第五話
「ゲドラー様。ご紹介させていただきますわ。新たに妖女虫となったムカデナですわ」
私はゲドラー様の部屋へムカデナを連れて行き紹介する。ゲドラー様は満足そうにうなずいた。
「私は妖女虫ムカデナです。ゲドラー様、以後お見知りおきを」
ムカデナがすっと跪く。
「ああ、ブラックローズの元で励むが良い」
ゲドラー様がムカデナに声を掛ける。ムカデナはにっこり微笑んだ。
「ありがとうございます。私は地底帝国に忠誠を誓います」
ゲドラー様がうなずく。
「ゲドラー様。クリスタルのシールドを破る方法は他には無いのでしょうか?」
「うむ、じっくりと時間を掛ければ心を開かせることは可能だろう。お前のようにな。だが直接時間を掛けずとなると・・・」
「自らが心を開放するのはいかがでしょう?」
ムカデナが意見を出す。
「自らだと?」
「はい、私は心を闇に染めていただいたときに感じたのですが、クリスタルのシールドは持ち主自身が遮断できると思います」
それは本当だろうか? 私には良くわからない。
「ふん、だが、仮にそうだとしても自ら遮断するまい」
「はい、ですから自ら遮断するように仕向けるのです」
「ふん、なにやら考えがあるようだな?」
ゲドラー様がにやりと笑う。
「はい、私の考えをお聞き下さいませ」
私とゲドラー様はムカデナの考えに耳を傾けた。
ゲートをくぐって私の部屋に戻ってくる。
「お帰りなさいませ、ブラックローズ様」
部屋にはクモーナとサソリナの二人が待っていた。二人は私の影に控えるもう一人の妖女虫に気が付いた。
「ブラックローズ様、その娘は?」
「初めましてお姉さま方。私は妖女虫ムカデナ。以後お見知りおきを」
かつての栗原姫菜はそう言って頭を下げた。
「そう・・・新たな妖女虫の誕生ね。よろしくムカデナ」
クモーナとサソリナはムカデナを喜んで迎え入れた。それを寂しそうに聡美が見ている。
「いいなぁ・・・わたしも妖女虫になりたい・・・」
聡美のつぶやきを私は聞いたが、おそらく聡美では変化に耐えられないだろう。勘みたいなものだが、私はそう感じていた。
「聡美、ブラックローズ様より許可をいただいたわ。今日からあなたは私のしもべよ」
「あ、はい。ムカデナ様」
聡美はムカデナのそばへ行って跪く。
「ふふふ・・・その娘があなたの奴隷人形? 悪くないじゃない」
「サソリナ、悪くないどころかこの娘は一級品の奴隷人形よ」
ムカデナはそう言って聡美の頭を抱きしめる。
「あらら・・・」
クモーナとサソリナは苦笑した。
「うーん、可愛い。聡美は可愛い奴隷人形だよ」
「あ、おやめ下さいムカデナ様」
「いいの! 聡美は私のもの、私が可愛がってあげるんだから」
聡美の頭をぐりぐりと撫でる。
「奴隷人形に入れ込むのはほどほどにしなさい」
私はムカデナにそう言って、他の二人からの報告を聞いた。
その間中ムカデナは聡美を構っていたのだった。
いつものように君嶋麻里子の姿をとり学園に顔を出す。
今日からは計画の第二段が始まるのだ。
春川しのぶを罠に掛け、彼女よりクリスタルのシールドを失わせる。
私はそのための下準備をするために職員室に顔を出した。
「おはようございます」
「おはよう・・・」
いつものように挨拶する私に同僚どもがおざなりの挨拶を返してくる。
まあいい、こいつらには後で役に立ってもらうのだ。少しくらいの無礼は大目にみてやらねば・・・
私は席に着くと隣の席に着いている男性教師に声を掛ける。
「谷山先生、後で相談があるのですけど。よろしいですか?」
「えっ! 俺っすか? いいですよ。いやあ嬉しいなあ、君嶋先生に声を掛けてもらえるなんて」
能無しの体育教師は私に声を掛けられたことを単純に喜んでいる。他愛の無い。
「ええ、後で二人きりでお話しましょ」
「二人きりですね? もちろんOKですよ」
谷山先生は鼻の下を伸ばしていた。ふふふ・・・
「それでは職員会議を始めます」
三崎学園長が職員室に入って来たところで井田教頭が音頭を取る。だが、職員会議の間中、谷山先生は上の空だった。
昼休みに私は谷山先生の元を訪れた。体育教師の谷山大吾はがっしりとした男だが、筋肉バカとのあだ名がつき女子学生の評判はいまいちだった。
「こんにちは、谷山先生」
「やあ、君嶋先生。むさくるしいところですがどうぞ」
体育準備室で一人寂しく昼食を取っていたのだろう。私が来たことを素直に喜んでいる。
「お邪魔しますね」
「どうぞどうぞ」
立ち上がり椅子を勧めてくる谷山。私は勧められるままに席に着く。
「いやあ嬉しいですね。俺なんかを君嶋先生が頼ってくれるなんて。それで話ってなんですか?」
「ええ、それほど難しいことではないの。先生に狂っていただこうと思いまして・・・」
私は微笑んだ。
「えっ?」
「谷山大吾。お前は今から私の言いなりになるのよ」
私は立ち上がると君嶋麻里子の姿を捨てる。赤と黒の外骨格が私を本当の私に戻してくれる。
「えっ? あえっ?」
何事かわからずにいるのだろう。谷山は目を見開いて口を開けて呆けていた。
私は谷山に近付くと、その頭を押さえつけて魔力を送り込む。
「あがあああ・・・」
谷山は口を大きく開けてわめき始めた。脳神経を私の魔力が犯していくのだ。
「二年生の春川しのぶを知っているわね?」
「あぐう・・・あう」
谷山の目がにごり、焦点が定まらなくなる。
「知っているわね?」
「ああ・・・はい・・・」
「あの子をどう思うかしら?」
私はそうたずねる。
「ああ・・・鍛えれば・・・国内でも・・・上位を狙えます・・・」
トンチンカンな奴め・・・
「違うでしょ、お前は彼女をモノにしたいのではないの?」
「え・・・あうあ・・・春川・・・モノに・・・」
「そうよ・・・お前は春川しのぶを犯したいの。あの娘の純潔を奪いたいのよ」
私の『指示』が谷山の頭にしみこんでいく。
「犯す・・・春川しのぶを・・・犯す」
「そうよ。チャンスがあり次第犯しなさい。そうね、お仲間を用意しておいて上げる。きっかけも作ってあげるわ。いいわね」
「はい・・・」
谷山はただぽかんとしたままうなずいた。これで仕込みが一つ出来上がった。
私は宙を見たままの谷山を置いて部屋を出た。
「君嶋先生」
次の仕込みを施すべく廊下を歩き出した私は背後から声を掛けられた。
「学園長」
振り向いた私の前には三崎学園長が立っていた。
「何をしていたのですか?」
学園長は私をにらみつけるかのように私を見つめてくる。
「別に何も。谷山先生にちょっと相談をしていただけですわ」
私は警戒しながらそう言ってごまかす。
「そうですか、では私が谷山先生にお会いしても問題は無いですね?」
三崎学園長の言葉に私はどきっとする。もう少ししないと、正気に戻らないはずだから。
仕方ない。そのときはそのとき。
「どうぞ、私の用はすみましたので」
私は学園長が部屋に入ったら、その後ろから襲うつもりで身構える。
「誰か来てー!」
突然の悲鳴に私と学園長はハッとする。見ると、廊下の向こう側で女学生が一人倒れていた。
「君島先生、来て下さい」
「はい、学園長」
私は学園長とともに、女学生の方へ駆けつける。
「どうしたの?」
「この娘が突然倒れて・・・」
そこにいた少女が私の方を見て微笑む。私もにやりと笑みを浮かべた。
そこにいたのは姫菜だった。そして倒れているのは聡美である。
「貧血を起こしたみたいね。保健室に運びましょう。君嶋先生、手伝って下さい」
「はい、学園長」
私は聡美を抱え起こして抱きかかえる。
「栗原さん。あなたは保健室の佐藤先生に先に知らせて」
「はい」
姫菜は小走りに保健室へ向かう。私は学園長とともに聡美を保健室へ連れて行った。どうやら、二人が学園長の注意を引いてくれたらしい。おそらく今頃は谷山も普段通りに戻っているだろう。
保健室のベッドに寝かされた聡美はすうすうと寝息を立てている。
「大丈夫でしょう。寝不足から来る貧血では?」
保険医の佐藤愛子が眼鏡の奥の優しい目で私たちを見渡した。
「そうですか、突然倒れたらしいから・・・良かったわ」
ほっとしている様子の三崎学園長。
「すみません、後はお願いします。私は授業があるので」
私はそう言って部屋を出ようとする。
「そうね、私も行かなくちゃ。栗原さんも授業に行くのよ」
「はあい」
私と一緒に学園長も部屋を出る。姫菜はニコニコしながら私たちを見送った。
「君嶋先生」
廊下に出た私を学園長が呼び止める。やはりそのまま開放する気は無いのか・・・
「何でしょうか?」
「世界は狙われています・・・あなたはそのことがわかっているのですよね?」
「はあ?」
「あなたがそれをわかっているのであればいいのですが・・・最近のあなたはそれを忘れてしまっているのではないかと・・・」
「何のお話ですか? 学園長」
私は確信した。この女はクリスタルの関係者だ。
「いえ・・・ただ・・・私は恐れているのです。あなたが変わってしまったのではないかと・・・」
そう言って学園長は私を見つめた。普段の学園長とは違う力を感じる。
「お話しの意味が良くわかりません。失礼します」
私はその場を立ち去った。それ以上居ては殺してしまいそうだったからだ。
放課後。私は村中響子・・・サソリナと会っていた。
「お呼びでございますか? ブラックローズ様」
人気の無いところでもそう呼ばれるのは危険だが、気分はいい。
「春川しのぶの様子はどう?」
「いつもと変わりありません。これから陸上部へ顔を出すと思われます。ですが・・・」
「ですが?」
私はサソリナに続きを促す。
「先ほど学園長がしのぶとなにやら話していました。その後はずいぶんと不機嫌そうでしたが」
「そう・・・おそらく学園長はクリスタルの関係者。気をつけなさい」
多分しのぶにも私のことを確かめたのだろう。学園長は私を疑っている。
「そうなのですか? 始末しますか?」
「そうしたいけど相手の実力がわからないわ。もう少し探ってからでないと」
「わかりました。ブラックローズ様」
サソリナは素直にうなずいた。
「それよりも、奴隷人形はどう?」
「はい、河田美晴を使い二人増やしてございます」
「そう、その娘たちを使ってしのぶを足止めしなさい。部活の後でしのぶを襲わせるわ」
「かしこまりました、ブラックローズ様」
サソリナは私の指示にうなずいてその場を立ち去った。
保健室ではすでに姫菜が佐藤愛子を奴隷人形に貶めていて、聡美とともに二人の奴隷として使役している。
あまり奴隷が増えても邪魔なだけだが、使い捨ての手駒として現在は必要だろう。
これから私は春川しのぶを落とすべく計画を実行する。
上手く行けば、春川しのぶも地底帝国の戦士として生まれ変わるかもしれない。
だめでも、無防備となったクリスタルチェリーを始末するのは容易いだろう。
そのためにはしのぶの心をずたずたに引き裂いて、クリスタルのシールドを放棄させてやる必要がある。
私は時間を見計らい陸上部の部室へ向かった。
傍らにもう一人の下衆な木偶を連れて・・・
陸上部の部室の前には周囲を警戒するようにサソリナがいた。
「ご苦労様。しのぶは中?」
「はい、ブラックローズ様」
サソリナ・・・村中響子はすぐに私の前に跪く。
「ブラックローズ様、その男は?」
「ああ、しのぶの相手をさせてやる男よ。この程度で充分でしょう?」
私の隣には井田教頭が呆けた表情で口からよだれをたらしていた。
「なるほど、確かに充分です」
「もうすぐもう一人も来るはずよ、二人でしのぶを可愛がっておあげなさい。」
「はい、ブラックローズ様」
私は裏にまわって窓から中を覗く。今はまだ私の正体を知られるわけにはいかない。
魔力を使って中の様子を感じる。これで音も聞こえるはずだ。
驚いたことに中では春川しのぶがあっけなく椅子に縛り付けられていた。
「これはどういうことですか? 河田先輩もおふざけが過ぎるのではないですか?」
「ふざけてなんかいないわ。私たちは命令どおりにやっているだけ。油断したあなたを捕らえておくようにってね」
河田美晴と他二人が精気の無い表情でしのぶを見下ろしている。
「命令・・・誰が命令したの?」
やはりしのぶは黙っている気は無いらしく、しきりに拘束された手をはずそうとしている。
「私たちのご主人様であるサソリナ様よ。うふふふ・・・」
不気味に笑う少女たち。
「そう・・・あなたたちは操られているんだ・・・ならば」
しのぶは必死に脱出しようともがく。やがて少しずつロープが緩み始めてきた。
「お待たせしたわね」
そのとき入り口が開いて一人の少女が入ってくる。村中響子だ。
「だめだ! 逃げろ!」
とっさに入って来た少女に退避するよう声を掛けるしのぶ。それがいかに的はずれかはすぐにわかる。
「お待ちしておりました。サソリナ様」
三人の少女がいっせいに入って来た村中響子に跪く。
「えっ? うそ・・・」
「こんにちは。春川しのぶさん。いえ、クリスタルチェリー」
村中響子は腰に手を当てて仁王立ちでしのぶを見下ろす。ふふふ・・・やるじゃない。
「私をクリスタルチェリーと知っている? 地底帝国のしもべか」
「うふふ・・・こんな姿でいるのは飽き飽き、私の本当の姿を見せてあげるわ」
そういうと響子は体に纏わせた魔力を開放する。
赤いぬめるような外骨格が彼女の躰を包み込み、背中から腰にかけての節々が強靭な尾へと繋がっていた。
蠍の妖女虫サソリナの姿である。
「女魔獣か・・・」
「もう少しスマートに妖女虫と呼んで欲しいわ。魔獣なんかと比べて欲しくないの」
手の甲を口元に当てて、妖艶に微笑むサソリナ。
「妖女虫ね・・・怪しい女中さん?」
「減らず口を叩くわね。まあいいわ、これからあんたをたっぷりと可愛がってあげるから」
ゆっくりと近付くサソリナ。
「ごめんだよ!」
素早くロープから拘束された両手を抜き、椅子ごと床に転がって脚を抜こうとする。なかなかにやる。
「くっ、貴様!」
予想外だが、仕方ない。これは成り行きに任せてみることにする。もちろんサソリナがピンチになれば脱出させるつもりだ。
「うりゃっ」
しのぶは素早く脚も引き抜いて、身ごなしも素早く立ち上がる。
四対一の不利を悟ったのか、しのぶはそのまま入り口へ向かって駆け出す。
「逃がすな!」
サソリナの声が部室に響いた。
だがしのぶは素早く、すぐに部室の扉に手を掛ける。
「外で勝負だ」
しのぶはそう言って外へ出ようとしたが、扉を開いたところで扉の前の人物に思い切りぶつかった。
「うぐっ!」
思わずしりもちをつくしのぶ。扉の前に立っていたのは、体育教師の谷山と、教頭の井田だった。
「谷山先生・・・教頭先生・・・」
しのぶは立ち上がろうとしたが、河田美晴と他の二人が思い切り両手を取って押さえつける。
「うあ・・・くそっ」
しのぶは何とか振りほどこうとする。
「だめだよ・・・春川ぁ・・・逃げちゃだめだぁ」
「ゲヘヘヘ・・・逃がさないぞぉ」
うつろな目つきにいやらしさをたたえて谷山と教頭がやはりしのぶを押さえに掛かる。
「うそっ・・・誰かっ・・・は、離せっ」
「うふふふ・・・残念だったわね。もう少しだったものを・・・」
押さえつけられたしのぶをサソリナが見下ろす。
「くっ・・・」
しのぶは悔しそうに歯噛みしている。
「うふふ・・・私の尻尾はね、いろいろな毒を出すことができるのよ。身動きができないように麻痺させてあげるわ」
「や、やめろ!」
しのぶはもがくが、サソリナの尻尾がしのぶの首筋に差し込まれる。
「ふふふ・・・ついでに媚薬も混ぜてあげるわ」
「あああ・・・」
しのぶの躰が徐々に麻痺していくのか身動きが少なくなる。
やがて、女学生たちと教師二人が離れてもしのぶは床に転がったままになる。
顔もほんのり上気しているようだ。
「ふふ・・・頃合いのようね。お前たち、この女を犯してやりなさい!」
「ぐへへ・・・」
「がははは・・・」
サソリナの言葉に教師どもはよだれをたらしながらしのぶの躰に襲い掛かる。
たちまちしのぶのセーラー服が引き裂かれていった。
「いやだぁ・・・離せぇ・・・」
自由にならない躰を必死で動かそうとするが、しのぶは身動きが取れない。
「へへへ・・・しのぶちゃーん」
「げひひ・・・いい躰だ・・・」
二人の教師は舌なめずりをしながらしのぶの体をまさぐっていく。
「いやあっ・・・誰かぁっ」
「わめいたって誰も来ないよ」
サソリナと三人の女学生はニヤニヤしながら成り行きを見ている。これでショックを受けたしのぶの心はずたずたになるだろう。
「そこで何をしているの?」
突然扉が開いて、声が響く。
そこに立っていたのは三崎学園長だった。
「学園長?」
サソリナが突然の招かれざる客をにらみつける。
「あなたは・・・地底帝国の魔獣ね?」
学園長の言葉に私は驚いた。学園長は魔獣の存在を知っていたのか。
「私は魔獣ではないわ。妖女虫サソリナよ」
「そう・・・新種の化け物ってわけね。それにしても学園内に現れるとはね」
「お前はいったい何者なの?」
サソリナの疑問は私の疑問だ。
「さあね・・・少なくともあなたの敵でしょうね」
「ふざけるな!」
サソリナが飛び掛る。
だが、学園長はサソリナの攻撃をかわすと部室の中に踊りこみ、しのぶに襲い掛かろうとしている男性教師たちの首筋に手刀をお見舞いする。
「ぐわっ」
「げへっ」
二人の男性教師はあっという間にのされてしまった。
「えいっ」
「やあっ」
美晴たち三人の奴隷人形も立ち向かったが、やはりすぐに倒される。
「ごめんなさい。しばらく寝ていてね」
学園長はそう言ってサソリナに近寄っていく。
「くっ」
これは強敵だわ。サソリナ一人では難しいかも。
私はそう思い、サソリナに思念を送る。
・・・サソリナ、聞こえる?・・・
・・・はい、聞こえます。ブラックローズ様・・・
・・・ここは一時撤退しなさい。ただし、できるだけ学園長の戦闘力を確認し、ここから引き離すのです・・・
・・・かしこまりました。春川を確保するのですね?・・・
・・・ええ、予定がまるっきり狂ったけれど、このまましのぶを連れて行くわ・・・
・・・かしこまりました。学園長はお任せを・・・
サソリナはにやりと笑みを浮かべると、学園長に背中を見せる。
「こちらよ、学園長」
「くっ、待ちなさい」
学園長はサソリナを追い部室を出て行く。
私はそっと表にまわって、部室の中に入り込んだ。
そこには気を失った男たちと、倒れている女学生たち。それにあちこちを男たちにまさぐられ、陵辱一歩手前で救われた春川しのぶがいた。
「せ・・・先生・・・」
麻痺毒と媚薬で朦朧となったしのぶは私の顔を見て微笑むと、そのまま意識を失った。
ここは私のマンション。
結界を張り、外部からの干渉は排除してある。
結局私はしのぶを連れて私の部屋へ戻っていた。
ベッドの上で眠っているしのぶを前に、私は学園長のことを思い出していた。
学園長は間違いなく地底帝国のことを知っている。
だが、私を始めピーチもチェリーもプラムも学園長のことは知らなかった。
いったい彼女は何者か・・・
言えることは彼女は我々の敵であること。
サソリナが少しでも情報を持ってきてくれれば・・・
「ん・・・あ・・・」
ベッドの上のしのぶが身じろぎをする。わたしは様子を窺うためにベッドに近寄った。
「大丈夫かしら?」
「あ・・・」
私の呼びかけにうっすらと目を見開くしのぶ。その目はまだぼんやりとしている。
「あ・・・先生だぁ・・・麻里子先生だぁ・・・」
「春川さん?」
しのぶは私を見つめ、そっと手を伸ばしてくる。
「先生が居る・・・これは夢?・・・」
「春川さん?」
「はあん・・・先生が居るぅ・・・嬉しいな」
まだ麻痺毒と媚薬の後遺症が残っているのか?
「先生・・・私・・・犯されたかもしれない・・・」
しのぶは遠いものを見るように目を細める。
「先生!」
突然のことに私は対処できなかった。しのぶが私の腕をつかんで引き寄せたのだ。
「むぐっ?」
しのぶは私を抱きしめてキスをしてくる。私の頭がパニックになる。
「な、何を?」
「先生! 私・・・私・・・先生が好きです。大好きなんです!」
しのぶは私にしがみつき泣き始める。
「私・・・犯されたかもしれない・・・でも、でも・・・大丈夫だと思う・・・大丈夫だと思うから・・・私を先生のものにして!」
「はい?」
あちゃぁ・・・まずかったかも・・・
「先生!」
「あ、ちょっと・・・やめなさい」
しのぶは私をベッドの上に引きずり込む。
ええい! ここには闇の気はあまり充満していないが、可愛がってやるまでか!
私は態勢を立て直すと、しのぶの躰を下に組み敷いて両肩を押さえつける。
瞬間的な力は出せるようだったが、まだ躰には麻痺が残っているらしくしのぶはすぐに下側にさせられた。
「いたずらっ子め、覚悟しなさい」
「先生・・・」
私はしのぶの首筋にキスをしながら、引き裂かれたセーラー服を脱がせていく。
スカートを下ろし、パンティの上からスリットを触ると、そこはしっとりと湿り気があった。
「先生・・・私・・・嬉しいよ」
「そう? 仕方ない娘ね」
私はしのぶのブラジャーを取り去り、胸を愛撫してやりながらパンティの中に指を差し入れていく。
「はあん・・・あん・・・」
しのぶの声が甘みを帯びる。媚薬のせいで感じやすくなっているのだろう。
乳首はぴんと張り始め、股間に差し入れた指にはねっとりと愛液が絡み付いてくる。
「ああん・・・先生・・・先生・・・」
しのぶは自らも腰を振り始め、より深く快楽を得ようとする。
徐々に躰が上気して赤くほてってくる。
「可愛い子。気持ちいいの?」
「はい・・・いいです・・・先生・・・好き・・・麻里子先生・・・好き」
乳首を甘く噛んでやり、それと同時に股間の指を深く突く。
「ひやあ・・・あん」
しのぶのからだがびくんと跳ねた。
「ああ・・・いい・・・気持ちいい・・・」
私の愛撫に顔を赤らめて快楽に酔いしれるしのぶ。
やがてその躰が絶頂を迎える。
「あひぃ・・・いくぅ・・・いくよぉ・・・ひあぁ」
躰をしならせてしのぶはいってしまった。
「ふう・・・何をやっているんだか、私は」
ぐったりとして再び眠ってしまったしのぶを前に私は苦笑する。
本当ならこれはアジトで行わなければ意味がない。
闇の気を送り込み心を闇に染めるのはここでは難しいだろう。
「楽しんだだけということか・・・」
私は部屋を出て居間に戻る。
静かな居間でソファにくつろいでいると玄関の方で音がした。
「誰?」
「うっ・・・くそっ・・・」
入ってきたのはサソリナだった。クモーナに支えられ、傷だらけの姿だった。
「サソリナ・・・いったい?」
「申し訳ありませんブラックローズ様」
「私が駆けつけたときには・・・」
苦しそうにサソリナが言う。クモーナは心配そうに彼女を支えていた。
「学園長ね・・・」
「はい、ビルの屋上に追い詰められて・・・強いです」
「わかったわ。とにかく傷の手当てをアジトですること。クモーナも行きなさい」
「はい、ブラックローズ様」
クモーナとサソリナは奥の部屋へ行き、ゲートに入る。二人が去った後を私は見つめていた。
三崎学園長か・・・
< 続く >