テレパスキッド 5

 その日のダニエルは、最近では珍しく、ミヤグニ・サンの家に来ていた。初めて彼の家を訪れてからもう半年以上経つ。それは7か月という実際の期間以上に昔のことのように思われた。なにしろこの半年間、彼にとって楽しいことが多すぎたのだ。そのため、最近は少しずつ、彼の家を訪れる頻度が減っていた。ハイスクールライフとアフタースクールライフが充実しすぎて、このアジア系老人の家に足が向くことが少なくなったという理由が1つ。そしてもう1つの理由には、彼が『氣』を使って派手に遊び回っていることについて、そのセンセイと対峙するのに若干の罪悪感を覚えたということもあった。

 

「何ごとも、バランスだ。陰と陽のバランスを崩さなければ、多少のことは目を瞑ってもらえる。世界の成り立ち、在り方はそういうものだと思っている。だから、やりすぎないことだ」

 

 ミヤグニ・サンはまるでダニエルの所業や心の動きを見透かしてでもいるかのように、少し困った顔をしながら言うと、それでも次の技法を教えてくれた。既に『イ』の技法と『ロ』の技法を完全に自分のモノにしていたダニエルにとっては、次の技法を3つまとめて覚えることも、苦ではなかった。ただ、センセイの横で、教わりながら再現して見せるだけでは、完全な習得にならないのは、これまでと同じだ。全ては実践を通じて、ダニエルの血肉となる。『ハの壱』、『ハの弐』、『ハの参』の技法にしても、その点に変わりはなかった。

 

 振り返ると『イ』の技法はコードのような『氣の道』を繋いで特定の相手をいつでも操れる状態にしておくもの。『ロ』の技法は、ボルトのような『氣の弾』を相手に打ち込んで、特定の操作のみを送り込むものだった。そして『ハ』の技法にも、特定のイメージが付与されていた。それはワックス、あるいはペンキ状に自分の氣を引き延ばして、自分の周囲にペタペタと塗りこむというイメージだ。そうすればこれまでに『イ』の技法や『ロ』の技法で行ってきたような単体への、あるいは単発での操作が、一定の空間にいる人々全員に対して可能になる、というものだった。

 

『ハの壱』は『ハの技法群』のなかで最もオーソドックスなものだった。ペンキを自分の周囲、一定範囲に薄く広く塗りこむようにして広げると、その範囲の中にいる人たちの考えや行動、記憶や性格を操作することが出来る。慣れてくると、その範囲はダニエルを中心に、半径300ヤードも広げることが出来た。オークランド最大のスタジアムもすっぽりカバー出来るだけの面積だ。そしてさらに、その技法を使い込むほどに、その面積は広がっていくようだった。

 

『ハの弐』は少し、変わり種の技法で、ダニエルの周囲、それも『ハの壱』よりも狭い範囲に、ワックスのように氣を広げる。その氣をまるで、身にまとうようにして、動き回るようにする。強く意識しなくても、氣のワックスを、自分のバリアーのように常に広げておけるように修練する。1週間もそれを続けると、寝ている間も自分の周囲30フィートくらいの面積は『ハの弐』の氣で敷き詰めることが出来るようになった。ここに『平和な気持ちになる』とか、『ダニエルに危害や損害を与えたくない』といった思いを練りこんだ氣を張っておく。すると、その範囲に入った人は、例えダニエルが無邪気に熟睡していても、彼に危害を加えようとは全く思わなくなる。氣を使って他人を自由に操ることが出来るようになってから、いくらか他人から恨まれていても仕方がない、と思い当たる節を持っているダニエルにとっては、ありがたい、精神安定剤的な技法となった。

 

 そして3つめの技法である『ハの参』は、『ハの壱』の派生形のようなもので、違いはダニエルの周囲だけにその氣のペンキを張り巡らせるのではなく、特定の場所にそれを塗りこみ、ダニエルがその場を離れても、氣の効果が一定時間保たれる、というものだった。範囲を広く、操作を強力にすればするほど、効果時間は短くなる。けれど、『このベンチに座るとマリファナでハイでピースフルになった時と同じ気持ちになる』といった程度のムードや感情の操作だったら、数週間は効果を保つことが出来た(試してみたその公園のベンチには、味をしめた人々が行列を作るほどになった)。

 

『イ』、『ロ』、『ハ』それぞれ3つずつの技法を教わって、ダニエルの『氣の使い方の修行』はひとまず修了ということになった。合計9つの技法を使い分けながら、ダニエルは大好きになった南カリフォルニアのオークカウンティという街を、さらに自分の好みに合わせて、カスタマイズしていくようになった。

 

 

。。。

 

 

 オークカウンティ・ビーチは、以前から白い砂浜とサーファーが好む波とで、カリフォルニアにある数多くのビーチの中でもトップ10に入ると言われていた。そこにさらに集客の目玉が出来る。ヌーディストビーチだった。週末のたびに、オークカウンティ・ハイを中心に、近隣の高校や大学から若い男女が集まって、全裸で遊ぶ。泳いだり、ビーチバレーで遊んだり、音楽にのって踊ったり、砂浜でゴロゴロして肌を焼いたりリラックスして語り合ったりする。市の条例があっさり変更されて、ヌーディズムが解禁されたのも、実際にはこのヌーディストビーチが人気スポットになってしまったのを、追認するしかなかったような状況だった。

 

 ビーチには白い天蓋付きのベッドが10個も並べられている。ビーチ間際のリゾートホテルが協力して、提供してくれているものだ。そのベッドの周囲に近づくと、不思議なことが起こる。そんな噂が立っている。若くて綺麗な女性がこのベッドから10フィート以内に足を踏み入れると、全裸でこのベッドに寝そべりたくなる。そしてそのベッドに他の誰かが近づいてくると、その相手がどんな男性であれ、あるいは女性であれ、その人を招き入れて、メイク・ラブをしたくて仕方が無くなるのだ。青い空の下、白い砂浜の上。等間隔に並べられた清潔そうな白いシーツと天蓋付きのベッドの上で、若い男女が、あるいは女性同士、さらには男女入り混じった集団が、人目も憚らずにヘビーなペッティングを披露して、身悶えしながら喘ぎ鳴く。インサートの後には全身をバネ仕掛けの人形のように突き上げて、結合した性器を擦り合い、身をくねらせて快感を絞り出し、派手にオルガズムを迎える。次々と相手を変えながら、彼女たちがクタクタになるまで、あらゆる体位であらゆるプレイを、多種多様なタイプの相手と繰り広げられるのだった。

 

「オークカウンティ・ビーチが今、最高にいかしている。いや、イカレている」

 

 そんな噂が広まると、LAや、はるばるサンフランシスコやオークランド、さらにはシアトルからも、若者が集まってくるようになる。ハリウッドを訪れた観光客の中にも、アナハイムのディズニーランドやグランドキャニオン、ラスベガスへ行くツアーの前に、オークカウンティを訪れようとする人が出てきた。カップルや友人グループで、ヌーディスト・ビーチへ見物に来たつもりだったはずの若者の多くが、気がついたら自分たちも水着を脱ぎ捨て、全裸で走り回っていた。ひたすら陽気でオープンなアメリカ人たちを撮影するつもりだったはずの観光客も、ふと気がつくと、自分たちが裸になって、他の人のカメラに向かって笑顔でポーズを取っている。ビーチが持つ、底抜けにハッピーでアッパーな空気のせいか、若くて魅力的な男女ほど、砂浜に足を踏み入れただけで自分たちもヌーディストに混じってはしゃぎたくなる。その衝動に抗える人はいなかった。

 

 カリフォルニア大学に留学中の写真家志望やジャーナリスト志望の学生も何人も、南カリフォルニアに現れたクレイジーな新スポットを取材に来る。寮に帰った彼女たちはみんな、カメラのメモリー満杯に撮影された、全裸ではしゃいで跳ね回っている自分、踊り狂っている自分、あるいはベッドで見も知らぬ他人とハメ狂っている自分の醜態を見直して、頭を抱える。写真家の卵、シェリーは全裸で水上スキーに興じている自分の画像を見て、両手で顔を覆っていた。前を行く水上バイクに引っ張られながら撮影されていた自分は、スキー板をつけた両足を大きく開いて、大股開きでヴァギナを見せつけながら、満面の笑みで映っている。シェリーの友人でジャーナリスト志望のマリアも、全裸の自分が四つん這いになって、近くを通る親切なヌーディストに、サンローションを体の届かないところに塗って欲しいと懇願しているところが延々と収められている動画を見て、開いた口が閉まらなくなっている。親切な(あるいは好奇心の強い?)男子グループに、念入りに股間やお尻の谷間へローションを塗りたくってもらって、発情したような声で御礼を言いながら体をビクンビクンと震わせている彼女の動画は、とてもジャーナリズム学の担当教官に見せられるようなものではなかった。羞恥と後悔に苛まれて呻き転がりながら、同時に彼女たちは、次にまたあのビーチに行ける、最短のチャンスを頭の中で確かめてしまっているのだった。

 

 

 アオワナ・モール・イン・オークカウンティは、街の住人の間では単に「ザ・モール」と呼ばれている。この街で一番大きなショッピングモールだからだ。昔から老若男女が訪れる、市民の買い物スポットだったが、最近はさらに人の流れが拡大されている。買い物客の中で若くて魅力的な男女は、必ずと言って良いほど、オープンで大胆、刺激的な服装をしているからだ。もちろん、ファッションも個性が最も大切とされている西海岸だから、モールに入る時の服装は一様ではない。しかし、しばらくモールを歩いていると、どんなに大人しい服装をしていた若者でも、「タイラーズ・ウィケッド・コスチュームズ&ランジェリーズ」という店の看板を目にして、行き先を変更してしまう。店を出てきた時には、入店時とは指向性が180度異なる服装で、出てきてしまうのだった。スケスケのベビードールの下に、スパンコール柄のビキニをコーディネートしているのが、出てくる女性の最も標準的ないでたちだろうか。ジーンズとTシャツという、この国で最もありふれたシンプルな着こなしで歩いていた純真そうなカップルは、銀のコルセットと銀のブーツに、銀色のウィグをつけて出てきた。男女ともだ。良家の姉妹といった雰囲気の美少女2人は、入店時に着ていた清純派のワンピースを下取りに出してしまったのか、ほとんど布が残っていないようなダメージジーンズと、面積の少なさを伸縮性だけでカバーしようとしている(そしてほとんどカバー出来ていない)ピンクのチューブトップを身にまとい、カウボーイのようなテンガロンハットを頭に被って店から出てくる。顔には安っぽい娼婦のようにドギつい厚化粧をしながら平然としている。店の近くに来た時と同じように穏やかに会話している姉妹が歩き去る時に、ローライズすぎるダメージジーンズから彼女たちのヒップの上半分がはみ出しているところが丸見えになってしまっていた。裕福そうなワスプの家族が近くまで来ると、引っ張られるようにして家族6人全員が店に入ってしまう。しばらくすると順番に出てきたのは白いバレエ・コスチュームに身を包んだ、白鳥の湖か何かのバックダンサーを演じる6人のダンサーだった。大真面目な顔をしてつま先立ちで横歩きしていたかと思うと、順番にトワールをしたりアラベスクの体勢を取ったりと、素人丸出しだが真剣そのものの、即席バレエを披露しながら去っていく。誰も衣装の下にサポーターを着けておらず、生地も白くて薄すぎるために、父親や息子の体毛や男性器。母親やティーンの娘たちのバストや乳首、尻の谷間や股間が完全に透けて見えてしまっていた。アジア系の女性が店に入ると、数分後にはセクシーなキモノやアオザイを着て出てくる。どれも、母国の人たちが見たら、自国の文化の冒涜だと怒りだしそうな、胸や足、尻をほとんど隠せていない、マイクロ民族衣装だ。ある北欧系の美女の場合、店から出てきた時には南洋の島国の民族衣装のようないでたちになっていた。鼻の穴に白いリング、腰には藁で出来た腰巻。その藁を押しのけるようにして、動物の角で作られたらしいペニスケースが誇らしげにそそり立っている。上半身は裸のために真っ白なバストが完全に曝け出されている。右手には石槍を持ち、左手には入店時と変わらぬブランドもののハンドバッグを持っているところだけが妙に目立った。何か部族のなかでの新成人を祝うかのようなステップを踏みながら、北欧系の美女は、自信満々にモールの通路を闊歩していくのだった。アラブ系かインド系の美女が連れ立って店に入ると、出てきた時は中東風ベリーダンサーの衣装(の布地が限界まで薄くなったバージョン)で腰を振りながら去っていく。学生旅行らしい大人数のグループが8人ほどで店に入った後は、出てくるまでにずいぶんと時間がかかった。出てきた時には全員が顔から全身まで白塗りになり、白いビキニパンツだけを身に着けた異様な姿でパントマイムを演じながら歩き去っていく。存在しない風船に引っ張られたり、壁を押したり、エスカレーターを降りたりする演技を見せながら、周囲の子連れ客をびっくりさせて進んでいく。

 

「タイラーズ・ウィケッド・コスチュームズ&ランジェリーズ」の店主、タイラー・セスに服装やメイクアップの変更を提案されると、それがどんなに過激で品のないものでも、店のお客さんにとっては最高の提案のように聞こえて、飛びつくように購入してしまう。その衣装が引き立つ振舞い方や行動までアドバイスを受けて、その日1日、ナルシスティックな快感に陶然としながら、お客さんたちはモールを闊歩して自分の新しいルックスをアピールする。そして自宅に戻ると正気に返り、その日のモールに知り合いが来ていなかったことだけを祈り、破廉恥な衣装やイカレたメイクを落として熱いシャワーを浴びる。けれどシャワーから出てきてタオルで体を拭きながら鏡の前に立つと、次回、タイラーの店を訪れることが出来るための日程調整と、より過激なルックスへのリクエストを考え始めてしまうのだった。

 

「ドロシーズ・ケークショップ」の前を通る買い物客は、気がつくと、その店で真っ白なパイを買って、同行者の顔にぶつけている。お金に余裕があると、顔だけでは済まない。両方の胸と股間とお尻。合計5か所をパイで真っ白にしてしまう。当然の如く、同行者から復讐をされて、パイまみれのペアが出来上がる。1人で来ている買い物客は、自分の顔や股間にパイをぶつけたり、何重にもなすりつけたりしてしまう。念入りに、ジーンズやショーツの中、股間の素肌に直接パイを塗りたくっている女性客も多い。皆、そうしたくなくても、そうしなくてはならないのだ。ケーキ屋さんの前はパイまみれの買い物客の悲鳴や呻き声、謝罪の声で溢れるけれど、立地上、大きな問題にはならない。ドロシーのケーキ屋さんはモールのパティオにあり、大型の噴水が目の前に設置されているからだ。誰からともなく、噴水で自分の顔や体を洗い流し始める。若い女性の場合は、周囲の男性が顔や胸、股間のパイを直接舌で舐めとってくれる。そのようにパイを舐めとってもらえない人は、自分で床に寝転がって、体を限界まで曲げて、自分の股間に舌を伸ばそうと苦闘するのだった。ある程度、食べ物を無駄にせずに済んだと感じた人から、着ているものを全て脱いで、噴水に服や体を浸からせて洗う。誰に見られていても誰にどの部分を撮影されていても、全く気にならない。自分が綺麗になるという、圧倒的な快感を、この噴水が与えてくれるから、他のことは何も懸念にならないのだ。全身を水で洗い流したあとは、その体が乾くまで、綺麗になった買い物客はその噴水のある広場を歌いながらスキップして回り、自分がどれだけ綺麗になったか、自分の体にどれだけ自信が持てるようになったかを、周囲に誇るのだった。

 

 広場に向こう側から歩いてくる人の多くは、モールの食料品スーパーで買い物をしてきた人たちだ。中でも、野菜コーナーを通りがかったお客さんたちは一目で見分けがつく。彼ら、彼女らが、下半身裸になっていて、ヴァギナやお尻の穴に大小のニンジンを突っ込んで、まるでウサギが跳ねるようにピョンピョンとやってくるからだ。重い手荷物を持っていない人は両手の甲を胸の前にチョコンと揃えて、両目を見開き、上の前歯を唇から出して、まるでカートゥーンの中のウサギのキャラクターのような動きでピョコタン、ピョコタンと跳ねてくる。ヴァギナやアナルからニンジンが落ちないように、下半身に力を入れて、ギュッと締めつけている。ニンジンの先端には蜂蜜が、潤滑油のように塗られているので、これらの野菜がずり落ちないようにするのも、一苦労だ。両足の力で高く跳ね上がる動作は、モールを出て駐車場まで続くと思うとずいぶんな運動量だが、お腹が空くことは心配ではない。彼らはクルマに戻ると、穴に深く刺さっていたニンジンを抜き取って、前歯を使ってコリコリとそのカラフルな生野菜を食べつくす。一心不乱に食べ終えた後で、やっと正気に戻る。そこからは下半身が裸だと外からバレないようにする、スリリングなドライブ・ホームだ。

 

 スポーツ用品、家具、ファッション、インテリア雑貨。様々な店で様々な仕掛けを凝らしてい有る。ダニエルはステファニーやトミー、ミックと週末のたびにこのモールに訪れては、大真面目に恥を晒して駆け回る買い物客たちを笑い飛ばしたり、魅力的な女性を見つけてお持ち帰りしたりする。そして効力が薄まった『ハの参』の場所に、また新しい氣を塗りこんでいくということを、ルーティーンにしていた。まるで、ペンキ職人が時折、自分が作業した場所を確認に来て、メンテナンスをしていくかのように。

 

 

 長距離バスのロータリーがあるシェリガン・アヴェニューは毎月、決まった日曜日に歩行者天国になり、マルシェが開かれる。石畳の通りを飾り立てる飾り木や石像の他にも、歩行者の目を楽しませる仕掛けが設置された。ダニエルの氣が作った仕掛けだ。ウィンドーショッピングや散歩を兼ねて歩いている人たちが、ふと、石像の前で立ち止まる。急に思い立ったかのように着ているものを脱ぎ捨てて、全裸になって石像の30フィートほど横でポーズを取って固まる。まるでギリシャかローマの彫像になってしまったかのように、裸のままで大仰なポーズのまま硬直してしまうのだ。それを見て訝し気な目で近づいてきた若者がまた1人、石像の付近で立ち止まった後で、おもむろに服を脱ぎ始める。1人、また1人と、即席の裸体像へ変身していき、気がつくと街の通りの両端には全裸の若い男女が思い思いの劇的なポーズで硬直する。そしてそのアヴェニューの行きつく先、バスのロータリーの手前には、ビーチに設置されているのと同じ、天蓋付きの白いベッドが二対、置かれている。そこで例の如く、見ず知らずの即席カップルたちが裸で下半身を繋いでいくのだった。

 

 

。。。

 

 

「アリシア………。君に言わなければならないことがあるんだ」

 

「ペドロ。…………私の方こそ、貴方に聞いてもらわなければいけないことが沢山あるの………」

 

 見るからに裕福そうな中南米のカップル、ペドロとアリシアのマルティネス夫妻は、先月に式を挙げたばかりの新婚夫婦。ペドロの実家が資産家で、エクアドルと米国を跨いだ事業を展開していた関係で、別荘をオークカウンティのビーチ沿いに持っていた。ブランチのために、別荘がある山の上からマスタングで降りてきて、ビーチ沿いのカフェで話す。行きの車中では2人はほとんど無言だった。美男美女の熱愛カップルとしては、珍しいことだった。

 

「その………昨日の僕は、………どうかしてたんだ。なんであのビーチで水着を脱いで、君を放って置いて、1人で楽しもうとしていたのか、今でも全く理解できない。別にカリフォルニアに来たから、浮かれていたっていう訳ではないと思うんだけど………。ビーチならエクアドルにだってあるし。………とにかく、ゴメン。僕を許して欲しい」

 

 光沢のある黒髪を綺麗に分けた、褐色の肌の美男子は、眉をひそめて謝罪する。新妻を喜ばせたい一心でのハネムーン旅行なのに、なぜか羽目を外して全裸で踊り狂っていた昨日の自分を、張り倒したい気持ちでいっぱいだった。

 

「私の方こそ………。あんな………こと、あんなに沢山の人と………。自分で自分が信じられないの。許して。昨日のあれは、私ではなかったの」

 

 オーダーした濃いブラックコーヒーがテーブルに届く前に、2人は心にのしかかっていた重荷を掃き出して、お互いに謝罪し合い、軽くハグをした。ペドロは美しいアリシアを抱きながらも、かすかに(僕のアリシアは昨日一晩で、一体、何人の男に抱かれたんだろう)と考えてしまっていた。アリシアも同様のことを考えていた。

 

「忘れよう。…………きっと、昼からダイキリを飲みすぎていたんだ。昨日の僕たちは正気じゃなかった」

 

「そうよ………。あれは……………、悪い夢だったのよ………。忘れましょう」

 

 アリシアはペドロに抱きつきながら首を左右に振る。ほとんどカクテルを飲んでいなかったにもかかわらず、水着を脱ぎ捨てて大笑いしながら砂浜を跳ね回った昨日のアリシア。整った顔立ちと人間離れしたプロポーションでビーチのアメリカ人男子たちを魅了した彼女は、声をかけてくる男たちと次々に、誰彼構わずセックスをした。夫には一度もしたことのない、フェラチオまでしてみせた。騎乗位の体勢で情熱的に腰を振り、日が暮れるまで、それこそヴァギナがヒリヒリと痛むまで、相手を入れ替えてセックスをした。それほど離れていない場所で、夫も同じようなことをしていただろう。その時のアリシアの頭の中には、そのことについて嫉妬の念も、あるいは自分の行為についての罪悪感も、全く浮かばなかった。突き上げてくる性欲の激しい衝動のままに、とにかく誰かとまぐわって若さを燃やし尽くしたかった。1日たった後でも体を少しだけ熱くする、その情熱の余熱のようなものを、頭の芯から振り払いたくて、アリシアはまた頭を振った。

 

「そうだね。ビーチはもう充分だ。今日は2人っきりでノンビリ過ごそう。アリシアは何か、したいことはある?」

 

「私もビーチはもう沢山。今日は、モールにお買い物に行くのはどうかしら? ジュリアやアニータにお土産も買ってあげたいし、これから3日分くらいの食料も必要だと思うから」

 

 アリシアの提案にペドロも両手を広げて頷いた。

 

「そうだね。ここからアオワナというモールまで15分くらいのドライブだ。必要なものは大概、揃うと思うよ。この街はLAほど便利じゃないけれど、静かで落ち着く街なんだ。2人きりでロマンティックに過ごしていこうよ」

 

「ねぇ、ペドロ。…………私が、万が一にも、また変なことをし始めないように、きちんとそばにいて、私を離さないでいてね」

 

「あぁ。きっとだよ。アリシア」

 

 裕福で美男美女の、愛し合っている新婚カップルは、熱いキスを交わしてコーヒーを飲み干した後で、もう一度、情熱的に抱擁する。カードで支払いを済ませると、真っ赤なマスタングに乗って、ショッピングに出かける。そしてショッピングモールから出てきた時の2人は、乳首を星形のステッカーで隠しただけの姿で(他にも頬や脇腹、尻の横に星ステッカーを貼っていたが)、尻やヴァギナにニンジンを差し、ウサギのように跳ねながら駐車場を目指していくのだった。

 

 

。。。

 

 

「やっぱり、まっすぐベガスに行っておいた方が良かったんじゃないかって、思ってるんだけど………」

 

 来週結婚式を挙げて、ミセス・ウィリアムズになる、ジェシカ・パーカーソンがぼやく。

 

「あら? ………せっかくのバチェロッテ・パーティーでしょ? 独身の間の思い出に、何かクレイジーなことをしておきたいんじゃなかった? 少なくとも私のカメラには、貴方のクレイジーな姿が順調に溜まっていってるわよ」

 

「やめて………。私の言ってるクレイジーっていうのは、もうちょっと節度があるっていうか………。っていうか、昨日の私の写真なんて、未来にも見返したいとは思わないから、早く消しておいてよ」

 

 ジェシカのボヤキに付き合いながら、携帯に収まった昨日の彼女たちの狂態を、ニヤニヤしながら見返しているのはサンディ・ウォーカー。ジェシカの従妹だった。2人がお喋りしているテラス席のテーブルの隣では、さっきまで、振り返るほどの美男美女の中南米カップルがコーヒーを飲んでいた。

 

「サンディ。写真は消してと言ったでしょ。これはお願いじゃないわ」

 

 不機嫌のせいか、ジェシカの口調が強くなる。サンディにとってはいつもの彼女だった。確かにジェシカ・パーカーソンは典型的なブロンド美女で、外面がすこぶる良い。けれど、身内や親しい同性の友人に対しては、時々、まるで自分が女主人であるかのように、振舞うのだった。

 

「まぁ、いいじゃない。画像ファイルを消すのなんて、いつでも出来るんだから、ベガスでモナやサリーナと落ち合ってから、皆で決めましょうよ。それより今日の午後にはもうベガスに向けて出発するんだから、せっかくのオークカウンティを楽しみましょうよ。………お散歩なんてどうかしら? 可愛いジェシカ」

 

 ハンドバッグからサンディが取り出したのは、犬の首輪。それを見たジェシカの表情が変わる。ちょっと困ったような、それでいて首輪から一切目が逸らせないほど惹きつけられているといった、迷いの中にある表情。

 

「ジェ~シ~。これをつけて、私とお散歩したいんじゃない?」

 

 サンディが、悪戯っぽい表情と口調で語りかけながら、手に持った首輪をジェシカの目の前でブラブラと揺らす。ジェシカの目から、さっきまでの上から目線が無くなっている。覚悟を決めるような表情。唇が「ノー」という形に動いていた。

 

「ウォフッ」

 

 首を横に振りながらも、出たのは犬のような鳴き声。ジェシカは眉をひそめて、自分の周りを見回した。

 

「フフフ。お散歩したいなら、そんな汚れやすいお洋服を着ていたら駄目よね? ………これだけで充分じゃないかしら?」

 

 サンディは昨日、ペットショップで買った赤い首輪と鎖の他に、そのあとでスーパーマーケットで買った手袋と膝当てをハンドバッグから出す。サンディがバッグを見ながらゴソゴソと、それらのアイテムを出している間に、ジェシカ・パーカーソンは高そうなサマードレスに手をかけて背中のジッパーを下ろしてしまうと、白昼堂々とドレスやインナーウェアを脱ぎ始めてしまう。

 

「やっぱり、良く似合うわ。ベガスも良いけど、せっかくだから今日もしっかりお散歩して、沢山、面白い記録を残しましょうよ。私、一生、大切にするから。貴方の独身最後の大冒険を…………。やっぱり、噂通り、オークカウンティって、面白いところね」

 

 サンディが嬉々としてジェシカの細く白い首に首輪をかけて金具を留めた頃には、ジェシカはまた(昨日と同じように)、四つん這いでしか歩けなくなってしまっていた。テーブルの上、お皿にある食べかけのクロワッサンをサンディが敢えて地面にポトッと落とすと、ジェシカは大きな口を開けて、まだ半分以上残っているクロワッサンを横からバクッとくわえる。その仕草は、大型犬そのもののようだった。

 

「本当に、昨日のペットショップは不思議なところだったわね。なぜか私が惹きつけられて、どうしても入らなければいけないような気がして、店の外で貴方に待っていてもらってるうちに、こんな首輪を買うことになるなんて………。でも、お店のオジサンの言ってた通り、私の願望を、ばっちり満たしてくれたわ。…………いつもお姫様ぶってるジェシカの面白い写真と思い出………」

 

「クーゥゥ、クゥーーーゥ………」

 

 クロワッサンを食器や手を使わずに、苦労して食べ終えたジェシカは、サンディを見上げて、懇願するような鳴き声を漏らした。

 

「そんな、悲しそうな顔しないの………。せっかく、人間離れした面白い体験が出来るんだから、楽しみましょ? ………ね? ………オー、ドギー、ドギー………」

 

 サンディがジェシカの頭を撫でて、顎の下も指先でくすぐり、そしてお腹を強めに撫でて挙げると、ジェシカはもう、本能的に喜んでしまう。ついつい舌を出して、お尻を小さく左右に振って、「飼い主」のサンディにジャレついてしまう。まだ僅かに残っていたはずのジェシカの人間としての意識は、ほんのちょっとした「飼い主」とのスキンシップで、あえなく消え去ってしまったようだった。その証拠に、サンディが一言、

「ジェシー。あそこのゴミ箱にマーキングしたらどうかしら?」

 

 と言われただけで、ウェディングを前にした勝ち組美女は、

「ウォフッ」

 

 と力強く一鳴きした後で、喜び勇んで、サンディの指さした道端のゴミ箱へと四つ足で駆けていく。彼女とサンディの手とを繋いでいる鎖がピンッと張るほどの勢いで、飼い主を引っ張って自らゴミ箱のもとへと赴いて、当たり前のように右足を上げる。犬だったら当たり前のマーキングが始まる。けれど人目も気にせず、さも当たり前のような顔で下半身からゴミ箱目がけて液体を放出しているのは、プライドも格別に高そうな、勝ち組っぽいブロンド美女だった。全裸で堂々と自然現象を見せている彼女を、カフェのお客さんたちもチラチラと見て、何か呟いている。サンディは上機嫌に、左手で鎖を持ったまま、携帯カメラのシャッターボタンを何度も押した。ジェシカはその日も、ベガスへ出発する時間ギリギリまで、四つ足でフリスビーを追いかけたり、意向を表明した男たちに後ろから犯されて嬉しそうに吠えたてたり、警官に注意されるまで色んな場所にマーキングしたりと、お腹を抱えて笑うサンディに、「面白画像」を沢山提供したのだった。

 

 

。。。

 

 

 オークカウンティ・ビーチのヌード解禁及び、公然猥褻行為の非犯罪化決議を通したのは、市議会と、イレギュラーなタイミングで市長に当選した元地元高校の教師、カレン・ステイトン新市長だった。彼女には優れた政策参謀がいて、斬新な「提案」を次々と出してくるらしい。ポルノの解禁、未成年へのアルコール提供についての限定的規制緩和、市の提供する様々なサービスの制服変更など、大胆な改革を推し進めている。この国ではリベラルな政治家が改革を進めようとする時に、よく障害となるのが、保守派を糾合するキリスト教団体の反対だ。しかしこの市のカソリック最大派閥を率いるオーク・カウンティチャーチは、新修道院長のシスター・オーコネルが新市長を支援しているため、改革に対する抵抗勢力が組織されにくい状況のようだ。ちなみにそのチャーチでは、先々週、聖歌隊の少女たちが全員でミック・キンスキー監督の「ウェット&メッシー・クワイア」というタイトルの集団レズ乱交ビデオに出演して、顰蹙を買ってしまったばかりだ。

 

 そしてメディア。地域のローカルチャンネルで政治討論番組のМCやトーク番組のパーソナリティ、そしてニュース番組のアンカーをも務める、街一番の著名ジャーナリスト、エリザベス・ギブソンは、最初にビーチのレポートをした時から、街の改革、「解放」を全面的に支持。信奉してさえいるようだ。この街の新たなムーブメントを後押しするために、自分の討論番組に自らヌードで出演するなど、積極的にステイトン新市長を支援している。これによって、市の世論はかなり新市長に優位に推移しているようだった。

 

 

。。。

 

 

「ママ、ありがとうっ」

 

 ダニエル・ランバートはママのルシールが運転する、大型のトレーラーバスから降りる時に、快活に御礼を言う。巨大な車のステアリングを握りながら、ママがサングラスを少しだけ下ろして、息子の目を見ながらニコッと笑った。息子は本当に、ここでの生活を気に入っているようだ。

 

 トレーラーからはダニエルに続いて、彼女のステファニー。親友のトミーとミックが降りる。トミーと手を繋いで降りていくのはダニエルの姉のエミリー。彼女はママの頬にキスをして車を降りた。全員、ダニエルが委ねられている大邸宅で寝泊まりしていて、朝にママが、はす向かいのランバート宅から送迎のために来てくれたのだ(最近購入したトレーラーはランバート家のガレージにはとても入らないので、ダニエルの管理している家の巨大ガレージに止めてある)。今日は木曜日だが、ダニエルが高校に高校するのは今週では今日が初めてだった。

 

「ステファニー。教室まで、ファックしながら行こうか」

 

「えぇ。ダニエル。貴方のしたいようにしましょう。どんなことでも………」

 

 大きな笑顔を見せて、ステファニーは即座に服を脱ぐ。彼女が身に着けているのは、エキゾチックなキモノ・ドレス。ジャパンアニメーション・オタクであるトミーに言わせれば、日本ではほとんど誰も着ていないらしいが、光沢のあるツルツルの素材で肌触りが良い。オビの下には裾がちょっとだけある、ミニスカートのような仕様になっていて、ステファニー・マイルズの長い脚と見事なプロポーションが際立って見えるので、ダニエルのお気に入りだった。何より、彼が指示をすると5秒でステファニーはこのドレスを脱いで、フルヌードになることが出来る。今も彼女は、通っている学校のロータリーで、何の躊躇いもなく、即座に全裸になってくれた。ダニエルに抱き着いてくるステファニー。彼女を抱きかかえるような体勢で、すぐにファックを始める。何も言わなくても、姉のエミリーは跪いてダニエルのズボンのベルトを外し、トランクスごと下ろすなど、彼のスムーズなセックスを手伝ってくれる。

 

「ダニー。疲れそうだったら言ってくれよ。ジェイク・ロブソンか弟のジョニーを呼んで、ステファニーの体を担がせるから。皆、君が楽に気持ちよくなれることを、最優先に考えてるんだから、遠慮するなよ」

 

 彼女のエミリーがダニエルの服を脱がせている間、手持無沙汰になったトミーが声をかけてくれる。

 

「………一応、あの子と、あの子を一緒に連れて行かないか? 今朝のセックスのアクセントに使えるかもしれないぞ」

 

 ミックは目敏く周囲を確認しながら、常にダニエルにとっての刺激的なセックスライフを演出するために知恵を絞ってくれる。そのミックが選抜している相手は、ただの登校中の女子高校生たちではない。皆、ダニエルたち一行に気がついて、慌てて服を脱いでいく途中のガールたちだ。

 

 オークカウンティ・ハイスクールでは最近、沢山の校則が変更になったり、新たに付け加えられたりした。今、ロータリー付近の学生たちを慌てさせているのは、「ダニエル・ランバートが近くを通る時は、通り過ぎるまで男子は直立不動でグリーティング。女子は着ているものを全て脱いで全裸になるか、自分で裸以上にセクシーだと思ういでたちとなって、カーテシーのポーズをとる。ダニエルが何か指示をしてきた場合は、絶対服従すること」という新ルールだ。これが奇抜なルールであることは皆わかっているものの、教職員含めて、生徒たちが全校一致で可決させた新ルールだから、もはや誰も異議を唱えることは出来ない、鉄の掟となりつつあった。

 

「んー。どっちでも良いよ。ありがとう」

 

 ダニエルはミックの提案はありがたいものだと思っていたけれど、今、この瞬間は愛しいステファニーの体を満喫することに精一杯で、目を周囲のガールたちに向ける余裕が無かった。

 

 ステファニーくらい信頼できる相手だと、『イの壱』のコードだけでなく『イの弐』のコードも繋いで、ほとんどお互いの感触や快感を共有することが出来る。ステファニーはダニエルが無意識に感じる微細な角度や強度のチューニングを瞬時に察知して調整をしてくれるので、常にベストフィットな気持ち良さをダニエルに与えてくれる。それだけでなく、ステファニーが感じている快感をダニエルが得て、それを更にステファニーに還元するという、『氣の道』を通じた快感の無限サイクルを作ることすら出来る。そうしているうちに、ついつい、忘れてしまうのだ。校内の女子生徒たちが次々と道を開けて、脇でオールヌードになってダニエルたち一行を迎えていることを。

 

(せっかく学校に来たんだから、ステファニーと2人で楽しんでるだけじゃ駄目だな………。)

「せっかく学校に来たんだから、ステファニーと2人で楽しんでるだけじゃ駄目だな………」

 

 ダニエルが思ったことを、ステファニーが同時に口に出していた。2人の感情や感覚を極限まで共有しながらセックスに没頭していると、今でも彼の心の言葉を思わず彼女の口から出してしまったりと、混乱をする。けれど、正直なところそうしたコントロールが乱れるくらいまで快感に夢中になれているという感覚は、嫌いではなかった。

 

「ミック。せっかくだから、学校の子たちとも楽しもうかな。良さげな子を20人くらい見繕って、カフェテリアで乱交させよう。その真ん中でステファニーとファックするよ」

 

 ダニエルが告げると、ミックは癖の強い赤毛の頭を掻く。

 

「良いよ。どうせなら、カースト上位の勝ち組女子を選りすぐって、彼女がデートの誘いを断った男子や、内心馬鹿にしていた男子と乱交させるっていうのをスターターにしたらどうだろう?」

 

 ミックの言葉に、ダニエルは頷いて、彼に向って指を鳴らした。

 

「それでこそ、僕のヘンタイだ。早速、準備頼むよ」

 

 ダニエルの同意に従って、校内放送をかける。20分も経たないうちに、カフェテリアには美女、美少女たちと、彼女たちに引き連れられたモブっぽい男子たちが集合する。チアリーダー・スクワッドに演劇部のメインアクトレス、バンドのガール・ヴォーカリストにアスリート美女と、ダニエルでも顔と名前の一致するような、目立つタイプの女子が大半だ。逆に男たちは有象無象、色んなのがいる。でも、今日、ラッキーな目に合うのは、そのモブっぽい男子たちだ。ダニエル専属演出家であるミック・キンスキーが指示をすると、華やかなルックスの美女たちは不満そうな表情を見せながらも服を脱いでいく。横にいる男子たちは、その光景だけでズボンの中で勃起してしまっている。女子たちが手伝いつつ、男も裸になると、カフェテリアはピンク色っぽい肌の色で染まった。

 

「ガールズは以前に振った奴や馬鹿にしてた奴に、そのことを謝ったあとで、自分に出来る最高にホットなセックスをして、男を満足させるように。相手が心の底から満足した、って言うまでは、カフェテリアを出ちゃ駄目だ。ボーイズは正直に、厳格かつ公平にジャッジして、最高に満足出来たと思ったところで射精して、その女子の謝罪を受け入れるように」

 

 ミックの言葉に、不満のこもったようなボヤキや、期待に満ちたどよめきが返る。すでにダニエルはカフェテリア一体に氣のペンキを塗り伸ばしてあるので、ここに集合している男女は皆、どれだけ嫌なことであっても、ミックの指示や演出を拒むことが出来ない。ダニエルが指を鳴らすと、広いカフェテリアのいたるところで、ギコチない会話やペッティング、ブロウ・ジョブや前戯が始まっていくのだった。

 

 まだ納得のいっていないような顔をしながらも、目の前に立つ男子のペニスを自分の胸の谷間に挟み込みながら、跪いて何かを謝っている美女。途切れ途切れの話を、ディープなキスの間にしている美少女。チアリーダーのリサは、1人ずつ相手にしていてはきりがないと判断したのか、椅子に座らせた男の膝の上に跨りながら、左右2人の男のペニスを交互にしゃぶり、跨った男に自分の胸を自由に弄ばせている。やがてカフェテリアのあちこちから上がってくる、喘ぎ声。それらを聞きながら、ダニエルはテーブルの上に立って、ステファニーをバックで犯しつつ、全体を見下ろしていた。高校生たちが授業をサボって繰り広げる、壮観な乱交図鑑だ。そのリズムとテンポをリードするかのように、ダニエルは腰を振って打ちつけて、ステファニーのお尻をパンパンと鳴らした。

 

「凄いっ。ダニエルがこのカフェテリアを支配してるっ。学校も………。街もっ……………。あぁっ…………。愛してるっ」

 

 切羽詰まったような声で、あるいは感極まったような声で、ステファニー・マイルズが叫ぶ。彼女はカフェテリアのど真ん中、一組だけテーブルの上に立ってバックからダニエルにファックされている。床を覆いつくすようにして、学校の美女とその周辺の男子たちとがヤリまくっているその場所で、彼女は幸せそうに悶え、喘いでいる。思い出すと、最初に彼女に『氣の道』を繋がせてもらったのも、このカフェテリアではなかっただろうか。それからもう半年以上たっているけれど、ステファニーの魅力は全く衰えていない。毎日のように彼女をなぶりつくして、弄りつくして、穴という穴にペニスを入れさせてもらっているけれど、それでも摩耗しない、美しさというか、気高いと言っていいほどの魅力が彼女にはあった。そんなステファニーのオッパイから手を離して、一時、ダニエルは体を反らせるように伸び上がって両手の拳を突き上げる。

 

「僕はこの街の王だぁーっ!」

 

 ダニエルは、まるで痛いものを見るように自分を見つめる、心の中のもう一人の冷めた自分を打ち消すかのように、敢えて大きな声を出して叫んだ。

 

「大好きっ。私の王様………。全て貴方のものよ!」

 

 ステファニーが、ダニエルに負けないくらいの大きな声を出す。いつのまにかステファニーの方からも腰を振って、ダニエルと打ちつけ合っている。それを見たミックがアドリブで演出を考えたのだろうか、1組、また1組と、食堂で寝そべってファックしていたカップルやグループが立ちあがり、ダニエル・ステファニー組と同じ方向を向いて後背位でピストン運動を始める。

 

「ハァッ! ………、ハァッ! ………、ハァッ! ………イエァー!」

 

 男子が主体になって、掛け声を出し始める。気がつくと、カフェテリア全体で、100人もの男女が、ダニエルの腰の動きに合わせる形で、声を揃え、腰のリズムも揃えながら全員でセックスをしていた。それは以前だったらダニエルが気持ち的に引いていたようなジョックのノリのようでもあったけれど、久しぶりに学校に来て、これだけ集団で盛り上がると、ついつい今のダニエルは調子に乗って両手を突き上げ、周囲を見下ろし、頷きながらペニスをステファニーに激しく突き立てる。多くの男子たちがダニエルの真似をして両手を突き上げるか、あるいは頭の上で両手を叩きながら、ダニエルと一緒に腰を振った。横を見ると、トミーもリズムに乗って、ダニエルの姉、エミリーを後ろから犯しながら、彼女のお尻をスパンキングしていた。ミックはというと、カメラでこのカオスを撮影しながら、リズムにのってヘッドバンギングしている。彼の眼鏡の分厚いレンズはすっかり白く曇っていた。

 

 食堂を揺るがすくらいの熱狂の中で、気がつくとダニエルはステファニーのナカで射精してしまっていた。けれどそのことも気にせずに、まだ彼女のヴァギナの中でペニスを往復させては、腰を振っていた。

 

 ダニエルは今度、これと同じような、集団でのファックを、ビーチかダウンタウンなどの屋外で、もっと色んな種類の人たちを巻き込んでやってみたいと思ったのだった。

 

。。。

 

 

 夕方5時半頃のオークカウンティ・ビーチで、ダニエルは近くのブリュワリーから持ち出した瓶ビールを傾け、喉にビールを流し込む。今日もセックスは3回した。昼にはシティ・ホールへ行って、市議会の途中に抜け出てきたステイトン市長にトイレでブロウ・ジョブをしてもらったから、射精の数で言えば4回したことになる。ハリウッドで撮影している、配信ドラマで人気が出つつある新人女優を紹介してもらって、砂浜でやった。ゴージャスかつキュートだった。LA郊外にクレイジーな街とビーチがあるいう噂が広まっているらしい。彼女もそうした噂を聞いて、友達と羽を伸ばしに来たようだった。プロの女優とセックスした後で、自分の彼女を改めて比較してみたいと思い、波に揺られるゴムボートの上でステファニーともまたやった。やはり彼女のノーブルな魅力は、本職の女優にも負けないと、実感することが出来た。日が傾いていく、昼下がりから夕暮れ時に近づく時間帯。ダニエルは何回もセックスをしたあとの、気だるい心持ちを、アルコールでさらに強化して、まどろんでいた。

 

 白い砂浜では全裸の男女が長い列を作って、フォークダンスのようなことをしている。男女交互に並んで、前の人の肩に両手を置いて、足を蹴り上げたり両足でジャンプしたり。男は自分の前の女に、タイミングが合えばペニスを後ろから差し込んだり出したりしていた。女たちは皆、気持ちよさそうで楽しそうで、満面の笑顔で嬌声を上げている。その、はしゃぐ声が、波の音に混ざってダニエルの耳をくすぐっていくのだった。

 

 ふと、裸の男女の長い列の最後尾のあたりを見ていて、列から少し離れたところを1人で歩いている、人影が気になる。ダニエルが注目すると、そのアジア系の老人のシルエットには見覚えがあった。ミヤグニ・センセイだ。ダニエルはかけていたサングラスを取って目を凝らして確認すると、ビールの小瓶を脇に置いて、体を起こした。

 

「…………ん………。もう、行くの?」

 

「………いいや。………まだ寝ていて良いよ」

 

 ダニエルの真横、レジャーシートの上で裸でうつ伏せになって寝ていたステファニーに一声かけて、ダニエルは立ち上がる。体に付いた白い砂を払いながら、ミヤグニ・サンの方へ歩いて行った。

 

 

「センセイ…………。押忍」

 

 こちらへゆっくりと近づいてくるミヤグニ・サンへ20フィートくらいの距離のところで、ダニエルは立ち止まって、礼をする。ミヤグニ・サンは短パンにアロハシャツという、リラックスした服装で、右手に紙袋を持っている。もう片方の手を挙げて、ダニエルに挨拶した。

 

「おぅ………。ダニエル。久しぶり。…………ずいぶんとこの街も、様子が変わってきたのぅ」

 

 センセイに近づくと、強いアルコールの匂いがすることで、彼が持っている紙袋の中には、「アワモリ」という、彼の故郷の蒸留酒が入っているのだと、わかった。以前、彼が自宅でも嗜んでいるのを見たことがあった。

 

「押忍…………。ドウモ・アリガトウ・ゴザイマス」

 

 ダニエルは、少し気弱な笑顔を作って応じた。内心ではドキドキしている。彼の師匠は、ダニエルが氣の使い方を悪用しすぎて、陰と陽のバランスを崩していると、叱責しに来たのではないかと、ビクついていた。

 

「この街でも、公共の場所での飲酒が、認められるようになったのは、ありがたいのぅ………。まぁ、それ以外の法令改正は、極端なものが多いようだが………」

 

「あの…………。すみません。…………センセイ、僕は、ちょっと、やりすぎたかもしれません………」

 

 ダニエルが自分から先に弁解を始める。その弟子の言葉を、ミヤグニサンは手のひらで静止した。無言だ。しばらく間を開けてから、やっと口を開いた。

 

「いや………、まぁ、この程度は、………想定内かな………。やりすぎないようにだけ、気をつけていれば、OKだ。………うん。何事も、良い塩梅というのがあるからな」

 

 ミヤグニサンは上げた左手をダニエルの肩へ伸ばして、ポンと叩いた。そして顔の皺を寄せて笑顔を作って見せると、紙袋の中の瓶を口に近づけ、もう一口含んで、波の向こうを眺める。そして、トコトコと、波打ち際の線に沿って歩いていくのだった。

 

 

 ダニエルが想像していたよりも、ずいぶんと「陰と陽のバランス」はルースというか、寛容なものだったらしい。今まで、ダニエルはアメリカ人が世界で一番、大雑把な国民かと思っていたが、オキナワの人、あるいはニッポン人というのも、なかなか………。性というか変態というか、不思議な力に対しておおらかで寛容なのだと、学ぶことが出来た。

 

 

 

 ダニエルは、さっきまでミヤグニサンが眺めていた、海を改めて、じっくりと見る。肌をくすぐる暖かい風は、湿度を含んでいるが軽やかでかぐわしい。空は少しずつオレンジ色と紫色が入り混じる、トワイライトのマジックアワーに近づいているようだった。

 

「やっぱ、好きだなぁ………。カリフォルニア」

 

 ダニエル・ランバートは、誰に聞かせるともなく、気がつくとそんな言葉を漏らしていた。振り返ると、真っ白なビーチに延々と続く、裸の男女のダンスの列。その列の進む向きと逆方向、こちらに向かって走ってくるのは、彼の恋人、ステファニー。ダニエルは裸の彼女に向って右手を挙げて大きく手を振った。今日も下半身が空っぽになるまで、彼女とセックスしようと決めたのだった。

 

 

<おわり>

2件のコメント

  1. 読ませていただきましたでよ~

    っていうかまだ想定内なんでぅか、ミヤグニさん寛容でぅねw
    まあ、そうじゃなきゃ空間を支配するようなハの技法を教えないでぅよね。
    流石に国一つめちゃくちゃにしたらやりすぎなのかもでぅけど、逆にどこまでがセーフなのか気になるところでぅ。まあ、めちゃくちゃにしてる要因としてはダニエルよりミックなわけでぅけどw

    ステイトン先生が政治に行っちゃったからダニエルの相手をあまりできなくなってるのが寂しいところでぅ。
    今年の夏はこれで終わりっぽいので次は冬を楽しみにしていますでよ~。
    であ

  2. それがね、そもそも○○ウプ主とかがな、それでもおつかれさまでした。

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