memory 第一話

第一話

 遠い昔の記憶・・・
 近所の市営グラウンドに大きなテントが設置されている。
 宮本サーカスの地方巡業、ちょうど今、「マンション宮本大催眠術ショー」が行われているところだ
 右手に幼馴染の茜ちゃんの手を握り、左手にポップコーンをもって俺はこいつのショーを見ている。
 会場の中から一人客を選ぶと、ライターの火を揺らめかせながら、なにやら話しかけライターの火を消すと自信満々の声で会場に向かってこう切り出す。
「はい!私はこの方にある暗示をかけました」
「この人がキーワードである動物の名前を言うと、その瞬間なんとこの人はその動物になってしまいます!」
「では、あなたの今日の朝ごはんの献立を教えてください」
 男がおどおどと、そしてその割には大きく聞こえやすい声で
「あの、トーストとハムエッグを、」
 間髪いれず宮本は軽快にまた質問を繰り出す。
「ハムエッグに使われていた卵は何の卵ですか?まさかワニやダチョウの卵ではありませんよね?」
「普通のにわとりの・・・・」そういった瞬間、男の目はカッっと見開き「コエッ、コッコッコッッ」と手をバタつかせながら会場の中を走り回る。
 大爆笑と拍手が巻き起こり、次に男が猿になり、茜ちゃんが楽しそうに拍手しているのを見て、おれは将来、催眠術師になることを決意した。
 
 ショーが終わったあと、止めようとする茜ちゃんの手をとって、楽屋のあるテントに忍び込むとそこにはマンション宮本と、なぜか先ほどの催眠術にかかった客がタバコをふかしている。
 いきなり現れた僕らに驚愕しつつも、俺が大きくなったらあなたのような催眠術師になりたいというと、途端ににっこり笑って、
「それじゃあ、大きくなったら日本一の催眠術師になれる催眠術をかけてあげよう。みんなには内緒だよ?」
「もちろんいっぱい勉強もしなくてはいけないけどね。よし、さあこの火をよーく見るんだよ・・・・」

 ・・・・・ここで目が覚めた。・・・・・なんて夢だ。もうかれこれ10年以上前の話だ。
 幼いころのアルバムなんて見てたからだろうか、篠崎茜さんとは、すっかり疎遠になっていまや苗字でしか呼べなくなってしまった。
 アルバムはサーカスのテントで二人で記念撮影しているページがめくられている。
 この、今考えれば明らかに偽者だとわかる、おっさんの言葉にすっかり本気になり、催眠術に入れあげた俺は本を買い捲り、周囲にかかりもしない催眠術のマネゴトをし、小三年の学期末、クラス中から笑いものにされるまで『将来なりたい職業』の欄にはすべて催眠術師と書き続けた。
 このおっさんが詐欺で捕まったのが駄目押し、クラスでいじめられっ子の地位にまで落ちてしまった。
 幸か不幸かと言うか、その後、俺は病弱だった母をなくし、かわいそうな奴ということで、なんとなくいじめられることはなくなったのだが・・・。
 親父は三年前に再婚、今は単身赴任で海外に飛ばされてるが、新しい母親の静香さんと連れ子の3歳年下の加奈子とはうまくやっている。
 (ただ静香さんは再婚当初から若すぎで、どう見てもお母さんには見えなくて、今でも静香さんで通ってるが)

 今日もトーストの焼ける匂いがする。階段を上る音、静香さんが起こしに来る時間だ、いつもと同じ「直人君、ご飯出来たよー」って声が今にも聞こえてきそう。
 ノックの後、ドアが開く。

「朝食の準備ができました。ご主人様ぁ」
 ・・・・・耳を疑う、・・・続いて目も疑うことになる。静香さんはいつもと同じエプロン姿なのだがなんというか、下は何も着ていなくて、いわゆる裸エプロンなのだ。
 舌足らずな口調、とろんとした瞳、真っ赤に上気した頬は明らかに今までに見たことのない妖艶な姿だった。
「朝のご奉仕をさせて頂きます」そういうと俺のペニスを抜き取り、熱っぽい唇がピチャピチャと音をたてて義理の息子のペニスをいとおしそうにくわえ込む。
「んっんっ、チュっんっ、チュプッああ、おいふぃいですぅ、ぼふじんはま(おいしいですご主人様)」
 初めて味わう気持ちよさに翻弄されるも、ご機嫌を伺うように上目遣いでこちらを見上げる静香さんと目が合い、俺は反射的に静香さんを自分から突き放してしまった。
「申し訳ございません、申し訳ございません」途端に泣きそうな表情でこの言葉を連呼しながら頭を下げ続ける静香さん。
 土下座のようなポーズをとることではじめてわかったのだが、静香さんのお尻にはどう考えてもそっち用ではないピンク色のバイブが突き刺さっている。
「淫乱な静香はご主人様にご奉仕をしている最中、お尻で感じすぎて満足なご奉仕もすることが出来ませんでした」
「どうか静香にお仕置きをしてください」
 ウネウネと動くバイブを見せ付けるようにお尻をこちらに向け、必死に懇願する静香さん。
言っているうちに、たまらなくなってしまったのかオナニーを始めてしまう。
「あっ、んはぁ、み、見てくださいご主人様、もうこんなになってるんです」とうれしそうにあそこをクパぁと広げる。
 もう驚く以外に何も出来ず、とりあえずこの場から逃げることを決め、もつれる足で階段を降り、キッチンのほうに向かう。

 キッチンでは加奈子が朝食を食べている
「ん、おはよ、あれ?兄貴、お母さんは?」
 こんなのんきな挨拶をする妹に、上で起きたことを伝えることを躊躇するも、そうも言ってられないと思いなおし、
「大変なんだ!静香さんの様子がおかしいんだ」
「またぁ~どうせバイブに感じすぎてうまくご奉仕できなかったとかなんとか言って、お仕置きでもねだったんでしょ」
唖然として何もいえない俺
「・・・そんなことよりも私にも早くバイブ入れてよ、・・・学校に遅刻しちゃうよ」
 と言って加奈子は一瞬の躊躇の後、スカートをめくる。もう何がなんだかわからない。

 
 『そいつには時間が余ったんでもっといろいろ改造しといたぞ』

 不意にどこからか声が聞こえる。いや、耳から聞いたんじゃない、加奈子はポカーンとしている
 
『今発現しているのはつじつま合わせの擬似記憶のほかには「学校に行くときは必ず兄にバイブをつけてもらってから行くこと。」と「常にスイッチを入れた状態で家に帰るまで外してはいけない。」「パンツを履き替えるときは許可を求めること」ぐらいだが、パジャマのポケットにチョーカーがあるだろ、それを加奈子に見せてみな』

 恐る恐るポケットに手を入れると厚手の布の感触が、ゆっくりと持ち上げるとそれは首輪同然の赤いチョーカーだった。
「なにそれ、くれるの?」

 そう言った途端に加奈子は目が空ろになり、直立不動のまま何も反応しなくなってしまう。
『そうそう、んでそれを加奈子の首に嵌めてみな、言っとくけどそれ着けないと加奈子ずっとこのままだぞ』
 俺は加奈子を揺さぶる、ぺちぺちと軽くはたく、声をかける。何の反応もない。
 ふつふつと、この軽薄な態度でとんでもないことをしでかす声の主に怒りがこみ上げてくる。
「ふざけるな加奈子を元に戻せ、静香さんもだ!」
『まあまあ、落ち着け、とりあえずそれつけて見ろよ、そんで外せばさっきの状態に戻るから』
 なおも俺が捲くし立てるも今度は返事もしなくなる。

 こいつのいうことに従うのは癪だが、仕方ない。俺は加奈子に震える手でチョーカーを着ける。
 うまくはまらなかったが、やがてかちりと小さな音がすると、背中を向けていた加奈子が飛び跳ねるようにこちらに振りかえると瞳をリンリンに輝かせて、そのまま飛びついて胸をめいいっぱい俺に押し付けてくる。
「おっはよーご主人様、あのねあのね加奈はご主人様のペットなの。お利巧なペットをご主人様は褒めてくれるの。おちんちんのご褒美をくれるの。」
「ご褒美ちょーだい。」
 加奈子は首を少しひねって両手をこちらに差し出し、にっこり笑って俺におねだりをしてくる。
 自分が制服を着ていることに気づいた加奈子は邪魔臭そうに制服を脱ぎだす。理性を総動員させて、俺が「待て!」と声をかけると、加奈子は不機嫌そうに手足をバタつかせながら、「う~ん、待つけど早くご褒美~」
 とこちらを見つめてくる。

 ・・・どんなときでも冷静でいつもどこか醒めたところのある加奈子の痴態に驚きつつも動かないでと言いながら赤いチョーカーを外す。そしてそれをポケットにしまいつつ急いで後ろに下がる。
 しばらくして加奈子が顔を上げる.
「ん、何してんの兄貴?」
 いつもの加奈子だ。
『ははは、どうよ?面白くなかった?』
 また、あの声が聞こえてくる。
「もう勘弁してくれ、お前は一体何者なんだ?」
『何者って名前は神城直人。催眠術師だよ』

 ふざけるな!それは俺の名前じゃないか

< 続く >

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