修多いみたいだけど、俺も、彼女に会えた日は俺の中で「勝ち」ってことにしてんだ。今んとこ、8勝15敗って感じ。」

 横浜支社から、若手の営業社員が出張してきているのだろうか。
 エレベーターの中で、正面玄関の受付嬢の話で盛り上がっている。
 さすが営業の人はアンテナが高い。
 たまに来るだけの本社受付に座る子たちの名前もしっかり覚えているようだ。

 男性社員たちの他愛も無い会話だが、エレベーターの中で聞いていると、不意に生駒さんはまた、興奮してしまう。
 にじみ出るような優越感に、思わず頬も緩んでしまう。

 この男性社員たち、果たして青木里香ちゃんのお尻の穴のすぐ右下に、ホクロがあることは知っているだろうか?
 西尾みちるさんの小陰唇が、クリトリス近くで左側によじれていることは、知っているだろうか?
 絶対に知らないだろう。社内の誰もが、いや、ひょっとすると彼氏も含めて、世界中のほとんど誰も知らないかもしれない。
 しかし、生駒さんのデータベースにはどアップの画像が保存されている。
 足を大きく開いてお尻を突き出し、肛門をさらけ出して微笑む青木さんの写真。
 机の上で、Mの字に足を開脚し、上半身は服を着て優雅に受付嬢の挨拶をする西尾さんの写真。
 生駒さん以外には、夢にも思いつかないような姿になった、アイドル社員たちの記録だ。

 久松令奈さんにいたっては、その見事なボディーラインを維持するための食事の節制によるためか、油断していると口臭が出ることを発見してしまった。
 女優のようなフェイス。欠点の無い美しさを賞賛されているあの久松さんの、口臭・・・。
 逆に興奮してしまった生駒さんは、名簿の写真そっちのけで、彼女に生駒さんの全身をくまなく舐めさせた。
 生駒さんも彼女の全身を自分の舌で愛撫した。
 405会議室は、乾いていく二人の唾液の強い匂いで充満した。
 受付嬢の一番人気を誇った久松さんの口臭を全身に染み込ませた生駒さんは、そのまま獣のように久松さんとまぐわった。
 今思い出しても赤面してしまう、予想外に変態的な自分を曝け出してしまった瞬間だった。

 エレベーターの中で受付嬢たちの話題で盛り上がる若手社員たち。
 誰も勤務時間中に、彼女たちが生駒さんとそんな活動にいそしんでいたとは、想像もしないだろう。彼らどころか全社員が、知りもしない。
 いや、肝心の彼女たち自身すら、自分がそんな記録を総務部のデータベースに残しているとは夢にも思わず、今日も会社の顔として、爽やかな笑顔を振りまいている。

(総務部は会社を陰から支える役目だ。少々の秘密を私だけが知っていても、おかしくはないかもしれない。)

 笑みを噛み殺す生駒さん。エレベーターの扉が開いて、4Fに到着した。

 生駒さんが総務部の自分の席に着くと、市橋さんが何事も無かったかのように、お手洗いから戻ってくる。

「あれ? 市橋さん、体の具合でも悪いのですか? なんだか、顔が赤いようですが。熱でもあるようでしたら、早退して頂いて構いませんよ。」

「だっ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。なんでもないですっ。」

 市橋さんが、服装の乱れを気にしながら、必死に取り繕う。
 生駒さんは彼女が日課のように毎朝、会社のトイレでオナニーに励んでいることを知っている。
 彼女は隠そうと懸命だが、実は彼女にそうさせているのは生駒さんなのだから、知らないはずがないのだ。

「そ、それより課長補。今晩は予定ありますか? 三枝さんがそろそろ配属一年なんで、お祝いしようかと思いまして。」

 市橋さんが話題を変えて誤魔化そうとする。

「あ、三枝さんが。そうですか。それでは皆さんで呑みに・・・、いや違う。皆さんでラブホテルにでも行きますか?」

「そうですね。明日も仕事ですから、あんまり長引かないように、予定が空いてる子たちみんなで行って、ちゃちゃっとセックスしましょう。総務部皆に声をかけると、結構な大人数になるかもしれないので、私、大部屋を予約しておきます。」

 市橋さんが微笑む。
 最近この人の表情が、以前よりやわらいでいるように思える。
 前よりもため息をつくことが減って、日々の生活も充実しているように感じられる。
 性的に活発になってもらった良い効果が出ているのかもしれない。

「工藤さんもいかがですか? ラブホテル。職場の皆でのセックスは久しぶりですよね? 三枝さんのお祝いです。ドーンとやっちゃいましょう。」

「・・、んん。・・・はい。行きます。」

 生駒さんが声をかけると、工藤さんが小さい声で返事をする。

「あれ? 誰か携帯がマナーモードで鳴っていますか? どこかで小さな振動の音が聞こえるんですが。」

「なっ、何でもないと思いますっ!」

 生駒さんがトボケた質問をすると、工藤さんがギュッと両足を閉じて、慌てた声を出す。耳まで真っ赤になって突っ伏する工藤さん。
 仕事中に内緒で下着の中にローターを入れているのは、社会人としては問題だが、生駒さんはそれを知っていながらも上司として注意をしない。
 これまで、暇さえあれば周囲の女の子とお喋りをしていた工藤さんが静かにしていてくれるだけでも、周りの仕事がはかどると判断しているからだ。

「課長補、あの、伝言です。」

「おや、三枝さん。いつもありがとう。ちょうど今、貴方の話をしていたところなんですよ。ねえ、市橋さん。」

 いつも緊張気味に職場を右往左往している三枝さん。
 随分上の先輩にあたる、市橋さんが笑顔で説明をすると、直立不動の姿勢で恐縮して聞き入っている。

「今日、貴方、予定は入ってないって言ってたでしょ? 行けるメンバーで、みんなで仕事終わりにラブホテルに寄って、貴方の配属一周年をお祝いしようかって話してるの。どれだけ集まってセックスできるかはこれからみんなに聞いてみるけど、どうかしら?」

「あ、ありがとうございます。お仕事、定時に終わらせられるように頑張ります! お仕事・・・、あ、そうです。生駒課長補、メッセージが届いています。」

 生駒さんに体を近づけてくる三枝さん。
 彼女は今、何の衣服も身に着けていない。
 生まれたままの姿に、10枚ほどの色とりどりのポストイットが貼り付けてあるだけだ。

「あぁ、そうだったね、ありがとう。えーっと、私への伝言は・・・。これか。」

 胸に貼り付けられたポストイットを剥がすと、隠れていた右の乳首が顔を出す。綺麗なピンク色の乳首だ。

 三枝さんの今のお仕事はメッセンジャーガール。
 素っ裸の体に伝言や、電話のメモを貼り付けて、総務部内を巡回する。
 仕事はよく頑張るのに、緊張しがちな性格で引っ込み思案の新入社員である彼女に、少しでも羞恥心を克服してもらおうと、生駒さんが思いついたアイディアだ。
 メールで提案をしたところ、すぐに上司や部内の同僚たちの賛同を得た。

 生駒さんは今、神様のアドレス帳に入っている社員全員の意思や行動を自在に操ることが出来る。それでも、会社にはその影響外にある社外からのお客さんや、毎年新たに配属されてくる新入社員もいる。
 こうしたあからさまな異常事態を作れるのも、今年一杯。
 しかも総務部のような社内の調整部署の中だけでだろう。
 それ以外の部署の人たちと楽しむためには、会議室を用意したり、カモフラージュを工夫したりと、色々と用心が必要になる。

 ちょうどこのポストイットにある、倉科さんからのメッセージのように。

「生駒課長補佐殿、今週の試飲会は、木曜日の19時から、役員会議室で行います。良質のお飲み物をたっぷり溜めてお持ち頂けるのを、秘書課一同お待ちしております。倉科。」

「お疲れ様です、旦那様ー! モーニングコーヒーをお炒れしましたー。」

 水色のポストイットを手に、頬を緩めていた生駒さんに、総務部入り口から大きな声で呼びかける女性がいる。

「おや、中條課長。いつも時間通りに、すみませんね。」

「熱いですので、気をつけてくださいね。わたくしがフーフーしてさしあげますから、慌てて飲んでは駄目ですよ、旦那様っ。」

 嬉しそうにコーヒーを出してくれる中條課長。
 メイド服はスカートの丈がいっそう短くなって、胸がほとんど乳輪スレスレまで露出されてしまっている。
「地位にこだわらず、真心を込めてお茶を出す。この尽くす姿勢。このおもてなし、これこそが営業の鑑!」と、旧い体質の会長に絶賛された課長のコーヒーサービスは、今では社内名物になってしまった。
 普段の言動とのギャップは、おおむね社内、社外を問わず、好評なようだ。
 生駒さんが総務部外に唯一残している、彼のメールによる派手な環境変化だ。

 実は生駒さん、今とても大きな野望を秘めている。
 彼の一世一代の野望とは実は、無くなってしまった前の職場の復活だ。
 次の人事異動の後には、グループ外から中途採用で入ってくる人、新規に雇われる若い人、この神様のアドレス帳に名前の入っていない人たちが上能グループに加わることになる。
 だんだんと、メールをつかった大きな変化対する、リスクが拡大していくことになる。
 そうなる前に、今のこの、不思議なアドレスの濫用を止めよう。
 最後の送信として、上能グループの会長にメールを送り、上能陸運の以前の集配場を復活させてもらいたい。
 再び、以前の同僚たちと働きたい。

 それがここ数週間、毎晩のように眠りにつく前に生駒さんが考えていることだ。
 そして生駒さんは何度も寝返りをうちながら考える。
 メールで一時、集配所が復活しても、収益が出なければ、また同じ道を辿ることになる。
 新しいビジネスモデルを、今のこの、勢いある「KTA」のビジネスを参考に作り出すことは出来ないだろうか。
 そのためにはよく勉強しなければならない。
 せっかく社内の情報が自由に入手できるこの環境を、役立てない手はない。
 明日こそはしっかり勉強しよう。よい仕事をしよう。

 そう考えて眠りにつくのだが、いざ朝起きて、出社すると、職場の美女たちが、自分の思い通りに楽しみを提供してくれてしまう。
 そうなると、なかなか仕事や勉強には手がつかない。
 若い女性たちのピチピチとした裸や、のけぞるような性の快楽に囲まれると、ついつい堕落しきった勤務時間を過ごしてしまう。

(明日からこそは、元職場復活のために動き出そう。この職場のことは、半年間の夢だと思って忘れよう。あー、しかし、来月の社員旅行の温泉旅館で出来ることを考えると、ついついいつも以上に変態的な妄想が勝手に膨らんでしまう。このままでは私は、この会社から一生抜け出せなくなってしまうのではないだろうか。)

 生駒課長補佐はここ数週間、悩みを抱えていた。
 仕事に身が入らない。新しい環境が楽しすぎて、なかなか元職場のことが考えられない。
 それは社会人にとってよくある悩みではない。むしろ、極めて恵まれた悩みと言える。
 しかしだからといって、生駒課長補佐の悩みが、大したものでないとは言えない。
 生駒課長補佐にとっては、非常に大きな悩みだった。

< おわり >

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