日は傾き、空は茜色に染まっていた。
複雑な陰影を刻む雲の隙間からは、気の早い星々がうっすら光っているのが見える。
雑居ビルの屋上に立っている詩穂は、移ろい行く空を眺め、じっとその時を待っていた。
わぁ──っ!!
大きな波のうねりにも似た、熱狂的な歓迎の声が上がる。少女は視線を空から地上へと戻した。
「あれか……」
涼やかな声で少女──詩穂──が、誰に聞かせるでもなく呟いた。
その視線の先には一人の少女と、それを取り囲んでいる大勢の人間の姿があった。
はにかむように笑みを浮かべて、小さく手を振る少女は、清楚で可憐な雰囲気を持っている。
起伏に乏しいがスラリとしたスタイル。
まだ幼さを残しているが、整った顔は魅力的で、ころころと変わる表情が可愛らしい。
だがそれは、詩穂にとっては何の意味も持たないものだ。
「なるほど、あれならば……人を騙すのには適任だな」
守るように側に立っていた二人の男に促され、少女が車へと乗り込んだ。
周りに対する態度も、浮かべている笑みも、全く変わらない。
「ふん……偽善者め……」
嫌悪と蔑みを含んだ一瞥をし、背を向けるとその場を後にした。
──すべては予定通りだ。
これからのことを思い、握った拳に自然と力がこもる。
「はぁ……」
小さく息を吐き、体から余計な力を抜く。
軽やかな動きですべるように階段を駆け下り、制服姿のままバイクに跨る。
先に走りだした車の姿を見失わないように、一定の距離を保ったまま後を追う。
尾行を警戒しているのか、車は速度や車線の変更を細かく繰り返している。
ここからが正念場だ。
緊張から喉が渇き、汗がじっとりと滲む。
詩穂にとって、これだけ大きい仕事は初めてだ。
今までも、仕事の手を抜いたことなど一度もないが、今回は特に力を入れる必要があった。
詩穂の任務はことの大小にかかわらずすべて重要で、失敗は許されない。
もしも、捕まるようなことがあれば……。
その先のことを想像して、詩穂の背筋に冷たいものが走る。
絶対に失敗はできない。
自分を絶望に満ちた世界から救ってくれた『あの方』のためにも。
そう、すべては『あの方』と世界のために……。
詩穂はこの指令を受けた時のことを思い出していた。
「人の心と言うものは、弱く、そして脆いものだ」
カチカチと正確に繰り返される、耳障りなほど大きな時計の音だけが響く、あまり広くはない部屋。
窓から差し込む光を背にした男が詩穂に語り掛ける。
その表情は影になってよく見えない。だが、そんなことは詩穂にとってはどうでもいいことだった。
偽りに満ちていた世界から救い、生きる糧を与えてくれた人が、自分を必要としてくれる。それだけで詩穂は満足しているからだ。
「はい」
「それを利用し、悪用しようとする人間は後を絶たない。そうだろう、詩穂」
その通りだと、無言で頷く詩穂を見て、男は口元を歪めるような笑みを浮かべ、言葉を継いだ。
「今度の相手はこいつだ」
男が懐から取り出した一枚の写真。
そこには、かわいらしい笑顔を浮かべている少女が写っていた。
「この子が、ですか?」
「そうだ。この娘は定期的に集会を行い、そこに集まった善良な一般市民を騙し、金を巻き上げている」
「お金ですか?」
「そうだ。その上、より一層の支持を得るために様々な手練手管を駆使し、平気な顔をしている悪人だよ」
一見すると全くそんな風には見えない。
そう、この子はどこかで見たことが……ある……ような……気がする……この子は……この子の名前は……。
「詩穂っ!!」
強く自分の名前を呼ぶ声に、沈みかけた思考から現実に引き戻される。
「あ……? も、申し訳ありませんっ!」
「いや、気にすることはない。君にはいつも仕事をしてもらっているからな、疲れているのかもしれない……今回の仕事は……」
その先の言葉はわかっている。この方は優しい。例え重要な任務だとしても、詩穂に無理強いするようなことはしない。
自分を気遣い、言外に休みを取ることを示唆してくれるのは嬉しいが、詩穂は依頼をこなすことこそが至上の喜びだった。
「いえ、問題ありません」
「そうか……では、話を戻そう。詩穂、間違った道を進んでいるこの娘に、本当に正しい道を指し示すのは、とても重要なことだと思わないか?」
「……はい……その通りです……」
「理解し合うためには、時間が必要だ。詩穂」
「わかりました」
「何がわかったのかな?」
「今度はこの娘を連れてくればいいのですね?」
今までとは規模も相手も違うが、詩穂にとっては慣れた仕事だ。
男は詩穂の答えに満足げに頷いた。
「わかりました。お任せいただき、ありがとうございます」
「頼むぞ……報酬はいつものやつだ」
「はい」
先を行く車が速度を落とし、豪華なマンションの駐車場へと入っていく。
詩穂はあまり目立たないように少し離れた場所にバイクを止めると、足音を立てないようにその後を追った。
慎重に近づき、様子を伺う。
詩穂は最初、少女が一人になったところを狙うつもりだった。
だが、二人の体格の良い男と、うらなり男の計三人に囲まれ、少女は上に向かおうとしている。
部屋に行かれてはまずい。
これは予想外の事態だった。
仕事は今日中になんとかしなければならない、『あの方』にそう言われていたからだ。
部屋への侵入は何の準備もしていないから厄介だ。それに、周りの人間や、家族に知られるわけにはいかない。
ほんの一瞬で思考を巡らせ、詩穂は覚悟を決めた。
財布から小銭を数枚取り出し、左手に握る。
背中を見せ、駐車場の奥へと向かって歩いている少女達の後を追いかけ駆け出す。
足音が駐車場内に反響して、意外なくらい大きな音になる。
「誰だ!?」
詩穂の行動に気付いた男たちが少女を背中にかばいながら振り返った。
「きゃっ!?」
男に突き飛ばされ、よろけた少女が小さく悲鳴を上げる。
「え……っ!?」
うらなり男は呆けたような表情を浮かべ、その場に突っ立っている。
「なっ、女!?」
一瞬の戸惑い。
まさか、制服姿をした華奢な少女が相手とは予想もしなかったのだろう。
詩穂は自分の容姿が相手に与える印象さえも利用していた。
少女とうらなり男は敵じゃない。まずは二人を沈黙させることが重要だ。そう判断すると、詩穂は二人の男に向かった。
驚きの声を上げていた二人の男は、左右に別れるように動き、体勢を整えようとする。
おそらく無意識の動きだ。それだけ訓練されているのだろう。
詩穂は舌打ちしたい気分だった。
予想していたよりも相手の動きが速い。
そして男達との距離は、まだ詩穂の間合いには遠かった。
詩穂は握っていた硬貨を、同時に両側に立つ男の顔に向かって投げつけた。
「うおっ!?」
左側の男が顔をかばうように両手を上げたが、右側の男は横にステップを踏み、体を捻って避けた。
詩穂はその隙を逃さなかった。
間合いを一足飛びに詰めると、左の男の懐に踏み込んだ。
「はぁっ!!」
鋭い気合とともに、踏み込む勢いを最大限に利用した拳が男の鳩尾を正確に突く。
「うぉ!?」
攻撃を受ける瞬間、男はわずかに後ろへ跳んだ。
──いい反応だ。
詩穂が心の中で相手の動きを賞賛する。この距離で、詩穂の打撃に反応することができた男など、今まで戦ってきたなかでも数えるほどしかない。
詩穂の一撃の生み出した衝撃は体の中を駆け巡り、背中に向かって抜けていく。
男は体を『く』の字に折り曲げ、苦悶の表情を浮かべている。
普通の相手であれば、完全に沈黙しているはずだが、男に対して決定的なものではなかった。
もう一歩深く踏み込めば……しかし、これ以上体が前に流れると、次の動きを妨げる。
「ふっ!」
詩穂はすばやく動きを切り替え、その場でくるりと体を回した。
動きに合わせスカートがふわりと広がり、長い髪が柔らかに舞う。
体重の軽い詩穂の打撃は弱い。
通常の攻撃では、大したダメージを与えることはできない。そのことを十分に承知しているからこそ、ロスが大きいとわかっていても大きな動きが必要だった。
遠心力を最大限に利用した回し蹴り。詩穂の踵が男のこめかみにめりこんだ。
「がっ……ぐぁ……」
どうっと、鈍い音を立て男が倒れる。
その瞬間──。
ブンッ!!
空気を切り裂く鈍い音に、考えるよりも速く、詩穂の体が反応した。
前転をしながらその場から離れると、体勢を整えながら後ろを振り返る。
そこには警棒を振り下ろしていた男の姿があった。
あの一撃を受ければ、ただではすまなかっただろう。
油断なく残った男の様子を伺い、詩穂は余計な力を抜き、重心をやや前に移動し、両手を構えた。
武器を持ち、相手の方が力もある。威力があり、間合いも広い男に対し、詩穂が不利なのは明白だ。
だが、詩穂はこの程度のことで引く気はなかった。
一撃必殺。
ただそれだけを目指して、磨き上げてきた技がある。
ここで相手に背中を見せるような真似は、詩穂自身のプライドが許さない。
「誰に頼まれた?」
「…………」
「何が目的だ?」
「…………」
詩穂は問いかけに一切答えることなく、射るような強い視線を男に向けている。
「答える気はなし、か……まあ、仕方がない。少し、痛い目に遭ってもらうぞ」
そう言い終わると同時に、男が詩穂に向かって踏み込み、警棒を振り下ろしてきた。
巨体に似あわない、優雅とも取れる滑らかな動き。
振り下ろされる警棒は、詩穂の華奢な体のどこに当たっても、骨を砕くだけの威力を持っていた。
風を切り迫るその一撃を、詩穂は臆することなく半歩踏み込むと、警棒の軌道からそれるように半身になる。
懐に簡単に入られた男の表情にあせりの色が浮かぶ。
「くっ!」
本来ならば、弧を描いて振りおろされる警棒を、男が人並み外れた膂力で無理やり軌道を変え、詩穂を狙う。
瞬きする間もない、刹那の攻防。
次の瞬間、詩穂の膝が男の股間に深く直撃した。
「ごあっ!!」
獣のような声を漏らし、男の体がビクンと跳ねる。
どうっと鈍い音を立てて倒れ、泡を吹いて完全に失神している男は、全く動く様子もなかった。
残る仕事は簡単だった。
詩穂はうらなり男を沈黙させ、気絶させた少女を連れてその場を離れた。
「まじかよー」
「本当につれてくるなんてなぁ」
「だって、唯花ちゃんの家って、大金持ちでボディーガードがいつもついているって有名じゃん」
真ん中の少女──星川唯花──を取り囲み、三人の男が驚きの言葉を口にする。
星川唯花。アイドルと呼ばれる、人心を惑わす悪人だ。
ここで、これからじっくり時間を掛けて『話し合い』をすることで、間違った道を正すことになる。
唯花は、さっきまで自分の立場もわきまえず、暴れて騒いでいたが、『眠らされ』ている。
「よくやったぞ、詩穂」
「ありがとうございます」
『あの方』にねぎらいの言葉を掛けられ、任務を無事にやり終えた満足感が詩穂の胸を満たす。
「すげーな。やっぱり家が古武道の宗家だと、鍛え方が違うんだろうな」
「そりゃそうだ。こいつを……詩穂を手に入れるのに、俺がどれだけ苦労したと思ってるんだよ」
「くっそっー! 俺だって狙ってたのに、ガードがめちゃくちゃ堅かったからなぁ……途中であきらめなきゃよかったぁ」
一人の男が頭を掻きながら、大きくため息をついた。
「たかしの気持ちもわかるけどな。いいじゃないか、詩穂はゆうじのものだけど、唯花ちゃんは共用にするっていってるんだし」
眼鏡の位置を直しながら、残ったもう一人の男──ひろし──があきれたような声を上げた。
ゆうじ──詩穂が『あの方』と呼ぶ相手の名前だ。
実際は同じ学校に通い、同じクラスにいるだけの男。
昔の詩穂ならば歯牙にも掛けなかった男。だが、今の詩穂にとっては何よりも大切な存在だ。
「で、最初は誰がやる?」
「今回は俺の番だからなっ!」
悔しげに頭をわしわしと掻いきながら、たかしが勢いよく手を上げた。
「そんなに騒がないでもわかってるって」
「じゃ、さっそく始めるか」
だらしなく顔を緩ませ、ひろしが言う。
ゆうじの指示に従い、詩穂が唯花を全裸にすると、椅子に座らせ、両手を背もたれの後ろで固定し、足はそれぞれを折りたたむようにして、M字型になるように縛りあげた。
「う……わ……すっげ、綺麗な色してる」
まだ成熟しきっていない慎ましやかな膨らみの頂点にある薄桜色のつぼみを見て、たかしがごくり、と生唾を飲み込んだ。
「つるつるだな……」
ひろしが太股を撫でながら、感嘆のため息をつく。
実際、唯花の体には無駄なものは一切なく、まるで精巧に作られた人形のようだった。
肌理が細かく、まるで雪のように白く澄んだ肌。
微かに開いた薄い唇。
うっすらとした産毛のように淡い陰り。
ぴったりと閉じた秘所は、まだ誰も触れたことなどないようだ。
妖精を思わす肢体を、縛られている姿とのギャップが激しく欲望を掻き立てる。
「ううっ……我慢できねぇ。このまま無理やり……」
「おいおい、ひろしの気持ちはわかるけど、それじゃ面白くないだろ?」
「わかっているけどさぁ……」
たかしに諌められ、ひろしが口を尖らせた。
「今回の暗示を何にするかは決まってるのか?」
「もちろんっ!」
ゆうじの疑問に、たかしはにやりと口の端を上げて応える。
「そうか……まあ、起こすのは詩穂に『ご褒美』をあげるまで待っててくれよ」
「わかった。終わるまでは待ってるからな」
二人は唯花の体を好き勝手に弄り始めた。
「さて、こっちもはじめようか」
ゆうじはそう言いながらズボンとパンツを下ろした。
すでに一物は硬く反り返り、ぴくぴくと震えている。
「あ…………」
それを見て、詩穂が思わず声を漏らした。
「ん? どうしたんだ?」
「い、いえ……」
何でもないような態度を装っているが、詩穂の視線はゆうじの一物に釘付けになっている。
「ご褒美がほしいんだろ?」
「………はい」
「今回は本当によくやった。いつもみたいに時間をかけて愉しんでもいいんだけど……」
ゆうじが横目でちらりと見ると、たかしとひろしが不満げな表情を浮かべた。
「二人をあまり待たすのも良くない。今回は特別だ。すぐに飲ませてやるよ」
「あ、ありがとうございます」
嬉々としてそう言うと、詩穂はゆうじの前に跪き、両手を一物に添えた。
薄い唇をその先端に寄せたところで、ゆうじが声をかける。
「いつものお願いはどうしたんだ?」
「あ、詩穂に……詩穂にどうか、ご褒美をください……口の中にいっぱい、出してください……」
「よし、奉仕することを許可する」
ゆうじの言葉を待ちきれなかったように、詩穂は血管の浮き上がった一物に舌を這わせた。
横笛を吹くように根元から先端にかけてゆっくりと舐めあげていく。
「あ……ああ……おいしいです……」
唾液をまぶしながら何度も往復を繰り返し続ける詩穂の顔は、奉仕する喜びに満ちていた。
「んふっ……んう……あ……ふぁ……」
袋を口に含み舌で転がし、異臭を放つ後ろの穴まで丁寧に舐めている姿は淫靡で、彼女の普段の凛々しい姿を知っている人間には、想像することもできないだろう。
一物を隅々まで舐め終えた詩穂が、上目遣いでゆうじを見ている。
その瞳には、物欲しげで淫らな光が満ちていた。
男を一撃で倒す力を秘めた手は、今は繊細な動きで竿を上下にこすり、先端から溢れている粘液を指に絡ませ、くちゅくちゅと音を立てている。
「あの……私……」
「そろそろ咥えたいんだろ?」
「…………はい」
ゆうじの言葉に、詩穂は恥じらいながらも、嬉しそうに小さく頷いた。
「よし、いいぞ」
「んっ……」
許可が出ると同時に、詩穂は鼻から息を抜くようにして、口いっぱいにゆうじの一物をほおばる。
「んぅ……んんっ! うっ、んく……んふっ……んっ、んっ……」
ゆっくり頭を前後に動かし始め、手の平で袋を優しくこすりながら、舌を絡めるように先端に這わす。
怒張が唇を割り開くように出入りするたびに、口腔内にたまった唾液がぴちゃぴちゃと淫らな水音を奏でる。
「おぅ……いいぞ……詩穂、本当にうまくなったな……」
「ありふぁとうごらいまふ」
咥えたままでもごもごと礼を言う詩穂の表情は、どこか誇らしげにさえ見えた。
「くっ……今日は特別だ……早く出してやるから……」
ゆうじの声から余裕がなくなる。
「んぁっ! くらさい……んふ……いっらい……んくっ……んっ、んっ、んっ……」
いやらしいおねだりをしながら、詩穂が追い討ちをかけるように一層頭の動きを激しくしていく。
「おっ、おおっ、いいぞ……おうっ!!」
頭をしっかりと両手で押さえ、一物の先端が詩穂の喉の最奥へ届くように腰を突き入れる。
「んっ、んんーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
詩穂の口から溢れんばかりの大量の白濁が流し込まれる。
一滴たりともこぼさないとばかりに、詩穂の両手はしっかりゆうじの腰にまわされている。
詩穂にとって、ゆうじの精液はこの世でもっとも極上の飲み物だ。
放出されたものをうっとりと味わいながらすべてを嚥下すると、中に残っているものをちゅーと音を立てて吸出した。
「ん……あ……ありがとうございますぅ……とても、おいしいです……はぁ……」
詩穂は満足げなため息をついた。
「なあ、そろそろ始めようや」
「もうがまんできねぇよ」
ゆうじと詩穂の痴態をみて、我慢できなくなったのか、唯花の体を前にして、弄り、舐めることしかしてなかったひろしとたかしが先を急かしている。
「わかってるって。詩穂、じゃあ始めるぞ」
「あ……はい……」
余韻に浸り恍惚としていた詩穂が、足に力が入らないのか、ふらふらしながらも立ち上がった。
「で、どうするんだ?」
ひろしとゆうじは興味津々だ。
「恋人、完全隷属、淫乱、露出、排泄、アナル、精液中毒と、今まで色々やったけど、まだ試してないのがあるだろ?」
「他に何かあったっけ?」
ひろしが訊き返す。
「まあ、見てろって……『おはよう、お人形さん』」
たかしの言葉を合図に、唯花が目を覚ます。
「…………?」
自分が今、どこにいてどういう状況なのか判らないのだろう。
ぼんやりとした視線を辺りにめぐらせ、不思議そうに見ている。
「あ……れぇ……ここ……」
舌足らずな幼い声。
立ち上がろうした唯花が、自由にならない自分の体を見下ろした。
「私……あ、あれ? えっ!? やぁっ、なんで? どうして?」
今度ははっきりと自分が置かれている状況が飲み込めたようだ。
必死に逃れようと体を捩るが、しっかりと結ばれたロープはびくともしない。
「無駄だって。それに、あまり動くと傷になっちゃうからやめたほうがいいって」
「あ、あなたたち……ひっ!!」
詩穂を見て、唯花の顔から一気に血の気が引き、蒼白になった。これまでのことをすべてを思い出したのだろう。
「さて、これから唯花ちゃんには色々と愉しませてもらうからね」
「いやっ!! いやぁっ!! 誰か……、誰か……」
ふるふると首を振り、必死に助けを呼ぼうとするが唯花の声は小さくてとても部屋の外にまで届かない。
「どうしてぇ……?」
追い詰められた小動物のように、ぶるぶると震える唯花の目が驚きに見開かれる。
「そりゃ、歌手をやっているような子に、大声を出されたら大変だからね。君は普通に話せるけど、大きな声は出せないようにしてあるんだよ」
「声を……出せない……?」
自分の理解を超えたことを得意げに語るたかしを見て、唯花の顔が恐怖に染まる。
唯花にとって詩穂は自分をさらった張本人だ。
目の前の男は自分にひどいことをしようとしている。
かすかな望みをかけ、唯花は成り行きを見守っている他の二人を見上げた。
「さて、お手並み拝見といくか」
「そうだな」
だが、二人もこの状況を愉しんでいるのは明らかだった。
「そんな……」
退路を完全に絶たれ、唯花は今、自分が絶望的な状態に置かれて、助けがこないことを知った。
「まあ、見てろよ」
たかしが最初にかけたのはキーワードを言うまでの間、眠り続ける、というものだった。拉致された唯花の『逃げ出したい』という気持ちを利用したからうまくいった。
たかしは、窓にカーテンをかけ、部屋を暗くすると、規則正しい間隔で先端が光るメトロノームを、唯花が良く見えるように目の前に置いた。
「いいか、これをじぃっと見つめるんだ」
「や……いや……お願いだから、家に帰らせて……帰りたいよぉ……」
唯花は小さな子供のようにぽろぽろと涙を零しながら、いやいやするように首を振っている。
たかしはかまわず、メトロノームを動かした。
すすり上げる唯花の声と、規則ただしいカチカチという音が、静かな部屋を満たしている。
詩穂は彫像のように動かず、ゆうじとひろしはじっと息を殺して成り行き見守っていた。
唯花の後ろにまわりこむと、たかしは薄い胸の膨らみを両手で揉み始めた。
「ひっ……いやぁ……やだやだぁっ! もう、いや……やだぁ……」
「そんなに嫌か?」
「ひっく……うえっ……」
唯花は泣きながら何度も頷いている。
「仕方がないな……家に帰りたいか?」
「……帰してくれるの?」
その言葉にわずかな光明を感じたのか、唯花がすがるような視線をたかしに向ける。
「ああ。無理やりするのは趣味じゃないし……これから言うことができたら、何もしないで帰すことを約束する」
「本当、に?」
ここまでひどいことをする人間の言葉なんて信じられなかったが、唯花に他に選択肢はない。
「本当だ」
「…………何をすればいいの?」
「今、唯花の前にあるメトロノームの光は緑だろ?」
「え? ……うん」
「アレはある一定の回数で黄色に変化する。次は赤で、その次はまた緑に戻る」
「う、うん……?」
たかしの言いたいことがまったく判らず、戸惑いながらも唯花は必死に話を聞いている。
「もう一度最初からやり直すから、何回目で色が変わったか、正確に答えられたら、唯花のことを家に帰してあげる」
「そんなこと……本当にそんなことで?」
信じられないような条件だ。
「嘘は言わない。もっとも、唯花が帰りたくないなら別だけど」
「……間違っているとか、嘘をついたりして、帰してくれないんじゃ……」
「まさか。本当に唯花のことを好きにしたいなら、こんな遠まわしなことをする必要はないだろ? 現に今、裸で縛られて抵抗することもできない」
「…………」
唯花は必死に考えを巡らせている。
こんな簡単な条件だなんて、信じられないが、男の言うことにも一理ある。
自分にひどいことをしようと思うなら、こんなことをする必要はないのだから。
「本当に、約束してくれますか?」
「約束する。他の連中にも手をださせない」
「………………わかり、ました」
唯花はたかしの提案を受け入れ、頷いた。
「たかしのやつ、ほんとに悪趣味だな」
やり取りを訊いていたひろしが、ゆうじにだけ聞こえるように呟く。しかし、言葉とは裏腹にその口調は、今の状況を明らか面白がっていた。
「それじゃあ、はじめようか。用意はいい?」
「…………はい」
唯花は真剣なまなざしでメトロノームを見ている。
「行くぞ」
たかしは、一度先端を大きく左に倒してから、手を離した。
カチ、カチ、カチ、カチ。
メトロノームが正確に左右に揺れ、リズムを刻み始めた。
「1……2……3……4……」
唯花は、その動きを目で追いながら、声を出して数を数え始めた。
さりげなく後ろに回り、たかしが唯花に優しい声で語りかける。
「そうそう、その調子だ」
カチ、カチ、カチ、カチ。
「19……20……21……22……」
「聞こえるのは俺の声と、メトロノームの音だけ……目に見えるのは光っている先だけ……まわりのことは気にならない……」
カチ、カチ、カチ、カチ。
「45……46……47……48……」
「ほら……もう、唯花にとって重要なのは、数を数えることだけだ……」
カチ、カチ、カチ、カチ。
「60……61……62……63……」
数え続けている唯花の声が、今にも眠ってしまいそうな、ぼんやりとしたものになっていく。
カチ、カチ、カチ、カチ。
「80……81……82……83……」
「そうそう、いいぞ……その調子だ……」
たかしが唯花の胸にそっと手を這わせると、優しく揉み始めた。
「ん……? あっ?」
「ほら、数えないと帰れないよ?」
カチ、カチ、カチ。
「……は、い……96……97……98……」
「そうそう、それでいい……」
うなじに舌を這わせ、耳を甘く噛む。
カチ、カチ、カチ。
「んふっ……はぁ……116……くっ……117……118……」
大きく開いた足の間、しっとりと潤み始めた秘所に触れた指をメトロノームのリズムに合わせ、上下に動かす。
カチ、カチ、カチ。
「ひぁ!? あっ……んぅっ……はぁ……146……ふぁ……147……148……」
「気持ちよくなってきたろ?」
カチ、カチ、カチ。
「……179……あくっ……んんっ……っ……180……やぁ……181……182……」
「数字が増えるたびに、唯花はどんどん気持ちよくなっていくよ」
カチ、カチ、カチ。
「……200……ああっ……201……んあぅっ……あは……やぁ……202……」
唯花の秘所は溢れでた愛液でぬるぬるになっている。
「もっと気持ちよくなりたいだろ?」
「はい……230……なりたい……231……」
たかしは唯花を拘束していたロープをすべて解き、電気をつける。
部屋は再び光に満たされた。
「もう、誰も邪魔はしない。気持ちよくなりたかったら、自分で弄るんだ」
明るい部屋の中、三人の男に囲まれ、恥ずかしい姿を見られているというのに、唯花はまったく頓着せずに、硬く尖った乳首を指の間に挟み上下に動かし、自らの秘所に指を這わせて、溢れた愛液をクリトリスに塗して押しつぶすように震わせる。
「あんっ……ふああぁっ!!」
くちゅくちゅと音を立てて指が激しく動き、だらしく開いた口からはよだれが垂れている。
「気持ちいいだろう?」
「んっ……いいよぉ……気持ち、いい……」
「唯花はオナニーが大好きなえっちな女の子だもんな」
「はぁ、うあぁっ! そうなのぉ……オナニーすきぃ……私……えっちだからぁ……」
「なるほど、オナニー好きか……」
ひろしが感心したように呟いた。
「ひあ……ああっ! いい……気持ちいいよぉ……も……イきそ……はああぁっ!!」
人差し指と薬指で陰唇を開き、中指を激しく出し入れしながら、唯花はどんどん昂っていく。
「どんなに気持ちよくても、唯花はオナニーじゃ絶対にイけないんだ」
「ふあぁ……んっ……やぁ……イきたい……も……だめ……なのにぃ……どうしてぇ……」
「イきたいか?」
「イきたいよぉ……ああっ、もっと……おかしくなっちゃう……イかせてぇっ!!」
「素直な唯花にいいことを教えてあげよう」
たかしは唯花の携帯を操作し、音楽を鳴らした。
「この音楽が鳴ると、唯花は今みたいにすごくオナニーがしたくなるんだ。そうだろ?」
「うん……ふぁ……したい……おなにぃ……あっ、ああっ……したくなるのぉ……」
「携帯は肌身離さず持っているんだ……どんな時でもね」
「ああっ! わかっ……ん……わかった……も、もう、だめぇ…いい……気持ちいいのにぃ……どうして……イけない……どうしてぇ……もうやだぁ……」
「イくためには、俺たち三人のチ○ポを前と後ろ、それと口に入れてもらって、精液を出してもらうはないとだめだ。判るか?」
「はぁ……はぁ……はい……せーえき出して……イかせてよぉ……ああ……入れて……も、入れてぇっ!!」
狂おしいまでの快感に、完全に我を忘れ、唯菜が淫らなお願いを進んで口にする。
「してやってもいいけど、唯花は家に帰りたいんじゃなかったのか?」
「やぁ……もういいのぉ……入れてっ! 入れてほしいのぉ……入れてよぉっ!!」
「やれやれ……唯花のお願いだからな、仕方がない」
そういいながらも、たかしは満足げに笑うと、ズボンを脱いで床に横になった。
唯花は自らたかしに跨ると、ぐちょぐちょになった秘所を一物の先端に合わせ、一気に腰を下ろした。
「んんーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
唯花は根元までたかしのモノを受け入れ、背中を限界まで仰け反らす。
つながった部分からは純潔の証である真っ赤な血が流れているが、かまわず腰を激しく上下にゆすり始めた。
「んあっ、ああっ、だめだよぉ……イけないのぉ……ください……私の……口とお尻に入れてぇ……」
唯花が涙目で訴える。
ゆうじは苦笑を浮かべ、唯花の望むように、空いている後ろの穴へ、一物を深く挿入した。
「んぅっ!! お尻……いっぱい……奥まで、入っちゃった……」
開発もせずにいきなり挿入したことで切れたのか、うっすらと血が滲みだす。
それにもかかわらず、唯花がうっとりとした声をあげる。
続いて、ひろしが唯花の眼前に一物を差し出すと、大きく口を開けて喉奥深くに飲み込んだ。
「ふくっ……んぅ……んっ、んっ、はぁ……」
自ら胸を揉みしだき、男根に舌を這わせ、腰をふる姿には、清純なアイドルだった面影は全くなかった。
「あっ、ふぁ……うううっ……ああっ! い、いいよぉ……」
「う、俺……もう……」
「俺もだ……」
たかしの切羽詰った声に、あわせるようにひろしも限界が近いことを告げる。
「よし、行くぞ、一緒にイってやるっ!!」
ゆうじ言葉と同時に三人一緒に唯菜の穴に白濁を放出した。
「んっ、あっ、ああっ、あああああああああーーーーーっ!!!」
びくびくと痙攣を繰り返し、三人の放出を受け、唯花が絶頂に達する。
「は……ん……ああ……気持ち、いい……」
ぐったりとしている唯花は、ぴくぴくと体を痙攣させ、満足げに呟いた。
三人はしばらくの間、荒い呼吸を整えながら、新しく手にいれた獲物を眺めていた。
「ふぅ……まさか、ここまでとはねぇ……」
「よっぽどストレスでも溜まってたんじゃねぇの?」
「あ、ああ……もっとぉ……」
床に垂れた精液をすすり、唯花は流し込まれた白濁が溢れる秘所に指を差し入れ、ゆっくりと出し入れを繰り返している。
「……と、どうやらこれじゃ満足できなかったみたいだな」
「じゃあ、もう一発行くか?」
「もっとぉ……もっと……」
唯花はさらなる陵辱を自ら望み、言葉を紡ぐ。
「まあ、これでまた楽しみが増えたな。次は詩穂と絡ませるのも面白いかもな」
「そりゃいいや」
薄暗い部屋の中、カチカチと規則正しく刻み続けるメトロノームと、三人の笑い声がいつまでも響いていた。
< 終 >