想い出の催ペットたち 2

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「……シュー君………。………あの、………今日ってコー君………」

 真っ赤な顔で吉浜家の玄関に現れた北岡唯香は、身を縮めるようにしてモジモジと立ちすくんでいた。

「一日中、外出だよ。フットサルで埼玉まで遠征って言ってたけど………。唯香さんに言ってなかったの? 兄貴」

 唯香はため息をついてうなだれる。

「やっぱり…………。そうだよね。コー君、一昨日もメールくれてたのに。なんか、今朝になって私、今日コー君とここで会う約束をしてたような気がして、………迷ったけれど、来ちゃったの………。でも、やっぱり、コー君、今日はいないよね? ………はぁ………なんでメールで確かめてから来なかったんだろう。…………私、ホント馬鹿…………」

 ショボンと俯く唯香。下を向くと、自分の服装に改めて気がついて、また顔が赤くなる。

「………デートと勘違いしてたのかな? …………唯香さん………。なんていうか、その………、今日は結構、大胆なコーディネートだよね」

 プリーツの入ったスコッチ柄のスカートは、いつもの北岡唯香の服装よりも何段階か丈が短く、白い太腿が半分くらい露わになっていた。そして上半身。白い襟付きシャツは清楚に見えるのだが、その裾はボタンを3つ分も外して、両端をみぞおちのあたりで蝶結びにしている。おヘソもお腹も出している、妙に大胆で過激な着こなしになっていた。

「………に………似合わないよね? …………なんで私、こんな格好で来ちゃったのか…………。恥ずかしいな……。ゴメンね、すぐ帰ります」

「いや、せっかく来たんだから、ちょっとだけ、休憩したら? …………」

 秀輔に言われると、唯香は内心、ホッとした。慣れない露出の多めな服装のせいか、今朝は道を歩いていてもバスに乗っていても、人目が気になって仕方がなかった。異性の、腰回りを舐めるような視線を感じて、すっかり気疲れしてしまっている。今すぐに来た道を引き返すには、覚悟が必要な程だった。少しの間、彼氏の家で休憩させてもらって、精神力を回復させてから帰り道に臨みたい気分になっていた。

。。

「本当に私、おっちょこちょいだよね。普段、小心者だから、生真面目にスケジュール管理とかしてるのに、肝心なところで、抜けてるの。前にも友達の杏奈に言われたの。私はお母さんみたいな役割を担っておいて、実際のところは天然だって………」

 照れ隠しのせいか、麦茶を出してもらっている間も、唯香はいつもより口数が増えていた。大人しい男の子ではあるが、秀輔もやはり男性だ。唯香の露わになっている白いお腹やスベスベの太腿に、チラチラと視線が寄って来るのが、わかる。唯香は今日に限って暴走してしまった、自分のコーディネートセンスを呪った。秀輔の視線が自分にばかり集中するのを避けるために、リビングを見回して、ほかの話題を探す。目についたのは、今日もサイドボードの球体だった。

「あの、いつも思うんだけど、このスノードーム、綺麗だよね。見てるだけで、吸い込まれていくような感じ。なんだかロマンチックで、ちょっとだけ怖い感じがあるよね。ほら、シュー君もそう思わない?」

 サイドボードから両手で、包み込むようにして持ち上げたスノードームを、秀輔の前に差し出す。唯香は、このリビングで秀輔といて、話題に困ると、いつもこのスノードームに助けてもらっている気がする。

「またそのスノードーム? ………好きだよね、唯香さん」

 秀輔は少し恥ずかしそうに頭をかく。唯香はクスリと笑みを漏らした。スノードームとくれば、秀輔の「催眠リラクゼーション」とセットの話題。秀輔はそこをイジられるのが嫌なのだろう。お兄さんの彼女として、弟分よりも少しだけ上の立場を取り戻した気がして、やっと唯香が安心を覚える。

「だって、とっても綺麗でしょ。ほら、ひっくりかえすと、本当にゆっくりと雪が舞って、ユラユラとお城に降りてきて。………ロマンチックなだけじゃなくって、神秘的というか、心を吸い取られるみたいな。いつまでも見ていたい感じがするでしょ?」

 唯香はまっすぐにスノードームを見据えている。いつの間にか、秀輔の視線も気にならなくなっていた。大きな引力にひかれるようにして、スノードームに集中する。

「心が吸い込まれるみたい? ………それはまるで、心が柔らかくなって、開いていく感じ?」

「そう……なの。………ユラユラ揺れている雪を見ていると、私の心も、…………深く………沈み込んでいく感じ………。どんどん………深く………、心地良い…………ところへ……………」

 唯香は重くなった体を、ソファーに沈み込ませた。少し膝が浮いた。今日はスカートの丈が短いので、膝元はいつもに増して注意が必要なはずなのだが、唯香は気にすることをやめた。何も気にしない。気にならない。それがとてつもなく安らぐ、忘我の境地だということを、いつの間にか体と心が覚え込んでいた。

 秀輔が、唯香が重そうに両手で持っているスノードームを右手で取り上げた。唯香の両手がダランとソファーの座面に落ちる。唯香の両目は、スノードームを見据えたままだ。秀輔が唯香の顔の近くに突き出すと、唯香の黒目が寄り目がちになる。そしてドームをゆっくりと左右に動かすと、唯香の頭がユラユラとドームについてくる。

「唯香さんはもう、何も考えられない。何も気にならない。僕の言葉を心に染みわたらせるだけ。それがとても気持ちいい。最高に癒される状態。それは、今、唯香さんはどんな状態ですか?」

「わ……たしは………、催眠状態………です」

「じゃぁ、眠っていいよ」

 秀輔の声が聞こえると、唯香の意識は、まどろみからブラックアウトした。

。。。

「唯香さんはやっぱり、『約束:』という暗示に強く反応するね。………真面目な可愛い子なんだよな………。兄貴の彼女に言うのも変だけど」

 秀輔は、目の前でソファーに身を委ねて熟睡しているように見える、美人のお姉さんを、満足げに見下ろす。清楚そうな黒髪と清純で整った顔立ち。この清らかな美貌で服装はミニスカ、ヘソ出しファッションでここまで来たのだから、途中、相当人目を引いただろう。恥ずかしそうに、髪の毛に手をやりながら、秀輔の前に現れた、美人女子大生の姿は、秀輔にとってこれから何度もお世話になりそうな、ご馳走の光景だった。もちろん、唯香さんの下着姿も刺激的だったし、全裸の唯香さんは一生の思い出としてとってある。しかし、催眠状態から覚めているはずの彼女が、迷いながらも大胆でセクシーな服装を自分から選んで、休日にわざわざ秀輔のもとへとやって来てくれた。その姿は妙に秀輔をドキドキさせるものだった。彼女は秀輔との『約束』を忠実に守ってくれた。それがたとえ彼女の知らないうちに、拒むことが出来ないかたちで交わされた約束でも、彼女にとって意識することも出来ずに発動する約束だったとしても、彼女はそれに従ってくれる。そう考えると、秀輔の股間は痛いほど起立した。

「唯香さん、聞こえる?」

 秀輔が尋ねると、熟睡している様子の美女がほとんどタイムラグなしで頷く。

「……はい」

 口が開いて返事をしたあとで、その唇はわずかに開いたままになる。彼女は今、彼氏の弟の前で、完全に無防備な状態になっていた。

「これから言うことは唯香さんが目を覚ましたあとで、唯香さんの普段の意識では思い出すことが出来ません。それでも、唯香さんの心の奥深くに残って、必ず本当のことになります。いつでもどこでも、僕の合図で、これから言うことを、唯香さんは必ず実行します。わかりましたか?」

「………はい。………わかりました」

 唯香の口は、その後、何回か、同じ言葉を出した。

。。。

「………かさん…………。唯香さん?」

 深い眠りから、急に目が覚める。一瞬、頭の奥で鈍痛のような痺れを感じる。疲れて寝ていて、起きた時の感覚。唯香は目を開けて、周囲を見回した。彼氏、吉浜孝輔の家のリビング。ダイニングルームでは彼氏の弟、秀輔が果物を入れたガラスの器をテーブルに置いていた。

「はれ? …………ゴメンなさい。私、今、寝ちゃってたのかな?」

「………ちょっとだけね。………唯香さん、疲れてるんじゃない? 兄貴の予定を勘違いしたり。大学の勉強、忙しいんだよね? ………今日は、ゆっくりしていったら?」

 秀輔のことがを聞きながら、唯香が目で探すと、スノードームはサイドボードの上に戻っていた。

「あ…………もう、………フルーツ、出してくれたんだ。………お構いなく、帰りますって、言いたかったけど、そこまでやってもらって、すぐにおいとましちゃうのも、失礼だよね………。ゴメンね、色々………」

 ばつの悪そうな表情で、唯香がダイニングテーブルの椅子につく。いつの間にか、世慣れない、引っ込み思案の男の子が、こんなに気遣いが出来るようになっている。唯香は4つ下の弟分の、成長ぶりに内心驚いていた。

(いつの間にシュー君、こんな紳士的な振舞いに………。もしかしたら、この子、将来モテるようになったりするのかな?)

 ペロペロペロペロ。

 唯香が秀輔のことを密かに見直していたのは2分ほどのこと。すぐに秀輔の子供じみた品のない振舞いに、心がひいた。

「ちょっと、シュー君。食べ物で遊ばない方がいいよ」

 居心地悪そうに身悶えしながら、秀輔をたしなめる唯香。秀輔は葡萄やキウイ、サクランボを舌で弄ぶようにして舐めたり咥えたりする。下品な食べ方を見せられる嫌悪感。それ以上に、妙な感覚に唯香は全身を襲われていた。秀輔が葡萄の皮をプルンと剥く。その瞬間に、唯香は「ヒエッ」と声を出して、中腰になる。秀輔が舌を伸ばして、皮の剥かれた葡萄をペロペロと舐めるたびに、心地悪そうに内股で太腿を擦り合わせた。眉がひそめられ、口が少しアヒル口のようになる。

「いつも食事マナーが悪いわけじゃないよ。休日に家にいる時くらい、果物を好きに食べさせてよ。別に唯香さんに影響あるわけじゃないでしょ?」

 秀輔が自分の取り皿からサクランボを2つ摘まみ上げると、こちらもペロペロ舐めたり、交互に強く吸い上げたりする。

「あっ…………はあんっ…………。それは………、私に…………ふぅっ………。影響が………あるわけじゃ…………やんっ………ないけど…………。………でも………あっ、もっと優しく噛んでっ………お願いっ」

 唯香さんは胸の前で両腕を交差させて、まるで胸を守るようにして体を左右に振ったり、ダイニングテーブルに突っ伏したりする。自分でも秀輔に何をお願いしているのかわからないくらい混乱しているが、それも仕方がない。まともにものが考えられないほど、怪しい感覚に翻弄されているのだ。

「別に、僕が果物をどうやって食べたって、唯香さんに困ることがあるわけじゃないでしょ?」

「そうだけど…………そうなんだけど…………。そんなに、激しくは………困るの…………。お願いっ…………。シュー君。もっと優しく…………。優しく食べて欲しいの。ひゃあっ。アンッ………あんっ………」

 秀輔がキウイの皮のザラザラした部分撫でると、椅子から立ち上がった唯香が腰を引いて、後ろに跳ねる。今度は秀輔が桃の谷間をペロリと舐めると、唯香は両手でお尻を押さえるようにしてピョコンと前に跳ねた。そしてサクランボと葡萄を口に入れた秀輔が、唯香にわかるようにわざとらしく舌で葡萄とサクランボを混ぜるように押しつぶしていくのを見ると、唯香はダイニングテーブルの横に倒れ込んで、体をビクンビクンとひくつかせながら、顎をあげて全身のバネを伸ばし切り、やがて脱力して床に寝そべった。

「どうしたの?」とわざとらしく尋ねる秀輔に答えないまま、恨めしさと呆けたような表情が入り混じったお姉さんは、「お手洗いに行かせて」と一言だけ言って、ふらふらと洗面所に歩いて行った。それからしばらく、唯香さんはダイニングに戻ってこなかった。

 秀輔は、唯香さんがいなくなった、空の椅子を見ながら、含み笑いを漏らす。秀輔が食事をしていると、自分の体が味わわれているような感覚になる、という意味では、こないだの「ロールキャベツ」の暗示と同じ。それでも、全く同じ暗示では試したことにならないと思って、今回はほんの少し、発想を捻ってみた。「どの果物を秀輔が食べると、それが唯香の体のどの部分とリンクされて反応をするか」は、唯香の想像力に任せてみたのだ。唯香さんの反応からすると、リンゴは首筋、オレンジは耳元。サクランボが乳首でメロンがオッパイ。桃がお尻で、葡萄はたぶん、クリトリスになっていたのだろう。秀輔は「果物一つ一つが、貴方のエッチな気持ち良さを感じやすい部分と結びつきますよ」と言っただけ。唯香さんがクリトリスを剥かれた時、どんな顔をするのか、乳首を交互に舐められて、どんなに両手で胸を守っても、舐められるのを止められない時、どんな高まり方をするのか、どこが性感帯でどんなふうによがるのか、悶えるのか、ダイニングルームで全て見せてもらえた。秀輔は手当たり次第にフルーツを貪っただけ。最後は唯香さんがエクスタシーに果てる姿まで、じっくり見せてもらえた。お見舞い用の大きなフルーツ盛り合わせセットを買っておいた甲斐があったと思う。「これ、とっても新鮮な葡萄だから、写メ撮って、友達にも見せてあげよっかな」と秀輔が呟くのを聞いた時の、唯香の顔は羞恥心と絶望が半分ずつ入り混じったような表情だった。必死の形相で写真を撮るのを止める唯香さん。そのあまりの慌てぶりを思い出して、秀輔はまたクスクスと笑いはじめてしまった。

「………ごめんね………。私、ちょっと、食欲がなくなっちゃった」

 まだ視点が定まらない目で、ボンヤリとした話し方の唯香さんが帰ってきた。

「そっか………。じゃ、唯香さん。何か飲んだらどうかな?」

 秀輔がそう言うと、ハァッと息を飲む音がする。ゆっくりと腰を下ろしたはずの唯香さんを見ると、目をぱっちりと見開いて、背筋を伸ばしている。何か、大切なことを思い出したような表情だった。

「飲み物を………、作らせてもらっても、いいかしら?」

 お手洗いから戻ってからは、秀輔と目を合わさないようにしていたはずの唯香さんが、すくっと立ち上がって、ガラスのボウルごと果物をキッチンへと持って行ってしまう。何かの使命感に掻き立てられるような、懸命な表情だった。

 フルーツを包丁で切り分ける音。そして、キッチンの引き戸が開かれる音がする。

「秀輔君、ゴメンなさい。赤ワインを使わせて頂くね」

 父が飲み切れず、開封後に時間がたってしまったワインは、母が料理用にキッチンの収納スペースに保管していた。それを見つけた唯香が、秀輔に丁寧に断りを入れる。土曜の昼から、ワインを使った料理でもするのか、秀輔が尋ねようと思ったが、すぐに唯香はダイニングルームに姿を現した。グラスには赤ワインに浸された、果物の切れ端が沢山入れられている。唯香さんはやっと安心したような、くつろいだ表情になって椅子に腰を下ろした。

「お待たせ。約束のサングリア、やっと出来たわ」

 なんの「約束」だったか、秀輔が尋ねる間もなく、唯香はグラスに口をつけて、美味しそうに赤いお酒を喉に通す。しばらくグラスの底を秀輔に向けたままの姿勢で、ゴクリ、ゴクリと、喉を鳴らした。やっとグラスをテーブルに下ろした。ホッとした表情の唯香さん。椅子に深く体を預けて、深いため息をついた。

「ふーぅぅっ。生き返るわ。………ゴメンなさいね、シュー君。私ったら朝からこんな、お酒飲んじゃって………」

「いや………、唯香さんがリラックス出来るなら、別に、いいんじゃない?」

 秀輔が言うと、唯香さんが口元を緩ませる。

「うふふふ………。シュー君は、優しいなぁ………。おねーさんは………、嬉しくなっちゃうぞ………。ふふふ」

 少し、甘えたような口調になって、トロンとした目で笑う唯香さん。ダイニングチェアに斜めに寄りかかっていた。

「ふーぅぅ………。シュー君。………ちょっと暑いなぁ」

 眠そうなダルそうな声で、甘える唯香さん。いつもの奥ゆかしい知性が鈍っているように見えた。

「エアコン強くする? ………ゴメンね、気が利かなくて」

 秀輔がリモコンの場所までいって、手を伸ばす。振り返ると、兄貴の可愛らしい彼女は、ダイニングで白いシャツのボタンを外していた。

「違うの。………私、脱いじゃうの。………シュー君。手伝ってくれるかな? ……うふふ」

 シャツの裾の結び目も解いて、はだけると、淡い水色のブラジャーが吉浜秀輔の目に飛び込んできた。清純そうな下着。それを唯香さんは彼氏の弟の前で酔いに任せて晒してしまっていた。

『唯香さんは僕に飲み物を勧められたら、フルーツをワインに浸した、サングリアを作って飲みたくなる。お昼でも朝でも関係ない。美味しい果物のたっぷり入った、お酒を飲むのが、唯香さんと僕との約束なんだよ。だけど唯香さんはサングリアをゴクゴク飲むまで忘れているんだけれど、貴方はそのお酒を飲むと、すぐに酔っぱらってしまって、エッチに乱れてしまう体質なんです。絶対にそうなります。唯香さんはウッカリ酔っぱらってしまって、裸になって吉浜秀輔とエッチをする。それが、絶対に今日、起こることなんです。貴方は絶対にその運命から逃れることが出来ませんよ。』

 秀輔が与えた暗示の一つ一つを、唯香さんがフィギュアスケートの規定演技のように、真面目に一つずつこなして見せてくれる。秀輔のシナリオに忠実に、演出に健気に、従って舞ってくれる。そんな彼女の姿が愛おしく思える。一枚一枚と服を脱いでいく彼女のエッチな姿。綺麗な身体。そしてそれ以上に、秀輔が覚えた催眠術という力が生み出す非日常的な光景に、秀輔は息が苦しくなるほどの興奮を覚えていた。あんなにお淑やかな唯香さんが、大胆な服装で現れて、秀輔の目の前で絶頂を見せて、今、だらしなく酔っぱらって、下着姿になっている。両手を背中に回して、プチっとホックを外すと、水色のブラジャーを体から離していく。自由になった大きなバストがプルンと揺れる。相変わらず綺麗に丸いオッパイだ。乳首はこの前に見た時よりも、ボテっと腫れているように見えた。

「唯香さん、酔っぱらってるんだね。………こんなところで脱いじゃって、どうしたいの?」

「………うふふ~。………シュー君は、………どうしたいと、思う~?」

 ユラユラと、揺れながら立って、秀輔の前で挑発的に体を見せつける唯香。表情はすっかり酔っぱらっているようだった。手をショーツに伸ばす。そこで手が止まった。

「…………ゃ………。…………やだっ…………。駄目っ。…………今は、こんなの………。駄目っ」

 唯香の目に生気が戻る。声に力が入る。意識がそうとう混乱しているようだった。

「唯香さん………。僕の声を落ち着いて聞いて」

「‥駄目、私、こんな………。なんで? …………ゴメンなさいっ」

 唯香は胸元を腕で隠しながら、秀輔に背を向ける。ダイニングからリビング、そして廊下へと、そのままの姿で逃げ出した。

 目から涙が溢れそうになる。自分が何をしているのか、急に正気に戻って理解した唯香は、身の危険を感じて、とにかくその場から逃げ出そうとした。リビングのドアを開けて、廊下に出る唯香。その彼女の背中から、声がかけられた。

『スノードームのお姫様っ』

 唯香の頭の中に、聞きなれないフレーズが飛び込んできて、一瞬思考が戸惑いのフリーズをする。(どういう意味?)唯香が思わず足を止めると、目の前に広がる光景に異変が訪れた。雪が、作り物のように大粒の雪が、ユラユラと舞い落ちてきている。雪が降っている。家の中なのに。………いや、ここは紺色に染められた、液体の中のように見える。唯香が振り返ろうとするが、もう体が動かない。指先1つ動かすのも面倒くさいような、圧倒的な倦怠感が全身を浸す。何を考えるのも、面倒くさくなってくる。やがて自分が、スノードームの中の幻想的なお城に入っている、お姫様のオブジェであると思いこんで、水の中でわずかに漂っていた。

「唯香さん。こっちに戻ってきて」

 ダイニングの方から、声が聞こえる。唯香は自分の体を隠すことも忘れて、ショーツ1枚だけ身に着けた無防備な姿のまま、一歩ずつ、リビングへ、そしてダイニングへと戻ってきた。

「パンツ下ろして」

 目の前の秀輔が言う。唯香は、今度は何の躊躇もなく、指を腰のゴムに掛けると、ショーツを一気に、膝まで下ろした。ショーツの中には、何重にも畳まれた、トイレットペーパーが入っていた。

「………やっぱり。……さっきイッちゃってた。その後で、濡れたパンツを穿き続けるのが気持ち悪くて、トイレットペーパーを詰めてたんだね。それが見られるのが恥ずかしくて、催眠が急に解けた………。………お姫様、全部正直に答えなさい。今の僕の推理は正しいですか?」

「………はい。正しいです。………私はイってしまったあとで、ショーツがぐしょぐしょになってしまっていて、トイレで困りました。下着を穿かずにシュー君のところに戻るのが恥ずかしいので、紙で濡れたところをガードしながら、ショーツを穿いていました。酔っぱらって、裸になりたくなった時も、ショーツの染みと紙のことを思い出して、見られたくなくって、急に我に返りました」

 正気の唯香だったら、絶対に自分から口にしたくないことも、スノードームのお姫様はスラスラと答えてくれる。しょせん全てはスノードームの外の世界のこと。北岡唯香にとってどれだけ恥ずかしいハプニングであっても、お姫様が気にする必要はない。

「裸を見られるのは良いってとこまで暗示が入っても、ショーツが濡れてるのとか、トイレットペーパー挟んでるのとかは、見られたくなくて、暗示が解けちゃうんだ………。女心って、複雑だなぁ………」

 秀輔が、ため息をつく。

「こんな複雑な唯香さんの本心を全部織り込んで、先回りした暗示を与えるなんて、ほとんど無理ゲーだよ………。………いや、…………どうかなぁ?」

 ショーツを膝まで下ろしたままの状態で、ボンヤリとたたずむ唯香。あれこれ独り言をいっていた秀輔が、覚悟を決めたような表情で近づいてきて、唯香の耳元で囁いた。

「スノードームのお姫様から、深い催眠状態の唯香さんに魂が戻ります。でも、さっきの言葉を僕がまた口にしたら、必ずこの状態に戻りますからね。…………さぁ、唯香さん。よく聞いてください。貴方に話しかけているこの声。これは誰の声ですか?」

「………吉浜、シュー君………」

「そう、僕の声………。でもそれだけじゃない。これは僕の声であると同時に、北岡唯香さんの本当の心の声です。今まで自分自身でもわかるときとわからない時があった、本当の、真実の自分の心からの言葉なんです。魂の声です」

「私の………本当の……心の声…………。魂の声」

「そう。自分の魂の声に従っている時、貴方は一番自分らしくいられます。魂の声のままに行動している時、貴方は一番幸せです。他人が押しつけたモラルも、親から躾けられた教えも、学校や社会のルールも、全部外から来て貴方を縛るものです。だけど、貴方は自分の魂の声に、一番忠実に従います。それが貴方にとって一番の幸せだからです。そうでしょう?」

「はい………。一番、幸せ………」

 秀輔に手を引かれ、ソファーに座らされる唯香。膝のショーツは秀輔の手で足から抜かれた。ショーツに詰められていたトイレットペーパーを手にすると、一度顔に近づけて匂いを嗅いだあとで、秀輔はショーツもペーパーも床に放って、唯香に顔を近づけてきた。

「唯香は秀輔にキスをします」

 魂の声がそう囁いたのが聞こえた。唯香は躊躇わずに頭をソファーから起こすと、両目を薄く閉じて、間近にあった秀輔の唇に自分の唇を重ねた。うっとりするほどの喜びが全身に降り注ぐ。唯香は幸せだった。自分の魂の声に従うことが、これほど心地良いのかと、唯香は思い知らされた。

「唯香は秀輔にオッパイを触らせます」

 魂の声が、前から聞こえてくる。唯香は秀輔の手をとって、そっと自分の胸に当てさせた。恥ずかしさに、少しだけ手が震える。わずかに肩をすくめて、自分の胸を守るように体を斜めにした。

「魂の声が伝えることと、普段の貴方の行動や考えとの間に、どれだけギャップがあっても、貴方は魂の声に従います。むしろ、そのギャップが大きいほど、貴方の喜びは増すんです。本当の自分に気がつく喜びは大きくなります」

 言葉が終わらないうちに、唯香の秀輔の手を握る力が強くなる。ギュッと自分の胸を押し当てて、円を描くように、こねるように、オッパイを揉ませる。幸せが笑顔になってこぼれた。

「唯香は足を開いて、秀輔にされるがままになります」

 さっき拒んだはずの足と足の間。イってしまったあとの恥ずかしい股間を、唯香は言われるがままに曝け出す。両足の踵が、ソファーの座面についた。濡れたアンダーヘアーを掻き分ける秀輔の指。クリトリスが火照っているところを見つけて、指で皮を剥く。唯香の眉間にシワが寄って、口が少しだけアヒル口のようになる。さっき秀輔が葡萄の皮を剥いた時と、同じ表情を見せていた。

「ふふっ。自分の魂の声に従う気分はどう? 唯香さん」

「ふぁああぁぁぁ。気持ちいいっ………。これが………本当の私だから…………」

 胸を揉まれて、股間を弄られて舌で愛撫されて、唯香は喜び喘いだ。陶酔するような表情の彼女の耳元で、秀輔はもう一言、囁いた。

「唯香は秀輔とセックスをします。秀輔は初めてだから唯香がリードして、最高に気持ちの良い、エッチをする。2人が疲れて立てなくなるくらいまで、セックスに没頭するのです」

 唯香の心のブレーキが、音をたてて弾け飛んだような気がした。

 ギュッと秀輔の手首が握られる。唯香の顔を見ると、瞳孔が開いているような気がした。

「シュー君。……お2階に行きましょっ。貴方のお部屋っ」

 痛いくらいの勢いで、腕を引っ張られて階段を上がる。秀輔の部屋に入ると、ベッドに押し倒された。

「急いで、お洋服脱いで。お願い。いいこと教えてあげるから。………ねっ?」

 いつもはおっとりとしている唯香さんが、切羽詰まったような早口で畳みかける。秀輔がポロシャツを脱いでランニングシャツをまくり上げている間に、彼女は部屋の窓を閉めて、カーテンも閉めた。女性としての恥じらいはまだ残ってはいるようだ。それでも脱ぐのが遅い秀輔に飛び掛かって、ベルトを外そうとする彼女は、いつもの唯香さんでないことだけは確かだった。

「シュー君、お願い。………私を、貴方の初めの女の人にしてください」

「あ………あの、唯香さん、兄貴は……ムギュッ」

 秀輔の口を文字通り唇で塞いできた唯香さん。2人とも口を閉じ切っていない状態でキスをして舌を絡め合わせるから、口の端から涎が垂れて、顎を、首をつたった。秀輔が唯香さんの柔らかい胸に手を添えても、全く拒もうとしない。むしろ、オッパイをギュッと秀輔の手に押しつけてきた。

「ごめんなさい。何も考えられないの。………私は………、魂の声に、従うしかないの」

 唯香さんが少しだけ、切なそうな表情になる。その苦しそうな、悲しそうな表情と、発情した雌のような表情の入り混じる姿は、秀輔をさらに興奮させていた。

「唯香さん、………僕の………。こんなんになっちゃってる」

 秀輔が自分の股間を指さす。モノが恥じらいもなく、天井を仰いでいた。

「あ………、はい………。私が………。リード………しなきゃ………」

 一度ゴクリと生唾を飲み込んだあと、唯香さんはベッドに跪いて四つん這いの姿勢になると、秀輔のペニスを両手で包み込むように掴んで、顔を近づけ、そっとキスをした。慣れない仕草で、何回かキスをした後で、亀頭の部分に舌を伸ばす。やがて頑張って、根元近くまで口に含む。ぎこちなく、たどたどしいけれど、心のこもった、懸命なフェラチオだった。秀輔はもう限界を感じて、一度唯香の頭を引き離す。

「唯香さんの、………大事なところの中に入れちゃ駄目?」

 聞くと、唯香さんは微笑んで、一度秀輔の体をギュッと抱きしめた。

「初めてだと、上手くいかないこともあると思うけれど、落ち着いて、何回でも試したらいいよ。私がリードしてあげる。シュー君には足腰立たなくなるまで、頑張ってもらわないといけないから」

 秀輔のさっき発した言葉が、いつの間にか、唯香さんの強い信念になっている。それを感じるだけで、さらに股間が膨張したような気がする。

 確かに、ビデオや漫画のストーリー運びとは違って、現実には秀輔自身のモノを唯香さんの大切なところに挿入させるのは、何回か試行錯誤が必要だった。さっきもガン見したはずだったのに、いざインサートとなると、唯香さんのヴァギナは秀輔が妄想の中で想定していた場所よりも、少し下の位置にあった。入れる時にも角度があって、最初は探りながら、おずおずと入れたような感触だった。

 温かい…………。ヌルっとして、ところどころザラっとした感触の、唯香さんの内部は、秀輔のモノを咥えこむように受け入れてくれた。今日の唯香さんは秀輔の暗示のせいで、性の虜になってしまっているから、濡れたアソコが秀輔のモノを奥まで受け入れてくれる。けれど、普段の、優しくてお淑やかで、可愛らしい彼女も、いつもここにはこの割れ目がついている。時々濡れたり、熱くなったり、ヒクヒクしたりしていつも服の下、両足の間についている。そう思うと、少し騙されたような気分と、余計に興奮する気分とが入り混じって、秀輔をいきりたたせる。

「唯香さん………。腰、動かすよ」

「う……。……はい………。………一緒に………しようか」

 2人でリズムを合わせるように、腰を押し付け合ったり、引いたりする。秀輔がはげしく腰をグラインドさせようと勢いをつけた時、スルッとモノが抜けてしまった。

「あっ、やばっ」

 抜けた時の摩擦の感触で、秀輔は思わずイってしまう。途中で我慢しようとしたが、止めることは出来ず、断続的な射精を唯香さんのお腹や太腿にぶちまけてしまった。

「あのっ、ゴメンっ」

「………うふふ。謝らないでいいよ。………シュー君の、あったかい。…………まだ出来るでしょ? …………今日は、立てなくなるまで、エッチしましょうね」

 唯香さんはティッシュ箱に手を伸ばして、まず秀輔のモノを、そして自分の体を拭いてから、また優しくキスをしてくれる。秀輔はひょっとして自分がヤラシイ夢の中で夢精しているのではないかと、疑って、めまいを感じるほどだった。

 2回目の正常位でのセックスは上手くいった。ここでやっと、避妊具をつけていない自分に狼狽える秀輔だったが、唯香さんは顔を赤らめながらも、「今日はたぶん大丈夫」と言って、3回目を誘ってきた。3回目はバックを初めて試した。唯香さんのお尻が意外とムッチリとしていて、細い腰のくびれを両手で掴んで後ろから攻めると、唯香さんは髪を振り乱し、声を上げて喘いだ。一緒にエクスタシーに達したのは、この時が初めてだった。2回戦、3回戦と頑張りすぎて、疲れが出てきた秀輔をベッドに寝かせて、4回目は唯香さんが上に乗る。騎乗位の体勢だ。下から秀輔は唯香さんのオッパイを揉み上げる。最後は両手を握り合って指を絡ませて、一緒にイッた。女性のエクスタシーの余韻が長いのだろうか、それとも達して敏感になっているのか、唯香さんは2人がイッたあとも、しばらくその体勢のままで、秀輔の上で痙攣を繰り返す。長い時間の後で、まだ震えながら、結合した腰を離した。太腿からトロトロと愛液と精液の混ざったものが垂れてきた。2人とも随分な量を放出したようだった。

「………どうしよう………。まだ、私、もう少し、出来そうなんだけど、シュー君、もう、疲れちゃったかな?」

 心配そうに秀輔の頬に手を当てる唯香さん。それでも目はまだ、爛々と輝いている。秀輔が寝そべったままでクンニしたいと言うと、唯香さんは恥ずかしがりながら、秀輔の顔の上で両膝を開き、腰を下ろした。

「私………。こんなはしたないこと、今までしたことないからね………。その、………今日は………、特別なの」

 恐縮しながら言い訳を口にする唯香さん。パックリと開いたサーモンピンクのアソコに、秀輔が舌を入れる。すぐに唯香さんは、快感に身悶えして、腰をグラインドさせながらアソコを秀輔の顔に押しつけて来るようになった。

 クンニでイかせて、最後にもう一度、今度は指で唯香さんをイかせる。人差し指と中指を奥まで突っ込んで、ゆっくりとアソコの中でピストン運動をさせる。唯香さんに「もう少し激しくしても大丈夫」と言われて、動きをスピードアップさせていくと、やがて唯香さんは悲鳴のような喘ぎ声を絞り出して、最後の絶頂を迎えた。秀輔の右肘は相当疲れていた。

「もう………立てない。…………無理」

 やっと声を絞り出した秀輔。唯香は間近で、同意するように鼻息を出した。

「こんなの………初めて…………。こんなく………激しく………。……はぁ、………本当の私………。こんなにエッチだったなんて………」

 2人は抱き合ってベッドで倒れていた。寝ているというよりも、ようやくベッドに体を預けているような状態。あたりにはティッシュペーパーが散乱して、シーツの至る所に染みが出来ていた。2人の恥ずかしい汁と、汗と涙と涎と鼻水でグシャグシャになっていた。秀輔の2階の部屋に上がったのは昼前だったはずだが、2人は昼過ぎになってようやくセックスのループを止めた。そして気絶するように目を閉じると、夕方になって、やっと目を覚ましたのだった。

 やはり、オルガスムの余韻は、女性の方が長引くようだ、まだ虚ろな目でうわごとを呟いている唯香は、秀輔が体を起こさせても、「アッチ」の世界に行ったままのような表情で、ボンヤリしている。そこで秀輔は、兄貴の彼女の意識を、そのまま催眠状態に落とすことに決めた。真面目な彼女のことだから、目が覚めた後のこともコントロールしてあげないといけないだろう。下手すると、心のバランスを崩したり、兄貴との関係も壊れてしまうかもしれない。秀輔はこの可愛らしいお姉さんを酷い苦しみに晒すつもりはなかった。かといって、こんな美人でスタイル抜群な天使を、手放すつもりも全くなかった。

「唯香さん、深い催眠状態に降りましたね? ………よく聞いてください。貴方が目を覚ますと、自分が、酔っぱらってしまって大事な彼氏の弟君と、強引にエッチしてしまったことに気がつきます。でもそのことをそこまで激しく後悔したり、自分を責めたりする必要はありません。貴方は自分の魂の声に従っただけなので、そんな自分を心底貶める必要はないのです。それに、とっても気持ち良かったでしょう? 貴方も秀輔君も、最高のセックスを楽しんだのです」

 秀輔の話始めは悲痛な表情を見せた唯香だったが、言葉の終わり頃には、ウットリとした思い出し笑いを見せた。

「起きてしまったことは起きてしまったこととして、自分を責めすぎる必要はありません。それでも、周りには精一杯気を遣ってあげましょう。まず彼氏の孝輔には、ことのことは内緒にして、バレないように気を遣いましょうね。そして、弟の秀輔に対しては、貴方は特別に尽くしてあげる必要があります。酔って年下の男の子の初体験を奪ってしまったのだから、当然のことですよね」

「はい………ゴメンなさい」

 裸のままシーツに身をくるめた唯香が、しおれるように頭を下げて謝っている。

「唯香さんの心配ごとは、秀輔が今日の出来事のショックで、女性不信になったり、生身の女性を愛せなくなること。女性の裸や性的なコミュニケーションから興味を無くしてしまうことです。そんなことになってしまったら、貴方の責任は重大ですよね」

「………はい………そうです」

 唯香さんはシクシクと泣いているようだった。

「だから、貴方はこれから、今までよりも頻繁に吉浜家に来て、秀輔の様子を伺います。そして、チャンスがあれば、孝輔の目の届かないところで、秀輔にたっぷりと、女性の体の素晴らしさ。女性とするエッチの気持ち良さを、繰り返し、身をもって教えてあげます。これは貴方にとって、何より大事な秀輔との約束なんです」

「はい………。約束です…………守ります……」

 ベソをかいているようだった唯香の言葉に、力がこもってくる。

「秀輔が貴方に対してエッチな視線を送ったり、貴方に異性としての興味を見せるたびに、貴方は安心して温かい、嬉しい気持ちになります。秀輔にヤラシイ目で見られることは、貴方に女として、密かな優越感も与えてくれます」

「はい…………。うふふ」

 唯香さんの表情がコロコロ変わっていくのを見るのが、秀輔は面白くて仕方がない。

「秀輔が貴方や女性に対して興奮しているのを見ると、貴方はもっと興奮します。彼のおチンチンが勃起しているのを見ると、貴方は最高にドキドキして、喜びが全身を満たします。そして秀輔が射精したところを見ると、貴方は喜びを爆発させます。それは貴方が救われる瞬間。貴方が全ての罪から解放される瞬間ですから。………わかりましたね」

「……はい………。喜び………爆発………………。わかりました」

「ちなみに唯香さん、今聞こえているのは、誰の声ですか?」

 声が聞こえてくること自体が嬉しいといった表情で、ボンヤリとした目のまま、唯香は口元をほころばせた。

「………私の、魂の声です」

 秀輔は乾いた喉に唾を押し通すように飲み込む。

「オーケー。手を叩いたら、もう一眠りしていいよ。あとで2回、手を叩いたら、スッキリと目を覚ましてね。ほら、パチン」

 スイッチが切れたかのように、唯香の意識が暗闇に沈み込んだ。

。。。

 外が暗くなった頃、秀輔が耳元で手を2回叩くと、ベッドの上で裸のままシーツにくるまれていた唯香が、両目をパチリと開ける。裸の自分に気がついて、シーツで肩まで隠す。秀輔の部屋、秀輔のベッドの上、秀輔の目の前にいる自分に気がつくと、唯香の顔色は青ざめたり、白くなったり、赤くなったり、見る間に表情を二転三転させる。口を開いて何かを言おうとするのだが、何も言葉が思い浮かばないようで、ただパクパクさせるだけだった。目には粒の大きな涙が溜まってくる。

「唯香さん…………。覚えてる?」

「シュー君っ! …………ゴメンなさい………。私………どうして…………こんなこと………………。本当に、信じられない…………」

 頭を両手で押さえて、身を縮めるようにうずくまる唯香さん。秀輔はかける言葉を慎重に選ぼうとしていた。

「唯香さん、結構酔っぱらってたんだよ。………忘れよう」

「シュー君。………私のこと、幻滅したでしょう。………うんん。私のことだったら、どう思われたって仕方がないけど、………女性がみんな、こんなふしだらな存在じゃないから………。シュー君、女の人全体のこと、嫌いにならないで欲しいの」

 秀輔は何も言わずに両手を開いて、飛び込んできた唯香さんを抱きとめた。4歳も年上でも、女性はこういう時には、弱々しいものなのかもしれない。秀輔がギュッと抱きしめると、唯香さんは「何でもするから、許して。本当にゴメンなさい」と何度も呟いていた。

「唯香さんも、女の人全般も、嫌いになんてならないよ」

 秀輔がそう伝えると、唯香さんはギュッーっと秀輔の体を抱きしめ返してきた。そして、柔らかい胸を、秀輔の胸に押しつけてくる。無意識のうちにだろうか、わざとだろうか。謝りながらも唯香さんは、ゆっくりと、オッパイを秀輔に押しつけたまま、円を描くように体を擦りつけてくる。ともすると秀輔を誘いかけてくるような、微妙に怪しい動きでオッパイをくっつけてくる唯香さん。秀輔は彼女の意図をはかることを諦めて、両肩に手を置いた。

「唯香さん。お昼からお酒飲んで、変な酔い方しちゃったんだよね。あんまり気にしすぎないで、また遊びに来てよ」

「…………うん。………シュー君。本当に優しいね。………私、本当に何でもするから、遠慮なく言ってね」

 こめかみをくっつけ合うようにして抱き合いながら、秀輔は、たちの悪い笑いを噛み殺すのに必死だった。

。。。

 翌週から、北岡唯香さんが吉浜家を訪れる頻度は、目に見えて増えてきた。それも、彼氏の孝輔が留守の時に限って、唯香はやってくる。秀輔と唯香が家で2人きりになる時間が長くなっていった。

「シュー君。今日、暑かったから、ここに来るまでに汗かいちゃったの。着替えさせてもらってもいいかな?」

「あ……、はい」

「ありがとう。Tシャツ借りるね」

 当たり前のように2階に上がって、秀輔の部屋のクローゼットからTシャツを持って降りてくる唯香。わざわざ秀輔がソファーに腰かけているリビングの端まで行くと、そこで着替えを始める。ブラウスを脱いで、スカートも下ろす。下着はフリルのついた花柄。肌を隠す面積がやや小さい、オトナっぽい下着になっている。見られることを意識した下着選びに変わりつつある。

「唯香さん、………2階で着替えてもいいのに………。彼女無し男子の前で、目に毒だよ」

「うふふ………ゴメンなさい。………シュー君も、女の人の身体に興味あるんだ。…………もっとサービスしてあげよっか?」

「ちょっと、兄貴が聞いたら怒るよ。唯香さん、そんなキャラだったっけ?」

「冗談だってば。コー君の弟なんだから、家族みたいなものでしょ? 私も恥ずかしがってる方が、変じゃない?」

 秀輔の視線を感じながら着替える唯香は、なぜか上機嫌。鼻歌をハミングしながら、下着姿になると、秀輔のTシャツにもぐりこむようにして着こむ。白いTシャツは裾がやっと唯香のショーツを覆うくらいの長さ。ちょっと姿勢を変えると、すぐに下から花柄のショーツが顔を覗かせるという、完全に油断した姿になっていた。

 床に落ちているものを拾う時、料理の給仕をしてくれる時、急に思い立ったかのようにストレッチを始める時、唯香さんのパンツがモロに顔を出す。自分でそんな恰好をしておきながら、綺麗なお姉さんは時々不意に我に返ったかのように恥ずかしがる。そのくせ、チラチラと秀輔の視線を気にしながら、またちょっかいをかけてくるのだ。

「ちょっと後ろ通るね、シュー君」

 さっきまで2階にお掃除に行っていると思ったら、リビングに戻って来ては、わざわざ狭くなっている秀輔の後ろを通り抜けようとする唯香さん。途中で当然のように体が接触する。ムニュっと柔らかい肉の押しつけられる感触。

「………ん? ………ちょっと、唯香さん。ひょっとしてブラつけてない?」

「………あははっ。バレちゃった」

「さっきは下着の上からTシャツ着てたでしょ? ………いつの間に」

「シュー君のお部屋をお掃除してたら、暑くなっちゃったんだもん。………ところで、シュー君、さっき私が着替える時、やっぱり見てたんだ。………ふーん。やっぱりね。………うふふっ」

 勝ち誇ったように上から目線で笑う唯香さん。以前よりも屈託がなく、表情が豊かになってきたように思える。

「いやっ………。リビングで着替えたりするから、ちょっとびっくりして目がいっちゃっただけだよ」

「うふふっ。いいのよ。シュー君も、男の子だもんね。………健康的でヨロシイッ」

 急にしなだれかかってきて、秀輔の頬にチュッとキスをする唯香さん。秀輔の肩にまた、ムニュ~っとオッパイが押しつけられる。薄いTシャツの布ごしに感じる豊かなオッパイは、なぜか直に触れる時とまた違う気持ち良さを与えてくれた。秀輔がその感触を楽しんでいる隙に、抜け目のない手が、股間をサワサワっと確認する。

「わっ。ちょっと」

「冗談だよ。………ほんの冗談っ」

 自分の行為がさすがに恥ずかしくなったのか、頬っぺたを赤くしながら、唯香さんが笑ってごまかす。それでも秀輔の勃起を確認したあとで、いっそうテンションが上がったらしい唯香さんは、まだしばらく、秀輔にベタベタとまとわりつくのだった。

。。。

「………シュー君…………。ゴメンね。…………私も良いかな?」

「うわっ。………唯香さんっ。………さすがにマズいでしょ。………」

「シーィィッ。…………コー君。すぐに寝ちゃった。………疲れてるみたいなの」

 つまらなそうに口をすぼめる唯香さんは、秀輔がスネをごしごし洗っている途中で、お風呂に入りこんで来たのだった。バスタオル1枚、体にまとっただけの姿だ。

「兄貴………もう寝ちゃったんだ。………起きなさそう?」

 唯香さんは答えたり頷いたりすることもなく、ニッコリ微笑むと、バスタオルを浴室の外に放り投げてドアを閉める。全裸の自分の体を見せつけるように抱きついてきた。

「これは、シュー君が心配してるような、浮気とか、エッチとかじゃないから、心配しなくていいのよ。これは………、そう、セラピーみたいなもの。シュー君に女の人と、女の人の体のことを、好きになってもらうための、セラピーなんだから、リラックスして受けてね」

 唯香さんは、秀輔を説得するように、あるいは自分自身に言って聞かせるようにして、説明する。そして体はオッパイとお腹、そしてまだサラサラしているアンダーヘアーを秀輔の胸元から股間に押しつけるようにして、ゆっくりと上下に動いた。

「これから、コー君が寝ちゃったら、一緒にお風呂に入るようにしよっか?」

 秀輔の背中を、石鹸で泡まみれになった両方のオッパイをスポンジのように使って洗ってくれる唯香は、秀輔の耳もとで悪戯っぽく囁いた。

 秀輔は、催眠暗示が深く浸透して、まるで性格が変わったと思えるほど大胆で積極的になりつつある、唯香さんの変貌ぶりに、色々な感慨を覚えていた。1週間前には、服を脱がせようとすると、危うく催眠から解けそうになるほど、強い理性と恥じらいを持っていた彼女が、今では自分の体と女の武器を駆使して、彼氏の目を盗み秀輔をあの手、この手で誘惑してくる。そう仕向けているのは秀輔自身なのだが、時々、彼の予想を飛び越えて、唯香さんは大胆に奔放に、セクシーな自分を放させてくる。

 入念で周到な暗示の積み重ね。自分が彼氏の弟の初体験を奪ってしまったというショックな記憶と贖罪意識の植えつけ。そして「本当の心の声は絶対」という、彼女に予想外なまでに深く刺さった暗示。これらがうまく複合されて、唯香さんは1週間のうちに、人格が捻じ曲がるほどの変わり映えをみせていた。

「兄貴が………寝てる時だけだよ」

 秀輔は笑いが漏れそうになるのを噛み殺しながら答える。

 兄貴はこれから、夜に唯香さんと自宅でくつろいでいても、すぐに寝落ちするようになる。それがわかっているから、秀輔は面白くて仕方がない。

「ねぇ、シュー君。………私の乳首って、こうやって弄ってると、ぽてっと大きく固くなるんだけど、そうすると、ほら、右と左とで、ちょっと違う方向むいてるみたいなの。………面白いくない? ………あんまり綺麗じゃないかもしれないけど、………ちょっとエッチな感じしないかな?」

 唯香さんは、バスタブの中でちょうど自分のオッパイの真ん中、乳首がお湯から浮き出したり沈んだりするくらいの位置で、オッパイを弄って見せる。秀輔の気をひくためなら、とことん体を張って、誘ってきてくれる。

 兄貴の孝輔は昨日、秀輔の手によって、催眠術にかかり、夜は眠気に極端に弱いと自分で思いこむようになった。明朗快活なスポーツマンの兄は、ひねくれた弟の策略に気づかず、あっけないと思えるほど簡単に、深い催眠状態に落ち、10以上の後催眠暗示を刷り込まれた。だからこれからは、自分の彼女と弟がどんな不自然なまでに濃密なスキンシップを見せつけてきても、自分のいない間に弟の部屋でゴソゴソしていても、大して気にすることはない。むしろ、彼女と弟が仲が良いのが嬉しい、というくらいに思ってくれる。超寛容、太っ腹兄貴に生まれ変わってくれたのだった。

 別に兄貴の恋路を邪魔したいわけじゃない。都合の良いことに、本気でそう考えている秀輔は、孝輔と唯香をソファーに並んで座らせて、暗示を刷り込んだ。これから愛する2人は、2人だけの愛のかたちを作りあげることになる。孝輔と唯香にとって、エッチとは、「おヘソの舐め合い」のことになる。2人でムードが盛り上がってくると、ごく自然に、そして興奮の行きつく先として、2人はお互いの、おヘソを舐め合うようになる。裸になる必要もないし、他の部分を触れ合う必要も特にない。孝輔と唯香にとっては、お互いのおヘソさえペロペロ舐め合っていられれば、幸せだし、感じるし、充分に興奮する。

 その興奮が最高潮に高まると、どうなるか。孝輔はそのままティッシュの中に射精して、すぐに眠くなるようになる。唯香だけは、孝輔との愛の交歓には満足するが、体だけはまだ悶々と欲求不満を溜めこむ。そしてそこから先は、寝てしまった孝輔の部屋を後にして、入浴中の秀輔のもとにやってくる。

 2人にそうした内容の暗示を、何日も繰り返し刷り込んでみると、吉浜家の夜のルーティーンが、見る間に定着するようになった。夕食後、お皿を洗い終えた唯香さんが、孝輔の部屋に2人で上がる。秀輔はその直後に、お風呂にお湯を入れ始める。それから10分くらいたつと、2階から、くぐもった喘ぎ声が聞こえてくる。やがて、給湯完了のメロディをバスルームから聞いて、秀輔が脱衣所で服を脱ぎ、お風呂に入って体を1度流す頃、ソロソロと唯香が脱衣所に忍び込んでくる。すりガラスの向こうで唯香さんが服を脱いでいくシルエットを眺めていると、兄貴の恋人は、慎重にドアを開けて来る。

 この時の表情に、出来るだけ唯香さん本来の性格から出る感情が欲しくて、秀輔は一度「性に積極的なお姉さん」に修正した人格を、少しずつもとに戻していく調整をしている。今では、唯香さんは顔を真っ赤にして、迷いながらもお風呂に入りこんで、自分の行動に戸惑いつつ、秀輔と抱き合ってディープキスをする。お腹とおヘソについた兄貴の唾液を洗い流した後、はにかみながら秀輔の体を洗うのを手伝い、あれこれと言い訳を口にしながら体を重ねる唯香さん。兄貴との「ヘソ舐めプレイ」で盛り上がった自分の性欲を秀輔にぶつけるというプログラムからは絶対に逃げられない。それでもそんな中で、彼女の素に近いリアクションを精一杯見せてもらっている方が、秀輔にとってはご馳走のように感じられる。

 彼女の素晴らしい体も、さすがに毎日のように貪っていると、いつかは飽きが来るような気がする。それでも彼女の心は、これからも操り方しだいで、様々な弄び方を楽しめる。恥ずかしそうに言い訳しながら、秀輔にオッパイを擦りつけて腰をくねらせる唯香お姉さんを見ていて、秀輔のその思いは、確信に変わりつつあった。

「唯香さん、この前、杏奈さんっていうお友達のこと、話してたよね? ………その人、可愛いの?」

「………え? ………杏奈? …………すっごく綺麗な子だけど………。どうして?」

 唯香が目を大きくさせて、秀輔と目を合わせる。秀輔は唯香の両目をジッと覗き込む。あとは小さく頷くだけで、唯香の意識は深い催眠状態に降りていく。すでに2人は、わずかなアイコンタクトだけでトランス状態を作れるほど、深層意識の中で強固な繋がりを作ってしまっていたのだった。

< つづく >

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