ジュエルエンジェル 第七話

第七話 「アクアマリンの章」

 扉が軋む音にゲルバは目を通していた書物から顔を上げる。
 足音とともに陽気な鼻歌が聞え、やがて本棚と薬品棚の通路から一人の男が顔をのぞかせた。
 ギョロ目の中の小さな黒目をあちこちにせわしなく動かし、何が楽しいのか常にニヤついた顔をしている。
 その身体は機械と有機の肌が入り混じった奇妙なもので、全身のあちらこちらからプラグを垂れ下げているのが不気味さを引き立てている。
 まるで損傷を受けて正体のばれたサイボーグといった出で立ちだ。
「いよっ、じーさん」
「なんじゃオマエさんか、ドリーパ」
 ゲルバは本を閉じて棚に戻すと、顎でソファーに座るよう促した。
 ドリーパは誘われるままに深くソファーに腰掛けると、まるで自室にいるかのようにテーブルに足を投げ出してくつろいでみせる。
 その態度をさほど不快に感じた様子もなく、ゲルバもソファーに腰をかけた。
「どうじゃったかの、ガードが連れてきた娘どもは」
「いい具合だったぜ~!レオタードっていうのか、ありゃなかなかエロい服だな、ケケケケケ!」
 楽しげに談笑し、甲高い笑い声を上げるドリーパ。
 ゲルバも好色な笑みを浮かべ頷いてみせる。
 実はこの二人、七聖魔の間でもとりわけ仲がいいのだ。
 専門分野こそ違うものの二人とも開発と実験が趣味であり、互いに成果を見せ合って楽しんでいる。
 また色事の嗜好も似通っていて、そっちの方でも実にウマが合うのだった。
 以前はネーマの部下である女構成員を、気付かれずに何人手篭めにできるか競い合ったりもした。
 結果、三人ほど壊れて色情狂になってしまい、ネーマにばれてムチで仲良くしごかれたのだが。
(余談だが、先に倒されたザイバも生物兵器を開発していたが性格的に難のある二人とは付き合おうとはしなかった)
「ネーマのヤツ愚痴ってだぜ~。『なんで私に一言言ってくれなかったんだ』ってな!」
 ドリーパはその様子を思い出したのか、腹を抱え爆笑する。
 どうやらネーマは、たくさんの少女が自分の手に渡ることなく、全てゲルバなんぞの人形になったのが面白くなかったらしい。
 気に入ったものは必ず手元に置いておかなければ気の済まない彼女のことだ。相当にふてくされていることだろう。
 そう考えるとゲルバも幾分胸がすく思いがした。
「ところで、ペルゲガートンとシュナフは来ておったか?オマエさんと一緒に誘っておったんじゃが」
「・・・あー、あいつらか。ペルのやつは来なかったし、シュナフは来たけどつまんなそうな顔してすぐに出てったぜ」
「ふん、あいかわらずじゃな」
 ゲルバは特にがっかりした様子もなく、それが当然といったようにつぶやく。
 ペルゲガートンとシュナフ。どちらも七聖魔である。
 この二人は性格は異なるものの、自分の興味がそそられる場合を除いては他人と接触することは少ないという点では同じだ。
 七聖魔の中でも一・二を争う実力者なので、なんとか協力的になってもらいたいと考えているのだがそう簡単にはいかないようだ。
 ―――ゲルバは別に七聖魔の頂点に立とうなどとは考えてはいない。
 だが自分の策が成功を収め株が上がると、それを良しとせずに足をひっぱろうとする輩が出てくるかもしれない。
 配下の中にも現七聖魔の地位を狙っている者はいくらでいるであろうし―――。
 そういうときに煩うことのないよう、あれこれと根回しをしている最中なのだった。
「ケケ、あいつらを取り込むのは骨が折れるぜ~?じーさん」
「わかっとるわい。・・・それより、わざわざ訪ねてくるとは何か面白い研究結果でも出たか?」
 ゲルバの言葉にドリーパはポン、と膝を打つ。
「おお~、そうそう!何のために来たのか忘れてたぜ。実はじーさんにお願いがあるんだよ~!」
「うん?オマエさんが頼みごととは・・・一体なんじゃ」
 ドリーパは口を大きく吊り上げニタァ、と笑う。
 口が頬の辺りまで裂け、不自然なまでに整然とした歯が剥き出しになる。
「オレもジュエルエンジェル狩りに混ぜてくれよ」
「・・・堕としたやつらなら、いつでも貸してやると言ったじゃろう」
「それじゃ物足りねーんだよぉ~!」
 ドリーパはテーブルに前のめりに寝そべると、渋い顔をするゲルバを覗き込む。
「やっぱ自分のものじゃねえと、楽しみたいときにに楽しめないじゃん?な、な、オレにも一人くらい人形作らせてくれよ」
「顔を近づけるな。オマエさんのは特に気味が悪くて仕方ないわい」
 ゲルバは今にも唇が触れ合いそうになるほど接近したドリーパの顔を必死で押し返す。
 が、ドリーパはゲルバの顔を凝視したまま何度も何度も顔を突きつけてきた。
「な、いいだろ?な、な?」
 とうとうゲルバは観念して大きくため息をつく。
「十二人全員を揃えて、初めて肉人形コレクションとして価値が出るというのに・・・。まあ、お互い手を貸し合って堕とすのも悪くないか」
「キャッハ―――ッ、やったぜ~!そうそう、ギブアンドテイク。オレはいつでも手を貸すからよ、そのかわり今回のはちょーだいね!」
 よほど嬉しいのかドタバタと手足をバタつかせドリーパは絶叫した。
「ゲルバ様・・・きゃっ!?」
 隣の部屋から入ってきた玲香、奈津子、沙羅の三人がその奇声に思わず身をすくめる。
 その姿を見とめたドリーパはピタリと動きを止め、三人に手を振ってみせた。
「いよ~、お邪魔してるぜガードちゃんたち♪」
「ド、ドリーパ様ですか・・・びっくりしました」
 三人は胸をなでおろすとうやうやしく頭を垂れて礼をする。
「この前は、たっぷりとかわいがってもらえて光栄でした・・・」
 そう言う玲香の頬が朱に染まっていく。同様に奈津子も顔を赤くして熱い息を漏らした。
 一人状況が飲み込めない沙羅は二人の顔を交互に見て首をひねる。
「え、なになに?アタシが来る前に何してもらったの?」
「もちろん、『ナニ』だよ。一日中じ~っくりとな、ケケケケ」
 それを聞いた沙羅の目の色が変わる。
「え―――っ、マジ!?ちぇ、二人ともずるいな。アタシなんかまだゴーバ様にも、ゲルバ様以外の七聖魔の方々にも一度もかわいがってもらってないのに」
「またオマエも相手してやるよ。それよりどうしちゃったの、その格好は」
「あ、これですか?」
 ドリーパの疑問の声に、三人は自分の姿を見直す。
 玲香は淡い水色のワンピース。奈津子は山吹色の上着をシャツの上に羽織り、タイトスカートを履いている。沙羅は中央にロゴの入ったシンプルな白シャツにスパッツといった出で立ちだ。
 三者三様ではあるが、どれもごく普通の、いわゆる普段着姿である。
「今日は仲間みんなでの定期会議があるんですよ」
「・・・あー、あれか。前にガードが言ってた作戦会議&交流会ってやつか」
 沙羅が答え、ドリーパは納得したように頷く。
 と、ゲルバがふと思いついたように口を開いた。
「ちょうどいいわい。適当に次のターゲットを決めてこい。ドリーパの気に入りそうなやつをな」
「ドリーパ様の、ですか」
 奈津子が意外そうに尋ねる。
「ケーッケケ、オレもオマエらの仲間を人形にする遊びに混ぜてもらうんだよ」
 それを聞いた三人はわっ、と歓声をあげる。
 身も心もディスタリオンに捧げた彼女たちにとって、仲間を堕とし自分たちと同じく肉奴隷化させることは至上の喜びとなってしまっていた。
 仲間を想う心が、そのまま『この堕落によって得られる快楽を分け与えてあげたい』という感情に変化したためだ。
 それはゲルバが意図してそう洗脳したわけではなく、人形として服従し奉仕しているうちに自然形成されたものだった。
 自分が奴隷であると認識し奉仕を続けることで、彼女たちはそれと気付かず自身の精神を汚染していったのだ。
 すでにその心の汚染は、洗脳を解除すればリセットされるというラインを着実に超えつつあった。
「まかせてドリーパ様!かーわいいコを紹介してあげるからねっ」
 沙羅はそう言ってVサインしてみせる。
「とはいっても、みんな結構なレベルだけど・・・」
「そうだな」
 玲香と奈津子が付け足すように言うと、沙羅は口を尖らせる。
「・・・雅だけはかわいくない。絶対」
「もう、本当に仲が悪いんだから・・・」
「玲香、沙羅、そろそろ出ないと遅れるぞ」
 何気なく腕時計に目をやった奈津子が、少し焦りながら玲香たちにも時刻を見せる。
「げ、ホントだ」
「そろそろ出かけなくちゃね。ゲルバ様、いってきます」
「いってきまーす」
「いってまいります」
 三人は順番にゲルバに軽くキスをすると、足早に部屋から出て行った。
 それを見送った後、表情はそのままだが真面目な口調でドリーパが口を開く。
「作戦会議か。―――うまく乗り切れるかな?」
「さあな。やつらの中には勘のいい者もおるじゃろう。正直、全く違和感を感じさせんとは思わんよ」
「心正しき正義の味方が、今じゃアンアン鳴き声あげてチ○ポ欲しがる変態ちゃんだもんな~!ま、変に思われてもしかたねーな」
「・・・多少怪しまれるのはともかく、こちらの思惑がばれるのだけは勘弁願いたいのう」
 ゲルバは運命の行く先を案じて天井を仰ぐ。
 玲香や奈津子は落ち着いた性格で機転もきく。まず見破られはしないだろう。
 しかし・・・。
 先ほどの、能天気な笑顔でVサインをする沙羅の姿が脳裏に浮かぶ。
 (あいつだけは、どうにも不安が拭えんのう・・・・・・)

 休日だけあって、ショッピング街はなかなかの賑わいだった。
 この地方で一、二を争う大きな都市部の中でも、そこは東京もかくやと思われるおしゃれな店ばかりで若者に対して絶大な人気を集めている。
 特に今日のように学校がないとなると朝から買い物や遊びに繰り出してきている。
 歩行者天国になっている道路を行きかう人々の中に中年、そしてそれ以降の年齢の者は少ない。
 輝かんばかりの精気に満ちたこの通りにいると、自分の過ぎ去ってしまった時間を痛感させられるからだ。
 しかしまさにその時間に生きている玲香たちは、特に何の感慨も持たずに目的の店を探しながら通りを歩いていく。
 もともと顔立ちのいい三人は通りの空気に当てられて一層美しさを湛え、男たちの目を引いた。
 が、ナンパ男があっけなく撃沈する様を見て『やっぱ彼氏がいるんだろうなあ・・・』と男たちはあきらめて歩き出す。
 まさか人間でもない化け物連中の性処理に使われているなどとは考えもつかないのであった。

 それはさておき、玲香たちはようやく目的のカラオケハウスを発見して中に入っていった。
「―――どうも。六番の部屋だってさ!」
 待ち合わせの部屋番号を店員に確認し、ドアを開ける。
「やっほー!みんな、おひさ~!」
 沙羅が元気良く呼びかけると、
「おひさしぶり~っ!」
 先に集まっていた女の子たちが同じく明るい返事をする。
「みんな元気だったあ?」
「見ての通り!そっちも相変わらずだね」
「まだまだ暑いわね」
「九月いっぱいはこの暑さが続くってテレビで言ってました~」
「えぇーっ!?」
 他愛もない会話をしながら玲香たちは空いている席に適当に腰掛け、輪に加わる。
「さて、それじゃあそろったことだし定期報告から始めましょうか」
 そう切り出しのは、少女と呼べる年齢の子が多いメンバーの中で少し浮き気味の年齢の高そうな女性だ。
 髪を短く切りそろえ、薄く化粧をしたその顔は凛としたなかにも慈愛を湛えている。
 柔らかな肉が無駄のない配置でついているその肉感的なボディは、成熟した大人の色気を感じさせる。
 奈津子とは異なり、母性に満ちているという点で大人の雰囲気を醸し出しているその女性は御堂咲夜(みどう さくや)。
 ジュエルエンジェルの中で最年長であり、みんなをまとめるお姉さんといったところだ。
「うん?まだ何人か来てないようだが?」
「あ、知花さんなら研究が煮詰まってて出られそうもないってメールが来ました」
 メンバーを確認する奈津子にそう答えたのは、流れるようなポニーテールがよく似合う快活そうな少女。
 穂谷夕(ほたに ゆう)というその少女は、華奢に見えてしっかりとひきしまった野鹿を連想させる体つきが特徴的だ。
 小さな顔に納まった丸っこい目もそういう印象を強めている。
「サボりんはまた二日酔い。さっき電話したら死にかけてたよ」
 夕に続いて口を開いたのは湖山光(こやま ひかる)。
 小柄な体型とツインテールのよく似合う童顔の相乗効果で、実年齢よりもはるかに年下に見える。
 その仕草や性格も見た目と同じようなレベルで、背の高い小学生、などといわれても納得してしまいそうなほどである。
 

 ここで先ほど夕と光の口から出た欠席したメンバーを紹介しておく。
 夕にメールを送ったのは砂木知花(すなき ちか)。
 理系の大学院に在籍し、研究室にこもっていることが多いため仲間と顔を合わせる機会が最も少ないメンバーだ。
 もう一人は、『サボりん』こと左房凛(さぼう りん)。
 こちらは知花とは違い、あだ名が示す通りに集まりをサボりまくっている。
 その生活は自堕落街道を突き進んでいて、自称大学生らしいがいつ連絡をとっても二日酔いで寝ているといった体たらくだ。
 この二人については、またの機会に詳しく説明させてもらうとして―――。
 実はあと一人、この場にいない人物がいた。
 それは誰かというと・・・・・・。

「あと、雅もお茶の会に出席するとかで来れないそうよ」
 咲夜がそう言うと、沙羅が露骨にしかめっ面をする。
「ケッ、なーにがお茶の会だ。ブルジョワぶってんじゃないっての」
「あ~っ、沙羅さんまた雅さんとケンカしてるんですかあ?だめですよ~、仲良くしないとぉ~」
 のんびり、おっとりした声がそれを諌めた。
 見ると、外巻きの柔らかな髪にボンボン付きのカチューシャを着けた少女がピンクの頬をぷっ、と膨らませている。
 しかしその大きな垂れ目が愛らしい顔立ちに加え先ほどのような緊張感のない声で叱られても全く迫力がなく、むしろ脱力させられて沙羅は頬の力を緩めた。
「はいはい。全く、ななみには敵わないわ・・・」
「わかってくれたらいいんです~。みんな、仲良しなのが一番ですよ~」
 その少女―――久我山ななみ(くがやま ななみ)は満面の笑みを浮かべる。
 メンバー最年少の彼女は、のんびりした性格と言動でメンバー内の人間関係のクッションとしての役割を担っているのだ。
 おっちょこちょいで、みんなの足を引っ張ることがあるのが玉にキズだが。
「でもこれだけは言わせてよね。あいつ、出席率低すぎ!」
 沙羅が口を尖らせると、咲夜も神妙に頷く。
「―――そうね、確かに。というか、大抵誰かが欠席で全員そろうことが珍しいっていうのは問題かも・・・」
「そうよ!アタシらには正義の味方として足りないものがある!」
 ガバッと勢いよく立ち上がると沙羅は拳を握って叫ぶ。
 みんなは目を丸くして彼女に注目した。
「足りないもの?」
「そうっ!戦うヒロインに欠かせないものが!」
「え~!?なにそれ?」
 光がなぞなぞでも解くかのように眉間にしわを寄せて考え込む。
 他のメンバーもそれぞれ思い巡らせるものはあるものの、自信なさげな顔で沙羅の答えを待つ。
「それはね!・・・え~と、その・・・・・・・・・そう、友情パワーってやつ!」
「友情パワ~っ!?」
 どこか間抜けな響きのそのフレーズに、全員が思わず声をそろえて聞き返してしまう。
「えーと、なんていうかね、口に出さなくても通じ合えるっていうか。アンタとなら一緒に頑張れるっていうか」
「団結力ってやつ?」
 ショートカットの、見るからに元気があふれた少女が助言をする。
「うん、それ!それが言いたかったの!サンキュ、翔子」
「ううん」
 多々良翔子(たたら しょうこ)は人当たりのいい、さわやかな笑顔で首を振る。
 見ているこちらまでつい笑みがこぼれそうになる笑顔だ。
 その人柄からあふれる魅力は仲間の心をまとめあげるのに貢献している。
 元々赤の他人同士だったジュエルエンジェルのメンバーがここまでの関係になれたのは、彼女がいたからこそだと誰も思っていた。
 口に出して決めたわけではないが、実質彼女がジュエルエンジェルのリーダー的存在だといえるだろう。
「そう、団結力!団結力よ!」
 やっと自分の言いたいことを的確に示す言葉を見つけた沙羅は、何度も口にして噛みしめる。
「大体うちはそれがなさすぎる。昔テレビでやってた戦うヒロインものはもっと協力しあってた!たとえば流浪の宇宙人たちと戦う魔法戦隊ヴァルなんたらだとか!」
「地底帝国と戦うクリスタルなんとかだとか?」
「そうそう!」
 翔子が面白そうに聞くと沙羅はうんうんと頷く。
「あ・・・それ、観てました。魔法戦隊って、炎のカーネリアさんとかのやつですよね」
 小さな、しかし心地よい声で森鈴音(もり すずね)が遠慮がちに口を挟む。
 三つ編みにしたきめ細やかな髪を肩から垂らし、ややうつむき加減で微笑する姿は『大人しい女の子』そのものだ。
 身体の色素が薄く、折れそうなほど華奢な彼女はまるで妖精のような神秘さと儚さを持っている。
「へー、鈴音ちゃんそういうの好きなんだ?」
 光が意外そうに言うと、鈴音はその真白の頬を薄紅色に染める。
「う、うん・・・。小さいころから病弱だから、『戦う女の子ってかっこいいなあ』って憧れてたの」
「じゃあよかったね!夢が叶ったんだよ!」
 光は目を輝かせ、ピョンピョンと飛び跳ねて自分のことのように喜びを表現しはじめる。
「あ、確かにそうなるね。よかったね、鈴音」
「あはは、まさか本当になれるなんて思ってなかったでしょ?」
「そこー、話の腰を折らない!」
 鈴音の憧れ話に移行しそうになり、沙羅が指をビシッとさして文句を言い出す。
 それを苦笑しながらも微笑ましく見ていた咲夜は、ふと真顔に戻る。
 (沙羅の言うことも、一理あるわね・・・)
 咲夜のうろ覚えの記憶を辿ってみても、そういった正義の味方たちは強い絆で結ばれていたように思う。
 それに比べると自分たちジュエルエンジェルはどこかぎごちない。
 ―――それはおそらく、共に過ごした時間の違いだろう。
 元々知り合いだったわけでもなく、性格も十人十色。生活スタイルもそれぞれ。年齢がそろっていれば話もまとまりやすいだろうが、最年少のななみと最年長の咲夜とでは十近くも年がはなれている。
 そんなてんでバラバラの十二人が知り合ってからまだ半年しかたっていない。
 翔子のリーダーシップと咲夜の提案した定期会議とでなんとかここまでまとめることができたが、まだまだだろう。
 (この間の総力戦のことを考えると・・・今のままのチームワークじゃ、厳しくなってくる・・・)
 そう危惧もするが、この問題だけは即席で解決できるものではない。
 こうやって集まり、何気ない会話をかわして笑いあう。そうした日常の積み重ねこそが絆を強くするのだと咲夜は誰よりも理解している。
 結局は月日の流れに任せるしかない問題なのだ。
「じゃあ、とりあえず」
 咲夜はテーブルの上の曲目を広げる。
「親睦を深めるために唄いましょうか。せっかくカラオケに来たんだから」
「定期報告はしなくてもいいんですか?」
 普段なら最優先で片付けるのに、と玲香は不思議そうな顔をする。
「いいわ。みんなを見ている限り、特に変わったことはなかったんでしょ?」
 一同は軽く頷く。
「なんだか最近、珍しく平和ですね~」
「いいことだわ。滅多にないことだし、この時間を有効に使いましょ。・・・誰から唄う?」
「私からでいいか?」
 奈津子がマイク片手にいそいそと番号を入力していく。
 しばらくすると誰でも一度は聞いたことのある軽快なメロディーが流れ出した。今話題のアイドルの新曲だ。
「奈津子さん、カラオケ好きだよね・・・」
「ねえ。ちょっとギャップ感じるよね」
 立ち上がってリズムを取り始める奈津子に拍手しながら、翔子と夕は互いに耳打ちする。
「好きだとぉ素直にぃ言え~たならぁ~♪」
 こぶしの利いた奈津子の歌声が高らかに室内に響きわたった。

「うん、久しぶりに楽しめたな」
 カラオケハウスから出てきた奈津子は、満足そうに先ほどまで唄っていたメロディーをハミングする。
「ほんと、わたしもこんなに唄ったの久しぶり」
 玲香も気持ちが弾んでいるのか、いつもよりはしゃぎ気味だ。
 メンバーが多く、しかも大いに盛り上がってしまった結果、延長に延長を重ねてついに日が沈みかける時間になってしまっていた。
 夕日が放つ強い日差しが逆に影を色濃くし、ビルの谷間はすっかり暗闇になっている。
「ずいぶん遅くなったわね。・・・今日はこの辺でお開きにしましょうか」
 咲夜が一同を見回すと、全員が頷く。
「それじゃあ、また半月後に。集合場所はまた今度連絡するから」
「了解~。楽しかったよ」
「じゃあね、みんな」
「それじゃ!バイバーイ!」
 それぞれ別れの言葉を口にすると、一同は家が近いもの同士で固まり去っていく。
 お互いの姿が見えなくなり、さて本格的に家路を目指そうと誰もが思ったその瞬間、
 ドオオオオオオオォォォォォォンッ!!!
 と、雷が落ちたかのような爆発音が街中に響きわたった。あまりの大音響にショーウィンドウのガラスがビリビリと震える。
「―――っ!!」
 誰もが事態を把握できずポカンとしているなか、ジュエルエンジェルのメンバーたちは先ほどのカラオケボックスの前にあわてて再集合する。
「翔子さん!」
「翔子、今のって・・・!」
「うん、もしかしたらっ!」
 一同は真剣な表情で爆発音の出所を探す。そのとき、二度目の爆発音が響きわたった。
 どうやらビルの暗がりに隠れた通りのさらに奥かららしいが、目をこらしても何も見えない。
 しかし爆発音に続きガラスが砕けるような音やかすかな悲鳴が耳に届いてきたことで確信を得て、翔子たちは一斉に走り出した。
「やっぱりディスタリオンかな!?」
「わかんない。でもみんな、戦闘準備だけは忘れないで!」
 ようやく非常事態だと気付いて逃げ惑う人々の間を縫うようにして進んでいく。
「あう~。待ってくださいよお、みなさ~ん」
「ちょっと何やってんの。急ぐよ!」
 人の流れについていけず立ち往生するななみを強引に引きずりながら、一同はさらにスピードを上げた。

 
 しばらく走り続けると、入り口やその周辺の壁が半壊したホテルにたどり着いた。
 中を覗き込むと、ロビーもソファーやテーブルやらがボロボロの状態で転がり、壁や柱には無数の切り傷が刻まれている。
 事故なのではなく何者かの仕業なのは間違いなかった。
「ここで間違いないみたいね」
 咲夜はそうつぶやいて皆の姿を確認する。
 翔子、夕、光、玲香、奈津子はいるが、鈴音、沙羅、ななみの姿がない。
 大きくため息をついて通りに戻ると、ななみの手を引っ張る沙羅と、ふらふら状態の鈴音がようやく到着したところだった。
「ごめん、遅れた!」
 沙羅が真っ先に頭を下げる。
「何言ってるの、助かったわ。―――ななみ、あなたもう少し素早く行動できない?身体の弱い鈴音と違ってあなたは元気なんだから」
「い、いいえ・・・結局遅れるんだから、わたしも同罪です・・・・・・」
 苦しそうに息を荒げながらも、鈴音はななみをかばう。
 ななみはそんな鈴音を心配そうに見た後、おどおどと頭を下げる。
「ご、ごめんなさ~い・・・咲夜さん」
「まあ・・・いつものことなんだけれど。それよりも、ここで間違いないみたいだから―――」
 また爆発音が響く。
 見上げると、六階辺りの壁が吹き飛んでいた。
「―――中に急ぎましょう!」
 三人を連れてホテル内に戻る。中で待機していた翔子たちが駆け寄ってきた。
「みんな・・・変身だよ!」
 翔子の声を合図に全員が片手を天にかざす。
 九色の光が溢れ出し、それぞれの象徴の結晶が身体を包む。・・・輝きが収まると、そこにはジュエルエンジェルとなった九人の姿があった。
「まず、逃げ遅れた人がいないか確認するのが最優先よ。三組に分かれて各階に分散しましょう!」
「じゃあ、アタシたちは上に行くねっ」
 そう言うが早いか、ナックル、ガード、ランサーの三人は階段を駆け上がっていく。
「・・・それにしても誰なのかしらね、こんな騒ぎを起こすなんて」
 他のメンバーに会話が聞かれないところまで上ると、ガードがポツリと漏らす。
「ああ。ゴーバ様の命令で、私たち全員を堕落させるまでは目立った活動はしないと聞いていたのだが・・・」
「戦うわけにもいかないし・・・悪いけどさっさと帰ってもらおっか」
 ディスタリオンの姿を探し上り続けると、先ほど壁が吹き飛んだ六階のフロアに数人の戦闘員を発見した。
 気配に気付いた戦闘員たちはダガーを手に持つが、ガードたちだとわかるとすぐに警戒を解く。
「オマエたち、これはどういうことだ?誰の指示で行動した」
 ランサーが詰め寄ると戦闘員たちは言いにくそうに顔を背ける。
 と、奥の廊下から薄手の革ジャンを着た巨漢が窮屈そうに出てきた。
「・・・ボッグ様・・・・・・」
「ああ?・・・なんだ、オマエらか」
「これは一体どういうことでしょう?」
「・・・べつに理由なんてねえよ。気晴らしに暴れてみただけだ」
 苦虫を噛み潰したような顔をすると、ボッグは足元に転がっていた観葉植物の鉢を蹴り飛ばした。
「最近イライラしぱなっしだぜ!くそっ!いくら暴れてもスカッとしねえしよお!」
「ともかく・・・今日のところはこれで終わりにしてくれませんか?」
 ガードが控えめに尋ねるとボッグは声を荒げる。
「ああん!?たかがじじいの精液便所のくせに、オレ様に意見しようってのか?」
「しかし、ゴーバ様は目立った活動は控えるようにとおっしゃられたはずですが」
 ランサーの指摘に途端にボッグの勢いが落ちる。
「それにさー、ボッグ様がここにずっといたら、アタシたち怪しまれないようにボッグ様と戦わなくちゃいけなくなるんだけど?」
 畳み掛けるようにナックルがツッコミを入れるが早いが、ボッグは無言で自分の隣にある柱を殴った。
 バキリ、と鈍い音とともに大理石の破片が飛び散り、殴った部分から天井に向かって亀裂が走る。
「チッ、わかったよ。帰りゃいいんだろ!ったく、余計ムカつく羽目になるとはな!帰るぞ、野郎ども!」
 大声で辺りに散らばっていた戦闘員を呼び寄せると、ボッグはゲートを開く。そして三人をもう一度不機嫌そうににらみつけ去っていった。
 完全に空間の歪みが消えたことを確認すると、ナックルは呆れた顔で頭をかく。
「う~ん・・・ゲルバ様にお株を奪われたのが気に食わないのかな、やっぱ」
「でしょうね」
 ガードも困ったものだといった顔をする。
 そのとき個室の扉が勢いよく開き、中からビジネスマンらしき男性が転がり出てきた。
 よほど気が動転しているのか立つこともままならない様子で、何度もバランスを崩しながらよろよろと這ってくる。
「あら、まだ残ってた人がいたの」
 ガードがつぶやいてナックルとランサーに意味ありげな視線を送る。
 そしてニヤリと悪意のある笑みを一瞬浮かべ、男に近付いた。
「大丈夫ですか?お怪我はないですか?」
 ガードたちに気付いた男性は、必死の形相でその足元まで這いずってきてすがりつく。
「た、た、助けてくれえ!なんだかへ、変な連中が手当たり次第に建物をぶっ壊しはじめて・・・!」
「落ち着いてください。もう誰もいませんから。・・・一階まで降りられますか?」
「そそ、それがすっかり腰が抜けて・・・」
「んじゃ、アタシが降ろしてあげるね♪」
 突然ナックルが男性の首根っこをつかむと、泥棒猫を捕まえたときのように持ち上げる。
 そして建物中央の吹き抜け部分へと男性を運び宙吊りにした。
「な、な、ななな・・・っ」
 はるか下に見える散乱した一階のロビー。そこに吸い込まれそうな感覚に男は顔を蒼くし、泣きそうな顔でナックルを見る。
 ナックルはそれに満面の笑みを返した。
「バイバ~イッ」
 そしてそのまま手を離す。
 悲鳴を上げることもなく、男は絶望の表情のまま落下していき―――そのまま一階の床に叩きつけられた。
「あっはっは、死んだ死んだ!脆いね~」
 ナックルが下を覗き込んで愉快そうに笑うと、ガードとランサーもプッと吹き出す。
「下等な人間にはお似合いね」
「ふふ、玩具としての価値はあるかもな。なかなか面白かった」
 ふいにパキリ、と何かを踏み割る音が耳に届く。
 ギョッとして三人が振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
 特徴であるポニーテールはそのままに、胴体には南海の海の色を思わせる澄んだ青の胸当てをし、翼のレリーフの入ったブーツを履いたその少女は、穂谷夕が変身した姿であるジュエルソニックだった。
「・・・・・・あっ、あの・・・」
 何かに怯えるようにソニックは唇を震わせ、僅かに後ずさる
「ソニック・・・どうしてここに?」
 ランサーが努めて冷静に振舞って尋ねると、ソニックはビクッと肩を震わせた。
「え、ええと・・・他のみんなは救出作業が終わったから、手伝ってこいって言われて・・・」
「そうか」
「あ、あ、あ・・・の・・・」
 ソニックは何度も喉の辺りで言葉を詰まらせながらも、なんとか声を絞り出す。
「い、今、誰か落ちて・・・」
「見ていたのか?」
 ランサーの顔つきが強張る。
 ソニックは無意識に視線をそらした。
「い、いえ・・・一つ下の階を通ったときに、何か落ちるのが一瞬見えた気がして。それで覗いてみたら、男の人がつ・・・潰れてて・・・」
「―――戦闘員が逃げるときに、人質にしていた人を放り投げたの。助けようとしたけど間に合わなかったわ」
 ガードは口から出任せを並べるとナックルに目で促す。
 ナックルもブンブンと大げさに頷いて話を合わせた。
「そ、そうなのよ。・・・残念だったけど」
「・・・そう、だったんですか」
「声、震えてるわよ。平気?」
 ガードが一歩近付くと、同じタイミングでソニックも一歩後ずさる。
「し、心配しなくてもいいよ。ちょっと・・・人が落ちるとこ見て、気が動転してるだけだから。もう敵はいないみたいだし・・・わたし、先に下りてるねっ」
 早口でそう言うと、ソニックは振り返らずに階段を駆け下りていった。
 三人はそんな彼女を追いかけることなくその場に残り、冷ややかな目つきで見据える。
「―――見られたかな?みんなに話されたらやっかいだし・・・今のうちに拉致る?」
 ナックルがボソリと言うと、ガードは首を横に振る。
「いいえ。まだ確定はしてないし・・・見てたとしても、そう簡単に話せることじゃないわ」
「そっか、確かにね。『仲間が一般人を遊び半分に殺しました』なんて普通言えないわ」
「とにかく、だ。あせってボロが出ないようにだけはしよう。・・・大丈夫だ。堂々としていれば気付かれるはずもない」
 ランサーがガードとナックルに向かってというより、むしろ自分に言い聞かせるように言う。
 ガードとナックルもその言葉に真剣に耳を傾け、深く頷いた。

 変身を解き再び一階のロビーに集まった翔子たちは、ディスタリオンを撤退させたにもかかわらず沈痛な面持ちだった。
「今回はみんな早く逃げてくれたおかげで、ほとんど人的被害はなかったね!」
 翔子が傍から見ても空回りな明るい声を出す。
 確かに今回は鬱憤晴らしが目的だっただけに、建物の破壊が主で多くの一般人は見向きもされていないようだった。
 しかし・・・ここからでは柱の影で見えないが、そのむこうに横たわっているもののことを考えると手放しには喜べないのであった。
「今までにも度々こういうことはあったけど・・・堪えるよね、やっぱり」
 場を取り繕うのが無理だとわかると、翔子もうなだれる。
「あまり思い悩むのもよくないわ。私たちがしなければならないのは、二度とこんな犠牲者が出ないようにすること。―――そうでしょ?」
 咲夜は年長者としての責任感からかみんなを奮い立たせようとする。
 (そうだ、わたしたちは決してくじけちゃいけない―――!)
 翔子たちはなんとか気を持ち直すと、顔を引き締めた。
「そうだよね。悩んでたってどうにもならないもん!」
「殺された人たちのためにも、ディスタリオンを倒さなくちゃ!」
 ジュエルエンジェル一同は自分たちの使命を思い出し、闘志を湧き立たせる。
 しかしそんななかで、一人沈み込んだままの者がいるのに咲夜は気付く。
「夕・・・?」
「は、はいっ!」
「嫌なものを見ちゃっただろうけど・・・忘れたほうがいいわ」
「・・・・・・はい」
 いつもの夕からは考えられないほどか細い声を、咲夜は不審に感じた。
「どうしたの?何か、他にあったの?」
「い、いえ。特には」
「本当に?」
「・・・・・・・・・」
 無言で頷く夕。
 遠くからパトカーのサイレンが響いてくる。
「警察が来るわ。ここで解散しましょう。みんな、いつものように一般人に紛れ込んで帰ってね」
 咲夜が手早く解散の合図を出すと、一同はバラバラの方向に散っていく。
「咲夜さん・・・!」
 背後から声をかけられ振り返ると、夕が咲夜を追いかけてきていた。
「何?やっぱり何かあったの?」
「・・・・・・え・・・と・・・」
 何かを訴えるような目で咲夜を見る夕は、しかしそれ以上は何も言わずに首を振る。
「ごめんなさい、やっぱりなんでもないです」
「ちょっと・・・どうしちゃったの。さっきからあなた、どこか変よ」
「ほんと、すみません。―――さよなら」
 何かから逃げるように走り去っていく夕を見て、咲夜は得体の知れない不安に駆られるのだった。

「まったく・・・ナックルはともかく、オマエたちまで仲良くヘマをするとはのう」
 ガードたち三人を前に立たせ、ゲルバは深々とため息をついた。
 ガードとランサーは弁解する言葉もなく己の浅はかさを反省していた。
「ちょっとゲルバ様ぁ、『ナックルはともかく』ってどういう意味!?」
 一人口を尖らせ抗議するナックルだったが、ランサーに肘でつつかれしぶしぶ頭を下げる。
 彼女だって、自分に原因があることはわかっているのだ。
「まあ、起こってしまったことをあれこれ言うても始まるまいて。余計なことをしゃべられる前に、どうやってジュエルソニックの口を塞ぐかを考えるのが先決じゃな」
 そう言いつつ、ゲルバはローブをたくし上げペ○スを出す。
「それよりも、オマエたちが朝からおらんからこんなになってしもうたわい」
 三人はいきり立つものが目に入ると、途端にトロンと顔を蕩けさせゲルバの足元に跪いた。
「ああ、こんなにビンビンになってしまわれて・・・」
「早速、口でご奉仕させていただきます」
「いっぱいしゃぶってあげますから・・・許してね、ゲルバ様」
 上目遣いでゲルバを見ると、ペ○スに顔を寄せむしゃぶりつく。
 亀頭も、竿も、陰嚢も余すことなく舌先で唾液を塗りこみ、唇で皮をついばむ。
 お互い攻める場所を交代で代えつつ、時には一箇所を集中して攻めるその奉仕に肉棒はますます硬度を増す。
 ゲルバは先端部を三人の顔にこすりつけながら奉仕を続けさせた。
「穂谷夕、穂谷夕っと・・・・・・おお~、こいつがジュエルソニックか!」
 ガードたちの情報を元に作られたジュエルエンジェルの詳細なデータを見ていたドリーパが、不意に大声を上げた。
「いいねいいね~!このピチピチした体つき、かーわいい顔。オレの好みじゃ~ん!?」
 夕のデータが書かれた書類を抜き取ると、ソファーから身を乗り出してピラピラとゲルバに見せ付ける。
「ちょうどいい、口封じついでにこいつをオレの人形にしてやるよ~!」
「ふむ、そうか。それはありがたい。こいつらも手駒として自由に使っていいぞ」
 ナックルの口にペ○スを含ませ、腰を振りながらゲルバは顔だけドリーパに向ける。
 ドリーパは意味ありげに口元を歪め、首を振った。
「いらねー。せっかくだが、手出しは無用だぜ。初めての獲物だ、オレはオレは自身の手で狩らせてもらうぜ~!」
「そうか。なら好きにせい」
「んじゃ、さっそく作戦練らなきゃな~、ルンルン♪」
 最早ソニックを堕とすことしか頭にない様子で、ドリーパは挨拶もせずに鼻歌交じりに部屋を出ていった。
 (ククク、ドリーパが直接動くか。これは面白いものが見られそうじゃな)
 ゲルバは肉棒を喉奥の方まで突き入れながら、これから起こることを考えて笑い声を漏らした。
 ナックルは苦しげに顔を歪めながらも、肉棒を吸い上げて離そうとしない。
 むしろ懸命に舌で亀頭を舐り、滲み出る先走り液を唾液とともに嚥下していく。
 ガードとランサーはナックルの補佐にまわり、竿が口から引き抜かれるタイミングを見計らって横側から刺激する。
 (今回はワシの出る幕はなさそうじゃな。ゆっくりと見物させてもらうとするか)
 小さくうめき声を上げ、ゲルバはナックルの口内に精液を注ぎ込んだ。
「んふうっ・・・じゅる、ゴクッ」
「あん、ずるいわ。ナックルばかり美味しい精液を飲むなんて」
「私たちも分けてもらうぞ」
 蕩けきった顔で口内に溜まった白濁液の味を楽しむナックルに口づけると、ガードとランサーは精液を吸い出して自らの口に運ぶ。
 ドロリとしたと真白の糸が三人の口元をつなぎ、ゆっくりと床にこぼれ落ちていく。
 それを楽しそうに眺めながらも、ゲルバはすでにソニックが堕落した後のことを考えているのであった。

< 続く >

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