カースト越えて恋 1

第1話

「え、お前、まだ藤沢さんのこと、ワンチャンあると思ってんの?」

「いーよ、駿太。スーパーポジティブ。SPだよ。スーパー・ポジティブ、でSP」

 放課後の北棟校舎裏。秋冬は冷たい風が通り抜ける階段下の、「イケてないスポット」で、持田駿太は桂木マコトと丹波ノリユキに囃し立てられる。サラサラヘアーのマコトは少し呆れた顔で笑っているのだが、横の天パでデブのノリユキがはしゃぐと、圧が凄い。どうしても2人から、囃し立ててるようなグルーブが漂ってくる。

「さすがは俺のシュンタ。最低な印象の方が、印象ゼロよりよっぽどいいぜ。どん底からのアッパーカットだ。アッパー、カット。ACな。公共広告機構だ」

「ノリユキ君。アッパーカットはUCだ。………デブはこのさい、ほっとこう。………シュンタ。………君のために、はっきりさせておきたい。いいかい? ………君は、嫌われ者だ」

 アメリカドラマに出てくるキャラクターの吹き替えのような口調で、マコトがシュンタの両肩に手を置く。ヤレヤレといった笑みを浮かべながら、首を横に振っている。シュンタは多少この茶番にイラっときて、マコトの手を払う。

「いや、俺が嫌われてるってのは、誤解から来てんだよ。………てことは、誤解が解ければ、ワンチャンあんじゃね? って話を、さっきからしてんの」

「フォーッ。盗撮王子! クラス会で再審請求、もう一回いっとく?」

 ノリユキは調子に乗って、ムーンウォークまで始めている。これが結構うまいのがまた、腹が立つ。意外に動けるデブだった。

「いや………クラス会は、もういいよ。………あんな吊し上げ。後半、謝罪会見だったし………。それより、藤沢さんと2人で話して、誤解を解きたいんだ。別にワンチャンとか本気で狙ってるわけじゃないけど、俺がホントの盗撮王子って思われたままおわんのは、嫌じゃね?」

 シュンタの、思ったよりもリアルなトーンを見て、マコトが溜息をついた。

「あのさ………。シュンタが気にしてるほど、藤沢さんはお前のことどうとか、考えてないと思うよ。藤沢美緒とお前と、………いくつカースト違うと思ってるんだよ。…………お前のことなんて、別に疑惑が晴れたところで、底辺キャラとしか思ってないって」

「うぎゃー。マコトちゃんっ。真実の言葉は痛いっ。もうちょっと、夢見させてぇ」

 ムーンウォークを繰り返していたノリユキが器用に2回転ターンをして、頭を抱えながら膝をつく。シュンタも一瞬、言葉を失ってしまった。

「………カーストって、そんな、別に、藤沢さんだって気にしてないかも、しんないし」

「おま………。このガッコにいて、カースト気にしてない人間なんて、いるわけないだろ。先生だって、学級委員だって、いじめられっ子だって、みんなそれぞれのカースト意識して息してんだよ」

「イシキシテ、イキシテンダヨ。Yo。ホワッツァップ!」

 ライムを刻みだしたデブを無視しながら、マコトが胸ポケットからボールペンを出して、下の土に図形を描く。ピラミッドを描いたと思ったら、その下に、逆向きのピラミッドをもう一つ描いた。

「馬鹿には何べんでも図解して、ビジュアル的に教えてやるぞ。うちのガッコの生徒たちをざっくり括ると、6つの階層に分かれる。頂点はSグループとしよっか。『選抜メンバー』とか『神トゥエルブ』とか呼んでる奴らもいっけど、とりあえずここではSグループな。藤沢美緒がいる世界だ。藤沢さんみたいな文句なしの美少女とかっていうビジュアル。あるいは久野の、生徒会長みたいな学校の役割。家が超金持ちとか有力者とかのバックグラウンド。宮田のズバ抜けた運動神経とか、余裕とともにある超絶学力。このへんのキラーコンテンツを2つ以上持ってると、Sグループという天上界に往く」

「チラ見でもわかるよな。オーラが違うから」

 シュンタも頷かざるを得ない。藤沢美緒さんの完璧な顔のつくり。バレリーナのようなプロポーションと優雅な物腰。おうちもお金持ちらしい。お嬢様育ちが滲み出てくる、天使のような性格の良さ。確かに、クラスメイトも、上級生も、先生たちまでも、当たり前のように藤沢さんを特別扱いしている。そこに違和感すら感じない、自分がいる。

「Sグループなんてクラスに1人いるかどうかってレア度だけど、次のAグループはクラスに5、6人はいるリーダー層だよな」

「リア充様な」

「色んな言い方あるけど、まあそうだ。メジャー系の部活で主力張ってたり、見た目がイケてたり、ファッションセンスが良かったり、コミュ力高かったりして、イケてるグループを引っ張ってる」

「ここまでが雲の上っていうやつもいるぜ。俺も、Sグループまで行けなくても、一度Aグループに混じってみたい………。超モテんぜ?」

「お次のBグループは、Aの取り巻きみたいなもんかな? いわゆる、陽キャどもだ。面白かったり、ノリが良かったり、リーダー格の奴と仲良かったり………。キョロ充って呼ぶ奴もいる」

「廊下とかで俺をトイレットペーパーでグルグル巻きにしてくんのは、このへんの奴らかな~?」

 ノリユキがボソッと酷い話を打ち明けてくる。シュンタは深堀りしようか迷ったが、マコトはそのまま続ける。

「Cグループはモブだ。数としてはこのへんが一番多いが、キャラはそんなに立ってない奴らが多いかな。ここからカースト上げてくる奴もいるし、何かしでかして、ドロップアウトしちゃう奴もいる」

「トレンドとか価値観もカーストに影響すっからね。小学校の頃は足が速いってだけでカースト高かった男子もいたけど、そいつ、家が貧乏ってことがみんなに浸透した中学校時代からはCグループにいるな」

 だんだん話の内容が暗く、重くなってくる。

「そしてDグループ。陰キャだ。モブのなかでもイケてないグループ。オタクだったり、マイナー部活でゴソゴソしてたり、成績低かったり、ビジュアルにちょっと難ありとか………な」

「可哀想になぁ…………」

 心から同情したように首を横に振るノリユキ。彼はそのDグループより下の存在らしい。

「でも、そんなの所詮、学校の狭い世界の中だけの話だろ?」

 聞いていて息苦しくなってきたシュンタが割って入る。マコトは笑顔で首を横に振った。

「それが違うんだな。………近所のお兄ちゃんを慕ってたけど、そいつが仲間内では超陰キャだって知って、秘かに幻滅したっていうような経験はないか? シュンタ。学校という絶対的な空間の中での格差は、微妙に外の世界にも影響を与える。学園内のスターは自然に外の大人からも一目置かれたりするし、いじめられっ子は何となくコンビニ店員にもぞんざいに扱われたりする。そういうのってはの何か伝わるんだよ」

「Oh。ジャパニーズ忖度、エアーリーディング・カルチャー」

 天パ・デブが頭を抱えた。

「話を戻すぞ。いよいよ最後のド底辺が、Eグループ。いじめられっ子。ボッチ。………そして俺やお前といった、事故物件だ。いわゆる、やらかした奴らな」

「クラスの裏サイトに、個人フォルダーからアイコラ写真を大量に流出させた、マコト先生とか」

 ノリユキの指摘に、マコトが前髪をかきあげて、イケメン俳優みたいな仕草で返す。

「大好きなS級美少女、藤沢さんの写真を掲示板に上げてて、うっかりパンチラ写真も載せちゃった結果、盗撮王子の称号を獲得した、シュンタ殿下とか」

 シュンタも軽く笑顔を返す。天パ・デブに、「全然、ダメージ無いですけど」というリアクションを返すためだ。それでも、シュンタのピュアハートはチクッとなる。

「2人とも、流出事件でクラスを沸かせた、1年の時から、Eグループの中でもエリートだもんな。特Eって感じだよ。………その点、俺なんか、何にも流出させてないのに。なんでお前らとつるんでるんだろ?」

「はぁ…………。ノリユキ。君は、大切なことを忘れている。…………君が流出させたものは。…………ウンコだ。そうだろ?」

「アウチッ…………。ウンチ、アウチッ!」

 ノリユキがまた、頭を両手で抱えて突っ伏した。丹波ノリユキは小5の時と中2の時。2回も学校でウンコを漏らしたそうだ。彼こそが、Eグループの特待生としてこの稜聖学園高校にやってきた、エリートだったのだ。

「…………つまり俺たちは?」

 マコトがここでやっと、これまでガン無視してきたノリユキに声をかける。突っ伏していたノリユキが顔を上げてニヤリと笑う。

「R・K…B」

「そう。来世に・期待・ボーイズ」

「R・K…B。イェー」

 手を打ち鳴らす、シュンタのツレたち。

「………こ………、こんな青春じゃつまらないよっ」

 シュンタはいたたまれなくなって、走り出していた。首元が寒くなった気がして、襟で頬まで隠して走った。

。。。

 マコトの真実の言葉に耐え切れなくなったシュンタは、ゆかいな仲間たちから離れ、遠回りして下校することにしていた。1人で歩いていると、時々、嫌な思い出が頭の中でループしはじめる。奇声を上げて、急に走り出したくなる。でも自重する。これ以上、同じ学校の生徒たちの間で、『シュンタ=事故物件』という公式を強化したくはなかった。

(はぁ…………。藤沢さん。やっぱり嫌そうだったな………。)

 シュンタを追いかけてくる、嫌な思い出は、つい先週のもの。藤沢さんの写真を定期的に40回も掲示板に上げていたことを謝って、パンチラ写真は偶然撮って、ミスでアップしたということを説明しようとした彼は、緊張しすぎて、ただ藤沢さんを呼び止めただけで、言葉を失ってしまった。

「美緒、こいつが盗撮王子でしょ? まだストーカーされてんの? ………可哀想」

 取り巻きの女子たちに促されるまま、藤沢さんはシュンタから目を反らして、逃げるように速足で立ち去って行った。

(こんなのが、リアル藤沢さんとのラストコンタクトになったら、僕はきっと一生、後悔する………。なんとかして、きちんと、自分の言葉で誤解を解きたい…………。でも、また、あぁなっちゃうと思うと…………。なぁ………。)

 何か、シュンタの背中を後押ししてくれるものが欲しかった。勇気を出してくれるものがあれば、それに頼ってでも、藤沢さんにもう一度説明に行きたかった。そう思って、マコトやノリユキに、思い切って話したのに、出てきたアドバイスは、「身の程を知れ」というものだった。マコトは大人だ。シュンタがあれこれ考えながら歩いていると、高校の北の路地の一角に、フェンスで囲われた、周囲と雰囲気の違う景色を見た。

「建設予定地」

 と書かれた看板、その後ろには、今にも潰れそうな、小さな神社というか祠のようなものがあった。

(………神頼み………。くらいしか、ないかな? …………今は。)

 木で作られた古い工作物は、黒くて少し湿ったような風合いになる。小さな社をかたどった祠は、いかにも取り壊し前のオンボロという雰囲気だった。

「回春山・桃四里聖天………かな? ………よく読めね…………。ここにいる神様も、………神様のなかではそんなにカースト高くない感じするけど………。ま、いっか」

 取り壊し前の社の前に立ったシュンタは、溜息をつくと、財布から500円玉を出して、弁当箱くらいの大きさの賽銭箱に入れる。両手を叩いて、お願い事を考えた。

(藤沢美緒さんに、僕の無実を信じてもらえるように? ………いや、500円奮発するんだから、もっとデッカイお願いごとしとく?)

「パン、パン。神様、仏様。誰でもいいから、僕の学校生活に光をください。僕たち、スクールカースト最下層の人間が人生思い通りに生きられるような………、一発逆転をお願いしますっ!」

 さっきのマコトのカースト論が頭にあったせいで、シュンタは藤沢さんの思い以上に、このカーストが逆転するくらい、スカッとする奇跡を、いつの間にか願っていた。

 ムフーゥゥゥ

 生暖かい空気が、シュンタを包み込んだような気がする。次の瞬間。周囲を稲妻のような光が包み込んだ。閃光がシュンタの視界を奪って白ボケさせる。

 くらんだ目がやっと像を結んだ時、シュンタは目の前に、蟻が動くの見ていた。顔を動かすと、頬が石畳についていることに気がついた。体が地面に張りついている。光の中で意識を失ったのか、シュンタは、自分が祠の前で倒れていたことを理解した。

「あれ? …………さっきの、なんだよ………。夢?」

 ズボンの膝から砂ぼこりを払いならが、立ち上がったシュンタが鞄を持ち上げる。気味の悪い、取り壊し前の祠から、シュンタはフェンスを越えて道路へ戻る。本当だったら、賽銭箱に入れた500円も取り戻したいところだったが、それは諦めた。

 狭い路地の角を曲がると、見たことのある通りに復帰する。何人か、下校途中の生徒もいた。こちらもバス停は、高級住宅街に向かうバスの路線だ。同じ高校の生徒でも、少し金持ちそうな雰囲気の上級生や下級生が通り過ぎていく。心なしか、キラキラしてみえる。

(やっぱり、カーストが違うってことかな。)

 そう思うと、またシュンタは胸がしめつけられるような思いになった。

 お金持ちの美少女たちは、どこか雰囲気な似てくるのか、それともシュンタが藤沢さんのことばかり考えているせいか、彼は一人の女生徒の後ろ姿に、藤沢美緒さんのシルエットを重ねる。………いや、それは藤沢さん、その人だった。中学からのカメラ小僧であるシュンタは、一瞬でお目当てのヒロインを探し当てた。フォルムだけでわかる。学園有数の美女、藤沢さんだった。バスが近づいてくる。そう思った時、シュンタは焦燥感にも後押しされて、また藤沢さんに声をかけてしまっていた。

「あ…………あの、藤沢さん。………ごめん。ちょっとだけでも、僕の話を聞いて欲しくて」

 振り返った美少女はつぶらな瞳をパチパチと、2回瞬きさせる。その短い時間の間に、彼女の表情は複雑に変化した。驚き、そこはかとない嫌悪感? ………悩み………そして最後に真顔になった藤沢さんは、2歩、3歩と、シュンタの方へ近づいてきたのだった。

「う………ん………。ちょっとだけなら…………。聞くよ………」

「え、美緒、マジで? ………やめときなよ。盗撮王子の言い訳なんて、………時間の無駄っしょ」

「そうだよ、近づくと隠しカメラとかで、激写されるかもよ?」

 取り巻きの女子たちがギャーギャー騒ぐ。川野と柴村だ。シュンタは藤沢さんと直接話が出来そうな奇跡の瞬間に、割って入ってこようとする奴らに心底、苛立った。

「君らは、どっか行ってくれよ! 僕は藤沢さんに話があるんだ」

 口を開くとお喋りが止まらないはずの、川野と柴村が絶句した。いつもの持田駿太と違う様子に、驚いたのだろうか? ビクッと背筋を伸ばしたかと思うと、2人で顔を見合わせあう。ゆっくりとその顔を、停車したバスの方へ向けた。

「…………はい。…………私ら………、行くね」

 奇跡は2度起きた。藤沢さんがシュンタの話を聞いてくれると言っただけでなく、お邪魔ムシ2人が、妙に物分かり良く、シュンタたちを2人きりにしてくれるようなのだ。こんなチャンスはあと何年待っても、2度と来ないかもしれない。シュンタは一気に誤解を解くところまで行きつくつもりで、急いで考えをまとめることにした。バスはバス停で列を作っていた学生たちを乗せると、藤沢さんとシュンタを残して、ドアを閉める。バスが走り去るのを待って、シュンタは口を開いた。

「藤沢さん、………あの、僕、今までずっと言えなかったんだけど………」

「あ、そろそろいいかな? 持田君。私、行くね」

 従順そうな真顔でシュンタの言葉を待っていた藤沢さんが、不意に正気に戻ったように周りを見回して、手首の腕時計を見る。少し強張ったような愛想笑いを浮かべて、シュンタから距離を取ろうとする。普段の様子に近い、藤沢さんだった。

「え? どうして? ………まだ何も………」

「だって………、持田君、ちょっとだけでいいから、聞いて欲しいっていうから、………ちょっとだけ。………ごめんなさい。私、帰らないと………」

 シュンタに背を向けて、バス停に戻る藤沢さん。今バスが発車するのを見送ったばかりなのに、「ちょっとだけ」シュンタの話を聞いた後は、もう次のバスを待ってシュンタを拒もうとする。少し、不自然な行動のように思えた。

「待ってよ。藤沢さん。もっとちゃんと聞いて欲しいんだ」

 藤沢さんの背中がキュッと伸びる。両肩がビクッとすくんだ。振り返った藤沢さんは、つぶらな目を大きく見開いて、遠くを見るようにしてシュンタを見た。

「はい。………持田君の話を、きちんと最後まで聞きます」

 色白の美少女は、誰もいなくなったバス停のベンチまでシュンタを引っ張っていくと、シュンタと横に並んで座った。そこまでの間、15秒。シュンタは藤沢さんに手首を持たれて腕を引っ張られ、肘かつくくらいの距離で横に座って、間近で藤沢さんの顔を見る。人生の思い出フォルダーが容量オーバーになるくらいの、大量の幸せな体験ラッシュをくらった。

「持田君。気が済むまで、貴方の話をして。私、一言一句、聞き逃さないようにするから」

 真面目なヒロインは、今にもノートを出してメモを取り始めそうな真剣な顔で、シュンタに向き合う。そこまで全力で聞き取り態勢に入られると、シュンタは逆に話しづらいものを感じた。体が近いので、フローラルな石鹸の香りが漂ってくる。余計に緊張した。

「あ………あの、…………なんていうか………。そんな真剣に聞いてもらえると、緊張するけど…………。でも、せっかくだから、言わせてもらうね。僕のこと、………どう思ってるか、わからないけど………。その。……僕の言うこと、信じてほしい。僕は、盗撮がしたかったとかじゃないんだ」

「はい………。そうよね」

 あまりにもアッサリと笑顔で頷いてくれる藤沢さんを見て、シュンタは拍子抜けしてしまう。

「え? ………いや、これから、きちんと説明しようと思ってたんだけど」

「うん。持田君が説明してくれるなら、全部ちゃんと聞くよ。……でも、貴方は、盗撮したかったんじゃないよね? それはもう、わかってるよ」

「え? …………もしかして、藤沢さん、僕のこと、ずっと信用してくれてたの?」

 思わずシュンタは震えていた。これまで、嫌われて避けられていると思っていたが、ずっと藤沢さんはシュンタのことを理解してくれていたのかもしれない。

「うんん。違うわ。今まで、貴方のことを、ちょっと怪しくて怖い人だと思ってた。私の、写真、いっぱい撮ってたってわかったから………。でも、今は、貴方のこと、全面的に信じてる。自分でも、どうしてこんなに、気持ちが180度切り替わっちゃうのか、不思議なくらい………」

 藤沢美緒は、これまであまり言葉も交わしてこなかった相手に対して、スラスラと自分の思いを素直に打ち明ける、そこにはシュンタに対する確固とした信頼感が感じられた。少し腑に落ちないところもあったが、とりあえずシュンタはホッとして、体中から緊張がほぐれていく。

「よ‥‥良かった………。もう僕、………今日も駄目だったら、世界の終わりだって………思ってたくらいだよ」

 今度は、学園のヒロインの体に緊張が走った。

「……えっ? …………本当? ……………世界、終わりなの?」

 両手で口を覆って、悲痛な表情を浮かべる藤沢さん。綺麗な瞳に、大粒の涙が溜まっていく。

「パパもママも、死んじゃうの? ……………人類は………滅びるってこと? …………いつ? 今日なの? 今日お終わっちゃうの?」

「え……、いや、あの…………。藤沢さん?」

 美緒の急変ぶりに、シュンタは何が起きているのかわからず、パニックになる。ボロボロと涙をこぼしながら、藤沢さんが取り乱す。少しずつ、周囲に人だかりが出来る。次のバスを待とうとしていた、同じ学校の生徒たちのようだ。

「おい、………お前、持田じゃね? ………なんで盗撮王子が藤沢さん泣かしてんだ? コラ」

「僕らのことは、ほっといてよっ」

 気まずい気持ち、焦り、カースト違いの2人が隣に座っているところを見られたというバツの悪い思い。パニクッていたシュンタは、相手も見ずに、叫んでしまった。そして後から後悔する。見てみると相手は、ヤンキー度40%の工藤というクラスメイトだった。お金持ちの子息が多い稜聖学園では、かなりヤンチャな部類だ。

「あ………、工藤君………。いや、その………。これには訳が………」

 無表情で立ちすくむ、ガタイのいいヤンチャ男子。シンプルに怖かった。

「いや………、持田の訳とかどうでもいいわ。…………お前らのことは、ほっとっから」

 ぶつぶつ言いながら、立ち去っていく工藤アツキ。周りの生徒たちも、一人、二人とバス停から離れていく。みんな、次のバス停まで歩いていくつもりだろうか? 振り返ると、ベンチで隣に座っている藤沢さんは、スマホでメールを入力していた。「みんなありがとう。大好き。今日、世界が終わっても、ずっと私た」まで読めた。

「藤沢さん、落ち着いて。世界の終わりなんかじゃないよ。さっきのは比喩というか、例えというか………。本当じゃないんだ」

 泣きじゃくりながらメールを入力していた藤沢さんの表情が、瞬時に切り替わる。冷静にハンカチを取り出して、涙を拭った。

「そうよね。………急に世界が終わるわけないし、もしそういうことがあったとしても、普通の高校生の持田君だけがそれを予言するなんて、普通でいうとあり得ないことだよね」

 冷静、理知的、そしてクールに饒舌な一面を見せ始める藤沢さん。その口調は完全に落ち着き払っていた。

 藤沢さんの様子は、明らかにいつもと違う。いや、藤沢さんだけじゃなくて、川野も柴村も、工藤も、みんな変だ。どこが変か? …………シュンタは一生懸命、違和感の原因を探っていた。

 みんな、シュンタの言うことをきいている。

 川野と柴村が、あっさりとどっか行ってくれた。工藤もシュンタのことをほっておいてくれた。藤沢さんはちょっと話を聞いてくれたり、ちゃんと聞いてくれたり、シュンタのことを信じてくれたり。………信じてくれた? ………そうだった。シュンタが「僕の言うことを信じてほしい」と言ってから、藤沢さんは、不自然なくらいシュンタの言葉を字面通り真に受けてくれている。

「………あの………藤村さん? …………」

「どうしたの? 持田君」

 藤沢さんはまだ、落ち着き払っている。

「僕、実は…………スーパーマンなんだ」

 藤沢さんの冷静な表情が崩れた。口を大きく開けて、シュンタのことを頭のてっぺんから足先まで、何度も見る。

「そうだったの? …………すごいっ………。スーパーマンって、空想の世界のキャラだって思ってたっ。………すごいっ。………持田君、飛べるの?」

 藤沢さんの表情を見ているだけで、これが演技ではないことがわかる。シュンタの言葉を心底信じ切っているリアクションだ。あまりの異常事態に、シュンタは頭がクラクラとした。そして少しずつ、現実感を失っていた。胸元に、ゾワゾワとした悪戯心、あるいは下心のような欲求がこみあげてくる。痺れるような、持っているだけで快感をともなう願望。これが千載一遇のチャンスだった。こんな奇跡の日でもなければ、一生出会わない幸福があるはずだった。すべてを壊してしまうリスクを考えながらも、シュンタは自分の唇を舐めて、震える喉から声を出した。

「いや、藤沢さん。僕、本当はスーパーマンじゃないんだ。………ごめんね。………本当は、僕。信じてね、僕は、藤沢さんの恋人………だよ………。藤沢さんが大好きな、恋人」

 最後に「なんてね」とか「なんちゃって」とか、逃げの一手を残しておくか迷った。それでも、しゃべりながら、藤沢美緒の表情がみるみる変化していくのを見るうちに、シュンタは逃げ道を作るのをやめていた。藤沢さんは耳まで真っ赤になって、3センチ、さらにシュンタと距離を詰めたのだった。シュンタを見る目が少し潤んで、ポーっとしている。シュンタが見ているだけで狂い死にしそうになるくらいの、可愛らしい、「恋する美少女」がそこにいた。(真に受けられるといけないので、過激な表現は避けようとも思った)

。。。

 シュンタの家に向かう路線のバス停まで、藤沢美緒と持田駿太が手をつないで歩いていく。通り過ぎる同じ学校の生徒たちは誰もがギョッとした顔でそれを見送る。何人かがチャチャを入れてこようとしたが、シュンタが「ちょっと黙ってて」と言ったら、まるで口がチャックでしめられたかのように、寡黙な通行人になって、歩き去っていった。灰色に見えていた学校周辺の景色が、パラダイスのように色づいて見える。シュンタは「恋人」と手をつないで歩いていて、これまでの人生の中で間違いなく一番幸せだった。バスに乗る時にスイカを出そうとしたシュンタは財布を見て、さっきの古ぼけた祠に、5千円くらい入れておいても良かったと思ったほどだった。

 バスの左後ろから二列目の席が2人分開いていたので隣合わせに座るシュンタと美緒。シュンタはこれまで身がよじれるほど憧れていた美緒の横顔を間近で、至近距離で見るのを楽しみにしていた。高い鼻。長い睫、綺麗な目。可憐な唇。細い顎、透き通るような白い肌。清楚な黒髪。その息を飲むような完全な造形を真横で堪能したかった。しかし、美緒はチラチラとシュンタの顔を見て、赤面する。頻繁に目が合ってしまうので、なかなか落ち着いて鑑賞することが出来ない。モジモジしながらお互いの顔を見合わせたり、クスクス笑いあったりしている2人は、はたから見ると、ラブラブのカップルのようだ。少しだけ彼氏と彼女のルックスがアンバランスな、それでも熱愛中のカップル。シュンタがキスをしようと提案すると、モジモジと周りを見回して恥ずかしがっていた美緒が、無言でコクリと頷く。美緒は鞄を持ち上げて、周囲から隠すようにした顔を、そのままシュンタに近づけてくる。そっと両目を閉じた。そこからはシュンタが顔を近づけて、学園のアイドル藤沢美緒の唇を奪う。プルプルと弾力があって柔らかい、美緒の唇は温かく湿っていた。その感触を楽しみながら角度を変えて何回も唇を重ねるうちに、端から悪戯っぽく舌を押し入れたくなる。美緒の熱い鼻息や吐息がシュンタの顔にかかるたびに、不思議な安心感を感じた。この完璧な芸術品のような美貌を持った、「Sグループの」超絶美少女も、やっぱり生き物、人間なんだ。息もしていて、口の中には涎も分泌されて………。そう確かめるように、シュンタが舌を押し入れる。聖なる藤沢さんの口内を探検するように舌を添わせる。涎を吸い上げようとする。

「んんんーっ」

 周りの目を意識するように、美緒がシュンタの顔を押しのける。両手で顔を隠すようにして、小声で喋った。

「これ以上は駄目………ここじゃ」

 根が臆病者で、引っ込み思案だったはずのシュンタも、やっと周囲を気にして美緒から体を離す。それでも、今の美緒の言葉を頭の中で反芻するうちに、またチョッカイを出したくなってくる。

「ね………、美緒ちゃん。その………オ、………オッパイ触らせてくれる?」

 藤沢さんの顔が歪む。相当に困っている。

「ここじゃ駄目………」

 恥ずかしそうで、困っていて、でもどこかドキドキしている藤沢さんの顔。彼女がこんなに表情豊かだとは、思っていなかった。

「じゃ、どこなら、いいの?」

「……………知らない」

 むくれたように窓の外に顔を向ける藤沢さん。その耳元でシュンタが勇気を振り絞って囁きかけた。

「ちょっとだけでいいから。ここで、オッパイを触らせてよ」

「…………は………い…………。……………………………どぞ……」

 顔を向こう側にそむけたまま、震える手を伸ばしてきた藤沢さんは、シュンタの手を取って、ゆっくりと自分の胸へと持っていく。左側の胸。ブレザーの襟元からシャツの上。そろそろとシュンタの手のひらを、丸い膨らみの上に着地させた。

 ブラのカップの上からでもわかるその柔らかさとボリューム感。巨乳というほどではないはずの美緒のバストだったが、シュンタの手にははっきりとその優美な丸みを伝えてきてくれた。

 普通の藤沢さんだったら、絶対にこんなことシュンタにさせないはずだった。今現在、確実に、おかしなことが起きている。それだけはわかるが、それがなぜか、どんな規模で起きている事態なのか、シュンタの理解力ははるかに超越していた。シュンタにわかっていることは限られている。今、藤沢美緒はシュンタの言葉を何でも信じてくれる。シュンタを自分の恋人だと思っている。そして恋人にも断るようなことも、シュンタに要求されると、断れない状態になっている。正直なところ、それだけわかっていれば、十分だった。

。。。

「ここ、僕の家。………母さんも働いてるから、今は誰もいないんで…………」

「え……でも、やっぱり………私、今日は帰った方が………」

「遠慮しないで」

「はい」

 急にリラックスした表情になった美緒が、リビングのソファーにドサッと座る。

「美緒ちゃん。さっきの続きしよっか」

 我慢の限界が近づきつつあることを意識したシュンタが、切羽詰まったような声を出す。

「ちょっと、持田君、さっきは強引すぎ。………私、外であんなこと………。………やだな」

「ごめんね。でも、ここならいいでしょ? 美緒ちゃん。服脱いで、オッパイ見せてよ」

「はい………。………あ、でも、カーテン」

 肩をビクッとさせた藤沢美緒は、弾かれたように立ち上がって、ブレザーに手をかける。視線でカーテンを閉めて欲しそうにシュンタに訴えかけてくるが、それでもブレザーを脱ぐ手は止めない。ソファーの座面に紺のブレザーを置くと、白いシャツのボタンに指をかける。

「あの………。持田君………。明るいところだと、恥ずかしいよ」

 恋人に対しても、美緒はこうやって振る舞うらしい。生まれながらのお淑やかなお嬢様なんだろう。憧れの天使を困らせていることに、罪悪感を感じるが、ほんの僅かな差で、好奇心と悪戯心が罪悪感を凌駕する。

「恥ずかしくても、やめちゃ駄目。隠しても駄目だよ。美緒ちゃんは僕にオッパイをしっかり見せるんだよ」

「はい…………うぅ………、嘘……………。さ…………逆らえない…………よ」

 藤沢さんは恥ずかしそうに唇をかみながら、それでもシャツを脱ぎ捨てて、清潔そうな白いブラジャーをシュンタの前に晒す。何度か動きを止めようとしても、それでもまた迷いを払うかのように、思い切って両手を背中に回す。プチっという音がして、ブラジャーが少し緊張感を失った。肩紐が横にずれていく。白いカップが下にずれると、丸くて柔らかそうな、形の良いオッパイが少しだけ重力に引っ張られて、そのあとで逆らうようにしてやんわりと揺れる。真ん中に、ピンクの乳輪と乳首がツンとおさまっていた。シュンタが夢に見てきたものよりも、さらに見事な完璧なオッパイだった。

「…………恥ずかしいよぅ…………」

 べそをかくような表情を見せながら、美緒は自分でオッパイを下から持ち上げたり、右から左からと角度を変えたりしながら、シュンタに見せつける。

(僕に「しっかり見せるんだ」と言われて、恥ずかしくても従ってるんだ………。)

 シュンタの確信が高まっていく。喉がカラカラになっていた。

「美緒ちゃん。………ちょっと、上からカメラ持ってくるから、スカートも脱いで待ってて」

「………え? ………カメラ? ………嘘でしょっ。………持田君ってば! ………待って」

 悲鳴のような嘆願のような声を背に、シュンタは自分の部屋へと走る。例の「盗撮写真流出騒動」以降、クローゼットにしまい込んであった、キヤノンのミラーレス1眼を出して、階段を駆け下りる。可哀想な藤沢さんは、ショーツと靴下だけをはいた姿で、リビングルームの真ん中に立ち尽くしていた。両手をショーツの前で重ねている。

「藤沢さん、よく聞いて。君は僕のヌードモデル。恋人で一流カメラマンの僕に、裸を撮ってもらうのが最高の喜びなんだ。裸を撮ってもらうと、とっても幸せになるんだ。本当だよ」

 美緒の両手が自分の頬を包み込む。目が合うと、思わず小さな笑みが零れ出た。シュンタと一瞬目を合わせた美緒だったが、そのあとは、シュンタがヘソの前にぶら下げているカメラのレンズとシュンタの顔とをチラチラと見比べている。

「裸…………。撮られたいんでしょ………。美緒ちゃん?」

 シュンタがちょっとだけ意地悪なトーンで質問する。こんな話し方を憧れの女神にする日が来るとは、思ってもみなかった。

「だって………。………モデルなんだし…………。………………持田君だけ………だからね、こんなこと………」

 肩にかかるくらいの長さの髪を指先でクルクルと遊ばせながら、美緒が言い訳をする。普段の隙のない美少女の佇まいよりも、可愛らしい姿に思えた。

 シャッター音の中で、クルクルと回転しながら、藤沢美緒の表情がゆっくりとほぐれていく。笑いながら両手を横に、オッパイを突き出すように背筋を反らしたり、次の瞬間には両手で思わせぶりにオッパイを隠したり。手を後頭部で組んで体をねじってみせたり、ソファーの上で天真爛漫に飛び跳ねたり。窓際に寄ると薄手のカーテンに包まって足から腰骨だけをこちらに出したり。美緒は見るからに、カメラと自分の裸との対話を楽しんでいた。四つん這いになってお尻を突き出したり、カメラを挑発的に見上げたり、立ち上がって体をよじりながら髪をかき上げたりした時の美緒の表情は、普段のお淑やかなお嬢様とはまったく違うキャラクターとさえ思えた。

「美緒。………パンツと靴下も脱いで、全裸になったら、もっとエッチな写真をいっぱい撮らせて」

「……………はい………。…………頑張ってみるね……………」

 美緒がショーツを下ろしていくところを、連写する。大人の女性の象徴のように、フッサリとアンダーヘアーが生えていた。白いショーツは一つずつ足首を通過して、ソファーの座面に置かれる。美緒は体をくねらせるようにお尻を振って、ソファーに座ると、足をピンっと天井に向けて突き上げた。大切な部分が少し捩れながら顔を出す。高く上げた足が弧を描くように水平に開いていくと、藤沢美緒の女の子の部分が左右に引っ張られて開いた。

 カメラを投げ捨てそうになったシュンタが、いちど大事そうにテーブルに置くと、もう我慢できなくなって美緒の上にとびかかっていた。激しいキスをする。唇を重ねるなんていうジェントルなものではなくて、キスを奪う。美緒の口を貪る。苦しそうに呼吸する彼女を、もっといたぶるように、オッパイを揉みしだく。少し強めに揉むと彼女の腰が苦しげにクネる。美緒が綺麗すぎるから、無茶苦茶にしてしまいたくなる。それでも、辛そうな声を聞くと、思わず手を止める。

「あの………、持田君。私、初めてだから………」

 その言葉を聞いて、シュンタは一瞬だけ、頭がフリーズした。やっぱり藤沢さんは汚れのない聖処女だった。いや、これだけ綺麗で、学校でも目立ってて、ちょっと意外かも。いや、当然のように僕も初めてだけど、2人とも初めてで大丈夫か? 藤沢さん、もしかしたら、さっきのファーストキスだった? 初めて男の前で裸になったのに、いきなりさっきのヌード撮影タイムは刺激強すぎたかな? 藤沢さん綺麗だ。でもって、エロい。肌スベスベだな。柔らかい。温かい。気持ちいい。

 色々考えた結果、何も考えていないのと同じ状態に戻ってきたシュンタは、ただただガッツいて藤沢さんの体中を揉みしだいて舐めまわした。時々、シュンタの手を掴んで、美緒が拒もうとする。そのたびにシュンタが耳元で囁く。

「力を抜いて。気持ちいいよ。藤沢さんはこれが好きだ」

「あぁ……………もう……………。………駄目………」

「駄目なの?」

 シュンタが目を合わせて聞いてみる。美緒はいじらしく首を横に振る。

「駄目になっちゃう…………。……くらい………、気持ちいい………」

 お嬢様の了解をとって、正々堂々とシュンタは美緒の乳首をつまむ。耳たぶを甘噛みする。おヘソを舐める。お尻を撫でまわす。オッパイをギュウギュウ揉む。脇を舐める。アンダーヘアに鼻を押し付けて匂いを嗅ぐ。クリトリスを舌で刺激する。そのたびに、美緒は高い悲鳴のような喘ぎ声をあげて、弾かれたように体を震わせる。これが初体験のはずの美緒は、シュンタが「これが気持ちいいでしょ」とか「これが美緒の大好きなこと」とか、「変になっちゃうくらい、エッチな気持ち」とか言われるたびに、頭のネジが飛んでいくような感覚に襲われる。気がつくと、涎と涙で彼女の美しい顔がビショビショになっていた。そして細い足の間も。

「怖いっ…………。気持ち良すぎるのっ……………。持田君………。私、帰ってこれなくなっちゃう」

 裸のまま、シュンタにしがみつく美緒。気がつくと、シュンタもほとんど半裸になっていた。

「いいよ。………ずっと帰って来れなくても。………ずっと一緒だよ」

 シュンタがいきりたったモノを見せると、美緒は少し後ずさる。それでもシュンタに「これが好きになるよ」と囁かれると、心の底に温かい感情が噴き出してきて、気がついたらシュンタのおチンチンに触れている自分がいた。また赤面する。

 美緒の腰の下に手を入れて、彼女の腰骨を抱きかかえるように持ち上げたシュンタは、自分の腰の角度を工夫しながら、念のために彼女の割れ目に指を入れる。ジットリと熱く濡れていた。ペニスの先を苦心しながら押し入れて、一気に腰を突き出す。ジュリっと中の抵抗が破れて、シュンタは完全に受け入れられた。「Sグループ」の姫君と、「Eグループ」の底辺男子が、生殖器で結合して、一つの存在になっていた。顔をクシャクシャにして喘ぎ鳴き、悶え狂う美緒と、動物のように腰を振り続けるシュンタ。カーストを5階層も越えたセックスに、2人の男女が没頭していた。

。。。

「おい、マコト、ノリユキ。お前ら絶対信じねえと思うけど、昨日凄いことがあったんだぜ」

 シュンタが校舎裏の「イケてないスポット」で、ツレたちに最高に自慢の報告をする。朝一番のブレーキングニュースだ。

「いや、そんなことより、ノリユキの話だよ。シュンタ信じられるか? この、天パ・デブがだぞ、このウンコ漏らしが………」

「いや、聞けって」

「マコトだって普通あり得ないだろ。お前みたいなアイコラ職人がなんだ3次元と………」

「黙って聞いてくれよ、俺が藤沢さんと結ばれたんだぞ。口きけたとか、誤解が解けたとかのレベルじゃねえんだよ。マコト、ノリユキ。俺、昨日、なんと童貞卒業したんだよ」

「いや、俺もだよ」

 マコトとノリユキの声が揃う。そのあと、3人がポカンと顔を見合わせた。

「はぁ~? お前が?」

 今度は3人の声が綺麗に揃った。

。。。

 話を要約するとこうだ。マコトはクラスで唯一国交断絶せずにいてくれている、幼馴染みの設楽香澄ちゃんと帰りに話をした。いつもはこのアイコラ職人を邪険に扱う香澄ちゃんが、昨日に限って、妙に物分かりがいい。マコトは思わず秘めてきた何分の一の純情な感情的な何かをぶちまけてしまうと、香澄ちゃんは二つ返事でOK。その日のうちに、マコトのパパのガレージにあるエルグランドの二列目シートで初エッチと相成った。

 ノリユキはもっとシンプル。下校中に「ウンコ漏らし」がいるとからかってきた女子たちに「パンツくれっ」と遠吠え返し。するとあら不思議。ノリユキの手にはホカホカショーツが半ダース積み重なることとなったとさ。めでたしめでたし。

「いや、めでたし、じゃ、ねぇよ。それで童貞卒業はその中の誰と?」

「いや、そいつらからは単にコレクション頂いただけだよ。好みのタイプじゃなかったし。家に帰って、お袋と話してたら、マコトの話じゃないけど、妙に物分かりが良かったんで、だんだん我儘言っちゃって。最後気がついたら、やってた」

「初体験、お袋さん? ………攻めるねー。クズだねー。ま、丹波ママは結構美人だけど」

「いや、ウンコ漏らしって笑われて、パンツくれとか、よく即答出来るな。メンタル、鋼だよ。ノリユキは」

「いやでもよ………、今でもこんな状態、続いてんだぜ………。ほら」

 ノリユキがキョロキョロと校舎裏を見回す。2階の窓から外を見ながら、1年らしき女子が2人、談笑していた。

「おーい、君たちー」

 ノリユキが手を振る。相手が悪名高い、ウンコ漏らし先輩だと気がついて、2人の女子は背を向けようとする。

「君たち、パンツちょーだい。そっから投げてくれればいいから~」

 ノリユキが声を張り上げる。このコンプライアンス時代に、どこまでも突き抜けたナイスガイだ。

「は………はーい」

 一瞬だけ、ビクッと体を硬直させた2人の女子が、嫌そうな顔をしながらも、スカートに両手を入れて、身をかがめてモゾモゾ動いている。窓からは2人の困った顔しか見えなかったが、すぐにその窓から、ヒラヒラと薄手の布が、花の舞うようにして降りてきた。

「こんな具合だよ。今でも。………どうかしちゃったのかな? うちの学校。この街。今までにコレクションが2ダースですよ。鑑定団の皆さん」

「あの娘たちだって、ノリユキよりも2階層くらいはカースト高そうなのにな…………。なんでノリユキみたいな底辺男子の…………。あれ………。そう言えば、さっきシュンタ、俺らに黙れとか言ってたけど、俺ら普通に喋り続けてんな」

 マコトがポツリと呟いた一言が、シュンタをギクリとさせる。何か、大事なことを思い出したような気がした。

『僕たち、スクールカースト最下層の人間が人生思い通りに生きられるような………、一発逆転をお願いします』

 ボロ祠でそう祈ったあとで、なにか変な吐息みたいな風と、閃光に襲われて、気を失った昨日の放課後。あのあたりから、シュンタの身の回りでも、不思議なことが起こり始めた…………ような気がする。

「昨日は俺にすっごい力が備わったのかと思ったけど、お前らもなんだよな。…………そんで、俺らR・K…Bの間では、口にした命令も効果がない。………これ、俺たちの個人的な現象とかじゃなくて、ひょっとして学校中で起きてることだったりして?」

 マコトはなかなかシャープだった。シュンタはそこまで聞いて、急にヤバいことを想像した。スマホを取り出して、慌ててショートメール。相手は昨日、番号交換したばかりの恋人だった。

『美緒ちゃん。今、大丈夫? 変な奴に何か言われたりしてない?』

 永遠と思われるほど、長い時間が過ぎる。

『シュンタ君。どしたの? (笑)
 大丈夫だよ。お友達とお話してるだけ。
 …………もしかして、焼き餅やいてくれてるのかな? ←自意識過剰彼女』

 うん。速攻保存したい、可愛らしい返信だったが、シュンタは慌ててさらにメールする。

『美緒ちゃん。今日は学校、早退して。僕以外の奴から何か言われても、求められても、普段君がしないようなことはしちゃ駄目だ。すぐに家に帰って。いや、何なら僕の家に来て。鍵はポスト。僕も昼前には帰るから、僕んちで大人しく待機ね。』

『はい。早退します。』

 返信メールが来て、やっとシュンタは安心する。Sグループの超お嬢様は、同じような階層のお友達とだけ、お話をされていたようだった。シュンタはツレたちを置いて、走り出す。マコトとノリユキの声が追いかけてきたけれど、無視してしまった。

「川野と柴村、来てる?」

 2-Cの教室の扉を開けて聞いてみる。普段、盗撮王子とは口を聞いてくれないような女子も、今のシュンタが頼むと、素直に口をきいてくれた。

「2人とも来てないよ。なんか、昨日の夜から、家にも帰ってないらしくて、ちょっとした騒ぎになってるみたい」

「誰か、川野と柴村のメアドわかる人、教えて」

『俺、盗撮王子。無視せずこのメール読んで、言うこときいてくれ。いつまでも「どっかいってん」じゃねぇ。もう帰ってきてくれよ。ごめんね。』

 10分。祈るような気持ちで待っていると、やっと、返信が来る。

『わかった。帰る。』

『OK。学校? 家? どっちに帰ればいい?』

 川野と柴村を、まず家に帰らせることにした。2人は新潟県の佐渡島を目指して北上していたらしい。なぜ「どっか」と言われて佐渡を目指したのかは、シュンタにはわからない。もしかしたら、シュンタの口調から『出来るだけ遠くへ』というトーンを読み取って、それに従っていたのかもしれない。

 2-Eの教室の隅でダチと話していた工藤に話しかけようとすると、そっぽを向かれる。「もう僕のことをほっとかないで」と頼んだら、今度は妙にベタベタとまとわりついてきた。「いつも通りに僕と接して」と言ったら、ようやく落ち着いた様子だった。帰ろうとするシュンタの尻を軽く蹴る工藤。なぜか尻を蹴られて安心したシュンタがそこにいた。

< 続く >

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