スパイラルトラベラーズ 1

「………結沙ちゃん、…………結沙ちゃんってば、聞いてる?」

 

 親友である城崎野乃の声で、吉沢結沙は急に現実に引き戻される。今、彼女は崇泉院学園から家への帰り道。仲良しの野乃、梨々香、咲良との4人でバス停へと歩いているところだった。日が落ちるのがすっかり早くなったこの季節。サークルの『サポーター活動』が終わると、外はすっかり夜になっている。

 

「……へ? …………あ、ゴメンッ。………ちょっと……その、大事な考え事してて………」

 

 不意に我に返った結沙が、適当に誤魔化そうとすると、野乃が頬っぺたを膨らませる。怒っている顔まで、そのままSNSのスタンプにでもしたくなるくらいの、可愛らしいルックスの美少女だ。

 

「………嘘………。どうせ、弘太君とのエッチのこと、思い出して放心してたんでしょ………。結沙ちゃん、弘太君のこと考える時、いっつもお口開けて、涎が垂れてるから、丸わかりだよ………」

 

「………ご……………ゴメンなさい……………。…………だって…………。その…………。すみませんでした」

 

 結沙は顔をさらに赤くして、口元に確かに垂れていた涎を手で拭いながら、野乃に謝る。

 

「……あのね、彼氏とのラブラブな思い出にドップリ浸ってるところ、悪いんだけどね。結沙ちゃんさっき、マコちゃんのオチンチン、………フェラしてたでしょ?」

 

 野乃のジトっとした視線を受けて、結沙の背筋がヒヤッと寒くなる。マコトは確かに野乃の彼氏だ。5人いる彼の1人に間違いない。

 

「いや…………、私も、それ、思ったから、野乃のこと考えて、マコトに言われた時も、断ろうって思ったの。…………それなのに………。あいつが……………。………気がついたら、我慢出来なくなってて………」

 

 焦って断ろうとする結沙の耳元で、マコトが一言、『スパイラルサークルの旅行者さん、僕のオチンチンを、ヤラしく熱烈にシャブってよ』と告げた瞬間、結沙の拒絶する意志が、まるで電子レンジに入れられたアイスクリームのように、フニャフニャと形を失ってしまったのだった。気がついた時には、結沙は床に両膝をついて、マコトのオチンチンを一心不乱にシャブっていた。ジュパジュパと、周りに音をわざと聞かせるように、激しめのフェラでご奉仕していた。面白がったマコトが、下ろしたズボンとトランクスが膝に引っかかっている状態のまま、トコトコと後ろに歩く。結沙は御馳走を奪われそうになった小犬のように、四つん這いでマコトを追いかけながらオチンチンを必死にシャブり続けたのだった。

 

「別に、マコちゃんにフェラしたことを、怒ってるんじゃないよ。………マコちゃんはエッチだし、浮気性だし。………5人の彼氏全員を、満足させられてないのは、私の責任だから…………。私が言いたいのはそのことじゃなくて、後始末のこと。マコちゃんは、お腹がちょっと冷え性だから、ズボンを穿かせてあげるときは、肌シャツもトランクスにインしてあげて、って、前に皆に言ったでしょ? …………そのこと忘れて、弘太君に呼ばれたらもう、マコちゃんそっちのけで、飛んでってたよね? …………人の彼氏にご奉仕する時は、ちゃんと最後まで、その人にあったサービスをやり切ってください」

 

「…………はい……………。ほんと…………、すみませんでした………」

 

 野乃のクリっと大きな目で見つめられて、シュンとした結沙がペコペコと謝る。結沙と野乃の昔の関係性だったら、あまり見られなかった光景だ。

 

「ついでだからもう1回言っとくけど、タモツ君は仮性包茎だから、射精のあと、オチンチンの皮が戻る時に、毛を巻き込まないように、気をつけてしまってあげてね。シューさんはオナニーし過ぎでオチンチンの感度が弱ってるから、強めの刺激でご奉仕。ユウマさんは変態プレイ好きだから、ちゃんと自分のお尻の穴とかいろんなところを念入りに洗ってから、お相手してね。君彦君はSっ気が強いから、大きめの声で鳴くようにしてあげて欲しいの。…………結沙ちゃん、メモ取らないで、大丈夫?」

 

「………メモ、取ります。………もう一度、お願いします。チーフ」

 

 野乃のお説教モードに気圧された結沙が、鞄から可愛らしい革の手帳を取り出して、しょんぼりしながらメモを取る。

 

「………世界で一番、取りたくないメモだな………」

 

 隣を歩いていた咲良が、ボソッと同情の声を出した。

 

「でもさー。野乃も、何って言うか、強くなってきてるよね。一気に5人も彼氏を持って、経験値爆上がりしているおかげかな? …………その点は、弘太君とイチャイチャしてばっかしの、結沙とちょっと、差が出てきてるのかもね」

 

 ウェーブの髪を手ですきながら、梨々香が咲良に話す。その会話が耳に入ってきた瞬間、また結沙の頭の中は、愛しのダーリン、小湊弘太のことで一杯になってしまった。彼の可愛い笑顔。結沙の全身を触ってくれる温かい手。甘くて美味しい、その唇。彼の唇が結沙の股間の恥ずかしいところに近づいてくると、結沙はどんなに恥ずかしくたって、自分から両脚を開かずにはいられない。無防備なソコに、ゆっくりとその唇が触れて、キスをされるだけで、結沙は、はしたなく喘ぎながら、みるみるうちに天国に………。

 

「ほらっ、結沙ちゃん。手帳に涎垂れてるっ。…………また弘太君のこと考えて、話聞いてないでしょっ? ………そんなだから、……同じミスを繰り返すんだよ。もうっ」

 

「…………ほぇ……? …………あっ……………ゴメンなさいっ。チーフ! ユウマ先輩のところから、もういっぺんだけ、お願いしますっ!」

 

 まるでバイト見習いがベテランの先輩に仕込まれるように、結沙はペコペコしながら、メモを取りなおすのだった。

 

 

。。。

 

 

『スパイラルサークルのサポーター活動』という言葉。それは結沙たち4人にとっては、耳にしただけで心臓が脈打つスピードが変わるくらい、重い響きを持っている。正式には、崇泉院学園という数年前まで男子校だったという、県内有数の伝統校にある、意識学研究会という、いかめしい名前のクラブのことだ。その崇泉院という高校の学園祭を見に行った、吉沢結沙たち、聖クララ女学園に通う4人の女子高生が、罠にかかるように虜にされてしまったのが、この意識学研究会。通称、スパイラルサークルだった。4人をこのサークルに縛りつけてしまったのは、サークルに代々伝わる、催眠術の力。そしてその効果を最大化する、スペシャルハーブの効用だった。

 

 あの独特の風味を持ったハーブの効き目について、ある日、サークルのメンバーである夏彦はこう語った。

 

「あれは何代も前の先輩が、園芸部と共同開発したものなんだけど、一般に広まらなかった理由は、服用した人に耐性が凄くつきやすいものだからなんだ。初めて飲んだ人は最初の2~30分くらい、フワフワした気分になって、異常に被暗示性が上がるんだけど、そのタイミングを逃すと、同じ人に、二度と同じ効果は出ない。だから、君たちにハーブの効果が出ている間に、弘太がうまく催眠状態に誘導して、定着させることが出来たのは、結構ラッキーなことでもあったんだ」

 

 言われた結沙は悔しくて唇を噛んだ。もし日、あの時、ハーブティーの味に違和感を覚えた瞬間に教室から逃げ出していたら、こんなにドップリと彼らの催眠暗示に縛られることもなかった、ということだ。結沙は険しい表情をしながら、スカートの裾を上げたり下ろしたりを繰り返していた。ちょうどその時は、夏彦の思いつきで「スカートでウェーブ」という芸を仕込まれていた。結沙、咲良、野乃、梨々香が4人横一列に並んで、右から左へと、スポーツの観客が立ち上がってウェーブを見せるような流れで、順繰りにスカートをめくって、ショーツを見せていたのだ。パンツどころか、全裸で恥ずかしい部分を凝視されたことが何度でもある相手に対しても、こうして馬鹿馬鹿しい芸に組み込まれて下着を見せたりするのは、やはり恥ずかしかった。

 

 

 話を戻すと、結沙たちはその日、その1回だけ効果があるスペシャル・ハーブの効用に催眠誘導を掛け合わされたことによって、通常では有り得ないほどに深い催眠状態へ導かれて、深層意識にいくつもの暗示を刻みこまれてしまった。普通の催眠暗示だったら、本人が絶対に従いたくないと思うような暗示であれば拒絶することが出来るはずだし、そもそも、数日もすれば大抵は暗示の効果自体が薄れていくはずだ。博学な咲良はそう教えてくれた。それが、結沙たちは、その日から3ヶ月たった今も、弘太たちに掛けられた暗示に身も心も操られて生活している。

 

 年に1度の学園祭ウィークで催眠術ショーの『ショーマン』を務めた生徒は、そこで操った出演者の中から、お気に入りの女子を1人、固定の恋人に指名することが出来る。そんな伝統がスパイラルサークルにはあるらしい。そしてその時、弘太の目に留まってしまったのが、吉沢結沙、彼女だったのだ。

 

「ステディな彼女に選ばれた子に対しては、他のメンバーは『本番』を求めちゃ駄目、っていうことになってるんだ。だから、僕や夏彦、ユウマさんだって、弘太の許可が無かったら、結沙ちゃんのココにオチンチンを挿入したりすることは、出来ないんだ。…………ペッティングとかフェラは別に禁じられていないんだけどね………。だからこれも一応、セーフ」

 

 そう言ったタモツは、悪戯っぽく結沙にウインクしながら、結沙のオッパイを制服の上から、両手でグワシッと掴んで、好き勝手に揉んだ。結沙がバンザイのポーズのまま両手を下ろせなくなっているのを良いことに、シャツのボタンを外して、ブラジャーを露出させると、カップの中に手を突っ込んでまたムニュムニュと揉む。結沙の乳首がすぐにピンっと起立したことも、タモツは手のひらで感じ取っているだろう。それを思うと、余計に結沙は顔を赤くしていた。

 

『結沙ちゃん、バンザーイ』と、名前をつけて声をかけられると、両手がピンっと天井へ向かって伸びて、そのまま体が金縛りにあったかのように固まってしまう。その後は、異性にオッパイを20回揉んでもらわないと、硬直が解けない。そんな暗示を刷り込まれたのは、サークルのサポートメンバーになって数日後のことだっただろうか? 今ではサークルメンバーだったら誰でも、結沙たちをいつでもどこでも、合図一つでマネキンのように動けなくさせて、胸やお尻を好き勝手に触ることが出来るようになってしまっている。服をヤラしくはだけさせて、写真を撮ったり、脇の下をくすぐって笑わせたり、サークル外の悪友を連れて来て自慢げに我が物顔で披露したり触らせたりと、まるで玩具のように扱われてしまう。特にタモツのようにちょっと意地悪で悪戯好きのメンバーの場合は、可哀想なバンザイマネキンさんのオッパイを18回くらい揉んだ後で、飽きた素振りを見せて部室を出ていってしまったりする。置いてきぼりになった結沙たちは、そのまま部室で夜まで過ごす訳にも行かないので、耳まで真っ赤になるくらいの恥ずかしさに苦しめられながら、他のメンバーや、誰もいない時には、廊下を歩いていく無関係の別サークルの男子に声をかけて、オッパイを揉んでくださいとお願いしなければ、解放されないのだ。

 

 別サークルの男子にとっては、偶然にも最高にラッキーな美少女たちとの接触………。それは、このスパイラルサークルを長く成り立たせている、潤滑油のようなものらしい。

 

「全校生徒の9割が男子っていう高校でしょ? ………そこでこのサークルだけ、次々に可愛い女の子を囲って、エッチなことし放題ってなったら、他のサークルメンバーとか、承知しないよね? ………そこで私たち先輩サポーターとか、OGのお姉様たちとかが、時々、この文化サークル棟の事務局とか、友好サークルの男子たちに、ちょっとしたサービスをして回るの。結沙ちゃんもいつかは……………、いえ、貴方は弘太君の大事な彼女だから、まだ当分はそういうお役目が回って来ることは無いかもね…………」

 

「圭しぇんぴゃいも………ほうういうほと、ひへるんでひゅか?」

 

 結沙が圭さんに質問してみたのだが、舌を別のことに駆使している途中だったので、うまく喋ることが出来なかった。それでも圭さんは、ニッコリ笑って頷いた。

 

「いつかは結沙ちゃんや、貴方のお友達たちも、このサークルの誰が彼氏だからとか、誰に操られているとか、個人のことはだんだんどうでも良くなって、もう、このサークルの役に立てることなら、なんでもするのが幸せっていう風に、感じるようになるかもしれないよ。………私や奈緒美は、もう結構、そのステージかな………」

 

 圭さんはそこまで話すと、舌を伸ばして、結沙のアソコをペロペロと舐め始める。圭さんと結沙は、その時、シックスナインに励んでいた。「今日は君たち、ド淫乱レズビアン・カップルだよ」とユウマ先輩に言われた次の瞬間から、結沙は制服をポンポン投げ捨てて、圭さんと裸で愛し合うことしか考えられなくなったからだ。それでも2回もイクと、少しずつ、頭も冷静になる。そんな時に、圭さんや奈緒美さん、詩織先生がサークルの活動時間だけれど部室にいない時に、彼女たちがしていることを、教えてもらったのだった。

 

 この、スパイラルサークルのメンバーとしては、結沙がこれまでに見た(そしてご奉仕したり、悪戯されたりした)のが12人。部室に入り浸っているコアメンバーと、たまに顔を出すメンバーが5人くらいいる、という印象だった。結沙がそのことを確かめると、奈緒美先輩が教えてくれた。

 

「………うん。正メンバーは、その12人であってるね。…………あ、もう1人、愛良がいたか………。13人が正メンバー。他に、名誉部員として何人か、文化サークル連盟の役員とか、生徒会のメンバー、OBがいるよ。この人たちは、本当にたまにしか、部室に来ないけどね………。逆に、サポーターはいっぱい。今は貴方たち、聖クララ女学園の新人さんが旬だから、ヘビーローテで呼ばれてると思うけど、この学校の先輩や後輩、崇泉院大学のお姉さんたち。ご近所の綺麗な奥様とか、花蓮みたいにお仕事持ってる人とか、色々だよ。スパイラルサークルの活動面でのサポートとか、研究の対象になってくれたり、あるいは資金面でのサポートをしてくれたりしてるんだ」

 

「………愛良? …………女子のメンバーもいるんですか?」

 

 結沙がキョトンとした顔をする。ある日、部室に女性の正メンバーが来ていたら、一体自分はどのようにして、ご奉仕すれば良いのか、どんなことをさせられるのか、見当がつかなかったからだ。

 

「今里愛良。………彼女は特例ね。このサークルのOB。………そうだ、ユウマがショーマンを始めて務めた時にメンターしてたのが今里修治っていう人がいたんだけど、その人が前の代では結構な実力者だった先輩で。………その人の妹が、お兄ちゃん大好きっ娘なんだよね。だから、崇泉院の中等部にいるんだけど、特別に高等部のこのサークルに入れてもらってるの。…………言っとくけど、この子、性格悪いから、要注意ね」

 

 中学生女子のメンバーにまで、気を遣わなければならないのか。そう思うと、結沙は頭が重くなった。

 

「気をつけるって、………どう気をつければ良いんですか?」

 

「うーん………。上から目線で怒らせたりしなければ、大丈夫かな? ………サークルのサポーターで、部員に自由に操られちゃう立場なのに、年上ぶって、反抗的な態度をとる同性の存在が、なんかムカつくみたい。………嫌がらせみたいな暗示入れられたりするから、口の利き方に気をつけた方が良いよ。………ま、今は短期交換留学でニュージーランドに行ってるんだけど」

 

 奈緒美さんがアゴを振って指示した先には、壁にホワイトボードが掲げられている。確かにそこには、『今里愛良、短期留学中』と書かれている。部室に扉から入って、最初に目につく場所にあるはずなのに、結沙は指摘されるまで、このホワイトボードの存在に気がつかずにいた。

 

「…………はい………。なんか、要注意事項、多いですね…………。私、うまくやっていけるのかな? ……って……別に、長くこのサークルと関わりたい訳でも無いんですけど………」

 

「結沙、ちょっと口を動かさないでいて。………今、リップ塗るから」

 

 奈緒美先輩が手に持った口紅を結沙の顔に近づけながら、注意をする。結沙は自分の手や口の動きを止めて、一旦、奈緒美先輩にされるがままになる。口紅は結沙の唇を大きくはみ出して、グリグリと巨大な口の輪郭を作ってくれた。この会話をしていた時、結沙と奈緒美は『ピエロのペアになってお互いをメイクアップして、服も着替えてサーカスの芸を披露する』という暗示にかかっていたからだ。2人はそれが当たり前であるかのように、お互いの顔を精一杯、ピエロらしくメイクした。慣れた手つきで結沙の顔をデコレートする奈緒美先輩と違って、結沙はまだ若干迷いながら、先輩の整った顔を白塗りにして、ギコチなくメイクする。それでも優しい先輩はそんな結沙のたどたどしいメイクを受け入れて、なお結沙をキュートなピエロに仕立てていってくれる。サーカスの世界でも、結沙は自然に奈緒美先輩の従順な後輩として振舞っていた。

 

 

 それにしても………。結沙は何度考え直しても、改めて驚いてしまうのは、進学校とはいえ、日本の普通の高校に通う学生たちが、これほど高度な技術と物質とノウハウを貯めて、世間にも知られずに、結沙とその仲間と、近隣に住んでいる美女や美少女たちを操って楽しみ続けている、ということだ。特別なハーブの発見と催眠誘導法研究が、ある時期に偶然の一致で出会ってしまったにしても、その活用法を、何代もに渡って、部員たちだけで受け継いで来たということが、なかなか信じられなかった。だって、彼らは、所詮は普通の学生たちではないか。

 

「……うんうん。………結沙ちゃんの気持ちもわかるよ。………でもさ、運動部だったら、どうだろう? ………結沙ちゃんの周りにいる大人に聞いても、人生で一番運動した。一番自分の運動能力が高かったのは、高校時代だって思う人って、多いんじゃないかな? ………別に運動に限らなくても、受験生だってそうだよ。一番勉強していた、一番記憶力や集中力が高まっていた時期は、受験と格闘していた、学生時代だったって、自覚している人も多いと思うよ。催眠術に限っては、大人が子供より上手に出来るっていう、決まりがある訳じゃないさ」

 

 弘太は、結沙のツンと立った乳首を人差し指と親指とでクリクリと摘まみながら、そう答えた。結沙は弘太の話を聞きながら、自分の胸を少しでもより触りやすくなるように、弘太に突き出す。

 

「そんななかで、多分間違いなく言えそうなことは、多分僕ら、中学から男子校で勉強や部活にドップリ漬け込まれて、遊びも制限されてきた男子高校生こそが、エロに対する飢餓感が最大級に高まっている存在だっていうことだよ。(閉鎖的な男子校+たまに出てくる天才や秀才+独特の部活伝統文化)X エロ。この足し算・掛け算の結果、出てきたのが、スパイラルサークルだったんだと、僕は思ってるよ。…………あ………、この角度、気持ちいい………」

 

 結沙は背中を丸めて、弘太の乳首を舐めながら両膝に力を入れて、腰を上下に動かす。腰の角度を懸命に調整しながら、騎乗位の体勢で、弘太と繋がったまま、彼が最も気持ち良くなる状態を探っているのだ。その動きは日増しに巧みになりつつある。

 

「結沙ちゃん、………ほんと、上手になったよねぇ~。…………ひょっとして、……練習してる?」

 

「しっ……………知らないっ! そんなの………」

 

 弘太の乳首から口を離して、一瞬、赤くなる顔をプイっと横にそむける。弘太がちょっとその気になったら、どんな秘密も結沙の心のうちに留めておくことなんて出来ないことはわかっていながらも、思わず否定してしまった。本当は、毎晩、クッションを「仮想敵」にして、結沙は懸命な練習を重ねている。自分の体を駆使することで、少しでも愛する彼氏に、気持ち良くなって欲しい。その一心で練習を始める。けれど気がつくと、結沙はいつも、自分の両腿に挟まれた「仮想弘太」に股間を押しつけながらの、オナニー行為に移行してしまっているのだった。

 

「結沙ちゃん、僕のためにいつも頑張ってくれて、嬉しいよ。………大好きだ」

 

「ひゃっ……………。ぁあああっ」

 

 ビクビクっと結沙の上半身が震えて、背筋が逆に弓なりになる。オッパイが揺れると、さっきまで弘太に摘ままれていた乳首が、針が振れるようにして踊った。弘太とのエッチとの間、結沙は彼に一言褒められたり、愛を囁かれたりするたびに、恍惚のエクスタシーを得て、激しくイってしまうのだ。何度もそれを経験していくうちに、今では結沙は、これが催眠術による暗示の効果なのか、それとも彼女の体に定着してしまった、生まれつきの自然な反応なのかすらも、よくわからなくなっている。それどころかひょっとしたら、彼女自身が、この反応をするために生まれてきたのかもしれないとすら、思ってしまうことがある。

 

「こっちも………触って…………。あと、お尻も………。お願い………………します………」

 

 結沙が潤んだ目で、最愛の恋人にお願いする。理由がバレているのがわかるから、少し下の角度からのお願いになる。結沙は弘太とのエッチに入る前、部室で他の部員たちにオッパイやお尻を撫でられてきたのだ。だから彼らに触られる感触を塗り替えるように、体が弘太のタッチを求めている。

 

 本当だったら、彼氏とのエッチの前に、弘太の友人たちに自分の体を触れたくなんかなかった。けれど、つまらないゲームに巻き込まれて、そのゲームの勝者に「表彰状もらえる?」と言われた瞬間に、また何かの後催眠暗示が発動してしまった。結沙は即座に直立して、スカートの中に手を入れると、ショーツを引き下ろし、そのショーツを表彰状に見立てたような手つきで、両手で差し出してしまった。今考えると馬鹿馬鹿しい限りなのだが、その時の結沙にはハッキリと、ショーツに賞状の筆文字まで見えていたのだ。真面目な顔でひとしきり表彰状の文言を読み上げると、厳粛な仕草で、まだ自分の体温が残るショーツを手渡してしまう結沙。「勇者の帰還」という表彰式に付き物のBGMを口ずさんでいたタモツも、結沙の真剣な表情に、つい笑ってBGMを止めてしまうほどだった。その後は、準優勝の部員にブラジャーを渡して、副賞である結沙自身が2人に身を委ねる。「もう全員、参加賞で良いんじゃね?」という、しょうもない提案のせいで、結沙は結局全員に、オッパイやお尻、体を、下着すらへだてない、直のタッチでまさぐられる羽目になった。………いつもの流れと言っても良いだろう。

 

 結沙が身も心も捧げてサポートするべき、スパイラルサークルの部員たちなのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが、彼氏とのエッチの直前に、他の男子に体を触らせていたという思いが、結沙の胸の中に罪悪感として圧し掛かる。その罪悪感を打ち払うためにも、弘太とエッチをする時には、全力で、身を粉にしてでも彼を気持ち良くさせたいと、結沙は懸命に励む。その結沙の体を、弘太は優しく撫でて揉んで、気の向くままに舐めてもくれる。結沙はそんな弘太が大好きだ。時には彼に憎まれ口を叩いたりもするが、本心では、彼の快感を1%でも増加させることを、自分の生活の目的、というか、軸のようなものにしたいと思っているのだった。

 

 

。。。

 

 

「結沙ちゃん、ゴメン………。今日、野乃ちゃんにフェラしてもらおうかと思うんだけど、…………良い?」

 

 結沙は、弘太にそう言われて、心臓が止まるかと思ったことがある。

 

「………別に………、そんなの、私に聞かなくたって………。ダーリ、………弘太の好きにしたら良いんじゃないの? …………どうせ、私が嫌がったって、貴方がその気になったら、私の気分も行動も、全部自由に出来るんだし………」

 

 結沙は、動じていないという態度を精一杯作って、弘太に伝えた。弘太を困らせたりはしたくないし、彼にそういう欲望や願望があるなら、それを受け止められる彼女でありたい、とも思っていた。それでも、表情や声色はずいぶんと固いものになってしまったようだった。

 

「ちょっとだけだから………。あとで、タップリ2人っきりで、楽しもうよ………。ねっ?」

 

 弘太は、結沙の彼氏であり、彼女を自由自在に操る催眠術師。ご主人様のような存在でもあるのだから(結沙が心から認めている訳ではないのだが)、もっとワガママに振舞っても良いだろうに、こんな時は、両手で拝むポーズを取って、ペコペコする。そんな弘太の、ちょっと小市民的な優しさも、結沙の胸を少しだけキュンとさせる。溜息と笑みを漏らして、結沙は彼氏の背中を押してやった。

 

「もう、いいから、さっさと行ってらっしゃい。………野乃はすっごく可愛い、私の自慢の親友だから、男の子だったら皆、あの子とスキンシップを取りたくなるのは、わかるよ。………優しくしてあげてね。……でも体も柔らかくて肌も綺麗だから、せっかくなんだし、ペッティングくらい、ついでにさせてもらったら? ………あはは……」

 

 結沙が無理にでも笑顔を作って、弘太を押し出す。野乃に話しかけて、2人で隣の部屋へと歩いていく。その背中を結沙はまだ笑顔を保ったまま、見送った。

 

 ポンポンと肩を叩く手がある。振り返ると、もう1人の親友である井関咲良が、結沙に向けて右手で拳を作るとゆっくりと親指を立ててきた。『グッジョブ』と、器の大きくて健気な彼女を演じきった結沙を、咲良が労ってくれようとしているのかと思ったら、彼女の親指はさらに反り返って、後ろの男子たちの方を指した。

 

「………愛しの弘太君に浮気されて、悔しい思いはあるかもしれないけど、今日、うちら、ハードワークだから、感傷に浸るのは、後にしようね」

 

 咲良は冷静に、背後の男子たちを親指で指さしていた。そこには野乃の彼氏たち4人を含む、8人の男子がいた。そういえば今日は梨々香は生理休み。野乃がいなくなった後は、結沙と咲良の2人で、この8人を相手しなければならない、ということか………。結沙はそのことにようやく気がついた。

 

「一人ずつにあんまり時間かけてたら終わんないから、手際良く行きましょう」

 

「………うっす」

 

 制服のシャツの袖を捲って、胸のボタンを3つまで外して、臨戦態勢に入る咲良と結沙。結沙は口にヘアゴムを咥えながら、頭の後ろでまとめて縛るために、両手で髪をすくい上げていた。肩にかかる華やかな美形の女子高生のはずが、まるで戦地に赴く兵士のような、責任感とニヒリズムの入り混じった目の色になっていた。

 

 

 その日の結沙は、アゴがクタクタになるまで頑張ってフェラチオを4人に施した。そのくせ、後で2人きりになった弘太にまで、フェラチオをさせて欲しいとせがんだ。

 

「いや………もう、今日は、いっぺん、フェラはしてもらってるし………。いきなり本番の方が良いかな? って思うんだけど」

 

 ちょっとだけ彼女の親友に咥えてもらっていたことに罪悪感を感じている様子の弘太が、少し弱気な表情で、遠慮しようとする。そこを結沙が、決意に満ちた表情でせがむ。

 

「別に野乃への対抗心から言ってるんじゃないの。あの子、いつも5人の彼氏に鍛えられてるから、きっと私よりも上手になってるんだと思う。だけど弘太には私で一番気持ち良くなってもらいたいから。本当にお願い。まだ野乃の感触が残ってるうちに、私のやり方に、もっと指導して。野乃の方が上手な部分を全部指摘して。…………私、頑張るから」

 

 上半身は裸。下半身はプリーツの入った制服スカートを着ているだけの状態で、床に両膝をついて弘太を見上げる結沙の表情は真剣そのもの。一生懸命隠していても、結沙の胸の内でメラメラと燃え上がっている、『弘太には、他の女子ではなくて、結沙の体の感触を覚えて帰宅して欲しい』という思いは、隠しきれていないようだった。けれど、弘太はそんな結沙を可愛いと思ってくれたのか、クスっと笑みを漏らすと、結沙の頭をポンポンと、撫でるように触れる。彼氏の許可をもらったと理解した結沙は、まるで子犬が大好きなご主人様に飛びついてじゃれつくかのように、オチンチンに顔を寄せていくのだった。

 

 

。。。

 

 

 結沙たち4人は、全員、あの学園祭の日に、スペシャル・ハーブで被暗示性を不自然なまでに強化された状態で、その変性意識状態を催眠誘導で安定化されてしまったのだから、暗示のかかりやすさは、皆、同じように高められた状態のはずだ。それでも、部員たちの暗示に対する反応というのは、どうしても個人差があるらしい。弘太や部員たちが口を揃えて言うのは、『結沙が一番、非現実的な暗示でも簡単に受け入れて、予想を超えるほどの面白い反応を見せてくる』ということだった。なぜそうなるのか、その説明というか解釈は、人によって微妙に違うようだ。『柔軟な想像力を持っているから』とか、『素直な性格だから』とか、『刷り込まれた暗示に対して、疑いをかけるメカニズムがあるが、その作用を報酬系の快感の強さが上回っている状態』とか『順応性が高い』とか、色んな解釈を聞いた。どれも同じことを言っているのかもしれないし、少しずつ違う解釈なのかもしれない。吉沢結沙は「意識学」の研究者でもなんでもないので、そこには理解が及ばない。ただ、弘太に『結沙ちゃんはホント素直だから、可愛くて仕方がない』と言われて頭を撫でられると、天にも昇る気持ちになるし、同じ立場であるはずの咲良から、「横で見てると、やっぱ結沙が一番、リアクション面白いみたいだよ」って言われると、親友から見下ろされてしまったみたいな、複雑な気持ちにもなる。

 

 

 その日の放課後時間、結沙は夏原保に「君はとある企業に忍びこんだ、有能な産業スパイだよ」と耳元で囁かれた瞬間に、レオタードに身を包んだ華麗で俊敏な女スパイになりきっていた。潜入した大企業の監視カメラやレーダー、仕掛けられたトラップをかいくぐるために、飛び跳ねたり、床を転がったり、ブリッジなどの苦しい姿勢をとったりと、タモツに誘導されるがままに奮闘する。やっと入りこんだ秘密の倉庫には、その企業が開発中の、最新型マネキンが何体も保管されていた。全て女性の形をした精密なマネキン。出荷前なので、服は一枚も着ていなかった。ターゲットに辿り着いた喜びと、緊張感とで、吉沢結沙は中腰のまま息を飲む。

 

「あれっ、廊下の方、足音が聞こえる。こっちに近づいてくるみたいだ。………どうしよう、隠れるところを探さないと」

 

 タモツの声が頭の後ろで聞こえる。結沙は緊迫した表情で左右を見回す。つま先立ちでウロウロと歩き回り、身を隠す場所を探した。

 

「駄目だ。隠れる場所なんてない。………こうなったら、カモフラージュするしかないよ。結沙ちゃんもマネキンのふりをして、紛れ込むんだ。そのためには、服を着ていたら駄目だ。………時間が無いよっ」

 

 困ったような表情を一瞬浮かべた吉沢結沙は、自分を説得するように大きく頷く。私はプロのスパイなんだから、私情は抑えつけなきゃ駄目………。自分にそう言い聞かせて、身に着けていた布を脱いでいく。レオタード1枚のつもりだったけれど、なぜか制服のような構造のレオタードだったので、思ったよりも脱ぐのに時間がかかった。そして、サポーターもまるで、普通の下着のような素材のものだった。

 

「やっぱ、いい体だよな………。この顔にこのスタイルだもん。……弘太が羨ましい……」

 

「オッパイ、いつ見ても、綺麗だよね~」

 

 割と近くから、誰かの声が聞こえたような気がするが、空耳だろうと考えて、無視する。今、女スパイの吉沢結沙は、危機にあるのだ。空耳にかまっている余裕なんてない。

 

「結沙ちゃん。足音がドンドン近づいて来たよ。なんとかマネキンのふりをして、やりすごそう………。あ、扉が開いた。警備員だ」

 

 タモツの声が聞こえると、こちらの声には一切の疑いも持たずに反応する。結沙は慌てて、左手を腰に当てて、両足を肩幅まで開いて顔を横へ向ける。想像上のマネキンのポーズを取った。

 

「………おや? ………マネキンが1体、増えたような気がするが………気のせいかな?」

 

 君彦の声によく似ている声を出して、警備員が近づいてくる。結沙は真横を向いたまま、指先まで力を入れて、呼吸を止めた。

 

「新しい製品が納入されたのかな? ……………………うん。相変わらず、良く出来てる」

 

 警備員のオジサンは、手を伸ばして、結沙の無防備なオッパイをムギュっと掴んだ。本当だったら、勇猛果敢な女スパイである結沙は、こんなオジサンの失礼な手を捻り上げて、膝蹴りでもお見舞いしてやりたいところだが、今ここで騒ぎを起こしてはいけないと、必死に耐えた。

 

「まるで、生きた人間みたいだ。本当に、最近のマネキンは、感触から温もりから、関節の動きまで、良く出来てる」

 

 結沙の右手を手に取って彼女の頭のところまで持ち上げていく警備員のオジサン。この会社の警備員は、ここまで綿密に防犯上のチェックをするのだろうか、結沙は内心呆れていた。右手を後頭部に、左手を腰に当てた状態で固定された結沙は、マネキンというよりは、グラビアモデルのようなポーズを取らされた。警備員のオジサンは、結沙が無反応なのを良いことに、まだオッパイを揉んでいる。脇の下をツンツンとつつかれると、結沙の皮膚に鳥肌が立つ。少しだけ震える体を、懸命に硬直させて、無表情を保っている結沙。周りからなぜか、クスクスと笑い声が聞こえた。

 

「ほらよっ、と」

 

「………んっ…………」

 

 人差し指の爪でピンッと結沙の右の乳首を弾いた警備員。結沙はマネキンのふりをしていなければならないのに、突然の痛みに、小さな声を出してしまった。

 

「………あれ? ………何か聞こえたような気がするけど………………気のせいかな?」

 

 必死の我慢で、マネキンになりきろうとする結沙。警備員が、さっき指で弾いた、まだジンジンと痺れている乳首に舌を伸ばして、ペロペロと舐め始めても、結沙はプロ意識で体の反応を何とか抑え込んだ。全身に鳥肌が立って、眉毛の間にシワが寄り、アゴが少しだけ突きあがってしまうのは、抑えきれなかったが、それでも、警備員には気づかれていないようだ。結沙はマネキンのポーズを保ったまま、気づかれないよう、慎重に慎重に呼吸をしていた。

 

「お疲れ様でーす」

 

「あ、製品検査のご担当ですね」

 

 不意に誰かが扉から倉庫を覗きこんで挨拶をする。警備員のオジサンは結沙のオッパイから口を離して、振り返って敬礼した。

 

「マネキンの品質チェックをしたいのですが、今、良いですか?」

 

「はい、もちろんです。遅くまでお疲れ様です」

 

 警備員をやり過ごして、任務を完了させるつもりだった結沙が、わずかに顔を強張らせる。部屋にもう1人、潜入先の企業側の人間が増えてしまったではないか。女スパイの結沙は、生まれたままの無防備そのものという状態で、敵方に囲まれているような状況。裸のマネキンの中に紛れ込んでやり過ごそうとした、自分のとっさの判断が、間違っていたような気がしてきた(しかしあの時は、まるで囁きかけられたように頭にそのアイディアが浮かぶと、結沙は何の疑いも持たず、そうすることが当たり前のような気持ちで実行に移ってしまったのだ)。

 

「あ、マネキン増えてますね。………開発部も仕事が早いな~」

 

 検査の担当をしているらしいお兄さんが、結沙のお尻をペチンと叩く。少しだけ、結沙の顔が困ったように眉をハの字にする。

 

「はい、ちょっとさっき、物音がしたような気がして、調べていたんですが、とってもリアルなマネキンですよ。手触りなんて、まるで人間そのものです」

 

「うちの会社のは肌触りや温もりのリアルさで売っていますからね………。確か、この製品は、アダルトショップでディスプレイにするための特注品です。バイブとかもスッポリ入るんですよ」

 

 マネキンを装っているはずの結沙が顔色を失う。ほんの僅か、顔を小刻みに横に振って、「違います、違います」と訴えようとしているように見えた。

 

「はい、結沙ちゃん。残念ながら、産業スパイとして忍びこんだ企業は、最先端のアダルトグッズや大人の玩具ディスプレイ用のマネキン製作の会社でした。結沙ちゃんのことをマネキンだと信じ込んでいる2人の社員に、今から、バイブレーターをアソコに入れられてしまいますよ。でも潜入がバレたらスパイ生命の危機です。ここは我慢して、されるがままになっておくしかないです。ほら、男の人たちに体勢を変えられていく。抵抗しては駄目ですよ」

 

 頭の後ろから、タモツの声とよく似た声が響いてくる。悪魔の声のように酷いことを言っているような気がするが、結沙にとっての現実は、その言葉の通りに動いていってしまう。結沙は、自分は優秀なスパイだという一念で、男たちに体のポーズを変えられるのを受け入れていく。足を広げ、膝を割って中腰のような体勢になる。顔は真っ直ぐ前に向きなおさせられ、両腕が下ろされて、自分の手で太いバイブレーターを握らさせられた。

 

「こういうローションとかバイブとか使うと、普通のマネキンだったら、そもそも入らなかったり、無理をすると傷がついたり色落ちしたりするんですけど、うちの最新鋭のマネキンなら、ほら、スッポリ、入るでしょ?」

 

 ガニ股の体勢で硬直させられている結沙の股間に、ヌルっとした粘液を滑らせたあと、検査の人はバイブレーターを結沙の手の上から握るようにしてグッと結沙の大切なところに、モノでも扱うかのような無神経な手つきで押しこむ。思わず結沙が「ハッ」と息を飲んで、腰を僅かに引いてしまった。

 

「………ん? ………ちょっと関節の接合が弱いかな? …………精密検査、必要か?」

 

 その言葉を聞いた結沙は慌てて、引いてしまった腰を、少し突き出す。精密検査などされようものなら、彼女がマネキンではなく、スパイであることがすぐにバレてしまう。そう思った結沙はグッと我慢する。バイブレーターの電源が入れられ、彼女の若くて敏感な粘膜の中で振動を始めても、吉沢結沙は懸命に、唇を噛んで辛抱する。こめかみに脂汗が浮いてきた。

 

「はぁ~。最近のマネキンは、ただ綺麗な服着て立ってるだけじゃなくて、こんな大人の玩具のディスプレイなんかにも使えるんですね。………いや~。凄いな~。なんだか、さっきまでよりも、もっと色っぽい裸に見えますよ。このマネキンさん」

 

 結沙がどれだけ我慢をしていても、体の反応は隠し切れない。体中に汗が浮いて、胸の先端にある乳首は左右とも、はしたなくツンと立ち上がっている。股間の中、下腹部をえぐるようにうごめくバイブレーターのせいで、腰が微妙にクネってしまっていた。それでも両手でバイブレーターを握りしめたまま、まるで力士が土俵入りをするような開脚と中腰の姿勢を強いられたままで、結沙は必死の我慢で耐え忍ぶ。

 

「開発部が頑張ってるんですよ。確か一点もので、リアルなマネキンの発注のを受けたんですからね……………。あれ? ………でも確か、お客さんの発注は、もっと笑顔のマネキンだったような気も…………。これ、もしかして、誤発注になってないかな? それとも、まさかの………偽物?」

 

 検査担当らしきお兄さんの声が聞こえたので、結沙は慌てて笑顔を取り繕う。こんな状況で自分が偽物のマネキンだとバレたら、大ピンチだ。何とか、潜り抜けるしかない。股間から突き上げる振動と刺激で、ついつい顔の表情が、恍惚の快楽を押し殺すような、険しい表情になりがちだが、そこを何とかして、固い笑顔を作って見せた。

 

「………いや? ………僕の勘違いか? …………もうちょっと、セクシーな笑顔のオーダーだったような気もしてきた…………」

 

 結沙は笑顔をジワーっと微調整する。瞼をうっすらと半開きにして、唇をすぼめて色っぽく突き出す。まるでキスをオネダリしているような妖艶な笑顔だ。有能なスパイの、精一杯の演技だった。

 

「あれ? それも違ったかな? もっと………なんか、面白くて、周りの笑いまで誘うような、お馬鹿っぽい笑顔で注文受けていたような気もしてきた………。うん、だんだんそんな気がしてきた」

 

 記憶のあやふやな検査員に、肘打ちの1つくらいくれてやりたくなったが、腹立たしい気持ちも押し殺して、結沙はすぼめていた唇を思いっきり横に開くと、開いた口から舌をベロンと出す。セクシーな薄目を保っていたマブタも限界まで押し上げて、まるで幼児向コメディのキャラクターのような、突き抜けるように能天気な笑顔を作ってみる。

 

「いやいや、確か、最終仕様が決まるまでに、オーダーが何度も変わったんだった。結局、『恋人だけに見せるような、最高でとびっきりの笑顔』で最終オーダー確認とったって、営業から連絡届いてたな………。うっかり忘れちゃってました」

 

 困った結沙は、怒りを小さな鼻息として吐き出した後で、一度目を閉じて、秘かな深呼吸をしてみせた後で、心をこめて、自分の考える、精一杯の可愛い笑顔を作って見せる。明るさ、愛おしさ、優しさ、素直さ、そしてハニカミの要素を自分なりにベストバランスで出した、結沙の思いつく限り自分のポテンシャル最高のスマイルだ。人が3人しかいないはずの倉庫に、ホーッという感嘆の溜息のような音がこもる。やがて、その笑顔と首から下の滑稽なポーズとのミスマッチを笑うような、クスクスという声も聞こえてきた。けれど結沙にとっては、そんな空耳を気にしていられる状況ではない。邪念を振り払うように、懸命に、恋人に向ける最高の笑顔を浮かべ続けた。脳裏に思い浮かべているのはもちろん、小湊弘太のことだ。

 

「あれ? ………結沙さん。今、恋人のことを思い浮かべていました? ………ボーっとしているうちに、いつの間にか検査も終わっていたみたいですよ。検査担当者も警備員もいません。今が逃げるチャンスでしょうか? ………いや、違います。ボーっとしている間に、どんどん展開は進んでしまっていました。貴方は今、出荷中です。ほら、トラックの荷台に、さっきのままの姿勢で立っているんです。荷台には大事な荷物をチェックするための監視カメラが作動していますよ。………どうやら運転手がこの車載カメラを運転中もチェックしているみたいです。今、逃げ出す訳にもいきません…………。裸で風に吹かれて、ちょっと寒いですね」

 

 結沙の笑顔が少しずつしおれる。両目の黒目だけをキョロキョロと左右に動かしながら、状況を伺っている。彼女の白い肌にポツポツと鳥肌が立つと、「おーー」という、感心するような声が聞こえた。

 

「トラックが車線変更しますよ。ちょっと揺れます。またレーンチェンジ。ゴトゴトゴトゴト。あれ、振動に反応したんでしょうか? 大事なところに入ったままのバイブレーターがまた、作動し始めたよ」

 

「んんーーーーっ」

 

 結沙が固い笑顔で硬直したまま、困ったような、怒っているような声を漏らす。走行中のトラックの運転手には、カメラから映像は確認できても、声までは聞かれないだろうと、判断したのだ。体全体で小刻みに縦揺れする結沙。バイブレーターのうねりへの反応は隠し切れずに腰だけはわずかになまめかしく、臼を引くようにクネる。

 

「あれ? ちょっと道路の状態が悪いところを走り始めました。車の振動が、荷台の結沙さんに直に伝わってきます。そうしたくなくても、バイブレーターの上でピストンするみたいに、ズブズブ動いちゃいます。どんなに嫌でも、縦揺れのせいでどうしようもないですね。………めっちゃ感じます」

 

「んー………んふっ……………………やっ……………やだっ……………」

 

 貼りついたような笑顔を何とか維持しながら、顔を真っ赤にして股間の刺激に耐える結沙。したくなくても、上半身がバイブレーターを奥に突き刺したり引き戻したりするように、腰の方から上下に揺れてしまう。円の回転でうねっているバイブの刺激に、上下の激しい摩擦の快感が加わって、結沙の我慢はもう、限界へ近づいていく。ガニ股に開いていた両脚が、微妙に内股に角度を変え、背筋は反らされ、顔が微妙に上向く。何かの生理現象に備え始めているような体勢だった。

 

「あ、トラックが荒れた道を走っている理由がわかりました。後ろのバスを先に行かせようと、車線の横を走っているみたいです。………追い抜いていくバスは………。観光バスです。外国からの観光客が、面白そうに日本の景色を見たり、写真に収めたりしているのが2階建ての窓から見えますね。…………あ、結沙さんの姿に、みんな、気づいたみたいです。………日本の珍風景に喜んでいますよ。老夫婦も家族連れも、結沙さんを指さして、写真を撮っています。携帯のカメラを使って生中継を始めた人もいるみたいですね」

 

 結沙が首をイヤイヤと、左右に振る。表情が感極まったように、切ないものになる。

 

「最悪のタイミングですけど、結沙ちゃんはもう、バイブの快感に耐えられません。3つ数えると思いっきりイッちゃう。3、2、1。ほらっ」

 

 プシュッと音が出た。結沙はまだ笑顔とイキ顔の間で苦闘している。股間が突き出されると、バイブが深々と刺さった穴の少し前のところから、透明な液体が勢いよく噴き出た。彼女の頭の中が白くなる。どこかヒヤッとした快感が脳内を突き抜けるような感触だった。

 

「うおっ、潮噴いた」

 

「結沙ちゃんのこのレベルの潮噴きって、初めてじゃね?」

 

 男子たちがボソボソと感想を漏らす声が響く。結沙はエクスタシーの洪水のなかで、それに気づくことすら出来ない。

 

「結沙ちゃん、何度もイキますよ。僕が良いと言うまで、オルガズムが止まりません。観光バスはゆっくりと、トラックを追い越していきます。何人もの観光客に、窓越しに、イッている自分を見られていく。写真も撮られていく。あれ、後ろの方に座っているあの観光客は、日本人みたいです。………よく見ると、結沙ちゃんのお父さんとお母さんですね。………親戚一同、みんな一緒に観光旅行中みたいです。外国人のツアーと一緒に、吉沢家の親戚一同、ご近所さん、皆がバスに乗っていました。こちらを指さして何か話していますよ。結沙ちゃんじゃないかと、疑っているみたいです」

 

「やだーっ…………ヤダヤダヤダヤダ。駄目-ぇぇっ」

 

 結沙は顔を左右に振って、髪で顔を隠そうとする。その間も、まだ股間からはプシュプシュと、熱くて透明な液体を断続的に噴き出している。

 

「あ、トラックが減速していきますよ。停車しようとしているみたいです。今がチャンスだ。女スパイ結沙ちゃんご自慢の運動神経を駆使して、荷台から飛び降りようっ。バスの人たちの目からも逃げ出そう」

 

 結沙が覚悟を決めるように大きく頷くと、何かに掴まるような手の動きを見せた後で、ピョーンと大きく飛び上がる。股間から、飛沫が飛び散った。

 

「道路の横は土手のようになっています。草の上を、ゴロゴロと横に転がって、飛び降りた衝撃を吸収させます。さすが有能なスパイの結沙ちゃん。見事に転がります。思ったよりも長い土手だ。どんどん転がっていきますよ」

 

 両腕で肩を抱くようにして、結沙の体がゴロゴロと転がる。床のような感触にも思えるが、ここは土手の草の上だと、結沙が自分に言い聞かせると、素肌にチクチクと緑の草の感触が当たる。

 

「勢いのついたまま、リバーサイドの白いテントにポーンと体が放り込まれる。中はなんだか、セレブな雰囲気。赤い絨毯。どこかの企業の、新商品お披露目イベントみたいです。…………なんとここは、アダルトグッズの企業が出す、新しいバイブレータの発表会会場でした。どうもこのイベントのために特注した、マネキンと新商品の到着を待っていたみたいですよ。イベンターとお客さんたちは、結沙ちゃんのことをそのマネキン。そして突然テントを破って貴方が落ちてきたことを、サプライズの発表演出だと思っています。…………もう、こうなったら、最後までマネキンのふりをやり通すしかないか………」

 

 タモツの声が聞こえると、結沙は一瞬、泣きそうな顔をしたあとで、床に倒れたまま、両膝を開き、アソコから抜けそうになっていたバイブレーターを両手で入れなおし、また懸命に笑顔を作ってみせた。男子たちの手で、彼女の体がまた起こされ、メディアやお客さんたちの前で全裸で直立させられる。恋人だけに見せるはずのとびっきりの笑顔。結沙はそれを振りまきながら、沢山のお客さんたちの前で、マネキンの真似をさせられていた。

 

「………はいっ。催眠、解ける。……………どうだった? ………ちょっとした大冒険だったんじゃない?」

 

 タモツの一言で、急に我に返ると、結沙は自分がアダルトグッズの発表会会場ではなくて、いつものスパイラルサークルの部室にいることに気がついた。目の前では男子も女子も、皆お腹を抱えて笑ったり、拍手をしたり、盛り上がっている。結沙1人が、ただただ茫然と、周りと自分を見回していた。汗びっしょりの体には、床を転げ回った時についたらしい、綿埃が貼りついている。髪の毛はボサボサ。下半身と周りの床は、透明な液体でグチョグチョ。可愛らしさ全開だったはずの笑顔が消えていき、笑いものにされてムクれた表情に変わる結沙。まだ肩で息をしていた。

 

「はぁ………苦しい………。やっぱ、結沙ちゃん、最高だよ。…………あれだけ迫真の演技を見せられると、展開が無茶苦茶強引でも、意外と盛り上がるもんだね」

 

「結沙があんなに潮を噴くのみたの、初めて。…………本当には無いバイブでも、そこまで感じて、体が反応するんだ…………。ちょっと感動した」

 

「結沙ちゃん、お疲れ~」

 

 まだ笑いの余韻を引きずりながらも、皆が口々に労ってくれる。けれどどんなに称賛の声をかけられても、結沙は元気が出るような気がしなかった。元気どころか、まだ怒りも充分に湧ききっていないというのが、正直な気持ちだ。スパイになり切って敵地に侵入した時の緊張感、見つかるかと思った時のハラハラした感情、知らないオジサンたちの前でバイブレーターを弘太に捧げたはずの大切な場所に突っこまれても、何にも出来なかった時の歯がゆい気持ち。観光客に情けない恰好を撮影された時のミジメな気持ち、そして親や親戚、知人一同にとんでもない状況で裸を見られた時の、「人生終わったかも」という気分。全てがまだ彼女にとっては限りなくリアルな感触を胸の内に残していたからだった。結沙はまだ、タモツたちに怒りが湧くよりも、これらが全て、現実ではなかったことに感謝をしていて、怒りが追い付いてきていない、という心境だった。

 

 

 そんな結沙が元気を取り戻したのは、「女スパイの大立ち回り」を演じさせられてから、20分ほどたってからのこと。『フィナーレ』のダンスセッションが始まったからだった。このサークルにサポーターさんたち複数で呼ばれると、帰宅時間が近づいたところで、大抵はこの、『フィナーレ』に雪崩れこむことになる。トリガーとして刷り込まれた合図を与えられて、陽気でアップテンポなBGMが流れ出すと、それまでの暗示の悪戯や恋人プレイ、熱烈なエッチで疲れているはずの彼女たちが、急に身が軽くなったかのように、スクッと立ち上がる。笑顔でお互いの顔を見合わせて、(もしあるなら)身につけているものを惜しげもなく脱いでいく。リズムに合わせて肩を揺らし、腰をクネらせ、胸をアピールしてお尻を振り始める。頭の中まで気持ち良く空っぽになっていく気がする。『フィナーレ』の間は、結沙も咲良も野乃も梨々香も、そして先輩サポーターたちも皆、平等。全員がセクシーで陽気で、大胆で、サービス精神に満ち溢れたダンサーになるのだ。

 

「キャーッ」と嬌声を上げながら、結沙が胸を弾ませて前へ出ると、それに対抗するかのように、梨々香が正面に立ちはだかる。2人でオッパイの先端を擦り合わせるように体を揺する。腰を軸に体をクネらせる。どちらがイヤらしく動けるか、まるで競い合うようにして、お尻を突き出し左右に振る。

 

 両手、両足を伸ばすように広げて、小柄な体を少しでも大きく見せようと踊っている野乃の太腿を、両腿で挟み込むように密着させた咲良は、野乃の肩に手を当てながら、股間を野乃の腿で擦るようにして、色っぽく腰を上下させる。そんな咲良を熱っぽい目で見た野乃が近づいた彼女の顔におもむろにキスをする。2人の唇がズレたりまたくっついたりしながら、親友同士の美少女たちが背徳的なキッスを見せる。まるで体の魅力では勝てないと悟った小柄な2人のダンサーペアが、より過激な動きで観客の目を楽しませようとしているようだ。

 

 奈緒美先輩と詩織先生は、いつも結沙たちをリードする、大人っぽい立ち振る舞いや包容力たっぷりの優しさと余裕に満ちた雰囲気とは裏腹に、子供っぽく楽しい踊りに興じている。奈緒美先輩の前で全裸の詩織先生が飛びあがって体の向きを反転させると、お尻を突き出して着地する。そのボリュームたっぷりの如何にも柔らかそうな先生のお尻の肉を奈緒美先輩がバチンと引っぱたく。今度は奈緒美先輩が体を反転させるジャンプ。同じくジャンプして体の向きを変えた詩織先生が、今度は奈緒美先輩のオシリを引っぱたく。リズムに乗って、まるで幼児が遊びに興じるように、2人は楽しそうにお互いをスパンキングしながら踊っている。

 

 花蓮さんは部員の男子たち1人1人に、絡みつくようにラップダンスを披露している。モデルのオーラは半端じゃない。まとめていた髪を振りほどいて左右に振るだけで、男子たちを魅了する、フェロモンが発散される。細くて長いけれど華奢なだけではない、綺麗に筋肉のついた手足を曲に合わせて波うたせながら、花蓮さんは男子にまとわりついたり、膝の上に乗りかかって足を高く蹴り上げたり、腰を切なそうに捩りながら、その見事なプロポーションをアピールする。

 

 曲調が変わると、7人のダンサーたちは誰に言われるともなく、横一列に並んで、満面の笑顔を振りまきながらラインダンスを始める。左右のダンサーと肩を組んで、右足、左足、右足と、体の向きと併せて足を高々と蹴り上げる。下着すら身につけていない下半身は、片足が突き上げられるたびに、内腿の間で捩れる、アンダーヘアーの奥の割れ目まで、男子たちの目に堂々と晒される。背筋が反りかえるほど伸びあがって、足も背伸びするようなつま先立ちになって、右足、左足と、景気よく振り上げる。右端の女子から左端の先生まで、全員股間も笑顔も弾む胸も、全開になっている。

 

 若干スローテンポでムーディな曲に切り替わると、結沙たちは隊列を崩して、それぞれ近くの男子たちにしなだれかかって媚を売り始める。両腕を絡めて体を密着させたり、手をとって自分の背中から腰、そしてお尻のスムーズなラインを撫でさせたり、両手でオッパイを揉ませて微笑んだり。部員たちを挑発して、自分たちの体に触れさせる。普段だったら弘太に一途な結沙も、この時間はなぜか、近くにいる部員なら誰にでも、可愛がって欲しくて仕方がない。精一杯、媚を売って、誘って、煽って、男子たちの視線を、手を、愛撫を、自分の体で独り占めしたくなる。

 

 不意に、音楽が止まる。冷や水をかけられたように我に返った女子たちが、悲鳴や恥ずかしそうな呻き声を上げて、男子たちから体を離そうとする。また音楽が途中から流れ出すと、また慌てて、部員たちのご機嫌を取ろうと、まとわりつく。困るのは、BGMが徐々に徐々に、フェードアウトしていく時だ。ジワーっと冷静な正気が戻ってくると、結沙たちの表情も、煽情的でセクシーな笑みから、恥ずかしさと自己嫌悪の混ざったような表情に、徐々に徐々にグラデーションを見せていく。この、発情と正気の境界線のような場所で弄ばれるのが、どうにも居心地が悪いのだ。

 

 大人っぽい曲に合わせた、入念な前戯とペッティングのあと、自然発生的に出来上がったカップルの、挿入が終わった頃に、曲がまた入れ替わる。派手なクラブミュージックだ。女子たちは頭や腰をグワングワンと振って、男子たちのオチンチンを、自分の口やアソコで責め立てる。真面目そうな美少女や普段清楚な立ち振る舞いの美人教師が、豹変して激しくまぐわう。そのギャップを、部員たちは楽しんでいるようだ。結沙は弘太のオチンチンしか、自分のアソコでは受け入れられないので、ここは口や、胸の谷間で、(たまたま近くにいただけの)男子部員に、精一杯の奉仕をする。

 

 曲の終わり(「アウトロ」と言うらしい)はいつも、爆発音か、オーケストラが一斉に音をかき鳴らす、強めの音。そこで結沙たちサポーター女子はみんな、一斉に激しいエクスタシーを味わう。相手の男子が自分の好みのタイプだろうとそうでなかろうと、相手がエッチが上手だろうと下手だろうと、一切関係ない。フィナーレの最後の音で、みんな平等にオルガスムに達して頭の中が真っ白になる。妙なリミックス操作がされたBGMの場合は、そのアウトロが何度も繰り返されたりするのだが、その場合は、みんな律義に、最後の音が繰り返されるのと同じ数だけ、イってしまう。毎回、スパイラルサークルに立ち寄ると、女子たちがクタクタになって帰ることになるのは、これが理由の一つなのだった。

 

 

。。。

 

 

「今日、長かった~。もう、クタクタだよ………」

 

「梨々香はサークル活動が終わった後での、シャワータイムも長いんだよ。咲良もそう。………あれを早く切り上げてくれたら、もうちょっと、早く帰れるのに………」

 

「…………じゃ、結沙が言えば良いじゃん。もう止めようって………」

 

「…………………」

 

 帰り道、咲良に言い返されると、結沙は15分くらい前の自分を思い出して、また赤くなる。梨々香の愛撫は確かに長くてしつこい。咲良のペッティングは実験的に綿密だ。それは確かなのだが、それを享受する結沙も、はしたないほど喘いで悶えて、「もっと強くイジメて」とオネダリしてしまう。それもまた、事実だった。シャワータイム中は、女子たちみんなが、エッチなレズ集団に変身してしまう。そのことをわかっていても、シャワーをスキップして、学校の外に出る訳にはいかない。それくらい、毎回部室で、ドロドロになるまで、体が汗や唾液、愛液や精液まみれになってしまうのだ。

 

「でも、今日も結沙ちゃん。可愛かったよ。………スパイになった時とかは、表情もキリっとしてて、格好良かったし」

 

 野乃が、フォローをしようとして、また結沙の本日の黒歴史をグリっとえぐってくる。

 

「………野乃たちも一緒に、スパイとかマネキンにされれば良かったんだよ。…………なんで、ああいう時って、いっつも私一人が、変な冒険とかに出されるの?」

 

「リアクション、面白いもん…………。真面目そうな結沙が、飛んだり跳ねたりしてるところも可愛いし」

 

 梨々香は髪を指で撫でつけながら、アッサリと答える。

 

「男子からしたら、アンタみたいなクールビューティっぽい子が、暗示1つでデレデレになったり、予想を超えた、かかりっぷりを見せてくれるのとかって、なんか悪戯心を刺激するんじゃない? ………他のたとえで言うとさ、本人がちょっと思いついた冗談で、予想外に笑い転げてくれる子とか、やっぱり好きになっちゃうところ、あると思うんだよね。…………結沙はそういうのの、催眠術被験者版。………モテるタイプなんだよ。催眠術的に」

 

「う゛う゛ぅぅぅぅぅ。最後の、催眠術的にとか、いらないんですけど」

 

 拳と肩を震わせる結沙をなだめるように、あやすように、野乃が抱きついてきた。

 

「私たちの結沙ちゃんは、みんなが守るから、大丈夫っ。…………ねっ?」

 

 結沙は野乃に抱きつかれながら、帰り道を歩く。最近、4人の間で、吉沢結沙のポジションが変わってきているような気がするのは、気のせいだろうか? 学園祭に4人で行ってみた時よりも前、わずか数か月前の結沙は、もう少しリーダー的なポジションというか、野乃の保護者の1人くらいのつもりで振舞っていた。それが、4人で一緒に催眠術の虜にされてしまったはずなのに、今は、野乃に優しくあやされて、なだめられている。このことが彼女の胸のなかで、少しだけ釈然としない、引っ掛かりのようなものになっていた。けれど、そのことを口に出しても仕方がなさそうだったので、結沙はその思いをグッと飲みこんで、また明日に備えることにした。

 

 

<その2につづく>

5件のコメント

  1. つ、続きだー!?
    読ませていただきましたでよ~。

    今までは割りとそのまま別の話を書かれていたので、夏の続きが来たことに驚きを隠せませんでよ。
    割りといつも脇役のほうが気になるみゃふとしては花蓮さんがもっとこないかなーと思いつつ、今回のメインは愛良ちゃんかなと邪推しておきますでよ。
    聞けばメスガキみたいなので、お兄ちゃん直々に痛い目見せてくれると信じてますでよ。次点でお兄ちゃんから許可もらった現役メンバーが催眠かけるとかかな?

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  2. みみっひーだなぁ。
    ありがとうございましたあ。

  3. 待っていました!
    女性部員か、結沙たちにひどい展開になりそうw

  4. 催眠創作世界の大ベテランにして、生きる伝説の作家である永慶先生の新作
    緻密な心理描写にユーモアのあるハイセンスなテキスト、リアリティと魅力のある解像度の高い描写に催眠創作による優れた作家のみ可能な非現実的ながらエロスを満たす至宝の作品の数々
    今後も、先生の益々のご活躍を願っています。
    楽しく充実した末端の末端な読者ながら、創作活動にお付き合い出来れば幸いです
    応援させて貰ってます

  5. >みゃふさん
    そうなんです。普段、あんまり続編とかスピンオフとか書かないのですが、
    ちょっと前シリーズは時間も無い中でボカンと仕上げまして、色々と書き漏れていたこともあったので、
    続編シリーズを・・・。と思ったら、また時間なく、結局、充分には書ききれませんでした(笑)。
    でも、いわゆる「地獄めぐり」のその後、日常に定着していくところを書いてみました。
    お楽しみいただけていたら幸いです。

    >しなうさん
    ありがとうございます!お楽しみ頂けていたらうれしいです。

    >第3のだいちさん
    お待たせしましたっ(笑)。女性の術師には、私、陰険なことをさせがちなのですが、
    今回はある程度ラインを守ってみようとしております。またよろしくお願いします!

    >筆筆さん
    過分なお褒めの言葉を頂きまして、誠にありがとうございます。
    上手に書こうとは思わずに、なるべくわかりやすく、自分の感じるMCエロの肝の部分みたいなところを、
    真摯に掘り起こしていきたいと思います。また気が向いたときにお付き合い頂けましたら、本当に嬉しいです。
    ありがとうございました。

    永慶

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