ドールメイカー・カンパニー (8)~(10)

(8) アクシデント

 今日3度目のシャワーを浴びに映美が男に鎖を引かれながら四つん這いで歩いていると、ちょうど反対方向から来る、同じようなペアに出会った。
 四つん這いで歩いているのは、たしか“怜”と呼ばれていた女性だ。そして鎖を引いているのは・・・・

 (水島くんっ!)

 映美は心の中で思わず“見ないで!”と叫んでいた。
 映美は、普段の自分を知っている人に、今のこの姿を絶対に見られたくなかった。
 つい2週間前には、副店長としてバイトの水島くんに仕事の指示をしていたというのに、今の自分は素っ裸で四つん這い、そして股間からトロトロと男の注ぎ込んだザーメンを溢れさせている。まさに動物と同じだった。
 映美は視線を上げることすら出来なかった。
 しかし、そんな映美の心中を知らず、男たちは立ち止まって立ち話を始めた。

「あぁ、“ぱんだ”さん・・・・。どうでした?」

 “きつね”くんはのんびりと話し掛けた。

「やぁ。」

 男、“ぱんだ”は、軽く手を上げて挨拶すると映美に視線を向けて言った。

「凄いよ。もう、こんなの初めて経験したよ。」
「あ、そんなに良かったですか?」
「いや・・・、良いって云うんじゃなく、凄い。あ、勿論映美ちゃんのマ○コはすっごく気持ちよかったけど、俺が言いたいのはこの娘の仕上がり具合。こんなにハッキリと意識が表れているのに、全然余裕で安定してる。もう、俺なんかが評価できるレベルじゃないよ。”きつね”くん、完璧!マーベラス!!」

 “ぱんだ”は、興奮して“きつね”くんの手を握った。

「いやぁ~、そんなに言ってもらえると嬉しいですよ、俺も」
「えっ!!!」

 2人の会話を俯いて聞いていた映美は、そこで思わず声を上げてしまった。

「きつね・・・・・って・・・・、あ、あなたが・・・・あなたが“きつね”なの?!水島くん!!あなたが、私を・・・」

 映美は四つん這いのまま精一杯顔を上に向けて、“きつね”くんの顔を仰ぎ見た。
 “きつね”くんは、その視線を受け止めると、ニッと笑い映美の横にしゃがみ込んだ。そして映美の頭を優しく撫でながら言った。

「僕が“きつね”ですよ・・・・副店長」
「ど・・・どうして・・・?たった・・・2,3週間しか一緒に仕事をしてないのにっ!どうして私にこんな酷いことするのよっ!」

 “きつね”くんは、それを聞いてぷっと吹き出した。

「ほんと・・・素直なお嬢様だったんですねぇ、副店長は・・・・」
「どういう事よ!」
「決まってるじゃないですか。あなたをマリオネットにするためにバイトにはいったんですよ」

 ホントにもう、疑うことを知らないんだから・・・・

 “きつね”くんはそう言って楽しそうに映美の背中をポンと叩いた。
 しかし映美は意外なほどショックを受けていた。

 (全て・・・・仕組まれていたの・・・・?)

 今も映美の脳裏には、あの日、水島くんがバイト募集でやって来た時の光景がはっきりと刻まれている。
 あの時にはもう、この男は私を人形に変えようと思っていたというの・・・・・
 映美は、改めて自分の嵌った罠の深さに驚き、そして怯えた。

「あのさ・・・・ところで・・・こっちの方は・・・・どうだった?」

 映美の怯えた表情をニヤニヤと眺めている“きつね”くんに、“ぱんだ”がおずおずと訊いた。

「えっ・・・あぁ・・・怜ちゃん?」

 “きつね”くんは途端に気まずそうな表情になった。

「うん・・・いい味してたよ」
「仕上がりは、どう思う?あっ・・・いや・・・採点については訊かないけど・・・・感想とか」
「うん・・・・それが・・・・ちょっと安定して無いみたいだった。・・・正直言って」
「えっ・・・・そう・・・・・そうか・・・やっぱり」

 “ぱんだ”は、半ば予想していたと言うように溜息をついた。

「俺が確認している時だけで2回覚めそうになってた。」
「えっ?!2回も!」

 これには“ぱんだ”も驚きを隠せなかった。

「それじゃあ、出荷出来ないじゃない・・・・・」

 “きつね”くんも、う~ん・・・・と唸るしかなかった。
 不安定のまま出荷しては、身の破滅となるのは目に見えている。

「まあ、とりあえず一旦全解除して怜ちゃんの頭をすっきりさせてから再導入してみたら・・・・どうかな」

 “きつね”くんは、アドバイスした。

「・・・・・うん・・・・そうだね・・・・・とりあえずは、それしかないよね・・・・」

 “ぱんだ”はうな垂れながらも、気持ちを切り替えるように言った。

「あぁ、怜ちゃんはもう洗浄済みだから、よかったら先に連れて行ったら?映美は俺が洗っときますよ」
「そうさせてもらえるかい?ありがとう」

 2人はそこで鎖を交換してその場を去っていった。

 映美の洗浄は10分程で終了した。
 シャワーを止め体を拭かせてから“きつね”くんが最終チェックをする。頭のてっぺんから足の裏まで、体の前、後ろ、そして穴の中まで念入りに確認する。
 映美の意識は覚めさせたままなので、やたら恥ずかしがったり、嫌がったりと、色々面倒くさいことが多かったが、これも調教計画の一部なので省略せずに実施する。

「大体OKですよ・・・・副店長」

 “きつね”くんはわざと映美をそう呼んで、からかった。

「でもオマ○コにすこし毛が生えてきましたので、剃っちゃいましょうね」
「じ・・・自分でします」
「良いですよ。じゃあこれ・・・」

 “きつね”くんは剃刀とシェービングムースのスプレーを渡した。

「でも、注意してくださいね。もう売約済みのオマ○コなんですから。傷が付くとクライアントに怒られちゃいますからね」

 映美は一瞬“きつね”くんを凄い目で睨みつけたが、“きつね”くんはまるで気にする素振りも見せずにケケッと笑っていた。

 不意に何かがぶつかる鈍い音が響いたのは、映美が諦めて視線を落としシェービングムースを塗り始めたときだった。
 “きつね”くんも気付いたようだ。
 立ち上がるとシャワールームの扉を開けて、外に顔を出した。
 廊下には人気が無い。
 “きつね”くんは、扉を開けたまま様子を見に出て行った。
 右手の会議室のドアの前を横切り、奥の“きつね”くん達が使っている個室を覗いてみたが異状はない。
 その時、再び音が響いた。今度も鈍い音だ。

 (会議室からだな・・・)

 “きつね”くんは振り向いて一歩踏み出そうとした。シャワールームの扉を開けてきたため、映美が剃刀を使っているのがよく見える。
 突然、その視線を遮るように、会議室の扉が爆発したように開き、中から人影が転がり出て、反対側の壁にぶつかった。

「・・・・“ぱんだ”さん?!」

 喉を押さえ、苦しそうに咳き込んでいるのは、間違いなくさっき別れたばかりの“ぱんだ”だった。
 あっけに取られている“きつね”くんの前に、更に人影が飛び出してきた。
 長い髪が素早い身のこなしに着いて行けず背中で踊っている。
 すらりと高い背を、今は猫科の動物のようにしなやかに屈めながら、油断無く廊下に立ったその人は、“松田怜”。“ぱんだ”のターゲットにして、M県警の防犯課に勤める現職の女刑事だった。
 今も全裸の肉体を晒しているが、全身を覆う怒りのオーラが見るもの全てを威嚇していた。
 “きつね”くんは一瞬で事態を把握した。
 解けたのか、解いたのか・・・怜は完全に自分を取り戻していた。

 (ここを通したら、終わりだ・・・)

 “きつね”くんは迷わなかった。
 素早く口の中で何事かを呟くと、一呼吸して一歩を踏み出した。
 怜は素早く視線を“きつね”くんに当てた。

「貴様も、こいつの仲間か~っ!!」

 燃え上がりそうな強烈な怒気を含んだ氣が正面から“きつね”くんを叩いた。
 百戦錬磨のやくざでさえ怜の視線にはその歩みを一瞬止めさせるだけの力があった。
 しかし・・・

 “きつね”くんの歩みは一瞬も止まらなかった。
 怜の渾身の氣をその瞳に吸い込んでしまったように、飄々と近づいてくる。
 唇の端が僅かに持ち上がっている。

 (なんだ?!こいつ・・・・面白がっている・・・?)

 怜に一瞬、動揺が生じた。
 そのタイミングを見透かすように“きつね”くんの口が開いた。

「レイ・・・コック・・・」

 怜の眉が訝しげに上がる。

 (『冷酷』・・・?一体なに?)

「ロビンは・・・」

 “きつね”くんのこの言葉を耳にして、怜はようやく気付いた。

 (しっ、しまったあ~っ!!!!逃げるかっ?・・・・それともこの男をっ)

 怜は動揺でさらに判断が遅れた。
 鍛え上げた足が“きつね”くんの喉をめがけて軌跡を描き出した時、“きつね”くんの最後の言葉が怜の耳に届いた。

「・・・・飛び立った」

 『怜。コックロビンは、飛び立った』

 これが“ぱんだ”が怜に植え付けた導入ワードだった。
 “きつね”くんは飛び出してきた怜を見て、とっさにこの言葉を口にしようとして思いとどまったのだった。言い終わる前に怜の足が喉を砕いてしまいそうな距離だったからである。
 そして、素直に導入ワードを口にする代わりに、一瞬の駆け引きに賭け搦め手で勝負したのだった。

「あ・・・・・あ・・・・・・」

 怜の口から言葉にならない声が漏れた。
 それまで自分の体を支配していた熱い魂が、背中から空高く飛び去っていくのを怜は感じていた。そして同時に空になった肉体が重く地上に取り残されていることも・・・・。
 怜は、再び体の自由を失ったことを、漠然とした後悔の念とともに感じていた。

 (魂が抜けていく・・・)

 “きつね”くんも、怜の表情を見ながらそう感じていた。
 一瞬前まであれほど躍動感に満ちていた表情は、今は元の能面のような表情に固まり、廊下の真中で壁に視線を向けたままポツンと佇んでいる。

 (これじゃあ、もったいねえよなぁ・・・・)

 “きつね”くんは、口には出さなかったけれど、それが正直な感想だった。

「お、おいっ・・・どうなった?」

 一瞬遅れて、会議室から“あらいぐま”が血相を変えて飛び出してきた。
 片手で顔を押さえている。
 しかし、廊下で佇む怜と“きつね”くんを見つけ、すぐに緊張を解いた。

「再導入出来たみたいだな・・・・・。サンキュウ、“きつね”。蹴られなかった?」
「俺は平気だけど・・・・、大丈夫ですか・・・・“ぱんだ”さん」

 “きつね”くんは、まだ廊下で蹲っている“ぱんだ”に声を掛けた。

「ゲホッ・・・・ゲホゲホッ・・・・だ・・大丈夫・・・ううう・・・喉を蹴られて・・・・ちょっと・・・・うまく声が出せない・・だけ・・・・ゲホゲホッ」

 “ぱんだ”は苦しそうに咳き込みながらも、ようやく立ち上がった。

「いったい、どうしてこんなことになったんです?」

 “きつね”くんは“あらいぐま”に視線を向けて訊いた。

「いや・・・俺はたまたま会議室で休憩していたんだけど・・・“ぱんだ”さんが怜ちゃんの再導入をするっていうから、ちょっと見学してたんだ。それで、一旦“解除ワード”で怜ちゃんを目覚めさすっていうから、俺がサポートで後から怜ちゃんの手を固定してたのさ。ところがさ・・・・」

 “あらいぐま”はそこで一旦話を切り、“ぱんだ”さんに視線を向けた。

「ゲホッ・・・・れ・・怜のやつ・・・本当にかかり方が浅くなってた・・みたいで・・・・ゲホッ・・・・どうも・・・催眠下での俺の会話を聞いていた・・・・みたいだった・・・・・」

 “ぱんだ”さんは辛そうな声で話を続けた。

「解除ワード・・・・を・・怜に・・・言ったのに・・・・体に・・・ゲホゲホッ・・・・魂が・・・戻ってこない・・・・みたいだった・・・」

「それで、俺が怜ちゃんの前に回って体をゆすったりしてたら、いきなりだぜぇ・・・・横から顔にすげぇ衝撃を食らったんだ。」

 “あらいぐま”は、赤く腫れた頬を見せながら話した。

「多分、少しだけ気ィ失ってたと思う。気が付いたら会議室に2人とも居ないし、で、出てみたらこんな状況だったと言うわけ・・・」

 いやあ・・・まいったまいった・・・

 “あらいぐま”は、そう言いながら“ぱんだ”に肩を貸して会議室に入っていった。そのあとを能面の怜が静かについて行った。

 (納期遅延になるんだろうな~やっぱり・・・)

 “きつね”くんは、ふぅと溜息をついて肩をすくめた。

 映美はとっくに剃り終わった股間に視線を固定しながらも、頭の中では必死に今の一幕のことを考えていた。

 (解除ワード!!)

 不用意に“あらいぐま”が漏らしたこの言葉が、映美の頭の中を独占していた。

 (元に戻る方法があったのねっ!!怜さんは、確かにあの時、元に戻ってた。自由に動いて、あのデブ男を蹴っ飛ばしてたわ・・・・・)

 映美は今日ここに来てから始めて光明を見た気がしていた。

 (手に入れなくちゃ・・・・私の“解除ワード”をっ!そして絶対にこの魔窟を脱出するわ!)

「映美、悪かったね。待たせちゃって・・・・」

 “きつね”くんがシャワールームに入ってきた。

「綺麗に剃れた?ちょっと見せてご覧・・・」

 その言葉で映美の股間は自動的に広がっていく。“きつね”くんは、当り前のようにそこに指を伸ばして剃り跡を確かめている。

 屈辱・・・・
 しかし、映美は視線だけは合わせず、無表情を貫いていた。

 (内心を悟られぬよう・・・・微かな希望を消さないため・・・今は我慢しよう・・・)

(9) 受賞

 会議室はすっかり様変わりし、今は全てのパーティションが取り払われ、大きなパーティルームになっていた。
 大きなテーブルが中央に3つ置かれ、夫々に様々な料理が盛り付けられていた。
 参加者は無論マインド・サーカスの10名の男達、そしてこの会社のOLから5名程が選抜されホステスとして働いていた。
 そして映美たち3名の“商品”が主役だった。
 中央の3つのテーブルには彼女達が一人ずつ素っ裸で仰向けになり、その周りを取り囲むように料理が盛り付けられているのだ。
 無論体の上にも、いたる所に様々な料理が乗せられていて、男達の目と舌と悪戯心を満足させていた。
 今は3人とも人形の暗示に支配され、テーブルの上でピクリともしない。虚ろな視線が空を漂っている。
 男達は映美たちの体を愛でながら、今日の審査を話題に立食パーティを楽しんでいた。ホステス役のOL達には簡単な暗示でテーブルの上の映美達“商品”が目に入らないようにして、あとは普通にパーティの花として自由に振舞わせていた。
 OL達は屈託が無く、楽しく笑い声を上げて芸能人の事や、旅行のことを喋りながら、怜の腹の上に並べられた鮨をつまみ、映美のツルツルの股間から生ハムを剥し、有紀の胸の上に並べられたフルーツをフォークで突付いた。
 男達は話題の合間にそんなOL達を見てはニヤニヤと笑い合っていた。

「さて、皆さん」

 社長の“くらうん”が、口を開いた。

「今月の完成検査の結果を発表することにします。」

 ざわついていた会場が静まり、皆の視線が集まった。

「今月は3名が完成検査を受けました。“ぱんだ”くん、“くま”さん、そして“きつね”くんです。ちょっと3人は前に・・・・はいはい・・・そこに並んで・・・・あぁ、“ぱんだ”くん・・大丈夫?・・・・あぁそう・・・・・じゃあ、すぐに終わるからそこに並んで・・・・」

 マインド・サーカスの創始メンバーの一人である“くま”は、ワイングラスを片手ににこやか立っている。その横に“きつね”くんが赤い顔で並びOL達に手を振ってにやけている。そして一番端に“ぱんだ”が俯き加減で立った。首の包帯が痛々しく、まるで元気が無い。

「それでは、順番に発表します。まず・・・“ぱんだ”くんからですが」

 “くらうん”は手元の紙を覗き込みながら、ちょっと間を空けた。

「・・・・・う~ん・・・残念ながら・・・“ぱんだ”くんは、今月の検査には不合格でした・・・・。全体点が、50点中33点。個人点が150点中40点。合計73点となり、合格ラインの120点には届きませんでした。」

 会場からは、声は無かった。OL達も検査内容は把握していないが“ぱんだ”が不合格だったことは判るので、気まずそうにしている。

「“ぱんだ”くん、ちょっとアクシデントもあって気の毒では有るが、仕方が無い。ちょっと納期には間に合いそうも無いから、来月に仕切りなおしとしよう・・・・」
「ゲホッ・・・・ど・・・どうも・・すみませんでした・・・・ゲホッ・・・・ペナルティは僕が払いますから・・・・来月・・もう一度・・・・お願いします」

 “ぱんだ”は苦しそうに話しながら背中を丸くした。

「・・・・うっ・・ゴホン・・・え~それでは続いて・・・“くま”さんです」

 “くらうん”は沈んだ雰囲気を変えテンションを上げるように、にこやかに口を開いた。

「“くま”さんは・・・・・うん・・・・無事合格です!」

 “くらうん”の声に合わせるように“くま”はグラスを上げた。
 会場から拍手が自然に沸き起こった。

「全体点が、50点中40点。個人点が150点中110点。合計150点となり、合格ラインの120点をクリア・・・・余裕の出来ですね“くま”さん」
「いやあ、ほっとしてますよ。今回は素材の出来に大分救われたみたいです。“ぱんだ”くんも、こればっかりは相性が大きいから、あんまり思いつめなくていいよ。」

 “くま”はちょっと“ぱんだ”をフォローして、話を続けた。

「あと・・・今回は私もちょっとショックを受けています。この会社にとっては大きな戦力を獲得した・・・ということでしょうが・・・・・自分の未熟さが露呈してしまった感じがしますよ。みなさん・・・私が言いたいこと・・・わかるよね?」

 “くま”は隣に立っている“きつね”くんに視線を向けた。

「社長!焦らさないで発表してくださいよ!この・・・・・悪戯狐が一体何点取ったかをっ!」

 そういって“きつね”くんの肩を思いっきりどやしつけた。

「って~・・・・」

 “きつね”くんは軽量級の体を飛ばされそうになって顔をしかめた。

「ははは・・・・そうだね、最後は“きつね”くんだ。」

 “くらうん”はそう言って、また紙に視線を落としたが、その表情が驚きで変った。

「あ~・・・・・・“きつね”くんは・・・合格・・・・合格です。だけど・・・・・こりゃあ・・・・凄い。点数を読み上げると・・・・全体点が、50点中48点。個人点が150点中147点。つまり合計195点!・・・・・・我社始まって以来の最高得点で合格だっ」

 “くらうん”の言葉が終わった途端、会場から一斉に拍手が巻き起こった。
 うしろで“あらいぐま”がクラッカーを鳴らし、OL達が声を揃えて“おめでと~”と声を上げる。
 当の“きつね”くんは、さすがに照れたように頭を掻きながら、顔を赤くしている。(それは、さっきからか・・・)

「“きつね”くん、ちょっと一言」

 “くらうん”がコメントを促す。

「あっ・・はい。ええとぉ・・・・みなさん・・・・高得点を頂いて・・・有難うございました。これも全て・・・・・・・・俺の実力で~~~すっ!!」

 腰に手をあて胸をはった所に、示し合わせたように会場から盛大に・・・・食べ物が投げつけられた・・・・

「わぁ・・・冗談ですよっ!」

 “きつね”くんは、抜け目無く“くま”の背後に隠れて難を逃れ、話を続けた。

「本当は・・・・・・・・・みなさんが“映美”の強力フェロモンにやられちゃったおかげで~す」

 “きつね”くんはそう言って再び“くま”の背後に隠れたが、皆が妙に納得して、うんそうだな・・・とか言っているのを聞いて、ズルッと仰け反った。

「ははは・・・・なんだ・・・やっぱりそうだったの・・・・?」
「いやいや・・・・“きつね”くんの実力はもうみんな充分分かってますよ。商品の完成度の高さは、私が見ても特筆物です。」

 “くらうん”がにこやかにフォローする。

「じゃあ、社内規定に従って、“きつね”くんに特別ボーナスを授与します。」

 会場からどよめきと、盛大な拍手が沸き起こった。

「“きつね”くん、今後も我社のため・・・・お客様の希望を叶えるため・・・・その技術の磨いていってください。おめでとう」

 “きつね”くんは恭(うやうや)しく賞金の封筒を受け取り、会場の仲間達の輪に入っていった。
 賞金が気になるのか、OL達が“きつね”くんの周りに群がり、盛んに探りを入れている。
 “きつね”くんは、彼女達の追及をのらりくらりとかわしながら、映美のテーブルに向かった。
 すでに生ハムは取り尽くされ、映美はツルツルの股間をさらけ出している。誰かが悪戯に押し込んだローストビーフの切れ端が、媚肉の間からすこし顔を覗かせていた。
 “きつね”くんはクリトリスを嬲ってたっぷりと蜜を絡めさせた肉を引っ張り出し、自分の皿に盛った。

「あらぁ、詰め物も有ったのね。気付かなかったわ」

 近くのOLがそれを見つけて言った。

「うん。でもこれで最後みたいだったよ。」

 “きつね”くんは肉を口に放り込みながら言った。

 あら・・・・ホントだわ・・・・もう入ってないわぁ・・・・・

 OLは映美の性器を指で開き、奥を覗き込んで残念そうに言った。

 (いい人形になったな・・・・映美)

 “きつね”くんは映美の顔に視線をあてて思った。

 (さあて・・・最後の仕上げだよ。稼がせて貰った分、念を入れて送り出してあげるよ)

 “きつね”くんは、胸に手を当てると映美に恭しく頭を下げた。

(10) ピンチ・ヒッター

 照明を落とした廊下に面したドアが静かに開き、“きつね”くんが姿を現した。
 部屋の中からは、静かな規則ただしい寝息が微かに聞こえてくる。
 もう夜中・・・・11時をまわった時刻だった。
 パーティーがお開きとなってから、既に3時間が過ぎていた。
 “きつね”くんは、あのあと映美を引き取り、体を洗い流してやり、食事を与え、そして念入りに催眠暗示の調整を行った。
 今日1日、映美は激しいストレスに晒され続けて来たので、先ずはそのストレスを開放させ、いつもの催眠SEXで体の芯から満足させ、そして新たな刷り込みを行った。そして最後に忘却暗示で記憶をクリアさせてようやく今日の作業は終了となったのだ。

 (もう、みんな帰ったんだろうな・・・・)

 “きつね”くんは、そう思いながらドアを開けたのだったが、意外にも会議室の明りが廊下に漏れていて、微かに話し声も聞こえた。

 (あれぇ・・・誰か残業してるんだ・・・・)

 “きつね”くんは、一応挨拶をしてから帰ろうと、会議室に向かった。

「こんばんわ~」

 軽くノックして、扉から顔を覗かせると、割と真剣に話している3人が居た。
 社長の“くらうん”に“くま”、そして“ぱんだ”の3人だった。

「俺~・・・そろそろ引き上げますから・・・」
「お~“きつね”くん。まだ居たんだ。」と“くらうん”
「はい、明日の準備をすこし・・・」
「“きつね”くん、ちょっと時間あるかなぁ・・・・。“くらうん”さん、ちょうどいいから今、話しましょうよ」

 “くま”が“きつね”くんを呼びとめた。

「はあ・・・なんでしょうか・・・?」
「まあ、ちょっとここに座って。実は・・・“ぱんだ”くんの件なんだ。」

 “くらうん”は話を始めた。

「さっき、専属の医者を呼んで“ぱんだ”くんの喉を診察させたんだが、意外と治療に時間がかかりそうなんだ。だいたい半月位らしい。しかし、それだと来月の出荷もちょっと危なくなりそうだろ?」
「今月で3ヶ月目だから、契約上あと1ヶ月延びるのは、まあ許容範囲内だけど、もし更に1ヶ月延びることになると、ちょっと信用問題になりかねないんだ。」と“くま”があとを引き取って話した。

「はあ・・・」

 “きつね”くんは、なんとなく話の先が読めてきた。

「で、ちょっと代役を捜していたんだ。だけど、君も知ってのとおり、ここんとこ注文が増えてるだろ?で今月納期の我々3人を除くと、みんなオンジョブなんだ。」
「で・・・・俺ってワケですか?」
「ああ。僕も9月は“きりん”くんの支援にまわることになってるから、ちょっと体が空かなくて」

 “くま”はちょっと済まなそうな顔をした。
 ずっと黙っていた“ぱんだ”も、重い口を開いて言った。

「ほんと・・・ゲホッ・・・“きつね”くんには・・・迷惑かけちゃうけど・・・ゲホゲホッ・・・引き受けてくれないでしょうか・・・」
「う~ん。そうですね・・・。あ・・納期はいつでしたっけ?」
「本来であれば、2週間後。」
「ふうん・・・。で、要求仕様は?」
「あぁ・・・これは単純。クライアントは怜に今の仕事を続けさせたまま、自分の愛人にしたいということなんで、キーワードで一時的な人格変化と記憶操作が行えればOKなんだ」
「はあ・・・それは随分とシンプルですね。俺の今のクライアントなんかオタク&フェチの権化みたいな要求が満載ですから。・・・あ・・・関係ないですね・・・・すみません」
「どお?ちょっとやってみてくれないかなぁ。君、来月はジョブ入ってないでしょ?」

 “くらうん”は“きつね”くんに頼んだ。

「いや・・・俺、学生だからまだ・・・。後期の授業が始まるんで空けといたんですよ。でも・・・・」

 “きつね”くんは、“くらうん”の視線を受け止めた。

「いいっすよ。俺・・・引き受けます。あの怜ってコ、ちょっと興味あるし。それに“ぱんだ”さんが下地作ってくれてるから、最初からやるより全然楽だと思いますし」
「おおっ!引き受けてくれるか。いやあ、助かったよ。“ぱんだ”くんも彼で良いね?」
「は・・はい・・・・勿論です。僕も出来る限り・・・・サポートするから・・・・お願いします」
「ははっ・・・“ぱんだ”さん、やめて下さいよ。頭なんか下げなくっていいですよ。ま、とりあえず1週間ほど時間を下さい。それで、出荷までどれくらいかかりそうか判断しますから」

 “きつね”くんはそう言って、席を立った。

「あっ、怜ちゃんって“ぱんだ”さんの部屋?」
「うん・・もう寝かしたけど」
「じゃあ、ちょっと診させてもらいますね。ワードは昼間の資料のとおりですよね?」
「うん。そのまんま・・・・変更なし」
「じゃあ、しばらく俺に部屋を貸してもらえます?映美を出荷したら引き取りますから」
「あぁ、そんなこと・・・。好きなだけ使ってください。僕はしばらく治療で・・・・あんまり出社できないですから・・・」
「わかりました。じゃあ早速俺診てきます。“ぱんだ”さん、お大事に・・・」

 “きつね”くんはそう言い残して、その場を後にした。

「あいつ、本当にこの仕事好きなんだな」と“くま”がひとこと呟いた。

< つづく >

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