Ring of Marionette 第二話

 あたしの名はシーナ=アースティア……ここら辺でのお宝探しを主な生業としている、ちょっとは名の知れた冒険者。
『ディアナの蒼猫』って名前を聞いたら、それはあたしのこと……この二つ名は結構お気に入りだったりするのよね。

 そんなあたしがとある遺跡で思わぬものを拾ってしまう。それがこれ……リング・オブ・マリオネット。
 何でもこの指輪を使えばどんな人間でも持ち主の命令に従う人形にすることが出来る……らしい。なんせ話に聞いただけで一度も使ってないから、そう言われてもあまり実感が湧いてこないけど。

 そのことを話してくれたのは、今あたしの隣を歩いている女性、マリア=ミスティーナ。
 指輪を拾った時、そのそばにいた彼女は、指輪を持つあたしを『マスター』……言うならばご主人様として認識してしまい、その命令に忠実に従う人形として、こうやってあたしとともに行動している。

 人を操れるという指輪、そして忠実なる操り人形……どれほどの大金を持ってしても手に入れられないものが、今あたしの手の内にある……

第二話 『初めては店の中で』

「はあ……道理で疲れるわけだ」

 遺跡から出たとき、口から出たのは自分の疲労を再確認する台詞だった。
 どこかの古代王国の墓だけに盗掘よけの罠も山ほどあった。まあ、進入防止のための罠だから、そこから出ようとする分には発動しない罠も少なからずあったのだが、それを除いても罠の数は両手に余るほど。
 暗い通路を警戒しつつ歩き、神経をすり減らしながら一つずつ罠を解除していく。やっとの思いで遺跡を抜け出すと、入ったとき土砂降りだった空はすっかり晴れ渡り、日はすでに山の端に隠れつつあった。遺跡に入ったときは多分朝方と言っていい時間だったはずだから、ほぼ丸一日つぶした計算になる。

 今日は厄日かと思いつつ、またもや暗い道を歩くあたしたち。満月が夜空高く輝く頃、あたしがここのところねぐらにしている町・フェルミーナに戻ってきた。さすがにこの時間の町には人っ子一人見あたらない。ぼーっとしていても仕方がないのでここにいる間泊まっている宿へ向かう。
 さすがに宿屋はこの時間でもあいている。予定のずれた冒険者や商隊が夜更けに町に着くこともさして珍しい話ではない。観光地の宿のように放っておいてもいつも満杯になるようなところは別として、宿屋にすればそういった人間も歓迎すべき『お客様』なのだ。
 宿に入ったあたしを一瞥する宿の主人。

「おや、隣の人は?」

 言って主人はマリアをあごで指す。

「すみません、彼女と同じ部屋に泊まりたいんですが、部屋空いてますか?」

 そういって幾ばくかのお金を差し出す。

「部屋は空いているよ、明日の朝でいいから前の部屋の鍵は返してくれよ」

 鍵を受け取ったあたしは前の部屋から荷物を引っぱり出してきた後、あてがわれた部屋に入って早速布団に飛び込む……と、マリアはその脇に突っ立っている。

「マリア……」

 どうしたの、と問いかけてはたと気が付いた。そうか、次の命令を待っているのか……今の彼女は、遺跡を出る際にあたしが与えた『あたしのあとを付いておいで』という命令に従って行動しているだけ。当然あたしが動かなければマリアも動くことはない。

「こちらにいらっしゃい、聞きたいこともあるしね」
「はい」

 マリアはしずしずとあたしのそばに寄り添い、そして見つめる……その瞳はうつろなまま。

「とりあえず……その瞳、何とかならない? ふたりきりならまだしも、人前でそれはちょっと……」
「えーと……こう、でしょうか?」

 マリアの瞳に光が戻ってきた……いや、この場合光を発しはじめた、と言う方が正しいか? とりあえず、これで普通に行動していても問題ないはず。

「それでいいわ……これからはあたしが特に指示しない限り、その状態でいてね」
「はい、分かりました」

 でも、こうやっていちいち指示出すのは面倒かもね……と考えたとき、ふとひらめくものがあった。

「マリア、これからあたしが『ご主人様がマリアに命令するわ』って言ったら、あなたはあたしの命令に忠実に従う操り人形になるのよ。瞳は前みたいにうつろな感じで、あたしのことを『ご主人様』って呼ぶの。そしてあたしが命じない限り、あなたは何も行動できない……いいわね?」
「はい」
「逆にあたしが『人間に戻りなさい、マリア』って言ったら、普通の人間に戻るのよ。瞳は今の状態、あたしのことは『シーナ』と呼んで、あたしの指示がなければ自分の判断で行動してもいいから」
「分かりました」
「じゃあ、『ご主人様がマリアに命令するわ』……あたしに口づけしなさい」
「はい、ご主人様」

 マリアの瞳が再びうつろになり、あたしの唇と触れ合う。額を軽く押さえてマリアの唇を離すと、

「もういいわ、『人間に戻りなさい、マリア』」
「はい、シーナさん」

 マリアの瞳に輝きが戻る……思った通りの反応を示してくれたマリアを見て、うまくいったことを確信した。これでこれからは『使い分け』てマリアと楽しめそうだ。

 それからあたしは布団の中でマリアに質問していった。マリアのこと、指輪の前の持ち主のこと、そして指輪の使い方など……

 こうして、あまりにいろいろなことがあった一日は暮れていった。

 翌日、起きるともう昼前。疲れていたせいか、ぐっすりと眠ってしまっていたようだ。隣を見るとマリアが静かな息をたてている。あたしは軽く揺すってマリアを起こすと、装飾品入りの荷物を持って一緒に外に出る。
 昼間の大通り……それほど大きな町ではないのだが、さすがにこの時間は冒険者や商隊、町の住人などでごった返している。
 あたしはまず裏路地にちょっと入ったところにある古美術商を訪ねる。昨日のお宝探しで手に入れた装飾品を換金するためだ。

「いらっしゃい、何の用かね?」
「こいつを換金してほしいんだけど、いいかな?」

 言ってあたしは手持ちの装飾品を帳場の上に広げる。

「どれどれ……ほう、これはなかなかの物だ……」

 店主は感嘆の声を上げるが、それ以上は何も聞かない……裏路地の店を利用した理由の一つはこれなのだ。
 これが表通りにある店ならばこうはいかない。あたしがこんな高価な物を持ち込んだら、おまえみたいなのがどうしてこんな物持っている、盗品じゃないか……と真っ先に疑われるからだ。

 普段ならそういうのが煩わしくても、自分の身の潔白を証明するため表通りの店で売りさばくが、その場合お金が手にはいるまでに早くても二、三日……長けりゃ一週間以上かかってしまう。
 だが今回は、そんな悠長なことをやっていられない。今のあたしにはマリアがいる。単純計算で生活費が今までの二倍かかるわけで、今の手持ちでは明日からの生活に差し障りかねない。おまけに遺跡遭難の際に落とした商売道具を買い直す必要があるし、あたしの本来の住処、ディアナシティに戻るために必要な資金も工面しなければならない。

 幸い、手持ちの品は遺跡から拾ってきた装飾品。適度に古びた外見が盗品の可能性を否定してくれる。こういった素性の良さもあり、すぐに換金してくれる裏通りを選んだ、というわけだ。

「うーん、宝石の質がいいし、装飾もなかなかだが……少しさびが浮いてしまっているねえ。表面のくすみは磨いて取るにしても、これとこれは宝石しか使いもんにならんなあ……」

 と、独り言をつぶやく店主。やがて宝石を机の上に戻すと、万年筆を持って紙に数字を書き出した。

「出された品物全部でこんなものかねえ……」

 といって店主が提示した額は、あたしの見積もりよりも若干低い数字だった。

「ちょっと安くない? あたしの見立てじゃこれぐらいはほしいところだけど」

 言って店主が出した数字の下に書き足してみる。ちなみに見積もりよりもちょっと高め。

「はっはっは、参ったねえ……この品をこの値段で買ってちゃあ、こっちは商売あがったりだよ」
「ふうん……じゃあ、別の店で見てもらおうかなあ?」

 本当はここで買ってもらわないと結構危ないのだが、そんなことはおくびにも出さす、笑顔を絶やさずに交渉してみる。

「そんなこと言って……あてがあるのかい、あんたには?」

 そう言って鎌をかける店主。提示した金額からすれば、向こうも出された品がなかなかの上物だと思っているのは間違いないところ。店主としてもこの商いを取り逃がしたくないのだろう。

「もうちょっと大きい町に行ったら、好事家がどんとお金を出してくれるでしょうね。あたしとしても今すぐお金が必要なわけでないし……」

 これは半分事実。今回のようにせっぱ詰まった状況でなければ、もっと大きな町に出て捌いているところだ。

「……」
「……」

 しばらくにらみ合いが続く。といっても殺気立つほどではないが。

「……ははははは! 参ったねえあんたには」

 声を上げたのは向こうの方だった。

「さすがにそっちの言い値じゃ買えないが、この程度なら上乗せできるよ、どうだい?」

 言ってさらに書き変わった数字は、あたしの見立てとほぼ同額。

「おじさん話が分かるわねえ……いいわ、その値段で売るわ、全部現金で頂戴ね」
「商談成立だな……ほれ、確認してみな」

 金貨を手渡す店主……あたしは素早く勘定して間違いがないかを確かめる。

「ありがと、あたしもいい商売できてよかったよ」

 一言礼を言って店をあとにしようとしたとき……

「ところであんた……その左手にしている指輪、なかなかの上物じゃないか」

 後ろからそう声をかけられた。

「もしそいつも売ってくれるなら、二倍……いや、三倍払ってもいいぜ」

 へえ……なかなか目が高いじゃない、このおじさん……でも。

「残念だけど、これは売るわけにはいかないのよね」
「そうか……まあ、無理は言わないさ。また来てくれよ」

 その後あたしは小間物屋などを何件か回り、落とした商売道具の補充をしていった。火打ち石に携帯食料、荒縄、虫眼鏡、方位磁石、小袋などなど……単品なら安い物だが、数あるとさすがにお金がかさむ。
 次に向かうは武器屋。小刀と短剣を買い直すついでに、マリアの護身用武器も買っておこうと思い、どんな武器が使えるかと尋ねてみたのだが……

「武器は必要ありません」
「どうして?」
「私にとっての武器は、この手と足ですから」
「へえ……」

 どうやら格闘家と見立てたあたしの目に狂いはなかったようだ。
 ともかくあたしは自分の武器を買うために武器屋に入ることにした。

「いらっしゃい!」

 威勢のいい声を聞きその主を捜すと、そこにいたのはあどけなさが残るはすっぱな感じの少女。どうやら店番をしているようだ。
 あたしは店内を見て回り、武器を手に取っては柄を握って軽く振ってみる。それを何回か繰り返していると、手にしっくりなじむ短剣が見つかった。

「ねえ、この短剣もらえるかな? それから小刀を見せてほしいんだけど」
「いいぜ、ちょっと待ってなよ」

 そういうと店番の少女はあたしのそばに駆け寄り、短剣と棚を結んでいた糸を切る。短剣を持ったまま帳場に戻ると、ごそごそと中を探って箱を持ち出す。中には小刀が数種類。
 あたしは小刀を見比べながら少女とたわいない世間話を交わしていた。
 会話をしているうち、ふと頭の中にいたずら心がわき上がってくる。この子で指輪の力を試してみよう……周囲にはあたしとマリア、そして少女だけ。ちょっとやって効果がなければ笑ってごまかせばいい。

「じゃあ、この小刀をもらえるかな?」

 言って小刀を見せるあたし。少女が小刀を手にしようとした瞬間を見計らって左手を軽く動かし、彼女の眉間に指輪の宝石を当てる。その瞬間、彼女に変化が現れた。
 小刀を取ろうとした手は力無く下がり、小刀を見ようとした瞳は焦点を無くしていた。あたしは少女に声をかける。

「あたしの声、聞こえる?」
「うん……」

 力無く答える少女。どうやら成功したようだ。
 指輪の力には二種類ある。マリアから聞いた話によると、その一つは今やったように相手の眉間に指輪の宝石を当てることで発動するそうだ。比較的簡単にかけられるし、その気になれば何人にでもかけられるが、合計で一日分しか効果が無く、一度解除すると使った時間分だけ間をおかないと再び使えるようにならないらしい。
 指輪の力に囚われた少女の顔を見る……あの時のマリアと同じ、うつろな瞳であたしを見つめている。ちょっとだけなら、楽しんでも大丈夫よね……

「店の人はいつ頃帰ってくるの?」
「多分、しばらくは帰ってこないよ。毎週この日の昼は武器の仕入れに出てるから……」

 なら、多少派手にしても大丈夫そうね……

「じゃあ、服を脱ぎなさい」

 そう命じてみるものの、少女の体はこわばって動かない。

「どうしたの、服を脱ぐのよ」
「や……だよ……はず……かし……」

 再度命じても体は動かない。口からは否定の言葉が漏れる。効いていないのかしら?

「服を脱ぎなさい!」
「……うん……」

 今度は強い語気で命令する。すると少女はぎこちないながらも体を動かし、少しずつ服を脱ごうとする。
 マリアが何でも言うことを聞いてくれていたので、指輪を使えば無条件にそうなるものだと思っていたのだが……

「マリア、指輪の効力に個人差ってあるの?」
「確かにあるとは思いますが、この場合はむしろ時間が問題かと」

 マリアの説明によると、指輪の力はより長く指輪の力に囚われた人間ほど強く働くとのこと。つまり、指輪に囚われたばかりの少女に無茶な命令は禁物、ということらしい。

 マリアの説明が終わった頃、少女はようやく服を脱ぎ終え、その裸体をさらけ出す。
 マリアの鍛え上げられた体と異なり、いかにも少女らしい細めの体つきに、まだふくらみ切れていない胸、そして秘部はほんのわずかな陰りがあるだけ。
 そうやって少女の体を見つめているうち、少女の全身がほんのりと赤くなっていることに気付いた。それにわずかながら震えている……恥ずかしさに体が反応しているようだ。

「心配しないで……あたしといっしょにいる限り、恥ずかしいことなんて無いから」

 そう言って少女の左肩に触れる。ぴくん、と体が跳ねる。そのままつつ……と手を滑らせて左胸を柔らかくつかむ。

「あ……」

 かすかに声を上げる少女。さらに手を滑らせてへそを触る。先ほどよりも大きく体が跳ねた。このあたりが感じるところだろうか。そのあたりで小刻みに指を動かしてみる。

「ひっ! ふ……ふくっ……くっ……」

 含み笑いを漏らしはじめる少女、どうやらくすぐったいらしい。

「大丈夫、ここには誰もいないわ、素直に感じなさい」
「ふあ……くふふ……ふふひはひひはひ……!」

 引きつったように笑いはじめる少女……ちょっといじめすぎたかな?
 手はへそを離れ、少女の陰りの中へと入っていく。

「ふひぃっ!? ……ぃ……ぃゃ……」
「怖がらないで……あなたは幸せなのよ、あたしがあなたのあそこを触ってあげるのだから……だから、力を抜いて……」
「ぇ……ぁ……」

 力の抜けた少女の秘部に指が滑り込む……一本、また一本……
 壁にこすりつけるようにして指をゆっくりと動かしてみる。

「ぁ……ぁ……」

 こすれるたび、こわばった顔が少しずつほころんでくる……それとともに、指先が湿り気を帯びてくる……
 ふふ、もう少し遊んでみようかしら……

「『ご主人様がマリアに命令するわ』、この子と深い口づけをしなさい、たっぷりと弄んであげるのよ」
「はい、ご主人様」
「あなたもちゃんとマリアの口づけを受け入れるのよ、そうしたらとっても気持ちよくなれるから……」

 少女に言い聞かせるように耳元でささやく。マリアが近づいてきたことを確認すると、あたしはすっとその場にしゃがんだ。目の前には浅く濡れた少女の秘部が見える。
 そう言えば女性の愛液は美味しいという話を聞くのだが、本当なのかしら……

「これからあなたの大事なところを舌でなめてあげる。あなたはあたしの舌でとても幸せな気分になれる。そう、心だけ天国に行けるぐらい幸せになれるのよ……」

 そしてあたしは、少女の秘部を舌先でなめる。少し甘いかな……続いてもう少し大胆になめあげてみる。

「ひゃあ……む……ふ……」

 最初になめられた瞬間、思わず声を上げそうになる少女。だが、その瞬間マリアの唇がその声を奪う。そしてなすすべ無く口の中に舌を入れられ、そのまま蹂躙される。
 あたしの舌はゆっくりと大きく少女の秘部を丹念になめあげる。この味、悪くないかもしれない……
 ふと、秘部の中にある小さな突起に目がいく。あたしは舌先を突起に触れさせると、細かく舌を動かしその突起を転がしてみる。

「ふ……んっ、んっ、ふ……んっ!」

 マリアの唇によって塞がれている少女の口から漏れる息に、別のものが混じりはじめた。だんだんと高みにたどりつつあるようだ。

「これで、どうかしら?」

 あたしは少女の秘部に唇を付けると、突起を包み込みながら吸い上げる。
 それに合わせるかのように、マリアの口から少女の舌を吸い上げる音が聞こえてくる。

「ふ……んっ、んっ、んんんんんんんっ!!」

 舌と突起、二つをいっぺんに吸われた少女は、そのまま達して、全身の力を抜いてしまう。あたしとマリアはあわてて少女の体を支え、そのままゆっくりと寝かせる。

 その後あたしは、マリアとふたりがかりで少女の体を拭いたあと、少女に命じて服を着てもらい、少女が小刀を手にした瞬間を再現する。
 それから少女に先ほどの情事を忘れるよう命令し、指輪の力を解除する……これで少女の頭は、あたしに小刀を売っておしまい、と自己完結させるだろう。
 ひょっとすれば、後々さっきのことを思い出してしまうかも知れないが、それは白昼夢だと思ってもらうしかないか。多分、この店には二度と立ち寄らないだろうし。

「お買いあげ、ありがとさん!」

 少女の威勢のいいかけ声を背中に聞きながら、あたしたちはその店をあとにした。

< つづく >

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