図書室の秘密

 放課後、夕焼けに染まる図書室に七瀬 澄(ななせ すみ)はいた。
 図書委員の当番なのだが、昼休みなどの時間は上級生が取ってしまうため、自然、下級生の澄などは放課後の当番に回されてしまう。
 しかし、それを抜きにしても澄は放課後の当番が気に入っていた。
 放課後、生徒達は皆部活へと言ってしまう。そのため、図書室の利用者は極端に減る。その放課後の図書室の静謐な空気が澄は気に入っていた。
 カウンターへと戻り、持ってきた本を捲る。基本的に貸し出し業務さえしっかりとこなしていれば、カウンターで何をしていようとも文句は言われない。
 澄は大好きな本を好きなだけ読んでいることができた。

「七瀬さん。ちょっと出てくるから、後お願いね」
「はい」

 司書の先生が司書室を出る。そして、澄は図書室に一人きりになった。
 静かな空気。紙やインクの匂いに包まれたその空間は静寂を破ることを許さず、ただひとつ紙を捲る音のみ許される。

「ねえ、これいいかな?」

 突然破られる静寂。そのことに腹を立てつつ、恨みがましく静寂を破った人物を睨む。
 そこには一人の男子生徒が立っていた。男子生徒は澄の恨みがましい目に気づいているのかいないのか、にこやかに微笑んでいた。

「なんですか?」
「ちょっとこれ見て欲しいんだよね」

 そう言って、男子生徒はひとつの本を澄へとつきだした。その本はハードカバーの分厚い本で、表紙にはぐるぐると渦をまいていくつもの線が引かれていた。
 見たこともないその本に弥生は一瞬注意を引かれる。その瞬間を男子生徒は見逃さなかった。突き出された本の下からすごい速さで澄の頸動脈を押さえる。

「かはっ」

 澄の口から息が漏れる。突然絞められ、澄は混乱する。そして、男子生徒は本を更に近づけ、混乱した澄の視界を塞ぐ。とにかく首を絞めた手を外そうと両手でその手をつかみ抵抗をする。だが、まるで万力で押さえられているかのように男子生徒の手は外れなかった。

「さあ、これを見ているとだんだんと頭がぼぅっとしてくる。頭がぼうっとして何も考えられなくなっていく」

 だんだんと澄の抵抗が弱くなっていく。頸動脈を押さえられ、澄はまともな思考ができなくなっていった。

「ほら、これに吸い込まれていくだろう。これはお前の思考を奪っていくんだ。ほら、どんどんどんどん、頭が吸い取られていく。何も考えることができない。ぼうっと気持ちよくなっていく」

 男子生徒は本を少し離し、ぐるぐると回転させる。澄の視線は既にそれからはなす事ができなくなっていた。

「もう身体に力が入らない。何も考えることができない。お前の意識は全てこの本に吸い取られてしまった。だからお前の身体は動くことができない」

 断定する男子生徒。その言葉に絡め取られるように澄の抵抗は止み、ずるりとその手は重力に引かれていった。
 それを確認すると男子生徒は首から手を放し、すっと澄の瞼を閉じさせる。

「さあ、目を閉じると、あなたはすうっと気持ちよくなっていく。とても気持ちいい。とても気持ちがいいからずっとこのままでいたい。このまま私の声を聞いていれば気持ちよくなれる。気持ちよくなりたいから、あなたは私の言葉を聞いてしまう。まずはこのままでいよう。そうすればとても気持ちがいい。次の指示があるまでこのままでいよう」

 畳みかけるように男子生徒は言葉を重ねる。そしてようやく、男子生徒は澄から離れた。澄は口から涎を垂らし、力無く椅子の背もたれへと身体をもたれかける。型の所できられたおかっぱの髪は大きい背もたれに散らばり、制服に包まれた慎ましやかな、否、ふくらみのない胸はそれでも呼吸に合わせて上下する。
 そんな澄の姿を見て、男子生徒は愉悦に笑みを深くした。
 男子生徒はぐるりとカウンター内へと入る。そして、澄の身体をゆらしはじめた。

「ほら、身体が揺れていると、不安も何も消えていく。ずっとこうしていたくなる。そして、この気持ちよさを更に求めていく。ほら、どんどんどんどんあなたはこの気持ちよさの中へと沈んでいくよ」

 男子生徒はしばらく澄の身体を揺らす。そして頃合いを見て澄の目の前に先程の本を置き、再び澄に話しかけた。

「さあ、目を開けて。でも目を開けてもこの気持ちいい状態は変わらない。変わらないまま目を開いて前を見れるよ。さあ、目を開いて・・・」

 男子生徒はそっと澄の顔を押さえて、視線を固定する。男子生徒の声に誘われ、閉じられていたその瞳がゆっくりと開かれる。そして、その視線の先には分厚いハードカバーの本が鎮座していた。
 先程と同じ奇妙な柄の表紙、男子生徒がその表紙を捲ると―――不思議なことにその本には何も書かれていなかった。

「なにがみえる?」
「ほ・・ん・・・」
「本があるね。その本は君の意識が吸い込まれたものだ。だから、その本に書かれていることは全て君にとって正しいことなんだ。正しいのだから、それを疑うことはないよ。それと、君の鍵を預かる。君の鍵を開けると、君は再びこの気持ちいい世界にくることができるよ」

 チャリンと音を鳴らし、自らの自転車の鍵を見せる。そして、いくつか本に書き込みをして、図書室を出て行く。

「俺が図書室を出て行くと、あなたはいつものあなたへと戻ります。目の前にある本は大切なものだから、大事に持っているんだよ。いつものあなたに戻ると今あったことは心の底にしまって、普段は思い出せない」

 そこまで暗示を入れて、男子生徒は出て行こうとする。そこで男子生徒はあることに気づいた。

「あ、そうそう、君の名前は?」
「ななせ・・・すみ・・・」
「すみちゃん。そう、またねすみちゃん」

 そう言って、男子生徒は図書室を今度こそ出て行った。それに伴い、澄の意識が覚醒する。

「あれ・・・・?」

 澄はぼうっとした頭を覚醒させるようにぶるぶると首を振り、パンと頬を叩く。そして、目の前に置いてある本を大事そうにぎゅっと抱きしめてから鞄に入れる。

「おまたせ。何か変わったことあった?」

 ちょうどいいタイミングで司書が戻ってくる。更にちょうどいいタイミングで下校時刻になった。

「なにもなかったですよ。じゃあ、下校時刻なので、私帰りますね」
「ええ、来週もよろしくね、七瀬さん」

 澄は司書に礼をして、図書室を出て行った。

「ふぅ、間にあったぁ」

 私は息を切らせて図書室のドアを開いた。カウンターへと入っていき、鞄を椅子の下に置くと、椅子に座る。
 掃除が長引いたせいで危うく遅れるところだった。せっかく、ショーツを脱ぐ時間も計算に入れていたというのにおかげでショーツを脱ぐのを諦めざるをえなかった。
 カウンターにつくときょろきょろと辺りをうかがう。幸いなことに図書室には誰もいない。今の内とばかりに腰を上げてショーツを脱ぐ。そのショーツを鞄の上におとして、気持ち足を拡げる。
 その開いた足の間、付け根の辺りに刺激が走る。びくんと身体が跳ねかけるが、それを何とか抑えることができた。
 思わず、カウンターの下にいる人を睨みかけるが、カウンターに座っている時は股をいじってもらうのが図書委員の勤め。中の人を責めるのはお門違いだ。

「ぃぅっ」

 敏感なところをさわられて、思わず声が出てしまった。
 いけないいけない。図書委員の仕事はほかの利用者に気づかれちゃいけないんだ。気づかれないように頑張らないと。
 うん、と気合いを入れて、図書委員の業務に戻る。

「ぁぅっ」

 鼻から空気が漏れる。ぞくぞくとした感覚が私の身体を走り抜ける。びくっびくっとその度に私の下半身が跳ねてしまう。幸いなことにカウンターの外からは上半身しか見えないので上だけ取り繕っていれば気づかれる心配はなかった。
 下半身に熱がこもり、股の間から熱い液体が溢れ出すのを感じる。私の中をいじる音にチュプッと水っぽい音が加わっていく。それと共にわたしを襲う感覚も激しくなっていく。

「あぅっ、ぅぁっ、はぁっ」

 誰もいないことを確認してしまったせいか、あっさりと声が漏れる。

「ひあぁっ、ひぅっ、はあぁぅっ、あああっ!!」

 声が漏れてしまうと、後は早かった。声はだだ漏れとなり、身体は刺激から逃げようとしているのか、それとももっと刺激が欲しいのか、勝手に動く。
 そして、その動きが更に私へと刺激を送り、快楽に頭を塗りつぶされていく。
 呼吸が短く、速くなる。ビクンビクンと身体が跳ねて、私は何も考えられなくなる。

「もっと、もっとぉ」

 知らず、声が出た。
 私・・・なにを・・・

「はあぁっ!! ああっ!!」

 内容を鑑みる間もなく、私は次の快楽に流される。上半身もはね回り、既に気づかれないようにと言うのは私の頭の中から消えていた。
 そして、一番の衝撃が来た。

「ぁぁっ・・・・・!!!」

 全身の感覚が一斉に快楽を告げる。毛穴という毛穴がきゅっと閉じて、針が全身に刺さったような刺激が私を襲った。
 体中の筋肉が収縮して、ピンと伸びていく。その快感が通り過ぎた後、一気に脱力して背もたれへと寄りかかった。

「ねえ、大丈夫?」

 かけられる声。その声に目を覚ます。目の前には一人の男子生徒。
 私・・・・。
 何があったかを思い出す。
 そうだ。図書委員の仕事の最中に・・。
 顔が熱くなる。目の前の男子生徒に先程の自分の痴態は知られていないかどうか気になってしまう。

「大丈夫? 保健室行く?」
「あ、いえ。大丈夫です」

 心配そうにのぞき込むその先輩の言葉を辞し、逆に笑顔で応対する。

「それで貸し出しですか?」
「あ、そうそう。これをね」

 そう言って先輩は一冊の本を取り出す。その本の裏表紙を開いて、そこにある図書カードを引き抜く。そこに名前とクラスを書いてもらい、判子を押す。それをクラス毎に分けられた棚に入れる。貸し出しカードに返却日の判を押し、図書カードの代わりに本の後ろに入れる。
 そして―――。
 この先行わなければならない事に対して羞恥心が私に満ちる。これは仕事なんだ、恥ずかしいことはないと自分に言い聞かせるが、そんなことで羞恥心が消せるのならばこんなに困ることはない。
 私はうつむいたままカウンターを出て、先輩と向き合う。

「あの・・・その・・・」

 どうしてもしなければならない。それが図書委員の仕事なのだから。だけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。もじもじと指を組み合わせて、上目遣いで先輩を見る。
 先輩は私が何をしなければいけないのかを知っている。だから、こんな風に私が動かないのに困っていた。ぽりぽりと頭をかき、私をじっと見つめている。
 その仕草がどうしようもなく私に重圧をかけてくる。もちろん先輩は意識なんてしていないだろう。だけど、それが私にどうしようもないほどの罪悪感を感じさせた。
 ぎゅっと目を瞑り、覚悟を決める。きっと私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。

「あの・・・貸し出す際に・・・貸し出し者の精液を・・飲むことになって・・・・いますので・・・・失礼します」

 そっと先輩の前に跪く。かちゃかちゃとベルトを外し、ズボンを引き下ろす。下着の下から出てきた初めて見るものに私は身体を緊張させる。
 そっと、そっと。
 失礼のないようにその棒をさわる。

「あ・・・・」

 熱い。そして、さわった瞬間にびくっと動いた。
 その反応に手を放し、気を取り直して再び触る。
 しかし、触ったのはいいものの、この後どうすればいいのか全然わからなかった。
 助けを求めるべく、先輩を見上げる。先輩は私のこの仕草に困ったような顔を更に困らせた。

「わからないの?」
「・・・・・すみません」

 先輩の問いに素直に答える。はあと大きなため息を吐く先輩。

「じゃあ、まずは唾液を垂らして」

 先輩の言葉に従い、口の中に唾液を溜める。それを目の前の熱い棒に向けてつうっと垂らす。唾液は舌の誘導に応じて糸を伸ばしながら棒へと落ちる。

「次に棒をこするんだ」
「は、はい・・・」

 恐る恐る、と言った表現がぴったりなほどゆっくりと棒をこする。こんな所は誰にも見られたくはない。速く終わらせたいのだが、未知のものへの恐怖心がそれを許さない。

「もっと、もっと速くても大丈夫」
「はい・・・」

 こする速度を速くする。先輩のその棒はどんどん熱くなり、堅く大きくなっていく。
 あれ?
 最初に垂らした唾液はとっくに乾いているのに、何故か棒からは水気が引かない。むしろ、水気が多くなり、ネチャネチャと言う音に変わっていく。

「そろそろ、それを舐めるんだ」
「え・・・・」

 先輩の言葉に動揺を隠せない。
 目の前のものを舐めるだなんて・・・・。だけど、それが図書委員の仕事なのだから、やらなければならない。
 でも・・・・
 そっと先輩を見上げる。先輩は先輩で私を見下ろしていた。その瞳は困ったようにふらふらと動く。
 そうだ。私は図書委員。私がしっかりしないと先輩も困ってしまう。恥ずかしいけど仕方がない。私は図書委員なんだ。
 先輩の棒を両手で挟み、そっと顔に近づけていく。
 熱を持った先輩の棒。その先を啄むようにぺろっと小さく舐める。ちょっとずつ、ちょっとずつ、アイスを舐めるように舐めていく。

「そう・・・・そう。今度は根本から上まで・・・・そう」

 言われた通り、棒の下から先の方まで舌で伝う。先輩の指示に従い、袋や上側など棒全体を舐め回す。
 大切に、痛くしないよう、細心の注意を払いながら、大胆に先輩のものを舐め上げていく。

「そろそろ・・・いいかな? じゃあ、それを口にいれて」
「・・・・・」

 先輩の言葉に舐めていたものを放して先輩の棒を見る。それは私の唾液にまみれ、夕日を受けててらてらと輝き、そしてびくっ、びくっと動いていた。
 ごくりと喉を鳴らす。
 緊張に喉が張り付き、声も出せない。目の前のものが自分の口に入るのかどうか、疑問が走る。

「どうしたの?」

 だが、そんな疑問を考えてはいけない。私は図書委員の作業をしているのだから。
 覚悟を決めて、大きく口を開ける。堅く、大きく張りつめたその棒を包み込むように飲み込んだ。

「うぇっ、かはぁ」

 奥に突き込み過ぎて、喉を刺激してしまう。こみ上げてくる嘔吐感に思わず、口を放してしまった。

「ごほっごほっ」
「大丈夫?」
「ごほっ・・・だいっ・・じょうぶっ・・・です」

 先輩の心配そうな表情。私はそれに無理矢理作った笑顔を返す。
 気を取り直して、もう一度棒を口に含んだ。

「んっ・・・んっ・・・」
「そう、そうやって、頭を前後に動かして・・・そう」

 先輩の言葉にあわせて、頭を前後に動かす。口の中の違和感や開けっ放しの口の感覚に思わず閉じそうになる口を頑張って開く。
 徐々に頭を動かすスピードを速くする。下手に喉をつかないように気を使う。先輩の顔色をうかがい、気持ちよくなってもらうように頭を動かす。

「もっと、もっと」

 その言葉に従い、もっとスピードを速くする。自分にできる限界の速度。先輩の腰を掴み、懸命に頭を振る。
 慣れてきたこともあり、スムーズに頭を動かす。
 だが、先輩はそれで満足していなかった。

「んむっ」

 唐突に頭を捕まれる。そして、その混乱の覚めやらぬ内に喉の奥まで一気に突き込まれた。

「ごほぉ」

 喉の奥からわき上がる嘔吐感。先輩はそんな私を気にもせず、ズンズンと腰を動かす。奥に突き込まれる度に嘔吐感がわき上がり、私はそれどころではないが、先輩は気持ちいいのかそんな動きをやめてくれない。
 嘔吐感に目の端に涙が溜まる。こんな事が本当に気持ちいいのだろうか?

「そろそろだすよっ」

 せっぱ詰まった先輩の声。その声に終わりが近いことを知る。
 あとちょっと。
 あとちょっとで終われるんだ。
 そう思うと、何とか頑張ることができる。

「吸って!!」

 声と共に一層深く突き入れられる。
 先輩の声に従い、私は力の限り吸い込む。次の瞬間、私の口の中に苦く、しょっぱいような味がねっとりとした感触と共に拡がる。
 これが精液・・・?
 口の中に拡がるものについて考えていると、先輩は先程の姿は見る影もなく小さくなったものを私の口から引き抜くとかちゃかちゃとズボンにしまう。
 その行動で、これが精液だと考え至る。
 でも・・・・これを飲むのね・・・・ううん、飲まなきゃ。これが図書委員の仕事だもの。
 味や感触から想像される飲みにくさと気持ち悪さを覚悟で凌駕して、一気に飲み込む。
 口に拡がったものを必死に嚥下して、先輩と向かい合う。

「どうも・・・ありがとうございました・・・・これで貸し出しは完了です。返却日を守って・・・ください」

 返却時に行われる作業を思い、顔を再び赤く染める。
 返却時には・・・・今のを・・・

「うん、返却時には君の中に入れるんだよね?」
「は・・・はい・・・・」

 わかっているくせにわざとらしく聞いてくる。
 恥ずかしくなって、私は急いでカウンターに戻り、下を向きながら本を差し出す。
 先輩は本を受け取ると、私の耳に囁いてきた。

「いいかい。今から君にの鍵を開くよ」

 え?
 その言葉に思わず顔を上げる。その目の前に鍵を構えた先輩の手があった。
 先輩の手は私の胸へと伸びていき・・・・
 カシャン
 鍵の外れるような音が聞こえたような気がした・・・・

< 了 >

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