(7)美咲の奸計(後編)
「チッ、チーフッ!ちょっと、やめて下さいっ!冗談じゃないっすよっ、銃を向けるなんてっ!」
木之下が必死に呼びかけた。
けれどそれに答える美咲の言葉は、2人に衝撃を与えた。
「誰が冗談などと言ったぁっ!!貴様たちはここで死ぬんだっ!この私に恥をかかせた報いを受けなさいっ!!」
「ちょ・・・ちょっと待ってくださいっ!お、俺達は必死でチーフを救出してきたんスよぉっ!敵の手に落ちたチーフをぉっ」
木之下に代わり川瀬が大声で叫ぶ。
けれどそれを言い終わる前に、いきなり発射された銃声がその続きを遮ってしまった。
「私が何も知らないとでも思ってるのかぁっっ!!気絶していた訳じゃないんだっ、貴様らが私にした事は全て判ってんだよぉっ!!」
威嚇射撃で体の動きを止めた2人に美咲は言葉を叩きつける。
思わず木之下の口から小さな叫びが漏れた。
「ひぇぇっ」
そして川瀬にいたっては、顔を蒼ざめさせて体を震わせていた。
「クラスレスのっ、クラスレスの分際でぇっ!よくも弄んでくれたなっ、この私の体をっ!」
「ちっ、ちがっ、違うんだっ、ちょっと聞いてくれっ!お、俺達はチーフの怪我の確認をっ・・・うわっ」
必死の言い訳は、しかしまたも途中で途切れた。
突然木之下が川瀬にタックルをしたのである。
そしてその川瀬の残像を貫くように再び拳銃が発射されたのだった。
今度は威嚇ではなかった。
「チッ、チーフッ!お、落ち着いてぇっ!は、犯罪っすよっ!部下を殺したら貴女も破滅っスよっ」
木之下が叫ぶ。
けれどそれを聞いた美咲は、蒼白な顔に強張った笑みを浮かべたのである。
「はははっ、破滅ですって?不思議なことを言うのねぇ。私は任務を遂行するだけよ。敵の催眠で木之下を撃ち殺した川瀬を私がやむなく処分したってとこね?」
そう言いながら、美咲は左手を上げた。
その手にはもう1丁の拳銃が握られている。
2人を外に出した僅かな隙に、川瀬の鞄から抜き取ってきたのだ。
「そ、そんな出鱈目っ、通用する訳ないでしょっ!」
木之下が信じられないといった表情で喚く。
けれど美咲はそんな木之下を冷たく見返した。
「あら、全然問題なしよ。考えても御覧なさい、クラスレスの諸君。この中で抗催眠試薬を服用してるのは私だけなのよ。つまり3人であのマンションに侵入した事実さえ立証できれば、自ずと結論は導かれるの。敵の手に堕ちるのはお前たちのどちらか。それしか有り得ない」
激昂していた筈の美咲がいつの間にか静かに微笑んでいる。
その笑顔の裏にある意図に川瀬は気付いた。
「あ・・・あんた、そうか・・・つまり、自分が操られた事実を消したいんだなっ!アンタの亭主が開発した抗催眠薬が『実は全然役に立たなかった』って事実を隠蔽しちまうつもりなんだなっ!」
川瀬は這い蹲ったまま美咲を睨んだ。
そして美咲はそんな川瀬を嘲るように見下ろした。
「抗催眠試薬は有効よ。そのお蔭で私は難を逃れ、アンタ達は破滅した。実に有効な宣伝手段じゃない?」
「そんなことで、俺達の命をっ」
木之下が歯をくいしばるように言葉を搾り出した。
「あら、実に有益な死よ。アンタ達クラスレスは消耗品なんだから、せめて役に立って死ねるなんて本望でしょ」
冬の雨より冷たい言葉が2人に投げかけられる。
そしてそれは完全に意図された挑発だった。
美咲は、できれば2人に向かってきて貰いたかったのだ。
這い蹲った相手では、射角が美咲のストーリィとあわない。
そして何より、流石に無抵抗の相手を撃つのには躊躇いがあったのだ。
案の定、美咲の言葉に2人は反応する。
川瀬の顔が怒りに紅潮し、逆に木之下は怯えを深めた。
これも予想どおりだった。
あとは彼らに反撃を始める切っ掛けを与えるだけでよかった。
(お馬鹿さん。この世界で生きていくには知力と決断力が必要なのよ)
美咲は内心でそう呟きながら、片目を瞑った。
丁度、雨が目に入ったとでも言うように・・・。
そして左肩を上げ顔をそこに擦り付けた、雨を拭う自然な動作を意識して。
油断無く視線は2人に向けているが、銃口をわざとぶれさせる。
隙をつきたくても2丁の拳銃にその動きを封じられていた川瀬がその誘いに乗った。
予想より少しだけ上回った挙動で、川瀬がダッシュしたのだ。
しかも方向は美咲の方ではない。
背後の車を目指していた。
取り敢えず遮蔽物を手に入れようとしているのだろう。
(へぇ、意外とやるわね)
美咲はしかし余裕で関心して見せた。
そしてその余裕は、川瀬の手から小石を投げつけられても変わらなかった。
正確に顔を捉えていた小石の弾道を、美咲は事も無げにかわす。
這い蹲った相手の反撃手段としては、意外性は何も無かった。
そして川瀬が車まであと数メートルに迫った位置で、美咲の拳銃はその体を正確にポイントしていたのだった。
(さようなら)
恐怖に引き攣らせた顔を冷静に眺めながら、美咲は引金を引いた。
銃声が耳に届いたのは、不思議に川瀬が仰け反った後のような気がした。
*
「か・・・川瀬」
木之下は川瀬のダッシュを呆然と見送っていた。
頭ではこのタイミングで自分も反対側に逃げるべきだと判っている。
けれど、躰が反応しなかった。
まるでテレビの中の出来事のように、自分の身に降りかかったことだと思えなかったのだ。
けれど、闇に轟く銃声が木之下に避け得ない現実を突きつけた。
ドラマの世界に引きずり込まれたように、木之下は突然死地にいる自分に気付いたのである。
「な・・・なん、で」
無意識に言葉が滑り出た。
今になってダッシュしなかったことを悔やんだ。
けれど全ては遅すぎた。
川瀬を見下ろす美咲の顔がゆっくりと木之下に向けられてしまったのだ。
まるでモノを見るような美咲の瞳が木之下の怯えた瞳を射抜く。
死に神の鎌が木之下をロックオンした瞬間だった。
俺が・・・死ぬのか・・・
それは頭で考えたことではなく、細胞が悟ったことだった。
驚いた事に、その瞬間ホントに過去の情景が浮かび上がってきたのだ。
死地から生還した人が語るとおりである。
木之下は美咲の腕がゆっくりと上がる光景を見ながら、同時に小学3年の運動会でゴール寸前に転んだシーンをみていた。
美咲の頬に小さな笑窪ができるのを見ながら、大学に合格した日の夕食を思い出していた。
取りとめのない記憶のフラッシュバック。
それは脳にプログラムされたエマージェンシー回路が過去の検索を猛スピードで行っている副産物なのである。
この死地を脱するためのキーを求めて過去の経験が次々と現われていった。
けれどそれと同時に脳内ではもうひとつの変化が同時に生じていた。
やがて訪れる『死』への道程がせめて安らかであるように、脳内モルヒネは過剰分泌され体の感覚が次々と切り離されていった。
今はもう冷たい雨も、雨音も何もかも意識から消えていた。
だから・・・
そう、だから木之下自身ですら気付かなかったのだ、その時自分の胸の奥で生じた変化に。
美咲の拳銃が銃口をピタリと木之下に向ける。
そして美咲の腕の筋肉に微かな力が加わる。
木之下はその光景を見ながら、何かが自分の喉を駆け上ってくることだけしか判らなかった。
そして、美咲の指が引金を引く、まさにそのタイミングで『それ』は喉の奥から迸り出たのだった。
何かを叫んだ・・・
木之下はそれに気付いた。
しかし同時にこめかみに物凄い衝撃を受け、そのまま暗闇に引きずりこまれてしまったのだった。
銃を構えた1人の女と、地面に伏した2人の男。
冷たい雨が降り続ける河原で、いま3つの人影はまるで凍りついたようにその動きを止めていた。
石を打つ雨音だけが時の経過を伝えている。
しかし、時の呪縛を抜け出したのは、意外にも美咲ではなかった。
冷たい地面に顔を押し付けながら、微かに右目だけを明け、立ち尽くす美咲のシルエットを見上げていたのは、最初に撃たれた筈の川瀬だった。
間違いなく川瀬の脇腹を捉えていた銃弾は、しかし防弾チョッキにそのエネルギーを吸収され体を貫通することはできなかったのだ。
けれどまるでフルスイングのバットで殴られたような衝撃は、川瀬の意識を一瞬飛ばすには充分だった。
そして2度目の銃声でやっと川瀬ははっきりと意識を取り戻したのである。
(木之下・・・殺られちまったのかっ)
自分に向けられなかった銃弾の行き先はそれしかなかった。
川瀬は暗闇の中で伏せながら、唇を噛んでいた。
けれど、それと同時に僅かな光明も感じていた。
車にはまだエンジンが掛かったままである。
もしも、美咲が木之下の様子を確かめに車の前から移動するのならそれが最後のチャンスだと思ったのだ。
素早く車に乗り込みドアをロックしてしまえば銃弾の楯にできるし、何より反撃に出られる。
確率は2分の1である。
自分の方に歩いてこられてはチャンスはない。
川瀬はジッと美咲の動きだけに神経を集中させていた。
しかし、かれこれもう5分も経っただろうか。
ジッと聞き耳を立てている川瀬の耳に美咲の動く様子が伝わらないのだ。
車のエンジン音が微かに聞こえているが、その所為で聞き漏らすとも思えない。
川瀬は、小動物のような慎重さでそっと片目だけを開いたのである。
そしてその目に映ったのが銃を前方へ突き出したまま固まっている美咲のシルエットだった。
(何をしている?木之下に止めを刺さないのか)
理解できなかった。
銃を持っているのは美咲だけである。
木之下の出方を窺う必要は何もないのだ。
さっさと2発目、3発目を撃ち込んでけりをつけるのが普通である。
けれど、美咲のシルエットはまるで動かない。
降り注ぐ雨が頬を伝い、顎からポタポタと滴り落ちる。
いっぱいに伸ばした腕からも、拳銃からも同じようにポタポタと落ちている。
その姿はまるでマネキン人形のように見えた。
(人形っっ!!)
突然、川瀬の頭に雷鳴のような驚きが沸きあがった。
思い出したのだ、美咲がついさっきまで催眠暗示で前後不覚だったことを。
(ま・・・まさか)
川瀬は闇の中で唾を飲み込んだ。
半信半疑である。
何か美咲が罠を張っているのではないかという疑念がどうしても晴れない。
けれどこの状況で美咲が罠を張らなければならない理由もまた思いつかなかった。
再び時が静かに流れていく。
1分、そして2分・・・。
しかし3分を迎える前に川瀬は痺れをきらした。
根が短気なだけに待つのは苦手だった。
自らの命が賭けの対象であっても、もうこれ以上相手の出方を探るのは我慢できなかった。
(いちかばちかっ!)
脳裏にその言葉を唱えるやいなや、川瀬は両手足に瞬時に力を送り込み低い体勢からそのまま美咲に向けてダッシュしたのだった。
距離はおよそ5メートル。
だから、最初の3歩で美咲の反応が無いことを知った川瀬は、遂に自分が死のあぎとを脱出したことを知った。
そしてそのまま美咲の体めがけ猛烈な勢いでタックルしたのである。
組み付いた途端、美咲は何の抵抗もなく打ち倒された。
硬い河砂利の地面に受身ひとつ取らずに横倒しとなる。
けれど川瀬はそんな美咲の反応を気にするより先に、その両手に握られた2丁の拳銃に飛びついた。
そして有無を言わせぬ力でそれらを両手から毟り取ったのである。
「離しやがれっ、この馬鹿女ぁっ!!」
まさに渾身の力と言って良かった。
そしてやっと拳銃を奪い取ると、そのまま3メートルも必死で逃げたのだった。
川瀬が一息を吐けたのは、こうして両手に拳銃を握り締めながら反対に倒れ伏した美咲に銃を突きつけてからだった。
「こっ、このっ、ば、馬鹿女っ!はぁはぁっ、てっ、てめぇ、よっ、っくも、はぁはぁっ、よくもっ、俺達をっ、はぁはぁっ、嵌めてくれたなっ!」
今になって荒い息が川瀬の胸を強制的に上下させた。
あまりの緊張に、息すら忘れていたのだ。
頭の中は真っ白だった。
けれど、こうして荒い息を静めていると、徐々に川瀬の中に沸々と怒りが込み上げてきた。
「許さねぇ・・・貴様だけはっ、絶っっ対にっ、許さねぇっ!!」
自分たちをまるで消耗品のように切り捨てようとしたそのエゴイスティックな行為は決して許す事は出来なかった。
ましてまるでボロ屑のように撃ち殺された木之下の怒りを思うと、このまま美咲を捕らえて告発することなど考えられなかった。
「木之下ぁ~っ、待ってろよぉ、すぐにこの上官様を送ってやるぜっ!地獄の餓鬼どもにこき使われるコイツの様子を天国から見物させてやるぜっ」
小さく呟くと同時に、川瀬の両手が伸びた。
しっかりと握られた2丁の拳銃が倒れたままの美咲にピタリと照準あわせる。
小雨の降り続くなか、相手を変えて拳銃はまたも発射の時を迎えていた。
しかし・・・
まるでそのタイミングを待っていたかのように、突然川瀬の耳に聞きなれた声が聞こえてきたのである。
「まてぇ・・・撃つなっ・・・撃つなぁ~っ」
闇に呑まれた河原の奥から聞こえるその声は、確かに木之下のそれだったのだ。
ぎょっとしたように、川瀬は美咲から視線を外し闇に目を凝らす。
すると確かに人型の輪郭が闇の中に浮かんでいることに気付いたのだった。
「き・・・木之下?木之下かぁっ」
驚いた声が川瀬の口から毀れる。
するとそれに反応するように微かな輪郭が両手を振って近づいてきた。
「お・・・俺だよっ、川瀬っ。はぁはぁ・・・お前も生きてたんだ」
そして、やがて車のスモールライトが及ぶ範囲まできた時、川瀬はやっとそれが本物の木之下であることを知った。
「お前、撃たれなかったのかっ」
「撃たれたサ。このとおり」
木之下はそう言って左のこめかみ部分から出血している様子を川瀬に示す。
「逸れたんか」
「あぁ・・・どうやらギリギリ間に合ったらしい」
「間に合った?何がだ」
川瀬には木之下の言うことの意味が判らなかった。
しかし木之下はそれには答えずに、真っ直ぐに美咲のもとに足を運んだ。
そして本物のマネキンのように硬直させている美咲の体を見下ろした。
「これは・・・お前がやったのか」
後ろから川瀬が訊く。
すると木之下は微かに肯いた。
「あぁ・・・多分な」
「多分?」
「咄嗟のことだったんでハッキリ憶えてねぇんだが・・・」
木之下はそう言ってあの撃たれる瞬間のことを川瀬に語った。
「俺自身、いったい何を叫んだのかと思ったよ。でも、今になってやっと思い出した。あのセリフ、『諜報人形美咲』ってのは奴が、“きつね”とかいうあの催眠術師が最後に囁いた言葉だったんだ」
しかし、催眠に素養のない川瀬はまだ理解できていない顔つきである。
「『後催眠』というテクニックがある。つまり一旦催眠から解き放っても、決められたキーワードでまた催眠状態に戻すことが出来るんだ」
「あ?しかしお前の飲ました『抗催眠試薬』ってのは『後催眠も含めて根こそぎ』っていってたよな」
川瀬のその素朴な疑問に、木之下は肩を竦めて溜息を吐いた。
「そう。抗催眠試薬の開発に携わった者としては少々業腹なんだが、どうやらまるで歯が立たなかったってのが正解だろう。あの時コイツが目覚めたのは単なるショック療法程度の意味しかなかったんだと思う」
木之下はそう言って河原の砂利の上に横倒しになっている美咲の頭を靴先で突っついた。
目を虚ろに開けたまま雨に打たれ続ける美咲は、そんな行為にも何一つ反応を示さなかった。
そしてそんな美咲の様子を見下ろしていた川瀬はまるで疲れきったような口調で言った。
「ってことわだ、あれか?『振り出しに戻る』って訳なのかっ!」
苦労して助け出し、薬で正気づかせ、その途端に殺されかけ、そしてまたも催眠状態に逆戻り・・・
川瀬の中には徒労感と、やり場のなり怒りだけが残った。
「俺はもう嫌だぜっ。たとえこの木偶の坊状態であったとしても、こんな鬼畜女と同じ車になんか乗りたかねぇっ!できるならこのマンマ鉛玉をぶち込んで川に流しちまいたいくらいだっ」
唾をペッと吐きかけると、川瀬は思いっきり美咲の脇腹を蹴った。
ちょうど自分が拳銃で撃たれた場所である。
その容赦ない衝撃に、美咲の体は半回転し仰向けとなる。
けれど、それでもやはり美咲の意識に変化は見られなかった。
しかし、その様子を見ていた木之下は何故か川瀬ほど苛ついていない。
それどころか美咲の顔の横にしゃがみ込むと、曲がった眼鏡を直してやり、顔に掛かった髪を掃ってやっているのだ。
「おいっ、お前っ、頭にこねぇのかっ!オメェも撃たれたんだろっ!この鬼畜アマによぉっ」
「あぁ、撃たれたさ。頭にきてるよっ、お前以上にね」
木之下は美咲の顔を覗き込みながら言葉を返した。
「しかしな、それとこれとは別問題だ。やっぱ、末永く付き合うチームのメンバーは大切にしないとね」
そう言うと、木之下は川瀬を仰ぎ見てニッと笑った。
そして川瀬はそんな木之下を理解不能とでもいった顔で見詰め返している。
けれど木之下は川瀬の内心など何の頓着もせずに、突然言葉を発したのだった。
「立てっ、美咲」
自信に満ち溢れた声である。
川瀬には何が生じているかまるで判らなかった。
けれど目の前で生じた現象には、川瀬が頭で判断する前に体が反応していた。
「うわぁっっ!」
叫び声をあげて3メートルも跳び退いた。
そしてその川瀬の目は、全身をずぶ濡れにして立ち上がった美咲の姿を捉えていたのである。
「こっ、このアマッ!」
条件反射のように銃を向ける川瀬に、この時木之下が立ち塞がった。
「どっ、退けっ、木之下ぁっ!」
「やめろよ、川瀬。もったいねぇ」
そして木之下は川瀬を無視するように背を向けると美咲の頭を両手で挟みゆっくりと回しながら言葉を掛けていった。
「美咲っ、キミの任務は部下への肉体奉仕だ。キミの2人の部下、木之下と川瀬の性欲を常に満たしてやりなさい。2人が満足することが最重要の課題だ。そのために必要なあらゆる要求に応えることを命ずる。キミにならできるね?」
いつもの木之下の口調ではない。
これが催眠術を使うときの木之下なのだろう。
すると美咲もまた普段のヒステリックな口調ではなく、真摯な口調で答えたのでる。
「はいっ。私は2人の部下が満足するよう肉体奉仕を行います。どんな命令にも私なら応えられます」
そう言って体をピシッと伸ばすと、木之下に敬礼を返したのだった。
そして木之下はそんな美咲に答礼すると、自信たっぷりに命令したのだった。
「それじゃ、初めてもらいましょうか、美咲チーフッ。まずはストリップから宜しくね」
普段の木之下の声に戻してそう言った途端、美咲はそれまでの硬い表情を崩しまるで最愛の恋人に向けるような蕩けきった笑顔を向けた。
そして、冷たい冬の雨に打たれていると言うのに、まるで暖かなシャワーを浴びているように頬を上気させてゆっくりとシャツのボタンを外し始めたのだった。
「お・・・おいっ・・・こ、これ・・・マジ?」
木之下の背後で川瀬のかすれた声がした。
木之下はそんな相棒を振り返ると、軽くウィンクした。
「俺もここまで上手く行くとは思ってなかったけどね。でも俺の言葉で後催眠を発動出来たんだから、きっとその後の命令も受け付けるんじゃないかなって」
「でもよ、最初の時は俺らが何言っても全然反応しなかったろ?」
「あぁ、そうだよな。でもあれは結局あの男がコイツの催眠を完了する前に俺たちが掻っ攫っちまったからだと思うぞ。薬で一旦目覚めさせたのが、偶然リセットの役割になったんだろうな」
木之下が得意げに解説をする。
そしてその2人の目の前で、美咲はキスをせがむように唇を突き出しながら、腰からズボンをずり下げていた。
左右に振る腰の動きが扇情的である。
「おいっ、こっちにケツを向けながら脱げよ」
木之下がニヤニヤと笑いながら命ずる。
すると観客の声に答えるストリッパのように美咲はクルッと背をむけ、尻ふりを続けながらズボンを足から抜いていった。
そしてその尻を突き出した姿勢のまま、顔だけを後ろに向けてパチッとウィンクまでする。
もう完全に暗示の虜になってしまっているのだった。
「お前も何か命じてみろよ。俺たちが命を代償に手に入れた共用ペットだ。好きに使おうぜ」
木之下のこの言葉で、呆然と美咲に見蕩れていた川瀬がやっと我に返った。
「共用ペットか・・・・ふふふ、そりゃいいや。確かに俺たちゃこの女に殺されかけたんだ。それくらいの代償は当然だよなっ」
そして早くも股間を膨らませながら、暗闇のなかで白い肢体を悩ましげにくねらせている美咲に命令したのだった。
「おい美咲っ!素っ裸になったら車の屋根の上にあがれっ!そこでマンズリ・ショーだっ。部下の俺達の目の前でマ○コをパックリ広げて潮を吹いてみろっ」
最後の下着を膝まで下ろした美咲はその言葉に嬉しそうに肯くと、グッショリと湿ったそれを夜空に思いっきり放り投げ、クルッと背をむけて車へと駆け出していった。
「おい美咲チーフッ、復唱はどうしたんですかねぇっ」
木之下が嘲るように声を掛ける。
すると車の屋根によじ登った美咲はその上に立つと大きな声で2人に言ったのだった。
「復唱しまっすっ!雪野美咲は部下である川瀬様、木之下様の命令に従い、ここでぇ、車の屋根の上でぇマンズリいたしまっすっ!マ○コが潮を吹くところをご堪能くださいっ!」
そして2人の顔より10センチほど高いところで、美咲は限界まで両足を広げ、肉の割れ目を2人の視線に晒したのである。
そして2人の絡みつくような視線を充分に意識しながら美咲はぽってりと充血し始めた淫唇に指を沈めていったのだった。
< つづく >