BLACK DESIRE #11-1

0.

「……い……せんぱい……」

 遠くから、僕を呼ぶ少女の声。
 少し自信の無さそうな、ちょっと遠慮がちな小さな声。

「先輩……朝ですよ……ご飯です、先輩……」

 うーん、ご飯か……。今日は何だろう、味噌汁はわかめの入っている奴がいいなぁ……。

「先輩……起きました……? 先輩? ……まだ起きてませんか?」

 起きたよー。起きましたよー。だから後5分、目をつぶらせて……Zzzzz。

「……えっと……ほんとに起きてませんか……起きてませんね……その、起きて下さい、い……郁太、さん……」

 Zzzzzz……。

「……い、郁太さん……郁太、さん……」

 ……Zzzzz……? あれ? 幎じゃない?

「うーん……?」
「きゃ! わ、あわわ、せ、先輩! 起きてました!?」
「はにゅ……?」

 目を擦りながら体を起こすと、目の前に顔を真っ赤にした朝顔がいた。あれ? 何でここに朝顔がいるの?

「ふぁ~……」
「わ、大っきな欠伸……」
「……あれ? ここどこ?」
「先輩、寝ぼけてますか?」
「寝ぼけて無いよ、全然寝ぼけて無いっスよ……ふぁ~」

 再度欠伸をする。潤んだ視界の中に、何故か「よかった……」と胸をなで下ろす朝顔の姿が見えた。

「先輩。もう朝食の準備が出来てますよ。皆さん食堂で待ってます」
「え? 皆さんって?」

 僕が呆けた質問をすると、朝顔はやれやれと腰に手を当てた。

「早く顔を洗って降りて来て下さいね。皆さんにはすぐ来るって伝えておきますから」
「あ……? うん、はい。よろしく」
「失礼します」

 そう言うと、頭上にハテナマークを浮かべたままの僕を残して朝顔は部屋から出ていった。……って、あれ、ここ僕の部屋じゃないぞ?
 その瞬間、僕は唐突に全てを思い出した。まるで霧が晴れ渡るように見る見る頭の中に昨日までの記憶が蘇ってくる。

 ばっと掛け布団をはね飛ばしながら僕はベッドから飛び降り、そしてバルコニーのある窓のカーテンをシャッと勢い良く開けた。

「うおっ……」

 朝っぱらにもかかわらず目を射抜くような強い陽射しに目を細める。青い空、広い海、白い砂浜、南国の森。窓を開けるとそれらの匂いが混ざった異国風味満点の風が吹き込んでくる。

「そっか……合宿に来たんだったっけ」

 一人呟き、背後を見る。そこはフローリングの、僕に割り当てられた哉潟別荘の一室だった。僕だけ一人部屋だから、どうやら朝食の時間まで寝過ごしてしまったらしい。
 もう一度窓の方を向き、深呼吸して胸一杯までさわやかな空気を吸い込む。そして「よしっ」と声をかけて気合いを入れた。

 体調は万全。幎は居ないけどどうやら魔力の補充はちゃんと出来ているようだ。これなら後4日間やっていけるだろう。回復のあても出来たことだし、三繰達と相談して昨日よりもっと過激な事をやっても良い。僕はニヤリと笑みを浮かべる。

 さあ、合宿2日目だ。今日はどんな事をしようかなっ!

BLACK DESIRE

#11 南国のミルキー・パラダイス(中編)

1.

 「や、お待たせ」と僕が食堂に行くと、何故か昨日と席順が変わっていた。

「お早うございます、達巳君」
「お早うございます。梓さん、場所変わったんですか?」
「ええ」

 昨日の席順から梓と朝顔が入れ替わり、僕の周囲はがっちりと3年生5人に取り囲まれていた。朝顔自身は昨日梓が居た一番端っこの席に座り、ちょっとシュンとしている様だった。

「朝顔、そっちでいいの? 僕と変わろうか?」
「あ、いえいえいえいえ。お気になさらずに。こっちでも全然構いませんので」
「そ、そう?」

 朝顔はぶんぶんと手を振って否定する。その直前、テーブル上の空気がチリッと焦げたような臭いを発した気がしたが、多分気のせいだろう。丁度メイドが焼きたてのトーストやハムエッグを持ってきたし、それかもしれない。

「達巳様はお飲物は何になさいますか?」

 メイドが僕の前に料理を並べながら聞いてきたので、コーヒー(ミルク・砂糖多め)で頼んでおく。ブラックなんて苦いだけの液体を飲む人間の気が知れないな。メイドは「かしこまりました」とうやうやしく礼をしたけど、その口元には笑みが浮かんでいた。

「イクちゃんって、ほんと甘いのが好きだよね」

 早速ハルが突っ込みを入れてくる。

「放っておけよ。糖分は人間に必要な3大栄養素の一つだぞ」
「でも昨日のココナッツのは飲まなかったよね?」
「あれは甘い飲み物というよりココナッツ風シロップと言うべきだ」
「好みがうるさいねぇ、イクちゃんは」
「好きな物を好きと言って何が悪い」
「TPOによるでしょ」

 ああ言えばこう言う、まったくうるさい奴だ。
 しかし、昨日の出来事が有ったにも関わらずこうして普通に会話が出来ているのは頼もしい事だ。下手に向こうの態度が意識したものだったら、こっちもどう対応して良いかわからなくなってしまうからな。

「えへへ~。イクちゃんお寝坊さんだね」
「……枕が違ってなかなか寝付けなかったんだ」
「そうなの? 探研部の机を持ってきた方が良かった?」
「まるで僕が探研部で常に寝ているような口振りだな」
「よく寝てるよね~。この間なんて涎まで垂らしてた」
「ね、捏造だ。偏向報道だ。事実誤認だ」
「にひひ、ちゃんと写真も撮ったから」
「……マジで?」
「今の待ち受け画面だよ」
「馬鹿野郎っ!」

 携帯を見せびらかそうとするハル、それを奪い取ろうとする僕、携帯の画面を覗き込む三繰達と朝食の席は一時騒然となる。なんて騒がしい朝なんだ!

 そうこうしている内に僕の飲み物も揃う。三繰の一言で全員席について沈黙し、そして揃って「いただきます」を発声した。

 本日の朝食のメニュー。
 ・トースト(バター・マーガリン・ジャムはお好みで)
 ・ハムエッグ(僕は目玉焼きだが、注文すればスクランブルエッグにもしてくれる)
 ・サラダ(野菜は新鮮、毎朝日の出前に船で届くらしい)
 ・飲み物(コーヒー・紅茶・果汁ジュース・牛乳、種類も豊富。お代わりはメイドに)

 うーむ。僕はどちらかというと和食が好きなんだけど。でもたまにはこういう「いかにも」な洋風モーニングセットも良いかもしれない。

「達巳君、バター取ってくれる?」
「はいよ」

 僕は三繰にバターナイフごと渡してやる。こうやってみんなで調味料を回して食事をとるのも仲間内の旅行の醍醐味みたいなものなのかな。玉子1つとってみても、僕のように醤油をかけるのもいれば塩胡椒を使うのもいるし、マヨネーズやケチャップを使う奴もいる。みんな個人個人の好みが有って面白いな。

「あれ、イクちゃん玉子の黄身食べないの?」

 僕がナイフで目玉焼きの目玉の部分を切り取っていると、ハルが目敏く見つけて質問してきた。

「違うよ。黄身を潰さないようにしているだけだ」

 切り取られた黄身をナイフとフォークで持ち上げ、バターを塗ったトーストの上に運ぶ。「これがいけるんだよ」とパンと玉子にまとめてかぶりついた。「おおー」とハルも感心したように頷く。

「私もやってみよーっと」

 ハルも玉子から黄身を取り出す作業に取りかかった。だが、持ち上げようとしたところでフォークがぷすっと刺さってしまい、トロッと黄身が皿に流れ出した。

「うひーん」
「不器用な奴だな」

 だが、見渡すと目玉焼きを頼んだ奴らはみんなこれにチャレンジをしているようだった。

「あ、できた!」

 と最初に完成させたのは春原だ。早速大きく口を開けて目玉焼きトーストにかぶりつく。

「ほう、確かにいけるね」
「だろ? よし、春原は免許皆伝だ」
「やったね!」

 何人かは成功したようだったが、七魅と文紀はやはりハルと同じように黄身を運ぶ途中で潰してしまった。くかかかか、修行が足りぬわ。

 さて、そんなこんなで朝食もほぼ終わり、みんな食後の飲み物をいただきながら今日の予定について話そうという事になった。三繰が紅茶のカップを置きながら口を開く。

「午前中は、予定ならみんな勉強の時間に当てる事になっていたわね」
「えっ、そうなの?」

 僕は初耳の情報に驚きの声を上げた。てっきりこの5日間は遊び呆ける物だと思っていたからだ。隣の七魅がじろっとこちらを睨む。

「最初に予定を立てるとき、そう言いましたが」
「そうだっけ? 何かこっち来たらどんな遊びが出来るとかそんな事しか話した覚えがないや」
「随分と出来の良い記憶力ですね」
「そんなに褒められても」

 七魅の眼力が更に強くなる。おお、怖い怖い。
 でも、折角バカンスに来たのに勉強なんてやってたら馬鹿でしょ?
 僕がそう主張するも、ハル達はやれやれといった雰囲気で納得する様子は無い。

「イクちゃん、私達受験生」
「この夏は一度しか来ないんだぞ」
「来年の受験も一度だけだよ」
「僕らだけ勉強してても、1、2年生達が気兼ねするでしょ」

 「あ、私達は別に……」と言いかけた1年生ズを視線で黙らせる。君たちは良い子だからちゃんと空気を読んで「私達もっと遊びたいでーす」と子供らしく仕事を全うしようね?
 で、結局どうなったかというと。

「イクちゃん、宿題終わってるの?」
「え? 宿題って9月になってからやるものじゃないの?」

 と言う発言内容が決定的な証言となり、勉強会撤廃案は棄却されてしまいましたとさ、チャンチャン。

 しかし、午前中3時間も勉強に費やすのはいくら何でもやり過ぎではないだろうか。洞窟にある生簀や、北の山の展望台、東の滝などこの島で行ってないところはまだまだ有る。そっと三繰にその旨を打ち明けてみたが、「午後になったら」とそっけない返事をされた。午後じゃなくて! 今遊びたいの!

 こうなったら仕方がない。非常事態だし僕の力を活用するしかないだろう。僕は勉強に余り身の入っていなそうな人間を選ぶと、さりげなく話しかけた。

「ねぇ、『野乃宮さん』。そろそろ勉強も疲れたし休憩がてらゲームでもしない?」
「ゲームですか? いいですね、丁度疲れてきたし気分転換したかったんです!」
「『華恋』ちゃんも。みんなでゲームでもして親睦を深めたいと思うよね」
「それは個人的な先輩の願望じゃないんですか? まあ、望むところですけど」
「『文紀』ちゃん、宿題もいいけど一度きりの青春をみんなで遊びながら笑って過ごすのも大切なんじゃないかな」
「はあー。確かにその通りだと思います」

 こんな具合に僕の軍団を増やしていけば、後は芋蔓式だ。そもそも引き籠もって暗い事ばかりしない様に僕を引き摺り出したのはハル達じゃないか。バカンス先で宿題の為に半日潰すなんて暗い、暗ぁい、暗過ぎる。

「しょうがないわねぇ……ゲームだけだよ。休憩でやるだけだからね」

 過半数が僕の味方となったところで、三繰もしぶしぶと折れてくれた。

 さて、どんなゲームをしようか。
 男女混合でやるゲームと言ったら王様ゲームやツイスターゲームが王道なのだが、元々姉妹2人で使うことの多いらしいこの別荘にそんな物は完備されていない。カードゲームも持ってきていないし、どうしようか。

「ねぇ、何やるの?」

 と、僕のところにハルが近寄ってくる。僕はそんな彼女の服装をジロジロと眺める。
 今日のハルは昨日と違い、Tシャツにショートパンツのラフな格好をしている。他の者も似たようなもんだ。僕の視線に首を傾げるハルを見ている内に、段々とゲームのアイデアが浮かんできた。

「よし、今日は臍当てゲームをしよう」
「ヘソ?」
「うむ」

 僕の考えた臍当てゲームのルールはこうだ。
 まず女の子達は2つのチームに分かれ、それぞれのチームが別の部屋で自分達のお臍の写真を撮る。全員の写真が撮れたところでそれを持ち寄り、順番にどの写真が誰のものであるかを当てるのだ。
 写真撮影にはデジカメを使う。これをテレビに繋いで表示すれば現像の手間は省けるし、サムネイル表示で比較することも出来る。特別な機材も必要無い。
 ただし、臍はホクロやデベソなどの特徴が無い限り、場合によっては自分の写真では無いとしらばっくれる事が可能かもしれない。それを出来なくするため、写真には証拠として必ず「下着」を一緒に撮す事にする。答え合わせの時は、全員スカートなりズボンなりを脱いで確認するのである。
 正解1人を1ポイントとして、多い方のチームが優勝だ。景品は無いが負けた方にはそれなりの罰ゲームをしてもらおうかな。

 説明が終わった時、全員の反応は非常に微妙なものだった。本当にそんなのが楽しいの?といった雰囲気だ。

「ま、試しに写真撮りからやってみようよ」

 僕は自信たっぷりにみんなに言う。なに、ゲームが始まってしまえば下着姿を撮影する「恥ずかしさ」が「旅行の楽しさ」に変換され、否応無く盛り上がる事間違い無しだからね。

 チームは同部屋の者が下着姿を見ている可能性が有るため、部屋ごととした。Aチームは三繰、七魅、そして1年生トリオの合同チーム。Bチームはハル、春原、梓、そして2年生の2人だ。それぞれが1階に割り当てられた1年生部屋と2年生部屋に分かれ、写真撮影を開始する。

 僕が様子を見にそれぞれの部屋に行くと、案の定女の子達は下半身下着姿できゃいきゃいとじゃれ合いながら写真を撮っていた。

「あ、達巳君。こんなのでいいのかな?」

 春原がデジカメを持ってきて今撮影したばかりの写真を見せてくれる。僕は女の子の下腹部の写真を、主に肌より布地の方に注目しながら子細に観察した。そしてふと気が付く。

「おい、ハル」
「なーに?」

 相変わらずの縞模様パンツのハルが無防備に僕に近寄ってくる。

「これ、お前だけパンツでばれるぞ」
「え? なんで?」
「こんなのを履いてるのはお前しかいないからだ」

 デジカメの液晶画面をちょいちょいと突っつく。タッチパネル搭載だから勝手にズームがかかり、白と青のストライプが画面いっぱいに拡大された。

「そうかな?」
「ああ、間違いない。一発で特定されるぞ」

 ふむん、とハルは不満げながら思案顔になる。どうせこいつの事だ、下着を替えて来いと言っても全部縞パンに決まっている。

「あ、こう言うのはどうですか?」

 話を聞いていたのか、横から滝川那智が口を出してきた。メガネがキラリと光った気がする。

「後で答え合わせの時に照会出来ればいいんですよね? なら、水着で撮るというのは」
「あ、いい考えかも」

 那智のアイデアにすかさずハルは賛同する。しかし、僕は首を振って否定した。

「駄目だよ、ルールの段階で下着と指定しただろ? それに、一人だけ水着だなんて『楽しくない』だろ?」

 「恥ずかしさ」=「楽しさ」なのだ。下着と水着とじゃ写真撮影や答え合わせの楽しさが全然違ってくるハズ。ハルは僕の考えに不承不承頷くが、やはり不満そうに口を開いた。

「じゃ、どうしろって言うの?」
「待て、僕に考えがある」

 またもや頭の中でささやき始めた悪魔の声に、僕はニヤニヤと笑い顔を浮かべるのだった。

「では、答え合わせを行います」

 全員の写真が揃い、食堂の隣の部屋のテレビを使って両チームの出題が終わった。お互い、顔をつき合わせて解答用紙にそれぞれの写真とその写り主の組み合わせを書き込み、つい先ほど提出したばかりだ。

 僕の手元の用紙を見ても、みんながどれだけ熟考したか良くわかる。何度も書き直したように解答欄は消しゴムの跡で汚れていた。2枚の解答用紙のうち、たった一カ所だけ全く書き直されていない欄も有ったけど。

「順番に行こうか。まずはBチームの答え合わせから。Aチーム、下着を見せて」

 僕の言葉に従い、三繰達のチームの5人は次々とズボンを下ろしたり、スカートを捲って自分の下着をみんなの視線に晒す。ハル達のメンバーと僕は、その様子を固唾を飲んで確認した。

「1番・哉潟七魅……ペケ、2番・夏目文紀……マル、3番・五十崎華恋……ペケ、4番・姫野朝顔……ペケ、5番・哉潟三繰……マル。5問中2問正解だから、Bチームは2ポイントだね」

 僕の採点に「あれー?」とか「なーんだぁ」と口々に声をあげるBチーム。正答率は40%か、これで勝つのはかなり難しくなったな。
 対してAチームは余裕の表情だ。もう勝ったと思っているのかもしれない。だが、それは早合点というものだよ。

「じゃ、続けてAチームの答え合わせ。解答、オープン」

 僕の指示で次々とBチーム側の娘の下着が露わにされる。その瞬間、Aチームから「えーっ?」と驚きの声があがった。

「1番・源川春……ペケ、2番・滝川那智……ペケ、3番・御廚梓……マル、4番・春原渚……ペケ、5番・野乃宮典子……ペケ。つまり……合計1ポイント。2対1でBチームの勝ち!」

 Bチームメンバーがわっと拍手する。対して、三繰達Aチームは信じられないといった表情だ。

「ど、どうして源川さんが……」

 やっぱりね。Aチームは縞々のみでハルの写真を決めていたのか。春原が呆然としている三繰に説明してやっている。

「下着は証拠とするってルールだけど、写真を撮る前に下着を替えちゃいけないって決まりは無かったよね?」
「え? そうだけど……あっ! まさか!」
「その通り! 私達は、そっちのチームが下着の柄で判断するって事を予想して先に下着を替えておいたんだ」

 ま、これは僕の発案だけどね。ただ、立場上判定役が片方に肩入れしたと思われたら都合が悪いから、自分達で考えついたようにするよう言い含めておいたけど。

 Bチームのメンバーにとって、ハルの下着の柄は致命的なウィークポイントだった。敵がそこを突いてくるのは当然、予想できた。だから、逆にそれを利用するため、下着のサイズが同じハルと滝川那智の2人に新しい下着を持って来させ、お互いのパンツを交換して履かせたのだ。
 その際、役得として2人が僕の目の前でパンツを履き替えるところを観察させてもらったけどね。

(他人の下着を着ける事に対する抵抗感は僕のゲームにかける情熱でもって『説得』させてもらった)

 Bチームの罠に嵌ったAチームは、目論見通りに良く考えもせずに縞パンを履いた那智の写真をハルと判断した。別に臍を覚えていなくても、よく見れば日焼け跡や肌の色など判断する基準はまだ有ったのにな。

 三繰は「ぐぬぬ……」とかなり悔しそうだ。そうだろうそうだろう、絶対の自信が有っただけにそれがこちらの罠と知って悔しかろう。ねえねえ、今どんな気分? と三繰の周囲でトントン踊りたくなってくる。

 七魅や1年生諸君、君達に恨みは無いが諦めてくれたまえ。全て君達のチームリーダーが悪いのだよ。あんなに遊びたい遊びたいと駄々を捏ねたのに、すべて却下してしまうんだからな。恨むのならば縞パン如きに目を眩まされた自分らの愚かさを呪うのだな!

 さあ、罰ゲームは何がいいかにゃ~?

 午前の勉強会が終わり、昼食は別荘2階のテラスで食べることになった。陽射しのまぶしいその場所にパラソル付きの丸いテーブルを並べ、バイキング形式で好きな料理を持って来て食べるのだ。
 ただし、バイキングと言っても自分でよそるのではない。せっかく勝者と敗者が確定したのだし、最大限に活用させてもらおうではないか。

「……お待たせしました。フルーツの盛り合わせです」
「うむ」

 様々なフルーツのよそられた皿を持って来たエプロン姿の三繰に慇懃に頷いてみせる。彼女はそれを僕の前に置き、深々と礼をして「他にご注文は」と静かに言った。僕はそれに、にこやかに述べる。

「あ、生ハムメロンお代わりね」
「……かしこまりました」

 三繰は頷くと、一瞬僕を睨んだ後にクルリと後ろを向いて注文の品を取りに戻っていった。彼女はエプロンの下は水着を着ている。僕は小さなボトムに収まった三繰のお尻をニヤニヤと見送る。

 三繰以外にも、七魅や1年生達もまた各テーブルからの注文を受けて食事や飲み物を行ったり来たりして運んでいる。もちろん、普段着ではない。全員、僕の指示で水着エプロン、そして踵の高いサンダルを履いていた。

 つまりこれが、臍当てゲーム敗者に課せられるペナルティなのだ。昼ご飯の時、水着にエプロン姿で勝ちチームの給仕をする事。三繰としては審判をしただけでゲームに参加した訳では無い僕まで勝ちチームと一緒に勝利者の恩恵にありつくのが気に食わない様であったが、それは負け犬の遠吠えという物だ。もちろん、僕は最初からどっちが勝っても良いように判定役を請け負ったのだけどね。勝負は始まる前からついていたのだよ。

「あの……先輩、バナナシェーキです」
「お、ありがとう朝顔。うりうり」
「はふぅ……」

 僕に頭を撫でられて、朝顔は顔を赤くしてパタパタと走って行った。うーん、初々しいなぁ。続けて七魅がサンドイッチを持ってくる。

「はい」
「いや、はい、じゃないでしょ?」
「え?」
「ここは、お待たせしましたご主人様♪ と来て欲しかったね。そしたら七魅もうりうりしてあげたのに」
「う、うりうり……」

 怒ったのか、七魅は顔を赤くしてぷいと向こう側に行ってしまった。あちゃあ……またやってしまった。どうも七魅には気が付くとからかう様な事を言ってしまう。反応が面白過ぎるから仕方が無いのだけど。

 そこそこ全員分の料理が運ばれて、Bチームのメンバー達も大体お腹一杯になってきたみたいだ。そろそろ交代してやってもいいかな。午後は午後でまだまだ遊ぶ時間はたっぷり有るし、ペナルティ組にもちゃんとエネルギー補充しておいてもらわないとね。

 次に三繰が来たら一緒に食べられるよう、僕は余りの椅子を隣に持って来て彼女が戻るのを待ったのだった。

2.

 昼食後、一休みしていよいよ砂浜に遊びに行く事になった。自分の部屋で水着に履き換え、ジャケットを素肌の上に羽織ると別荘の外に飛び出す。

「お待たー! ってあれ?」

 おかしな事に、水着は僕だけで後はみんな朝のラフな格好のままだった。

「あ、あれ? 海に行くんじゃなかったっけ?」
「そうですけど、三繰先輩が水着には着替えなくていいと先ほど言われまして」

 僕の狼狽に対して朝顔が答える。何ですと? また聞いてないよ、僕。
 そこに三繰が七魅を伴って別荘から出てきた。

「みんな揃ったわね。じゃ、行きましょう」
「おい、僕は水着じゃなくていいなんて聞いてないんだけど」
「そりゃそうでしょ。達巳君には言ってないし」
「うわ、こりゃイジメでしょ」
「なんで?」

 心底不思議そうな顔付きをする三繰。そして、はたと気が付いたように手を打ち、笑いだした。

「あ、そうかそうか、そういう事?」
「何1人で納得してるのさ」
「いやいや、勘違いしてるのは達巳君の方だよ。だって、私は『女の子は』着替えなくていいって伝えたんだもの」
「……今度はあからさまな仲間外れか」

 僕がイジケると、三繰はケタケタと声を出して笑う。

「別にー? 達巳君がどうしてもって言うなら仲間に入れてあげてもいいけどさ。たぶん、それは願い下げだって言うと思うな」
「どういう事さ」
「向こうに着いてからの、お・た・の・し・み♪ さ、行こ」

 三繰の号令で全員ビーチに向かって移動を開始した。僕としては、このままふてくされて別荘に残っても良かったのだが、最後の三繰の言葉が気になり結局みんなの後に着いて行く事にする。

(ビーチに何が有るって?)

 砂浜までの坂道をみんなでぞろぞろ降りていく。その途中、左手に続く石段が有るのを見つけた。今通っている道より大分狭く、2人ぐらいしか並んで歩けそうもない。

(これが昨日言っていた東海岸への道かな?)

 その別れ道から砂浜はすぐだ。昨日も見た広い砂浜と、それよりも更に広い海が目の前に広がっている。そこに変わった様子は見られない。

「何も無いけど?」
「慌てない慌てない♪」

 そのまま立ち止まらず、三繰は女の子達を桟橋へと連れていった。そこには2台のジェットスキーとここまで来るのに使ったクルーザーヨットが係留されている。そして、近づくにつれて白いクルーザーのデッキに何かが置いてあるのが見えてきた。

 それは大量の水着だった。水着専門店のように水着がハンガーに吊され、売り物のようにディスプレーされている。それは前のデッキだけでなく、僕達が来るときにイルカを見た2階デッキにも置かれている。いったいどれくらい有るのだろうか。女の子達もその数に圧倒され「すごーい」だの「お店みたい」だの感嘆の声を上げている。

「この島はお店が無いから、ちょっと物足りないんじゃないかと思ってたのよね」

 三繰は満足げに笑いながら僕の方に話しかける。

「船の中にはアクセサリーも数を揃えたし、気分だけでもショッピングの雰囲気が楽しめるんじゃないかな」
「これ、わざわざ準備したのか?」
「お買い物は旅行の醍醐味ですもの」

 そう言うと、彼女は僕だけに聞こえるように耳に口を寄せた。

「……それに、あそこの水着は達巳君の言う『ちょっと楽しい』水着になってるの。その方が嬉しいでしょ?」
「え?」

 僕が驚いて顔を向けると、三繰は何か含むものの有るニヤリ笑いを浮かべていた。すぐにその表情を消し、みんなに声をかける。

「みんな、そこの水着やアクセサリーは自由に使っていいからね!」

 三繰の言葉に、女の子達は歓声を上げてクルーザーに飛び込んで行った。その目はきらきらと輝き、確かに海で遊んでいる時とも違うわくわくと興奮した表情だ。

(女の子はショッピング好き……か。こりゃしばらく待たないといけないな)

 僕が頭をかくと、メイドがどこからか現れて「あちらにお飲物をご用意いたしました」と恭しく礼をした。僕はその勧めに従い、パラソルの下でしばらく女の子達のメイクアップを待つことにし、そちらに歩きだした。

 女の子達の衣装決めは大分時間がかかった。10分が過ぎ、20分が過ぎ、30分が過ぎる。その間僕はシュノーケリング道具の入った箱を掻き回して中身を調べたり、砂浜を散歩して貝殻を収集したり、メイドに話しかけて展望台の事を聞いたりした。

 メイドの話だと、展望台は有るには有るが今は殆ど使っていないらしい。別荘の2階を改修してテラスにしたお陰でいつでもそこから同じ景色を眺めることができるからだそうだ。ほとんど景色は変わらないのにかなり長く狭い坂道を登らないと辿り着けない展望台は、今は利用者が少なく普段は道を封鎖しているとの事だ。

 そんなこんなで待っていると、40分くらい経過したところでようやくクルーザーから女の子達が出て来はじめた。全員、真っ直ぐに僕のいるパラソルへと歩いてくる。遠目に見ても彼女達の水着は昨日着けていた物より生地が少なく、色合いが薄いように感じられた。どうやら三繰が「楽しげな」水着を用意してくれたのは本当の事のようだ。

「あ、あの……先輩、どうでしょうか……?」

 朝顔の水着は昨日のと似たフリル付きのピンクのワンピースだ。全体に花の模様が入っていてお洒落な下着みたいな雰囲気がある。しかも、よく見ると花の模様は生地の厚みの違いで表現されているようで、薄いところでは朝顔の白い肌が透けて見えていた。
 胸や股間など微妙なところも、際どいところで花柄が隠すようになっていてぎりぎり透けてはいない。だが、もともと生地が薄くぴったりと張り付くようになっているため、突起や食い込みの形はもろわかりになっていた。
 朝顔はその水着に合わせるように薄紫色の花の髪飾りを着けていて、それが良く似合っている。やはり、朝顔は花の似合う女の子だな。

「うん、可愛いね」
「あ、ありがとうございます……」

 僕が誉めると、朝顔は茹で蛸のように真っ赤になった。
 その他の者もみんな大胆な水着を着ている。華恋は辛うじてその薄い胸の突起に引っかかっているようにしか見えない黒の紐ビキニだし、文紀は股間の割れ目の先が見えてるようにしか見えないくらいローレグの水色のビキニだ。

「2人とも大胆だねぇ」
「まあ、折角の旅行なんだしこれくらいは着てみないと面白くないですから」

 そう言ってどう?どう?という雰囲気でポーズを取ってみせる華恋。隣では文紀もがんばってそれに倣っている。

「いいよ、色っぽくていいね。背中も見せてくれる?」

 僕がそうリクエストすると2人はクルッとターンして後ろを見せてくれた。あらら、ちっちゃなお尻が上半分はみ出してるよ。少し動いたらズリ落ちちゃうんじゃないかな?

 続いてやって来た梓はスリングショット型の、股間部が一本の布になっていて前から見るとYの字に見える白い大胆な水着だった。野乃宮や滝川もそれに倣ったのか、Tバックとかが上品に見えるくらいV字の切れ込みと食い込みの素晴らしいイエローとグリーンの水着をそれぞれ身につけている。

「3人ともすごいね」

 僕がそう言って誉めると、梓達は照れたような笑いを浮かべた。よく見ると、サイズが小さめなのか股の部分の布地が割れ目に食い込んでその形がハッキリと見て取れた。形をわからなくするための裏地がワザと無くしてあるのかもしれない。背中側もスゴいことになっていて、僕はほぼ丸見えのお尻をふりふり歩いていく3人をじっと見送った。

 ハルの選んだ物はそれらに比べれば一見大人し目の水着の様に見える。だが、よくよく観察すればそれは間違いだと気が付く。
 彼女のパレオ付きのビキニは布地のあちこちに花柄のキレを結んだ装飾のされたデザインになっていて、それが花の様なアクセントになり、上品そうな雰囲気を醸し出している。だが、顔を赤らめたハルが僕のリクエストでちらりとそれを捲ってみると、その下の布地はほとんど無く、胸の先は辛うじて隠れているだけで色付いたところがはみ出して見えているし、パレオの下は股間の茂みが丸見えになっていた。お尻側もローレグというには烏滸がましいくらい布地が無い。

「ね、ね。ちょっと前かがみでこっち向いてみて」
「え? え? でも……」
「ね、お願い!」

 僕が拝み倒すと、ハルは顔を赤らめながら体を倒し、お尻を突き出すポーズをしてくれた。思った通り、お尻側の布地は少なすぎてお尻の穴の皺が見えていた。あとちょっとで大事なところも見えてしまいそうだ。

「そのままお尻に手を当てて、自分で引っ張ってみてよ」
「こ、こう?」

 これは絶景だ。ハル自身の手によってお尻の穴が引き延ばされ、少し口を開く。そこは周囲より少し色が濃くなっていて、中央部には彼女の体内へと続く小さな点のような穴の存在がはっきりと見えた。

「もう……いい?」

 ハルが恥ずかしそうに笑いながら言う。もう少し見ていたかったが、他の娘達もこっちに向かって来ているし、あんまりハルにばっかり構っていられない。僕は「ありがとう、ごちそうさま」と手を合わせてハルを解放してやった。

 続けてやってきた春原の水着は、ブルーの波模様のデザインされたスポーティな水着だ。これは健全かな、と思って見ていたら、こっちも朝顔の水着と同じくそれは透けを利用した模様で、しかも股間部の模様は彼女の茂みが水着の裏で張り付いているものが透けて見えているだけだった。もう、隠すという意志が感じられず、如何にして見せるかという方向にシフトしてしまったデザインだ。

「あの~、見えてるよ」
「こら、そういうのは内緒にしておくの」

 春原は照れながら僕に怒った振りをしてみせる。そしてそっと僕に口を寄せ、「見せてるの、達巳君に」と頬を赤くしたままウインクした。何時も活発な春原だけど、そういうふとした仕草が色っぽくて僕はドキリと胸が鳴り、思わず「あ、ありがとう」とトンチンカンなお礼を言ってしまった。

 砂浜で遊ぶ沢山の女の子達。それも、普通の海岸では見る事が不可能なくらいエッチな水着を全員が身に付けている。ある者は際どい食い込みで、ある者はもう少しで見えそうなくらいの透け具合で。
 おまけにそれらの水着は、ただ着ただけでその有様なのだ。この先更に水に濡れたなら、一体どこまで透けてしまうのか。考えるだけで楽し……もとい、恐ろしい。

「達巳君も気に入ったみたいね」

 最後に七魅を引き連れて三繰がやって来た時、僕は瑞々しい少女達の肢体を双眼鏡を使ってじっくりと見守ってやっているところだった。それを目から外し、振り返る。

「ずいぶん時間がかかったね」
「そうね、髪を結んでいたから」

 三繰は華恋のと良く似たデザインのワインレッドの紐ビキニを着込んでいた。ただ、スタイルは断然こっちの方が上なのでその破壊力は桁違いだ。髪型もいつものストレートではなく、活動的なツインテールにしていた。

 こうやって改めて正面から眺めるとすごい水着だ。着ていると言うより、肌色の上に張り付いていると言った方が的確だろう。何も言わなくても三繰は僕の視線に気が付き、クルリとターンしてそのほぼ8割見えているお尻を僕に披露してくれた。その際2つの髪尻尾が追従して円弧を描き、心憎くも可愛らしさを演出する。

「で、感想は?」
「お美しゅうございます、お嬢様」
「綺麗なのはわかってるのよ。それ以外は?」
「色っぽくてドキドキするね。今すぐ抱きしめたいくらい」
「鏡を見てから言いなさい」

 口では辛辣な言い方をしているものの、三繰は満更でも無い様子だった。

 七魅の方は、と見ると白い薄手のパーカーを着込んでいるため、その下にどんな水着を着ているのかわからない。何でそんなのを着てるんだろう?

「七魅は? 水着、着替えて来なかったの?」

 僕の問いに、七魅は少し顔を赤くして首を振った。何だ、ちゃんとやる事はやってるんじゃないか。

「何でそんなの着てるの? 僕に見せたくないって事?」
「あ……いえ……」

 七魅は小さな声で否定する。なら、見せてくれてもいいのにな。

「ナナちゃんはね、達巳君にだけ見て欲しいんだよ」
「姉さん!」

 ニヤラニヤラと笑いながら言った三繰の口を慌てて押さえる七魅。「大丈夫だって。この程度じゃ絶対気付かないよ、この朴念仁は」「で、でも」と僕には良くわからない事をごちゃごちゃと言い争っている。
 朴念仁って、僕の事? 確か道理のわからない者って意味だっけ? まあ、否定はしないけど本人の前で言わないで欲しいなぁ。思わず言葉もトゲトゲしい物になる。

「別に、七魅があまり見せたくないならいいよ。今はバカンスに来てるんだし、楽しくない事はみんなにして欲しくないから」

 そう言ってクルリと後ろを向いて歩き出す。正直、七魅のエッチな水着姿は惜しいが、最近の彼女はどうも情緒不安定なところが有るし、あんまり刺激したくは無い。女の子ってほんと謎の多い生き物だ。

 だが、そう思いながら早足で歩いていると、それを後ろから足音が追いかけて来る。「達巳君!」と必死な感じに思わず振り返ると、それは七魅だった。立ち止まった僕の側まで駆けて来て、乱れた呼吸を整える。

「七魅、どうしたの?」
「……えっと、その……」

 炎天下を走ったせいか顔が真っ赤だ。よっぽど一所懸命に追いかけて来たのだろうか。何度か咳払いする様に呼吸を整え、七魅はようやく言葉を発した。

「その……達巳君、私の水着、見たいのですか?」
「どっちかというとかなり見たい」

 思わず本音が口を付く。ここで意地を張るほど僕は男として涸れている訳では無いのだ。人間、正直が一番よ。
 僕の返答に一瞬きょとんとした七魅だったが、すぐに顔を赤らめ、「どうしても?」と目線を逸らしながら再確認する。それに僕はまじめな顔で頷いた。

「じゃあ、こっちで」

 そう言って僕の手を取って歩き始め、そしてすぐに「あっ」と手を離す。

「す、済みません」
「何で?」

 七魅の狼狽振りがおかしくて僕は笑いながら言った。それに七魅はますます赤くなる。

 七魅が僕を連れていったのは桟橋の側にあるシャワールームだった。仕切によって5つくらいの個室に分かれていて、入り口は外から中の人の足が見える簡素なドアになっている。そこの一室に「ここでなら」と七魅は僕を連れ込んだ。
 個室は手を伸ばすことぐらいは出来るが、決して広いという訳では無い。2人が一緒に入るとお互いの吐息が感じられるくらいには顔が近くなる。自然、声も潜めるような大きさになった。

「……ここで見せてくれるの?」
「はい……あの、」
「ん?」
「笑わないで下さい……」

 七魅はそう言うと、躊躇いながらパーカーのジッパーを下ろし、するりと肩を抜いてそれを脱いだ。彼女の白い肌と、それを申し訳程度に隠す水着が露わになる。

「……へぇ」

 思わず感嘆の声が漏れる。
 七魅の水着の印象は、「黒蜘蛛」と言えるものだった。胸部や股間など大事なところを守る僅かな黒い布地から細い蜘蛛の脚のような紐が幾筋にも伸びて、それが全体として水着を形作っている。胸の間や臍の辺りなどはそれらの紐が幾重にも重なり、さながら蜘蛛の巣の様だ。しかも、黒い布にはラメが入っているようで、それがキラキラと陽光に輝き本物の蜘蛛の糸が絡まっているようにも見える。
 それらの複雑な構造になっているこの水着は、しかし見た感じでは過度に華美な印象を僕に与えることは無く、逆に日本人形のような濡れ羽色の七魅の髪と調和して不思議な奥深い色気を醸し出していた。明らかに、この水着は他の物とは違い、七魅だけの為にデザインされていると直感した。

「あの……そんなに見られると……」
「……」

 少し目線を逸らして恥じらいの表情を浮かべる七魅に、僕は見とれてしまって言葉が出てこない。例えるなら、闇夜に浮かぶ黒豹の様な、妖しい存在感の美しさだった。

「……変……ですか……?」
「あ、いや……綺麗だよ……」

 七魅が自信無さげに呟くように言った言葉に、無意識に本心を露わにしてしまう。七魅は僕の言葉にまた恥ずかしそうに俯いた。滅多に見ることのない少女の表情に僕の心臓がまたドキリと高鳴る。

 僕の目線が七魅の横顔に吸い寄せられた。黒く艶やかに光っている髪。細く整った眉。睫が長く、黒目がちな瞳。少女っぽく可愛らしい鼻の形。僅かに赤く染まった頬。小さく、僅かに開かれた唇……。

(七魅の唇……柔らかそうだ)

 急激に昨日、もう少しで触れそうなほど接近したハルの唇や、2種類の口付けを自分からしてくれた梓の感触を思い出す。

(キス……してみたいな)

 あの時は突然すぎて自分でも雰囲気に飲まれていた部分が有った。でも今は、はっきりと自覚して少女との口付けを望んでいる。これは一体どんな心境なのだろう。単なる好奇心? それとも好意? 雄としての本能? 少女への愛情?

「あっ……」
「おっと……」

 七魅が手を滑らせたのか、パーカーを足下に取り落とした。2人が同時に動き、白い上着に手を伸ばす。狭いシャワールーム内で一緒にしゃがんだ為、お互いの距離が一気に縮まった。

「「……!」」

 パーカーから目線を上げると、すぐそこに七魅の顔があった。相手もびっくりしたように動作を止めている。お互いの吐息が相手の胸にかかるような距離。前髪と前髪が触れ合い、顎を上げれば唇が届く距離。

(このまま……)

 僕はその体勢のまま、そっと顔を前に進めた。七魅の瞳が僕の視界内で大きくなり始める。

(あと5センチ……)

 七魅の瞳に僕の目が映っているのが見える。お互いの鼻の頭が触れそうになる。

(あと3センチ……)

 少し頭を傾けて鼻を交差させる。少女が逃げない事を祈りながら、唇を少し突き出す。

(あと、1センチ……)

 ふっと、唇の先に柔らかいものが掠めた、と思ったその時、表から聞き慣れた声が近付いて来るのに気が付いた。

「――イクちゃん、こっちの方来たよね?」
「うん。どこ行ったのかな」

 それはハルと春原の声だった。いいところで、と僕は心の中で舌打ちする。このまましらばっくれて先に進んでしまえと思ったが、七魅が顔を引いてしまい外の声に耳を澄ます素振りをする。

「……こっちに来るみたいです」

 何とかやり過ごせないかな……って、しまった! このシャワー室じゃ足が見えるから、ここにいることは丸見えじゃないか。

「やばっ、見つかるっ!」
「あ、わ、きゃっ!」

 慌てて立ち上がろうとしたものだから、狭いシャワー室の中の事、あっちがつっかえこっちがつっかえ、2人ともバランスを崩し転がり出るようにシャワー室から飛び出してしまった。

「わ! イクちゃん見っけ!」
「……それに哉潟さん? 何してたの、2人とも?」

 最悪な事に僕達が出た先は丁度ハル達の目の前だった。これじゃ逃げる事も出来やしない。

「あ、えっと……わ、私がシャワーを浴びようとしたら、変な虫がいてびっくりして悲鳴を上げてしまったんです」
「そそ、そうそう! で、その声を聞いて僕が様子を見に中に入ったってわけ!」

 苦し紛れだけど、とっさにしてはなかなか良い弁解だ、七魅! 僕もそれに便乗する。
 だが、ハルと春原は疑わしそうに眉を寄せて僕らを見ている。

「びっくりしたのに、そのまま2人とも中にいたの? 逃げないで?」
「それに、上着を持ってシャワーを浴びてたの?」

 春原が鋭く僕の手にある七海のパーカーを指差す。ぐぅ、なかなか手強いな、この2人。

「それは、その……驚いたときに脚の力が抜けて、動けなくなってしまって……」
「妙に毒々しい色合いだったから、腰が抜けるのも仕方ないよ。ほんとに毒を持っていたかもしれなかったから、上着を外から取ってそれではたいて追い払ったんだ」

 どうだ。何とか辻褄は合わせたぞ。ハル達はまだ疑わしげな様子だったが、取り合えず追及の手は止まってくれた。今がチャンスだ!

「あ、七魅! 刺されてるかもしれないから早く戻って消毒しないと!」
「え? あ、はい、そうですね」
「じゃ、そう言うことで! またねっ!」

 僕はそう言って2人にしゅた!と手を上げると七魅の手を握って走り始めた。彼女も今度は手を解くこと無く、おとなしく引かれるままに走ってついてくる。

 ここは三十六計逃げるに如かず。ごまかす時には追及されるより早く手の届かない所まで逃げるのが最良の手だ。僕は後ろの七魅に走りながら声をかける。

「危なかった! まさかあんな所まで探しに来るなんて!」
「え、あ、はい、おしかったです」
「はい?」

 惜しかった? 何が? 僕が足を緩めて怪訝そうに振り返ると、七魅は「あっ」という顔をして見る見る顔を赤くした。

「な、何でもありませんっ!」

 それっきりぷいと顔を背けて黙り込んでしまう。また、何だかわからないが臍を曲げてしまったらしい。ほんと、七魅って良くわからないなぁ……。
 怒ってしまったにも関わらず、七魅は自分から手を離そうとしない。仕方ないので、僕はそのまま七魅の手を引いてクルーザーの所まで戻ったのだった。

3.

 やっぱり他の水着に着替えると言う七魅と別れ、僕はぶらぶら砂浜を散歩していた。あれっきり、ハルにも春原にも会わない。あの2人は何をしようとして僕を探していたんだ?

(まあ、ハルが絡む以上ろくな事では無さそうだけど)

 そうやって桟橋の反対側の方へ歩いて行き、何気なく海岸に張り出した木の方を眺めると、そこからにょっきりとお尻が突き出していた。突然の事に、「うおっ」と思わず声を出して跳び退いてしまう。

「な、何だこの奇っ怪なオブジェは……?」

 木の股から生える女の股。いったいどんなエロ前衛芸術家の発想だ。絶対おシリ合いにはなりたくない。
 だが、前衛芸術に見えたそれはナマモノであった。時折ふるふると震えてそれに血が通って意志を持っている事を教えてくれる。

 僕はそのお尻に見覚えが有った。極端に食い込んだ白い紐状のスリングショット、これは……。

「梓さん、そこで何をしてるんですか?」
「あっ!」

 僕の声にお尻はビクリと震え、そしてずるずると木の後ろから上体が出て来た。

「逃げちゃった……」

 恨めしそうに僕を上目遣いで見ている。その手にはビスケットの様なものが有った。

「何してたんです? 猿でも餌付けしようとしてたんですか?」
「ちっちゃいキツネみたいなコが居たんです。もうちょっとで食べてくれそうだったのに……」
「キツネ? こんな所にキツネなんて居るのかな……」

 多分、キツネのように見えただけで正体は別の動物だろう。ネズミの仲間かもしれない。ネズミなら気候に関係なく全世界に居るはずだ。

「良かったじゃないですか。もしかしたらそいつ、ビスケットじゃなくて梓さんの指を齧ろうとしていたのかもしれませんよ」
「もぉ、あのコはそんな事しません!」

 ぷりぷりと怒る梓。正体もわからない動物に良くそんなに肩入れ出来るものだ。あれか、可愛いは正義って事なのか。

「ははは、済みません、言い過ぎました。確かに梓さんのお尻は美味しそうだったけど、獣にその良さがわかるはずも無いですね」
「お尻って……あっ!」

 見る見る顔が赤くなる。自分がどんな格好で、どんな体勢だったかに思い当たったのだろう。

「も、もう! からかわないで下さい!」
「はいはい、わかりましたわかりました」
「全然誠意がこもってません!」
「梓さんになら、何時でも僕の真心を捧げますよ」

 さてさて、こうやってからかって遊ぶのも楽しいけど、せっかく2人っきりになったんだし少し悪戯をしてもいいかな。
 早速キーワードを使ってコントロール開始だ。

「それはそうと梓さん、少し気になった事が有るんで聞いてもらえますか?」
「え? 何でしょうか」
「『保護者』としては梓さんの身体の状態が心配なのです。そこで、簡単な健康チェックをしたいのですが、いいですか?」
「え、ええ。そのくらいなら構いませんけど……どんな事をするんですか? 体温を測ったり、お口の中を見たりするのかしら?」

 普通の医者なら、まずそっちからだろうね。

「いや、最も簡単な健康チェックとして『保護者』として知っておくべき方法は、お尻の穴を調べる事だと家庭の医学に載ってました。その方法を試させて下さい」
「へえ。そんなチェック方が有るんですか……わかりました」

 いや、有るわけが無い。少なくとも体温を測るより簡単なわけが無い。だが、そんな異常な申し出も僕がインサーション・キーを絡めて言ったなら、それが真実と書き換えられてしまうのだ。

「じゃあ、その水着だとお尻のところが邪魔になるので、脱いで貰えます?」
「はい」

 梓は素直に頷き、肩紐を外して水着を脱ぎ捨てた。元々布地なんてほとんど無いだけあって、脱ぐのも一瞬だ。片足ずつ見た目は紐にしか見えないそれを抜き、サンダルと手首のアクセサリー以外何も身につけていない全裸になる。

「じゃ、後ろ向きになって木に手を付いて」
「こうですか?」

 梓はお尻を突き出すようにして両手を木に付けた。僕の視界に梓の張りのあるお尻が、隠すものも全く無いままに晒される。お尻の穴や、その下の割れ目、茂みの有様まで全て丸見えだ。僕はゴクリと唾を飲み込んだ。

「じゃあ、チェックしますね」
「はーい。お願いします」

 無警戒に僕に向かって頷く。僕は恐る恐る手を伸ばし、梓のお尻を掴むと左右に引っ張ってその中心をむき出しにした。中央へ向かう無数の皺に彩られた窄まりが左右に引っ張られて形を変える。僕はその側に小さな黒点のような物を発見した。

「梓さん、お尻にホクロが有りますね」
「え、そうなんですか? 何処です?」
「お尻の穴のすぐ右上です。今触っているところですよ」
「へえ~。全然気が付きませんでした」

 まあ、ここは自分で見る事なんてまず無いだろうから、気が付くとしたら梓がお尻の医者にかかるか、誰か異性と結ばれる時までお預けになっていただろう。それを見ることが出来たのだから、僕はとても幸運な男って事になるな。
 お尻の穴から下に辿り、彼女の大事な場所も念のためチェックする。親指で左右に押し拡げ、襞の中身を空気に晒した。少し湿り気の有る赤い内部の色合いが露わになる。戸惑ったように梓が顔をこっちに向けた。

「あの、達巳君? そっちも見るんですか?」
「ほら、括約筋はお尻と繋がってるじゃないですか。だから、その具合を確かめるために全部見る必要が有るんです」
「なるほど。確かにそうですね」

 顔を赤らめたまま感心したように頷く。僕は指を使って膣口やおしっこの穴を押し開き、子細に観察した。ここまで明るい場所で、こんなに接近して微妙な部位を見る事なんてそうそう無いからな。よーく見ておかないと。

「……」

 梓は自分の3つの穴に突き刺さる僕の視線を感じるのか、耳まで顔を赤くして俯いている。その表情に、僕は再び悪戯心がむくむくと持ち上がってくるのを感じた。

「うん、見た感じは異常無いですね。健康そのものです」
「そ、そうですか」

 やっと終わったかとほっとしている様子の梓。でも、僕はここで終わりにするつもりは無い。心の中でニヤリと笑いを浮かべつつ、真面目な顔を装って言葉を続けた。

「後は、ちょっと括約筋のチェックをしたいですね」
「え? かつやくきん?」
「ええ。ちょっと待って下さいね」

 僕はポケットを漁って、先ほどみんなの着替えを待っている間に発見した透明テープを取り出した。道具の応急処置用なのか、遊び道具入れの箱の中に入っていたのを一個くすねておいたのだ。

 それをビビッと適当な長さだけ伸ばし、梓のお尻にぺたっとくっ付ける。

「あ、あの? 何を?」
「括約筋の働きのチェックです。有る程度の時間伸ばしたままにして、その後にちゃんと戻る事を確認します」

 僕はにっこりと笑ってそう説明した。梓に力を抜くように言い、十分に柔らかくなったところでお尻の穴を引き延ばすようにテープを貼り付ける。左右、斜め、上下に外側に一杯にテープで引くと、梓のお尻の穴は見事に拡張されてその内部を晒してくれた。

「わあ、梓さん、お尻の穴の中まで丸見えですよ」
「あぅ……そんなに……?」
「ええ、ピンク色に塗れて光ってますね」
「うぅ……」

 気を良くした僕は更に、梓の秘部にもテープを貼る。水着を着るからか、股間部は際どいところまで毛が処理されているため、遠慮なくギリギリの所からテープを貼って引き延ばすことが出来る。外の襞を外向きに固定し、さらに内側の襞も細く切ったテープで縦横に拡げてやった。

「……はい、完成!」

 僕は梓の後ろから1歩離れてその様子を見て、満足げに頷いた。梓のお尻の穴、膣口、おしっこの穴はそれぞれめくれあがったように大きく拡張され、その内側の普段は絶対に見えない部分を空気に晒している。その中にまるで桃源郷が有るのではないかと言うくらい、目を引き寄せる絶景だ。

「これ……どれくらいやっていないといけないんですか?」

 困ったような、照れたような、そんな微妙な笑顔を僕に送ってくる梓。女の子として最も大事な場所の、その内側まで晒されて、恐らく死にそうに恥ずかしい思いをしているのだろう。そしてそれが同時に、強烈な楽しさにも変換されているはず。
 僕はニヤリと笑みを浮かべ、そして梓に告げる。

「そうですね……折角だし、ちょっと散歩でもしませんか?」

 「ほうっ」と梓はとろけたような息を吐き、そして「わかりました」と艶然と笑みを浮かべた。

 下半身が有り得ないほど剥き出しにされた梓を連れて、海岸を散歩する。流石に素っ裸で連れ回すには世間の目が怖いから、僕は自分の着ていた大きめのジャケットを梓に着せてやった。これなら身長の高い彼女でも股下数センチくらいまでは隠すことが出来る。ただし、少しでも屈んだらお尻は丸見えになってしまうが。水着はこのままの状態で着けると食い込んで敏感なところが大変な事になってしまいそうだったので、僕が預かっておく。

「あっ、先輩達デートですか?」

 途中で文紀に見つかり、走り寄られた。びくっと身体を震わせた梓が自然と一歩下がり、僕の背中に隠れるようにする。

「あれ? 御廚先輩顔が赤いです」
「ああ、ちょっと暑さにやられてね。僕が涼しいところまで連れていってあげてるところなのさ」
「そうなんですか。先輩、お大事に」

 心配そうな文紀に梓は辛うじて「あ、ありがとう」と笑顔を返す。僕が肩を抱くようにして促すと、足を引きずるように歩きだした。ふと下を見ると、彼女の太股の内側に膝のあたりまで水が垂れたような筋がある。

(へぇ……)

 もしかすると、梓もだんだん恥ずかしさが快感に変換され始めたのかもしれない。

(なら、そうだな……)

 僕は「梓さん、こっちは人が多いしあっちに行きましょう」と方向を変えた。梓は僕に黙ってついてくる。

 僕が向かったのは来るときに見えた東海岸までの道だ。あそこは段差が多い。うまく誘導すれば、とても楽しい光景が見られるはず。

 坂道を途中まで上り、分かれ道で石段を降りる方に進む。途中何度も折れ曲がる道を、僕はあえて梓より先に降りて振り返りつつ彼女が降りる様子を観察した。

「そうそう、ゆっくりで良いんで足下に注意して下さい」
「は、はい……」

 梓はジャケットの前を引っ張って隠しながら石段を一段ずつ降りてくる。だが、もともと足場が余り良くないのだ。結局危なそうなところは僕のアドバイスに従って上体を捻って両手を岩について足を下ろすため、大きく拡がった秘部が下から丸見えとなった。

 東海岸への道は単に下りだけで無く、木や大岩を迂回する為に道がぐるりと迂回して急な登り道になっている場所も有った。そういう所では僕は当然のように梓を先に行かせる。上の段に足をかけるために大きく開いた股の間の絶景に、僕は満足してニヤニヤ笑いを浮かべ続けた。

 そんな時、上を見ながら息を弾ませて登っていた梓が「あっ」と驚きの声をあげた。

「あのコだわ!」
「え? 誰?」

 梓のお尻に向かっていた視線を外して梓の見ている方を追ってみると、石段のそばの岩の上に小さな茶色い動物がいた。クリクリとした丸い目をきょろきょろ動かし、大きな耳はピクピクと盛んに動いている。
 どう見てもキツネと言うよりネズミ、大きく譲歩したとしても齧歯類を脱出する事は出来まい。あれ、可愛いかぁ?

「達巳君! さっきのビスケット、まだ持ってます?」

 梓が小声で下の僕に叫ぶ。また餌付けするつもりか。

「一応新しいのがそのポケットに入ってますよ」

 梓は無言で僕の貸したジャケットのポケットを探り、そこからまだ包装されたままのビスケットを取り出した。ああ、それは目的地に着いたら一緒に食べようと思っていたのに。
 ピリリと包装を破くと、梓はそれを摘んでそおっと岩の上の獣の方に差し出した。食べ物の匂いを感じたのか、そいつは首を伸ばしてひくひくと鼻を動かす。

 梓がさらに近づこうと足を上げた、獣の乗っている岩の出っ張りに片足をかけ、手をそちらに伸ばそうとする。肩の動きにジャケットが引っ張られ、梓のお尻を完全に剥き出しにした。さらに、これまでにない角度で開かれた脚の筋に引っ張られて、無数のテープが梓の秘部を大きく左右に引き延ばす。
 ぽっかりと口を開くお尻の穴。岩が焼けて熱いのか、背中にじっとりと浮かんだ汗が流れ、大きな穴の縁を回り込むように動いて内腿に達し、膝裏を通って僕の足下にポタリと落ちる。梓のお尻の穴を通った汗! なんとレアな光景だ!

「おぉ、凄いなこりゃ」
「えっ? あ、きゃっ!」

 思わず発した声に、梓は自分の格好と僕が下にいる事を思い出したようだ。悲鳴を上げてぱっと手を下ろしてお尻を隠す。突然の声と動きに、ネズミのような奴は身を翻して岩の後ろに隠れてしまった。

「あっ……」

 梓はまた失敗した事に気が付き、溜め息をつく。そして僕の方を睨むと、「めっ」と軽い調子で叱りつけた。僕はそれに苦笑いしながら頭を掻いたのだった。

 結局、それ以降その獣に会うことも無く目的地の東海岸に到着する。そこで僕は梓からテープを外してあげることにした。
 十分汗やそれとは違う分泌物で濡らされたせいか、テープは簡単に剥がすことが出来た。少し肌が赤くなっているが、これくらいならすぐ消えるだろう。

 じっと見つめていると、大きく拡がっていた梓の穴はきゅっと絞られて元の大きさの窄まりに落ち着いた。うん、実に良い締まりだ。

「いいですね。健康そのものですよ」
「あ、そうなんですか? 良かったぁ」

 梓が僕の言葉にほっとする。そして時間をかけて健康チェックをした事に、改めてお礼を言ってくれた。

「いやいや、梓さんの健康を心配するのは当然の事です。これで僕も安心できるというものですよ」
「はい。でも、ここまで面倒を見てくれるのは達巳君だけですよ。ありがとうございます」

 そう言われると悪い気はしないな。
 僕は梓に水着を返してやると、手を引いてやって来た道を戻ったのだった。

4.

 砂浜まで戻った後、梓は沢山汗をかいたのでシャワーを浴びに行くと言って僕と別れた。僕としてはまだ時間も有るし、もう少し悪戯したいところだったのだけど。

 手持ち無沙汰に海辺で遊んでいる娘達を眺めていると、その中の1人が「先輩!」と駆け寄ってきた。

「朝顔か。何か用かい?」

 朝顔は例の三繰の用意した水着を着ている上に、今は水遊びをしていたためにびっしょりと濡れている。僕の予測通り、水着はもはや隠すものではなくなり、その下の胸の突起や股間の割れ目を余すところ無く僕の目に晒していた。

「その、先輩。今お時間いいですか?」

 朝顔は昨日と同じように少しもじもじしながら頬を染めて、僕に小声で問いかける。

「別に暇だけど?」
「それなら、あの、またあの場所に連れていってもらえませんか?」
「あの場所?」

 顔を赤らめた朝顔の表情にピンと来る。なるほど、あの場所ね……。

「いいよ。どれくらい持ちそう?」
「まだ、30分くらいなら……」
「そりゃ大変だ。急ごう」

 僕は朝顔の手を握って早足で歩き出す。朝顔も黙って僕の手を握り返してくれた。

 昨日とは満ち引きの時間が違うのか、海岸の幅は少し狭くなっているようだった。岩場は昨日より危険かもしれない。まだ砂場のうちに朝顔の方に向いて「脱いどこっか?」と言うと、朝顔は素直に頷いて水着を脱いで全裸になる。そして手で胸を隠しながら当然の事のように水着を僕に手渡した。
 僕はこの濡れた水着をどうしようかと一瞬考え、そばの木に干すことにした。枝に肩紐を引っかけ、簡単に形を整える。これで、ここまで帰ってこないと絶対に朝顔は水着を着られない事になった。
 朝顔は僕の行為に少し狼狽したようだったが、「じゃ、行こう」と僕が手を引くと赤くなったまま頷いてついてきた。素直で結構。

 花の髪飾りとサンダルだけの真っ裸の朝顔の手を引いて大岩の近くの天然の段差を降り、昨日の窪みに到着する。やはり潮の引いた時間が違うようで、昨日僕が座った場所はまだ乾ききっておらず海水が水たまりを作っていた。さて、どうしよう。
 僕が思案していると、その手がくいっと引かれた。

「あの、先輩。今日は1人でやってみてもいいですか?」
「1人でって、そこで?」
「はい。手を持っていて貰えれば、1人でしゃがんで出来ますから」

 成る程。昨日より潮が高くて海が近いから、あのポーズじゃなくてもしゃがんでやればどうにか海に届きそうだ。まあ、かなり端っこに行かないといけないが。

「わかった。危なくないように手を持っててあげるね」
「はい。お願いします」

 朝顔はそう言うと、僕の手を離して4つん這いで岩の台へよじ登った。目の前で登ったため少女の小さなお尻の穴と、ぴったりと閉じた割れ目が丁度僕の方へ向く。そして上体を捻ってこちらを向き、僕の方へ手を伸ばして来たので僕はそれを黙って掴んでやった。朝顔の方も安心したように僕の手をきゅっと握る。
 少女は膝ともう片方の手で海側の端へと這って行き、そして縁の所で僕の手に捕まりながらゆっくりと足を立ててしゃがみ込んだ。さらに、僕に掴まっていない方の手を後ろに付いて背筋を伸ばし、踵を浮かせて膝を左右に開いていく。最終的に朝顔は股間を海に向かって見せつけるように突き出したポーズを取った。

 昨日は僕は少女の後ろにいたから肩越しにその股間が覗けただけだったが、今日は違う。横で手を握り、そして足がほぼ180度開いているためにその部分まで視線を遮るものは何も無い。左右の太股の内側の筋に引っ張られ、無毛の割れ目が僅かに開いて中の襞を晒している様がはっきりと見えた。
 朝顔がちらりと上目遣いでこちらを向き、僕と視線を合わせる。

「あの……先輩。出しますから……ちゃんと手、握っていて下さいね」
「うん。わかったよ」

 朝顔はほっとしたようにもう一度僕の手を握り直すと、視線を自分の股間に向けた。少女の薄い下腹部の動きで息み始めたのが見て取れる。しばらく待つと、そこからちょろちょろと飛沫が飛び始めた。

「おお、出た出た」
「えっと……ちょっと時間がかかるかもしれません……」

 僕が思わず歓声を上げると、朝顔は更に息んで放尿の勢いを増した。幾筋にも分かれていたおしっこが1本の放物線になり、びゅうっと音がしそうな勢いで海面に叩きつけられていく。僕はその光景を固唾を飲んで見守っている。朝顔も、時折ちらちらと僕が自分のことを見ていてくれているか確認しているようだった。

 朝顔の小水の発射口はそれ自体の飛沫のせいでよく見えないが、割れ目の真ん中辺りに有るのは間違いないだろう。そんな小さな穴から、良くもこんなに勢いのある水流を発射できるものだ。

「すごい勢いだね。朝顔の尿道は太いのかな」
「え、そんな事は……誰かと比べた事なんてありませんし……」

 じょろじょろと放出を続けながら2人で会話する。何とも間が抜けて、そして卑猥な感じだ。

「終わったらちょっと見せてくれる?」
「え、あの、その……でも、汚いですよ……?」
「そんなの洗えばいっしょいっしょ。見てもいい?」
「あの、その……い、いいですよ」
「よっし!」

 丁度さっき梓のも観察したし、覚えているうちに比較してみたい。それにはこのおしっこが早く終わってくれないと。

「まだ出そう?」
「あ、もう少しです」

 再び朝顔が息を詰めると、勢いが激しくなる。横から見ていると腹部に力が込められるのがよくわかる。股間からびゅうっびゅうっと水流が飛び出し、その後急速に勢いを無くして最後にぴゅっと飛沫を飛ばして後はポタポタ残滓を垂らすのみとなった。
 その様子をじっと見つめ、僕は確認のため声をかける。

「終わった?」
「……はい」
「じゃ、早速見せてくれる?」
「あ、洗わないと」
「いいからいいから」

 僕は岩棚の奥側に自分のジャケットを敷くと、朝顔を抱き上げてそこにころんと寝ころばせた。そして両膝を先ほどまでと同様、左右に一杯に開く。潮の匂いの中、広げられた朝顔の足の間からアンモニアの匂いが漂ってきた。トイレとかで嗅ぐこの臭いはたまらなく嫌なのに、これが朝顔のものだと何だか可愛いと思えてくるから不思議だ。

「脚、自分で持っててくれる?」
「は、はい……」

 朝顔は素直に膝を自分で抱えてくれた。僕は自分の両手が自由になったので、右手の親指と人差し指を使って無毛の割れ目を押し開く。そこには、小さな割れ目と比例するように小さな膣口がひっそりと口を開けていた。「ちっちゃいねぇ」と僕が感想を言うと、朝顔は赤らんだ顔をさらに真っ赤にした。

 左手も膣穴の周囲に添えてきゅっと広げてみるが、それでもそこは狭くて入口の付近しか見えてこない。本当にここから将来赤子が出てくるのだろうか。それより先に、ここに男のものを受け入れることが出来るのだろうか? 他人事ながらちょっと心配になる。

 顔を股間に近づけて良く探してみると、朝顔の尿道口はその小さな穴のちょっと上の方にぽちんと針で刺した程度の大きさで存在していた。注意深く見ていなければ見つける事は出来なかっただろう。

「ああ、有った。ここからおしっこが出るんだねぇ」

 僕はまだ少し塗れているそこを指先でちょんとつついた。朝顔はそれにぴくりと身体を震わせる。

「とてもあんな太いおしっこが出てきたとは思えないな」
「うう……ごめんなさい」
「いや、謝らなくても」

 恥ずかしさが限界に来たのか、朝顔はついに膝から手を離して顔を覆い、トンチンカンな返事を返した。僕はもう一度そこをちょんとつついてから朝顔の割れ目を解放してやる。手で膝を揃えてやってその裏に腕を通し、昨日と同じくお姫様抱っこで岩から降ろす。

「あ、ありがとうございます」
「じゃ、洗っちゃうね」

 僕はそう断ってから朝顔の股間を洗ってやった。指先を使って襞の間を擦って綺麗にしてやると、気持ちよさそうに息を吐く。
 丁寧にそこの汚れを落とし、最後に僕は自分のジャケットの裾で残った滴を拭ってやった。どうせ汚れちゃったし、洗濯するつもりだったからこれでいいか。

「はい、お終い。どうだった?」
「え、えっと……」

 前回と同じく感想を聞いてみる。昨日は「ちょっと気持ちよかった」だったけど、今日はどうかな?

「あの、その……」
「正直に言ってごらん」
「えっと……すごく、気持ちよかった……」

 イエス! 良い答えだ。ぽぉっとしながら答えた朝顔の頭を僕は優しく撫でてあげた。

「このまま帰れる?」
「はい……大丈夫です」

 朝顔が自然な事の様に僕の手を握り、こくんと頷いた。このまま、というのが「このまま裸でも平気」という意味だとしっかり理解している目だ。朝顔は賢いなぁ。
 僕はそれに微笑み、全裸の彼女の手を引いて歩き出した。時折振り返って様子を確認すると、火照った顔に笑顔を浮かべて首を傾げる。僕はその様子に、少し意地悪してみたくなった。

「ねえ、このまま水着を着ないで別荘まで戻ってみようか?」
「え?」

 朝顔は少し困ったような笑顔を浮かべ、そしておずおずと僕に言った。

「……せ、先輩がどうしてもって言うなら……いいですよ……」

 ああ、素直って可愛いなぁ!

< 続く >

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