プリマ 第4話

 コン………コンコン。

 マサキが若園芳乃香さんの控え部屋のドアをノックする。緊張して待っていると、1週間ぶりの芳乃香さんの顔は、少し曇っていた。AD新藤マサキの不安が増す。微妙な愛想笑いを浮かべている自分に気がついた。

「………あの、若園さん。………今日の撮影の流れをご説明に……」

「はぁーー…」

 マサキの言葉が、芳乃香さんの溜息で早々に遮られてしまった。

「………どうぞ……」

 芳乃香さんが手の動きで、マサキに部屋に入って椅子に座るように促した。浅く頭を下げて、マサキがこの番組の主役である、若園アナの部屋に上げてもらう。ただ、いきなり今日の流れの説明に入ると、地雷を踏むような気がして、まずは彼女の言いたいことを伺うようにした。

「私、先回のオンエアーのあとで、すっごく沢山の方から、感想頂きました………。お褒めの言葉とか、心配の声とか、面白かったっていう感想とか、若園のイメージが変わったっていうご意見とか、色々と聞きました。………元々、新藤さんの判断に任せるから、OA前のチェックはしないって言ったのは私なので、いいんですけど………。正直、皆さんに色々と言われるたびに、怖くなっちゃって、結局オンエアーは自分の目で確認してないんです」

「………はぁ………。あの、番組としてはとてもいい反響を頂いているのですが………、若園さんがご不満でしたら、申し訳ございません」

 マサキが帽子を取って頭を下げる。AD生活を過ごすうちに、頭を下げることには何の抵抗も無くなっていた。

「いえ………ですから、あの、私がお任せしたんだから、マサキ君が謝る必要は無いんです。どこまでいっても、私の責任です。………ただ、ちょっと、今日の撮影も、私、どんな醜態を見せることになるんだろうって思うと、不安で………」

 芳乃香さんの浮かない表情を見ていると、マサキが辛抱出来なくなっていた。

「すみません、僕らとしては芳乃香さんの『究極のリラクゼーション状態』を作れるのが、理想なんです。もし、よろしければ、僕の話をもう少し…………、あ………、若園さん」

 目から生気を失って、スッと脱力して立ち尽くす芳乃香さん。彼女の顔の前で、マサキは右手を開いて、左右に振ってみせる。彼女の目は、至近距離で揺らされる手を、追いかけようともしない。

「………うん…………。催眠状態………ですね………」

 マサキは安心すると同時に、心の中でガッツポーズを決めた。1週間も間が空いたので、てっきり後催眠暗示のキーワードも、効果を失っているのではないかと勘繰って、慎重にもう一度、彼女を一から催眠状態に導こうとしたのだが、試しに口にしたキーワードは、まるで昨日暗示を刷り込まれたばかりのように、効果をあらわした。

「芳乃香さん………聞こえますね? …………今、貴方は、深い催眠状態に戻っています。貴方は僕、新藤マサキの催眠術が、貴方にとってどんな存在か、貴方は催眠術でどうなるか、思い出せますか?」

「…………は………い………。…………マサキ………君の…………催眠術は…………絶対……的です………。私は…………どんな………ふうにも………変わり……ます」

 虚ろな目のままで、遠い記憶を引っ張り出すように、芳乃香さんが答える。

「そうです………。その催眠術に、貴方は今、かかっています。………そして貴方は僕の言うように、変わります。その変化は、とても心地よくて強力なものです。いいですね? …………貴方は目を覚ますと、自分のストレス耐性が、それまでよりも何倍も高くなったことに気がつきます。とても器の大きな貴方は、多少の雑音なんて耳に入っても来ません。気にせずお仕事に、前向きに立ち向かうことが出来ますよ」

「………前向き………。…………仕事……………。気にしない…………。………はい……」

 徐々に、芳乃香さんの返事に、力がこもってきたように聞こえる。表情も明るくなっている。

「但し貴方は、自分に無理を強いて、我慢を続ける必要は無いです。貴方が心の奥深くに溜めたストレスは、貴方が催眠状態にある時に、綺麗に吐き出して、自分の心身をとても健康なサッパリとした状態に保っていくことが出来るんですよ。だから、貴方は、催眠術そのものを、とても信頼して、必要としています。………良いですか?」

「………はい…………。催眠…………ストレスがさっぱり…………。必要……………」

 眠そうな目をした芳乃香さんは、僅かに緩んだ笑みを口に浮かべながら、ゆっくりと体を左右に揺らし始める。そしてその状態を自分自身でも楽しんでいるかのように、噛みしめているかのように、心地良さそうに両目を閉じた。体はまだユラユラと左右に揺れている。目を閉じた後の、気持ち良さそうな表情………。

 嬉しい。

 マサキは腹の底にジュワジュワと沸いてくるような喜びに酔いしれる。作戦が上手くいっていることも嬉しい。それもあるが、それ以上に、催眠術を心地良さげに受入れている芳乃香を見ていると、しみじみと喜びを感じてしまう。まるで自分が全霊をかけて没頭している趣味について、尊敬する人が認めてくれているような気持ち、全身が総毛立つようなムズ痒い満足感が心を温かく浸してくるのだ。

「今週の貴方は、心の奥底で自分が深い催眠状態にあった時に、ソフトクリームに変身したことを、とても強く覚えていて、それが貴方のお洋服のチョイスにまで、貴方も知らないうちに影響を与えていたようです。けれど、これからは僕が特別に暗示を入れない限り、そういうことは起こりませんよ」

 芳乃香さんが、マサキの言葉に頷く。目を閉じたまま俯いて、モジモジと自分の服の袖を触っていた。今日も彼女は白のサマーセーターに、淡めの辛子色のスカートというコーディネートになっていた。胸元にはどこで買ったのか、ソフトクリームのブローチをつけていた。

「貴方は僕との催眠セッションの後、ソフトクリームとかウシとか指揮者とか、具体的な変身のイメージをいつまでも心に抱えていく必要はありません。そうした表面上のイメージはきっと、時間とともに薄れていく、ただ一点、貴方が僕の催眠術の前に全く抵抗出来ないということ、そして僕に操られることはとても楽しくて心地良いということ。そのエッセンスだけが、貴方の心の奥底、どこまでも深いところへ染み込んでいくのです。それで充分なんですよ」

「………無力……………で………………、心地いい…………………………。‥‥充分………………………。はい………」

 寝言のように、芳乃香さんがボソボソと呟いて、その後はまた気持ち良さそうに体を揺らす。まるで大好きなヒーリングミュージックを体全体で楽しんでいるような様子だった。

 危うくそのままウットリと時間を消費してしまうところだったマサキが、時間のことを思い出して、慌てて気を引き締める。マサキは今、撮影開始までの短い準備時間の中で、彼女に予備催眠をかけることと、今日の撮影の流れをブリーフするということを同時に進めなければならないのだった。もっとも、今日の彼女の役回りはほぼ、マサキの催眠術にかかってその誘導のままに素のリアクションを見せるという、受け身でいて良いものだった。

「今日の企画は、芳乃香さんが精一杯、僕の催眠術に抵抗してみせるというものです。貴方は心の表面、表層意識では僕の催眠術に逆らって、正気を保ちたい。企画を失敗させようと必死で踏みとどまろうとします。けれど、貴方の深層意識は、僕の催眠術に対してどういう反応を見せるか、そのことを僕と貴方は本当は良く知っていますよね。そのことだけ、貴方の心の底がわかっていたら、今日の撮影もとてもうまく行きます。わかりますね?」

「………はい………」

 芳乃香さんは、まるで頭をガクリ前に下げるようにして、頷いた。

「貴方と一緒に番組作りに奮闘している仲間たちも、大きな獲れ高に大満足となるはずです。だから貴方はいつも、与えられた仕事、役割を一生懸命に全うします。本物のプロフェッショナルです。周りの批評を今から心配したり、後から一喜一憂する必要もありませんよ。全力で目の前の企画にぶつかるだけです。良くわかったら、芳乃香さんはスッキリとした気持ちで、催眠から覚めていきます。5から0まで数えますよ。…………5…………4…………3…………2………1……………0。ハイッ、最高の仕事日和です。気合いに満ちて来ませんか?」

 マサキが呼びかけると、両目を開けた芳乃香は、右、左と見まわしたあとで、目の前のマサキを見つめると、零れるような笑みを浮かべた。両腕をブンブンと回転させる。

「芳乃香さん、もうすぐ撮影ですけど、如何ですか、気力充分といった感じでしょうか?」

 マサキはただのADに戻った訳だが、まだ口調は少し催眠術師っぽい。自分でも、気遣っていることが多いと、口調をきれいに区別出来ていないことに気がつく。芳乃香さんは、返事をするかわりに、両腕を水平に開いて、肘を90度に曲げて拳をあげると、芝居がかったように力こぶを作ってみせて、ニッコリ笑ってくれた。

。。

「はい、皆さん、よろしければ。………5…………4…………3……………………………」

 キューさんが撮影開始の合図を送る。プロデューサーという立場の久米島さんだが、ADのマサキがカメラの前に立っているので、先回に引き続きADの役割まで果たしている。けれどずっと現場に立ってきたベテランのオジサンたちは、たまにこうした下っ端仕事をこなす時も、妙に楽しそうだ。

 埼玉県は本庄市にある貸しスタジオを使っている今日は、本当だったらもっとスタッフを集めて撮影することが出来たはずだ。特に今日の企画、若園芳乃香さんの催眠術挑戦は、4日前の放送で大きな反響を得た、人気企画だ。弱小制作会社とは言え、もっと多くの撮影スタッフを引き連れてきても良かった。それでもマサキの提案で、今回もディレクション役のキューさん、カメラのゴンさん、音声のマルさんという、ロケの最小単位で撮影をする。サポートはメイクの果代ちゃんだけ。照明さんもカメラアシスタントさんも、スタイリストさんも、立ち合いマネージャーもいない。大がかりな撮影体制を組んで質の高い画を撮るよりも、芳乃香さんに安心してもらい、どっぷりと催眠にかかってもらった方が、欲しい画が撮れると思ったからだ。

「さて、芳乃香さん。先回、見事な掛かりっぷりを見せてくれた、催眠術企画の続編ですが、如何でしたか? 素直な感想は」

「はい………。とっても楽しかったことは覚えているんですけど、催眠術をかけられている間のことは、実は記憶としては、曖昧です。………ちょっと夢の中の出来事みたい。………でも、放送の後から、友達に冷やかされたり、心配した家族から電話かかってきたりしました。色々と聞かされて、恥ずかしかったですよ~、もう………」

 芳乃香さんは両手を胸の前で拝むように合わせたり、恥ずかしいと言う時には両手で顔に風を送るように扇いだりと、身振り手振りも上手に使う。共演者として隣に立ってみると、マサキのギコチなさ、彼女の演者としての自然な資質の高さを、改めて思い知る。

「じゃ、芳乃香さんご自身は、番組を見ていない………」

「何度か見ようと思ったんですけど、途中で恥ずかしくって、見続けられなかったんですっ。もう、酷いですよ、皆さんっ。ウシになって乳搾りされるとか………あれ、全部、セクハラですからねっ」

 若園さんが、隣に立つマサキの、二の腕をペシッと叩く。けれど彼女の目は、笑っている。マサキはカメラに背を向けないように気をつけながらも、芳乃香さんの様子を伺う。実際にカメラの前に立たされると、特に進行役にとっては気を遣うことが多すぎて閉口する。台本の大きな流れ、カメラ横のディレクション役からのアドリブのリクエスト、共演者の反応………。マサキはこれまで街歩きのロケやインタビューなど、常に卒なくこなしてきた芳乃香さんを、改めて尊敬した。

「そう、芳乃香さんは前回、あまりにもすんなり催眠術にかかって頂いて、色んな暗示がアッサリ成功してしまっていたので、今回はリベンジじゃないですが、芳乃香さんに精一杯、催眠術に抵抗してみてもらおうという企画なんです」

「そういうことなんですね。………よしっ………。頑張って抵抗してみます。………私、チョロい女だと思われたくないですから…………。先週は散々恥をかかされたので、名誉挽回しますよ」

 両手を握って、気合を見せる芳乃香さん。

「実は先回、私、一番最初のあたりで、ちょっと協力的にというか、自分からも新藤さんの言葉に乗っかろう、合わせていこう…………って思った瞬間があったんです。いつものADさんが突然催眠術を試すって仰るから、失敗したら、番組が成立しないっていう思いもあって………」

 芳乃香さんが少し真剣な表情になって、先週のことを思い出している。やはりとても正直で、素直な人だと思えた。

「それが、最初にちょっとそういう歩み寄りをして、言われるがままに集中したり、想像したりしているうちに、どんどん自分で自分がコントロール出来なくなって、最後はもう、自分で変なことをしているのが分かっていても、全然止められない、歯止めが効かないっていう感じになっていました。だから、今回、始めから目一杯、抵抗して良いですって言われたら、私、催眠術に掛からないでいられるように思います」

「………なるほど。………では早速、試してみましょうか?」

 マサキは笑顔で応じる。彼女の言っていることは、ある意味で正しいと思う。催眠状態には「誘導」することは出来ても、普通は「強制的に落とし込む」ことは出来ない。催眠術をかけると言うが、実際には、「掛かってもらう状態に持ち込む」という工夫が重要なのだ。そのために、マサキは今回も白衣を着ていたり、口調や態度を普段のADのマサキの時とは変えていたりと、彼女がマサキの誘導を受け入れやすい環境を整える。今朝の予備催眠もそうだ。

 問題は、「自分からも協力して催眠状態に入った」という記憶や印象と、「自分の意志でいつでも抵抗出来る」という実態とが同じではないということだ。現にこの若園アナ。椅子に座らせて目の前でジッポーライターに火を点けられると、顔は半笑いでいても、目はもう小さな炎に吸い寄せられるように、追っている。

「はい、このライターの火をよーく見てください」

「うぅぅ…………やです………」

 先週、マサキはキューさんのライターではなくて、自分の持っているペンライトを使った。人によっては、火を自分の顔に近づけられると、それだけで本能的に警戒してしまうことがある。そういう場合、催眠導入はうまくいかなくなる。今回マサキは、すでに芳乃香さんの催眠導入が充分スムーズになっていると踏んで、あえてライターを借りて使っている。火には人を警戒させて体を強ばらせる効果もあるが、この段階さえ上手にクリアすると、その後は人工的なペンライトの光よりも、より深く人をリラックスさせたり、集中させたりする効果もある。そんな導入のバリエーションも、秘かに番組の中に盛り込んでおきたかったのだ。

 ライターの火を左右に揺らすと、眉をひそめた芳乃香さんが、顔を背けようと頑張る。それでも、瞼の下で、黒目はしっかりと、風に揺れる炎を捉えている。彼女の目に、揺れるライターの火が赤く反射している。その光景自体が、とても神秘的で魅力的な画に感じるのは、マサキが芯まで催眠術の魅力にハマっているからだろうか?

「ほら、このライターの火を覗きこんでいくうちに、どんどん他のことが考えられなくなる。芳乃香さんは深い催眠状態に落ちていきますよ。………嫌でしたら、抵抗しても良いんです。頑張って逆らって、催眠状態に落ちないようにする。ライターに火から目をそらそうとする。それでも貴方の目は自然とこの火を追いかけてしまいますよね?」

「………ふぅんん…………んんん………………」

 座ったまま、内膝を擦り合わせるようにして、体に力を入れて、何かと戦っている芳乃香さん。顔は少し辛そうな表情。椅子の上で、ムズムズする体を捩るようにして、芳乃香さんが首を左右に振っている。それでも、視線はライターの火に吸いつけられたままだ。

「目を背けようと全力で目の周りの筋肉に集中する。そうしているうちに芳乃香さんの瞼がどんどん疲れてきて、重くなってくる。どんどん目を閉じていってしまう。一度瞼が閉じると、もう開けることは出来ませんよ。どんどん力が抜けていく。貴方は深―い、深―い催眠状態に沈み込んでいきます。それは、とーっても、気持ちが良い、状態なんです」

「………ん…………うう………………。………や……………」

 春の午後、暖かい電車の座席で眠気と必死に戦っている人のように、芳乃香さんはトロンとした目で懸命に正気を保とうと抗っている。それは彼女自身にとっては必死の格闘かもしれないが、傍目には長閑な光景にも見える。彼女があまりにも、気持ち良さそうにウツラウツラとしているからだ。そして瞼がうっかり下瞼と触れ合うと、もう開くことは出来なくなる。肩から空気が抜けるように脱力が始まって、悔しそうな寝顔がガクリと落ちるようにして顔を俯ける。その攻防の一部始終を、カメラが、集音マイクが押さえていたのを確認して、マサキは親指を立てた。

「さぁ芳乃香さんは今、深―い催眠状態に入りました。僕の声が貴方の心の奥深くに、全て染み込んでいきますよ。僕の言葉が貴方にとって真実になる。僕の言うように感じて、僕が言ったものを目にして、耳にして、僕の言う通りに考えるようになりますよ。そうです。貴方はすっかり催眠術に掛かってしまったんです。完全な、催眠術の虜です。そうですね? 芳乃香さん。口を動かして答えることが出来ますよ」

「はい…………。私は…………。催眠術の‥・虜です」

 5分ほど前、意識して抵抗すれば、催眠術に掛からないと強弁していた彼女はもう、カメラの前でマサキの誘導のままに答えてくれるようになっていた。無抵抗な彼女の右足の前に跪いたマサキは、そーっと彼女のパンプスを脱がせる。ヒールが高すぎない、上等そうな革で作られた白いパンプスだった。

「私が貴方の肩を叩くと、貴方はスッキリと目を覚まします。そして、自分は催眠術に掛かっていなかったと思いこみます。けれど私が言うことは、目を覚ました後でも、貴方にとって本当のことになる。私が『催眠解けます』と言うまで、私の言葉通りに貴方は感じて、行動しますよ。………ほら、芳乃香さん、起きてください………。…………どうですか?」

 マサキが肩を叩くと、キョトンとした顔で周りを見回す芳乃香さん。ゆっくりと、勝ち誇ったような笑みをもらした。両手を腰に当てて、勝ち誇ったようなポーズになる。

「………うふふ…………。ゴメンなさい。私、………勝っちゃいました?」

 番組的には芳乃香が催眠術に掛かってくれた方が都合が良いことはわかっているので、芳乃香さんはカメラに向かって謝った。謝りつつも、顔が笑っている。

「いやー。そうみたいですね。もし良かったら、催眠術に打ち勝つことが出来た、勝利の報告を、ご家族にお電話で伝えてみませんか? ほら、芳乃香さんのお母さんと電話が繋がっていますよ」

 マサキが芳乃香の右足から脱がした白いパンプスを手渡すと、椅子に座ったままの芳乃香さんが、少し気恥ずかしそうに頭を下げて、自分のパンプスを受け取る。

「えぇ…………もしもし、お母さん? ………私ね、今回は催眠術にかからなかったよ~。…………うん………。うん。………そう、途中、ちょっと眠くてねぇ。危ないかもって思ったけど、…………………頑張った」

 いつもよりも鼻にかかった、どことなくあどけない声を出して、芳乃香さんが会話をする。お母さんの声も、きちんとパンプスの爪先側から、クリアに聞こえてきているようで、芳乃香さんは何度も頷いている。少し甘えたような口ぶりからも、家族仲の良さが伺える。家族だけに見せる、彼女のプライベートな素顔を、今カメラの前で見せてくれていた。

「うん………うん。………ちょっと、お母さん。そういう話は、また………ね。今、収録中だから………。うん………、皆いい人だよ。………大丈夫。…………じゃ、また、電話するから………。はい。………じゃぁね~」

 途中でカメラに気がついて、軽く会釈しながら、体を斜めに向けるようにして、遠慮がちに話す芳乃香さん。手に持っているのが電話でなくて、彼女の靴であること以外、疑いようのないような彼女の素の姿だった。

「芳乃香さん、『催眠解けます』。………お母さんは何て仰っていますか?」

 マサキが指を鳴らすと、嬉しそうに話していた彼女の表情が固まる。左手に持っていた靴を顔から離して、微妙な表情でマジマジと見つめた。

「お母さん、何て仰っていました?」

「…………えっ………と………。よく頑張ったね………って………。え? …………今の………も催眠ですか?」

 訝し気な顔で、マサキとカメラを交互に見上げる芳乃香さん。

「え? ………だって、これ、電話じゃないし…………」

 芳乃香はやっと事情を理解したように、悔しそうに表情を崩して、恨めし気にカメラを見る。

「そう、芳乃香さんが手に持っているのは、スマホじゃないですよね。よく見てください。………それは電話じゃなくて、酸素マスクですよね。………ほら、周りを見て。貴方は今、スキューバダイビング中ですよ。綺麗な海の中。でも酸素マスクをいつまでも外していると、呼吸が苦しくなりますよね? 海の中ですよ」

 芳乃香さんはすっかり混乱した表情で、周りをキョロキョロと見回している。けれどしばらくすると、やがて我慢できなくなったように、パンプスを顔へ持って行って、足を入れる部分を鼻から口につけて、ゆっくり深呼吸をした。やっと楽そうな表情になる。

 そろそろ、芳乃香さんの完全陥落という画が欲しい頃だ。マサキはキューさんやゴンさんと目配せしながら、芳乃香さんの肘を触って、椅子から立つことを促す。

「本当に綺麗な海ですね~。サンゴ礁が凄くカラフル。小さな熱帯魚の群れが沢山泳いでいますよ。ちょこちょこ、芳乃香さんにぶつかっちゃいます。チョンチョンチョンって、ちょっとくすぐったいですね」

「ふ………うふふふ………」

 芳乃香さんが右手をゆっくり扇いで、近くに来る魚を優しく遠ざけるような仕草を見せる。左手は使えない。靴をピッタリと鼻と口に密着させたまま、外れないように押さえているからだ。

「あれ、波の動きが変わったからか、水の力で芳乃香さんがグーっと押されていきます。脚の踏ん張りが効かないから、ゆっくり倒れてしまう。あら、困った。手足が大きな昆布に絡まってしまいました。身動きが取れない」

「んんううぅぅぅ………」

 膝から崩れ落ちるように床に寝そべった。右腕が頭の上に、何かに絡まったように引っ張られる。両足も交差して動かなくなってしまう。

「そこに小魚の群れが大量にやってきました。芳乃香さんの足の裏や脇の下、くすぐったい部分をツンツンツンツン、突っついてきます。うわー、くすぐったい、くすぐったい」

「んふふっ…………やははははっ………………。駄目~ぇぇっ。弱いんですっ…………私、これ駄目っ。やはははははっ」

 困ったような笑い顔をぶんぶんと左右に振る芳乃香さん。時々、思い出したように靴を口につけて息を繋ぐ。寝転んで体をクネらせて、涙が出るほど笑いながら、必死に靴から空気を補給している彼女の姿は、いつもの上品で楚々とした物腰とは正反対だ。ここまでいくと、さすがに視聴者にも、彼女が完全に催眠術の影響下に入りきっているということが伝わるだろう。

「はい、芳乃香さんの催眠が解けます。どうしました? 笑い転げてましたけど、くすぐったかったですか?」

 マサキが聞くと、芳乃香は急に咳きこみ始める。

「お………お腹痛い……………。なんで………靴が、……………ふぅ……………………。いえ……………、もう…………。わかんないです」

 もどかしそうな顔で、椅子に戻る芳乃香さん。自分で首を傾げながら、パンプスを右足に穿く。もう一歩、駄目押しが欲しい気もする。

「あれ、芳乃香さん、やっぱり貴方、今、海の中にいるかもしれません。ほら、息苦しくなってきました。さっきよりも強力な酸素マスクが必要かもしれませんよ」

「………え、………嘘でしょ? ………………やですぅ~」

 マサキの目線による合図を受け取ったキューさんが、年季の入ったグレーのスニーカーを片方脱ぐ。多分、買った時は白だったはずのスニーカーだ。勘の良い芳乃香が、これからどんな暗示を刷り込まれるのか想像して、首をブンブンと左右に振る。今にも逃げ出しそうな雰囲気だ。

「芳乃香さん、嫌だったら、我慢できるだけ、我慢してもらって良いですよ。久米島プロデューサーの手には、強力で新型の酸素マスクがあります。でも嫌だったら、頑張って、息が続く限り、断っても良いんです。…………だけど………そろそろ、息が、限界じゃないですか?」

 芳乃香は顔をしかめて、両手の拳で膝をコンコン叩いたり、足をドタバタと床に打ちつけたりしながら耐えていたが、そのうちに顔が真っ赤になってしまう。その顔を膝に擦りつけるくらいに俯いて左右に小刻みに振っていたが、やがて決心したように立ち上がって、久米島Pの方を向く。両手で水を掻くような仕草をしながら、一歩ずつ久米島Pの近くへ歩み寄ってきて、悔しそうな、情けなさそうな表情のまま、ついにキューさんからスニーカーの片方を受け取った。恐々顔を近づけて、鼻と口をスニーカーに押しつけると、自暴自棄になったかのような勢いで、背を反らして深呼吸をする。彼女の肺の奥まで、キューさんの靴の中の空気が送り込まれたようだ。

「はい、催眠解けます」

「ボヘェッ」

 聞いたことが無いような音を腹膜から出した芳乃香さんが、床に両手をついて、激しく咳きこむ。

「大丈夫ですか? 芳乃香さん」

「クサイ、クサイクサイ、くさいーっ。…………………ひどいぃ……」

 まだ咳きこみながら、むせた勢いで涙も零す芳乃香さん。笑ったり咳きこんだり、色んな涙を流させられている。

「芳乃香さん、僕が背中を擦ると、スーッと呼吸も楽になりますよ。もう大丈夫。陸の上にいますよね。ほら、よく見て。酸素マスク、まだ要りますか?」

 腹立ちまぎれに、手にしたオジサンのスニーカーをキューさんに向けて投げつけるような仕草を見せる芳乃香さん。それでも実際には靴を投げずに、手を伸ばしたキューさんに手渡した。育ちが良すぎるせいで、怒りを表しきれないところも可愛らしい。

「酸素マスクじゃ、ないじゃないですか…………。エホッ。………まだ、自分の鼻息まで臭いです~」

 ベソをかくような表情で、恨めし気に芳乃香さんが抗議する。キューさんがスニーカーを履きながら、まだ少し咳きこんでいる芳乃香にと、ペットボトルの水を差しだす。マサキは受け取って、キャップを開けてから芳乃香に手渡す。芳乃香が自分の息を整えながら、やっとのことで、水を二口ほど飲み込んだ。やっと安堵の息を吐くと、肩がスーッと降りる。背中を擦っているマサキの手にも、彼女の痙攣するような強ばりが、解けていくのが伝わってきた。

 そろそろ芳乃香さんに優しい暗示をかけてあげたくなる。マサキは悪戯っぽい笑みを浮かべて、彼女の耳元に囁きかけた。

「芳乃香さん、このペットボトル。よく見てください。とーっても素敵なペットボトルですよね。このデザイン、手触り、ほら、どんどんどんどん好きになる。貴方はこのペットボトルが大好きです。触れているだけで本当に幸せな気持ちになりますよ」

「……ん…………んふふ…………」

 さっきまで散々な表情をしていた彼女が、急に笑みをこぼす。目に、一気に生気が戻ってきた。

「ほら、僕が指を鳴らすと、二倍、三倍、四倍と、好きな気持ちが強くなる。もう、好きで好きで仕方がないですよ。もう一生離したくない。離れられない」

「んんーーーーっ」

 顔をクシャクシャにした芳乃香さんが、ペットボトルを大事そうに抱きしめる。マサキが何回か指を鳴らすと、そのたびにペットボトルを抱く腕に力が入る。両手で顔に寄せると、本当に愛おしそうな表情で、ボトルに頬ずりをする。目を閉じて幸せを噛みしめながら、頬をというか、顔全体を擦りつけている。目を開けてボトルを傾けては、中の水が揺れるのをウットリと眺めて、今度は両目を閉じてペットボトルに唇を近づける。チュっと可愛らしいキスをした。

「このペットボトル、芳乃香さんはどんなところが好きですか? …………芳乃香さん? …………どういうところが…………。…………ま、いっか………」

 マサキが問いかけても、若園アナウンサーは返事をする気がないかのように、ペットボトルにオデコを押しつけて、甘えるような小声で、何かをペットボトルに打ち明けている。完全に彼女とペットボトルしか存在しない世界に入りこんでしまっているようだった。話を聞いてもらえないと、マサキは何の手も打てなくなるので、思い切って大きな声を出して、彼女の両肩を同時にポンっと叩く。

「今、芳乃香さんだけ時間が止まりますよ。はいストップ!」

 透明なペットボトルに愛の囁きを続けていた芳乃香さんの動きがピタッと止まってくれた。表情は、歓喜を噛みしめるような、熱愛の火を灯したままだ。マサキはそんな彼女の手から、そーっとペットボトルを奪い取る。思いの外、強い力で握りしめられていたので、苦労した。空間を握りしめるような形で停止している彼女の手には、もう一度、キューさんのスニーカーを持たせる。それでもまだ、芳乃香さんは愛おしそうな表情のまま、お人形さんのように固まっていた。瞬き一つ、しようとしない。マサキはそんな彼女の様子を確認しつつ、ペットボトルをキューさんに手渡して、彼女の時間停止暗示を解く。

「芳乃香さん、催眠が解けます。貴方の時間がまた動き出しますよ。ホラッ」

「………クサイッ…………。またクサいっ…………やだっ…………」

 芳乃香さんが顔を背けて、靴の片方を出来るだけ自分から離そうとする。その動作からの続きで、彼女の大事な大事なペットボトルを探した。目に見えて、動揺している。そして、久米島Pが手に持っているのを見つけると、足音をドンドン響かせながら駆け寄っていった。

「久米島さんっ。それ、私のですっ。お願いです、返して。…………これ、要らないから、それを早く返してくださいっ」

 先週プロデューサーと揉めた時の彼女は、もっと冷静で、自分のスタンスを毅然と、理路整然と説明していた。今の彼女は、とにかく凄い剣幕で彼に詰め寄って、ひたすらお願いする。

「いや、これは番組側で用意した、ただの水だし、撮影中は………ね………。ほら、若ちゃん、落ち着いて」

「落ち着いていられませんっ。この靴、お返ししますから、早く私のっ。私のボトル~」

 まだプロデューサーの手にあるペットボトルを両手を伸ばして掴みとると、無理矢理引っ張って、ひっぺがそうとする、乱暴な芳乃香さん。マサキはもう一度、彼女を停止させる。

「もう一度、ストップ!」

 2回目の暗示は説明をほとんと省いても効果を出してくれる。これも彼女の理解度の高さのおかげだ。まるで動画を一時停止させたように、彼女の体がピタッと動きを止める。

「貴方の時間が止まっていますが、僕の言葉は全て受け止めて反応することが出来ますよ。芳乃香さん、貴方の時間がもう一度動き出す時、貴方の今の「大好き」な気持ちはそのままに、その愛情の対象が少しだけ変わりますよ。貴方が大大大好きなのは、ボルヴィックのペットボトルそのものではなくて、ペットボトルを持っている人です。ペットボトルを持っている人が、貴方の人生最大の片思いの相手。もう、好きで好きで仕方がなくなる。いいですね? ほら、催眠が解けて、時間が動き出しますっ」

 マサキが指を鳴らすと、芳乃香がボトルから両手を離して、大きく息を吸い込むと同時に、その両手を自分の口元で重ねた。目を真ん丸に見開いた彼女が、プロデューサーのキューさんを見つめたまま、過呼吸のような状態になっている。

「芳乃香さん、どうしました? …………久米島プロデューサーのお水、奪い取りたいくらい、喉が渇きましたか?」

「ゴメンなさいっ…………。私……………。いつも失礼ばかり…………。……………あの……………。私…………」

 明らかに不自然なほどモジモジしながら、芳乃香さんが2歩後ずさって、キューさんにペコペコと謝る。嫌われたくない一心で詫びているようだ。

「プロデューサーさん、芳乃香さんが謝っています。たぶん嫌われちゃったんじゃないかって、心配してると思うんですが、どうでしょうか?」

 マサキが目配せしながらキューさんに尋ねる。芳乃香さんはさらに2歩ほど後ろに引いて、両手を胸に重ねて耳をそばだてている。心臓が痛いくらいの様子だ。

「もちろん僕たちが若ちゃんのことを嫌いになったりなんてしないですよ。若園芳乃香さんのこと、大好きです」

 久米島Pが言い終わらないうちに、芳乃香さんがハーッと大きな音をたてて息を吸う。口を丸く開けて、信じられないという顔のまま、その場でピョンピョンと小刻みに跳ねていた。色んな感情が爆発しているようだ。

「お2人、手を繋いでみたらどうでしょうか? もちろん、もし、嫌でしたら、そんなことしないで良いんですが」

 マサキの言葉を受けて、調子に乗ったオジサンプロデューサーが、一度跪いてから右手を差し出す。芳乃香さんは目からポロポロと涙を零しながら、オジサンの手を取って、指を絡め合うように握りしめると、立ち上がった久米島Pの隣に寄り添う。芳乃香さんの方から距離を詰める。肘から二の腕が、密着するようにして立っている。

「芳乃香さん、教えてください。もしこちらの久米島さんとお付き合いしたら、最初に何をしたいですか? 2人でしたいこととかありますか?」

 聞かれた若園アナウンサーは、絵に描いたよなモジモジを見せながら、上目遣いでキューさんのことをチラチラと確認しつつ、やっとマサキに対して口を開く。

「…………靴を…………洗ってあげたいです…………。ずっとお仕事、お忙しいと思いますので……………」

 言った後で、恥ずかしがって一歩下がった芳乃香さん。自分の顔を、キューさんの二の腕で隠そうとする。

「………いっそ、2人で新しい靴、買いに行く? お揃いで2人分、買っても良いし……」

 キューさんがさらに調子に乗る。靴のペアルックという発想は、マサキにはなかった。

「良いんじゃないですか? 2人で、ショッピングデート。芳乃香さんはどうです?」

 マサキにきかれると、耳まで真っ赤にした芳乃香さんが、またチラチラとキューさんの表情を確認したあとで、消え入りそうな声で「ぇぇぇ」と漏らす。その後も、ずいぶん間が空いたので、靴のペアルックはお断りするのかと思ったら、はにかんだ笑顔のまま、コクリと頷いた。いつの間にか、腕を絡ませて体に密着させている。若園アナの美乳が、横からキューさんの日に焼けた腕に押しつけられていた。撮影中にもかかわらず、マサキは秘かに嫉妬した。

「芳乃香さん、タイムストップ」

 マサキが一声かけると、ピタッと彼女は静止する。潤んだ目、はにかんだ顔、キューさんの体に寄り添って密着しようとする体勢、全てそのままでマネキンのように固まる。その間に、マサキはカメラの後方、端に設置されたケータリングテーブルから、同じボルヴィックのミネラルウォーターを何本も抱えて持ってくる。仕事中のマルさんとゴンさんのズボンの前ポケットにも無理矢理押し込んだ。

「芳乃香さん、催眠が解けて時間が動き出します。ハイ」

 左手に残ったペットボトルを1本持ったまま、右手で指を鳴らす。芳乃香さんがキョトンとした表情で両目をパチパチと瞬きさせる。

「ほら、芳乃香さん。キューさんが持っているのと同じペットボトルを、私も持っていますよ。………ということは、同じ効果が現れます。芳乃香さん、僕のことはどう思いますか?」

「はぁぁぁぁぁぁっ」

 肺から空気を吐き出すようにして音を立てると、俯いて塞ぎこむように前傾姿勢になる芳乃香さん。少し間を置いた後で、まだ片方の手をキューさんと絡め合ったまま、マサキの方へも、もう片方の手を伸ばす。芳乃香さんの両手が繋がれた。

「…………好き……………。大好きです」

 思ったよりも引っぱる力が強い。引き寄せられたマサキは、カメラの前で美人女子アナを挟んで上司であるプロデューサーと3人で並ぶという、実に妙な絵面に巻き込まれてしまった。

「えー、芳乃香ちゃん。僕だけじゃないの? …………どっちが好きなの?」

 久米島さんが、ヘソを曲げたような声を出して質問する。このオジサンはどこまで演技で、どこから本気で腹を立てているのか、よくわからない。

「…………ぇぇぇぇ……………ヤダッ。……選べませんっ………………。3人で……………。3人で、お願いします」

 真ん中の芳乃香さんが、両腕を左右の裏方男性に絡めたまま、ペコペコと頭を下げて、無理を押し通そうとする。何をお願いしているのか、明言はしないけれど、妙に力強いお願い。いつも理路整然と喋る、インテリジェントな若園アナが、駄々っ子のように理不尽な感情を押し出している姿も、なかなか可愛らしかった。ペットボトルを持ったマサキの左腕には、ギュウギュウと芳乃香さんのオッパイが横から押しつけられている。これに抵抗しきれる男は、そうはいないはずだった。

「芳乃香さん、よく見てください。ほら、音声さんもポケットにペットボトル」

 ハァっとまた、息が飲み込まれる音。

「…………どうしよう……………。…………好き…………」

「音声さんの髪型はどう思いますか?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………好きです」

 丸山さんのアフロヘア―は、今日もヘッドホンで押さえつけられて、妙な造形になっている。コントで爆発したあとのキャラクターのカツラのようだ。

「もし、丸山さんに、おんなじ髪型にして、デートしようって、お誘い受けたら、どうします?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………くっ。……………………………………………お願い………します」

 間を取って考えている間、芳乃香さんの全身に力が込められていたのが、腕からも伝わる。モコモコのアフロヘア―おじさんを見つめる彼女は、唇を噛んで、まるでそのまま切腹でもしそうな形相になって、同意した。

「でもその髪型を、あっちのオジサンに止めるように忠告されたらどうします? ほら、カメラさんもあのペットボトル………」

 マサキが右手で指さすと、ゴンさんが両手でカメラを担いだまま、ペットボトルがポケットに差し込まれている方の腰を突き出して、強調する。芳乃香さんは困った顔でそのペットボトルを見つめたあと、ゴンさんの姿を上から下まで、何度も視点を動かして凝視する。だんだんその視線に熱がこめられてくるのが、横から見ているマサキにもわかる。

「そして芳乃香さんには見ることが出来ますよ、権藤さんの構えるカメラの向こう側、何千人、何万人の視聴者の方々も、皆ボルヴィックのペットボトルを持っています。僕たちが持っているものよりも、ワンサイズ大きなものかな? 芳乃香さんはカメラの向こうの視聴者1人1人と、恋に落ちますよ。熱烈な恋です。今まで、番組スタッフを好きになったのの倍くらいの恋心。ハイ、ちょっと近寄って、メッセージでも………うぉっ」

 両脇で腕を絡められていたマサキとキューさんが、グッと後ろに押しのけられる。芳乃香さんは2人を遠ざけて、1人、ゴンさんの構えるカメラの前に静々と足を進めていった。

「あの……………私…………、皆さんのことが、本当に、本当に、大好きです。………愛しています」

 教会でお祈りをするように、胸元で両手を握りしめている芳乃香さん。マサキには後ろ姿しか見えていないが、きっと最高に愛くるしい表情をアップで捉えてもらっているはずだ。

「芳乃香さん、大好きな視聴者の皆さんに、思いのこもったキッスを届けるのはどうでしょうか?」

 彼女が顔をカメラに向けて上げる。ゴンさんの操作の動きから、カメラがアップで彼女のキス顔を捉えていることがわかる。充分に間を取ってから、キューさんがOK合図を出す。

「はい、催眠が解けます。芳乃香さんの急な恋心もスーッとおさまって、いつもの若園芳乃香さんに戻りますよ」

 マサキが指を鳴らすと、まだキス顔を続けていたらしい彼女が、ハッと後ろを振り返る。貸しスタジオの中を見回して、ヘナヘナと床の上に膝立ちになった。両手もついて、崩れ落ちそうな体を支える。後ろにいるマサキに恨めしそうな視線を何度も送るが、怒ったりする気力も湧いてこない様子。どうやら感情を最大限に振り絞らされて、振り回されて、思いの外、疲れてしまったようだった。

。。

 短い休憩のあと、スタジオ編後半の撮影に移る。今度も芳乃香さんに「抵抗して良い」と伝えたマサキは、キューさんから借りたジッポーライターに火を点けて、彼女の顔の近くへ掲げる。懸命に目を逸らそうとする芳乃香さん。マサキが誘導の途中で手加減してみせると、グイっと顔を右へ背けて、両目をギュッと閉じ、ライターの火から目を逸らすことが出来た。その瞬間、マサキが彼女の両目を右手で覆う。

「はい、もう目を開けることは出来ません。芳乃香さんはこのまま深―い眠りに落ちていきます。体の力がスーっと抜ける」

 と伝えると、もう彼女はあっさりと体重をマサキに委ねる。2回目はフェイントを入れさせてもらった。もしこのシーンが放送で使われるなら、きっと彼女の「チョロい女だと思われたくないですから」という言葉のリフレインと、決意表明シーンの映像がワイプでかぶせられているだろう。

 彼女の椅子の前には、白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルが設置されている。デリバリーされた、パスタが温かい湯気を立てている。暗示をしっかり刷り込んだ芳乃香さんに、「全然辛くない」と伝えて目を覚まさせると、赤いソースに黒胡椒が目立つ『小悪魔風パスタ』にも動じる様子を見せない。プロデューサーの発案で、もっともっとタバスコをかけさせてもらう。かけているだけのマサキにも、目に染みてくるほどの刺激臭が香り立つ、強烈なお皿になった。それでも、マサキが指を鳴らすと、芳乃香さんは器用にフォークにパスタを巻きつけて、美味しそうに口に入れて、流暢で上品な「食レポ」を始めてくれた。先週彼女が、「嫌いな食べ物は辛いモノとゲテモノ」と言っていたのが、嘘のようだ。

 この企画のために、わざわざお取り寄せした、「イナゴの佃煮」を瓶から出す。キューさんが箸で摘まみだして、イナゴをパスタの上に、円を描くように盛りつけている間、マサキは芳乃香の目を閉じさせて、頭をクルクルと回転させながら、「絶対に大丈夫。大好きな料理に見える。とっても美味しそう」と念入りに暗示をかける。目を覚まさせると、若園アナウンサーは手を叩いて喜んで、ごく自然な手つきでパスタを食べる。ポリポリと、イナゴを噛み砕く音も聞かせてくれた。

「もっと大好きになる。すっごく美味しい。もう止まらない」

 マサキが彼女の頭の後ろで指を何回か鳴らしてみせると、芳乃香さんの食べっぷりが、どんどん豪快になっていく。大きな口をあけて、掻きこむように、真っ赤なパスタと渋い色合いのイナゴを頬張る。その両目は、気持ち、寄り目勝ちになっている。

「はい、催眠解けます」

 彼女が全て食べきってしまう前に、慌ててマサキが芳乃香の催眠を解除する。正気を取り戻した彼女は、「ブホェッ」と不穏な音を出して、激辛パスタとイナゴの佃煮を口から2メートルほど前に噴き出してしまった。

 きっとテロップには、「撮影後にスタッフが美味しく頂きました」など、クレームへ対処する文面が流れるのだろう。マサキはとても、自分が美味しく頂く気持ちにはなれなかったが。

 辛そうな咳の音が、スタジオに響く。キューさんが差し出したペットボトルを、ひったくるように抱え込んで、中の水をゴクゴクと飲む若園アナ。さっきは大切そうに頬ずりしていたペットボトルだったが、中の水を飲み干すと、あっさり床へ置いてしまった。彼女の両手は、ヒリヒリする口を開けているところに、必死で風を送るのに精一杯のようだった。

「芳乃香さん、口も喉もスーッと楽になりますよ。ほら、眠ってー」

 マサキが声をかけて体を支えると、芳乃香さんは寄りかかるようにして体重を預ける。頬に涙をつたわせたまま、深い催眠状態に落ちる。今日は彼女の色んな涙をカメラに収めさせてもらっている。ここまでしつこく念を押せば、ヤラセを疑われることはないだろう。信憑性をしっかり高めた上で、スタジオ編のフィナーレは決めていた。

「芳乃香さん、よーく聞いてください。これから貴方に2種類の音楽を聴いてもらいます。その音楽のメロディをしっかり覚えておいでくださいね。まずはこちら」

 マサキが頷くと、スタジオにムードたっぷりのラテンミュージックが流れる。トランペットが鳴いていて、あからさまなくらい官能的だ。

「芳乃香さん、貴方は目が覚めた後で、この音楽を聴くと、いつでもどんな時でも、貴方はセクシーなストリッパーに変身します。貴方がそうなりたくなくても、必ずそうなります。ストリッパーの芳乃香さんは、とっても大胆で開放的です。音楽に合わせて踊りながら、来ているものを一枚一枚脱ぎ捨てて、お客さんたちの目を楽しませてあげましょう。良いですね?」

 芳乃香さんが、深い眠りに沈みながらも、少しだけ困ったような顔を見せる。マサキがもう一度「良いですね?」と念を押すと、困った表情のまま、きちんと頷いた。

「そして次の曲」

 今度は、うってかわって明るくポップなメロディが流れる。さっきまでのオトナなムード満点の曲とは正反対の、無邪気なパーティーポップスといった曲調だ。

「この音楽を聴くと、貴方は元気溢れるチアガールです。こちらに置いてあるポンポンを両手に持って、番組を、そして芳乃香さん自身を、応援しましょう。…………それでは、3つ数えると目が覚めますよ。3………、2……………、1…………。ハイッ、芳乃香さん起きてください。もう口は辛くもないし、気持ち悪くもないですよね?」

「…………あ…………、はい…………。もう、大丈夫です………」

 周りを見回して、上唇と下唇を何回かパクパクと、つけたり離したりした後で、芳乃香さんはやっと答えた。

「じゃあすっかり元気ですね。さっそく次の暗示を試して見ましょ………」

「あのぅ…………」

 芳乃香さんがマサキを遮る。カメラの方を申し訳なさそうにチラっと見て、迷いながら言葉を選ぶ。

「お仕事の途中で本当に申し訳ないのですが、ちょっと、怖くなってきちゃいました…………。出来ればそろそろ………」

 マサキは優しく頷いてみせる。

「催眠術と芳乃香さんとの相性が良すぎて、ちょっと怖くなっちゃいましたかね。………無理する必要はないですよ。これは、芳乃香さんの番組ですから、嫌なことを我慢してやって頂く必要は無いです」

 あっさりとマサキが同意してくれたので、芳乃香は罪悪感の入り混じったような笑みを浮かべて、頭を下げる。

「ゴメンなさい。ちょっとあまりにも簡単に、自分の感情も感覚も操られてしまって、なんだか怖いというか、自分で自分が信じられなくなるというか………」

「これはちょっと翻弄しすぎてしまいましたね。すみません。芳乃香さんが主役の番組です。本当にやりたいことをやってもらうのが一番だと思いますよ」

 マサキが宥めるように応えながら、キューさんに目で合図を送ると、さっきのムーディーなラテンミュージックがスタジオに響き始める。芳乃香さんがハッと息を飲む音が聞こえた。

 芳乃香さんの両肩が、BGMのメロディにあわせて揺れている。それでも彼女の表情には困惑の色が浮かんでいる。カメラやマサキ、スタッフたちをチラチラと見ながら、自分の手を押さえるようにして、手首を掴んでいる。マサキと目が合うと、赤くなった顔を隠すようにして背中を向けた。しかし芳乃香さんはゆっくりとそのまま一回転して、再びマサキとカメラの方へ体を向ける。その時にはもう、顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。両手がお腹の前で交差して、白いサマーセーターの裾を掴む。おヘソのあたりを支点にするように体を左右に揺らしながら、セーターの裾を捲っていく芳乃香さん。みぞおちあたりまでセーターを捲ると、縦長の綺麗なおヘソが皆の目に触れた。マサキが右手をキューさんの方へ伸ばして、ゆっくりと下へ降ろす。それに合わせて、BGMの音量が絞られていく。音楽が聞こえなくなるかならないかといったところで、芳乃香さんが両眼をギョッと見開いた。

「きゃーっ。…………なんで?」

 両膝をつけるように内股の姿勢になって床にペタンと座り込む、若園芳乃香さん。慌ててセーターを腰まで降ろして、限界まで伸ばすように引っ張る。上体を隠すように肩をすくめた。

「どうしました? 芳乃香さん。………どうぞ楽にして、お好きなことだけやってください」

 マサキが右手を上げていくと、BGMが大きくなっていく。芳乃香さんはまた、何かに気がついたように、周りをキョロキョロと見る。まるで突き上げてくる衝動を抑え込もうと闘っているように、顔を伏せて俯く。

「………ぅぅぅう……………。…………もうっ……………」

 肩を震わせて、何か呟こうとした途中で、ガバッと体勢を変えて床に寝そべる。左足の膝を立てるように、踵を体に引き寄せていく。辛子色のタイトスカートの裾が、腿を撫でるように降りていって、彼女の綺麗な足を露出させてしまう。その脚を撫でるように、両手を添わせた彼女は、思い切ってピンっと左足を天井へ向けて伸ばした。シンクロナイズドスイミングの選手のように、蹴り上げた左足を軸に、体を床の上で、コンパスが回るようにして回転させる。途中でスカートの裾は完全に捲れ上がり、淡いクリーム色のショーツが、しっかりとカメラに収められてしまう。床との摩擦を利用するように、いつの間にかセーターも胸元までたくし上げらえていた。同じくクリーム色のブラジャーも、カップの下半分まで露出してしまっている。

 マサキがBGMの音量を下げさせると、また正気に戻った芳乃香が、眉をひそめて自分の行動を見咎める。慌てて脱ぎ掛けた服を身に着ける。

「…………なんでぇ………、もうっ……………」

 恥ずかしさと憤慨の持って行きどころが無いようで、頭をブンブンと左右に振りながら、芳乃香さんが身だしなみを整えていく。

「芳乃香さんに、お好きなことを自由にしてくださいと言ったら、ずいぶんセクシーな感じになっちゃったんですが、お洋服とか、脱ぎたかったんですか?」

 マサキがわざとらしく聞く。芳乃香は急に自分の体にまとわりついてくる視線が気になりだしたかのように、セーターを引っ張って、体のラインが出ないように抵抗した。

「そんなことないですっ。………私、あの、一応、アナウンサーですから。皆様に真面目なニュースもお届けするお仕事を…………」

 話の途中でまた、BGMの音量が上がる。オトナなムードたっぷりのラテンミュージックがスタジオに鳴り響くと、芳乃香さんはまた困ったような顔をして立ち上がる。曲がサビの部分へ入って盛り上がっていくと、押し出されるように2歩前に出た芳乃香さんは、迷った表情、そして悪戯っぽい笑顔へと、表情を次々と変えていく。カメラに向けて斜めに立った彼女は腰に両手を伸ばすと、自分の体の見事なプロポーションを強調するかのように脇腹から胸元まで指を這わせていく。背を反らして、胸を突き出すようなポーズをとった彼女は、両手を胸の膨らみまで撫でるように添わせていく。胸の形を見せつけるように手で撫でると、両肩を揺する。豊なバストがユッサユッサと揺れた。カメラに向けてウインクする芳乃香さんは、まるで視聴者を挑発しようとしているようだ。

「ヒューヒューッ。若ちゃん素敵―っ!」

 キューさんが囃し立てると、ニコッと微笑んだ芳乃香さんは、斜めに立った体勢のままスカートの裾を摘まみあげる。腰をよじるようにクネらせて、曲にノリながら持ち上げていく。裾が彼女のお腹あたりの高さまで持ち上げられると、ショーツとストッキングに守られただけの無防備な彼女の下半身がカメラに晒されてしまう。ベージュのストッキングに包まれた、クリーム色のパンツが、はっきりと全容を映像に収められてしまった。もう片方の手を使って、カメラに向かって投げキッスをする芳乃香さん。はにかんだ笑顔と赤らんだ美貌以外は、まるでいつもと別人になったかのような、大胆でサービス満点の行動だった。今度は両足を肩幅に広げて立つと、腰を、お腹を、肩を左右に揺らしながら、また交差させた手でセーターを捲り上げていく芳乃香さん。おヘソが、形の良い豊かなバストが、それを守る上品なクリーム色のブラジャーが晒されていく。セーターが完全に捲れ上がって、彼女のアゴで引っかかるあたりで、マサキが声をかけた。

「はい、ミュージックストップ。催眠が解けます」

「きゃあ~っ。……………バカバカ、……バカッ」

 大慌てでセーターの裾を腰まで下ろす芳乃香さん。両腕で胸元を隠すように肩を抱いて、カメラとマサキに背を向けた。そのまま逃げだしそうな勢いだ。

「はい、芳乃香さん大丈夫ですよ。落ち着いてくださいねー」

 マサキが近づいて、芳乃香のパニックを抑えようとする。

「無理ですっ………。もう、いい加減にしてくださいっ。恥ずかしすぎます、………こんなの。…………やですっ。………やめてください」

 ベソをかいて訴えかける彼女の目には、また涙が浮かんできている。人前で肌を出すことに、本当に抵抗がある人の反応だった。

「お疲れ様です、芳乃香さん。ここで一旦、スタジオ編を締めくくりましょうか?」

 マサキが言うと、やっと少し安心した様子の芳乃香が、カメラの前に立つ。自分を落ち着けるように、一つ小さな咳ばらいをした。

「若ちゃん、貴方のペースで、良いところで」

 キューさんに振られると、一度頷いて、カメラに笑顔を見せる。この仕事のスイッチが入る時の彼女の変貌ぶりも、プロフェッショナルな感じがして、マサキは改めて惚れ惚れしてしまう。

「えー、今回はリベンジということで、催眠術に抵抗するという趣旨だったのですが、もう完敗です。完全に降参しますので、この企画は、今日でおしまいです。この後は、せっかく、やってきました、埼玉県本庄市の魅力を十分にお伝えしたいと思います」

「えー………、もう無いの?」

 カメラの脇から、キューさんが声を出す。たまに「裏方さん、声出しすぎ」とネットで書き込まれる、プロデューサーの合いの手だ。

「はい、もうないです。コリゴリですから…………。もう、絶対に続きません。ADの新藤君が前面に出てくるのも、今日が最後かも………。とにかく、もう………。本当に、お疲れさまでしたぁ…………」

 芳乃香さんが本当にしんどかったと言わんばかりに、眉をハの字に曲げて、笑顔を作る。手を振り始める仕草は、締めの言葉が出てくるタイミングをあらわしている。そこで、エンディングテーマとも違う、場違いに明るいポップミュージックが流れ出す。芳乃香さんは一瞬、「は?」と、困惑の表情を見せる。やがて少しずつ、事情が分かってきたかのようにマサキを恨めし気に一瞥。次の瞬間には、カメラのゴンさんの足元に置かれた、赤いポンポンのところへ走り寄って、拾い上げていた。

「ヘイッ…………ヘイッ…………………ゴーッ……………、ゴーッ…………」

 一生懸命、掛け声を上げながら、芳乃香さんが両手にポンポンを持って、跳ね回り始める。一人でも、元気一杯のチアリーダーの登場だ。満面の笑顔で、カメラの前で右足、左足と、交互に高々と蹴り上げる。またスカートの裾から、ショーツが顔を出してしまう。

「イェイ、イェイ、………ゴー、ゴーッ…………ゴー、ゴー、ホノカッ。ゴーゴー、レッツゴー、頑張れ、みんなっ」

 即興で作った、可愛らしい掛け声を張り上げて、右手、左手と交互に天井へ突き上げながら、芳乃香さんがスタッフの間を通り抜け、スタジオを一周するように跳ね回る。カメラの前で何度もハイキックを見せていくうちに、タイトなスカートは縫い目のところから破れていってしまう。それも全く気にならないといった様子の、満面の笑顔だ。両手を交互に正拳突きするように前に出すと同時に腰を振ったり、カメラのレンズを覆うようにポンポンを突き出して揺すったり、色んなアクションで皆を盛上げて、元気づける。キューとで元気爆発のチアガールだ。

「ゴー、ゴー、レッツゴー、ホ、ノ、カ…………ヤーッ…………」

 彼女が両手のポンポンを大きく突き上げて、大きく踏みしめると、高々とジャンプ。空中で両足を180度、水平に近い形で開いた時に、タイトスカートは完全に腰近くまで破れてしまった。ショーツも、クロッチ部分までカメラにアップで収められる。着地する時の風圧で、セーターもまた捲れ上がって、おヘソが見えた。

 陽気なポップミュージックが止まる。

「はい、オッケーです。お疲れー」

 キューさんの声が聞こえると、マサキもあっさりとカメラの前から下がる。

「はい、お疲れ様でしたー」

 撤収の動きに慌ただしく移る。スタジオの真ん中で、芳乃香さんが呆然と立ちすくんで、激しく肩で呼吸している。相当な運動量だったらしく、まだ息が整わない。両手を膝に置いて、体を支えていた。

「若さん、お疲れ様ー」

 プロデューサーに声をかけられて、まだ呆然としながら、何とか返事しようとする芳乃香さん。

「……はぁ…………はぁ……………はぁ……………はい…………」

 番組の最初から終わりまで、催眠術に翻弄され続けた芳乃香さんの、呆然とした表情を写したところで、ゴンさんのカメラも録画を停止した。

。。。

 すっごく何か言いたそうだったところを、マサキに促されて、コロッと気を取り直してくれた芳乃香さん。短い休憩を挟んで、街ぶらロケに出発してくれた。昔ながらの商店街に、少しずつ若い人向けのお店が入って来て、活気が出て来つつあるという様子を、お伝えしようと頑張ってくれる。

「この、伝統ある商店街に、お洒落なカフェや、小物屋さん、サーフショップなどが新たに開店していると伺いました。私も楽しみです。さっそく、伺ってみましょう!」

 健気に元気を振り絞って、商店街の新たな魅力を紹介しようと奮闘する芳乃香さん。いつもよりも若干、唇がポッテリしているのは、さっき辛いものを無理して食べたからだ。

「こちら………サーフショップですね……。ご存知の通り、埼玉県には海は無いのですが、もしかしたらその分、波への思い入れが強い、コアなお客様がいらっしゃったりするのかもしれませんねぇ。だってほら、沢山並んだ、サーフボード、凄い種類が立てかけられています。お店の佇まいも、まるで日本ではないみたいですねぇ!」

 丸太を組んだようなデザインの壁とドア。確かにサーフショップの外観や内装はかなり凝ったものだった。路地に面した小さなポーチにはデッキが作られている。店内のそこかしこに、ハイビスカスの造花が飾られて、南国ムードを演出していた。ドアノブには「OPEN 営業中」と彫られた板が、紐で吊られてぶら下がっている。

「こんにちはー。店長さんでいらっしゃいますか? ………こちらのお店、とっても素敵ですね~。お客様も海が大好きっていう方が、多いんでしょうか?」

 店内にカメラを引き連れて入った芳乃香さんが、レジ近くの椅子に座っている、長髪を後ろで束ねて、口髭を蓄えた、赤黒く日焼けしたオジサンに話しかけると、オジサンは能天気に答える。

「いやー、まだ。先々月に開店したばっかりで、お客さんはあんまりいないね!」

「そっ………そうなんですか~。じゃぁ、せっかくですから、こちらの番組で、宣伝しちゃいましょうね?」

 笑顔で上手に切り返して、お店の情報を引き出そうとする、頑張り屋の芳乃香さん。ここらへんで、また「悪戯好きのAD」の出番のようだった。

「芳乃香さ~ん。せっかくなんで、全力で、このお店にお客さんを呼ぶのを手伝っちゃいましょうか~。ほら、眠って~」

 背後から抱きかかえるようにして彼女の目を手のひらで覆うと、もう芳乃香さんはマサキに体重を預けきるようにして後倒する。マサキが店内に沢山展示されている水着を目に留めながら、芳乃香さんの耳元に、暗示を囁きこむ。

 カメラが再び録画を始めると、カーテンで仕切られた試着スペースから、眩しいほど真っ赤なビキニに身を包んだ若園芳乃香さんが、照れ笑いを浮かべながら出てきた。そして隣のカーテンからは、黄緑色のビキニを着た、バストの大きなメイクさん。果代ちゃんもなぜ自分がカメラの前に立っているのか、小首を傾げながら出て来る。2人は水着でテレビに映るのが初めてのようで、まだモジモジしている。

「今日は東京から、このお店を盛上げて、お客さんを沢山呼び込むために、水着モデルさんたちをお呼びしたんです。さー、皆さん。商店街のお客さんたちに、このお店のことを沢山アピールしてくださいね」

「は………はいっ………」

「う…………ん…………。頑張りますっ」

 マサキにかけられた暗示を、本当のことだと思いこんでいる2人のお姉さんは、まだ少し恥ずかしそうにしながらもお店を出る。地元の人たちの生活に密着した、昔ながらのアーケード商店街を、ビキニ姿のお姉さんたちが闊歩する。それほど人通りが多い場所ではなかったはずだが、徐々に足を止める通行人が増えていく。

「さ………サーフショップ、『俺の海』。営業中でーす。よろしかったら、どうぞー」

「サーフショップ、『俺の海』、よろしくお願いしまーす」

 美人アナウンサーの芳乃香さんは、さっきまでドアに掛かっていた『OPEN 営業中』という板を持って、歩く。その後ろを、大きな胸を揺らしながら歩く、メイクの果代ちゃんは、お店のビラを配る。2人とも、まだちょっと恥ずかしそうに、ギコチない笑顔を浮かべている。マサキは近づいて、2人に囁きかける。

「はるばる東京から呼んだ、一流のコンパニオンさんはとっても高いギャラを受け取るみたいですね。ここはプロの仕事を見せてあげましょう。自信を持って、お客さんたちを沢山、お店に引っ張って行きましょうね」

 マサキが言った途端、2人の背筋がシュッと伸びる。歩き方がまるでランウェイを歩くモデルさんのようになる。そしてさっきまで、ビキニの胸元を隠すように板を持っていた芳乃香さんは、両腕を伸ばして、ボクシング・タイトルマッチに出て来るラウンドガールのように、「営業中」の札を頭上高くに掲げて闊歩し始めた。

 マサキはいつも、向こう側へまっすぐ歩いていく芳乃香さんの後ろ姿を見送るのが好きだ。彼女に気づかれることなく、じっくりとその、均整の取れたプロポーションや綺麗な姿勢を見つめることが出来る。マサキは撮影中でも、仕事が終わって見送る時でも、いつも芳乃香さんの後ろ姿に見とれてしまう。それは、彼女に気づかれる心配なく観察出来るようになった今でも、習慣として残っていた。特に今は、わずかな布地だけをまとった、肌も露わなビキニ姿だ。綺麗な背中や太腿を存分に凝視させてもらうことが出来た。

「そちらのオジサマッ。サーフィンしませんか?」

「しましょー。しましょーっ」

 海からずいぶん離れた場所で、ビキニの美女たちに呼び止められた、散歩中だったらしいオジイサンが、両脇を抱えられるように左右の美女にガッチリ腕を絡められて、サーフショップまで引っ張られてくる。特に赤いビキニの色白美女の顔と体をチラチラと見ながら、まんざらでもなさそうな表情でお店の前のデッキに到着する。

 赤いサーフボードが飾られている、2脚の椅子のような台から、マサキがボードを抱え上げて、壁に立てかけた。

「うちのビキニモデルたちが、突然すみませんでした。強引に連れてこられちゃったのではないでしょうか? ………お詫びに、ちょっと面白いものをご覧頂きましょう」

 マサキがオジサンに会釈をしながら、話しかける。彼を引っ張ってきた、美人アナウンサー。自信満々の様子で真っ赤なビキニ姿を商店街の人々へ見せつけている芳乃香さんの耳元に、低い声を押しこむ。

「3つ数えると、芳乃香さんがサーフボードになる。固くて真っ直ぐな、木の板。サーフボードそのものになる。3、2、1。ほらっ」

 オジイサンと腕を組んでいた芳乃香さんが、一瞬にして、体を「気をつけ」の姿勢に伸ばして、ビーンッと硬直する。両目を真ん丸に見開いて、文字通り固まる。もう片方の手で持っていた「営業中」の札はデッキの床に落とされてしまった。

 隣で戸惑っているオジイサンを尻目に、マサキが芳乃香さんの肩甲骨あたりを抱え込む。こういうところは勘の良いキューさんが、すかさず駆け寄って彼女の足を抱えてくれる。2人で芳乃香さんの硬直した体を2脚の椅子のような、サーフボード台に乗せた。頭と踵、その2点だけで支えられている状態でも、彼女の固まった体は、しなりすらしない。

「ほら、お客さん。サーフィンが大好きになると、もう、自分自身がサーフボードにだってなれちゃうみたいです…………。って、本当は彼女が特別なんですけど………。ちょっと、触ってみてください。強めに押しても、ビクともしませんよ」

 マサキがオジイサンの手首を引っ張って、芳乃香さんのお腹を触らせる。ちょっと押しても、芳乃香さんの体は橋のようなアーチを背筋で作って、反発する。その強さを確かめるようにして何度かお腹を押して、驚いたオジイサン。途中から、彼女のお腹を撫でるように、手の動きが変わっていた。

 さんざん、若い美人アナのお腹を撫でた後、オジイサンは場の空気を読んで、水中ゴーグルを店内で購入してくれた。硬直の暗示から解かれた芳乃香さんと、彼女の突然の変貌ぶりに戸惑っていた果代ちゃんは、マサキにさらに暗示をかけられて、お買い上げ直後のオジイサンに駆け寄ると、嬌声をあげながらハグをして、左右の頬っぺたに両側からチューをした。2人は陽気で大胆でサービス精神満点の、南国の娘たちに変貌していたのだ。

 髪や耳にハイビスカスの花を挿した2人のビキニ美女は、お客様を歓迎する、島に伝わる愉快でセクシーなダンスを披露してくれる。いつの間にか、素面のはずのサーフショップの店長まで加わって、一緒に踊っていた。30分ほどの店での撮影の間に、17人もお客様を迎え入れることが出来て、店長はホクホクだった。渋い商店街に突如現れたビキニの美女たちに熱い抱擁や頬っぺたへのチューを振舞ってもらったお客さんたちも、同じようにホクホクしていた。

「マサキ………次、猫カフェだけど………。その前に、ちょっと果代ちゃんのメイクに絡めて、なんか面白いこと、出来ないか?」

 撮影の合間に、プロデューサーのキューさんが耳打ちしてくる。彼のアイディアというよりは、誰か身内か、知り合いから、演出のリクエストでもあったのだろうか? マサキはとっさに、頭を捻る。

「果代ちゃんのメイク道具はあるから………。何か、付け加えますか?」

。。

「きゃー。猫ちゃん。可愛い~」

「こっちこっち~…………。あれ~? ……来ないなぁ~」

「おいで、おいでー。…………ナデナデしたいよ~。肉球プニュプニュさせてよ~」

 猫カフェに入ると、三毛猫やドラ猫、高級そうな猫など、沢山の猫たちを見て、果代ちゃんと芳乃香さんがはしゃぐ。手招きしたり、腰を落として、そーっと猫に近づこうとしたりするのだが、猫たちは2人から遠ざかっていく。懐きにくい、猫の習性のせいだろうか? いや、そうではない。猫たちは警戒して、彼女たちから距離を取っているようだった。

 なぜなら芳乃香さんと果代ちゃんは今、顔を完全に白塗りにして、『キャッツ』という、世界的に有名なミュージカルの出演者とそっくりな、猫のメイクをして店内に入ってきたからだ。さっきのサーフショップで購入した、白いワンピースの水着を着て、白猫のメイクを施された芳乃香さん。自分で自分にトラ猫のメイクをした果代ちゃん。2人とも、自分たちはいつも通りの姿でいると思っているので、なぜこの猫カフェの店員さんたちがギコチない愛想笑いで迎え入れたのか、なぜ本物の猫たちは自分たちから逃げるのか、不思議に思っているようだ。しかし舞台上で映える、大仰にデフォルメされた猫メイクの成人女性たちが、警戒心剥き出しの本物の猫たちを無邪気に追いかける姿は、なかなかシュールな画になっていた。

「芳乃香さん、果代ちゃん。猫ちゃんが抱っこさせてくれないなら、こっちの鏡を見てはどうですか? 素敵な猫ちゃんたちに会えますよ…………。ほら、催眠解ける!」

 店内の大きな鏡の前に並んだ芳乃香さんと果代ちゃんは、マサキの合図とともに、自分たちの変わり果てた姿に気がつくと、ギャーッと悲鳴を上げる。大きく口角を上げた笑顔の猫メイクが塗りこめられている顔だが、呆然とベソをかきそうになっている表情は何とか見て取れる。果代ちゃんは鏡から10センチくらいの距離に顔を近づけて、唖然として自分の顔を観察している。芳乃香さんは自分がこの顔とこの白水着姿で街を歩いていたことを理解して、頭を抱えてうずくまっていた。その恥ずかしがる様子を、ゴンさんのカメラが容赦なく追いかける。撮影の鬼は、猫ちゃんたちを逃してくれそうになかった。

「商店街の中を水着で歩かせるなんて、本当に酷いです。もう絶対やめてくださいねっ」

「………はい………。水着NGでしたね………。失礼しました」

 マサキは曖昧に答えながら、内心では、(さっきまでは白いワンピース水着どころか、真っ赤なビキニで行進してたっていうことは、正気の彼女には絶対隠しておかないといけないな………)と考えていた。

「メイクの悪戯とかも、本当にありえないです………。女性の顔で遊ぶのって、ちょっと低レベルだと思います。………仮装行列じゃないんですから。………わかりましたか? ………イエローカードですからね。累計4枚!」

 カメラの前だから、冗談めかしたトーンを保っているが、まだプリプリと怒っている芳乃香さん。だが、今度は本当に、怒っているのか、笑っているのか、表情はなかなか読み取れない。今、アーケード街を歩いている芳乃香さんは、黄緑色のパーマのウィグをかぶった、ピエロのメイクをしているからだ。商店街を歩いていく、通行客は皆、綺麗な声を出す女性ピエロの姿を見て、一瞬立ち止まる。カメラや音声スタッフを連れて歩いているピエロを、大道芸人か何かと理解して、遠巻きに眺めていく。そして一行の最後にメイク道具を持って歩く、まだ『キャッツ』のメイクをしたままの、水着の女性の胸の大きさに、圧倒されるように見守っている。

 果代ちゃんのメイクまで直してもらう時間が確保出来なかったのだ。商店街でロケをしようとすると、夕食の準備で買い物客が増える時間帯は、撮影に協力出来ないお店が増える。大がかりなメイクを落として、もう一度、別のメイクをしてもらおうとすると、マサキが想像したよりもずいぶんと長い時間がかかってしまったのだった。2人同時にメイクをするなら、もう少し時間を省くことが出来たかもしれないが、果代ちゃんがメイクをするのだから、まず芳乃香さん、次に自分自身に、と、どうしても2倍の時間がかかる。結果として、ピエロのメイクは芳乃香さんだけ、ということになった。近くの服屋さんで大きめかつ派手目のパジャマを買って、白水着の上に着てもらっている。有るもので間に合わせたピエロさんの姿は、手作りならではのチープなユーモア感を醸し出している………ようにも思えた。

 下校途中の小学生たちに手を振られて、陽気に手を振り返している、ピエロのお姉さん。さすがにここまで分厚い化粧を塗りこめていると、誰も彼女が、その美貌で全国に知られる、有名アナウンサーだとは気づきようがない。

「こちらは果物屋さんですね。こんにちはー。とってもいい香りがしますねぇー。新鮮な果物ばかりなんですねっ。甘くて爽やかな香りに包まれたお店です」

 芳乃香さんが朗らかに、店長さんに話しかける、エプロンを身に着けた店長さんは、ちょっと微妙な笑顔を浮かべる。話しかけてきた女性ピエロが、店内の香りを褒めてくれるのだが、当のピエロはボールのような、真っ赤な付け鼻を装着しているからだ。

 自分が今、どんな格好をしているのか気づく様子もない芳乃香さんは、そのまま無邪気に果物屋さんの紹介を続けていく。そこでマサキがポータブルスピーカーの操作をキューさんに視線で頼む。店内にアコーディオンの音色で、移動サーカスを思わせる音楽が流れ始める。そこで急に、自分がピエロであることを思い出した芳乃香さんが、得意げに山積みになっているオレンジを手に取って、次々と宙へ放り投げる。ジャグリングの始まりだ。自信満々の仕草でオレンジのジャグリングを始めた芳乃香さん。本人に本当にスキルが備わっている訳ではないので、オレンジはボロボロと地面へ零れる。転がっていくボール状のモノを見た、『キャッツ・メイク』の果代ちゃんは、急に猫の本能に突き動かされて四つん這いになっては、オレンジを追いかけ、じゃれる。ピエロの芳乃香さんは転がり落ちるオレンジを気にすることなく、次々と新しいオレンジを宙に放り投げる。華麗に次々とキャッチして、ジャグリングしているつもりでいる。音楽が止まると、正気に戻って赤い付け鼻に触れながら、唖然としている芳乃香さん。最後のオレンジは、そんな彼女の頭にボンっと当たって落ちた。彼女の足元では、うずくまった水着のメイクさんが、眉をひそめて、子猫のポーズのまま、固まっていた。

「さんざん皆さんの笑いものにされてしまいました~。これが、ホントのピエロです…………私……。トホホホ………。とっても素敵な街でしたけれど、…………もう、本庄市には、しばらく来れないよ~。催眠術は本庄市の条例で禁止にして頂きたいですっ。そんな、怒りの若園から、お伝え致しました~」

 もうロケを続ける時間がないからと、キューさんに押し切られた芳乃香さんが、膨れっ面のピエロメイクのまま、番組を絞める挨拶をする。それでも笑顔で両手を振って、視聴者にご挨拶させているのは、彼女のプロ根性だ。ロケが終わったのは、日没寸前という、予定時刻を40分もオーバーしたタイミングだった。

「悪かったな、マサキ。ちょっとメイクの演出で時間かかっちまった」

 キューさんがマサキの尻を台本で叩いて、ボソッと告げる。マサキは「問題無いです」と、手で合図した。

 全ての視聴者リクエストに応えることは不可能だとしても、出来ることはやって、少しでも多くの人に楽しんでもらいたいと思うのは、制作スタッフ皆に共通した気持ちだ。大した儲けに繋がる訳でもない小さな番組は、結局のところ、こうしたリクエストや感想に支えられて、続けていられる。誰にも語られなくなったら、ひっそり閉じていくしかないものなのだから。当たり前のように続いてきた番組が、当たり前のように語られることも少なくなって、そして放送終了が伝えられた後になって、途端に惜しむ声や嘆く声を聞く。そんな空しい経緯を何度も見てきた制作サイドとしては、今、投げかけられる感想やリクエストの一つ一つが、宝石のようにありがたいものに感じられる。

 だから、時間や手間は、全く問題ではない。今、マサキにとっての問題は、目の前の、道化の姿をさせられておかんむりの姫様のご機嫌だ。

「新藤さんに色々と、言わせてもらいたいことがあります」

 若園アナの目は据わっていた。完全に怒っている。彼女には「ストレスを飲み込んで押さえつけることが出来る」と暗示をかけていたが、それも限界を超えるほどの憤りを貯めこんでしまったということだろう。爆発寸前ということだ。

「………じゃ、キューさん。若園さんと打合せ………行ってきます。角のビジネスホテルで休んで良いんですよね?」

 マサキが上司に聞くと、キューさんも芳乃香さんの勢いに気圧されているといった様子で、何度も頷いた。

「そうそう、ビジネスホテル本庄。出発時間まで休憩出来るように予約してあるから、撤収も手伝わなくていいぞー」

 キューさんとしては、芳乃香さん抜きで、撮ったビデオをチェックする時間を確保出来た方がありがたいようで、手でマサキに早く行けと、示す。

 つまり、今から1時間くらい、若園芳乃香さんの相手をしておけ、ということになる。

 ピエロメイクの施された真っ白な顔を、タオルで隠すようにして、ビジネスホテルに向かう。果代ちゃんと芳乃香さんはそれぞれの部屋に荷物を置いて、洗面所でメイク落としを使ってジャブジャブと顔を洗う。長いメイク落としの時間が終わったら、それから、お説教の時間だろう。

 お説教、クレーム、冷静で厳しいご指摘と、今のご時世のコンプライアンス的にどうかと思われる点の糾弾、その他、諸々、マサキへの駄目出しの時間、になるはずだった。それは若園芳乃香さんの考えていたことだ。しかし、スッピンの綺麗な肌を拭きながら洗面所を出たところで、予定は全て一度、白紙になる。マサキが一言、『芳乃香さんの究極のリラクゼーション状態』と合言葉を口にしたからだ。芳乃香さんは頭の中が真っ白になって、何を言おうとしていたのか、何をしようとしていたのかも、一度全て忘れる。体中の怒りで強張った筋肉も、ストレスで痙攣するほどだった神経も、全て解れて、蕩けていく。それは心地の良さを伴う、気怠い弛緩のようだった。

「芳乃香さん、よーく聞いてください。貴方が普段の生活のなかで、あるいは仕事のなかで貯めこんだストレスは、新藤マサキと2人きりでいる時に、思いっきり発散することが出来ます。ただし、その発散の仕方は、僕がこれから言う通りの形をとります。いいですね? 僕が芳乃香さんに『芳乃香、起爆』と言うと、貴方の貯めこんでいたストレスは全て、性欲という形で噴き上がります。貴方はエッチな欲求を抑えることが出来なくなる。そして僕のエッチな欲求と自分の性欲とをぶつけ合うことで、蓄積されたストレスを全て綺麗に爆発させて、蒸発させるんです」

 マサキの言葉を頭で反芻しながら、自分で情景を思い浮かべているのだろうか? 芳乃香さんは生気のない目を彷徨わせたまま、ゆっくりと鼻息が荒くなってくる。頬が赤く染まっていく。

「僕の口する『芳乃香、起爆』という言葉を聞いた後の貴方は、僕の言葉に従って、どんなことでもします。僕にどんなことをされても、貴方は抵抗しません。貴方は僕にされることに興奮して、僕とすることに激しい快感を覚えて、しばらく何も考えずに性欲を燃やすことで、どんなストレスでも見る間に燃やし尽くしてしまうからです。新藤マサキと一心同体になる。それは貴方がソフトクリームになって、食べられてしまった時の、恍惚と喜び、一切の抵抗が出来ない中で快感に悶え狂う、究極のエクスタシーを貴方に思い出させてくれます」

「んんんっ……………くっ……………ぅうううっ」

 ボンヤリとした表情のまま、芳乃香さんが腰を突き出すような体勢になって痙攣する。タオルをカーペットに落とした状態の芳乃香さんは、腰を突き出すように、体を震わせる。破れてしまったスカートの奥で、ジュっという、液体が噴き出される音がした。催眠状態のまま、彼女は暗示を聞いているだけで、イってしまったようだ。

 予定よりもずいぶん早いタイミングで、芳乃香さんをイかせてしまった。マサキは改めて、自分が彼女にどれほど強烈な快感の記憶を刻み付けてしまったのか、思い知らされていた。彼女の足元を見ると、擦り合わせている内膝に、恥ずかしい液体が垂れていた。

「『芳乃香、起爆』するよ」

 マサキが手を叩く。生気を取り戻しつつあった黒目が、彼に焦点を合わせると、すぐに目が潤んでくる。芳乃香さんはそのまま吸い寄せられるように、フラフラとマサキの至近距離と言える場所まで、足を進めてきた。

「マサ………キ………君」

 芳乃香さんは、まるで初めて見る生き物を観察するように、マサキの顔を、眉をひそめたり目を細めたりしながら、観察する。彼の髪の毛を撫でつけるように指を通した。しばらく、彼女の見つめられて、マサキはこの期に及んでもドギマギしてしまう。やがて芳乃香さんは両目をうっすらと閉じると、顔をさらに近づけてきて、唇を重ねた。若園芳乃香さんと、キスをしている。その事実を噛みしめると、さらに嬉しくなる。

「………マサキ君………。…………来て………。お願い………」

 唇を離した芳乃香さんは、いつの間にかマサキの手を取って、後ろへ足を進める。ベッドの方へ、マサキを引っ張っているのだった。

「芳乃香さん、良いけどその前に、服を全部脱いで、僕に裸を見せてくれますか?」

 マサキが答えると、芳乃香さんは少し目を伏せて、動きを止める。そのまま10秒ほど、睫毛を僅かに震わせていた彼女が、やがてはっきりと頷いた。

「………はい………」

 白いサマーセーターの裾に手をかけた芳乃香さんは、ゆっくりと捲りあげていく。今日何回目かの、彼女のおヘソとの対面。淡い黄色がかった、クリーム色のブラジャー。そしてさっき着替えたばかりのセーターの首から頭を抜き取ると、ほっそりとした肩と華奢な上半身。そこにしっかりと存在感を主張する、胸元の大きく綺麗な膨らみが見える。セーターをベッドに載せた彼女は、マサキの視線を感じて赤くなっている手で、スカートのチャックを降ろして、ホックを外す。スルスルとスカートが落ちる。クリーム色のショーツを包んでいるベージュのパンティストッキング。ショーツから離す時、すでにベットリと濡れて貼りついていたストッキングは儚い抵抗を見せる。腿から膝、そして脛へと、ストッキングを、クルクルと丸めるようにして降ろしていく仕草は、彼女の太腿の柔らかさ、スラリと伸びた脚のラインの美しさを強調するかのようだった。

「………はぁぁぁ………」

 一つ、溜息を漏らすように息を吐いて、彼女が背中にあるブラジャーのホックへ手を回す。膝が内股になるように足を交差させている。恥じらう動きが、かえって彼女のプロポーションの女性的な曲線美を際立たせていた。豊かなバストを包み込んでいたブラジャーが緩んで彼女の素肌との間に空間を作る。ブラが裏返るように外れると、柔らかそうな胸の塊がタプンと揺れるように零れ出た。乳首だけはツンと起き上がっている。ブラジャーを、ベッドに敷かれるように置いてあるセーターの上に載せると、両手の指をショーツにかけて、脱いでいく。濡れそぼったショーツが離れると、アンダーヘアーが股間の素肌に貼りついているのが見える。派手にイってしまったあとで、脱いでいくという女性を見るのは初めてのことで、マサキはこれまでに芳乃香さんの裸を見た時以上の興奮を覚えていた。彼女にとって、より見られたくない、より恥ずかしい姿を、目の前で披露してもらっている。その実感が、マサキの股間を熱く硬くさせていた。

 一度、体を隠すように、腕を胸元で交差させ、右足を左足の前に交差させて立った芳乃香さんだったが、自分を説得するように、ゆっくりと手を降ろして、足を揃えて直立する。それでもまだ、マサキと目を合せる勇気は無いようで、僅かに顔を横に反らして、恥ずかしさに耐えていた。

「芳乃香さんは、思っていることを正直に言いますよ。今、何を考えていますか?」

 困ったような表情になって両目をつむった彼女が、ゆっくりと目を開けて、マサキと目を合せる。

「体が………熱いです………。裸を見られて、恥ずかしいけれど、ドキドキしています………。マサキ君に………、ギュッとされたいです………」

 言ってしまったあとで、また両目をつむって唇を噛んで、恥ずかしさに悶える彼女。そんな芳乃香さんを、マサキがさらに誘導する。

「じゃあ芳乃香さん。ベッドに上がって、僕を誘惑してみてください。僕が貴方とセックスしたくなるように、自分の魅力を駆使して、精一杯僕を誘ってみましょう」

「………はぁぁ…………」

 自分の理性を抑え込むようにして、従順にベッドに上がる芳乃香さん。足を上げてベッドに登るその瞬間に、お尻の谷間から彼女の大切な割れ目が少し見えた。完全に無防備な後ろ姿だった。

「………は………恥ずかしくて………死んじゃいそう…………。マサキ君………。お願い………早く……来て…………。………抱いて…………ください……」

 潤んだ目と、のぼせたように赤い顔、切なそうに荒くなる呼吸。芳乃香さんは発情している自分をもう、隠そうともしていなかった。ベッドに膝立ちになると、両腕で自分のオッパイを押し上げるように突き出して、マサキを上目遣いに見る。肩幅まで両膝を開くと、離れた太腿の内側で愛液が糸を引く。セクシーグラビアのようなポーズで、恥ずかしそうにマサキを誘う芳乃香の姿は、普段の清楚で上品な人気アナウンサーの物腰からは想像できないような、しどけないものだった。

 気がついた時には、マサキはベッドへ駆け寄って、彼女の背中へ手を回していた。顔を彼女の豊満で柔らかいオッパイに押しつける。そのまま抱き締めるようにして彼女をベッドに押し倒したマサキは、手と舌と唇で、時には鼻もグリグリ押しつけながら、彼女の胸をとことん弄んだ。それを受け入れるように、味わいつくすかのように、芳乃香もマサキの背中に腕を回して、胸を彼の顔に押しつけてくる。いつの間にか足まで彼の腰の後ろに回して、完全に体を密着させていた。5分も10分も、彼女の体の柔らかさ、スベスベした肌触り、シットリしてきた発情の現れを、五感を駆使して味わいつくす。芳乃香は鼻から抜けるような喘ぎ声を出して、快感に悶えていた。

「芳乃香さんは、ニュースを読んだりしている時も、時々、こうしてることとか、考えますか?」

 マサキが、ディープキスの合間に、少し意地悪に質問を投げかける。彼女の口にはまだ僅かに、タバスコの香りが残っていた。

「………しない…………。お仕事は、いっつも、真面目にしてるもん………。今は………今だけ、………特別なの」

 芳乃香が一生懸命自分で考えを整理しながら、それでも正直に答える。

「じゃあ、オフの時には、エッチなこととか、考える? ………こうされたいとか、こんなことされたらどうしようとか」

 マサキが指で乳首を摘まみ上げたり、オッパイ全体をワシ掴みにしたりと、彼女の胸を苛めながら訊く。芳乃香は喘ぎ声の合間に答える。

「本当に………時々………。いつもは、……変な気持ちになっても、体操したりして、忘れるように………。お仕事が、大事な時期だから………」

 局アナを辞めて、フリーになったことを言っているのだろうか? だとすると彼女は1年近く、禁欲生活を送ってきたということだ。いや、キャリアの上で大切な時期という意味では、フリーになる前の報道番組でキャスターをしていた時期も同じだろう。とすれば、彼女はもう3年以上、色恋沙汰から自分を遠ざけてきたということだろうか。この美貌と男だったら誰でも手を伸ばしたくなるような美乳。そして見事なプロポーションを持っていながら、成人女性としてごく健全な欲求を、ずっと抑えつけてきたということになる。

 マサキが彼女のおヘソを舐めたあとで、アンダーヘアーに顔を近づける。白い両膝を開きながら立てさせる。「М」の字の形に開脚させた。急に彼女の両膝に力が入り、わずかな抵抗を試みる。両手が伸びてきて彼女の大切な女性の割れ目を隠すように重なる。

「どうしたの? 芳乃香は僕のすることに一切抵抗出来ないよ。そうでしょ?」

 マサキが強めの口調で確認すると、膝から力が少し抜ける。両手も力なく股間を隠すことを諦める。それでも彼女の顔を見ると、苦しそうに左右に振っている。

「芳乃香は一切抵抗出来ない自分を意識すると、もっと気持ち良くなる。凄い快感が押し寄せてきて、嫌がっていた自分を簡単に押し流していく。ほら、凄い快感。だって何にも抵抗出来ない。芳乃香は僕に逆らえない」

「………ぁぁっ…………。ぁあーーっ!」

 腰を上げた彼女は、開いた両足を踏ん張るようにして股間を突き出す。プシューッと音をさせて、マサキの鼻の下から胸元まで、彼女の噴いた潮を浴びる。女性器、ヴァギナを守ろうとするのは、女性として当然のことだろうが、催眠状態の若園芳乃香がまだ見せる抵抗感は、胸やお尻と比べても、数段レベルが上のように感じられた。すでに一度、先週見せてもらっている膣なのに、どうしてここまで恥ずかしがるのだろうか。

「芳乃香はどうしてこんなに、アソコを見られるのが恥ずかしいの? 抱いて欲しいって誘ってきたのは、君の方だよね? 正直に答えて」

 マサキに尋ねられて、エクスタシーの余韻に浸っていた芳乃香が、ようやく顔を上げる。

「…………私のそこは…………。ヤラシイ……色とか………形だって…………言われたことがあって………。恥ずかしい…………です」

 寝転んで、足をМ字に開脚したまま、両手で顔を覆って恥ずかしがる芳乃香。それを聞いたマサキが顔を彼女の股間間近に近づけると、またイヤイヤと顔を横に振る。

 サーモンピンクの粘膜。大陰唇のあたりは濃いめの小豆色になっている。小陰唇は何度もイッたせいか、ぽってりと腫れ上がっている。そこから白い肌に続いていく彼女の股間。特にイヤらしい形、普通でない色だとは思えなかった。肌の色が基本的に白いので、若干、性器周辺の色の違いが目立つということかもしれない。いや、それ以上に、彼女がこれまでに体を許した男性の一人か二人が、より彼女と盛り上がりたくて、言葉責めを試みたということだろうと、マサキは想像した。

 アソコがヤラシイ色になっている、ヤラシイ形をしているというのは、男が聞いている分には、悪口ではない。それが、多感な時期の若園芳乃香にとっては、トラウマになるほどショックな感想だったのだろうか? 女性同士だと、仲間内で見比べたり、他人とこうした悩みを共有する機会があまりないということだろうか。あれこれ考えているうちに、マサキのいくつかの疑問が解決しつつあった。

 先週、催眠状態にあった彼女とシタ時も、彼女はアソコを見られることに抵抗はした。それでも、今回ほどは嫌がらなかった。それもきっと、その時の彼女は、「ソフトクリーム」になりきっていたからだろう。全身が真っ白でフワフワのクリームだったら、アソコの色や形についての心配も少ない。もしかしたら彼女にとってはその意味でも、ソフトクリームとして食べられてしまうというのは、行き場のない欲求を、喜びに昇華させる、絶好の暗示だったのかもしれない。それこそ最高の暗示のツボだったというべきか………。

「芳乃香さん、ここもとっても綺麗だよ。すっごく素敵だ」

 マサキに言われると、膝の緊張感がさらに抜けていくのがわかる。

「とっても素敵で、それでいて、エッチだよ。………ここがエッチでヤラシイっていうのは、褒め言葉だよ。エッチだと思われると、ここが震えるほど気持ち良くなるよ」

 彼女の腰が浮く。割れ目がチャッと音を立てて開いた。

 体に覆いかぶさるようにして芳乃香の股間に自分のモノを押しつける。マサキのペニスの先端を、濡れてふやけるように口を開けていた芳乃香のヴァギナがアッサリと咥えこむ。まるでずっと待ち詫びてきたかのような反応だった。グッと押し入れると、アゴを突き上げた彼女が、すすり泣くように喘ぐ。彼女の腰も浮いて、二人で腰を打ち付け合う。

「芳乃香、むこうを向いて、四つん這いになって。ワンワンみたいにお尻を突き出すんだ」

 マサキが口にすると、すぐに芳乃香が体勢を変える。従順に四つん這いになって、恥かしげもなくお尻を広げる。後ろから見る彼女の性器は既にヌラヌラと光っていた。これをヤラシイと言うのは、けっして間違いではない。

 後ろからまたマサキのモノを押し入れる。芳乃香も腰を動かして自分から咥えこむようにインサートの手助けをする。体勢の違いから、正常位の時よりも、モノが根本まで入っていく気がする。

「ここからは芳乃香が腰を動かして、二人で気持ち良くなるんだ。もともとは一心同体だった二人だから、恥かしがる必要は無いよ。もうセックスの気持ち良さのこと以外は、何も考えないで良いから、とにかく満足するまで思いっきり腰を振ってごらん」

 彼女は頷くかわりに、体を支える手足に力を入れて、グッと腰を入れてくる。上体全体を波打たせるようにして、腰をグイグイと前後させる。そのたびに、膣の内壁に擦られるペニスから、火花の散るような快感がマサキを襲う。深い溜息のようなくぐもった嬌声を漏らしている芳乃香も、同じような、あるいはマサキ以上の快感を噛みしめているのだろう。

 ハッ、ハッ、ハッ、ハッ………と、獣のように息を吐きながら、芳乃香が体をくねらせ波うたせて腰を振る。下を向いている彼女のオッパイはブルンブルンと揺れている。そのオッパイを片手で掴んで、もう片方の手で尻を掴んだり腰を掴んだりしながら、マサキもこの、快楽にクネる美しい獣の体を掴まえようとする。自分では腰を振らないでいても、芳乃香の方で這いつくばって、腰を振って悦楽を搾り出してくれる。その分、マサキはこの美しくてイヤらしい肉体のうねりを、じっくりと堪能することが出来た。

「………ぅぅっ………ぐぅっ…………んんんっ…………」

 顔をグリグリとシーツに押しつけて、快感に悶え狂っている彼女は、シーツを口いっぱいに頬張るように噛んで、そこにくぐもった喘ぎ声と涎を染みこませている。頭をベッドに擦りつけ、まるで土下座をするような体勢でひたすら腰を振る芳乃香。膣の締めつけ具合から、またイク寸前になっていることが、ペニスを通じて伝わってくる。

「芳乃香は一週間、僕と1つになってイキまくるのを待って、ストレスを貯めこんできた。もうすぐ、全部を爆発させるよ。頭の中が真っ白になる。芳乃香の全部が弾け飛ぶ、最高に気持ちの良い、瞬間が来る………。まだ来ない………もうすぐ………。ほら、全力で、腰を振って絞めつけて………。イク………。僕がイクと、芳乃香もイク。最高の爆発だ。ほらっ…………、今っ……………。もっと……………。まだもっと……………。うあっ」

 切羽詰まった声で、マサキが呼びかける。ググーッと声を漏らして、芳乃香の頭が上がる。背筋を限界まで反らせて、後背位で繋がったままの体勢で頭を上げると、噛みしめられたシーツが引っ張り上げられる。マサキのが芳乃香の中で、何回にも分けて、繰り返し射精した。芳乃香もマサキのモノを締め付けながら、全身をブルブル震わせるようにして潮を噴きながらイッた。彼女の頭が、肩が、ベッドにドサッと落ち込む。それでもまだ、腰は性器で結合されたままだった。

。。

「芳乃香さん………。この指を見て。………前に、僕の両手が貴方の両手になった時のことを思い出します。………今回も、貴方の体の一部が、こちらに移ってきますよ。ほら、肩を叩くと、貴方のクリトリスが、僕の人差し指にお引越ししてきます。………舐めてみて。自分のクリトリスだから、恥かしくないよね」

 放心するように横たわっている芳乃香に、添い寝しながら体をベタベタと触って楽しんでいたマサキが、思いついたように新しい暗示を、彼女の剥き出しの深層意識に植え付けていく。寝ぼけたように両目をうっすらと開けた彼女が、マサキに言われるままに、目の前に突き出された彼の人差し指の先端を、パクっと口に入れた。

 恐る恐る、舌先でマサキの人差し指を突く芳乃香。瞬時に「んんっ」と声を出して、腰をビクッと引いた。

「気持ちいいでしょ? ………僕は芳乃香さんと一心同体だから、他人の目が一切ない場所にいるのと同じだよ。貴方は安心して、心ゆくまで、『自分のクリトリス』をしゃぶっていることが出来る。自分のクリトリスを直接舐めるなんて、普通の女性の体では出来ない行為だと思うから、とっても贅沢な一人エッチだね。満足するまで、ずっとペロペロしていていいんだよ」

 マサキが言うと、最初は遠慮がちに舌先で彼の指先に触れていた彼女の口の動きが、だんだん大胆になってくる。色んな角度から舐めてきたり。思ったよりも強めに、頬をすぼめて吸いついてきたり、薄目を開けたまま、夢遊病のような表情で彼の指を舐めている彼女は、すっかり秘密の『自慰行為』に没頭し始めている。同時に新藤マサキに、若園芳乃香はどんなふうにクリトリスを刺激されたいのかということを、赤裸々に、懇切丁寧に実演してくれている。

 もう片方の手で、芳乃香の髪を撫でる。吸いつかれている指を少し引いてみる。顔を突き出して、指を離すまいと追ってくる芳乃香。今自分が一人で秘密の快楽に浸っていると信じ込んでいる彼女は、マサキの予想を超えて、性的快感を貪欲に追い求めている。指を引っ張っても、唇が、舌が、『自分のクリトリス』を奪われてたまるかと、必死に吸い上げる。彼女の体を好き放題に触れる機会に、右手を奪われているのは残念な思いもするが、芳乃香があまりにも一心不乱に『自分のクリトリス』を舐めまわし、吸い上げているので、そっとしておいてあげることにする。マサキは芳乃香の真横に、添い寝して、ずっと人差し指を吸わせてあげた。やがて、彼女の顔から懸命な表情が消えて、穏やかに、心地良さそうにチューチューと指を吸うようになる。しばらくすると、安心しきったような寝息をたてて、彼女は裸のままベッドの上で眠りにつく。まだ指を唇から抜こうとすると、その時だけ反射的に少し起きると改めてマサキの指先を咥える。疲れ果てているのか指さえ咥えさせておくと、すぐにウツラウツラと眠りに落ちていく。まるでお母さんの乳首を吸ったまま眠りにつく、赤ちゃんのような屈託のない寝顔だった。

「芳乃香さんは、こうやって自分のクリトリスを吸っていると、どこまでも幸せになれる。頭の中には何の悩みも心配も浮かんでこない。天国をプカプカ浮いてる気分だよ。………こうしてお昼寝をした後は、とってもポジティブな気持ちで目が覚める。撮影したビデオのことも、これからの企画のことも、何にも心配しない。生活の中でも仕事の中でも、色んなストレスを飲み込んで笑顔で過ごすことが出来ます。貯めこんだストレスは、僕の催眠にかかれば、全て発散することが出来る。だから何も深刻にとらえる必要は無いんだよ。いいね? 芳乃香ちゃん。………大丈夫ね?」

 クークーと幸せそうな寝息を立てている寝顔があまりにもあどけなくて、マサキも思わず、小さな子に話しかけるような口調になってしまう。芳乃香はほんの少し笑顔になって、マサキの人差し指を咥えたまま、コクリと頷いた。お母さんに抱っこされている幼子のように、穏やかで幸せそうな笑顔だった。

<5話につづく>

9件のコメント

  1. 読ませていただきましたでよ~。

    第二回の催眠番組。色々やっていましたが、無様エロとかいたずら方面にあまり嗜好のないみゃふはペットボトルを持ってる人が好きになる暗示が良かったのでぅ。
    毅然とした芳乃香さんがデレデレになる姿。最終的にカメラに向かって告白する芳乃香さんの姿がエロすぎてたまらないでぅ。
    そして定番と言えるBGMでストリッパーやチアガールの催眠。あれも素晴らしかったでぅ。

    っていうか、色々はっちゃけてる催眠番組でぅが、事務所的に大丈夫なのか気になってしまう所。
    いくら芳乃香さんがフリーになったと言っても局を退社しただけでどこかの芸能事務所に入ったんだと思ってるから事務所NGとかフェミ団体からの抗議の電話とか来ないんだろうかとか思ってしまいましたでよ。まあ、事務所に入らず仕事を取るのも自分ないしは雇ったマネージャーな完全フリーとかもあるからその場合はいらぬ心配なわけでぅが。

    芳乃香さんに仕込まれた『起爆』。既に芳乃香さんを支配している訳でぅが、これでいつでも芳乃香さんとエロい事をできるわけでぅね。マサキくんが仕事をこなしながらも芳乃香さんとの催眠、それとエロにどんどんのめり込んで思考が支配によっていくのが楽しみでぅ。
    更にこの先芳乃香さん以外にも操ってくれるとのことで実はそっちも楽しみだったり。
    果代ちゃんはおそらく内定してるだろうけど、他にどんな魅力的な人が出てくるのか本当に楽しみでぅ。局アナ時代の同期か、それとも催眠番組に新たに出演してくれるアイドルやタレントか、はたまた芳乃香さんの家族か。

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  2. 読みましたー!
    ふふ、「表層意識では頑張って抵抗しようとしているつもりでも、それすらも深層意識に植え付けられた命令によるもの」ってシチュ、素敵ですね……!
    心の奥底では「催眠術にばっちりかかってしまうことが自分の使命」だと理解していて、恐らくは最初の強気な発言すらも、
    「ギャップで視聴者を喜ばせるため」に過ぎないとか、とても興奮します!
    音楽に合わせてストリッパーやチアガールになる催眠も、非常にTV番組的にも『お約束』の暗示で最高です!

    ただまあ、みゃふりんと同じく、これだけカメラの前で色々と痴態を晒させて、後々トラブルにならないかな、という点はかなり不安になりますw
    それと、永慶さんの描写力がすごく真に迫っているおかげで、こう芳乃香さんの中で本当に怖がって嫌がっているけれど、
    自分の立場や番組の進行的にそれをはっきり表に出すわけにはいかない、っていうのがありありと伝わってきて、
    そういう状態の相手に対して何度も無理に催眠をかけるのって、性欲とかの形で昇華させているつもりでも、
    心の底にどんどんストレスが溜まって精神が壊れたりしないかな……と、正直同情的になってしまったり。
    (まあ、私も割と女の子にひどいことしてるのでどの口が言うかという感じですが)

    さて、最終的な着地点としてどんな感じで落ち着くのか。
    これからの展開も楽しみにしています。

  3. メイクを話に盛り込んで頂きありがとうございました。
    架空の話なのに、予算が少なくて衣装をパジャマにするなんて、
    テレビって斜陽産業なんですかね。
    果代ちゃんのドーランは随分減っちゃったので、
    三善のドーランを早速注文しなくてはならなくなったのではないでしょうか。

    >無様エロ
    自分のリクエストで、お気に召さないものが増えてすみません。
    いたずらどまりだと思ったんですが、無様エロでしたか?
    自分もピクシブとかを見ると、
    ピエロっぽいのは、ちょっと置いてけ堀をくらうような感じの無様エロの絵とか多いなってイメージですが、
    今回はいたずらどまりじゃないかなと思ってます。
    地元で川崎ハロウィンが開催されているからマヒしてるのかな(笑)

    特殊メイク好きやケモナー界隈で注目された、
    TVチャンピオン第一回特殊メイク王で、
    バニーガールの兎
    バスタブで誘うアメショー
    とかあったんですが、
    そんなレベルの特殊メイクがちょこちょこいたんですよね。
    専門学校の生徒さんや一般人なので、それよりちょっとレベルは下がるのですが…。
    ただし、凄いだけの特殊メイクだと、ここ最近はグランプリ取れなくなったから、
    あんまり見かけなくなっちゃったんですけどね。

    つまり何が言いたいかというと、
    キャッツメイクやピエロメイクぐらい全然無様じゃないぞ!

  4. >皆様

    永慶です。感想ありがとうございます!
    ついダラダラ長く書いてしまった4話目もお忙しいなかで読み切って頂いて、
    感想も頂いていて、本当に感謝です。励みになっております。
    頂いた感想やリクエストでどなたも過度に恐縮されたり不快に感じたりする必要はないと思いますので、
    念のための確認です~。

    まずは「感想文書くのが苦手」さんから、メイクネタやピエロネタについてリクエスト頂き、
    とてもありがたいです。花の帝国は調べたら7年前の作品でしたが、その頃から思い入れを持って頂いていた方からの
    リクエストですから、喜んで前向きに検討させて頂きました。
    私自身、さらに昔の「タクマ学校」でも厚化粧させて街を歩かされる女の子を書いたりと、こうした
    「ちょっと恥ずかしい化粧やメイク」のネタは好きです。
    海外のMC小説ではタトゥーを入れさせる話までありますが、それと比べても、元に戻せるし、
    知り合いに見られてもギリギリ、ジョークや罰ゲームと言い張って誤魔化しきれる、悪戯として捉えています。
    好きなシチュです。

    そして、みゃふさんがそこを指して無様エロと称したのかはわかりませんが
    (他にも靴嗅がせたりビキニで街歩きさせたりと、色々ありましたから)、
    そこは別に批判的な意味合いも無いと思います。元々、みゃふさんと私は嗜好の重なる部分とズレている部分があり、
    そこを肯定的に認め合っているので、私は否定的には受け取っていません。
    なのでキャッツやピエロメイクが無様じゃないか、無様だからこそエロくて良いか、
    そこは見解に違いはあるかもしれませんが、僕はそこには拘らず、
    みゃふさんに「ペットボトルシーン」を、感想文書くのが苦手さんに「メイクネタシーン」を
    それぞれ楽しんで頂いていたら、大満足です。

    それよりも私が今回少し反省しているのは、「執拗に様々な暗示を試す」描写を増やした結果、
    少しバランスが崩れて、ヒロインの芳乃香が「可哀想」に映っていると、ご指摘頂いている点ですね。
    話が長くなりすぎて、フォローを次回に回してしまったのですが、
    今回撮影したシーンが、30分番組で全て流される訳ではないです。そこはきちんと編集会議があって、
    「若園芳乃香がメインの番組として、彼女が悪戯をされつつも、辛い感じにはならないライン」を守った番組へと
    編集されるというつもりでいます。でもそのフォローが無いので、
    彼女が辛いばかりに見えていたら、こちらの編集不足です。

    ドラマでもハッピーエンドのラブコメとして放送されているものも、
    撮影現場ではNGや怒号の飛び交う厳しい状況もあったりします。
    契約者や有償視聴者だけが見るケーブル/ネット配信番組は、地上波よりもコンプラが緩かったりしますが、
    出来上がりは芳乃香の損なかたちにならないよう、スタッフ一同心掛けているシーンが、次回の冒頭で出てきますので、
    そちらをご覧頂いて、安堵頂ければ何よりです。(ティーカさん、そういうことですので、一つよろしくです)

    それでは長文失礼しましたっ。皆様引き続き、ご陽気に!

  5. なんか、みゃふの発言が色々すみませんでよ。

    ☆感想文書くのが苦手さん
    既に永慶さんがフォローされてなさってますが、永慶さんがいたずら系大好きなのは周知の事実でみゃふがそっちの系統にそこまで嗜好を持ってないのも公言してる通りでぅ。
    でも、その中でもエロいと思えるシーンはあるし、今作の導入シーンとか芳乃香さんが暗示を入れられていく所とか過程スキーなみゃふは見事に刺さってますでよ。
    別に該当のシーンがそんなに受け付けなくても、他のシーンで楽しめば全体的にはプラマイゼロになるわけ(みゃふだけかも)で永慶さんが気分を悪くされてないのなら特に何も問題ないと思ってますでよ。
    そして、無様エロなんてものはいたずら系が行き過ぎたものでそこの線引は個人の受け取り方の差の問題だと思いますでよ。例えば、みゃふが定番といったBGMでの意識変化とかも往来でやらせるとかだと人によっては無様エロだと感じる方もいるかも知れないでぅし、その程度と笑い飛ばせる人もいると思いますでよ。
    今回、みゃふが無様エロと称したのはキャッツメイクと聞いて何故か衣装までキャッツの衣装を来た二人を想像してしまったからじゃないかと思いますでよ。それと青果店でのピエロ芳乃香さんと猫果代ちゃんあたりでぅかね。
    まあ、リクエストで気に入らない部分が増えてしまったと申し訳なく思うのもわかりますが(みゃふも前にリクエストを拾ってもらった経験あり)、そこは「やったーリクエスト拾ってもらったー」と喜ぶ部分でどこの誰ともしれない相手に対して申し訳なく思う部分ではないのでぅw
    そもそも、MCというのは基本的には手段であって、その結果何をするかは千差万別。他の嗜好よりも間口が広い癖に相容れない部分も多い嗜好でぅ。なので、作者さんが気分を害されなければそう気にする必要などないのでぅ。
    みゃふこそ感想文書くのが苦手さんの嗜好を否定してしまったみたいですみませんでよ。
    っていうか、まだちゃんとかかってる無様エロより、かかったふりなんていう特大の地雷もあるわけでぅしw

    ☆永慶さん
    フォローありがとうございますでよ。
    みゃふの発言で面倒が起こってすみませんでしたでよ。
    今回はほぼ定義の問題でどこまでが受け入れられるかという個人の程度の問題だと思いましたでよ。
    みゃふは狭量な猫なので人前で変な格好をさせてしまう時点で無様だと思ってしまったということでぅね。
    無様エロなんて多分社会的に抹殺されてしまうようなものを指すんだと思うんでぅけれど、TV番組というのを見なかったら町中でピエロとかキャッツとか水着とか十分に社会的信用はなくなりそうと思ったんだと思いますでよ。

    それと芳乃香さんの番組がちゃんと編集されていたずら程度で大変な事にならないのなら安心でぅ。
    まあでも、事務所はともかく過激なフェミ団体からは抗議の電話とか来そうだなーとは思いますでよ。

    というか、なぜみゃふはキャッツメイクと聞いて衣装まで想像してしまったのだろうか?(多分キャッツ=衣装含めのメイクだと思ってたから)

  6. 第4話読ませていただきました。

    バラエティ番組で催眠術企画は今でもよく見かけますが、
    90年代にあったような「ちょいエロ系」の企画は皆無になってずいぶん経ちますね。
    私はそういうものを見て育ったので、世の風潮的に仕方ないとは言え寂しくも感じます。
    「でも編集前の段階ではこんな感じかも?」と想像をかき立てられる今回の描写は素敵でした。
    また、本人がかかるまいと抵抗するけど落ちてしまう描写もとても良かったです。

    催眠術企画だとたとえば
    「アイドルグループ全員にかけて術士が収録後に部屋に来るようこっそり暗示を仕込み、性の宴を開催」
    というオーソドックスなものもよいですよね。
    今回は主人公がそこまで手を広げる感じではないですが、アキミチ師匠はそういうのもやってそうですね。
    じっくりコトコト一人の女性を堕とすのもハーレムものも好きなので、どういう展開になるか楽しみです。

  7. 催眠ショーというオープンな感じでもガンガン堕ちてきましたね。
    5話は催眠ショーの役者を増やして多くの美女を堕としに行くのか、あるいは二人っきりで深い関係の方向に伸ばすのか楽しみです。

  8. >みゃふさん

    ありがとうございますでよ~。
    結果的に1話で2回みゃふさんから感想頂けたので、得した気分です(笑)。夏冬と年に2回の投稿機会のために書いていても、「みゃふさんいるし、誰からも感>感想文書くのが苦手さん想無しっていうことはないだろう」と思っているという意味では、本当に貴方が生命線です。でも、無理を続ける必要は無いですので、しんどくなったら感想休んでくださいね(笑)。毎度、助かっています。

    >ティーカさん

    この回は「話を動かす前に、執拗なくらい催眠術番組で操り倒そう」と意気込みすぎて、ややバランスを欠いたかもしれません。不安にさせたり、可哀想な思いにさせてしまい、申し訳ございません。これ、エロ小説です(笑)。徐々に終わりが近づいていますので、5話目では話が展開します。こちらはお楽しみ頂ければ幸いです。もうしばしの間、よろしくお付き合い願いますです。

    >感想文書くのが苦手さん

    しつこいかもしれませんが、本当に貴方の感想やリクエスト、嬉しかったです。本心を正直に申しますと、このご時世ですから、不特定多数の方々へ向けて、非道徳的な変態小説を垂れ流すのは一抹のリスクも感じてはおります。「毎度決まった方々からのみ感想貰うんだったら、その人たちにメールで展開してた方がセーフじゃね?」といったことも、考えない訳ではないです。そんな時に、新しく感想やリクエストを投げかけてくれる方がいらっしゃると、本当に奮い立ちます。励みになります。ありがとうございますです。気が向いたら、是非また一声かけてやってください。

    >きやさん

    マーティンSTジェームス先生、お亡くなりになりましたね。大好きでした。それにかけて、映画「ダンスウィズミー」で催眠術師を演じた宝田明さんの役名が「マーチン上田」でしたね。最近ではYoutubeで留飲を下げることも多いですが、「ちょいエロ」も含んだ催眠術番組、是非テレビでも復活して欲しいものですね。

    >慶さん

    ありがとうございます。1話1話が長くなりつつある今作ですが、読んで頂いていて、嬉しいです。第5話では話がやや大きめに展開します。お楽しみ頂けましたら幸いです。

  9. 「みゃふさん」への感想の中に、「感想文書くのが苦手さん」への宛名が入りこんでしまいました。失礼しました。

    誤 「みゃふさんいるし、誰からも感>感想文書くのが苦手さん想無しっていうことはないだろう」
    正 「みゃふさんいるし、誰からも感想無しっていうことはないだろう」

    お詫びして訂正申し上げます。

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