オカルトオアカルト 3話

<カルト? > 園原文乃 大学3年生

 まるで波打ち際で穏やかな波を見ている間に、ジワジワと自分の足元の砂がさらわれていくような感覚。気がつくと、園原文乃の意識は、自分が立っている場所の15センチくらい上へ、僅かに浮き上がっているのだった。

「…………こうしてヨシュアはついに安住の地を見つけたのでした……………。このお話は、ここで終わりです」

『ナカガワ先生』と呼ばれていた、強い巻き毛で黒髪の中年男性は、穏やかな顔で語り終えた。会の参加者たち、一人一人をゆっくりと見まわす。とりわけ、文乃と彼の義理の兄である井村友介、そして学校の先生と言っていた綺麗な女性、女子高校生たちといった、今回初めてこの会に参加した人たちの様子をジックリと確認している。ナカガワ先生の顔に浮かんでいるのは、慈愛に満ちたような笑顔だった。文乃の体はボンヤリと斜め上を見ながら、何を考えるでもなく、ただその場に立ち尽くしている。そして自分の意識だけが、奇妙なことに体から30センチくらい上のところで緩やかに漂っている。そんな感覚を持っていた。

「ヨシュアの家探しのお話を、初めて聞かれた方々は特に、今少し、不思議な感覚になっていると思います。魂が、体から浮き上がっている。自分の力では戻れない。そんな感じがしますよね? けれど、同時に、とても嬉しい。温かい、幸せな気持ちにもなりませんか? 魂が揺さぶられる。それは文字通り、感動的な体験だからです」

 文乃は確かに、ナカガワ先生の言葉通り、さっきから温かい、優しくて穏やかな何かに、包まれているような気分だった。ナカガワ先生が『魂』と呼んだ何かが自分にもあって、それが緩やかに解されていく感触を、確かに味わっている。文乃が友介さんの体を見た。ウットリとした、満足げな表情をしている。自分の隣に立っている、学校の先生の横顔を見ると、上気したその横顔には、涙が流れていた。それも悲しい涙ではない。恍惚の表情で、目から一筋の涙を顎まで垂らしていたのだった。

「今日のこの日のことを永遠に忘れないため。私たちの絆を強く保つために、今から子供たちの魂の一部を、私が分け取って、この壺に収めていきますよ」

 ナカガワ先生は『祭壇』と呼ばれていたテーブルの下から、杯と言っても良いくらいの小さな壺を取り出して、蓋を祭壇に置く。一人ずつ、今日初めて『会』に参加した、ボンヤリ立ち尽くしている人たちの頭上から、何かを掴み取るような仕草をして、壺に収めていく。文乃の番になった時、確かに自分の一部が掬い取られて壺に収められたような気がした。不思議なことにそれは、それほど嫌な感覚ではなかった。なぜなら、欠損したと思われた自分の魂の一部に、すぐに温かい何かが流れ込んで来たからだ。文乃はさらにウットリとして、ボンヤリとされるがままに揺れていた。

「すべての魂は有る部分で繋がりあっています。これまで貴方たち、子供たちは孤独な魂を一人で抱えていました。これからは、皆で支え合って、助け合い、慈しみあって生きていけるのですよ。聖家族ペガサス教団は、誰も拒むことはありません。全ての孤独な魂と繋がって、愛で浄化をしますよ。文乃さん。貴方の魂はこの壺を通じて、お姉様と再会することも出来ます。これまで寂しかったのでしょう? 心配だったのでしょう? もう、大丈夫なのですよ」

 文乃の意識の30センチほど下、自分の体が見える。肩を震わせて、泣いていた。嬉し泣きだとわかる。自分のことだからだ。しかし、自分のことでありながら、どこかほんの少し、他人ごとのようにも感じていた。あまりにも、今、この殺風景な部屋で起きていることが、非現実的すぎるからだ。ただ、文乃は、姉、雪乃の気配を濃厚に感じていた。まるで彼女の匂いが自分の鼻の奥をくすぐっているかのようだ。それは、もう10年以上も昔。姉のベッドで一緒に寝させてもらっていたころに、嗅いでいた匂いを思い出させた。

 サラサラサラ、布が擦れる音がする。時々そこに、プチプチ、カチカチとプラスチックや金具が当たる音が混じる。気がついて文乃が左側を見ると、彼女の義兄、井村友介さんが服を脱ぎ始めていた。彼だけではない、学校の先生、女子校生たち、前に出ていた『初めての参加者』たちは皆、誰に指示をされるでもなく、ウットリとした表情のまま、服を、下着を、脱いでいく。文乃が見ると、自分の体も同じように、人前で裸になりつつあった。

「驚く必要もないです。困ることもないですよ。私たち家族に、隠し事は無用です。人間には美しい部分もあれば、醜い部分もあります。心の中にはドス黒い願望を抱くこともあれば、火のような衝動を秘めることもあります。それを恥じる必要はありません。それこそが人間の証明です。………ただ、それをそのままにしていては、魂は永遠に完全な浄化を得ることはありません」

 文乃は最初、自分が人前で、この初対面の中年男性の前で、そして年が10近く離れた義兄の前で、裸になっていくことを恥ずかしいと思った。けれど、ナカガワ先生の言葉を聞いて、恥かしいと思っている自分の心こそ、恥かしいものなのかもしれないと、思い直していた。

「今の時代は、欲望や誘惑が昔よりもとても多いです。欲求や衝動に油を注ぐような情報も毎日、圧倒的な量で跳びかっていています。たった今、私は、人間らしいと言いました。すみません。自分に正直であるために、私の率直な思いをお伝えしますね。貴方たち、子供たちは、まだ人間の魂のステージにすら、実はいません。世俗にまみれて、欲望の虜になった、獣のような状態にあります。…………そんなことないと、思いますでしょうか? …………今から、お見せします」

 両手をかざしたナカガワ先生が、手のひらを下に、水平にした手をゆっくりと下へ降ろしていく。文乃は、自分の『魂』がそれに合わせてスルスルと下降していくのを感じる。自分の体に戻っていく。そして、すぐに体がカーっと火照ってきたことに気がつく。呼吸が荒くなる。体を突き動かしたくなるような、ムラムラした、妙に落ち着かない気分が燃え上がってくる。

「魂の遊離、そして結束を体験したあとでは、これまでは当たり前だった自分の体の持つ欲求を、はっきりと感じることが出来ますよね? これが、貴方たちのカルマ。生理的欲求です。現代の若者は特に、放し飼いにするように野放図に育ててしまっている獣。貴方たちは今、動物です。取り繕ったり、隠したりする必要はありませんよ。子供たちよ。私たちの前に、本当の貴方たちのあさましい、はしたない姿を曝け出しなさい。全てを包み隠さず見せつけ、自覚し、やっと理解することが出来ます。導きを得るのは、その後にしか出来ません」

 ナカガワ先生の口調が少し強くなったと思った。それと同時に、文乃は「ウォーッ」と自分が喉を鳴らしながら吠えていたことに気がついた。

 いまや、全身が燃え上がっている。体中の産毛という産毛が、針のように逆立っている気すらした。この突き上げてくる衝動、その正体を、自分で探さなくてもわかっていた。これは、性欲だ。

 もともと園原文乃は、自分で性欲は薄い方だと思っていた。高校生の時に初めて部活の先輩とお付き合いしてから今まで、3人とお付き合いしてきたが、体の繋がりは自分からはほとんど求めなかった。本当に好きだった彼氏が求めてくるから、時々許している。そう意識していた。それが今、自分の頭がおかしくなってしまうほど、強力な性欲が文乃を暴走させようとしている。自分の恥ずかしい性器が、子宮が、キュンキュンとヒクついて、オスを求めてしまっている。きっと、ナカガワ先生が、何か魂のスイッチに触れたのだ。それをわかっていても、文乃に自分自身の暴走を止めることは出来なかった。

 隣にいた友介さんの体に飛びつくようにしてしがみつく。裸で義理の兄と肌を合せる。その触覚が、肌から頭の芯まで、ビリビリと痺れさせる。文乃が顔を寄せると、友介さんも同じことを考えていたかのように、2人で唇を重ねる。すぐに舌を絡ませ合って、お互いの唾液を吸い合うようにして求める。友介さんの手が文乃の胸を掴む。文乃はもっと強く揉むことを求めるように、いっそう力づくで彼の体を抱きしめた。

 私は動物っ! ………獣っ! ………発情した野獣っ!

 そう自分の頭の中で連呼する。ナカガワ先生の言う通りだ。友介さんの肩を、胸筋を、腹筋を、擦ったり舐めたり甘噛みしたりしていると、自分の理性も何も蒸発していくのを感じることが出来る。気がつくと四つん這いになって、お尻をお義兄さんの顔の前で振っていた。メスが犯して欲しい時、交尾をしたい時、こうして誘うのは、自然なことだ。文乃はまだ人間ではない。野生のままに盛っている獣なのだから、人前で義理の兄との交尾を始めても、何も気にする必要はない。そう思うと、天井が抜けたような解放感を感じる。そして友介さんの勃起したモノが文乃の性器を割って入ってくる。乾いた摩擦はなく、ヌルヌルと義兄のペニスを、文乃の膣が迎え入れる。愛液が内腿から膝まで垂れる。膣壁が、女の喜びに震えていた。

「ぁああああっ……………うぁあああああああああっ」

 後ろから突きたてられるたびに、文乃が髪を振り乱し、頭を振り回して喘ぐ。男女のことについてはあまりオープンにしたがらない生真面目さを持つ文乃だが、今は誰に気兼ねすることもなく、快感を貪り、噛みしめていた。

「ゆ…………雪乃っ…………ごめんっ…………。ごめん雪乃っ。文乃ちゃんもごめんっ」

 友介さんは、文乃の姉、自身の妻である井村雪乃に謝っている。謝りながら、ペニスを荒々しく文乃に突き立ててくる。性の快楽のことしか考えられなくなっている文乃に比べて、まだ少し友介さんの頭は冷静さを保っているのかもしれない。お義兄さんは、お姉ちゃん以外の女の人とセックスしている自分のことを謝っているのだろうか? それとも雪乃お姉ちゃんの妹である自分とセックスしていることを謝っているのだろうか? よくわからないが、友介さんは謝りながらもなお固いモノを突き入れてくる。そして謝るたびに、文乃の膣の中で僅かにペニスが大きく、固くなるような気がする。文乃はそれを歓迎した。自分からも必死で腰を振って、性器の結合と擦れ合いをさらに貪った。

 友介さんのペニスが熱い粘液を、文乃のナカに直接放つ。文乃も自分の視界が真っ白になるほどの快感に痺れながら、歓喜の声を上げて、一緒にイッた。そのまま卒倒するように床に2人で倒れこむ。少しの間、ボンヤリと床に這いつくばって、肩で息をしていた。口の端から涎が頬を伝っていることに気がついても、さっきの暴虐的なエクスタシーの余韻が強すぎて、どうすることも出来なかった。

 少しすると、また、文乃の腰を持ち上げるような、友介さんの腕の動き。されるがままになっていると、また後ろから、濡れて腫れた文乃のヴァギナに友介さんのモノが入ってくる。体が喜んで迎え入れていた。

 お義兄さんはきっと、しばらくお姉ちゃんとシテなかったから、今、こんなにもすぐに、また私を求めてくるんだろう。そう思うと、文乃は心の中で秘かにニンマリとしてしまっていた。雪乃お姉ちゃんが失踪してくれていたから、今、私はこんなに気持ちいい。体が蕩けて拡散していってしまいそうなくらいの快感を味わって、またセックスを始められている。少しだけ、心の片隅でそのことを嬉しく思っていた。そんな自分に気がついて、否定しようとする。しかしさらにその上から、思考自体を覆いかぶせるような快楽の津波がくる。文乃はまた、四つん這いの姿勢で背筋を限界まで弓なりにして、お尻を突き立てて腰を振った。

 4回ほどイッただろうか? 記憶が朦朧として曖昧だ。四つん這いの姿勢で後ろから友介さんに犯されながら、文乃は悶え狂い、喘ぎ狂った。途中で、何人かの男の人にペニスを咥えさせられたような気もする。求められるままに、慣れないフェラチオを何とかやり切った。さらには女性。ちょっと年配の女性から、まだ年端もいかない女の子に、胸を触られたり、頭を撫でられたり、キスを求められたりしたような気もする。求められるがままに、全力で応えた。その間も終始、友介さんのペニスは文乃の膣の中に納まって、ピストン運動を続けていた。まるで、自分のものだと所有権を訴えるかのように、義理の妹と下半身を結合させて、離さなかった。

 文乃がこうした獣の交尾の時間が、もしかしたら自分の一生の間このままずっと続くのではないかと思い始めた頃に、ナカガワ先生が2回、手を打ち鳴らす音が大部屋に響いた。

「そろそろ良いのではないでしょうか? …………今日初めての皆さん。無理をしすぎて、体を壊さないように、気をつけてくださいね」

 ナカガワ先生は教え諭すように、穏やかな表情で文乃たちに注意を呼び掛けてくる。文乃は自分を急き立ててきた、あの業火のような性欲が、霧が晴れるように急激に薄らいでいくのを感じる。怪訝な表情で周りを見回して、突然我に返った。

「いやっ………」

 小さく悲鳴を上げて、体を捻るようにして右手で、中腰のままでいる友介さんを突き放す。ズルリと抜け出た彼のペニスと、まだヒクヒクとわなないている文乃のヴァギナとの間を、粘液が糸引いた。裸の体を隠すように、文乃は腕と足とで胸元や股間を隠して縮こまる。今更隠しても、どうなるものでもないかもしれないが、それでも恥ずかしいのだから仕方がない。

「ここで停めますねー」

 一人の年配の女性が、ナカガワ先生に呼びかける。文乃が見ると、その女性は、三脚を組んだ上に設置された、デジタルビデオカメラを操作していた。赤い光が消える。文乃はゾッと背筋が寒くなった。

「何を撮ってるんですか? ヒドイッ」

 文乃と同じように体を隠して縮こまっていた。

「うちの教団の集会に来て、レイプされたと訴え出ようとした人が過去にいたので、それからは用心しているだけです。大丈夫。録画された内容は外に流出したり、不届きな使われ方をすることはありません」

 ナカガワ先生が、柔和な笑顔を崩さずに言う。

「ふざけないでくださいっ。それだって、充分脅迫ですっ。今のビデオを消して、私たちを解放してっ」

「………誰も無理矢理連れてきたりしてないのに………」

 ボソッと後ろの方で、誰かが囁く。文乃は怒りに任せて、誰が今、言ったのかを問い詰めようかと思った。けれど、急に魂をキュッと掴まれたような気がして、体が吊り上げられるように立ち上がる。裸の体を隠すことも出来ない。腕はダランと体の横に下がっていた。ツボを正確に指圧されたように、体の動きを誰かに握られていて、文乃は声も出せなくなった。呼吸も出来ない。苦しくて、口を金魚のようにパクパクさせて助けを求める。

「絹田君、やめなさい。園原文乃さんは、ただ混乱しているだけです。とても優しくて頭の良い子供ですよ。そして、私たちの大切な仲間。家族です」

 天然パーマで柔和な顔をした中年男性が制すると、文乃の体を押さえつけるように魂を縛っていた何かが、不意に解ける。新鮮な空気が胸の中に入って来て、文乃はやっと安心する。心が温かくなって、優しい大きく分厚い愛情にくるまれたような気分になって、文乃はウットリと緩んだ笑みを浮かべた。『家族』という言葉がナカガワ先生の口から聞こえるだけで、文乃は天国にいるような恍惚の気分になる。

「これから、今日、私たちの家族に加わってくれようとしている、新しい子供たちを祝福しましょう。お祈りの時間です」

 ナカガワ先生が言うと、さっきまでの緊張した空気が一気に変わる。信者の人たちは、皆、思い思いのポーズを取って目を薄く閉じる。仏教のように両手の指を伸ばして手を合わせている人、キリスト教の教会でやるように両手を握って拝む人。両手のひらをナカガワ先生と祭壇の方角へかざしている人。ただ立ったまま、目を閉じている人。違ったかたちでお祈りしようとしているのが、印象的だった。

「魂を解放しましょう。神様に祈りを捧げます」

 ナカガワ先生が言うと、文乃の魂がまた、少し体から浮き上がるような感覚になる。今度は体から抜け出てしまわないように、なんとか体に留まる努力をした。それでもなんだかおぼつかない。全員、一言も喋らない。それなのにこの大部屋の中には、何か残響のようなものが充満しているように感じられた。

「わっ…………」

「きゃっ…………。えぇっ?」

「うわぁっ」

 今日初めて、『集会』に参加した人たち。つまり裸で信者とナカガワ先生の前にいる人たちが、それぞれ驚いたような声を上げる。文乃も、思わずびっくりした声を漏らしていた。自分の体が、急に勝手に動き出すのを見た。腕がブンブンと振られて、足がバタバタ。お尻を左右に振るようにして、体が無茶苦茶な動きをし始める。それを止めることが出来なかった。

「新しい子供たちは驚かないで。魂のせせらぎと循環に反応して、体が暴れているだけです。心と体の浄化が進んでいくと、ほとんど体の暴れは無くなっていきます。ほら、こっちのお兄様、お姉さまたちを見てください」

 ブンブンと両腕を振り回し、足で腿上げのエクササイズのようにバタバタ走りながら、文乃は周りの信者たちの様子を見る。緩やかな動きで波に乗るように揺れている人が半分くらい。残りの半分は静かに立っていられるようだ。それと比べると、自分の体は、てんでバラバラの方向へむかって暴れまくっている。文乃が友介さんを見ると、同じように手足をバタつかせながら、腰をくねらせている。若干卑猥な感じをさせる前後のグラインド。そこから目を逸らそうとして、自分の腰の動きも確認する。まるで友介さんから伝染したかのように、文乃の腰もイヤらしい感じのグラインドを始めている。少しずつ、友介さんと向かい合うようにして体が近づいていく。お互いの腰がぶつかりそうな距離まで、近づいてきた。振り回す両手が相手を殴ってしまいそうな距離までくると、今度は両手が勝手にバンザイをする。頭の上でピンと伸びたまま、腕が下せなくなる。その姿勢でまだ、腰がグイグイとお互い、また飽きずに、さっきのセックスを繰り返そうとしているかのように、イヤらしく求め合う動き。周りの信者たちが穏やかな表情でお祈りをしている中、自分たちだけが滑稽で恥ずかしい、未開の部族の求愛のダンスを見せつけているようで、恥ずかしさと情けなさが文乃の心を責めたてた。

「はい、お祈り、止め」

 ナカガワ先生が、相変わらず温厚そうな喋り方で言うと、やっと文乃も友介さんも、体のデタラメな動きを止めることが出来た。気をつけの姿勢で、次の展開を待つ。この期に及んでも、まだ文乃は自分の裸のお尻が後ろから丸見えになっていることを意識して、頬を赤らめていた。

「それでは、新しい子供たちに、ペンダントと、お洋服を配っていきますね。大事にしてください。もし、壊れたり、無くしたりしたら、私にご連絡をお願いします」

 一人一人に、オリンピックのメダルを授与するように、首にペンダントをかけていく。文乃も、クリスタルのような形の石に鎖がついた首飾りを、首にかけられた。そして文乃の左隣、友介さんの前に来て、ナカガワ先生が言った。

「確か、井村さんが、こちらの園原文乃さんを誘って連れてきて頂いたのですよね。うちの教団では、勧誘は布教の一部として評価をしています。文乃さんよりも少しだけ位階の高い、『新しい子供たちのまとめ役』のためのペンダントを受け取ってください。………奥様が戻られるまで、義妹さんと一緒に住まわれて、面倒を見てあげるのも良いと思いますよ。在家信者たちは集まって過ごした方が、都合が良いことも多いです」

 大したことではないかのように話しながら、首に、ペンダントをかける。文乃がチラッとみると、確かに水晶のような石を装飾する、模様がついたペンダントになっていた。一通り、『新しい子供たち』へのペンダントの手渡しが終わる。そして文乃たちには白い布で出来た、信者のための服も配られた。ベトナムの民族衣装、「アオザイ」に少し似た服………。文乃が雪乃お姉ちゃんのクローゼットで見つけたものと、非常に良く似ていた。体の線が露わになってしまうような、薄目の白い布。それでも、全裸で立たされていた文乃は、それを着させてもらって、ホッとしていた。文乃たちが着てきた服や下着は、処分されてしまうようだった。それでも、財布とスマホの入ったハンドバッグは返してもらう。色々と言いたいことがあったのだが、ニコニコと慈愛の笑顔で見守るナカガワ先生を前にすると、文乃はついつい、抗議するタイミングを見失ってしまっていた。

「さて、新しい子供たちの皆さん。回れ右をして、先輩であるお兄様、お姉様たちからの祝福を受けてください。一人一人とご挨拶をしてから、今日はおうちへ帰りましょう。大変お疲れさまでした」

 勝手に閉めてしまうナカガワ先生。文乃はまたも、文句を言うタイミングを失ってしまう。回れ右をして、先輩信者さんたちと向き合いながら、まだ未練たらしくナカガワ先生の方を何度か振り返っていたが、順番に先輩たちから挨拶を受けると、丁寧に受け答えせざるを得なくなる。心が、抵抗する自由を奪われていた。

「文乃さんね。よろしく。とっても可愛らしいお嬢さんねぇ。歓迎しますよ」

「は……い。………よろしくお願いします」

「アヤノさん、素晴らしくチャーミング。僕はバイセクシュアルです。アナタはほんとに美しい。キスしてお別れしましょう」

 40過ぎくらいの年齢の、白人の男性に言われて、文乃は顔を上げてそっと目を閉じて、キスを受け入れる。お別れの挨拶という雰囲気のキスではなかったが、文乃は彼の舌も含めて、受け入れるしかなかった。

「お姉ちゃん。オッパイおっきいね。何カップ?」

「Cカップです」

「………へー。また今度、もっとしっかり触らせてね」

「……………は………い………。いつでも………どうぞ………」

 自分よりも随分年下の女の子にオッパイを無造作に掴まれると、恥ずかしさと屈辱感が文乃を苛むけれど、魂が掴まれたという感触がまだあって、邪険に扱うことなど、とても出来なかった。

「………………君、エロい体してるよね………。顔も可愛いし…………。モテるんだろ?」

「……………い………いえ………。そんなことは………………、まぁ…………あの…………。一応」

 謙遜しようとしても、嘘をつくことは出来ない。今、文乃に絡んできているのは、根暗そうな20歳くらいの若い男だった。文乃が抵抗出来ないのをいいことに、なれなれしく彼女のオッパイとお尻を、白い信者服の上から撫でながら話す。

「まぁ、そのルックスじゃ、そうだろうね。………大学生? …………きっとキャンパスでもゼミでも、皆に大事にされる、お姫様的な存在かな。……………さっきのセックス、ヤラしかったよ。………今度、俺と会う時は…………もっとヤラしい下着を着て来て欲しいな。……………それから、外出る時とか、今日みたいなトラッドな服装じゃなくて、もっとビッチっぽい恰好したらいいよ。まだ動物レベルの、君の本性とか、その体のエロさとか、もっと際立たせてさ……………」

 ボソボソと耳元で囁いてくる、気持ちの悪い男の顔を、文乃は平手打ちして遠ざけたかった。けれど、教団の先輩である『お兄様』にビンタをしようと思うと、急に足がすくんでしまい、手にも力が入らなくなる。何より、この「絹田」と呼ばれた根暗そうな男。確かさっき、文乃がお義兄さんとの動物セックスに没頭させられていた時、フェラを求めてきた男。文乃の後頭部の髪の毛を掴んで、乱暴に彼女の口を犯した男の言葉が、耳元で囁かれた時に、妙に心の奥深くまで響いてくるのを感じてしまっていた。『魂』というものが本当にあるならば、今の文乃のそれは、ずいぶんと柔らかく、無防備になってしまっている気がする。文乃は曖昧に笑って、絹田のセクハラそのものという手の動きに対して、体をねじってやんわりと嫌がって見せることしか出来なかった。

「それでは皆さん、今日の集会は、これでお開きです。次回お会いする時まで、神様の愛への感謝を忘れず、幸せな日々を過ごしてください」

 ナカガワ先生の言葉を聞いて、信者たちがぞろぞろと大部屋を出ていく。園原文乃は義兄の友介さんと視線を合わせて、この『教会』から退出することにする。本来だったら色々とナカガワ先生や教団側の人たちに質問したいことがあったのだが、今日はとても疲れていて、自分たちの心が弱っているように感じていた。出入口近くのホワイトボードに書かれていた、次回の集会が10日後の同じ時間に開かれることをしっかり頭の中にメモして、文乃と友介さんは連れ立って教会を後にした。来た時よりも、友介さんと近い距離感。まるで寄り添うようにして、2人は帰り道を歩いた。

<カルト? > 井村友介 会社員

『教会』で初めて参加した『集会』からの帰り道、友介は義理の妹である園原文乃に、何を話せば良いのか、ずっと迷っていた。彼女が調べ出してくれたペガサス聖家族という教団の集まりを訪れたことで、色々と不思議な体験をした。話に山も無く、ところどころ意味の分からなかった『ヨシュアの家探し』という宗教説話を聞かされているうちに、頭の中がボンヤリとして、これまで経験したことのない、浮遊感を味わった。そのあと、無力、無気力な状態になっている友介から、ナカガワ先生が『魂を分け取る』という手の動きを見せて、壺に納めたと言われた時、友介は沢山の人たちの魂とあわせて、妻である雪乃の魂と繋がったような気配を、かすかに感じた。同時に友介は、ナカガワ先生や信者の人たち、そして右隣で立ち尽くしていた、文乃ちゃんの魂とも繋がったという感触を持った。気がついたら、服も脱いでいた。そしてナカガワ先生の言葉を聞いていて、急に激しい性欲に頭と体を完全に支配される。友介は、いなくなってしまった妻、愛する雪乃のことを考えて、精一杯抵抗したつもりだったのだが、気がつくと、全裸の文乃ちゃんを後ろから犯していた。下半身から突き上げてくる、容赦のない獣欲に、追い立てられるように、何度も義理の妹、文乃ちゃんの膣の中で自分のモノを動かし、突き立て、精液を放ってしまった。若々しい彼女の肌の感触が、今も友介の手に残っている。そうしたことを口にすれば、文乃ちゃんはより傷つくと思うと、何から彼女と話せば良いのか、わからなくなる。

「………あの…………友介さんは、………大丈夫でした?」

「………あ、僕は大丈夫。今はね…………。文乃ちゃんこそ、大丈夫?」

「私も…………今は、なんとか………って、感じです…………。色々…………。思い出したくないこともあったけど、…………でも、あの人たち、やっぱり変っていうことと、お姉ちゃんに結びつく手掛りがあの教団で間違いないっていうこと。その2つは、わかりました。…………だから、もう少しだけ、新しい信者のふりをして、もっと決定的な証拠を掴みましょうか。…………通報するのは、その後でも良いから」

「………わかったよ。大丈夫。文乃ちゃんの良いと思うようにしていこう」

 半分、自分に言い聞かせるようにして文乃が思いを整理している。友介は、彼女の頭の良さ、芯の強さを改めて思い知った。本当だったら、彼が文乃を労わって、最初に声をかけるべきだったのだ。そこを文乃ちゃんは自分から男で年上の友介のことをまず気遣って、それから2人の今後の対応を提案してくれた。守るべき義理の妹にリードしてもらっている自分が歯がゆく感じた。

 文乃ちゃんは、今日、人前で裸を晒してしまうような目に会い、義理の兄である友介やその他、何人かの初対面の人たちと、体の関係を持ってしまった。その間の醜態を、ビデオに撮られさえしている。信者の何人かには最後の挨拶の時にも体を触られていた。一人、粘着質そうな若い男に耳元で何か囁かれていた。何を話されていたのかはわからないが、きっと心中は穏やかではいられないだろう。そんな状況でも、文乃ちゃんは考え抜いて、友介に3つ提案してくれたということだ。

 1つは、今日の出来事はあまりアレコレと思い出して話し合いたくもない。少なくとも、今のうちは。そして2つめに、雪乃を取り戻すための行動は続けるということ。あの如何わしい教団とも、それまでは潜入を続けなければならないということだ。そして3つめは、今の時点で警察を巻き込むことはしない。

 もしかしたら、3つめの提案は、自己保身のためという部分もあるかもしれない。あんな醜態を収めたビデオが世間に流出したら、友介も文乃も、社会生活を送っていく上で、大きなダメージを受けてしまうだろう。そのことを意識して、全面的な対決姿勢を出せないとしたら、それは教団側の思い通りなのかもしれない。それでも、友介は文乃ちゃんの提案を聞いて、ホッとしている自分がいることも意識していた。あのナカガワ先生や先輩信者たちと話した時の、魂を掴まれる感触。優しく包まれると、何も考えられなくなるくらい無力化させられてしまう、あの蕩ける多幸感。そして粘土細工のように簡単に、自分たちの魂の形を捻じ曲げられる予感。それらを体感してしまうと、とてもあのペガサス聖家族という得体のしれない教団を表立って敵に回して戦うという気概は持てなかった。

「友介さん………。今日、友介さんとお姉ちゃんのおうちに、泊めてもらってもいいですか? …………私、一人でいる時に、さっきみたいに自分で自分がコントロール出来なくなったらどうしようって思うと、………怖いんです」

 友介は黙って頷いた。文乃ちゃんを守ってあげたいのは、当然のことだが。それでも少し気になったのは、結局物事が、さっきナカガワ先生の言っていた通りの方向へ進もうとしていることだった。

 歩いているうちに、街灯に照らされて、文乃ちゃんの白くて長い服が、体のラインを強調して光る。彼女が下着を身につけていないこと、そして乳首が立ってきてしまっていることを、この白い服は隠そうともしていなかった。

「………そろそろ、人通りが多くなるから…………。気をつけて、帰らないと…………ね」

「……………はい。…………あの……………。友介さんも」

 友介の視線を感じて、文乃は自分の乳首が信者服から浮き上がっていることに気がついて、顔を赤くしながら右腕で胸元を覆う。そして友介の下半身を見て、さらに耳まで赤くしながら、そっと寄り添うように体をもっと近づけた。腕を絡めて、恋人同士が歩くように体を密着させる。そして左腕で自分の胸元を隠そうとする延長線で、ハンドバッグで友介の股間当たりを隠してくれる。友介の股間も、また恥ずかしいくらいの勃起を服が隠してくれない。2人は体が見せる発情のサインを隠しながら、白くて長いペアルックの服を着た、歳の離れた熱愛カップルのような体勢で、密着して歩いた。

 。。。

 次の日の朝、友介が目を覚ますと、ベッドの上に文乃ちゃんがいた。太腿に重量を感じて起きた友介に、文乃ちゃんは潤んだ目で、「まだ起き上がらなくて良いです」と伝えてきた。寝間着のズボンとトランクスが、膝まで降ろされている。30過ぎているのにも関わらず、友介は恥ずかしいほどの「朝勃ち」を、義理の妹に見られてしまっていた。

「私もムラムラして、お腹の下のあたりが凄く疼いて、目が覚めちゃいました。ナカガワ先生に自分たちの動物的な本性を曝け出すように、魂に何かされちゃったのか、それか魂で繋がっている、友介さんのムラムラが私に伝わってきちゃったのか………。よくわからないけれど、私たち、この欲求を何とかしないと、朝ご飯も食べられませんよね? …………友介さん、お仕事もあるし、…………はやく、このヤラシイ気分を、やっつけちゃいましょう…………」

 赤面しながらも、頑張って理路整然と話そうとする文乃ちゃん。今は家にいない、友介の妻、雪乃のパジャマを着ていた。その彼女が、友介の返事を待たずに、頭を低くして、友介の勃起したモノを口に含む。寝汗もかいているはずのペニスを、それほど嫌そうな顔も見せずに、おりてくる髪をかき上げながら咥えこんで、舌を這わせる。文乃ちゃんは昨日、見知らぬ信者の先輩に見せていた、拙いフェラチオよりも、今朝、少し上達しているように思えた。彼女は夜はきちんと眠れたのだろうか? なかなか眠れず、朝一番に友介に対してしようと思うことを、頭の中で何度もシミュレーションしてきたということはないだろうか? 彼女の舌の動きと温かく湿った口の中での吸引力に導かれるようにして、友介は短い時間で射精の予感を感じ取り、そのまま文乃ちゃんの清らかな口の中に、精を放ってしまった。

 射精の後も、根気よく文乃ちゃんが舌での愛撫を続ける。すると友介のペニスは、まるで男子中学生のような精力と回復力を見せ、すぐに硬く立ち上がる。少し大きめのパジャマを脱いだ文乃ちゃんが、穿いていた、妻の下着の中でもっともセクシーなデザインのショーツも脱いで、友介の腰の上に跨った。感触を楽しむように、ゆっくりと彼女の腰を下ろして、友介のモノを可憐なヴァギナで咥えこむ。根本まで入ったところで、アゴを上に向けて、「ンッ…………」と裏返った声を漏らした。

「……あの………。お義兄さん………。もし、嫌じゃなかったら…………。胸を、揉んでもらっても良いですか?」

 下半身は結合したままの状態で文乃ちゃんが、恥かしそうにパジャマのシャツのボタンを外していって、友介の上体に覆いかぶさる。友介は頷いて、彼女の丸くて形の良い、オッパイを、掴むように揉む。雪乃の胸よりも、張りのある、若いオッパイだ。乳首がまたツンと起き上がっている。昨日の夜の帰り道、白くて薄い布を押し上げているところを街灯に照らされていた、あの乳首。妙なことに、友介は文乃ちゃんの桃色の乳首を直接に見ながら、なぜか昨日、服越しに見た同じ乳首の勃起した姿を思い出して、より興奮していた。

「…………早くこの、ヤラシイ気分から抜け出ることが、ナカガワ先生や信者のお兄様、お姉様に抵抗する早道だと思うから…………。恥ずかしいけど、頑張りましょう…………。友介さん」

 両膝に力を入れて、文乃ちゃんが腰を上下させ始める。友介に揉まれている胸にも、友介の手の甲に重ねるように手を添えて、「もっと強く揉んで」と誘導するように押しつけてくる。本当にこれがあの教団に対しての抵抗になるのか、完全には納得できなかったが、それでも友介も黙って頷き、腰を突き上げ始める。

「あっ…………。アンッ…………………。凄く…………気持ちいい………………。恥ずかしくなんか………ない…………。私たちは、まだ…………動物………みたいな…………ものだから…………。平気っ…………。ナカガワ先生っ……………。お兄様…………、お姉様っ……………。見ていてくだ…………さ……………」

 腰を捩って、身をくねらせながら、性器の摩擦を強めて、胸を揉ませて、文乃ちゃんがよがる。悶える。声がだんだんと高くなっていく。

「見てっ………………ナカガワ先生っ……………………。お兄さまぁああああっ………………。お姉さまぁあああああああんっ」

 アゴを突き上げるようにして、文乃ちゃんが背を反らす。内腿に腱が浮き出るくらい、ビクビクっと強く痙攣した。弾かれるようにして、胸元のペンダントが踊り、朝日に光った。

 結局その後、2人はしばらく放心したように添い寝した。体力が少し回復したかと思うと、今度は文乃ちゃんは「お姉ちゃんの旦那さんとエッチしている私を罰して欲しい」と言い出して、ベッドの脇で四つん這いになる。友介にお尻が赤くなるまでスパンキングされて、嬉し泣きしながらイッたあと、ようやく少し冷静になって、朝食の支度にキッチンへ行く。友介がダイニングルームで朝食を口にすることが出来たのは20分後。結局仕事には少し遅刻することになってしまった。

 その日、文乃ちゃんは大学には行かず、自分の借りている部屋から、必要な荷物を友介の家に運び込む手配をしていた。昼過ぎには少し余裕が出来たようで、新しい服や下着を買ってきたらしい。

「どうですか? 明日はゼミと、休めない講義があるんだけど、…………この格好で大学に行ったら、変かな?」

 文乃ちゃんは自分でも恥ずかしそうにしながら、今日揃えたばかりの、新しいコーディネートを、帰宅した友介に玄関先で見せる。襟元のザックリと開いたタンクトップは、彼女の豊かな胸の谷間を強調してしまうくらい、ピッチリと肌に貼りついている。2サイズほど、彼女の体型よりも小さいように見える。みぞおち辺りまでしか隠していないそのタンクトップ(チューブトップ?)は、彼女のお腹やおヘソを完全に出してしまっている。ショートパンツというよりも、お尻の肉を3割ほど見せてしまっているホットパンツは、股下も随分と短いローライズで、後ろを見ると、紐のようなTバックが完全に見えていた(これは見えても良いタイプの下着だと、文乃ちゃんは言っている。友介にはその境界線は良くわからなかった)。

「ずいぶんと………大胆な服だね…………。その、セクシーというか…………。過激というか…………。文乃ちゃんの普段のイメージとは、だいぶ違うような…………」

 友介がドギマギしつつ、感想を口にすると、文乃ちゃんは自分でも俯いて赤面しながら口ごもる。髪の毛を弄りながら、自分の中にも葛藤があるといった口調で答える。

「……………本当は、…………もっとビッチな感じが出したくて…………。店員さんに、もっと肌を出せる服は無いかって聞いたんだけど…………。これ以上、布地が少ない服だと、注意されるかもしれないから、一枚羽織った方が良いって言われて………」

「ビッチな感じ? …………を、文乃ちゃんがなんで出したいのか、わからないけれど、………その服はちょっと、勉強しに行く服装じゃないような気がする。僕の感覚が、オジサンすぎるのかな? もうちょっと、考え直した方が、良いと思うんだけどね」

 若い女性のファッションについて、あまりアドバイス出来るような立場にはいないことは百も承知だが、園原文乃という知性と育ちの良さが滲み出るような美貌を持った、素晴らしい女性にとっては、今の服装は相応しいとは、とても思えない。こんな格好で友達の前に出たら、今までの文乃ちゃんの清廉なイメージを、壊してしまうのではないか。そう思ったから、友介は懸命な説得を、夕食の間も続けた。

「…………わかりました………。明日は、この格好じゃなくて………セクシーさは無くさずに、もうちょっと皆に言い訳がつくような服装を考えます…………」

 夕食の終わりに、ようやく文乃ちゃんは納得してくれた。まだ少し不満そうに、膨れっ面で俯いている。自分から友介のアドバイスを求めていたのに、気に入らない結論になったのでムクレている。若い女の子の、難しいところだった。まるで友介が悪いことをしているような気分になってくる。

「………じゃあ、そのかわり………。私のビッチな本性を吐き出しきって、明日スッキリして学校に行けるくらい、今夜も激しいエッチをしてくれますか?」

 俯いていた文乃ちゃんが、上目遣いでジッと友介を見る。断ることを許さないような質問の仕方。テーブルに腕を重ねて、その上に豊かなバストをのっけるようにして、友介の様子を伺う文乃ちゃん。俯き加減の体勢からは、胸の谷間がより長く強調されていた。もう少し見ていると乳輪の端まで見えてきそうな。その微妙な角度で友介の目を惹きつけている。文乃ちゃんは今、精一杯、友介を誘っているのだ。

「そ……………………そういう恰好とか、ポーズとか…………。大学でしたりしないって、約束してくれるなら…………。君の気が済むまで…………、協力するよ…………。出来る限りで、だけど………」

 結局、文乃の提案で、夕食を終えた2人はまだお皿も洗う前に、キッチンでセックスをすることになった。鼻歌まじりで機嫌良さそうに、せっかく買ってきたホットパンツに布切バサミを入れる文乃ちゃん。

「このパンツは室内で、友介さんとケダモノエッチがしたい時に、穿くようにしますね。こうやって穴を空けたから、ほら、ここからいつでも、おチンチンを入れることが出来るでしょ?」

 文乃ちゃんは嬉しそうに、クロッチ部分を切り抜いてしまったホットパンツを穿く。紐のようなTバックを少し横にずらすと、確かにパンツを穿いたままでも、彼女の濃い肌色のヴァギナが露出していた。立っているところを前から見ても、アンダーヘアーが穴からはみ出している。とんでもなく猥褻な恰好になった。

「私たち、自分がこれまで抑圧してきた願望とか欲求とかが今、グチャグチャになって噴き出してる状態だと思うんです。早くそれを認めて、吐き出しきって、心から満足してしまうことが、はしたない衝動を沈める、一番の早道みたい。恥ずかしくても、ヤラシイ自分を曝け出して、友介さんとぶつけあうしかないって、私、わかったんです。…………だから、友介さんも…………。お願いします」

 そこまで言って、文乃ちゃんはシンクの縁に手を乗せて、体を「くの字」に曲げると、背中を弓なりにして、両足を肩幅よりも広く開いて、腰を突き上げるような、突き出すようなポーズになった。タンクトップ(彼女はブラトップと呼んでいた)は捲られて、彼女の若いオッパイが、状態を床と水平にした彼女の動きに従い、下を向いて揺れている。ホットパンツのジーンズ地は彼女のお尻の山に押し上げられるように曲線美を強調し、その分股間のあたりが引っ張られるように穴を広げ、アンダーヘアーと性器の粘膜とを露出させている。そこに、思う存分出し入れしてくれとばかりに、文乃ちゃんが、腰を突き上げる。ホットパンツのほつれた裾からは健康的な太腿と長い脚が2本、綺麗な脚線美を描きながら大きく開いている。

 友介はこれが教団の罠なのではないかと疑いつつも、文乃の気が済むようにしてやりたいという思いの方が勝ってしまう。仕事着のトラウザーを下ろして、トランクスからすでにパンパンに膨らんだモノを出すと、彼女の腰骨を掴んでグッと自分のモノを彼女のヌルヌルした膣内に押しこむ。美しい顔だちは妻である雪乃とよく似ているが、よりシャープなあごのラインやスレンダーな体つきの文乃ちゃん。そして性格は妻よりもずっと快闊で理知的、気も強めなこの義理の妹が、数日のうちに性欲の虜のように変貌して淫らに友介を誘ってくる。その様子を見て、友介は激しく興奮してしまっている。『文乃ちゃんが大学で恥をかかないため、ここで気が済むまで発散させてあげるしかない』という、賢い彼女が持ち出した言い訳に、まんまと乗っかって、彼女をキッチンで犯している。そんな自分を歯がゆくも感じているが、どうしても、若くて美しい果実のような義妹を獣のように凌辱する喜びが勝ってしまう。もしかしたらこれも、ナカガワ先生によって晒された(増幅させられた?)自分の本性なのかもしれない。

 キッチンに喘ぎ声を響かせて、文乃ちゃんが果てる。友介が2回イク間に、彼女は3回イっていた。それまであまり性に積極的でなかった彼女の体が、オルガスムに向かうコツを掴みつつあるようだ。太腿を伝って下へと垂れる友介の精液と彼女の愛液とが混ざった粘液を、指で拭き取って口に含みながら、文乃ちゃんはそのことを嬉しそうに話してくれた。

 翌日彼女は、スポーツブラと、膝上までの丈のスパッツという、運動をするためのような格好で、大学に行くことにした。肌の露出はそれほど減っていないが、品位を下げるような過激なファッションという訳ではない。「朝にジムに通っていたら、うっかり講義の時間近くまで運動してしまい、慌てて大学へ向かってきたところ、着替えることも忘れてしまった」という言い訳まで準備してるところが、頭の回転の速い、彼女らしい対応だった。ゼミの指導教官からは「次から気をつけるように」と短く注意されたらしいが、キャンパス内の男子学生たちから全身を凝視された以外、大きな問題にはならなかったそうだ。

 大学から友介の家に戻った文乃に、さらに不可解なことが起こる。家に帰り、一息ついたばかりの彼女は、急にある場所に行きたいという強い義務感を感じたらしい。抑え込もうとしても、どんどんと大きくなって、彼女の心と頭を占領していく、その義務感。いてもたってもいられなくなった彼女は、スマホの地図アプリで住所を入力し、新しく購入した下着のなかで一番、煽情的と思われるものを身に着けて、白い信者服を被ると、スマホの道案内に従って、大急ぎでその場所へ向かった。そこは先日、集会で会った、絹田という男の下宿先だったらしい。文乃ちゃんは、どうしてもそうしなければならないという思いに掻き立てられて、まだ彼の部屋のドアを開ける前、2階への階段を上って204号室に辿り着くまでの間から信者服を脱ぎ始めて、ドアの前には深紅のブラジャーとショーツ、ガードルとストッキングというどぎついランジェリー姿で立ち、ノックもせずにドアを開け、部屋の中でゲームをしていた絹田の前に跪くために部屋に入った。

「お兄様。何でもします。未熟でまだ動物同然の、新しい子供である私を、どうかお導きください」

 そんな言葉が、ごく自然と文乃ちゃんの口から出たという。しかも言った後で、魂が温かく安らいだような気すらしたらしい。ゲームのポーズボタンを押した絹田は、文乃ちゃんの体を無遠慮に隅々まで凝視すると、ベタベタと長い時間をかけて触ったらしい。文乃ちゃんは本当は絹田のような男に体を触らせたくはないと思ったが、なぜか彼に肌を触られるたびに体の感度が上がっていくようで、最後にははしたない声を出して悶えていたと、恥かしそうに友介に打ち明けた。

「この下着は、君が自分で選んだの?」

 と絹田に聞かれて、店員にリストアップしてもらったいくつかの候補から、自分が一番ヤラシイと思ったコーディネートを選んだと、正直に答えると、絹田はヘヘヘッと笑ったらしい。「高学歴お嬢様ってな顔をしていても、やっぱり俺が見込んだ通りのエロ女だな」と言って喜びながら、文乃の下着を一枚ずつ、脱がせていった。しかし肘のあたりにブラのストラップをひっかけたままにさせたり、ショーツを足首に残したり、太腿までを覆う網タイツ型のストッキングと腰のガードルはそのままにさせたりと、みょうなコダワリを持った脱がせ方をしたそうだ。そして文乃ちゃんの体に貪りつく。舐めたり甘噛みしたり強く胸を揉みしたいたりして、がっつくのだが、前戯は短い。すぐにペニスを文乃の秘部に押しこんで、何度か腰を振る。すると疲れてしまったかのように、アッサリと射精してしまい、ペニスを文乃のナカから抜いてしまう。ドロドロになったモノを、文乃ちゃんに口で綺麗にするように指示すると、満足そうにその作業を見下ろしていた後で、彼女に、まだムラムラしていたら、ベッドに登って一人でオナニーするようにと告げた。

 男に媚びるように誘うように、自分がどれだけエロい女か、最近、同居している義理の兄とどんな破廉恥なことをしているかなど、丁寧に説明しながらオナニーしろ、と命じられて、文乃ちゃんはその通りにしてしまった。本当はそんなことをしたくないと思っていたのだけれど、携帯で録画を始めた絹田の前で、足を開き、自分で自分を慰め始めてしまう。気持ちの良いところを触っているうちに、どんどん他のことは考えられなくなり、懸命に絹田の指示に従ってオナニーを披露してしまう。朝から姉のパジャマを脱いで友介とシタこと。男を誘う過激なファッションに身を包んで、友介とキッチンでシタこと。スポーツブラとスパッツだけ身に着けて、キャンパスを歩き回ったこと。その間も男性のゼミ仲間や同級生、見知らぬ男子学生の視線を感じて、妙な興奮を覚えたこと。全て赤裸々に語りながら、最後は両手の指でヴァギナとクリトリスを刺激して、胸を寄せて捩るようにしてイってしまった。その一部始終を絹田に撮影されてしまったということを、文乃は帰宅後の友介に教えてくれた。喋っている間、悲しそうに、悔しそうな表情をしながらも、どこか目が潤み、顔が上気している。呼吸が荒くなって、話が途切れてしまうこともあった。

「聖家族の魂は皆どこかで繋がっていて、循環しているの。けれど大きな流れの方向はあって、位階が上の人から、下の人へと流れていく。だから、位階が上のお兄様やお姉様が、生き物としてどうしても煩悩や生理的な欲求を持ってしまう時は、出来るだけ早く発散してもらう。そうした方が、私たち、下の位階の信者にも、清らかな魂のエネルギーが流れ込んでくるんです。だから、お兄様やお姉様の発散のお手伝いをするのは、結局は私たちのためになるの」

 文乃ちゃんは友介に、まだウットリとした表情でそう熱弁する。

「それは、文乃ちゃんが本気で思っていることなの? それとも、絹田という奴から聞かされたことを、そのまま受け入れて、話しているの?」

 友介が聞くと、文乃ちゃんは友介の顔をジッと見て、素敵な笑顔を見せた。

「私も最初は、あの人が適当なことを言って、私を弄んでいるのかと、少し警戒したんだけれど、でも言葉や頭では人を騙せても、魂まで誤魔化すっていうことは、出来ないんじゃないかな? 本当に、私の魂が、共鳴するというか、彼の言葉が染みこんでくるというか、本当にスッーっと私のお腹に降りてくるの。それに私、思い当たることがあって………」

 今では友介を諭すように、文乃ちゃんは話しかけてきている。少しずつ、友介との距離を縮めてきた。

「この前、ナカガワ先生が言いましたよね? 友介さんは私を連れてきたということだから、布教に協力したとして、私より1つ上の位階を授かったって。だから、さっきの絹田さんの言葉を聞いて、納得がいったんです。私、貴方が生理的な欲求を頂いた時、一番身近にいる下位の信者として、そのことを魂で感じるんです。そして、その欲求を発散させてあげたい。私で満足させたいって、強く思う。だから友介さんが私を見て興奮してくれた時、私の触って喜んでくれた時、私のナカでイッてくれた時………。いつも、すっごく幸せな気持ちに包まれて、天国の一部になったみたいな嬉しさで、体と心が蕩けていくんです。これもきっと、上位の貴方から流れる魂のエネルギーが、清浄化された効果なんだと思います」

 大胆に、友介の顔の至近距離まで、自分の顔を近づけた文乃ちゃんは、ニッコリと微笑んだ。

「友介さん。………今までの私の話を聞いて、少し興奮してますよね? 男の人として、魂がたかぶっているいるところが、私にも感じられますよ。………嬉しいです。私のことを想像して興奮してくれたり、私が他のお兄様に弄ばれた話でジェラシーを感じてもらえて………」

 文乃ちゃんは少し顔を横に傾けながら、目を閉じつつ口を近づけて来て、友介と唇を重ねた。彼女の細い指が、友介のズボンの上から股間を撫でる。彼のモノが固くなっているのを確かめながら、唇から舌を入れてきた。自分からディープキスを求める。抱きついて友介の手を取り、自分の胸へと導いていく。

「文乃ちゃんは、大丈夫なの? ………そんなにシテいて………。体が辛かったりしない?」

 友介が、キスの合間にやっと口の自由を得て、美しい義妹に聞く。文乃は両手で友介の頬を包みこみ、熱に浮かされたような眼差しで彼を見た。

「心配してくれるの、嬉しい…………。けど、気にしないで。私も…………、友介さんも、今は『発情期』だから、何回シテも、体を壊したりしないんだって………。私たちは魂を活性化して頂いているおかげで、性病にかかったり、望まない妊娠をしたりもしないって、教えてもらったの。だから、気が済むまで。心が求めるままに、私たちはセックスに励めばいいの。まずはこれまで、自分を偽って抑えつけてきた、動物的な本能を、発散することだけ、考えていればいいの。そうしているうちに、魂の穢れが薄まっていって、もっとお兄様やお姉様のお導きが容易くなっていくの」

 喋りながら、文乃ちゃんは器用に友介の服を脱がしていく。友介も、彼女と手分けしてシャツもトラウザーも脱ぎ捨て、トランクスも足首から蹴り飛ばす。文乃ちゃんは信者服を捲り上げ、頭と腕を抜き取ると、煽情的でイヤラシイ、深紅のランジェリー姿になった。ガーターベルトと網模様のストッキングを実際に身に着けた女性を見るのは、本当に珍しい気がする。この姿を、美しい義妹は絹田という根暗そうな青年に見せ、体を捧げたのかと思うと、さらに友介は嫉妬にたぎってしまった。

 2人で抱き合いながら、ベッドに倒れこむ。主寝室のクイーンサイズベッドは、友介と雪乃が夫婦生活を営み、愛し合うために使ってきたものだった。その上で、友介は今、妻の妹を貪り、凌辱して、自分の性欲を満たすためだけに使う。そのすべてを文乃は誘い、受入れ、喜びにするために、淫らな下着姿でベッドに転がり、体をくねらせて友介を求める。下着を乱暴に剥ぎ取るように脱がして、口と手と、全身で彼女を責める。激しく絡み合っているうちに、2人の汗が混然一体となって、シーツに落ちていく。やがて、汗よりも他の体液の方が、シーツに染みていく量が増えていく。2人で動物のような激しい呼吸をして、お互いの体を求め合った。今度は友介が4回イクあいだに、文乃は6回イった。最後は文乃の提案で、夜のベランダに出て、通行人に見られるリスクに興奮しながら、バックでハメて腰を振った。文乃は喘ぎ声を漏らさないように、自分の口に腕を噛ませて、悶えながら腰を振った。

 。。。

 翌朝、友介が目を覚ました時、文乃ちゃんは「昨日の夜に暴れちゃったおかげで、今朝はだいぶ落ち着いてます」といった。それでも、雪乃のパジャマシャツだけを身に着けた格好で、友介のベッドに忍び込んでくる。文乃は丁寧なフェラチオで友介を導いたあとで、友介の手を取って、シャワールームに誘い込んだ。友介の体にシャワーを浴びせながら、タイルに両膝をつけて、丹念に彼のモノを洗う文乃。自分の体は後からでも洗えるから、と言って、仕事がある友介の体を洗うことを優先させてくれた。

「いってらっしゃいませ。お兄様」

 バスタオルで体を拭いたあと、当たり前のような顔で白い信者服を着こんだ文乃は、朝食後、玄関で正座して、三つ指を床につけ、深々とお辞儀をして友介を見送った。

 この後の、文乃に起こった出来事は全て、友介が帰宅してから、彼女が話してくれたことだ。文乃いわく、朝食の後片付けをして、部屋の掃除をした。掃除機をかけ終え、窓でも拭こうかと思ったところで、また彼女は新しく、強い義務感を抱く。それは空から降りてくる天啓のように、急に文乃の心を埋め尽くす。魂が震えて、受け入れる。すると、文乃は他のことなど考えていられなくなり、直ちに行動を起こしたくなる。焦る手で、スマホをとって、地図アプリを立ち上げると、今、突然思いついた住所を検索する。財布とスマホだけを手に、そのまま家を飛び出していた。

 停留所4つ分、バスに乗って、高級住宅地に着いた文乃は、地図アプリに導かれながら、1つの高級そうな低層マンションに入る。玄関のドアのところで、思いついた部屋番号と呼び鈴ボタンを押すと、「ハーイ」という、陽気そうな外国人男性の声がした。自動ドアが開き、専用エレベーターが使えるようになったので、3階へ上がる。気が急いていた文乃は、人目もはばからず、白い信者服を脱ぎ始めながら、ドアへと駆けていた。誰ともすれ違わなかったのが、彼女の幸運だった。

「イラッシャーイ。アヤノさん。今日もとってもチャーミングですね」

 ジェイクと名乗ったアメリカ人の白人男性は、前の聖家族教会の集会で会った人だった。文乃が恐縮していると、近づいて鷹揚にハグをするジェイク。顔を文乃の横まで寄せると、耳元で囁きかけた。

「謙譲はニッポン人の美徳ですが、文乃さんは遠慮しすぎ。少し心配しすぎですね。もっとポジティブに、変化を楽しんで、人生をエンジョイしてください。貴方はとってもセクシー。それを恥ずかしがって、隠したりしないで、ハッピーになりまショー」

 その言葉に、魂が震えるほど感動して、完全に同意したという文乃は、自分でも性格が鮮やかに変わったような気がして、ジェイクさんに自分から抱き着く。皺の深い頬にキスをすると、彼もキスを返す。気がつくと、信者服も下着も脱ぎ捨てて、生まれたままの姿で彼とチークダンスを踊っていたらしい。

 一通り、感動を表すチークダンスが済むと、文乃は他人の家にも関わらず、遠慮なくジェイクさん特注の、天井から床まで固定されたポールによじ登る。足を絡ませて自分の体重を支えながら、即席のポールダンスを披露してみせた。

 大きなオーディオセットを操作するジェイクさん。音楽好きらしい彼と、2時間くらい様々な曲に合わせて踊り狂う文乃。ハードロック、フレンチポップ、ハウス、テクノ、K-POP、日本のアニメソングと、リビングのローテーブルに乗ってまで踊りまくる文乃ちゃん。ジェイクさんも歳の割には文乃のダンスにかなりついてきて、途中からタンバリンを鳴らしたり、部屋の中でシャボン玉を飛ばしたりして、彼女のダンスショーを盛り上げた。途中で彼女の意識がブラックアウトしそうになる。酸欠のせいで、立ち眩みを覚えるまで、彼女は全力で踊り続けていたのだった。

 30分もソファーで寝ていた文乃ちゃんに、ジェイクさんは蜂蜜入りのレモネードを出してくれた。そして彼女が「もう大丈夫」と伝えると、奥の部屋のクローゼットから、オカッパ黒髪のカツラと、妙にテカテカした素材で出来た、丈の短いキモノを持って来た。

「文乃さんはセクシーなゲイシャのルックスも似合うと思いマス。女体盛りもエキゾチックでとても素敵」

 芸者の理解が間違っていると思ったが、これまでにやったことのないことは、何でもチャレンジしたい気分だった文乃ちゃんは、悪戯っぽく微笑んで、ジェイク「お兄様」のオファーに乗る。日本人形のようなオカッパ髪のウィグをつけて、裸の素肌に薄い着物を中途半端に羽織って、アクロバティックなポーズを取っているところを、ジェイクさん愛用のカメラで何枚も写真を撮られた。折り紙で作った鶴を手に持って、その折り鶴のくちばしの部分で文乃ちゃんが自分の乳首を突いているシーンを、何度も繰り返すようにディレクションされた。

 昼食の時間ということで、文乃はローテーブルの上に寝かされる。テカテカのキモノを両肩に引っかかったのみの状態、テーブルクロスのように敷いて上に寝そべった彼女。さっき滝のような汗をかいて踊りまくっていた彼女の素肌に、ペタペタと寿司が置かれる。主にカリフォルニアロールのような、逆輸入タイプの寿司だった。大の親日家を公言するジェイクさんは、文乃の裸の上に「スシ」を並べて、一通り美味しそうに食べると、最後に日本酒を使って「ワカメ酒」を文乃に提供させる。ペチャペチャズルズルと、彼が舌を動かしたり彼女の股間に溜まった酒をすするたびに、文乃まで酔っぱらったような気分になってしまったそうだ。

 午後は石鹸の泡が溢れるジャグジーで、長い時間をかけて、じっくりと2人でペッティングをして、お互いの体を愛しみあった。お酒と入浴のせいで、体をリンゴのように真っ赤にさせたジェイクさんは、文乃を労わりながら、色んな話をしてくれたそうだ。教団のこと。信者の間の位階という身分の違いのこと。そしてジェイクさんが想像する、友介の妻、雪乃さんの行方について。

「本当に、そのジェイクというジイさんが、雪乃のいる場所を知っているっていうの?」

 帰宅直後、玄関先で立ったまま今のところまで聞かされた友介は、足の疲れも吹き飛んだ。

「うんん。ジェイクお兄様は、正確に雪乃お姉ちゃんがいるところを知ってるわけではないって言ってたけれど、私の姉と伝えると、…………私くらいチャーミングなお姉さんなら、きっとセノオ主教が囲っているんじゃないかって、思い当たったんだって」

「セノオ主教? …………誰? ………今まで、話に出て来てない奴だよね?」

 気がついたら友介は、両手で文乃ちゃんの肩を掴んでいた。妻の居所に関わる情報を、早く、少しでも多く欲しかった。…………しかし、そんな友介を、焦らすかのように、文乃は悪戯っぽく微笑んだ。

「……………ウフフ。お姉ちゃんのことも、大事なんだけど。………ジェイクお兄様、私のこと、その時もチャーミングって言ってたんだよね………。ウフフフ。嬉しい。…………もっとサービスしてあげれば良かったかも………」

「文乃ちゃん?」

 文乃の思考の道筋についていけていない友介が混乱する。その友介の唇に、チョンっと人差し指を押し当てたあと、文乃は笑った。

「お話の時間はここまで。………それよりも、友介さんに見てもらいたい、ショーがあるの。話はその後。まずはショータイムッ」

 鼻歌を歌うように、友介の手を引いて、リビングへ進んでいく文乃。薄暗いリビングは間接照明だけが点けられていた。

『園原文乃セクシーダイナマイトショー』

 と書かれた手作りのバナーと折り紙で出来た鎖に飾り付けられた部屋の真ん中で、文乃が白い信者服を捲り上げると、光沢のある深い青色のスリップが顔を出す。彼女は嬉しそうに青いハイヒールを室内で履いて、リモコンを操作する。オーディオが官能的な曲を流し始めると、文乃ちゃんは自信満々の表情で、体をクネらせ始める。左手で髪をかき上げ、右手では悩ましい手つきで自分の体を撫でまわす。体のラインをはっきりと見せる、薄くて丈の短いスリップの中から、左右に振るお尻のかたちがくっきりと浮き出る。

「文乃ちゃん、ショーはいいから、雪乃の話を先に………」

 友介が言いかけても、文乃は人差し指を自分の唇の前に押し当てたあと、「チッチッチッ」と指を左右に振る。かわりにスリップの裾をまくって、お尻を半分ほど友介に見せた。これで男は皆、全てを忘れて自分に魅了される、と、信じ切っているような自信満々の表情だった。溜息をついてソファーに沈みこんだ友介は、文乃の気が済むのを待つことにする。その友介の両方の太腿を跨ぐようにソファーの座面に膝立ちになる文乃。ナルシスティックなほどに気持ちのこもったラップダンスが始まった。

 スリップから胸の谷間を見せたり、オデコ同士をくっつけ合った状態からペロリと友介の鼻筋を舐めたりと、あの手この手で友介の気を引き、自分のセクシーさで悩殺しようと試みる文乃。早くラップダンスを終わらせてもらって雪乃の話を聞きたい友介と、しばらく小競り合いが続いたが、スリップも放り投げた文乃がさんざんオッパイを友介に押しつけた後で、ようやく曲が終わる。文乃は恭しくお辞儀をして、ラップダンスを終わらせた。

 やっと雪乃の話に移れると思った友介だったが、義理の妹がキッチンから持ってきたのは、リキュールやハードリッカー。そしてソフトドリンクだった。

「カクテルタイムが終わってから、またトークの時間になります」

 わざわざオーディオ機器とエコーの効いたワイヤレスマイクの声を通して告知した文乃。嬉しそうに自分の口にテキーラを含み、友介の口にオレンジジュースを含ませて、唇を重ねる。2人で口の中身を混ぜたり、混合物を往復させたりしながら、ゆっくり飲んでいくのが、彼女のショータイム中のカクテルタイムという企画らしかった。

 テキーラサンライズ、モスコミュール、カルーアミルク。文乃ちゃんと友介は唇を重ねてクチュクチュとお互いの唾液も混ぜながら、カクテルづくりに励む。味わいながら飲んでいく。確かに、高級クラブかショーパブででも披露すれば、観客に受けそうな、セクシーなサービスだった。

「一流のカクテルと、一流のバスト。魅力的な女の体の触り心地。心ゆくまで味わってネ」

 ずいぶんと自信に満ちた紹介を、恥かしげもなくする文乃ちゃん。言葉の最後は、少しイントネーションが変わっていた。酔ってきたのだろうか? まるで彼女まで日本語を覚えた外国人のような口調になっている。4杯目のカクテルを作り終え、飲み終えると、やっとトークタイムになる。

「文乃ちゃん。さっきのセノオ主教って誰なんだ? ナカガワ先生よりも偉い奴なのか?」

「ナカガワ先生は、私たちの教会では『司祭』の仕事を兼務しているけれど、本部では『主教』でもあるって、ジェイクさんが言ってたわ。だから、多分同格よ。ちなみにペガサス聖家族教会は、大きく分けて、総主教、主教、司祭、洗礼済信者、子供たちのリーダー、新しい子供たちっているんだって。私は一番下っ端………。ウフフ。だから、友介お兄様の言うことも、何でも聞いちゃう。可愛がってネ」

 また少し、語尾のイントネーションが外人っぽくなっている。

「それでナカガワ先生と同格の、セノオ主教っていう奴が、きっと雪乃を連れて行ったと、ジェイクは言っているんだね?」

「………そう。ナカガワ先生とセノオ主教猊下は、教区が近いから時々情報交換するんだって。で、そのセノオ猊下はすっごく面食いで、新顔好きで、ヤラシイんだって。教団の偉い人だから、魂はすっごく清らかなはずなのに、不思議ね」

「セノオの教区はどこで、そいつは普段、どこにいる?」

「そこまでは、聞いてないなー。そこからジェイクさんとは、シェイプアップの話になっちゃって………。あ、私、彼にお尻を振る、トゥワークダンスを教えてもらうことになったの。だから、この前のスポーツブラとスパッツは、結局手に入れておいて良かったなって………」

「もっと真面目に答えてくれよ、文乃ちゃん。それじゃ、雪乃の行方は………」

 タイマーがセットされていたらしく、オーディオが別の曲のイントロを流し始める。文乃は出番前のアーティストのように、小声で友介に打ち明けた。

「ゴメンね。トークタイムはおしまい。歌の時間の始まりヨ」

 マイクを手にして、肌も露わなスリップ姿の文乃は、体をくねらせながら、熱唱を始める。『アヤノはセクシーダイナマイト』という、自分で作ったらしい歌だった。発音はハーフの人が歌うようだった。このお尻を振って胸を揺する、挑発的な振りつけも、自分で今日考えて、練習したらしい。友介は呆然と、あの理知的で慎ましく、自分をはっきりと持っていた女子大生の変貌ぶりを見せつけられていた。

 結局その日の夜、友介はそれ以上、雪乃についての情報を文乃ちゃんから得ることは出来なかった。彼女が自作した自分自身のテーマ曲を聞かされたあとで、彼女の体に垂らしたワインを舐めるように飲まされた。そんなことを続けているうちに、それほど酒に強くない友介は、すっかり酔っ払って、前後不覚になってしまったのだ。結局、文乃と抱き合って、お互いの体を貪りあいながら、ソファーで寝てしまった。

 。。。

 翌朝、目が覚めると、ソファーで眠る友介の体には、タオルケットがかけられていた。二日酔いに痛む頭を押さえながら友介が体を起こして呻く。その音を聞いて、雪乃の部屋のドアが開く。文乃が、俯き加減に部屋から出てきた。

「……………昨日のこと…………。全部忘れて欲しいんですけど………」

 友介はそれを聞いて、微笑んだ。文乃が正気を取り戻していることがわかったからだ。

「あ………うん…………。そうだね………。昨日は、相当…………。ジェイクっていう人の影響を、直接受けちゃってたのかな? ………喋り方まで、少し訛ってたし…………。気にしないで」

「………多分その、絹田お兄様にはまだ、私に対する、意地悪というか、悪意みたいなものがあったんだけど、ジェイクお兄様は真正面から、私のためって信じて、善意で魂を震わせて来ちゃったんで、あそこまで、私の魂から影響受けちゃったんです………」

「他の、新しい信者の人たちも、みんな文乃ちゃんくらい、翻弄されてるのかな? 日常生活が無事保てているのかすら、心配な感じなんだけど………」

 友介が、他の人の話に、擦り替える。文乃が羞恥心に苛まれているところを、少し関心をズラしてあげる。友介なりの優しさだった。

「私たちと………、あと多分、あの時一緒にいた、学校の先生は、魂が他の人たちより、強めの支配を受けていると思う。ジェイクさんも言っていました。最初から態度が敵対的だったり、懐疑的だったりする人は、よりガッチリと支配したり、強めに性格を曲げたりして翻弄するって………。多分、私たちが外に訴えても、私たち自身に信用や説得力が弱くなっていくように………。カルトって、本当に厄介な存在ね。私が思っていたよりも、もっともっと強大で、本当に非現実的な力を持っていた。…………私は、迂闊でした………。私のせいです。ゴメンなさい」

 今朝の文乃ちゃんはやはり、少し元気がない。絹田という男に対しては反発心が文乃ちゃんを支えたのだろうが、ジェイクという外国人男性は、まるで悪気が無い様子で、彼女を豹変させてしまった。そのことの方が、文乃ちゃんへのショックは大きかったのかもしれない。

「けれど、君のおかげで、雪乃の居場所のヒントが掴めつつある。僕一人では、オロオロしているだけだったと思う。本当に、ありがたいと思ってるよ。………何とか頑張ろう。幸いなことに、1日たって、君も僕も正気だ」

「…………ムラムラは…………、あります? 友介さん」

 聞かれて、否定しようと思ったけれど、股間を見下ろして溜息をついた。

「うん…………。ほぼ、正気ではあるけれど、やっぱり、性欲は数倍解放されたままみたいだ………」

「私もです…………。早く、出しちゃって、完全に正気に戻りましょう。口でするので、良いですか?」

「うん…………。多分、すぐ済むと思う。昨日の文乃ちゃんを思い出すと、もうイキそうになるよ。…………歌も上手だったし」

 フェラチオを始めようとしていた文乃が、口をパクっと閉じて、上目遣いで友介を睨む。お尻をギュッとつねられた。

「忘れてくださいって言ったでしょ。………自分で自分のセクシーテーマ曲とか作って、歌って踊ったとか…………。ホント黒歴史ですっ。一生言わないでくださいっ」

「わ、わかった。わかった。一生言わない。2人だけの秘密だ」

 友介が慌てて言うと、文乃ちゃんは溜息をついて、怒りを収めた。

「2人の秘密………、増えていきますね。……………早くお姉ちゃんも戻って、私たちも、普通の義理の兄弟に、戻れると良いですね…………。頑張りましょう」

 そこまで言って、フェラチオを始めた文乃。友介をソファーに押し倒すようにして自分に身も預けると、今度はソファーの上で、友介のモノを口で愛撫しながら、体を回転させて彼の顔に跨る体勢になる。友介はソファーの座面に寝そべりながら、文乃の、だらしなく愛液をトロトロ垂らしているヴァギナを指で刺激してあげる。文乃がフェラチオをサボらずにも、ヒクついて悶える。友介の新しい日常になりつつある、朝の文乃との性欲発散のルーティーンだった。

<つづく>

4件のコメント

  1. カルト側だ!
    こっちの仕組みはオカルト側のオマジナイとはちょっと違って、団体全体で一つのメソッドを共有して活用しているんですね。
    もちろん根本としては同じものを操っているのかもしれませんが、こういう表現の違いがあるのは大好きです。
    集会から解放された後もしっかり教団の思惑通りに操られてる描写がMC的にそそります。
    今後の展開も楽しみにしています。

  2. 今回はカルト側
    絹田さんが一人で暴走するかとも思ったけれど、上位者がみんなして洗脳していく形でぅねぇ。
    むしろ重要人物セノオ主教がこのさきどう関わってくるのか楽しみでぅ。

    カルト側は系統立てられたオマジナイとは違い、アカシック・レコードとか集合無意識みたいに魂か何かが一つにつながってるというところからのMCでぅね。
    とはいえ、その中での平等はなく明確に順位付けされて上からの命令には逆らえないというのがまたエロい妄想を掻き立てられますでよ。
    セノオ主教も気になりますが、総主教は一体どんな思いでこのカルトを設立したのかとかどんなエロいことをしてるのかかなり気になりますでよ。
    まあ、この地区だけで完結する可能性も高いから総主教が出てくるとは限らないんでぅけどw

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~

  3. あぁ~寝取られで脳が破壊されるんじゃ~。

    被害者ポジなのに美味しい思いをしている友介さんがこの後どうなっていくのか注目です。ヒドイ目にあっているであろう女性教師さんとその生徒さんの様子も気になるところですが、蓮君はとほほ・・・のヒキのまま今週はおあずけ。
    来週はどの視点のお話になるのか分かりませんが、ワクワクしながら待ってます。

  4. >ティーカさん

    カルト側ですっ。今回、オカルト側とカルト側で端にわかりやすい現象の違いを設けずに、
    何となく近かったり遠かったりする操り方をしながら、グチャグチャしていけると良いなと思っておりました。
    この先どうなるか、書きながら考えてまいります(笑)。引き続きよろしくお願いします。

    >みゃふさん

    色んなジャンルの名作がひしめく、米国のEMCSAにも、カルト洗脳の話ってそんなに多く載っていない印象なんですよね。
    向こうでは身近で不気味過ぎて、エロとして消費出来ないのかもしれません。
    つくづくこのジャンルって、皆さんそれぞれのタブー意識とMCのツボとが偏在していて、面白いですよね。。。。
    毎度感想、ありがとうございます。本当に励みになります。

    >慶さん

    寝取られごめんなさい~。魂の共有まで行ってますから、どうしてもこういう話も出てまいります。。。
    連は連で色々とクラブのフォローが入っていると思いますので、オカルト側は能天気な感じでお読み頂ければ、
    たぶん大丈夫と思いますです。よろしくお願いしますです。

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