明るい奴隷生活のすすめ 前編

 皆さん、初めまして。志岐明穂と申します。

 まだ頭がボンヤリしている方、考えがまとまらない方、体が重くて動けないという方、沢山いらっしゃると思います。そのまま、楽な姿勢でお聞きください。そして気分が悪くなった方は、お手元のブザーを頑張って押してくださいね。ナースさんたちが様子を見に来てくれます。ブザーを押すことも出来ないという方、私が壇上から見ていて、様子がおかしいかな、と思ったら、こちらでナースを呼ばせて頂きます。これから1時間半ほど、私のプレゼンテーションの時間です。皆さん、私の声が頭に響いてしまって、少し辛いかもしれないのですが、途中にも短い休憩を入れるつもりですので、なんとか1時間半。お付き合いお願いしますね。

 皆さんのお考え、混乱、怖い気持ち、あるいは夢を見ているようなフワフワした感じ。私はさっきから分かったような口ぶりで話してしまっていますが、実は私も丁度1年程前に、自分自身で経験済みなんです。I0-GVA19025。これが私が昨年頂いた、こちらの組織での識別番号です。『奴隷コード』と呼ばれる方もいらっしゃいますね。

 そうなんです。実は私、志岐明穂は、皆さんの1年先輩にあたる、奴隷です。特定組織所有形態の旧人格同居型汎用・性奴隷………。と言っても、いきなりご理解頂くことはまず無理ですよね。これから、順番に皆さんにご説明していきたいと思います。

 皆さんがお座りの、ソファー。拘束具がついているせいで窮屈だと思います。肘置きの横の小さなテーブルに、ピンク色の薄い冊子が置かれていますよね。『明るい奴隷生活のすすめ』というパンフレットです。こちらを読んで頂くと、皆さんが今後、どういう体験をして、どうやって生まれ変わり、その後の人生をどのように生きていくか、書かれてあります。いずれお暇な時間…………。たっぷり来ますよ………。退屈で死にそうな時間に、何度も熟読して頂くことになると思います。今は、こちらのスクリーンに、その、『明るい奴隷生活のすすめ』が映し出されています。私が抜粋しながらご説明しますので、聞いておいてください。

 ………うん。

 こういうことを今、お伝えしても、皆さんはご納得頂けないかもしれませんが、これから奴隷になって頂く方々に、組織が事前に工程や仕組みをご説明するようになったのは、人格改造教育の歴史の中で、実は本当に最近のことなんですよ。2000年代の初めまで、調教相手には、相手がこれからどうなるか、一切知らせず、相手を無力感と自己否定感で苛んで、一定方向の性格ベクトルに誘導していくやり方が主流でした。現在でも、私たちが所属する人格矯正教室以外の組織で、こうした旧態然としたやり方を続けているところは、数多くあると聞きます。

 今、皆さんのいらっしゃる、井形人格矯正教室では、最新の科学技術やメソッドを生かした、調教のソフトランディングを目指しています。集団の調教を合理的に安定的に行おうとすると、このような「旅のしおり」をお渡しして、調教相手の生命の安全や、最低限の安心感を与えて、次に起こることを予測させておいた方が、結局は効率の良い洗脳工程を進めることが出来るという経営方針になっています。

 そして今回は、初めて、私のような先輩奴隷が、皆さんの前に立って、まだ初期洗脳も行われる前の研修生たちに対して、経験者として、自分の身に起きたこと、自分がどう変わり、どのように幸せな奴隷生活をおくっているかをご説明するという試みがなされています。これは、なかなか革新的なトライアルだと思います。当然のこと、今の皆さんは、奴隷になんてなりたくない。今の自分の人格を改造されるなんて絶対に嫌って思っておられると思います。だから、私の言葉や、ここで説明される教室の洗脳工程に、ひどい嫌悪感や抵抗感を持たれると思います。その警戒心のせいで、初期洗脳工程がスムーズにいかなくなる。そういうリスクは、研究開発チームからも何度も指摘されたそうです。それでも、結局のところ、最初に私のような、ロールモデルと言いますか、サンプルが、自分の気持ちを正直にお伝えすることが、最終的には皆さんの心の動きの補助線となると、こちらの教室の経営陣は判断されたそうです。

 今、初めての試みと申しました通り、私のプレゼンテーションにも、参考とする前例がございません。もちろん緊張しておりますし、途中でスムーズにお話出来ないところもあるかもしれませんが、どうぞご清聴、よろしくお願いします。皆さんの意識がもう少しハッキリしてきたところで、質問も受け付けますから、覚えていられる方は、途中の疑問を心に留めておいてくださいね。

 それでは『明るい奴隷生活のすすめ』、表紙をめくりますと1ページ目、『奴隷となる皆様へ』という挨拶文が書かれています。井形文徳校長のお言葉です。皆さんの生命の安全は絶対に保障します、新生活の幸福を保障します、うんぬん、美辞麗句が書かれていますが、ここは割愛します(笑)。あとで読んでおいて頂ければ結構です。

 注目頂きたいのは右下の顔写真ですね。日本人離れしたお顔立ち………。疑問に思われる方も多いと思います。当然と言えば当然なのですが、この冊子に人格矯正教室の運営側の顔写真は載せてありません。万が一、流出したりしたら、大変なことですからね。この写真は、代表の井形先生ではなくて、井形先生が学んだ『柿谷式人格矯正療法』の理論的な骨格を最初に作られた、外国の研究者さんです。カール=ハインツ・ケスラー博士という方だそうです。肩書が長くて、字のフォントが小さすぎますが、後ろのほうの方、読めますでしょうか? ドイツ民主共和国 国家人民軍大佐。ドレスデン国家警察大学名誉教授と書かれています。学校の授業で習いましたか? ドイツ民主共和国。東ドイツですね。ケスラー博士という人は、若い頃はナチスドイツの軍医見習いだったそうですが、ソビエト連邦軍に拘束されて、シベリアに一旦抑留されたあとで、モスクワに移住。共産党の党員資格を与えられ、KGBに研究室を持った後で、東ドイツの政府系医療機関で働いて、人格矯正療法の権威になったという方だそうです。井形人格矯正教室で皆さんがしばらく生活される中で、いくつかの部屋で、壁に飾られているところをお見掛けする顔写真ですので、ご参考までにご説明させて頂きました。

 ページをめくって頂くと、第一部、『大事なお約束』ですね。一応、読んでみます。

 1. 反抗の禁止

 2. 脱走の禁止

 3. 反抗または脱走を相談することの禁止

 4. 自虐的・自傷的行為の禁止

 5. 他人へ危害を加えることの禁止

 6. 第三者への情報漏洩の禁止

 7. 許可されていない場所や事柄を記録することの禁止

 それぞれの項目に細かい説明が書いてありますが、全部説明するつもりはありません。実はこの『約束事』については、皆さんについてくださる、教官の先生方からも別途、詳細な説明があります。身をもって、約束事を守ることの大切さを心身に刻み込む経験をされる方もいらっしゃると思います。限られた時間の中ですので、私からこちらについてクドクドと説明することは致しません。

 あ………、でも、皆さんのためを想って、2枚だけお写真を見て頂きましょうか。ちょっと恥ずかしいのですが、1枚目はこちら。…………裸の女性が全身を拘束されて、体の色んな場所にコードをつけられていますね。アイマスクをしているので、気づかない方もいらっしゃるかもしれませんが、これ、私です。

 実は私はとんでもない劣等生でして、今の約束事の、1から7までほぼ全て違反を試みて、全力で人格改造に抵抗したんです。…………本当に恥ずかしいことなのですが、中期洗脳工程に上がってからも一度、初期洗脳工程に戻されてもいます。………こんな不良生徒は数年に1人のようですが。…………その頃の私には、そこまでしてでも、守りたい自分の信念や価値観があったんですよね。今となってはそれもこれも、笑い話と、甘酸っぱい思い出ですが。

 写真に映っている私は、アイマスクの下から涙を流しています。鼻水も涎も出て、舌は突き出して痙攣させていて、酷い顔ですね。手足も拘束されながらも不自然に引きつっていて、辛そうですよね? …………えぇ。すっごく辛いんです。敏感な部分に電極をつけられて感電させられていますから。こめかみからの電気ショックが一番辛くて、まるで鼻の奥から焦げた匂いを嗅いだような気がしましたよ。それでも必死で抵抗して、何とか逃げ出す方法を探して、途中から洗脳が進んでいる演技をしたりして、七転八倒したのですが、先生方から催眠誘導法も組み合わせた洗脳暗示を、深層心理に繰り返し刷り込んでもらいまして、やっと私の逸脱行為は収束しました。

 今では私の元教官だった萩原先生は、笑って教えてくれます。薬物洗脳、機械洗脳。そして催眠誘導法によるトランス活用洗脳。この3つをフルセットで完遂した私は、教官たちの間では「トライアスロン女子」と呼ばれていたそうです。お恥ずかしい限りです。

 2枚目の写真をご覧ください。原稿用紙の山。四百字詰の原稿用紙が2千枚か3千枚か………。途中から重さで計ってカウントしたそうです。ティータイムの自白剤や、深トランス瞑想の時間に私が新しい反抗する計画を自白させられるたびに、萩原先生は「電気ショックか反省文か」と選択肢を与えて下さるようになりました。奴隷研修生の健康を確保することは教官の大事な任務です。電気ショックによるペナルティも、繰り返されると後遺症のリスクを拭いきれないということで、教官も反省文というオプションを出してくれたんですね。4回のペナルティ電気ショックを頂いたあとの私は、この質問をされると這いつくばって、教官の靴にオデコを擦りつけながら、反省文にさせてくださいと、泣きじゃくって懇願するようになりました。量に決まりはありません。「約束事を破ることを心の片隅にも思い浮かべてしまったことについて、充分自分が反省したと思えるまで」、反省を書き続けます。通常の洗脳工程と並行して、就寝前の休息時間などを使って、私が書いた反省文の量は、文庫本にしても千ページを超えるそうです。ちょっとした大長編ですね。生い立ちから始まって、なぜ私がそのような逸脱行為を想起するような問題人間になってしまったのか、今後どういう人間になるべく、どんなご指導を教官から頂きたいか、徹底した自己否定の文章が延々続いています。もし皆さんの中に太宰文学の愛読者などいらっしゃいましたら、もしかしたら琴線に響くことがあるかもしれませんね(笑)。

 第一部は、詳細な説明は省いて、私の例を少し聞いて頂きました。お伝えしたかったことは、約束事は何も、複雑だったり理不尽だったりするものではありません。皆さんが何かの事情で、戦時中の捕虜収容所の看守さんになってしまったと、想像してください。敵対的な捕虜さんを何人も住まわせて、戦争が終わるまで出来るだけ問題を起こさずに過ごそうとすると、どんなルールが必要でしょうか? 皆さんお一人お一人が、考えてみてください。上の7つの約束事は全ての事態を網羅している訳ではありませんが、今のような考え方で、自分が「求められている」行動を考えれば、意外とシンプルに、適切な答えに行きつくはずです。そうすれば、電気ショックは避けられます。

 そして、約束を徹底的に順守しようとしても、事あるごとに反抗しようとしても、結局、皆さんの行き先は決定しています。はい、ここに書いてありますね。皆さんは素敵な奴隷になってこの教室を出ていくことは、決定しているのです。あとは、苦しんで荒れ狂ってその道に辿り着くか、夢見心地のようなフワフワした日々を過ごして立派な奴隷さんになるか、その過程の違いだけです。

 私の場合は、先ほどもお伝えしましたように、「トライアスロン女子」と言われるほどタフな道を通りました。今でも、「ペナルティ」という言葉を聞くだけで、心臓を凍った手に鷲掴みにされたような気がしますし、歯がガチガチなるほど怖くて、お漏らししそうになって、ちょっとの間は何も考えられなくなります。社会に戻った当初は、テレビからそういうコンビ名のお笑い芸人さんの名前を聞くたびに、卒倒しそうになりました(笑)。けれど私の知っている奴隷さんの多くは、思ったほど怖い目に会わないで済んだと言っています。頭も心も選択されて、綺麗で真っ白にリフレッシュしてもらって…………。ご主人様が許してくれるなら、またあの教室に戻って、矯正を強化して欲しいと、ウットリと語る子たちも知っています。

 行き先は決まっています。どんな道をどのように行くかが、個人差ある、ということです。…………何人か、ここまでの話で、グッタリしてしまっている方がいらっしゃいますね。二部に行く前に、ちょっと早いのですが、5分の休憩を入れましょうか?

。。。

 お疲れ様です。気分の悪い方は他におられますか? お手洗いからも戻ってこられましたね。睡眠薬を投与されてここへ搬送されてきた方、拉致されて反抗しようとして麻酔を打たれた方、トランス誘導パルスの影響下におられる方、皆さんそれぞれの入室方法の違いによって、現在の状況は違うと思います。多くの方はマイルドな鎮静剤を投与されたと思いますので、拘束ベルトを外されても、急に立ち上がったりしないように、気をつけてくださいね。

 体が薬物を体外に排出したがると、喉が渇いて、お水を飲みたくなると思います。ソファーの左側のポケットにはミネラルウォーターがあります。ですがこちらも急に沢山飲もうとすると、吐き気が増進されますので、気をつけて、ゆっくり飲んでください。

 さて、さきほど休憩前に、約束事はシンプルだけど決まっていて、それに従って穏やかに工程を進むことも、反抗してハードな道を行くことも出来る。そこは個人差ですとお伝えしました。その「個人差」という点について、休憩中に、監視官の先生のお一人から、貴重なご指摘を頂きましたので、もう少し丁寧にご説明しますね。

 行き先は決まっているけれど、どの道を通ってそこへ行くかは、多様です、とお伝えしました。個人差があると言いました。ですが、私の言葉足らずな説明だと、それを個人の自由と理解してしまった研修生の方もいらっしゃるかもしれません。残念ですが、皆さんからはすでに、様々な意味で、個人の自由というものは、剥奪されてしまっていると、ご理解ください。皆さんの元々生まれ持った資質や体質、人格の骨格のような部分によって、皆さんがどのような洗脳過程を進むか、決まってくる部分があります。だから、自分で意志の強い、信念の人だ、と自分評価をしていた方でも、意外とアッサリ、心が折れたりもします。そのことに失望する必要はありません。体質の違いです。そして、いくら貴方が従順に、出来るだけ教官に逆らわず、マイルドな洗脳を求めていたとしても、そうならない場合があります。

 どんな場合だと思いますか?

 貴方をこの、井形人格矯正教室に送るための契約をした人。多くの場合、貴方のご主人様になる予定の方です。その方が貴方に、ハードでタフで、ミジメで恥ずかくてたまらない洗脳過程を経て奴隷になって欲しいと願っていた場合は、残念ながらそうなります。

 契約社会であり、教育施設とはいってもサービス業ですから、優先順位は契約者である顧客です。貴方が、「逆らわないから、こんなことしないで」といくら懇願しても、それは教官が選択することでは無い、という場合があります。

 皆さんの罪ではないと、思っていますが、一部の契約者様は、強い恨みや妬み、嫉妬やサディスティックな支配欲を持って、奴隷研修生の陥落する過程を楽しもうとしています。貴方が悪い場合もあれば、運が悪かったとしか言いようがない場合もありますし、さらには貴方が悪意の持ち主まで惹きつけてしまうほど、吸引力を持った華やかな存在だったというケースも有り得ます。そういう場合は、ゴメンなさい。貴方は約束事を守ろうと、どう模範的に振舞おうと、どうしてもハードな道を行くことになります。でも、そんな時も、希望を捨てる必要はありません。人格矯正教室も営利団体である以上、一定の期間内に皆さん研修生に過程を修了させて、無事、出荷する必要があります。永遠の苦しみなどありません。行きつく先は、繰り返しになりますが、素敵な奴隷さんとしての、悩み一つない、奴隷生活です。

 あ………、営利団体というところで、思い出しました。もう一点だけ、第一部の説明に補足をしますね。

 先ほど私、志岐が薬物洗脳、機械洗脳、催眠調教の3種類の洗脳過程をそれぞれフルコースで体験した、「トライアスロン女子」だとお伝えしました。この業界にはもう一つ、脳外科手術という手段もあります。この四つ全てを受けると、「グランドスラム」と呼ばれるという噂があるそうですが、現実には2010年代以降に、脳外科手術による人格改造を実施している民間の団体は無いそうです。特殊で大掛かりな技術ほど、携わる専門家の数が増えます。機密の守秘が生命線という業界で、長期的な経過観察が必要な、大掛かりな洗脳施術は、経済的に合理性が低いとのことでした。これも日本経済の長い停滞の影響かもしれませんね。

 さて、ロボトミーは心配しないで良いですよ、とお伝え出来たところで、いよいよ、第二部に入りましょう。皆さんが研修を受ける、大まかな洗脳工程と大日程です。

 こここそ、去年この過程を修了した私が、経験者として説明するべき、メインのパートですね。皆さんが明日からどうなっていくのか。とても興味のある部分だと思います。で、第一部の1項、人格矯正教室への入学なのですが…………。さてそこの内容を詳しく読み込むかわりに、皆さんの名簿をこちらに頂いております。これで見ますと、皆さんの多くが、睡眠薬か麻酔で昏睡している状態でこちらの教室に運び込まれていますね。一部、予め催眠暗示を刷り込まれてこちらへ自分の足や交通手段でお越しになった方々がいらっしゃって…………。あ、ご自分の意志でお越しなった方もいらっしゃるんですね。………叔父様のお申しつけですか。ご苦労様です。こちらのご夫婦、西里さんと奥様は、スタンガンで気絶させられたんですね。大変でした。

 私の経験も、経歴と合わせて、ここで少し丁寧に、説明させて頂きます。私、志岐明穂は昨年こちらの教室に入学する前は、イベント企画会社に勤務していました。今も、職種は変更ありましたが、同じ会社に勤めております。社会人4年目だったので、昨年26歳でした。その年次で企画部門でチーフプランナーに抜擢していただいて、チームも持っていたこともあって、張り切って仕事をする毎日でした。初めて5人の部下を持って、メーカーさんのキャンペーンイベントなどのお手伝いをしておりました。実は私は就職活動の時には国内大手の広告宣伝会社に内定を頂いたのですが、私のやりたいことを理解して頂いた人事部長のご推薦で、より現場に近い、グループ内のイベント企画会社に出向というかたちで、入社当社から異動させて頂いておりました。

 私ごとで恐縮です。大学時代に1年間、アメリカに語学留学をしました。その資金を貯めるために、大学1年と2年の時に、イベント運営をお手伝いするアシスタントをしていたのです。司会進行役を務めることが多かったです。英語の勉強をしていたこともあって、外資系企業の顧客向イベントなども多く担当しました。そこで、人を楽しませる仕事、お客様の笑顔を直接見ることが出来る現場の面白さを知りました。

 アルバイトのなかでは、私の外見を気に入って頂いた社員の方や事務所の方に、コンパニオンのようなお仕事や、モデルのお仕事を紹介されることも多くありました。けれど自分の夢はそいういう形で人前に立つということよりも、皆が楽しめるイベント企画、運営を全体で考えるということだったので、お断りしてきました。

 そして留学、就職をして、興味のあったイベント企画の仕事に邁進するうちに、身に余る抜擢を頂いて、その会社で最年少のチーフ・プランナーになりました。クライアントへの提案も自分たちで工夫して、大きな仕事を任せて頂くことも増えたと思っています。

 そのチームの中で、私が特に意識して育てようとしていたのが、入社2年目の梅野一馬君というプランナー候補生と、新入社員の水森悠乃ちゃんというアシスタントです。その2人以外の部下は、私より年齢か、その会社での勤務年数が高かったものですから、どうしても、私からの指示は遠慮を含んだものになります。その点、これからプランナーとして鍛える時期にある梅野君と、まだ社会人1年目の水森ちゃんは、私の直の部下、後輩と言える存在でした。少し頼りなさげだけれど、デリカシーのある梅野君はビシバシ鍛えて自信を持たせていく。水森ちゃんは、少し天然の入った、世慣れない雰囲気のお嬢様アシスタントなので、悪い虫がつかないように気をつけながら、社会人の所作を綿密に教えこむ。私は自分たちのプロジェクトに懸命に挑みつつ、部下の育成にもみっちりと自分の時間を使ってきたつもりでした。

 そうした中で、私のチームの水森が、役員からセクハラまがいの誘いを受けたと、打ち明けて来てくれた時、私は彼女の盾になって、会社と戦おうと決めました。自分自身も若手時代は、容姿のことを色々と言われたり、クライアントのオジサンたちに延々とお酌させられて、「我が社のアイドル社員です」などという不本意な紹介をされたりして来たので、ある程度、この業界での耐性はついているつもりでした。それでも、自分の部下のこととなると、「私たちだって我慢してきたのだから」と言いくるめるつもりにはなれませんでした。守口というセクハラ常務が、飲み会の後、水森をかなりしつこくホテルに誘ったと聞いて、私はこれを表沙汰にして、きちんとした処分を求めるということを、懇意にしていた副社長にお話ししました。

 役員の中では一番若い、40になったばかりの杵築副社長は、このイベント会社を創業した会長の甥にあたる方です。親会社である広告宣伝会社から出向というかたちで来た新人の私の数々の生意気で大それた提案を、真面目に取り合ってきてくれた、いわば同志のような方です。今回も私の話を親身に聞いてくれて、水森と私と、3人で話をする機会を設けてくれました。

 仕事が終わってから、緊張気味の水森を隣に、個室のある、副社長行きつけのバーでお話をさせて頂きました。アイスコーヒーを飲んで、途中あたりまで話をしているところで、急に隣の水森悠乃が、頭をユラユラとさせ始めました。心労と、親身に聞いてくれる副社長の態度への安心から、急に眠気に襲われたのだと思いました。話を留めて、突発的にテーブルに突っ伏してしまった水森を、私は起こそうとしました。そしてその瞬間、自分の体にも、強烈な違和感を覚えたんです。覆いかぶさるような、眠気です。異常なぶ厚さと重さを持った、眠気でした。私は悠乃の体を起こそうとしたまま、自分の頭も1ミリも上に上げられなくなっていたのです。目が合った時の副社長は、無表情で私たちを見つめていました。そしてそれが、私が見ることのできた、最後の景色でした。

 皆さんも、何らかの手段で、こちらに連れてこられたのだと思います。最近では白昼堂々と女性が路上で拉致されるというような手段はほとんど無くなってきているようですが、どのような手段でも、自分の意志に沿わずに、知らないところに連れていかれるというのは、とても怖いことだったと思います。皆さん、良く耐えましたね。

 さて、私の場合は、気がついた時には、診察台のような椅子に拘束されていました。体を見ると、入院患者が着るような、ピンクのガウンを着ている他は、裸です。体中の至る所にコードの繋がった吸盤が貼り付けられていました。まだ意識は朦朧としているのですが、とても怖かったです。体にはかすかに、強く揉まれたり掴まれたような感触が残っています。そして体中にコード。まず最初に、私はここで乱暴されたんだと思いました。そして、これからさらに恐ろしいことが起こるのではないかと思ってしまいました。

 後になって思うと、私は薬で眠らされて、ここに来るまでに体を弄ばれたのだと思います。相手は副社長か、常務。そしてその手下です。………会社の同僚たちにされたとは、今でも思いたくありませんね。この施設に連れてこられてからは、あくまで丁寧に扱われたのでしょう。ついているコードや計器類も、今思えば、脈拍や血圧、体温や脳波などを計測していただけのように思います。それでも、その時の私は、まるで特撮ヒーロードラマの、人体改造手術のように、恐ろしい事態を想像して、まだ喋ることの出来ない口で、必死に唸ったと思います。

 右手の肘の裏あたりにヒヤッとした感覚が届きます。その後で、チクっという、針の痛み。私は、何かの薬をまた投与されたのだとわかりました。やっとのことでまとまりかけていた考えが、またユルユルと解けていくような感覚。私の目が虚ろになった様子を、ペンライトの光をチラつかせて確認した、お医者様らしき人は、診察ベッドの背中を立たせて、椅子のように起こしました。私の頭に、VRのヘッドセットのようなものが装着されます。もう私は何も抵抗する気が起きずに、されるがままになっていました。

 ヘッドセットのモニターとスピーカーからは、環境音楽とサイケデリックな光の混じり合いが延々と流されていました。その中で、時々、瞬間的に文字や文章が目に飛び込んでくるような残像を受け取ります。それでも文字は読み取ることが出来ないスピードで分解してしまって、理解することは出来ませんでした。ただ深く、何かが染み込んでくるような感覚だけです。私は診察台というか、大きなソファーになったベッドに拘束されて、体に全く力が入らない状態で、何かよくわからない映像と音楽を聴かされ続けていました。それでも、不思議と退屈はしなかったという感覚があります。朦朧とする意識のなかではあったのですが、光が混じり合ってくねったり解けたりする、単調な映像を、なぜか食い入るように見入っていたことを、覚えています。

 どれくら時間がたったのか、わかりません。気がついた時にはソファーは背もたれが倒れて、またベッドの状態に戻っていました。手や足を縛っていたはずのバンドは外され、体のあちこちについていたはずのコードも抜かれていました。けれど手足の動脈付近に吸いつけられていた、吸盤の跡だけは、肌に赤黒く残っていました。

 私のベッドの前には、Web通話で使うような丸いカメラが、長めの三脚の上に設置されていました。

「聞こえますね。起きることが出来たら、ゆっくり体を起こしてください」

 部屋の壁にあるスピーカーから、低い男の人の声が響きました。私はまだ、ボンヤリとした意識がまとまらないまま、肘で体を支えながら、ムックリと体を起こしました。

「カメラに向かって、笑顔で手を振ってください」

 そう言われたので、私はまだダルい感じのする顔の筋肉を頑張って動かして、笑顔を作って、カメラにゆっくりと手を振りました。

 今思うと、なぜあの時、あんな状態でカメラに笑顔で手を振っていたのか、わかりません。いえ、正直に言いますと、自分でもこの時のことが本当に起きたことなのか、自信を持っていうことは出来ません。とても現実感がなくて、共感することも出来ない。まるで知らない国の難しい映画を見せられていたような気がします。ただ、私が思い出せるのは、そこで私が言われるままに笑顔でカメラに手を振ったということです。なぜそうしたのかと聞かれても、そう言われたので………としかお答えすることは出来ません。

 私はスピーカーから出る声に言われるままに、ベッドから立ち上がって、ガウンの紐をほどくと、ピンクのガウンを脱いで、ベッドに置きました。いつの間にか、ショーツは穿いていました。けれど私の穿いていたショーツではありません。私がもっているショーツの、どれとも合致することがない、薄くて伸縮性のある素材の白いショーツでした。きっと皆さんが今、ガウンの下に穿いているものも、同じものだと思います。

 私はショーツ一枚の姿なのに、気にすることなく、カメラの前を通り過ぎて、スリッパを履くと、部屋の入口まで歩いて行って、ドアノブに手をかけました。ドアを開けると、そこには大柄の男性が、看護師さんのような服を着て、立っていました。

「写真を記録に残すので、撮影室に行きます。ついてきなさい」

 と、静かなトーンで、言いました。

 写真を記録に残すので、撮影室に行く。私はこの人についていけばいいんだな。

 そう思いました。

 こうやって言うと、本当に馬鹿みたいですね。でも、注射の効果なのか、さっきまでのサイケデリックな映像音楽のせいなのか、私はただ、言われたことをそのまま繰り返して自分に言い聞かせることくらいしか、考えることが出来ませんでした。

 それでも体を動かしていると、少しずつ薬による頭の痺れのようなものが薄れてきます。私は撮影室で台の上に立たされて、ショーツを脱ぐように言われて、全身や上半身の写真、横顔などを取られていきます。姿勢を変えるうちに少しずつ、自分の意識がはっきりとしてきました。番号の印刷された札を胸元に掲げて、ほとんど全裸という状態で写真を撮られている自分に、違和感を覚え始めたんです。その違和感は、フラッシュを浴びるたびに高まってきます。私は途中で、

「いや~。…………なんなの?」

 と首を振りながら撮影台を降りようとしました。さっきの大柄な看護師さんが私に掴みかかります。逃げようとした私でしたが、まだ足腰には力が入りません。私は抵抗するというよりも、起こそうとする看護師さんに対して、首を左右に振りながら、しゃがみこむという行動を繰り返していました。

 するとドアが開いて、私を掴んでいる男性とは違う、水色の看護服を着た年配の女性と、白衣の医師らしい男性が入ってきます。年配の女性は、私の鼻から口までを、ガーゼで押さえました。バニラのような甘い香りが私の肺へと抜けていきます。頭の奥もヒンヤリと痺れてきました。

「落ち着いて。貴方はいま、とっても綺麗なお花畑にいるよ。何も心配する必要がない。綺麗なお花畑を見ているだけで、すごく幸せな気持ちになれる。ほら、もう皆の言うことを聞けるよね。貴方は何も気にしないで、言われたことをしていればいい。温かくて優しい、大好きなお花畑にいるのだから」

 ………言われたことを全部覚えているわけではないのですが、大体、このようなことを言われたと思います。それから2時間くらい、私はウットリとお花畑で散歩していたと思います。

 こちらの写真。…………ちょっとショッキングかもしれませんが、しっかりと見てくださいね。綺麗な女の人。こちらも可愛らしい女の子。皆さん、ショーツ1枚しか着ていないので可哀想なのですが、無表情か………、ちょっとボンヤリしているけれど、すました表情で、写真が撮られています。両手で胸元に持っている番号札については、あとから説明しますね。

 そしてこちらが、私の写真です。

 薄ら笑いを浮かべていますよね。…………とても恥ずかしいです。

 私が、お花畑の幻覚を見て、ニヤニヤ、ヘラヘラしながら撮影続行されたから、こうなってしまったんですね。

 ほら、………こちらの写真では右上の方を嬉しそうに眺めています。この時は確か、アゲハチョウを見つけて、眼で追っているんです。………何がそんなに嬉しいのか、今ではよくわからないのですが、いないはずの蝶々を見て、眼をキラキラさせていますね。でも番号札を持って、裸の撮影をされています。皆さんも、これからの工程の1つ1つで、抵抗を繰り返していると、大抵、よりみっともない醜態を晒すことになります。どうか気をつけてください。ちなみに私の写真はデータファイルにも保管されるし、名簿の顔写真や、契約者とのメールのシークレットアイコンとなったり、色々と活用されました。修了式後の懇親会でまで、教官や職員の皆様にネタにされてしまいました………。

 さて、先ほどから写真に映っています、こちらの番号札。私が最初に申し上げた、識別番号ですね。GVA19025。これが私の番号です。修了式を終えて出荷されると、あとはご主人様が命名したり新たな番号を振ったりするとは思います。それでも、メンテナンスや問い合わせの際には重要な手掛かりになるので、施設ではこのコードが永久保管されます。私はきっとこれからも、ずっとこの番号とともに生きていくことになると思います。

 私の知っている範囲ですが、お話します。話過ぎると怒られるかもしれませんが………。皆さんも、せっかく自分につけられた番号。意味くらい知りたいですよね? 「I0」は洗脳施設の識別コードで、井形です。0がついているのはイニシャルがIで登録された最初の組織という意味ですから、とっても老舗ですね。

 Gは「Group Owned」という意味で、複数のご主人様によって所有することを前提にこの教室に送られてきた、という意味です。Vは「Vacation」ということで、私は外の世界では休暇中という前提ですという意味です。Aは………、恥ずかしいのですが、顔やプロポーション、社会的なポジショニングを示していまして、私はAランクと類別されました。皆さんのなかで、Cがついていたりしてショックを受けている方も、今いるかもしれませんが、悪く思わないでくださいね。ここだけの話、奴隷の世界では、ルックスが良いから良い扱いを受けるとは限りません。見た目が普通でも、大金を払って人格改造させようと思っておられる契約者様がおられるという人は、実は愛に満ちて安定した奴隷生活を過ごせる可能性も高いと思いますよ。

 その次の19は、2019年に調教を受けるという意味です。そして最後の3桁はその年の同じ種類の奴隷の中での入学した順番。

 なので、私、志岐明穂は、複数のご主人様にお仕えすることになる、現在、休暇中という前提で矯正教育を受けている、上級素材。19年入学の25番目ということが、この番号から分かります。この情報があると、教官さんたちは、即座に私に相応しい教育を、その場で判断することが出来ます。ちなみに調教中は、初期・中期・後期の第何課程という数字もつきます。「I0-GVA19025-初16」………といったかたちです。完璧ですね。

 皆さん最初の識別番号はI0になっていると思いますし、入学年は同じ20だと思います。でも例えばI0-IMB20となっているのは…………榊鏡佳さんですね。新婚さんなんですね。貴方は「I=INDIVIDUAL OWNED」で1人のご主人様。「M」はミッシングなので、現在失踪中というステータスで外で扱われています。………ということは、多分、警察沙汰にならない間の、短期洗脳コースを修了して出荷される可能性が高いですね。

「GVS」になっているのは、氏原史香さん。…………あの、氏原アナですか? そうですね………。とてもお綺麗ですし、社会的な知名度が高い奴隷さんは、Sがついていますね。施設としても取り扱いを注意していると思います。確か貴方は、最近フリー宣言をされたと報道されていましたね。現在は自分探しと休息・充電中ということになっているはずです。グループ所有になるということは、ファンが出資し合っているという可能性もありますね。………「IVA」は広幡美梨ちゃん。‥・高校生なんですね。平均で、1人の奴隷を確保、調教して出荷するまでの契約金は2,000万円と言われています。高校生の貴方にそこまで払って、出荷を待っている、1名のご主人様というのは、もしかしたらお知り合いの中でも誰か、候補が絞られるのではないでしょうか? お金持ちの大人か、資産家の家の男の子か………。想像がつくかもしれませんね。

 最後の3桁識別番号が「9」から始まっている人は、入学時の精密検査で、特定の薬物へのアレルギー反応や、特定の催眠導入に危険反応を示す、トラウマや体質的な事情をお持ちの研修生さんです。もしかしたら、週に何度かある、集合教育でも、一人だけ違う課程を受けることになるかもしれませんので、気をつけてくださいね。教室側も、注意を払っていてくれると思います。

 さて、こうして割り振られた、奴隷調教中の識別番号ですが、皆さんの手首に、スマートウォッチのようなリングが装着されていますね。ここに表示されていますよね。『調教ウォッチ』と呼ばれていますが、細い画面がスリープ状態の時、デフォルトで表示されているのが、この番号です。だから奴隷さん同士でも、お話しする時には相手がどれだけの課程を修了しているか、すぐわかりますよね。

 まだリストリングが装着されていない方は、精密検査の結果が出ていない方々です。明日には、皆さんに行き渡ると思いますよ。

 そうです。この『調教ウォッチ』。全課程の修了時に記念としてもらえるので、私も大切に持っています。今日もこちらに持ってきました。入学して最初の一週間くらいでしょうか? 皆さんの生活は、このウォッチにコントロールまたはサポートしてもらうことになります。もう本当に、これがないと、まともに生きていけません。

 詳細は後から読んで頂きたいのですが、初期の洗脳工程が一番大掛かりなものになります。薬物で被暗示性を高めて、今までの貴方たちの価値観とは異なる価値観、信念、行動規範を深層意識に刷り込んでいきます。薬物、機械洗脳、催眠誘導、様々な手段が検討されて、貴方にもっとも適した調教方法が組み上げられていきます。もっとも、3種類全ての工程をフルセットで処置されたのは、私が数年ぶりのことらしいです。

 この時期、どんなことをされていたのか、どんなことを考えて私が抗ったのか、実はあんまりよく思い出せません。先生方の仰るには、人間の脳に最も新しいインプットが多い、新生児から3歳児の頃の脳の働きに似ているそうです。鮮烈に新しい情報が沢山入った時期のはずなのに、あとから思い出せない人が多い。それはそれだけ、インプットに集中しているからだとのことでした。

 もしかしたら、こういうことかもしれません。記憶というのは、思い出すたびに、取り出して、無意識のうちに微修正して更新している。あとから修正や更新も出来ないような重大な刷り込みは、思い出すことも出来ないほど深い部分に、刻み込まれている………。

 とにかく、初期の洗脳工程、最初の1週間くらいは、私たちはハッキリ言って、ギリギリ人間じゃないような状況です(笑)。今が夜なのか、朝なのか、自分が起きているのか、寝ているのかも、よくわからないです。私も今日、皆さんにお話しするにあたって、過去の自分の動画を見させてもらいましたけれど、ちょっとお見せできるものではなかったですね(笑)。休憩時間の私だったのですが、壁とお喋りしながら談笑したり口喧嘩したり、大真面目に壁とタンゴを踊っていたり………。これまで20年前後の価値観や考えの蓄積をふやけさせて、塗り替えるというのは、なかなか簡単な作業ではないんだな………と、改めて感じました。………あ、私の場合は激しく抵抗してきたので、そこまでイッちゃったという訳で。動画を見させてもらった限り、夢見心地でフワフワ、フラフラしているだけの子たちも多かったですよ。心配しすぎないでくださいね。

 そんな「人間ギリギリ」状態の私たちを、的確に、そして無慈悲にコントロールしてくれるのが、この調教ウォッチです。この、一見普通のスマートウォッチですが、…………中身も実は普通のスマートウォッチと、技術的にはほとんど変わりません(笑)。リング部分の強度もそれほどでもないですよ。このウォッチを外せないと思わせているのは、毎日の初期洗脳の誘導です。さきほどのヘッドセットで見せられているビジョンの中に、意識できないほどの閾値で命令が沢山入ってきて、皆さんの深層心理に刻み込まれているんですね。

 機能としてもGPSとか、今のスマホの基本的な機能に加えて、ただ指定された電子音楽が流れるだけ。あと、耳を近づけると、音声で指示を聴き取ることも出来ます。でもたったこれだけで、私たちの生活を、行動を、生理現象を、憎らしいくらい簡単に制御してくれます。

 ある音楽がこのウォッチから流れるのが聞こえてくると、私はすぐに眠くなります。私が何をしていると中であっても、そのメロディを聞くと、私は昏倒するように深い睡眠に入ります。そしてまた、別のメロディを聞くと、私はそれまでどれだけ深い眠りについていても、直ちに目を覚まして立ち上がります。Bメロまでメロディが止まらない時は、私はその場で体操しちゃいますね。

 ある音楽が鳴るのを聞くと、私は急激な食欲に襲われ、焼けつくような喉の渇きも覚えます。出された食事がどんな粗末なものでも、私が抗議のしるしとしてハンガーストライキのように食事を拒否しようとしていても、「劣等生ちゃんに捧げる、美味しいご飯のテーマ」と名付けられた、シンプルな電子音楽を耳にするだけで、私のお腹ははしたない音を立てて、口いっぱいに涎がたまるので、ゴクリと喉を鳴らして飲み込まなければ、口の端から垂れていってしまいます。私は人目も気にせず、豪快にガッツいて、しまいには食器までペロペロと舐め回してしまいます。自己嫌悪と無力感とともに正気を取り戻すのは、口の周りや指についてたスープの残りをご丁寧に舐め取ったあとのこと。栄養についてだけ言えば、私はこの上なく健康的な生活を送らされてしまいました。

 ここで皆さんにお伝えするのも恥ずかしいのですが、生理現象とは、食事だけではありませんよね。排泄をコントロールする音楽も設定されています。ある子供じみた、憎らしいほどメルヘンチックなワルツが流れるのを聞いてしまうと、私はもう何も考えられなくなって、お手洗いに駆け込むことしか出来ません。お手洗いが近くに無かったら…………。バケツとか、お部屋の角とか、………最悪の場合は私専用の食器セットでも、何でも使って排泄行為に走るしかありません。そうでなければ、立ったまま、粗相するしかないのですから………。音楽が止まると、我に返った私が、ションボリと後始末をするのですが、その中で一番恥ずかしいことは、演奏中に私が排泄行為を人目も憚らずしながら、その顔がウットリと嬉しそうに緩んでいたことを思い出すことです。

 はい、ここまで言いましたので、もう恥ずかしくもありません。はい。ある旋律を聞くと、私は発情します。近くに男性がいれば、その方が誰であろうと、懸命に挑発して性行為を求めますし、女性しかいなければ、お願いし倒してレズ行為に持ち込もうとします。近くに誰もいなかったり、誰も私の誘いに応じてくれない時は、もう、自分で慰めるしかないですよね。私はその場で身につけたものを全て脱ぎ捨てて………、いえ、この調教ウォッチ以外の全てを脱ぎ捨てて取り払って、脚を恥ずかしげもなく開けっぴろげにして、オナニーに没頭します。それを誰に見られていようと、何を言われようと………。指定された音楽が鳴りやんでくれるまでは、私にはもう、発情した自分を満たしてくれるものを渇望して、刺激を全身で貪ることしか出来ません。もしその旋律が鳴り響いている間に、私とセックスをしてくれるという男性が、金銭面での条件を言い出したなら、私は全財産を譲渡する契約書に実印を押して、その人に飛びついて腰を振ると思います。

 ………あの、今のは比喩ですよ。矯正教育中の私は、実印など手元に持ってはいませんでしたし、財産を譲渡したりもしていません。ただ、私が恥を忍んでこうしたことを皆さんにお伝えしているのは、こんな風に生活を完全に管理されてしまって、無力感に苛まれたとしても、そうした経験をするのは貴方だけではないと、知ってもらうためです。

 むしろ、調教ウォッチによる生活管理は、私たち奴隷研修生のためにあったと思います。

 心が大きく動揺する時期です。鬱っぽくなって食欲を失ったり、運動量がガクッと落ちたりして、無気力状態で、自分の体の商品価値を落としてしまう研修生がいないように、調教ウォッチは、皆さんの健康的な食事と睡眠、排泄と運動を促します。成人女性にとっては、適度な性的活動も、ホルモンの分泌を促すために必要なことだと思います。

 ウォッチに登録される音楽は、私たちをウキウキした気持ちにさせてスキップで跳ね回らせたり、急に思いついた対象のモノマネを披露したくなったりと、無駄にポジティブというか軽薄な、一部滑稽な行動を促すものもあります。私が今振り返っても、同期の研修生20名ほどで突然ブルース・リーやマリリン・モンローのモノマネ合戦を繰り広げたり、集合教育の合間に腕を組んでスキップして廊下を跳ねたりした時のことは、くだらないとも思えるけれど、良い思い出です。ちなみに全ての行動パターンには2種類の音楽が設定されます。研修生全員に効果がある音楽と、個々人に設定されているものです。そして、トランス誘導、動きのストップ、脱力といった指示は、複雑な音楽ではなくて、即座に聞き分けられる、よりシンプルな電子音の組み合わせが設定されます。

 今お話ししましたような、リストウォッチから流れる音楽をトリガーとした行動強制も、全て薬物洗脳の課程で刷り込まれています。先生やナースさんたちは「KBW471」と呼ぶことが多いのですが、この施設で頻繁に使われている洗脳薬物ですね。被暗示性を薬効で拡大するので、その薬を投与されている間に言われたことは、ほぼ無批判に、深層意識に刷り込まれます。こちらの写真をご覧ください。………私の、情けない写真ばかりで、直視したくはないのですが、これがKBW471を14%の濃度で投与されて8分後の私ですね。えぇ。靴下を食べています。靴下が私の大好物の食べ物だと言われたので、信じ切っている表情がこちらですね。………ほら、この靴下、職員さんが穿いて半日、肉体労働したあとのものですよ。4人の職員さんにオネダリして、獲得した使用済み靴下を並べて、嬉しそうに匂いを嗅いでいる私がこちらです。本当に全部口に入れて、噛み締めながら飲み込みました。あとからナースさんの判断で、私はお水をたっぷり飲まされて4足とも吐き出すことになります。消毒薬まで飲むことになりました。こうしたテストで適切な濃度を分析してもらって、私たちに強力な暗示を刷り込んだ結果が、調教ウォッチの効果な訳です。ちなみに皆さんは、靴下を食べたりしなくても良いと思いますよ。私が職員さんの携帯を拝借して、友達に助けを求めるメールをしようとしたことの、罰だったと思います。男友達には課程修了後、代わりに、私のソックス早食いチャレンジの動画が送られていましたので、よく覚えています。はい。その仲間内ではカリフォルニア帰りのグルメで通っていた私ですが、その後、お食事のお誘いはないですね(笑)。身から出た錆なのですが………。

 はい、時間も無いようですので、ここで、初期洗脳で使われる薬物の、大まかな種類をご手短に説明します。まず先ほど洗脳薬や「KBW471」ですね。推奨濃度が4%希釈ですので、私の14%というのは、一般人を元にして、殺人マシーンでもセックスの野獣でも作れてしまうレベルだと思います。16%を超えた濃度を投与すると、後遺症が心配されます。皆さんも逸脱行為はほどほどにしましょうね。私の場合はそれから1週間は、紳士用靴下を見てしまうとそこに目が釘付けになって、生唾が止まらなかったです。一目見ると、もう靴下のことしか考えられませんでした。授業が進まないので、萩原教官はしばらくの間、裸足にサンダルで私に授業をしてくれました(笑)。教官、あの時は本当に申し訳ございませんでした………。

 さて、「KBW1シリーズ」は快楽と不快の条件付けをします。投与直後に、脳が溶けちゃうと思うくらいの多幸感が来ます。そこでされたことは、その後もかなり長い時間、味わっていた幸福な気持ちと紐づけされます。私の場合は、KBW183を注射されて、ずっと看護師さんに頭をナデナデされました。それから数週間は、誰かに頭を撫でられると、白目を剥いて鼻水を出してしまうくらい、幸せな気持ちになりました。実は今日。さっきの休憩時間に、控室に向かう廊下で、その時の看護師さんと再会しました。頭をナデナデしてほしくて仕方がなくて、気がついたら四つん這いになってホッペをその方のお膝にスリスリして甘えていました。1年たつのに、まだ紐づけが残っているんですね。

 ちなみにこの多幸感は中和剤を投与されると、急速に冷めます。そこから来る、絶望状態。中和剤さえなければ、ユルユルと正気に戻れるんですけどね………。ヘッドセットのモニターに、「私はいつもご主人様に忠実な、可愛い性奴隷です」という文章がデカデカと表示されて、手元のボタンでYESかNOかを選ばされます。NOのボタンを押すと、点滴から中和剤が投与されて、ヘッドセットからは不快な超音波と金属の擦れ合う音。今思い出しても、眩暈と吐き気と頭痛で気絶しそうになります。正直に言いまして、今、「NO」という言葉を頭に思い浮かべるのも、まだちょっと嫌なんです。散々抵抗して、ソファーで暴れながら嘔吐して、最後には耐え切れなくなって、YESの青いボタンを押しました。何回も押しても、まだ苦しさは緩和されない。私は泣きながら、大声で何度もモニターの文章を叫びました。そうすると、中和剤がカットされて、もうすこしKBW187が投与。みるみるうちに天国です。条件付けを徹底させるために、看護師さんが頭をナデナデ。もう言わないでも良いはずなのに、私は麻痺する快感の中で何度も何度も、自分がご主人様に忠実な、可愛い性奴隷であることを、繰り返し呟いて、看護師さんに頷いてもらっていました。

「KBW2シリーズ」は感情や感覚を一定方向に誘導します。こちらも繰り返し投与されたり同じ矯正を繰り返し刷り込まれると、かなり長期間の効果を生むそうです。言われてみれば、私の体の性感帯のいくつかも、ここで設定されて、いまだに有効です。誰に触られても、声を出してよがってしまいますし、子宮がキュンキュンとひくついて、頭はまともに考えられなくなります。中でも強烈なのは………うふふ………。本当は口にするのも憚られることですが………、アナル。お尻の穴です。こちらで刷り込みを受けて以来、私は1人で自分を慰める時も、メインディッシュはお尻の穴になっています。ご主人様が後ろを責めたがっておられると思った瞬間に、私は反射的に四つん這いになって足を広げてお尻を突き上げて、オネダリのポーズになっています。‥・時々、呆れられていると、自分でも思いますね。仕事中でも、外出中でも、女性の細長くて綺麗な指や、男性のゴツゴツした指を見ると、(これが私のお尻の穴に入ってきたら、どんな感じかな?)と妄想しています。満たされない気持ちは、夜の自由時間に、思い出しながらお尻の穴を自分で弄ることで、解消します。それくらい、KBW259を併用した暗示の刷り込みは強力ということだということをお伝えしています。下手すると、体の物理的な状態にまで、効果を及ぼして来ますよ。人間の精神の力を感じさせられる瞬間ですね。

 今、私に刷り込まれた、お尻の穴への執着のことを聞いて、あからさまに嫌な顔をした研修生の方が、結構いらっしゃいますね。………良いんですよ。入口の嫌悪感や禁忌感は、途中からは快感のスパイスでしかありません。皆さんも、色々と経験されると思います。変貌していく自分の好みや体の感覚、我慢できなくなる衝動に戸惑うこともあると思いますが、結局それも貴方の体です。新しい貴方です。優しく受け入れてあげてくださいね。………あ、お尻のお話だったので、入口という表現より、出口と言った方が良かったでしょうか? ………………気にしないでください。

 さて、オクスリについて最後に説明するのが、「KBW3シリーズ」です。こちらはシリーズと呼ぶのは、本当は変なんです。KBW301しか存在していませんから。こちらは研究開発のなかで偶然発見されたものです。調合量を少しでも変えると効果が失われるということで、改良も出来ず、20年近くの間、301だけが実用化されています。化学や薬学の世界では、たまにこういうことがあるらしいですね。「KBW301」はどんな効能があるのでしょうか? ……………なんだったかな? …………うふふ。冗談です。KBW301は、記憶に効果があります。とても不思議なオクスリです。これを投与されると、最初は1シリーズの多幸感が始まる直前みたいな、浮遊感が来ます。でもそのまま、心がグズグズにふやけてほどけていくような痺れが来て、ボーっとしますよ。その状態で何か言われると、そこで言われたことが自分の本当の記憶のように思えてきます。

 書き換えだけではないですね。「今日の午後あったことを思い出せなくなる」と言われると、それだけで私の記憶にはモヤがかかっていって、何も見通せなくなります。この301を4シリーズと併用されたりすると、かなりタチ悪いですよ。思い出せないほど深くにある記憶は、きっと私たちの根っこになっているのだと思います。そこを一つずつ、弄られると、私たちの性格や価値観は、意外とアッサリと変化していきます。「君は小学生の頃から、七夕の短冊には必ず『ご主人様に出会って一生ご奉仕したいです』って書いていたよね。君の意識はそれを思い出せないけれど、心の底ではそれを覚えている。だから自然に跪いてご挨拶が出来る」とか囁かれている動画を、このプレゼンの準備の中で見させてもらいました。その日の私のご挨拶は、平然と土下座していました。その前まで、嫌で嫌で暴れたりしたのに………。一体、今、私が思い出せる幼少期の大切な思い出の、どれだけが本当のものなんでしょうか? ……………ま、いいんですけどね。過ぎた話ですし………。

 さて、オクスリの話はこのあたりまでにしておきましょう。鎮静剤や催淫剤、気つけ薬などは、名前を聞けば効果もわかりますよね。初期はどうしても、オクスリ漬けだったり機械洗脳を何時間も受けたりするので、体にはあまり良くない状況です。ですから繰り返しになりますが、調教ウォッチが私たちの健康と適度な運動、そしてオトナに適切と思われる量の性的なモニョモニョなど、きちんと管理してくれます。そして必要な20課程を修了すると、簡単なテストを受けて、中期洗脳工程に進むのですね。

 テストのことって………、ちょっとだけ話しても良いですか? ………毎年変わるなら、私の時の事例をお伝えしても良いですよね? ………はい。かしこまりました。

 皆さんのなかには、テストと聞くと、マークシートとか筆記試験とか想像される方もいらっしゃると思いますが、もっとシンプルでした。ある時、私のお部屋に監査官さんがこられまして、緊張して跪いている私の前で、私の顔を綺麗だとか、傷一つないとか、今までもお手入れをしっかりしてきたのでしょうとか、褒めそやします。………あ、私の場合、監査官は年配の女性でした。そして私の手にカッターナイフを渡して、こう言いました。

「貴方のその自慢のお顔、これでズタズタに切り刻みなさい」

 私の場合、ズタズタにと聞こえた時点で、カッターの刃を押し出して、深々と自分の目の上に突き立てていたと思います。監査官さんが話し終わる瞬間には、自分の顔に大きくバッテンを、カッターで描いていたでしょうか。事前に教官さんに「監査官さんにも絶対服従」と言い渡されていましたから、当然のことですね。途中でカッターの刃だと思っていたものが、良く出来たゴムだということに、顔の感触で気がつきました。顔には傷一つ、ついていませんでした。監査官さんはその様子をクリップボードに挟まれた紙に、無表情で筆記しています。でも私は、カッターナイフが偽物だったせいで監査官さんの言いつけを守ることが出来なかったと思って、その場でボロボロと泣き崩れて、床にオデコをこすりつけて謝りました。

「もう結構です」

 と、頭の上から、冷静な声が聞こえます。私が涙を拭いながら顔を上げると、その手を掴んで、監査官さんのもう片方の手へと引っ張って導いてくれました。ピッとシンプルな電子音がすると、監査官さんは右手に持っていた、レジのスキャナーのような機械を、私の手首から離します。私が調教ウォッチを見ると、「I0‐GVA19025-中01」と表示されています。そこで私はやっと、初期洗脳工程が終わったんだと理解することが出来ました。

 さて、ここでちょっと、休憩をとりましょうか?

 初期洗脳工程は受ける方も行う方も、精神力を消耗します。皆さんも、聞いていて疲れたのではないでしょうか? ………何名か、ゲッソリしている方がいらっしゃいますね。5分休みましょう。質問も受けつけますよ。まだ足腰立たない方も多いと思いますので、合図をください。私が皆さんのもとを回ります。

。。。

 よろしいでしょうか?

 休憩中に、大切な質問や面白い質問をいくつか頂きました私の回答もここで共有させて頂きますね。まず1つめですが、「初期洗脳工程は何日かかったのですか?」というご質問。確かに皆さんにはとっても重要ですよね。これは研修生によっては速く進んでいきますが、井形人格矯正教室では標準的な日程として、2週間を想定しているそうです。1日2コマで全20課程。途中に休息日と予備日が入っているそうです。私たちは、窓のない部屋で記憶もアヤフヤになりながら過ごしていたので、もっともっと長いんだと思っていましたが、………標準で2週間なんですね。私の場合は全身全霊で人格改造に抗った劣等生です。途中で反抗や集団脱走を計画したり、いくつかの工程を「洗脳されたふり」で誤魔化そうとしたり、とってもとっても時間がかかった………はずだと思っていました。でも、記録を見させていただくと、19日で修了していました。

 私の命と自分の人生を賭けたつもりの必死の抵抗は、普通の研修生さんと比べて5日間グズッただけのものだったのですね………。5日間、それまでの自分をちょっとでも長く保とうと皆さんにご迷惑をかけて、結果として電撃ペナルティ4回、千ページ以上の反省文、お下品な偏食や秘密の性癖をいくつも刷り込まれてしまいました。いくつかは出荷前に解除して頂けましたけどね。子供時代や青春時代の思い出は2割以上は書き換えられているでしょうか? きっとサーカス小屋時代の記憶も、留学先でのストリート売春の日々も、捏造されたものだと思いますから………。こうして様々な罰を頂いて、5日間の引き伸ばしです。皆さんはこれについて、どう思われますでしょうか?

 さて、他にも面白いご質問を頂きました。

「志岐さんは自分自身、1年前に無理矢理ここに連れてこられて、酷い目にあって、今も奴隷という扱いを受けている。そんな人が、私たち、新しい被害者を見て、どう感じているのか」

 というご趣旨でしたよね? 多少感情的な言葉もあったのですが、そこはこのように意訳させて頂きました。

 さて、私が皆さんをどんな目で見ているかと言うと…………。そうですね、予防接種の列に並ばされている幼い子供たちを見る、高学年のお姉さんのような気分というのが、一番近いでしょうか?

 注射の痛みはずっと続くものではないし、お医者様や先生はこれがとても大切なこと、子どもたちのためになることと仰っています。でも私にはまだそれを完全に理解したり異論を持ったりするほどの知識もありません。そして、自分が貴方たちの立場だった頃は、怖いし、嫌だし、泣いていました。泣いて当然です。笑って針を刺されている赤ちゃんがいたら、そちらの方が心配ですよね。でもこれは必要。…………多分、小さい子たちにどれだけ説明しても、自分から腕を出して、嬉々として注射を受け入れてもらうことは、不可能なんでしょうね。あまりにも小さい子には、お母様やナースさんが、しっかり押さえておいてあげないと、もっと困ったアクシデントに繋がります。

 それでも、その幼児たちの中には、ちょっと大人びた子もいて、私が、お姉さんもさっきお注射したけど、大丈夫だったよ。これはとっても大事なこと。今よりもっと元気になれるよ。って伝えて置くと、泣くには泣くけれど、どこか頑張れるかもしれない。より早く踏ん切りをつけられるかもしれない。そう思って、沢山の恥をしのびながら、お伝えしています。

 ………いえ、これだけでは足りないかな? ………せっかくこの場を頂いた、皆さんと同じ境遇の身になる、先輩として、きちんと心の底まで明らかにするのが、誠実ですね。

 ………私は、こうも思っています。皆さんお一人お一人を調教させて囲い込むために、貴方の未来のご主人様は、2,000万円以上の大金をつぎこんでいます。法に触れるリスクも負おうとしています。そこまでの執着を惹きつける、呼び寄せている存在である貴方は、どうせ遅かれ早かれ、ここか同業者の施設に囚われていたのでしょう。

 だって2,000万ですよ。とても大きなお金ではありますが、マンションや一戸建ては都内や近郊ではもっと高いですよね? 皆さんのご主人様になる方々以外は、こうした施設の存在を知らないだけ。知っていれば、年に何万という住宅購入者やクルーザーのオーナーの1人が、そうした高額なお買い物の代わりに、貴方の一生を欲しくなることが、絶対に無いと言えますか?

 どうせいつか奴隷にされてしまうような運命なら、早く、若いうちからなっておくというのは、メリットも多いです。あとからそのことも説明しますね。

 あれ? ………ちょっと皆さんの空気が、固くなってしまったでしょうか? ………私の率直な思いを、ひけらかしすぎてしまったかもしれません。ゴメンなさいね。ちょっとお水を頂いて…………。では予定よりも時間がかかってしまいました。これからプレゼンの中盤になります。第二部、洗脳大工程の、中期洗脳工程について、ご説明しますね。皆さん、楽な姿勢でお聞きください。

<中編につづく>

5件のコメント

  1. よませていただきましたでよ~。

    まさか終始説明で終わるとは思わなかったのでぅw
    説明の内容が異常でぅけどw

    休憩を挟んで中編へ。これ最後まで説明で終わったらどうしようw

    であ、新人の皆様への実演を楽しみにしていますでよ~。(やるとは言ってない)

  2. おおお、がっつりと洗脳過程に重きを置いた催眠調教もの!
    The Galactic Chasingみたいな調教の工程をさらに濃密に描いた感じですね。
    で、さらに洗脳が完了した問題児本人に講師を務めさせるという演出。
    これは実際、かなり効果的そうですね。だって、犯行した場合の未来の自分の姿を詳らかに見せられているわけですから。
    多分、ほとんどの女の子が完全に心が折れて「お願いですから少しでも苦しくないように洗脳してください」って懇願しそうw

    で、主人公の明穂ちゃん。
    これ、職場のセクハラを告発した腹いせに会社の上役に連れてこられたことと、
    職場では「休暇中」の扱いになっているっていうことを考えると……
    多分、「休暇明け」に会社に出てくる展開がありそうなわけで……
    その時に同じ会社の人たちの前でどんな目に遭わせられるか考えると……
    嫌が応にも先の展開に期待と不安が広がりますね……!

  3. 読ませていただきました。
    このじわじわした語り口、徹底的な洗脳いいですね!
    一番抵抗した劣等生が従順な講師になっているのも、どんな屈辱的な洗脳されたのかと想像力をかきたてられます。
    タイトルの、「明るい」と「奴隷生活」が上手いなと思いました。
    奴隷生活が明るいわけがないギャップが、興味を引きつけられるコンセプトで話にそのまま引き込まれる感じです。
    ストーリーも期待通りそのままでとてもよかったです。

  4. 説明しかしてないのになんだこのエロさ……異常感半端ない

    流石永慶先生しか言いようがないぐらい凄い作品でした
    ワクワク止まりません!

  5. >みゃふさん

    ありがとうございます!
    3話完結、全てオリエンテーション、説明のみで終わります(笑)。
    妙な話で恐縮です。徐々にリアリティラインを変えて、異常な世界を広げていきたいとは思っていますが、
    上手くいくかは、ご愛嬌ということで、お楽しみ頂ければ幸いです。
    毎度、感想頂いて、大変励みになっております。この冬も数週間、お付き合い頂ければ幸いです。

    >ティーカさん

    毎度ありがとうございます!このご時世に、ガッツリ精神的にヤバめの話を、淡々と書いてみたくなりました。
    The Galactic Chasingを想起して頂いたのも、とても嬉しいです。
    「洗脳」というカテゴリーは、小説というジャンルにとても合っていると思っています。
    普段はお気楽なものを書きたがる自分ですが。。。

    >ヤラナイカーさん

    ありがとうございます。ニコニコ、テキパキとシステマチックに進行されると
    余計禍々しさが出るかと期待して、敢えてほのぼのとしたオリエンテーションのシオリを考えてみました。
    お楽しみ頂けますと幸いです。

    >UZIさん

    感想ありがとうございます。お返事遅くなりまして申し訳ないです。
    色々とフォーマットや舞台設定を弄って書くのが好きなのですが、
    オリエンテーションだけで完結する話は、チャレンジです(笑)。
    3話で完結しますが、上手くいくかどうか、しばしお付き合い頂けますと嬉しいです。
    ご期待に沿えるよう頑張ります。ありがとうございます!

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