暗躍編(3)
今は昼休み。転校生はヒーローという図式が見事に当てはまっている啓人は、他の生徒の勧誘や質問責めから逃れ、屋上にいた。
「ふう・・・やれやれだ」
さしもの啓人も、あの圧倒的なパワーにはてこずった。力をまだ振るわないと決めていたので、逃げるしかなかったのである。全ては転校初日、スポーツテストで見せた驚異の身体能力が原因であった。
「もう少し加減するべきだったかな・・・」
派手にやれば逆に嫌疑をかけられない、と思ったのだが、校内で注目の的になるという事を忘れていたのである。啓人は少し後悔しながら、一人で千鶴の作った弁当を食べていた。
(タイプの女、ほとんどいないんだよな・・・)
啓人は心の中で愚痴をこぼしていた。学校に来て、女性は職員から生徒まで一通り調べた。勿論千鶴がである。どうやったかは啓人でさえよく分かっていない。その結果、啓人が好きな京風の大和撫子系はほとんどいなかった。はっきり言って啓人が贅沢で細かいだけであるが。
(転校先、間違えたかなぁ・・・)
啓人がこの高校を選んだのは、大学受験の必要がないからである。要するに大学の付属校なら何処でも良かったのである。
啓人はそこで誰かが屋上に向かってくる気配を感じ、扉の方へ目を遣った。
ガチャッという音がして、三人の女生徒が姿を現した。
(あれは日生真弓に楠町真梨江、そして二年の栗橋・・・何だっけ?)
一人の名前は忘れているが、後の二人は啓人のクラスメートであった。
三人共、啓人のチェックが入っている美人である。当然タイプも似ている。ただ、違いを上げるとすると、三人共美人にありがちな冷たさはなく、日生からは明るさ、楠町からは清楚さ、栗橋からは柔らさのようなものを感じ取る事が出来る。そして三人共、他の生徒達みたいな興味を啓人に持っていなかった。
「高く遠く、そして堅くてこそ‘高嶺の花’か・・・」
啓人は何やら意味不明な事を呟いた。気配を完璧に気配を消し、なおかつ彼女達の死角にいる為、啓人の存在には三人は気付かなかった。
「最近何か変じゃありません?」
そう言っているのは、栗橋であった。
「どういう事?」
日生が訊き返した。
「何て言うか・・・雨桶市全域に何か起きてるんですよ。先日、退魔士協会の人間が何者かに倒されたそうですし」
その言葉に、他の二人は驚いた。今時、民間人でも退魔士達の存在は知っているのである。そしてその強さも。
「退魔士って、此処を守ってるっていう人達でしょう?」
そう言う日生に驚きと同時に、疑問が含まれていたのも無理なかった。
退魔士達は、公共機関でこそ扱われていないが、本にも登場し、民間では英雄視されているのである。
「本当なんですよ。退魔士達、それも実力派がもう十人も・・・病院で昏睡状態だそうです」
何時になく、栗橋の言葉に力がこもっている。
「それで?」
興奮した栗橋に、楠町の涼しげな声が投げかけられた。その一言で、栗橋は冷静さを取り戻した。
「え、えと・・・まだ一番強い人は残ってるんですけど、近いうちに本部に増援を要求するかもしれないそうです」
「そうなんだ」
言いたい事を受け入れられて、栗橋はホッとした表情になった。
「でも何故そんなに詳しいの?」
またしても楠橋の一声。彼女の視線が栗橋に向けられる。
「そう言えばそうね・・・どうしてなの?」
楠橋に相槌を打ちながら、日生も彼女の方へ向いた。
「そ、それは・・・」
二人に見つめられ、楠橋は動揺してしまう。同姓とはいえ、非常な美人に、それも二人同時に見つめられたのだから、当然と言えば当然であった。
「「それは?」」
二人は同時に声を出し、首を傾げた。日生の方は、ちょっと栗橋の顔を覗き込んだ。
「ふ~ん・・・」
二人にあたふたと説明している少女を、啓人は興味深そうに眺めた。
「面白くなりそうだな・・・」
そう呟くと、啓人は空を見上げた。
≪ちゃんと働けよ≫
啓人は言葉に出さず、思念を飛ばした。
≪心得ております啓人様・・・≫
しばらく経ってから、そういう返事が届いた。
「そろそろ五時間目か・・・」
啓人はそう言って立ち上がり、教室へと向かった。授業は意外と真面目に出ているのである。
昼過ぎ、雨桶市に一つしかない神社の境内を、巫女姿の少女が掃いていた。
「ふう・・・」
まだ春ではあるが、日差しは十分に強く、少女は既に汗ばんでいた。
「暑いなぁ・・・」
静寂を保った広い敷地の中、少女の声と地面を掃く音だけが聞こえる。
汗を拭いながら、ふと自宅の方を見ると、彼女は自分と同じ姿の女性がこちらに歩いてくるのを見つけた。
「廉霞姉様ーっ!」
あどけなさは残るが、良く通る声でその女性を呼んだ。剣を持った廉霞が近づいてくると、少女は駆け寄り抱きついた。
「これからお仕事?」
廉霞が剣を持つのを見て、小首を傾げながら、上目遣いで尋ねた。
「そうよ。佳純留守番をお願いね」
廉霞はそう言いながら、開いた手で妹の頭を撫でる。
「は~い」
佳純は頭を撫でられて、嬉しそうに返事した。それを見て廉霞は優しく微笑むと、離れるように言った。
「気をつけてね・・・」
名残惜しそうに、佳純は離れると廉霞に手を振る。振り返らずに歩く姉の後ろ姿を、見えなくなるまで見送っていた。
「さて、と」
姉の出陣を見届けると、佳純は箒を拾った。
「清華(きよか)が帰って来るまでにお掃除済ませなきゃ」
三姉妹の中で唯一人、学校に行っている佳純の双子の姉である。彼女が帰って来れば、掃除どころじゃなくなるという事を彼女は分かっていた。別に騒がしいというわけではなく、ついつい他の事を忘れて遊んでしまう・・・つまりそれだけ中が良いのである。
「せっかくお父さんが遺してくれた土地だもの・・・綺麗にしとかなきゃ」
そう独り言を言いながら、佳純は再び境内を掃き始める。
廉霞・清華・佳純の父親は、この神社の神主であり、高名な退魔士でもあった。
昔から淫獣や催淫蟲・妖魔の存在は知られていたが、それを退治する退魔士達の存在は出来るだけ伏せられてきた。だが百年前に起きた戦いで、世間に認知されるようになってしまったのである。
【我々の先祖様も勇敢に戦われた・・・その事を誇りに思わなければいけないよ】
それが彼女達の父親の口癖であった。
(・・・ふー何を思い出してるのかしら・・・)
佳純は何か妙に感傷に浸ってしまった。
(一人でいると、時々こういう気分になるよね)
佳純は広くて静かな神社の敷地に一人でいると、時々切なくなってしまう。
「あのーすいません」
静寂と佳純の思考を打ち破ったのは、若い女性の声であった。
「え?あ、はい」
佳純が慌てて振り向くと、着物姿の美女が立っていた。
(い、何時の間に・・・)
いくら考え事をしていたとはいえ、常人が佳純に気付かれずに彼女の後ろに立つなど、不可能な筈であった。
(この人、何者かしら・・・)
そう考える佳純とは対照的に、気の強そうな顔立ちをしたその女性は、不思議そうな顔をしていた。
「どうかしましたか?」
首を傾げられて尋ねる。
「い、いえそれよりどんな御用でしょう?」
佳純は慌てて、取り繕った。怪しんだなどと、気付かれたくなかったからである。そんな佳純の様子を気にせず、その女性は言った。
「貴女に会いに来たんです」
その言葉を佳純が理解するまで数秒を要した。
「・・・え?」
佳純は今度こそ戸惑いを隠せなかった。目の前にいる、テレビの時代劇に出てきそうな女性など佳純は知らなかったからである。
「あ、あの・・・私は貴女を存じないんですけど・・・」
佳純は恐る恐る、といった感じで言った。
「それはそうでしょうね」
そう受け流すと女性は微笑んだ。
(え?え?)
佳純の頭は、状況についていっていなかった。
「でも私は貴女を知っているの」
女性は右手をゆっくりと佳純に伸ばした。
(嫌っ)
本能的な恐怖を感じた佳純は、戸惑いつつもその腕を掴もうとした。
しかし、その腕は佳純の手をするりと抜けてしまった。
(え?う、嘘・・・)
佳純は自分が見た光景に慄然とし、思わず後ずさりし始めた。
(こ、来ないで)
佳純は退魔士の家系のクセに、幽霊の類が苦手であった。そんな佳純の想いとは裏腹に、白い手は迫って来る。
(い、嫌あ・・・)
恐怖心と嫌悪感が入り混じり、力を使う事を忘れる程佳純の頭は錯乱し始めていた。感情が昂ぶると力が自動的に発動される、なんて事が起きる程甘くはなかった。
やがて佳純は、小石につまずき転んでしまった。白い女はもう目の前に迫っている。
「い、嫌・・・」
消え入るようなか細い声を、とうとうもらしてしまった。例え大声で叫んでも、誰も助けには来ない。佳純はそれを嫌という程分かっている。だからこそ今まで声は出さなかった。
(少しでも体力を残しとかなきゃいけないのに)
佳純は大きな過ちを犯したような感覚に捉われていた。
女の退魔士達は敵と戦い、敗れれば辱めを受ける。そういう時は力を温存し、隙を突いて逃れよという教えがあった。いくら逃げる機会があっても、逃げる体力がなければ意味がないからである。
そんな佳純を女は冷笑しながら見ていた。
「もう逃げないのか?」
女が佳純に声を掛ける。最初とは打って変わり、冷たい声であった。
「・・・・・・」
佳純は何も答えない、いや何も答えられなかった。それでも佳純は立ち上がった。女の嘲弄によって僅かだが、戦意が湧いてきたのである。
佳純の目に怯えの他に、強い光が宿り始めたを見て、女は嬉しそうな顔をした。
「思ったよりも活きが良さそうだな」
そう言いつつ、女は無造作に佳純の胸に右手を伸ばした。佳純は目を閉じ、体を固くした。女のひんやりとした手が、身に着けた布地をすり抜けて彼女の胸に直接触れた。
「きゃっ!?」
相手の予想外の行動に、佳純は思わず悲鳴をあげた。そんな反応に構わず、女は胸を揉む。
「あっ・・・!」
未知の感覚に襲われ、佳純は崩れ落ちた。
「な、何をするんですか?」
戸惑いと動揺を隠せず、それでも女の方を睨んだ。それに対して、女の方は右手を見た後
「顔に似合わず大きくて弾力があるな」
と言ってにやりと笑った。
「なっ・・・」
佳純の顔が真っ赤になった。そんな初心な反応を見て、女は声を立てて笑った。
「これなら啓人様もお喜びになるだろう」
そう言って満足げな顔になった。
「貴女は何を言って・・・」
佳純は最後まで言えなかった。女が袖からスポイトを取り出したのを見たからである。中には無色透明の液体が入っていた。
「な、何それ・・・」
佳純の疑問を無視し、女を蓋を取った。
「飲め」
そう言って差し出す。
「い、嫌に決まってるじゃない・・・」
佳純はそう言って顔を背けたが、女が無理矢理口の中に捻り込んだ。
「んんーっ!」
佳純はもがくが、女の手はびくともしない。それどころか、ふとした拍子で液体をゴクリと飲んでしまった。
「あ・・・」
佳純がしまった、と思った瞬間、体に異変が起きた。体の芯が熱くなって来たのである。
(え?何?)
佳純は慣れない感覚に戸惑うが、その間に全身が火照り出した。
「ハァ・・・か、体が熱い・・・」
熱を出した時と似てはいても、全く別の感覚。全身が疼き始めたのである。
「もう効いてきたか・・・流石は啓人様がお作りになった事はある」
女はそう言いながら、佳純の横に座った。
「これからお前を桃源郷に連れて行ってやろう・・・我が名は魅矢。これからの為に覚えておけ」
佳純は碌に聞いてないが、それでも脳裏に響いた。
(な、何なの・・・)
まだ何もされていないのに、軽い快感が体内を駆け巡っている。知識さえない佳純でも、さっき飲まされた液体が原因である事は理解出来た。
(だ、駄目・・・)
佳純は何とか湧き上がる感覚を抑えようとする。
それを見た魅矢は再び手を伸ばした。
「無駄な抵抗は止めろ」
そう言いつつ、直接胸に触れる。
「あ・・・」
冷たい手に触れられただけで、佳純は感じてしまう。それを見た魅矢は、妖しい笑みを浮かべながら胸を揉み出した。
「だ、駄目っ・・・んっ・・・あ・・・」
白い手は時に激しく、ときには緩やかに、弾力に富んだ胸を揉む。
「んっ・・・あんっ・・・駄目・・・あんっ・・あんっ・・・」
佳純は首を横に振りながらも、喘ぎ始めていた。
「ふふ・・・気持ち良いのか?」
魅矢は手を止めて聞いた。
「そ、そんな事・・・」
佳純は真っ赤になって俯いてしまった。
「ほう・・・違うと言うのか?」
今度は両手で揉み出した。
「きゃんっ・・・あんっ・・・あっあっ」
余韻が残っていた体は、直ぐに反応した。魅矢の指が乳輪をなぞり、乳首を弾く。
「あんっ・・・」
佳純の体がビクッと震えた。
「感じているじゃないのか?」
魅矢は口を佳純の耳元に近づけて囁く。
「あんっ・・そ、そんな事・・・あんっ」
嬌声を上げながらも否定しようとする。
「もう此処が固くなってるぞ・・・」
魅矢はそう言いながら、乳首を徹底的に責め始めた。
「あっ・・・んっ・・・んっ」
段々喘ぎ声が大きくなり、佳純の体から力が抜けていく。
「そろそろか・・・」
魅矢はそう呟くと突如、佳純の胸に吸い付いた。
「ひゃんっ!あっ、あっ、」
驚きも、たちまち快感の波に流されてしまう。
(ど、どうして・・・あっ・・・き、気持ち良い・・・あんっ)
快感が少しずつ、佳純の思考を蝕んでいく。
「気持ち良いのか?」
そう訊く声も、段々と耳に入らなくなっていく。
(へ、変になっちゃうっ・・・あんっ、あんっ)
やがて理性はかき消され、快感しか存在しなくなった。
「ああっ!」
佳純の体が反り返り、痙攣した。
「達したか?」
そう言いながら、ぐったりとした佳純から離れる。
佳純はそれに答えず、放心していた。
「それが‘イク’という事だ」
魅矢は佳純の顔に手をかけながら言った。
(い、今のが・・・)
まだ佳純の息は荒く、体は快楽の余韻に浸っている。
「ほら、私の目を見ろ」
魅矢はそう言って佳純の顔を覗き込む。目と目が合った瞬間、佳純は
「あっ・・・」
と微かに声をもらした。
「お前は淫乱な奴隷だ・・・」
「私は淫乱な奴隷・・・?」
佳純の言葉に頷き、魅矢は言葉を続ける。
「お前は啓人様の奴隷だ」
「私は啓人様・・・誰?・・・私は奴隷じゃない」
佳純はそう言って顔を反らそうするが、魅矢の両手がそれを許さなかった。
「まだ抵抗があるか」
魅矢は舌打ちしながらも続ける。
「お前のさっきの様は何だ?」
「そ、それは・・・」
佳純の顔が赤くなる。
「気持ち良かったんだろう?」
「それは・・・」
佳純は少しためらっていたが、こくんと頷いた。
「何故気持ち良いのがいけない?」
「そ、それは・・・恥ずかしいから・・・」
俯こうとしたが、やはりそれも出来なかった。そんな佳純の態度に、魅矢は段々と苛立ち始めた。
(~~~~~~~~~っっっ!!!何で私がこんな事をっ!)
魅矢は本来、こういうまどろっこしい事は性に合わない。ただ啓人に命令された事なので、しかたなくやっているだけなのである。
魅矢が佳純に飲ませた薬には、飲んだ人間を欲情させるだけでなく、被暗示性も高める効果がある。そして一度その相手をイカせると、その効果はさらに高まると云う。
(と、とにかく続けるか・・・)
啓人に薬の効果から暗示の掛け方まで説明されて、今更投げ出すわけにはいかない。
(千鶴にだけはやらせたくないし・・・材料を山に採りに行かれた時、私は留守番だったしな)
魅矢は気を取り直すと、注意再び佳純へ向けた。
「じゃあ痛い方が良いのか?」
佳純は力なく首を振る。
「気持ち良くなって当たり前なんだ」
(気持ち良いのが・・・当たり前・・・?)
佳純の頭の中で、魅矢の言葉が反芻する。
「恥ずかしい事じゃない」
「恥ずかしい事じゃない・・・」
噛み締めるように呟く。
「誰でも気持ち良くなるんだ」
「誰でも気持ち良くなる・・・」
そこまで言うと、魅矢の指が佳純の額を二回叩いた。それが覚醒の合図であった。
「ん・・・」
一度目が閉じ、そして開いた。
「あ・・・私は・・・」
そこまで言うと何があったか思い出したらしく、佳純は真っ赤になった。
「どうだ?気持ち良くして欲しいか?」
手を離して訊かれ、微かに頷いた。
(案外簡単なものだな・・・)
魅矢は自分のもたらした成果に満足した。とは言え、啓人に服従した時から自惚れは消えているので、薬の効力によるものだと理解している。
「何処がいい?」
魅矢はそう言って髪を撫でる。
「え・・・?」
流石にそれは戸惑いがあるらしく、なかなか言おうとはしない。
「此処か?」
そう言って、股間に指を伸ばす。
「きゃあっ!?」
佳純は身を固くした。
「どうした?」
「だ、だってそこは・・・」
縋るような目で魅矢を見る。
「もっと気持ち良くして欲しいのだろう?」
「で、でも・・・」
佳純の閉じた足をすり抜けて、割れ目に触れた。
「あっ・・・」
微かに震える。
「もう濡れているではないか」
にやりと笑ってからかう。
「い、言わないで・・・あうっ」
敏感な部分を撫でられ、声が出てしまう。
「いい声だな、ならこれならどうだ?」
魅矢が顔を沈め、舌で割れ目を舐めた。
「はあんっ・・・」
その感覚に、思わず甘い声をもらしてしまう。それを聞いた魅矢の舌の動きが、段々と活発になってくる。
「あんっ・・・あんっ」
ただ舐められているだけなのに、胸を揉まれた以上の快感に襲われる。舌はやがて最も敏感な部分にも伸びて来た。
(え?嘘・・・)
服を着ているにも関わらず、直接刺激を受けているのが異常なのに、割れ目とクリトリスを同時に刺激するという事が起きていた。
(あんっ・・・で、でも気持ち良い・・・っ)
怖くなったのと、より快感を感じるようになった為、佳純の思考回路は停止に向かった。
「あんっ・・・あんっ、あんっ」
佳純が胸を責められた以上の快楽に溺れ始めた頃、突如として舌の動きが止まった。
「あぁ・・・どうして・・・?」
佳純は不満らしく、切なそうな声を出す。その体はもどかしそうに動いている。
「欲しければお願いが出来なければな」
魅矢は冷たく言い放つ。
「そ、そんなぁ・・・」
縋るような目で魅矢を見る。
「ほら」
軽くクリトリスを刺激し、促す。
「あうっ、うっ・・・お、お願いします・・・」
佳純はやっと思いで言う。
「何のお願いだ?」
魅矢の白々しい言葉が、佳純に突き刺さる。
「き、気持ち良くして下さい」
佳純は今にも泣き出しそうだった。
「よくぞ言った」
魅矢はそう言うと、一気に快感を送り始めた。
「あっ、あんっ、あんっ、あんっあんっ」
焦らされた所為か、佳純は感じやすくなっていた。
「ふふふ・・・良いだろう?」
そう言う(霊なので舐めながら話す事も可能)魅矢も、実は佳純の態度に嗜虐心をそそられ、限界だったりする。
「いいっ、いいのぉっ!」
「さあ鳴け!」
舌で責められ喘ぐ佳純と、責めながら叫ぶ魅矢。
「達する時は、イクッて言えよ」
そう言う魅矢も口調が乱れてきている。
「も、もう駄目・・・イ、イッちゃう!」
体が痙攣したかと思うと、佳純はぐったりとしてしまった。
「まだまだこれからだぞ?」
肩で息をする佳純に、魅矢はまだ終わりでない事を告げる。
「何がまだまだなんだ?」
不意に声が聞こえ、魅矢は驚いて振り向いた。そこには何時の間にか啓人が立っていた。
「け、啓人様・・・」
それに応えず、啓人は佳純に歩み寄った。
「イカせたのか?」
振り向きもせず、佳純の額に右手を当てて尋ねる。
「は、はい・・・二度ほど・・・」
何時になく真剣な啓人に、魅矢は緊張していた。
「そうか」
そう言った啓人の右手が、ぼうっと光るのを魅矢は見た。
「あ・・・」
佳純からそんな声が聞こえたかと思うと、彼女の顔から表情が消えていった。
「お前は俺の忠実な下僕だ。俺の言う事は何でも正しい。お前が俺に従う限り、お前は何も心配しなくなる」
啓人は早口に、それでいてはっきり分かるように言葉を紡ぐ。
「俺はお前にとって一番大切な存在だ、分かるな?」
そう言われると、佳純は虚ろな表情のまま頷いた。
「よし、お前は何時でもそれを覚えている。でも暗示にかけられた事は忘れるんだ」
そこで言葉を切り、人差し指で佳純の額を軽くついた。
「ん・・・」
段々と佳純の表情が戻って来た。
「佳純、俺が誰か分かるか?」
「え・・・私の大切な御主人様です・・・」
彼女は俯きながら、そう言った。だが、啓人の顔は険しくなった。
「啓人様と呼べ。次そう言ったら殺す」
啓人の言葉は、氷となって佳純に突き刺さった。
「は、はい・・・」
佳純はビクッと肩を震わせた。萎縮してしまった佳純の唇を啓人が塞ぐ。
「んんっ・・・」
啓人は直ぐに舌を入れて、佳純の口膣を味わう。
「んっ・・・んっ」
佳純は既に感じ始めていた。啓人が口を離すと、佳純は潤んだ目を啓人へと向けた。
「気持ち良いのか?」
「は、はい・・・」
佳純は恥らいながらも頷いた。
「白昼堂々、外でしているのか?」
啓人はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あ・・・う・・・そんな事を仰らないで下さい・・・」
佳純は恥ずかしそうに、上目遣いで啓人を見る。啓人は笑いながら、佳純の胸を触った。
「きゃん、あっ・・・あんっ」
何度か軽く揉まれただけで、もう喘ぎ始める。
「やっぱり感じてるじゃないか」
「い、意地悪・・・」
「意地悪?誰に向かって言ってるんだ?」
急に揉む手に力が込められる。
「きゃっ・・・あ、あ、ごめんなさいっ・・・あっ・・・」
「感じてるのか、謝っているのか、どっちなんだ?」
啓人はどこまでも意地が悪かった。
「そ、そんな事、あんっ、い、言われてもっ、あっ」
段々と喘ぎの方が勝り始めてきた。
「じゃあこの辺で」
ふと手が止まる。
「え?もう・・・?」
佳純の声には実感がこもっている。
「そんなに此処でして欲しいのか?」
「うう・・・」
恨めしげに見る佳純の頭を撫でると、部屋に行くようにいった。
「はぁ~い・・・」
佳純が部屋に行ってしまうと、啓人は魅矢を見た。
「ご苦労だったな。お前も来い」
「は、はい」
労をねぎらわれ、魅矢は嬉しそうな顔をした。
「あれで上出来だからな。下手なりに頑張ったな」
「い、いえ・・・」
啓人も靴を脱ぎ、部屋へと向かう。知らなくても、佳純の気配を辿ればいいのである。
(本当に魅矢は良くやったよ)
あの薬は、作った人間以外が暗示を掛けると、その効果は半減してしまう代物であった。はっきり言って、少しでも抵抗が弱くなれば上出来だと、啓人は踏んでいたのである。
(魅矢が暗示を掛けるのに、失敗しようが成功しようがどっちでも良かったんだがな)
啓人にとっても良い意味での誤算だった。
「あの啓人様・・・」
「ん?」
啓人が振り向くと、魅矢は言いにくそうな顔をして言った。
「どうして羞恥心をなくさないのです?」
啓人は驚いた顔をし、少し考え込んだ。
「・・・お前、虫はどうやって殺す?」
「え?」
意外な例え話を持ち出され、魅矢は戸惑った。
「あっさりと踏み潰すか?先に手足をもいだ方が楽しくないか?それと同じ事だ」
(・・・簡単にいくとつまらない、という事か)
魅矢は好意的に解釈する事にした。
「お前此処で誰か来ないか見張ってろ」
魅矢は啓人にそう言われても、聞いていなかった。さっきの例えが心に残ってしまったのである。
「聞いているのか?」
そう言われて、初めて気付いた。
「な、何でしょう?」
啓人は別に咎めもせず、もう一度命令を繰り返した。
「かしこまりました」
彼女がそう言うと、啓人は部屋の中に消えた。
(それにしても、あんなにあっさりと堕とすなんて・・・)
啓人の凄さをある程度理解していても、やはりショックであった。
(私の努力の意味など、なかったのではないのか・・・)
虚しさを感じてしまう魅矢であった。
< 続く >
・・・すみません・・・
佳純の話が終わりませんでした・・・(汗)
すみません・・・