白くて優しい丸みを見せる結衣理先生の大きなオッパイを、町村達都は自分の右手でじかに触れ、その感触を指の芯まで覚えこませようとするかのようにじっくりと揉む。「スライム」とか、「ボールの中で? き混ぜられたホットケーキの素」といった達都の記憶にある、少しでも似た感覚を思い浮かべてみるけれど、どれもこの、結衣理先生の左胸ほどには魅力的な感触とは思えなかった。指を触れると吸いつくように沈みこむ、しっとりとした肌。押し込んだ指を包み込んでくる柔軟な肉。そして若さを感じさせる、手のひらを押し返す弾力。達都の指の隙間へ逃げ込むように内部で動く粘性の液体のような瑞々しい反応。日が暮れるまで、ずっとこうして揉んでいられる………。達都はそう感じていた。
「………おっ………。こうしてると、ちょっと乳首、立ってきたぞ」
達都の隣に立って、結衣理先生の右胸を揉んでいるのはクラスメイトの塚田修介。若干遠慮がちに担任の先生のオッパイを揉んでいる達都と違って、修介はもっと不躾に、堂々と先生の右オッパイを、両手を使って弄りたおしている。左手でオッパイを押し上げるように揉み上げながら、右手の人差し指と親指とを使って、乳首を摘まむようにしてさすっているのだ。右乳首の反応と連動するかのように、達都が掴んでいる先生の左胸にも変化が現れる。達都の手のひらを突き押すように、左側の乳首も固く立ってきているのだ。達都が結衣理先生の顔を見る。その整った造形の美しい顔には表情がない。感情を出さずにまっすぐ前方を見据えている。けれどよく見ると、頬が赤くなっている。高い鼻から空気を吸って、はいて、している呼吸も、わずかに荒くなっているように感じる。達都が顔を先生の鼻の近くに寄せると、「スー、スー」という鼻息が彼の耳をくすぐった。その鼻息の音を楽しみながら、達都は彼の手のひらをついてくる乳首を、左手の指でそっと摘まんで撫でた。
「…………ふっ…………」
達都の耳元で、結衣理先生の鼻から吐息のようなくぐもった音が聞こえた。思わず先生の顔をまじまじと見る。モデルさんのように整った顔の造形と、チャーミングで可愛らしい印象を強めている大きな目。そして内面から湧き出てくるような清楚で真面目そうな顔立ち。その外見は、いつもの倉崎結衣理先生のものだ。けれど、今、その先生は、生徒指導室でブラジャーとパンツだけをかろうじて体に絡ませて、オッパイもお尻もアンダーヘアーも丸出しにして、気をつけの姿勢のまま、男子生徒2人に体をまさぐられている。そして両胸、両乳首を愛撫されて、かすかに反応しているのだ。まるで人形のように、されるがままになって、無表情でいる先生。そして、そこからわずかに漏れてくる、大人の女の人の反応とのギャップが、達都の股間を熱く固くさせた。
「………先生のステータスって今、どうなってる?」
達都が、知絵に聞く。両手がふさがってしまっている男子たちにかわって、今は北岡知絵が、達都のスマホを手にして、ナノウイルス「デイジー09」のインターフェイスアプリを見ていた。
「…………この、人の体の画の、頭の部分をタップしたら、先生のステータスが詳しく表示されるんだったよね? ……………あ………、意識レベルの目盛りが、3から4の間くらいまで来てるよ。アンタたちが先生に触る前は2だったよね? …………でも、4まではセーフティーゾーンだったっけ? ………感覚レベルが3? ………あ、これもタップでさらに細かいのが出てきた……。………あはっ。性感の目盛りが5まで上がってる。………これ、こっちから弄ることも出来るんだっけ?」
知絵がスマホに人差し指を当てて、円を描くようにスワイプする。
「……ん………んふっ…………。んんん…………」
知絵の指の動きに呼応するように、結衣理先生のアゴが上がる。さっきよりも呼吸が荒くなっている、両目は今もパッチリと見開かれているけれど、白めの部分が充血して明らかに潤みを増している。そして眉間に浅くだが、シワが寄ってきてる。そして達都の右手の中で、先生の乳首がさらに固くなった感触。先生の体が、何段階か敏感さを増したようだった。
「目盛りって、 何目盛りくらいあるんだっけ? ………全部、知絵の指で操作できる感じ?」
先生の体のあまりにもビビッドな反応が、修介の興味を引いたらしい。さっきまで食らいつくようにして先生の体に向き合っていた彼が、振り返って知絵に質問する。
「目盛りは、時計とそっくりだから、12分割になってるね。操作は、全部、…………出来るのかな?」
知絵がスマホをあれこれ弄りだすと、結衣理先生の反応が少しずつ変化する。
「……………んっ……………駄目…………」
寝言のような声を出して、先生が呟く。意識レベルが上がっているのだろうか? ………これ以上、その目盛りを上げられると、先生が完全に覚醒してしまわないかと、達都は不安になる。これまで1秒も止めなかった、彼女の左胸を揉む動きも、怖気づいて止めた。
「………あっ…………も…………もっと……………お願い…………。ここ………気持ち良い……………」
「あははっ………。意識レベルは4で止めて、感情レベルのもう1階層下の、性欲を7まで上げたら………結衣理先生、こんな感じになっちゃうんだ。………へぇ~」
知絵が嬉しそうに声を出す。見ると、達都と修介、2人の男子生徒にオッパイを触られながら、先生が切なそうな表情で悶えていた。体をくねらせて、腰を引く。内膝をこすり合わせるようにして、身を捩った。
「………じゃ、先生………。性欲と性感を9まで上げちゃったら、どうなるの? …………このへん、触られたら………」
机の上に座っていた知絵が、先生が立って身悶えしているところまで歩き寄る。達都と修介の体を掻き分けるようにして間に入って、右手でスマホを持ったまま、左手を先生の下半身に伸ばす。アンダーヘアーの中に指先を入れた。
「あっ…………あぁあんっ……………気持ちいいっ…………これっ……………。好きっ…………」
意識レベルの目盛りが上がらないように操作されているからか、先生はまるで他に誰もいない場所で夢を見ているかのように、あられもない声を出す。そして知絵が指を動かすたびに、弾かれたように体をビクッと震わせると、腰を引いたり、あるいは逆に突き出したりする。すぐに知絵の手の動きに合わせて、ピチャピチャと、液体が弾かれるような音が、先生の股間から響き始めた。達都が先生のオッパイから手を離しても、荒い呼吸に揺さぶられるように、柔らかいオッパイはフルフルと揺れる。そのたびに、彼女のツンッと固く伸びきった乳首が上を向いたり下を向いたりするのだった。
「大人の女の人のここって、柔らかいよね。割れ目を開くと、割と簡単にパカッて開くし、指も中にチュルッと入っちゃう感じ………」
「子供の…………中学生女子のそこだと、もっと固いってこと?」
「…………キモイ質問すんなよ。馬鹿」
修介の無邪気な質問を、知絵が不快そうに切り捨てる。かすかに知絵の顔が赤くなっていた。けれど、達都はすぐに興味を、知絵の反応から、結衣理先生の反応に戻す。学校の先生が、学校の敷地の中で、体をクネクネさせながら腰を前後させて悶える。喘ぐ。その姿は、とんでもなくイヤラシイものに感じられる。両目は開けたまま、彼女の顔には、無感情と発情、そして性欲に支配されたような、物欲しそうな表情とが、交互に現れる。体は肌全体が汗ばんで、しっとりというレベルを超えて、湿ってきたような気がする。そしてその汗と一緒に、彼女の体の芯から、生き物らしさを感じさせる甘酸っぱい香ばしさが、匂いとして染み出てくる。
「結衣理ちゃん、両足をもっと開いて。…………もっと気持ちよくしてあげる。…………両手は頭の上に重ねて、もっと胸を突き出そうか。達都と修介に、もっと強く揉んでもらえるよ」
結衣理先生が両足を肩幅まで開いて、両手を頭の上に重ねる時に脇の下を曝け出す。その2つの動作と同時に、さっきまで漂っていた甘酸っぱい匂いがさらに濃厚に漂ってきた。先生の両膝が離れるのに抵抗するように、膝元のショーツの生地が引き延ばされる。沸き立つような女性の匂いに、反射的に達都の股間がさらにいきりたつ。知絵がさらに指を奥まで突っ込むようにして手首を動かすと、ビチャビチャという音が生徒指導室に響く。わざと音を大きく立てようとしているような知絵の手は、結衣理先生が分泌している液で、手首までビッショリと濡れて光っていた。
「はぁぁあっ……………ぁあああああんっ………」
いつもの柔らかくて上品な結衣理先生の声からは想像できないような、少しハスキーで細い声。人の耳に触れることを気にしていない、あからさまで赤裸々な声。これが、本物の「喘ぎ声」なんだと、達都は思い知った。先生の呼吸は鼻呼吸から口呼吸に変わっていて、白くてスベスベしたお腹が前後するたびに荒くて熱い息を、開かれたままの口から吐き出していた。倉崎結衣理先生の、そんな乱れた姿を凝視したり、時々、恥ずかしくなって目を逸らしたりしているうちに、達都の視界の端に、偶然、壁に掛けられた時計が飛び込んできた。
「…………あ、………北岡………。そろそろ、部活の人たちの下校時刻になる…………。校舎の中がちょっと混雑してくるから、もう………このへんで落ち着かせないと………」
「えぇ? …………これから、良いとこなのに…………」
不満そうに右手を先生の股間から抜き取った知絵は、肘まで先生の股間から出たエキスが垂れている自分の右腕から指先まで眺めて、ニンマリと笑顔になった。
「まっ…………。今日のところは、これくらいにしとこっか? …………まだ初日だしね………」
知絵が見上げたのに誘われるように、達都も先生の顔を見る。知絵の手首から肘にかけて、先生の恥ずかしい液が垂れているのと同じように、先生の開きっぱなしになっている口の端から、一筋の涎が、あごの横からあご先へと垂れていた。先生はそれすら気にならないかのように、呆けたような表情で前を見ていた。開いた口は、見る角度によっては、わずかに微笑んでいるようにも見える。目盛りを9まで上げた先生の性感が、そうさせているのかと、達都は秘かに想像する。その想像が、さらに彼の股間を固く立たせていく。
「気に入って、よく使いたいコマンドとか目盛りとかは、ショートカットしてすぐ辿り着けるようにカスタマイズ出来るって、書いてあったよね? …………直接制御モード、性感調整、性欲調整………。全部、『お気に入り』に入れとくよ」
知絵はまるで自分のものかのように、達都のスマホを気ままに弄っている。スワイプしている右手の指先は、まだ先生のエキスで濡れているはずだ。達都は自分の携帯のスクリーンを後からよく拭くべきか、そのままにしておくべきか、迷いながら知絵の言葉に頷いていた。
「………あの、先生、こっちにティッシュがあるから、体をキレイにして、下着をちゃんと着て、他の服も着てください」
乱れて放心したような様子だった先生が、動き始める。頭の上に重ねていた両手を離して体の横に伸ばす。肩幅まで開いていた両足で、机まで歩いて行って、ティッシュボックスに手を伸ばす。膝の上に絡みついているショーツのせいで、歩幅は短かった。3枚抜き取ったティッシュで股間から内腿、内膝のあたりまで、丁寧に拭く、先生が姿勢をかがませる瞬間、彼女の後ろ側に回った修介が必ず体を捻って彼女のお尻を覗き込む。その自分を一切偽らない修介の、てらいのないムーブは、達都に呆れを通り越した、尊敬の念すら抱かせた。
まだ体のところどころに赤みを残している先生の姿は美しくてヤラシかった。先生が全身の汗を拭きとるまでに、ティッシュペーパーは他にも10枚は使われた。そしてようやく、先生が首元と膝元に辛うじて絡まっているといった様子だったブラジャーとショーツを丁寧に身に着けていく。身だしなみにとても気を遣う、上品な人なのだ。その人となりが、こうした仕草の一つ一つから伝わってくる。それと同時に、さっきの先生が見せた、あられもない発情しきったような痴態が思い出されて、そのギャップがまた、達都の胸の内をギュッと締め付けてくるのだった。
。。。
身だしなみを整えた先生の『直接制御モード』を解除すると、倉敷結衣理先生は両目をパチパチとしばたかせて、周りをキョロキョロと見回した後、時間がずいぶん経っていることに気がついて、慌てて職員室へ戻っていった。まだ生徒たちの提出課題の添削がタップリ残っているらしい。達都たち3人は、これからのことを少し話し合って、下校する準備のために教室へ戻った。
自宅に帰って、制服から普段着に着替えても、夕飯を食べてお風呂に入っても、達都はまだ、結衣理先生の裸のことを考えていた。学校で達都は知絵に、「こんな面白いものは無いんだから、勝手に一人でどんどん進めちゃ駄目だよ。うちらの班の自由研究として、メンバーみんな、平等に研究しよう」と言われて、とっさに「別に良いよ」と答えてしまった。それでも、風呂上りに自分の部屋で宿題をしている間も、机の端に置いた、スマホのことばかり気になってしまうのだった。
(結衣理先生の制御率、下がってたりしないかな? …………このくらいは、メンテのうちみたいなもんだよね………。)
そんな風に自分で自分に言い訳をしながら、スマホを手に取って、ナノウイルス制御アプリを、タップして立ち上げる。デイジー09のホーム画面には、赤い人体図と98%で安定している制御率が示してあった。さらにタップして詳細画面へ進む。「行動制御」、「身体制御」、「感情制御」、「思考制御」という項目のほかに、下から2番目の項目、「記憶・人格制御」にもチェックマークがついている。確かここは今日の放課後に確認した時点では、今、チェックマークがついている部分に砂時計のマークが点滅していたはずだ。制御が一層、深くまで浸透してきたのだろうか? 達都は他に更新されている項目が無いか興味が出て、ホーム画面に戻って右上のメニューバーを開く。コマンド入力の方法には、端末操作、直接制御の他に、「AI」というモードが選択可能になっている。これも、日中は無かったはずだ。達都は思わず、「AI」モードをタップしてたちあげる。するとこれまでの、どちらかというと無味乾燥というかシンプルだった人体図などとは違って、ずいぶんとポップな女の人の顔がアイコン化されたものが出てきた。キリッとした眉毛、通った鼻筋、クリッとつぶらな眼は、達都の担任、結衣理先生の顔をアニメキャラにしたら、まさにこんな顔になると思われた。ピロンと音がして、その先生によく似た女性の顔アイコンの横にマンガのような吹き出しが出る。
「こちら、デイジー09の制御下にある、倉敷結衣理の深層意識と一体化した、AIエージェントです。デイジー09の制御状況確認や、倉敷結衣理の状態確認、そして倉敷結衣理の表層意識に気づかれずに情報収集することなどが可能です。もちろん、対話形式でコマンド入力することも可能です。何をなさいますか?」
(急に一杯、選択肢を出されても…………。どうしよう………………。それじゃ………。)
音声入力をオンにして、達都はスマホを口元に近づけると、そーっと話しかける。
「あの………、結衣理先生は今、何をしていますか?」
ピロンッ。
達都が喋った通りに彼の質問の吹き出しが出ると、その下に、即座に回答の吹き出しが表示される。そのスピードに驚いた。
「結衣理は今、夕食の片づけをしています。容器をゴミ箱に捨てる前に、容器についているご飯粒などを取り除いています」
「………夕飯………。何を食べたんですか?」
「海苔弁です」
「………の…………海苔弁ですか」
「はい、海苔弁とは、ご飯の上に海苔を敷き、そのほかに竹輪の天ぷらや蒲鉾などを添えた、比較的シンプルで庶民的なお弁当です。倉敷結衣理は、普段はヘルシーな食生活を丁寧に整えることを目指していますが、学校の仕事が立てこんだ時、食事を作る時間が無い時、ストレスが溜まった時などは、敢えて持ち帰り弁当を購入して、しっかりカロリーを取る傾向があります」
「そ………そうなんですね。……あの、結衣理先生は、なんで仕事が思うように進んでいなかったか、………あと、今日何か、不審なことがなかったかなど………、疑問に思っていることはないですか?」
ピロン。「疑問に思っていることはありません。デイジー09の防衛システムがすでに構築されています。倉崎結衣理は、ナノウイルスの制御に関わることに疑問を持つという思考を現在遮断されており、彼女の思考は、目の前の生徒たちの提出課題の添削に集中している状態でした。この後の彼女は、夕食の片づけ後にシャワーを浴びると、疲労を感じ、すぐに睡眠の準備に入る予定です」
シャワーを浴びる、結衣理先生………。達都はさっき凝視した、先生の裸を思い出す。想像の中で先生は浴室の手前にある脱衣室で、下着を脱いでいくのだった。
「あの…………、結衣理先生は今も、白地に花柄の下着を着ていますか?」
質問の途中から、声が震えて頭がボアーッと熱くなる。自分は変態のような質問をしているんだ………と、自覚したことからの羞恥心だった。
ピロン。「ブラジャーは白をベースにスミレや夏の草花の柄がついたものを今も着用しています。一方でショーツは、帰宅後に替えました。今は水色で柄のないものを身に着けています」
「そうなんだ…………。どうして、パンツだけ替えたんですか?」
「倉崎結衣理は帰宅中から下着が、クロッチ部分を中心に、吸収しきれないほど、濡れていることを気にしていました。なので帰宅後にストッキングを脱ぐのと同時に、ショーツを替えました。白地に花柄のショーツは、一時的に汚れもののカゴに入れられています」
結衣理先生しか知らないはずの、秘密の情報が、いとも簡単に、AIエージェントから、会話形式に教えてもらえる。そう思うと、達都は興奮でさらに体温が上がる気がする。質問が、止められなくなっている。
「………わかりました………。あの、先生のブラジャーは何カップですか? あと、スリーサイズもわかりますか?」
ピロン。「倉崎結衣理の着用しているブラジャーはDカップでトップが88センチ、アンダーが70センチです。寝る時に着用するナイトブラはトップ90、アンダー72と、少し楽なものにしています。生理が近くて、乳房が張る感覚がある時は、日中もこのナイトブラを着用して出勤することがあります」
AIエージェントが一瞬のうちに回答してくる内容の中には、中学一年生男子の達都には理解しきれないものもあったが、とにかくこれが、結衣理先生が他の人には話さないような、プライベートな情報や秘密であることはわかる。そうした情報を、いくらでも引き出すことが出来て、それを今、自分が独占しているのだ、という意識が、彼をさらに昂らせた。
「スリーサイズはバスト88、ウエスト59、ヒップ86ですが、結衣理は特に自分のウェストについては体調やその日の満腹状況などによっても1センチか2センチ、増減することを意識しています。なので、計測するとわかっている時は、空腹状態でウェストを測ってもらえるように調整しています。本音では自分のウェストは60センチくらいなのだと、秘かに認めていますが、そのことはけっして他人には話しません」
「………あのぅ…………、じゃ…………聞きますが…………。先生は、……………オナニーとか、しますか?」
ピロン「結衣理は週に1回から2回、自慰行為をします。浴室でシャワーを浴びながらするか、ベッドのなかで自分の体を触るかのどちらかです。同年代の女性と比較して、平均の域内から、やや少ない方に含まれます」
「………今夜は、………すると思いますか?」
悪い質問をしているという自意識からか、達都の声はどんどん小さくなって、スマホのマイクがあると思われる当たりに、口をつけるようにして囁く。その直後、ピロンという着信音とともに画面に表示される回答を、スマホを持ち換えて必死に読み込む。なかなか忙しい作業だ。
「今夜は本人にはオナニーをするつもりはないようです。帰宅後に自分のショーツを替えながら、教師の仕事をしている間に下着を汚すほどに濡れていた自分に対して嫌悪感と罪悪感を抱いていました。その影響もあり、結衣理は現在、性的なものに忌避感を抱いています。なので自発的に自慰行為を始めることはないと予測されます。もちろんですが、デイジー09がコマンドを受信すれば、彼女の行動、感情、思考はそのコマンドに従って制御されます。なので、彼女の未来の行動予測は、そうした影響がなかった場合のものです」
「じゃ…………、今、………先生は、オナニーを今夜したいと思っていなくても…………、僕がコマンドを入れれば、先生にオナニーをさせることも出来るんですね」
ピロン「もちろんです。コマンドはメニューからモードを選択して入力することが出来ます。その他、デイジー09の一般的な機能説明はチュートリアル画面で検索するか、運営側から送信される新着メッセージをご確認頂くことで、理解が進みます。なお、現在デイジー09はモニターテスト期間中ですので、チュートリアルや事前説明が必要最小限、あるいは必要を確認してからの事後展開になっていることをご了承ください」
途中からの説明は読み飛ばしてしまった。達都の興味は今、一点に絞られている。
「え、エージェントモードのまま、音声入力でコマンド操作します。………結衣理先生に、今日、寝る前にベッドで…………その…………、オナニーをして欲しいです…………。出来れば………、僕、町村達都のことを考えて…………」
ピロン。「コマンドを受け付けました。行動予約、思考予約の登録が完了しました」
達都は反射的に、椅子から仰け反ってガッツポーズをとってしまった。一人でいる時に、あまりこうしたリアクションをとったりしない彼だが、今日の興奮は、これまでに彼が経験してきたものとは比べ物にならなかった。
スマホを机の端に置いてから、達都は懸命に残りの宿題を片付けた。半ばやっつけたと言っても良いような集中度だったが、とにかくスピード重視で宿題を終わらせる。1階の洗面所に行って歯を磨くと、いつも寝る時にベッド脇のサイドボードに置く、コップ1杯の水を準備する。親からはいつもよりも早く寝る準備をしていることを指摘されたが、適当に相槌を打って階段を上がる。達都はその夜、ベッドで結衣理先生のことを考えながら、オナニーをした。珍しいことではない。学校でも指折りの美人教師として評判の倉崎結衣理先生は、彼にとって、オナニーの際にかなりヘビーローテーションで登場する、メインキャストだ。けれど、今日の興奮度はこれまでとは全く違う。今日、達都は、本物の先生の裸を見た。その記憶がまだ、瞼を閉じると網膜に、そして脳裏に焼き付いていると思えるほど、リアルに残っている。それだけではない、今、この瞬間に、先生本人も、自分の体を、あの柔らかくて綺麗で魅力的な体を、自分で弄って慰めているかもしれない。もし、そうだとしたら、その時、先生は達都のことを考えながらオナニーしてくれているはずだ。
(同じ時間に、お互いのことを考えながら、2人でオナニーをしているとしたら、これって、もう、セックスじゃないのかな? …………違うか………。)
ふと、頭の片隅に、北岡知絵の馬鹿にしたような冷笑が浮かんだような気がして、達都は慌てて思考の暴走に少しだけブレーキをかける。けれど、知絵を思い出したことで、放課後に生徒指導室で彼女が先生に対してしたこともまた、ビビッドに思い出す。先生の無防備な股間の大切なところ、女性の神聖な場所に、遠慮なく指を入れた知絵。性感と性欲の目盛りを上げられてしまって、知絵や達都たちの愛撫に感じて、悶え、喘いでくれた先生。知絵が抜き取った手の、手首まで垂れていった、先生のエッチなエキス。そして呆けたように口を開けて遠くを見ていた先生の弛緩しきった表情。その口の端から垂れていた、先生の涎。思い出すと達都の心臓が、痛いほど激しく高鳴る。固く熱くなった股間を押さえつけるようにして強めにシゴく。
射精の予感を得て、達都は尻の筋肉に力を入れて我慢しながら、慌てて、重ねたティッシュを股間に当てる。我慢した分、そして今日得た記憶の収穫の分だけ、射精は勢いよく、多く出た。達都はベッドに顔から突っ伏して、射精の快感の残り香に浸りながら、机の上にあるスマホを眺めていた。『デイジー09』と命名された、モニターテスト中のナノウイルスとその制御アプリ。これを、モニターテスト期間として達都に与えられる、最後の最後の瞬間まで、使い切ろうと、心に決めたのだった。
。。。
翌朝の学校。HRの次にある最初の授業は英語だった。つまり、クラス担任の倉崎結衣理先生との時間が、ぶっ通しで続くことになる。達都が木曜日を好きな理由だ。先生は、いつも通りの、パリッとした白い開襟シャツと長めのスカートを身に着けて、黒髪を綺麗に後ろでまとめて、姿勢良く教卓に立つ。生徒たちの出席状況を確認した時、教室内を見回した先生の目が、ふと、達都の目と合う。その瞬間、結衣理先生の顔が見る間に赤く染まる。少し気まずそうに、先生は目を逸らして、別の生徒たちに顔を向けるのだった。
その、倉崎先生の居心地悪そうな赤面が、達都をまた、ムラムラとさせる。昨夜の自慰行為の発奮が、完全な独り遊びではなかったのだ、ということに確信をもらえた気分になる。その日の英語の授業の間、結衣理先生が達都のいる方向をほとんど見ようとしないのを良いことに、達都は授業中にも関わらず、机の中から膝元までの空間を使って、コッソリとスマホを弄っては、先生にちょっかいをかけるのだった。『モニター期間中は出来るだけ多様な機能をお試し頂くことを推奨します』とチュートリアル画面にあったので、今日はこれまでに触れていなかった、「肉体制御」の中にある「生理現象制御」を試してみる。最初は、しゃっくり。教科書を綺麗な発音で淀みなく音読していた結衣理先生を見ていると、少し様子が変わる。
「ヒックッ………………。ごめんなさい」
先生の、少し戸惑ったような、恥ずかしそうな表情が面白くて、その後、5分間の間に10回もシャックリをさせたところ、先生は生徒たちに誤って机に戻ると、細くてスタイリッシュな水筒から水を汲んで、ゆっくりと飲み干した。授業を中断したことを詫びる先生が、少し可哀想に思えた達都は、試すコマンドを変える。
「グ……………ググググゥゥゥ…………」
音読に戻ろうと、息を吸い込んだところで、お腹を鳴らした先生は、慌てて空いている方の手でお腹を押さえながら肩をすくめて体をちぢこめた。
「ごっ…………ごめんなさいっ…………。朝ごはんは、ちゃんと食べてきたんだけど…………。今日はちょっと、体調が本調子じゃないのかな…………」
さっきまで、頬が赤らむ程度だった先生の顔が、今は耳まで赤く、赤黒いと言えるほど濃い赤色に変わっていた。授業中に先生がパニックになってしまっては困るので、達都はしばらく、悪戯を止めてみる。すると結衣理先生は少しずつ落ち着きを取り戻して、いつものように流麗に授業を進めるようになる。20分も経つと、出だしで妙につまずきやたどたどしさがあったことなど、忘れてしまったかのように、先生は英文法の話に集中している。その先生のまっすぐな集中力に飲まれるかのように、生徒たち、そして教室全体も、授業に集中していた。
「………ここで気を付けないといけないのは、三人称単数現在形の時に動詞につくSは、その直前に来る音に引っ張られて、読み方が微妙に変わるということです。ズと発音したりスと発音したり、あるいはesになったりもするんです。ここを読み比べますから、良く聞いてくださいね」
先生が、皆に、「よく聞くように」と注意を促す。ここで達都は思わず、我慢出来ずに悪戯を再開させてしまう。
「ググゥゥゥゥウウウウウウ」
先生のお腹が、もう一度、今度はさっきよりも大きな音を出す。まるで大きな獣がイビキでもかいたかのような、重低音だった。
「…………先生、それ、めっちゃ発音難しくないっすか?」
反射的に修介が声を出す。彼は本当に脊椎反射で生きているような男子だった。
「ごっ…………ゴメンなさいっ…………また……………。やだ………」
先生は手に持っていた教科書を開いたまま両手で持ち上げ、自分の顔を覆い隠すようにして悶える。顔を隠したつもりでも、耳まで真っ赤になっているのは隠せなかった。修介の素のリアクションに引っ張られるかのように、教室に生徒たちの笑い声が響く。先生は自分の顔を押し付けるようにして、片手に持ちかえた教科書に埋めながら、もう片方の腕で自分のお腹を押さえつけた。HRの時の先生、英語の授業の時の先生、自由学習の時間の先生。それぞれ、少しずつ生徒たちに接するスタイルを微妙に変えている倉崎先生だったが、これほど生徒たちに笑われるということは、このクラスを担任し始めてから、初めてのことだった。
。。
「アンタ、さっき、結衣理先生に授業中にコマンド入れて、遊んでたでしょ。…………1人で勝手に進めていって、いいんだっけ?」
休み時間に、達都の席の前までやってきた知絵が、冷たい目で達都を詰問する。
「あ、俺もそれ、思った。達都ばっかり、いいな~。って」
両手を後頭部に組んで、ストレッチのような体勢をしながら、修介も達都のところへ来て話す。彼は知絵の動きを見て、自由研究の班で集まるのかと思って無邪気にやってきたようだった。
「………ごめん………。その、チュートリアル画面に、出来るだけ色んなモードや機能を試してみて、って書いてあったから、生理現象くらいだったら、ちょこっと僕だけで弄っても、メンテ作業の一部かなって…………思って…………。でも、あんなに注目集めるって思わなかったから………」
達都は頭を掻きながら、申し訳なさそうに答える。確かに、今朝の自分は、いつもと違って暴走気味だったような気がする。自分でも慎重派だと思っている町村達都がついつい暴走してしまうほどに、結衣理先生にオナニーさせられた、という発見は衝撃的なものだったのだ………。今、振り返ると、改めてその実感が湧いてくる。
「………その様子だと、達都、昨日の夜も、一人になってから、ナノウイルス、遊んだんじゃない?」
「えっ? そうなの? ………いいなぁ………」
知絵が達都の顔をジーッと覗きこみながら、かまをかけてくる。修介は、それを聞いて怒り出すかと思ったら、無邪気に羨ましがるだけだった。
「ん………、ちょっと………。その、………メンテナンスくらいだよ………」
達都が目を逸らすようにして答えると、知絵も、怒り出すことなく、ニッと微笑んだ。
「そうこなくっちゃ………。アタシ、町村が真面目なこと言い出して、結衣理先生で遊ぶことを、いちいちストップかけてくるかと、心配したけど。…………アンタも健康な男子ってことだね。うん………よろしい」
知絵は機嫌良さげにそこまで言うと、周りの耳を気にして、グッと顔を達都に寄せてきて、囁きかける。
「じゃ………さ、今日の昼休みは焦らずに、うちら3人だけで作戦会議して、結衣理ちゃんは放課後に呼び出そうよ。生徒指導室じゃなくて…………北棟の会議室とかどうよ?」
知絵の言葉を聞いて、達都は一度、唾を飲む。修介の反応も伺ってみたが、彼はまだ、話についてこれていないようで、怪訝な顔で達都の回答を待っている。多分、難しそうな話は全部、達都の意見に同調するつもりのようだ。そこで達都はもう一度、北岡知絵の顔を覗き込んで、何パターンかのシナリオとリスクを考えてみた。けれど、結局、彼女の提案に乗っかるかたちで、無言で頷いたのだった。
。。。
その日の放課後、倉崎結衣理は職員室で、翌日の授業の準備を終わらせつつあった。昨日、生徒たちの提出した課題の添削を頑張って終わらせておいたおかげで、今日の仕事は早めに片付きそうだ。結衣理は頭の中で帰宅時間を検討しながら、今日は自炊が出来るはずだと、帰宅途中でスーパーに寄ること、そこで買うものについてなどをあれこれ思案していた。そんな時、自分の頭の中に、何かが飛び込んできたような感覚を得る。同時に体が芯からジワッと熱くなり、肌に淡く生えた産毛が総毛立つような感触に包まれる。気がつくと、結衣理は起立していた。
(北棟の3階………。一番奥の会議室っ。………すぐ行かないとっ。)
頭の中に浮かんだ思いが強すぎて、それまでに考えていたことや、周囲で働く同僚の教師たちへの気遣いなど、色々な意識が一斉に遠のいて、気にならなくなる。結衣理はスタスタと早足で職員室を出ると、強さを増していくるその思いに掻き立てられるかのように、結衣理は渡り廊下を通って、競歩のようなスピードで急ぐ。
北棟の2階以上は、生徒の数が今の倍近くいた時代には普通に教室があったらしいが、今では期間限定の委員会活動や会議のためにしか使われていない。そのため、本棟や運動場、体育館や道場の喧噪と比べると、北棟はいっきに静かになる。そして2階に上がると、人影自体を見かけなくなる。それでも、結衣理は一心不乱にその階で一番奥にある会議室へと向かっていくのだった。
ガラガラガラ。
扉を開くと、そこには見慣れた男女の姿。町村達都、塚田修介、北岡知絵の3人。みんな、結衣理が担任する1-3の生徒たちだ。知絵は達都の顔を見ると、また少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。昨夜の不可解な失態を思い出したのだ。どうしてあの時、急に、担当の生徒の1人、しかも、よりによって彼のことを思い浮かべながら、自分を慰めてしまったのだろう。ストレスが溜まっていた、あるいは魔が差したとしか、言いようがなかった。
そしてこの3人は夏の自由研究活動で同じ班になっている。この3人に迎え入れられる。………そのことに、一瞬だけ、結衣理は不穏な既視感を感じた。けれど、それよりも何もよりも、結衣理はとにかく、自分がしなければならないことを、1つ成し遂げた、ということに、安心のため息をついて、多少乱れた呼吸を整えていた。なぜ、自分がここに来なければならなかったか………、それは、全く思い浮かばない。けれど、とにかく、自分はここに、すぐにでも来なければいけなかったはずだったのだ。
「結衣理ちゃん、お疲れー。わざわざ、ここまで来てくれて、ありがとうね。………あ、暑かったら、脱いじゃって、楽にしてね」
知絵が何でもないといった口調で、おかしなことを言いながら、スマホを弄っている。そもそも、学校でのスマホの利用はご家族との帰宅時間の連絡など、最小限にするように指導してきているし、人と話すときにスマホを弄りながら、ということ自体が失礼なことだ。そして、知絵が女子だからといって、女性の先生に対して、「暑かったら脱いじゃって」というのは、冗談としても不適切だ。結衣理は何から注意をし始めれば良いのか、一瞬、迷ってしまうほどだった。そして気がついた時、彼女はシャツのボタンを4つも外していた。ほとんど無意識のうちに、だ。
「………え? …………うそ…………。どうして?」
結衣理の顔が青ざめ、口では狼狽えながらも、彼女の両手は躊躇うことなくボタンを1つ、また1つとはずしていく。彼女の淡いピンク色のブラのカップ部分が、開かれたシャツの襟元から見えてしまっている。
「ハハハッ。………焦ってる。…………結衣理ちゃん、最近、…………昨日くらいからかな? ………おかしなこととか、身の回りで起きてない? …………例えば、急に、体がいつもと違う感じになっちゃうとか………」
知絵がまた、喋りながらスマホを弄る。結衣理は自分の手を止めようと戦うのに必死だったが、もう1つ、異変を感じた。
ググググゥゥゥゥウウウッ
お腹が大きく鳴った。お昼ご飯は家から持参したお弁当をしっかり食べたのにも関わらず………だ。
「今朝の…………。今朝のことも、貴方たちがしたことなの? …………どうやっているの? …………とにかく、すぐに止めなさいっ。先生、怒りますよっ」
恥ずかしさを誤魔化すかのように、結衣理は厳しい表情を作って知絵を?? りつけた。それと同時に、ボタンを外し終えた両手が、白いカッターシャツの生地を掴んで左右に開く。繊維が素肌をさする音。ピンクのブラにだけ守られた、結衣理の白い上半身が、生徒たちの目に曝け出される。その肌は、恥ずかしさで桜色に染まっていた。
「結衣理ちゃん、達都にも怒ってる? …………でも、昨日の夜は、違う思いだったんじゃない? …………自分の口から言ってみる? …………アハハ……」
知絵の言葉に、結衣理は、まるで背筋にツララが突き通されたような、冷たい衝撃を感じた。彼女は、いや、彼女たちは、町村達都も含めて、昨夜の結衣理の恥ずかしい行為のことを、知っているようだった。………いや、きっと、昨日の夜の痴態も、彼らに仕組まれたことだったのではないだろうか?
「これ、どうせだから昨日の昼のことから思い出してもらいたいんだけど、記憶って、どこから制御するんだったっけ?」
「いちど、メイン画面に戻ってメニューからだよ………。それ。コマンドのモード選択がある」
「あぁ、あぁ、わかった。もう大丈夫、やれるって」
知絵に質問された達都が、スマホに自分の手も添えながら、説明をする、途中で知絵は、スマホを自分だけの手に取り戻そうと、引っ張る。そんなやり取りの中での僅かな時間、結衣理は服を脱いでいく自分の手が止まったことに気がつく。体が、自分の思い通りに動いてくれる。
(今よっ…………。この子達から、あの携帯を…………、いや、逃げようっ!)
彼らが手にしているスマホが何か、結衣理の体に起きている異変のカギになっていることは確かだと思われたが、それでも、はたして異変の原因の全てかどうかは、わからない。倉崎結衣理がとっさに判断したのは、まずは身の安全を確保するために、逃げることだった。職員室まで戻って、同僚である大人の教諭たちの協力を得られれば、より安全に、この問題の解決が出来るはず………。そう思って結衣理は、床に落としたままの白いカッターシャツに目もくれずに、さっき彼女が開け閉めしてこの会議室に入った、扉へと、駆けていく。
「あっ…………先生が逃げちゃうっ………」
「…………これなら、どう?」
知絵がスマホの操作を続けているようだ。その気配を背中に感じながらも、結衣理は振り返らずに、扉の前まで走ると、扉を開いて会議室から出ていこうとした…………、ところで、立ち止まってしまった。扉に伸ばした手が止まる。ここから、どうしたら良いのか、わからなくなってしまったからだ。
(この扉、…………ノブがない…………。こういうタイプの扉って…………、どうやったら、開くんだったかしら?)
たった数分前に、自分で開け閉めして入ってきた扉だということは、充分わかっていても、さっきまで、いや、教員生活を始めてから毎日、当たり前のように開け閉めしてきた扉を、どう動かして良いのか、どうしても思い出せない。
(………自動扉だったかもしれない………。近づいたら、センサーで勝手に…………痛いっ。)
思い切って、そのまま扉へ前進してみた結衣理は、鼻の頭とオデコを、扉にぶつけてしまった。痛みと実際の衝撃よりも、バンッと派手で大きな音が鳴った。
「ぷっ…………。先生、気をつけて………。………うまくいったみたいだね」
「ん……まぁ、良し。………じゃ、行動制御に戻るね。
協力し合ってスマホを弄っていたらしい達都と知絵が会話している間も、結衣理は1枚の木の板を前にして、絶望的な気分で立ち尽くしていた。このたった1枚の扉を開けば自由になれると思ったのに、この扉を一体自分は今までどうやって開いてきたのか、記憶がきれいに蒸発してしまったかのように思い出せない。記憶のかわりに浮かんでくるのは、まるで自分が自分で無くなっていくような、無力感だった。不意に結衣理の脚が「回れ右」をしてスタスタと会議室の真ん中へと戻っていこうとする。今の結衣理には、誰がそう仕向けているのか、すでにわかっていたが、どうしようもなかった。
歩きながら、結衣理の両手がスカートのホックに伸びていって、プチンと外してしまう。ファスナーも下ろすと、スカートが、彼女の脚を名残惜し気に撫でながら下へ下へと降りていってしまう。そのまま足首を右、左と抜き取るようにして歩く。そして会議室の中央あたりまで来ると、結衣理は両手の指をパンストのウェスト部分にかけて、スルスルと、腰を左右に振るような仕草をしながら脱いでいく。ストッキングも脱いでしまうと、倉崎結衣理はブラとショーツだけの下着姿になっていた。
「じゃ………約束通り、ここはジャンケンで決めような」
修介が、久しぶりに声を上げる。指を絡めたり伸ばしたりして、ジャンケンの前に、勝つためのオマジナイのような仕草をする。達都も頷いて、右手の手首を左手で掴みながら、両目を閉じて天に祈るようにして天井を仰いだ。
「…………何を始める気なの? …………お願い、もうやめて………。先生、怖いの………」
気をつけの姿勢で会議室の真ん中に立ちながら、結衣理先生が弱音を吐く。生徒たちが事前に話し合ったらしい作戦通りに、ことが運んでいて、結衣理は思い通りに扱われている。これからどうなってしまうのかが、本心から怖かった。
「男と男の、正々堂々とした勝負だよ。好きな女を賭けて、一世一代の大勝負だ」
「………どっちが先に、先生と恋人になるか、ジャンケンで決めることにしたんだ。………でも、どっちが勝っても、先生のことは大切に扱うから、あんまり心配しないで」
修介は決闘に挑むサムライのような顔になって自分の右手を見つめている。達都は、結衣理先生の方を向いて、言い訳のように説明をした。
(恋人? …………教師と生徒なのに? ……………それに、先に、って、どういうこと?)
結衣理は自分がまるでジャンケンの勝者に贈られる景品のように扱われることが悔しかった。そして、こんな屈辱的な状況を、下着姿で直立して見守ることしか出来ないことが歯痒くて仕方がなかった。
「最初はグー………」
「ジャーンケーン………、ポンッ。…………うぉおおおおおっ、くっそぉおおおおおおっ」
グーを出した修介が両手で頭を抱えて膝から崩れ落ちる。パーを出した達都が、跳びあがって小さなガッツポーズを決めた。
「はい、じゃぁ、結衣理ちゃんが心の底から愛する、最愛で最初の恋人は、達都に決定ね。………目盛りは11くらいまで回しとこうか?」
知絵がスマホを弄る。結衣理は急に自分の心臓の鼓動が激しくなったことに気づいて、反射的に両手を胸にやる。体温が、1度、また1度と上がっていく気がする。そして意識した時にはもう遅かったようで、まだ小さなガッツポーズをしている達都から、すでに目が離せなくなっていた。
(…………町村君…………。うそ………………すっごく、格好良い……………。やだ…………。どうしよう…………。好き……………。大好き…………。)
達都は明らかに迷いながら、おずおずと手を伸ばしてくる。その手を、駆け寄った結衣理先生が両手で掴む。結衣理にとっては両手に伝わってくる温もりこそが、一生手離したくない、かけがえのない宝物に感じられていた。
「達都、サービスで先生の性欲と性感も11まで上げてあるから、もっと自信持って、好きにして良いから……」
知絵が余裕しゃくしゃくな様子で言う。結衣理の耳には、知絵の言葉はほとんど入ってこなかったが、「好きにして良い」という言葉だけは、自然に吸収出来た。…………達都君の好きに………、して欲しい。心底、そう思った。両手で包み込んだ達都の右手を引き寄せて自分の頬に擦りつけると、理性も道徳も職業倫理も、すべて甘く蕩けてしまう。結衣理の体は火照って、ズキズキと疼く。その衝動に身を任せるかのように、達都の右手を、自分の顔から下ろしていって、胸へと招き入れる。
「町村君…………。大好き………。どうなっても良いから、私を好きにして…………。お願い」
左右の胸と両手で達都を包み込み、押しつけるようにして、結衣理は全力でお願いする。達都は覚悟を決めるかのように、息を飲んだ。その覚悟を後押しするように、結衣理は自分から、淡いピンク色のブラのカップをずらして、彼女の無防備なバストを生徒の目の前に曝け出し、差し出すのだった。
<第3話につづく>
読ませていただきましたでよ~。
結衣理先生がいい感じに操られてるのがいいでぅ。
っていうか最後の何をされるのかという恐怖から好きにさせられて大好きになる変化が素晴らしいでぅ。これは次回のラブラブえっちに期待が来るというものでぅ。
先生即逃げようとしたのは英断だったと思うんでぅけどねぇ……バッドルートだったかw
それはそうと今回2つほど誤字というか機種依存文字的なものを発見したのでぅ。
>「ボールの中で? き混ぜられたホットケーキの素」といった達都の記憶にある、
> 恥ずかしさを誤魔化すかのように、結衣理は厳しい表情を作って知絵を?? りつけた。
であ、次回も楽しみにしていますでよ~。