オカルトオアカルト 4話

<オカルト? > 服部麻帆 高校2年生

 放課後、席の近い男女のクラスメイトでお喋りをしていると、教室に入ってくる2人の男子の影があった。一人は麻帆の良く知っている、ヒョロっと背の高い先輩。3年生の蓬田誠吾先輩だ。麻帆は嫌な予感を感じて、背筋をビクッとさせる。当の蓬田先輩は麻帆のそんな気持ちにも全く気付かないような顔つきで、横に連れた男子に声をかける。見慣れない男の子。体つきはガッチリとしているが、顔は童顔。多分1年の子だ。

「ここのクラスにも、僕の『契約』のお客様がいるんだ。ちょうどいいサンプルになると思って。…………あ、いたいた。マホちゃーん」

 蓬田先輩が廊下の窓から上体を教室内に入れて、能天気に呼びかけてくる。一瞬、麻帆は聞こえないふりをして、サッサと下校してしまう誘惑にかられた。それでも、蓬田先輩の次の言葉を聞かされると、そんな気持ちがシュルシュルと縮んでしまう。

「マホちゃん、『契約通りに』、部族の習慣を向こうの空いてる教室で見せてよ。うちの新入部員に見学させたいんだ」

「………あ……………………………、は、はいっ」

 聞こえない振りをしようと、屈んで体の向きを反らしていた麻帆が、思わず気をつけの姿勢で直立してしまう。申し訳なさそうな顔で、教室の中を見渡して、友達と、彼氏の名前を呼んだ。

「ユウマ君…………、ミヤビ……………、ケンタ………………。ごめん………。部族の用事………」

 麻帆が目で謝りながら呼びかけると、彼女のクラスメイトで彼氏の近藤佑馬。親友の藤倉雅、そして男友達の梶田謙太が立ち上がる。みんな、曇り顔を見せながらも、二つ返事で付いてきてくれる。麻帆たち4人の2年生の後ろから、両手を頭の後ろに組んで、鼻歌を歌いながら呑気そうに蓬田先輩が付いてくる。

「結構、ルックスが良い4人組でしょ? ………この4人が、僕の『契約』のお客様。………あ、もっとも、きちんと締結してくれたのは服部真帆ちゃんだけか。あとの3人は巻き込まれというか、団体契約だね。………みんな、僕やオマクラのメンバーがお願いすると、『裸族』になって、その面白い生態を紹介してくれるんだ」

「裸族…………。現代日本で…………。この先輩たちが、っすか?」

 1年の男子が質問すると、蓬田先輩は頷くかわりに、振り返った真帆にウインクをする。麻帆は腹立ちまぎれに、空いている教室の扉を力任せに引き開けた。

「…………コホン………。えー…………、その………、ただいま、ご紹介に預かりました…………裸族の服部真帆です。願いごとを叶えてもらうかわりに、そういう新しい生活を受け入れるっていう契約を…………。本当は知らなかったけれど、結んでしまいました。…………あの、こんな感じで………………、プライベートでは、問題にならない範囲で…………、全裸で生きてます」

 藤倉雅が用心深く扉を閉めるのを横目で見つつ、麻帆は部族の代表者として、蓬田先輩とその後輩君に、恥かしい説明をしながら制服を脱いでいく。自分の顔が赤く火照っていくのがわかる。けれど恥ずかしさを押し殺して、セーラー服の上着の後はスカート、上靴と靴下の後はブラにショーツと、テキパキと脱いでいく。麻帆の彼氏、佑馬君も、そして男友達の謙太も、さらには2年4組で一番可愛いと言われる藤倉雅までも、スルスルと服を脱いで肌を晒していく。皆、裸族になって半年もたつと、裸になる工程も非常にスムーズだ。

「き、今日は、私たち裸族の村へようこそ。歓迎の儀式をご覧ください」

「エッホ、エッホ、エッホ、エッホッ」

「アーーワワワワワワ」

「ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、」

 全裸になった2人の女子高校生と2人の男子高校生が、自分たちで創作させられた、裸族伝統の踊りを披露する。思春期の男女が初対面の後輩の前でするような恰好ではないので、全員、顔は真っ赤だが、それでも「自分が誇り高い裸族の一員だ」という意識だけはなぜかはっきりと持っているので、踊り自体は一生懸命、手を抜かずに踊る。大地を踏み鳴らしたり、ステレオタイプのインディアンのように手と口で音を出したり、有名な劇団が演じるライオンキングという演目を模したような動きを見せたりと、それぞれが自分たちで割り振ったパートを熱演する。

 蓬田先輩はニコニコ笑いながら、手拍子で4人の全裸高校生たちの恥ずかしさを押し殺した熱演を盛りたてる。本当に喜んでいるのか、本心が読めないところが怖い人だ。何しろ、この恥ずかしい契約へと麻帆と友人たちを追い込んだのは、その時もニコニコしていた、この蓬田先輩なのだ。そして彼は今も、屈託なく手拍子をしている。そこがまた、妙に怖い人だと麻帆は思った。

 一方で蓬田先輩の隣に立っている1年の男子は、恥かしそうに顔を伏せながらも、チラチラとこちらを見てくる。初対面の目が合うと全裸の麻帆としても恥ずかしいので視線を下に向ける。するとこの子の股間がギンギンにいきりたっていることが、制服のズボンの上からもはっきりわかった。頭がボーっとするほど恥ずかしい。けれど、異性が麻帆の裸を見て興奮しているということは、彼女の部族にとっては名誉なこと(らしい)ので、秘かに喜んでしまっている自分もいる。そんな麻帆の気持ちを知ってか知らずか、彼女の真後ろで、大好きな彼氏、佑馬君は雄々しく跳ね回って女性ダンサーの演技をサポートしている。

「こないだの葵が教えた召喚のオマジナイだと、ミスると結構、後始末が大変になるよね。うちのクラブは航大のジオラマがあるから、一度に大勢の記憶を操作したりも出来るけど、あれもそんなに頻繁には弄れないからね………。その点、きちんと契約を交わしておけば、後で騒ぎ立てたりとかもしないで、こんな感じで遊び相手になってくれるんだ」

 美少女の雅と、麻帆の2人が前へ出て、蓬田先輩と1年の男の子に自分たちをアピールするように肩を揺らし、胸をブルブルと揺する。別にしたいからしている訳では無いが、これも契約なのだから仕方がない。多額の奨学金を負った学生が、勉強を頑張るしかないのと、同じようなものだ。2人で(背中に彼氏の視線を感じながら)、交互にお客様である男の子の前で、顔にあたるくらいの距離で胸を揺らす。腰をクネらす。サバンナに生きたご先祖様たちから受け継いだ、生命の賛歌なのだから、恥かしがってばかりはいられない。

 リズムをとって体を上下させると、麻帆の胸は恥かしげもなく、ブルンブルンとダイナミックに揺れる。この豊かで形の良いバストが欲しくて、麻帆は半年前、蓬田先輩と契約を結んだのだ。魅力的なバストを得て、大好きな近藤佑馬君と結ばれたい。契約の結果、その夢は半月もたたずに叶えられたが、同時に、知らなかった付帯事項や、細かな団体契約までついてきていた。その結果として、服部真帆は今、見事なEカップの胸を曝け出して、『裸族の族長』の役を演じさせられている。

 隣の雅は、とばっちりだ。スレンダーな彼女の胸はAカップ。華奢な美少女である彼女にとてもよく似合っている、可愛らしいオッパイだが、こうして色んな人の前で披露しなければならなくなったことについて、雅は親友の麻帆を恨んでいるはずだ。それでも、雅が秘かに好きだった謙太と結ばれることになったのも、こうして同じ部族の仲間として全裸で過ごすようになったからなのだから、そこは麻帆としても、少しは恨みを相殺してもらいたいと、思わないでもない。

 懸命に踊り回り、転げ回り、跳ね回って全裸の4人が服を着た男の子たちへ歓待の意を表す。最後に決めのポーズを取ると、蓬田先輩も、1年の男の子も、思わず激しく拍手をする。アクロバティックなポーズを決めたまま、荒い呼吸に胸を揺らす、全裸で汗ダクの仲良し2年生4人組。全員、裸族としては喜びと誇りと達成感を、そして本来のスクールカースト上位の男子女子としては、恥ずかしさと情けなさを。複雑に絡みあう心境と折り合いをつけながら、とりあえず麻帆のきっかけで全員お辞儀をしてみせた。

「すごーい。………本当のライオンキングの舞台みたい。…………なんか、前より上手くなってるっていうか、迫力が出て来てるよね。………裸族の自覚が芽生えてきてるっていうか………」

 蓬田先輩が、褒めているんだか、よくわからないコメントをくれる。裸の4人はお互いの顔を見合わせて、複雑な気持ちを確認し合うしかなかった。

「わ………私たち裸族にとって、訪問してくれたお客様を歓迎して、交流するのは大切な文化の一部です。まず、伝統の舞踊を見てもらい、お客様の気持ちを温めたあとで、お、お互いに体を重ねて、心を交わらせます」

「交わらせます」

 麻帆の言葉の最後を、残りの3人が繰り返す。こうした様式は別に、蓬田先輩が細かく指示をしたり、契約で指定していたものではない。『裸の部族として、歓待に相応しい、ゴキゲンなやり方をどんどん自分たちで考えて進化させて』と、ザックリ言われただけ。あとはたまに来るオマクラ部員やその友達を接待する中で、ウケの良かった方法を突き詰めていくうちに、こうした手順が決まってきた。今、佑馬君と謙太君が足を開いて仁王立ちになって両手を腰の後ろで握っているのも、麻帆と雅が胸の谷間を強調するように腕でオッパイを寄せ上げて、メイドさんのように膝を曲げてお辞儀をするのも、これまでのお客様たちの反応が良かったから続けているのだ。

「こっちのマホちゃんは可愛いくて、オッパイが大きいよね。この子はこっちの、佑馬君と付き合ってるんだ。で、こっちの美少女はミヤビちゃん。2-4で顔はピカ1かな? オッパイはまぁ、こんな感じだけどね。………こっちの謙太君と付き合ってるんだったよね?」

 蓬田先輩が、右手と左手で麻帆と雅のオッパイを、揉み比べするように同時に弄ぶ。裸で立ち尽くして、オッパイを好き勝手に揉まれながら、後ろの彼氏との交際について言われるのは、恥かしくて、屈辱的でもあった。

「ユウマ君とケンタ君は、こっちの2人が大好きなんだよね? いいカップルだよなぁ」

「はいっ。愛してますっ」

 佑馬と謙太が声を揃えると、麻帆と雅の顔が更に赤くなる。こんな状況ではあっても、後ろに立っている彼氏が好きだと言ってくれることは、素直に嬉しかった。

「………とまぁ、こんな2人なんだけど、新入部員、東屋蓮君としては、最初にどっちの子としたい? ………君の今の精力だと、結局は両方とすることになると思うけど、最初にやるのは、気に入った方が良いでしょ? ………こっちの裸族の皆は、お客様のご意向が最優先だよね?」

「も…………もちろんですっ」

 麻帆と雅、佑馬と謙太は全裸で直立したまま、声を張り上げる。大きな契約というものは社会関係や財務状況だけではなくて、心まで縛りつけてくるものなのだと、麻帆は同年代の子たちよりも早く、実感していた。

「えっと…………どっちも、可愛くて………素敵な感じの先輩なんですが…………、あと、彼氏さんの前で、恐縮なんですが……………、麻帆先輩で、お願いします」

 ズボンの中から明らかになっている勃起を押さえつけながら、東屋蓮君と呼ばれていた1年の男子は答える。

「え?」

 後ろの謙太が不服そうな声を一瞬漏らした。ダントツに顔の可愛い、俺のミヤビを選ばない男なんているのか? ………とでも、言いたそうなリアクションだった。それだけ自分の彼女のルックスに絶対の自信を持っているのはわかるが、今はその彼女がセックスさせられる順番の話をしているのだ。謙太、正気か。麻帆は心の中でそう問いかけずにはいられなかった。とにかく、状況が特殊過ぎて、何回経験しても、慣れない混乱に巻き込まれる。

「わ…………私を選んでくれて………ありがとう。…………蓮………君? ………だよね?」

 麻帆は、自分を指さした蓮の、その人差し指を、オッパイの谷間で包み込むようにして、3歩前に出た。そしてまだドギマギしている彼の、返答を遮るようにして麻帆の方からキスをする。彼の手を誘導するようにして自分の胸を揉ませる。オマジナイの力で、手に入れた、まるでマンガやグラビアの世界から飛び出してきたかのような、形と大きさに文句のつけようのないオッパイ。ピンクの乳首がツンと可愛らしくもエッチに立ち上がった、理想的なオッパイだ。麻帆は今、どうしようもなく興奮していた。このオッパイは見た目も理想的だが、感度も凄まじく敏感で、異性の視線を感じただけでも、感電したようなピリピリする愉悦を溢れさせてくる。麻帆は今、この最高のオッパイを持ってしまった自分が、『裸族になる』という付帯条項を知らずにつけられていたことも、仕方がないことだったのかもしれないと思っていた。以前の清楚で真面目だった自分のまま、こんな最強のオッパイをつけていたら、持て余して、やるせなくて、それこそ正気でいられなかったかもしれない。もしかしたら、この正気じゃない状況を作ってくれたのは、蓬田先輩の優しさだったのかもしれない。………いや、やはり、違うかもしれない。

「………ん……………」

 キスの途中で、溜息のような喘ぎ声を漏らす麻帆。蓮の手に揉まれるEカップのオッパイは信じられないような快感を運んでくる。背中に感じる彼氏の視線も、彼女に背骨からゾクゾクくるようなスリルと背徳の興奮を与える。そして、中学の頃からずっと一緒の、親友の雅。この絶対的に可愛いお姫様、雅よりも先に、自分が選ばれてしまったという、申し訳なさの混じった優越感。服部真帆はまだ高校2年生なので、そんな経験なんて無いが、シャンパンシャワーが与えてくれる夢見心地の酔いとはきっと、こんなものなのではないだろうか?

「蓮君………大好き。…………何でもしてあげるから、言ってね」

 たかだか1学年上なだけ。半年前までは異性も知らなかった麻帆だけれど、この状況では自分でも驚くほど妖艶な、お姉様のように振舞う。頭を撫でるようにしながらゆっくりと下へと誘導する。オッパイで窒息するくらいにギュウギュウ押しつけて頭を抱きしめたあとで、更に下へ、おヘソの下、恥かしいアンダーヘアーも、その奥の敏感で無防備な、大切な部分も蓮君に、紹介するようにして顔に押しつける。

 スムーズに、蓮君のおチンチンが麻帆のアソコに入っていく。いつの間にか彼の下半身が裸になっているのは、雅が愛撫に夢中な彼のベルトを外してズボンとトランクスを丁寧に降ろしていたからだ。絶妙なサポート。選ばれなかった方の裸族の女子としては当然のムーブだが、これまでいつも男の子たちにチヤホヤされてきた雅ちゃんとしては、屈辱的な役回りだったかもしれない。蓮君が腰を動かすと、麻帆は背を反らして喘ぎ声を上げる。そのたびに自慢のオッパイが震える。腰を振り始める蓮君のお尻にぶつからないように気をつけながら、雅が彼の尾てい骨のあたりに口づけをして、お客様の気持ちを盛上げている。そうだ。麻帆も雅へのライバル心を持っている場合ではない。皆で協力して、お客様を喜ばせてこそ、部族の誇りが満足される。これはライバルの競争ではない。チームプレイなのだ。麻帆が雅に目配せをする。雅は親指を立てながら、まだふくれっ面をしていた。なんだ。やっぱり納得いっていないじゃないか。

 とにもかくにも、ルックスの良い2人の女子高生が、今日初対面の1年生男子をチームプレイで快感の高みへと導いていく。麻帆は精一杯、アソコを絞めつけて腰を振る。雅は蓮君の逞しい体を後ろから抱き締めて、貧乳を精一杯押しつけながら、うなじのあたりに舌を這わせる。頑張る女子たちの、青春の汗が飛び散りそうになると、裸の彼氏たちが、ホストのように、従者のように甲斐甲斐しく女の子たちの汗を拭いて回る。皆で、それぞれが考えられる最高級のおもてなしを、お客様である蓮君に提供する。蓮君は蓮君で、大事そうに麻帆のオッパイを撫でまわして口に含んだり出したりしながら下から力強く突き上げていたかと思うと、振り返って雅と唇を重ねたりと、女子たちをきちんと大切に、愛情をこめて交わってくれる。全裸で愛と性のために生きる部族の男女と、そのお客様、純朴そうだが体力と精力が漲っている男子は今、文字通り理想的な心と体の交わりを結んでいた。

「麻帆先輩………もう……………イキそう。…………ナカで出しちゃっても、いい?」

「いいよっ」

 麻帆は、そう答えたのが、自分の口ではなくて、横にいる彼氏の佑馬だったことに、一瞬驚く。………まぁ、良いは、良いのだが………。それを快諾するのは、麻帆自身ではなくて、佑馬なのだろうか? ………考え出すと難しそうなので、麻帆はとりあえずアゴを上げた。蓮君が麻帆の体を抱きかかえるように持ち上げる。麻帆の足が床に届かなくなる。

 デュデュデュッッッ。

 勢い良く、蓮君の精が麻帆のナカに放たれて、お腹の奥に当たる感触。

「ホント、蓮、元気だよね。………さっき君原先生に色々教えてもらったばっかりなのに………。これで帰ったら、清香ちゃんと本気エッチするんだよね」

「……………誰のせいだと、思ってるんですか」

 気だるそうに、1年生の男子が答える。射精後の余韻に浸るように、蓮君が抱きかかえた麻帆の体を降ろす。それでもその仕草の中に、麻帆をドスンと床に落とさないよう、精一杯優しく着地させるだけの力がこもっているのを感じる。この男の子は間違いなく性欲に掻き立てられたエロ男子だけど、根はとってもいい子なんだろうな…………、と、麻帆はそのわずかな仕草からも感じていた。

 蓮が麻帆のアソコからおチンチンを抜くと、ドロドロになったそのモノを雅が、可憐な口に含むようにして咥えこんでお掃除する。麻帆のアソコから、粘性の液体が垂れそうになっているところを、謙太が膝をついて顔を近づけ、舐めとってくれる。この役割が自分の彼氏では無くて、腐れ縁の男友達が引き受けてくれているところが、麻帆にとっては微妙な気持ちにさせられるところだが、とにかく、まぁ、麻帆たちの部族のしきたりと美学は、しっかりチームとして見せることが出来たのではないだろうか?

 そのあとは、なし崩し的に、麻帆たち仲良し4人組の乱交が始まる。麻帆は雅と舌を絡ませ合って、雅のちっちゃなオッパイを愛おし気に揉んであげながら、謙太と佑馬とかわるがわる交わる。性器同士が繋がって擦りあったり、交代したり。麻帆たち4人だけの、小さな部族のお祭りはこれからだ。恥ずかしがったり自己嫌悪して見せたって仕方がない。大きい意味では、全てが契約に盛り込まれてしまっているのだから、ジタバタしたって逃げられない宿命なのだ。

「さっき、………蓬田先輩、この契約は、こっちの麻帆先輩が一人で締結しちゃった、団体契約だったって、言ってましたよね? ………それじゃ、こっちの雅先輩とか、こっちの彼氏さんたちとかは、別にサインも何にもしてないっていうことですか? ………それって、契約って言えるんですか?」

「ま、不条理なオマジナイの世界の契約だからね………。ちなみに日本の契約にも、双方の中断のための合意がなければ、本契約は期限の延長に合意したものと認め、自動的に延長する、っていうような、結構不平等な契約条項もあるみたいだよ」

 四つ這いになっている麻帆が、隣で同じように四つん這いになっている雅の髪を撫でる。雅は横顔も、西洋人形のように綺麗だ。その雅の顔が微笑んで近づいてくる。親友同士は熱烈にキスを交わす。麻帆は雅の彼氏の謙太君に、そして雅は麻帆の彼氏の佑馬に、それぞれ後背位の姿勢で性器を結合され、突き立てられている。仲良し4人組はもう、お客様たちの会話もあまり気にならないくらい、「部族」の中の睦合いに没頭している。

「異議申し立てが無いのを、合意と受け取るっていうことですか………。一方的ですよね…………。そんなこと言ったら、こちらから一方的に契約の内容を、相手にわからないように伝えて、『最後まで異議を唱えずに聞いたら、合意と見なします』なんていう契約も成立しちゃうっていうことですか?」

 蓮君という男の子が質問すると、蓬田先輩はニヤッと笑った。これまでの、人の良さそうな、それでいて本心を見せないような笑い方と違い、本当に思わず笑ってしまったという雰囲気だった。

「意外と鋭いじゃん、蓮君。………もちろん、そんな契約があったら、それは充分な魔力が無いと使いこなせないか、逆に誰でも使えるけれど物凄く用途が限定されるかの、どちらかだろうね。あんまり柔軟性はないはずだよ。…………けれど、世界にはそういうものも、存在するって、モノの本には書いてあるね。祝詞とか、呪詛の呪文とか、あるいは一部の宗教で絆を作り出す儀礼に使われたりするんだって。…………もっとも、僕も見たこと無いけどね」

 蓬田先輩は、難しそうな話を、蓮という1年生の後輩に語っていた。その間も、麻帆と雅と佑馬と謙太は、全てを忘れるように、お互いの体を求め合って貪っていた。麻帆の顔からアゴに垂れていくこの液体が、自分の汗なのか、雅の汗なのか、彼女の唾液なのか、それとも自分の涎なのかも、よくわからない。きっとその全部だろう。

「聞いてるだけで、一方的に契約を強いてくる呪文ですか………。おっかないですね。………あ、でも、意味不明なオマジナイ語が聞こえてきたら、途中で耳を塞いでればいっか」

「そりゃ、そんなにストレートに、魔法語を曝け出さないんじゃない? 母音だけに潜ませて、英語や日本語の中にわかんないように混ぜるとか、抑揚つけて、耳に残る音だけ繋ぐと魔法語になってるとか…………。ま、俺も想像でしか、話せないけど………………。蓮……………、聞いてる? …………って、オイッ」

 珍しく、蓬田先輩の声が大きくなるのを聞いた麻帆が顔を上げると、1年生の蓮君の股間はまた、ギンギンにいきりたっていた。

「お前、回復力、レスラーかよ…………」

「す…………すいません…………。って、僕のせいなのかどうかも、よくわからないっすけど」

 また余裕の表情に戻った蓬田先輩が、麻帆と絡み合っていた雅に声をかけて、手招きする。

「雅ちゃーん。お取込み中、悪いんだけど、蓮がもう、準備できたみたいなんで、よろしく頼んます」

 2-4きっての美少女は、躾けの行き届いた猟犬みたいにスクッと体を起こすと、そのまま四つん這いで駆けて行って、蓮君の体にしがみつく。これから、可愛い顔と華奢な体に似合わない、意外と濃厚な、雅のご奉仕が始まる。おかげで麻帆は、彼氏と男友達、両方を一度に相手しなければ、ならなくなってしまった。

「ま、どうせ契約文の細かいところは、口頭で教えようにも無理があるし、地道に自習してくかない訳で、ここではその、ブーストかかっちゃった蓮の精力を発散しながら、僕の『契約』のオマジナイの威力をしっかり実地で勉強してくださいな」

 もう抱き合っている雅と舌を絡ませているので、蓮君は効きながら、小さな角度でしか頷くことが出来なかったようだ。麻帆はそこまで確認した後は、佑馬のモノを懸命に奥まで咥えて、後ろから謙太のモノを大事な場所で受け入れていた。裸族の少女はどんなに清純で清楚な子でも、恋に勉強にセックスにと、大忙しなのだ。

<カルト? > 園原文乃 大学3年生

 二度目のペガサス聖家族教会への訪問は、木曜日の夕方になった。集会はその日の夜に開かれる。その前に、相談ごとがあったのだ。同行した文乃の義兄、井村友介さんは教会へ着くと、すぐにナカガワ先生と話し込む。雪乃お姉ちゃんのことを相談して、そして文乃にちょっかいをかけてきた絹田という先輩信者が若干しつこいという話などだ。文乃はまだ人のいない、簡素な「教会」の中をブラブラと歩いてみる。雑居ビルの一室を改装して、ゴムシートを敷き詰めただけ。小規模な祭壇を持っただけの「教会」。それでも、こうして体の線を強調するようなワンピースの信者服を身に着けて歩いてみると、不思議と気持ちが落ち着いていた。3時間でも4時間でもいられそうな、居心地の良い簡素さ。それは、初めてこの部屋を訪れた時には、全く持たなかった感情だった。

「ナカガワ先生が、絹田のことはすぐに注意するって、言ってくれてるよ。雪乃のことも、機を見定めて、出来ることをしてくれるって」

 友介さんは給湯室と一緒になった、小さな面談室から出て来て、文乃に教えてくれる。久しぶりに、義兄の嬉しそうな表情を見た。文乃も微笑み返す。友介のあとから、ナカガワ先生が、さらに異様なくらい屈託のない笑みを浮かべて、面談室から出て来る。文乃も少し話をすべきか迷ったが、次の信者の人が、ちょうどその時、広間の中へ入って来た。年配のお兄様とお姉様。善良そうな、先輩信者の老夫婦だった。

「今日は初めてお越しになる方はいらっしゃらないようで。我々は今回は、落ち着いて信仰の話をしましょう。………あ、そうです。前回初めてお越しになった、『新しい子供たち』の、洗礼の儀式は必要ですね。いくつかの説話を聞いて頂いて、お祈りの時間を済ませたあとで、儀式の準備をしましょう」

 ナカガワ先生が笑顔で皆に話しかけながら、祭壇から分厚い本を持ち出してページを開く。文乃がその間に、周囲を見回してみる。信者の輪の中には、先週、文乃たちと同じく、初めてこの教会へ来たと言っていた学校の先生らしき美人の女性と、その横に中学生らしい男の子がいた。そして同じく見覚えのある、女子高生のグループ。皆、白い信者服を着て、自宅からこの教会までやってきたようだ。先輩信者の中には、初めてみかける顔もあったが、ほとんどは先週も見た顔だ。ジェイクお兄様も、そして絹田お兄様もそこにはいた。

 気がつくと、ナカガワ先生の宗教説話は既に始まっていた。耳触りの良い、バリトンの声。話の筋自体は起伏が少なくて面白いことはないのだが、不思議といつまでも聞いていられる気がした。そして、また、気がつくと、文乃の魂が少しずつ浮き上がっていく気がする。今回はそのまま文乃の意識ごと、蒸発するように周囲のこと、時間の経過がわからなくなっていった。

「それでは、お祈りの時間です。皆さんの魂に神様の恩寵を、私を介してお伝えしていきますよ。体が勝手な動きをするかもしれませんが、出来るだけ流れに任せてあげてくださいね」

 またひきつけでも起こしたかのように、文乃の左右の腕と脚がバタバタと暴れ出す。電気仕掛けの玩具がショートしたかのような、奇妙でデタラメな動き。そして彼女の意志に反して、徐々に腰がなんだか、卑猥な動きを始める。まだ彼女の心身に残る、動物的な衝動が堰を失って溢れ出ているのだ。今回はそれでも、その荒波は、先週に感じたほどのコントロール出来ないような強度ではなかった。文乃が出来るだけ心を落ち着けることを心掛けながら、体の暴走に身を任せていると、少しずつ、落ち着いてくるようにも見える。まだ体を前後左右に気持ち良さそうに揺らすことだけで済んでいる先輩信者のお兄様お姉様方にはかなわないが、文乃も少しずつ、この『お祈りの時間』のやり過ごし方を、学んでいるのだと自分で気がついた。

 ふと、文乃のお尻に、固いものがぶつけられる感触を得て、後ろを振り返る。申し訳なさそうに、友介さんが文乃を見て、目で詫びている。文乃は少し表情を和らげて、自分のお尻から彼の股間のモノを擦るように押しつけてあげる。すると友介さんの動きも、少しずつ、荒々しさが取れていき、お互いにもう少し穏当に、下半身を擦りあうような動きになる。少し安心できたところで、お祈りの時間は終わった。

「それでは、新しい子供たちを、正式に迎え入れる準備が整いました。これから、こちらの皆さん、………うん、すでに紹介を済ませたことで正規の在家信者格となっていた井村友介さん、西峰賢人君も含めて、洗礼の儀式を受けてもらいますね」

 新しい信者たちが、祭壇を背にして立ったナカガワ先生に、向かい合うように一列に並ばされる。癖の強い黒髪に白髪が少し混じった、ナカガワ先生が右手を器に浸して、持ち上げると、文乃たちに指で弾くようにして、水の飛沫をかけていく。それを見ているだけで、文乃の魂がまるで、水でふやけたようになって、意識が溶けだしていく。強い多幸感のなかで、文乃は頭の中が真っ白になっていくのを、何の抵抗もせずに見守った。

 気がつくと園原文乃は天井を見ていた。周りを見回そうとして首を曲げようとすると、後頭部に抵抗を感じる。柔らかい感触。さらに頭の前の方を撫でる手の感触もある。文乃は自分が今、横になって誰かの膝枕で寝かされていることに気がついた。

「びっくりしないで良いのよ。文乃ちゃんは何にも心配しないの。良い子ね。今は、赤ちゃんでいて良いのよ」

 品の良い、高齢女性の声。さっき、文乃と友介さんの次に早く教会へ来た、年配の女性信者だった。「赤ちゃん」と言われて、文乃はドキッとして自分の体を見る。さっきまで来ていた白い信者服は無くなっていて、文乃は裸の姿に、成人用の紙オムツだけを穿かされているようだった。恥ずかしい思いと驚きとで、文乃は自分の姿を凝視しているが、すぐに首が疲れすぎて、先輩信者の膝枕にまた、自分の頭を委ねてしまう。本当に、まるでまだほとんど首が座っていない、赤子のようだった。

「あ…………。うぁ…………………」

 今、何が起きているのか、聞こうとしても、口が思い通りに動いてくれない。むしろ唇を開いた瞬間に、口の中から涎がアゴへとつたってしまった。恥ずかしさよりも恐怖が先立つはずの状況だったが、不思議と文乃の心は波立たない。年配の女性信者に頭を撫でられているうちに、まるで温かい毛布に包まれているような、穏やかな気持ちになっていく。

「はい、赤ちゃんたちのミルクが準備出来ました。お一人に一本ずつ、配っていきますよ」

 寝そべっている文乃の視界の外で、ナカガワ先生の声がする。少し時間がたった後、文乃の顔に、白い液体が7割ほど入った瓶が差し出される。文乃に膝枕をしてくれている年配の女性信者が、吸い口を文乃の顔の近くに、そっと寄せる。文乃は、つい反射的に、ゴムの吸い口を咥えこんで、触れなくても温かさが伝わってくる瓶を、チューチューと吸う。口の中に甘くて暖かい、粉ミルクの味が広がった。とっくの昔に忘れてしまった、幼少期の記憶を刺激するような、退行的な甘さだった。

「ん………ん……………ん……………………ん………」

 文乃は無心になって、口に入ってくるミルクをどんどんと飲んでいく。口の中、喉、そしてお腹から体全体へと、温かさが伝わっていく。勢いが強すぎることを心配したらしい先輩信者のオバサマが、優しく哺乳瓶を文乃の口から離した。

「一気に飲んでしまうと、空気も飲んでしまって、あとで戻しちゃったりするから、ゆっくり飲みましょうねぇ~。文乃ちゃんは、とってもイイ子。心配しなくても、オバアチャンが全部文乃ちゃんにあげますからね」

 嬉しそうに文乃の頭を首から抱き起したオバサマは、文乃の背中、肩甲骨の間あたりを、ポンポンと手のひらで優しく叩く。やがて、文乃の胃から食道あたりに空気が溜まってきた。

「………クェッ………」

 小さなゲップをする園原文乃。自分がもう二十歳を過ぎた大人であることを考えると恥ずかしくなるが、オバサマの、愛に満ちた表情を確かめると、彼女もまた安心の笑みを浮かべた。

「可愛いゲップが出たわねぇ。………これで、ミルクを戻しちゃったりしないから、安心ですね~。文乃ちゃん。オムツもちゃんと隙間がないように穿かせてあげてるから、沢山飲んだら、オシッコも、そのまましちゃって大丈夫よ」

 文乃が顔をさらに赤くして、ままならない首を何とか左右に振ってみせる。下唇を突き出して、泣き出しそうな表情を見せる。するとまたオバサマが優しく頭をナデナデしてくる。

「大丈夫。赤ちゃんだから、何にも心配しないで良いのよ。ほら、我慢しないで。…………しーーー。しーーーー」

 堪えようとしていた体が、言うことを聞いてくれない。オバサマの掛け声に反応するように、文乃の下半身がさらに脱力して、弛緩してしまう。退行的で背徳的な感覚。それでも、どこかホッとするような、妙な気持ち良さ。文乃はオムツの中に自分のオシッコが染みこんでいきわたり、自分のお尻や腿の裏を温かく濡らしていく感覚に、酔ってしまっていた。

 本能に従うように、差し出された哺乳瓶からまたミルクを懸命に飲む。恥ずかしさや無力感。そして同時に押し寄せる解放感、圧倒的な安心感のせめぎ合いのせいで、文乃の頭はもう、何も考えられないような状態になっていく。髪を撫でながらオバサマが何かを言ってくれているのだが、その言葉も、文乃の頭の中には入ってこない。大人の言葉だからだ。けれど、文乃の無垢な魂には、ストレートに入りこんでくる。文乃はただただ、ポーっとしながら、無心にミルクを飲んで、体の水分が増えたらその分だけ、オムツの中でオシッコをした。オバサマとは別の先輩信者の人がオムツを替えてくれた。もっとミルクをもらう。またオムツを濡らしてしまう。今度はまた、違う先輩信者が文乃のオムツを替えてくれる。肌が荒れないようにと、白いパウダーをポンポンと、文乃のお尻に付けてくれた。

 女の人も、男の人も、次々と文乃のそばへやって来て、順番に彼女のオムツを替えてくれる。途中からは、彼女がまだ替えられたオムツを全く汚してないうちから、別の先輩信者がオムツを替えていく。そして、一心不乱にミルクを飲み干そうとしている文乃の耳元で、思い思いの言葉を、何か囁いていくのだった。何を話されたか、文乃はよくわからない。けれど、文乃はその一言一言を、頭では理解できないまま、無防備な魂に、スポンジが水を吸うように、するすると吸収していくのだった。

「あぅぁああああっ………あぁっ」

 隣から大きな泣き声が聞こえて、文乃のミルクを飲む動きが、一瞬止まる。ビックリして左側を見ようとすると、今度は男の子の声が聞こえてくる。

「玲奈ちゃん、大丈夫ですよー。………、おっきい方も出ちゃったのかな? ………じゃぁ、あっちに行って、キレイキレイしましょうか?」

 その声は、中学生くらいの男の子の声。そうだとすると、泣き声は、中学生男子と一緒に来ていた、女性教諭のものだろう。文乃の面倒を見てくれていたオバサマが声をかける。

「お兄ちゃん、大きい方のお掃除はちょっと大変だから、オバアチャンがやってあげますよ。………どなたか、こちらの文乃ちゃんの面倒を見てくれる方がいらっしゃると良いのだけれど………」

 文乃が哺乳瓶を外されて、口寂しいのを親指をしゃぶって誤魔化している間に、彼女と、隣にいた女性教師の周りが、にわかに騒がしくなる。

「………あの………。俺、………文乃ちゃん、見てましょうか?」

「あら………お願い出来るかしら? ………こっちの、玲奈ちゃんを、ちょっとお手洗いで綺麗にしてくるまでなんですけれど」

「はい………、全然良いっすよ」

 大人の話し合いの声が聞こえてくるが、文乃はボンヤリと天井を見ながら、自分の親指をしゃぶっていた。すると、視界に、優しいオバサマの顔が、上下逆になって入りこむ。

「文乃ちゃん。ちょっとの間、こっちのお兄さんが面倒見てくれますからねー。オバアチャン、すぐ戻ってきますから、心配しないでね」

 文乃は、オバサマが何を言っているのか理解できず、とりあえず二マーっと、大きな笑みを返した。頭が動かされる。そして今度、視界に入ってきた顔は、かすかに見覚えがある顔だった。

「文乃ちゃーん。絹田お兄さんですよー。しばらくお兄さんと仲良ししようねー」

 上下逆になって、文乃の視界に入ってきたのは、絹田お兄様の顔だった。赤ちゃんになっている文乃だったが、かすかに表情を曇らせる。何か、記憶の奥深くが疼くような感触を覚えたのだ。それでも、今の文乃には何も抵抗出来ない。

「文乃ちゃん………。これ、うちの教団の一般的な洗礼の儀式なんだ。………ちょっとびっくりした? …………生まれ変わりっていうか、育てなおしっていうか、そういうの、マジで再現するんだよね。笑えるでしょ? …………家族って、マジで言ってるんだよね。うちらは」

 文乃は絹田お兄様が説明してくれていることも理解出来ずに、長い睫毛の瞼をパチクリさせて、膝枕してくれている大人の顔を覗きこむ。

「文乃ちゃんたち、さっき、ナカガワ先生に俺のことチクったでしょ? ………あの先生、いつもニヤニヤしてるだけだけど、結構厳しいところもあるんだよ。たぶん俺、あとから位階を落とされると思うわ。もしかしたら、教区も変えられちゃうかも………。君たちのおかげでね」

 文乃の無防備なオッパイが、ギュッと掴まれた。彼女が泣き出しそうになると、その手はスッと離れる。人目を気にするように、絹田お兄様はさらに声を潜めて、文乃の耳元に口を近づけた。

「洗礼中で赤ちゃんになってる信者は、いつもよりももっと深く、先輩たちの言葉が魂に入りこむはずなんだ。それが育てなおしの意味だからね。…………せっかくのチャンスだから、美人で気の強い文乃ちゃんに、俺からの最後のプレゼントをあげちゃおっかな? ………いい? 文乃ちゃんはね…………」

 耳元でヒソヒソ声で囁かれている間、文乃は目を真ん丸にして天井を見ながら、コクコクと哺乳瓶のミルクを飲んでいた。ずいぶんと長い時間をかけて、そうしていたような気がする。

「おや、絹田さん? ………私は貴方に、文乃さんにちょっかいをかけないように、言ったはずですよね?」

 ナカガワ先生の声が聞こえると、膝枕をしている絹田お兄様の太腿にグッと力が入り、彼の頭が文乃の耳元から遠ざかる。

「いやっ。別に何にもしてないですよ。………たまたま、彼女の面倒を見てた小塚さんが、こっちにいた玲奈さんを………」

「あぁー。そうなんです。お待たせしました。絹田さん。文乃ちゃんの面倒を見てくれてありがとうねー」

 優しそうなオバサマの声。小塚さんという苗字らしい、年配の女性信者が戻ってくると、絹田お兄様と、文乃の膝枕役を交代する。張り切って話す小塚さんの声と周囲の人の声が飛び交ううちに、ナカガワ先生の声はすっかり聞こえなくなっていた。

 。。

「今日は本当にありがとうね。娘や孫が小っちゃかった頃を思い出すから、私、洗礼の儀式って大好きで、いっつも面倒見役に立候補しちゃうの。文乃ちゃんも本っ当に可愛らしくって、楽しかったわ。ごめんなさいね。こんなオバアチャンがママ役で」

 屈託なく笑う小塚さんは、本当に10歳くらい若返ったように、目から生気がみなぎっていた。文乃と友介さんは逆に、力なく笑って応じる。このオバサマに悪気が無いのは明らかなので、あまり嫌そうな顔をする訳にもいかないが、自分たちが人前でオムツ姿であやされていた記憶というのは、出来れば触れないでいて欲しかった。今日の2人は、集会が終わった後、出来るだけ別の話題だけ話して帰ろうと、視線で合意していたのに、興奮している小塚さんはなかなか2人を解放してくれなかった。

「小塚サン、お二人もお疲れだと思いますヨ。また今度ネ」

 小塚さんに気軽に声をかけたのは、鷹揚な外国人男性。ジェイクさんだった。すっかり上機嫌のオバサマのお喋りを、引き取ってくれる。彼はジェスチャーで、「今のうちにお帰り」と示した後で、友介さんに向かってウインクをした。そそくさと教会を後にした2人は、とりあえずジェイクさんの話をしながら、歩いた。

「友介さん、ジェイクお兄様とも知り合いになったんですか?」

 文乃が尋ねると、友介さんは微妙な笑みを返す。

「さっき、携帯番号も交換したよ。文乃ちゃんから聞いた話からしても、色々と彼から情報を得られるかもしれないと思ったから…………。あと、彼、やっぱりバイセクシャルだってね………。さっき、僕のオムツを交換に来たよ」

「え…………ヤバ…………。悪戯とか、されませんでした?」

「んー。そこは大丈夫…………って、言いたいところなんだけど、残念ながら、さっきの『洗礼の儀式』の間のことって、結構記憶があやふやなんだよな…………。ジェイクさんにも、何もされなかったかもしれないし………。何かされたかもしれない」

 友介さんは家路の進行方向を真っすぐ見ながら、眉をひそめていた。

「文乃ちゃんは、ハッキリ覚えてる? 洗礼の儀式のこと」

 友介に聞かれて文乃も今日のことを思い出そうとするのだが、記憶にモヤがかかっているように、その時間のことが曖昧だった。いや、彼女にとっては、宗教説話の時間や洗礼の儀式後に友介さんたちが何人かの信者と交流したという時間のことも、ほとんどがモヤの奥深くに隠れてしまっているようで、思い出せない。ただ、気持ちが良かった。そのウットリとする感触だけを、彼女の体が覚えている。

「私も………。良くわからないです。…………でも、断片的には、覚えているような………。あの、私の隣にいた、中学校の先生、わかります? あの、綺麗な人」

「えっと………、佐原玲奈先生だったっけ? ………川岸君っていう男の子と一緒だった………」

「そうです………。あの人…………ちょっと………その、大変だったみたいで、私をあやしてくれていた、さっきの小塚お姉様と………誰かがその前後の時間、交代していたような気がします。あ……………あれ………絹田お兄様?」

 隣を歩いていた友介さんの足が、ピタリと止まる。怪訝な顔つきで、文乃の顔を覗きこんでいた。

「絹田が? ………それ、ナカガワ先生は注意しなかったの? ………文乃ちゃん、大丈夫かい? ………あいつに何かされなかった?」

「んっと…………。多分、大丈夫…………」

 文乃と友介さんは、お互いの顔を見合わせて、不安そうな視線を交わしたあとで、溜息をついて前へ歩き出した。結局、今の2人の記憶からすると、どう繋ぎ合わせようとしても、全体像は見えてこなさそうだった。一つだけわかっていることは、この『洗礼の儀式』というのは、とても教団の外の人間には絶対に口外出来ないような恥ずかしい体験だったが、同時に強烈な多幸感をもって文乃と友介さんとを、『新しい家族』と結びつけたということだった。

<カルト? > 井村友介 会社員

 友介は金曜日の朝、目が覚めた時、情けないことに寝ている間に粗相をしてしまっていた自分に気がついた。布団を捲り上げて、頭を抱えていた友介の様子を、ドアを開けた文乃ちゃんが見つけて、声をかけてくれる。

「友介さんもでしたか………。私もなんです………。恥ずかしいと思うけれど………。その、私たちの間では、あんまり、気にしないでください。…………まだ、赤ちゃんみたいな存在って、ナカガワ先生も、言ってたでしょ?」

 まだ7時前だったが、文乃ちゃんはパジャマではなく、すでに部屋着に着替えていた。

「お洋服と一緒に、シーツも洗っちゃいますね? ………友介さんはお仕事だから、あとのことは気にしないで、支度をしてください。朝ご飯もすぐ作りますから」

 まるで子供の粗相を叱らずにいてくれる母親のように、優しい声をかけて、テキパキと後片付けを始める。もしかしたら彼女は、自分の義兄の粗相の後始末をしてあげることで、自分にも起きたこととの折り合いをつけ、自尊心を回復しているのかもしれなかった。

「体のこと心配だったら、会社、お休みしても良いと思うんですけど」

 朝食後、文乃ちゃんはそう言って友介のことを気遣ってくれた。けれど友介は口を一文字に結んで首を横に振る。

「いや、大丈夫。替えの服も下着も持ったからね。………それに、出来るだけ日常を保つことも、カルトへの対抗措置らしいんだ。本で読んだよ」

 友介は最近、カルトから脱会した家族の手記や、カルト関連のノンフィクションの本を何冊か読みこんでいた。それによると、新たに加入した信者を、それまでの日常世界から引き離し、出来るだけ早いうちに自分たちのコミュニティに取り込み、囲い込もうとするのは、カルトの常套手段らしい。大都会や、あるいはその逆に人の極端にまばらな地域などでカルトが急速に拡大するのも、個人を簡単にコミュニティから自らを隔絶しやすい環境だからだと、それらの本には書いてあった。だとすると、極力これまで通りに社会生活を続けようとすること自体も、『ペガサス聖家族』への対抗手段になるはずだ。

「今日も会社に行くし、週末はマンションの理事会にも参加する。こうやって、地味に普段通りの生活にしがみつくことだって、立派な戦いなんだと思うんだ」

 友介が胸を張ると、文乃ちゃんも心なしか、微笑んでくれた。

 。。

 幸いなことに、その日の日中、友介が会社で失敗をすることなどは無かった。帰宅すると、友介よりもさらに嬉しそうに目をキラキラさせた文乃ちゃんに迎えられる。

「ジェイクお兄様に、教えてもらいました。夜寝る前の、『お祈り』を欠かさなかったら、寝ている間にオネショをしてしまうことも無いみたいですっ」

 つい今しがた、ジェイクさんと電話をして、そのことを教えてもらったそうだ。現に文乃ちゃんは、ボーダー柄のダボっとしたワイドパンツでお洒落に誤魔化しているが、その下にはまだ、念のためにオムツを穿いているのが見て取れる。

「夜尿用の成人用オムツも、防水シートも買って来ちゃったんですけど、もっと早く、ジェイクお兄様に聞いておけば良かった…………。ほら、これ、急ごしらえですけど、私が作ったんですよっ」

 嬉々として友介を引っ張っていった文乃ちゃんが見せてくれたのは、リビングのキャビネットを改造して、ボール紙で作ったシンプルな祭壇らしきものだった。デザインは教団のホームページからダウンロードしたらしい。

「一緒にお祈りしましょうっ」

 文乃ちゃんの目はキラキラと輝いていて、笑顔には一切曇りがなかった。友介もこの、美しい義妹の嬉しそうな様子に押し切られてしまう。2人で白い信者服に着替えて、先週渡されたペンダントを首に付け、リビングのカーペットに両膝をつけた。

(出来るだけ、入信以前の日常生活を維持したい。それがカルトに対しての抵抗になるから。)

 朝方、そう強く思っていた友介が、今は自宅のリビングの棚に祭壇を構え、文乃ちゃんとならんで、信者服でお祈りを捧げている。これが毎晩続くのかと思うと、すでに彼の日常は大きく揺るがされているということを思い知らされてしまった。教会の『お祈りの時間』ほどの強さでは無いものの、魂のせせらぎというものを感じると、友介の体は勝手に暴れ出して、手足が四方八方を掻きまわすような仕草で動く。隣の文乃ちゃんとぶつからないようにするのも、一苦労だ。もし、この姿を彼の同僚や友人に見られでもしたら、いくら「妻を取り戻すために、カルトに潜入して、入信した振りをして探っている」と伝えても、信じてもらえないのではないだろうか?

「友介さんっ。ちゃんとお祈り、してますか? 神様、オネショをしませんようにって、ちゃんと魂から声を出さないと、効きませんよっ」

 文乃ちゃんは両手をバタバタさせて、クネクネと体を捻りながら、嬉しそうに呼びかけてくる。年頃の女性にとっては排泄関係の失態は友介以上に社会的、心理的ダメージの大きい物だろうから、その悩みが解決する糸口が見つかったと思うと、この『お祈り』の存在を非常にポジティブに受け取っていても、無理は無いかもしれない。しかし、嬉しさのあまり、時折、嬌声を上げながら、まるで遊園地のアトラクションを楽しむようにお祈りに興じている文乃ちゃんの姿は、一見すると熱心な信者そのもののように、友介の目には映っていた。

 土曜日の朝、ベッドと自分の状態を確かめて、昨日のような失敗を繰り返していなかったことを理解した友介は、さすがに安心の溜息を出す。自分にとってもこの、シモの心配は大きなプレッシャーになっていたことを、改めて思い知らされた。平日よりも少し遅めの時間に、朝食を取る。文乃ちゃんは昨日の、悩みから解放されたような明るい様子とはまた変わって、時々何か考えごとをするように、窓の外を眺めたりして、食事を時折中断していた。友介が気にして積極的に話しかけても、どことなく上の空といった反応を返す。

「食欲が湧かないの?」

 と友介が聞くと、文乃はフォークを持っていない、左手で自分のお腹の下の方を触りながら、「今日は時々、お腹が重い感じがして………」と、答えた。食後には「雪乃の書斎」に閉じこもって、PCで調べごとをしていたようだった。

 その腹痛も、昼前には治まったのだろうか? 彼女は不意に、「買い物に行く」と言って、友介の家を後にした。信者服とは少しデザインが違うが、よく似た色のワンピースを着た彼女は、帰りは夜、遅くなると思う、と友介に言い残して家を出た。

 。。。

 友介の心配を打ち消すように、文乃ちゃんは夕方、6時前には帰ってきた。

「ただいま帰りましたー」

 いつもの彼女の声を聞いて、友介は安堵しながら迎え入れる。

「お帰り。…………特に買いたいものは、見つからなかったのかな?」

 手に、家を出る時と同じハンドバッグだけを持って玄関で靴を脱いでいる彼女に、そう問いかけると、文乃ちゃんはしばらくキョトンとした表情で友介を見る。その後で、自分が買い物に行くと言っていたことを思い出したかのように、急に小さく笑った。

「あ…………そうなんです。ちょっと体調が、また悪くなって…………。…………と、言いますか、あの、友介さん。こんなこと聞きたくないかもしれないですけど、私、『女の子の日』が、始まっちゃったんです」

「あっ……………、そうな……………。………ゴメンッ」

 顔を赤らめながら、照れ笑いを浮かべる文乃以上に、友介が赤面して、ギコチない返事をしてしまった。ここで自分が謝るのもおかしいと思ったが、それでも、なんだか申し訳ない質問をしてしまったと、自分を責めてしまう。昨日まで『赤ちゃん』の悩みに苦しんでいた彼女が、今日は「女の子の日」とは………、色々と生き辛いこともあるものだ。

「いえ……あの、そうじゃなくて……………。その…………、おかげで………助かったかもって言うか……………。なんだか、………私も、頭がグジャグジャで……………。なんだか………もう………」

 整った顔立ちの文乃ちゃんが笑顔を浮かべながら、急にポロっと涙を零す。友介はいっそうギコチなく、泣き出した義妹の前であたふたと狼狽することしか出来ない。文乃ちゃんはそんな友介に一礼だけして、横を通り抜けて洗面所へ駆けこんだ。

 どうして良いのかわからない友介が、洗面所の扉の前で一瞬止まったあと、思い直したようにリビングへと移動して、ソファーに座りこむ。文乃は賢い子だ。それは間違いない。年齢は友介より一回り近く下だが、ずっと冷静で、合理的な考え方を出来るし、メンタルも強い。就職活動も賢く、辛抱強く戦い続けてきた。いつもの彼女なら今は、自分で落ち着くまで、友介には待っていてもらいたいだろう。そう信じて、ソファーに座って15分も待ち続けた。

 やがて、まだ少しだけ目を腫らした彼女が、コの字型に配置されたソファーベッドの、対面に座る。少しだけ沈黙を置いたあとで、彼女から話し始めた。

「最近本当に色んなことがあって、友介さんには私の恥ずかしいところ、情けないところは全部見られちゃって来たと思うから、今日のことも、全部話すね。………私、今日、アダルトビデオの会社に面接に行ったんです。ネットで求人と住所の情報を探して………。アダルトビデオに出演したいって、言いに行きました」

 文乃のこの説明は全く予想していなかった友介が、口を開いたまま、何の言葉も出なくなって、フリーズする。彼女は今、有名な私大に通っている3年生で、就職活動では出版に携わる仕事の内定をもらっていたはずだ。いや、それ以前に、園原文乃ちゃんは美人だが、女性だからとチヤホヤされることが嫌いな、どちらかというと堅物とも取れるほど、清楚で真面目な子だ。その彼女が、どうして突然、アダルトビデオに出演したいなどと、考え始めたのだろうか?

「今朝、起きて………。オネショをしていなかった自分にホッとして、やっぱり私はもう大人だって、安心しながら鏡を見て、顔を洗っていたんですけど………。その、鏡に映った顔を見て………。私………。まあまあ美形だなって………。その………、清純っぽい見た目をしてるから………、逆に、私のエロい姿とか………男の人たちは凄く、勃起とか、するんじゃないかなって………シミジミ思うようになって………。えっと………アへ顔って言うんですか? ………私の………お………おマンコから、ダラダラ、エロ汁を垂らしたり、するとことか…………みんなに、見てもらいたいって………。私、そのために、生まれてきたんだって………、気がついたんです………」

 文乃ちゃんはいつの間にか、顔を赤らめて、上気したように潤んだ目を彷徨わせながら、何かの妄想に浸りつつ喋っていた。自分の頬っぺたを両手で包んで、冷やすように深くため息をついたあと、腕を交差させるようにして、自分の方や二の腕を撫でる。

「………それで………。文乃ちゃんは、今日、アダルトビデオの面接を受けてきたの?」

 友介が尋ねると、文乃ちゃんは申し訳なさそうに、しかし気分の高揚を押さえきれないように息を荒げながら頷いた。喋り出す前に、唇をペロリと舌で舐める。

「………そう。会社は、売上とマニアックな内容とのバランスで、選んだの。出来るだけ多くの人に、私がどんなにエロくて変態なオンナか、知って欲しいから。でも、あんまり大手過ぎると、もしかして単体女優としては出られなくて、企画女優になるかもしれないから、そこのサイズ感も考慮して………。面接では何でもしますって、やる気を前面に出しました。芸名を考えようって言われたから、本名じゃないと出ないって、そこだけは拘りました。私は実名で、出来るだけヤバくてエグい内容のビデオでデビューして、世間をビックリさせたいから。だから、裏ビデオの流出歴があるプロダクションっていうポイントでも、その会社を選んだんです」

「文乃ちゃん、やめよう。………君は、誰かにそう仕向けられてる。本当の文乃ちゃんは、そんな子じゃないよ」

 友介が、今までにないくらいの強い口調で、文乃ちゃんの言葉を遮る。ソファーの前に置かれたローテーブルを叩いた。こんな友介が珍しいからか、文乃ちゃんが言葉を飲んで、一瞬、黙った。そして、友介を見る彼女の瞼が、痙攣するようにしばたいた。

「私も…………そう思って………、今朝………、何度も、考え直したりしたの………。でも、………考えれば、考えるほど、私はAV女優になるべきなんだっている決心が固くなるの。むしろ、私がこんなにいやらしいオンナなのに、そのことを隠して、皆を騙して生きていく方が辛いの。………私は、生まれつきの、エロ女なんです。………いやらしい姿を皆に見てもらうために、生まれてきたんですっ」

 彼女の言うように、文乃ちゃんの目は据わっていて、決意が岩のように固いことを見せていた。

「絶対に違う。………絶対に君は、誰かに君自身を、捻じ曲げられている。…………きっと、魂から………」

「………違います。これが、本当の私。友介さんは優しいから、義妹が真面目で清らかな存在って思ってくれてただけだと思う。本当の私はもう、どうしようもないヤリマンで、いつもヤラシイことを………」

「証拠を示そうか? ………今日よりも前に、文乃ちゃんの頭の中には、アダルトビデオの情報って、どれだけあったの? ………『単体女優』とか、『企画女優』とか、『裏流出』とか、自分で調べた知識なの? ………どこでそういう言葉を知った? …………勝手に自分の頭に浮かんできた言葉を、慌てて今日、ネットで調べて意味を知ったんじゃない? …………だとすると、そういう言葉を、君の魂に刻みこんだ奴がいるんだよ。絶対に。誓っても良い。君は今日一日でそれだけの知識を急に調べて集めたんじゃない。もともとAV業界について詳しかった訳でもない。…………なぜか、こうしなければならないという思いと一緒に、頭に思い浮かんだキーワードがいくつかあったんだ。今朝していたのは、それの答え合わせだけ。そうじゃない?」

 友介は、普段の自分よりも早口で喋っている自分に気がついた。こんな、推理小説みたいなやり取りを、自分がすることになるとは思ってもみなかった。だからその時の自分の話し方もまた、イメージしたことのない自分の姿になっていたと思う。文乃ちゃんは、何か答えようとしたまま、無言でこちらを見つめていた。友介の言っていることが図星だっただからだろうか。それとも、こんな友介を想像していなかったら、面食らっているのだろうか。きっと、その両方だろう。

「文乃ちゃん。君は、アダルトビデオの撮影まで、してきたの? だとしたら、今すぐ、録画されてしまった内容が、商品化されて出回らないように、訴え出よう。僕も一緒にその会社に行って、契約の解除をお願いするから、大丈夫だよ。こういったことは、時間を置くほど、大勢の人が関わって、お金が動いて、発売までの道筋が固まっていってしまう。色んなことが、勝手に既成事実化されてしまって、あとから覆しにくくなるんだ。だから、止めるのは、今だ」

 10年近く社会人をしている友介は、さすがにこうした事情について、文乃に対して説得力を持って話すことが出来たと思う。彼女は、迷いながらも、友介に正直に話す。

「あの………、さっき言ったみたいに、今日、生理が始まっちゃったから、私、契約はしたけれど、撮影には今日は入れなかったの。………プロモーションとか企画検討のための資料として、何枚か、写真は撮られたけれど………」

 俯き加減に話す文乃。そこまで聞いて、友介もホッと胸を撫でおろす。

「じゃぁ、契約解除だけで済むよね。文乃ちゃんがサインした契約書には、色々と破棄することのハードルを上げるような注意事項が書かれているかもしれないけれど、そもそも、公序良俗に反したり、法外な違約金を押しつけるような契約は、それ自体が民法でも商法でも無効と見なされるから、きちんとした態度を示せば、大丈夫だよ」

「あの…………」

 文乃ちゃんが、言いにくそうに顔を上げる。

「友介さんのアドバイスも、さっきの話も、凄くわかる。………頭ではわかるんだけど、………やっぱり私の心は…………、うん。私の魂は、どうしても、アダルトビデオに出たいって思っているの。私がどんなにエロいオンナか、出来るだけ多くの人に知ってもらわないと、私は本当の自分でいられない気がするの」

「ペガサス聖家族の『お兄様』としての僕の言葉でも、受け入れられないっていうこと?」

 ズルいと思ったけれど、友介はゆっくりと、念を押すようにそう聞いてみた。両肩をビクッと震わせた文乃ちゃんは、俯いて両目を強く瞑る。自分の体を抱きしめるようにして、呻いた。

「………………ゴメンなさい…………。っやっぱり、駄目。…………。………………あっ…………っ。それじゃあ、こうしたらどうかな?」

 さんざん唸っていたあとで、文乃ちゃんは不意に何か名案を思いついたかのように、顔を明るくして友介を見据える。

「私が友介さんの言うように、ポルノ女優として生きていくのに相応しくない人間かどうか、ここで試してみるのはどうかな? 友介さんと私がここでセックスをして、それを撮影するの。生理中だけど、きちんと洗い流して、気をつけて撮影をすれば、見苦しいことにならないようにも出来ると思う。それで………録画したビデオを、見てもらうの」

「見るって………僕と文乃ちゃんだけで?」

 友介が尋ねると、文乃ちゃんは何かを誤魔化そうとするような作り笑いをして、両目を左下の方へスッと逸らした。

「………いや………あの…………メーカーにも………」

 友介は溜息をつくことしか出来なかった。

「だから、それは、デビューへの第一歩だってば………。文乃ちゃん。申し訳ないけど、黙ってそこで大人しくしていて」

「はっ……………。はいっ、お兄様っ」

 いつもインテリジェントで合理的なはずの文乃ちゃんの話していることが、今日は全く不条理で支離滅裂になっている。そう思った友介は、思わず強めの口調で彼女に命令をしてしまった。すると、予想したよりもずいぶんと素直で従順な返事が、即座に返ってきた。

 ソファーの上に正座をして、神妙な顔つきで背筋を伸ばしている文乃ちゃんから視線を外して、立ち上がった友介は、リビングをグルグルと歩き回りながら、考えを巡らせる。ナカガワ先生に助けを求めようというのが、彼が最初に思ったことだが、あれこれ思案していくなかで、まず別の選択肢を試すことにした。

 少しだけ迷いながら、携帯を手にして、一昨日登録したばかりの電話番号へコールする。

 呼び出し中の音が4回鳴った後で、少しイントネーションの独特な声で、相手が電話に出た。

「ユースケさんっ。さっそく掛けてきてくれて、ありがとう。どうかしましたか?」

「ジェイクさん。問題があって相談の電話をしました。義妹の園原文乃のことです。貴方も良く知っているでしょう?」

 電話口のジェイクさんは、友介からディナーの誘いではなかったことを少し残念がっていたが、文乃の名前を聞いて、機嫌を取り戻した。

「オー。文乃ちゃん。とてもキレイ。ゲイシャみたいですね。大好きデス」

 ジェイクさんの反応を聞いた友介は、秘かに安堵の溜息をつく。先日、文乃ちゃんから聞いた通りに、ジェイクさんの日本の文化風俗に対するイメージは、かなり古くてザックリとしている。少なくとも、アダルトビデオの業界用語を使ってまで、文乃ちゃんを操作しているのは、この人ではない。

「一昨日、洗礼の儀式を受けたせいだと思いますが、文乃の様子がおかしいです。普段の彼女の行動からは考えられないこと、そして取り返しがつかないことをしようとしている。私はこれが、ナカガワ先生も意図していることなのか、彼の意図の外で、アクシデント的に起こっていることなのか、判断できないんです」

「…………ソーデスカ。ナカガワ先生は、子供たちを不幸にさせるようなことは、しないと思いますケドネ………。でも、アクシデントは起こるかもしれない。信者さん皆で、新しい信者さんの育てなおしをして、生まれ変わりを助けていくから、色んな人がいると、イロイロネ………。あぁ………、そういえば、文乃ちゃんの周りではこの前、レイナセンセイにトラブルがあって、小塚さんは絹田君に文乃ちゃんを預かってもらっていまシタネ。彼は、ちょっと、トラブルメーカー………ダヨネ」

 携帯を握る、友介の手に力が入った。やはり、元凶は絹田という男のようだ。先日の集会の前に、ナカガワ先生に、彼が文乃ちゃんに出してくるちょっかいのことを伝えた。ナカガワ先生は注意すると言っていたが、それが充分ではなかったということだ。あるいは、友介の行動すらも、藪蛇だったのかもしれない。友介がソファーへ顔を向ける。ソファーの上で正座しながら、内腿同士を擦るようにしていた文乃ちゃんは、彼の視線を感じた瞬間に、太腿をギュッと揃えて、背筋をピンっと伸ばした。

「ナカガワ先生に相談して、絹田君の悪戯を直してもらいマスカ?」

 電話口で、ジェイクさんの声を聞く。友介はそこで、苦しい溜息をついた。

「正直、そこがまだ、悩んでいるところです。すでに一度、ナカガワ先生にお願いはしたんですが、それは充分では無かった。僕は、これをもう一度ナカガワ先生に念を押してお願いするだけで、本当に解決するんでしょうか? ………そう思った時に、気になったのは、最初に聞かされた、あのヨシュアの家探しとかいう、宗教説話です。えっと、『ヨシュアの探訪と、民が得られる融合による歓喜』でしたか? 初めの日にナカガワ先生に聞かされた、あのお話のなかで、ヨシュアは始め、色んな人にアドバイスを求めたけれど、結局混乱が増すばかりで、良い場所を決められなかった。自分の心に従って、住む場所を先に決めて、そこでどうしたら快適に過ごせるかを周囲の人に尋ねるようにしたら、ようやく安住の地と安定した生活を得ることが出来るようになった。…………その説話がこの教団の何か革新的なものに繋がっているとしたら、僕がただ助けを求めているだけでは、ナカガワ先生は根本的な解決へは導いてくれないということではないでしょうか?」

 友介は、一番悩ましいと思っていたことを、ジェイクさんに打ち明けた。彼がナカガワ先生でなく、最初にジェイクさんに電話をしたのは、本当は、ナカガワ先生のことを疑っていたからではない。どうしたら、前回よりも的確にナカガワ先生を動かせるか、そこに課題を感じていたからだった。電話の向こう側で、ジェイクさんが鼻息を鳴らした。

「ンー。ヴェリー・ブライト。………ユースケさんは、勘が良いと思いマスネ。ペガサス聖家族には色んな人がいマス。本当に、文乃ちゃんの安全と安心を確保し続けようと思ったら、ユースケさん自身が、偉くなることが必要ね。今はユースケさんも絹田君も『子供たちの長』デス。彼が洗礼の時に文乃ちゃんに悪戯したなら、貴方は『司祭』になって、彼の言葉を取り除いてあげれば良いデス。あとで絹田君のお友達が悪さしようとしてきても、司祭の守護は子供たちよりも強いです。これでずっと安心」

 途端に、携帯を持つ手がグッと重くなったような気がした。もう片方の手で頭を抱えるようにして、髪の毛を掻く。

「それで、『司祭』になるには、どうしたら良い? ………宗教学校に行けとか、3年修行をしろとか言われても、無理ですよ。文乃のことは、数日の間に解決しなければいけない、事情があるんです」

「司祭になるには、20人の教団への勧誘を成功させれば良いデス。ユースケさんは、最初に文乃ちゃんを勧誘したことになっているから、あと19人。友達のいない絹田君には難しくても、社会人のアナタには、無理ではないと思いますね」

 それを聞いてから、何と返答したか、友介はあまり覚えていない。上の空で対応してしまったのではないかと、ジェイクさんに対して少し申し訳なくも思った。電話を切ってから、ソファーに正座している文乃ちゃんと、今まで話をしていたスマホとを見比べる。もう1週だけリビングの中を歩いてから、意を決して、もう一本、電話をかけた。

 。。。

 翌日、日曜日の昼前、1階、正面玄関横の会議室で、友介と雪乃が住むマンションの定例理事会が行われた。2年に一度の定例会では駐車場の場所をクジ引きで決めなおす。駐車場の出入口に近い場所やクルマを停めやすい場所を求めて、この回は出席率が、普段よりもぐっと上がる。井村友介は落ち着かない様子で何度も椅子に座りなおしながら、住民が持ち回りで担っている理事からの、修繕積立金の報告などを聞き流していた。

 立地や価格帯、モダンな内装のデザインなどが誘導するからだろうか。今日理事会に参加している、同じマンションのご近所さんを改めて見ていると、裕福そうな若い夫婦が多いことに気がつく。夫婦どちらかが参加しているご家庭も多いが、2人揃って参加しているご家庭は、とても夫婦仲も良さそうで、見ていて微笑ましい。友介は自然と、いなくなってからしばらくたつ、妻の雪乃のことを思い浮かべていた。そして、今日も家のリビングで「大人しく」してくれている、文乃ちゃんのことを思い浮かべる。会議室にいるご近所さんたちを見ていると、罪悪感に苛まれるが、文乃ちゃんのことを考えて、自分を奮い立たせるようにする。

「ここまでで、ご質問等、ございますでしょうか? ……特になければ、皆様、お待ちかねと思います。駐車場のクジ引きに移りたいと思いますが………」

 一人だけ年配の、理事長が次の議題へと進めようとする。そこで友介が慌てて手を挙げた。

「あ………井村さん。………ご質問ですか?」

「は…………はい…………、いえ、あの………。突然のことで大変恐縮なのですが、皆さんのお住まいのこととも、実は関係しますので、ちょっとまどろっこしいのですが、あるお話を聞いて頂きたいんです。その………『ヨシュアの家探し』という話なのですが………、すみません。聞いて頂いているうちに、私の言いたいことがわかると思いますので、5分だけお時間を頂きたいです」

 ポカンとしている若奥様、迷惑そうな視線を向ける若いお父さん、キョトンとしている理事長、大勢の奇異な視線を集めながら、緊張しつつ、友介は紙に書き写した話を、読み上げ始めた。

 。。

「はい………お疲れ様です。それでは、こちらの皆様の魂を一部ずつ、拝借して繋いでいきますよ。………30人以上いますね。これは久しぶりに、ちょっとした大仕事です」

 にこやかな表情を崩さずに、ナカガワ先生は額の汗を拭いながら、新しい子供たちの魂を摘まみ上げて、壺に入れるという仕草をしていく。ナカガワ先生が入室した会議室では、友介を除く、マンション理事会の参加者たちが、呆然とした表情で遠くを見つめたまま、無反応になっていた。彼らの魂は皆、自分の体の頭上に漂っている。そのことは友介にもはっきりと感じられていた。

「彼らの生活を壊さないように、配慮しながら取り込んでいくことも、可能なんですよね?」

 友介が聞くと、ナカガワ先生は悪意のない笑顔を彼に返す。

「もちろん。イムラ先生がそう求めるのでしたら………。だってここは新しい司祭、イムラ先生の教会ですから。子供たちを導いてあげてください。最初は、動物帰りしたり性欲が暴発したりと、戸惑うこともあるかもしれませんが、皆、司祭の貴方の指導を待っています。全ては貴方次第ですよ」

 屈託のない笑顔を見せて、ナカガワ先生は無邪気に友介の肩を叩いた。

「このマンションにお住いの皆さんを全員を入信させられたら、全部で100人を超えてしまいますね。………そうしたらイムラ先生は一気に主教ですね。私と合わせて2人の主教が求めれば、セノオ主教も応じない訳にはいかないと思います。………そう思うと、文乃さんだけではなくて、奥様を貴方の手に取り戻す日も、遠くはなさそうですね。………イムラ先生には、本当に、期待をしていますよ。貴方らしさを忘れずに、頑張ってくださいませ」

 ナカガワ先生はそう言った後、深々と友介に頭を下げたのだった。

(第5話に続く)

4件のコメント

  1. 本人どころか契約締結者にすら一切の合意を得ることなく第三者を巻き込む契約、なにそれこわい。(花京院の魂を賭けるぜ!)
    しかもこれ佑馬くん一切のメリットなく義務だけ背負わされてるじゃないですかやだー。
    当然ながら限界はあるとはいえ、本人のあずかり知らぬところで義務を背負わせることができるのは、仮にカルト側と戦うことになる場合はかなりのアドバンテージにもなりそうですが、絶対に敵に回したくはない能力ですね。

    カルト側、順調にドツボにハマってますね……!
    こんな感じで鼠算式に信者を増やしていくと、教団側で管理するのも大変だし結構明るみに出てしまうこともあるんじゃないかな、みたいなことが不安になってしまったり。

  2. 蓮君はやれることが増えて友介さんは司祭としての立場を得ましたね。マンション管理で若奥様たちがどんな風に操られちゃうのかが楽しみです。
    「ジェイクさんの話をうわの空で聞いた」っていうのは後々効いてくる一文でしょうか?ただの考えすぎかw
    常識的、良心的な一般人が急に手に入れた力に振り回されたり、溺れてしまう様は催眠小説の醍醐味ですね。

    始まりは善意だったかもしれないが、俗世に適応し信者を増やそうとするうちに歪められていってしまうっていうのは世の宗教の理なのかもしれませんね。あ、絹田君には是非ともひどい目にあって欲しいです

  3. これはつまりカルト側は「契約」のオマジナイを使って信者をmcしているということでぅかね?
    ヨシュアの家の法話が契約を隠しているというのはわかったのでぅが、そういう契約だったとしたらmc出来る内容が非常に狭いと言っているのに結構手広くmcしてるのが気になるところでぅ。
    まあ、「位階が上の人間には逆らえない」ってだけだったら狭い範囲でOKってことなんでぅかね。
    それ以外は「契約」ではなく別のオマジナイを使ってる可能性もあるんでぅけど。というか構成的に多分オマクラがつかってるオマジナイは全部使ってるとは思うんでぅけれど、まだ使ってる所は描写されてないと思うからわからないでぅね。

    ナカガワ先生はペガサスを盲信してるだけのいい人なのかどうなのか。
    絹田さんはわかりやすく欲望に忠実なんでぅけどねw

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  4. >ティーカさん

    いつもありがとうございます。本当に、相手の許可を得ずに契約をしてしまうという、怖い話がありまして。
    でもこれを知った時に直ちに否定しなければ、認めたものと取られてしまうみたいな話は現実にもあったりなかったり。
    怖いですねー。今回のケースは、どれだけ麻帆に思い入れを持っていて、麻帆のしでかしたことに
    精神的に弱みを感じるかどうか(そんなもん知らんと彼女を切り捨てられるかどうか)で、
    団体契約の範囲内外が決定してしまうという設定がございます。
    「設定がございます」とか言うと、何か弁護出来た気になれるのは、作者の特権というか横暴ですね(笑)。

    >慶さん

    善意か悪意か本当にわからない、というのがカルト洗脳の薄気味悪さかなと思っておりまして、
    出来るだけそこを今回、柔くグロく、書いていこうと思っております。
    と言っても、そろそろ一旦終盤ですね。お付き合い頂いてまして、本当に感謝申し上げます。励みになっております。

    >みゃふさん

    このへん、最後までわからないのではないかな、と思っております。
    そこがまた、キモいとこだろうと(いい加減・・・)。
    ナカガワは本当に、こういう人がカルトにいなくて、社会保険労務士とか市役所の生活課とかにいたら良いのにっていう人が
    意外とゴリゴリの宗教団体にいたりするんですよね・・・。そんなこんなで、間もなく、あと1.5話くらいで
    一旦終幕です。・・・我ながら、どうなるんだろうな・・・って。
    とにかく、毎度どうもですっ!ありがとうございますです。

    永慶

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