超越医学研究所HML プロローグ

プロローグ

 皆さ―――ん、今日も健康な一日をお過ごしでしょうか?
 こちらは、超越医学研究所で―――す。
 東京都内某所に施設を構えておりますの。
 「超越医学」という単語について、おそらく皆さんは初めて耳にされることと思いますのでご説明いたします。

 そもそも超越医学とは、現在の医学では解明不可能な症例や、生物・生命学的なテーマについて、臨床実験のみならず、現代医学の範疇を超えた、超科学の見地からアプローチを試み、真理を究明していくという……。

 えっ? 難しい話はスルーして欲しい、ですか?

 さて、それでは当研究所の所長をご紹介いたしま―――す。
 先生、どうぞ~~~。

 「超越医学研究所所長の水道橋正宗である」

 私どもの所長で、医学博士の水道橋先生でございます。
 ロマンスグレーで、知的で、たくましくて、……常識を超えた天才医学者!
 とっても素敵な殿方ですの……って、私がそんなこと言ってはいけませんわね。おっと自己紹介をしなくてはなりませんわ……。

「そして私が主任研究員の神保美紀で――す」

 身にまとう白衣は伊達ではありませんわ。
 医師国家試験に合格して、さる大学病院での臨床研修を経たのち、思うところがありまして、超越医学研究所にお世話になっております。
 資格は他に英検準1級と、普通運転免許証。免許の条件等は要眼鏡ですわ。
 私、コンタクト派ではなく、眼鏡派ですの。
 結婚は……しておりませんが、実は私、心に決めた方がおりますの……。

 おっと、お喋りが過ぎてしまいましたわ。
 というわけで、自己紹介終了。

 ここ超越医学研究所ですが、さる国際的な財団のスポンサードを受けて、緊急救命治療、臨床実験、国境なき医師団への人材派遣、その他ありとあらゆる医学的テーマへと挑戦する……!
「そうですわね、水道橋先生?」
「さよう。医学の枠を超えた、チャレンジャー・スピリッツで人類の発展をめざす!それが超越医学研究所の、創業精神である!」
 ああ、先生の高邁な思想、峻烈な批判精神と、人類愛……。
 私も医師として、水道橋先生のようにありたいものですわ。
 私、思わずときめいてしまって、体温が摂氏2度ほど上昇してしまいました。
「ところで神保君、少し顔色が良くないのようだが?」
「あらイヤですわ。実は最近便秘気味ですの……」
「そうか、ではこの試薬を使ってみたまえ」

 と、先生がおもむろに取り出したのは、先生おん自らの研究成果とおぼしき試薬。
 まあ、先生は常日頃から、私の健康状態のことを気づかってくださっていたんですのね。
 私、感激です。
 おや、でもこれは錠剤にしては変ですわね……。
「……? 先生、これは少し変わった形状をしていますわ」
「うむ、それはそうだろう。これは座薬だからね」
「……座薬といいますと、あの、こ、こ、肛門等から体内に挿入する外用薬のことですか?!」
「うむ。その通り」
「便秘の治療に座薬というのは、余りにも直截的すぎはしませんか? ……先生」

 あの~~、ここでお断りを申し上げておきます。
 先生の言動が、いわゆるセクシャルハラスメントに該当するものではなく、純粋に医学的な見地からの、研究心の発露であることは私、重々承知しておりますわ。
 研究に熱心なあまり、多少常識に照らして、どうかということもありますけれど……。

「どれ、神保君……座薬を入れてあげよう。尻を出したまえ」
「イ・ヤ・です! 自宅に帰ってから自分でやります!」
 でもこういう時の先生は、とても強引なんです。
「神保君、これは臨床実験なんだ。主治医である私が被験者である君の臨床事例について的確に把握するためには、自らの感覚を総動員してこれに臨まなければならない。クランケの反応を逐一観察するのは医者としての私の努めなのだ。何事も医学の発展のためだよ」

 医学の発展……はっ!
 そうでしたわ! ここは私情をはさんではならない研究の場。
 仮にも医師の端くれである私が、世俗的な羞恥心のために、躊躇するなんて……!

 それに……ということは、もしかして……
 座薬の挿入 → 先生の手が私の秘密の部分に → 先生と助手とのいけない関係……。

 まあ、何と心ときめくシチュエーションでしょうか?

「いいですわ、先生。医学のためですわね。私先生のこと信じています……」
 というわけで、私は実験のためにわが身を投げ出す決意をしたのですが……。
 ・
 ・
 ・
「あの~~先生……」
「なんだね? 神保くん」
「どうして座薬の臨床実験に、私、裸にならなければならないのでしょうか……?」
 私、いま、診察用のベッドの上で、衣類を全部脱ぎ捨てて、先生の前であられもない姿をさらけ出しておりますの。
 しかも、座薬の挿入を容易にするため、四つん這いになって、お尻……いや、臀部を高く突き出すように指示されて……。
 何となくお約束な気はするのですが……。
 いいえ、けっしてイヤでなんかありませんわ……医学の発展のためですもの。
 でも、でも、純粋な実験とはわかっていても、私、羞恥のあまり体温が摂氏3度ほど上昇してしまいそうですわ。

「クランケの体温、肌の色つや……。実験ではあらゆるデータを収集することが必要なんだよ。そのためには、観察に望ましい状況、すなわちオールヌードがこれ最強、というわけだよ」

 うまいこと言って先生ったら、私の裸をご覧になりたいだけなんじゃ……?
 実験にかこつけたりしなくとも、私ならいつでもオッケーですのに……。
 あら……? 私としたことが、つい、はしたない妄想を……。
 先生に限って、そんな下心がありえないこと、わかっておりますわ。

 だって、水道橋先生は本当に研究の鬼なんですの。
 いつも、研究に熱心なあまり、直属の部下であり、助手でもある私のことも女性としてご覧になっていただいているのかどうか、一抹の不安を感じることがままありますの。
 いっそのこと、今日この機会を幸いに……誘惑しちゃおうかしら……。
 などどということを考えているうちに、先生は薬剤のパッケージをパリパリと破かれて、座薬を取り出されました。

「先生……もうひとつお伺いしてよろしいでしょうか?」
「なんだね? 神保君」
「今回の試薬の、服用法についてはわかりましたが……その、効能について、いまひとつ理解がいかないのですが……」
 先生はふむ、と頷かれると、私の疑問に答えてくださいました。

「そもそも便秘とは、排泄物が腸内に長時間残留し、排便に困難を伴う状態のことだね?」
「はあ……」
「食事、ストレス……便秘にはいろいろな原因があるが、直接的には腸の運動が低下することによって発生する」
「おっしゃる通りですわ……」
「そこで登場するのが、腸の活発化を促し、腸の内容物の排泄を亢進させる薬物、すなわち、下剤だが、下剤にはいわゆる遅効性のものと、即効性のものがある。
 遅効性の緩下剤の場合、宿便の排除となると、ある程度習慣的な服用が必要だし、効果にも個人差がある。これに対し、即効性のものは、経口薬の場合とくに副作用が問題となる」
「はい、たしかに……」
「そこで今回の試薬だが、座薬タイプということで、腸壁の粘膜から吸収され、腸に直接作用することによって、腸内へのグリセリン液注入並みの即効性を得ることが可能になる……!」

「先生、私何だかイヤ~な予感が……」
「心配はいらんよ神保君。気を楽に持ちたまえ」
 そうおっしゃると先生は、私の臀部の谷間に手をやられると、
 手際よく、肛門管へと座薬を挿入されて……ああんっ……!
 そ、そんな急に……。いま先生の手が、私のアヌスに……!
 自分でもしげしげと見たことがない部分に……せっ、先生の目がっ! ゆ、指がっ!
 少し大きめなので、いっ……異物感がありますわ……!
 先生が、指でぎゅっと座薬を押し込むと、括約筋の収縮で、直腸の奥まで吸い込まれていくような……。ヘンな感覚……。

 やだ……アヌスがほぐれてきちゃった。
 異物を呑み込んだものだから、肛門縁がヒクヒクって痙攣して……。
 はあっ……!
 それに、薬がもう作用し始めたのかしら……?!
 は、早すぎますわっ!
「おっ、お腹が熱いです……!!」
「君も医者なら医学的見地から、冷静に分析報告したまえ」
「はっ……はいっ! 直腸から大腸にかけて、体温の上昇が体感されますっ……!」
「ふむ……全身から発汗……」

 な、な、な、なんだか、皮膚の触感が敏感にっ! 
 きゃあっ! ち、乳首がっ……勃っちゃいましたっ……!
 コリコリってして……! 何ですの、これ?!

 そ、それに……
「せんせいっ!……お、お腹のなかが溶けてしまいそう……ですぅっ!」
「おそらく、腸内で急速に水分が分泌されているのだろう……」
 あっ……! 何か太腿をつたって、垂れてきましたわ……!
 ま、まさか、私、お漏らしを……?!
 ……って、ち……違いますわ!
 アヌスから流れてるんじゃない!
 こ、これは、バルトリン氏腺液……!!(作者注:早い話が愛液のこと)
 それも、と、止まりませんわ!
 だめぇっ……先生に、はしたない女って思われたくありませんわ……!

「どうやら向精神性の効果があるようだな……」
 なんか、からだの芯が熱くなっているような……。
 いけない……! これでは先生から、私のアヌスも……ヴァギナも、丸見えですわ……!
 ワンちゃんみたいな格好で……私、何やってるのでしょう?
 隠さないと……。
 右手を、お尻の方に、まわして……。あっ、なに、これっ……?! ヌルヌル……。
 ひっ……! ス、スゴイ敏感になってる……!
 きゃっ……! あふんっ……!
 どんどん溢れてきますわっ……! これじゃまるでオ×ニーしているみたい……!

 そ、それに、急にお腹がゴロゴロって……!
「ふむ、腸内細菌の活性化……。有機酸および腸内ガスの発生が顕著……」
 せ、生理的な反応ですわ……!
「神保君、肛門管の周囲は括約筋で囲まれている。外側は随意筋だが、内肛門括約筋は、自律神経が支配する不随意筋だ」
「は……はいっ!!」

「排便は大脳により、随意的に制御される場合が多いが、脊髄神経系のトラブル等の理由により、不随意な、反射的な排便をきたすこともありうる」
「おっ……おっしゃるとおり……です!!」
「しかし、君の神経系統はこれまでのところ、きわめて正常な反応を示している」
「ヘンになりそうですぅっ!!」

 が、が、が……外肛門括約筋の耐久力にも限度がありますわ!
 腸内の、は、排泄物は……出口を求めて
 ああんっ……! 猛烈な便意が……!!
「せ、先生! おトイレに……、おトイレに行かせてくださいっ……!!」
「かまわんからそこで出したまえ。便の状態を確認したい」
「そ……それは、ちょっと人としてどうかと……! とゆうか、イ、イヤですぅ!!」

 で、でも、よく考えてみると、ここから最も近いおトイレは、部屋を出て、
 廊下の突き当りを曲がって、さらに10メートル余……。
 は、裸で廊下を走るわけにはいきませんわ。服を着る時間も考慮に入れなければ……。
 それに、も……もう、立つことも困難なくらい……。
 きゃ――っ!! きゃ――っ!!
 ちょっとでも刺激が加われば、私……私……。
 このまま、本当にここでお漏らしするしか……。
 そ、そ、そ、そんな……。
 恥ずかしいですわ~~~っ!!
 ぷるっぷるっ、とお尻が痙攣しているのがわかりますわ……!

 ぶびっ……。
「ひいいいいい……!!」
 少し漏れた……!
 す……水様便ですわ……! これは、お、恐ろしいことに!
 肛門管のあたりにまで、熱いものがこみあげてきて……!
 もう、パニック状態……!

 「排便したまえ」薄れゆく意識の中で、先生のお声が遠くで聞こえたような……。
 私、先生のご指示には従うものと決めておりましたので、
 つい気が緩んだということもございましたでしょうし……。
 そもそも、生理学的な限界が……。ああっ……! あああっ……!
 も、もうだめ……!
 せ、先生……! お……願い……ご覧にならないでえ~~~~っ!!

 ぶりばばばばばばばば!
「いやあああああああ―――――っ!!」
 ・
 ・
 ・
 ・
 しくしく……。
 私、もうお嫁に行けませんわ……!
 こんな恥ずかしい有様を、先生の目の前でさらしてしまって……。
 死んでしまいたいですわ~~~っ!

 ……でも、でも、もし先生がお嫁に貰ってくださるんでしたら、私、慰められるかと……。
 ……って、ひえええ! 先生ってば早くも研究モードで
 私の、は、は、は……排泄物を採取して、サンプルにぃ……!

 さすが水道橋先生、あくなき研究への情熱ですわ……!!
 でも、私って、いったい……。
 ぐすん……。

 ……というような日常が、ここ超越医学研究所では繰り広げられています。
 決してHな研究ではありません。マジメな研究です。ホントですよ。
 私も、あれから毎朝快便……ですし……。

< 終わり >

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