タクマ学校 その3

その3

女子高生 秋里梢

 私が部活が終わって家に帰ろうと、校門からバス停に向かって歩いていた時、私を呼び止めたのは、意外な相手でした。クラスの不良、藤堂陽子です。私は彼女とは、どちらかというと仲良しというよりも、敵対関係にあったので、ついつい身構えてしまいました。

「何の用? 藤堂さん、言っとくけど、こないだのタバコの話だったら、私に文句言うのは筋違いよ。あなたが自分でタバコ吸って肺ガンになろうと勝手だと思うけど、クラスメイトに勧めたりするのは見過ごせなかったの。そのことで私を逆恨みするのは勘違いも・・」

「まあまあ、その話じゃないってば。あれは私も森下にこってり絞られて、ちゃんと反省したんだから。悪かったのは私だってわかってるって。今日は仲直りをしにきたの。ちょっと話しやすいところまで場所を移せない?」

 いつもの、性格極悪って感じの陽子が、今日はうってかわって下手に出てきたもんだから、私も、うっかり先制攻撃に出たことを反省。一応学級委員やってるのに、クラスメイトを偏見の目で見ちゃったことを恥ずかしく思って、陽子のお願いを断れない雰囲気になっちゃいました。

「あ、そうなんだ・・・。ゴメン! 私、てっきり陽子が、私が森下先生に言ったことを怒ってるってばかり思ってた。私の方こそ許してね。」

「いいってば。ちょっとそこまで付き合って欲しいの。」

 私が、これまでは教室でもあんまり親しく話したことのない陽子と、ちょっとギコチない会話をしながら、一緒に路地裏まで歩いて行きました。歩きながら話をしていると、実は陽子は陽子で、色々と悩んでいるんだってことがわかってきました。男友達のこと、進路のこと、家族のこと、特に最近ふさぎこんでしまっている弟のことなどで、意外と真剣に悩んでいるみたいです。彼女が非行に走っているのも、本当は彼女の悩みを聞いてあげる人がいないからなのかもしれません。だとしたら、私がちゃんと話を聞いてあげないと・・・。高校の裏手の路地裏は、夕方はもう、あまり人気がなくなっていました。こんなところで話をしたがるなんて、陽子はよっぽど、ちゃんと二人で話がしたいんだと思いました。ところが、路地裏には既に、先客がいたんです。

「これ、私の弟。マサトって言うんだけど、実は折り入ってお願いがあるの。私ら、馬鹿やってる友達しかいないからさ、優等生の梢に、私の弟の悩みを聞いてやって欲しいの。こいつの言ってることが、私にはよく理解できなくて。私、弟の悩みをちゃんと梢が聞いてくれて、アドバイスくれるんだったら、ちゃんと真面目な学生になるし、もう森下とか、学級委員のアンタを困らせるようなことをしないって約束する。」

 小学生ぐらいの男の子は、深刻そうな表情で、うつむいてました。私は、これまで嫌なヤツってばっかり思ってた陽子の、弟思いぶりにすっかり感動して、もう、どんなことでもしてマサト君の悩みをなくしてあげたいって思いました。それにこの男の子の悩みさえ解決してあげれば、クラスも平和になって一石二鳥じゃないですか。こう言うのもなんですけど、私、小さいときから、グループのリーダー的存在になることが多くて、人の悩みの相談とか、得意な方なんです。今学級委員やってるのだって、単に成績優秀で、顔が可愛いからってだけじゃないんです。男子からだけじゃなくて、女子からもリーダーとして慕われてるから、こうしていつでもみんなのまとめ役に、祭り上げられちゃうんですよ。

「どうしたのー? マサト君。お姉さんがどんな悩みでもちゃんと聞いてあげるから、お話してくれない? もし陽子お姉さんがいるところだと話にくいんなら、お姉さんと二人だけで話してもいいから。ね?」

 腰を落として、うつむき加減のマサト君とちゃんと視線を揃えて、両手を彼の肩に当てて、ニッコリ微笑む。首はちょっと右側に傾ける。男の子は大抵、私の必殺スマイルで、みんな心を開いてくれるんです。マサト君も、少しずつ、私に自分の悩みを打ち明け始めてくれました。楽勝です。

「あのね、みんなが、僕が見えるって言ってた星が見えなかったから、僕が嘘をついたっていうんだ。僕は嘘なんかついてないのに・・・。みんながいじめてくるんだ。」

「星? お空の星のこと?」

 私がキョトンとしていると、マサト君はポケットから、小ぶりのペンダントを出してきました。

「お母さんのペンダント。この宝石の中に、オリオン座の形に星が見えるんだ。ほら、お姉さんは見える?」

「うーん。ちょっと待ってねー。揺れちゃっててしっかり見えないなー。でもきっと、マサト君の言う通り、キレイなお星様が見えると思うよ。」

 私が、自分の顔の10cmぐらい先に突き出されたペンダントを必死で目で追いました。ここは何とかこの子の言う、宝石の中の星を見つけてあげて、彼の信頼を勝ち得ないといけなさそうです。

「よーく見て。ちょっと赤っぽくキラキラしてるところの右の方。小さいからよーく見てね。じっくり見つめていると、だんだんしっかり見えてくるよ。宝石がどんどん大きくなってるみたいに感じられて、どんどんキラキラが視界全体に広がってく。そうしないとオリオン座のキラキラが見えないよ。ほら、石が揺れてるけど、ちゃんと目で追っかけてー。ちょっと目が疲れてくるけど、もうちょっとで見えそうな気がして、宝石から目が離せないよ。」

「あ、あれ、・・・ちょっと今見えたような・・。ほら、あ・・。」

 石に凄く集中してみると、チラッとオリオン座の形に輝いたみたいな気がします。何だか男の子の言葉通りに、石から目が離せなくなってきました。

「ほらっ、あなたの全神経が石に集中して、石の中に入り込んでしまいます。キラキラキラキラしてくる。すーっと宝石が近づいてくると、あなたは気持ちがよくなって目を閉じてしまいます。」

 急にペンダントを、眉間に当たりそうな距離に近づけられて、私の両目は、すっかり寄目になってしまいました。焦点がずれて、外の世界が重なって見えたような、気持ちの悪い瞬間に、男の子は私の目をすっと片手で閉じると、一転して、強い口調で私に話しかけてきたんです。

「目を閉じてもあなたの意識は宝石の中にあります。まわりがキラキラキラキラ、とっても気持ちがいい。僕があなたの体を、このままそっと押すと、あなたはゆっくりと後ろに倒れますよ。後ろでは陽子が支えていてくれますから大丈夫。あなたは倒れながら、深ーい眠りに落ちるんですよ。ほらっ。」

 男の子が私の両目をふさいでいた手で、ぐっと私を押すと、私はそのまま、背筋以外が脱力するみたいに、まっすぐ倒れこんでしまいました。鞄と、テニスウェアの入ったナップサックが地面に落ちる音がして、私の意識はみるみる遠のいていってしまいました。

 ふと私は、何だかものすごく空っぽな感じになっている自分に気がつきます。地べたに座り込んで、壁にもたれかかっている感触があるのですが、そのことを別にどうとも感じません。何か思おうとしても、頭が全く働かないのです。ただボンヤリと、私の前で話をしている男の子と、陽子を見ています。二人の会話は聞こえるのですが、ただ空っぽの私を素通りしていくだけです。

「はい。完了。今何分たった?」

「最初に喋りだしてから5分24秒。後倒からは1分30秒ぐらいだと思う。さすがじゃん。マサトを落としたところを見てたから、落とせるとは思ったけど、正直、ここまで早いとは思わなかったわ。さすが私の先生ね。タクマ、セ、ン、セ。」

「5分で行けると思ったのに。30秒近くオーバーしちゃったんだ。もっと練習しないといけないなあ。」

「アンタねえ。初対面の女の子を、道端で、5分チョイで完璧な催眠状態に落とす催眠術師なんて、聞いたことがないって。アタシもアンタと会ってからこの1週間で、催眠術についてはかなり勉強したけど、そんなことが出来るって書いてある本なんて一冊もなかったわ。アンタは今、すっごいことしてんだから、ちょっとは嬉しそうにしたらどうなの?」

「まだ決定的に、経験が少ないよ。もっと色んなタイプの人にかけてみたい。陽子も催眠術、本気で僕に習い続ける気があるんだったら、どんどん数をこなしていかないと駄目だよ。」

「はいはい。タクマちゃんの仰る通りです・・。じゃあ先生、これから授業をお願いしますね。たっぷり勉強して、写真も一杯撮るから。計画通りに頼むわよ。」

「別にこの子をトコトン辱めて、陽子の奴隷状態にするのなんて、ここまで来たら簡単だけど、ここじゃあちょっと場所が悪いから、また場所を変えようよ。・・・梢ちゃん。あなたは僕が手を叩くと、体に力が入って起き上がることが出来ますから、僕の案内するままに、頭空っぽのままで歩き出しましょう。ほーらパンッ」

 私は男の子の両手がなると、ただ言われたことに反応して立ち上がりました。立とうとか、立ちたくないとか、何も私の頭は決めることが出来ません。意思も感情もすっかり抜けきってしまった、空洞の頭で、ただただこの男の子の言う通りに体を動かしていくのでした。

 ふと意識が戻った時には、私は公園の茂みの中で、号泣しています。自分の中の言葉に出来なかった色んな思いが、溢れ出して抑えられない状態でした。あんまり泣きすぎて、呼吸も満足に出来ないぐらいです。

「大丈夫だよ。梢ちゃんは偉い子だ。親友の彼氏を好きになっちゃったのに、ずっと隠してたんだー。偉いねー。でも今日は、そのサトル君のことを考えながら、前みたいにオナニーしてみよう。今度は、前みたいに辛い気持ちにはならないよ。すっごく気持ちいい。ずっと自分の気持ちを我慢していた梢ちゃんだけど、今は深―い催眠状態だから、何も我慢しなくていいんだ。どんなに欲望のままに変なことをしても、それは梢ちゃんのせいじゃない。催眠術にかかっちゃってるから、しょうがないことなんだよ。梢ちゃんは何にも悪くない。サトル君のことを考えながらオナニーしまくっても、誰も梢ちゃんのことを軽蔑したりしないんだよ。今が、梢ちゃんが1年以上も抑え続けてきた、欲望を大爆発させる一番のチャンスなんだ。さあ思いっきりオナニーしてみよう。」

 私の肩が叩かれると、大泣きしていた私は、急に体中が熱くなって、変な気分になっちゃいました。生理前でもないのに、どうしてもムラムラしてきて、両手が自分の体を、イヤラしくまさぐり始めてしまいます。

「陽子、ほら、交代してみる?」

「やるやる。・・いい? 梢。よく聞きなさい。あなたは自分の体を触るほど、どんどん興奮してくる。これまでのどんなオナニーよりも気持ちいいの。ほら、遠慮しないでアソコを直にいじりなさい。」

「はぁぁっ・・あぁぁぁっ・・・」

 体がどうしようもなく熱い。私は耳もとの女の人の声にどんどん焚きつけられて、これまでにないような大胆な仕種で自分の体を慰めてしまいます。自分を抑えようと思っても、もうどうにもならないぐらい、おかしな気分になっちゃっているんです。何回もフラッシュがたかれて、私の恥ずかしい表情とか格好が、アップで撮られているみたいなんですが、茹で上がったような私の頭はもう、思いっきり自分を慰めることしか考えられません。

「ほらもう、もったいつけてないで、服なんか全部引きちぎっちゃいなさいよ。アンタはもう、一秒でも早くイクってことしか考えられない、オナニー馬鹿よ。汚いマンコを目一杯広げちゃって、もっと激しくイジりまくりなさい。・・そう。もっと激しく、もっと下品に。そうよ。」

 私のすぐそばで、興奮したみたいに小さく震える声で、女の人が話しかけます。私は、制服も下着も乱暴に剥ぎ取って、裸になって激しく自分を苛めることしか、出来なくなっていました。

「私が許さないと、アンタはイクことなんて出来ないわよ。でもアンタはもう、とにかくイキたくって、アンタのそのヤラしくムレたマンコをほじくりまわすの。ほらもっと腰を上げて、カメラの前にさらけ出しなさいよ。もっともっと音を立ててほじりなさい、くっさいマン汁をだらだら垂れ流すの。」

 私は、悲鳴のような、喘ぎ声のような声を立てながら、自分の体を苛め続けました。女の人に煽られるたびに、半狂乱で転がりながら、オナニーを激しくしてしまいます。

「梢ってば恥ずかしいわねー。イきたいのー? あと10分はそうやって狂ってなさいよ。」

「陽子って・・、もういいじゃん。はい、僕が梢ちゃんのお腹を触ると、梢ちゃんはもの凄いエクスタシーを感じて、イっちゃいます。そしてその凄まじいエクスタシーを感じたら、梢ちゃんの体と心の中は、催眠術の完全な虜になってしまいます。あなたは頭では操られることを拒否しても、体と深い意識の中では、催眠術でまた自在に操られることを求め続けるんです。はい、イっていいよ。」

「アァァァァーーーーッッ」

 声と一緒に、私の頭の中は、粉々になってしまいました。真っ白になった私は、そのままもとの、空っぽの状態に戻って脱力していきました。

「何よ。アタシはあと10分ぐらいオナらせてみたかったのに・・・。それに私の指示よりも、タクマの言うこと聞くなんて、やっぱり梢はムカつくヤツだよ。」

「僕が催眠状態に落として、丁寧に一つ一つの暗示でここまで導いたんだから、当たり前だってば。それよりも陽子の言い方は、キツすぎるよ。もし梢ちゃんが普通のレベルの催眠状態だったら、拒否して起きてたと思うよ。もっと相手が受け入れやすい口調で「誘導する」ってことを意識しないと、失敗するからね。」

「わかったわかった。優しい、お上品な口調ね。お任せあそばせ。・・・それより梢だけど、もっと色々イジメさせてよ。こいつは私に楯突いたんだから、いい気持ちにさせるんじゃなくて、すっごくミジメな、どん底の気分を味わわせてあげたいの。」

 二人が色々と話をしていますが、また私の頭の中を、言葉が素通りしていくだけでした。

主婦 佐久間かおり

 熟睡している頭の中で、またあの言葉が響いています。

「かおりさん。あなたは、目が覚めたら、家に帰ってきてから起きたことは全て忘れて、すっきりとした気持ちになっています。でもあなたの深層意識の中では、あなたは自分が、お漏らしをして自分の子供に後始末してもらうような、恥ずかしい母親だということを忘れません。あなたは自分の子供の友達の前で裸で踊ったり、セックスをしてイきまくったりする、恥ずかしい女なんですが、そのことが、なんとあなたをものすごく興奮させます。あなたは恥ずかしいことで感じる、変態なのです。そのことを、息子のユウタは本当は知っています。息子のユウタに知られている。それがもっとあなたを興奮させるんです。」

「や・・いや・・・いや・・、キャアッ!」

「どうしたの? また怖い夢?」

 跳ね起きた私は、隣で寝ていた孝太さんを起こしてしまったみたいでした。怖い夢? そうだったかしら? そうだったような気も、違う夢だったような気もします。

「近頃よくうなされてるみたいだけど、大丈夫? 心配事とかあるんじゃないの?」

 孝太さんが、私の体を抱き寄せて、心配そうに話しかけてくれます。

「うんん。大丈夫。・・・それよりあなた、明日朝早いの?」

「ん? うん。まあいつも通りだけど。・・なんで?」

 私は暗闇の中でも頬を染めて、指で孝太さんの背中をそっとさすり始めました。ここのところ、うなされて起きるといつもなぜか、体がうずいて仕方がないのです。孝太さんに、はしたない妻だと思われることはいまだに怖いのですが、なぜか最近は、私の方から孝太さんを求めてしまいます。

「おいおい。もう夜中なのに・・・。本当にどうしたんだい? かおりは、前は僕が頼んでも嫌がることの方が多かったのに、最近はすっかり逆転しちゃったなあ。」

 ため息をつきながらも私を抱きしめてくれる、優しい孝太さんの、がっしりとした体に包まれて、私はまた、あられもない声を上げ始めてしまいます。

「この頃のかおりは、どんどんイヤラしくなってきてるぞ。すごいな、本当に。ユウタが隣の部屋から起きてきちゃうかもしれないぞ。」

「そうなの、かおりはイヤラしい、淫乱な女の。ごめんなさいあなた。」

 狂おしい手つきで孝太さんの大きくて固い体にしがみついて、私は今夜も激しく孝太さんに抱かれます。ユウタが隣の部屋から起きて来ちゃったら・・もし私の恥ずかしい姿を見られてしまったら。母親失格・・・。そう思いながら、なぜかいっそう大きな声でよがってしまうのでした。

 少し赤い目で、慌てて家を出た夫を見送った後、私は食卓に戻りました。昨夜のことを考えると、また顔が赤くなってしまいます。あんな、後ろから、ケモノみたいな格好で孝太さんに・・しかも私からおねだりして・・。思い出すだけで恥ずかしい、みっともない有様でした。早く気持ちを入れ替えて、ちゃんとユウタを学校に送り出さなければいけません。

「ユウタ? もうご飯食べ終わった?」

 私が食卓に戻ると、低血圧気味のユウタは、ぼうっとしながら、のんびりと朝ご飯を食べています。もうすぐ学校に行かなくてはいけない時間なのに、まだトーストと目玉焼きしか食べていません。

「ほら、ユウタ。ちゃんとご飯食べて、行かないと遅刻するわよ。あら、もーサラダ全然食べてないじゃない。せっかくお料理したのに、お母さん悲しいなー。」

「・・・パセリ嫌いって言ったじゃん。」

「駄目よ、好き嫌いは。ちゃーんとパセリも食べて、学校に急いで・・」

 私が話している途中で、ユウタが面倒くさそうに、サラダのお皿を持ち上げました。

「サラダは、豚さんにあげるよ。」

 豚さん? 私は、一瞬だけ意識が遠のいてしまいました。豚さんってなんのこと? 誰・・私? 私のことじゃないかしら? そうよ。私は豚よ。残飯が大好きな、意地汚いメス豚・・。

「フゴッ・・フゴォォッ」

 私は鼻を大きく鳴らすと、エプロン姿のまま、床に四つん這いになりました。ユウタがサラダのお皿を床に置くか置かないかのうちに、私は夢中でお皿に顔を突っ込んで、おいしいエサに喰らいつきます。時々嬉しくてブヒブヒいいながら、笑顔でエサをむさぼりました。

「じゃあ豚さん、僕、学校に行ってくるね。豚さんはお皿をキレイに舐めまわしたら、お母さんに戻って、何ごともなかったように思います。あ、そうだ、顔にもマヨネーズがいっぱいついてるから、それもちゃんと洗いましょうね。じゃーね。」

 私がお皿をピッカピカになるまで舐めまわすと、もうユウタは出かけていました。忘れ物をしなかったかどうか心配しながら、私は立ち上がって、自分の朝ご飯を食べました。いつもと同じ量を食べたはずなのに、お腹いっぱいになってしまった自分を不思議に思いながら、後片付けを始めました。

 昼下がりにユウタが帰ってくると、ユウタは嬉しそうに、私の格好を上から下まで眺めます。私は最近、妙に暑がりになってしまって、家で家事をしている時には、下着の上にスリップ一枚という肌着姿で、家の中を歩き回ってしまうのです。シルクのスリップ姿で応対すると、宅急便の運送屋さんなどは最初は驚いた顔をするのですが、次第に男の人の目つきで、私の体をじろじろ見てきます。その視線を感じるのがとても恥ずかしいのですが、なぜか同時に、病みつきになってしまうほど、気持ちがいいのです。変な噂でもたてられたら、ご近所を歩けなくなってしまうのですが、どうしてもやめられないのです。

 ユウタがニコニコしながら、スリップ姿で家事をする私を見ているのですが、その視線を感じながら、私は変な気分で、お布団を叩きに、ベランダに出ようとしてしまいます。

「お母さん。そんな格好でベランダに出ちゃって、恥ずかしくないの?」

「あぁ、ゴメンなさい。やっぱりこんな格好じゃあ、だらしがないわよね。いけないお母さんね。」

 恥ずかしいという言葉をユウタが口にすると、私の目が潤み、明らかにおかしな様子になります。その様子を、全てユウタに見られてしまいます。何とか取り繕おうとするのですが、私の股間が、じっとりと湿ってきてしまいました。

「お母さん。駄目なお母さんなら、僕がお仕置してあげてもいいけど、どうする?」

 お仕置・・、自分の子供に、・・まだ小学生の息子に、私がお仕置される・・。考え出しただけで、私はもう、呼吸が荒くなって、肌着姿のまま、その場にうずくまりたくなるぐらい、感じてしまっていました。駄目。母親として、毅然としていなければ、ユウタの教育上・・。色々と考えて踏みとどまろうとするのですが、なぜかユウタには、既にどうしようもない自分を曝け出してしまっているような気がして、立ち止まる拠りどころもないままに、つい、情けないお願いをしてしまいました。

「ユウタ・・。あのね、お母さん、とってもイケないお母さんだから、この布団叩きで、お母さんのお尻を叩いてちょうだい。・・変なお願いでごめんなさいね。」

 私はユウタの視線に感じてしまって、泣きたくなるようなみっともないお願いを、実の息子にしてしまいました。ユウタは私に二階の窓ガラスに手をつかせて、スリップを捲り上げて、お尻をパンパンと、布団叩きで叩いてくれました。私の可愛いユウタは、私の、母親のお願いするままに、パンツを下ろして、私の大事な部分に、布団叩きの柄の部分を押し付けて、激しく感じさせてくれました。私は、自分のどうしようもない醜態をユウタに見せつけながら、2回もイってしまったのです。床にへたりこんで惚けている私に、ユウタが優しく話しかけてくれます。

「お母さんは僕が両手を叩いたら、今日僕にお仕置されたことを、また忘れてしまいますよ。でもまた夢の中で、思い出すんです。昨日みたいにね。あと、タクマ君が前にお母さんに植え付けた暗示を、また夢の中で繰り返し思い出します。もうお母さんは、僕の玩具になっちゃったんですよ。お母さんは友達の前で、僕に恥をかかせたんだから、罰としてもっともっと僕の前で恥ずかしい姿を晒さなければいけません。まだまだお母さんは、僕の遊び道具になっちゃうんですよ。いいですね。」

「は・・い。お母さんはユウタの遊び道具です。」

 私は潤んだ目で、ぼうっと繰り返すことしか出来ませんでした。

女子高生 秋里梢

 日曜日に私は、街にショッピングに行こうとして、またクラスの不良、藤堂陽子に呼び止められました。また? なんだか、陽子には、つい最近呼び止められたことがあるような気がして、ふと妙な気になりました。これってデジャブ? 確か前にも・・・。

「梢! どこ行くの? ショッピング? 一人だったら私と遊ばない?」

「え? ・・うーんと、誰かと待ち合わせが・・ないか。・・・別にいいけど・。」

 不良の陽子と日曜にその辺を歩いてるのを人に見られるのは、あんまり嬉しいことじゃなかったんですけど、まあ断る理由もなかったし、なんだか陽子のお願いを断るってことに妙に抵抗を感じて、私は彼女と一緒に、電車でわざわざ隣町まで行くことになってしまいました。

 歌なんか別に歌いたくもなかったんですけど、陽子に誘われるままに、カラオケボックスに入ると、陽子はおもむろに、私の正面にかがんで、私の目の前で指を鳴らしました。急に私の全身の力が抜けて、首から下が弛緩してしまいました。そして私の頭の中で、恐ろしい記憶が一度に甦ってきたのです。

「あ・・・あんた私に・・。」

 一気に全てを理解して睨みつける私を、陽子は嬉しそうに見下ろしました。私は一昨日の夕方、彼女と彼女の連れてきた男の子に不思議な力で弄ばれたのです。公園で全裸にさせられて、自分の身体のことから過去の秘密から全部暴露させられ、過激なオナニーをしているところを写真に撮られたばかりか、土下座したところを頭を陽子に踏まれたり、犬みたいに陽子の靴を舐めさせられたり、卑猥な大人の玩具で責め立てられたりして・・・。その後は何もなかったみたいに記憶を消されて、ノーパンで帰宅して・・。催眠術。そう、陽子たちの催眠術で、私は思うがままに遊ばれてしまったんです。

「その顔は、全部思い出したみたいね。金曜のアンタの痴態は、全部プリントアウト済みだし、私の友達のPCにも保存済みよ。アンタがちょっとでも逆らったら、すぐに学校中にバラ撒かれちゃうどころか、インターネットで世界に配信されちゃうの。凄いでしょう。学校近くの公園で、全裸でオナってる優等生の美少女。すっかり時の人よ。」

 ここで弱いところを見せたら、もう彼女に逆らえない。そう思った私は、不利な状況でも、あえて頑張って強気に振舞うことにしました。涙が出そうなところを、必死で我慢しながら、言い返します。

「そんなことしてみなさいよ、あんたは警察行きよ。私を脅かしたって無駄なんだから、早くこの変な術を解きなさいよ。あんたは私に屈辱を与えたって思ってるかもしれないけど、私は全然気にしてないわ。屈辱とか恥とかって感情はね、正常な人間関係の中にしか生まれないの。あんたみたいに狂った人に操られて変なことさせられたって、そんなのあんたが、いかに狂ってるかってことを見せてるだけじゃないの。本当に恥をさらしてるのは、私じゃなくて、陽子なのよ。」

「ふふっ・・・さすが優等生は色々と屁理屈が出てくるわね。私が狂ってる? 確かにそうかもしれないわね。でも私は土曜の夜に、異常な妄想に浸りながら自分を慰めたりしないわ。」

 そう言われて、私の勢いが急にしぼんでしまいました。背筋が凍りつきます。まさか、昨日の夜の私のオナニーも、彼女の催眠術なの?

「梢ちゃん。あなた、さも自分は正常な人間だって考えてるみたいだけど、昨日の夜はどんなこと考えながらアヘアへ言ってたの? 老人ホームに忍び込んで、寝たきりの老人を片っ端から犯す自分の姿・・・そんな異常な姿を妄想しながら、3回もイったんじゃなかったかしら? あなたも十分変態だと思うんだけどなー。」

「そ、そんなのだって、全部陽子が植えつけたことじゃない!」

「そうよ。最初は私が勝手にあなたに刷り込んだ暗示。でも私が解かない限り、あなたは毎晩あの妄想でイきまくるの。あなたも自分が昨日の夜、どんなに乱れたか、よーく覚えてるでしょ? あんな調子で毎晩感じまくってたら、すぐにあの妄想は、あなた自身の意識そのものになっちゃうわよ。そしてその欲求はどんどん強くなる。私が暗示を解いてあげない限り、あなたはそう遠くない将来、我慢できなくなって妄想を実行に移しちゃうと思うな。いいのかな? 私が梢にチクられて、更正施設かなんかに入れられたとしても、あるいは梢が私から逃げようとして、どっかに転校しちゃったとしても、あんたは近いうちに、人生を棒に振るような、狂った事件を起こしちゃうわね。」

 私はもう、どうしようもない立場に追い込まれてる自分を認めるしかありませんでした。昨日みたいな勢いで、あんな異常な妄想に溺れてエクスタシーに達し続けちゃったら、私は陽子の言ってるみたいに、狂っちゃうに決まってます。ここは何としてでも、陽子に、私を縛ってる暗示を全部解いてもらうしかないみたい。私は唇を噛みしめながら、陽子に詫びを入れました。

「もう、あんたのタバコのこと、森下先生に言ったのは謝るから、許してよ。これ以上私をイジメないで。」

 陽子はとことん調子にノって、私の目の前を行ったり来たりしながら、腕組みをして、わざとらしく悩んでました。

「そうねー、まー、梢も十分反省してるみたいだし、許してあげよっかなー。」

「お願い。私にかけた変な暗示を全部解いて下さい。もう陽子に逆らったりしないから。」

「じゃあー、わかった。今日一日、梢が私のショッピングに付き合ってくれたら、梢にかけた、老人ホーム襲撃強姦妄想は解いてあげるわ。」

「・・ショッピング?」

「そうそう。日ごろの鬱憤を晴らすために、思いっきりオシャレして、街に繰り出しましょうよ。わざわざ電車でこんなところまで来てるんだしね・・。ほら、私の梢ちゃん、空っぽの梢ちゃんになっちゃいなさーい。」

 陽子に甘ったるい声をかけられると、私の頭は痺れたようにぼーっとなって、何も考えられなくなっちゃいました。「ほらこれ着て」とか、「ちゃんとメイクしなきゃね」とか、「もっと自分の殻を破らないとね」とか、陽子の嬉しそうな、おままごとをしているような声と、それに言うがままになっている自分を、私はぼんやりと、無感情に眺めていました。カラオケボックスの鏡の中には、お姉さんぶって、私を着せ替え人形みたいに飾り立てる陽子と、情けない姿に変貌していく自分が映っていました。私のお気に入りの服と下着は全部脱がされて、私の・・・顔と違って、自分で自信の持てない貧弱な身体が全部晒されてしまいます。Aカップの胸と、幼児体型のお腹から下・・・。陽子は私をからかいながら、自分の荷物から、着替えを出してきました。ウサギのキャラクターがプリントされた、子供っぽいパンツを履かされて、真っ赤でフリフリのブラをつさせられます。その上には、小さくてスケスケの、水色のベビードールを一枚はおっただけの、情けない姿にさせられてしまいました。唇には、濃い赤の口紅を、乱暴に塗りたくられて、瞼には水商売の女の人みたいに濃い、真っ青なアイシャドーを、分厚く塗られました。

「ふふふ。完全にブッ壊れたロリータちゃんって感じね。でも梢は可愛い顔してるから、すっごいコケティッシュでヤラしくて、なんっていうか、いい感じよ。さあ、これからいくつも暗示を植えつけてあげるから、全部ちゃんと覚えておくのよ。アンタにプログラムすることを、ちゃんとメモってきたの。・・まずあなたはね・・。」

 ぼんやりと、変わり果てた自分の姿を眺めながら、私は陽子の言葉が私の空っぽの頭に響くのを、ただただ受け入れていました。なんて言われたかもよく思い出せないのですが、とにかく何度でもうなずいていました。

 陽子が指を鳴らした時に、私はやっと我にかえりました。鏡に映った自分の変貌ぶりに、私は声を上げて泣きたい気持ちでしたが、声を上げることも、涙を流すことも出来ませんでした。こんなミジメな格好で、人前を歩き回るなんて、死んでも嫌って思ったんですが、陽子に手を引かれると、体が勝手に、従順についていってしまいます。股間をかろうじて隠す程度の、フリフリのベビードール。中に完全に透けて見えちゃってるド派手なブラと、幼児用みたいな柄のパンツ。場末のホステスみたいな厚化粧。私は完全に、頭がオカしくなったような女の子になっちゃってました。カラオケボックスの店員さんも私のことをジロジロ見ていました。ちょっと興奮したような、ちょっとヤバイものを見ちゃってるような、微妙な視線。私はそれを、一日中浴び続けることになってしまったのです。

 陽子が私に、「忘れてた」と言いながら、クマのヌイグルミを手渡してきます。私はしたくもないのに、私の体が勝手にヌイグルミを愛おしそうに抱きしめて、頬ずりを始めます。人通りの多い街中を、破廉恥な格好で、ヌイグルミを大事そうに抱きしめながら歩き始めてしまったのでした。陽子は笑いを噛み締めながら、私の醜態をカメラに収めていきます。私は、陽子の指示のままに、モデルみたいにセクシーな歩き方をしたり、赤ちゃんみたいにヨチヨチあるいたりしながら、道行く人の視線を集めていきました。どんなに止めようとしても、私の体は、全く私の言うことを聞いてくれないのです。もうこの街には二度と来たくない。そう思いながらも、私は笑顔で愛想を振りまいて、私を軽蔑したように睨みつける女性の目や、私の体を撫で回すように凝視する男性の目に答えるのでした。

 陽子が私を誘い入れたのは、安っぽいディスカウントショップです。「何でもあるから」、と陽子が私に、新しいブラを買うことを指示してきました。私の体は嬉しそうに下着売り場にいくと、安っぽい下着を一個一個、手にとって見ていきました。普段の私は、こんなお店で自分の下着を選んだりなんて絶対しないんです。こんなお店で下着を選んでるところを、誰か知っている人に見られでもしたら、私がこれまで築いてきた、クラスでのポジションが、全部崩れちゃうって思いながらも、私は手当たり次第に抱え込んで、試着室に入ってしまいました。

 鼻歌を歌いながらベビードールを脱いで、真っ赤なブラを外して、次から次へと身に着けていきます。ちょっと大き目のサイズが多いんですが、私は全部放り投げて、試着室のカーテンを乱暴に開けてしまいました。自分の頭の中が、悲鳴で破裂しそうになります。私の体は、必死で制止する自分の頭を無視して、パンツ一枚しか身に着けていない姿で、また下着売り場まで駆け寄ってしまうのです。周りのお客さんが騒ぎ出します。カップルで来てる女の子の嫌そうな声。男の人の嬉しそうな声、全部聞こえているのに、私は夢中で、パンツ一丁の格好のまま、下着売り場のカゴを漁ってしまうのです。慌てて男の店員さんが、止めに来ました。

「お客様、申し訳ございませんが、ここでの試着は困ります。試着室がございますので、ちゃんと・・」

 私は振り返ると、ほとんど裸のままで、店内に響き渡るような大きな声で、叫んでしまいました。

「私、巨乳過ぎて、合うブラがなくて困ってるんです! 一緒に探して下さい!」

 頭の中で私の悲鳴がまたこだまするんですが、私の口は言うことを聞いてくれませんでした。私は今の大声で、いっそう周りの注目を集めてしまいました。店員さんはすごく困ったような素振りで、私をなだめてくるんですが、それが余計、私の恥ずかしさに油を注いでくるのでした。

「はい。探すのはもちろんお手伝いしますが、まずは服を着てもらえませんか? あとでちゃんとサイズもお測りいたしますが、お客様ですと・・たぶんAカップのコーナーで十分だと思います。・・・今、女性スタッフをお呼びしますので・・。」

 周りで爆笑の渦が起こって、私はお客さんたちの笑いものになってしまいました。私は頭がクラクラして、一瞬目の前が真っ暗になっちゃいました。パンツ一枚で自分の巨乳ぶりを主張しているAカップの女の子。私の自分自身に対する自信が、足元からガラガラと崩れていくような気がします。今すぐ泣き崩れたいのに、体が一切言うことを聞いてくれない・・・。どうしようもない拷問でした。

「ごめんなさい、その子、ちょっとアレなんで・・・。ちょっと梢、あんたそんな貧乳なんだから、ブラなんかいらないぐらいでしょ。それよりもあんたのワキガ用の、制汗スプレー探してきなさいよ。」

 陽子が割って入ってきました。私にベビードールを押し付けながら、店員さんに笑いながら謝ってます。店員さんもちょっと笑いがこらえられないようで、肩を震わせながら、陽子の弁解を聞いています。私はスケスケのベビードールを頭からかぶると、子供みたいな口調で、「ゴメンなさい陽子ちゃん」とだけ言って、私の周りにできた人だかりを掻き分けながら、制汗スプレーを探しに駆け出しました。

 甘えた子供みたいな口調で、「ワキガ用のスプレー、ワキガ用のスプレー・・」ってつぶやきながら、私が日用品のコーナーを歩いていくと、後ろから何人もの男の人が、追いかけてきます。カメラ付携帯のシャッター音がたくさん聞こえますが、私は必死でスプレーを探していくのでした。ふと私の目に、生理用品のコーナーが見えて、私は立ち止まりました。無理だとわかっていてもなお、必死でまた自分の手足を止めようとする私の意識に逆らって、また私の体が私を辱める行動に出てしまいます。私はみんなの見ている前で、タンポンの袋を手にとって、ビリビリ破いてしまって、パンツを膝まで下ろすと、タンポンを入れようとする姿勢をとりました。さっきの店員さんが、私を必死に止めに来ました。

「お客様! 困ります。この商品は試着出来ませんし、こんなところでそんな・・ことをされると、店の迷惑です。失礼ですが、これ以上そういうことをされますと、警察を呼びますよ! どうかお引取り下さい。」

 駆けつけた陽子も、店員さんに怒られています。私はパンツを膝まで下ろして、右手にタンポン、左手にヌイグルミを持ったまま、陽子の真似をしてペコペコと頭を下げるのでした。せめてパンツを上げたいのですが、それらも私の自由になりません。私が深々とお辞儀をするたびに、私の後ろからはシャッター音が聞こえてくる・・・。もう私の意識は完全にふさぎこんで、ひたすらこの悪夢が終わって、自分の体が自由を取り戻すのを、祈り続けていました。私たちは、店員さんに謝ってから、お店を出ましたが、私は今のディスカウントショップを振り返りたいとも思いませんでした。これ以上酷い目に会うぐらいなら、死にたいと思いながら、陽子を睨みつけるのですが、陽子はいっこうに気にしていないようです。

「さっきは面白かったわね。大丈夫。ちゃんとあんたのイカれた振る舞いは、逃さず撮ったから、ちゃんとアルバムに残してあげるわ。それより隣町とはいっても、一人ぐらい、知り合いとかいるかと思ったんだけど、誰もいなかったみたいね。本当に運がいいねえ、梢ちゃんは。・・あぁ、そうだ、さっきのご褒美に、この飴あげる。あんたが下着選んでる間に、買っといたんだ。」

 陽子が手渡してきたのは、チュッパチャップスでした。

「本当はペロペロキャンディとかあると、もっと雰囲気出るんだけど、まあこれでも、音を立てて舐めてなさいよ。街をもう一回りしてから、帰りましょ。」

 ブラジャーも付けずに、キャラクター付のパンツとシースルーのベビードールだけを着て、ヌイグルミを抱きながら飴をペチャペチャ舐めまわして歩く私は、どう見ても完全に壊れちゃった露出狂でした。みんなが変な目で振り返ります。その視線が、私のプライドを無惨にズタズタにしていくのでした。もう警察に捕まるのでも、病院に保護されるのでも、なんでもいいから、この状態から私を助けてほしい。早くこの晒し者をどこかに隠して欲しい。私を殺すんでもいいから、この拷問を誰か終わらせて・・・。そう祈りながら、私は陽子に連れられるままに街を練り歩いていきました。

 陽子がやっと私を許してくれたのは、それから30分も街を歩き回って、路地裏で私に犬みたいにウンチをさせたあとでした。放心してへたりこむ私を満足げに見下ろす陽子に、完全に全てを打ち砕かれた私は、誇りも何もかも投げ捨てて、許しを乞いました。

「最低! 最低! ・・もうお願い。これ以上は無理です。もう誰にも見られたくない。死にたい。私なんかで遊んだってもう面白くないってば。許してください。もう許してください。私にかけた術を全部解いてください。」

 土下座して、涙と鼻水で顔をクシャクシャにして懇願する私に、陽子は優しくささやきかけました。

「街をヤラしい格好で歩き回って、お店の中で笑いものになって、道端で野糞までしちゃって、全部写真撮られて、ようやく梢は反省したの? 自分の情けなさ、無力さに気がついた?」

「はい。陽子さんに逆らった私が馬鹿でした。もう何でもいいから、許して・・。」

「梢はお馬鹿さんね。でも今日のアンタは、面白かったから許してあげる。陽子様があなたを完全に解き放ってあげるわ。・・そうね。ついでに、恋の苦しみからも解き放ってあげる。」

「え? ・・恋?」

「梢は親友の三咲の彼氏を好きになっちゃって、苦しんでたんでしょ? 私は全部知ってるわよ。今日からあなたは違う男にゾッコンになるの。」

「え・・・ちょ、ちょっと待って・・」

「いいから聞きなさい、梢。私の目を見るの。あなたは今から深―い眠りにつくわ。目が覚めると、私のかけた、あなたの異常な妄想の暗示も、オナニーの暗示も、体が勝手に私のプログラム通りに行動しちゃう暗示も解けています。でもあなたは目が覚めた時には、クラスで一番キモいって言われてる、藤田キヨヒコのことを大っ好きになってるの。あなたは藤田への愛に、一生を捧げたくてしょうがないの。よーく私の言うことを聞きなさい、梢。だんだん眠くなってきたでしょ。ほーら、瞼が重い。」

「い・・嫌・・そんなの・・あぁ」

 猛烈な眠気が、心の芯まで弱りきった私に襲い掛かりました。やだ・・・クラスの人気者の私が、優等生で学級委員の私が、あんなヤツを。考えるだけで、寒気がするのに、大声で拒否したいのに、私の瞼が閉じていって、私は眠りに落ちていくんです。

「もうサトルへの恋に苦しまなくていいのよ。よかったわね。藤田のことを好きになったって、誰の迷惑にもならないんだから。あなたは藤田が大好き。藤田に自分の全てを捧げなさい。全身全霊で藤田を愛すのよ。毎日だってあなたに刷り込んであげるわ。あなたは藤田への究極の愛に燃え続けるの。梢はあの、キモヒコへの愛の奴隷なのよ。」

 キヨヒコ君の顔がありありと目に浮かびます。彼のブクブクと太った体、顔いっぱいのニキビ、脂ぎった髪の毛、不潔そうな雰囲気、全部が私の胸を締め付けて、私を切ないような幸せなような、変な気持ちにさせます。私は最後の力を振り絞って、サトル君を思い出そうとするのですが、キヨヒコ君のギコチない笑顔しか浮かんできません。キヨヒコ君・・・。私は彼を抱きしめるような手つきをしながら、底なしに深い眠りに落ちていくのでした。

< つづく >

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