指と玩具 第八話

第八話

 俺は午後の授業を――形式だけ受けながら、ずっと考えていた。
『分かった。もう、いいわ。・・・貴方は必要ない・・』
 さっき確かに久須美はそう言った。
 つまりこれは、俺が少なくとも少し前まででは”必要”であったということだ。
 そして、久須美が俺の監視役ということか?

 なぜ指が効かなかった?
 おそらく、指が効かない、そして身体能力で俺に勝ると考えて接触してきたのだろう。
 そして、俺の指のことを知っているのは一人だけじゃないはずだ。
 久須美一人で今まで動いていたとも考えにくい。
 わざわざ久須美が俺のクラスまで来て監視する。
 という事は、このクラスには―――もしくはこの学年には監視役はいない。
「・・・・・・・・・・」

 ・・・と、そこで時間切れ。
 俺の思考をやかましく鳴り響くチャイムが遮った。

 まぁ、考えたところでどうになるわけじゃないが、胸の奥に燃え上がるものがある。
 久須美のように俺に反感を抱く者を従順な奴隷にする。
 これほど面白いことがあるか?
 これほど胸沸き立つものはあるか?
 自分と敵対するものが媚びる様に自分に従順になるのだ。 
 ・・・・・面白い。リスクが大きければ大きいほど、な。

 
 

 すべての授業が終了したため、しばらくすると光がHRを始めるために教室へ入ってきた。
 なんでも、近日開かれるクラス対抗球技大会のメンバーを決めるのだそうだ。
「種目は”バスケットボール”と”バレーボール”よ。みんな絶対勝とうね!!」
 片手を高く突き上げ、ノリノリの光。
「じゃ、いまから男女混合でバレー3チーム、バスケにチーム作ってね。あと堀江君は残念だけどまだ帰ってきてないみたいだから入れないで。
 余りは一人。審判に行ってもらいます」

 比較的、俺のチームはスムーズに決まった。
 種目はバスケット。
 メンバーはあずさ、友美、秋穂、そして俺と、欠席していた女が一人入ることになった。
 後になれば分かるだろうと思い、誰かは調べなかったが。

 ついでに言っておくと、堀江はもともとあの性格のため皆から疎遠がちだったので、
 最近の変化に戸惑うものはいても、自分から好き好んで近づこうとするものは誰一人としていなかった。
 ――――もっとも、すぐに皆同じようにしてやるがな。

 ――――――――胸が騒ぐ。
 がやがやと五月蝿い教室の中一人、静かに興奮を抑える。
 狩猟本能?おそらく、その類に違いない。
 自分を狙う相手がいる。
 恐れ、心配、不安。
 いや、そんなものとっくの昔に捨てたはずだ。
 とっくの昔に・・・な。

「聖夜君帰ろっ!!」
 帰る支度をすでに終えたあずさが俺の元へ寄ってくる。
 しかし”今”の俺の目にはあずさは映らない。
 
 答えは当然――――――――NOだ。
「・・・・ごめん。用事が出来た」
 あずさの顔に悲しみの色がともる。
「用事・・・・・うん・・・分かった・・・じゃ」
「あ、ちょっと待って」
 即座に俺は紙にペンを走らせる。
「・・・・・はい。これ家の地図」
「え・・でも用事は?」
「あはは、そんなに時間はかからないけど待ってもらうには長い時間だから。えっと、7・・・6時半くらいに家に来てくれるかな?」
 あずさは顔をほころばせると元気良く返事を返す。

 ――――――――久須美を堕とす。
 いや、堕とす礎を作る。
 俺の考え上、今日明日で堕とすことは不可能だ。
 しかし堕とすなら早いほうがいい。
 今すぐにでも手に入れたい情報がある。
 手に入れたいもの、俺がしたいものが少し見えてきたのだ。
 邪魔をするなら―――いや、せいぜい邪魔をしてくれ。
 でなきゃ、冷めちまう。

 俺は黒い野望を従え、夕日射す廊下を歩く。
 昼に久須美と会い見えたあの教室へと続く廊下を。
 気配を一つ、背中に感じながら――――――――。

 少し乱暴気味に教室の扉を開け、電気をつける。
 めちゃくちゃになった机や椅子をひとまず左右に押しよける。
 そして、椅子を一つ教室の真ん中へ置くと腰かけ・・・・
 ――――自分で自分のモノを取り出す。

(自分で取り出すってのも馬鹿みたいなんだが、仕方ないだろう)

 きっと久須美はこの状況にさぞ戸惑うことだろう。
 ”何が起きているのか”とな。

 聖夜の思惑通り、久須美は戸惑っていた。
 まずは、自分が誘き出そうと用意していた教室に”聖夜”が侵入したこと。
 でも、本当に困惑したことは――――――――。
 その教室を覗き込むとーもちろんばれない様にー目を背けたくなるような光景が入ってきた。
 しかし。
 ――――――――――――!?

『目が、目が離せない?』
 それだけではなく、
「・・・はぁ・・な、何・・っはぁ、何が・・・・?」
 急に呼吸が乱れ、汗が滝のように流れ出す。
「・・あ・・くぅ。駄目・・・駄目・・」

『そうだ、私はアイツに、あの卑怯者に・・・』
 久須美の頭に、”忘れさせられていたこと”が浮き上がってくる。
”俺のモノを見るとお前は自分を見失うくらい発情し、俺のモノが欲しくてたまらなくなる”
 ・・・・・・・・・暗示だ。

『私は、アイ・・ツにアイツに・・・』
 体が熱くて力が出ない。
 頭が霞かかったように思考も薄れていく。

 このままでは本当に自分を見失ってしまう。
 アイツはわざと私に暗示をかけたことを思い出させるよう仕向けた。
「馬鹿に・・・・しないで・・・・!!」
 拳を壁に叩きつける。
 しかし、怒りよりも強い欲望が久須美の体に流れる。
 少し、ほんの少しでも気を逸らせばこの身が本能のままに行動してしまう。

「・・・欲しい・・・・・・・」
 無意識のうちに自分が言ったことにあわてて首を振る久須美。
『気は抜いていなかったのに――――』

「・・違うっ、違うっ!!!」
 自分を止めようと、自分の体を必死に抱きしめる。
「・・欲しい・・・嫌・・っはぁ、はぁ、はぁ」
 時間が経つにすれ自分を抑制できなくなる。

『駄目。駄目駄目駄目。それだけ・・は・・・』
 頭では分かっている。だが体は頭とは遠い所にあるみたいだ。
 現にアレから目を逸らすことさえ出来ない。
 口からはいつの間にか涎が流れ出している。

「・・・入って来いよ。久須美?」
 悪魔の誘い。
 甘い誘惑。
『頭が・・・・駄目だ。乗ってはいけない。聞いてはいけないっ!!』

 気づくとドアに手をかけている自分がいる。
 咄嗟に手に力を込めるが遅かった。
 アイツが・・・こっちを見て笑っている。

「はは、ずいぶんと熱そうじゃないか?」

「卑怯者・・・卑怯者っ!!!」
「なんとでも言え」
 馬鹿にするように俺は肩をすくめる。

「だが・・俺のものを見て涎を垂らしながら言われてもなぁ?」
「あなたが・・・はぁ・・・あなたが・・・」
 言葉足らず。その場に崩れ落ちる久須美。
「欲しいんだろ?欲しいと言え。すぐにでもくれてやるぞ」

「・・誰が・・っつ・・・言うもんか・・・!!」

『欲しい。喉から手が出るくらい、他には何も入らないくらい欲しい』
 現に頭の中はそのことでいっぱいだった。そのことしか考えられなかった。
 だが、プライドが・・・卑怯なことが許せなかった。
 こんな卑怯なことで屈してしまってはならないんだ。
 涎を垂らそうが、目が離せなかろうが、それだけは言ってはならない。

「・・・なかなか我慢強いな・・・・だったら・・・くく」
 倒れこんでいる久須美の元へ近づいていく。
 久須美の目の前に揺れる俺のモノ。

「は・・ぁう・・・ああ・・・・・っく!!」
 久須美の唇からは血が流れ出していた。
 心の中の葛藤はすさまじいものなのだろう。
 顔を近づけてはすぐに離す。
 
 また顔を近づけてはすぐに離す。
 その動作の繰り返し。

「”欲しい”その一言でいいんだぞ?」
 悪魔の誘い。乗れば必ず身が滅ぶ。
 分かっているが、とても・・とても魅力的な誘惑。

「ほし・・・・っつ!!・・・あくっ・・・駄目・・・」
 舌がアレにのびていく。頭はその動きを理解している。
 離れていくアレ。
「・・あっ・・・・・・・」
 思わず出てしまう声。

「”欲しい”だ。言え。でないとやらん」
 アイツの、あの人の声が重く頭に響く。

『自分の意思じゃない・・・強制だから・・・だから”仕方ないんだ”』
 薄れていく思考。
『仕方ないじゃない、これで終わりじゃないよ・・・』
 ”自己弁護”自分の中での無理やりなこじつけ。
 そして――――――。
「欲しい・・・・・欲しい!!欲しいのぉ!!!!!」

 今度は逃げない、あの人のモノ。
 それだけで涙がこぼれてくる。

「くく。たっぷり味わえっ!!」
「ひゃい。はむっ、ん、ん、ん。んむっ」
 逃げないように、座り込んだあの人のモノを握る。

「ひもちいいの、あむっ・・・はあ・・・ひもちひいのぉ」
「俺も気持ちいいぞ。久須美」
 奉仕の邪魔にならないように、久須美の美しい黒髪を掻き分け、やさしく頭をなぜる。

「あはっ・・・はふぅ、ひい・・きもち・・ひいよぉ・・・」
 わが子をいとおしむように何度も何度も頭を撫ぜる。

 コイツには痛い目に遭わされたのだが、不思議なものでそれでも愛しくなってくる。
(まぁ、あずさの”アレ”に比べれば可愛いもんだがな)
 くくっと俺は苦笑する。

「”美味しい”だろう?”俺のモノ”は」
「ふぁい・・・おいしひ、れす、んはっ・・」

「久須美、俺が好きか?」
「んん、っはあ、大好き、ですっ」
 久須美は甘えるように俺のモノに頬を擦り付ける。
(これでいい。コイツはもう俺のものだ・・・・)
「あはははははははは」

(っと、そろそろイクか)
「久須美。出すぞ。残さずに飲めよ・・?」
「ふぁい・・・出して、出してください!!」
 久須美が俺のモノを深く飲み込む。

 肉棒が一瞬膨張し、久須美の口の中が少しづつ膨らんでいく。
「ふ、んっ・・・ん・・」
 こくっこくっ。
 精液が久須美の喉を通っていくのが分かる。

「・・・はぁ・・・・美味しかった・・・です・・・」
 そう言って俺に微笑みかける久須美。

 ここで言っておく・・・実はまだいくつか久須美にかけた暗示がある。
 それはーーーー俺のモノを見て発情した時、暗示のことやそれまでに起こったことを思い出すこと。
 それから、行為が終わった後、また暗示のことーー行為のことを忘れる事、
 ”日常で行為を繰り返すたびに強く体が疼く(発情していく)こと”
 ”自分では絶対にイクことが出来ないこと”だ

 最後の暗示2つに関しては、無意識に心に刻まれることにしたのだが。
 フェラでは満足することは出来てもイクことは出来ない。
(特別な暗示はかけていないからな。・・・・・あ、いや・・・もっとも繰り返せば可能なんだが)

 一時抑えた欲望も、リバウンドしていく。
 そして、無意識に服従を刷り込んでいくのだ。
 前にも言ったが、行為一回一回が着実に脳を支配する。
 フェラにしてもそうであり、
 快感は体にも心にも着実に刻まれる。
 そう、結果として自分の首を自分で絞めるのだ。
 欲望を抑え切れなかった時、その時が久須美が完全に堕ちる時。

「ハハハ。美味かったか」
 言葉なく嬉しそうに微笑む久須美の頭をまたやさしく撫でてやる。
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『あれ、アイツがいない。何処へ?』
 私は”一歩も動いていない”し、
 時計を確認するがやっぱりおかしい。
”一分ほどしか経っていない”のに、姿を消した。
 今までも何度か感付かれているのかもしれない。

『今度、思い切って”一度”接触してみるのもいいだろう』
 どうせ私には指は効かないのだし。

 それにしても、これはもしかすると誘いかもしれない。
 少し教室の様子を見て、変化がない・危険だと感じたら今日は帰ろう。
『ちょっと、調子が悪いし・・・』
 体が少し熱っぽい。
 だめだ。今日は一旦帰ろう。
 久須美は”唇を舐め”帰路に着いた。

――――同刻――――

「ふふ~ん♪ふ~ん♪」
 台所からチーンという軽快な音が聞こえる。
 少女――あずさはキッチンミットを手にはめ、湿りタオルを持ちクッキーが置かれる天板を取り出す。
「良~~香り~。聖夜君喜んでくれるかな~♪」
 新婚の妻が愛する夫のために手料理を作る。
 きっとこんな感じなんだろう・・・・。

「きゃっ、新婚なんてぇ!!」
 一人、妄想に走り身をくねらすあずさ。
 天板の上からは次々とクッキーが四方に旅立っていく。
 我に返り、顔を赤らめながらクッキーを探しに走る。

「ああ~~私の馬鹿~~~」
 もうすぐ聖夜君と待ち合わせの時間なのにぃ。 

 ・・・・・むぅ、焦っていても仕方がない。
 まだ服も選んでないのだ。
「殺菌・・・だから」
 あずさは”冷静”に冷蔵庫から次々と殺菌作用を持つ食品を取り出す。
「わさび・・・・酢・・・・ん~セロリも効きそう・・・・あと・・・梅干!!
・・・う~ん・・・・・・クッキーは”少し甘め”だから大丈夫だよね」
 戸棚からミキサーを取り出しに掛かるあずさ。

「アーモンドみたいに梅干の種も変わってていいかも・・・」
 がりごり がりごり
「ん~そうだよね。何か違う食感があったほうが良いよね・・・」 
 ごりがり ごりがり

「ん~何着て行こうかな♪聖夜君可愛いって言ってくれるかなぁ~♪」
 ごりごり がりがり 
「私服姿の聖夜君も格好良いだろうなぁ~~」 
 がりがり ごりごり
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 がきっ!!

< 続く >

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