BLACK DESIRE #23-3

6.

 「水上騎馬戦キャットファイト!」の得点計算は予定通りに大盛り上がりだった。バルーンが抜けずに四苦八苦する選手と役員と応援する観客達、そして抜けた後の大拡張して開きっぱなしの卑猥過ぎるお尻の穴。モニター越しだけの映像じゃ勿体ないので、全員役員席前の、というか僕の目の前でやって貰った。間近に見るその光景に僕の股間も大放出だ。もしも紫鶴に扱かれなかったとしても、みんなのあのぽっかりと空いた空洞に竿を指向するだけで白濁液を吸い出されそうだったよ。

 そういった大熱狂の後、僕はふと、別のモノをもよおしたのでトイレに行くことにした。ここまで散々白いのを出したり、女の子が出すところは見てたけど自分は全然行ってなかったよ。

「紫鶴さん、ちょっとトイレ行ってきます」
「はい。わかりました」

 当然のように紫鶴も立ち上がって僕に着いてこようとしたので、慌てて手を振って止める。

「あ、ここで待ってて下さい。ついでに汗かいたのでシャワーも浴びて来ますから」

 さすがにトイレに行った直後のモノは紫鶴に握らせられない。どうせ精液でべたべたになるけど、せめてトイレ後ぐらいは綺麗にしておかなくちゃね。怪訝そうに首を傾げる紫鶴を残し、僕は男子更衣室に隣接したトイレへと急ぎ足で向かった。最後の学年合同リレーの参加選手確認が終わるまでに戻ってこないとね。

 1人で用を足した後、更衣室でぱっぱっぱっとシャツとハーフパンツ、下着を脱ぎ捨ててシャワー室に入る。ここはさっきまでも何回か茜を始め女の子を何人も薬物調査にかこつけて放尿させた場所だ。それを洗い流したお陰で床のタイルは濡れて滑りやすくなっている。僕は室温と同等に冷たくなった床を踵を浮かせてひょこひょこと渡り、真ん中の個室のドアを開けて入り込んだ。ここのシャワーの個室は内側外側両方に開くスイングドアで、僕の身長だと肩から膝くらいまでの高さを隠すくらいの位置に設置されている。
 金属のレバーを操作して適温のお湯が出るように調整する。すぐに温水から沸き立つ湯気で個室内は暖かくなった。しばらく目を瞑って頭から浴びていると、外からひたひたとこのシャワー室内を近付いてくる足音に気付く。

(? 誰だ……?)

 その足音は僕の個室より数メートル前で止まると、そこから声を掛けてきた。

「……郁太さんですか?」
「あれ? 紫鶴さん?」

 声の主は紫鶴だったのか。待っててって言ったのに、どうして?

「どうかしましたか?」
「郁太さん、タオルを持ってなかったようだったので、気になって……」
「あ。忘れてました」
「やっぱり」

 声の調子が少し明るくなった。笑ってるんだな、紫鶴。

「そう思って、持ってきました。更衣室に置いておきますね」
「すみません。ありがとうございます」
「どういたしまして」

 ひたひたとタイルを歩く音が遠ざかって行き、やがて更衣室のある方のドアが開閉する音と共に途切れた。

 いや、やっぱり紫鶴は凄い女性(ひと)だな。良く見てるし、良く気が付くし。僕の能力って、常識や現在の認識を変えることは出来るけど、その人の生来持ってる気質とか、他者へのスタンスとかを根本から覆す事は出来ないんだよね。だから、例えば須藤茜みたいな勝ち気な娘に、お淑やかで気遣いの出来る娘の様に振る舞わせようとしても、「そうしなければいけないと思い込んで」四苦八苦する様を見るくらいの事しか出来ないんだ。
 今現在紫鶴は「奉仕員長」として僕を気持ち良くさせなければならないと思い込んでるけど、それはそういう役割について無理矢理納得させているだけで、今みたいに「シャワーを浴びるならタオルを持って行ってあげないと」って気遣いをしろって命じた訳じゃない。その行動は紫鶴本来の性格によるものなんだ。多分、黒い本の力を使わなくったって紫鶴は同じシチュエーションなら同じ様に僕に気を遣ってくれるのだろう。誰にだって……僕のような者にだって分け隔て無く優しい紫鶴。だから、凄いんだよね。

 僕が紫鶴の行動に感激していると、再び更衣室側のドアが開く気配がした。彼女が戻ってきたのかな、と思ってたらやっぱりそうだ。

「郁太さん、ドアの左手の籠の中に置いておきました」
「あ、ありがとうございます」

 それで終わりかな、と思ったら今度は予想が外れてまだ続きがあった。

「私も汗をかいたのでシャワーを浴びようと思うんですけど……隣、良いですか?」
「え? あ、はい」
「ありがとうございます」

 僕の隣の個室のドアがキイッと僅かに軋み、隣の敷居の裾の所に僅かに足首が見えた。直ぐにシャーッとシャワーが出る音が隣からも聞こえ始める。……って、ええ!? 今、僕のすぐ隣に裸の紫鶴が居るの!?
 いや、紫鶴の裸はもう何度も見てるんだけどさ。だけど、そうじゃないんだよ。一度見たから次はもう感動が無いって事が全然無くてさ。見る度に見惚れると言うか、見る度に更に深く感動するって言うか。瞳を濁らせている物が見る度に剥がれていくと言うか。……上手く言えないけど、わかるかなぁ? 例えどれほど僕の視線に晒されて、それこそ24時間、365日見続けたって決してその本質に手が届かない彼方の「光」……正しく、「星」の様な存在なんだ。

 そんな紫鶴が、僕の直ぐ横、2m以内の場所で全裸でシャワーを浴びている。さっきまではまだプール内の倒錯した環境の眩しさでその「光」も中和されていた。だけど、2人きりの、しかも冷たく人工の光だけが照らす閉ざされた室内での接近となり、急激にその存在感が増していく。や、やばい。興奮とかじゃなくて、純粋に彼女と2人でこの場にいるという幸福感だけでドキドキしてきた。

 上の空の手付きでシャワーを浴びる。意識は紫鶴の方の個室に向かいっ放しで何も意味の有る事を考えられない。そうこうする内、隣でキュ、とシャワーが止まった。

「郁太さん……?」
「え!? あ、はい、もう出ますか?」
「……」

 咄嗟に思った事をそのまま答えてしまい、一瞬の後、様子を伺っていた事がバレバレな事に気が付いて「うをーっ!」と頭を抱える。だが、紫鶴はそんな僕の苦悩を知ってか知らずにか、少しの間の後、僕の思考が空白になる様な思いがけない言葉を呟いた。

「……私、郁太さんのお役に立っていますか?」
「……………………………………は?」

 間抜けな返答後、更に暫くの間、紫鶴の言った意味が分からなくて沈黙してしまう。フォローの言葉に悩むとか、そういう問題では無い。だってそうでしょ? 星を綺麗だなぁ、って眺めている人が突然その星から「私ってあなたの役に立ってる?」って聞かれた様なものだったんだもん。
 僕の沈黙をどう受け取ったのか、紫鶴はゆっくりと、言葉を噛み締める様に喋り続ける。

「私、自惚れていました」
「……」

 これも、返答に困る。と言うか、これは本当に紫鶴の言葉なのだろうかと心配になり、僕は耳を小指でほじくった。そしてようやくシャワーが出し放しだった事に気が付いて慌てて止める。ぴたっと室内に響いていた雑音が一気に止まり、ぴちゃんぴちゃんと水滴が落ちる音のみが響く静寂に包まれる。壁にぶつかった紫鶴の声が虚ろに、しかし鮮明に反響して僕の耳に届いた。

「今回の体育祭で郁太さんに『奉仕員長』に抜擢されて……私、嬉しかったんです。きっと郁太さんにとって重要で、大切な役割なんだと思いました」

 それはもちろん、その通りだ。だが、そうじゃない。紫鶴は、そういう事を言っているんじゃ無い。

「だけど本当は、郁太さんにはそんな役は必要なかったんですね」

 『紫鶴を奉仕役にする事』、それは『僕の目的』にとっては重要だ。だけど、『奉仕員長』は、『体育祭運営』には、必須の役割ではなかった。あくまで、脇役……運営委員長に付き従うのが役目の、サブポジションだ。

「郁太さんは……特別役員でありながら体育祭で特に役割を持たなかった私を見かねて、役職を与えて下さっただけだったんですね」

 それは違う。いや、違わない? 僕は体育祭が始まる前、紫鶴の役職が空いたままになってるのを見て何と思った? 『ちょうどいいや。』『これを機会に、紫鶴に僕に興味を持ってもらえたらいいな。』

 ……。
 ………………。

 ……僕はアホだ。
 紫鶴がどういう想いで昨年、病院のベッドで過ごしていたのか想像してもみなかった。
 いや、紫鶴が自分の留年に対し、全くコンプレックスなんて感じているはずが無いと勝手に偶像化して、自分に都合の良い完璧な女性のイメージを押しつけていた。
 まともな神経の人間ならこう考えたはずだ。

『去年参加できなかった分、今年はみんなで一緒に楽しもう!』

 なのに、僕は勝手に自分の都合で紫鶴を側に囲い、競技とも、応援とも隔離された孤独なポジションに彼女を置いて悦に入っていた。これじゃ、プール大作戦の時と同じじゃないか! また、僕はやってしまった……!

 紫鶴は沈黙している。僕の返答を待っているのか、それとももう落胆して言葉も無いのか。考えろっ、考えるんだっ! 彼女の事を思って、一心に考えろっ!
 今更紫鶴を他の一般生徒と同じポジションに戻すのは無理だ。それじゃ、ほんとに紫鶴が用無しになって解雇されたみたいになってしまう。そうじゃなくて、紫鶴の立ち位置がこの体育祭に必要で、彼女にも参加していると実感できる様な意味合いを与えなくてはならないんだ。

 その時、はっと僕の中に差す光明に気が付いた。1週間前、宮子と結ばれた日に、自分の中に見出した一筋の光。……「救いたい」という、願い。
 ……紫鶴も、救えるのか? 僕に。あの大作戦の時に彼女の胸に残った手術跡を消そうとしたみたいに、彼女の心に付いた傷を、癒す事ができるのか?

 彼女が求めているものは何だ。昨年参加できなかった時間を取り戻す? 違う。そんな自分本位なものじゃ無い。思い出せ。あの達巳裁判の時、紫鶴は自分自身を何と批判した?

 ――象徴としての存在が、正しくあろうとすれば正義は在り、清くあらんとすれば学園の風紀も保たれるのだと――

 ――それはつまり、昨年の星漣が病んでいた事を象徴しているのです――

 ……!
 そうだ、紫鶴は、象徴としての自分が病に倒れたことで、あたかも星漣学園が病んで様々な事件が起こったかの様に思い込んでいた!

 因果関係が有るのかどうかはわからない。本当にセイレン・シスターの不在が暗い不安となって事件を呼び込んだのかもしれないし、単にその年に不幸が重なっただけだったのかもしれない。でもそれは、今のこの星漣には関係無いし、断ち切らなければならない事だ。そう、あの七月事件が達巳裁判で終結した様に。

 そうだ。紫鶴には、「昨年の星漣の象徴」では無く、「今の星漣の象徴」となって貰わなければならない。単なる去年の繰り越しでは無く、僕の目指す、僕の魔力回収機関となる星漣学園の、「星」に。逆説的だが、一般選手に認められない「奉仕の特権」を持つ存在では無く、一般選手の目指すべき「奉仕の志」を体現する存在となって貰わなくてはならないのだ。

「し……紫鶴さんっ!」
「は、はいっ!」

 僕は紫鶴の心が今の隣り合った個室の距離よりも離れてしまわないよう、急いで呼びかけた。返事の声の語尾が、僅かに震えていた気がする。夢中で個室の壁越しに呼びかけ続けた。

「済みません、紫鶴さん! 僕が……僕のせいなんです!」
「え……?」
「紫鶴さんがそんな風に感じてしまうのは、僕の我が儘のせいです!」

 紫鶴に隠し事なんてする意味は無い。正直に白状して良いんだ。彼女の内に、僕の狭量を受け止めるだけの星空のような広大さが無ければ、ここまで僕が惹かれる事も無いのだから。

「僕は、紫鶴さんにもっと興味を持って欲しくて、自分の側にあなたを置きました。奉仕員長なんて名目で、僕の望む時に側に居てくれる様にしただけなんです……!」
「……」
「済みません。本当に済みません……! だけど、そんな我が儘は間違いだったって、今、やっと気が付きました。今日はもう、後1種目しかないから修正は出来ないけど、来週までに何とかしてみます。生徒会長も説得してみせます……!」
「……私は、奉仕員長では無くなるんですか……?」

 静かに、呟くように返ってきた紫鶴の声。良かった、まだ紫鶴は「そこに」居てくれた。

「奉仕員長という役名は残ります。ただ、その意味が変わります。僕に対する個人的で性的な奉仕では無く、選手全員……いえ、星漣学園全体の愛情を体現する存在へと」
「……!」
「紫鶴さんには、星漣の『奉仕の君』になってもらいたいんです!」

 僕の思いが通じただろうか? 隣の個室は沈黙している。だが、壁越しにこちらの言葉を、僕の意志を感じ取ろうとする彼女の存在感だけはまだしっかりある。
 僕自身、まだ自分で何を言って良いかまとまっていないんだ。そこにあるのは単なるイメージだ。だけど、そのイメージの中心には間違いなく天使の微笑みを浮かべる紫鶴が居て、そしてその輝きが星漣学園全体を覆っている。それは、決して間違った想像では無いはずだ。

「紫鶴さん、僕はあなたに、この学園の生徒をまとめてもらいたい。紫鶴さん。紫鶴さん……!」

 勢いのまま、僕は紫鶴に呼びかける。何度も、何度も。

 ……やがて、ようやく彼女は、ぽつりと応えてくれた。

「……私に、そんな事ができると思いますか?」
「できます」

 即座に僕は返答した。

「僕の知っている紫鶴さんなら、できます」
「私は、郁太さんの思っている様な力の在る者ではありません」

 僕は紫鶴のその言葉に破顔した。見えなくても、声に乗って僕の笑顔が届いて欲しいと願いながら心から口にする。

「紫鶴さん、僕はそんな心配してませんよ」
「……」
「だって、紫鶴さんは僕が言わなくたって自然にそれが出来る人なんですから」
「でも……私は郁太さんに教わりながらでなければ、満足させる事も……」
「『心』なんですよ、紫鶴さん」

 紫鶴の言葉を遮り、僕は強く言い切った。

「『心』です。あなたの、紫鶴さんの気質と言ってもいい。それは、他の誰でもない、紫鶴さんの光だ。この星漣を導く星の光です。僕はそれを知っています。だからこそ、紫鶴さんには出来ると思ったんです」
「私の……?」

 そう。僕はついさっき、この朝にだって紫鶴の気質について感銘を受けたばっかりだった。その出来事が有ったからこそ、僕は彼女を「星」とする事を思い付いたのだ。

「思い出して下さい。今朝の事です。開会式の後、役員席に僕と紫鶴さんが居た時、何人かの生徒がやってきましたよね?」
「……おトイレの……」
「そうです。そして、僕と一緒にみんなで移動しましたよね?」

 僕の脳裏に、その時の……紫鶴を中心とした、屋外小便所での一時の光景が蘇り始める。

「……その時、あなたが何をしたのか……あなたが、僕に何を見せてくれたのか……それを、思い出して下さい――」

 ――開会式会場のグラウンドに一番近い「特設小便所」は、その東に少し行ったところに指定してあった。僕は裸の紫鶴と同じ格好の少女達を引き連れ、撮影用カメラを手にウキウキとそっちへ向かう。
 星漣学園は山の上に有るため、大半は平坦な敷地になっているがそれでも一部の区画に高低差がある。プールのある北側は殆どが校舎より土台が高くなっていて、武道館のある北東部が最高となる。その他としては、ヤシロザクラのある南東部の丘など一部の区域も高くなっている。僕たちが向かうグラウンド東部も武道館のある地域に近いため、ちょっとした斜面に出来た林になっていた。その中を蛇行しながら進む石畳の道を辿っていく。しばらく進むと前方で林が途切れ、そこに一見小川の様な水の流れが見えてきた。

「ここですか?」
「ええ、ここです」

 紫鶴が首を傾げて尋ねてきたので僕は笑顔で頷く。

 小川のように見えたのは学園より上の方から流れてくる地下水が、一時的に地上に出てきたものだ。敷地の中を通る間はしっかりとコンクリートで舗装され、そして学園の環状歩道の東端にぶつかる前にまた地下に潜る。水路は雨で水嵩が増す事を考えて緩いV字型に深くなっていて、今は先日までの雨の影響かその4分の1くらいが水流から露出して乾いていた。
 水路の向こう側は2mくらいの範囲で芝生になっている。そして、さらにその向こうには低い縁で囲われた花壇が有った。あそこを管理してるのはどこのクラスだろう?

「ああ、コスモスですね。本当に綺麗……」

 紫鶴がそこに沢山咲いている薄紅色の花に顔を綻ばせた。一緒に来ていた女子生徒の1人が照れた様に顔を俯かせる。紫鶴が笑みを深くして「あなたのクラス?」と尋ねると、真っ赤になってコクンと頷いていた。

 さて、僕は紫鶴達にこれからしてもらう事について思案した。椿組のみんなと事前調査に来た時は雨も降ってなかったのであの水路も殆ど乾いていた。だから、水路を跨いですればいいやと結論付けたんだけど、今は様相が変わっている。水流は幅1mくらい有るし、そこを跨いでされると僕も濡れないと近距離での観察が出来ない。どうしよう?
 着いて来た娘達も実施要項にある内容との相違に不安を感じた様だ。

「あの……あそこでするんですか?」
「ん……水が思ったより多いんだよね」

 水路の両サイドは傾斜になっているし、そこに立ってやるのも不安定だな。そうやって僕が悩んでいると、紫鶴がそっと頭を寄せてきた。

「郁太さん、向こう岸の芝生に座ってしたら駄目ですか?」
「え? いえ、駄目では無いですけど」
「運営委員長の郁太さんに見てもらえれば良いんですよね? あちらの芝生ならスペースも有りますし、撮影も出来ませんか?」
「でも、水路を渡らないと……」

 ここから水脈が地面に潜る位置まで移動したら、もうプールに直接行った方が近くなってしまう。だが、その懸念に対し紫鶴は微笑んだ。

「水も綺麗ですし、裸足になって渡ってしまいましょう」
「あ……そうか」
「最初、私がモデルなんですよね? 先に渡って、手を引いてもらえますか?」
「任せて下さい」

 僕は他の娘達に、まずはここでのやり方を紫鶴が説明してくれる旨を伝え、こちら側で良く見ておくように指示した。そして、念のため僕も裸足になって対岸に跳び移り、そして裸足でコンクリートの斜面に立つ紫鶴に手を差し出す。伸ばされた手に、紫鶴のしなやかな感触の手が掴まってきた。ゆっくりと、爪先から水に入ってこちらに向かって足を進める、生まれたままの姿の紫鶴。水面に反射した陽光がきらきらとその白い肌に模様を創り、まるで光の妖精が戯れているようだ。
 そして、紫鶴はその水流を渡り切ると僕の手に両手を重ね、「ありがとうございます、郁太さん」と天使のような微笑みを僕に向けてくれた。

「この辺りでよろしいですか?」
「あ、ああ、はい。い、いいんじゃないですか? いえ、いいと思います」

 胸の高鳴りのせいでどぎまぎとしながら返答する僕。紫鶴はそんな僕の手に掴まりながら、芝生の斜面にゆっくりと腰を下ろしていった。お尻が草の上に乗り、先に落ちて広がったその長い髪の上に背中が着く。斜めの地面に半ば寝そべる様な格好になった。その状態で、紫鶴は軽く膝を曲げ、太腿と太腿の間に自ら隙間を作る。上体を軽く持ち上げ、膝の間から下の水流の方を見やった。そして、手を握ったままの僕を見上げて再度微笑む。

「良さそうですね」

 紫鶴は少し声を大きくして向こう岸の少女達に、危なくないところまで前に来るように伝えた。

「もう、手……離しても大丈夫ですよ」
「は、はい」
「後は、郁太さんが指示していただけますか?」
「りょ……了解です」

 紫鶴の手が離れた後、僕はドキドキしながら慎重に坂を下って紫鶴の膝の横くらいにしゃがみ込んだ。そこから見上げると、微笑を浮かべながら裸で芝生に横たわった紫鶴の全身を見渡す事ができる。
 どんな時も慈母の様な暖かな笑顔を浮かべている紫鶴の顔。長く、綺麗に整い、痛みも無くしなやかで良い匂いのする紫鶴の髪。優美と言う言葉をそのまま形にしたような首筋から肩に掛けてのライン。彼女の内面の豊かさを母性として発現させている胸。その豊かさを集約させ、赤子の唇を慰撫するかのような優しさを湛えるピンク色の先端部。すらりとスマートに無駄のない造形美を見せる腰つき。腹部に上品にへこみを形作るお臍。長く、しなやかで、そしてしとやかな佇まいの手脚……。
 全てが、完璧だった。全てのこの世界の善いもの、それが集まって、その上で更に天の采配で美の昇華が為された様な、そんな姿だった。

(女の子の綺麗な裸を見て、感激で目が潤む事も有るんだな……)

 眩しげに目を細めながら、僕は心底そう思った。ふとこの感動の光景ををみんなはどう感じているのかと後ろに目をやると、対岸の女生徒達もぽぉっと紫鶴の姿に見とれている。僕より距離が有るから眩しさに目が眩むほどでは無さそうだが、それでも思考を止めるくらいの影響力は有るようである。

 そして、そんな紫鶴の両太腿は今、彼女自身の意志で僅かに左右に開かれ、その内側の様子を明らかにしている。僕はグビリと唾を飲み込み、そこに目をやった。
 整った佇まいを見せる茂みの乗った下腹部。その下、両脚の付け根の部分に、紫鶴の大切な部分が静かに息付いていた。少女自身の呼吸に併せ、上下する下腹部の最も奥まった部分に皮膚の切れ目の様な縦に延びた割れ目が見える。ドコンと心臓に拳銃の弾を撃ち込まれたような激震が起こった。
 ここが、紫鶴の、オンナノコの部分。紫鶴の、最もハズカシイところ。紫鶴の、内面との境の場所。
 僕は内心の震えを必死に押し殺しながら彼女に要求した。

「し、紫鶴さん。股の……その、割れ目のところを、指で開いてもらえますか?」
「はい、わかりました」

 ためらいも無くそう答え、紫鶴はさっきまで僕の手を握っていた指先を下腹部に置いた。そして膝をもう少し外に開いて股の間を開放し、人差し指と中指を割れ目の間に沈ませ、くいっと開く。鮮やかな色合いの内襞の姿が僕の目に飛び込んできた。
 思考が止まったようになり、視線に勝手にズームがかかる。いや、逆か、衝撃に視野狭窄となってその部分しか見えなくなったのか。とにかく、僕の脳裏にはもう、その時、紫鶴の秘部で一杯になってしまった。清潔なちょっと厚手のカーテンのように開かれた襞。その内側の形良く整った前庭。お淑やかに隠れながら、しかし存在感を持った小さな突起。そんな気品を備えた紫鶴の部位の中、唯一少し口を開き、僕の視線を誘うように僅かに開閉する彼女の膣口……。膝を曲げて足首を軽く引き寄せているから、それらの部位の下方に丁寧な造形の肛門部も見えている。ここから、紫鶴が僕と同じように排泄するなんて信じられない。

「これでよろしいでしょうか?」
「……あ……えっと……!」

 紫鶴に話しかけられるまで、僕は惚けてしまっていた様だ。僕の慌てぶりに紫鶴は少し首を傾げる。

「あ……、か、カメラ! カメラで撮りますね!」
「はい、どうぞ」

 やばい。完全に動揺している。僕はようやくこの小便所使用の取り決めを思い出してハンディカムを持ち上げ、電源を入れて構えた。紫鶴は微笑みを崩すことなく、僕が撮影しやすいように更に膝を崩して僕をその間に迎え入れてくれる。先程も見た光景、しかし決して見飽きない至高の映像がメモリーに録画され始める。
 僕が茂みの方からアップでレンズを近づけると、紫鶴は自分から「見えやすくした方がいいですよね?」と言って、僕がぶんぶん首を縦に振るのを確認してから両手の指を使って「どうぞ」と秘部を開いてくれた。
 クリトリスを撮るときはそれを剥き出しにして先端部のつやっとした様子を露わにしてくれ、膣口付近なら指で穴を広げるように引き延ばして内側の様子が見えるようにしてくれた。その内部に僕は間違いなく彼女の乙女の証を見て、魂が奈落から浄土へ吹き飛ばされるような歓喜に包まれた。更には、この撮影の目的ではないのにカメラの動きを見てお尻の穴まで見えやすいようにしてくれる。

「ここも……撮りますか?」
「は、はい! 見せてもらっていいですか?」
「いいですよ。少し浮かせた方が見えやすいですよね?」

 そう言って、紫鶴は少し腰を浮かせてカメラのレンズに肛門が直接向かうようにしてから、その窄まりを指で僅かに開いてくれた。体勢が悪いから大きく拡張する事は出来ないけど、僕の気持ちを察してそんなところまで見せてくれる心遣いに感動する。
 十分にその部分を撮影した後、カメラが最初の位置の付近に戻ってきたのを見て紫鶴はふうっと力を抜いて、腰を下ろした。

「後は、どこを撮りますか?」
「その、紫鶴さんが実際に……おしっこをする部分を」
「はい、わかりました」

 「見えると良いんですけど……」と紫鶴の指がクリトリスの下、膣穴の上の部分を引き延ばす。僕はカメラをマクロモードにして、そこを舐めるようにレンズを近付けた。しばらくその箇所を探して手がブレていると、彼女は「ここですよ」と微笑みながら僕を導いた。
 カメラの液晶モニタに、小さくぽつっと口を開いた紫鶴の尿道口が捉えられる。僕が思わず「あ、有った!」と喜びの声を上げると、紫鶴も「良かった」とにっこりと笑ってくれた。

「こ、ここから紫鶴さんが……」
「はい。この部分からおしっこを出します」

 紫鶴の笑いながらの言葉に、僕の方が赤くなってしまう。紫鶴は、これが僕の定めた小便所の使用法の手順だと信じ込んでいるから、全ての僕の要求に疑うことなく従ってくれる。でも、それが必要な事だと認識するのと、他者に自分の排泄する場所を観察され、撮影される事を平気に感じるのとは別の事だ。何故、紫鶴はこんな風に恥ずかしがらずにいられるのだろう?
 疑問を頭の片隅に残しつつ、それでも夢中になって紫鶴のおしっこの穴を撮影する。十分な時間をかけ、紫鶴の指で開いた出口付近の尿道内の粘膜までぐるりと一周マクロ撮影し、僕はカメラを離した。紫鶴が僕を見つめてくる。

「……終わりですか?」
「後は、実際にしているところを撮ります」
「はい」

 そして、何でもない事の様に紫鶴は僕に、「ありがとうございました」と礼を言った。その言葉に僕は、はっとする。

(そうか! 紫鶴には僕に対する「恥」というイメージが無いんだ!)

 羞恥というのは、他者の視線を意識するから生まれてくる感情だ。アダムとイブの物語を思い出してみれば良い。裸でいる事を「恥」と感じるのは、2人が知恵を得てからだ。「自我」が「他者」を意識しだしてからその感覚は発生する。
 社会性の生き物である人間にとって、「恥」とは他者と同等で在ろうとしながら異なる、または劣る「何か」によって不整合を認識した時に発生する感情だ。それによって他者から差別されたり、悪意を持たれる事を恐れるからこそ「恥」を無くそうと努力する。

 だけど、紫鶴は裸体を晒したり、排泄するところを見せたとしてもそれによって僕に悪意を持たれる事を全く想定していない。いや、違うな。そういった行為も、全て僕に喜びをもって迎え入れられると信頼しているんだ。だから、そこに「はにかみ」の様な正の感情は起きても「恥」という負の感情は生まれてこない。
 例え僕が紫鶴の裸に欲情している事を告げても、彼女はそれを喜んでくれるだろう。紫鶴にとって、彼女の美しさを褒める事も、優しさをたたえる事も、そしてその身体のやらしさを告げる事も、全て同じ様に僕からの好意的な正の感情となるのだ。だから、僕が自分勝手に押し付けてやらせた事も全て喜び、感謝をもってしてくれる。
 これが、紫鶴が今、全く羞恥心を持たず僕に従ってくれている事の正体だ。

 僕の心にふわっと優しく衣が掛けられた様だった。紫鶴の心の温かさという天使の羽衣が、僕を至福の心地よさと安らぎに包み込む。僕はぽかぽかと暖まった胸の内の弾みをそのままに、明るい声で紫鶴にお願いした。

「紫鶴さん! それじゃ、僕にあなたのおしっこしているところを見せて下さい!」

 当然、紫鶴は微笑んで返す。

「はい。わかりました」
「いいんですか? 僕にしてるとこ、撮らせてくれるんですか?」
「ええ、いいですよ。郁太さん、私がおしっこしてるところ、いっぱい撮影して下さいね」
「もちろん! あっちのみんなにも、見てもらえるようにして下さいね」
「はい。みなさん、お願いしますね」

 紫鶴は対岸で顔を赤らめて自分の姿を食い入るように見つめている少女達の姿を確認し、柔らかく微笑んだ。そして先程の秘部のマクロ撮影時の様に両手の指を使って割れ目を一杯に開く。僕の位置から、紫鶴の尿道口が斜めに空を見上げている様子が良く見えた。

「これでいいでしょうか?」
「ええ、ちゃんと見えてると思います」
「ありがとうございます。郁太さんの方も準備が良かったら、教えて下さいね」

 これから放尿姿を撮影されるのに、僕の準備まで気を使ってくれるのか。本当に、有り難い。僕は念のためにバッテリーや録画可能時間の表示を2度見直して、全てが問題ない事を確認した。

「準備OKです。紫鶴さん、いっぱい出して下さいね」
「ええ、がんばって出します」

 紫鶴が目を細め、「ん……」と小さく声を出す。それと同時にお腹の辺りがきゅっと動き、身体のどこかに力が込められた事を感じさせた。股間部の襞も一瞬ぷるっと震えた様な気がする。すーっと僕の目線がその部分に吸い寄せられ、時間がゆっくりになった様に感じられた。
 紫鶴の股間に開いた小さな穴の縁が、きゅんっと身震いする。次の瞬間、ふわっと力が抜けたように拡大し、そして続けて内からの圧力にぱくっと大きく口を開きながら一気に水流を吐き出した。紫鶴のおしっこだ! 思わず僕は口走っていた。

「出た! 紫鶴さんのおしっこ! 本当に!」

 それを彼女は僕の喜びの声だと受け取ってくれたのだろう。僕を見上げ、優しく笑ってくれた。

「はい。私のおしっこです。私がおしっこを出すところ、郁太さんに見てもらってます」
「綺麗に飛んでる! 凄い、一本線だよ!」

 その水流は寝そべった紫鶴の股間から空に向かって30度くらいの角度で飛び出し、一本の放物線を描いて水路のコンクリートに落着していた。水が堅い地面に弾ける音が辺りに響いている。
 斜面に落ちて跳ね返った飛沫は水路の中に飛び込んでその水流を乱し、速やかに溶けて混ざる。それ以外の大半の水分もコンクリートの傾きに沿って流れ、新しい水流を作って水路へと合流していった。

 それらの様子を、対岸の少女達も半分夢を見ているような顔つきで眺めている。僕はそれに嬉しくなって紫鶴に呼びかけた。

「紫鶴さんのおしっこ、みんな見てるよ! みんなが紫鶴さんがおしっこしてるとこ、見ちゃってるんだ!」
「そうですね。みなさんの参考になれば良いのですけど」
「何言ってるの! 紫鶴さんのおしっこだよ!? 世界で一番に決まってるよ! みんなの憧れのおしっこだよっ!」

 興奮の余り、僕も自分で何を言っているのかわからなくなってきた。だけど僕の言いたい事は感覚で感じ取ってくれたのだろう。紫鶴は放尿を続けながら、僕にだけ笑いかけて「ありがとう、郁太さん」と言ってくれた。

 やがて、紫鶴の放尿は勢いが弱くなり、すうっと時計が巻き戻るように放物線が彼女の股の間に消えていった。何か問いたげな表情でこちらを見上げたので、聞いてみる。

「……出し切りました?」
「もうちょっとだけ、残ってるんです」

 ああ、そういう事? 僕は紫鶴の気遣いに本当に嬉しくなった。膀胱って筋肉で、筋肉は縮む時に力が出る。だから、縮みきる時、つまり、出し終わる瞬間が一番圧力が強くなるんだ。紫鶴は理屈で知ってたのかどうかは分からないけど、わざわざ最後に出し切る瞬間を僕に注目してもらうために、一度おしっこを止めてくれたんだ。凄いなぁ。

「じゃあ、せーのっで出し切ってくれますか?」
「ええ。お願いします、郁太さん」

 微笑みながら僕の合図を待ってくれている。こんなところまで僕に委ねられるなんて! 素晴らしい人だ!

「じゃ、行きますよ……せーのっ!」
「せーのっ……んんっ……!」

 僕の目に、紫鶴の尿道口が今までで一番の広がりを見せる様が焼き付いた。びゅるっと噴出音まで響かせて飛び出した紫鶴の最後のおしっこ。それは今までで一番遠くまで飛んで、一番綺麗な放物線を描いた。

 紫鶴の放尿が終わった後、立ち上がった彼女と協力して見学組だった少女達をこちら側に渡す。そして紫鶴と同じ様に芝生に寝そべらせた。

「心配しないで。郁太さんが見ていてくれますからね」

 初めての経験に不安そうな娘達に、優しく微笑みながら声をかけていく紫鶴。僕の方はと言えば、そんな少女達をカメラに収めながら、意識の方は聖母の様な立ち振る舞いの紫鶴に奪われていた。今から放尿する君達には悪いけど、やっぱり紫鶴は僕の中で別格なんだ。あれだけ執拗に彼女の放尿姿を追いかけたというのに、まだまだ僕の興味は尽きる気配が無さそうだ。

 紫鶴に見守られながらの連続放尿が終わった後、彼女は少女の1人が少し調子が悪そうなのに気が付いて声をかけた。「……そう……ええ。我慢できる?」とその娘から事情を聞いた紫鶴は、僕に素早く近寄って耳打ちしてくれた。

「郁太さん。あの……1人、別のトイレに行きたくなった娘がいて……」

 別のトイレ? ああ、おっきい方ね。開放的な状況で「小」の方をやったら、身体が勝手にもう一つの方も開放しちゃおうとしてるのかな。
 「大」が出来る屋外トイレは設定していないから、当然普通の屋内トイレを使うしかない。ここからなら……むう、食堂か、もういっそプールに向かった方が良いかもしれない。それか、敢えてここから離れてどこかの草むらで……星漣のお嬢様にそれは無いか。

 その娘は青ざめた表情で一番に水路を渡ると、早足で先行して林の中に消えて行った。我慢して食堂のトイレに行くってさ。間に合えば良いけど。……まあ、もしも間に合わなくても制服や下着を汚す心配だけは無いから、そこは安心しても良いかな。あの魔法の鉢巻きにお尻の中をスッキリさせる能力も付与しておけば良かったかなぁ。
 紫鶴は先に行った娘の事を大分気にしている様だ。他の娘をもう一度林側に渡しながら、名残惜しくちらちらと視線を少女が消えた方に向けている。ふと、僕は思い付いた。今の紫鶴にとって、僕から「その行為」を依頼したらどういう風に感じられるんだろう? 試しに聞いてみよう。

「紫鶴さん」
「あ……はい、何ですか?」

 身を屈めて靴を履いていた手を止め、僕の方へ向き直る紫鶴。

「この屋外小便所が『大』でも使えるかどうか調べたいんで、試しにお願いできますか?」

 でも、こんな要望にすら紫鶴は。

「ええ、いいですよ。ここですればいいんですね?」

 と、微笑んで頷いた。僕は内心の感情を押し殺しつつ「あ、やっぱりもう時間無いんでいいです」と手を振って止め、林の石畳の方へ促した。少し残念そうな感じで「そう言えばそうですね」と笑う紫鶴。みんなで揃ってプールの方へ向かう。

 もしも止めなければ、紫鶴はそのまま迷う事も恥じらう事もなく僕の目の前でしてくれたんだろう。「撮影して良いですか」と聞けば、もちろん「ええ、どうぞ」と返ってきただろう。そしてあの整った窄まりをいっぱいに開いて、さっきの放尿時の様に僕に気遣いながら全て出し切ってくれたはずだ。
 きっと紫鶴は、僕が「紫鶴さんの排泄姿をオカズにオナニーして、出てきたブツが肛門から垂れ下がっているところにぶっかけたい」とかとんでも無く変態的な要求を突き付けても、微笑みながら「いいですよ、出してる途中で止めますね」と承諾してくれる。今の紫鶴は、僕の要求を疑う事ができないから。

 紫鶴は、僕からの有りとあらゆる感情……例えそれが悪意や、嗜虐心であっても……が、全て善の、肯定的なものとして捉えられるているのだ。だから僕の要求に対し「恥」を感じないし、感じる必要も無いと無意識に判断してしまっている。全幅の信頼どころでは無い。「全幅全長全高全域の信頼」だ。これは、ブラックデザイアで「僕からの要求は全て正しく、信頼出来て、恥ずかしがる事なんて何も無い」とか書き込んでも辿り付けない領域だ。何故なら、そう書き込まれた少女は僕の要求に対し、「意識的にそう思い直す」だけなのだから。

 恐らく、それは紫鶴の気質、精神構造の根本に在る基礎土台が他の誰とも違っているからなのだと思う。何事にも善なるものを見いだそうとする彼女の性格。僕の事すら、善の側からしか見つめない紫鶴の視線。それが、ここ数日のブラックデザイアの書き込み内容を肯定するための理由付けを繰り返して積み重なった結果、ここまで完璧な信頼になってしまったのだろう。

 僕は紫鶴に近寄り、ビデオを目の前に持ち上げながら並んだ。

「紫鶴さん。さっきのシーン、一緒に確認しませんか?」
「ええ、いいですよ。良く撮れていると良いですね」
「モデルが良いから、きっと尿道口まで綺麗に撮れていると思います」
「ふふ。郁太さんに私のおしっこの穴、気に入ってもらえたら嬉しいですね」

 そんな風に、和やかな会話をしながら一緒に歩いていく。
 僕からの要望を全て、どんな事であっても善として受け入れ、叶えてくれる、素晴らしい少女……優御川紫鶴。やっぱり、この女性(ひと)は僕の、天使なんだと思う――。

 ――あの時、僕が紫鶴に感じた事。紫鶴が僕に、身を持って見せてくれた事。それは、紫鶴には僕の有りとあらゆる欲求を善意として受け止めてしまう遠大な心を持っているという事。
 これこそが、僕が紫鶴に求める、星漣学園の「奉仕の君」としての資質だ。彼女を星漣の目指す「星」とすべき理由である。

「さっき、みんなで屋外のトイレを使ったとき、紫鶴さんは僕たちに全てを見せてくれました。だけど、それはあなたの身体や、その……おしっこの事だけじゃないんです。僕たちは、あなたの気持ちや、心遣いの在り方も、一緒に全部見ました」
「……」
「その姿は、確かにみんなに届きました。あなたがこの僕を受け入れていく様を見て、感じて、感動したんです。そんな事が出来るのは……そんな事を、誰にも言われなくても自然に出来てしまうのは、あなただけなんです。紫鶴さん、あなたしかいないんです……!」

 観衆に見守られながらの紫鶴の放尿行為は、確かに常軌を逸している。それはブラックデザイアの操り能力の成果である事は間違いない。だけど、その行為を全て善なるものとして、「恥」の感情を抱く事無く実行できたのは紫鶴の資質によるものとしか考えられない。彼女こそ、理想。この先、僕が支配する星漣学園の姿の規範となるのだ。

「紫鶴さん……お願いします。僕と一緒に、もう一度この体育祭を造り直して下さい。あなたの事が、僕には必要です……!」
「……!」

 壁越しに、紫鶴が息を飲む気配が感じられた。届いただろうか? 僕のこの想いが。いや、意味が届かなくても、イメージが届かなくても、少しでも声で震える空気の振動だけでも、届いて下さい……。

「……」
「……」

 紫鶴はずっと沈黙している。僕ももう、後は口から発する言葉を失い心で祈るだけだ。紫鶴に、僕の天使に、この願いが届く事を。僕の声は……

「……郁太さん……」

 ……届いた!? 確かに、静かに、紫鶴の声が僕の鼓膜と脳を揺らす。

「そちらに行ってもいいですか……?」
「はい、……え? 何て?」
「郁太さんと、顔を見て……お話ししたい……です」

 隣の個室のドアが開く気配がする。え? 顔? で、でも、今僕も紫鶴も裸で、顔どころか色々と見えるんですけど!? ま、まずくないですか!?
 混乱する僕の慌てぶりも知らず、紫鶴は「入りますね……?」と声をかけてからするりと僕のいる個室に現れた。突然目も眩むような白い肌の少女の姿がこの狭い空間に出現し、僕は怯んで一歩下がり壁のタイルに背中を預ける。身体がぶるりと震えたのはひやっとした濡れている壁のせいか、それとも正面で存在感を放つ少女のせいなのか。

 潤って真珠のような水玉が転げている肌、その肌に張り付く光を放っているかのような長い黒髪。視線を奪う柔らかそうな胸と、その先でピンク色に光り輝く2つの乳首。小さなお臍の下の方には肌に張り付いて少し乱れた紫鶴の恥毛。僕はそれらのものから、むぁっと彼女の気配が立ち上っている錯覚に捕らわれた。あまりの存在感に、五感がおかしくなってきている。その肌に触れた空気を僕なんかの肺に入れてはいけない気がして、息が苦しくなった。

「郁太さん」
「……は、はい」

 紫鶴の左手は太腿に沿わされ、反対の右手は胸元に置かれている。そして、その目は、真っ直ぐに僕を見つめていた。

「私、男の人の事を知らないんです」
「……!」
「男の人の……が、あんなに大きくなるとか、精子があんなに沢山出るのとか……今日、初めて知りました」
「そ、そうですよね」
「びっくりする事ばかりでした……。それでも、私が郁太さんの言うように、みんなをまとめて郁太さんの為になる様に指導できると思いますか?」

 その問いになら、僕は胸を張って答える事が出来る。僕は紫鶴の姿に怖じ気付いた魂を、勇気を振り絞って奮い立たせて言葉を発した。

「できます、紫鶴さんなら」
「……わかりました」

 ようやく、紫鶴の口元に微笑みが戻ってくる。それと共に、この薄暗いシャワー室の中も暖かく光が満ちていくようだった。

「郁太さん。あなたを信じます」
「……ありがとうございます」
「こちらこそ……ありがとう、郁太さん」

 お互いに狭いシャワー室内で礼を言い合い、笑い合う。紫鶴はその表情のまま少しだけ首を傾げた。

「ただ、今の私は郁太さんが本当に必要とする事のためには、やっぱり知らない事が多過ぎると思うんです」
「不安……ですか?」
「……一生懸命に学んで、郁太さんが気持ちよくなれるように努力して……そうすれば、自信を持って郁太さんと一緒にいられるのかもしれません」

 そして、紫鶴は両手を顔の高さまで持ち上げ、顎のところでしなやかな指の先端だけ触れるように手を合わせた。少し俯き、その手の陰から上目遣いで頬を染めながら僕の方を伺う。初めて見る、紫鶴のはにかんだ可憐な表情……!

「だから郁太さん……。私にいろいろ、勉強させて下さい。郁太さんの事、郁太さんの気持ちいい事、郁太さんの喜んでくれる事……教えて欲しいんです」
「……あ、……はいっ!」

 かーっと頭に血が上る。紫鶴は確かに僕なんかの手の届かない「星」みたいな人だ。だけど、それでも紫鶴は僕とほんの1歳しか違わない「女の子」でもあるんだ。届かないけど、すぐ側にいて、肌を触れて暖める事も出来るはずのに、掴まえて捉えきる事の出来ない不思議で素敵な人。さっきまであんなに遠かった紫鶴が、今はもう僕に裸身を晒して息が掛かるくらいの距離にいる。何て距離感の掴めない人なんだろう。いや、2人の間に隔絶が有ると思っているのは僕だけなのか?

 個室内に明るさと暖かさが満ちた事で、僕の身体も熱を取り戻したようだった。微笑む紫鶴を改めて見直し、その胸も、下腹部も、茂みの張り付いた割れ目の部分も、一切合切がまったく隠す様子も無く僕の目に映っている事を再度認識する。視覚だけでなく、優しい吐息を聴き、僕を甘やかすような淡い匂いを嗅ぎ、肌を慰撫するような気配を感じ……全てが僕の内部に至福の燃料として吸収され、ぽっぽっと炎が灯る。そしてとても分かり易い熱気の象徴として、恥ずかしい事に僕のモノがむくむくと首をもたげ始めた。「あっ」と思った時にはもう遅い。紫鶴も同時に「あ……」とその変化に気付き、一瞬目を丸くしたがそれでも微笑んだままでいてくれる。

「あ、これは、その……」
「いええ、郁太さん。……嬉しいですよ?」

 そう言って、紫鶴は一歩僕に近づいた。持ち上がった僕の先端部がもう少しで彼女の下腹部の肌に触れそうになっている。その状態で紫鶴は、そっと両手を僕の方に伸ばした。

「郁太さん……あなたの顔に、触っても良いですか?」
「え……はい、どうぞ」
「……ありがとう」

 紫鶴の指が、そっと僕の頬に触れる。そしてこめかみ、額、眉毛、鼻……唇……顎……耳……。まるで、僕の顔の形を確かめる様に。感触で僕の顔形を覚え込もうとする様に。
 紫鶴の手の動きに合わせ、腕の間にある豊かな胸がゆるりゆらりと揺れているのが見える。だが、僕はそれを真っ直ぐ見るわけにも行かず、結局こちらを微笑みながら見つめている紫鶴の瞳を見つめ返す。紫鶴の瞳に、僕の顔を見つける。それと同時に紫鶴も言った。

「郁太さんの目……私が映ってます」
「紫鶴さんの目にも、僕が映ってますよ」

 顔が寄り、紫鶴の瞳が大きくなってその中の僕の顔も大きくなった。彼女の手が顔を離れ、僕の首、肩を辿り、すーっと二の腕を降りる。肘の辺りに来たところでその動きが止まった。

「郁太さん……もっと、近付いてもいいですか?」
「え、はい……あ、でも!」

 僕がある事に気が付いて止めようとする前に、紫鶴は僕の方に寄ってきていた。その接近に張りつめていた僕のモノがびくんと身を引く様に反り返る。だが、紫鶴はそれに気が付いていないのか、更に歩を進める。

「……!」
「……」

 ぴた、とモノの先端部が紫鶴の腹部に触れた。そこからの刺激に僕は息が止まる。しかし、それでも紫鶴は足を止めない。柔らかな腹にそれを乗せたままゆっくりと僕に近付き……。

「郁太さん……」
「あ……し、紫鶴さん?」

 ……そのまま、肌と肌が密着した。肘の辺りに手をそえられ、僕はタイル壁を背に紫鶴に正面から抱かれていた。
 お互いの胸の間で紫鶴の乳房が押し潰されている。窮屈そうに張りつめていながらそれでも優しい柔らかさで僕を押さえ込み、そしてツンと僕の胸板の隙間に潜り込むように彼女の乳首が2つ、主張を行っている。腹部に挟まれたモノには紫鶴の濡れた茂みが絡み、さするように僅かな刺激を裏筋の辺りに送ってくる。先端部には下腹部の弾力が伝わっている。
 どくんどくんと、胸の中で心臓が早鐘の様に打ち鳴らされている。更には、その血流がそのまま流れ込んだかのように股間のモノもどくどくと鼓動している。その振動だけで僕は達してしまいそうなくらい張りつめていた。それは紫鶴も感じていたのだろう。

「……男の人って、心臓が……2つあるみたいですね」
「あ、うん。そう……かな?」
「触っても……良いですか?」
「……うん」

 僕はもう、紫鶴のしたい様にさせてやるしか無いと思った。僕を感じて、僕を知って、そして僕に良くしたい。その気持ちは、触れ合った肌を通して、その柔らかい肢体の内に潜む想いが痛いくらいに伝わってきたからだ。紫鶴は、本気で僕に尽くしたいと願っていた。

 細く、たおやかな指が股間に伸びてくる。最初は躊躇いがちに、指先だけを、ちょん、と。だが、それだけでも僕の2箇所の心臓はビクンと大きく鼓動する。紫鶴はその鼓動を確かめると、次は両手を伸ばし、今度は離さずに軽く竿の表面に指先を置くようにして僕のモノを掴まえた。張りつめたその部分から、紫鶴の十指の腹の感触が伝わってくる。ただそれだけなのに、僕のモノは今にも爆発してその先端から白濁液をこぼしそうになっていた。
 紫鶴は少しだけお腹を引いて僕との間に隙間を作ると、片方の手をずらして傘の部分に触れていく。親指の腹が鈴口の部分に触れたとき、そこからすでに大量の先走り液が漏れていてぬるりと滑ったのを感じた。その快感から逃れるために意図せず腰が引けそうになる。だが、僕の身体は紫鶴の身体で壁際に追い込まれているので、腰がぐいっとずり上がった程度だった。

「気持ち……いいですか?」

 紫鶴の問いに、僕は隠すことなく答えた。

「……紫鶴さんだから、気持ちいいんです」

 そこに気持ちがこもっているから。拙い手つきでも、その心が彼女の指先から体内に入り込み、僕の魂を揺らすから。だから、この心地よさは性的快感なんかじゃない。紫鶴という一人の聖なる乙女に奉仕され、尽くされる至福の感動……幸福感なんだ。紫鶴は、僕の欲望さえ浄化して善に属する感情に変えてしまえるのか。

 言葉にせず、ただ微笑んで紫鶴は片手で竿の部分をゆっくりと上下に扱き、反対の手でカリの部分を優しくさすって気持ちを表現する。そして、その先端部は意図的なものか、お臍と股間の間のあたりの下腹部に触れてぬるぬると円を描くようにその柔らかさに包まれていた。先の方を握っていた手が離れ、紫鶴は僕のモノを自分のお腹に向けてそっと押さえ込む。指先が、赤子の背を撫でる手の様に優しさに満ちていた。

「郁太さん……私の事、もっと感じて下さい……」
「紫鶴さんの……事を……」
「ええ……そして、あなたの事も……感じさせて下さい……」

 目を閉じて、少し強く僕のモノをその部分に押さえつける。紫鶴の下腹部……その滑らかな肌の下の……しなやかな肉の奥……そこに息付く、彼女の最も大切な臓器。まだ誰も侵入も受け入れたことの無い、乙女の聖なる領域。そこは、紫鶴の……「子宮」。
 ハレーションが起こったように脳裏で明るく滲んだ映像が輝く。見ていないのに、知るはずも無いのに、僕は紫鶴の下腹に収まった小さな器官を見つけていた。この先に……僕のモノが向けられた先に、それが確かに存在している。彼女の股間を抉っていないのに、乙女の証を引き裂いていないのに、狭く閉ざされた産道を通過していないのに、僕のモノは紫鶴の一番大切なところに「繋がっていた」。

「う……あぁああああっ!!」

 その爆発は唐突に起こった。僕の意志によるものではなく、僕の感覚によるものでもなく、ただただ、僕の存在が紫鶴という存在に証をたてるべく全てをなげうつ、そんな射精だった。いつもの心臓の鼓動のような途切れ途切れの放出では無く、この一射精で全てを出し切ってしまう様な連続の噴出。びゅ――――――――っと、どこまでも途切れることなく竿の中の尿道を加速して紫鶴の奥まった部位に到達しようとする。

「し……しづる……さっ……!」
「はいっ……!」

 肌を透過し、肉の隙間を抜けて、そしてその先へ。濁液が届かなくとも、その中の精子の蠢きが、振動が、熱気が、あるいはモノ自体の鼓動が……彼女のその部位へ、僕を構成する何かが届くよう、振り絞るように射精を継続する。何でも良い、届いて欲しいと願いを込めて。
 止まらない、止められない。今日何度目か分からないが、それらを全部集めたよりも更に多いのではないかと思えるくらい大量の精液が彼女の下腹に止め処も無く吐き出されていく。それは肌に跳ね返って溢れ、彼女の恥毛を濡らし、股間部を白濁まみれにした上でどぷどぷと床面に垂れ落ちる。

「あぐっ……はぁっ……!」

 無限にも感じられた放出の恍惚感が、ようやく収まり始めた。どれほどの時間、どれだけの量を出し切ったのか、まったく分からない。全ての感覚が飛び散り、世界には紫鶴と僕のモノしか存在しないかの様に感じられていた。

「あぁ……あぅぁ……」

 急速にもの凄い疲労感が腰の辺りから襲ってきた。竿の中身も、袋の中も、腹の中の臓器も、背骨も、心臓も、筋肉も、脳味噌も全部放出してしまったかの様な抜け殻の脱力感だ。壁に背を預け、両手を付けて身体を支え、辛うじて僕は立ち尽くしている。そんな、生まれたての赤子の様に力を失った僕を、紫鶴は微笑みながら優しく抱き留めていてくれた。

「郁太さん……」
「し……紫鶴……さん……」

 そのまま、その個室内でしばらく紫鶴に抱かれたまま時を過ごす。彼女の優しさに包まれたまま一瞬意識が眠り、ややあってから抜け殻を脱ぎ捨てるようにして自己を取り戻す。僕の身体に力が戻り始めた事を感じたのか、紫鶴は確かめるように指先を沿わせながらゆっくりと身体を離した。ほんの少しの距離を置いて、お互いの瞳を正面から見つめる。紫鶴の瞳の中の僕は、なんだか赤ん坊の様な顔に見えた。

「郁太さん……私、わかりました」
「……え?」
「男性である郁太さんに鼓動する心が2つ有る様に……女である私にも、あなたを受け入れられるところが3つも有ったんです」

 そう言って手を離し、目を細めて微笑む紫鶴。すうっと自分の顔から胸へ、持ち上げた指先をなぞっていく。

「……頭で考えて郁太さんの言葉を聞いて……胸で郁太さんの心からの気持ちを感じて……そして、」

 言葉を紡ぎながら彼女は目を閉じ、そして両手で精液に濡れた下腹部をそっと押さえた。先程、僕があれほど辿り着きたかった、紫鶴の聖なる場所……。

「私は……ここでも、郁太さんの事を受け入れる事ができます」
「し……紫鶴さん……」
「感じました。郁太さんの精液を……肌の上からですけど、ここが、そうやって喜びを得ることの出来るところだと」

 そして、紫鶴は顔を上げて明るく笑みを浮かべた。上気した頬に、僅かに赤みが差している。

「……ここで郁太さんの事を感じて、安心できました。知らなくても、わかる事もあるんですね」
「紫鶴さん……」
「私、郁太さんの事はまだまだ知りません。でも、がんばってみようと思います。郁太さんの気持ちを受け入れて、気持ち良くなってもらいたいんです」

 そう言うと、紫鶴は自分の鼻の前辺りで両手の指を組み合わせ、こちらの様子を伺うような仕草をした。

「……こんな私ですけど、郁太さんのお役に立てますか?」
「あ……はいっ!」

 少女っぽく可愛らしい素振りに目を奪われていた僕は慌てて返事をした。は、反則だよ、この人……。優しい母性に包まれたと思ったら、その直後にこんな乙女っぽい愛らしさまで無意識に発揮してしまうんだから。
 紫鶴は僕の返事ににこりと笑い、さらに一歩下がった。そして個室のドアぎりぎりのところで手を揃えてぺこりと頭を下げる。

「来週もよろしくお願いしますね。郁太さん」
「こ、こちらこそ……! よろしくお願いします、紫鶴さん!」

 再び、こんな狭い場所で頭を下げ合う僕と紫鶴。2人の間に笑顔が咲く。そして、紫鶴は急に少し困ったように眉根を寄せると自分の身体を見下ろした。

「でも、やっぱり郁太さんは凄いですね。こんなに沢山精子が出るなんて、びっくりしました」
「あ、はい、すみません……」

 思わず謝ってしまう僕。

「殆ど流れていってしまいました……後で役員の皆さんに謝らないと」
「その件に関しては、あの、ここでの事も含めて内緒って事にしませんか?」
「その方がいいんでしょうか?」
「知らぬが仏とも言いますし」

 「ふふ」と声に出して笑い、紫鶴は頷いた。そして指を一本立てて唇に当て、片目を瞑る。

「郁太さんと私だけの秘密ですね」
「え、ええ、そうです」

 なんか、こそばゆいぞ。

 その後は、僕と紫鶴はまた別々のシャワー室に分かれて大急ぎで自分の身体や毛に絡んで残った残滓を洗い落とした。本当は紫鶴のあそこの毛は僕が洗ってみたかったけど、菊子の声で『まもなく最終種目、プログラム11番の学年合同リレーが開始します。出場する選手の方は、役員席前にお集まり下さい』とアナウンスが入ってしまったからしかたない。涙を飲んで僕は諦めた。
 だけど、紫鶴の持ってきてくれたタオルは1枚だけだったから更衣室で僕たちはまた身体を寄せ合って一緒にそのタオルを使って……ちょっとだけ、お得な思いをしたって事さ。さあて、身体も心も、ついでにあそこも元気になった事だし、本日の最終種目に向かおうか!

7.

『プログラム11番、150m学年合同リレーに出場する選手の紹介を行います』

 プール内に響いたアナウンスで応援席は一気に盛り上がった。どこから調達してきたのか、先頭列の応援組は空のペットボトルをバンバンと打ち鳴らして楽器の代わりとする。

『第2コース、赤組合同チーム、第1泳者……』

 学年合同リレーは各組の各学年から2人ずつメンバーを選出し、1人25m、6人のリレーで150m泳ぎ切るレースだ。メンバー紹介に合わせ、プールの南北端で交互に赤組の生徒達がお辞儀をする。そして当然、レースを締める赤組アンカーは……

『……最終泳者、3年椿組、源川春さん』

 わーっ! バンバンバンバン! 大きな声援と音が鳴り響く。照れた様に対岸の2コーススタート台の向こうで手を挙げて応えるハル。僕の操作したカメラからの映像では、いつものにこやかな笑い顔が映っている。だけど、僕にはハルがちょっとだけ緊張しているのが口元の僅かな相違から感じられた。

(大丈夫……だよな?)

 赤組の紹介が終わったら次は隣の青組チームだ。こちらもちゃんとメンバーを揃えて来て、皆水泳の得意そうなスマートな娘ばかりだ。そしてラストの泳者はある程度予想はしていたが、やはり向こうのエース、須藤茜だった。奇しくも最後の最後で今日の朝の対決と同じ2人が競い合うことになったのだ。

 ピッピッピーッと笛が鳴り、最初の1年生泳者4人がスタート台に上がる。打ち鳴らされていたペットボトルバットの音が急速に静まり、うぉおん、と会場内にその残響だけが鳴り響いていた。

『用意――』

 しーんと静まり返った中、スピーカーで拡声されたスターターの声が反響する。固唾を飲んで4箇所のスタート台の上の少女達に集中する、この場にいる全員の意識。

≪――パンッ!!≫

 ピストルの音で一斉に少女達が跳び出した。同時に、わーっと大歓声が戻って来る。一旦水に潜った彼女達は、横並び一直線で浮き上がって同時に水を掻いて泳ぎ出した。いよいよ、決戦の火蓋が切って落とされたのだ。
 選ばれたメンバーは全組、「そこそこ」以上に泳げる娘達だ。作戦上他の種目に泳げる選手を回した方が良い場合も有るのだが、この最終決戦だけは各組の参謀は勝算度外視でつぎ込んで来ているようだ。その理由もこの会場内の熱狂具合を見れば分かるだろう。点数どうこう以前に、この種目は全星漣生徒300名の中から各学年8名ずつ選ばれた者達による、純粋な泳力の競い合いの場なのだ。「どの組が一番早いのか」、それだけのシンプルな目的のために選手達は全能全力を発揮して泳いでいる。

『そーれぃっ!』

 第1泳者間での差は殆ど無し。4組の各応援団達の引継スタートのかけ声が綺麗にハモり、第2泳者の娘達が空中に跳び出す。リレー種目はこの泳者間での引継も重要な要素だ。前の娘のタッチと同時に爪先が離れれば良いのだから、台を蹴るタイミングも練習次第で他の組より早くする事が出来る。僕たちの赤組リレーメンバーは今週の放課後は毎日遅くまで残って、このスタートだけを何度も何度も練習していた。その成果か、第2泳者で一番先に浮き上がってきたのは第2コースの赤組だった。単独トップだ!

 そのリードを守り切り、第3泳者、第4泳者へと引き継いでいく。他の組は何度か順位が入れ替わるが、赤組だけはずっと先頭のまま。いける、いけるぞ!
 第5泳者、3年生の番が来たところで隣の青組が猛スピードで追い上げてきた。くそっ、榊組には茜以外にも水泳部が居たのか? 朝の対決を見てもハルと茜の実力は伯仲、少しでもリードしておかないと厳しいのに……!
 向こうのスタート台に目を向けると、茜がハルに向かって何か話しかけている。何だろ、また「負けない」って勝ち気な宣言をしてるのだろうか。ハルの方も何か言った様だったけど、スタート台下のカメラには集音マイクは装備されていないので詳細はわからない。そのまま、2人は水中眼鏡を目に掛けて同時にスタート台に上った。リードは赤組のまま、ただしその差はほんの数十センチ程度。僅かにハルの方が早く、そしてそれに引っ張られるように茜が動き、2人のエースが跳び出した。

 水面に浮き上がってきた2人はほぼ一直線、いや、ハルの方が僅かに指先が前に来ているか? とにかく、1掻きする毎に前後の位置が入れ替わっている様なデッドヒート。まさしく、朝のレースの再現だ! 僕は思わず役員席から伸び上がって2コースと3コースを凝視する。リモコンカメラで見ている分には2人はほぼ互角、タッチのタイミング次第でどっちが勝つか全くわからない。
 役員席とプールの間には選手集合所が有るため、選手がゴール手前10mまで来ると死角に入ってしまう。僕は我慢しきれずにテーブルを潜って前に出てきてしまった。見れば、赤組青組の応援席のみんなもプールサイドギリギリで落ちそうになりながら必死の声援を送っている。2人の決着まで、残り5mだ! タイム計測の役員と並ぶようにしてスタート台の横から水面を覗き込む。

 バンッ!とこれまた朝の再現のように同時にタッチ板に手を付くハルと茜。2人の選手も、応援組のみんなも、そして僕も急いで顔を上げて電光掲示板を仰ぎ見た。結果……

『1着 2コース 1分23秒08』
『2着 3コース 1分23秒10』

 ……ハルの勝ちだ! い、いや、赤組のみんなで勝ったのか。差にしてもほんの100分の2秒。引継スタートがちょっとでも遅れていたらあっさりひっくり返されていた程度の時間だ。みんなの練習がこの勝利を引き寄せたんだ。
 わぁーっ!と赤組の応援席のみんなが跳び上がる。手を叩き、隣の者と肩を抱き合い、あるいは口を手で覆って半泣きになりながら喜びの声を上げる。興奮と感動の渦がみんなを包んでいた。僕だってそうだ。彼女達の熱気にあてられ、知らず知らずの内にぐっとガッツポーズを取ってしまっていた。運営委員長が1つの組に肩入れするのは良くないね。後で反省するので今だけは許してくれ。

 赤組青組に続き、白組と黄組の最終泳者もゴールした。その頃にはハルも茜も水中眼鏡と帽子を取ってコースロープ越しに何か話している。茜は勝ち気な表情のまま口元を緩めてにこっと笑い、そして2人は握手してお互いの健闘を讃え合っていた。ああ、体育会系の良いところだなぁ。何て僕がほのぼのとその様子を見ていると……。

「……そーれっ!」
「おわっ!? 何だっ、うわわわっ!?」

 突然、後ろからぐいっと誰かに押された。「あぶ、あぶ、あぶ!」と手をぐるぐる回してこらえようとするが、更にそこを「えーい!」と押されて完全にバランスを崩す。って、愛と澪!? さっきの仕返しかよっ!

 ばっしゃーん!と盛大な水しぶきを上げながら僕はハルの居る2コースに無様な格好で落っこちた。がぼがぼと口から泡を吐きながら手足をばたつかせてもがき、水面に頭を出す。すると、途端にぐいっと僕の首を誰かが引っぱった。むにゅっと顔面が何か柔らかいものに沈み込む。

「わぁーいっ! イクちゃん! やったよっ! 1着だよーっ!」
「(がぼぼぼおぼぼっ!)」

 その声はハルか!? どうでも良いから僕に酸素を吸わせてくれ! 抱きすくめられた僕は今度はハルの胸の中で窒息寸前だ。特製水着の極薄の生地を下からハルの乳首が押し上げ、ほっぺたにツンツンと2つ当たっているがそれを楽しむ余裕も無い。もがもがと首を振って逃れようとするが、力泳直後だというのに馬鹿力のハルの首のロックは外れる気配が無い。ば、馬鹿な……。僕の冒険はこんなところで終わってしまうのか……?

 結局その後、他のリレーメンバーも跳び込んできてみんなで揉みくちゃになったため、そのどさくさに紛れて僕は何とか窒息死寸前に開放されたのだった。やれやれ、助かった。……だけどさ、君達? 運営委員長が土左衛門状態になってぷかーっと浮かんでるのを完璧無視してすぐ横で喜び合うのは、ちょっと非道いんじゃないかな……?

 そんなこんなでドタバタしてたり、僕が着替えたりしてる間に優秀な役員達は手慣れたもので今日の総合結果を算出していた。体育祭第1部、競泳・水上競技の部の優勝は……白組だ! 競泳種目では余りぱっとしなかった白組だけど、水上競技3種目を全部総舐めしたのが効いたな。水上競技は参加人数が多い分、配点も高めなんだ。それを見越しての作戦が見事に当たったのだろう。今日のところは白組作戦参謀の活躍に素直に敬意を表しておく。
 2位は僅差で僕ら赤組、そして3位には青組が着けた。赤組はリレーを2つ取ったのがでかかったな。対して青組は個人種目が強かった。競泳種目の新記録も幾つか出たし、表彰台に上がった回数だけならダントツだろう。
 黄組は今日のプールでの競技で一番ぱっとしなかった。どの種目も3着か4着、1位は一回も取ってないんじゃないか? 獲得した点数でも3位の青組から大きく離されてビリだ。だけど、そんな燦々たる結果にも関わらず黄組の生徒達は「あー、終わった終わった」とさばさばした様子。全く堪えてない。やる気無いのかな?
 ちょうど帰るところのハルが居たので、その件を話してみると「ああ、黄組はね」とちょっと訳有りの様子だった。

「ジンクスなんだよ。黄組が優勝する時は、大抵水泳競技は3位かビリでスタートするの」
「だからって手を抜いて良い訳じゃないだろう。去年の優勝チームなんだし」
「でも実際それで優勝してるし」

 その話を聞きつけたイインチョも寄ってきて話に加わって来た。

「過去10年で黄組は4回優勝しているんだけど、全部第1部では3位以下なのよ。しかも、そのうち3回は最下位スタートで巻き返して逆転優勝しちゃってるから」
「たぶん、手を抜いてるんじゃなくて他の球技や陸上競技に全力投球してるんじゃないかな?」
「そうなのか……」

 なんだか博打みたいな話だけど、それで勝算が有るならいいのかな? 確かに配点としては今日の競泳・水上競技の部の点数は体育祭全部の25%位でしかない。比重としては球技の部が25%、そして最終日の陸上競技の部に50%の割合だ。こっちで確実に勝てるならそれも有りか。
 一応納得した僕は2人を含む赤組チームを見送り、後片付けの為に残っている役員達の方へと向かったのだった。

8.

 片付けを終え、例の「お疲れさま精飲会」の準備の為に僕の精液をたっぷりと貯めたジュースジャグを持たせて役員の娘達を先に帰した僕は、最後にプール内の見回りをして鍵を閉めた。今日は土曜日だから、これ以降は部活等で使用する生徒が顧問経由で鍵を借りて使用する事になる。だから、取り敢えずは閉鎖して構わない。そして、最後にプールの出口の階段から降りて行くと、思いがけずそこには宮子が待っていてくれた。

「ああ、安芸島さん。待っててくれたんだ」
「裏方とは言え、私も達巳君と同じ責任者の1人ですから」
「ちょうど良かった。少し話したい事があったんだ」
「ええ。歩きながら話しましょうか」

 僕と宮子は肩を並べて歩き出す。こうして真横に並ぶと、彼女が思っていたよりも小柄なことに驚く。きっと、いつも姿勢良く立っているから実際よりも大きく見えていたんだろう。

「話とは何でしょう」

 宮子がこちらを見上げながらそう問いかける。僕はどう説明しようかと迷いかけたが、すぐにそんな風に言葉を選ぶ必要が無い事に気が付く。宮子が「待っていてくれた」以上、彼女は承知済みの筈なのだ。

「紫鶴さんの役職の事なんだけど」
「はい。奉仕員長ですね?」
「うん。ちょっと内容を変えたいんだ」
「……そうですか」

 宮子は少し首を傾げるような仕草をする。そして、再び僕に目線を向け直した。

「役職の内容変更の文書は、今日中に決済した方が都合が良いでしょうね」
「そうだね。急いで作るけど……待っててくれる?」
「待つだけだと手持ち無沙汰ですので、手伝いましょう」
「良いの?」
「ええ。その方が結果的に早く終わりますから」

 そう言うと宮子は、僕を促して歩いていた道を外れた。このまま直接執務室に向かうつもりなのだろう。

「役員の娘達には、私達抜きでやっておくように伝えておきます」
「うん。ありがとう」

 しばらく、黙ったまま2人で歩き続ける。意図的に歩調を合わせている訳でも無いのに、宮子は僕の横にぴったりとくっついて遅れる様子も無い。隣に並ぶ宮子の存在感が、だんだんと大きくなってきた様な気がした。その時、開いてぶらぶらとしていた僕の手に、宮子の手がすっと重なっ来た。

「!」
「……」

 宮子は無言のまま、前を向いて歩き続けている。僕も黙ってその手を握り返した。
 彼女がこうして積極的に手を繋いでくれたって事は、少なくとも今は誰にも僕たちの事を知られる恐れが無いって事だ。2人で手を繋いで、恋人みたいに歩いていても、誰にも見咎められる可能性の無い時間なのだ。

 僕たちは恋人じゃない。それは宮子の要望で否定されている。僕は彼女が僕の事を好きな事を知っているし、僕自身が彼女を好きな事も自覚している。僕の事を好きと言ってくれた女の子と2人で手を繋いで歩く、それだけで胸が暖かくなって幸せを実感する。
 だけど、僕たちは恋人にはならない。それはきっと、僕が宮子を恋人とすると、彼女の能力で見た未来に良くない影響が出ているからなんだと思う事にしている。例えば、他の娘に手を出す時に僕が宮子に気兼ねをする、とか。そんなに律儀じゃないと自分自身思うけどね。

 ならば、僕たちの関係は何だろうか。生徒会長と役員という上司部下の関係? そんなにドライな物じゃない。秘密を知り合った共犯者同士? それは宮子も否定した。お互いの能力で得る物が有る運命共同体? それも単なる後付けの理由だと僕は看破していた。

「達巳君」

 宮子の呼びかけに、僕は物思いから覚めて彼女の方を見つめた。こちらを見上げる目に、少しだけ微笑みが混じっている。

「今日は上手くいきましたか?」
「ん……まあまあ」
「予定通りにはいかなかった?」
「僕の場合、予定通りにいくことの方が稀なんだよ」
「その結果が、この残業ですか」

 そう言って、宮子は僕と繋いだ手を持ち上げる。そして、今度こそはっきりと僕に向かって笑いかけた。

「私にとっては予定通りだと言ったら、怒ります?」
「ん……いや。もう慣れた」

 宮子には紫鶴の役職の内容に変更が必要な事は、最初からわかっていた事だったのだろう。しかし、僕から「奉仕員長」の役職を提案された時、敢えてそれを指摘しなかった。それが、彼女の見る未来ではきっと「正解」に至る一番良い道筋だったからだろう。
 宮子は決して正解を僕には教えてくれない。それを言ってしまえば、不確定要素が入り込んで彼女の能力は働かなくなってしまうからだ。だけど、それでも彼女は彼女なりにきっちりとフォローして、僕を助けてくれる。今、僕を待っていてくれた様に。

 今現在、僕と宮子の間での共通の約束事として、「まずは黒い本を最終段階まで進める」という取り決めが有る。昨年度、那由美が関わった事件をどう追っていこうかと相談した時、宮子に言われたのだ。

「いずれにせよ、卒業までに達巳君の本を使えるようにしないと那由美さんを取り戻す事はできませんよ」

 真相がどうあれ、タイムリミットの有る方を先行して進めるべきだという事だろう。自分の過去に関わる事だが、それだって僕が記憶を繋ぎ合わせる事に成功すればいっぺんに解決する事かもしれない。だから、僕と宮子はそれまでの間、歩調を合わせて学園の支配体制の確立と魔力回収を優先する事を方針として取り決めた。そのお陰で、宮子を中心としたブラックデザイアの支配は盤石となり今日の様な大規模支配が可能となったのだ。

 僕と宮子の関係? それは多分、この簡潔な言葉で表現できるんだろう――。

「……文書作成が終わったら、また一緒に食べに行きますか?」
「『将来』? ほんと、気に入っちゃったんだね」

 小首を傾げてこちらに微笑む宮子に、僕も笑いかけた。それに宮子はちょっとだけ悪戯っぽい目付きで答える。

「だって……達巳君の好きな食べ物ですから」
「僕に合わせる必要は無いよ?」
「1人で食べるより、2人の方が楽しいと思いますよ」
「……そうだね」

 僕は宮子の手を強く握った。彼女も、それに応えて握り返す。

「2人一緒が、良いよね」
「……ええ」

 ――そう。僕と宮子は、「パートナー」なのだ。

< 続く >

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