続GalacticChasing 前編

前編

『銀河同盟第2級特別公安調査官、ミチル・ヒョードー。官章発行機関は第1銀河系ルポニア星域刑部省。認証出来ました』

 女性の声の合成音が告げると、管理官が手で合図をする。8人いる警護兵がレーザーショットガンを肩に預けて背筋を伸ばした。3つある合板ダングル鋼の扉が順番に開いていく。

「エルムンド=ロンド拘置所へようこそ。ヒョードー2級調査官殿。はるばる第1銀河系から起こしとは、我々のゲストにも有名人がいたものですね」

 一転して丁寧な口調になる若い管理官に、官製レーザーガンを預けながら、美貌の黒髪調査官は涼しげな笑顔を見せた。

「ヘンリック星雲師団の生き残りと言われれば、同盟の重鎮が各所で騒ぎ出すでしょうから、我々の組織としても、迅速な対応が必要と判断したようです。第1銀河系に情報が入り次第、飛んで来ました。恒星間100光年級ワープを5日で2度も繰り返すことになってしまいました」

「それはお気の毒です。どこの星系でも、お役所は我々をこき使うものですね」

 管理官がホルスターとレーザーガンを受け取ったあとで、自分のこめかみを指さす。ミチルに、頭に装着しているヘッドセットを外せと、要求している。しかし、ミチル・ヒョードーは優美な笑みを崩さないまま、首を横に振った。長いストレートの黒髪。前髪だけはパツンと切り揃えている。清純そうな太い眉毛からは純真さと育ちの良さが見て取れた。

「こき使うだけならまだしも、わたくしなんて、上から信頼すらされていないようです。私の勤務しているルポニア星域では、一級犯罪者との面会時にはヘッドセットでの会話の録音を義務付けているんです。許可証は組織のサイトにありますが、ダウンロードしますか?」

 今度は若い管理官が肩をすくめて首を横に振った。

「ミチル・ヒョードー銀河同盟第2級特別公安調査官が通行する。面会対象は一級犯罪容疑者、ラドコフ・ルカチェンコ。レベルD特別警戒対象のため、面会所は使わずに直接、彼の拘置房へ向かう。人質に取られる恐れがあるため、同行者は無し。ヒョードー調査官が拉致された場合は、その場で容疑者ともども射殺することをご了承頂いている」

 ミチルが地下14階まで、鈍重なエレベーターで降りると、扉が開いた前には、装甲車の内部のような頑強な牢獄の通路が伸びていた。緊張気味に足を進めるミチル。優秀な調査官でありながら、お嬢様育ちのせいか、時折、世慣れない仕草が顔を出す。アンバランスな魅力を醸し出す、第1銀河系で売り出し中の調査官であった。

『これは拘置所っていうより、軍事収容施設みたいだね。』

 ミチルのヘッドホンから、あどけなさを残した男の子の声の電子合成音が零れ出る。

「静かに……。……コホン……。ダニーボーイ。無許可で汎用サポート人格プログラムを持ち込んでるってバレたら、私の面会許可証まで刑部省に問い合わせられちゃう。……全部発覚したら、私、クビよ」

『わかってる。……でも、ちょっとは口を出させてもらうよ。これから会うジイサンは格別に頑固だけど、この計画の要なんだから……。』

 各所に取り付けられた監視カメラを意識して、ミチルは表情を崩さず、唇の動きを最小限にして喋る。あどけない様子に鼻にかかった声が、さらに甘えたようなトーンの響きに変わる。これで検挙率屈指の若手調査官ホープなのだから、人は見かけによらない。

「その無茶な計画で、独身のうら若き公安調査官のキャリアと人生が危険に晒されてるって、よく覚えておいてね。あなたのご主人との腐れ縁のせいで、わたしがどんな思いをして規則に違反してるか、わかってほしいわ」

『僕はご主人との腐れ縁のせいで、すっかりルール違反に慣れちゃったよ。』

 ミチルは大きくため息をつこうとしたが、独房のレーザー柵がわずかに出している低い作動音を耳にして、息を飲んだ。柵の向こう側、重苦しい暗がりの中に、両手両足を機械式拘束具で封じられた、白鬚の老人を見つけた。顔や拘束具の隙間から見える体の皮膚には古い傷跡がいくつも交差している。シワは深いが無駄な贅肉の一切ない、岩のような体をした老人だった。

「ラドコフ・ルカチェンコ中尉ですね。『置いてけぼりの』ヘンリック星雲師団、最後の生き残り。ラドコフ特務中隊を指揮して星間ゲリラ戦を、先の戦役から13年も続けてきた。貴方がかつて所属した連邦国家はすでに解体して、構成諸国は第3次銀河同盟に加盟しました。貴方の続けてきた戦いは、私的戦闘行為として同盟の恒星間法廷で裁かれることになります」

「………………・ほう。初耳じゃな」

 全身を厳重に拘束されている老人だが、ミチルを無表情に観察している。やっと重い口を開いたと思ったら、一言。ミチルを相手にしないと言わんばかりの減らず口だった。

『電気系統の不良に見せかけて、監視カメラの音声送信を妨害します。安全に妨害出来る時間は3分12秒と予測。』

 ダニーボーイが囁くと、ミチルが意を決して2歩、レーザー柵に向かって足を進めた。距離が少し近づいただけで、伝説の軍人から醸し出される威圧感で、ミチルの白い肌がビリビリするほどだった。

「ラドコフ中尉。貴方にお願いがあってきました。私の友人……。腐れ縁の嫌なヤツなのですが、今、奴隷商人の罠にかかって拉致されているの。廃星の周囲を何重にも防衛衛星ネットを張っていて、治安当局も簡単には手が出せない。あと7日もすると、彼女の洗脳が完了して、死ぬまで奴隷になってしまうかもしれない。貴方と、貴方の部下の潜入技術で、私たちを彼女の元へと連れて行って欲しいのです」

 眉毛が僅かに動いただろうか。ミチルが観察している老軍人は、ミチルの持ちかけた話にもほとんど反応を示さなかった。人間観察の専門家を持ってしても、そのしかめっ面の奥で何を考えているのか、一切表情からは読み取れない。だがミチルもこういう時は焦らない。時間をじゅうぶんに取って、相手の出方を伺おうとしていた。

『ミチル、時間が無いよ。ラドコフにここからの脱出計画を説明しよう。』

「もうっ、ダニーボーイ! 電子頭脳は人間同士の交渉ごとに口を挟まないでよ。脱出計画があるとか、漏らしちゃったらラドコフの有利になるでしょっ」

『だってあと1分42秒しか音声監視の妨害が』

「無用」

 ラドコフが短く吐き捨てる。頑固で交渉不能な様は、まるで鉄鉱石の塊を相手に、お願いごとをしているような気持にさせられた。

『ラドコフ、単刀直入に言うよ。僕の作戦に協力して欲しい。交換条件は君と君の部下を非合法にだけど解放する。独立星系への亡命を手助けしてもいい。奪還したい目標は、君たちを拘束したバウンティ・ハンターのティ……』

「ちょっと、ダニーが勝手に交渉始めないでよっ。ここは特別公安調査官の私こそが……」

「無用」

 もう一度、白く豊かな髭に覆われた老人の口が開いた。低く落ち着いた声だが、人工知能プログラムと美人調査官を黙らせるだけの迫力があった。その老人の体が突然、赤く発光したように見える。警報が鳴り響き、独房内外が赤い警戒ランプの点滅で、深紅に染まったのだった。

 ビーィィィィ、ビーィィィィ、ビーィィィィ、ビーィィィィ、
 慌てて周囲を見回すミチル。ダニーボーイは警報システムにハッキングを試みていた。

「人工知能発案の脱出計画など、儂らには無用じゃ。すでに手持ちの計画が進行しておるわ」

 ミチルたちが降りてきたエレベーターが開くと、拘留服を着た男、警護兵のジャケットを羽織った男、半裸の男などが次々とラドコフが最警戒拘置されていたフロアに姿を現した。ラドコフが指を4本ゆっくりと上げると、男たちは駆け寄りながら、ミチルに向けていた銃口を下す。

「中隊長殿、ルスランが重傷を負って歩行不能となったので離脱させました」

「ドミトリー上等兵。その他の損害は?」

「ございません」

「いえ、アレクセイが一昨日、警護兵と口論になり殴打を受けて左上の奥歯を失っております」

「ユーリ准尉。ご苦労。……アレクセイ。歯を失うと射撃、白兵戦ともに精度を落とす。注意せよ」

「申し訳ございません」

「ヨージェフ上等兵の皮膚と筋肉組織は無事か」

「はっ。人工皮膚ですので、無事分離させられました。着火に時間がかかりまして申し訳ございません」

「想定内だ。ワシの解錠も、予定時刻を2分遅れた。予定していない客人があったのでな」

 腕関節が戻されると、ラドコフの足元に重い拘束装置が鉄アレイのような音を立てて転がる。ラドコフが薬指を捻ると、レーザー柵が一瞬にして停止して、黒光りしていたレーザーが消滅した。

『生体組織から作った疑似機械を体に仕込んでる。この警報もきっと、人工皮膚に取り込んでいた成分が燃やされて、生化学テロ攻撃に類似した成分が空中散布されたんだ。それで拘置所の警戒システムが細菌攻撃と誤認して、警護兵避難のための臨時退避ルートを作ったんだと思う。』

「貴方の計画と比べて、どうだったと思う? こちらの方が有効?」

『ずいぶん無骨で荒っぽいけど……』

「目的は達成される。それが全てだ。……さて、お嬢さん。ワシらの人質として同行してもらうことになる。もっとも、それがダニーボーイとやらの当初からの計画であろう。行先は諸君らに任せることとする」

「ティナを……助けに行ってくれるの?」

「跳ねっかえりのお嬢さん1人に、特務中隊最後の7名がまとめてやられたという汚名を、少しはすすぐことが出来るのなら、もう一仕事しようではないか。諸君らも良いか?」

 警報が鳴り響く拘置所の床に、4人の踵が打ちつけられた。

。。。

 ずいぶんと長い間、眠りに落ちていた気がする。ティナが鈍痛を頭の奥に覚えながら、唸り声を出して寝返りを打つ。逃げていこうとする夢の記憶の、尻尾を僅かに捕まえた。

――――最悪な夢……。このままだと、精神力を全部削り取られちゃう……。何とかしないと・・。

 人工的に見せられている夢は、目が完全に覚めると、内容を忘れてしまう。だが半覚醒の今の状態では、おぼろげながら思い出すことが出来た。赤いボタンと青いボタン、どちらか押してくれとティナの同胞の子供たちが何十人も泣いてお願いしてくる。断って逃げても、ボタンを間違えても、子供たちは泣き叫びながら連れていかれてしまう。ティナが意を決してボタンを押す。しかし毎回、間違いという判定。馬鹿にするようなブザー音。子供たちは一人ずつ、ティナを恨めしそうに見つめながら、奴隷商人の手下たちに連れ去らわれていった。これはティナが見せられている夢のほんの1シーン。ほかのシーンはもう覚えていない。しかし、すべての夢に共通するのは、ティナが自分でものを考えたり、選択したりすることを恐怖するようになる、自己選択や自己評価への緩やかで確実な攻撃。浸食ともいうべき条件反射の刷り込みだった。

 もう1週間も、監禁されてこんな夢を見させられているだろうか? 今ではティナは、朝食を口にする際も、見張り役のサイボーグに最初に手をつける皿を指定されるだけで、心底ホッとした気持になる。自分で何かを選ぶということが恐ろしく、気が重くて仕方がないのだ。

「おはよう、ティナちゃん。今日のご機嫌はいかが?」

「両手をついて、お辞儀をしなさい」

 2つの合成音。見張り役のサイボーグは2体いるのだ。フリルに覆われた美少女と、御者のような恰好をした壮年の男。

「おはようございます。ルシエ様、ペトル様。ティナは皆様のおかげで今日も生きております。ヴィアンデンシュタイン子爵様を始め、ご主人様がたに感謝して、今日も1日、ご奉仕させて頂きます」

 身にまとっていたバスローブを脱ぎ捨てて、銀色の首輪以外、何も身に着けていない裸の姿になって床に両手と額をつける。挨拶の言葉はティナの精神が操作されて、無理矢理、言わされている。しかし、このフロアでの生活も1週間となると、ティナは自動的に自分の口や体が動いてくれる時には、安堵の気持を得るようになっていた。もしこの強制プログラムがなかったら、ティナは行動を自分で決めなければならない。「お辞儀をしなさい」と言われた以上、するのか、しないのか、するとして何秒間、頭を何度の角度まで下げてお辞儀をするのか。しないとすると、どんな反応を返すのか。そうしたことを考えるだけで、ティナには夢の中で味わったような自己嫌悪と倦怠感。そしてなにより、どす黒い無力感が襲いかかってくるようだ。

「昨日はティナちゃん、久しぶりに暴れちゃったわね。覚えてるかしら?」

 見張り役……、兼、教育係を自任している、ルシエというサイボーグが、友達のような口調で語りかける。

「……はい……。申し訳ございませんでした」

 貴族の邸宅のような装飾がほどこされたフロアで、ティナが平伏したまま答える。昨日のティナの反抗を、子供のようなサイボーグ、ルシエは優しい口調で思い起こさせる。

「ティナちゃんは悪い子だったから、ちょっと精神改造のレベルを上げちゃったんだ。人間の体って面白いね。深層意識まで深―く信じ込むと、肉体にまで影響が出てきちゃう。ウィストリア星人の人格プログラムはコアまでばっちり解析が進んじゃったから、性ホルモンなんかも過剰分泌させて、半日で体にこんな影響が出せるんだよね~」

 地球という惑星に人類が押し込められたいた、上代の中世ヨーロッパで貴族の子女が来ていたようなゴシックのドレス。それを身にまとったサイボーグ調教師は、美少女の声に似合わず、恐ろしい内容の言葉を口にする。遠慮を一切しない指先で、ティナの丸い乳房をツンツンと突いた。

「うっ……うぅうっ」

 昨日までEカップだったティナのオッパイは、Fカップの大きさまで肥大していた。ルシエが昨日、遊び半分でコントローラーを操作した途端に、ティナの脳内の女性ホルモンが暴走したのだ。乳首の大きさも倍ほどにもなっていた。はち切れんばかりのオッパイは、ルシエに突かれただけで痛みと痒み、そして上半身が破裂しそうなほどの快感を訴えてくる。

「うふふ……。我慢できないんじゃない? ……ティナちゃん。ミルク出していいよ」

「ひっ……ひゃぁああっ!」

 耳元で囁かれると、ティナが目を白黒させて、状態を弓なりに反らせる。ブピュッと音を立てて、ティナのそそり立った両乳首から、白い液体が放物線を描いて飛びだす。ティナの体は胸の部分だけ、自分は授乳が必要な母体であると、誤って認識している。まだ妊娠したこともないティナの体は、わずか半日で乳房をさらに成長させて、母乳を噴出させるようになってしまったのだった。

「うぅぅ……はぁああああ……」

 ティナは、少女のサイボーグに弄ばれる自分が自分で情けなくて、目に涙を浮かべる。潤んでいる目はしかし、歓喜の色も隠せない。乳首の内部が強度の性感帯であると認識させられたティナの深層意識は、母乳を出すと、男性の射精時の3倍から4倍の性的快感を感じる。「ティナ、ミルクを出しなさい」という言葉を聞かされると、いつでも、どんな時でもティナのオッパイは母乳を噴射する。そして暴力的なまでのエクスタシーを同時に浴びせる。意識を書き換えられるということの恐ろしさを、ティナは今、その身をもって感じていた。

――――こんな……小娘に、好きなように遊ばれて……。悔しい……・。絶対に、こいつら全員、後悔させてやるっ……・。

 今のティナにとって、怒りは、完全服従の誘惑に絡めとられそうになる自分を支える、唯一の力になっていた。そんな彼女の内心を見透かすように、ゴシック衣装の金髪美少女サイボーグが微笑む。

「ティナ、きをつけ。立ったら、行進始めっ。1、2、1、2。きをつけ。ミルクちょっと出して。……また行進。右向け右。またミルクちょっと出して」

「やっ……ぁああんっ……・。くそっ……・こんなっ……・・あっ……・またっ……」

「はい、行進。今度はミルクを右のオッパイだけだして。今度は左。左向け左。今度は両方からミルクいっぱい出して。……アハハッ。アハハハハハ。ティナちゃん、おもしろーい」

 しかめっ面のまま、ティナが耳まで真っ赤にして、恥辱に耐える。玩具の兵隊のように号令に従いながら、テキパキと行進したり直立不動になったり、そしてルシエに命じられるたびにププュッと小さく母乳を飛ばしたり、左右のオッパイから交互に飛ばしたり、派手に噴き出させたりして、貴族趣味の部屋の壁や彫刻に順番に母乳の垂れる跡を作っていく。まるで母乳を撒き散らす玩具になってしまったかのようだった。歯を食いしばって怒りと情けなさに震えるティナだが、乳を噴き出す瞬間だけ、目を白黒させて快感に打ち震える。そんなティナの心の内を、すべて表示しているのが彼女のつけている銀色の首輪だった。

 首の正面に大型のハートをあしらった首輪。このハートの部分が色や点滅、そして時に音声で、その首輪を着用している者の考えや状態を表現する。怒りは赤。発情はピンク。そして気弱な気持ちはオレンジでハート型のモニターが表現する。尿意などの生理的欲求もすべて包み隠さずにこのモニターが映し出すのが、着用者には屈辱と羞恥心を与えているのだが、首輪を与えた側の人間にとっては、反抗心などを確認するための便利な道具になっている。

 もちろん、設定次第ではこの首輪は反抗心や逃走意欲を遮断するための道具にもなる。反抗心を感知すると電気ショックを発したり、着用者の肉体を麻痺させたり、日常でも自己嫌悪感などを発生させるということも可能な、この首輪1つでも洗脳装置として機能するものだ。ヴィアンデンシュタインは多種多様な洗脳器具を使って大量の奴隷を生産、供給してきた。精神操作プログラム、くるみ割り人形と呼ばれる夢操作型の洗脳装置、そしてこうした首輪など、各種の道具、器具、装置をコレクションしているのは、彼がこの洗脳という工程を単なるビジネスではなく、自分の美的感性を表現する芸術のようにとらえているからだった。

 ひとしきり笑い転げたルシエが、肩で息をして、やっと笑いを落ち着ける。顎紐のついた網模様のヘッドドレスがズレると、金髪の頭頂部が露出した。透明な容器の奥に脳の一部が見える。13歳という少女から女性の体へ成長する途中の状態で発育を停止するように改造された体は、子爵が「脳も臓器も美しい」と評した体の内部を、ところどころ露出させているのだ。ルシエが時々ティナに行うサディスティックな調教も、深層意識には成熟した女性への嫉妬のようなものがあるのだろうか。すべてを理解して配置しているとしたら、ヴィアンデンシュタイン子爵は本物の、反吐が出るほどの異常なサディストなのだろう。

「ティナ、もういいわよ。ちょっと休憩しなさい。ペトル、ティナを運んであげて」

 解放されたティナは、両胸を労わるように腕で抑えながら深紅のカーペットの上に膝から崩れる。母乳を何度も強制的に放出させられて、胸筋がつりそうなほど疲れている。繰り返しエクスタシーの波に洗われた体全体も、糸が切れた人形のように脱力した。その体を、6本の機械の手が引っ張り上げる。天井の高いフロアで3メートル近く、シャンデリア付近までティナの体が釣り上げられる。触手のような見た目のペトルの手は、先端だけ白い手袋をつけている。6本の手がティナの肩と腰と頭と膝を抱える。足がローラーになっているペトルは水平移動が非常にスムーズだ。隣の部屋へと移動する。

――――これって……、昨日の「レッスン」の続き? ……・最悪。

 ティナが思うと同時に、首輪のハートモニターがブルーに変色する。

「きちんと一つ一つのレッスンを修了しないと、次のステップに進めないよ。ティナちゃんの進みが遅いと、わたしたちが子爵様に怒られちゃう。だから、がんばろっ。ね?」

 無邪気な口調でルシエがティナを励ます。しかしティナの首輪のハートはブルーからさらに明度の低い、ダークブルーへと変わっていった。

 ティナが昨日、2日ぶりにルシエたちに反抗したのは、お掃除のレッスンの途中のことだった。床に這いつくばり、自分の口でゴミを咥え、床を舐めとって掃除する。そこまではティナも憤怒を耐えて我慢した。トイレの掃除でもだ。しかしそこから、宇宙海賊の手下の汚い男を練習台に、お客様の放尿、排便後の清掃というレッスンで、彼女の我慢は限界に達した。自分がこれまで数多くのチェイスで足蹴にしてきた、三下のゲス男の、排便後の肛門を舐めて掃除するということを知らされて、ティナは発狂寸前になって暴れだしたのだ。1巡目は精神操作プログラムによる自動運転。ティナは涙を流しながら自分の体が動くままに、屈辱を飲み込んだ。そして自分の意志で服従を受け入れていることを示させられる2巡目。怒りの頂点に達したティナ・ラ・ヴェスパがゲス男の急所をアッパーカットで一撃。ペトルの6本の腕をかいくぐって脱走を試みた。大広間のようなトイレを抜け出そうとしたところで、ティナの首に装着されている銀色の首輪が位置探査システムと感情認知システムから彼女の脱走意図を把握。両手と両足を麻痺させる。床に転がったティナは絶叫しながらペトルの腕に引っ張り上げられ、ルシエのお仕置きタイムに突入したのだった。

 昨日の記憶はティナの羞恥を、情けなさと恥ずかしさ、そして妙な体の疼きを掻き立てる。昨日のことでありながら、つい1分前のことのように感じられた。

「あらティナちゃん。2日ぶりの反抗ですね~。わたし、貴方の教育係として、お仕置きタイムに入らなきゃいけないわね~。股、おっぴろげて頂戴」

 やだやだと、ティナは子供のように駄々をこねて、空中で手足をバタバタさせた。しかしまだ首輪の発した四肢の麻痺信号の効き目が効いているのか、抵抗は弱々しい。触手のように動くペトルの6本の手に羽交い絞めにされた。恥ずかしい部分が隠しようもなくパックリと晒されてしまう。

「ルシエのここ使って、まずは海賊さんへの乱暴を反省しよっか?」

 痺れが残る弱々しい手足を精一杯バタバタさせて抵抗しようとするティナだが、空中で両足を全開に開かされた。ドレープとフリルのスカート、そしてパニエをめくると、ルシエのパンティーからは異様に巨大でブツブツの突起が目立つ、機械的なペニスが顔を出した。人工ふたなりサイボーグ。ルシエが優美に微笑んで、怪物のようなペニスをティナの割れ目に押し当てる。挿入の直前に、ドリルのような動きでペニスが回転を始めた。

「ティナちゃん。ちょっと激しいけど我慢してね。奥まで入ったら、ルシエのペニスの放電が始まるから、ちょっとの間、辛抱しよ。でも、廃人になりそうになったら、無理をせずに、すぐに手を挙げてね~」

 悲鳴を上げながらイヤイヤと髪を振り乱す、ティナの体がペトルの触手アームによって動かされ、ルシエの人工ペニスにズブリと貫かれる。涙をボロボロ零しながら、ティナの口が大きく開かれる。声は出ない。膣内でドリル回転をしていたルシエのペニスが放電を始めると、ティナはそこからしばらく、人間を辞めた。

「い~でぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃででぃでぃっ!」

 背筋を海老反りにして、弾かれたように跳ね回りながら、ティナがヴァギナの中から感電する。両目の黒目が極限まで寄り目になって、舌を突き出し、涙と鼻水、涎と尿と愛液を体中から噴き出しながら、ルシエのペニスがもたらす無慈悲な電撃と快感に、打ち抜かれていた。

「あらあら、ティナちゃんたら、お掃除のレッスンしてるのに、おトイレ、たくさん汚しちゃってるわね~。あとで、貴方がちゃんと、ここも綺麗にするのよ」

「なんでもしますっ。なんでもしますからっ……、電気やめで……電気、駄目なのぉぉぉおおお、いでぃでぃでぃでぃでぃでぃっ」

 ルシエの電撃ピストンは、ティナを根幹から吹き飛ばすほど強力な衝撃と快楽をもたらした。あれを全開で何度かくらうだけで、ティナはこの場所から、人間の尊厳を維持したまま出ることは不可能になるだろう。思い出すだけで寒気と愉悦の予感に身が震える。あの体験を繰り返すことを思うと、おとなしく数々のレッスンをこなし終えることの方がマシに思える。

――――でも……駄目。……・ルシエのお仕置きは怖いけど、ここで私が負けたら、奴隷取引は今世紀中に終わらせられない。……頑張るの。私は、第4銀河系きってのバウンティ・ハンター。その名も知れたティナ・ラ・ヴェスパでしょっ。……そうでしょ? ゲス野郎のケツの穴やチンポを舐めさせられたところで、私は私。変わらない。……変わらないはず・・よね?

 ティナが必死になって自分自身に言い聞かせる。それでも、すべてを投げ出してしまいそうになるような、自暴自棄な無力感はティナに容赦なく責めかかってくる。人格改造を可能にする精神プログラム解析を許してしまい、首には奴隷管理用の首輪。そして2体の強力なサイボーグに確保され、夜は自動的に洗脳装置「くるみ割り人形」の人格改造に晒される。ティナの限界はジリジリと近づいてきつつあった。

。。。

「新型の自動追尾ランチャー5つと炸裂弾30。プラネットホッパー5つにバトルスーツ10個。成層圏稼働タイプのゲルトリン爆弾75個に惑星解体クラスター爆弾2つ? ……ダニーボーイ。ヒョードー家を破産させる気? 私、おまけに今週で3度も恒星間100光年級ワープを利用してるんだけど……」

 ミチル・ヒョードーの笑顔が凍り付いてヒクヒクと痙攣している。ダニーボーイは感情感知プログラムを起動させる必要も感じなかった。

「1億チェントが大金だっていうのは理解しているよ。公務員の貯金じゃ足りなくて、名門ヒョードー家の口座に手を付けなきゃいけないっていうのも、申し訳ないと思ってる。でも、ティナが助かれば、彼女の隠し口座にもガッポリあてがあるから、そこでなんとか・・。ゴメンね。ミチル」

「わたしの結婚資金が、一瞬で武器に消えていくのよ。……シクシク。ダニーボーイに悪気がないのはわかるけれど、私が爪に火を点すような生活で溜め込んだ、未来の結婚資金が……。こんなの、パパに知られたら、一人暮らしも、自分で相手を見つけるっていう約束も、全部オジャンよ。……私、28までに自分で結婚相手を見つけられなかったら、パパが決めた相手のお嫁さんになっちゃうって、知ってるでしょ? ……恨むからね。そうなったら」

『誰も、わざわざ公安調査官の恨みを買いたいなんて思ってないってば。ラドコフも味方についてくれたんだし、あとちょっとの辛抱と、頑張りなんだから、我慢して、お願い。』

 コックピットでのミチルとダニーボーイとの会話に、老人からの通信が割って入る。

「防衛衛星ネットの裏に、警護兵の中継基地が潜んでいることがレーダーで探知されたぞ。追尾弾がもう8個必要じゃ。あとは閃光弾、警報妨害装置。……念のためにレーダー撹乱装置も追加で配備するか。……うむ。そうしよう」

 通信してきた割りに、ラドコフの口調は質問するつもりがない。独り言のような、通告のような、きっぱりとした事実の説明がされるのみだった。

「……シクシク。私、あと3か月はインスタント宇宙食の生活よ。美容にも悪いのに……」

『心配しないでよ。僕の知ってる中で美人といったら、ミチルとティナが双璧だよ。……例え無一文になっても、ミチルなら素敵な旦那様が見つかるよ。……もうちょっとだけ、辛抱してよ。』

 ガルダ星へと向かう特別公安調査官公用船では、若き美人調査官と人工知能プログラムとのセラピーのような会話と、兵倉庫からの矢のような発注とが繰り返されていた。

。。。

 扉が開くと、待合室には見慣れた巨体があった。ティナは自分の恰好を改めて意識して、顔を赤らめながらそっぽを向く。両脇を歩くんはルシエとペトル。ルシエが悪戯っぽい笑みを浮かべてティナに、前に進むように促した。

「今日の実地訓練は、昔からのお知り合いかな? 子爵様の手下を束ねる、元・宇宙海賊の船長、ゼーゲルさんです。ちゃんと『おもてなしレッスン』の成果を見せてね。ティナちゃん」

「……はい。ティナの練習の成果をお試し願います」

 教え込まれたように前に進んで、ピチピチだった子供用サイズのペチコートを脱いで、お辞儀するティナ。少しでも教わった方法と違う動きをすれば、コントローラーで操作されてしまう。しかし、今はティナ本人の自由意思で、旧知の宿敵に深々とお辞儀をさせられていた。

「お……おう。元気にやってるか? ……スズメバチのオテンバ娘」

 ゼーゲルも後頭部をポリポリと掻きながら、かつての強敵、今は囚われの姫となった奴隷訓練生を出迎える。ティナに怖い目つきで睨まれると、今でも体が臨戦態勢を取りそうになっていた。かつての腕利き賞金稼ぎと悪名高い宇宙海賊の親玉。奇妙な再会だった。

「ティナちゃん。昔と違って、今のティナちゃんは優秀な奴隷になるための特訓中なんだよね。お客様へのおもてなし方、きちんと見せてあげてね」

「は……はい……。かしこまりました。ゼーゲル様、ティナをごゆっくり、お楽しみ願います」

 条件反射のようにセリフが口からスルスルと漏れ出る。自分で唇を噛みたいほど、悔しい思いで、ティナは屈辱の言葉をやっとひねり出すと、無防備な裸を仇敵の前に晒して、きをつけの姿勢になった。銀色の首輪が青と僅かなピンクのグラデーションで点滅する。ゼーゲルにも大体の事情はわかっていた。

 ルシエがドレスの裾を摘まんで、優雅にカーテシーを見せると、2体のサイボーグは部屋を出るべく、背を向ける。ゼーゲルがティナに近づいてくる。

「ティナ……まぁ、なんだ……。こういうかたちで会うのも、変な感じだが、ま、俺たちの稼業にゃ、時の運で、こういうこともあるもんだと……」

「あ、ティナ。ちっちゃくミルク出してみて」

 ブピューッ。乳白色の母乳が、直立不動のティナから噴き出して向かい合った大男の体に弧を描くようにかかる。

「いやっ……。こんなの……。んはっ……」

 ティナが直立不動のまま、肩をすくめる。気をやった表情を、宿敵に見せてしまった恥ずかしさに、ティナはさらに追いつめられる。

「ゼーゲルさん、ティナちゃん、素直じゃないから、精神改造ちょっと進展させちゃった。気が向いたら指示してみてね。ウフフフ。アハハハハッ」

 思いつきの悪戯で楽しんだルシエが部屋を出ていく。あとからペトルがローラーで移動して退去しながら5本目の腕でボタンを押して扉を閉じた。

「お前、体も変わってくるくらい、精神を弄られてるんだな」

 ティナは顔をそむけたまま、むくれた。旧知の知り合い、しかもかつて何度も牢に送りこんだ敵の前に、性奴隷として立つのは、所見のご主人様やお客様に奉仕させられるよりも悔しく、歯がゆいことだった。

「ま、俺も下半身こんな機械仕掛けになっちまって、似たようなもんだ。生きてるだけでも良しとしなきゃならんな」

 ゼーゲルがため息混じりに両腕を開く。ティナはふてくされながらも、教え込まれた通りに、ゼーゲルの胸にしずしずとうずくまる。唇を開いて、熱い胸板に舌を這わせ始めた。

――――アンタが私の精神を最初に弄ったんでしょっ。アンタのせいで、こないだはあんなに大勢の前で、私の胸を、裸を……絶対に許さない。

 母乳放出直後にピンクの点滅で発情を示していた首輪が、赤く点滅して怒りを表示している。ゼーゲルは胸毛に覆われた胸板を愛撫されながら、気持ちよさそうに喉を鳴らした。

「なんだよ。ティナ。思うことがあったら、言っていいんだぜ。俺とお前の仲じゃねぇか」

 正直に言えと言われれば、そう行動するようにプログラムされているティナの表層意識。まだ深層意識までは完全な洗脳が達していないが、そこはヴィアンデンシュタインの洗脳メニューが時間をかけて進められている。

「……また私を弄ぶ気でしょう。海賊のくせに、男らしくないわよね……。アンタ、こないだみたいに私の精神を弄って辱める気? ……抵抗するにはゼーゲルに体を投げ出して奉仕するしかないとか、私の認識をまた歪曲させるんでしょ?」

 ゼーゲルの乳輪に舌を這わせるティナの両肩を軽々と抱きかかえて、ゼーゲルが仇敵の体を持ち上げる。唇を強引に重ねると、無骨な舌を無遠慮に押し込んだ。ティナの呼吸が止まる。苦しそうに、それでも精一杯、ティナが大男の舌を受け入れ、唾液を喉に収める。

「ん……・んん・・」

「一度は惚れた女を、性奴隷の調教進捗確認として抱かなきゃならん、情けない男の立場もわかってくれよ。お前をもっと違うかたちで抱きたかったんだぞ。自由闊達なスズメバチさんを、……俺の生まれた時から持ってたイチモツでな……。今じゃ、……こうよ」

 ゼーゲルが下半身のプロテクターを外すと、機械の下半身の中央、両足の間には、人工被膜で作られた、ごく普通の人間のペニスを模した人工尿処理器が備わっていた。見た目は普通のペニスと変わらないが、根本からメタリックレッドの機械義足に繋がっている。そのペニスを、持ち上げたティナの体。無防備な下半身に押しつけてくる。

「私のあの時の射撃? ……わざとアンタの股間を狙ったの。でもあの状況で命中するとは思わなかったわ」

「レーザーライフルのショットもあったが、その後の海賊船。……俺のケルベロス号の爆発に最後まで付き合ってたのが致命傷だったな。……まぁ、そういうこともある」

 ティナが両足の抵抗を少し緩める。これはプログラムとは関係ない、自分の意志だったかもしれない。微妙すぎる部分は、自分が規定通りに動いているのか、自分の自由意志で許しているのか、本人では判断しきれない時もある。

「うぅっ……あっ……これは……。さっき、……お乳が出ちゃった時の副作用で……」

 ティナは潤んで緩んだ自分の股間の状態について言い訳する。サーモンピンクの割れ目はアッサリとゼーゲルの人工ペニスを咥えこんでしまっていた。首を左右に振りながら言い訳するティナ。その首元では、ピンクのハートが明滅して、ティナ本人の発情と快感を表示していた。その首輪中央のパーツを、ゼーゲルはゴツイ手で覆い隠す。

「俺より無粋な首輪だな。こんなのもの見えなくて、手探りでやった方が、セクシーだと思わないか?」

 宇宙海賊は口元まで伸びたモミアゲと、ごま塩の無精髭を指でさすりながら、股間で結合してティナを支えている状態から、もう一度両手で抱きしめた。

「奴隷じゃなくて、普通の女としてのティナをよがらせたいな」

「こ……こんな、冷たい人工ペニスで、気持ち良くなるかっ」

 ティナがまだ強がる。が、首輪のハートが恥ずかしいほどピンク色に激しく点滅している。股間の内壁。敏感なヴァギナはティナの意図とはうらはらに収縮して、ゼーゲルのモノを握りしめていた。どうして下半身が無骨な作業機械になった男が自然で普通なペニスを取り戻すために苦心していて、美少女のサイボーグはメカニカルな放電ドリルペニスを装備しているのだろう。ティナの快感に攻め立てられている頭では、何もかもがわからなくなりそうだった。

「……じゃ、ちょろっとミルク出すか? ……お、量も勢いも、調節出来るのか」

 ピュルっと僅かに、ティナの大ぶりになった乳首から温かい母乳が飛び出して、ゼーゲルの胸筋を打つ。ティナがあられもない、無抵抗な喘ぎ顔を見せてしまう。

「うはっ……。もうっ……・恥ずかしい……悔しい……。止められない……。くそぅ……・バカヤロウ……」

 目の端から思わず零れた涙の球を、ゼーゲルの太い指が拭った。

「今だけ全部忘れろ……。……ティナ、イクぞっ。……お前も一緒にイクんだ。2人一緒に。無垢でウブな恋人みたいに一緒にイクんだぞ。今日だけは、普通に……だ」

 ティナも抵抗するのをやめて、ゼーゲルの動きに合わせて腰を振った。「今日だけは普通に……」そう繰り返されるほど、明日は何が待ち構えているのか、恐ろしくなる。その恐怖から逃げるように、ティナは激しくゼーゲルの腕の中でわなないた。

「いっ……イクッ……。イックゥゥウウウウッ」

 ティナが悶えながらオレンジの髪を振り乱す。ゼーゲルも人工ペニスの動作をぎりぎりまで生の脳で抑え込んで、最後の最後に一気に放出した。ティナも同時に果てる。二人で成層圏を飛びぬけて、無重力の空間に飛び出したような解放感を噛みしめた。

 肩で息をするティナ。やっと意識を取り戻すと、思い出したように膝立ちになって、ゼーゲルのイチモツを舌で綺麗にする。ルシエ先生様に教えて頂いた通りに振る舞う。そうすればお客様にも満足して頂けるし、先生様のお仕置きを頂く心配もない……。

「……そろそろ、行くわ。……お前もまぁ、ヘビーだろうが、気丈にやれや」

 ゼーゲルの口調は無作法でぶっきらぼうなものに戻っている。雇われ用心棒と性奴隷見習い。2人は部屋に入って来た時の立場に戻って、別れる準備をしていた。

 。。

 翌朝の寝覚めもとても悪い。ティナは不満そうな顔をしながら、2体のサイボーグにご挨拶をする。

「今朝は朝早くからお目々も頭もシャキッとするように、お水をあげます。ティナちゃんは低血圧じゃないみたいだけど、朝一番のお水はとっても体にいいのよ」

 透明な水差しから、細身のグラスに水を注いでくれるルシエ。
「今日は、貴方の嗜好がどれだけ私たちにとって造作もなく改変・書き換え出来るのかを、身をもって実感してもらうからね」

 ルシエは本当に面白そうに、ルンルンしながら透明なピッチャーからグラスに水を注いだ。横でペトルは直立したまま無表情でティナを見下ろしている。

「ほら、ティナちゃん。このグラスのお水。ちょっと飲んでみなさい」

 逆らっても、ルシエにはどうせ、コントローラーの操作1つで無理矢理従わされる。そう思うと、ティナはごく当たり前のように、ルシエの言葉通りに行動していた。それに今朝くらいから、言われた通りに動く自分を、とても楽に感じているような気がする。

 グ……ゴクゴクゴク。

 上等な軟水。荒涼とした砂漠が続く、ガルダ星ではあまりお目にかかれないであろう代物。きっと他の星系からの輸入物だろう。

「はい、そこまで。……今度は、ペトル。1本入れちゃって」

 ペトルが無表情のまま、御者のような服装の白いタイツに腕を入れる。股間から取り出した手には、縮れた茶色い体毛が摘ままれていた。表情を一瞬曇らせるティナに構わず、彼女が手にするグラスに、取り出した陰毛を浮かばせた。

「ティナちゃん。残りのお水を全部飲んじゃいなさい。グラスに入ってるものは全部美味しく頂くのよ。ウフフッ。……あら、ヤなの? ……じゃ、実行ボタン。ポチッとな」

 ルシエが手元のコントローラーに触れると、ためらい、迷っていたティナが慌てて口をグラスの縁につけ、グイッと細身のグラスを傾ける。飲みながらダークグリーンの瞳をグラスの中に寄せようとするのだか、彼女が茶色いペトルの陰毛をその目で捕捉した瞬間に、水と一緒にそれはティナの口から喉、そして胃の中へと逃げて行ってしまった。

「どうかしら? ティナちゃん。お口に合いまして?」

「お……美味しい……。なんで? ……こんな美味しい飲み物、……初めて」

 ティナが悔しさに打ちひしがれながら、グラスにまだ数滴残っている水滴を、舌を伸ばして舐めとる。はしたないとわかっていても、心が沸き立つような渇望に、我慢が出来ない。

「そんなに気に入ってもらえたら、ペトルもちょっと嬉しいんじゃないかしら。もう1本。いや、もう3本くらい、こっちのピッチャーに入れちゃってよ。今日はティナちゃんに大サービス。ピッチャーごと飲ませてあげちゃうわよ」

 ペトルの持つトレイの上のピッチャーを、ひったくるようにして奪い取ったティナは、大ぶりの水差しに直接口をつけて、サイボーグ中年男の陰毛が浸された水を大量に喉に流し込む。

―――――うっ……苦しい・・、汚い……。……でも、美味しすぎるっ。美味しいっ。美味しいっ。もう、何でもいいから、もっと、もっと、もっと!

「ティナ、お預けっ」

 これまで仕込まれた通り、反射的にティナが両手を床につき、両足を開いてしゃがみ込む。それでも、目の前に置いた水差しから片時も目を離すことは出来ない。すでにティナのお腹は水が入りすぎてタプタプに膨らんでいるのだが、それでもまだ飲みたくて、口から涎が恥ずかしげもなく垂れ落ちていく。喉が熱砂漠に変わってしまったかのように、焼けついて、陰毛入りの水を求めている。

「何が言いたいか、もうわかるでしょ? ……貴方の好みやタイプなんて、簡単に書き換えられちゃうの。意地張ってご主人様へのご奉仕を嫌がって見せてたら、ボタン1つで精液中毒に落とすことだって出来ちゃう。その時、のたうち回って無様な姿を晒すくらいなら、もっと新しい運命に前向きに生きなさいってこと。うふふふ。柔軟に生きれば、また陰毛水、ご褒美に上げるからね。アハハハハ。アハハハハハハ」

 味覚調整を戻してくれたルシエの笑い声を背中で聞きながら、ティナはトイレに駆け込んで、悲鳴を上げる胃からの逆流を便器に吐き出した。吐いた副作用か、涙が目に滲んでいた。

 。。

 午後はティナを別室の椅子に座らせる。これまた貴族趣味が、行き過ぎたほど追求された調度の巨大な椅子と、ヘッドレストの部分には、着座した人の頭を覆うような半球の強化ガラスが備え付けられていた。

「お座りなさい。ティナちゃん。今日は面白いものを体験させてあげる。子爵様のコレクションの一つ。『エルフィーヌの回顧録』よ。ちょっとだけ眩暈がするかもしれないけど、我慢してね」

 ティナは豪胆に、1つため息をつい見せて、ルシエに促されるままに椅子に身を預けてやった。しかし、内心では、ヴィアンデンシュタイン子爵の異常な嗜好を反映した、洗脳道具の数々を見せられるだけで、密かな恐怖を感じている。首輪のハートには水色とオレンジのグラデーションが表示されていた。

 ティナがシルクのバスローブのまま椅子に腰かけ、両手を腕置きの上に乗せると、瞬時に蛇の模様をあしらったベルトが現れる。腕置きだけではない、腰と首と、脛も、ベルトがティナの体を固定する。彼女の内心の怯えがより濃い青となってハートのモニターを染めた。

――――私の体の動きを操れば、わざわざ椅子に固定する措置なんて必要ないはず……。この椅子、万が一にも私が精神操作のプログラムを逃れるほどの抵抗を見せるということまで想定しているの? ……いったい、何が狙い?

「怖い? ティナちゃん。……じゃ、ちょっと楽しくしてあげよっか? うんしょ……・。ガチャン。どうかな?」

 椅子のヘッドレストの後ろ側から、バグパイプの古風なサーカスのような演奏が流れ始める。これも物理的なからくりのようだ。そしてティナの頭部から10センチほど上の空間を覆っている半球対の強化ガラスから、シュィーーーーンとかすかな機械音が聞こえ始めた。警戒するティナ。……しかし、久しぶりに戦闘を意識したからか、気分が高揚したティナは、少し口元をほころばせて微笑んだ。

――――確かにちょっと……楽しい? ……何これ? ……どういうこと? ……・感情操作ね。

 周りをキョロキョロと伺うティナ。それでも笑顔がどんどん大きくなるので、まるで遊技場のエンターテイメントライドが動き出すのを心待ちにしている、おさなごのような仕草に見える。

「いまさら、私の感情なんか弄って、楽しいか? ……こんなオンボロ装置。……ヴィアンデンシュタインのただの骨董趣味じゃない」

「ティナちゃん。……オンボロじゃなくて、アンティーク」

 ルシエが諭すように囁く。彼女が椅子から1メートル離れた場所にある制御盤のスイッチを捻ると、ティナは途端に悲しくてしょうがなくなって、ボロボロと涙を零し始めた。感情のコントロールが自分自身では出来なくなっている。完全に洗脳装置にチューニングを合わせられたらしい。

「こんなの……負けないって、言ってるでしょ。いまごろ、感情操られたから、どうだっていうのよ……・。馬鹿ぁ~。うえええええええええんっ。びえぇえええええええええんっ」

 堰が切れたように、ティナは溢れる涙が頬を伝うままにオイオイと咽び泣いた。ルシエが旧式のスイッチ音をバチンと鳴らすと、今度はティナは唇に血がにじむほど歯噛みして怒り狂い、次のスイッチ音ではウットリと遠い目をしながら歓喜の悦楽に浸り、その次のスイッチ音を聞いた時には涙と鼻水、涎で汚れた自分の顔のことが急に恥ずかしくなって、身をよじって羞恥に悶えた。

「これは初動の確認みたいなもんだよ。『エルフィーヌの回顧録』の本領発揮はこれからなんだから。ティナちゃん。私、色んな年上の人の思い出話を聞くのがとっても好きなの。私が成長出来ないから、大人の人の思い出って、とーっても憧れるんだ。聞かせて、ティナちゃん。あなたの初恋の相手はだーれ?」

 バグパイプの無邪気な演奏が、逆回転し始める。ティナの頭の中には急に昔の思い出が、今、目の前で繰り広げられているように再現され始める。

「え? ……今、何年? ……わ、私がいる。まだ17歳の私。……スキッパーの操縦の仕方を、賞金稼ぎのアイケルカンプに教わってる。……孤児の私が、バーに住み込みで働いていた頃に、アイクは私に自由になる方法を教えてくれたの。……ここ、『ごろつきラグーン』の裏の丘? ……もう無くなったはずなのに……」

「17歳? ……なかなか遅かったんだね。……今のティナちゃんからは、想像出来ないくらい、奥手で初心な女の子だったんだね……。うふふ。……でも、そんなティナちゃんの不器用さ、今でも時々、垣間見れるかも……。愛しのアイケルカンプ様はどんな人? イケメン?」

「別に……ハンサムじゃないけど、背が高くて、ぶっきらぼうなようでも、優しかった」

 ぼんやりと、しかし熱のこもった目で、ティナが昔の恋人を見直す。

「もっと、見た目を細かく教えなさい、ティナ」

「がっしりした体格だけど、必要な筋肉だけついていて、顔は堀が深くて、目の色は黒だった」

「髪は?」

「伸ばしてて、後ろで束ねてた」

「長さじゃなくて、色は?」

「……・オ……オレンジ・・」

「ィヤッターッ。私の思った通りー。ティナちゃん、生まれつきのプラチナブロンドの髪も眉も、初恋の相手と同じ色にしちゃってるじゃーん。超ロマンティスト。きゃわいい~」

 ルシエが嬉しそうに手を挙げる。無表情で隣に立つペトルも手を挙げた。2体の教育係サイボーグがハイタッチをした。ティナは椅子の上でわずかに身を縮める。恥かしすぎる。このまま、消えてしまいたかった。

「ファーストキッスの様子も全部赤裸々に話しなさいよ。ティナ」

 ティナの思考はこの古風な洗脳装置にガッチリとマウントされてしまっているようだ。目の前に鮮明に再現される、心の奥底に大切にしまっていたシーンを、ほとんど意識せずに口で説明している。全ての秘密が垂れ流されていくことを、ティナは止めることが出来ない。

「アイクのチームがチェイスから帰ってきて、『ごろつきラグーン・バー』で派手な打ち上げをしていた時に、酔ったアイクが入ってきて、カウンター裏で私と抱き合って、キスをしたの」

「激しかった?」

「……アイクは、私が引っ込み思案で、男の人が苦手ってよくわかってたから、優しかった……」

「あら、素敵な思い出ねぇ~。ご馳走様。……ちょっと待ってね。一旦停止」

 ルシエが制御盤を操作すると、ティナの目の前の温かい思い出がピタリと時間を止める。アイケルカンプも、頬を染めて目を閉じて唇を重ねている、今のティナとは結びつかないようなプラチナブロンドの清純な乙女も、恥じらいながらのキッスの途中で、ピタッと動きを止めたまま、微動だにしない。

「ファーストキッスで、思いっきり舌を入れられたことにしない?」

 ルシエが思い付きで喋って制御盤に触れた途端、ティナの目の前の光景が少し変わる。優しかったアイクが、この時に限って、ティナの唇を奪っただけでなく、強引に舌を押し込んできていた。

「えっ……嘘っ……。そんなはず……が……・。あれ? ……こうだった……んだっけ?」

 目の前の光景があまりにもリアルで鮮明で、ティナは頭の中で必死に、その時のことを思い出す。甘く切ないファーストキスの思い出は、初めてで激しい、ディープキスの記憶に完全に置き換わっていた。今でも口の中に、あの時強引に入ってきた、乱暴でざらっとしたアイクの舌の感触が、ありありと蘇ってくるほどだ。

「この時、ティナはどうしたんだっけ?」

「もっ……もちろん、嫌がって、アイクを押しのけた」

「違うでしょ。もっと激しいのを求めて、愛しのアイク様に顔中、舐め回してもらったんでしょ」

「あっ……あぁあああっ」

 顔から火が出るほど恥ずかしい。ティナのファーストキスの思い出はずいぶん変わってしまった。それでも、ルシエの言う通りだった。目の前で繰り広げられているのは、あの頃のウブだったはずの乙女の、突然の人が変わったかのような痴態だ。

「いやっ……なんで、私、あの時、あんなことっ」

「はい、ここでいよいよ、記憶書き換えと感情操作のハーモニーが奏でる、このアンティーク洗脳装置の本領発揮よ。ほら、恥ずかしがることないじゃん。ティナちゃん、どんな気分」

「……ん……ふぅ……んふんっ……。こ……興奮・・してるっ……。・・え……エッチな……気分っ」

「そうよ、あの時の記憶が蘇ったと同時に、あの時の気持ちも帰ってきたわよね。あなたは、最初のキッスで、発情して、エロい気持ちが抑えきれなくなって、どんどん激しいプレイを要求したのよね。その時のエッロい気持ち、完全に思い出したでしょ?」

「う……はぁんっ……は……はい……」

「キッスのあと、ティナはアイクと何をしたんだっけ?」

 制御盤のキーボードをパチパチとはじきながら、ルシエが質問する。ティナの目の前で繰り広げられる異常事態は、目が覆いたくなるほどのものだった。

「か・・かっ……浣腸してもらいました……。酒瓶をお尻の穴に突っ込んでもらって、ず……ズコズコと・・出したり入れたりしてもらって……。弱い酒の浣腸」

「デンジャラスね~。その時のティナの口は? ……恋人アイク様への愛の言葉でも紡いでいたの?」

 ルシエは自分で全く違う記憶を入力しながら、意地悪く質問する。

「違います……。アイクのチームメイトの酔っ払いオジサンの、……チンコを銜えていました」

「あら、ファーストキッスの思い出聞いてただけなのに、アナルバージン喪失と、初フェラに、初浮気まで一気に出てきたわね。さっすがティナちゃん。破天荒な恋愛遍歴ねぇ~。ラストはやっぱり、酔った荒くれ男たちに輪姦されてザーメンまみれよね? ……じゃ、最後に教えて、その間中、ティナちゃんの気分はどうだったの?」

「……さ、……最高・・だった……。今でも忘れられない……。気持ち良すぎて、興奮しすぎて、……何度もイって、……大も小も漏らしちゃって、全部忘れて、よがり狂ってた……」

 ティナが口を押えることも出来ずに頭に入ってくる言葉を垂れ流す。目からは涙がポロポロこぼれているが、これはルシエの指示したものではなかった。

 バグパイプの演奏が、少しずつテンポを遅くしていく。ルシエが舌打ちした。

「あら、やっぱり古い機械だなー。もうエネルギー不足なの? ……もっと色々改変したかったなぁ~」

 演奏がスローダウンすると、音が低くなっていく。ティナは「発情」の行き場がなくなって、手を触れることもなく股間の秘部から潮を噴くと、椅子に深く沈み込んで眠りに落ちる。頬を涙で濡らしたまま、太腿の間に水たまりを作ったまま。大きな負荷のかかった脳を休めるように、深い眠りのなかに沈み込んだ。

「また今度、この装置で遊びましょうね。ティナちゃん。……私、次は貴方の、人生最高の誕生日パーティーの思い出を聞かせて欲しいなっ。うふふふ」

 目が覚めた後、ティナは『エルフィーヌの回顧録』という古い椅子に自分が座ったことも忘れていた。夕方になると、ティナはルシエの股間の人工男性器を四つん這いの姿勢で銜えさせられ、ペトルには後ろから、お尻の穴に酒瓶を突っ込まれ、責められた。嫌がってみせるティナだが、頬は少し赤らんで、首輪のハートモニターは密かな心の疼きを表示している。ティナの脳裏に、初恋の甘酸っぱい思い出が不意によみがえってしまったのだった。はるか昔の記憶だが、心の奥にズキズキとあの時の興奮が蘇ってくる。そんなティナの様子を見て、満足そうにルシエが進捗報告を書きとめる。

――――これ……たまたま、あの日の状況と一緒……。凄い偶然……。でも、こんなこと、過去にもされたことあるなんて、しかも、あの時は自分からお願いしてこんなことしてもらっただなんて……。絶対、ルシエたちに知られちゃ駄目よっ。

 ティナは自分の表情を読み取られないように、目を閉じて必死に素知らぬ顔を取り繕っている。ルシエはそんなティナの懸命な抵抗を慈しむように、クスクス笑いながらティナのオレンジの髪を撫でていた。

< 後編へ続く >

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