02:たな
「おはよー委員長」
「おはよう」
「いいんちょやほー」
「おはよう、ちゃんと挨拶なさい」
「いんちょちー」
「おはよう、あなたは日本語をちゃんとしなさい」
次々とかけられる挨拶に一つ一つ返していく。何時もの朝の風景だ。当然の事とは言え委員長と呼ばれるのに嫌悪感を覚える。確かに私はクラス委員をしているが、別に代表委員会の委員長ではない。そもそもクラス委員だって本当はやりたくなかった。クラス委員を決める時に去年もやったからとかいう理由で押し付けられた。
クラス委員なんて面倒な事は内申狙い以外の理由では他の誰もやりたがらない。結果、内申を狙う者がいないと推薦という名の押し付け合いに発展するのだ。やりたくないと言っても通らず、他の誰かを犠牲にあげようとしてもその他の誰かと私を比べてどちらがやった方がいいかなんて言うのを決めるのは私ではなくその他の誰かでもなく安全な所で見ている第三者だ。結局、私が挙げた誰かより私が選ばれた。
とても面倒だけどサボったりする事は出来ない。内申が悪くなるからだ。わざわざプラスは欲しい訳ではないけどマイナスにして欲しい訳でもない。大体の人はこういう感じでやりたがらないのだ。
去年だってやりたくてやった訳ではない。立候補してクラス委員をしていたクラスメイトが事故で意識不明の重体になったのだ。何時目覚めるかもわからないその子の代わりに私にお鉢が回ってきただけである。今尚眠っている加山さんには悪いけれど、事故になんか遭わないでもらいたかった。聞けば交通事故ではなく家で変に頭を打ってしまっただけだとか。一度だけお見舞いに行ったけれど、こっちの苦労も知らないで気持ちよさそうに眠っているその姿を見て殴ってやろうかとも思った。
そもそも加山さんは明らかに問題児の側だと言うのにクラス委員になって何がしたかったのだろう? 彼女は普段から誰かと一緒に騒いでいるイメージしかなかった。その相手は名瀬さんだったり、秋津君だったり佐藤さんだったりと様々だった。それにしてもあのおとなしい佐藤さんが加山さんと仲が良いというのも全然わからない。彼女は加山さんに何を見ていたのだろう? あそこの件であんなにも馬鹿にされていたっていうのに。
……思い出したら腹が立ってきた。あの時も加山さんと名瀬さんが悪ノリをして授業時間が減ってしまったんだった。加山さんには本当に悪いと思うけど、こうして加山さんが眠ったままでいてくれると学校が平和で助かる。
「おはよう、高見」
「おはよう、秋津君」
とは言え、常識的に考えてこんな事は口が裂けても言う事はできない。加山さんにだって心配してくれる人はいるんだから。
秋津君と加山さんは幼馴染と聞いた。家が隣だとも。小学校に上る前からの付き合いらしい。それに佐藤さんも秋津君に比べると短いけど小学校の頃からの友達だと言うから当然佐藤さんも心配しているだろう。私にとっては迷惑だけれども、早く佐藤さん達を安心させてあげなさいとも思う。
「あ、秋津君」
「ん、なに?」
「加山さんの様子はどうかしら?」
「どうもこうもいつも通り眠ったままだよ。何、高見も和海の事心配してるの? 割と迷惑かけてたような気がするけど」
「クラス委員として把握しておくべき事よ。例え、押し付けられたクラス委員だとしてもね」
嫌味を言ってしまった。秋津君には何の非もないのに。
「あはははは、高見らしいわその生真面目な所。流石は鬼の風紀委員って所だな」
「……今の私はクラス委員よ」
去年、加山さんが事故に遭う前は私は風紀委員をやっていた。クラス委員は面倒だけれども何かしらの委員会活動はやりたかった。そこで選んだのが風紀委員だった。風紀委員の業務内容と私の性格に合っていたからだ。
糞真面目と陰口を叩かれてるのは知っている。だけど、この性格は生来の私の性分で変えようがない。言いたい人には言わせておけばいいのだ。
「あー、悪かったな。和海のせいで」
「別に秋津君に謝ってもらう必要はないわ。悪いのは加山さんじゃない」
「まあ、そうなんだけどな。このアホは何だって部屋の中でラジオ体操なんてやったんだか。しかも、そのせいで滑って頭を打つとか意味不明すぎる」
「……」
ラジオ体操って……本当に何をやってるのかしら。私は他の人の気持ちを慮るのは苦手だけど、加山さんの思考回路は一生わからない気がする。
「にしても、高見ってそんな性格で息がつまらないか? もっと息抜きすればいいのに」
「ご心配なく。ちゃんと息抜きはしてるわよ」
「マジで!? 高見の息抜きとか結構興味あるんだけど、どんな事してんの?」
「どんな事って……『オナニー』」
「は?」
え? 私、何を言ってるの? 秋津君、困惑してるじゃない。
「『オナニーよ、オナニー。自慰。わかる? あたし、オナニーが大好きなの。気持ち良い事大好きよ』」
「そ、そう……」
ああもう、口が止まらない。確かに私はオナニーが大好きだし、気持ち良い事も大好き。息が詰まりそうなクラス委員の仕事の合間にオナニーするのはとても気持ち良いから息抜きに丁度良いんだけど、それをなんで話しちゃったかな? 秋津君が凄く引いてるのがわかる。
顔が熱くなるのを感じる。きっと真っ赤になってるんだろうな。
「あれー、敦に珠、なにやってんのー?」
その時、名瀬さんが声をかけて来た。びくっと体が震える。オナニーを息抜きって言ったの聞かれてないかしら?
思い出すのは去年の夏の事件だ。あの時は加山さんも居たけれど彼女も騒いでいたのは紛れもない事実だ。私が息抜きにオナニーをしてるなんて聞いたらすぐにクラスで広まるだろう。流石にそれは避けたい。そんな目にあったらきっと私は学校に行けなくなるだろう。
名瀬さんに気付かれない様に、そっと秋津君の袖を引く。
「秋津君、さっきの話は聞かなかった事にしてくれる?」
「ああ、別にいいよ……和海のせいだし」
「ありがとう」
快く頷いてくれた秋津君に感謝し、名瀬さんへと向き直る。
「おはよう、名瀬さん。秋津君には加山さんの様子を聞いていたのよ」
「あー、和海かー。あいつもいつまで寝てんのかね。和海がいないと張り合いがないんよねー。敦ー、あんたも旦那なんだったら叩き起こしてよ」
「俺は和海と結婚してねーよ。勝手に夫婦にすんな」
笑いながら名瀬さんの言葉を否定する秋津君。確かに彼はまだ結婚できる歳ではないけど、二人セットで考えてしまう気持ちはよく分かる。加山さんが事故に遭うまではお手洗いや男女別の授業時以外、秋津君と加山さんが離れていた記憶はない。休み時間は常にどちらかの机にいたし登下校も必ず一緒だった。多分、この学校の九割九分の人が二人は付き合ってると考えているだろう。残りの否定派は本人達だ。
あれだけ一緒に居て、更に呼吸が合っている二人が付き合っていないなんて誰も信じない。小学校から一緒と言う佐藤さんですら付き合ってると思ってるだろう。
「はいはい、おつおつ。そんなのいいからさっさと起こしてよ。あーし一人だと本当につまんないんだから」
「名瀬、和海以外にも友達いただろ。そっちと遊べよ」
「いや、遊んでるよ。遊んでるけどさー、和海がいないとどうにも盛り上がらないんだよね。みんなギリギリを攻めれないからさ、あーしだけだと真里せんせーに怒られるし」
「いや、和海が一緒でも怒られるだろ」
「そうだけどさー。一人で怒られるのと二人で怒られるのは全然違うわけよ。仲間がいる安心感っていうの? わっかんないかなー?」
そういう話はわからないでもない。集団心理で皆がやっているから自分がやっても悪くない、安心できるという話だろう。自分だけが悪くないから普段は出来ない事もやれてしまう。
ただ、わからないでもないが理解はしたくない。悪い事は誰とやっても誰がやってもどんな人数でやっても悪いのだ。例え、誰もが息抜きにオナニーしててもオナニー自体は恥ずかしい事だし、誰かに知られるのはとても恥ずかしい事だ。重ね重ねさっきの私はどうしてそんな事を伝えてしまったんだろう。
「『ナナナは相変わらずだなー』……っ!?」
「今ナナナっつった?」
ぎろりと名瀬さんに睨まれる。底冷えのする声。
「い、言ってない。言ってないよ」
慌てて否定する。また勝手に口が動いた。
「そうだよ、誰も言ってない。っていうか、誰が名瀬の事をそう呼ぶんだよ。和海との喧嘩を知らないやつはこの学校にいないだろ?」
諭すように秋津君がフォローをしてくれる。その手は頭の一部を押さえていた。
名瀬さんはナナナと呼ばれるのを心底嫌う。なんでかは聞いた事ないけど聞いても多分教えてくれないだろう。それほどに嫌なのだ。それは仲が良い様に思えた加山さんとの大喧嘩でも知られている。
あの喧嘩は酷かった。女性とは思えないような取っ組み合いとそれに付随する周りの被害が。止めに入った秋津君は逆に殴り倒され、割れたガラスなんかは流石に入れ替えたけどへこんだ掃除用具入れとか足の曲がった机とか、まだ使えるという理由でそのままな所は学年の終わりまでそのままだった。新年度になって入れ替えたとは聞いたけど。
そして、殴り倒された秋津君は頭を割ってしまい、血を撒き散らして倒れ病院へ搬送、そのまま頭を十針縫う手術をしたと聞いた。
あの喧嘩は生徒達の間で伝説となり、中心人物である加山さんと名瀬さんは揃って二週間の停学になった。
以来、名瀬さんへのその渾名は禁句である。
「誰も言ってないならいいけど……」
納得いかないような顔をして名瀬さんは一人で校舎へと入っていく。その後姿を見届けて私と秋津君は肩を撫で下ろした。
「秋津君、ありがとう。誤魔化してくれて」
「ああいや、それはこっちのせいでもあるし」
秋津君にお礼を言うと、彼は何故か気まずそうに目を逸した。
「それにしても何だったのかしら、口が勝手に動いた様な……『あたしは自分の口が勝手に動くことに疑問を覚えない』……?」
……まあいいか、口が滑るなんて言葉もあるし勝手に口が開く事もあるでしょう。
「ほら秋津君、私達も教室に急ぎましょう」
「ああそうだな。それはそうと高見、放課後俺につきあってくれね?」
放課後? 何処かに出かけるのかしら?
でも放課後かぁ、今日は塾があるのよね。秋津君には悪いけど、断らせてもらおうかな。
「ごめんなさ『別にいいわよ』……じゃあ、放課後教室で待ってればいい?」
……まあ、一日くらい塾をサボってもいいわよね。その分は家でちゃんと勉強すれば良い訳だし。
そう聞くと、秋津君は頭をガシガシと掻きながら困った風に考え込んだ。
「あー、教室でもいいけど人目につくのもなぁ……佐藤の時もよくバレなかったと思うし。高見、どこかいいとこないかな? 人目につかずに声をあげてもあまり気づかれない場所」
人目に付かないで声を上げてもあまり気づかれない場所? 何だってそんな所に行くのかしら? まるでいかがわしい事でもやるみたいに……でも、付き合うって言っちゃったし断る訳にもいかないわよね。
でもそうなると何処が良いかしら? 人の来ない旧校舎なんて言う都合のいい代物はうちの学校にはないし、体育館や格技棟は部活で埋まってるし、グラウンドも今日は陸上部だったかな? テニスコートも当然テニス部が使ってるし、校舎裏なんてものはなくもないけど道路に面してるからむしろ人目につくし……
「ん? ああ、確かにあそこなら人目につかないか……でもどうやって入るんだ? わかった、じゃあ頼むな」
ハンズフリーで誰かと電話しているのか、秋津君は独り言の様に話して此方を見た。
「場所が決まった。プールだ」
「プール? 確かにこの時期誰もいないでしょうけど、入ったら風邪引くわよ?」
沖縄とかならまだしも、ぎりぎりでも桜の花も残っているこの季節、プールなんて入ったらよくても風邪、下手すると低体温症や心臓麻痺だってあるかもしれない。というかそもそもこんな時期に水着なんて持ってきてない。
「ああ、違う違う。プールっていうかプールの更衣室だな」
「更衣室ならいいけど、どうやって入るの? 鍵がかかってるでしょ」
「それに関しては俺に任せておけ。高見は放課後プールに来てくれればいいから」
「任せておけって、今電話してた誰かに頼むんでしょ」
自信満々に言う秋津君に冷静に指摘する。秋津君は私の指摘にあははと笑った。
「ばれたか」
そう言って秋津君はまた頭を掻いた。
「まあ、そう言う訳で別に高見が気にする必要はない。掃除が終わったらプールに来てくれればいいよ。あ、もちろん誰にも気付かれないようにね」
「わかったけど……校則とか大丈夫なの?」
いくら学校施設であろうと開放されてない所に勝手に入るのはダメなのではないだろうか? 内申にマイナスな事を書かれるのは困る。
「まあ、その辺りも大丈夫だろ、多分」
「ちょっ、多分って!? それは困『らない』……わね」
あれ? 私何を焦ってるのだろう? 別に内申にマイナスな事を書かれても困らないわね。だって、それは事実だし。私が秋津君に付き合うと決めた以上、その結果が内申に響いても仕方ない。そうなったらそうなったで行ける学校に行くだけだわ。そのために勉強もしてるわけだし。
「わかった。じゃあ、放課後にプールに行けばいいのね。誰にも見つからずに」
「ああ、誰にも見つからないようにだけ頼むわ」
そう言って教室に入った秋津君は中にいたクラスメイト達に声をかけながら自分の席へと進んでいく。
その姿を見届けて、私も教室の中のクラスメイト達へと声をかけていった。
放課後、私はプールへの道程を歩いていた。グラウンドでは陸上部、テニスコートでは当然テニス部、格技棟では剣道部と柔道部が精を出している声が聞こえてくる。みんな自分たちの練習に一生懸命だからこっそりと歩いてる私のことなんて誰も気付かないだろう。一人くらいには気付かれるかもしれないと思っていたけど、幸い誰にも声をかけられずにプールへと辿り着けた。
一見すると今までと何も変わらない扉。綺麗に閉じられているそこはまだ掃除してないのかドア枠には苔も見えた。その扉を開けようとして気づく。
「声……?」
中から声が漏れ出ている。それ自体は問題がない。だって秋津君が先に来ているって話だったし、一人でも電話をしてる可能性だってある。問題はその声が秋津君の他にもう一人居る事だった。
「この声……名瀬さん?」
私の他に名瀬さんにも声をかけたのだろうか?
それにしてもなんで名瀬さん? 秋津君は一体私達に何をさせるつもりなんだろう?
ぐるぐると疑問が頭を巡るなか、私は更衣室のドアを開けた。
「うぇっ、珠っ!?」
名瀬さんは私の登場に顔を顰めた。私と名瀬さんは別に仲が良い訳ではない。もちろん見かければ挨拶くらいはするし、話しかけもするけれど、特に二人で遊びに行くとかそう言う事はない。ただのクラスメイトだ。私もそうだけど、名瀬さんも私がこの場に来るなんて全く思ってなかったのだろう。
「ちょっと、聞いてないんだけど?」
名瀬さんはじろりと秋津君に詰め寄る。一体秋津君は名瀬さんをどういう風に誘ったのだろうか?
それなりに迫力のある名瀬さんを前に秋津君は余裕を崩さない。
「もう一人来るって言っただろ?」
「もうひとりって珠の事なの!? あーしてっきり幸子を二人でいじめるんだと思ってたんだけど!?」
「なんでそうなるんだよ」
「3Pやろうって言われたらそうなるっしょ? 和海がいれば和海だろうけどさ、それ以外に敦が誘えるのってゴリ押しで突っ切れそうな幸子しかいなくない?」
そう捲し立てて言う名瀬さん。3P……私も年頃の女の子なのでその言葉の意味がわからない訳ではない。訳ではないが、臆面もなくそう言われるのは抵抗を覚える。
「秋津君……用事ってこれ?」
じろりと秋津君を睨む。その視線を受けて秋津君は怯む所か口の端を上げ挑発的な笑みを見せた。
「そうだけど、なにか問題あるか?」
「……ないわね」
「はぁっ!?」
そう、何も問題はない。だって、私は今日は秋津君の用事に付き合うって言ったから。それがどんな用事だったとしても、それは私が文句を言う事ではない。だって言うのに名瀬さんはなぜか驚いていた。
「どうしたの名瀬さん? そんなに驚いて」
「どうしたのじゃないわよ! あんたほんとに珠? 去年アレだけ騒いでたくせに」
「鬼の風紀委員だもんな」
「ああ」
名瀬さんと秋津君の言葉に納得する。確かに私は去年風紀委員として、事ある毎に取り締まっていた。そのせいで秋津君の言う通り『鬼の風紀委員』として揶揄されたりもした。その頃の私を知っていると今の私の発言は真逆の事を言っているのは確かにそうだ。
でも……
「別におかしい事じゃないわよ。秋津君に用事を頼まれて、それを承諾したんだから、それがどんな用事でも付き合うのが正しい事でしょ?」
「は? 何言ってんの? あんた頭おかしーんじゃない? 理解『できる』んですけど……あれ? 別におかしー事……言ってないわよね?」
「ああ、何もおかしい事言ってないな」
名瀬さんは首を傾げて秋津君に問いかけ、秋津君はそんな名瀬さんの姿をとても愉しそうに見ていた。
「そう……だよね。でも、それはそれとして珠って処女じゃないの? ちゃんとできんの?」
「確かに私は処女だけど、『ナナナよりは上手いよ』……っ!?」
しまった、また口が滑った。名瀬さんにその渾名は禁句だって言うのに。もはやオーラとも言えそうな威圧感が名瀬さんから発せられる。恐る恐る見ると、名瀬さんはいつか見たようなもの凄い形相で睨んでいた。
「へぇ……なんかとても面白い言葉が聞こえた気がしたんだけど……珠さ、あーしが嫌いな言葉知ってるよね? あーしさ、『ナナナって言われるとイッちゃうんだよね』……え?」
「ナナナ」
「ーーーーーっ!?」
秋津君が名瀬さんの耳元で囁いた瞬間、名瀬さんは体を震わせた。いくら私が処女だからってオナニーの経験がない訳ではない。むしろ委員会活動の合間にするくらいにオナニー好きだ。なれば今名瀬さんの身に起こっている事も当然わかる。というか、わからないのは快楽を貪った事のない子供達だけだろう。
名瀬さんはイッたのだ。自分で言った通りに。
名瀬さんは体を震わせ、口から喘ぎ声を零し、脱力してぺたりと座り込んだ。そして数秒、飛ばしていた意識が戻った名瀬さんは自身に起こった事を理解していないのか呆然としたまま私を見ていた。
「名瀬……さん?」
恐る恐る声をかける。
「ふぇ……」
パチパチと目を瞬かせて、名瀬さんはこっちへと戻ってきた。
「珠! あんたねぇ! って、あれ!? なんでっ」
意識は戻っても体はまだ治りきっていないのか、名瀬さんは立ち上がろうとして力が入らず体勢を崩した。倒れそうになった名瀬さんは慌てて手をついて四つん這いになる。名瀬さんのこんな姿を見るのは初めてだ。
「それでさ、今日は名瀬の体で遊ぼうと思うんだけどどうだ?」
「はぁ!? 敦、あんた何言ってんの!?」
「まあ、私は秋津君に付き合うだけだから別になんでもいいけど、私そう言う趣味はないんだけど? それに名瀬さんも嫌がってるみたいだし」
「珠も! これ、おかしいと思わないの!」
「ほら」
こんなに名瀬さんが嫌がってるのにやるのは気乗りしない。そもそも、私はオナニーは好きだけど所詮処女、秋津君に付き合うと言ったもののこんな時にどうすればいいのかよくわからない。
「大丈夫大丈夫、名瀬はこうした方が好きなんだから。そうだろ?」
「んなわけっ『そうだよ、あたしはムリヤリされると感じちゃうの。だから、あたしは命令されると体が勝手に従っちゃう』って、あーし何言ってんの!?」
「ほらな? 別に名瀬はこうした方が感じるからこうしてるんだよ。イメージプレイってやつだな」
秋津君からよくわからない言葉がでる。まあ、ニュアンスはだいたい分かるけど。
「つまり態とって言うかそう言う設定で演技してるって事よね。でも、私はどうしたらいいの? 『あたしは喘ぎ声を聞くと興奮しちゃうんだけど』」
「どーもしねーでいいよっ! あーし帰るからっ!」
「まあ待てよ、名瀬。とりあえず落ち着いてそこのロッカーに手をついて尻を見せろ。そしたら、いいって言うまでそのままな」
「はぁっ? 何言って……ってっ! ちょっ、なんでっ」
怒って立ち上がった名瀬さんは秋津君に言われた通りにロッカーに手を付きお尻をこっちに向けた。ロッカーに手をついた後になんとか逃れようと動いているのは本当に演技なのだろうか?
「ほら高見、名瀬に触ってみ。面白いのが見れるぜ」
秋津君がそういうのでスカートに包まれた名瀬さんのお尻に恐る恐る指を伸ばす。
「ちょっ、まて、珠、んぅっ!」
胸と比べてかなり大きい名瀬さんのお尻は帰宅部とは思えないほどに引き締まっていて、確かな張りを喘ぎ声と共に指に返してきた。
「んで、こんなっ……」
名瀬さんは自分が上げた喘ぎ声が信じられないのかその貌を驚愕に染めていた。
「おとなしいな高見は。もっとこう触っていいのに」
「ひぃぅっ!」
秋津君が私の手を取り、名瀬さんのお尻に押し付ける。名瀬さんのお尻と自分の手の間に私の手を挟み込み、私に揉ませる様に名瀬さんのお尻を撫で回した。
「あっ……んぅっ、やっ、あんっ」
円を描くように名瀬さんのお尻を捏ねくり回す。それだけでかなりの快感を得ているのか名瀬さんの体が跳ね回る。どんな風に動かしても面白い様に跳ねる名瀬さんを見て私はぞくぞくとした。
面白い。
他人を思う様に弄ぶのがこれほどにまで面白いとは思わなかった。今までは苛めを見て、佐藤さんを弄る加山さんや名瀬さんを見て何が楽しいんだろうと思っていたけど、これほどまでに面白いとやってしまうのも無理はないかもしれない。
「……もっと、触ってもいいの?」
私の中の悪魔が頭をもたげた。触りたい。悪い事だと、嫌な事だと頭の隅ではわかっているはずなのに名瀬さんが嫌がりながらもビクビクと体を震わせるのを見てもっと名瀬さんを苛めてみたいという考えが私の中を占めていく。
「いいわけないぃっ!? だめっ、あんっ、やめぇっ……あんんっ!」
抗議の声を上げようとする名瀬さんを黙らせる。私は別に名瀬さんの許可を得たいわけではない。
私が欲しいのは――
「ああいいよ。もっと名瀬を感じさせてやれ。ぐちょぐちょに自分から求めるくらいまで感じさせてやれよ。その方が名瀬も喜ぶからさ」
誰かの肯定だった。
「あああっ、だめっ、やだっ、んあっ、あっ、ちょぉ、ああぁっ」
秋津君の言葉に背を押され、私は本格的に名瀬さんへの責めを開始した。名瀬さんのスカートを捲りあげ、紫色のショーツを晒す。細かいレースの装飾が映える気合の入った下着だった。色のせいで分かりづらいがそのショーツはクロッチ部分が既に濡れており、名瀬さんの感じている快感の多さを表している。それを私が与えたのだと思うと高揚感が抑えられなかった。
「気持ち良かったら、もっと感じていいのよ」
後ろから覆い被さる様にして名瀬さんの体を包み込む。制服の中に手を差し入れ、手探りで名瀬さんのブラジャーを探す。もしかして付けてないのかもと思ったけれど、それらしいストラップが指にあたった。
「てっきりキャミソールを着てるのかと思ってたけれど、名瀬さんもちゃんとブラジャーつけてたのね」
一応の配慮として秋津君に聞こえない様に名瀬さんに囁く。瞬間、名瀬さんは耳まで真っ赤にして必死に体を捩った。
「どけ、どけよっ、あーしにふれん」
「ナナナ」
「あんんぅっ!?」
暴れだした名瀬さんをその言葉で黙らせる。その言葉を言った途端に名瀬さんの体はビクビクと震え、女性器から熱い液体を迸らせた。
ブラジャーを外して名瀬さんの乳房を両手で包み込む。外見の派手さとは裏腹に慎ましやかなその胸は敏感で揉み込んだだけで名瀬さんは震え、ちいさな山頂にある乳首を摘むと名瀬さんは力が抜けた。
「駄目でしょ名瀬さん。こんな所で暴れたら危ないじゃない」
「やめっ……んぅっ、ちょ、どこにぃっ」
「ナナナ」
「んぅーーーーっ!?」
ビクビクと体を震わせる名瀬さんは荒い呼吸を吐く。ガクガクと膝が震えているが、さっきの秋津君の命令が効いているらしく必死にお尻を突き出したポーズを維持しようとする。
その上自らの腹を滑り移動する快感の進む先に恐怖を隠せない。
「どこって、わかるでしょ? ナナナが一番感じられる所よ。ほら、こんなにも濡れてる」
「ひぅんんっ!」
溢れ来る快感に震える名瀬さんのショーツの中に手を入れるのは簡単だった。ショーツの中に指を滑り込ませ、その先にある女性器へと潜り込ませる。しとどに濡れているそこは指を差し込むと名瀬さんは上下の口で音を出した。上の口では喘ぎ声と拒む声が入り混じり、下の口は入り込んだ指を逃すまいと締め付けを強くする。
「いぅっ、なぁ……」
名瀬さんは弱々しくも頭を振り、込み上げてくる快感を必死に否定している様に見える。でも、名瀬さんの体はそうは言ってない。名瀬さんだって本当はもっとしてもらいたいと思ってるに違いない。
だって……
「どうして? これからもっと気持ちよくなれるのに?」
「いら……ないぃ……あーし……こんなんいらなぃ……」
「学校のプールで不純異性交遊なんて名瀬さんの言ってたギリギリを攻めてるんじゃない。名瀬さんの求めてたギリギリだよ? しかも私も秋津君も仲間だよ? どうしてこれが楽しくないの? おかしいよ? 私すごく愉しいのに」
私がこんなにも愉しいのに、名瀬さんが楽しくない訳ないじゃない。
名瀬さんが藻掻いているを見ると凄く興奮する。名瀬さんが嫌がっているのを見ると更に苛めたくなる。名瀬さんの喘ぎ声を聞くともっと聞きたくなる。この手で名瀬さんの快感をもっともっと引き出したい。
「おかしい……のは、あん…たよ…あーし、は……」
「ナナナ」
「ぁんんっ」
ボソリと名瀬さんの耳元で囁く。名瀬さんの体はビクビクと震え、今にも崩れ落ちそうになった。
「おかしいかな? 名瀬さん。去年の佐藤さんも今の名瀬さんと同じような思いをしてたんじゃないかと思うんだけど? 去年の名瀬さんは加山さんと二人で似たような事してたでしょ? それを楽しいって言ってたんだから今も楽しくないとおかしいよね? そうじゃないかな? ナナナ?」
「あぁぁぁぁっ!?」
止めの一言。名瀬さんは絶叫を上げ、ついにその場に崩れ落ちる。手をつくのに腕を伸ばしていたおかげか名瀬さんはロッカーに頭をぶつけることなく簀子の上に潰れた。その姿は土下座にも似ている。違うのはこちらにお尻を向けている点とそのお尻が突き出されるように持ち上がっている点。丸見えになっている紫色のショーツはクロッチ部分と言わず、前面は大体濡れてしまっている。溢れ出たバルトリン腺液が染み渡って行ったのだろう。ショーツが吸収しきれなかった分がポタポタと簀子へと零れ、その下に水たまりを作っているだろう。
「秋津君どうする? 名瀬さんはもうとろとろだからこのまま入れることもできると思うけど?」
「その前に高見にこっちもイジって欲しいんだけど。このまま入れると痛いからな」
「そうなの? ごめんなさい、知らなかったわ。でも弄るってどうすればいいの?」
いつの間にか晒されていた秋津君の男性器。初めて見るそれは思っていたよりも大きく、こんなものが本当に入るのかという疑問も湧いてくる。
「手で掴んで前後に動かすとか舌で舐めるとか、そんな感じかな? 高見はパイズリできるほどないだろうし。まあ、名瀬に至っては絶望的だけど。あ、自分をイジってもいいぞ。たまらないだろ?」
秋津君よく分かるわね。他の人とやったことあるみたいだし、経験の差かしら? 相手は……考えるまでもなく加山さんね。全く、早く起きて欲しい。
秋津君に看破された通り、私はたまらなく興奮している。名瀬さんの声を聞いていたからだろう。名瀬さんが声を上げる度に耳から体全体に何とも言えない気分が走っていたから私は自分を慰めたくて仕方ない。言われた通りに秋津君の男性器を弄りながら自分も弄るとしよう。
「あむ……」
大きく口を開けて秋津君の男性器を咥え込む。喉奥まで男性器を飲み込み、口を窄めながら舌を押し付け根本から先に向けて動かしていく。そして、男性器が抜ける直前まで頭を引き、また奥まで押し付ける。口の中でたっぷりと男性器を舐め回し、唾液をしっかりと絡ませる。既に大きくなっている秋津君の男性器の根本から先端へと舌を這わせる。
それと並行して左手をショーツの中へと滑り込ませる。名瀬さん程ではないが私のショーツも十分に濡れていて、もちろんショーツをそこまで濡らした元凶はもっと濡れていた。
「んぅっ」
ショーツをずらして指を女性器に入れる。そこは全く弄ってなかったはずなのに溢れるくらいに濡れていてちょっと掻き回すだけでぐちゃぐちゃと水っぽい音を奏でた。
口の中、女性器の中を異物が占有して私に白いフラッシュを浴びせてくる。その度に体は震え、頭の中がそれを求めて体を動かしていく。
もっと、もっと、もっと。
口から漏れる音が耳を通り脳髄を蕩けさせていく。女性器の中に蠢く感覚が神経を伝い全身を痺れさせていく。蕩けた脳髄と痺れた体が私の理性を塗りつぶして本能だけのけだものへと再構築していく。
まるでどう動けばいいのかわかっているかのように体が動いて秋津君の男性器を貪っていく。美味しくもない、塩辛いような変な味が私の舌に刻まれ、だと言うのに体がそれを欲していく。
「くぅっ、かずみっ、激しすぎっ!」
「『だって敦、まだ出してないじゃん。一回くらい出しちゃおうよ』」
その言葉は誰のものだったか。
びくびくと震える男性器をしゃぶりつき、舐めるのと一緒に手を動かす。口の中に入っている男性器が更に大きくなった。形と中身から先を抑えたホースを連想する。そして、それはその後の展開も同じだった。
「でるっ!」
「んんんぅっ!?」
秋津君が私の頭を抑えて腰へと押し付ける。言葉通りに私の口の中に秋津君の精液が迸った。喉奥に叩きつけられる感触。熱い物体が次々に口内に溢れ出し、零さない様にするのが大変だった。
秋津君の男性器が跳ね回るのが治まり、そっと口から引き抜いた。唇を窄めて拭いたが口内にはまだ精子が溜まってる事もあり、秋津君の男性器には唾液と精液が混ざったものが絡みついていてドロドロだった。
はぁはぁと荒い呼吸だけが室内に響き渡る。そうして数秒、呼吸を整えた秋津君がそっと私の顎に手を当てた。くいっと顎を持ち上げ、真正面から私の顔を見る。
「うわぁ。高見、すげえエロい顔してる」
何とも恥ずかしい気持ちが湧き上がり、顔が熱くなるのを感じる。ただ秋津君に付き合ってあげてるだけだと言うのになんでこんなに恥ずかしいのか。
「まだ飲んでないよな? ちょっと口開けてみてよ。もちろん飲まないようにね」
言われるがままに口を開く。口の中に溢れる精液を零さない様に飲まない様に注意しながら舌を伸ばしてみせた。
「うっわ、すげえ事になってる。鬼の風紀委員がこんな顔するなんてだれも知らないだろうな。じゃあ、飲み込んでいいよ」
秋津君の許可に頷き口を閉じる。そして、口の中に溜まったものをちょっとずつ飲み込んだ。液体と言っても粘性の高いそれは味と相まって非常に飲みにくく、何度も吐き出しそうになるのを我慢して嚥下した。
口内に溜まったものをすべて飲み干した後、それを証明するために今度は自分から口を開く。それを見て秋津君はとても満足そうに頷いた。
「お疲れ、高見。それじゃ、今度は本番に行こうか?」
そう言って、秋津君は再び男性器を向けてくる。先程のままのどろどろの液体が絡みついた男性器は力強さを未だに残し、ピンと自身を主張していた。
その姿、そしてその匂いがこの先に待っている官能を想起させ、無意識に私の口から熱い吐息を零れさせる。その事実に気づいて頬が熱くなる。
何を勘違いしてるんだろう? 今日は秋津君の用事に付き合っているんだから誰に入れるかなんて秋津君が決める事なのに。3Pだとは言っていたけれど、私と秋津君で徹底的に名瀬さんを苛め抜くっていう事もありえるのに……でも、それもいいかもしれない。考えてみれば快感なんてオナニーすればいくらでも味わえるもの。この際名瀬さんを徹底的に善がらせてその悦楽を覚えるのもいいかもしれない。そうすればオナニーにこの先困らなくなりそうだし。
「高見、高見?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたわ。それでどうするの? 名瀬さんに入れるの?」
「ああ、そうなんだけど、ちょっと名瀬と重なってくれない? こう、向かい合わせに」
そう言って秋津君は未だビクビクと体を震わせている名瀬さんをゴロンとひっくり返し仰向けにした。秋津君の言う通りに名瀬さんの上に覆いかぶさる。目の前に見える名瀬さんの顔はトロトロに蕩け、私もこんな顔してるのだろうかとさっきの秋津君の言葉を思い出した。
「そうそう。それじゃ、高見もブラジャー外して。あ、ホック外すだけで別に脱がなくてもいいから。あとパンツは脱ごうか履いたままだと入れにくいし」
「これでいいの?」
言われるがままにブラジャーを緩めてショーツを脱ぐ。秋津君はスカートを捲り、私と名瀬さんの股の間へと陣取った。
「そうそう、それでオッケー。じゃあ、名瀬を起こすか。おい、名瀬起きろ」
「んんっ!? ひぅんっ!?」
私の下で名瀬さんの体がビクンと跳ねる。私の位置からだと見えないけれど、なにやら秋津君が名瀬さんの体を弄ったらしい。それが気付けになったのか、名瀬さんは目を白黒させながらも私が目の前にいる事に気づいた。
「ちょ、珠!? なにこれ!」
「よお、起きたか?」
「敦!? これもあんたの仕業!?」
「まあ、そうなるかな? 俺だけじゃないけど」
「珠もやったっていうの!? どうせ珠もあんたがおかしくしてるんでしょ!」
おかしくしてる? 名瀬さんは何を言ってるんだろう? 私は私だというのに。今日の事だって私が自分の意志で行っている。自分の意志で此処に来たし、自分の意志で名瀬さんや秋津君と淫らな事をしている。其処に誰かの命令も干渉もない。
「何言ってるの、名瀬さん。私は自分の意志でやってるのよ。別に秋津君になにかされたわけじゃないわよ」
「それがおかしいって言ってんのよ! いつものあんたとはぜんぜん違うじゃない!」
「はいはい、いいからパンツ脱いでよ。履いたままだと入れらんないじゃん」
「ちょっ、えっ、待って!? なんでっ!?」
私の下でもぞもぞと名瀬さんの体が動く。秋津君に言われた通りにショーツを脱いでいるのだろう。
「やっ、止まってぇ……」
私の股の間で名瀬さんの膝を立てる。覆いかぶさっているから見えないけれど、名瀬さんも無事にショーツを脱いだようだ。
「このっ、珠、どけっ!」
突然私の下で名瀬さんが暴れだす。多分この場を逃げようと思っているんだろう。それには当然上で覆いかぶさっている私が邪魔。だから、私をどかそうと下で暴れている。でも、私がそれを許すとは限らない。だって、名瀬さんに逃げられると秋津君の用事が終わらないし、それだと私も面白くないし。
「だめだよ、名瀬さん。これから気持ちよくなるっていうのに」
「あーしはよくない! いいからどけっ」
下から持ち上げようとする名瀬さんと上から押さえつける私。どちらも運動系の部活に入ってるわけでもない私達の力比べは重力を得ている分、私のほうが有利なように思えた。
ただ、このまま続いたとしてどっちが先に力尽きるかはわからない。必死な名瀬さんの動きに私がバランスを崩される可能性もある。ここはやはりあの言葉を言ってしまおうかと思った瞬間だった。
「「『目の前には鏡に写ったあたしがいる。だからあたしは目の前のあたしと同じになる』」」
「おお新技」
私と名瀬さんの口が同時に動き、同じセリフを口にする。一瞬、何事かと思ったけど、私達は同じなのだから当然だった。
「「あ、あーし」」
また同じセリフがでる。そして、私達は自分達の体が動かないことに気づいた。考えてみれば当然だった。私達は同じなのだから同じ力で押し合い、同じ力で引き合ってもその均衡は動くわけもなく、結果私達の体はその形から動くことはない。引き剥がすには私達がつかみ合うのをやめないと行けないのだけれども、名瀬さんがそこに至る前にそれは来た。
「「あああああああああっ!!!」」
ズンという衝撃。そして全身を一気に駆け巡る白い奔流。秋津君がトロトロに蕩けた女性器の中へと深く突き込みその中をグリグリと掻き回している。
その女性器がどちらのものなのかは問題なかった。私達は同じなのだから。私と名瀬さん、どちらの女性器が感じようとその快感は必ずもう一人にも伝わり喘ぎ声を上げさせる。
そして、名瀬さんは無理やりされると感じ、私は喘ぎ声を聞くと興奮する。その興奮も快感も相手へと流れ込みさらなる快感へと変換されていく。
「「すごっ、これっ、いいっ」」
私達はビクビクと体を震わせる。秋津君の男性器が私達の女性器を抉る毎に途方も無い快感が循環してくる。圧倒的な快感に私はバランスを崩し、支え合っていた私達の体は密着した。私の胸が名瀬さんの胸で潰され、私達の顔が極間近まで接近する。互いの吐息が肌で感じられる距離で、名瀬さんの唇がとても艷やかに見えた。
私の中の悪魔が再び頭をもたげる。もっと、もっと名瀬さんと一つになりたい。いや違う、私達は既に一つだ。だから、これは私達の快感を更に深めるためのオナニーだ。
「「えっ、ちょっ、珠っんんぅ」」
私達は首を振りながら互いに唇を近づけ一つになった。
「「んっ、ちゅぅ、あむぅん、ふぅっん」」
舌を絡ませ合い、頭の中を掻き乱していく。もちろんその間秋津君の腰の動きは止まらない。上から下から快感が巡り、私達は一つの快感の塊になった。何も考えなくても体が動く。ただ只管に快感を求めて私達は互いの口を貪っていく。
「「んんんっ、んぅっ、あんっ」」
私達の体が跳ね上がり、更に密着していく。私達の慎ましやかな胸が互いの胸で潰し合うその姿は佐藤さんの様に大迫力という訳にはいかないが、一体感は更に増した。互いの腕を背に回し、一つの体で秋津君を受け入れる。トロトロに蕩けた女性器はぐちゃぐちゃと水っぽい音を上げ溢れる愛液は秋津君と私達の女性器に降りかかり潤滑にしていく。
「これじゃ、レズの絡みでオナニーしてるみたいだなぁ」
そう言って秋津君は私達をぐいっと引き上げ、自分はその反動で横になる。寝転んだ秋津君の上に私達が跨っているという形に変わり、秋津君は下から私達を突き上げた。
「ほら、動いて俺を気持ちよくしてよ」
秋津君の言葉に従い、私達は動き始める。もちろんその間も私達はくっついたまま離れない。上の口で互いを貪り、下の口で秋津君を貪っていく。
「「んーっ、んぅぅーっ、んむぅっ」」
上の口でも下の口でも全身でもギュウギュウと密着し締め付ける。寒気のようなゾクゾクとした感覚が常に全身を駆け巡り、その感覚は頭で真っ白い奔流へと変換される。そしてその奔流は私達の意識を押し流し塗りつぶしていく。
「「んぅっ! んんんっ、ふんぅっ!!」」
奔流に塗りつぶされた私達は何も考えられない獣と化し、秋津君の男性器を貪っていく。少しくらい雑に動いても私達が感じる奔流に変わりはなく、何をしても感じていく。
「高見のも、名瀬のも凄えなっ、めっちゃ締め付けてくる」
秋津君も感じてくれているのか、口調とは裏腹に私達の中でびくびくと男性器が震える。それがまた絶妙な刺激となって私達の快感へと変換されていく。
「「はーっ、はーっ、あーっ、あーっ! あああああああっ!」」
唇を離し荒い呼吸を繰り返す。唇を離した事で叫び声を抑える事ができなくなり更衣室へと響き渡った。叫び声を上げる事により全身の筋肉が収縮し、結果女性器は更に締め付けを強くする。それがまた快感へと変化し、終わりのないループを作り上げた。
「「あああっ、ああああっ、ああああああああああっ!!」」
終わりのない絶叫。止まらない身体。果てのない快感。常に絶頂している意識は終わりを決める事はできず、私達は誰かに止められない限りずっと動き続ける。
そんな私達の中で秋津君の男性器がビクビクと震え、大きくなっているのを感じた。
「くぅっ、出るぞ、和美ぃっ!」
秋津君が叫び私達の中へ深く突きこんだ時、それは来た。
「「『ナナナ』ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」」
私達は互いの耳に囁き、次の瞬間何もかもがわからなくなった。先程までとは比べ物にならない程の奔流に理性も本能も何もかもが押し流され、ただ、下腹部に熱さだけ押し付けられていた。
「「『あたしはあたし、目の前にいる人はあたしじゃない。だから、あたしは同じにならない』」」
「「『あたしは敦とセックスしてしまったけど、別に敦をどうと思っているわけじゃない。敦とセックスするのは普通の事だから特に誰かに言ったりしない』」」
「「『でも、学校でやったのは他の人の迷惑になることだから、ちゃんと後片付けをしてから帰る』」」
遠くから声が聞こえる。その声は私であり、名瀬さんであり、此処にはいないはずの彼女の声の様に聞こえた。口から出された言葉は私の中で事実となり現実となり常識となる。
「ん……」
深い闇からの覚醒。度重なる絶頂のせいか重い頭を振りながら体を起こす。
「私……」
「んんっ……」
固い感触と甘い声。自分の下で身動ぎしている名瀬さんの胸に手が当たってるのを見て、さっきまでやっていた事を思い出した。
「そっか、秋津君としたんだっけ……それに名瀬さんも……私が……」
名瀬さんの痴態と自分の知らなかった一面を思い出し、何とも言えない気分になる。
まさか自分にあんな嗜虐趣味があったとは。名瀬さんの被虐趣味もだけど、人は見かけによらないという言葉をものすごく実感した。
辺りを見回すとそこにはもう私と名瀬さんの姿しかなく、秋津君の姿は影も形もなかった。
「夢……なわけないよね……名瀬さんも居るし、私も覚えてるし……帰っちゃったかな?」
まあ、別に秋津君とはなんでもないし、一緒に出て何かを疑われる方が問題か。できれば後片付けくらいはして欲しい所だけど。
私達の周りはさっきのまま。つまり、私達が吹き出した汗や体液は周りに散らばったまま、そして私達の姿はさっき秋津君としていた時のままだった。
「名瀬さん、名瀬さん」
私の下で未だに意識を飛ばしている名瀬さんを揺さぶる。名瀬さんを放って帰るという選択肢も……無いわね。流石に気絶してる名瀬さんを放って帰るわけにはいかない。せめて起こしてあげないと。
「ん……」
ピクッと動く名瀬さんの体。長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれる。そうして、意識を取り戻した名瀬さんと私の目があった。
「ひぃっ」
瞬間、慌てて後ずさる名瀬さんはガンッという音とともにロッカーへと頭をぶつけた。普段の名瀬さんからは全く見られない、そんな名瀬さんの姿を見て思わず笑ってしまった。
一頻り笑ってから、恐怖に顔を染めている名瀬さんに向かって両手を上げる。
「ごめんなさい、何もしないから落ち着いて」
「……本当に何もしない?」
「ええ、本当。保証が欲しいなら私はもう帰ってもいいわ。でもその前に此処の後片付けをしなくちゃ。学校でセックスしてそのままなんてみんなの迷惑になるし」
名瀬さんはじっと私を見つめる。そして数秒、私を信じてくれたのか名瀬さんはようやく警戒を解いてくれた。
「はぁ……」
名瀬さんは溜息を吐くとゆっくりと立ち上がり、自分の服装を直していく。
「ああもうひどい目にあった。うわ、パンツビッチョビチョじゃん」
水分を吸い尽くしてグッショリと重くなっているショーツを手に取り、名瀬さんは顔を顰める。じっとそれを見た後、名瀬さんは意を決して足に通した。
「~~~~~~っ」
ショーツを上に上げて名瀬さんはとても嫌そうな顔をした。その気持ち悪い感覚に共感し、同情しながら私も同じ様にショーツを履いて、その気持ち悪さを実感しながら服装を整える。そして私達はその場を見て、その惨状に苦笑した
「結構派手にやったねぇ」
「そうね」
私達が寝ていた簀子は私達の体液が染みて、広範囲に渡って色が変わっていた。広範囲とは言っても更衣室全体で見れば一角でそこだけ何かがあったのがわかる。
「これどーしよっか?」
「プールに行けば蛇口があるし、水泳部とかが掃除するためのバケツもあるだろうから、水で流しましょう」
そう言って私達はバケツに入れた水で更衣室の簀子を全体的に洗い流した。こうすれば全体的に濡れるからどこで何かがあったのかがわからなくなるし、匂いも消えるだろうから、私達以外に此処で何があったのかを知る事はないだろう。
「珠がこんなにドSだって知らなかった」
バケツを元の場所に戻した時に名瀬さんが言った。
「珠って、去年あんなに騒いでたし、潔癖っていうかクソ真面目なんだと思ってた。オナニーもしたことないんじゃないかってバカにしてたし」
「私も、自分がこんなに嗜虐的だとは思ってなかったわ。でも私も年頃の女の子何だからマスターベーション、オナニーくらいはするわよ」
「うっそ!? 珠、オナニーしたことあったの!?」
「名瀬さん、あなたは私を何だと思ってたの……」
「エッチなことも知らないクソ真面目バカ」
「ナナナ」
「ひぃん!?」
「ナナナ」
「ぁっ、んぅ、ごめっ」
「ナナナ」
「んんぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
その場でビクビクと悶える名瀬さんはプールサイドでのたうち回り、落ち着いた後に今度は其処を流す必要ができた。
<続く>