魔性の少女 第三章

第三章

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 家の雰囲気は、もはや元には戻れないと確信させられるほど、徹底的に変わってしまった。それは全て、舞ちゃんが来てからの事。舞ちゃんが行った事。舞ちゃんが・・・望んだ事。
 いつも家族の誰か、または全員が発情しているような家。
 ぼくに秋波を送る母親。
 必要以上に近付き、ぼくの身体に触れてくる妹達。
 そして・・・ぼくの反応を愉しそうに見詰めている、舞ちゃん。
 いつか、破綻するのがわかっていた。
 いまはまだ、いい。
 けど、ぼくが『その一線』の向こう側に行ってしまう瞬間が、すぐそこまで迫っているのは確実だった。
 ぼくが母さんを犯すのか。
 母さんがぼくを奪うのか。
 ぼくが妹達を汚すのか。
 妹達がぼくを壊すのか。
 違いなど、ありはしない。
 あるのはただ、してしまったか、まだしていないかというだけ。差異などは、些細な事だと思う。
 ぼくは、それを忌避しているのか、それとも待ち望んでいるのか・・・それすらも判らなくなっていた。

― 1 ―

 それは、珍しくも静かな夜の事。
 母さんがぼくの部屋に来て、誘惑するような媚態を見せる事も無く。
 胡桃がぼくに風呂上りの暖かい身体を擦りつける事も無く。
 苺が「ふふり・・・」なんてアヤしく微笑みながら、ぼくの身体をまさぐる事も無い。
 エアポケットのようにぽっかりと、不安になるほどに何もない時間。

「舞ちゃんの部屋にでも行こうか・・・」

 思ってもいなかった言葉が、ぽつりと漏れた。行けるはずもないのに。最近は、本当にまずいと思う。どれくらいかというと、二人だけで会ったら、押し倒さない自信なんて欠片も無いというくらい。
 ふと感じられる体温とか、ふわりと鼻をくすぐるかすかに甘い体臭とか、背は小さいのに落ち着いた雰囲気とか、柔らかい笑みを湛えて見上げる瞳とか、時に恐ろしく冷たい目付きとか、もうどうしようも無いってくらいに、ぼくの心を掻き乱す。
 どう見ても末期症状です。本当にご愁傷様でした。

「だめじゃん」

 きっと、舞ちゃんは押し倒しても抵抗はしないと思う。
 でも、押し倒したら、ぼくは絶対にこの淫靡な世界に囚われる。
 舞ちゃんに唆されるままに、母さんを犯すだろう。胡桃も苺も、ぐちゃぐちゃにしてしまうだろう。そして、ぼくたちは止まれなくなる。ダメになる。

「はぁ・・・」

 そして、ぼくの中にそうある事を望む自分が、いる。
 凪のようなこの時間は、どうやらぼくの心を安らげてはくれないようだった。
 考えれば考えるほどに迷う心を抱えて、ぼくは椅子から立ち上がった。
 下のリビングに行けばきっと誰かがいるだろうし、何も考えないようにテレビでも見ていれば、今よりは楽になると思う。
 どことなくふわふわとした頼りない感触を感じながら、ぼくは部屋を出た。

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 エアポケットを抜けると、そこは地獄だった。

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 リビングでは、父さんが全裸で舞ちゃんの前に跪いていた。けれど、恭順の意を示す死刑囚というより、強引に拘束された野獣のような面持ちで、父さんは舞ちゃんを見上げている。荒い息も、背後で手首を交差させている姿勢も、そして何よりも酷く飢えた瞳が、父さんを野獣のように見せていた。拘束が解ければ、目の前の全てを壊してしまいそうな、そんな危険な色を湛えた瞳だった。

「うふふ、野性的なおじさまって、素敵ですわ」

 父さんの異様な様子を恐れることなく、舞ちゃんは揶揄するように微笑んだ。舞ちゃんはソファーに足を組んで座っている。それは、どちらが上位でどちらが下位かを明確にする構図だった。舞ちゃんが来るまでは家の中のヒエラルキーの頂点だった父さんが、今ではケダモノのように扱われている。それは、ある意味とても倒錯的な光景だった。

「ほら・・・ここも・・・」

 舞ちゃんは足を組んだまま、右足の爪先を父さんの股間に近づける。びきびきと音を立てそうなほどに屹立しているそれに、舞ちゃんの黒いストッキングに包まれたしなやかな足が近づくのは、舞ちゃんが汚されるような、そんな違和感というか不愉快さを感じた。

「あぐ・・・う、あ・・・ッ、ぐぅ、があぁっ!」

 舞ちゃんの足の親指と人差し指が、父さんのものを摘まむように挟んだ。ストッキングがあるから密着はしないけど、付け根から上の方に擦り上げる動きは、父さんに凄まじい快感を与えているようだった。
 舞ちゃんの足の動きに反応して、まるで拷問でも受けているかのような、父さんの咆哮が部屋の中に響き渡る。ビリビリと壁を振動させて、家の外まで聞こえるんじゃないかと心配になる。防音は気を使ってる作りだから、大丈夫とは思うけど。

「いや、そういう事じゃないよな」

 ぼくは自分を鼓舞するみたいに独りごちると、リビングへと足を踏み入れた。廊下では気付かなかったむぁっとした熱気に、心が萎えそうになった。

「・・・?」

 舞ちゃんはぼくが近付くと、一瞬驚いた顔をしてぼくを見上げた。舞ちゃんがしている事が見付かったから・・・という訳じゃないはずだから、その表情がどんな意味なのか、ぼくには判らなかった。けど、次の瞬間には舞ちゃんはいつもの笑顔を浮かべて、ぼくを見ながら自分の人差し指と唇を触れ合わせた。

『静かにしててね』という、合図。

 ぼくは、舞ちゃんの願いを撥ね退けるなんて出来ずに、肩を落として足を止めた。それでも胸の奥では黒々としたナニカが、不愉快を撒き散らかしていた。胡桃や苺、それと母さんの時とどうしてこうも違うのか・・・自分でも良く判らなかった。

「ほらおじさま、快感を感じる神経がぜぇんぶ、ここに集まってるんですよ。だから、信じられないくらいに感じちゃいます。頭がまっしろになって、何も考えられなくなって、残るのは快感だけ。どろどろのマグマみたいに激しく焼き尽くす快感だけよ」
「ぐぅ、がぁあああっ」

 舞ちゃんが足の指先で父さんのモノを擦るたび、父さんの体がビクビクと跳ねた。内側から爆ぜるんじゃないかと思ってしまうほどにいきり立ったモノは、先走りの液をたらたらと垂らし、舞ちゃんの爪先を醜く汚していた。

「出したいでしょう?おじさまの固く反り返ったそこから、熱くてドロドロな精液を、思いっきりだしたいでしょう?でも、まだだめ。もっと、もっと気持ちよくなるの。もっともっと気持ちよくなって、他のことなんてどうでもよくなるの。それまでは出しちゃだめ。どんなに出したくたって、出せないのよ」

 舞ちゃんの言葉に縛られているかのように、父さんのそれはいつ射精してもおかしくないくらいに震えながら、それでも絶頂には辿り着けないみたいだった。それは、あるイミとても苦しい事なんじゃないかと思う。少なくとも、自分で味わいたいとは思えなかった。

「ぐぅっ!がぁあ゛っ!!」
「うふ、もうすぐですからね。あと、3回。3回足が擦ったら、おじさまはイケますからね。ひとぉつ・・・ふたぁつ・・・」

 そこで舞ちゃんは足を止めて、楽しそうに父さんを見詰めた。口の端から泡をこぼして、今にも壊れてしまいそうな様子に、満足そうに頷く。それは、料理の出来具合を確認して、満足に頷くシェフみたいだった。

「おまちどうさま。・・・みっつ!」
「があああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 びゅくっ。
 まるで水鉄砲で打ち出したみたいに、父さんの精液が天井まで噴き上がった。驚くほどに大量の精液が、重力に引かれて父さんの身体と、舞ちゃんの足に降り注ぐ。父さんは硬直したまま、舞ちゃんは微笑みながら、身体を汚す精液を受け止めていた。

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 あの後、舞ちゃんは汚れたストッキングを脱ぐと、それで父さんの精液に塗れた顔を拭った。顔全体に精液を広げるような拭い方をして、満足げにストッキングを父さんの手の中に押し込む。それは、まるで『ご褒美』をあげているみたいにも見えた。

「お疲れ様です、おじさま。ゆっくり身体を休めて下さいね」

 聖母のような表情で、慈愛に満ちた笑顔で舞ちゃんが囁く。
 つん、と舞ちゃんが人差し指で父さんの額を突付くと、それまで硬直していた父さんの身体が、ぐにゃりと脱力して、精液で汚れた床に崩れた。
 それを見届けてから、舞ちゃんはぼくに視線を向けた。
 面白いおもちゃを見つけたみたいに、どこか楽しげな表情で、ぼくに害されるなど想像もしていないような大胆な動作で、ぼくに歩み寄ってくる。精神的な距離はともかく、肉体的にはぼくから10センチも離れていない場所で、舞ちゃんはぼくを見上げた。興奮の余韻か、濡れたような瞳がゾクゾクするほど艶っぽい。

「裕司さんがそんなコワい顔をするなんて、思わなかった」
「え?」

 くすくすと抑えた笑いを洩らして、舞ちゃんが続けた。

「さっき。・・・おじさまと遊んでたとき、裕司さんの表情、怒ってたんですもの」
「・・・」

 そういう舞ちゃんは、欠片ほどもぼくを怖がってはいないようだった。

「ね、裕司さんのお部屋でお話しましょう?きっと、そっちの方が落ち着くもの」
「・・・うん」

 舞ちゃんは裸足にスリッパを履くと、ぼくの手を取って引っ張った。その思い掛けないほどに小さな手に、ぼくの心臓がとくんと跳ね上がる。少しだけ冷たくて、小さくて・・・でも、柔らかい、女の子の手、だった。

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 舞ちゃんはぼくの部屋に入ると、楽しそうにベッドにぽふんと腰掛けた。一瞬だけふわりと開いたスカートの裾から、ぼくはありったけの自制心で、目を逸らす事に成功する。舞ちゃんがちょこんと膝を揃えて座る様子は、その年齢からは信じられないほどに幼く、可愛らしく感じた。

「ね、裕司さんも座って」

 ぼくは少しだけ迷ってから、舞ちゃんの隣、ベッドの上に腰を下ろした。舞ちゃんには近過ぎない、自分にとってのぎりぎりの距離。本当は離れて座りたかったけど、舞ちゃんの目はぼくが離れた場所に座る事を許してくれなさそうに見えたから。
 全ては舞ちゃんを求めるぼくの心が原因の勘違いなのかも知れないのだけど、近くに腰を下ろしたぼくを見上げた時の舞ちゃんの微笑みは、嫌がってはいないとぼくに教えてくれていたと思う。

「どうして、さっきは怒ってたんですか?苺ちゃんや胡桃ちゃん、おばさまの時だって、裕司さんは怒らなかったのに。私、おじさまには同じ事しかしてませんわ」

 全然理由が判らない――そんな表情で、舞ちゃんがぼくを見上げる。
 それで・・・たったそれだけのことで、ぼくは理解してしまった。
 さっきのは、ただの嫉妬だったってことを。
 別に怒ってはいなかったと思うけど、今まで傍観していたのに今回だけは止めようとしたのは、ぼくが嫌だったから。
 『男』が舞ちゃんと関係してるのを見ているのが、嫌だったから。
 それだけじゃなく、舞ちゃんに嬲られる父さんを見て、それがぼくでなかった事が嫌だったなんて、浅ましいにもほどがある。
 ぼくの答えを待ち続ける舞ちゃんから目を逸らすと、ぼくは溜息を吐いた。

「もしかして・・・裕司さんも、私としたかった?」

 するりと纏う雰囲気を切り替えて、舞ちゃんが囁くように口にした。
 下から見上げる、蠱惑的な笑みを湛えた、人形めいた作りの舞ちゃんの顔。
 誘うような瞳が、ぼくの心を激しく掻き乱す。
 まるで催眠術に掛かってしまったみたいに、ぼくは舞ちゃんから目が離せない。身動きも取れない。それは、恐ろしいほどに甘美な拘束だった。
 ちゅ。
 唇の温度を確かめるだけみたいな、瞬間的なキス。
 少しだけ顔を離して、それでも相手の顔しか見えなくなるほどの近さで、舞ちゃんはぼくの目を覗き込む。

「キス・・・しちゃいましたね」

 室温で溶けてしまう、雪の結晶のように儚い声で、少しだけ楽しそうな様子で、舞ちゃんが囁いた。目が、微笑んでいるかのように細められている。
 ぼくはその一瞬だけで、時間が止まってしまったように感じられた。ぼくの近くに舞ちゃんがいる。もうそれ以上何も要らない。そんな少女漫画チックなことを本気で信じてしまうくらいに。あぁ、時が止まってしまったんじゃなくて、止まって欲しいんだ。心の底から、ぼくが、そう思ったってことなんだ。

「でも、キスだけで満足ですか?」

 舞ちゃんは、ぼくの横からゆらりと空気を揺らさないような、滑らかな動きで立ち上がった。ぼくの目の前に立つと、今度は逆にぼくよりも視線が高くなる。
 逆光でその顔は良く見えなかったけど、それでも不思議とどんな表情を浮かべているのか判る気がした。苺や胡桃に淫らな遊びをした時のように、母さんからいやらしい事への躊躇を取り除いた時のように、きっと冷たい瞳で笑みを浮かべている・・・そんな気がした。
 ぞくん、と。
 舞ちゃんの視線に淫靡に身体をまさぐられたような、説明のし辛い快感を感じた。
 自慰で感じるものとは違う、荒々しいだけの快感とは別次元な感覚。
 ぼくの股間では、アレが急速に力を得て、むくむくと隆起していた。
 ズボンを押し上げ、正面に立つ舞ちゃんに、一目でわかるくらいに。

「うふ、正直ですね。いいわ、私の全部・・・教えて、あ・げ・る」

 焦らすように舞ちゃんはスカートのフックを外すと、なんの躊躇も無く、スカートを脱いだ。そのままスカートをベッドの脇に落とすと、ぼくに右手を差し伸べた。

「あとは・・・裕司さんが脱がせてください。・・・ね?」

 スカートを脱いだだけで、一気に部屋の中がいやらしい匂いで充満したみたいに感じた。全ては、目の前の舞ちゃんが発している。
 ぼくは、舞ちゃんの手を取って、操られる人形みたいに立ち上がった。

― 3 ―

「前のボタン、ひとつひとつ外してください。・・・そう、落ち着いて・・・ね?」

 ぼくは震える手で、舞ちゃんの服のボタンを外している。指先から、服を挟んで1cmも無い距離に、舞ちゃんの身体がある。このまま手を動かしていけば、無骨な蛍光灯の光りに晒される。それは、どこか冒涜的な気がした。言葉にして言えば、舞ちゃんの身体をぼくが見てしまっていいのか、そんな感じだ。
 聖女をただの人間におとしめてしまうような、背徳感と興奮。それが抑えきれないほどに、ぼくの指先を震わせる。

「裕司さんの指、意外と長いんですね。ふふ、いままで気付かなかったなぁ」

 舞ちゃんが、ボタンを外し終えたぼくの右手を取って、しげしげと見詰めた。でも、ぼくはその向こうに見える、舞ちゃんの透き通るような肌や、ちらちらと部分的に見えるブラ、視線を下に動かすと見えるパンティとかが気になって、まともに受け答えできないぐらいだった。

「うふ・・・ん、ちゅ」

 ぞくん。
 舞ちゃんがぼくの人差し指を咥えた瞬間、背中をぞくぞくとするような快感が駆け抜けた。指なんて、自分で舐めても決して快感は得られないのに、舞ちゃんが口に含み、舌で舐めるだけで、信じられないような気持ちよさを感じた。まるで、魔法みたいだった。

「ん、ちゅぷ、ちゅぴ、くちゅ」

 舌を這わせ、吸い、甘噛みする。
 それは、フェラチオそのものの動きだった。経験こそしていないものの、ただ傷口を舐めるのとは根底から違うその感触に、ぼくはそう確信した。
 上目遣いでぼくを見上げる舞ちゃんは、ぼくの反応を楽しそうに見詰めながら、最後にちゅっと音を立てて指先にキスをすると、口を少し開けて、舌先を見せびらかすようにしながら唇を離した。

「私、あんまりおっきくないから、見せるの恥ずかしいな。でも・・・」

 そう言いながら、舞ちゃんは両手を優雅に上に上げて、手首を頭の上で交差するような姿勢を取った。その動きで服の合わせ目が大きく開いて、より舞ちゃんの身体が良く見えるようになった。全体的に細身で、きめこまかな肌。まるで見えない何かに矯正されているみたいな、美しくくびれた腰のライン。柔らかさが見ただけで判るような、すべすべしたお腹や下半身。小さいけれど、それでも女の子である事を主張する、可愛らしいブラに守られた胸。
 綺麗だと思った。

「ブラのホック、背中なの。外して・・・くれる?」

 舞ちゃんは、小さく掠れた声でぼくを誘う。
 舞ちゃんも、興奮しているんだろうか。
 ぼくの16ビートで刻まれている鼓動みたいに、舞ちゃんの胸の奥で、どきどきと鼓動を打っているんだろうか。
 ぼくは、まるで抱き締めるみたいに舞ちゃんの背中に手を回した。服の内側で、もぞもぞと指先の感触だけを頼りに、ホックの位置を探る。震える指先が何度も舞ちゃんの滑らかな背中に触れて、そのすべすべした感触に、ぼくは気が狂いそうになる。
 いまにも襲い掛かってしまいそうで。
 そんな自分が恐ろしくて。
 でも、舞ちゃんの肌はいつまでも触れていたくなるほど、気持ちよくて。
 それでも、悪戦苦闘の末にホックは外れて、するりとブラは床に落ちた。

「あ・・・」

 舞ちゃんは少しだけ恥ずかしそうに、頬を赤らめた。
 自分でも言っているように、舞ちゃんの胸は薄かった。
 ぼくの手のひらで、膨らみを全て隠せてしまいそうな、発展途上という感じの胸。
 けど、華奢な舞ちゃんを構成するパーツの一つとして、その薄さは必然という気がした。
 それに、鮮やかな桜色の乳首も、胸全体の形も、まるで芸術品のような美しさがあった。

「きれいだ・・・」

 言葉を口にしたという意識すらなくて、自分の鼓膜を震わせる振動で、ぼくは自分がそう呟いていたのに気がついた。でも、それはきっと、心の底からの真実の言葉で、飾り気の欠片もない言葉こそが、ぼくがどう感じているのか、舞ちゃんに伝えるべき言葉だと思った。

「ありがとう・・・うれしい、です・・・」

 舞ちゃんは珍しくはにかむような表情で、ぽつりとお礼を言う。いつも見た目よりも落ち着いた雰囲気な彼女(でも、考えてみれば、年齢相応というのか)なので、今みたいな表情を見せられると、それだけでぼくもどきどきとしてしまう。

「・・・あの・・・下も・・・ね?」

 舞ちゃんに言われて、ぼくは視線を下に向ける。
 軽く抱き締めるみたいに近付いているから見え辛いけど、そこには白いパンティがある。ぼくは喉がカラカラに乾燥して痛いぐらいなのを我慢して、舞ちゃんの背中から両手を戻した。
 ぼくは、舞ちゃんの前に跪いた。
 目の前には、舞ちゃんのパンティ。その向こうには、彼女のアソコが息づいているはず。そう思うだけで、興奮で息が荒くなるのを感じる。

「じゃあ、脱がすね」

 ぼくは両手の指先をそっとパンティの腰の部分に差し込んで、ゆっくりと下におろした。それだけで、ふわりとどこか甘い香りが広がったように感じた。

「あ・・・」

 そこは、柔らかそうな陰毛に守られて、とても綺麗な色をしていた。
 触れたら傷つけてしまいそうな、肉色の粘膜。
 初めて見たそこは、複雑な形なのにとても魅力的で、ひどく興奮した。

「ここがクリトリスで、その下がおしっこの穴、それからここが、お○んこなの」

 舞ちゃんが両手で開いて、ひとつひとつを教えてくれた。本来下品な名称も、舞ちゃんが言うだけで当たり前に感じてしまう。
 くちっと湿った肉が立てる音に、ぼくの股間がいきり立つように反応する。早く舞ちゃんの中に入りたくて、痛いぐらいに硬くなっている。もう、気が狂うんじゃないかと思った。

「欲しいでしょう?私が上になりますから、服を脱いで、横になってもらえますか」
「・・・うん」

 上からぼくを見下ろしながら、舞ちゃんが微笑んだ。余裕のある言葉に、セックスに対する経験値が違うのだと、思い知らされた気がした。でも、それすらも甘い期待に置き換わってしまったのだけど。
 ぼくは恥ずかしい思いを押し殺して、服を全て脱いだ。舞ちゃんだって裸になっているのだから、硬くいきり立ったアレを隠さないよう、できるだけ堂々とした態度を装って、ベッドに横になった。

「じゃあ、いきますね」

 舞ちゃんはなんでもない事のように言うと、ぼくの身体を跨いで膝を突くと、ゆっくりお尻を落としていった。途中でぼくのアレを優しく握って、ちゃんと身体に収まるように位置を調整する。握られた時に射精してしまわなかったのは、ある意味奇跡の部類じゃないかと思った。それほど、ぼくは昂ぶっていたから。

「う、あっ」

 先端が、熱くていやらしい感触の粘膜に触れた。
 そこは舞ちゃんの身長に比例するみたいに狭くて、こんなところにぼくのものが入るのか、酷く気になった。けど、そんなのただの杞憂で、舞ちゃんは「ん、ふぅっ・・・あ・・・」と小さく呻きながら、それでもぼくのものを一番奥まで受け入れた。

「うわ、ああっ」

 一瞬でぼくの頭が混乱した。
 締め付けて、ぐにゅぐにゅとして、吸われて、擦られて、ぴっちりと包み込んで、それがぼくのものが同時に味わった感触で、今までぼくが感じてきた快感とは、次元がまったく違うナニカだった。
 頭の中が沸騰したみたいになって、何も考えられなくて、悲鳴を上げるのが精一杯だった。ただ、腰だけが別のイキモノみたいに、勝手に舞ちゃんを突き上げてた。

「んぅっ!」

 我慢できずに、ぼくは舞ちゃんの中に精を放っていた。自分ひとりでイクなんて、恥ずかしいにもほどがある・・・なんて考えることすら出来なかった。頭の中が真っ白なままで、ただ荒い呼吸だけを繰り返すだけで。

「私のなか、いかがでしたか?父は、いつも悦んでくれてたんですよ。お前の身体は、相手を狂わせる麻薬のようだ・・・って」

 くすくすと思い出し笑いをする舞ちゃんを茫と見上げながら、ぼくのコワれたみたいになった頭が、その意味をやっと理解した。
 信じたくは、なかったのだけど。
 でも、舞ちゃんがそんな嘘を言う理由も無くて。
 ぼくはただ、莫迦みたいに茫と、舞ちゃんの笑みを見つめ続けた。

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 舞ちゃんはぼくと繋がったまま、どこか小悪魔めいた笑顔でぼくを見下ろしている。それは、いつもの清楚な笑みよりも、ぼくに心を許しているような印象があると思うのは、惚れたぼくの目にフィルターが掛かっているせいだろうか。
 先ほどの舞ちゃんの言葉・・・それは、亡くなった舞ちゃんの父親が、舞ちゃんと性交渉があったという内容に他ならなくて、ぼくの頭の中でどう受け止めたらいいのか、よく判らなかった。けど、現実として舞ちゃんとぼくはこうして繋がっていて、舞ちゃんの父親はお亡くなりになっていて、だから気にしなくていい・・・気にしてもしょうがない事なんだとは思う。複雑な思いは残るけど。

「うふ。私、こういう事も出来るんですよ」

 妖艶に微笑みながら、舞ちゃんは言う。「ん・・・」と小さくいきむと、舞ちゃんの中に入ったままのぼくのものに、新しい刺激が与えられた。
 舞ちゃんの身体は動いていないのに、ぼくのものがぐにゅぐにゅと上下にしごかれる感触。
 まるで唇で先端を咥えて、きゅっと吸引するような感触。
 ぬめぬめと舌で舐められているような感触。
 まるで、舞ちゃんの膣内に、もう一つ口があるみたいだった。
 射精した後のふにゃふにゃになってたぼくのものが、それらの刺激を受けて、あっという間にいきり立った。もしかしたら、最初よりも大きくなってたかも知れない。

「うぁ・・・な・・・なに・・・これ・・・す、すご・・・ッ!」

 気持ち良過ぎて、まともに声も出せない。
 全ての感覚が、知覚が、ぜんぶアレに集約されるような、強制的で圧倒的な快感だった。こんなにされたら、何回だって出来そうだった。

「父も、よくそう言って・・・ん・・・ましたわ・・・。私は快感って・・・んぅ・・・感じないのですけど・・・あ・・・愉しんで、くださいね・・・」

 膣内の動きはそのままに、ゆるやかに腰を擦りつけるように前後に振りながら、舞ちゃんは言った。
 快感で脳を焼かれながら、ぼくはその言葉に違和感を覚える。

「かんじ・・・な・・・?」
「はい。そうです」

 舞ちゃんはそれが普通の事であるかのように、笑顔をで答えた。

「こうして身体を動かせば、発汗もしますし、息も荒くなります」

 舞ちゃんは、ぼくの上でぐりぐりと腰をうねらせた。まるで、隠微な踊りのように。
 小振りの胸が、ふるふると揺れる。

「男の人のを入れれば、粘膜を傷つけないように愛液だって分泌されます」

 舞ちゃんの膣内は凄く締め付けてくるけど、愛液でぬめるから抽送できる。でも、これは感じているからじゃなくて、ただ単純に身体の反応だって言うんだろうか。だとしたら、この行為の意味はなんなのだろう。
 快感で身体は痺れて、でも、心はどこか冷静に、冷え込んでいくようだった。
 自分だけが空回りしているのを思い知らされたみたいに。

「声も、身体の奥を突かれると、意識してなくてもでちゃいます」

 ゆっくりと腰を引き付けて、ぼくのものを奥深くに迎え入れると、舞ちゃんは「ん・・・ふっ・・・」と声を漏らした。それからぼくを見て、艶やかに笑う。自分の事はいいから、もっと気持ち良くなって欲しいと、その笑顔は言っているように思えた。

「だから、私の身体で誰かが気持ち良くなってくれるのを、見るのが好きなの。ううん、私が知らない『快感』という感覚を、たっぷり味わってくれる様子が好き」

 舞ちゃんはゆるやかな腰の動きを、激しい動きにシフトアップした。限界が近づいてきたぼくを追い立てるように。たまらない快感に、ぼくは腰を突き上げるようにして快楽を貪った。

「ああっ!」

 快楽を貪る浅ましい自分を晒されて。
 目の前がチカチカするように感じられて。
 背筋が砕けるような圧倒的な感覚に翻弄されて。
 ぼくは、気が狂いそうな絶頂へ至る。

「うあ゛あっ!」

 信じられないほどの精液が何度も撃ちだされ、その都度快感が身体中を走り抜ける。
 目に入るのは、舞ちゃんだけ。
 感じられるのは、舞ちゃんだけ。
 そして、ぼくも変わっていく・・・。

< つづく >

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