重なる二色、対なる一色 ~第一章 中編~

第一章 中編

「そういえば、放送部にはもう顔を出したのか?」

「多分まだのはずですが」

 まだ生徒会長になって数日のある日、突然吉村さんに言われた。

「生徒会の都合上、放送部とは仲良くさせてもらっている。放送部の人には一度顔を出しておくべきだな」

「そんなにお世話になるの?」

「まあ、と言っても、部員は一人だけだし、その人は昨年からお世話になっているからな。今日じゃなくてもいい。いつでも歓迎する人だから、好きなときにお邪魔するといい」

 放送部…部員が一人…。

「あと、紅茶とお茶請けを持って行くと喜ばれるな」

 早速、次の日に放送室に行くことにした。

「失礼しま~す」

「あらあら、お客様ですか。生徒会の方ですか?」

 そう言って、一人の女性がこちらに近寄ってくる。なんというか、おっとりしている。

「あの、今年から生徒会長になった、夢野都です。放送部とはご縁があると聞いて、一度挨拶に伺いました」

「そんな片言にならなくてもよろしいのに…」

 何だろう。相手がおっとりしているからか、むしろこっちが緊張してしまう。

「あら、自己紹介がまだでしたね。私は放送部三年の倉田梢です。これから一年間、宜しくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします。あの、お茶とお菓子を持ってきたのですが、ここで一緒に食べませんか?」

「あらあら、そんなものをわざわざ。ありがとうございます。ええ、そうですね。ここで一緒に食べましょうか」

「そうだったんですね。知りませんでした」

 紅茶とお菓子を食べながら、二人で色々話していた。倉田さんが放送部に入った理由、放送部の主な仕事、生徒会の運営のコツなど。そうやって話に花を咲かせているうちに、外は暗くなっていた。

「まもなく、下校時刻です。校舎に残っている生徒は、速やかに下校の準備をしてください」

 気づけば、下校時刻のチャイムが鳴っていた。

「それでは、都さんとのおしゃべりも楽しかったですが、今日はこれくらいにしましょうか」

「そうですね。今日はありがとうございました」

「いえいえ、私の方こそ、ありがとうございました。もし何かあれば、遠慮なく言ってくださいね。私は毎日ここにいますので」

「すみません。そのときはお世話になるかもしれません」

「また、遊びに来てくださいね」

「ありがとうございます、倉田さん」

「梢でいいですよ。私も勝手に都さんとお呼びしてますし」

「じゃあ、梢さん。今日はありがとうございました。これから宜しくお願いします」

 最後に、私はそう言って、【握手】を交わした。

「へー、じゃあ、今日はお姉ちゃんは生徒会の仕事をせずに他人とお楽しみでしたか」

 今日のことを真知子に話すと、膨れっ面でそう言われた。

「でもさ、放送室っていうなかなかに大きい設備に一人だよ? 何か、拠点にできそうじゃない?」

「そうですけどー」

「梢さんもいい人そうだったし、ちゃんと【能力】使えば、協力してくれそう」

「わかりましたー。また私も遊びにいきますー」

 やはり、その日の真知子は終始不機嫌だった。

 それから数日、とある日の放課後、私は再び梢さんのもとを訪ねた。今回はちゃんと事前に梢さんにお願いして、ある程度時間をとってもらっている。

「すみません、そう間も空いていないのに」

「いえいえ、私としても、貴方とお話をするのが楽しみなんです」

 今日は、この前とは別のお茶菓子を持ってきている。

「さて、今日は何を話しましょうか?」

「ごめんなさい」

「え? どうされたのですか?」

「梢さん、【眠ってください】」

「はい、分かりました…」

 私が【命令】をした途端、梢さんは眠ってしまった。

「梢さん、聞こえてますか?」

 梢さんは、返事もせず、すやすやと眠っている。

「梢さん、【目を開けてください】」

「はい、分かりました…」

 梢さんはそう言いながら、ゆっくりと目を開けた。しかし、その目はどこも向いていない。目に力が入っていない。どうやら【命令】はちゃんと機能しているようだ。

 そして、私は真知子にチャットを送った。

『梢さん、無意識にさせた。放送室に来て』

 そう、今日の目的は、放送室に真知子を呼び込むこと。しかし、私と真知子は赤の他人という設定なので、一緒に来るのは友達だと言わない限り不可能。なので、梢さんを無意識にし、その時に真知子と【握手】をさせるという考えである。

『分かった。すぐそっちに行く』

 すぐに、真知子から返事が来た。

「お姉ちゃん、もう大丈夫?」

 放送室の扉が開き、真知子の声が聞こえる。

「うん、もう大丈夫」

「うわ、目開けて寝てるの?」

「いや、【命令】の確認で目を開けさせた」

「何か、虚ろな目って怖くない?」

「でも、私は人形みたいで好きかな」

「そうなんだ…」

「それじゃあ、真知子、【握手】お願い」

「オッケー」

 そう言って、真知子は真剣な顔で【握手】をし始めた。

「とりあえず、【握手】も完了したし、お姉ちゃん、この後梢さんをどうするの?」

「とりあえず、アドレス教えてもらう?」

「まあ、まずは最低限からだよね」

「梢さん、【メールアドレスを教えてください】」

「はい、分かりました。私のメールアドレスは…」

 この先は、個人のプライバシーの都合で伏せさせてもらう。

「分かりました」

 なぜ、メールアドレスを無意識の間に聞いたのかというと、理由は春休み前にまで戻る。

 生徒会長選挙に当選し、本格的に『復讐』を始めようとすることを決めたときのこと。

 そもそも私たちの【能力】よりも前に、マインドコントロールとは何かと考えていたとき、やはり巷で言われる『催眠術』が近いのだろうかと思い、催眠術関連の動画を見漁っていたとき。とある描写が目に留まった。それは、一定の言葉をトリガーとし、いつでもトランス状態にさせることができるというものだった。しかし、それを私たちの【能力】に取り入れようとしても、目の前で言葉を言うくらいなら、直接【命令】した方が分かりやすい。そこで考えたのが、文字テキストをトリガーとして機能させ、その文面を見ることで、私たちの声がなくてもトランス状態にできる、という案だった。

「お姉ちゃんも、タブレットに登録できた?」

「うん。もう大丈夫」

 しかし、元々の私たちのメールアドレスだと、そこから私たちだと一瞬で分かってしまうので、共通の第三のアドレスを作り、それを私たちがそれぞれ買ったタブレットに設定しておくことで、それを防ごうというものだった。

「さて、今日のすべきことが終わったし、私も少ししたいことがあるから、もう戻るね」

「ちょっと待って」

「まだ何かあるの?」

「うん。真知子にしかできないことで、少しお願いが」

「ん、んん…。あ、あら、いつの間に眠っていたんですね。ごめんなさい」

「いえいえ、大丈夫ですよ、私もここの設備をじっくり見ていましたし」

「それでも…」

「気にしないでください」

「都さんがそう言うなら…」

「梢さん、一つ聞きたいことがあるのですが」

「梢さん、【あなたにとって、私たちはどういう存在ですか? 答えてください】」

「はい、分かりました。もちろん、私の友達であり、貴方たちの『復讐』の協力者です」

「梢さん、【『協力者』とは、何ですか? 答えてください】」

「はい、分かりました。『協力者』とは、貴方たちの『復讐』に協力する、例えば、この放送部を相談場所として提供したり、私自身からも提案をさせていただく、などです」

 常識改変については、少し前にまた真知子が見つけてくれたレポートに書いてあった。

意識及び無意識の状態での精神掌握能力について No.03

 今の私なら、常識改変も可能なのだが、『協力者』というのは、簡単に壊れることもある、『意識』か『無意識』かと言えば、『意識』の方に近い気がするので、真知子にお願いした。もしかしたら、記憶消去だけではなく、認識そのものをこうしておいた方がいい気がしたのもある。

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ、そういえばなのですが、夢野さんと内野さんって、どういう関係なのですか?」

「あ」

 しまった。言ってなかった。確かに、学校では一応他人と言う設定でやってるし、万が一でも従姉妹というのも少しリスキーな気がする。

「梢さん」

 突然、真知子が声を上げた。

「はい、どうされましたか、内野さん」

「【私と夢野さんの関係は、いつか教えます。今はその認識でお願いします】」

「はい、分かりました」

 今ではこうやってさりげなく【命令】を入れられるようにもなった。

「本当にそれで大丈夫?」

「何かあれば、また私たちで【命令】すればいいでしょ。今は簡易的だけど、これで」

「分かった」

「あの、どうかされましたか?」

「あ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

「そうですか」

 今は、何とかなりそうだが、いつか何かあるかもしれない。早急に【命令】の補填をせねば。

 結局、この日はそれ以降特に進展もなく、下校時刻になってしまった。

「あれが梢さんか、結構よさそうな人だね」

「そうだね、『協力者』にした甲斐がある人だとは思う。普通に考えて、『協力者』があまりにも多すぎると、周囲に怪しまれる可能性があるから、人選はしなきゃなんだけど、あの人は絶対に見放さない方がいいと思う」

「そうですか、そうですか」

 どうやら、真知子は梢さんの話になると少し不機嫌になるらしい。

「お姉ちゃんとの『復讐』ってさ、何か、秘密結社みたいだよね」

「確かに、やってることは、拠点を置いて、『協力者』を増やして、為すべきことをする。そう言われたら、そうかも」

「じゃあ、名前つけない?」

「名前? でも、そんなのいらなくない?」

「こういうのは、雰囲気が大事なの!」

「分かった分かった。じゃあ、真知子が決めて」

「いいの? でも、今は思い付かなさそうだから、また今度でもいい?」

「考えてなかったんだ…。まあ、いつでもいいけどね」

 これで、『復讐』への加担者は三人になった。でも、まだまだこれからだ。もう少し増やして、学校全域を把握できるようにならないと。

 <続く>

4件のコメント

  1. 読ませていただきましたでよ~。
    操り描写も入ってぐっとMC小説っぽくなりましたね。
    まずは協力者を増やすターンでぅか。でも、梢さんも三年生ということでガッツリ復讐の対象に入っているような・・・w
    っていうか、八つ当たりになる一年生以外はみんな復讐の対象なんじゃないんだろうか?

    協力者は復讐の対象にしないのか、それとも協力させておきながら復讐の対象にもしてしまうのか。
    今後の展開が気になるところでぅね。

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  2. みゃふさん、ありがとうございます。
    まだまだ時間をかけてゆっくりとやっていくことにしています。
    ただ、私も最近は執筆作業にあまり時間をかけられていないので、掲載のペースが更に乱れると思います。
    こちらの事情で申し訳ありませんが、何卒宜しくお願い致します。

  3. 読みましたー。
    復讐の対象でありながら協力させる。鬼畜ですね。
    さて、これからどのように復讐を進めていくのか……。

  4. ティーカさん、ありがとうございます。
    今後もじっくりと、(恐らく全編完成するのに数年はかかりそうですが)やっていきたいと思っています。
    まだまだ初心ですが、頑張っていきたいと思います。

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