第一章
「宮原くん。君はここにきてそろそろ半月だったね。雰囲気には慣れたかな?」
伝票整理をしていた大和田は休憩の為に事務所に入ってきた恵美に声を掛けた。
大和田はとあるビルの1フロアを借り切って結構大きな美容室を経営している、言わば社長だ。
大和田自身も美容師免許を持っているが、最近は経営戦略やら新人育成に力を注いでいて自前の道具にもとんと触れていない。
もう、腕にも刃にも錆びが出てもおかしくないほどだが、優しさと人望ゆえか陰口を叩くものは1人としていない。
下克上の激しいこの業界としてはそれは珍しいことなのだ。
宮原と書かれている名札を右胸につけている恵美もまた、大和田を尊敬している1人であったりする。
「はいっ。先輩たちは優しいですし、いろいろ教えてくださるので、仕事も楽しく覚えられてます」
「そうか、それは良かった。ところで、君はまだインターンだからお客様のカットは出来ないんだったね。シャンプーやブローはもう完璧かな?」
「えっ…と…一応シャンプーの許可ならチーフの七里さんから頂きました」
「ふむ、ならそろそろ頃合だな」
ペンを机の上に転がして大和田は伸びをした。
経理は根を詰めると疲れるものだ。
「頃合?何のです?」
「うん。知っての通り美容室と言うのは諸先輩の腕を見て盗む業界だ。だが、私の持論は習うより慣れろでね。見て盗もうにも経験がないとイメージしづらいだろう?君は今夜、空いているかな?1人の客に対する美容師の仕事を一通り経験してもらいたいんだが」
「今日…ですか」
平日の夜に予定を組むなど普通の人は余りしない。恵美もまたしかりで予定はない。
尊敬する大和田の提案は嬉しいものではあったが、手放しで喜ぶにはあまりに急過ぎる提案に、恵美は少々戸惑いを見せた。
「無理ならば仕方ないが、今日が無理だとしばらくは私の予定がつかないんだ。君が無理なら今日のことは大成くんに声を掛けてみるよ」
その言葉が恵美を大きく揺り動かした。
尊敬すべき人が、たまたま空いている時間を自分のために割いてくれている。せっかくの好意を無にしたくない。何より同期の大成には負けたくない。
そんな思いが重なり合って恵美を突き動かした。
「今日、大丈夫です。ぜひお願いします!」
大和田の口元が妖しい笑みで歪むが、ぺこりとお辞儀をした恵美にはそれを見ることは出来なかった。
もし見れたとしても、それを不審に思うことはないだろうが…。
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夜の10時。昼間とはまた違う賑わいを見せる街の中を小走りに行くと目的のビルにはすぐに到達する。
見上げると6階の窓から光が漏れているのが分かる。
恵美は慌ててビルに入ってエレベーターのボタンを押した。
「すみません、遅れました!!」
6階に着いて、お客様用のドアを開けるとカランカランとドアにつけられた鈴が鳴る。
昼間は活気で溢れている美容室だが、人がいないだけでこうも寂しく感じられるものかと思わず足を止めてしまう。
人がいないと言えば、電灯はこうこうと点いているのに大和田の姿がない。
いつものように事務所だろうかと奥のドアを開けると、そこには机の上を整然と片付けて静かに目を閉じている大和田の姿があった。
ぱっと見、寝ているようにしか見えないが、恵美は恐る恐る声を掛けてみることにした。
「あの…大和田、先生…?」
すると大和田はすうっと目を開いて首をゆっくり動かし、恵美のことを見た。
「やあ、宮原くん。もうそんな時間か」
「あの…大丈夫ですか?お疲れなんじゃ…?」
「いや、瞑想していただけだよ。ちょっと精神集中が必要なんでね。じゃあ始めようか」
大和田が立ち上がり、恵美が後を付いていく。
広い店内の中央にある順番待ち用の椅子に大和田が腰を掛け、机を挟んで向かいの椅子に恵美も座った。
「まずは簡単なレクチャーだ。復習みたいなものだよ。普通のカットのみのお客様の流れは?」
机に片ひじを付けて恵美を見つめる大和田の目には、普段とは違う輝きがある。
それに気付かず恵美は考えながら口を開いた。
「えー、まず受付けで用紙に記入して頂いて、シャンプー。パーマはないのですぐにカットになります。カットが終わってお客様にご満足頂けたらリンスに入って、最後にブローです」
「そう。その通り。そこで君にはその流れを、私を客だと思って一通りやってもらう。マネキン相手のカット経験は当然あるだろうけど、多分、人相手では初めてだね。じゃあ、そこで問題だ…」
その後、30分も問答をしたであろうか。
恵美は悩みながらも正解、もしくは正解に近いであろう答えをなんとかひねり出していった。
「これだけきちんと答えられるなら大丈夫そうだ。それじゃ始めようか。と、その前に。緊張しているみたいだね。恵美くん、私の目を見て」
いつの間にかに大和田が隣に来ていて、呼び方が宮原から恵美に変わっている。が、恵美自身はそのことに気付いておらず、何ら違和感を感じていない。
大和田は恵美の両肩に手を置いてじっと恵美の目を見つめた。
「初めては誰でも緊張するものだ。緊張は時に失敗を呼び起こすが、逆に成功するための大事な要素でもある。緊張を味方に付けるんだ。さあ、大きく深呼吸をして。ゆっくり、ゆっくり。吸って、吐いて、吸って、吐いて…。だんだん落ち着いてきただろう?そのまま心を鎮めて…」
時間にすれば1分も経っていないだろう内に恵美はあっさりとトランス状態に陥った。
「これから君は私の言いなりになるんだ。私の言う通りに身体を動かせば美容師としての腕は確実に上がる。変だと思っても言う通りにするんだ、分かったね?」
大和田の問いかけに恵美がうなずく。
「よし、いい子だ。では服を脱いで。昼間ならエプロンを使えるが、夜の練習でエプロンを汚すわけにはいかない。かと言ってそのままでは服に髪の毛がついてしまうからね」
いかにも正当性があるかのように大和田が告げると、恵美は多少の違和感を感じつつも立ち上がって服を脱ぎ始めた。
色気よりも動きやすさを重視した衣類は恵美をボーイッシュに見せていた。
しかし不思議なもので、Gパンのファスナーを下ろしブラウスのボタンを外して下着姿になると、急激に女性としての色気をかもし出す。
さらにパンストを脱いで上下白の下着が顕わになったとき、恵美は手のやり場に困りながらもじもじとうつむいてしまった。
「どうしたのかな?下着にだって髪の毛はつくんだよ。さあ、下着も脱いで」
大和田の言葉は絶対だ。
暗示の掛かりが悪そうに見えるときは強く言うだけで恵美の身体が精神よりも先に言いなりになる。
躊躇していたのが嘘のようにブラのフロントホックを外し、パンティを脱いだ。
豊満な胸がプルンと揺れ、パンティに押しつぶされていた陰毛が外気に触れて軽く膨らむ。
お尻は若いせいか、気になるほど垂れてはいない。
「じゃあ、私をお客だと思ってやってごらん」
「はい。ではお客様、こちらへどうぞ」
洗面台に背を向ける形で配置されている椅子へ誘導すると、大和田の首にタオルを巻く。さらに水よけのエリ当てとシャンプーコートを大和田の身体に巻いた。
大和田が楽にしているのを確認して、椅子の脇にあるレバーを操作。するとかすかな音がしてロックが外され、背もたれは恵美に支えられながらゆっくりと倒れていく。
大和田の首が洗面台のヘリにあるくぼみに上手く納まるように気にしながら倒し、それが成功すると顔に二つ折りにしたフェイスタオルを置こうとした。
「ああ、今回それはいいよ。君の仕草を見ていないと意味がないからね」
フェイスタオルはしぶきが客の顔に掛からないようにするためのものだが、手荒な洗髪でもしない限りしぶきが飛ぶことも余りない。
何より大和田は洗髪される間、揺れ続けるであろう恵美の乳房を下からじっくりと見るつもりなのだ。
恵美の胸はなかなか大きい。大きい割りに垂れている感はなく、乳首が上を向いているのも張りがある証拠だろう。
そんな恵美の胸を大和田はじっと見つめた。
「君の胸は大きいね。サイズは?」
いきなりとんでもない質問をぶつける。
セクハラと騒いでもおかしくはない発言だが、尊敬する師だし裸の胸を師の目前にぶら下げていた自分にも非があると勝手に思いこみ、恵美は許すことにした。
許す代わりに、質問を軽く流そうとしたのだが、口からは思わぬ言葉が発せられた。
「ヤダ、そんなところ見ないで下さい」…そう言おうとしたのに、実際に口から出たのは、
「70のDです」
というセリフだった。
あれっ!?自分の発言に自分が一番驚かされる。
「70?ああ、アンダーだね。ということはトップは…88センチか。なるほど、大きいわけだ」
指折り数えてトップバストのサイズを言い当てた大和田が笑みを浮かべる。
なんで男の大和田がそんなことに詳しいのかが疑問ではあるが、恵美は違う疑問にはまっていた。
何で口から思いもしない言葉が出てしまったのだろう?
しかし恵美は、尊敬する余りに正直に答えてしまったのだろうと強引に納得することにした。
「ところで、さっきから思っていたんだが七里くんから教わったのは、女性客向けの対応のようだね」
大和田は次の展開に進むべく、前振り的な発言をした。
「女性客向け…?そうなんですか?私は聞いてませんけど」
「ま、それはしょうがないだろう。七里くんも女性だからね。男性と女性とでは体格が違うから重心の掛け方に気をつけないと腰を痛めるんだ」
もっともらしいことを言って恵美を納得させると、大和田は更に続けた。
「男性客には、身体をすり寄せて誘導するんだ。シャンプーをしている時でも。そう、お客の顔にその豊満な胸を乗せるように覆い被さってシャンプーをするんだ。さあ、やってごらん」
本当にそうだった?学校でもそんな事は言っていなかったはず。何か違う気がする。しかし自分の尊敬する人が間違ったことを言うはずがない。でも…。
心の葛藤にケリがついていないというのに、恵美の身体は大和田の言いなりに動いていく。
全裸の身体を椅子に寝ている大和田にすり寄せ、自らの乳房をその顔の上に運ぶ。
大和田の目の前に肌色のたわわな果実が2つ生っているかのようだ。
恵美の胸がもう少し大きかったなら牛の乳のように垂れ下がっていると言う表現のほうがしっくりきていただろう。
そんな乳房にいやらしい視線を投げて眺めている大和田に恵美は気付かない。
心の葛藤が続く中、身体が覚えている動作に沿って恵美は動く。
しばらくしてはっと我に返ったのはその手に熱いシャワーの湯を感じたからだった。
そうだった、悩んでいる場合ではない。大和田に…お客様に洗髪をしなければ。
今の自分が成すべきことを認識した恵美は湯の温度を手で確認して大和田の頭髪に湯を掛けた。
「熱くはないですか?」
「ああ、ちょうどいいよ」
頭髪全体を濡らし終えた恵美は片手にシャンプーを垂らし、両手で泡立てると大和田の頭にあてがった。
ソフトに全体をまんべんなく。
腕を動かすたびにプルンプルンと揺れる胸を大和田はじっと見ている。
大和田の目が寄り目になって乳首を凝視していると恵美が気付いたのはそれから間もなくだ。
見られていると気付いた恵美は恥かしいのに拒否できず、それならばとそ知らぬ振りで洗髪を続けることにした。
首に近い頭の後ろのほうは、洗面台のヘリがあるから頭を持ち上げて洗わなければならない。
恵美は今の状態からそんなことをしたらどうなるかを想像して、再び違和感を覚えた。
が、身体のほうは遠慮することなくチーフに習ったように後頭部に手を添えて大和田の頭を持ち上げてしまう。
もともと舌を伸ばせば舌先で乳首を舐められるであろう距離であった。
それが恵美の腕に力が入ることで急激に縮まっていく。
あっという間にタプンと揺れて乳房が大和田の顔に押しつけられた。
鼻息が乳房に当たってくすぐったい。
これが本当に正しいのか?疑問が湧き上がるのだが、身体のほうが先行してしまう。
さらに強く押しつけると、大和田の軽く開けられた口に左の乳首が入った。
大和田は意図的に口を大きく開いて、少しでも大量にと乳房を口に含んだ。
そのころ、右の乳房が大和田の左目を押しつぶすかのように覆ってしまっていた。
やはり何かが違う気がする。何が違うのかは分からないが、妙な違和感が心の奥に湧き上がったまま消えない。
その時、大和田が人差し指だけをまっすぐに伸ばした右手で自分の頭を突ついた。
口が利けない代わりにボディランゲージで早く続きをやるようにと指示しているのだ。
その動作が恵美の葛藤を払拭した。
尊敬する大和田の指示には迷いがない。ならばそれが正しいはずだ。
恵美はたとえ舌で乳房を舐められようが、歯で乳首を噛まれようが、出もしない母乳を吸われようが、一切気にしないで洗髪に専念することにした。
と、大和田の左手が手探りで恵美のお尻に触れた。
恵美は一瞬ピクリとしたが、その手でぐいっとお尻を押されることで、これはもっと押し付けろと言う指示なのだと解釈して自分の身体を大和田の身体にぐいぐいと押しつけた。
押しつけた直後にそのままお尻を撫でられると、誉められているような気になってくる。
もっと誉められたい。そう思った恵美はさらにぐいぐいと押し続けた。
内心では恥ずかしいと言う思いが少なからずあると言うのに、身体はその行為を止める気配がない。
大和田の指がお尻の谷間をなぞりながら下がり下方から股間をなぞろうとも気にすることはない。
腰を、胸を大和田の身体にこれでもかと押し付ける。
こうすれば誉められる、こうすれば上達すると信じて。
無事に洗髪を終えても身体を押し付けながら大和田の頭髪を拭く。
シャンプーコートを脱がすとまるで恋人のように大和田に寄り添ってカット台へ向かった。
大和田の左腕に絡み付いて二の腕を胸に、手の甲を股間に押しつけ、連れて行くと言うよりも逆にエスコートされているような感じだ。
「こちらへどうぞ」
これこそが正しいのだと信じて疑わなくなった恵美は、椅子に座った大和田にケープを羽織らせた。
ポンチョのように袖がなくても手を出す穴が開いているカット用のケープだ。
いよいよ、初めて他人の髪をカットするときが来た。
「カ、カット入ります」
思わず声が上ずってしまう。
毎日のように手入れだけは怠らない、まだ新品同様のはさみを持つ手も心なしか震えている。
と、大和田が恵美の手をぎゅっと握った。
「大丈夫だよ。君は今まで私の言う通りにしてきた。これからも私の言う通りにしていれば、失敗などしない」
鏡越しに大和田に見つめられて恵美はその場に立ち尽くした。
その言葉を直に見詰め合ってもう1度聞きたい。そう思った恵美は椅子のサイドへ移動する。
と、大和田の手が恵美の手を離れて楚々とした陰毛の下に隠れる股間のスリットに伸ばされた。
1本の指が遠慮することなく中に入ろうとしている。
しかし、もう恵美の心には微塵の疑問も残ってはいなかった。
大和田の言う通りにしてさえいれば、何も間違える事はない。そのためなら何だって出来る。
そのまま股間を好きにさせながら、恵美は大和田の頭髪にはさみを入れた。
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