(『ガツン』は、ジジさんの作品です)
──『ガツン』。
数年前から認知され、世間を騒がせている現象の通り名だ。
何の前触れもなく、町の住民の後頭部から鳴り響く、“ガツンッ”という音。それとともに、彼らは突然おかしな行動をとり始める。
それがいつ起こるのか、なぜ起こるのか、どんな人間に起こるのか──それは、誰にも分からない。
ただ分かっている事は、ひとつだけ。『ガツン』に襲われた人間は、それに逆らうこなど出来ない。そのことだけであった。
「お待たせしました、ブレンドコーヒーです。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」
天気の良い昼下がり、美貴子はバイト先の喫茶店で、制服に身を包み働いていた。
ウエストの絞られた白いシャツに細身の黒のパンツというこの店の制服は、シンプルながら体の線が出やすいデザインだ。美人でスタイルの良い美和子のことをいやらしい目で見る客も多かったが、それも割の良いバイト代の為と割り切っていた。
「ああ、ありがとう」
コーヒーをテーブルの上に置くと、客の男性は手元の雑誌から顔を上げて、優しそうな表情を浮かべながらそう応じる。
専門学校生である美貴子の、父親ほどの年齢だろうか。年の割にはおしゃれに気を遣っているのが分かるスーツを着た彼の丁寧な態度に、彼女は内心好感を覚えた。
「ごゆっくりどうぞ」
笑顔で一礼し、その場を離れようとした美貴子。その後頭部を、唐突な衝撃が襲った。
“ガツン──っ!!”
ものすごい音と共に、視界が一瞬まっ白になる。
「きゃ……っ!?」
倒れ込みそうになる彼女の身体を、誰かが支えてくれた。
「キミ、大丈夫か?」
さっきの、客の男性だ。とっさに彼女に差しのべられたスーツに包まれた腕は、年齢のわりには思いの外たくましい感触がした。
腕から伝わる彼の体温に、彼女は自分が何をなすべきなのかを、不意に、しかしはっきりと悟った。
「あ、あの……失礼ですが」
そう声を出すと、男性は慌てて彼女に回していた腕を解くと、体を離した。
「ああ、ごめん。でも、急に倒れそうだったから……」
若い女性が見知らぬ男に躰を触られて、不快に感じられたのだと思ったのだろう。申し訳なさそうに謝罪しようとする男性に、しかし美貴子は縋りつくように言った。
「あの……お願いします。わたしに、お客様のおちんちんをしゃぶらせて下さい」
「な──っ!?」
突然のことに、何を言われたのか理解できなかったのだろう。言葉を失う男性客の目を見つめながら、美貴子は頭をいっぱいに埋め尽くした衝動を彼に伝えようと繰り返し口にする。
「すみません。失礼なことを言っているのはわかってます。──でも、どうしてもお客様のペニスと……それに、精液を……わたしの口に頂きたいんです」
自分がどれほど常識からかけ離れ、恥ずかしいことをしゃべっているかは、彼女にもわかっていた。しかしそれにも関わらず、彼女の心はそのことに占有され、他には何も考えられなくなっていたのだ。
「いや、しかし……、じゃあキミ、さっきの凄い音はもしかして……」
ああ、なるほど。男性の言葉に、美貴子は納得する。
さっき彼女の後頭部を襲った、大きな音と衝撃。あれが、ここ数年世間を騒がせている『ガツン』というやつだったのか。
「お願いします。わたし、もう……っ!」
理性など簡単に振り切ってしまう程の、魂そのものを犯すどうにもならない疼きに、美貴子は目に涙さえ浮かべながら男性のスーツに手を伸ばす。
彼女の異様な迫力に呑まれてしまった男は、そのまま押しやられるように椅子に腰を下ろした。
「はあ……、はあ……っ」
ほっそりとした指を伸ばして、ベルトを外す。ズボンの前を開くと、男性の下着のからもどかしげにペニスを取り出した。
「ああ、おちんちん……」
まだ勃起するに至っていないペニスを目にして、薄い色のルージュが塗られた唇から、熱い吐息がもれる。
「おい、あれ」
「え……あ、やだっ。何してるのよ」
ここに至って、異常な行為に気づきはじめたらしい。店のあちこちから、驚きや悲鳴、奇異の声が上がりはじめていた。
ざわつく店の雰囲気に、この真面目そうな男性は、おろおろとしながらも必死に美貴子を止めようとする。
「キミ、止めるんだ。こんな場所で……」
そのような言葉は、もう美貴子には届かなかった。彼の声だけではない。周囲の客や店の従業員の視線や声、そんな衆人の眼前で男性の性器にかしづく自分の今後など、今の彼女にとってはどうでも良いことだったのだ。
ただ、この男性のペニスを口にし、そこから出る精液を飲み下したい。そんな使命感にも似た欲望に支配され、美貴子は顔を男の股間に埋めるように近づけていく。
「ん……っ」
ついばむように、唇に男性のモノを含んだ。鼻先に、白いものの混ざった陰毛が当たる。
汗の匂いと、おそらくは排泄物のものだろう僅かな匂いを感じる。普段であれば不快にしか思えないだろうそんな臭いが、今の彼女には心を溶かす薫りにさえ思えた。
「ちゅ……ふ、ん……」
とりあえず口の中に入っている部分を舌で転がしながら軽く吸うと、それまでさほど力の感じられなかった肉茎が口腔内でむくむくと体積を増すのがわかった。
(こんなやり方で、いいのかなあ?)
そんな男性の変化に逆らわず、舌を絡ませ続ける。彼女の口での愛撫に、男のペニスは隆々と力を増し、美貴子の口内いっぱいにまで大きくなっていった。
「ぷ、はぁ……ああ、お客様の……こんなに、大きい……」
いったん口から出した欲棒を、まじまじと見つめる。彼女にも男性経験はあったが、これほど近くに寄って、男性の欲望を観察するのは初めてだった。
自分の唾液でてらてらと表面を光らせる、グロテスクに節くれ立った男性器を前にして、美貴子は自分の体が火がついたように熱くなっていくのを感じていた。
「わたし、男の人のを口でするなんて、初めてで……上手くできなかったら、どうすればいいのか教えて下さい」
「い、いや……そんな」
美貴子とは違い、男性の方は周囲の目が気になって仕方がないらしい。きょろきょろと店内を見渡す彼の性器は、美貴子が愛撫の手をゆるめただけで、力を失いそうになる。
「私には、キミと同じくらいな歳の娘がいるんだ。そのキミに、こんな事をされるなんて……」
なにやら必死に彼女に止めるよう説得しているらしいが、美貴子には意味をなさない言葉でしかなかった。
そもそも、この『ガツン』は、症状に襲われた人間がいっさいの理性を失い、ある行動を偏執的にとることに特徴があることは広く知られたことである。美貴子は自分を捕らえたこの謎の現象が、正しく聞いていた通りのものであることを自覚していた。
「仕方がないんです。わたし、『ガツン』に逆らえないんです」
勃起した肉茎に、愛おしいものにそうするように、頬をすり寄せながら男性に懇願するように言う。
「あれ、『ガツン』だってよ?」
「え~っ、ホントにあるのかよ、アレ。じゃあ、あの娘、『ガツン』にやられちゃったのかぁ。可愛い子なのに、人前であんなことするなんて」
周囲の客がひそひそと、あるいはあからさまな好奇の声で話をするのが耳に入ってくる。
それを恥ずかしいこととは認識しながらも、どうにもならない想いに突き動かされながら、美貴子は客の男性に哀願した。
「ですから、わたしに、お客様のものにご奉仕させて下さい。なんでしたら、わたしのことをその娘さんだと思って、口を犯してくださっても構いません」
「な……キミは、何を言ってるんだっ。そんな……私の娘だなんて……っ」
彼女の思わぬ言葉に驚き、目を大きくする男性。だがもう彼の制止の言葉などに耳を傾けはせずに、美貴子は再び男性の欲棒に舌を這わせはじめた。
「ん……ふぅ……、美味しい。お客様の……“お父様”のココ、こんなに大きく、熱くなって……ちゅ」
「うあ……ああっ」
股間を這い回る刺激に、男性の口から声がもれる。それがたまらなく嬉しくて、美貴子はさらに愛撫を大胆なものにしていった。
一刻も早く彼の精液を口に受けたいという欲求に、懸命に肉幹に奉仕する。
「お父様……わたし、上手にできてますか? んん……っ、じゅ……お父様に、気持ちよくなって頂けていますか?」
男の性欲をそのまま象徴した起立に、夢中になって舌を絡め、唇で吸い付く。ペニスの味を舌で感じるたびに、美貴子の口の中には唾液があふれ出し、口元から垂れる。
欲棒の先端、赤黒く膨れあがった先の部分に滲み出た透明な雫に気づき、それを啜りとると、唾液ごと飲み下す。いやらしい匂いが喉元を過ぎる瞬間、彼女の背筋に痺れが走り、下半身がキュウッと反応するのがわかった。
「美味しい……お父様のこれ、すごく美味しいです。……んぅっ、ちゅ……口にしているだけで、わたしも……はぁ、感じちゃ……う」
言葉通り、彼女の下半身はすでに我慢できないほどに疼いていた。躰の奥がドクドクと熱を持ち、アソコの隙間からじゅくりと粘液があふれ出しショーツを気持ち悪く濡らしているのがわかった。
「ああ、お父様……わたし、頑張っておちんちん舐めますから。だからわたしも、自分のココを、いじってもいいですか?」
「う……くっ、……自分の、って……」
訳が分からず、ただ股間を弄ぶ刺激に歯を食いしばる男性の返事を待たずに、美貴子は手を自らの脚の間へと伸ばす。スラックスの上から指を這わせただけで、ビリビリとした刺激が全身に走り、彼女は背筋を震わせた。
「ああ、いい……わたし、気持ちいいですっ」
高まりきった興奮のままに、美貴子は男性の猛りきった肉茎を、口に含んだ。
「んぐ……う、……んんんっ」
初めてのことで加減が分からず、勢いでのどの奥まで深く咥えすぎて、えづきそうになる。それをぐっとおさえると、口の中に迎え入れる部分を調節して、舌をまとわりつかせた。
「くぅ……っ」
ペニスを口にしながら、男性を見上げて表情を確認し、どうやら間違ったことはしていないと判断すると、口の中で舌を動かしはじめる。口内に満ちた男性の淫欲に、頭がクラクラとした。
「じゅ……んっ、ふぅ……」
そうやって口内を膨れあがった男性器でいっぱいにしながら、美貴子は手を自分の下半身に伸ばすと、スラックスの前を開く。ジッパーを下げ、できた隙間から手入れると、ぐっしょりと濡れたショーツの下に指を差し込んだ。
「ふうっ、ううう……っ」
クチュリといやらしい音をさせながら、昂奮に濡れて敏感になった柔肉を指先でかき分ける。人差し指と中指でしこった陰核を探りあげると、指の腹でそっとさすった。
「んくっ、ん……ちゅ……はあっ、お父様……ぁ」
もっとも敏感な部分を自分で嬲り、そこから立ち上る快感に脊髄を灼きながら、しかし美貴子の心は口の中の男性器に向けられていた。
今は、この男性客の精液を喉に受け、飲み込まなければならない。その願望に支配されながら、彼女はより強く口内の肉茎を吸い上げた。
「んじゅ……ちゅ、……ふぁ、うん……っ」
じゅるりと音を立てながら、いきり立った欲棒を唇に含む。
彼女にとってフェラチオは初めての体験であったが、雑誌や本、友人達から仕入れた知識を総動員して、男の性欲を満たすべく口を動かした。
唇を引き締めて幹の部分を刺激しながら、舌をべっとりと這わせる。ペニス全体を吸いながら、口の中のあちこち──頬の内側や口蓋の部分に、先端を擦りつけて愛撫する。
そうこうするうちに、先走りの液だろうか、男性の味と匂いが口いっぱいに広がり、それが美貴子の躰を、さらに淫らな欲望で熱くさせた。
「んあっ……お父様、飲ませて……精液、口に出してくださいっ」
自らの淫猥な台詞に顔を赤らめながら、しかし彼女は自分が自分の言葉で昂奮していくことを自覚する。
「わたしのアソコ、お父様のを口にして、グチャグチャに濡れてます……んっ、ちゅ……きっと、お父様の精液を飲んだら、わたし……ふぅっ、あぁ……イっちゃいます……っ」
「ぐ……くぅっ、なんて事だ……こんな……っ」
稚拙なはずの彼女の口唇奉仕であったが、その熱意の故か、あるいはこの異様なシチュエーション故か、男性のモノはビクビクと震えて、今にも弾けそうになっていた。
それを敏感に感じて、美貴子の口の動きはさらに懸命なモノへと変わっていく。
初めてのフェラは思っていた以上に重労働であったが、それを上回る欲求と快感とが、彼女を包んでいた。
「あ~、畜生。俺、あの娘のコト、狙ってたのになあ」
「美貴子ちゃん、いくら『ガツン』だっていっても、あんなになっちゃうなんて……」
それらの声は、この店の常連客である若い学生や、あるいはバイトの同僚である女の子達のものであった。
耳に入ってくる周囲のざわめきは、ここが何人もが見守る場所であることを、否応が無しに美貴子に伝えてくる。
(わたし……明日から、どうなっちゃうんだろう?)
ここは彼女にとって見知らぬ場所ではない。何年も務め、顔見知りも多くなった喫茶店だ。美貴子の通う専門学校にも近く、今いる客にそこの生徒が交ざっていたとしても、おかしくはなかった。
「ん……ふぅ、んちゅ……じゅ……あ、ああ……」
そんな人々の前で、美貴子は男性のモノを口にしているのだ。
ショーツに指をもぐり込ませて自慰をしながら、男の精液を口に出して飲ませてくれるよう嘆願する姿。どう見たって、色に狂った露出癖のある変態女としか考えられない。
(みんな、きっとわたしのことを噂するに決まってる)
もう、この店で働くことなんてできないだろう。学校だって、みんながどんな目で彼女を見るかを想像すれば、到底通えない。
こんな、人々が喜んで噂するだろう行為だ。もしかしたら、実家の家族やその周囲の人達にだって、この話が届くかも知れない。そうしたら、もう本当に、美貴子には行く場所なんて無くなってしまう。
(でも……)
それでも、そんなことは何の関係もなかった。
いくら分別の通った思考ではそう理解していても、それをあっけなく上回る衝動が彼女を突き動かしているのだ。しかも、この全身を震わせる、圧倒的な快楽──美貴子には、逆らいようなど、無い。
「うん……っ、じゅ……ぷはぁ……お父様、ココ、気持ちいいですか?」
上目づかいに問いかけながらカリ首の部分を舌で強く刺激すると、男は「くう……っ」と声を出した。
「ああ、よかった……じゃあ、もっと気持ちよくしますね? ……んんっ」
ぐっと舌を押しつけつつ、唇でしごくように頭を上下に動かす。美貴子の唇と肉茎の幹の隙間から、じゅぶじゅぶといやらしい音がする。
口の中で、男のモノが膨れあがったような気がして、彼女は反射的に先端を強く吸い上げた。
「く……ああ、もう……ダメだっ」
切羽詰まった声を上げ、男が腰をブルブルと震わせる。
「んっ……ぐ、うううっっ!?」
次の瞬間、美貴子の口の中に、生臭い粘液が勢いよく溢れかえった。
“ドクッ、ドク──ッ!”
(これ……男の人の……)
何度も、何度も。脈打ちながら、彼女の口腔内に、男の性欲そのものが射出される。
心の底から待ち望んでいた精液を、美貴子は全身を悦びに震わせながら口で受け止めた。
「んぐ、ん……っんん……」
自らの秘所を嬲る指の動きは、無意識のうちにかき回すような大きなものに変わっていた。にちゃにちゃという音を立てながら、指を深く体内に差し込んでその場所を自ら犯す。
目の前がまっ白になるほどの、圧倒的な快感っ。
「──っ、んうぅぅ……っっっ!」
……やがて美貴子の喉がこくりと動き、エグみのある味をした粘液を、胃へと送り込む。
「はあ……、はあっ、はあ……っ」
口の中に残る精液のむせかえるような味と匂いを、何度も何度も、夢中になって唾液と一緒に飲み下しながら、美貴子は自分が絶頂に達してしまったことを知った。
「ん、……はあっ、お客様……」
快感に達した後に訪れる、独特の心地よい脱力感に包まれながら、美貴子は男の顔を仰ぎ見た。呆然とした表情で、口元に彼が吐き出した欲望の残滓をこびりつかせたままの彼女を見下ろす、男性。
その彼の視線が、美貴子のものと絡み合った瞬間──
“ガツン──ッ!!”
という大きな音が、男性客の後頭部の辺りから響いた。
「ぐあっ!?」
まるでバットか何かで頭を後ろから殴られたように、男性の躰が前に揺れる。
……と、再び焦点を合わせた彼の瞳には、なにやら頑な(かたくな)な光が宿っていた。
「キミ、ちょっと立ちなさい」
「え……?」
美貴子の戸惑いにはいっさい頓着せず、男性客はまだ力の入らない彼女の躰を抱え上げるように起こすと、テーブルに寄りかからせた。
「あ、あの……いったい……?」
何をするつもりなのか。そう問おうとした彼女の上体をテーブルに伏せさせ、お尻をつきだした姿勢をとらせると、男性は彼女に言った。
「すまないが、これからキミのことを犯させてもらうよ」
「な……そんなっ!?」
抗議する余裕も与えず、彼は美貴子のスラックスに手をかけると、ショーツと一緒に乱暴にずり下ろした。
「申し訳ない。が、私も『ガツン』にやられてしまったらしくてね。どうにも、抑えようがないんだ」
「あ……じゃあ、今のが……」
さっき男性を襲った、見えない衝撃。あれが、美貴子のことも襲った『ガツン』だったのだ。
「でも、わたしは……こんな、イヤぁぁっっ!」
確かに彼女はついさっきまで、逆らいようのない欲求にムリヤリ縛り付けられ、この男性の性器を口にして、その精液を飲み下しながら快感に身を震わせていた。
が、それはあくまで『ガツン』がやらせたこと。その波が去った今となっては、男性の欲望を体に受け入れるなど、彼女には望まぬ行為だった。
「や、止めてください……、お願い……助けてっ!」
「無理を言うものではないよ。『ガツン』に逆らえないことは、キミ自信、身をもって体験したんじゃあないかね?」
まだ体が痺れてまともに動けない美貴子の身体をやすやすとねじ伏せると、男性はそう言って、彼の出した精液と彼女の唾液とでぐちょぐちょに汚れたペニスを、美貴子の中にねじ込んだ。
「ふあっ、あああ……っ!」
美貴子にとってはこれが強姦であっても、ついさっきまで快感に溺れ濡れそぼった彼女の柔肉は、あっけないほど簡単に男の起立した欲棒を受け入れてしまう。
いったん一番奥にまで突き進んだ後、男性は腰をゆっくりと前後しはじめた。
「うう……気持ちいいよ。キミのアソコが、私のペニスに喜んでまとわりついてくるのが分かるようだ」
「そんな……わたし、喜んでなんて……ううぅ」
涙をぽろぽろとこぼしながら抗議するが、男性の動きは止まったりしない。体内をかき回す圧迫感に、美貴子は自分の身体が軋んでいるようにさえ感じていた。
「ああ、いいよ……とてもいい。久絵の胎内(なか)が、こんなに気持ちがいいなんて……」
背後から美貴子を犯しながら、男性は明らかに現実から遊離しているような声で、そんなことを呟く。
上半身のシャツはそのままに、ただスラックスとショーツだけをずり下げてお尻を出した姿で、美紀子は後ろから犯され、泣き叫んだ。
「いや……止めてぇ。それに、わたし……“ひさえ”なんて名前じゃあないです!」
だが、どれほど泣いても、男性が行動を中止するわけではなかった。むしろよりいっそうの力を込めて、彼は美貴子の腰を両手で掴むと、猛りきったモノを自分勝手に彼女の体内に突き入れ、快感を貪っていた。
「何を言うんだ、久絵。こんなにいやらしく濡らして……父さんと繋がることができて、嬉しいんじゃあないのか?」
その言葉に、美貴子はゾッとしながら、息を呑む。“ひさえ”というのが誰の名前なのか、それを理解したからだ。
「助けて……止めてよぅ。……わたしは、あなたの娘なんかじゃ無いのに……ああっ」
彼には、彼女と同世代の娘がいると言っていた。
そう、“ひさえ”とはほぼ間違いなく、彼の娘の名前なのだ。今の美貴子は、その子の代わりに、この男性に犯されているのだ。
「なにをっ!?」
美貴子の台詞に、男の動きが止まる。それに彼女が安堵したのもつかの間、男性は喚くように大声を出し始めた。
「久絵! お前っ、父さんの娘じゃないなんて……なんでそんな事を言ってるんだっ!」
完全に支離滅裂なことを叫びつつ、男性は手を大きく降り上げた。
“パーンッ!”
「ひうっ、うう……っっ!?」
美貴子のお尻に、男性の平手が音を立てて叩きつけられる。
おそらくは、手加減はされていたのだろう。さほどの痛みはなかったが、むしろその大きな音に怯えて、美貴子は身を竦め、悲鳴を上げた。
「う……っ!?」
そんな彼女の反応に、男は声をもらした。
「ああ、久絵。いま、お前の中、父さんのことをすごく締め上げたね。とても、気持ちが良かったよ。
もう一度、やってごらん?」
「いや……あああっ!」
“パーンッ、パーンッ!”と音を立てて、男性客の平手が何度も彼女の臀部を叩く。その度に、彼女の柔肉は引きつるように侵入者であるいきり立ったペニスを締め上げ、男を歓ばせた。
「なんて、気持ちがいいんだ……お前のような娘をもって、父さんは幸せだよ」
うっとりと腰を動かしながら、彼は呟く。そうしながら、少し落ち着いたのであろうか、真っ赤になった美貴子のお尻に気づいて、今度は一転、やさしく双丘を撫ではじめた。
「おや、可哀相に。こんなに痛そうな色になってしまって……でも、久絵が悪いんだよ? 父さんのことを、他人だなんて言うから。──素直にしていれば、気持ちよくしてやったものを」
そんなことをしゃべりながら、男は美貴子の胎内を犯し続ける。
「う……、うう……っ」
叩かれたお尻が、じんじんと疼く。その疼きが、ついさっきまで彼女を支配していた『ガツン』の余韻と同調したのだろうか? 美貴子の体内で、じんわりとした熱が浮かび上がってきた。
「ああ……やぁ、……わたし、イヤなのに……ぃ」
男を拒否する心とは別に、身体が彼の動きを受け入れようとしている。
そのことにまた涙をながしつつ、しかし彼女の秘所は、いつの間にか男性をより深く導こうと液体を滲み出しはじめていた。
「くう……っ、久絵、やっと素直になったんだね。お前のココは、本当に最高だよ」
「ふあっ、あ……、ああ……はあっ」
荒い息づかいの中に徐々に快感の色をもちつつある美貴子の耳に、なにか“ガツンっ!”“ガツン──ッ!”という音が幾つも聞こえてきた。
「ゴメン。お前のこと、今からこの場でレイプするぞっ!」
「あの、突然で申し訳ないんですけど……私のお尻を、犯して頂けませんか?」
店内のあちこちから、現実のものとは思えない声があがる。
「はぁ……ああ、……ん、んっ?」
涙でにじんだ目で、快感にぼやけた頭で、美貴子は周囲の状況を見渡した。
そこにはもはや、まともといえる人間は存在しなかった。テーブルの上で、床の上で、椅子の上で、カウンターの上で──男も、女も、大人も、子供も、皆が絡み合い、声を上げている。
「ああっ、マスターの大きいのが、私の中に入ってるっ……はあっ!」
「ふ……あっ、いいわ。お母さんの胸、もっと乱暴に吸って……ん、ああ」
男の叫び声、女の嬌声が、部屋中に響く。
一人、遠くに視線をやりながらオナニーにふける者。女を犯す男、あるいは男を犯す女。二人がかり、三人がかりで一人を責めているグループもある。
(これって……これが、『ガツン』……)
そう心の中で呟いた美貴子の後頭部を、今日二回目の衝撃が襲った。
“ガツンッ!!”
「ふあっ、あああっっ!?」
瞬間、彼女の中の官能が、突然沸騰したかのように荒れ狂った。ほとんど苦しみとも区別が付かないほどの快感に、全身がガクガクと痙攣する。
「うあ……お父様、もっと……わたしを、突いて……お願い……はああっ!」
「おおっ、久絵、ひさえーっ!」
終着に向け大きく腰を振る男性客に答えるように、美貴子も膣壁を締め上げる。きつくこすれ合う粘膜と粘膜の感触に、彼女は大きな声をあげながら啼いた。
「あ、ああ……イクっ、いっちゃう……はあっっ」
「久絵……出すぞっ。お前の中に、父さんの精子を注ぎ込んでやる!」
テーブルに上体を預けた彼女を押しつぶそうというように、最後に全体重がかけられたひと突きを入れ、男性客は美貴子の一番奥で爆ぜた。
“ドクッ、ドクッ、ドク──ッ!”
「あ、ああ……入ってくる……。お父様の精子が、私の中に、いっぱいに……」
全身を襲う痺れに、四肢をピクピクとさせながら、美貴子は呆然と呟く。身体の中に男の欲望のほとばしりを受け、その事実に陶然とする。
「ふあ……あ、……はあっ、はあ、はあ……」
やがて収縮していた筋肉から全ての力が抜け落ち、美貴子はぐったりとテーブルに寄りかかる。
「はぁっ、はぁっ……久絵、一休みしたら、また可愛がってやるからな」
そんな彼女に覆い被さるように身を重ねながら耳に囁きかける男性客の言葉に、美貴子は畏れと同時に、それ以上の期待で再び熱を持つ自分の下半身を、ぼんやりと感じていたのだった……
──今日もこの町に、ガツンが鳴り響く。
< 了 >