連鎖-影の咆哮 第二話

第ニ話

とある薄暗いマンションの一室。
この部屋は数日前に”邪神”を開放し、邪神に魂を売り払った女のもの。

そして女の名は水原陽子。
彼女は自分の体内に巣くった末期の病気を治さんがために邪神に近づき、封印を解きそして―――――――――――邪神に捕らわれた。

何処か薄暗い部屋では明かりはついているが、部屋の中央の存在が闇を発しているように光はことごとくかき消されている。
その存在はかつて”邪神”と呼ばれていたもの。
今はただその存在を強烈に印象付けるだけで、当時の力は全く感じさせない。

「ご、御主人サマ・・・ア・・・あ・・あ・・・お、お茶を、をを、持ってきまマした」
どこか虚ろな眼をしながら女が飲み物を持ってくる。
足取りもおぼつかなく、見て分かるように人間の出来損ないだ。

こんな出来損ないの様子に正直、俺は苛ついていた。
うまく力が使えないのだ。
あの頃の俺ならば人間を洗脳することくらい容易に出来た。
もちろん精神を壊しきった人間だとしても、だ。
――――――だが今の現状はどうだ?
少しばかり力を失っただけで精神の書き換えすら儘ならない。

久しぶりに蘇った体に力がついていかないのだろうか?
分からない。分からない。分からなイイイイ!!
今すぐに目の前の女の四肢を引き千切ってしまいたかった。
引き千切った体から内臓を、血を啜って、心の臓を握りつぶし、その血を浴びたかった。

「御主人サマ、マ、お茶を・・・」

胸の内を駆け巡る黒く、マグマのように熱い物。
”今ハ抑エナケレバならない”。
今、派手に動いて”奴等”の子孫などに会ってはそれこそ全ての終わり。
この女、そして少数の人間を洗脳し下僕として情報を集めなくてはならない。
今度こそは”奴等”を。

――――――――――――――――――――――――――?
ふと頭上に浮かんだことに違和感を感じる。
奴・・・”等”。
奴”等”。
人間の・・・・・”塊”。

・・・・そうだ、俺と対峙したとき。俺を封じ込めたとき。
例え俺が半分ほどの力しか使わなかったとはいえ奴等は俺と対等に戦った。
そう、奴”等”は。

それならば一人、一人づつならどうだ?
群れで動くならその群れを壊してやれば?
”ショウギ”の駒のように俺の手とすれば?
”オセロ”のように色が変われば?
壊すどころか・・・・・・・俺の下僕にすれば。

「クククク・・・ヒヒャ、ヒャヒャ・・ヒャは、キヒャ、ハハハハハハッハハハハハアアあ」

想像しただけで興奮が体を駆け巡る。
ヒートアップしていくその興奮を胸の内で何とか平静に受け止める。
例えるならそれは俺の身を縛る紙の鎖。
引き千切る事はたやすくとも一度引き千切ればもう二度と元には戻らない。
後がないからこそ、それなりの策が必要になる今焦りはもっとも危険な誘発剤であることに相違ない。

「ク、ククク」

――――――――――――――――――――――決まった。
子孫を見つけ、一人一人相手にしていく。
けして他の仲間に、他の人間にばれてはいけない。
今の俺には当時の半分ほどの力もなく、奴らが再び集まることは俺の”死”を意味するといってもいい。

いや、それだけではない。
むしろそんなことより状況は悪化しているのかもしれない。
悠久の時の中、奴等はあの時以上の力を手にしておりそいつ一匹が俺を打ち滅ぼしてしまうかもしれないのだ。

だからこそ、今俺が出来ること課せられたことは、弱い奴を相手にしそいつを洗脳し手駒にする。
その全てを俺に捧げ、魂からの忠誠を誓う奴隷へ作り変える。
・・・手を取り支えあった仲間を一人一人こちらへ引き込んでやる。

「いい考えとは思わないか・・・・・・・・・っと、名前は何だった女?」

主の問いかけに、精神が壊れたままの女の体がぴくりと反応する。

「水原・ラ・・・陽、よ子・・です・・・・人様ぁ」

子孫。子孫を探す。
それが今、もう一度復活した俺がしなければならないことだ。
それが、それが俺の目的。
(この時代で過ごすためには人の体も必要になるな・・・・・・・完璧に書き換えたら陽子に探させてみるか・・)

「これから完璧に精神を作り変えてやる。嬉しいか陽子?」

「アハ・・あ・・う、うれし、嬉しい・・でス」

◆◆◆◆◆

ぐちゅ・・・ぐちゅ・・・・ぐじゅ・・。
「ぎっぃぃぃ、ひゅ、ひゅ、ぎぃぃぃいぃィィィィィィィィィィィィアアアア」

細い触手が2本、水原と呼ばれた女の耳に入り込みその知識を写し取っている。
だが写し取る理由とは違った理由で、触手の先の繊毛が陽子の脳を撫で上げる。
繊毛が脳をなぞり、体に巻きついた触手が這うたび陽子はくぐもった喘ぎ声を漏らす。
股間からはとめどなく愛液が流れ続け床の染みを一層濃いものへと変えていく。

咽かえりそうな淫靡な香りに満ち溢れたその場所。
”男”の隣には二人の少女が力尽きたように倒れこんでいる。
まだ年端かも行かない二人の少女はいずれも邪神により捕らえられ洗脳を施されている。

”菅本颯人”それが中心の男の名前。
完璧な精神操作を完了した陽子に此処に連れ込ませ、元の体ごとこの体に寄生した。
もちろん誰にも怪しまれない身分の男を選び誘い込ませてある。
どう行動しようが誰も怪しみはしないし、何より人のよさそうな顔は人間を油断させるのに丁度良い。

もちろんこの体になっても触手、呪いもその他の能力も前の体となんら変わることなく使用することが出来る。
人間の体とはいえ別に食事を取らなくても構わない。睡眠を取らなくても構わない。
世渡りの方法も覚え、人間の警戒を解く方法も完璧に理解した。

――ただ、人間の体に寄生したことで、一つだけ変わったのは”性欲”。
女の体に自らの子種を注ぎ込むという新たな快楽を覚えた。
それは、以前のようにただ快楽を与え、苦痛を与え、よがり声を発するだけの肉玩具として扱った頃の快楽とは比べ物にならないもの。
臓器を喰らうことより、骨を砕くことより、血を浴びるよりも心地よい快楽。
性への欲求は、どちらかと言うと人間の体を、慎重に最後の最後まで絶対に死なないように傷つけていく酷遇の美しさに似ていた。

陽子はすでに少しの休息で力の一部を取り戻した邪神によって、崩壊した精神を新たに構成された。
以前通り大学の助教授の仕事をしながら”奴等”のことを調査させている。
古代文字を解読した知能は流石のものでもあり、普通の人間よりもよく動いてくれるいい道具だ。
何より驚くのはその知識量の大きさ。
俺の横に倒れる女たちの知識量をはるかに越えてなおまだ吸い取れる部分が残っている。

息を荒げている一人の女を触手を動かして俺の下半身に座らせる。
すでに力尽きているはずなのに俺の下半身に跨った途端、女は大きく腰をグラインドさせ嬌声を上げ始めた。
・・この女は一時しのぎの欲求の発散先として生かしている。

この体になって初めて町へと出たときに声をかけられた。”ナンパ”というやつだ。
なにやら家出娘、というものらしく捜索に出されることがないと分かり脳を適当に弄繰り回させてもらった。
それからは少ない知識を吸い取り、俺の愛玩人形として一生を過ごすように命令している。
――――まぁこの女に関してはそれくらいだ。愛着も何もない。
事が終われば陽子同様食い殺すつもりでいる。

そして触手の何本を喉の奥に、何本を蜜壷に穴という穴を攻められよがり鳴き出した女。
この女は”奴等”のうちの二人が通う学校の、同級生。
計画の一つとして俺自らが選んだものだ。

――――――――――――――――そう、”奴等”の。
陽子に指示を出し調査させ俺自らも調査に出た今、俺は奴等の子孫の存在を全員確認している。
結果、やはり奴等はあの頃のあの絆を悠久の時を超えてもどこかで継続しているらしく、密接とまでは行かずとも何らかの形として”縁”を残している。
あるものは幼馴染として。
あるものは兄弟、従兄弟という親縁関係に。
”偶然”という”必然”の出会いを交わし存在を知り合ったもの。
魂のどこかに刻まれた記憶。その記憶は必ず俺の殲滅を望んでいる。

「ひあぁぁあああああアアアアアアアアアアアアアアアアア、あひッ、あひィ、あひッ」

陸に上がった魚のように陽子の体が何度も跳ね、床に水溜りを作る。
一度脳に浴びた邪神の体液が陽子の神経回路に影響を及ぼしているのだ。
最初は絶叫を上げていたことが全て女の快感に繋がるように創り変えられた。

一方邪神は、意識を他所に飛ばしながらも壊れやすい”ソレ等”を壊さないようねちねちと攻め続ける。
攻め続けてもなお知識を、快楽を得る媒体として丁重に扱っているのだ。

じゅぐ・・ぶじゅ・・じゅぶじゅ・・。

何らかの効果を持った粘液を纏わせた触手が、何度も何度も陽子の耳でピストン運動を繰り返す。
その動きにはもう一切の苦痛は無く、全ては彼女への快楽として宛がわれている。
嬌声を上げようが体を振るわせようが邪神は構い無しにダッチワイフのように女たちを撫で回す。

「ひ、ひ、ひ、もぉ、もぉも、くださ、くださいィィィィいい、くださ」

陽子が声を上げる。
邪神はこの陽子の反応をとても楽しんでいた。
彼は思う。”昔も、今も、人間はこの事だけは変わらない”と。
道具を使い、言葉を覚え、知識を持つことが出来た人間。
どれだけ壊そうと、どれだけ堕とそうとも決して飽きることのない。
感情豊かな彼らを壊すのは今も昔も変わることなく邪神における最高の快楽の一つなのである。

本当に人間は面白い。
脳を弄りすぎると人間はすぐに使い物にならなくなってしまう。
だから触手の先から、体内で合成した特殊な液を注入してやると・・・・・。

「あ、あ、あ、ああァァァァあ、イク、イク、イッ!!!!!!」
ビクンビクンっと陽子の体が二度跳ね、さらにだらしない顔へと変わる。
何度も与えられた圧倒的な快楽に目の端からは、ぼろぼろと涙がこぼれ口の端から伝い落ちた涎が服に染みを作っている。
人間は本当に面白いもので例え自分を壊してしまうとしても、それが快楽ならば求め続ける。
この女が自分の体を守る危険信号として求めているのか、それともただ本能が欲しているのかは分からない。

気がつけば自分の下半身で跳ねていた女も男の胸に倒れこみ意識を失っていた。
ただその顔を悦楽に歪めながら――――――――――――。

◆◆◆◆◆


『白神 舞 しらが まい』

長く透き通った金髪のお嬢様。
生まれついての英才教育は他人との拒絶を意味し、それから生まれた少々高飛車な性格は周りから疎遠されがち。
自分の気に入らないものには徹底的に厳しく当たる自己中心的な性格。
その性格のせいかクラスの中では孤立した時間を過ごすことが多い。
自分が悪いということは分かっているが何処か貴族的なプライドのために言い出すことが出来ずに寂しい思いをしているらしい。
弓道部所属。

そして舞が持つ俺の核体は”眼”。
その眼で見据えた的はけしてはずすことがない。
舞は七人の中では四番目ほどの実力。

 


『明閑 護刃 みょうかん ゆずりは』

真っ直ぐに伸びた艶のある黒髪が印象的。
護刃は賑わう町から少し離れた山の上、そこに護刃が護る神社がある。
ほとんど参拝する人はおらず、その存在を知らぬものも少なくはないという。
大学が終わると神社に戻り、そこで一人巫女の仕事ーー境内の掃除などを行う。
寡黙な性格らしく、舞とは違った意味で友達がいない。
時折神社を訪れる年寄りたちには割と人気があり、一緒にお茶を飲む姿も見られている。

そして護刃が持つ俺の核体は”足”。
使う獲物は槍。
恐るべき瞬発力と速さは仇名すものの臓を刹那の間に貫く。
護刃は七人の中では三番目ほどの実力。


『宗近 風浮 むねちか ふわり』

ショートカットのよく似合う、生命力溢れたその姿。
胸は小さく、短気、喧嘩っ早く口が悪いといった女男さ。
しかしムードメーカーな風浮は周囲にとって頼れる存在であり中心で最も活躍する。
七人のうちの一人である優乃とは幼馴染、現在も同じクラスである。
風浮の傍らにはいつも優乃が。優乃の傍らにはいつも風浮が。
その関係は当たり前であり、風浮の性格から周囲からはよからぬ噂をささやかれることもしばしば。
ちなみに俺の下僕とした女は風浮と優乃の同級生。
以前に一度同じクラスになったこと、あまり親しい関係を持たぬことから俺は下僕とすることを決めた。

そして風浮が持つ俺の核体は”腕”。
とりわけ特別な技能が要るわけではないナチュラルな攻撃。
それが風浮の力だ。
風浮はほとんど力が覚醒していない七人の中でも格別覚醒が遅く、力はほぼ無い。
このまま覚醒しないというのであればまず襲い掛かるのは風浮。
しかし、目覚めないという確証は無く、隣にはいつも優乃がいる。
風浮は七人の中では今のところ五番目の実力。


『祝原 優乃 いわいはら ゆうの』

先の報告に出てきたとおり、風浮の無二の親友。
手をかけるならばそれなりの対策が必要となってくる。
性格はおっとりとしていて・・・というより何も考えているようには見えない天然ボケ。
風浮とは静と動、火と水のような敵対関係にもかかわらずその仲は前に記した通り。
風浮を含め、今までに優乃が怒った姿を見たものは誰一人としていない。

そして優乃が持つ俺の核体は”手”。
うすうす感じていたことがこれではっきりと分かった。奴等はただ核体を封印したわけではないようなのだ。
”自分の長所に合わせた封印をすることで自らの力を高める”。
それが奴等の狙いでもあったわけだ。
優乃の力は癒しの力。
――――――――――――厄介だ。癒しの力は不浄のもの相手には立派な攻撃としての能力を持つ。
七人中ただ一人の特殊能力の持ち主。
風浮と同様、覚醒こそしていないようにも思えるが実際のところはまた同様に分からない。
噂では昔に傷ついた子犬の怪我を治したこともあるとかないとか。
戦闘能力としては乏しく覚醒度は風浮を上回るが、今ひとつはっきりしないことが多いので実力のところは保留ということにしておこう。


『鹿本 智永 しかもと ともなが』

風浮と優乃とは違った学校で生徒会長に勤めている。
幼き頃から学績優秀、文武両道を構えた精神は立派に反映される。
周りからの人望も厚く、教師からの信頼も高い。
非の付け所のない優秀な生徒。
変わったところといえばいつも”木刀”を所持している所だ。
放課後に剣の稽古があるという理由から一応の所持は認められているらしいが、それにしても食事のときでさえ離さないというのは妙だ。
考えられることは智永が”覚醒”しているということだ。
初めての接触のとき、俺はただならぬ殺気とともに剣を向けられた。
しかし現代での常識と、人間に寄生し邪気を断っていたので正体は悟られることはなかった。

個人情報の付け足しとして、智永はよく護刃の住む神社へと足を運んでいるらしい。
従姉弟同士――――――というのも関係するが、様子を見るとそれ以外の感情も持っていそうだ。

そして智永が持つ俺の核体は”耳”。
剣との愛称は”最悪”だ。
自分の間合いを取る上で、もし目を失ったとしても”心眼”という形で大いに力を発揮するだろう。
さらには遠くの状況を把握することも可能となる。
智永は七人の中では二番目の実力を持っている。


『白神 星璃 しらが せり』

苗字を見れば分かるが星璃は舞の妹。
舞よりもさらに身長が低く、その体はお世辞にも戦闘向きとはいえない。
姉とは正反対の性格で、内気で臆病。
星璃にも英才教育はなされていたが舞とは違いぱっとしない出来になったらしく一族の中の落ちこぼれのレッテルを貼られている。
だが、舞とは違いクラスではそこそこに友達がいるようだ。
それでも家出の負い目を感じているのかどこか寂しそうな顔をして、学校が終わった後よく幼稚園で子供の世話をしているらしい。
ちなみに舞とは普段仲がよいようだが、最近は些細なことで喧嘩中。

そして星璃が持つ俺の核体は”核魂”
これは核体の中でもとりわけ変種でそれ自体では何の意味も効力も持たない。
―――――――――だが、”俺の中では”最も重要な役割を果たすのもまたこの核魂である。
核魂の本来の役目は俺の中にあってこそ発揮される。
すべての核の中心。それが核魂の役目。

邪神とは名ばかりになってしまうようで非常に気分が害される話だが、”もし核魂以外のすべての核体がもう一度戻ったとしても”俺はそれを制御することが出来ない。
核魂無しに制御できるのはせいぜい二つ。核魂は全ての中心に立ち循環に力を流す役目を負っている。
だがそれは俺の中にあって始めて真の効果が発揮されるというもの。
人間が持っていても、せいぜい身体能力を上げるなどそういった類のものだ。
星璃が持っていても所詮は無駄なもの、無用の長物に過ぎない。
星璃は七人の中の実力は最低の六番目。


『常諾 若那 とこなぎ わかな』

大学を三週間で自主退学。
それからはもっぱらアルバイトを繰り返す。
気に入らないとすぐに辞める、というわけでもなく本人は至って気まぐれ屋。
飄々と現れる、少し高めの身長の八重歯の女。
動物に例えるなら若那は猫。
自分の好む場所へ自分が好きな自分が決めたときに現れる気まぐれな性格。
若那は七人中最も変わった性質をしている。

だが、ある意味一番気をつけなければならないのは若那。
唯一観察されていることにうっすらとだが気がついている人間。
深夜の公園で野良の子猫を集団で嬲り殺していた男たちに見せた殺気。
人間が発しているとは思えない兇悪で異様な邪気に満たされた空間を作り出したことは俺に一つの結論を出させるには十分すぎる出来事だった。
”まず今の俺が勝つことは出来ない”。

そういうわけで俺は陽子達にそれ以来若那からは監視をはずすように言っている。
ちなみに警戒されているのは陽子達であって、その指示を下しているのが俺だということには気づかれていない。

そして若那が持つ俺の核体は、核体は―――――不明。
自分でも思う、酷く馬鹿げた話だと。

詳しくは後になるが俺は奴等の姿を確認する度体が―――――――――いや体を構成する細胞の一つ一つが反応した。
俺を構成する全てのものが、自分の分身とも言える核体との再会に打ち震え雄たけびを発した。
奴等の姿を確認するたびに細胞レベルで体は反応を起こしたのだ。

・・・それは若那に対しても例外なく、反応は起きた。
しかしほんの小さな反応が示すものが全く見えなかった。
見えない、感じ取ることが出来ないのだ。
視界を遮られたように、そしてまるで鋭利な刀にすっぱりと記憶の断面を切り取られたように、感じ取れないその部分が失われているような感覚に陥る。
分からないという不安は若那にかけられた戦ってはいけないという戒めをより強いものへと変えた。

”常諾 若那”。
一度だけ、俺以外の相手に見せた殺気は七人中間違いなく最強のものだった。
おそらく最初に若那に当たってしまうとそこで全てが終わるだろう。

以上のデータを見れば分かる通り現代に生きる奴等の子孫は女が五人、男が一人の”七人”。
もちろん血を受け継ぐ子孫はそのほかにも何人といることだろうが、俺の核体を持つものは”七人”。
――――――――――――当時の血を最も濃く受け継いだものは”七人”。

こうもたやすく奴等の子孫を見つけ出すことが出来た理由。
それは俺と奴等の因果関係と俺の”核体の存在”が関係する。
前者はほんの推測にしか過ぎないが、後者ははっきりとした明確なものだ。

データ内にも何度か登場している”核体”というものの存在。
一言で言うと”核体”とは俺の力の源。
それは体内の各部に複数存在し、核体があって初めて俺の力は各部に循環する。
逆に言えば、核体がなければ力を引き出せず制御が出来ないということだ。

その核体がどう奴等と影響するかというと、もう分かっているだろうとは思うが、奴等の体内には俺の核体が眠っている。
以前の推測通り、奴等の子孫は当時よりも格段に強い力を持っておりそれは単に力や知恵が強くなったということではなく、自分の体に封じ込めた核体が作用しそれが外部的に力を与えているのだ。

俺が力を失っていたのは悠久の時を経た為でも、衰えたわけでもない。
奴等が封印するにあたって自らの体でも俺を封印したため。 
もう一度核体を奴等の体から取り出すことが出来れば勝算はぐっと高くなるだろう。

しかし最後の、いや一番の核体”俺”を封印できなかったのは二つの理由。
一つは、仲間の一人が息絶えてしまったこと。
あまりに強大すぎるそのパーツを人間の体に封印することは不可能であったこと。

先ほども言ったように俺は陽子とまだ名前も知らない女を使い、奴等の情報をいろいろと調べさせていた。
個人情報はもちろん、俺自身奴等の子孫と何人かはすでに接触を果たしている。
接触したところで、邪気を封じ込めた体ではやつらは何の反応も示すことは無かった。

以上が七人の標的の簡単な情報と付け足し。

ここでもう少し要点をまとめると、実力上では、癒しの力を持つ優乃を除いて。
若那>智永>護刃>舞>風浮>星璃。

この中でも特に注意すべきは『若那』・『風浮』の二人。
若那は実力・能力が分からぬ上、何かに警戒を示している。
そして風浮は覚醒してしまうと後が怖い。
かすかに残る記憶のかけらが風浮の祖先に苦しめられたイメージを映し出しているのだ。
これは全員にいえる話だが奴等が覚醒する前、覚醒した後の何かの対策がないとやられてしまう。

もう一つ。七人は皆、何かしらの”縁”を持っておりその中でも親密なものは。
いつも傍らにもう一人がいる幼馴染を何処か越えた一線も見受けられる優乃と風浮。
喧嘩をしていると言っても魂の絆のほかに姉妹という深い関係で結びついている舞と星璃。
従姉弟同士、もう一人はともかく一人は憧れの他にひそかな恋心を結び付けつつある智永と護刃。
この三組が中でも縁の深い三組だ。

もう一度言っておくがこれはただ密接に繋がっているといった例であって、それ以外に繋がりが無いということではない。
何らかの力がお互いを引き合わせているように、全員が全員を見知っている。

俺が避けなければならないのは、全員が前世の関係を取り戻すこと。

一人づつでも二人づつでも何人づつでも襲い掛かる分には構わない。
ただ俺がやられてしまえばそこで全てが終わる。それだけだ。

奴等をすべて俺のものにしていけば行くほど俺の生存率は高く跳ね上がっていくという簡単な遊戯。
賞品は奴等の体、魂の所有権。

果たして俺が生き残るか、現代に朽ち果てるか。

それは邪神のみぞ知る、というわけだ。

< 続く >

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