※エロは「2のに」から始まりますので、お急ぎの方はそちらからご覧ください。
2のゼロ(0日目・夕方) 酷い? やさしい?
「へぇー、それは大変だったねー」
そう言って、目の前の流はグレープフルーツジュースをストローで一口。
「まあ、大変っちゃ大変……って、流も見てただろうが」
そう文句を言いつつ、あたしは手元のチョコレートサンデーにスプーンを突き刺した。
9月半ばの金曜日は、真夏が戻ってきたかのようにクソ暑い。それでも、下校時間に引っかかるからか、制服姿の女子中高生が結構いて、ファミレスは思っていたより混んでいた。
そんな中、窓際の「指定席」で、いつものようにくっちゃべってるあたし達二人。ちなみに、あたし達の学校は私服校だから、あたし達は当然私服だ。
「本当、冷や冷やしたよ……」
「まー、そーゆーこともあるよー」
実は、昨日、涼とちょっとしたトラブルがあった。
あたしと涼(そして流)は同じクラスなんだけど、あたしが友達としゃべっているときに、涼が先生からの伝言をもらってあたしのところに来た。ところが、涼は、そこで間違って「都、先生が『用があるから職員室に来い』って」とあたしを呼び捨てにしてしまった。
もっとも、あたしが魂の抜けたような声で「……うん」と応じたところで、涼はあわてて「都、やっぱり取り消し」と言ったもんだから、変なことにはならずに済んだ(そもそも「先生のところに行け」ってだけの命令だし)。友達をごまかすのがちょっと大変だったけど。いや、涼が呼び捨てにしたことじゃなくて、魂の抜けた返事をしたことの方だよ(間違って呼び捨てにされたことはもう何回もある)。
だけど、その日の放課後、涼はあたしに「催眠の内容を少し変える」と言ってきた。その結果、「あたしが『ヤダ』と言えば、呼び捨てされても命令を拒否できる。ただし、もう一度涼が呼び捨てすれば、今度は逆らえない」ということになった。
でも……
「なーんか、おかしいんだよなあ」
「なんでー?」
「いや、どこがどうってわけじゃないんだけど……」
これは、ちょっとうそだ。心当たりはある。
実は、あたしと涼は明日から2泊3日でお泊まりデートの予定なのだ(ちなみに、来週の月曜日は祝日だ)。
涼が、夏休み中のバイト代が入るからと言って、今週の月曜日に約束した。
だけど、実は約束をした日の前日に、涼は木更津先輩の家に行ってるのだ。
その理由は、「選挙特番を一緒に観て盛り上がりたいから」。
確かに涼は今回の選挙を楽しみにしてたんだけど、木更津先輩といえばあたしに催眠をかけた張本人、そして流の話からすれば「それ系」のネタの宝庫だ。涼が何か入れ知恵されたというか、ネタをもらってきた可能性は否定できない。
でも、それは言えない。言ったら、流が面白がって何か工作しないとも限らないし。
全然関係ないんだけど、涼は選挙結果について、「総理は運が強すぎるよー」とかつぶやいてた。なんじゃそりゃ。
「ないんだけどー?」
「うーん、何か引っかか……」
気づいた。流、口の端が微妙にひくひく動いてる。
「流……」
「なにー?」
「……あんた、なんか知ってる?」
「んーん、なんにもー」
本当かよ……と思ったら、流がちょっと本気の顔になって、あたしに言った。
「でもね、涼くんが何考えてるかはだいたいわかるー。
涼くん、優しいんだねー」
「え?」
突然「涼くんは優しい」と言われても、何のことだかわからない。
「どういうことさ?」
「私からは言えないー。でも、そのうちわかるかもよー。もしかしたらわからないままかもだけどー」
「ふー……ん?」
やっぱり、何が言いたいんだかわからない。
「まー、涼くんを信用して大丈夫だと思うよー」
そう言うと、流は「そろそろ帰るー」と立ち上がった。
「あれ、なんか用事?」
そう聞くあたしに、しかし流は「別にー」と応える。
「でも、都ちゃんはこれから忙しいでしょー」
ん? なんのこと? と思っていると、流が近づいてきて、あたしの耳元でこう言った。
「涼くんとのお泊まりデート頑張ってねー、いっぱいセックスしなよー」
「────流ぇ! お前知ってたのか!」
顔を真っ赤にして叫ぶあたしを後目に、流はいつもの笑顔でファミレスを出ていったのだった。
……あれ、ジュースの代金は?
< つづく >