第4話
額から電気が走ったような、そんな感覚が俺を襲う。
それは、身体の末端神経まで到達し、ほんの一瞬、全身を硬直させる。
俺は身体をよろけさせ、後ろの窓のサッシにもたれかかった。
そうか、糸を打ち込まれた瞬間ってのはこんな感覚になるのか。
俺はそんな事を考えた、しかし、今はそんな悠長な事は言っている場合ではない。
俺の目の前に位置する女。
赤い壁に守られている、北条茜。
俺に向けてかざされている、その手のひらからは赤い糸。
そして、それは強い光を放ち、俺の額へと繋がっていた。
俺の頬を汗が伝う。
もしもこの糸が、俺とまったく同じ能力を持っていたのなら……
俺は景子の事を思いだし、背筋が寒くなる。
俺はコイツに操り人形のようにされてしまう。
そんな考えが全身を駆け巡った。
俺は突き刺さった糸を振り払おうと、糸を掴もうとする。
しかし、俺の手は、北条の赤い糸を、まるでそこには何も存在していないかのように、そのまますり抜けてしまった。
くっ……
すべての物質を通過する北条の糸、という事は、逆にその糸に触れるような事もできないという事か。
このまま本当に俺はコイツに精神を操られてしまうのか?
全身から冷たい汗が噴出す。
北条は余裕でも見せているつもりか、俺の方を見ているだけで、まだ行動を起こさない。
俺の目の前には、揺らいでいる赤い―――
赤い糸?
ここで俺はふと疑問に思った。
糸の色、糸の性質、そしてあの赤い壁。
糸を手のひらから出している事はともかくとして、ここまで見た目も性能も違うものが、同じような能力を持っているのだろうか。
俺はそう思い、北条にかまをかけてみることにした。
「ちっ……、これで俺は、お前の操り人形になっちまうのか」
俺は北条の表情をうかがう。
「操り人形?」
「ああ、精神に干渉して、俺をお前の言う通りに動く人形にしちまうんだろ?」
北条は少し考えているようだ。
そして口を開いた。
「そう、それがあなたの能力なのね」
……やはり、そうか。
俺は思う。
北条の言葉の裏を取ると、北条の糸の能力は、俺のそれとは違うという事がわかる。
しかし、だとしたら。
……コイツの能力はいったい?
北条が笑う。
「……あたしの能力が気になる?」
それは対峙している者にとっては、あまり快くない笑顔。
ちっ……
もはや俺はどうする事もできない。
「だったら教えてあげる…」
北条が真っ直ぐに俺の方に腕を向ける。
赤い糸の輝きが増してくる。
それと同時に、俺の頭の中で、ずっと感じていたチリチリとするような感覚が強くなる。
間違いない、この感覚は、俺の中の能力が感じているのだ、同じ糸の力を持つ者を。
「あたしの能力は―――」
俺の額から何かが流れ込んでくる。
次の瞬間―――
「―――!」
俺の右足の指先に、言い様のない激しい鈍痛が走った。
まるで巨大なハンマーで、足の指を叩き潰されたような、そんな感覚
それが右足の、小指にだけ襲いかかった。
肉がひしゃげ、骨がすり潰され、血が噴出す。
ガクンと俺のひざが折れる。
俺は耐え切れずに座り込み、右足を抱え込んだ。
「ぐ…あ……」
吐き気を催すような痛みが全身を駆け巡る。
全身から脂汗が流れた。
俺は自分の身体に何が起こったのかと右足、指先を見てみる。
しかし―――
俺の右足は先ほど上履きを脱ぎ捨てたため、靴下のままだったが。
その指先は……
特にこれと言った外傷が見られなかった。
これは…?
俺は靴下を剥ぎ取る。
そうして確認してみても、足が激しく痙攣しているものの、肝心の痛みを感じている指先は普段と変わりは無い状態だった。
今俺が感じている、指先を叩き潰されているような状況にはなっていない。
もしかして……
俺は北条を見上げる。
「もう1本……」
北条がそう言うと同時に、今度は同じ足の薬指が叩き潰される感覚が俺を襲う。
「あぐっ」
俺は思わず、足を抱えたまま、前かがみになる。
しかし、その抱える足には、先ほどとまったく一緒で、外傷はひとつも見られない。
「どう、わかった?」
北条が得意げに笑う。
そうか、わかったぞ、コイツの能力が…
俺の能力が精神への干渉なら……
「あたしの能力は―――」
そう、コイツの能力は……
―――感覚干渉
他人の感覚を自在に操る……
3本目の指に衝撃、いや感覚が走った。
「―――っ!」
もはや叫び声もうめき声も出ない。
俺は身体を丸め倒れこんだ。
痛みの感覚だけを与えられると言うのは、はっきり言って非常に厄介だ。
物理的には簡単に実行できないような痛みすら、楽々と再現できることができる。
全身が痙攣する、激しすぎる痛みのため、気を失う事もできない。
俺は脂汗が途絶えない顔で北条を見上げた。
「痛い?でも許してあげないわよ、あれだけチャンスをあげたのに、あなたはそれを無視したんだから、今度はあたしが、あなたがどんなに許してくれって懇願しても、それを無視しつづける番」
クスクスと北条が笑う。
「感覚だけの痛みは実際に身体に与えられる痛覚と違って際限が無いわ、気が狂っちゃう事になるかもしれないけど覚悟していてね」
北条の俺を見下すような笑顔。
それを見た瞬間―――
『ドクン』
俺の心臓が鳴った。
何か視界が狭くなった気がする
お…ま…え……
俺の目に移るのは、赤い壁の向こうという安全圏から、自分よりも明らかに立場が下の者をあざ笑っている北条の顔。
……俺を……笑うのか?
ドクン、ドクン、と心臓が脈打つ。
……俺を見くだすのか?
全身の汗が引いていくような気がする。
……俺を、もてあそぶのか?
何か、頭の中のスイッチが切り替わったような気がした。
……ゆるさねぇ……
俺は右腕を上に伸ばし、俺の頭上にあった窓を乱暴に開ける。
そうして、肘から先を窓の外に出し、サッシに腕を引っかけるようにして身体を起こした。
4本目の衝撃が俺の右足を襲う。
膝がガクンと折れる、しかし、俺は右腕に力を込めて、身体を支えた。
……ゆるさねぇ……俺はこの女を絶対にゆるさねぇ……
身体を支える右腕が震える。
北条が俺に与える感覚は揺らぐことがない、たとえ、その痛みの感覚を何本増やそうとも、最初に俺に与えられた痛覚が緩むような事は無く、俺を襲っている痛みは、どれも、まさに今その瞬間に指をつぶされたような、そんな感覚だ。
北条がその笑いを止めた、そして何か気味の悪いものでも見るような目で俺を見る。
「気持ち悪いわね……なに笑ってるのよ」
……笑ってる?俺が?
俺は、自分の顔を、左手で触ってみる。
確かに俺は、自分でも自覚しないうちに笑っていた、薄く、唇の端を吊り上げるように。
そして、俺は理解した。
先ほどからずうっと心の奥底から湧き出しているような高揚感。
ドクンと心臓が鳴る。
そう、これは確かに喜び。
心の奥から、この女に対する怒りが、絶え間無く、マグマのように噴出してくる。
この感覚―――
それは止まらない、俺の心を芯から突き動かす。
そうだ、俺はまだこんなにも感情をあらわにすることができる!
心臓の動機はますます強く、そして早くなってくる。
俺はこんなにも、他人を憎むことができる!
俺の顔が、笑いで歪んでいく、今度ははっきりと自分で感じ取れた。
俺の心は、まだこんなにも震えることができる!
バンと俺は痛みが続く足を床に叩きつけた。
いつ以来だろう、たったひとつの爆発的な感情に、すべてを委ね、その感情のままに行動するという事は。
それは、俺が今までずっと忘れていた快感。
俺は許さない、この女を絶対に許さない!
「ゆるさねぇぞ、俺は絶対にお前をゆるさねぇ」
いつのまにか俺は、自分の考えをそのまま口に出していた。
北条の糸が輝く。
今度は膝に。
膝の半月盤が砕かれ、その砕かれた骨ごと、膝じゅうを掻き回されるような感覚が、俺の右足を襲う。
まさに、気が狂わんばかりの激痛が駆け上ってくる。
だが、俺はそんな痛みには屈しない。
俺を支えているのは、北条に対する怒り。
「ゆるさねぇ……お前は景子なんか目じゃねぇ、気が狂わんばかりの恥辱の中、嬲り尽くし、悶えさせてやる」
そうだ、それでも俺はまだ、景子に対しては、それなりにいたわるような配慮も見せてやった、だがコイツは絶対に許さない、俺はコイツを徹底的に嬲り尽くす。
俺の言葉を聞いた北条が、まるで汚い物でも見るような目で、俺を見る。
「いやらしいわね……そんなにそういう事が好きなら、あなたの好むような決着のしかたをしてあげるわ」
北条は笑う。
「あなたに、これ以上無いぐらいの快感を与えてあげる、そしてあなたの射精を止まらなくするの」
クスクスと北条は笑う。
「あたしの前で、苦しい程の快感に悶えながら、あなたは射精が止まらず、そして死んで行くの、その年で腎虚っていうのもあなたにはふさわしいでしょ」
北条は、まるで何かに酔っているような表情だ。
「やってみろよ……」
俺は北条を挑発する。
「俺もお前に与えてやるぜ、お前が想像もできないような恥辱を」
俺は腕の力で体を支えながらも、両の足でしっかりと立った。
「たとえ、お前が泣き叫ぼうとも、許しを乞おうとも、絶対にゆるさねぇ、いっそのこと狂った方がまし、って言うぐらいの凌辱を延々とお前に与えつづけてやる!」
北条はカチンという表情をする、そしてふんとつぶやいた。
「今のあなたが、それをどうやって私にやるって言うの、この壁は絶対にあなたの糸を通さないし、あなたに打ち込んだ糸も外れる事はない、あなたは私が今からすることを、指をくわえて待っている事しかできないわ」
俺はにやりと笑う。
どうやってだって……?
そんなの―――
俺は、壁に寄りかかっていた身体をググッと起こす。
「決まってるじゃないか」
今の自分の顔が想像できる。
俺はきっと、これ以上ないぐらいの楽しそうな顔をしているはずだ。
「その―――」
俺は笑い顔のまま、すうっと左手を上げる
そしてビシッと人差し指で、北条を指差した。
「お前の目の真ん前にあるモン使ってだよ!」
えっ、と北条がつぶやく、目の焦点が俺からずれた。
俺と北条の間にあるもの。
それは壁。
赤い、糸の力を通さない強力無比な壁。
そして―――
その壁の北条側にある―――
「!!」
―――俺の糸!
「どうしてっ」
北条が、バッと身体をのけぞらせる、そしてそのまま糸の出所を捜した。
俺の糸は、北条の後ろ、先ほど俺が上履きを投げつけ、砕けた教室のガラスの窓から伸びていた。
そして、その教室の奥では、俺が、教室を出る前に意図的に開けておいた、ベランダ側の窓から、糸が外に向かって伸びている。
北条が俺の方を向き、凝視する。
俺が、身体を支えるために窓から肘の先を出している―――ように見える俺の右手を。
そう、俺は、身体を支えるフリをして、右手、指先を窓の外へ出し、糸を発生させ、そのまま学校の外周をまわすようにして、北条の後ろ側まで伸ばしたのだ。
「そんなっ、こんなに長く糸を伸ばせるなんて!」
北条は、糸を避けるように、後ろに向かって跳ねた。
ふんと俺は笑う。
「なんだ、お前の糸はそんなに伸ばせないのか、だったらそれが『すべての物質を通過する』っていう、お前の糸に対する俺の糸の能力なんだろう」
俺は糸を操り、北条を追いかける。
俺の糸はまだまだ伸びる。
北条はそれに対して、俺の目の前にあった赤い壁を解き放った。おそらく侵入してきた俺の糸に対して、新たに壁を作り出すためであろう。
だが、それこそが、俺の最大の目的だった。
俺は笑う。
馬鹿め、そのまま壁を張りつづけていれば、俺はここから何もする事が出来なかったのに。
北条が、壁を解き放ち、新たな壁を作り出そうとするその刹那。
俺には見えた。
今までどんなに見ようとしても見ることが出来なかった―――
北条の額の糸を打ち込むポイントが!
北条が新しい壁を張る。
しかし、それより一瞬早く俺の糸が飛び立つ。
「俺の勝ちだ!」
次の瞬間、俺の糸が、北条の額を打ち抜いた。
「うあっ」
北条は身じろぐ、糸を打ち込まれた直後の人間に必ず現れる特徴だ。
だが、北条は、先ほど俺がやったように、俺の糸を外すような試みはしなかった
体勢を立て直すと、すぐさま俺を睨み、俺の方に向かって右手をかざした。
俺の糸を何とかするよりも先に、自分の糸で俺に致命傷を与えようという事か、なかなかいい判断だ、しかし―――
俺はそれよりもすばやく行動する。
『動くなあっ!』
俺が叩きこんだのは声。
イメージを与えたのではなく、ありったけの大声を、北条の頭の中に叩きこんだ。
「ああっ」
ガクンと北条の膝が折れる。
そして、そのまま北条は頭を抱え込み、床にへたり込んでしまった。
これによって、人を操ることはできないが、ダメージを与えることができる事は既に実証済みだ。
しかもこれは、精神に干渉するよりも、格段に速く行う事ができる。
北条をしばらく動けないようにすると、俺はその隙にイメージを送り込む。
俺は、北条の深層心理を呼び起こす、そしてその中にある、人間なら誰でも持っている、その人間個人の、禁止事項という部分に新しいイメージを割り込ませた。
要は「生理的に受け付けない」とかそういう部分を司っているところだ。
俺が北条のその部分に割り込ませたのは「俺に対する物理的攻撃」というイメージ。
こうする事により、北条は、頭ではわかっていても、俺を攻撃することができない、という状態になる。
俺はうずくまる北条に近づくと、軽く北条を蹴った。
蹴ったというより足で肩を押したと言う方がイメージに合うかもしれない。
「痛っ…」
どん、と北条が教室側の壁に背中をつける。
俺は北条を見下ろし、まだ俺の額に刺さったままの北条の赤い糸を指差し言った。
「おい、いいのか、俺にこんな事していて」
北条は俺を見上げる。
「あ……」
そうつぶやくと、北条は何か心の底から沸いてきたような震えを身体に表すと、するっと糸を俺から引き抜いた。
俺は北条の前にしゃがみこむ。
そして北条の顎を指で上げた。
「いやっ、触らないでっ」
そう叫ぶと、北条は俺に平手打ちを食らわせようと、腕を振りかぶった、しかし。
「うっ……」
北条の手は、そこから固まったように動かなくなった。
俺は北条に笑いかける。
「どうした、俺を殴らないのか?俺はかわす気はないぞ」
「わ、わかってるわよっ」
気丈に声を張り上げる北条、だが、その振り上げられた手はぴくりとも動かない。
そのうち北条の身体が汗だらけになってくる、おそらく冷や汗だろう。
「くう……」
やがて、北条はあきらめたように振り上げた手を、そのまま下ろした。
北条は、ただそれだけの事だったのに、肩で息をしている。
だがそれも当然の事だ、無理に俺に攻撃を加えようものなら北条は全身で拒絶反応を起こす事になるだろう、これはそれぐらい強烈なものだ。
「抵抗しないのか、じゃあ俺の好きにさせてもらおう」
俺はそう言うと、北条の制服の上着を捲り上げ、そこに左手を突っ込んだ。
「いやっ、やめてっ」
北条は俺を拒絶するように、全身をじたばたさせる。
だが、俺は力任せに北条を押さえつけると、そのままブラの下まで左手を潜り込ませた。
「いやだぁっ」
北条の乳房はすっぽりと俺の手のひらに納まる。
景子と比べると……いや、ごく標準の北条の同級生などと比べても、小さい方に入るだろう。
北条は懸命に首を振る。
透き通った赤茶けた短い髪が、頬に貼りつく。
俺は、北条の乳首を、人差し指と中指の根元に挟み込むと、ゆっくりとこすり上げるようにして愛撫した。
「やめてぇっ」
北条は全身をばたつかせる。
やがて北条の乳首が固さを増してきた。
しかし、これははっきり言って、感じているわけではないだろう、女の乳首とは、外部からの刺激があれば、欲情している、していないに関係無く、固くなるものだ。
俺は北条から手を離す。
北条はバッとはだけていた制服を直し、キッと俺のことを睨む。
その、睨み上げる瞳からは、俺を拒絶する意思の衰えはまったく見られない。
俺はそんな北条を見て、思わず笑いがこみ上げてくる。
……いいよ、茜、もしもお前が、今程度の事で股間を濡らすような淫乱の卦のある女だったら、俺は速攻で景子のように奴隷化していただろう。
俺は右中指を掲げる。
茜に繋がっている糸が、紫の輝きを増していく。
そして俺は茜にイメージを送り込んだ。
それは、たとえどんな事があろうとも、俺には屈しないというイメージ。
俺はもともと茜が強く持っているであろうそのイメージを、これ以上ないというぐらい強力なものにする。
ビクンと茜の身体が震える。
そう、お前は俺に屈してはいけない。
たとえ俺から、拒絶しきれない、その身をとろけさせ、やみつきになりそうなほどの快楽を、絶えず与えられても。
いっそのこと、すべてのしがらみを捨てて、壊れてしまった方が何倍もまし、とも思えるような恥辱を味わわされても。
決してその快楽地獄に身を委ねることはできない。
快楽に溺れたくても溺れることができない。
そんな苦しみとも喜びとも思えない世界の中、悶え続ける姿を俺に見せつづける事で、お前の俺に対する罪は晴らされるんだ。
もっとも、その罪がいつ晴らされることになるかは、俺は知らないけどな。
「うあ・……」
あまりにも強力なイメージを与えたので、もとから持っていたイメージを強化しただけとは言え、茜の方にもかなりの負担があったようだ。
さて……
とりあえず今のところはこれでいい。
後は……
その体内に埋まっている爆弾を処理しないとな。
俺は、窓の外からまわしている糸を、いったん茜から外し、手元に呼び寄せる。
できればその、茜の感覚干渉の能力、俺自身に取りこみたいものだが。
もし、俺と同じならば、宝石状の結晶として、糸の力はその姿を現すはずだ。
しかし、どうやって取り出す?
先ほどやったみたいに、茜の嫌悪する行為に「糸の能力を体内に持つこと」とでも加えるか?
茜は俺に対して、糸の能力を返せといった。
つまりこの糸は、俺自身はそのやり方を知らないが、自由に取り外しもできると言う事だ。
そのイメージを与えれば、茜はその嫌悪感に耐えきれず、自ら糸の能力を吐き出すかもしれない。
しかし、もしそれがハッタリだったら?
もし、自分の意思で糸の力を取り出せなかったら?
茜は俺の与えたイメージからくる嫌悪感で拒絶反応を起こし、下手をしたら気が狂って壊れてしまうかもしれない。
すこし危険な賭けになってしまう。
何かいい方法はないか?
俺は、なにかヒントになるような事がないかと、俺が、この紫色の糸を取りこんだ時の事を思い出した。
あの時は、俺がまったく意識していないのに、勝手に糸の方から俺に入りこんで来たんだよな……
そこで俺はふと思う。
……まてよ、糸が入った時の事を思い出す、か。
俺はにやりと笑うと、茜の方を向いた。
茜は相変わらず、両手で胸元を閉じたまま、俺の方を睨んでいた。
「さてと、茜、それじゃあ俺が、お前の中にある異物の摘出手術をしてやるよ」
「な、何をするつもりなのっ」
茜はその体勢のまま後ずさりする。
「心配するな、まあお前が俺と同じような感じで糸を取りこんでいたなら、少し苦しい目に合うかもしれないがな」
茜の顔色が、さっと青くなる。
「そう怖がるな、おそらくこれが一番安全な方法だ」
紫の糸が光を発する。
俺は再び茜に糸を打ち込んだ。
「う……」
そうして俺は、茜の中に存在する、ある記憶を引きずり出す。
そう、茜がその糸の力を取りこんだ時の記憶を。
「や、やめて……」
俺は、茜に、その時の事を鮮明に思い出させる、その時に味わった、恐怖、苦しみ、感情、そういったものをすべて、何ひとつ取りこぼしのないよう明確に。
「あっ」
茜の身体が大きく震えた。
「いやっ、入ってこないでっ、痛いっ」
茜はそう叫ぶと自分の右腕を抱え込んだ。
強烈な記憶の邂逅により、茜はそれが起こった時の現象を、今まさに実体験していると同じような状態になっているのだ。
「いやっ、誰か助けてっ」
茜が右肩を左手で掴む。
どうやら、茜も俺と同じよう、腕から入った糸が、脳に向かって進入をしてきたらしい。
「怖いっ、やだあっ」
茜の糸は、俺の糸と違って、掴む事ができない。
ある程度抵抗する方法があった俺のときよりも、その恐怖は上だったのかもしれない。
「ああっ」
茜は頭を抱える、そしてがっくりとうなだれてしまった。
どうやら、糸を取りこんだ時の事を、すべて思い出しきったようだ。
さて……これからが本番だ。
俺は、それを更に強くイメージさせる、そのイメージが肉体にも影響が出るくらいに。
そして俺は、そこまで思い出させた記憶を―――
一気に逆再生させた。
「うああっ」
茜がビクンと身体を震えさせる。
そして、左手で右腕を押さえた。
「あ、あ、あ」
茜の右腕がブルブルと震える。
そして、そのうちに、自然と茜の右腕が持ちあがっていく。
「い、いやっ」
次の瞬間、カッと茜の右手の甲が、赤い閃光を放った。
「いやあああっ」
そして、茜の絶叫と供に、その真紅の光を撒き散らす、赤い糸が凄まじい勢いで、茜の右手甲から飛び出した。
茜の手の甲から飛び出した赤い糸は、廊下をところ狭しと駆け巡る。
そして、あの時、俺の目の前で舞っていた、紫の糸のように、赤い糸は幾重にも重なりながら漂いはじめた。
夕日も沈み、蛍光灯の光がメインとなっていたこの廊下が、幻想的な赤い光の海となる。
「あっ」
茜の身体がビクリと震える。
どうやらすべての糸を出しきったようだ。
糸はそのまま空中を漂う。
赤い糸は、あの時の、俺の紫の糸よりもやや速いスピードで空中を漂っている。
さて、この後これはどうなる?結晶化するのか?
俺は、そんな事を思いながらその状況を眺める。
茜は、糸を吐き出した疲労からか、精神的なショックゆえか、ぐったりとしている。
そして、次の瞬間。
俺がまったく予想もしていなかったような事態が起こった。
「!?」
突然赤い糸が、俺の紫の糸に絡みついてきたのだ。
紫の糸も、俺の意思とは無関係に動いた、茜の額から外れ、赤い糸と絡まり、まるでDNAの塩基配列のような螺旋を描いた。
「なっ」
そして、そのまま、赤い糸は、俺の方に向かい、紫の糸を出している右手中指に突入してきた。
ズン、と衝撃が走る。
赤い糸は、あの時とまったく一緒、右腕の内部を侵略し、俺の脳へと向かう。
しかし、既に俺の身体に糸があるせいか、あの時のような神経を焼き尽くすような苦痛はなかった。
「ははっ、茜、こいつはお前よりも、俺の方が主にふさわしいと思ったみたいだぜ」
その様子を見た茜の瞳から涙がこぼれる。
そして、緊張の糸が切れたのか、そのままがっくりとうなだれ、気を失ってしまった。
やがて糸が俺の脳にまで到達する。
全身を、激しくきしませるような衝撃が走った。
だが、それと同時に、それに見合うだけの力が、身体の底から沸いてくるような気がする。
そして更に、自分では意識していないのに、赤い糸の使い方が次々と頭に浮かんできた。
赤い壁の出し方や、人の感覚の操り方まで。
俺は、ドンと背中を廊下の壁に預ける。
そしてそのままずるずると背中を滑らせ、床に座りこんだ。
「ははっ」
思わず笑い声が出た。
いま、俺の身体は、これ以上ないぐらいの充実感が満たしている。
俺は茜の方を見る。
茜は俺の反対側で、俺と同じような格好で、壁に背中を預け、気を失っていた。
俺は、壁に手をつきながら立ちあがる、そして、まだおぼつかない足取りで、茜のもとに歩いていった。
俺は茜のそばにしゃがみ込み、茜の顎に手をあてると、顔を上げさせる。
「ん……」
苦しみに悶え、気を失っているその姿は、これ以上ない倒錯美を感じさせた。
もっとも、そんなアクセサリーが必要ないぐらい、元々の素材はいいのだが。
さて、と俺はつぶやき、立ちあがる、そして懐から携帯電話を取り出した。
いくら周りに人がいないからとは言え、茜にあれだけ騒がれたんだ、あまりここには長居しない方がいい。
俺は、携帯のアドレスから景子の携帯番号を探し出し、電話をかけた。
確かあいつは、車でこの学校まで通っていたはずだ、それを利用させてもらう。
時間的に見ても、景子がまだこの校内に残っている可能性は高い。
携帯から呼出音が響き、やがて景子が出る。
やはり景子はまだこの校内にいた、俺はいつでもここを車で出られるよう準備しておくことを言いつけてから、コイツを運ぶ手伝いをさせるために景子をこの場所に呼び出すことにした。
意識がない茜を、俺1人で車まで運んでも、怪しまれるだけだろう、景子の教師という立場を利用させてもらう。
やがて、しばらくすると階段を駆け登ってくる音が聞こえてきた、まず間違いなく景子だろう、どうやら律儀にも走ってきているようだ。
まったく良く出来た奴隷だ。
俺は茜を見下ろす。
さて茜、それじゃあ今から、お前を、お前にとって地獄にも天国にもなる俺の家に招待してやるよ。
茜はいまだ、苦しそうな表情のままで気を失っていた。
俺は、茜を背負ったままマンションに運び込む。
これからボロボロにする女を、俺がおぶってやるのも癪だが、景子にそれをやらせて、俺が悠々と歩いている所を見られでもしたら、いろいろと勘ぐられるかもしれない。
マンションに入ったとたん、景子が嬉々として服を脱ぎ始めようとしたが、俺はそれを制した。
景子には、それをやる前にまだやらせることがある。
俺が景子に用件を耳打ちすると、景子は頷いて、マンションから出ていった。
景子が家を出ていくのを確認すると、俺は、1人掛け用のソファーを蹴っ飛ばし、ややテーブルから離れた所に移動させた、そしてその上に茜を座らせる。
茜はピクリとも動かない、肉体的なダメージより、精神的ダメージが大きかったゆえだろうか。
俺は茜の制服に手をかける。
紺色のブレザーを脱がせ、白いシャツを剥ぎ取ると、薄いレモンイエローのブラが現れた、先ほど俺が乱暴にまさぐったせいか、やや乱れている。
俺はそのブラを、ホックも外さずに剥ぎ取った、白い小振りの胸が現れる。
次にスカートを脱がす、腰を持ち上げ制服のスカートを引っ張り下ろすと、ブラと同じ色のパンティーが現れた。
俺は茜の腰を持ったまま、それも剥ぎ取る。
髪の毛と同じ、赤茶けた恥毛が現れた、やはり茜の髪の毛の色は天然だと言う事だ。
俺は、茜を丸裸にすると、両方の足をそれぞれ片方ずつ、ソファーの肘掛の上に引っかけるように持ち上げる。
そして尻を、出来るだけ前のほうに出させるように腰の位置を調節する、いわゆるM字開脚というやつだ。
そこまですると、俺は茜の真正面で中腰になる、そして茜のヴァギナを指で広げた。
中を覗きこむと、そこには確かに茜の純潔を証明するものが存在していた。
よし…これで予定通りの事ができるな…。
俺は景子のヴァギナから手を放し、立ちあがる。
そしてそのまま茜の胸を撫でた。
茜はまるで反応を示さない、まるで熟睡しているように、俺の取らせた格好のまま動かなかった。
俺はそのまま茜の上半身をなでまわす。
しかし、先ほどこいつの胸を触った時にも思ったが…。
茜の身体は、景子ほどの凹凸はないもの、その肌のきめ細かさは景子よりも遥かに上だった。
これが単なる年齢の差ゆえなのか、純粋に茜だけが持っているものなのか、それはわからない、ただ、これからこの身体を俺の好きな様にもてあそべるかと想像すると、俺は少なからず興奮を覚えた。
俺は茜の身体から手を放す、そして一度茜のそばから離れクローゼットを開けた。
そしてその中からあるものを取り出す。
それは、元は景子に使おうかと思って購入していた、何本かの細さの種類がある荒縄だった。
俺は、まず一番太い縄を使って、ソファーの背もたれに、茜の胸から胴までを縛りつけていく。
この茜のあまり膨らみの無い胸を搾り出すような縛り方も出来るが、今回の目的はあくまで茜の身体の自由を奪う事だ。
ギュッと結び目を縛ると、茜の柔肌に縄が食い込んだ。
それが済むと、今度は茜の膝に、少し細めの縄を結ぶ、そうしてぐるっとソファーの背もたれの後ろを回し、たるみの無いように、もう片方の膝にも結びつける。
これで茜は足を閉じる事ができない。
そして最後に、茜の両腕を、茜の頭の後ろの方に持ってこさせ、手首を縛る。
更にそこから縄を垂らし、今、背もたれの後ろに回した、膝を結びとめている縄にお互いが引っ張り合うぐらいきつめに結びつけた。
これにより、もし手を前のほうに持ってこようとしたら、足が更に開くようになるし、足を閉じようとしたら、腕が後ろに引っ張られるようになるという仕組みだ。
さて、これで準備は終了だ、後は景子が帰ってくるのを待てばいい。
俺はそう思いながら、ソファーに腰掛けた。
「ん………」
そうしているうちに、茜の口から小さなうめき声が漏れた、どうやらそろそろ目覚めるようだ。
俺は立ちあがり、茜のそばに行く、そして軽く茜の頬を張った。
「んっ」
茜がうっすらと目を開ける。
俺は、茜の身体全体が見えるような位置に少し下がった。
「ここは……」
茜はまだ意識がはっきりしていないようだ、まだ目の焦点があっていない。
俺はそんな茜に声をかけた。
「目が覚めたかい?生徒会副会長様」
「えっ」
俺の声で茜は完全に目覚めたらしい、俺と目があった。
「あなたは………いっ、いやあっ!」
最初は俺の方に意識がきたみたいだが、すぐに自分が一糸まとわぬ姿でソファーに縛りつけられているという事に気付いたようだ。
茜はすぐに足を閉じようとする、しかし、足を縛りつけている縄は、手首を縛りつけている縄と連結しているため、頭の後ろで縛られていた腕は後方に引っ張られた。
「い、痛いっ」
もともと腕は、これ以上後ろに持っていけそうにも無いぐらいの位置で固定していた、そのため、縄が腕を更に後ろに引っ張ろうとすると、肩と肘の関節が極められたような形になる。
慌てて腕を前に持ってこようとする茜だが、そうすると今度は、手首を縛りつけている縄が、足を閉まらないようにしている縄を引っ張る事になり、足が開いてしまう事になる。
結局、茜は手と足のポジションを、最初俺が設定していた位置に戻さざるおえなくなった。
「こ、この縄をほどいてっ」
茜が大声で俺に言う。
俺は思わず噴出しそうになる。
「馬鹿かお前は、お前に言われてほどくようなら、わざわざそんな面倒くさい事するわけないだろう」
俺は、そう言いながら、わざと茜の身体をしげしげと見下ろす。
「いや、見ないで!」
茜が俺を睨みつける。
俺はふんとつぶやいた。
「見られて困るような身体かよ」
俺の言葉にカアッと顔を赤くする茜。
どうやら、少なからず、胸が小さい事へのコンプレックスがあるようだ。
「あなたにそんな事言われたくないわっ」
俺は、茜の前から移動し、茜が縛りつけられているソファーと対面する位置に置いてあるソファーに腰掛けた。
そして足を組んで黙って茜の事を見る。
俺の余裕振りが茜を不安にさせるようだ。
「私をどうするつもりなの?」
俺は薄ら笑いを浮かべて答える。
「あの時散々言ってやっただろ、お前に今から、お前が想像もできないような恥辱を味わわせて悶えさせてやるんだよ」
茜がキッと俺を睨む。
「だったらさっさとやったら!でも私はあなたがどんな事をしようとも、絶対にあなたには屈しないから!」
多少操作したとは言え、なかなかいい反応だ、と俺は心の中でつぶやく。
「そんな格好で粋がってもあんまり迫力ないな」
俺はあざ笑うように言う
茜がまた顔を紅潮させた。
「まあ、早く俺の攻めを味わいたい気持ちはわかるが、そんなに急くな、アシスタントが到着するまで待ってろ」
「誰が味わいたいだなんて―――――アシスタント?」
俺が意味深に笑う。
それと同時に、誰かがマンションの扉を開ける音がした、おそらく景子が帰ってきたんだろう。
カチャンと鍵を閉める音がする、
そして、このダイニングに足音が近づいてきた。
足音が大きくなるにつれて茜の顔が青ざめていくのがわかる。
赤くなったり青くなったり忙しい事だ、と俺は笑う。
「いやっ、こないで、お願いこないでっ!」
茜が、まだ誰だかわからぬ新しくここの面子に加わろうと言う人間に対して、必死に哀願する。
だが、いくら騒いでも無駄だ、あいつにとってここは本当ならいつでもいたいと思えるほどの天国なんだから。
そして景子がダイニングに現れた、胸には俺が命令して買ってこさせた物が入っているであろう紙袋を抱えている。
その景子を見て、茜が目を丸くした。
「橘先生!?」
まさか、自分の学校の教師が、この場所に現れるとは想像もしていなかったのだろう。
まあそれも当然と言えば当然だが。
「残念だが、橘景子には間違い無いが、先生じゃないな」
俺は、いかにも余裕をかましているといった態度で茜に言う。
だが、茜は俺の事をまったく無視して景子に助けを求めた。
「先生っ、助けてっ」
しかし、景子は穏やかな顔で微笑んで、茜を見つめているだけだ。
「先生、どうして?」
茜が、わけがわからない、といった感じで、なにも行動しようとしない景子を見上げた。
俺は思わず笑い声を上げる。
「言っただろ茜、コイツはもうここでは教師じゃないんだ」
茜が俺の方を睨む。
「どういうことよっ」
俺はふんと笑い、景子に目配せする。
「景子、コイツに教えてやれ、お前がここの家の中ではどんな存在なのかを」
俺がそう言うと、景子は熱っぽく頷く。
そして、胸に抱えていた紙袋をテーブルの上に置くと、上着に手をかけ、何の躊躇も無く服を脱ぎ始めた。
「先生っ!?」
茜が、どうして、とでも言いたいように声をあげる。
景子は茜の言う事などまるで耳に入っていないといった感じで、恍惚の表情で服を脱ぎつづける。
やがて景子は一糸まとわぬ姿になる、そうして更に、車の中からこの部屋に持ってきた手提げバッグを手に取り、中にあるものを取り出した。
「―――!」
茜は声も上げられないといった感じで景子を見つめている。
景子がバッグから取り出したものは、俺が景子にやった、赤い皮製の首輪だった。
景子はうっとりしたような顔で首輪を自分に取りつける。
俺はその様子を見た後、テーブルの下においてあった鎖を手に取る、そしてその鎖のフックがついている方を景子に向かって投げた。
景子はひざまずいてその鎖を取ると、うれしそうにそれを自分の首輪に取りつける、そしてその場で犬のように四つん這いになった。
「景子、茜に教えてやれ、お前はなんだんだ?」
俺がそう言うと、景子は潤んだ瞳で俺の事を見つめ、答えた。
「私はご主人様の忠実な奴隷です…それ以上でもそれ以下でもありません……」
俺はその答えを聞いて、茜の方を向く。
茜は信じられないといった表情をしていた。
「…ということだ、茜」
俺は薄ら笑いを浮かべて茜に言った。
しばらく呆然としていた茜だったが、すぐに俺の能力を知っているためか、どういった経緯でこうなったのか理解したようだ。
「あなたっ、糸の力を使って橘先生をそんなふうにしたわねっ」
俺は余裕の笑みで言葉を返す。
「そうだな…まあきっかけはそうかもしれないが、もともと景子はこういうふうになるのを望んでいたみたいだったぜ」
俺は、景子の鎖をぐいと引っ張る。
「あ……」
景子はそうつぶやいて、俺の足元に四つん這いのまま歩いてくる。
「嘘よっ、戻しなさい、今すぐ先生を元に戻しなさいっ」
茜が必要以上に声を張り上げて叫ぶ、この景子の姿が、近い将来の自分の姿だと想像して、それを払拭しようとしているのか。
俺は、景子の顎に手をあて、景子の顔を上げさせる。
「あ…ご主人様…」
景子がトロンとした顔で俺の事を見上げる。
そんな景子に向かって俺は言った。
「景子、茜があんな事を言っているがどうだ?俺の所に来る前の自分に戻りたいか?」
その言葉を聞くと景子が寂しそうな顔をして、うっすらと涙を浮かべた。
「いやです…わたしもうご主人様の奴隷以外の自分は考えられません…ずっと景子を使ってください」
俺は景子の顎から手を放す、そして茜の方を向いた。
「だ、そうだ」
茜はブンブンと首を振る。
「そんなの、あなたが糸の力で言わせてるだけじゃないっ」
俺は、薄く笑い、そして景子の顎から話した右手を、スウッと上げた。
「まあ…さっきも言った通り、半分はその通りで半分は景子の元からの素質さ」
茜がビクと身体を振わせる、右手の中指を茜に向けている時点で、茜には俺がこれから何をしようとしているか理解できたようだ。
「とりあえず、そろそろ景子の事より、自分の事を心配した方がいいんじゃないのか?」
茜は必死にもがき、逃れようとする、しかし、しっかりとソファーに縛りつけられた茜の身体は、多少ソファーからずれるぐらいしか動かない。
「いや、お願い、許して」
茜は、唯一動く頭を振ってもがく。
「やっと女らしい声を上げたじゃないか」
俺は力を発動させる、茜が紫色のベールに包まれた。
あの時、あれほど苦労して見る事が出来た糸を打ち込むポイントが、今はもう何をする事も無く簡単に浮かび上がる。
俺は指先から紫色の糸を出す。
俺の糸は、茜の赤い糸を取り込んだものの、赤みがかったりはせずに、以前と同じ紫のままだった。
「いやっ、いやっ」
茜がこれ以上無いぐらい激しく身体をばたつかせる、なまじ俺の能力を知っているだけに、その恐怖心は通常の人間とは比べ物にならないんだろう。
もっとも、普通の人間なら、能力そのものを知らない時点で恐怖心もクソもないのだが。
「安心しろよ、茜、お前の今のその感情、それ自体はいじらないでやるから」
紫の糸がゆっくりと茜の目の前に移動する。
「その性格、思考のまま、俺の与える恥辱に快感を覚え、悶える身体にしてやるよ」
「いやあっ」
糸がシュッと加速する、そして茜の額を打ちぬいた。
ビクンと茜の身体が震える。
そして、俺の糸を打ち込まれた経験ある茜は、それで糸を打ち込まれたという事を察したようだ。
「ああっ」
茜は糸を振りほどくように、頭を左右に振った、だがそんな事で糸は外れたりしない。
とりあえず……。
俺は、茜にイメージを送り込む、糸の光が増してきた。
「茜、お前に禁止事項を増やしてやる、お前は今から、この家から1歩も出られなくなるんだ……いや、出たくなくなる、って言った方が正しいかな」
俺は、先ほど茜に、俺に対して物理的攻撃ができないようにした時と同じように、茜が深層心理で拒絶するものが収められている場所に、この家から出る、という行為のイメージを与えた。
「そんな……」
茜が力無くつぶやく。
「もうこれでお前はこの家から出られない、無理に出ようとすれば発狂するかもしれない」
茜が観念したようにうなだれた。
そして、その後、俺は更にいくつかの禁止事項を茜に与える。
茜は、俺がイメージを与えるたびに、小さく身体を震わせた。
さて…これで下準備はそろったか。
俺は、立ちあがると、とりあえず俺の足元で四つん這いになっている景子に向かって言う。
「景子、お前はこれから俺が呼ぶまでここにいろ、何もするんじゃない」
「はい、ご主人様」
景子は四つん這いのまま素直に答えた。
そして、景子にそう言いつけると、俺は茜のもとに歩いていく。
「いや……」
茜はイメージを送られた疲労ゆえか、今までのような激しい抵抗はしない。
俺は茜に顔を近づける。
茜は顔をそむけたが、俺は茜の顎を掴み、無理やり俺の方に顔を向けさせた。
「放してよ…っ」
抵抗は激しくなくなったが、その瞳の中の俺に対する敵意は衰えていない。
……ああ、そうでなくっちゃな。
俺は茜の顎から手を放す。
「茜、今から俺がお前をどんなふうに変えてやるか、身を持って体験させてやるよ」
俺は、身体を起こし、そしてやや茜から離れた位置に立ち、茜を見下ろす。
茜が俺を親の敵でも見るかのような視線で見返してきた。
俺は、スゥと右手を上げる、茜の額とつながっている糸の光が増してくる。
そして、その状態で、俺はある質問を茜にした。
「茜、お前オナニーした事はあるのか?」
一瞬あっけに取られる茜、しかしすぐに顔を真っ赤に紅潮させ、俺に食って掛かってきた。
「なっ、何を言ってるのよっ、あなたっ!」
俺はそんな茜の剣幕などどこ吹く風という感じで茜に言う。
「お前に男性経験が無い事は、処女膜この目で確かめてわかってるんだ、だったらあるとしたらオナニーしかないだろう」
茜の顔がこれ以上無いくらいに真っ赤になる、今の俺の言葉で、先ほど気を失っている間に、自分の性器を点検された事を悟ったみたいだ。
もはや声にならない声で俺を罵倒する茜。
……まあ、別に答えなくてもいい、要はコイツに、はっきりそれとわかるぐらいの性的快感を体験した事があるかと言う事が重要なんだ。
俺は、騒ぐ茜をよそに、糸の力を使う
そして、茜の心の中に記憶されている性的快感のイメージを、茜の精神の中から引き出した。
「あっ…」
突然茜が言葉を止めた。
赤らんだ顔が別の種類のものになっていく。
そして、再び茜は足を閉じようとする。
しかしそれは、先ほどのような自分の性器を隠すためと言う感じでは無い、断続的に襲ってくる何かに対して、反射的に足が動いてしまっていると言う感じだ。
そして、何度か茜がそういう行為を繰り返しているうちに、今まで何も反応の無かった茜のヴァギナから、ジクジクと愛液が染み出してきた。
そう、俺は茜がオナニーをしているときのイメージを引き出した、それはたとえ実際、今その行為を行っていなくても、まるで行っているかのような反応を身体に起させるのだ。
「なっ、何これ…っ」
茜は歯を食いしばって、その襲ってくる快感に耐えようとする。
「そこまでしっかり感じてるって事は、どうやらちゃんとしたオナニー経験があるみたいだな」
俺は茜の方に向かって歩く。
「なっ、何をしたのっ?」
俺は茜の縛りつけられているソファーの後ろにまわる、そして背もたれに手をおいた。
「なに、お前が気持ち良かった時の事を思い出させてやってるだけさ」
スッと茜のわき腹を撫でてやる。
ビクンと茜が身体を震えさせた。
「あ…く……こんな事ぐらいで私はあなたに屈しないから」
上気した顔で茜が気丈に答える。
俺はそんな茜を見ながら、笑って茜に言ってやった。
「ああ…この程度で落ちてもらっちゃ困るさ……ほら、もっと気持ち良くなるぜ」
俺は糸を使って、茜のイメージを更に強くする。
「ふあっ」
ビクンと茜の身体が跳ねた、縛りつけてあるソファーが、ギシッと音を立てる。
元から存在していたイメージをそこから強くした時点で、もう茜は、今まで味わった事のない程の強い快感を味わっているはずだ。
「あ…あ……」
茜は息も絶え絶えといった感じで身体を細かく震えさせている。
どうやら、性体験が乏しいという事が、逆に茜の仇になったようだ、茜は俺から、強制的に与えられた快感に、抵抗するすべを知らない。
そして、俺は更に、そのイメージに手を加える、オナニーの中でも、まさにイク直線のその瞬間のイメージだけを引き出したのだ、そしてそれをそのまま固定してしまう。
「う…はあっ」
これにより茜はずっとイク直前状態で…裏を返せばイケそうでイケない状態で固定されたのだ。
「いやぁ…そんなぁ……」
茜は、不自由な腰をねじるようにもじつかせはじめた、自分でヴァギナをいじれないのが耐えきれないといった感じだ。
だが、この程度で楽にするわけにはいかない、本当の目的はこれではないのだから。
「どうした茜、オナニーしたくてたまらないって顔だな、俺に許しを請えば、する事を許可してやってもいいぞ、それとも俺が触ってやろうか?」
俺が笑いながらそう言うと、茜は正気を取り戻したように、歯を食いしばる。
「誰があなたなんかにっ」
そう、俺がこう言えばコイツは正気を取り戻す、最初に与えた「俺には絶対屈しない」というイメージのせいだ。
俺は薄ら笑いを浮かべながら、今度は茜の正面に行く、そして、わざと舐めるような視線で、茜を見下ろした。
「くっ…」
茜が顔をそらす、しかしそんな事はお構いなしに俺は話しかけた。
「まったく、人ン家のソファー汚い汁でビショビショにしやがって、お前恥ずかしくないのか?俺の目の前で」
俺の言葉通り、茜のヴァギナから流れ出た愛液は、既にソファーに水溜りを作っていた。
茜が真っ赤な顔をして俺の方を向く。
「あなたがこうさせたんじゃない!」
俺は笑って、茜を追い詰めるように言う。
「ああそうさ、俺がやった事さ、つまりお前は俺の手にかかると、どこでもかまわずに愛液垂れ流すような淫乱女になっちまうってことだ」
茜がぐっと目を閉じる。
「もうやめてよ…そういうこと言うの……」
その閉じた目からポロポロと涙がこぼれる。
……そろそろ頃合かな。
俺は、茜に近づき、目の前で中腰になる、そして茜のヴァギナに手を近づけた。
「あっ、だめっ、触らないでっ!」
俺は、そして触るか触らないかの感覚で、茜のヴァギナを撫でた。
「ヒイッ」
景子のそれと比べると、まだいくらか未発達なヴァギナが、伸縮し愛液をどぷっと吐いた。
「だめ、いや…そんなの…絶対」
茜が朦朧とした顔で、そうつぶやく、もう茜の心の中では「俺に絶対屈しない」と「イキたい」という気持ちがぶつかり合って、どうしていいかわからないような状態になっているのだろう。
……だけどな、茜……お前の罪はこの程度じゃ晴れないんだ…これからが本番だぜ。
俺は立ちあがり、茜の前から2、3歩離れる。
「あっ……」
茜が口惜しい、といった感じで俺を見上げる。
俺は、指先にほんの少しついた茜の愛液を舐め取り、茜に言う。
「どうした茜、俺の手でイカせてもらいたかったか?」
茜は一瞬の間の後、歯を食いしばって、ブンブンと首を横に振る、おそらく言葉で何か言おうとすると、何を口走るかわからない状態なのかもしれない。
「でもな、茜、俺はお前のそこを攻めるつもりはないんだ」
え?と言う表情を茜はする。
「俺は優しいからな、折角それだけ立派な処女膜が残ってるんだから、それはずっととっといてやろうと思ってな」
そして、俺は茜に向かって右手、中指をかざす。
茜の額につながっている糸が、光を放っていく。
俺が今から茜にやろうとする事……それはこの間、景子にした事と同じ事。
「お前は……後ろの穴専用になってもらう」
次の瞬間、俺は、最大限に膨れ上がった茜のヴァギナの性感を、アナルのものとすり替えた。
「ああっ」
茜が身体を震わせる。
やがて、ヴァギナから流れてきた愛液によって濡れそぼっていたアナルが、息づくように蠢いてきた。
「そんな…」
茜が涙をこぼす、どうやら自分の身体に何をされたか理解したようだ。
「どうして…どこまでわたしを辱めればいいの?」
茜が涙目で俺を見上げる。
俺は、茜に覆い被さるように、ソファーの背もたれに右手をかけた。
「決まってるじゃないか、俺の気がすむまでさ」
俺は残酷な笑い顔を浮かべて茜を見下ろした。
茜は耐えかねられないといった感じで顔をそらす。
だが、俺はそんな茜の行動など気にもとめずに、左手の人差し指を茜のアナルに近づけていく。
「いやっ、やめてっ」
茜が必死に逃げようとする、しかし、茜を縛りつけている縄がそれを許さない。
俺の指先が茜のアナルに触れる。
「んんっ」
茜の身体がピクンと震える。
おそらく茜はアナルなどいじった事もないだろう、今、茜の身体には、電撃にも似た、今まで感じた事もない快感が全身を駆け巡ったはずだ。
俺はしばらくそのまま、指先を茜のアナルに触れたままで固定する、
茜のアナルが、まるで俺の指を飲み込もうかという勢いで蠢く。
「は…あ……」
茜の身体をプルプルと震え、表情が虚ろになっていく。
俺はそんな茜を見ると、にやりと笑い、そのまま指先を引っかけるような形で、茜のアナルを引っかいた。
「ひゃうっ」
茜がビクビクと身体を震わせた。
「う…あ…」
眉をひそめ、襲ってくる快感に必死に抵抗しようとする茜。
俺はそんな茜に対して、今、茜のアナルに刺激を与えてやった指を、目の前に持っていってやる。
「あ…」
茜は、物欲しげに俺の指を見つめていた。
「どうした?もっと欲しいのか?お前がお願いすればもう1回してやらない事もないぜ」
茜は目を閉じて、か細い声で言う。
「だめ…だめなの…あなただと絶対にだめなの…」
俺はこの茜の言葉を聞いて、だいぶ茜が切羽詰っている事を理解した。
茜の、今の言葉の意味を考えると、もう茜の心を支えているのは俺が与えた「俺に屈しない」というものだけだということがわかる、それさえなければもう茜は恥も外見もなく、俺にアナルへの刺激を求めてくるだろう。
どうする?このへんで勘弁してやるか?
それとも……。
自分の顔が、嗜虐の笑みに染まっていくのがわかる。
そんな俺が与えたイメージがなくても、茜本人が心の底から拒絶するような更なる恥虐を与えてやるか?
俺は自分自身を心の中で笑った。
勘弁してやるだ?そんな気持ちなんてひとかけらもないだろうが。
俺はそう思うと、身体を起こし、茜から離れた。
「あっ」
茜が切羽詰ったような声を上げて、俺を呼び止める。
俺はその声を聞いて、再び茜に顔を近づける。
「どうした茜、そんな声出して、俺が離れるのがそんなに悲しいか?」
「う……」
茜が唇の端を噛む。
思わず出てしまった言葉を後悔しているようだ。
「そうだよな、俺がそばにいれば、お前自身は拒否してても、俺が勝手にお前の事を嬲るって可能性もあるもんな」
「ち…ちが…」
茜は涙ぐんだ瞳で俺の事を見つめている。
俺は、茜の頬に手をあて、親指で茜の涙をすくう。
「あ……」
俺はそんな茜を見て、ふんと笑う。
「なんだ、最初の頃の俺に対する敵意丸出しの目つきがすっかり衰えちまったな」
「く…」
俺がすくった後に、更なる茜の涙が流れた。
俺は、茜の顔から手を放し、茜の涙を舐める。
「ふん…安心しろよ、そんなお前に、文字通り『カンフル剤』を打ち込んでやるから」
俺はそう意味深に言うと、景子の方を見た。
景子はおとなしくしていたものの、俺の茜に対する攻めを見つづけて、すっかり発情しているようだ。
四つん這いしているその太腿には愛液の川ができ、足元にはそれが水溜りを作っていた。
景子が物欲しそうな顔をしていたが、今はかまっている暇はない。
「景子、お前が買ってきたものをよこせ」
俺がそう言うと、景子は素直にテーブルの上に置いてあった紙袋を取り、そのまま四つん這いで歩き、俺のところにそれを持ってきた。
「ご主人様、どうぞ…」
俺は、景子が持ってきた紙袋を手に取る、そしてその袋を開け、中身を確認すると茜を見下ろした。
「さあ、お前用のカンフル剤だ、これで元気になるといいな」
そう言って、俺はわざとにやけた顔をして、袋の中のものを、茜の身体の上にぶちまけた。
長さ、10センチほどの紙製の箱がいくつも茜の腹や胸に落ちてくる。
そして、それを見た茜の顔がみるみると青くなっていった。
「ま…まさかそれを私に……・」
茜の身体が震えているのがわかる、今での茜の震えとは違う、明らかに恐怖によるものだ。
「ああ、そうさ、残らず全部打ち込んでやるよ」
俺はそう言って、茜の胸の上に落ちた箱をひとつ拾った。
そして中身を取りだし、茜の目の前に突き付けてやる。
「いやああっ、それだけはお願いっ、やめてえっ、他の事なら何でもするからっ!」
茜が狂ったように叫ぶ。
俺が袋からぶちまけて、茜の身体の上や、床に大量に転がっているもの。
それは、俺が景子に言いつけて、薬局で買わせてきた、50ccのイチジク浣腸だった―――
< 続く >